日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
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生態
  • 広瀬  大, 神崎 菜摘, 二井 一禎
    セッションID: F18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     森林生態系における外生菌根菌に関する生態学的研究は,主に子実体発生を指標にして進められてきた.また,外生菌根菌の繁殖様式の解明を目的とした,外生菌根菌のジェネット分布に関する研究の多くも,地上に発生する子実体に基づく研究が多く,地下部に分布する菌根や菌糸を考慮したものは少ない.しかし,野外での外生菌根菌の繁殖生態を解明するには,繁殖器官である子実体に関する調査に加え,地下部に分布する栄養器官である菌根や菌糸に関する調査も必要である.演者らは,京都大学上賀茂試験地内に植栽されたヒメコマツ林分において,これまで分子生物学的手法を用いて菌根菌の地上部の子実体と地下部の菌根を対応させながら外生菌根菌の調査を行ってきた.その結果から,この林内ではベニハナイグチが,子実体の発生量と現存量および菌根の現存量において優占種であることが明らかになった .このことを踏まえ,今回は,本菌の子実体と菌根のジェネット分布の対応関係の解明と,子実体発生に寄与すると思われる要因について明らかになったことを報告する. 京都市北部に位置する京都大学上賀茂試験地内の斜面上に植栽された 28 年生のヒメコマツ林分に、20×24 mのプロットを設置した.菌根菌子実体の空間分布を調査するために 2000 年から 2002 年の 3 年間,子実体の発生期間(5月から12月)に,菌根菌子実体の発生位置,種,発生本数,乾燥重量の記録を週 1 回もしくは 2 回行った.3 年間を通じてベニハナイグチ子実体は,同所的に発生したため,ジェネット解析には 2002 年に発生したものを用いた.ジェネット分布の推定は,マイクロサテライト領域を対象とする ISSRマーカーを用いた多型解析により行った.地下部のジェネット分布を推定するため,2002 年のベニハナイグチ子実体の発生が終わった後,プロットを 2 ×2 m に分割し,その格子点上の表層部からベニハナイグチの菌根を採取した.そしてそれらの菌根について,子実体と同様に多型解析と,ジェネット分布の推定を行い,子実体との対応関係を調べた.さらに,これらの関係を厳密に解析するため,プロット内で子実体発生が集中した部分にサブプロットを設け,格子密度を高めることにより,子実体と菌根のジェネット分布の対応関係を調べた.また,ベニハナイグチ子実体の発生に関与すると思われる要因として,L 層の厚さ,C / N 比,開空度,菌根の現存量の分布に着目し,それらを測定および推定した. 3年間の菌根菌子実体発生様式の調査から,ベニハナイグチは,発生量および現存量で優占種の一つであった.ベニハナイグチ子実体の発生分布は,分布解析の結果,3 年間を通じ同所的に集中型分布をすることが明らかになった.2002 年に採取したベニハナイグチ子実体に関し,DNA 多型解析を行ったところ, 林分内に少なくとも 4 つのジェネットが存在し,それらは概ね子実体が集中的に発生した 4 つの場所に,それぞれパッチ状に存在していた.本菌の子実体は,2002 年には春と秋に発生したが,春には 2 つのジェネットタイプのみが発生し, 秋には全てのジェネットタイプの発生がみられた.2002 年の子実体発生後に林内で広範囲にわたり菌根を採取し,同様の DNA 多型解析を行った結果,子実体と同じ 4 つのジェネットタイプが存在することが分かった.このことは,本菌は菌糸が容易に定着する先駆的菌根菌ではないことを示唆している.また,本菌の子実体が発生した付近では,本菌が形成する同じジェネットタイプの菌根が分布しており,概ね対応関係があることが分かった.しかし,林分全体の子実体と菌根のジェネット分布では,菌根が広く分布しているところでも子実体発生がみられず,両者に完全な対応関係はみられなかった.さらに,林内のベニハナイグチ菌根の現存量の調査を行った結果,本菌子実体の発生がみられた場所とそうでない場所との間で差はみられなかった.これらのことから菌根の分布は子実体発生にとって十分な条件ではないことが分かった.菌根の分布以外の,本菌の子実体発生に寄与する要因を探求した結果,ベニハナイグチ子実体は,林内の,L 層が薄い,開空度が高い,C / N 比が低い場所に発生する傾向があった. 本研究により,ヒメコマツ人工林内の外生菌根菌の中で優占種の一つであると考えられるベニハナイグチの子実体と菌根の分布のジェネットレベルでの対応関係が明らかになった.今後本菌のジェネットの動態を解明するためには,さらに長期的な調査が必要であると思われる.
  • 谷口 武士, 広瀬 大, 神崎 菜摘, 二井 一禎
    セッションID: F19
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに外生菌根菌は宿主樹木と共生し、樹木の水分や養分の吸収促進などに大きく寄与している。特に、海岸などの貧栄養な土壌に生育する樹木においては、この共生関係が重要な役割を果たしている。このような海岸地帯での菌根の生態を解明するために、海岸生クロマツ幼稚樹について、単木あたりの菌根量とその分布を調べ、海岸生クロマツ林における菌根に関する基礎情報を得ることを目的として本研究を行った。  2.調査地および調査方法 調査は、鳥取県、鳥取砂丘のクロマツ林の林縁部で行った。この林縁部で、クロマツ稚樹が5-10m間隔で散生しているリターのない砂地において、樹高70 cm以下の4 - 7年生の幼樹と樹高約15 cmの2年生稚樹をそれぞれ3本ずつ供試木として選定した。幼樹については、この樹幹を中心とした4方向 (東西南北) について、水平距離が10、50、100、150 cmの地点に20×20 cmのサンプリングプロット (10 cmの地点のみ10×10 cm) を設定した。これらのサンプリングプロットにおいて、深さ20 cmまでは5 cm間隔、20 - 60 cmまでは10 cm間隔の計8深度に分けて土壌を採取した。採取した土壌から中根 (直径>2 mm)、細根 (<2 mm)、菌根化した細根 (<2 mm) を選別し、それぞれの乾燥重量を測定した。稚樹については、その地際から20 cm間隔で100 cmまで同心円状に区画し、各区画について、深さ10 cm間隔ごとに90 cmまでの9深度別に根系を採取し、幼樹の場合と同様に根系のクラス分けをし、各々の乾燥重量を測定した。また、幼樹を採取した地点において、土壌における深さごとの含水率、全炭素濃度、全窒素濃度を求めた。3.結果  (1) 菌根の水平分布 2年生稚樹の根や菌根は、水平方向に1 m、垂直方向に90 cm程度の範囲内に分布していた。樹幹から20 cm以内に全菌根量 (g/本) の57 - 86% が存在した。幼樹における菌根の密度は、樹幹から10 cmの所で最大となり、これは樹幹から50 cmの場所の20倍以上であった。 (2) 菌根の垂直分布 2年生稚樹の菌根量 (g/本) は、個体間で大きくばらついたが、いずれの個体においても、深さ0 - 10 cmで菌根量 (g/本) が最大になった。 一方、幼樹の菌根は、表層 (深さ0 - 5 cm) にほとんど存在せず、深さ10 - 15 cmに最も多く分布していた。 (3) 幼樹と稚樹の菌根量の比較 木のバイオマスや葉量あたりの菌根量 (g/本) については、幼樹と2年生稚樹の間に違いが認められなかった。しかし、細根量に対する菌根量の割合 (菌根化率) は幼樹で大きかった。4.考察 サイズや樹齢の異なる樹木の菌根量の比較についての研究例は少ないが、葉量あたりの菌根量は樹齢によってはそれほど変化しない場合 (菊池,2002) と大きく変化する場合 (Vogt et al., 1987 ) が報告されている。今回の調査では、大きな変化はなかった。このことから、生育場所が同じであれば、必要な菌根量は成長に伴って大きく変化しないことが推察される。また、幼樹の場合、菌根は含水率の低かった表層 (0 - 5cm) で少なかったが、この結果は菌根が表層に最も多く分布するという既応の報告と異なっていた (菊地, 2002 )。これは、砂丘表層での乾燥が厳しく、細根の形成が妨げられたためではないかと考えられる。 以上から、海岸砂丘における菌根の役割は、林内などのリターの堆積の見られる場所と異なっていることが推察される。今後、様々な場所での菌根形成についての調査を行うことで、海岸生クロマツにおける菌根の役割を解明していきたいと考えている。
  • 岡部 宏秋, 山中 高史
    セッションID: F20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的 2000年7月の三宅島噴火による火山ガスの流下、降灰や泥流によって、島内植物の多くが大きな被害を受けた。特に雄山中腹から上部の植物は、ほとんど枯れ、災害復興対策上大きな問題を抱えている。ここでは、生残植物の増殖を図るため、植物根系と密接な関わりを持つ共生菌に注目した。特に厚降灰土で生残した植物、緑化に適用可能な種としてハチジョウススキ(以下ススキ)の根系と関わり生残している可能性のあるアーバスキュラー菌根菌(AM菌)およびススキの生育と降灰土との関わりについて報告する。2.調査方法 ススキ根系と共生するAM菌の実態を、現地でのススキ播種や土壌採取によって評価した。1)現地土壌におけるバイオアッセイ 2002年4,5月中旬に周回林道沿い(牧場、牧場上、伊ヶ谷、三の宮、火の山、金曽地区、各10-20cmの降灰土層)の緩傾斜地を調査対象とした。各調査地は降灰土の表層(灰区)、降灰土と埋った旧土層の混合(灰埋区)および降灰土を除去し土層(埋区)とし、伊豆大島産のススキ(護頴含む)を約30g播種した。2)持ち帰りススキ株土壌によるバイオアッセイ 各調査地点、各区から土壌を持ち帰り、ただちにススキ播種によってバイオアッセイを行った。さらに各プロット近傍、ふれあい広場、薄木地区海抜200m地点、新澪池周辺、畜産試験場内の圃場地内の各ススキ株の一部を掘り取り、その株や土壌を接種源として、上記と同様に播種した。なお、2001年度には予備的な胞子計測を行った。 ポットの管理は、播種後1ヶ月は表層土の高湿度を保ち、その後は表面が十分に乾燥した後に水を加え、1ヶ月に一度、窒素源を控えた肥料を約20mm添加した。これらは、11月中旬からポットの土壌中層位を切り取り湿式ふるい分け法によって胞子数を計測した。3.結果1)現地土壌におけるバイオアッセイ ススキは、金曽では火山ガスによって、また牧場、三の宮では降灰土の流入で消滅し、被害の継続がみられた。他地点のススキは、灰区では極めて生育不良、灰埋区でやや良好、埋区では良好な生育を示し、特に伊ヶ谷では葉長60cmになる個体がみられた。一方、AM菌は、灰区ではほぼ皆無、灰埋及び埋区では皆無地点があったものの伊ヶ谷のように著しく増殖した地点もあった。2)持ち帰り土壌によるバイオアッセイ 持ち帰った土壌から、各地点におけるススキ単稈あたの生育は灰区(上、下層)で不良の傾向にあった。AM菌の生残は、灰区で少なく、灰埋区では1区で増殖がみられ、埋区では種数は少ないものの多地点でその潜在性を示した。一方、各地点近くから採取したススキ株土壌では類似した種類の増殖がみられた。前年の予備調査では、胞子の生残は極めて少なく、数種(不明)の枯死胞子を認めている。4.考察 今回の噴火から、降灰土層の不毛、埋土層では限られた種ではあるがAM菌の潜在性、生残ススキ株の根系にAM菌の生残が確認された。AM菌のアッセイに問題があるものの、降灰後2年を経過して、なお生残していたこと、一方では種数が少ないことで種の一部が消滅してしまった可能性が読みとれた。2001年に予備的に行ったアッセイでは枯死した胞子をいくつか見ているが、それらは今回増殖していなかった。降灰による影響は、植生だけでなく、共存するAM菌にも多大な影響を与えたと考えられる。
T2 森林科学における森林教育研究の意義と課題
  • 安田 亜佐子, 山本 信次
    セッションID: G01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    <目的> 環境教育は、日本においては文部省(現、文部科学省)が作成した「環境教育指導資料」の発行により学校教育でもその一歩を踏み出したかに見えたが、様々な問題や困難が付きまとった。H14・15年度からの「総合的な学習の時間」導入により実施しやすくはなったものの、創意工夫を求められる授業への教師陣の戸惑いは大きく各校で十分な取り組みが行われているとは言いがたい。 そこで本研究では、盛岡市立S中学校(以下、S中)での環境教育の実践を調べ、「中学校での環境教育」について考察していく。<考察>S中での事例から、中学校で環境教育を進めていくために有効なことや必要なことを考察し、下記に列挙する。・学校一の権限をもつ校長先生の理解・教員の役職に関係なく出来ること・学校行事への環境教育の導入・「先生=仕掛ける人、生徒=発展・実行させていく人」  への教育方法の転換・「環境」という大きなテーマを身近な活動へ置き換える 工夫(リサイクル活動の考え方)・今後、キーパーソン無しでも継続していける体制作り・人と人との「つながりづくり」・環境教育への森林体験導入の有効性・地域との連帯(環境教育の連鎖)
  • __-__演習林を利用した共通教育の事例__-__
    枚田 邦宏, 井倉 洋二, 馬田 英隆
    セッションID: G05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     近年、森林教育の取り組みは年を追うごとに増えてきた。特に小中学校における取り組みが急速に拡大している。このように森林を対象にした教育が注目される理由は、環境に対する社会的な関心の増大、教育制度の新たな動き、林業生産の縮小等、外部要因を色々と考えることができる。しかし、もっと本質的に「森林のもつ教育力」があり、これにプラスして外部要因があったから森林教育が旺盛に取り組まれるようになったと考える。そこで、「森林のもつ教育力」を探る第一歩として、本報告では大学生の導入教育として行ってきた鹿児島大学共通教育「森林基礎講座」を取り上げ、その受講生を対象にした教育成果に関するアンケート結果を用いて大学生への森林を利用した教育活動の意味を検討する。 2002年度の受講生に対して、氏名、学部、登山等の経験、何を期待して講義に参加したか、個別プログラムの目標に対する効果に関する5段階評価や得たこと・感想講義全体の目標に対する達成度の5段階評価・感想や今後に及ぼす影響について回答を得た。以下に教育目的を付した個別プログラムに対する学生の評価(「役立たなかった」から「おおいに役だった」までの5段階)と達成度をみると、個別プログラムの評価は、役立った(4)、おおいに役立った(5)が8割以上を占めており、評価されている。 特に、その効果の高いものは、イニシアチィブゲーム(チームワークを高める)、キャンプ(人と協力する)、夜の森体験(五感を高める)、天然林見学(生態の知識を得る)、キャンプファイヤー(仲間と交流する)、人工林見学(森づくりと利用を知る)、川の源流探索、懇親会(仲間との交流)、プレゼンとふりかえり(他人の意見から学ぶ)である。効果の高かったプログラムの特徴は、フィールドで総合的に解説するもの、人との協力や人への理解に関するものとなった。また、講義目的の達成度は、森林を親しむと他人との協力関係を学ぶが多く、個別プログラムの評価と同じ傾向を示した。 成果および達成度の内容は、人間関係に関する効果および達成度合いが高く、森林の知識と感覚の養成は二次的になっている。講義の目的としていた「思考と表現」や「人間関係(協力関係)」を学ぶ上で森林教育は特別な意味があったと考えられる.
