全人的医療
Online ISSN : 2434-687X
Print ISSN : 1341-7150
19 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • ―慢性疼痛治療への可能性―
    志和 悟子, 永田 勝太郎, 杉岡 哲也, 大槻 千佳, 廣門 靖正, 村尾 佳美, 吉田 麻吏, 高橋 和矢, 野垣 健, 伊藤 千鶴, ...
    2021 年 19 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    【目的】鍼灸は,古い歴史のある鎮痛方法である.一口に鍼灸と言うことが多いが,一般的には鍼が瀉法であるのに対し,灸は補法であり,その適応は異なる.また,鍼は比較的よく用いられるが,灸はそれほど多く用いられてはいない.それは,火を用いることによる火傷の心配があるという点が一因といえる.今回,温度が50℃までしか上がらず,火傷という危険性が少ない灸(「ほっとQ™」)を開発し,その効果について検討した.

    【方法】鍼灸医学研究会会員の所属する診療所,鍼灸院における愁訴(主に疼痛)を有した患者を対象とした.n=14.1週間に3回の施灸を4週間(全12回)試行し,その前後で瘀血スコア(寺澤),血液検査,血行動態,疼痛VASを検討した.

    【結果】前後で比較し,瘀血スコア,疼痛VASが改善し,臥位の拡張期血圧が有意に低下した.悪化項目はなかった.火傷例もなかった.

    【考察】火傷はなく,血液検査からも安全であると考えられた.瘀血スコアの改善,疼痛VASの軽減,臥位拡張期血圧の改善が観られた.灸には,鎮痛作用,弛緩効果(リラクセーション効果),駆瘀血作用があると考えられ,鎮痛医療に有効な方法と考えられた.自宅でできる,一人でもできることから,疼痛に対してセルフコントロールの方法になりうると考えられた.

総説
  • 米井 嘉一
    2021 年 19 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    炎症・疼痛は,免疫ストレスが身体に作用した結果として生じる.ごく初期の段階では微小炎症として存在し,これは免疫ストレスとして動脈硬化など老化関連疾患の危険因子となる.免疫反応には酸化ストレス,糖化ストレスが影響を及ぼす.糖化ストレスによる非生理的な蛋白翻訳後修飾には次の二つの経路がある.第一は,還元糖・脂質・アルコールに由来する中間体アルデヒドが蛋白糖化最終生成物(advanced glycation end products:AGEs)を生成,さらにAGEsがマクロファージ表面のRAGE(receptor for AGEs)に結合し,炎症性サイトカイン産生が亢進する経路.第二は,ミトコンドリアのTCAサイクル障害を惹起し,フマル酸によるシステイン残基のサクシニル化によりS-(2-succinyl)cysteine(2SC)を生成する経路である.その結果,炎症・疼痛は増悪し,糖化ストレスがさらに強まるという「悪性サイクル」が存在する.現代はまさに「糖化ストレスと闘う時代」である.今後は,糖化ストレスについて理解を深め,適切な対応法を確立し,実践していくことが重要である.

  • ―低血糖・血糖値スパイクを中心に―
    永田 勝太郎, 志和 悟子, 大槻 千佳, 喜山 克彦
    2021 年 19 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    かつて,糖尿病の診断は医師の官能で行われた.糖負荷試験の開発以降は,「糖尿病」「境界型糖尿病」「正常血糖値」の区別がつくようになってきた.近年,Flash Glucose Monitoring(FGM)が開発され,患者固有の血糖値のdaily profileがさらに簡単にわかるようになってきた.そこで,低血糖・血糖値スパイクが問題になってきている.線維筋痛症や慢性疲労症候群の背景にこれらの糖代謝異常が潜在していることがわかってきた.低血糖は80mg/dl未満を指し,血糖値スパイクは食後最大血糖値と最低血糖値の差が60mg/dl以上を指す.FGM時代を背景に低血糖を分類すると,以下のようになる.1.糖尿病性低血糖―緊急性低血糖発作 2.非糖尿病性低血糖(自発性低血糖症)(1)機能性低血糖―無反応性低血糖・反応性低血糖(血糖値スパイク)・新生児低血糖 (2)器質的低血糖―インスリノーマ,インスリン自己免疫症候群・ダンピング症候群など胃切除術後 (3)薬剤性低血糖 (4)偽低血糖・虚偽性低血糖

