全人的医療
Online ISSN : 2434-687X
Print ISSN : 1341-7150
20 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 永田 勝太郎, 大槻 千佳, 志和 悟子, 前川 衛, 杉岡 哲也, 池内 由里
    2022 年 20 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    【目的】先行研究で,乳酸菌LAB4(Lactobacillus delbrueckii LAB4)には血糖値スパイクの抑制作用があることが明確になったが,その作用機序解明のため,自律神経反応と血糖値スパイク(G-スパイク)・インスリンスパイク(I-スパイク)の関係を検討した.

    【方法】研究1では,G-スパイクを有する線維筋痛症(fibromyalgia syndrome:以下FMS)対象群77例に心拍変動(HRV)のスペクトル解析を行った.対照群は,健常者60例.研究2 では,FMS 22例に,3時間の75gOGTTとHRVのスペクトル解析を同期して行い,30分毎のBS(血糖),IRI(インスリン),LF/HF ratio(低周波数成分と高周波数成分との比/交感神経の指標),HF amp.(副交感神経の指標)を測定した.糖負荷後のMax BS-Min BS≧60mg/dL をG-スパイク,Max IRI-Min IRI≧20μU/mL をI-スパイクとした.

    【結果】研究1では,HRVは,対象群では副交感神経機能不全型(dys-P型)が多かった(63.4%).研究2では,全例にdys-P型が観られた。また,スパイク型(9例)のうち,G-スパイクとI-スパイクの一致した例は7例(77.8%)であった.

    【考察】I-スパイク初期型はインスリンの初期追加分泌が過剰に反応し,I-スパイク後期型は初期追加分泌が十分に起こらず,後期追加分泌が過剰に反応したと考えられた.G-スパイクは77.8%がインスリン依存性であった.これらは,被険者の膵副交感神経反応が不十分でありながら,糖負荷刺激に対し膵副交感神経が過剰反応を起こしていた.その結果,インスリンを過剰分泌しG・I-スパイクを創っていた.dys-P型の背景に,インスリン分泌機能の障害があることが示唆された.乳酸菌LAB4 投与により,膵臓の交感神経活動が抑えられ,その結果,糖摂取直後の初期の血糖値上昇が抑えられた(第1相の食後高血糖の抑制).それは,インスリンの追加分泌の過剰反応を抑制し,低血糖を抑制した(第2相の改善).その後,血糖値は緩やかに正常化した(第3相の最適化).第2相において,乳酸菌LAB4が肝交感神経系を刺激して糖新生を促し,さらに,膵副交感神経系に抑制的に作動し,インスリンの過剰分泌を抑制させたからであろう.この ようにして,乳酸菌LAB4 は,血糖値のホメオスタシス(血糖値の最適化)に貢献したと考えられた.以上の効果は,乳酸菌LAB4群よりグルコマンナン加乳酸菌LAB4群 において著しかった.

  • 喜山 克彦, 加藤 晃己, 絹川 典, 市川 亜弥
    2022 年 20 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    開業医療において,機能性身体症候群(FSS)の患者が存在することがある.しかし,FSSの病態は複雑であり,単一の専門分野での治療では効果がないことがしばしばである.複雑な問題を解決するために,複数の分野(multiple disciplinarity)によるアプローチが試みられる.そのアプローチには,多専門的(multidisciplinary),学際的(interdisciplinary)および専門横断的(transdisciplinary)の3つがある.私たちは,地方の一般整形外科開業医療における専門横断的アプローチを実現するために,身体・心理・社会・実存的医療モデル(BPS-Eモデル)を導入した.このことは,FSSに対する治療もしくは慢性機能障害性身体的苦悩(CDBD)発症の予防および慢性疼痛難民の減少に寄与する可能性があると考える.