  • 芦原 誠一, 松元 正美, 野下 治巳, 内原 浩之, 松野 嘉昭, 井之上 俊治, 井倉 洋二
    セッションID: G07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに  教育研究施設である大学演習林に近年あらたに加えられたキーワードが「環境教育」である。多様な自然環境を有する森林は、森林環境教育の舞台として重要な場のひとつであり、教育プログラムの開発と指導者養成が急務であるとされている。 これについて鹿児島大学演習林では地域貢献の一環として、さらに小学生を対象とした森林教育プログラムを研究開発することを念頭に、小学校の先生と共同してプログラム開発を進めている。本報告では人気メニューの「川の源流探検」について紹介する。2.「川の源流探険」のねらいと内容 このプログラムは、川をさかのぼり、川の始まりを見るというものである。ねらいは次の3つである。 (1) 川の中を歩いて川の自然と水の営みを体感する (2) 川の始まりを見て水の循環を知る (3) 険しい難所を協力して乗り越える冒険体験           ((導入)) まず指導者はスタート地点で川の中に子ども達を立たせて目を閉じさせ『水の旅』の話をする。足もとを流れる川の水になって下っていくところを想像させ、田畑や家畜、生活用水として使われ、海に注ぎ込んでやがて雨となり森に帰ってくる。この雨はどうなったのか?それを見に行こう!と水の循環をイメージさせながら活動の目的を伝える。プログラムの重要な導入部分であると同時に、「川の水=命を育む水」として日常生活との関連性を忘れさせないというねらいもある。         ((冒険・協力)) ほとんどの小学生にとって川歩きは初めての体験である。スタート直後の水の冷たさ、足もとをすくう川の流れをまず体感する。途中には難所がいくつもあるが、指導者は手を貸さず、子ども達が班の中でお互いに協力して助け合うことが課題のひとつでもある。ゴールまでには大半の子どもが全身びしょぬれになってしまうがそれは貴重な経験である。         ((風景・水の味)) 湧水点が2カ所あり、ひとつは苔むしたシラスの崖から小さな滝が高さ1m幅50mに渡ってわき出している「水のカーテン」。もうひとつは、洞窟の中から大量の水がわき出す「川の始まり」である。ここで湧水を味わい水道水との違いを実感する。        ((ふりかえり・共有)) 活動の終了後は班単位でふりかえりをする。新しく発見したことや感じたことなどを1人ずつ発表してもらい、全員で共有する。指導者は『水の旅』(水の循環)を思い出させ、下流の汚れの原因は?どうすればよいのか?などと問いかける。導入とふりかえりを効果的に行うことにより、「川の源流探検」はより深みのある体験学習となる。3.まとめ 鹿児島大学演習林では、このような子どもを対象とした森林教育プログラムの研究開発と、指導者養成を目的とした様々な活動を行っている。ここでは代表的な例を紹介したが、このようなプログラムでは班単位で指導者がつくために、1回に5,6人の指導者が必要となる。これを演習林の職員だけでなく、指導者養成プログラムをかねて学生に指導させることを試行している。 今後は小中学校教員や少年自然の家、森林管理署、県の農林事務所など、演習林を中心とした広範囲の協力体制を構築し、その中で指導者の養成と教育プログラムの開発・実践が行われることが、地域社会がつくる「森林教育」の理想の姿ではないかと考えている。今後も実践とアンケート調査の分析をすすめ、プログラムのさらなる充実をはかっていきたい。
  • 山本 信次, 吉村 麻実子
    セッションID: G08
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
     文部科学省の統計資料によると、平成12年度の時点で、全国には小学校が24,106校、中学校が11,209校ある。しかし、過去10年間において岩手県では、小学校が50校、中学校が18校廃校になっている。岩手県に限らず、各都道府県で廃校となる学校が毎年ある。学校がなくなるということは単に地域内から公教育の場がなくなるということのみを意味しているのではなく、もっと重大な問題を抱えている。
     このような状況の中で、最近活発になってきているのが廃校を新たに地区の交流施設、あるいは自然学校等の体験施設として再利用する動きである。廃校の再利用の方法はさまざまで、運営主体・活動目的と多岐にわたっている。
    そこで、岩手県内において小中学校が廃校になった後どのようになったかを調査し、今後廃校の再利用についてその可能性について明らかにする。
    2.考察
     アンケートの結果より、学校は地域にとって活動の拠点的な役割があることが読み取れた。それは廃校が地域の社会教育施設としての再利用頻度からうかがえる。このことから、地域外の人間主導での廃校の再利用に関しては廃校を抱える地域が何を需要しているかを考慮していくことが不可欠であり、それには住民との活発な交流が重要である。
    今後も少子化等に伴う学校の統廃合は進み、廃校もその数を増やしていくことは容易に想像できる。廃校は有効に活用することによって地域の文化の継承や活性化の場として大きな役割を果たすであろう。
    葛巻町の「森と風のがっこう」の例からも見えるように、今後も廃校を放置するのではなく、新たな活動の拠点として地域内外で再利用することが望まれる。
  • 「高知子ども森林インストラクター養成講座」第1期の実践報告
    藤本 浩平, 竹内 秀行
    セッションID: G09
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年、森林や自然環境に関しての興味を持つ人が増え、森林に関する環境教育の場が増えている。また、学校での総合的教育導入や完全週5日制に対応して、地域の大人による休日の体験学習・総合的学習についても様々な試みがあり、環境学習を実施している例がみられる。
     高知県内において、森林ボランティアによる体験型森林教室として「高知子ども森林インストラクター養成講座」が開講されている。第1期が平成13年12月__から__平成14年11月まで開講された。
     第1期講座の主催は、「高知子ども森林インストラクター養成講座運営委員会」と「高知県森林インストラクター会」であった。「高知県森林インストラクター会」は高知県内在住の「森林インストラクター」((社)全国森林レクレエーション協会認定)による団体である。一方、「高知子ども森林インストラクター養成講座運営委員会」は本講座を運営するために設立された団体であり、「高知県森林インストラクター会」の有志と、その他の森林ボランティアにより構成されている。共催団体として、「(社)高知県森と緑の会」が参加している。
     第1期講座の開講準備や計画立案は「高知県森林インストラクター会」と「(社)高知県森と緑の会」が行い、開講後の運営は「高知子ども森林インストラクター養成講座運営委員会」が行っている。
     通年の受講者を募り、森林に関する体験型の講座を行った。講師は、運営委員の他に、県内の森林インストラクターや植物園・研究機関の職員、森林ボランティアなどが担当し、学校や地域では触れ合うことが少ない大人との交流を通して専門的な知識を得ることができる。12回の講座(および番外編が数回)のうち、10回以上受講した子どもを「高知子ども森林インストラクター」として認定する。
     講座は、主に高知県森林総合センター内の森林研修センター情報交流館および試験林で行った。対象は高知県内在住の小学校4__から__6年生およびその保護者である。
     第1期の募集は、親子40名であったが、開講後3回までは中途参加を認めてしまったので、子どもの登録人数で50名を超えてしまった。最終的には、「高知子ども森林インストラクター」認定者が14名であった。
     講座の効果については、数ヵ月前の講座で取り上げたことに関連する事を質問して来たり、休み時間に山から持ってきたりしており、「気付き」のきっかけになっている。また、興味の芽を伸ばして夏休みの自由研究などでユニークな研究をしていることなどを学校や保護者から報告を受けている。
     問題点としては、活動費の問題、参加率や認定率の低さ、講座カリキュラムの立て方、カリキュラムの内容の難易度の4点があげられた。
     改善策として、最寄駅からの送迎バスや初回講座でのアイスブレーキングの重要性、1日1__から__2テーマとし、余裕を持ったカリキュラムづくりを行っていくことがあげられた。
     以上の問題点、改善点をふまえ、第2期講座を進めている。
     主催者側では広く情報交換を希望しており、本講座の活動をホームページに公開し、月1回の割合で更新している。URLは、http://www1.linkclub.or.jp/~fujimoto/JFI_Kochi/ である。
     当日は第1期の実践活動報告とその反省点・問題点を整理し、平成15年4月より開講される第2期講座の計画について発表を行う。
  • 県行政主導による養成事業を事例として
    木幡 英雄, 山本 信次
    セッションID: G11
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的 近年、市民の森林に対する要望が多様化すると同時に、市民側からの森林に対する様々な働きかけも活発化してきている。そうした状況下においては、一般市民に対して正確な森林に関する知識・技術・情報を提供することが重要である。そのための手段の一つとして森林教育が重要視され、その森林教育を実践する指導者の養成が急務となっている。 現在、東北地域においては、行政主導による指導者の養成事業が6県ごとに展開されている。ここでの養成事業の主たる内容は、養成講座を開催し、その受講者を一般県民から公募し養成する形態である。このような養成事業は数年前より行なわれおり、養成を受け森林教育を実践する指導者が各地域ごとに活躍中である。 そこで本研究では、東北地域での行政主導による養成事業の実施体制を、各県ごとの差異や特徴について整理し、養成事業のシステムとしての分析と、養成講座を受け実際に活動している指導者の実態などから、東北地域における森林教育指導者養成事業の現状と課題について考察を行なうことを目的とする。2.結果 東北各県の養成事業の概要は、養成事業の実施体制や認定方法には各県ともに共通する点が見られるが、講習の日数や認定状況、任意組織の有無などについて差異が表れている。 次に福島県での事例調査では、養成事業の実施主体は県であるが、養成事業の中心である養成講座の運営については、オートキャンプ場を備えた「ふくしま県民の森」の管理運営団体である財団法人ふくしまフォレスト・エコ・ライフ財団(以下、財団)に運営を委託していることなど特徴的なシステムとなっている。この財団の特徴は、公益法人として環境に対する高い専門性と継続性のある公益事業を展開している点である。このような財団が関与することで、内容・環境ともに整った養成講座の能率的・効率的な運営が可能となり、受講生に対してより実践性の高いプログラムの提供につながっていることがわかった。 もりの案内人の活動については、まだ成長段階にあると考えられるものの、活動状況は、活動の回数(日数)が増加傾向にあることや活動の依頼件数も増加していることなどから、市民から高い評価を得ているとうかがえる。その一方で、活動時に必要となる情報や資金、企画・運営に関する技術、スキルアップ等について不足している点も存在していることがわかった。3.考察 東北地域では、一様に養成事業が行なわれているが、その中身については各県ごとの特色が現れているようである。今回の福島県における養成事業において、システムとして中間に財団が関与することで、財団の持つ機能から効率的で効果的な養成事業の実施体制づくりが可能となっている。また、実践的な養成講座は、指導者の実際の活動に生かされやすいと考える。養成事業の課題点としては、指導者が森林教育活動を行なえる環境が整っていない部分が存在することから、実際の活動に対するバックアップ体制が今後重要になってくると思われる。最後に財団のようなNPOと連携して養成事業や活動の支援を行うことで、行政機関の下請け的な存在にならずに、指導者の活動が自主的かつ主体的に行なえるシステムづくりが可能になると思われる。
  • 市民による森林づくり活動における紙媒体テキストの活用状況とその内容について
    黒羽 修子, 白鳥 苗子, 関岡 東生
    セッションID: G13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     近年、放置され荒廃していく森林を、何とか市民の手で守ろうとする「市民による森林づくり活動」が活発となってきた。 関岡は、この市民による森林づくり活動を学習機会としてとらえた。市民に高い技術に支えられた労働力の提供を求めることは、自由意志によって支えられているこの活動では難しい。しかし、参加者自身の参加目的の如何にかかわらず、当該活動を森林や林業について学習する機会ととらえれば、間接的に、あるいは長期的に森林の管理や保全に関する理解者や担い手を養成できるのではないだろうか。 市民の森林づくり活動の中で必要とされるのは、参加者が活動内容の理解をできるようにすること及び、参加者への安全対策である。このような項目をクリアした上で、さらに参加者が自由に学習意欲を向上させ、その継続をはかるためには、体験活動のみでは不十分である。活動内容を補助するための座学や参加者の自主的な学習が必要となる。このようなことから、学習を補助する教材が必要である。こうした教材の必要性が、現在ある教材で機能しているかを、教材の使用状況、教材内容から検討する。 こうしたことから本報告では、教材の形態は多岐にわたるが、紙媒体の印刷物教材(印刷物教材をテキストと呼ぶ)に限定し検討をおこなった。
  • 白鳥 苗子
    セッションID: G14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     近年、市民による森林づくり活動が活発化する傾向を見せている。関岡は「市民参加による森林づくり活動と森林教育に関する一考察(__II__)ー活動参加者に対するアンケート調査の結果よりー」(1997.12、日本林学会論文集第108号)の中で、「市民による森林づくり活動を学習機会として見なすことが重要である」と提示した。市民による森林づくり活動を、森林や林業について学習する機会であると捉えれば、紙媒体テキスト(以後テキストと呼ぶ)は必要不可欠である。なぜならば、体験活動だけでは理解できないこともあるため、テキストは森林づくり活動に効果的であり必要であるからだ。黒羽は市民による森林づくり活動おけるテキストの活用状況とその内容について明らかにした。テキストの内容を検討することも大切だが、活動目的を達成させるためにはテキストの体裁の影響力も大きいと考えられる。デザインの分野からは、「読みやすさや理解のしやすさの観点から、見やすくする表現、わかりやすくする表現は重要である」と示唆されている。 本報告では、市民による森林づくり活動である「やま(森林)づくり塾」で用いられるテキストを取り上げ、テキスト体裁について若干の考察を行ったものである。
  • 寺下 太郎
    セッションID: G15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    ドイツにおける森林教育の実態を、野外教育施設を通じて調査した。地域性や近郊都市との関係で、様々な形態が存在したが、全体として目指していたものはほぼ同一であった。即ち、単に森林に関する知識を与えるものではなく、森林を活動の場として設定し、その中で、自然と人間との関わりを意識させることを目標とするものであった。
  • 自然に多少興味のある生活協同組合員(女性)を事例として
    遠藤 良太
