抄録
Mortierella属糸状菌は, γ-リノレン酸をはじめとする多くの脂肪酸の高い生産性を有している。その中でMortierella alpinaは, n-6系脂肪酸の代謝により細胞内脂質中に最終産物であるアラキドン酸 (AA) を特異的に多量に合成する菌株である。その成長には有機窒素とミネラル, 糖からなる培養系が必要となり, 液体培養では脂肪酸中のAA組成比71.2%, AA収率11.1g/L, 固体培養ではそれぞれ80.2%, 13.1g/kg-培地に達した。これらの高い値は, 培地当たりの菌体収率や菌体中の脂質含有率の高さによるものではなく, 鎖長延長酵素と (Δ9, Δ12, Δ6, Δ5) 不飽和化酵素の活性が非常に高いことに起因していた。菌形態は, 飢餓状態や高速撹絆下でパルプ状からペレット化し, 菌が死滅しはじめる前までAA組成比が上昇した。またM. alpinaは, プロスタグランジン (PG) 合成能ももっており, 培養液中に経日的にPGE1, PGE2, PGF2α.を分泌する一方, 培養液に添加したAAを変換することもできた。以上のようにM.alpinaは, 顕著なAA/PG合成能を有すると同時に, n-6系脂肪酸の興味ある代謝モデルとしても特異性を示している。