日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
選択された号の論文の518件中201~250を表示しています
T6 地球温暖化と森林の炭素吸収
  • 小見山 章, 上村 拓也, 加藤 正吾
    セッションID: M18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    19年間にわたり毎木調査を継続したデータから、各年のバイオマス(現存量)と成長量の変動パターンを考察した。調査は、岐阜県荘川村六厩の百年生の落葉広葉樹林二次林に調査区を設け、1983年から2002年まで毎年、毎木調査を行い、胸高直径、個体の生存を調べた。そのデータから各年の森林バイオマスなどを調べた。その結果、19年間で流木密度は減少したが、森林バイオマスは毎年増加し、陽樹が衰退し、耐陰性の中間的な樹種が台頭する傾向がみられた。これに対して、成長量や個体枯死量は年次変動が非常に大きく、特に個体枯死量は波状的に変動した。これらの変動に与える要因は、主に大渇水や晩霜害、台風といった気象災害であった。以上のことから、百年生の落葉広葉樹林は突発的な気象によって大きく影響されながら、樹種組成を変えつつ、バイオマスが増加していることがわかった。
  • 稲垣 善之, 高橋 正通, 阪田 匡司, 酒井 佳美, 池田 重人, 金子 真司, 漢那 賢作
    セッションID: M21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    気象条件の異なる全国6地域においてスギとヒノキの材分解速度を3.5年間の分解実験から評価した。設置後の時間と重量残存率の関係を指数式で回帰し分解定数(yr-1)を算出した。分解定数は,茨城のスギ林に設置したスギで0.080であり,極端に高かった。この林分を除外すれば,分解定数は年平均気温によって説明されることが明らかになった。
  • 渡邉 仁志, 中川 一
    セッションID: M23
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     未熟な立地条件下に植栽された針葉樹人工林の炭素貯留能力を推定するため,岐阜県可児市の若齢スギ,ヒノキ,アカマツ人工林土壌の炭素量について調査した。土壌中の炭素量は75__から__112tC/haと推測され,その大部分が鉱質土壌中に分布していた。これは植栽木・下層植生中の炭素量の3__から__4倍に相当する。肥沃な条件下の成長のよい林分と比較すると,植生部分の炭素量は大きな差があるが,土壌中の炭素量に大きな差はないと考えられる。未熟性の強いやせ地においては,土壌が森林全体の炭素蓄積に果たす役割は大変大きいことがいえる。
  • 森貞 和仁, 小野 賢二, 今矢 明宏, 鹿又 秀聡
    セッションID: M24
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     国土数値情報の土地利用ファイルに記載されている県別土壌区分を森林土壌の分類基準に即して整理した14の森林土壌区分毎に,全国規模で行われた既往の土壌調査結果から算出した単位面積当たりの土壌炭素蓄積量を算出するとともに,3次メッシュを介して国土数値情報の土地分類ファイルの土壌区分と土地利用面積ファイルに記載されている森林面積を関連付けて,3次メッシュ毎に森林土壌における単位面積当たりの炭素蓄積量を算出した結果を用いて森林土壌における炭素蓄積分布図を作成した。 作成した分布図は土壌の種類による炭素蓄積量の違いを反映し,日本の森林土壌における炭素蓄積状態を概観するのに適していると解された。
  • 高橋 正通, 田中 永晴, 森貞 和仁, 松浦 陽次郎, 加藤 正樹
    セッションID: M25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    気候変動枠組み条約に基づき、日本の土壌や枯死有機物に関する研究および関連情報から土壌や枯死有機物の炭素プールを評価できるかどうか、さらに、京都議定書3条4項(人為的な森林管理活動)を適用する場合、土壌や枯死有機物の炭素変動を評価できるかについて検討した。粗大木質堆積物を除けば、日本の1990年における土壌炭素蓄積量は独自のデータによりかなり正確に算定可能であることがわかった。しかし、皆伐や間伐などの森林施業の土壌や枯死有機物への影響を評価することが、現段階では困難であった。土壌情報を含んだ行政データの整備が必須である。
利用
  • 走行条件による違い
    朴 範鎮, 呉 宰憲, 有賀 一広, 仁多見 俊夫, 小林 洋司
    セッションID: N02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    車両振動は、運転中のオペレータに連続的に暴露され、精神的及び肉体的な影響を常に与えることから、疲労の主要因の一つと考えられる。全身振動による林内作業車のオペレータの疲労度を現場で連続的に測定し客観的に説明するために、生体信号を利用して疲労度を評価した。この研究は現場と研究室の実験にわかれた。まず、現場で林内作業車の作業条件を決め、条件別の座席振動のデータを取った。次は、3人の被験者を研究室で現場と同じの騒音と座席振動に暴露させながら生体信号と主観的尺度を調査した。被験者は、10、20、30分間3つのレベルの振動と騒音に暴露させた後に30分間休憩させた。その結果、背中の筋電図のパワースペクトル値と心拍変動指数のTPなどが説明力が高いと言う事が明らかになった。最後に、現場の作業道で実験車両の走行速度、上り下り、木材の積みによるオペレータの疲労度の違いを見た。
  • 風によって発生する樹木のざわめき音の分析
    勝又 邦弘, 近藤 稔, 山田 容三
