発達支援学研究
Online ISSN : 2435-7626
3 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • ネットワーク分析を用いた探索的研究
    池田 和浩
    2023 年3 巻2 号 p. 36-51
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究では、気になる行動を伴う特定児童に対して保育士が持つ認知的性質を明らかした。計34名の児童の行動に対して、保育士は「気になる」子どもの行動チェックリストに回答するよう求められた。評価は対象児に対して複数回行われたこともあった。全62回の評定結果を分析した結果、チェックリストの集団領域が他領域に比べて気になる状況となりやすいこと、落ち着きのなさが他の因子に比べて気になる要素となりやすいことが確認された。また、リストの全60 項目のうち、落ち着きのなさに該当する項目と、衝動性に関与する項目が保育士にとって特に気になりやすい行動特性であることが示唆された。ネットワーク分析の結果を合わせて考えると、保育士の意識的な注意は児の落ち着きのなさや順応性の低さなどの他者を認識する力の弱さに向きやすいといえる。一方で、観察したケースの一部では、保育士の注意が児の他者を認識する力の弱さから、衝動性を中心とした他者を従属させるような自己中心的特性に向くように変化することも散見された。このような結果は、保育士の児に対する行動評価が力動的に変化することを意味している。
  • 社会変動の中の「親たち」の変化を問うための序論
    神谷 哲司
    2023 年3 巻2 号 p. 52-67
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
    本稿においては、日本における親発達研究を概観するとともに、現代日本において社会問題とされる児童虐待や育児不安といったものが社会的変遷の中で生じてきたものであるという子育て環境の情勢を踏まえつつ、2020 年代初頭の日本における「子どもを育てる親たち」の現状を探り、改めて「親の発達とは何か」を吟味するための論点を整理することを目的とした。そして、現代日本社会における子育ての変化と現状について、2022年11月から12月にかけてインターネットを介し、自由記述によるアンケート調査を実施した。得られた26名の自由記述についてKH coder(樋口, 2004)によって分析を行った結果、頻出した用語の共起語の分析から、1)保護者のネガティヴな表現、2)親や保護者の二極化に関する表現、3)支援体制の問題、4)ネット社会に関する表現の4 つのカテゴリーが抽出された。同時に、社会変動の中の親の変化をとらえることの難しさも指摘され、改めて、今後、現代的な親たちの発達の変化を問うために、できるだけ定義や意味が変容していない指標を多面的に用いる必要があること、ならびに社会の変化を複数の異なるサブシステム同士の相互影響の中で、多面的、多様な変化が生じていることを踏まえる必要があることが議論された。
  • 愛着形成、愛着障害をどう捉え、どう支援していくのか?
    米澤 好史
    2023 年3 巻2 号 p. 68-78
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
    子育て、保育、教育、福祉の現場における発達支援において、愛着の視点からの支援の必要性、重要性について、愛着障害への支援実践の立場から提唱したい。発達理論、愛着理論に基づく支援の限界、発達障害への医療的支援、障害児者心理学による支援の限界を示す場合に愛着障害の支援から捉えた愛着の支援の必要性を指摘する。加えて、愛着理論、精神医学会の愛着形成、愛着障害の捉え方の問題点を指摘しながら、発達障害支援におい ても愛着の問題、愛着障害の問題があることが支援を困難にしていることも指摘する。そのことから愛着障害をどう捉えるべきなのか、愛着形成をどう捉えるべきなのかが見えてくる。こどもへの支援を通して見えてくる愛着の問題の本質から、さまざまな愛着の問題の現れ方に対して、その支援に必要な愛着形成を3 つの基地機能の育成と捉えて支援すべきであること、この3つの基地の発達支援における意義について提唱する。
  • 西野 純
    2023 年3 巻2 号 p. 79-82
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
    本稿では、発達の支援者としての保育者養成の課題を、筆者自身の保育現場での実習指導や職員育成の経験や保育者へのアンケート調査の結果から考える。現場でしか体験できない子どもとのふれあいを重視し、日誌や指導案の負担軽減を図った実習内容にも、緊張や不安を強く見せる実習生の姿。オンライン化により講義形式の研修は充実できたものの、実技研修や休憩時のおしゃべり等での保育の相談など、心や身体をほぐし合った職員同士の学びの機会が激減した職員育成の実態。アンケート調査からは、経験5 年未満の保育者達の多くが「具体的な遊びや活動」についての悩みを抱えていることが明らかになった。急速に進む少子化と3年にわたるコロナ禍により、人とのかかわりや遊びの実体験が圧倒的に不足し、保育者養成、職員育成の課題は深刻になっている。しかし、保育の面白さのひとつは、子どもと共に保育者も成長できるということにある。豊かな実体験を通した保育者としての成長過程を、卒業や就職といった節目で区切ることなく、養成校と保育現場がつながって見守ることを願う。
  • 足立 智昭
    2023 年3 巻2 号 p. 83-89
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー
    この小講演では、若手保育者の早期離職の背景に、支援の難しい気になる子どもや保護者の存在があるのではないかとの著者の問題意識のもと、著者が保育者養成校で実施している授業の一端を紹介した。その工夫として、学生が気になる子どもを包括的に理解するために、著者が担当する1年次から4年次までの授業で、同じ架空事例を繰り返し紹介し、段階的に実践的な課題を与えた。また、保護者対応においても、(1)保護者の感情を立体的に捉え、その感情に応えること、(2)そのことを通して、保護者の言葉の意味を正確に捉えること、さらに(3)自分の感情を俯瞰的に捉えることをねらいとして、架空事例に基づいて繰り返し演習を行った。この学会には、養成校の教員も数多く所属することから、学校の垣根を越えて若手保育者の早期離職を防ぐために、学生がより実践的に発達支援を学ぶことができるよう、情報交換の場をもつことも有意義ではないかと考えた。
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