総説
  • 大平 哲也, 陣内 瑶, 青山 尚樹, 溝口 徹
    2022 年 20 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    心理社会的ストレスは糖尿病発症の要因になるが,その一方で,糖尿病が持続することによりうつ症状が出現することや,急激な血糖変動が不安,イライラ等の精神症状を引き起こす場合がある.そこで本稿では,これまで国内外で報告されている血糖値の変動と精神症状との関連についての論文を概説し課題を抽出した.糖尿病が精神症状の要因になることに加え,低血糖が精神症状を引き起こす可能性が示唆されている.一方,精神ストレスが低血糖を引き起こす可能性があり,低血糖と精神症状とは相互に関連している可能性がある.5時間糖負荷試験の結果では,低血糖及び低血糖症状は健常人においても比較的高い頻度で起こる可能性があるが,低血糖のみでは症状が説明できない場合もあり,血糖値の変動幅の大きさ,インスリン分泌,自律神経機能の変化が症状に関連している可能性がある.持続血糖モニタリングは実生活での血糖変動と精神症状との関連を検討するために有用であるが,5時間糖負荷試験及び持続血糖モニタリングともに精神症状との関連をみた報告は未だ少なく,エビデンスを構築するために,今後これらの関連を多数例で検討する必要がある.

  • 加藤 晃己, 喜山 克彦, 絹川 典, 市川 亜弥
    2022 年 20 巻 1 号 p. 31-43
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    元来,運動器理学療法の理学療法士(PT)は運動器の障害に対し,生物医学的モデルによりその機能の回復をはかる.しかし,一般整形外科開業医療において機能性身体症候群(FSS)の患者が存在する.FSSは単一の専門分野による治療は困難なため,複数の分野(multiple disciplinarity)によるアプローチの導入が必要である.私たちはそのなかで,専門横断的アプローチである身体・心理・社会・実存的医療モデル(BPS-Eモデル)を当院における臨床体系として導入した.このチームの一員であるPTは,専門分野の境界を越え,全人的な医療を実現することを目指す.このことはPTにとって非常に困難な挑戦であるが,PTに対してFSSの治療,予防医学および患者の相対的健康の獲得という新たな目的が付加されることとなり,運動器理学療法の可能性を拡げるものと考えられる.

  • ―患者と心理臨床家による対話の器の中で―
    吉津 紀久子
    2022 年 20 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    患者の苦悩を前にした心理臨床家は,どのような意識を持って臨床の場に臨んでいるのだろうか.ヴィクトール・E・フランクルは〝苦悩すること〟を決して否定的に捉えていない.〝苦悩すること〟はより高次な意識に人を導くものであり,個々人が固有の存在価値に向かっていける過程であると位置づけている.本稿では筆者の臨床経験を振り返りながら,フランクルの言葉と重ねつつ,心理臨床家としての意識の態度やそれを実現するための姿勢について論考したい.

    心理臨床家が患者の苦悩と向き合うための重要な出発点は,患者の苦悩は患者のものであることをしっかりと意識して臨むことではないだろうか.本稿では患者の苦悩の問いから始まる対話,そして患者固有の苦悩の意味に至るまでの意識の転回を段階に分けて描写する試みを行った.人間の精神の可能性に絶えず意識の目を向け,固有の価値実現に開かれた対話をめざしていきたい.

WHOレクチャーシリーズ
  • 清 眞人
    2022 年 20 巻 1 号 p. 53-67
    発行日: 2022/03/25
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

    私がここで試みるのは,フランクルとフロムとの対話を想像することである.実際には両者は対話を行っていない.しかし,両者は有意義な対話を生む十分な理由を持つ.二人は同時代のユダヤ人であり,反ナチスの勇敢な闘士であり,それぞれの仕方でフロイトの精神分析学から「実存的精神分析」を生みだそうとした思想家であった.二人は,人間が抱く根本的な欲求はリビドーではなく,自分の人生を有意義な人生として実現しようとする「意味への欲求」であると考えた.フランクルは言う.「人生が君に投げかける問いに一つ一つ真摯に応えようとする営為が君に人生の意味を発見させるだろう」と.フロムは言う.「責任感とは,《自分には応答する力がある,だから応答する,応答したい》という自発的意識にほかならない」と.そして,フロムは指摘した.生き生きした豊かな応答関係の再生,これこそ今日の精神的課題である,と.

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