    セッションID: N03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    本研究は,森林の保険休養効果という観点から森林のサウンドスケープを構成する主要要素である,風などによって樹木がそよぐ際に発生するざわめき音についてその特徴を把握することを目的とした。ざわめき音の分析対象の樹種に広葉樹7種(アカメモチ,アラカシ,クスノキ,シイノキ,ソヨゴ,モチノキ)と針葉樹3種(アカマツ,スギ,ヒノキ)を選んだ。音の収録は__丸1__自然風により発生する音を録音する方法,__丸2__枝を振って強制的に音を発生させる方法の屋外測定と,1m程度の大きさの枝を採取してスタンドに固定し,__丸3__扇風機により強弱4段階の人工風を当てて発生させる方法の室内実験により行った。いずれの収録もデジタルビデオカメラ(S社製DCR-TRV50)を用い,録音モード16 bit/48 kHzステレオとした。録音した音のざわめき音と暗騒音とをパソコンに取込み,音声ファイルをY電子社製スペクトル分析ソフト(リアルタイムアナライザーRAE)に入力してスペクトル分析,1/3オクターブ分析,自己相関関数分析を行った。自然風によって発生したコナラ,クスノキ,スギ,ヒノキの音の大きなざわめき音の1/3オクターブ分析結果と自己相関関数分析の結果からコナラ,クスノキのざわめき音は4000__から__5000Hzの周波数であるのに対し,スギ,ヒノキは1000Hz前後の比較的低い周波数であると推定された。また,自然風による平均的な大きさのざわめき音のコナラとスギのパワースペクトル分析から,人の聴覚で聞きとり易い1kHz__から__8kHzの領域では,コナラ,クスノキいずれもパワースペクトルは周波数fに反比例する傾向を示したのに対し,スギ,ヒノキではf2に反比例する傾向を示した。人工風によるざわめき音の1/3オクターブ分析においても広葉樹は,樹種によって異なるものの自然風と同様に風速の増加にともない4000__から__6000Hz周辺に音圧レベルが増加する傾向がみられた。しかし,針葉樹は3種とも使用した扇風機の風力(1.0__から__4.5m/s)ではざわめき音を発生させることはできなかった。 今回測定対象とした常緑樹を主とした広葉樹のざわめき音は,5000Hz周辺の高い周波数であること,また,1/fゆらぎの性質を有することから人間にとって心地よい音であることが,他方,針葉樹のざわめき音は広葉樹と対照的に1000Hz前後の低い周波数成分で,1/f2ゆらぎとどちらかというと心を不安にする性質を有することが示唆された。
  • 小林 洋司
    セッションID: N05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    公共事業全般について、すでに数年前より 事業評価が義務づけられている。林道においても同様でありその評価手法に費用対効果の手法が取られている。 ここでは林道の費用対効果について論ずる。 林道は森林基盤整備計画の基本であり主要な施設である。その機能は,林産物の輸送や人員の輸送を主たる目的とする場合と、集材距離の短縮を主たる目的とする場合とがあり、前者を輸送機能、後者を集材機能と言うことができる。合理的に林道を配置するためにはこの両機能を十分に考えなければならない。大規模林道は前者の機能を重視したものであり、作業道あるいは普通林道は後者に重点を置いた林道である。林道の効果を計算するにはこの両者を考えなければならない。これらの算出法を含め具体的計算例を示す。
  • 仁多見 俊夫
    セッションID: N06
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     規格の異なる道路によって構成される路網の配置について検討した。山岳森林地形として、モデル地形と実山林地形を用い、そこで最急縦断勾配の緩急によって道路規格を3通り設け、路網を計算機シミュレーションによって配置実験した。道路の開設には規格の高低に基づいてルールを設定した。まず、モデル地形の山腹傾斜を変化させて路網の配置を検討した。次に、実地形において路網の配置を検討した。それらを、路網からの平均到達距離、道路密度、開設コストによって評価検討した。斜面を組み合わせた単純なモデル地形と、近畿、九州地方の急峻山岳林の地形を用いた。モデル地形は、傾斜度の異なる複数の平面からなり、エリアの中ほどで傾斜が変化する。実山岳林の面積は100から1万haである。森林地域に開設される道路を最急縦断勾配sによって、林道s<16%、作業道s<30%、モノレールs<84%(40°)に区分した。さらに路線開設の際の最短区間距離をモノレールについて500mに設定した。また、林道は公道と林道から分岐する。作業道は公道、林道、作業道から分岐するというように、道路は同規格もしくはそれよりも高規格の道路から分岐するものとした。このようにして形成された路網について、木材の運搬効率Etを算出して評価した。また、総路網の開設コストCnを算出して評価した。これらの指標値の比率によって路網を評価し、地形条件と比較検討した。Etは木材の運搬車両の積載量と速度の積、Cnは各規格の路線の開設単価の延長ごとの経費の総計である。モノレールに集材機能を設けない場合には、路網密度を高く設定しないと平均集材距離を効率的に小さくできなかった。林道とモノレールの延長比率を地形状況に合わせて変化させると、適切な道路配置が得られるように思われた。モノレールの延長比率は、対象地域の起伏量が大きくなると大きくなるようであった。複合規格の路線の数量的な関係を検討した成果、Nitami,T(2002): Network of Roads in the Forest with Compound Standards. Proc. IUFRO, Div. 3, Tokyo, in print.で得られた関係式による検討を参照しつつ、地形と道路網の適正な配置基準について検討を継続して、数量的なモデルを明らかにしていく。また、道路配置のアルゴリズムについて改良する。
  • 立木 靖之, 吉村 哲彦, 酒井 徹朗, 長谷川 尚史, 三田 友則, 景山 祥子, 中村 太士
    セッションID: N10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    林内における歩行状態でのGPS精度評価はこれまでに行われていない。今回の研究では北海道大学苫小牧研究林に設置されたGPSテストサイトを用いて、歩行状態のGPS測位精度を評価した。実験に使用した受信機はPathfinder Pro XR(Trimble)とGPSMAP76S(Garmin)である。実験では歩行者2名(歩行者A・B)、タイムキーパ1名を設定した。歩行者AはリアルタイムDGPSを行う受信機で測位を行いながら、秒速約0.66mで歩行した。歩行者Bは歩行者Aの後方、2秒後を歩行した。タイムキーパは時間情報を歩行者Aに与え、常に同じ速度で歩行できるようにした。苫小牧GPSテストサイトにはミズナラなどが生育する天然林とトドマツ人工林の中にテストサイトが設置されており、サイト一周に必要とする時間はそれぞれ4分16秒と3分15秒である。実験は2002年7月・8月(着葉期)と11月(落葉期)の2季節行われた。結果は季節、受信機の種類、補正方法、林相を要素として4元配置分散分析を行った。
    分析の結果、要素全てに有意な差が現れた。着葉期よりも落葉期のほうが精度が高くなると思われたが、実験中の衛星状態が夏のほうが良く、冬のほうが精度が悪くなった。着葉期と落葉期の受信衛星数を比較すると、着葉期のほうが平均1.5個衛星数が多かったことが原因であると考える。4元配置分散分析から、各要素の組み合わせを見ると、林相と受信機の組み合わせに優位な差が見られた。Pathfinder Pro XRでは天然林と人工林との測位精度がほとんど変わらなかった。一方、GPSMAP76Sは天然林においては良好な測位精度を得られたが、人工林では著しく悪化した。今回の実験から、測位中の衛星数の重要性と、受信機による測位精度の違いを把握できたと考える。