症例報告
  • 中野 良信
    2021 年 19 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    日常臨床で経験する唾液分泌過多症は実質的分泌過多がなく,嚥下機構に障害ないにもかかわらず,通常の無意識的唾液嚥下ができず常時意識的嚥下となって,分泌過多感にこだわる強迫的な病態である.本症に対してはコンセンサスの得られた治療的対処法が確立されておらず各施設において模索の現状にある.ここでは当科での唾液分泌過多症の治療の現状を紹介するとともに,外来森田療法やロゴセラピー的な対応で完全寛解に至った症例を報告し,また唾液分泌過多症について流涎症や呑気症との比較も含めて若干の考察を加えた.

  • 加藤 晃己, 喜山 克彦, 杉山 和成, 志田 直樹, 絹川 典
    2021 年 19 巻 1 号 p. 40-49
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    筋痛性脳症/慢性疲労症候群(ME/CFS)とは,原因不明の慢性で深刻な疲労や広汎な痛み,睡眠障害などの多彩な症状を呈する疾患である.今回,自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)が併存する神経発達症群に合併したME/CFSの1例を報告する.

    【症例】14歳,男性,神経発達症群,感冒を契機に多彩な身体症状を呈し,ME/CFSと診断された.低血糖とグルコース・スパイクが認められた.治療は補剤の投与と食事指導を行った.実存的資源であるマリンバ演奏を支持した.発症後5ヶ月での学習環境の調整を機に症状は改善しME/CFSの診断基準から外れた.低血糖とグルコース・スパイクの頻度は軽減した.【考察】神経発達症群に合併したME/CFSの1例に対して,社会的ストレス軽減のため学習環境を調整することと周囲の理解を得ることが最も治療効果があった.その上で衝動性に関与する可能性のある低血糖やグルコース・スパイクを改善するための食事指導が成り立つと考えられた.

短報
  • ~動きたくなるカラダと動けるココロ~
    天川 淑宏
    2021 年 19 巻 1 号 p. 50-55
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    ヒトは,多様なストレスに対する抵抗力を備えもち健康な状態を維持している.しかし,加齢などにより身体的,精神心理的,社会的な側面からストレスに対する予備能力が虚弱な状態へと陥ってしまうことをフレイル(Frailty)という.また,Frailtyには,早期に適切な栄養や運動の介入によって健康に戻る可逆性のあるreversibilityの意味も含まれている.その中で身体的フレイルに関しては,サルコペニアとの関連が高いとされ,加齢のほかに低栄養,活動量の低下,さまざまな疾患などが原因である.私が臨床で携わる糖尿病患者は,内科的問題のみならず運動器疾患(ロコモティブシンドローム)を合併していることが多く,エネルギー消費を目的とするための運動だけでなく「痛み」という不定愁訴が糖尿病患者に多くあることを知り「動けないカラダと動きたくないココロ」を「動きたくなるカラダと動けるココロ」へと導くことが,糖尿病やフレイルからの脱却に対する運動療法の役割であるといえる.その運動療法は,骨格筋が内分泌器官であるという捉え方が根拠にある.その具体的な実践への取り組みを含め紹介する.

WHOレクチャーシリーズ
  • ―患者力の向上のために―
    喜山 克彦, 志田 直樹, 杉山 和成, 加藤 晃己
    2021 年 19 巻 1 号 p. 56-68
    発行日: 2021/03/25
    公開日: 2021/04/02
    ジャーナル フリー

    Michael Balintは,全人的医療の目的を「患者の自己理解を可能にさせ,直面している問題のよりよい解決方法を見いださせ,患者の環境との関係障害を統合させること」と述べた.彼は,患者や医師の特性や医師―患者関係をユニークな言葉で表現した.一方,Aaron Antonovskyは健康創成論において,人生のどのステージにおいても相対的健康を創成するには,コヒアランス感(SOC)が重要であると説く.SOCは理解能力,管理能力,意義深さの3要素から構成されている.患者が,患者力を向上させることにより,医療社会がどのようであっても,自身の相対的健康を創成できると考える.そのためには,まず患者が自分を取り巻く医療社会,特に医師の特性と医師―患者関係を理解できることが重要である.Michael Balintのユニークな言葉を利用することは相対的健康の創成,すなわちSOC向上の一助になると考える.

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