    セッションID: G18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに 森林教育の推進のために、森林に関する体験、知識、魅力について相互の関係を簡単なアンケート調査から把握することを目的とした研究を行っている。今回は、自然に多少興味のある集団について、体験、知識、魅力の相互関係やその程度の把握を試みた。2.方法 自然に多少興味のあると考えられる集団として、千葉県内の生活協同組合主催の自然観察会等のイベントに参加した女性組合員(108人、以下生協組合員)を選び、2002年2月にアンケート調査を行った。また、この集団と類似した構成で自然への興味に一定の志向を持っていないと考えられる対照集団として、千葉市内小学生の母親(130人、以下小学生母親)を選び、同じ調査を同年3月に行った。前者の年齢層が40代を中心とした凸型分布だったのに対し、後者は30代と40代がほぼ半数ずつ占め、やや若かった。しかし、両集団の被験者のほとんどは現在住宅地域に住み、また若い頃(10代まで)の住居環境も概ね似ている条件(調査で商業地域、工業地域、住宅地域、農村地域、その他の地域から選択)だった。アンケートの内容は、森林の体験、知識、魅力に関することとし、体験はハイキング、木の実拾いなど14項目から複数選択式の回答を求め、便宜的に選択した項目数の合計を体験の程度ととらえた(以下体験値)。知識は針葉樹、枝打など12の用語について三段階(知らない=1、聞いたことがある=2、意味を知っている=3)から択一式の回答を求め、それぞれの用語を数値化したものの合計を知識の程度ととらえた(以下知識値)。魅力は森林で心ひかれるものとして四季の変化など6項目から複数選択式の回答を求め、体験と同様に選択した項目数の合計を魅力の程度ととらえた(以下魅力値)。加えて、自然への興味の多少と森林との関連性の確認として、「森林は大切なので、たとえ都会に住んでも直接森林に触れる機会を持つよう努力したい」と「自分の仕事や生活を考えると、直接森林に触れる機会を持つように積極的に努力することは難しい」のどちらかを選ぶ質問を設けた。3.結果 両集団の体験値、知識値、魅力値の平均はすべて自然に多少興味のある集団である生協組合員の方が、そのような一定の志向がないと考えられる小学生母親集団より大きかった。この違いは、知識値、魅力値では1%水準で統計的に有意に認められたが、体験値では認められなかった。体験を豊富にする要因の一つとして、身近な環境に森林があることが考えられる。両集団の住環境は類似しており、このことが体験値で有意な差を生じなかった一因と考えられよう。両集団について、体験値、知識値、魅力値相互の相関係数は統計的に有意な正の相関であり、森林の体験と知識は魅力を高めることに結びついていると推察された。一方、これら相関係数の大きさの集団間の違いは、統計的に認められなかった。このことは、自然に多少興味のある集団、そのような一定の志向を持たない集団とも、それぞれの集団内では同程度に森林の体験や知識が魅力を高めていることを示唆するとと考えられる。「森林は大切なので、たとえ都会に住んでも直接森林に触れる機会を持つよう努力したい」を選択した人のは生協組合員が95.4%だったのに対し、小学生母親は74.6%であった。この違いは、比率の差の検定においても1%水準で統計的に検出された。予想されたことではあったが、住宅地に住む30代から40代の女性で自然に多少興味のある集団は、そのような一定の志向を持たない集団に比べ、森林に触れたい、すなわち森林への意識が高く、森林の知識、森林に対する魅力が豊富であった。その一方、類似した住環境では体験には差が生じにくいことが示されされた。さらに、このような簡単なアンケート調査は、森林の体験、知識、魅力の相互関係やその程度の把握の一手法となることも確認された。
  • 直方市と日田市の場合
    青田  勝, 吉田 茂二郎, 池田 朝二, 伊東 啓太郎, 村上 拓彦, 今田 盛生
    セッションID: G19
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     福岡県直方市において「直方の森(仮称)」が造成され,今年度より直方市が小学生を対象とした環境教育を実施している。しかし,直方の森は造成中であり,そこでの環境教育事例は少ない。直方の森での環境教育をより良いものとしていくために,学校に関わる人々の自然観と環境教育の意識を把握することが必要であると考えた。そこで本研究では,小学生(主に5年生)・その保護者および小学校教諭(全学年)(以下先生と称す)を対象とし,アンケート調査の実施によって自然観(小学生・保護者対象)および環境教育(保護者・先生対象)に関する意識を把握することを目的とした。対象地として,直方の森のある直方市,さらに林業が盛んであるという社会背景を考慮して大分県日田市に注目した。特に今回は,教育現場で環境教育を実施する立場にある先生のアンケート調査の結果に焦点を当てて報告を行う。
     先生に対するアンケート調査の結果から,先生自身実施したいと考えている環境教育のテーマのうち「森林・林業に関する環境教育」を選んだ人を抽出し,その上で「森林環境教育を実施する上での問題点」の各質問の選択肢とを検討してみた結果,直方市では,「対象地との距離」と「教材」を合わせると森林・林業に関する環境教育を実施したいと考えた人の半数を占めたが,日田市については明らかな問題点の意識の傾向を把握することができなかった。さらに直方市に関しては,環境教育を実施する上での重要性においても,「教材」が重要であるという傾向が見られた。今後直方市における森林環境教育を実施していく上で,教材面について取り組む必要があると考えられる。
  • 大崎 智弘, 長谷川 直人, 吉村 哲彦, 木庭 啓介, 阿部 光敏, 小泉 智史, 守屋 和幸, 酒井 徹朗
    セッションID: G21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    現実空間の実体験を伴わない間接的な環境教育は、直接経験ほど鮮明な経験が得られないため効果に限界があるとされるが、一方で、現地に行かずにマルチメディア教材等を利用した学習は直接経験だけでは得ることのできない知識を得られるなどの利点がある。本研究では、現実の森林と同等の環境を再現した仮想空間を構築し、仮想空間のウォークスルーを用いた森林環境教育の評価実験を行なった。仮想空間の構築には全方位視覚センサとデジタルカメラを用いた。撮影場所は京都大学上賀茂試験地で、あらかじめ設定したルートに沿って一定間隔で撮影した。学習者は構築された仮想空間内をルートに沿って自由に散策でき、任意の地点で周囲を見回すことができる。ウォークスルーは画像の拡大率を連続的に変化させ、適当な拡大率に達したときに隣接する画像に連続的に切り替えることで実現している。仮想空間内を散策中に学習者が教材の近くに来ると、教材が近くに存在することを示す情報が表示される。この時、仮想空間内にある教材の対象物をクリックすると教材が表示される。本システムの評価実験は、2002年9月14日、15日に京都大学大学院情報学研究科の教室内で行った。実験は1日3回10人ずつ、計6回行った。被験者は20代から60代までを12人ずつ、合計60人である。各年齢層で男女は同数とした。また、20代の被験者は社会人と学生を同数とした。本システムによる学習の前に、被験者の属性を問うアンケートを実施し、操作説明を30分間行った後、仮想空間を用いた学習を45分間実施した。用意した教材は、三択のクイズ形式が10問、樹木の葉をスケッチする形式が4問である。学習終了後に、教材に関する知識を問うアンケートを実施した。学習終了後のアンケートでは、被験者に教材に関連した問題を解いてもらった。問題の内訳は、教材中のクイズと全く同じ問題が6問、教材の解説をよく読めば解ける問題が4問である。ほとんどの問題で教材を読んだ人の方が読まなかった人に比べて正答率が高いことがわかった。また,スケッチをした人(学習済)の方がスケッチをしなかった人よりすべての問題(3つの葉の写真から正しいものを選択)で正答率が高い。スケッチすることにより、対象物を注意深く観察することから、高い教育効果があったものと考えられる。これらの結果から、仮想空間を用いた森林環境学習による一定の学習効果が認められたと言える。なお、本研究は科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業(CREST)の補助を受けて行なった。
  • 田中 伸彦, 渡辺 貴史
    セッションID: G22
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     居住地周辺の身近な森林は、学校教育や生涯学習の面から、日常的に直接自然とふれあえる場として貴重な空間である。しかしながら、近年、工業団地や新興住宅地の開発などにより、周辺に伝統的な社寺林はおろか、市民の森も存在せず、一般人が自由に立ち入れる森林が確保されていない地区が散見される。その様な地区に対しては、人々が森林とふれ合うための場を積極的に創出するための施策が求められるが、残念ながら、現状ではその様な地区を客観的に判定する手法が整備されていない。そのため、筆者らは、地域の教育活動に関係する資源や施設の地理的分布の実態を把握・評価する目的の研究を行っている。本報告はその一環として行われた。 本報告では、茨城県北部の八溝多賀森林計画区を対象に、3次メッシュ(1kmメッシュ)単位で、5×5メッシュのフィルタリング法を用いた地理的解析を行い、1.森林に関わる教育を行う拠点となる施設(需要的要因:学校や公民館など)と比較して、2.教育活動が可能な公開された森林(供給的要因:社寺林や市民の森など)が少ない地域を判定する方法を開発した。 その結果、工業団地の周辺や新興住宅地の周辺、ゴルフ場周辺など、供給的要因よりも需要的要因のほうが先行している地域であると、常識的にイメージ可能な場所が複数箇所判定された。 またその一方で、周囲を森林で囲まれているような山間集落でも、周囲に立ち入り自由な公開された森林が存在しないために、需要のほうが先行している地域が複数箇所見られることが明らかになった。 今後の課題としては、どの様な空間でどの様な教育プログラムを行うかという条件を本手法に組み込み、さらに精緻な地理的評価手法を確立していきたい。
生理
  • 錦織 正智
    セッションID: H01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    根系の形態形成は,土壌の環境要因を背景に進行し,同一樹種の根系であっても土壌環境に応じて多様な生長と形態を呈する。この現象における根系の発達初期における形態形成の様式を明らかにすることを目的に次の手順で調査をおこなった。組織培養によりクローン増殖したシラカンバ(Betula platyphylla var.japonica)を異なる用土(寒天,ピートモス,鹿沼土,バーミキュライト)で育成し,根系の生長量(根長,面積,体積,乾物重)と形態(フラクタル次元,根長/乾物重)をコンピュータ画像解析等により定量化をおこない,この測定値を主成分分析することで形態形成の様式を検討した。この結果,シラカンバ根系の形態形成は,生長量の増加と形態の形成が独立して進行する様式であることが分かった。
  • 中路 達郎, 武田 知己, 藤沼 康実, 小熊 宏之
    セッションID: H02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1. 目的リモートセンシング技術を応用した森林の純生産量評価のための基礎研究として、葉の光応答に依存した分光反射指標であるPRI(Photochemical reflectance index)に着目し、野外に生育するカラマツのPRIの日変動を、針葉の光合成活性、色素濃度と同時に調査した。PRIは、葉内のキサントフィル色素の日中のエポキシ化・脱エポキシ化に伴う531 nm 近辺の吸光度の変化を捉えた分光反射指標であるが、これまで草本植物を中心に、光合成の光利用効率(Gamon et al., 1992)あるいはCO2吸収能力(Penuelas and Inoue, 2000)との相関関係にあることも報告されている。本研究では、落葉針葉樹であり、北方林におけるCO2 シンク機能が期待されているカラマツを対象にして、針葉の光合成活性の評価にPRIが有効であるか検討を行った。2. 方法2002年8月30日に、国立環境研究所実験ほ場(茨城県つくば市)内のニホンカラマツ(Larix kaempferi)4年生林で観測を行った。樹冠上2.5 mにイメージング分光計(V-10, 川鉄テクノリサーチ)を設置し、葉面反射の連続分光測定を行った。分光計の視野の一部に標準白色板を設置し、その反射率を100 %として樹冠の分光反射率を算出した。樹冠最上部の側枝・針葉の反射率を抽出し、次式に従いPRIを1時間毎に算出した。PRI = (R531-R570)/(R531+R570)R531, R570 :531nm,570 nmにおける反射率針葉の実効量子収率 (ΔF/Fm’)と純光合成速度(Pn)を、それぞれパルス変調クロロフィル蛍光測定装置(PAM-2000, WALZ)および開放型光合成蒸散測定装置(Li-6400, Li-Cor)によって1時間毎に測定した。Pnと光合成有効放射束密度(PPFD)の除算値から、光合成のCO2固定における光利用効率(LUE)を算出した。針葉を2時間毎に 採取し、液体窒素で冷凍保存し、葉内色素分析に用いた。80%アセトンで抽出した葉内のキサントフィルをHPLCに よって定量し、次式からエポキシ化率(EPS)を算出した。EPS = (V+0.5A)/(V+A+Z) V,A,Z: ビオラキサンチン,アンテラキサンチン,ゼアキサンチンの濃度3. 結果と考察 カラマツ針葉のPRIは日中に低下する経時変化を示した。同様の日変動は、キサントフィルサイクルにおけるEPSや、光合成におけるΔF/Fm’、LUEにも認められ、それらとPRIとの関係を調査した結果、PRIとの間に有意な正の関係が認められた。特に、EPSとΔF/Fm’はPRIとの相関が非常に高かった。このことは、カラマツにおいてもPRIが強光下でのキサントフィル色素のエポキシ化・脱エポキシ化を反映していること、さらにPRIが強光照射に対応した光化学系IIの活性低下(活性調節)を評価する上で有効であることを示している。カラマツ針葉のPnとPRIの間には、有意な関係は認められなかった。この結果は、カラマツでは、PRIだけでは、直接的な針葉のCO2同化能力の評価が困難であることを示している。しかし、一方で、PnをPPFDで除したLUEとPRIの間に正の関係が得られたことから、地表観測で得られるPPFDを併用すれば、カラマツ針葉のCO2同化能力の評価にPRIが有効になると考えることができる。今後、広域の森林におけるモニタリングにおいて、リモートセンシングは有用なツールとなり得る。現在、光合成活性などの植物の生理機能を評価するために、多くの分光反射指標の開発・検討が行われているが、本研究では、PRIがカラマツの針葉の光合成活性(光利用効率)を評価する際に有効な 指標であることが明らかになった。
樹病
  • 亀山 統一, 元重 智治, 伊藤 俊輔
    セッションID: H03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    琉球列島のマングローブの重要な構成樹種の主要病害であるメヒルギ枝枯病の病徴進展・蔓延に影響する要因を明らかにするため、初期病徴形成すなわちシュート端壊死に着目し、病徴形成の季節変化、関与する菌類、激害林の水分環境について検討した。本病激害林である沖縄島北部の汀間川メヒルギ林では、初期病徴形成は調査期間を通じて観察されたが、春から初夏に多発し、健全なシュートは1-2年以内にほぼ全てが損傷を受けた。汀間川河川水の水温、pH、塩分濃度の定常変化は、他のマングローブでの計測値の範囲を逸脱するものではなかった。塩分濃度は満潮の冠水時には樹体上部と下部で大きく異なり、病患部での塩分ストレスの負荷に相違があった。同様に激害林分である名護市真喜屋大川メヒルギ林では、病患部組織から多様な菌類が分離され、その一部は接種試験で病原性を示した。一部の菌株は、本病病原の強病原性菌株に匹敵する病原性を示した。本病病原Cryphonectria likiuensis自身やこれら病原性を示す菌がシュート壊死を引き起こし、これを引き金にして本病が進展することが推測された。
  • 核磁気共鳴画像法(MRI)による経時的追跡
    黒田 慶子, 市原  優, 神原 芳行, 井上 敬, 小川 彰
    セッションID: H09
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    健全木のMRI画像では,水分を含む部位は白く見える.縦断面では木部全体が白っぽく見え,横断面では道管群が識別できた.接種1週間後には一部の個体で,接種部の上下各1cmの範囲がやや暗く見えた.水分が減少しており,菌の分布とともに通導阻害が起こっているものと推測した.8週間の経過観察では,通導停止範囲は接種部位の上下各2cmまで拡大し,その部位は完全に暗く見えた.対照試料では,接種部をはさんで約5mmの範囲がやや暗かった. T1強調画像では,水分が減少した部位が白く見えた.菌の影響による生成物の蓄積が画像で検出された可能性がある.