  • フィルタリングおよびDGPSによる測位精度の向上
    長谷川 直人, 阿部 光敏, 吉村 哲彦, 酒井 徹朗, 守屋 和幸
    セッションID: N11
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに 近年、レクリエーションを目的とする森林利用者が増加しており、森林の過剰利用がしばしば問題となっている。「入林者数」は、森林利用者を適正に管理するための重要な情報であり、赤外線センサーやビデオカメラを利用したカウント法が考案されている。しかし、電源の確保が困難な森林内に数多くのセンサーやカメラを設置して、それらを管理しながらデータ収集を継続することは現実には困難である。そのため、森林内のどこをいつどれだけの人が利用したかを把握できる方法は未だ開発途上であると言える。 本研究では、GPSとPDAによって構成される装置を入林者に貸し出すことによって、森林の利用状況を空間・時間・人数の観点から把握することを想定している。このシステムを用いれば、森林利用者の正確な移動経路を把握することができるため、森林利用者による森林環境への影響をこれまでより正確に評価することが可能になる。さらに、森林利用者が地図を見ながら位置を把握したり、森林利用者に自然に関するガイドを行ったり、進入禁止区域に近づいた際に警告を発したりすることも可能になる。 しかし、GPSの単独測位の測位誤差は依然として大きく、より精度の高い位置情報を取得するためにフィルタリングとDGPSを導入する予定である。そこで本報では、フィルタリングとDGPSの導入にともなう測位精度の向上について報告する。2. 方法2.1 DGPS DGPSには、海上保安庁の中波ビーコンやFM多重放送による補正情報をリアルタイムに受信する方法が一般的であるが、山間部ではしばしば利用できないことがある。さらに、補正情報を受信するための機材がやや大きいため、それを持ち歩くことは森林利用者の負担が大きい。本研究では、インターネットを利用したリアルタイムディファレンシャル補正を試みた。インターネットを使用する利点は、携帯電話など様々な装置により利用が可能なことであり、パケット通信や定額制の普及により携帯電話の通信コストが低下していることもあげられる。本研究では、通信手段として近年急速に普及している無線LANを利用した。山間部で無線LANを整備することは未だ容易ではないが、京都大学上賀茂試験地ではインフラストラクチャとしての無線LANの整備が進んでいる。無線LANを用いたDGPSによる測位実験は2003年1月24日に上賀茂試験地で実施した。使用したGPS受信機はGarmin製GPSMAP76Sである。DGPSの基地局Trimble製7400MSiも上賀茂試験地内に設置して補正情報をRTCM-SC104フォーマットで移動局に送信した。2.2 フィルタリング 広大な森林内にくまなく無線LANを整備することは現状では不可能に近いと言える。本研究では、無線LANの利用できない森林でもより正確な位置情報を得られるように、GPSの単独測位によって得られた位置に対してリアルタイムに測位フィルタを適用した。この測位フィルタは、過去一定期間の測位結果を利用して現在地を決定するもので、過去一定期間の測位結果の中から外れ値を除外し、移動平均によって現在地を決定する。この測位フィルタを使用する実験は、2002年12月4日に上賀茂試験地で行った。この実験では、GPS受信機(Trimble製Pathfinderpocket)によって単独測位を行いながら林道上を歩行した。3. 結果 DGPSでは、一部無線LANが受信できずに測位できなかった区間もあるが、無線LANが受信できた区間ではDGPSを使用することにより測位精度の向上がみられた。フィルタリングでは、フィルタの適用によって外れ値が除外され、歩行軌跡が平滑化された。 なお、本研究は科学技術振興事業団戦略的基礎研究推進事業(CREST)の補助を受けて行なった。
  • 松原 健二, 山田 浩之, 中村 隆俊, 宮作 尚弘, 神谷 雄一郎, 渡辺 綱雄, 中村 太士
    セッションID: N12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに近年、釧路湿原ではハンノキ林の分布域が拡大し、ヨシ・スゲの低層湿原が急速に減少している。このハンノキ林拡大の主な原因として、農地開発などの人為的影響を通してもたらされる立地環境の変化が挙げられている。しかしながら、湿原内部のハンノキ林の分布やバイオマス、さらには立地環境を広域的に捉えた事例は少なく、拡大に関する具体的な要因やメカニズムについては、未だ明らかにされていない。そこで、本研究では、(1)航空写真及び航空機レーザー測量を用いてハンノキ林の樹高分布を広域的に把握すること、また、ハンノキ林の樹高がバイオマスを反映していると考えて、(2)ハンノキ樹高と立地環境との関係を明らかにすることを目的とした。2.研究方法調査は、新釧路川下流の左岸側に位置する釧路湿原広里地区(280ha)で実施した。この区域では、ハンノキ林分布域が1993年から2000年までの7年間で、約13ha拡大している。__丸1__航空機レーザー測量を用いたハンノキ樹高の推定航空機レーザー測量は、RAMS(Remote Airborne Mapping System)を用いて、2002年7月及び11月の2時期について実施した。7月のデータから2mグリッドの植生表層標高モデルと11月のデータから地盤標高モデルを作成した。この2つのモデルの標高差をハンノキ推定樹高(以下、推定樹高)とし、ハンノキ推定樹高分布図を作成した。__丸2__実測樹高の計測推定樹高の精度検証の為に、現地調査による実測樹高との比較を行った。実測樹高の計測地点については、航空写真より得られるハンノキ林の樹冠の疎密度によって、疎林(0__から__40%)、中林(40__から__70%)、密林(70__から__100%)の3区分に分け、各区分において48コドラート(2m×2m)を設置した(計144コドラート)。各コドラートの4隅と中心の計5点で位置座標とハンノキ樹高を、DGPS受信機、測高ポールを用いて計測した。この5点の樹高の平均値を各コドラートの実測樹高とした。__丸3__環境変量の測定コドラートを設置した地点で、地下水位・水質観測用井戸と土壌水採水用ポーラスカップを設置した。地下水位については2002年6月__から__11月に毎月計測し、地下水・土壌水のサンプリングは、7月と11月に実施した。水質分析項目は、電気伝導度、pH、溶存態の全窒素・全リン、主要カチオン・アニオンである。3.