文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
Print ISSN : 1883-8774
11 巻, 1 号
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原著論文
  • ― 小離島の祭事を活かした介護サービス中止の挑戦とその評価から ―
    大湾 明美, 坂東 瑠美, 砂川 ゆかり, 田場 由紀, 山口 初代
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_2-1_11
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    小離島における祭事を活かした介護サービス中止の背景とその挑戦による評価の内容から,沖縄の地域文化である「互助」の復活による地域ケアの創造を考察する。
    方  法
    地域文化の色濃く残るA島での介護サービス中止の背景を把握した後,介護従事者(以下,介護職)10名,介護サービス利用家族(以下,家族)27名の研究参加者に介護サービス中止の評価を半構成の面接聞き取り調査を行い,質的帰納的に分析した。その後,介護職と家族の評価から,「小離島の地域文化を活かして地域ケアは創造できるか」の視点で分析した。
    結  果
    介護サービス中止の背景は,これまで家族や地域の関係者でやってきた介護(互助)が介護サービス(共助)に委ねられ,要介護高齢者から地域と家族との一体感を奪っている危機感であった。介護職と家族の介護サービス中止の共通の評価では,【高齢者の「快」の反応】,【祭事に家で過ごす肯定的な価値】があった。立場による評価では,介護職は,【家族介護の確認】,【祭事による生きる意欲への期待】,【島の人のケアによる島のケアの復活と使命】,【サービス中止による新たな課題】,【これまでのケアの反省】があり,家族は,【家族介護の受け入れ】,【祭事による家族のつながりの強化】,【島の人のケア観への共感と感謝】,【家族介護の限界】,【サービス中止への不満】があった。
    考  察
    小離島の介護サービス中止の評価から,地域文化を活用することで地域ケアの創造が見いだせた。都市地域であっても,日常生活圏域や自治会単位で地域文化が存在することから,地域包括ケアシステム構築に地域文化を取り込む必要性が示唆された。

  • 金子 紀子, 石垣 和子, 阿川 啓子
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_12-1_21
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,国内3地域での子育て中の母親の子育ての肯定的感情とソーシャルキャピタル(SC)との関連を明らかにし,地域文化のもとでの子育て支援を考察することである。
    内閣府調査(2003)を参考にSCの差がある3地域を選び,認可保育所,幼稚園,認定こども園に通う2,3歳児クラスの母親を対象とした無記名自記式質問紙調査を行った。SCはカイ2乗検定,子育ての肯定的感情はクラスカル・ウォリスの検定にて地域間比較を行った。また地域別に個人属性を調整した上で子育ての肯定的感情を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
    SCでは,助け合いと地縁的な活動の参加において有意な地域差を認めた。子育ての肯定的感情は有意な地域差はなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,高SC地域では,信頼なしに比べ信頼ありが子育ての肯定的感情が高くオッズ比3.11,同様に中程度のSC地域ではオッズ比3.34であった。また高SC地域では,地縁的な活動に参加している方が子育ての肯定的感情が高く,オッズ比2.06であった。
    子育て中の母親の子育ての肯定的感情に関連するSCは,地域文化により違いがあることが明らかとなり,地域文化に基づく子育て支援の必要性が示唆された。

  • ― 沖縄県B集落の住民と高齢者の支え合いの事例から ―
    安仁屋 優子, 佐久川 政吉, 下地 幸子
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_22-1_31
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,沖縄県農漁村B集落の文化を基盤とした地域力を明らかにし,今後の近助ケアシステムづくりへの示唆を得ることである。
    B集落の介護経験のある当事者5人のインタビュー内容,集落の伝統行事に参与観察した内容を質的記述的に分析した。その結果,87のキーセンテンス,15のサブカテゴリー,5のカテゴリーが抽出された。
    B集落は多世代に渡る顔なじみの関係が維持されており,【地縁による強いつながり】が基層にあった。公民館では高齢者の交流促進や介護家族の負担軽減の場,緊急時の相談場所となっており,集落の情報収集・発信の役割機能を備えていた。また,公民館を活動拠点としている民生委員はB集落の高齢者を支援しており,B集落では【信頼の厚い公民館・民生委員による高齢者ケア】が実践されていた。
    B集落の住民同士は,お互いを気にかけ支援の必要な高齢者を見守り,特に認知症高齢者と家族に直接的・間接的な支援を行い,【住民同士による我が事としての支え合い】によるインフォーマル・サポートの基盤がみられた。
    さらに,120年以上の歴史を有し大事にされている伝統文化“豊年祭”は,若者世代の地域への思いを育み,【伝統行事で強化される多世代間のつながり】を介して【住民総出で継承する伝統行事】という豊かな社会資源を有していた。以上の事からB集落は,文化的基盤に基づいた,小さな集落でも支えあい生きていける地域力があることが示唆された。