  • 前原 紀敏, 所 雅彦
    セッションID: H11
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    茨城県においてマツ材線虫病によって枯死したアカマツから、2002年に羽化脱出してきたマツノマダラカミキリ(以下マダラ)とヒゲナガモモブトカミキリ(以下モモブト)のマツノザイセンチュウ(以下線虫)保持数に影響する要因を調べた。マダラは多くの線虫を保持していたのに対し、モモブトはほとんど線虫を保持していなかった。また、マダラ種内でも、保持線虫数は大きくばらついた。保持線虫数に及ぼす蛹室周辺の甲虫由来の二次代謝産物と青変菌類の影響を考察する。
  • 軸丸 祥大, 富樫 一巳
    セッションID: H12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウ(以下ザイセンと省略)とマツに対して病原性を持たないニセマツノザイセンチュウ(以下ニセマツと省略)は同属の線虫であり,両者の生態は類似している。ザイセンが1900年代初頭に北米から我が国に侵入したと考えられているのに対して,ニセマツは土着の線虫である。ニセマツが分布していた地域にザイセンが侵入すると,材線虫病の激害化に伴いニセマツとザイセンの種の置換が起こることが知られている(Kishi, 1995)。しかしながら,この置換のメカニズムについてはほとんど研究がなされていない。
     演者らは第112回日本林学会大会において,マツノマダラカミキリ(以下マダラと省略)への2種線虫の乗り移りを比較し,マダラへの乗り移りの違いが種の置換のメカニズムの一つとして機能していることを示唆した。また,第113回大会において,第112回大会と同様の手法を用いてカラフトヒゲナガカミキリ(以下カラフトと省略)への2種線虫の乗り移りを比較し,マダラを用いた第112回大会の発表と同様の結果を得た。しかしながら,第113回の発表では全分散型線虫数(カラフト成虫に乗り移る可能性のあった線虫数)が第112回大会の半数以下であった。幼虫として供試してから成虫が脱出するまでの期間を比較すると,カラフトの場合,マダラよりも約3週間この期間が短い。この約3週間の間にマダラを用いた実験では線虫が増殖し,分散型の線虫が多数出現したと考えられる。そこで,本研究ではカラフト幼虫を接種する時期を前回の実験と比較して3週間遅らせ,十分に線虫を増殖させた状態でカラフト成虫への乗り移りに関する2種線虫の比較を行うことを目的に実験を行った。さらに,第112回大会の結果の追試のため,実験の一部にマダラ幼虫を供試した。
    Aikawa et al. (1997)の方法に従い,以下の方法で人為的に線虫を媒介昆虫に保持させた。2002年2月18日にアカマツ健全木(胸高直径約5cm)を伐倒後,長さ約7.5cmの小丸太を60個作成した。この小丸太の中央に直径約1cm,深さ約5cmの穴(模擬蛹室)を開けた後に,ポリカーボネイト製容器に移し,加圧滅菌した。滅菌後,小丸太に青変菌を接種し,25℃全暗の条件で培養した。培養開始から4週間後に20本の小丸太の模擬蛹室にザイセンを3,000頭接種した。線虫接種直後に,これらの模擬蛹室にマダラ幼虫を接種した(Ma-Bx区)。青変菌の培養開始から7週間後に残りの小丸太40本を二つのグループに分け,それぞれの模擬蛹室にザイセン(Bx区)もしくはニセマツ(Bm区)を3,000頭接種し,その直後にカラフト幼虫を接種した。媒介昆虫の接種後,容器を25℃全暗の条件に移動し,毎日成虫の脱出を調査した。成虫が脱出していた場合には,ただちに保持線虫数を調べ,同時に模擬蛹室の周辺の材を採取し,そこに残存する線虫数およびステージを調べた。
     統計的検定に先立ち,保持線虫数および全分散型線虫数は対数変換した。
     Bx区,Bm区およびMa-Bx区においてそれぞれ,12頭,15頭および8頭の成虫が脱出した。それぞれの処理区間で線虫接種から成虫脱出までの平均日数に有意差はなかった(Tukey-Kramerの多重比較, P>0.05)。
     Bx区,Bm区およびMa-Bx区から脱出した成虫の平均線虫保持数は,7,610 (SE=2,163),188 (SE=55)および14,020 (SE=5,109)であり,Bx区とBm区間およびMa-Bx区とBm区間に有意差があった(Tukey-Kramerの多重比較, P<0.05)。
     媒介成虫に乗り移る可能性のあった分散型線虫数を求めるため,保持線虫数に材内残存分散型線虫数を加えた。この全分散型線虫数の平均はBx区,Bm区およびMa-Bx区でそれぞれ,34,791 (SE=3,890),36,699 (SE=3,197)および30,811 (SE=6,885)であり,これらの平均値間に有意な差はなかった(Tukey-Kramerの多重比較, P>0.05)。
     本実験ではカラフト幼虫の接種時期をマダラ幼虫よりも3週間遅らせることで,BxおよびBm区においてMa-Bx区と同程度の分散型線虫数が確認された。全分散型線虫数に処理区間で違いがなかったにも関わらず,保持線虫数はBm区よりもBx区およびMa-Bx区の方が有意に多かった。今回の結果はマダラを用いた第112回大会の実験と同様の傾向を示し,2種線虫が媒介昆虫によって枯死木から持ち出される確率の違いが2種線虫の置換に関連している可能性が,カラフトを用いた今回の実験からも示唆された。
  • 真宮 靖治
    セッションID: H13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    マツノザイセンチュウのマツ樹体内における生息実態については、樹体の病状進展経過や枯死後の時間的経過との関連で、とくにその個体数変動が明らかにされてきた。マツの発病後30日前後で、樹体内の線虫個体数はピークに達したあと減少する。このような変動傾向について、マツノザイセンチュウのマツ樹体内における摂食行動との関連が予想された。また、個体数の変動には菌類の影響も考えられた。これらの視点に立って、マツ丸太に対するマツノザイセンチュウの接種実験を行った。伐倒直後丸太に対する接種、伐倒後1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月をそれぞれ経過した丸太に対する接種、の4処理区を設定し、各区5本ずつの丸太を供試した。線虫接種後、経時的に各処理区丸太から材片を採取して線虫分離を行った。接種後、マツノザイセンチュウは丸太材内で増殖し、1ヵ月後に個体数増加のピークに達したあと減少していった。このような個体数変動の傾向は各処理区で共通していた。伐倒後の時間経過は線虫増殖に明らかな影響を及ぼした。伐倒直後に比べ、1ヶ月以上経過後、線虫接種した丸太では、線虫個体数は少なかった。とくに、3ヶ月経過後接種の処理区では、線虫はほとんど増殖しなかった。このような増殖経過から、マツノザイセンチュウはより新鮮なマツ材組織での増殖が有利であり、この場合、柔細胞などのマツ材組織を主要な食餌源としている可能性が示唆された。伐倒直後の丸太に線虫を接種したあと1ヶ月経過した丸太に対して、ヒラタケとシイタケをそれぞれ接種する区を設定し、丸太材内における線虫増殖経過を追った。ヒラタケを接種した丸太では、線虫個体数が減少した。シイタケ接種の影響は見られなかった。ヒラタケが示した線虫個体数抑制効果は、自然条件下、マツ枯死木材内での線虫個体数変動における、木材腐朽菌をはじめとする各種微生物の影響を示唆した。
  • 浅井 英一郎, 原 直樹, 二井 一禎
    セッションID: H14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     大気汚染が森林生態系に与える様々な影響の中で、植物病原体間の相互作用に与える影響についてはこれまであまり明らかになっていない。マツノザイセンチュウ(以下Bxと略す)によって引き起こされるマツ材線虫病は、日本各地のマツ林に劇害をもたらしている深刻な樹病であり、その感染・発病・枯死のメカニズムに関しては過去30年にわたる多くの研究の蓄積がある。そこで演者らは多くの大気汚染物質の中から酸性雨を選び、人工酸性雨の散布処理がマツ材線虫病の進展に与える影響についてこれまでにいくつかの研究を行ってきた。ところで、野外におけるマツノザイセンチュウの病原性には同一林分内でも大きな変異が見られることが知られている。これら病原性の異なる各系統のうち、強病原性系統のBxと宿主マツとの間の関係はEpidemic(流行病的) であるのに対し、健全なマツに対してほとんど病原力を持たない弱病原性系統のBxは宿主マツとの間に Endemic(土着病的) な関係を保持していると考えられる。演者らは昨年の本大会発表で、pH 3 の人工酸性雨処理は、強病原性Bxと同様に弱病原性Bxの樹体内増殖を促進するが、弱病原性Bxの場合は強病原性Bxと異なり、酸性雨処理による線虫の増殖促進作用が枯死率の増加に結びつかないことを明らかにした。このことを踏まえ、Bxと近縁の日本原産種であるニセマツノザイセンチュウ(以下Bmと略す)に対しても、酸性雨処理によって線虫の増殖が促進されるかどうかを調べるとともに、これら病原力の弱い線虫による感染が、酸性雨処理を行った場合と行わなかった場合の苗の組織にどのような影響を与えているかを組織化学的に明らかにしようと試みた。
     2001年5月30日に播種を行い、その後温室で1年間育成したクロマツ実生苗400本を実験に供試した。実生苗の半数に対し、pH 3 の人工酸性雨 (SAR, 硫酸のみ)を、2003年6月25日から同年8月29日まで週3回霧吹きで処理した。残り半数の苗には対照区として同量の蒸留水を与えた。2003年8月30日に2つの処理区から任意に選んだ168本の実生を3等分し(各56本)、それぞれの処理区に対し、強病原性 (S10)、弱病原性 (C14-5) 系統のBx、またはBmを実生1本あたり 320頭/20 μL の密度で接種した。各処理区から同じく任意に選んだ10本の実生苗には対照として 20 μL の水道水を接種した。線虫接種から24時間後に、各処理区からランダムに10本の苗を選んでベールマン法により線虫を分離・計数し、pH 3 の人工酸性雨処理が3系統の線虫の樹体内への侵入にどう影響するのかを調べた。また、接種後4、7、35日目に接種点から垂直下向きに長さ1cm のセグメントを4つサンプリングし、接種点を含む1cm とそこから1cm 離れたセグメントの2つについてベールマン法による線虫の計数を行った。残り2つのセグメントはホルマリン・カルシウム液で固定した。この固定試料よりミクロトームを用いて厚さ 25 μm の柾目切片を作成し、ナイルブルーによる染色を行ったあと光学顕微鏡で観察した。これらの実験と並行して、線虫接種から7日目以降、2日おきに苗の枯死率を観察した。
     線虫接種から24時間後の線虫侵入数は酸性雨処理の有無に関係なく、強病原性Bxで他の2系統と比べて有意に多くなっていた。ナイルブルーによる組織内染色については、酸性雨処理の有無、あるいは線虫の系統間で違いがみられなかったが、接種後1週間目の樹体内線虫数は、3種類の線虫とも、pH 3 のSAR処理区で対照区と比べて増加していた。pH 3 のSARは強病原性線虫を接種した苗の枯死速度を増加させたが、弱病原性線虫やニセマツを接種した苗の枯死速度は酸性雨処理によりほとんど影響を受けなかった。なお、水道水接種苗はすべて実験終了 (接種から8週間後) まで生き残った。今回の実験結果から、pH 3 の人工酸性雨はBmに対しても線虫の増殖を促進する効果があることが確認された。
  • マツノザイセンチュウの病原力との関係
    相川 拓也, 小坂 肇, 菊地 泰生
    セッションID: H15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    一昨年,我々は病原力の強いマツノザイセンチュウ(以後線虫と略する)アイソレイトと病原力の弱いアイソレイトを用いて,4年生クロマツに対する接種試験を行った。その試験において,線虫を接種したにもかかわらず,昨年の3月になっても全く枯死木が発生せず,マツ樹体内からも全く線虫が検出されない処理区が2つ存在した(処理区__丸1__:7月に弱病原力アイソレイトのみを接種。処理区__丸2__:7月に弱病原力アイソレイトを接種後,8月に強病原力アイソレイト接種)。そこで我々は,これら枯死しなかったマツを伐倒後25℃の条件下で2ヶ月据え置いて,線虫の有無を再確認するとともに,線虫が検出された場合はPCR-RFLP法により,線虫の病原力タイプを解析した。処理区__丸1__の丸太からは全く線虫は検出されなかったが,処理区__丸2__のすべての丸太から線虫が検出された。これらの線虫をPCR-RFLP法で解析したところ,すべて強病原力アイソレイトタイプであった。この結果から,病原力の強いアイソレイトは健全木内でも潜在的に生息が可能であることが示唆された。今回の調査では弱病原力アイソレイトタイプの線虫は全く検出されなかったが,一昨年の調査では,弱病原力アイソレイトも約1ヶ月間は健全木内で生息していることが確認されていることから,病原力の弱い線虫は病原力の強い線虫よりも健全木内で生育できる期間が短いものと考えられた。
  • 西垣 眞太郎, 熊澤 孝一
    セッションID: H18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    マツ材線虫病の発病機構について、マツノザイセンチュウの増殖が根系で先行することが知られている。このことは樹体異常が根系で先行して起こっているかも知れないことを意味する。今回、根系を含めた樹体の含水率について、マツノザイセンチュウ接種後からの経過を調査した。あわせて、ザイセンチュウの検出、樹脂浸出調査も行った。その結果、樹脂異常が観察される以前、接種後2週間後には根系の含水率の急激な低下が観察された。幹部の含水率低下はわずかであり、その後樹脂異常が観察されるようになった。マツノザイセンチュウの増殖はまたその後、根系から始まった。これらのことからまず根系に何らかの異常が始まり、含水率が低下、このことにより幹部への水分通導が停滞し、キャピテーションへの引き金になると考えられた。
  • 原 直樹, 二井 一禎
    セッションID: H20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    マツ材線虫病の発病過程において宿主が示す反応としては、柔細胞の変性やタンニンの増加、脂質の過酸化などが一般に知られている。これらの反応については、病原体の侵入に対する宿主の積極的な防御反応であるとする仮説(二井 1984)や、過敏感反応や過敏感細胞死と関連づけた仮説(Myers 1984, Iwahori and Futai 1993) が過去に提唱されている。近年、過敏感細胞死は遺伝的プログラムにのっとった自殺(動物細胞でいうアポトーシス様のもの)であると考えられるようになってきた (Lam et al. 2001)。このことから、もし上記の仮説が正しければ、本病に感染した宿主組織の細胞においても、アポトーシス様の変化が起こるものと推測される。そこで本研究では、マツノザイセンチュウを接種したマツ苗の組織において、アポトーシス様の反応が見られるかどうかを組織学的に調べた。2002 年6月28日、京都大学大学院農学研究科構内のガラス温室において、3年生クロマツ鉢植え苗 20 本にマツノザイセンチュウ強病原性系統 (S10) を、他の 20 本にマツノザイセンチュウ弱病原性系統 (C14-5) を、それぞれ苗1本あたり 5000 頭接種した。残りの 20 本には対照として蒸留水を接種した。接種点は1年生主軸の一番上の部分である。接種から7日目、14 日目、21 日目、28 日目の計4回にわたって、各処理区5本の苗について、接種点付近と、主幹の地際基部から各3__cm__のセグメントを採取した。採取した試料を軸方向に2分割し、一方からベールマン法により線虫を分離・計数し、他方をホルマリン・カルシウム液でそれぞれ固定した。固定試料より、スライディングミクロトームを用いて厚さ 25 オm の柾目切片を作成した。これらの切片をチオフラビン T で染色し、蛍光顕微鏡により観察を行った。以下に結果を述べる。まず線虫数についてであるが、 S 10 接種苗については、線虫接種後7日目では、接種点、および主幹基部にみられる線虫は少数にとどまっていたが、接種後 14 日目になると、接種点付近で線虫の顕著な増殖がみられ、また主幹基部の線虫数も接種後7日目と比較して増加していた。さらに接種後 21 日目以降になると、主幹基部においても線虫の顕著な増殖がみられた。これに対して、C 14-5 接種苗においては、接種点、主幹基部ともに、少数の線虫の存在は確認されたものの、実験期間を通じて線虫の顕著な増殖は認められなかった。組織観察の結果については以下の通りである。接種後1週間目には、S 10 接種苗、C 14-5 接種苗ともに、接種点付近および主幹基部の柔細胞が青色の蛍光を示していた。接種後2週間目になると、S 10 接種苗では接種点付近、主幹基部ともに柔細胞が黄色の蛍光を示したのに対し、C 14-5 接種苗では接種点付近で柔細胞が白色もしくは黄色の蛍光を示していたものの、主幹基部ではほとんどの柔細胞が青色の蛍光を示していた。接種後3週間目および4週間目については、S 10 接種苗では接種点付近、主幹基部ともにほとんどの柔細胞で蛍光がみられなくなったのに対し、C 14-5 接種苗では接種点付近で柔細胞が白色もしくは黄色の蛍光を示し、主幹基部では柔細胞の一部が白色から黄色の蛍光を示すにとどまった。マツ材線虫病に感染した宿主においては、様々な組織学的、生理学的反応が起こることがこれまで報告されている。しかし、これらの反応と、宿主の枯死との関連性については不明な点が数多く残されている。もし、これらの反応が病原体(=マツノザイセンチュウ)に対する植物側の防御機構によるものであれば、防御反応に狂いが生じた結果、病原体の作用を抑制するうえで十分に機能していない、あるいはこれらの防御反応自体が植物体にとってダメージとなるために、最終的な枯死が引き起こされるのではないか、と考えられる(二井 1984, Myers 1988)。チオフラビンT はアミロイドの検出に用いられる染色剤であるが、動物組織においてはこのアミロイドの蓄積が、神経細胞においてアポトーシスを引き起こさせる要因ではないかと考えられている。本研究において、マツノザイセンチュウを接種した苗では、 チオフラビンT の陽性反応が接種点から離れた主幹基部においてもみられた。このことから、マツ材線虫病に感染した宿主では、樹体内の広い範囲で柔細胞が防御反応としてアポトーシス様の変化を示し、その結果柔細胞が変性し、細胞内容物の漏出が引き起こされる、という可能性が示唆される。今後はマツノザイセンチュウに感染した宿主についてアポトーシスの定量的な分析を行うとともに、他の様々な反応との関連性について、また、このような反応の起点となる感染初期の病理学的、生理学的変化について研究する必要がある。