結果および考察__丸1__推定樹高の精度検証推定樹高と実測樹高を比較した結果、密林・中林では推定樹高と実測樹高がほぼ一致する傾向が得られたが、推定樹高は実測樹高に比べ約1m低かった。これは、地盤標高モデルにスゲ・ヨシ等の草本の高さが含まれること、レーザー測量の際に、レーザーパルスが樹冠の最高部に当たらなかったためと考えられる。また、推定精度は、樹冠の疎密度によって異なり、疎林であるほどバラツキが大きくなる傾向が得られた。これは、樹冠が疎になるとレーザーが樹冠を透過しやすく、地盤近傍や近隣の樹高を計測してしまうためと考えられた。__丸2__ハンノキ推定樹高分布図調査区全域の推定樹高分布図を作成した結果、ハンノキは円形に分布しており、外周部に向かうほど樹高が高くなる傾向が得られた。なお、樹高の最大値は7mであった。この結果は、航空写真より得たハンノキ分布域や実測樹高より得た林分断面図を良好に再現していた。__丸3__ハンノキ樹高と環境変量との関係ハンノキ樹高と環境変量との関係を相関分析により検討した結果、土壌水のNO3-、K+と有意な相関が認められたものの、いずれも相関係数は小さかった。これに対し、地表面水位及び標高水位変動係数とは強い相関が認められ、地表面水位が小さく、標高水位変動係数が大きくなるほど、樹高が高くなる傾向が得られた。また、地表面水位0mに樹高のピークが現れる傾向も得られた。これらの結果から、水位が地表面に近く、水位変動の大きい立地環境が、ハンノキの生育環境として適しており、そのような立地環境の増加がハンノキ林の分布拡大に影響していることが示唆された。
  • 貝瀬 朋子, 仁多見 俊夫
    セッションID: N14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    「エコツーリズム」は地域の資源の保護・保全を計りつつ,そこに雇用や経済的利益を生んでいこうという持続的観光の考え方である。「地域固有の資源」がエコツーリズムの根底をなし,それらを持たない人にとってはその地域性が魅力に映る。本研究ではエコツーリズム導入を模索する奥秩父において,自然環境的なものから社会的なものまで含む地域資源の把握を行い,それらを通し既存の資源の積極的な利用を,地域の視点から計っていく。これらのデータを用い既存コースを補う形での仮想エコツアーコースの設定を行った。
  • 山形県村山市樽石川の支流と千座川の支流における事例
    伊藤 かおり, 井上 公基, 石垣 逸朗
    セッションID: N15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに 健全な森林や良質の木材を育成するためには、森林施業が不可欠である。また、林道を開設し森林施業を効率的に進める必要がある。しかし、林道開設にともなう伐採は、その周辺の水辺林の機能が損なわれている場合もある。また林業地帯では、河川の水際までスギ・ヒノキなどの針葉樹が植林され、水辺本来の植生が失われつつある。 水辺林の機能には、日射の遮断や倒木の供給、落葉・落下昆虫の供給、野生動物の生息環境の提供などがある。本研究では、林相の違いによる水辺林の機能を評価するために、広葉樹流域と針葉樹流域における、水温・水質・一次生産量・水生生物の種数を測定し、両者の比較検討を行った。2. 調査地概要 本調査地は、最上川支流である山形県村山市の樽石川の支流(T)と千座川の支流(S)を対象にした。Tの流域面積は141.5haであり、そのうちの97%が広葉樹林で占められている。渓畔域は、主にトチノキ・カツラ・モミジなどの樹種で構成され、それ以外はブナ林である。河川勾配は21.3%である。一方、Sの流域面積は79haであり、そのうち99%が針葉樹で占められており、河川の水際までスギが植林されている。河川勾配は6.7%である。3. 方法 T・Sの両支流にそれぞれ4ヶ所の測定地点を250m間隔毎に設置し、上流よりT1,T2,T3,T4とS1, S2,S3, S4とした。測定は2002年7月28日~12月3日の118日間行った。水温は、これら8地点で1時間間隔にエスペック社製のサーモレコーダーミニRT__-__30Sに記録した。また、日照はT3,T4とS3,S4とT3,S3の河岸から林内20mの地点で、アレック電子株式会社製のWin MDS-Mk V/Lを用い10分間隔で計測した。水面に投影される樹幹は、水温・クロロフィル量・水生生物に影響するとの考えから、河川水面に投影される樹幹投影面積をT4とS4の地点より上流に向かって50m間隔ごとに樹幹開空度を測定し、河川水面への投影面積を算出した。そして、3区間における被覆面積の平均値を算出した。一方、一次生産量として、付着性藻類を採取した。採取方法は、河川内の石を取り5cm四方に付着している付着性藻類をブラシで擦り採取した。クロロフィル量の分析は吸光光度計でおこなった。水生生物は50cm立方のコドラートを用いて採取し、同定した。クロロフィルと水生生物の採取日は、開葉期にあたる7/27__から__29,8/20・21・25と落葉期にあたる10/17__から__19,12/2__から__4の12日間とした。クロロフィルと水生生物の採取場所は、前述した3区間の投影箇所と非投影箇所である。また、河川全体のクロロフィル量と水生生物の種数は、3区間にて採取したクロロフィル量と水生生物の種数に投影面積もしくは非投影面積を乗じて求めた。水質測定は、河川ごとに設定した4地点にて採水した。採水は、クロロフィルと水生生物の採取日と同日の平水時におこなった。分析は、吸光光度計と液体クロマトグラフィーを用いて行った。4. 結果と考察水温と投影割合の関係を図__-__1に示した。Tの水温変化は、T1,T2間とT3,T4間で上昇しているが、T2,T3の間で低下している。水温低下を促した区間の投影割合は54%であった。一方、Sの水温変化は、途中区間で水温が低下することなく、S1からS4にかけて徐々に水温が上昇している。水温上昇が生じた区間の投影割合は31__から__33%であった。また、平均水温はTが12.2℃、Sが13.8℃であった。水生生物数はTで46586匹、Sで20804匹であり、TはSの2.2倍であった。また、採取した種類と区間別の採取数については両支流とも大きな差はみられなかった。水生生物数と河川の投影面積の関係については図__-__2に示した。投影箇所と非投影箇所にて採取した水生生物数は、いずれも投影割合が大きい程増加していた。しかし、投影割合が低下すると両箇所の水生生物数も減少していた。以上の結果から、広葉樹の多いTは水温の低下や水生生物が生息しやすい環境を形成していることがわかった。今後は、水温上昇の抑制を促す水辺林の規模を定量的に測定し、水辺域での森林伐採による水温上昇や、水生生物の減少を緩和する水辺林の規模を算出する必要がある。
防災
  • 三重県中勢地区における2流域の比較
