本研究では、成人期自閉スペクトラム症者(以下、成人期ASD者とする)の余暇としての運動・スポーツ実践における支援方法を検討するための知見を得るために、当事者の視点から、運動・スポーツに対する意識とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とした。本目的を達成するために、ASDの診断を有する10名に半構造化面接を行い、M-GTAによる分析を行った。その結果、本研究の対象者の多くは、学校体育でのネガティブな経験から、特に球技スポーツに対する苦手意識を有していたが、必ずしも運動・スポーツが嫌いというわけではなく、全ての対象者において卒後に知人からの誘いをきっかけとした運動・スポーツ経験があり、運動・スポーツ習慣をつけたいという思いを持っていた。その中で、初めてのことやコミュニケーションに対する不安といったASDの障害特性から、自分のペースで運動・スポーツを楽しむことができず葛藤しているのではないかと考えられた。その一方で、継続的な運動・スポーツを楽しむことができている人は、自分のペースで運動・スポーツを実施できており、自分を理解してくれる重要な他者の存在によって、運動・スポーツを継続して楽しむことができることが明らかとなった。すなわち、ASD者が継続的に余暇としての運動・スポーツを楽しむためには、本人の特性を理解している重要な他者を作ることと、自分のペースで楽しめる運動・スポーツ習慣を作れるような手立てが必要であると考えた。
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