  • 竹内 祐子, 神崎 菜摘, 二井 一禎
    セッションID: H21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 目的マツ材線虫病は日本最大の森林病害の1つであり、病原体であるマツノザイセンチュウが同定されて以来様々な角度から研究が進められてきた。本病に感染したマツ類樹木はテルペン類等の特徴的な揮発性物質を放出することが知られている。室内実験の結果から、これらの物質が同病を媒介するマツノマダラカミキリに対して誘引活性を有することや、マツ類樹体内で病徴進展に関与する可能性が指摘されてきた。しかしながら、実際のマツ材線虫病被害林分内におけるこれら揮発性物質の発生の実態についてはこれまでに報告例が少なく、その捕集・分析及び評価方法も確立されていない。本研究では、数年前よりマツ材線虫病による枯損被害が発生しているクロマツ林分で調査を行い、林分内で捕集した揮発性物質の質的及び量的評価を行った。2. 調査方法2001年5月、鳥取大学乾燥地研究センター内のクロマツ林分において樹脂分泌調査を行い、その結果から成木11個体(樹脂分泌異常木6個体・正常木5個体)を選抜して調査対象木とした。揮発性物質の吸着剤を充填したガラス製チューブをミニポンプに装着したものを各調査個体の樹幹に取り付け、流速50 ml/minで2時間にわたり気体を捕集した。このサンプルをGC-MSで分析し、捕集気体中に含まれる物質を評価した。気体捕集は毎月1回2001年5月から同年10月まで計6回行った。また、2001年11月と2002年5月には調査対象木の生理状態を判断するため樹脂分泌調査を行った。なお、2001年5月、11月の樹脂調査結果より各調査個体を健全木(いずれの調査時にも正常な樹脂分泌が認められた個体)、異常木(5月には正常だったが11月には樹脂を分泌していなかった個体)、枯死木(5月の調査時に既に樹脂分泌が認められなかった個体)の3つにグループ分けして考察した。  3. 結果及び考察本調査の結果から、これまでにもマツ類からの放出が報告されているα-pinene、β-pinene、camphene等のモノテルペンやjunipene等のセスキテルペンに加えてphenolやbenzaldehyde等の存在が認められ、実際の松枯れ被害林分内にあるクロマツ個体からも病徴の有無に関わらずテルペン類をはじめとする多様な揮発性物質が放出されていることが確認された。そのうち、phenolやbenzaldehydeのように調査期間中に枯死した個体を含め全個体で同一の変動傾向を示したものもあったが、それらの放出量は高温、乾燥等の環境ストレスが大きくなる夏季には枯死木で最も多く、以下異常木、健全木の順に少なくなっていた。これはマツ樹体表面のマツノマダラカミキリによる後食痕及び産卵痕からの樹体内揮発性物質の漏出によるものと考えられる。一方、各個体より放出されていたテルペン類の種類数及び個々の放出量が同病発病個体では顕著に多くなっていることも確認された。テルペン類物質の中には枯死木のみで放出されているものや、全個体で放出されてはいても枯死木からの放出量が極めて多いものが多数検出された。各調査クロマツ個体に注目すると、調査期間中のある時期に複数のテルペン類物質に関して顕著な放出量のピークを示した1個体は調査終了時に枯死していた。また、それよりも1ヶ月遅れて同様のピークを示した個体は調査終了時、すなわち2001年11月末には樹脂を正常に分泌していたが翌年5月には既に発病していた。この時期はマツ材線虫病の感染シーズン前であり、同個体は前年に感染していながら外部病徴を示さなかったいわゆる年越し枯れ個体であったことが推測される。以上の結果から、樹体表面からの揮発性物質の放出様式によってマツ材線虫病に感染したマツ類個体を従来の樹脂分泌調査よりも早い段階で特定することが可能であり、この手法がマツ枯れ防除の観点から有効な診断法となり得ることを提言する。
風致
  • 国立公園大山・蒜山地区を事例に
    伊藤 みゆき, 横山 智彦, 川村 誠
    セッションID: I01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 目的
     キャンプ活動そのものは、元々長距離移動に伴う必要不可欠な生活行動であった。近年、レクリエーション利用としてのキャンプの普及により、家族中心のキャンプが増え、設備面ではオートキャンプの整備が急速に広まった。現代のキャンプは、教育キャンプのように1日をスケジュールに追われて過ごすキャンプとは異なると考えられる。本研究は、国立公園大山を事例に、キャンプ場での滞在者の時間別行動に着目し、自然公園における現在のキャンプ特性を明らかにしようとした。
    2. 調査地概要
    中国地方の最高峰、大山(1709__メートル__)を擁する国立公園大山地区は、1936(昭和11)年に公園指定され、63(昭和38)年には蒜山地区、隠岐島、島根半島、三瓶地区の追加指定を受けて、公園名も大山隠岐国立公園と改称された。 大山・蒜山地区には現在14ヶ所のキャンプ場がある。その中でも比較的規模が大きく、利用人数も多い、3ヶ所を調査対象地とした。1)下山キャンプ場:大山登山口や大山寺に近い。600人まで収容でき、一般キャンプのみである。2)鏡ヶ成キャンプ場:大山、蒜山の中間に位置する。1000人まで収容でき、調査時は一般キャンプのみだった。3)蒜山高原キャンプ場:蒜山高原に位置するオートキャンプ場である。700人まで収容できる。
    3. 方法
     各キャンプ場利用者を対象に、アンケート調査を行った。調査票を元に直接聞き取り調査を行い、利用者の情報(年齢、グループ、地域、宿泊数、キャンプ経験回数等)に加えて、キャンプ場の到着から出発までの行動を時間ごとに記録した。
    4. 結果
     (1)各キャンプ場利用者の情報アンケート調査から各キャンプ場利用者の情報をまとめた。利用者全体を居住地別でみると大阪・兵庫が最も多く(41%)、ついで岡山・広島(28%)、鳥取(14%)となった。また、全体の71%が家族連れだった。
     (2)行動特性
     滞在中の行動内容は「食事時間」・「自然体験」をはじめを8種類に区分された。1日の時間毎にみたキャンプ場別・個別利用者別の行動内容からの行動表を作成した。
     行動表の内容から各キャンプ場の利用者を、__I__「キャンプ場満喫型」、__II__「外出重視型」、__III__「寄り道型」、__IV__「登山型」の4つにタイプ分けを行い、さらに、各タイプ毎にその代表的な個別利用者の行動表を示した。
     __I__:キャンプ場到着から出発まで、徒歩圏内の外出行動はあるが、家族で虫捕りをするなど、キャンプ場内の行動が多くの時間を占める。出発後は直接帰宅する。
     __II__:キャンプ場到着から夕食前までレクリエーション施設などへ向け車で外出し、その後は出発までキャンプ場内で行動する。連泊の場合は、2日目に外出行動が多くみられる。
     __III__:キャンプ中はキャンプ場内で行動し、到着前、出発後に外出行動をする。特に連泊の場合、キャンプは「旅の途中の宿」として位置付けられている。
     __IV__:登山目的で泊まり、キャンプ場到着時間は遅い。食事はレトルト食品を利用するなどキャンプのための簡単なメニューで済ませることが多い。連泊の場合は2日目に登山する利用者が多い。登山以外の時間は、キャンプ場の行動に重点を置く利用者と外出行動に重点を置く利用者に分かれる。また、単独のキャンプが多いのもこのタイプの特徴である。
    3)行動タイプとキャンプ場特性
     キャンプ場別に行動タイプと宿泊数のクロス集計を行った。「下山」では1泊、連泊とも__IV__が多い。「鏡ヶ成」では__I__、「蒜山高原」では__II__、__III__が多い。なお、連泊利用者ほど「外出重視型」が多くなる。
    5. まとめ
     大山・蒜山地区のキャンプも、家族キャンプに傾いている。登山のように目的が明確な場合を除くと、キャンプ場を楽しむ「満喫型」と、キャンプを宿泊場所として周辺に出向く「外出型」に分かれる。何れも、積極的な自然体験を求めるよりもキャンプ場ではのんびり過ごす時間が多い。このことが自然公園のキャンプ場整備を、水場やトイレ施設の高度化やオートキャンプへの転換に走らせている。
  • 国立公園大山地区を事例に
    船引 大輔, 川村 誠
    セッションID: I02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的
    登山は自然公園の代表的な利用形態である。近年、中高年登山者の急増による事故の多発や、百名山ブームによる一部の山への利用集中による、登山道の荒廃が起きている。その結果人工物で固められた登山道が増え、一方では施工に対する批判があがっている。自然公園における利用者への安全確保と自然保全の両立は重要な課題である。そこで本研究は、自然公園管理の可能性を探るために登山利用者の変化を明らかにしたい。
    2.調査地概要
    調査対象地は、鳥取県に位置する大山隠岐国立公園の中心にあたる大山地区である。中国地方の最高峰大山(1709m)を擁し、年間を通じて登山などに利用されている。相次ぐ登山道の崩壊により、かつては4本あった山頂への登山道は現在は「夏山登山道」一本である。そのために登山者が集中し侵食が進み、毎年、木道、丸太階段、蛇籠による維持管理が行われている。
    1981年から2001年において、鳥取県が調査した大山地区への入込み者数と、米子警察署が管理している登山届を示した(図__-__1)。登山届は登山者が自主的に記入するものである。記入しない登山者もいるため実際の登山者数はこのデータより多い。
     3.調査方法
    登山者の変化をみるため1992年と2001年に実施したアンケートから共通の質問項目を用い比較した。
    アンケートは1992年、2001年ともにすべて大山山頂において登山者を対象として行ったものである。
    1992年調査は8月15日10__から__14時に実施。115部を回収した。また2001年の調査では、8月12日11__から__13時、および15日11時__から__13時に実施。99部を回収した。
    登山者の属性をみるため、1992年の調査と2001年の調査において比較したアンケート項目を次に示す。__丸1__性別、__丸2__年齢、__丸3__職業、__丸4__居住地、__丸5__グループ、__丸6__交通手段、__丸7__日程、__丸8__登山コース、__丸9__登山キャリアである。
    4.結果
    __I__ 年代別構成 
    年代を比較すると、50代が6.1%から25.3%へと増加した(表__-__1,2)。
    __II__ 居住地別構成
     登山者の居住地を比較すると鳥取県からの登山者は24.4%から12.1%へ減少した。
    __III__ グループ別構成
    グループを比較すると、1992年、2001年とも家族による登山が最も多い(表__-__3,4)。
    __IV__ 登山キャリア
    登山者の登山キャリアを比較すると、1992年、2001年ともに、過去5年以上毎年登山をしている経験者と、過去1__から__2回登ったことのある層が中心である。
    5.まとめ
    (鈴木・川村,1994)は大山の登山行動について1992年の大山における現代的な登山の特徴は、「家族登山」といえる。と報告している。2001年においても同様の特徴がみられた。さらに登山者の年齢層の中心が中高年へと変化した。
    様々な登山者が混在する大山登山の管理の可能性は、登山利用者自身にあるといえるのではないか。
    引用文献
    鈴木美智子・川村誠(1994)自然公園におけるレクリエーション行動の研究(__I__)大山国立公園の登山行動.鳥大演研報22:83-114.
  • -茅葺き民宿宿泊者を対象として-
    岩松 文代
    セッションID: I03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    山村の民家は、森林とともに山村景観の重要な構成要素である。近年では、政策論調や調査において、茅葺き民家は農山漁村の地域文化であると認識されるようになってきている。また都市住民の関心も高まってきている。メディアをみると、茅葺き民家のある風景は、原風景、心のふるさと、懐かしいという郷愁を意味する言葉で表現されることがきわめて多い。そこで、本研究では、山村の茅葺き民家と都市の人々の郷愁感情がどのようにつながっているのかを探るために、茅葺き民宿の宿泊者を調査対象として、茅葺き民家に対する観光者の郷愁感情について考察することを目的とした。調査方法は、山形県(民宿A)、福島県(民宿B、C、D)、京都府(民宿E)にある5軒の茅葺き民宿を対象に、2002年7、8月に宿泊し、経営者に対して宿泊者の反応等に関する聞き取りを行った。さらに、9-10月中の約1ヶ月間、宿泊者にアンケート調査を行った(民宿Aから順に回収数は、27、38、35、74、57票で、5民宿合計で回収数231票/配布数270票、回収率86%)。配布は経営者から宿泊者への手渡し、回収は宿泊者個人からの郵送返却(1軒は経営者から返送)とした。調査民宿はすべて山間地域にあり、A、B、Cは集落内で唯一の居住する茅葺き民家、D、Eは茅葺き民家が密集する伝建地区内にある。A、B、C、Dは経営者が同居、Eは移築民家を周辺の住民が運営している。経営者によると、近年の宿泊者は高齢の夫婦が増加傾向にあるという。アンケート回答者の属性は、89%がその宿への宿泊は初めてであるが、「古い家」を目的に宿を選択した経験がある人は46%と多い。回答者にとっての「山村」のイメージは、12項目の選択肢の中で「原風景・ふるさと」が圧倒的に多い(第3位まで順位付け、36%が第1位に選択した)。他項目はばらつきがあり、「田舎・ひな(鄙)」、「自然・野生動植物」、「過疎・高齢化」と続く。こうしたイメージは「生まれ育ったところ」の影響という回答(選択式)が最も多い。民宿の選択理由は「茅葺き屋根」、「古民家」だからというのが大きい。そして、建物に対して好感を持った点(外観、部屋、建築部分、感覚的要素)に対しては、これらが自分の昔の生活や体験と何らかの関係を持つ人(60%)と、ほとんど関係していない人(37%)に分かれた。また、回答者は、茅葺き民家の「伝統・古さ」、「たくみな技術」、「懐かしさ」に心を動かされるとしており、茅葺き民家の魅力は郷愁だけではないといえる。回答者が懐かしいと感じた対象は、民宿の建築や環境の特徴によるが、伝統的な建築様式や時代を経た姿、山村特有の雰囲気などがあげられている。これらを懐かしいと感じた理由は、過去に接した民家と結びつくものが多い。茅葺き民家で生まれ育った人(12%)だけではなく、茅葺き屋根以外の古い家で生まれ育った人(28%)や住んだことはないが古い家に住む親戚を訪問したことのある人(33%)も、自分の体験と関連させて各自が茅葺き民家に郷愁を感じている。そして、高年齢層(50才代以上)は主に自分の生家の記憶、中年齢層(30-40才代)は祖父母の家の記憶などと関連づけられ、これらは体験的な懐かしさである。若年齢層(20-30才代)は、理由は分からないが懐かしい、(懐かしいとは感じないが)心が落ち着くという。そして全体的に、茅葺き民家は古き良き日本、日本古来の文化の香り、といった「日本」という概念で表現される。この民宿の建物は「まさに日本のふるさとだと思う」という回答(選択式)は34%にのぼる。以上のように、観光者は、茅葺き民家に対して明らかに郷愁感情を持っている。その性質は体験的、非体験的なものに分けられ、年齢層が下がるごとに郷愁を感じる対象と実体験との関係が薄れていく過程がみられる。体験的な郷愁感情を味わうということは、茅葺き民家は過去の記憶を呼び覚ますということを示す。一方、非体験的な郷愁感情としては、若者にとっての新たな感情がみられること、また、失われていく茅葺き民家を懐かしい「日本」と受けとめる感情があることが示唆された。(本研究は、「旅の文化研究所」公募研究プロジェクトの助成によるものです。)