    沼本 晋也, 林 拙郎, 西尾 陽介, 近藤 観慈
    セッションID: N16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     従来,復旧治山が主であったが近年は予防治山も重視されるようになった。そのため,事業に対する必要性の判断が重要となり,危険性が高いと判断される地区や支流域から順次事業を行う必要性が生じている。三重県では山地森林の適正な管理を目的とした森林GISデータベースが整備されており,治山分野に対してもこのデータベースを活用することが求められている。そこで,森林データベースを用いた山地流域の土砂災害に対する被災危険度を評価するための基準作りを目的として,崩壊との関連性の高い諸要因を設定し,数量化理論を用いて崩壊の発生・非発生事例を分析し,支流域単位での崩壊危険率の算定を行った。次に,求められた各支流域の崩壊因子と保全因子に基づき,対象地域における支流域ごとの被災危険度の評価を行った。
  • 井良沢 道也, 長谷川 秀三, 漆崎 隆之
    セッションID: N17
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに 斜面の土層構造を把握するために、簡易貫入試験機(従来型)が使われている。しかし、その貫入力の強さにより、表層部における樹木根系の発達深度や、ごく浅い位置にある表層崩壊のすべり面の推定には詳細に把握できない傾向にある。一方、長谷川式土壌貫入計(長谷川式と呼ぶ)は、根系発達深度や地表付近の構造の把握には適しているものの、地表下2m程度より深い地点の測定が困難である。そこで、両者の試験機の長所と短所を補う形で斜面の表層構造調査用の簡易簡易貫入試験機(改良型と呼ぶ)が開発された(吉松ら、2002)。ここでは改良型及び従来型簡易貫入試験機を用いて、表層崩壊の発生現地に適用して、その特性を検討した。 改良型簡易貫入試験機の構造は以下の通りである。改良型簡易貫入試験機の主な改良点は以下の2点である。__丸1__重錘を3kgと2kgの着脱式とした。従来の5kgから3kgと軽くしたことで、分解能良く敏感に土層構造の変化を捉えることができる。また2kg重錘を追加し5kgとすることで、従来型と同様の測定能力で試験可能である。__丸2__目盛り付きのスケールポールを試験機本体と平行に設置する。これにより一打撃毎の貫入量を把握することで、より詳細な解析を可能とした。 2.調査個所及び調査方法 昨年7月11日に東日本を縦断した台風6号は梅雨前線を刺激して岩手県内において多量の降雨をもたらし、斜面崩壊や土石流を釜石市において発生させた。調査個所は5個所である。松原の沢(その地区で5地点試験を実施:以下同様),松原沢の2(3地点),駒木の沢(3地点)、浜町(3地点)、新浜町(3地点)である。いずれの個所も、流域上流部で発生した表層崩壊に起因する土石流あるいは土砂流出が発生し、人家等に直撃して松原の沢では死者2名を出すなど被害を与えた。本地域の地質は古生層の釜石層を主体とし、粘板岩とチャートからなっている。試験個所は崩壊地発生個所の直上部地山及び崩壊地の側岸の地山斜面を選定した。今回実施した5個所の調査地点とも改良型と従来型の貫入場所はほぼ同地点で実施した。3.貫入試験の結果 松原の沢における改良型と従来型の試験データの結果を対比する。現地調査による表層崩壊の規模は幅8.5m×長さ14.5m×深さ1.2m程度で約150m3程度と推定された。崩壊地点の斜面勾配は24°である。ここでB地点は崩壊源頭部中央の上部斜面、A・C地点はそれぞれ崩壊源頭部両端の上部斜面に位置する。 Nc'値によるすべり面の判定については、Nc=0.5Nc'(吉松ら、2002)の関係より換算すると、Nc'値で20__から__30くらいがすべり面に当たる可能性がある。またNc'値の出現パターンは、ある深さで急激に増加しており、この急激に変化する深さがすべり面となった可能性が高い。このことから、図よりA・C地点では1.5m付近,B地点では1.0m付近にすべり面が想定された。これは現地調査による今回発生した表層崩壊深度に近い。 また、それぞれの貫入深度をみると、BはA、Cと比べて土層厚が浅い。B地点は谷部であり、凹状の地形をなしており、その周辺の植生は他よりも若齢であると推察された。貫入試験結果は、こうしたことを裏付け、この流域では今回の土石流ほど大規模でなくとも、以前にも崩壊が起こっていた可能性がある。 B地点のグラフの60__から__80cm深や、C地点の100__から__130cm深では、Nc'値が大きく振れているが、これは礫に当たったためと考えられる。このように改良型では一打撃毎の貫入抵抗値を測定するため、土壌本来の硬さと礫や根系に衝突した際の貫入抵抗値が分離できるなど、詳細な土層構造の把握が可能である。 今後は植生や微地形調査など崩壊地における測定データを増やして、貫入試験値との対比を行なっていきたい。
  • 水谷 完治
    セッションID: N18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに 本研究は栃木県足尾町松木沢のような緑化が困難な場所の緑化方法として粘土団子種子の散布が適当ではないかと考え試験を行った。粘土団子種子は種子が粘土でコーティングされているため、種子は腐敗しにくく、動物に食べられしまうこともない。一方、土壌改良材や化成肥料などを用いると、本来の環境適応機能が損なわれ、それらが流亡した場合に枯死する可能性がある。粘土のコーティングは種子に適度なストレスを与え、より環境適応機能を高めていると推測している。2. 方法 粘土団子種子は砂漠緑化や畑作・稲作に用いられている(福岡,1993)が、小型のコンクリートミキサーを用いて、種子を粘土で丸めて粘土団子種子を作った。試験地は栃木県足尾町湖南国有林内に設定した(図__-__1、図__-__2)。散布種子は木本類としてクロマツ、アカマツ、カラマツ、イタチハギ、ダケカンバ、ヤシャブシ、草本類としてイタドリ、ススキ、ヨモギを用い、木本類と草本類の粒数割合を1:3にした。秋播きを平成13年10月20日、春播きを翌年の4月23日に行った。秋播きと春播きそれぞれ一回の散布密度を100粒/m2と30粒/m2とし、4プロット設け、さらに、2プロットは秋播きと春播きの2度播きの2プロット(散布密度は200粒/m2と60粒/m2)を設定した。1プロットの面積は約47m2である。3. 結果及び考察 春播きから一ヶ月後の5月21日に発芽が見られた(図__-__3)。クロマツ、イタチハギの発芽が良く、順調に発芽本数を増やした。秋播き、春播き、いずれも発芽し、秋播きと春播きの2度播きのプロットの発芽率が最も良かった。2度播きの200粒/m2プロットではha当たりに換算するとクロマツ3150本/ha、イタチハギ7140本/haの発芽があり良好な結果を得た。このようなことから、様々な種子を播く場合、秋と春に飛散する種子があるので、2度播きするのが良いと考えられた。4. おわりに今回の試験ではクロマツとイタチハギなど木本類の発芽が多数確認できた。今後、越冬後の状態や活着する過程を観察する必要がある。また、劣悪な環境下でも比較的発芽が良好である理由の一つとして、粘土によるコーティングが種子の環境適応機能を高めているためと推測しているが、そのメカニズムの解明について樹木生理学の側面からアプローチしたいと考えている。
