近年,地域社会の運営のあり方をめぐる議論のなかで,多様な主体が参加して地域運営のあり方を決定していくローカル・ガバナンスへの関心が高まっている。しかし,ローカル・ガバナンスを規定する論理,およびローカル・ガバナンスを通して見える地域社会の実像は,十分に明らかにされているとはいいがたい。そこで本稿では,釧路湿原自然再生事業の検討を行った。この事業は,行政,研究者,NPO,住民など多様な主体の参加が見られるため,ローカル・ガバナンスの実践例と捉えられる。この事例の分析を通じて,ローカル・ガバナンスを規定する論理と,そこから見える地域社会の実像の解明を試みた。
その結果,本事例のローカル・ガバナンスを規定する論理として,第1に,実施者である中央省庁のイニシアティブ,第2に,ローカル・ガバナンスに参加しない住民の存在,第3に,ローカル・ガバナンスの主体間関係を根拠づける諸個人の労働や生活,が見出された。また,地域社会の実像として,第1に,地方自治体の弱さ,第2に,住民の行政不信,第3に,釧路湿原保全の見直しの必要性が明らかとなった。これらの知見から,本事例のローカル・ガバナンスの裏面には,ローカル・レベルでの危機的状況の進行,ローカル・ガバナンスにとっての外在的資源の重要性,さらにローカル・レベルに対するナショナル・ガバメントの強力な統制の存在が看取できるといえるだろう。
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