  • 札幌市のシンボル樹木に関して
    久保 文香
    セッションID: I04
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    近年、都市の樹木保全の重要性が認識され、法律・条例に基づく緑地や樹木の保全制度が整備されてきたが、都市の道路沿いには、道路整備や区画整理によって、沿道の土地からはみ出した樹木(路傍樹)が多く存在する。路傍樹の研究はわずかであり、大阪市を事例として、路傍樹の多くが神木として祀られ、史跡となっている事が報告されている。このように、路傍樹には、巨木や歴史的由緒あるもの、地域のシンボルとなっているものなどが含まれ、歴史性を伝える面から保全が重要だと言える。しかし、札幌市では、放置されてきた路傍樹が巨木となり、交通障害や倒木の危険性から問題となっていた。そのような中で、1995年に路傍樹のうち巨木を「シンボル樹木」に指定し、保全する方針を決定した。そこで、本研究では、指定後7年を経た「シンボル樹木」の現況と住民の管理への関わりを踏まえて、この制度の課題を明らかにし、都市の巨木の保全・管理に関し、行政と住民のあり方を考察する事を目的とする。調査地は、札幌市の中でも「シンボル樹木」の本数が最も多い中央区とした。札幌市緑化推進部、中央区土木部、樹木医などに聞き取りを行うと共に、札幌市「シンボル樹木台帳」に基づき現地踏査を行い、制度の内容と樹木の現況を把握した。また、隣接住民への聞き取りによって、住民の管理への関わりや保全の意向などを明らかにした。現地踏査から、中央区の「シンボル樹木」は、2002年10月の時点で170本存在しており、樹齢の高い巨木が民家や民間ビル、行政施設や公園の周囲に多く存在していた。「シンボル樹木」は、老朽化による倒木の危険性から、樹木医の診断を基に管理が行われ、札幌市は「危険木」は伐採する方針でいる事が分った。民家19戸の周辺に生育する43本中、17本に関して13戸に聞き取り調査を行った。民家の周囲の「シンボル樹木」は、庭木であったことが推測される。住民が管理に関わったことがあると予想し、管理者と所有者に関して、住民の認識を伺った。その結果、自ら管理を行っている住民は、「シンボル樹木」を所有している認識でいることが分った。また、居住年が長い住民の方が、管理に関わっており、保全の意向に関しても積極的な態度を示していた。そこで、民家13戸の傾向を3つに分類し、自ら管理を行っている民家5戸を__丸1__積極型、札幌市が管理を行っており、管理に関わっていない民家5戸を__丸2__消極型、管理は行っていないが保全に積極的な民家3戸を__丸3__中庸型とした。__丸1__では、「シンボル樹木」に対して愛着を持つ人物が、管理を行い、保全に貢献してきたことが特徴であるが、世代交代によって、管理者が亡くなり、管理に手が行き届かなくなるという懸念がある。__丸2__では、枝や落ち葉を邪魔に思っており、樹木に対して愛着を持っていない住民が多い。__丸3__では、住民が落ち葉やゴミの投棄に悩まされながらも、ある程度「シンボル樹木」に対して親しみを持っており、住民の生活の一部として樹木が受けいれられてきたといえる。札幌市では、「危険木」を伐採する方針だが、その決定がなされた際に、特に__丸1__の住民と行政の意見が対立し、問題が生じる可能性が高いと言える。制度の課題として、次の3点が挙げられる。第一に、この制度の内容が住民に伝わっていない。伐採に関して住民との対立が生じた場合を想定し、所有や伐採方針を住民に伝え、事前に住民と行政の対話をすることが望ましい。第二に、伐採決定が樹木医による診断評価に一存し、住民の意見が反映される場がない。伐採が決定した後、愛着を持って管理を行っている住民の感情を、行政がどのように汲み取っていくのかを、住民との議論の場を設けて、検討する必要がある。第三に、現行制度下では、新たに生じた路傍樹が「シンボル樹木」として認知されることはない。「シンボル樹木」と他の路傍樹の違いは、樹木医による診断対象となるか否か、に過ぎず、管理責任の所在を示しただけの制度と捉える事ができる。総じて、「シンボル樹木」の管理に関して、住民と行政の対話の少なさが目立つ。都市緑化の観点から見ると、路傍樹を保全する制度としては、「シンボル樹木」は不十分であるといえる。「シンボル樹木」を都市緑化対策として、地域に根差した制度に位置づけるためには、住民と行政の対話を進める事が最も重要だといえる。
  • 奥 敬一, 深町 加津枝, 大住 克博
    セッションID: I07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに 「風致施業」が,伐採跡を目立たなくする,あるいは見えない場所で伐採するという「隠す」風致施業ではなく,より積極的に森林景観を向上させる「見せる」あるいは「魅せる」風致施業を目指すべきであるという指摘は,1970年代後半から現れ始めた。その後,四半世紀の間に森林を取り巻く情勢は大きく変化したが,日常・非日常の風景としての森林の重要性についての認識は深まっており,森林の持っている美しさを効果的に発揮させる施業技術に対する期待は,一層高まっているといえる。 本論では,主に1970年代以降の資料をもとに,研究と実践の場から,「見せる風致施業」に関連して得られた知見,語られてきたこと,そして充分に議論されてこなかった事柄を整理することを目的としている。したがって,対象とした資料は国内の事例に限り,等高線伐採や不可視域での伐区設計といった事例は除いた。2.資料 レビューの対象とした資料は,学術雑誌として日林誌,日林論,各支部会誌,森林計画学会誌,造園雑誌(ランドスケープ研究)などのほか,各大学紀要・報告,日林学術講要,林業技術誌,地域林試報告,営林局(森林管理局)業務研究報告,主要な単行書であり,森林総合研究所の森林・林業関連文献データベースである「Folis」による検索を中心に抽出した。とくに現場での実践事例報告の収集はFolisによる検索に大部分を依拠した。3.結果と考察森林景観の評価については多くの研究が積み重ねられてきている。とくにSD法を中心としたイメージ研究の蓄積により,景観を評価するための多元的な尺度の構成に関して多くの知見が得られている。また,森林の物理的な構造と,景観あるいは空間利用上の好ましさを結びつけて指標化を試みた研究も多く存在し,さらにイメージと物理的指標とを関連づけようとした報告も見られた。一方,実践事例において大きな比重を占めるのは,密度管理によって森林風致の形成を試みた事例である。これには間伐を通して人工林や広葉樹二次林を風景的に向上させようとするものが含まれる。また,既存の人工林を天然林型に誘導したり,風致樹の導入を行った事例も比較的多く見られた。研究,実践ともに一定の知見の積み重ねは進んでいるものの,この間,双方の知見を積極的に統合しようとする試みは充分になされたとはいえない。とくに,森林景観のイメージに関連する多元的な評価軸と,施業・管理に利用できる物理指標との関連の整理は,立木密度に関するものを除けばわずかである。逆に,実践事例に関しては実施の前後およびその後の経過に対するイメージ評価が十分でないため,将来の風致施業技術のための貴重な情報が見過ごされている可能性がある。また,風致施業として提案されてきた技術の,生態,造林技術的観点からの検討にも,いまだ多くの余地が残されている。「見せる風致施業」は,まだ多くの範例を必要としている。現地での施業の適用にはそのためのモデルとなる森林の存在が重要であり,評価研究を通したそうしたモデルの発見と,施業の試行から時間を経過した林分を検証可能なモデルとしてモニタリングしていくことが,今後の風致施業の展開にとって,重要なキーとなるだろう。
  • 高梨 武彦
    セッションID: I10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    都市周辺林は森林レクリエーションに最適な立地にありその意義は大きい。しかし、これら森林の多くが無管理のまま放置されている場合が見受けられる。近年、自治体や市民が森林整備を実行しはじめている。整備は木材生産や農用林のための施業ではなく、林内を散策するなど森林レクリエーションを考えて行なわれている。これまでに森林風致施業のためにha当たり本数や林床植生高や見通し距離などが報告されているが、具体的な立木の取り扱い(伐採木・保残木の選定など)判断が重要であるにもかかわらず、明解にされていない。無保育人工林で森林風致施業を実施するにあたっての数値指標として「枝下空間量」を仮説として提案した。枝下空間量(㎥/本)は平均枝下高×単位面積(100__m2__)÷本数で求める。枝下空間量を樹冠疎密度とセットで示すことによって、目標林型の明るさや見通しをもった林分構造のha当たり本数や枝下高の指示に有効であると考えた。
動物
  • 高尾 悦子, 丸田 恭平, 曽根 晃一, 畑 邦彦, 佐藤 嘉一, 中村 克典
    セッションID: I12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに鹿児島県桜島では、マツ材線虫病による被害は周囲に比べてごく少なく、集団的な枯損はほとんど見られなかった。しかし、被害は1997年から急激に増加し、2000年以降全島に拡大してきている。桜島で行われた生け捕り型トラップによる調査から、マツノマダラカミキリ(以下、カミキリ)の捕獲数とトラップ周辺のマツの枯損程度には関係があることが示唆されている。そこで今回、カミキリの標識再捕調査を行い、カミキリの生息個体数の推定を試みるとともに、マツの枯損状況との関係について検討した。2.方法桜島東部に位置し、クロマツの優占する溶岩台地である黒神溶岩内のクロマツ林分を調査地に設定した。面積約1haのこの林分内に調査開始時に生育していたクロマツは367本であったが、10月9日の時点で約5割の189本が枯死していた。2002年5月23日に、生け獲り型に改良したサンケイ式昆虫誘引器を15器は林分内、8器は林外の道路沿いに、約4__から__9mの高さに設置した。調査はトラップの設置後9月19日まで毎週2回、その後10月9日まで毎週1回行った。誘引剤の補充は隔週で行った。毎回の調査では、捕獲されたカミキリを回収し、個体識別をするため、上翅に4色のペンキを用いて標識を行った。標識後、カミキリは捕獲されたトラップが設置されていたマツの幹や枝に放した。3.結果今回の調査で、カミキリは5月27日に初めて捕獲され、9月19日に最後の個体が捕獲された。捕獲のピークは6月中旬であった。これは、同年の他の調査における桜島島内のカミキリの捕獲パターンとほぼ一致していた。標識されたカミキリは総計436個体であったが、再捕獲されたものは2個体だった。そのうち、林内に設置したトラップで捕獲されたカミキリは254個体で、再捕獲は1個体のみであった。各捕獲日におけるトラップ当りの捕獲数の平均値と平均こみあい度の関係からカミキリの成虫個体群の空間分布を解析したところ、調査地に生息するカミキリは林内、林外共に個体単位で集中的に分布していた。4.考察空間分布の解析結果より、カミキリの集中分布が示されたが、実際に捕獲されたカミキリ個体数はトラップ毎に差があった。カミキリは、高い木や開けた場所に位置する木に設置したトラップで多数捕獲された。これは、カミキリの行動様式と関係があると思われる。カミキリが多く捕獲されたトラップ周辺では枯損が激しい傾向が見られ、トラップによる捕獲状況と周辺に生育するマツの枯損状況との関係を裏付けるデータの一つと考えられた。今回、再捕率が非常に低かった原因としては、カミキリの移動が極めて活発であったという可能性と、生息個体数が極めて多かったという可能性が挙げられる。カミキリの移動に関しては、調査時に放したカミキリが遠方まで飛翔する様子が何度も目撃されたため、実際にカミキリは活発に活動を行っていると思われる。一方、今回の再捕率のレベルは移動力の高さのみを原因にするには低すぎるようにも思われる。即ち、極めて高い個体数がこの林分に生息しているという可能性も無視できない。もし、実際にこの再捕率の低さが個体数の高さを意味するならば、現在桜島で進行している急激な被害の拡大を説明できるかもしれない。捕獲数と再捕率から単純な試算をしてみると、調査地には約5万個体ものカミキリが生息していた計算になる。この林分における今年度の枯死本数と、カミキリの集中分布傾向を考えれば、予想外に多数のカミキリ個体が1本のクロマツの枯死に関与しているのかもしれない。いずれにせよ、カミキリの生息数調査は、マツ材線虫病によるマツ枯れ被害の動向を知る上で大変重要であり、今後も被害の拡大が懸念される桜島においては調査の継続が必要であると考えられる。
  • 岩田 隆太郎, 遠田 智, 石川 稔彦, 八田 雄一郎, 山根 明臣
    セッションID: I13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     マツ類枯死木・衰弱木の内樹皮で生活するマツノマダラカミキリ幼虫は,共生性線虫であるマツノザイセンチュウを餌の材とともに取り込んでいることが予想される。そこで,線虫の材中での存在がカミキリ幼虫の発育に栄養的にどのような意義を持つかという点を実験的に検討した。 丸太を約130本用意し,この一部には線虫を注入,残りは無処理とした。1本の丸太の樹皮下へ体重を測定したカミキリの孵化幼虫を1頭ずつ投入し,投入後2ヶ月にわたって飼育して,その体重を測定した。その結果,線虫注入丸太と無処理丸太では,両者間に有意差は見られなかった。これにより,マツノマダラカミキリの幼虫発育に際して,共生関係にあるマツノザイセンチュウの材内での存在は,栄養的にほとんど意味を成さないことが示された。また内樹皮中のマツノザイセンチュウの頭数の測定結果をもとに,蛋白質含有量の計算を行い,以上の結論を裏付けた。
  • 小倉 信夫
    セッションID: I14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    つくば市では、サビマダラオオホソカタムシの卵を3月中旬に野外でマツ丸太に施用しても、孵化幼虫はマツノマダラカミキリ幼虫を捕食することが示された。マツノマダラカミキリの被捕食率と生じたサビマダラオオホソカタムシ成虫の頭数から、5月上旬の卵施用が効率が良く、5月31日の施用は遅すぎると推察された。
  • __-__接種時期および玉切りの有無による比較__-__
    福田 秀志, 佐野 明, 冨田 武史, 伊藤 進一郎