  • 鳥羽 妙, 太田 岳史, 阿部 修
    セッションID: N22
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.背景と目的これまでの研究では,林内降水量を決定する要因として,降水継続時間や降水強度などの降水条件が一雨遮断蒸発量や一雨平均遮断蒸発強度と正の相関関係にあること(Llorens et al.,1997,服部ら,1982,塚本ら,1988,)や,風速が林内降水量に影響を及ぼしていること(蔵治(1997),石垣(1990))などの報告がされてきた。しかし,いまだに林内降水量を決定する要因がはっきりと確定されていない。そこで本研究では,室内実験からこれらの要因を確定することを目的とした。室内実験のメリットは__丸1__模型木を用いることで蒸散を考慮しなくてよい__丸2__各気象条件を設定できる__丸3__森林(模型森林)の構造を容易に変更できる,などがあげられる。模型木には高さ60cmのクリスマスツリーを用いた。2.実験場所防災科学技術研究所,長岡雪氷防災研究所の新庄支所内にある雪氷防災実験棟で行った。3.実験方法森林構造を表す指標となるPAI(Plant Area Indexes)と,風速,降雨強度に着目した。これらの条件をそれぞれ3段階変化させ,その結果を比較することで遮断蒸発量との関係を検討する。PAIは本数の増減で変化させ6,9,11,降水強度は14.1,22.6,29.5mm hSUP-1/SUP,風速は5,7,10m sSUP-2/SUPという条件を組み合わせ,全部で11種類の実験を行った。実験室内では,日射装置で日射量を,横風発生装置で風速を与え,気温と湿度も一定となるように機械的な制御を行った。日射量は,降雨中は200W mSUP-2/SUP,降雨後は500W m-SUP2/SUP,気温は20℃,湿度は90%とした。降雨中と降雨後で設定を変化させた要素は日射量のみである。実験中の気象要素の制御には限界があり,また,時間や場所による変化を記録する必要がある。そこで,気象要素の観測を合わせて行った。測定項目は,樹冠上で,風速(3高度)・気温・湿度・純放射量・摩擦速度・摩擦温度である。さらに,雨量計を用いて林内降水量の自記記録を行った。気象要素の実験中の平均値を表1に示す。実験は4時間で構成され,最初の1時間が降水時間で,のこり3時間が無降水時間である。与えた林外降水量と測定された林外降水量の差が遮断蒸発量である。4.実験結果遮断蒸発量と,PAI,風速との関係から,PAIが大きくなるほど遮断蒸発量は大きくなり,風速が強いほど遮断蒸発量は大きくなるということがわかった。また,降雨強度が強くなるほど,降水量に対する遮断蒸発量の割合(遮断蒸発率)が小さくなることも分かった。実験に際して,防災科学技術研究所,長岡雪氷防災研究所新庄支所の武田武志氏,望月重人氏をはじめとする研究所の方々に多大な御協力および御助言を頂きました。ここに記して謝意を表します。
  • 和田 卓己, 谷 誠, 小杉 緑子, 高梨 聡
    セッションID: N23
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    滋賀県桐生水文試験地のヒノキ林において,顕熱・潜熱貯熱量,植物体貯熱量,土壌の貯熱量を合計した群落貯熱量の長期推定を行った.まず,樹幹温度の実測を行い,熱伝導方程式に表面温度を境界条件として与えて,内部温度を解析し,熱拡散係数の最適化を行った.解析結果は,樹幹内温度をほぼ良好に再現したので,樹幹表面における貯熱量を計算し,これを群落全体に拡張して,ヒノキ林における植物体の貯熱量を求めた.貯熱量の日較差は最大で約25W/m2,純放射量に対する割合は約5%であった.また,林内気温・湿度から顕熱・潜熱貯熱量を計算し,土壌の貯熱量については熱流板を用いて直接測定した.その結果,群落貯熱量全体の純放射量に対する割合は約10%であった.さらに,気温から植物体貯熱量を推定するパラメータ化手法として,樹体表面温度の代わりに測定しやすい林内気温を熱伝導方程式に与えて貯熱量を推定する方法を提示した.キーワード:貯熱量,熱収支,バイオマス,樹幹温度
  • 太田 岳史, 村石 保, 田中 隆文, 檜山 哲哉, 小林 菜花子
    セッションID: N25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    本研究では,都市二次林を対象として夜間CO2フラックスの補正の必要性の有無を検討した.その結果から都市二次林でのCO2固定量の年々変動を検討する. 夜間の値を見ると,摩擦速度が小さな値を示している場合,樹冠上の大気へ放出されるCO2フラックスの値が小さくなる傾向にある.これは,夜間の安定時に土壌呼吸などによって放出されたCO2が,大気が安定しているために樹冠層を通して放出されず,林間内に貯留されている可能性があることを示唆している.また,このような安定状態が現れた翌朝に特別大きな大気側へ放出されるCO2フラックスも見られない.これは,貯留されていたCO2が水平方向の移流によって対象林分から流防しことを示唆している. 摩擦速度を0.05msec-1ごとに区分し,気温とCO2フラックスの相関関係を3ヶ月毎に調べた.そして,気温とCO2フラックスの間に相関がなくなる摩擦速度を限界摩擦速度とし,限界摩擦速度以下の時は限界摩擦速度以上で得られた同時期の気温とCO2フラックスの関係より安定時CO2フラックスを補正した. 補正を行ったことにより固定量は補正前の52-58%にまで減少する.また,年毎の補正量を見ると,2000年夏期に大きな値となった.これは,当年は風の弱い夜が多く,大気が安定状態になった時間帯が長いためである.秋期,冬期には年による補正量の大きな相違はなかった. 各地で計測されている年間炭素固定量の値は,南ヨーロッパでの-6.6(tC・ha-1・yr-1)からシベリアでの-2.1(tC・ha-1・yr-1)程度である.また,我が国では川越市で-3.6(tC・ha-1・yr-1),苫小牧で-2.7(tC・ha-1・yr-1)程度が報告されている.本試験地は都市林であるが炭素固定量という点から見ると,既往の研究例と大きな相違はない. しかし,補正の有無,また補正の方法により炭素固定量は大きく変化するため,今後も安定したCO2フラックス計測手法の確立が必要である.