  • 佐久川 政吉, 安仁屋 優子, 大湾 明美, 山口 初代, 田場 由紀, 大川 嶺子, 下地 幸子
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_32-1_40
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目的
    沖縄出身ボリビア移民一世高齢者の語りから,沖縄の文化での誇りと大事にしていることを明らかにし,移住地での文化を考慮した地域ケアシステムへの示唆を得ることである。
    方法
    研究協力者102人に対し,半構造化された調査票を用いて,面接聴き取り調査を行った。逐後録から,文化での誇りと大事にしていることについて語られた一連の文脈を原文として抜き出し,カテゴリー化を図った。
    結果
    一世高齢者は,【故郷への郷愁の念】を持ちながら,【新天地を拓いてきた気概】を持っていた。【帰属意識を強める家族・親族のつながり】と【同郷仲間での楽しみ・安心】できる環境で,【共感しあう方言】で親しみ・元気づけられ,【日常に織り込まれたユイマール】で助け合う文化を大切にしていた。沖縄から持ち込んだ豊年祭など,【みんなで楽しみ・踊る伝統芸能】として大事にしていた。また,祖先崇拝や伝統行事を【脈々と受け継ぐ伝統行事】として継承していた。そして,次世代(二世・三世)の【育まれた敬老精神】に感動を覚え,【次世代に継承する気構え】を持ち,生き抜いてきたことを誇りにしていた。
    考察
    今後のオキナワ村での地域ケアシステムへの方向性として,一世高齢者に根付いている沖縄の文化とユイマールが根付く共同体を強みとして捉えた上で,ボリビアの文化や保健医療福祉の現状も踏まえ,地域ケアシステムを推進していく必要がある。

  • 阿川 啓子, 石垣 和子, 大湾 明美, 金子 紀子
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_41-1_49
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    中山間地域の訪問看護師が医療資源の限られた地域において実践した終末期ケアを明らかにし,看護と地域文化の関係を考察することである。
    方  法
    医師不足や少子高齢化の深刻な地域で実践している訪問看護師から,「訪問看護の経過で療養者が亡くなられた事例」について実践した終末期ケアについて半構造的面接を行い,質的に分析をした。
    結  果
    訪問看護師は,[療養者と家族の健康を支える看護]として療養者及び家族に対して【健康と日常生活のアセスメント】や【終末期の過ごし方へのニーズ把握】を行うことで療養者が【喜ぶ機会の提供】を経験できるようにしていた。一方で,[死を迎える人の周囲の環境を整える看護]として療養者や家族のみならず地域に暮らす人々や生活を支える専門職などの公的機関との相談・調整・教育・連携を行っていた。訪問看護師は,【人の変化などの終末期教育】や【生活に密着した医療人としての連携・協働】を行うことで,地域全体で支援できるように【取り巻く人間関係の構築】をしていた。
    考  察
    訪問看護師の看護実践では,療養者と家族が長い間培った固有の価値観や考えを理解し,個人を尊重していた。そのような看護実践の背景には訪問看護師の個人や地域文化を大切にした看護を提供しようとする姿が示唆された。

研究報告
  • ― 要介護高齢者およびその家族の地域文化行動を継続するための実践内容から ―
    田場 由紀, 大湾 明美, 呉地 祥友里, 大川 嶺子, 山口 初代, 砂川 ゆかり, 野口 美和子
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_50-1_58
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,要介護高齢者へのケアを担う看護職者による地域文化を考慮した判断を記述することで,地域文化ケアのアセスメントの視点を見いだすことである。研究協力者は,30年以上の高齢者ケア経験を有する看護職者2名であった。データの収集は,要介護高齢者への地域文化ケアの実践内容と,地域文化を考慮する必要性を判断した理由や背景について,面接調査を実施した。データの分析は,地域文化ケアの実践内容と地域文化を考慮する必要性の判断について質的帰納的に分析した。地域文化ケアの実践は,看護職者が【地域文化を受容】し,【地域文化を活用】し,【地域文化を継承】し,高齢者やその家族のよい反応を引き出し,ケアの効果を高め,援助関係を深めていた。看護職者は地域文化を考慮する必要性について,【地域文化から隔絶される高齢者と介護家族の橋渡し】,【地域文化に根ざした看護観の具現化】,【地域文化の持つケア力の発揮】を視点にアセスメントしていた。地域文化ケアは,援助関係を深めつつ,要介護状態であっても地域社会に参加し続けることができることを示唆していた。地域文化ケアを推進するためには,アセスメント項目として,要介護高齢者の出身地や地域文化行動の経験を聴取する必要性が示唆された。

  • 張 平平
    2019 年 11 巻 1 号 p. 1_59-1_66
    発行日: 2019/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    本研究は,地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴を明らかにし,地域での健やかな生活が継続できるための看護支援方法を考える際の示唆を得ることを目的とする。
    方  法
    研究協力の得られた3組の地域在住自立高齢者夫婦にこれまで共に過ごしてきた過去を現在どのように生かし生活を営んでいるのか,特に日常生活での工夫や夫婦間での協力と配慮などについて半構造化面接を行った。面接内容は質的統合法(KJ法)を用いて分析した。
    結  果
    地域在住自立高齢者夫婦の生活特徴は,まず【元気だからこそ好きなことを行いながら日々の満足した生活への享受】が中心に浮かび上がった。また,このように満足した生活を送る土台として【思いやったり,家事などの手伝いをしたりする定年退職後の夫に対する妻の感謝】と【自由に話し合ったり各々の時間と空間を確保したりすることでのストレス回避】が根底にあることが明確になった。さらにより良い状態になることで満足が得られており,また,満足した生活を継続するために,【年をとることによる身体面,経済面,環境面での変化に適応するための工夫】及び【主体的な健康の創出のために必要に応じた健康への気配り】も伺えた。
    考  察
    地域包括ケアシステムの構築が進められている中,地域で生活する高齢者夫婦の絆及び,高齢者夫婦ならではの強み,高齢者夫婦のこれまでの生活の中で培われた知恵を今後の自立した生活の継続にどう活かすかを考え,高齢者夫婦の主体性を重視しつつ,文化的視点を用いた看護支援を提供する必要性が示唆された。

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