    セッションID: I16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに ニホンキバチ(Urocerus japonicus)は体内に共生菌(Amylostereum属菌)を貯蔵する器官(菌嚢)を持ち,スギ・ヒノキ等針葉樹の樹幹に産卵と同時に接種する(1)。幼虫は,この共生菌の働きにより,材を餌として利用できる(1)。また,本種は生立木では繁殖できず,枯死木あるいは伐倒木を繁殖源とするが,伐倒木であっても伐倒後2ヵ月以上経過したスギでは共生菌の定着率が低く(1),実験条件下ではすべての個体が羽化に至らず死亡することが確認されている(2)。したがって,ニホンキバチの成虫発生期の終了した11月に間伐すれば,伐倒木は翌年の発生期まで7ヵ月以上放置されることになり,共生菌の定着を防ぎ,ニホンキバチの発生を回避できると考えられてきた(1)。しかし,11月に伐倒されたスギ間伐木からも,本種が発生する事例が報告されている(4、5)。演者らはこれまで,生立木に接種された共生菌に着目し,ニホンキバチが母親由来でない共生菌を利用して繁殖することが可能であるかを検討してきた。その結果,伐倒前の7月にキバチによって共生菌が接種された木では伐倒後も翌年の産卵時期まで共生菌が樹幹内に定着しており(3),10月に共生菌を人工接種した木で本種の繁殖成功が確認された(6)。したがって,本種は潜在的には母親由来でない共生菌を利用して繁殖できるものと考えられた。しかし,7月にキバチにより菌接種され11月に伐倒した伐倒木では本種は繁殖成功に至らなかった一方で,10月に人工接種し11月の伐倒時に玉切り処理したものからは産卵翌年多数の成虫が発生する原因については不明である。そこで本研究では,伐倒前の共生菌の接種時期,伐倒時の玉切り処理の有無による,翌年のニホンキバチ発生時期における共生菌の繁殖状況の違いについて調査したので報告する。2.材料と方法三重県一志郡白山町にある三重県科学技術振興センター実習林において,2001年7月にスギ生立木5本に対し,楊枝上に繁殖させたニホンキバチ共生菌をそれぞれ4ヶ所人工接種した。2001年11月にこれらすべてを地際から伐倒し,4本はそのまま(以下全木),1本は長さ2mに玉切りした後(以下玉切り木)放置した。2002年7月に全木2本と玉切り木1本を(以下7月回収木),残り2本の全木を2002年10月に(以下10月回収木)根元から地上高約2mまでの部分を林内から回収し,長さ10cmの円盤に玉切りした後,研究室に持ち帰った。研究室で,全ての円盤の樹皮を剥ぎ,接種点からの軸方向の変色域を記録した。さらに,それぞれの円盤から糸状菌の分離試験をおこなった。各円盤から約5×10×0.5cmの板状の試料を取り,約3mm角の分離片を作成した。この分離片を70%エタノールに数秒浸して,アンチホルミン10倍液で3分間表面殺菌し,滅菌水で2回洗浄して滅菌ろ紙上で水気を取った後,PDA培地上に置き,恒温器内(15℃)の条件下で約1ヶ月培養した。菌の分離率は,高さごとに(コロニー数/分離片数)×100(%)で示した。3.結果と考察 7月回収木の全木の一本からは共生菌が分離されなかったが,もう一本の全木においては接種点から約30cmの地点から変色域の端の部分にかけて繁殖しており,分離率は30__から__100%であった(図1a)。一方,10月回収木の全木の一本からは接種点から約50cmの地点から変色域の端付近である80cmの地点にかけて2.5__から__12.5%の分離率で共生菌が繁殖しており,もう一本においてもほぼ同様の結果であった。このように,7月にスギ生立木に共生菌を人工接種し11月に伐倒した場合,その多くで伐倒後1年を経過しても共生菌が主に変色域の端付近で繁殖していることが確認された。しかし,堀ら(2001)の研究(3)でおこなった10月接種木に比べて共生菌の繁殖範囲が著しく狭かった。それに対して,7月回収木の玉切り木では,接種点から約10cmの地点から約120cmの地点にかけて変色域に関わらず広範囲に10__から__80%の分離率で共生菌が繁殖していた(図1b)。これらの結果は,樹木の生理的反応と関連しているものと思われた。以上のことから,ニホンキバチの発生ピークである7月にスギ生立木に共生菌が接種され,11月に伐倒された伐倒木は,10月に接種されたものに比べて,翌年のニホンキバチの繁殖源になりにくいものと考えられた。しかし,伐倒時に玉切りされた場合には翌年の繁殖源としての質が高まることが示唆された。これらの結果で,7月にキバチにより菌接種された全木においては本種が繁殖成功に至らなかった一方で,伐倒時に玉切りされた玉切り木からは多数の成虫が脱出する理由を説明できた。
  • 池田 紘士, 本間 航介, 久保田 耕平
    セッションID: I18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的
     島には特徴的な生物相が存在することが一般的に指摘されており、佐渡島においても、暖地性の種が多く分布し、独特のファウナが構成されている。新潟本土と比較すると、トンボや甲虫において種数が極端に少なく、多様度が低いことが報告されている。
     佐渡島のブナ林は、かつては広範囲にわたって存在していたが、人が薪炭林や用材林として伐採を繰り返し、ウシの放牧の影響も受けて減少してしまっている。今では、標高の高いところや保存されてきたところに、パッチ状にわずかに残されているだけである。このブナ残存林において、移動能力の低い地表徘徊性甲虫群集を調べることは、かつては佐渡島に広く存在していたと思われる生態系を解明することにつながると考えられる。
     そこで本研究では、佐渡島及び本土のブナ林において地表徘徊性の甲虫を捕獲し、それを比較することにより、佐渡島の地表徘徊性甲虫群集の特異性について検討した。

    2.方法
     佐渡島のブナ林で9箇所、本土のブナ林に関しては、群馬県の三国山で3箇所、谷川岳で2箇所、丹原高原で2箇所の計7箇所において、10×20mの調査区を設定した。各調査区において、ピットフォールトラップを2m間隔で格子状に50個設置し、48時間後に回収した。調査は2002年の6月下旬と8月下旬の2回行った。捕獲した甲虫は種まで同定して解析に用いた。また、環境条件として、標高及び優占している下層植生を調べた。6月の調査では、谷川岳の2地点は雨が強く危険であったために回収することができなかった。

    3.結果と考察
     佐渡島では38種1471個体が、本土では47種689個体が捕獲された。佐渡島ではオサムシ科、コガネムシ科が、本土ではオサムシ科が多かった。また、6月において、シデムシ科が佐渡島、本土ともに多かった。
     捕獲個体数を常用対数に変換した値を用いたDCAにより、調査区間の甲虫群集の類似性を調べた。佐渡島と本土は第1軸によって分類され、6月と8月が第2軸によって分類された。本土はばらつきが大きかったが、佐渡島は比較的まとまっており、季節ごとのまとまりも強かった。つまり、佐渡島では各調査区間の類似性及び同じ季節内の類似性が高い。原因として、佐渡島のブナ林は、もともとあまり多様な甲虫群集をもっていなかったことと、パッチ化してからの経過時間が短く、近年まで調査地がつながっていたことが考えられる。種との関係を調べると、佐渡島ではセンチコガネ、マルガタツヤヒラタゴミムシ、ホソヒラタシデムシが、本土ではクロナガオサムシ、ミヤマナガゴミムシが多かったために、佐渡島と本土が分類されていた。また、8月にキンイロオオゴミムシ、コクロツヤヒラタゴミムシ、クロナガオサムシが、6月にクロオサムシが多かったために、6月と8月が分類されていた。
     科別の種数を、佐渡島と本土で比較すると、佐渡島においてオサムシ科の種数が特に少なかった(佐渡島16種、本土28種)。オサムシ科をさらに族レベルで比較したところ、Pterostichini族(佐渡島5種、本土11種)及びPlatynini族(佐渡島4種、本土10種)で特に種数が少ないことがわかった。また、今回の捕獲調査において、23種が佐渡島でのみ捕獲され、固有亜種としては、サドホソアカガネオサムシ、サドクロオサムシ、サドマイマイカブリが捕獲された。逆に佐渡島では捕獲されず、本土のみで捕獲された種は31種であった。
     相対優占度を佐渡島と本土で比較すると、佐渡島のほうが優占度の偏りが大きい傾向がみられた。島の生物は、種数が少ないために種間競争から開放され、大陸種に比べて広範囲の生息場所を利用する傾向がある。佐渡島においてもこの傾向がみられ、種数が少ないために、センチコガネやコクロツヤヒラタゴミムシ等のごく限られた種の個体数が多くなり、優占度の偏りが大きくなっていた。センチコガネの大量発生は、ウシの放牧によって大量の糞が餌資源として供給されていることが考えられる。
     以上より、佐渡島のブナ林の地表徘徊性甲虫群集は、本土の甲虫群集に比べて多様性が低いことが示された。
  • 山中 征夫, 山中 千恵子, 稲村 宏子, 山根 明臣
    セッションID: I19
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    防除対策及び被害防止を考える上で,ヤマビルの採餌行動の解明は重要であるが,冬季の採餌行動についてはほとんど解明されていない。 ヤマビルは吸血後の休息や産卵のため,温度及び湿度が比較的安定している石や倒木の下などに隠れている。 そこで,それらの個体の採集を定期的に行い,冬季の採餌行動を考察した。 その結果,ヤマビルは冬季においてもかなり活発な採餌行動が認められた。 石の下等に潜伏している個体の約70%が吸血していたことがわかった。 ヤマビル個体群の維持に,冬季の採餌が重要であることが示唆された。
  • 田戸 裕之, 杉本 博之, 細井 栄嗣
    セッションID: I20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    赤外線自動撮影装置を利用したニホンジカ調査地利用頻度調査
  • 高橋 直子, 川上 和人, 河原 輝彦
    セッションID: I22
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    最近関東地方では、外来種であるガビチョウとソウシチョウが野生化している(日本生態学会2002)。〈BR〉外来鳥類は、攪乱地に定着することが多いが、これら2種は森林に定着しており、在来種への影響が心配されている。ガビチョウは人工林へも周年生息しソウシチョウは非繁殖期に人工林を越冬地として利用するため被食型種子散布を通じて植生へも何らかの影響を及ぼしていると考えられる。しかし、人工林における両種の食性についての研究はほとんどない。〈BR〉そこで本研究は人工林において捕獲時に採集した糞を分析し、ソウシチョウとガビチョウの種子散布の現状を明らかにする事を目的とする。〈BR〉2.方法および調査地の概要BR調査地は東京都八王子市にある多摩森林科学園試験林内にある広葉樹に隣接したヒノキ人工林である。調査は月1回につき連続4日間の調査を2001年5月から2003年1月まで行った。捕獲は、人工林の林内と林縁に約7__から__10枚の霞網を設置して行い、鳥類を捕獲しフンを採取後放鳥した。採取した糞内に含まれる種子の同定を行った。〈BR〉3.結果と考察〈BR〉3-1 個体数と季節変化〈BR〉ガビチョウは53個体、ソウシチョウは80個体捕獲された。ソウシチョウは〈BR〉10月から捕獲され、11月に捕獲数が最大になり、その後減少し3月に本調査地から姿を消した。このことから、ソウシチョウは10月から3月までの冬季において、本調査地を利用している事が明らかになった。ガビチョウは捕獲数に季節変化はなく、通年を通して捕獲された。種子散布頻度はソウシチョウの場合個体数と比例しており、ガビチョウの場合は一定の傾向はみられなかった。〈BR〉3-2 散布種子〈BR〉ガビチョウはクマノミズキ、フユイチゴ、ヒサカキ、コウゾ、キブシ、ヒメバライチゴ、ミズキ、モミジイチゴ、ケグワの9種を散布していた。ソウシチョウはクマノミズキ、フユイチゴ、ヒサカキ、サカキ、ヌルデ、イヌザンショウ、ヤブムラサキの7種の種子が確認された。両種の糞内の種の重複度は低かった。このことから両種は異なる植物を選択していると考えられる。両者の体サイズやマイクロハビタット選好性の違いが採食内容に影響を与えている可能性がある。〈BR〉3-3 周辺の鳥類との食性の比較〈BR〉外来種と在来種との利用資源の重複度をみるために、クラスター分析を用いて周辺の鳥類と食性を比較した。この結果からソウシチョウの食性は年間を通して種子食であるメジロと類似度が高かったため、両種の間で食物をめぐる競争が存在する可能性がある。〈BR〉5.引用文献〈BR〉日本生態学会(2002)外来種ハンドブック.地人書館
T4 日中協力による中国の森林再生・自然環境改善をめぐって(第3回)
  • 和 愛軍, 高橋 勇一, 箕輪 光博
    セッションID: J02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    中国における「非公有制林業」の展開○和愛軍・高橋勇一・箕輪光博(東大農) __I__ はじめに 中国は二十世紀50年代から新しい国づくりして以来、一時期は「三自一包」という請負制度の導入も議論していたが、否定されて実行できなかった。その後は「大躍進」や「文化大革命」などの政治運動のため、全国の至るところで高度の「公有制度」が広がり、国家主導の林業だけが推進してきた。しかし、80年代に入って以来、トップダウン方式だけでなく南部の「集体林」地域を始め試験的に少しずつ「非公有制林業」を展開してきた。最近は新たな転換期にあたる中国林業では、これから大いに住民参加型「非公有制林業」を推進していこうとしている。そこで、本研究では二十世紀後半を振り返って文献や調査データに頼りながらこれまで中国における「非公有制林業」の歩みを概観し、各視点から考察・反省した上で概念を再考した。また、中国における「社会林業」やNGO/NPOの可能性を言及し、「非公有制林業」を中国式「社会林業」と位置付け、内外交流の必要性を強調し、「非公有制林業」の将来像を展望した。__II__ 資料と方法 ここ数年,中国は大きく変わりつつある。林業においては、その性質と内容も嘗てないほど見なおしている。市場経済の推進やWTO加盟等につれて様々な視点から「今日的林業」を再吟味し、これからどうするかと検討しているがその中の一つは「非公有制林業」が裏から表舞台に出てきて注目されつつある。そのため、俯瞰的に過去を反省し、将来を展望する必要がある。そこで、全国的には林業出版社の「郷村林業」や「林業改革試験区の実践・理論・モデル・方法」等これまでの関連文献や既存の統計資料を手がかりにして、地域的には自らの調査データや呉鉄雄氏、田中茂氏などの事例研究や調査報告書等を参考することにした。筆者自身は2000年11月から2002年7月の間に、3回に分けて雲南・四川、湖南・江西、陜西・北京などにおいて30個ずつ「非公有制林業」に関連する聞き取り調査を行った。これらに基づいて中国における「非公有制林業」の概念や過去と現在の問題点を考察し、将来を展望する方法をとった。__III__ 「非公有制林業」とは 中国における「非公有制林業」は日本の民有林経営に似ているが土地所有形態の違いや経営構造の異質によって日本の民有林や私有林にやや違うといえる。今まで幾つかの解釈があるが、筆者なりにまとめておけば以下のように定義できるではないかと思われる。即ち,「土地の国家所有制度を前提条件として、使用権の長期間貸すことを基礎に、集団・個人・非政府組織或は民間企業等が主役を演じ、事業の科学的計画と持続性を保ち、数多くの一般住民が積極的に参加できることを保証した持続可能な森林経営や生態(環境)建設活動」。__IV__ 結果と考察   文献やフィールド調査の結果によると、50年代から70年代までは高度の中央集権型政策や法律によって「非公有制林業」は存在する空間と環境が殆どなかった。トップダウン方式の「純公有制林業」は一時的に盛んに見られ、木材の大量提供など社会主義国家建設に貢献したと思われるが天然林の過剰伐採や自然破壊の現象があちこち起きた。造林に関しても人々との関わりが薄いし政策の柔軟性もないため住民は益々林業から離れる結果となった。但し、80年代から改革開放政策の実施に伴い、住民の生活に密着した「非公有制林業」が萌芽し発展してきた。農村部では「自留山」や「責任山」と言った「両山」の割り当てが生まれ、南部や沿岸部の一部の地域は先頭的に農業改革の成功例を参考に「非公有的」集団林業や民有林の経営が台頭し株式林業場も試み始めた。そこで、福建省の三明市においては「三明モデル」が生まれ、湖南省では「懐化モデル」が形成し、江西・浙江・山西・雲南・四川・上海等も少しずつ「非公有制林業」を模索してきている。中国の「非公有制林業」は未だにまだ発展途中段階ではあるが、中国型「社会林業」ともいえる方向に進むと思われる。今は林地や林木などを株化し「実物無形化」した経営方式が進められ定着しつつある。また、NGO/NPOの活動も少しずつ評価しつつあり、「非公有制林業」は単純な商品林から生態公益林まで拡大すべき、その経営形態も図1のようにそれぞれ個人、集団、民営企業、非政府組織或は公有民営というふうに多様性を認めた上で協働的発展を目指すべきである。図1:中国における「非公有制林業」の構成
  • 旧満州時期における伐出技術の進展について
    王 賀春, 植木 達人, 王 賀新, 宋 相禄