  • 諸岡 利幸, 蔵治 光一郎, 鈴木 雅一
    セッションID: N26
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的熱帯雨林樹冠上の風速鉛直分布及び乱流特性に関する研究例は少なく,ボルネオ島天然林に至っては皆無である。本研究では熱帯雨林における風速鉛直分布及び樹冠上の乱流特性を明らかにするとともに,風速鉛直分布を表現するときの森林の物理的なパラメータであるゼロ面修正量(d)と空気力学的粗度(z0)を異なる2つの方法を用いて算出し,他の熱帯雨林で報告されている値と比較する。
    2.観測地概要・方法 観測はボルネオ島北西海岸部中部に位置するランビル国立公園の森林で行われた。公園内の優占樹種はフタバガキ科で平均樹冠面は30-50mであり,樹高70mを超える巨大高木も現存する。平均年降雨量は2750mm程度で年間を通じて降雨がある。
     高さ93mの林冠クレーンのタワー部分に三杯風速計を5高度に設置して平均風速の鉛直分布を計測した。さらに超音波風速温度計を2高度に配置し3次元風速の観測から,大気安定度及び乱流特性の評価を行った。
    3.風向・風速の日変化と季節変化
     林冠クレーン及び約500m離れた高さ49mの木製タワー上の風向・風速観測を比較した結果,本観測サイトにおける風向・風速の変動パターンとして,1)風速はほぼ日の出の時刻に最小で15-16時に最大となる。2)午前に南東風,午後に北西風といった海陸循環風起源の風向日変化が起こる。3)北東モンスーンが到来する12,1,2月に他の時期と比較して風速が大きい。といった特徴が見られた。
    4.三杯式風速計による風速鉛直プロファイル観測
     樹冠上3高度で得られた風速の,最上部の風速に対する比をMonin-Obukhovの大気安定度を指標として安定・中立・不安定に分類して集計した。大気が中立状態にあるとき水平一様な地表上では,高度zにおける風速u(z)は下式で表される対数則分布を示すことが知られている。u(z)=(u*/κ)ln[(z-d)/z0](1)
    [u*:摩擦速度,κ:カルマン定数(0.41)]
    最上部の風速が4m/s以上かつ大気状態が中立の条件でd=46.6[m],z0=1.24[m]を得た。また大気安定度が安定から不安定に移行するに従い,高度低下に伴う風速の低下率が小さくなる。林内の風速鉛直分布についても安定時に林内の風速がより小さく,樹冠上と同じ傾向を示した。
    5.超音波風速計による乱流計測
    樹冠上2高度の乱流特性では1)風向に依存した吹上角(風速鉛直成分の水平成分に対する比)が存在する。2)2高度の摩擦速度はほぼ同じである。という結果が得られた。1)については地形に応じて風の吹上・吹下が起こっているということを,2)は2高度ともフラックスが一定となる境界層内にあることを示唆している。また2高度で得られる風速と摩擦速度から(1)式を介して,10分ごとのdz0を計算した。図2は2002年11月1日から8日の期間で2高度においてほぼ摩擦速度が等しいdz0の時系列を示す。図中の横線は図1に示したdz0の値である。超音波風速計の乱流計測から得られるdz0は各時刻でばらつくが,中立時の値はそれぞれ風速鉛直プロファイルから求めた値の周囲に分布する。また同図において大気状態が安定のときにdは小さく,z0は大きくなり,不安定のときにdが大きく,z0が小さくなる傾向が現れており,これも風速鉛直プロファイルから得られた結果と対応するものである。6.他の熱帯雨林との比較
     熱帯雨林の既往の研究で報告されているゼロ面修正量及び粗度とともに,本研究によって得られた値を追加したものを表1に示す。本観測サイトは他の森林に比べて樹高がかなり高く, dについて比較的大きい値が得られている。
  • 小林 草平, 加賀谷 隆
    セッションID: N27
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    はじめに森林内の渓流では,外来性植物リターが系に供給される有機物の大部分を占め,底生動物二次生産の重要なエネルギー源でもある。日本ではこうした渓流の多くが急峻で,物理環境の不均一性が大きい。渓流内のリター動態と生物プロセスに対して,物理環境の異なる場所は,異なる役割を持つと考えられる。 渓流内でリターは特定の場所にたまりを形成し,リターだまりとして点在している。演者らはこのリターだまりを形成場所を基に異なるタイプ(瀬,淵中央,淵縁)に区分し,タイプによって底生動物二次生産やリター分解などの生物プロセスが異なること,またその形成場所によってリターの移入・滞留パターンが異なることを明らかにしてきた。 本研究では,(1)リターだまり各タイプの頻度やサイズを追うことで,渓流リーチ内のリター堆積に対する,物理環境が異なる各場所の貢献度,その季節変化を明らかにし,(2)その季節変化のメカニズム及び(3)渓流リーチ全体の生態系プロセスに対するその季節変化の意義を,これまでに研究してきたリターだまり各タイプとその形成場所における,リター移入・滞留,分解,二次生産の各パターンにより検討する。方法 荒川源流域の東大秩父演習林,広葉樹林内を流れる7渓流(河川次数1–3),13渓流リーチ(各100m)において,2001年3,5,7月に調査を行った。 各月各リーチにおいて,リーチ内に存在する全リターだまりについて,形成場所を基にタイプ(瀬,淵中央,淵縁)区分を行い,サイズ(河床被覆面積)を測定した。 リターだまりのサイズからリター量を評価するため,各タイプ,様々なサイズの,20個のリターだまりについて,河床被覆面積とリター重量を測定し,リターだまり面積__-__リター重量関係式を作成した。結果 13渓流リーチにおける,リターだまりの平均頻度(100mリーチあたり)は,3月87,5月76,7月22,瀬タイプ41,淵中央タイプ8,淵縁タイプ12で合ったが,リーチ間でばらつきが大きかった。リターだまりのサイズは,瀬タイプが最も小さく平均0.02m2,淵中央タイプが最も大きく平均0.21m2であった。 リターだまりの平均サイズ頻度分布の季節変化を見ると(図1),瀬タイプと淵縁タイプでは頻度,サイズとも月ごとに減少していくのに対して,淵中央タイプでは5月に頻度が増加し,7月に頻度が減少するが平均サイズに大きな変化はなかった。季節変化パターンに関しては,リーチ間に大きなばらつきはなかった。 各タイプにおいて,リターだまりの面積とリター重量の関係は,べき乗関数によく当てはまった。タイプ間で関係式の傾きに大きな違いはなく,面積あたりのリター重量は,淵中央タイプに比べて瀬と淵縁タイプで大きかった。 この関係式より推定した各リターだまりのリター重量を基に,リーチ全体に占める各タイプリター量の割合を求めたところ(図2),3月は淵縁タイプで50%以上,瀬タイプで25%以上を占めたが,5月には淵中央タイプと淵縁タイプでそれぞれ40%を占め,7月には淵中央タイプで80%以上を占めた。考察 本研究により,渓流リーチ内のリター堆積に対する,各場所の貢献度の季節変化が明らかとなった;リターが多く堆積する場所は,淵縁や瀬から淵中央へと変化する。 これまでの研究から,リターの移入・滞留は,秋の落葉供給時には,瀬や淵縁タイプの場所に多いが,春は渓流内のリターの小片化が原因となり,淵中央タイプの場所に多いことが分かっている。一方,リター分解能力は,淵中央タイプで最も高いことが分かっている。リター堆積場の季節変化に,分解パターンが強く影響しているならば,リターだまりの頻度とサイズの減少は,淵中央タイプで最も大きいはずだが,今回実際に減少していたのは瀬と淵縁タイプで,淵中央タイプには頻度の増加も見られた。リター堆積場の変化はリターの移動によるものと思われる。 リターの分解速度,底生動物の二次生産速度は,淵縁タイプに比べて淵中央タイプでかなり大きいことがこれまでの研究より分かっている。したがって,今回明らかにされた淵縁から淵中央へというリター堆積場の季節変化は,リターがリター分解速度,リターを資源とする二次生産速度の高い場所に移動している。