    セッションID: J03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.背景と目的中国東北部はここ100年の間,中国でも主要な木材供給基地としての役割を果たしてきた。そのため当地域の森林資源は急速な減少に加え,その質的内容も大きく変化した。以前の原生的な天然林は,戦前・戦後の収穫技術の発展に伴って大きく姿を変え,同時に造林事業の進展によってカラマツを中心とする拡大造林地が急速に広がった。したがって今日の現存する森林資源の実体は,過去100年の施業・利用史的産物として捉えることができるが,こうしたかつての森林施業および経営の実態を明らかにし,その教訓を今後に引き継ぐことは,長い生産期間を有する森林経営にとっては極めて重要な意義を持っている。そこで本研究は戦前・戦後の中国東北部の森林経営史研究の一環として,旧満州時期の木材生産力の拡大を実現した生産技術の実態を,特に伐出技術の発展に焦点を当てつつ明らかにすることを目的とする2.旧満州時期における木材伐採量の推移1902年日本政府は,ロシア進出に対抗するため鴨緑江流域の朝鮮領内に採木公司を設立し,木材生産の一大拠点を築いた。日露戦争に勝利した日本は,さらに資源獲得と長期的な満州地方の支配を強めるため,販路の拡大と企業の進出を企図し,鴨緑江流域から間島地方,さらには吉林地方から東清鉄道へ順次その勢力を拡大した。’31年,満州事変を起し,翌年の初頭までにほぼ東北部一帯を支配下に置き,傀儡国家満州国をを打ち立てた。この時点で軍需産業の育成を課題としていた日本軍は,’33年に「満州国経済建設綱領」を定め,鉄や石炭を中心とする天然資源開発進め,’37年には対ソ戦準備を目的に,鉱工・農畜産・交通通信・移民の4部門での生産力拡大を目指す「満州産業開発5ヵ年計画」を実施した。こうした軍需産業を中心とする経済の伸長を図る中で,森林資源は極めて重要な役割を演じた。’24__から__’42年までの木材伐採量の推移をみると,’30年代前半までは比較的安定した生産量であったが,その後急速な伸びを示した。特に’30年代後半から’40年代初頭にかけての伸び率は高く,その結果,わずか10年で約5倍近い年伐採量を実現した。3.伐出技術および生産設備の進展中国における従来の伐木・造材技術は,主に2人挽鋸と大型の帯鋸,および斧等を使用し,単純な作業工程でしかも伐倒方向は一定しない危険を伴うものであった。しかし日本からの移民の増加に伴って,良質な道具が徐々に入り込み,特に’36年の林業開拓民の入山によって,日本製の大鋸,斧,鉈,鍼,刃広,鳶,角廻し,木回し等の効率の良い良質な道具が普及した。これにより,伐根位置の低下や楔の使用による伐倒方向の制御等が可能となり,作業の安全性と能率は格段に上がった。また集材作業では,藪出しには橇の使用,中出しの流送には各所に日本式の鉄砲堰が設けられ,支流からの流送量の割合も増加した。さらに効率良く流下材を集めるため網羽も使用された。また満州国内の鉄道網が急速に伸長する中,木材搬出用の作業用軌道も普及し出した。特に’37__から__’39年のわずか2年間で,246キロが敷設されると同時に,森林鉄道も37__から__41年の4年間で350キロが延長された。こうして主用幹線鉄道の延長,森林鉄道と軌道の敷設に伴い,木材の輸送量は格段に高まることとなった。こうした輸送量の増大に伴って,大型な貯木場も各地に建設された。’37__から__’41年に落成した貯木場は6箇所で総面積144haとなった。また採木公司の拡大と製材工場の増加および生産能力の向上も高まった。’38年の工場数は前年度の15%,製材能力は26%も増加し,こうした工場数・生産能力の増加傾向は’40年代前半まで続くことになる。4.おわりに日本政府は日露戦争の勝利によって鉄道および付属利権を獲得し,中国東北部での足場を固めた。さらに満州国を建国し,軍部の独占的支配が整うことによって,天然資源の利用と軍需産業の拡大を進めた。こうした情勢の中で,森林の開発とその資源利用は,日本の林業技術の移入,特に伐出技術の導入と,搬出・運搬技術の高度化を進め,より高い効率性を実現した。加えて製材工場の生産能力を高めたことによって,特に30年代後半より木材伐採量の急激な増大を実現した。満州国建国後のこうした大規模の森林開発は,森林資源を急速に減少させ,また良質な大径材の優先的略奪は,森林そのものを劣化の方向に向かわせた。
  • 瀋陽市を事例として
    関 慶偉, 李 士権, 魚住 侑司, 加藤 正人, 植木 達人, まく りゃん, 王 賀新
    セッションID: J05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    森林資源の増加と保護ために、1998年から中国には全森林は公益林と商品林を分類されている。新たな林業分類経営政策に伴い、商品林(経済林)の比率が下がしており、公益林(環境林)の比率が増加しており、あるいは商品林は公益林へ転換することが必要になっている。本研究では、瀋陽市の近郊に存在する公益林と商品林を目的として三つの経営タイプを調査し、大都市近郊林に対して、商品林は公益林へ転換するルートを明らかにすることである。調査の結果により、‘封山育林’の経営技術を採用した、公益林の経営目的である老寺溝林場には林分蓄積は高い、成熟林の比率は高い、林分構成は天然林に似ている。‘封山育林’の経営技術を用いて、瀋陽市では商品林は公益林へ転換することができるといえる。
  • 広西壮族自治区七百弄郷の事例より
    山本 美穂, 鄭 泰根, 大久保 達弘
    セッションID: J07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.報告の背景と論点 建国以来,大国中国は緑化を国家主導の大規模プロジェクトとして,世界最大のスケールで展開してきた.緑化が国からのトップダウンの目標達成という形で現象するために,人々と緑化について考えるときに,アジア諸国で見られるコミュニティ・フォレストリーのような住民主導の展開をそこに見出すことは難しい. 本報は,南西部に広がるカルスト地帯で6年間にわたって行われた日中共同研究の成果をもとに,石漠化が進行する山間条件不利地域での人々と緑化をめぐるいくつかの論点を次のように提示する.1.住民と森林利用の動態について,2.制度的インパクトについて,3.これらの動態とインパクトを超える方策について,さらに,補論として,中国における社会調査の難しさについて若干の話題を提供しておきたい.2.住民と森林利用の動態 経済発展の段階に応じて森林資源の利用が変化し,資源が回復していく過程は,U字型仮説(井上,1994)として説明される.すなわち,経済発展の初期には燃料や用材,農業開発等のために伐開されて利用圧が高まり,工業化段階で激しい森林の劣化を経験するが,その後農業生産力の向上,代替燃料の普及ならびに人工林の造成によって森林蓄積は回復していく.中国の山間条件不利地域において,このUカーブは如何に実現されようとしているか,ある2つの村落を最小ユニットにして2つの道を提示できる.2つの村落は,環境・市場・土地条件の制約化で,周囲の森林と大いに関わった600年の歴史を持ち,森林資源を様々に利用する文化を保持してきた.1.山奥:過疎化によるインパクト減=森林資源回復,2.中心村落:近代化による森林利用低下=森林資源回復.両者は森林資源の回復という積極的側面を示すと同時に,前者は,定住条件の確保を待たずに村落が消えていく局面,後者は,森と人間との関係が失われていく局面として捉えることができる.3.制度的インパクト 2000年度,中国政府は退耕還林政策を打ち出し,放牧や伐採など森林への過度の利用を抑えて森林資源の回復をはかる大事業が開始された.当政策では,25度以上の傾斜地にある耕地で耕作を止め植林を行う農民に対する直接補償方式がとられ,牧草2年,経済林5年,生態林8年にわたり,1畝(0.07ha)150kgの穀物と種苗費および保育費用が支給される.退耕還林政策は,森林資源への直接的な依存を続ける山村農民にとって,生活体系の大きな転換を要求するもので,国家レベルでは,国土利用および農林業の生産構造,定住条件の変革をもたらし,存続は国家財政に依存する大掛かりな仕掛けとなっている.退耕還林政策の貧困山村による受け止め方について,代替生活手段(畜産など)の展開の難しさ,補助政策の不備,保育管理の不備,補償期間終了後の不透明さからこのままでは失敗に終わるとの報告がある(向・関,2002).広西壮族自治区大化揺族自治県の当郷においては,耕地面積13800畝のうち300畝が計画面積として出され,2002年から実施へ向けて取り組みが始まったが,退耕還林政策がいかに作用し,8年後にどのような村落社会を展望できるかについては,未知数である.日中プロジェクトの目的とも関わって最も注目されるところである.4.オールターナティブな道の提示 人々と森林の動態,および制度的インパクトを超えて,より持続的な土地利用体系を構築するやり方は,土地に残る生産様式をヒントとすることができる.例えば,各々の自留地には生活に必要な多種多様な作物が植えられ,上層には用材にする高木も生育し,アグロフォレストリー的展開がごく当たり前に見られている.また,退耕還林実施後もひそかに行われている植栽地での間作や放牧が,木の成長を促進し,従来の循環的な農法を継続させているとの報告(向・関)から,本来退耕還林する必要のない土地が組み込まれていること,逆に退耕還林が必要な土地が組み込まれていない懸念があること,が推測される.その要因として,様々な外部要因により住民の再生産構造が大きく変化したことが考えられる.住民と緑化について考える際に,最も重要な点である土地の利用権の確立という問題がここに提起される.
  • 植林
    國友 淳子, 甲斐 はるか, 高橋 和志, 田 魁祥, 李 恵英, 新田 均, 音高 典子
    セッションID: J10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    2001年より河北省人民政府林業局,中国科学院,地球緑化センター(NGO)およびトヨタ自動車は中国河北省豊寧満族自治県(以下豊寧県)において植林事業をおこなっている。豊寧県シャオバーズは気候的にはウッドランド植生が成立するが,過放牧等により土地荒廃が進んでいる。放牧による砂漠化問題の解決には,潜在的な土地生産力を知り,土地に負荷がかからない利用量を把握する必要がある。地域住民の多くは放牧により生計を立てており,放牧地としての土地利用形態は必須である。そこでまず,2001年より放牧を禁止して植生を回復させ,また一部には牧草を播種した。禁牧による植生の回復状況および植生を牧草として効率的に利用する方法を検討するために,立地条件ごとに調査をおこなった。植生の回復状況および利用方法を調べるため,植林地内の平坦地ポプラ植林地,平坦地牧草播種区,山地部山杏植林地にコドラートを設定した。調査方法は刈り取り時期を1__から__3回(5,7,9月)とし,刈り取り部位を地際と地上部5cmとして,その刈り取り量および回復割合を比較した。その結果,平坦地のポプラ林内および牧草播種区で刈り取り量が最も大きかったのは,9月1回刈りであったが,9月まで刈らずにおいた草は硬く,ヤギが好んで食べなくなるため,嗜好性の面から5,9月または7,9月の2回刈る方が,1回刈りより牧草として利用できる草量が多かった。また刈り取り方法では地上部5cmを残して刈ると回復割合が早かった。山地部山杏植林地では,平坦地よりも生産量が少なかった。また,刈り取り回数および時期による差が明確ではなく,回復速度が遅いまたは潜在的生産力が低いと考えられる。今後は,植林地内の植物を地元住民に,5,9月または7,9月で刈り取りを行ってもらい,その後の植生量の変化を調査しながら,植林地における適切な土地利用方法を探る。
  • 日中共同研究による成果と現地適用の課題
    笹 賀一郎, 間宮 春大, 竹下 正哲, 鈴木 佳, 高橋 英紀, 蒙 炎成, 陳 桂芬
    セッションID: J14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     カルスト・ドリ__-__ネにおける土地利用と環境保全に関する基礎的研究として、中国廣西壮族自治区・七百弄地区において、降雨時の水分動態と森林影響の把握をおこなった。また、土壌移動状況の観測成果も加えて、ドリ__-__ネの土地利用および水利用状況の評価と、研究成果の現地適用上の課題について検討した。 集水域における地表流は、日降水量20mm以上の降雨で発生した。農地集水域における地表流下量は、日降水量117.5mmまでの観測をおこなうことができたが、14.5%から17.9%の範囲であった。平均傾斜が38%の急斜面集水域であるが、豪雨時の一般的地表流下量に比べて、比較的少ない値になっていた。森林集水域における地表流下量は、最大日降水量76.0mmまでの観測をおこなうことができ、地表流下量割合は7.9%から9.6%と農地集水域より5ポイントほど低い値になっていた。量的にはわずかな差であるが、ドリ__-__ネ斜面においても、森林による地中浸透と樹幹遮断蒸発量の増加によると思われる、地表流発生の低減といった森林機能が認められた。観測期間内には126.0mm・117.5mm・113.5mmといった日降水量がみられたものの、土壌の洗掘や極端な表土の流出は観測されなかった。 弄石屯ドリ__-__ネにおいては、地表流の発生が比較的少なく、したがって土壌の流出も少ないといった自然条件にもとづいて、土壌の存在する斜面の全体について、環境許容量いっぱいの土地利用がなされていると判断された。なお、降水や地表流下水を貯留するという水利用形態においては、量的にはわずかであるが、森林の地表流低減機能はマイナス要因となっている。また、七百弄地区における森林の機能としては、下流域に対する洪水防止や水質の浄化・CO2固定機能などが考えられる。ただし、これらの森林機能は、七百弄地区住民には生活に直結しては捉えられがたい事項であろう。下流域の環境や地球環境の課題も含めた森林の保全・拡大には、経済的扶助政策の充実や、燃料・水利用・就労などの生活条件の改善とあわせたとりくみが必要と考えられた。
T9 熱帯林の再生--多様な森林の価値をどう保全し再生させるか--
  • 飛田 博順, 北尾 光俊, 丸山 温, 奥田 史郎, 松本 陽介, アン ライホー
    セッションID: J15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    本研究では、回廊造林の植栽候補樹種を想定して、動物が果実を食用として利用する果樹数種について、庇陰下で育てた個体と強光下に植栽した個体のクロロフィル蛍光反応を調べ、強光に対する耐性・適応性の評価を試みた。 各樹種の庇陰個体4個体を強光下へ移し、充分成熟した葉について翌日から13日間、早朝のFv/Fmを測定した。測定にはクロロフィル蛍光測定装置(PAM-2000)を用いた。Fv/Fmは全ての樹種で低下し、低下の割合はFicusが最も小さかったことから、Ficusの光阻害の感受性は4樹種の中で最も低いことがわかった。Bouea以外の3樹種のFv/Fmは移動後の2日目から回復し始めたが、BoueaのFv/Fmは移動後の3日目まで低下し続けた。水平にして日中充分に直射光に曝した葉の場合、Boueaでは固定しない葉よりFv/Fmが大幅に低下したが、他の3樹種では固定しなかった葉との違いはなかった。これらの結果は、Boueaは光阻害の感受性が4樹種の中で最も高いことを示しており、この強光に対する生理的耐性の低さが強光下での生残率が顕著に低い原因の一つであると考えられる。庇陰下で育てた個体(庇陰個体)と強光下に植栽した個体(野外個体)について、光強度を変えてクロロフィル蛍光を測定した。光飽和時の電子伝達速度(ETR)は、庇陰個体ではFicusが最も高く、次にPometiaが高かった。Ficusの野外個体のETRは、庇陰個体よりさらに高かった。これらの結果は、遷移初期種のFicusが強光を有効に利用できることを示しており、庇陰下から強光下に移したときの光阻害の感受性が低かったことと併せて、強光に対する生理的耐性が高いことが明らかになり、植栽試験での生残率の高さを裏付ける結果が得られた。Ficusとは逆に、PometiaとParkiaの野外個体のETRは庇陰個体より低かった。特にPometiaの野外個体では、qPが庇陰個体に比べて大きく低下した。qPは光化学系II反応中心の酸化還元状態の指標であり、値の低下は光化学系IIへのエネルギーの集積を意味し、光阻害の可能性を示唆する。Pometiaは光要求度が高い樹種とされており、庇陰個体ではFicusと同様にETRが高かったが、野外個体のqPが低かったことから、植栽後1年間では依然として強光ストレスを受けていることが示唆された。Parkiaは庇陰個体でも野外個体でも、ETRが4樹種の中で最も低く、NPQが最も高かった。NPQは吸収した光エネルギーの中で熱として放散させる部分の大きさを表すが、Parkiaの野外個体のqPが庇陰個体よりも低下したことから、NPQが高くても強光環境に適応できているとはいえず、Pometiaと同様に強光ストレスを受けていることがわかった。以上、果樹4樹種の強光に対する光合成反応の違いは、強光下に植栽した後の生残率の差異に反映されていたことから、植栽樹種選定の有効な指標となると考えられる。
  • 光合成の日変化と生産
    田中 憲蔵, 小澤 智子, 樫村 精一, 二宮 生夫, 入野 和郎, 櫻井 克年, ケンダワン ジョセフ
    セッションID: J16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    マレーシアサラワク州ニア造林試験地において、残存林、二次林、草原に植栽された7種について異なる植栽環境下でどのような生態生理特性を持つか、光合成生産に着目して比較検討した。葉面積ベースでの日純生産量は、草原区で最も高く、次に二次林区、残存林区の順であった。各処理区間での純生産の差はきわめて大きかった。しかし、個体重当たりの日純生産量ではこの差が相対的に縮まった。これは残存林区と二次林区でのSLAの増加による個体重当たりの葉面積の増加が貢献したためと考えられた。
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