T12 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
  • 中島 敦司, 奥田 尚孝, 奥田 吾記, 山本 将功, 小倉 和
    セッションID: Q01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    年間を通じた気温の上昇が アカマツの成長におよぼす影響を検討する目的で,自然採光型の人工気象室を,常に野外の気温より1.5℃低い条件,野外の気温と同じとした条件,常に野外の気温よりそれぞれ1.5,3.0,4.5℃高い条件調節し,その中で実生苗を育成した。その結果,樹高伸長の開始は,処理区の違いによらずほぼ同じとなった。しかし,伸長開始から伸長停止までの期間は,高温区で短くなる傾向が認められた。また,春の一次伸長量は,+4.5℃区において小さくなる傾向が認められた。同様に,一次伸長した主軸に着生した針葉束数は,+4.5℃区において小となる傾向が認められた。一方,加温開始3年目の土用芽の伸長は,+3.0℃区,+4.5℃区で二次伸長が活発となった。以上の結果,年間を通じた気温の上昇は,アカマツの土用芽の伸長を促進させ,連鎖的に翌年の成長も影響を受けると考えられた。
  • 奥田 尚孝, 中島 敦司, 奥田 吾記, 山本 将功, 小倉 和
    セッションID: Q02
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    気温の上昇がコナラの成長や生物季節現象に及ぼす影響を検討する目的で,3年生の実生苗を野外の気温に1.0℃,2.0℃,3.0℃加温した温暖条件および野外と同温,-1.0℃に調整した自然採光型の人工気象室内で育成した。その結果,年間伸長量は+3.0℃区で大となる傾向が認められた。着生葉数は+3.0℃区で増加した。年間のフラッシュの回数は+3.0℃区で増加した。地際直径については+3.0℃区で大となった。紅葉の進行は加温区で遅れる傾向が認められた。これらのことから,+3.0℃の温度上昇は,コナラの成長に対して大きな影響を及ぼす可能性が高いと考えられた。
  • 奥田 吾記, 中島 敦司, 山本 将功, 奥田 尚孝, 小倉 和
    セッションID: Q03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     持続可能な社会構築にあたって,再生可能資源である森林は極めて重要な存在である。 持続的な森林資源の活用を前提とした森林育成を行うためには,今後予測される地球規模での気候変動に対する,森林を構成する樹木の反応性について理解を深める必要がある。 本研究では,気温の上昇がスギCryptomeria japonicaの成長と季節変化にどのような影響を及ぼすのかを,一定温度で加温する温度条件をつくりだすことが可能な人工気象室を用いた実証研究により検討した。 実験は,和歌山大学システム工学部内に設置された自然採光型の人工気象室5基を用いて行った。人工気象室の温度条件は,常に野外の気温より1.0℃低い条件(-1.0℃区),野外の気温と同じにした条件(±0.0℃区),常に野外の気温よりそれぞれ1.0,2.0,3.0℃高い条件(+1.0℃,+2.0,+3.0℃区)の5種類とした。湿度はいずれの処理区も常に野外と同じになるように制御した。なお,日長調節は行わなかった。 実験に用いたスギは,18cmのビニルポットに2002年5月に植え付けた三年生の挿し木苗である。2002年6月1日に上述の温度条件に設定した人工気象室のそれぞれに,10個体ずつを搬入し,育成した。 それらの供試植物を対象に,2002年6月から2002年12月までの樹高伸長および器官別乾物重量を測定した。また,雌花,雄花の着花についての観察も行った。 樹高伸長については,高温区ほど伸長量が大きく,特に+2.0℃区,+3.0℃区において大となる傾向が認められた。 一方,主軸,側枝,根の器官別乾物重量については,+2.0℃区,+3.0℃区において主軸の乾物重量の増加が認められたものの,全器官とも各処理区において統計的に有為な差は認められなかった。 雌花の着花については,各処理区の着花節数において統計的に有為な差は認められなかった。 一方,雄花の着花については-1.0℃区,±0.0℃区では全く着花節が確認されなかったのに対し,高温区では着花節数が増加した。特に+2.0℃区,+3.0℃区で多くなる傾向が認められた。 以上の結果,気候変動にともなう温度上昇の影響として,+1.0℃,+2.0℃,+3.0℃程度の温度上昇下では,スギの樹高伸長量は大きくなると考えられた。しかし,それに伴う乾物生産量(CO2固定量)の増大は認められなかったことから,樹高伸長量の増大が乾物生産量の増大には直接反映されないことが考えられた。 その理由として,高温区における主軸の伸長量は大きいものの,その伸長部分における側枝の発達があまりみられなかったことがあげられる。そのことから,+1.0℃,+2.0℃,+3.0℃程度の温度上昇下では樹高伸長の増大とともに樹形の変化という現象を引き起こす可能性が考えられた。   また,このような温度上昇下では,スギの雌花の着花節数に大きな変化は現われないが,雄花に関しては,着花節数が増加する可能性が考えられた。
  • 山本 将功, 中島 敦司, 奥田 吾記, 奥田 尚孝, 小倉 和
    セッションID: Q04
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     温暖化の進行に伴う様々な影響が危惧されている。温暖化の進行を防止し,持続的な社会を構築するために森林を保全,育成することは,重要な課題の一つである。そのため,持続的な森林の保全,育成を適正な管理の下で行うためには,森林を構成する樹木の環境変動に対する反応性を理解する必要がある。そこで本研究では,年間を通じた気温の上昇が,樹木の成長にどのような影響を及ぼすのかを確認,把握することを目的とした育成実験を行った。水源涵養機能等の面から世界的に注目されているブナを供試植物とし,気温の上昇とブナの成長の関係について検討した。 実験には,和歌山大学システム工学部屋上に設置した5基の自然採光型人工気象室を用いた。人工気象室内の設定温度は,2001年12月1日から2002年5月末までは,野外の気温より常に+1.5℃,+3.0℃,+4.5℃加温,野外の気温と同じ,野外の気温より-1.5℃減温する5種類とした(実験1)。さらに,2002年6月1日以降は,野外の気温より常に+1.0℃,+2.0℃,+3.0℃加温,野外の気温と同じ,野外の気温より-1.0℃減温する5種類とした(実験2)。湿度はいずれの処理区も外気に追従するよう制御し,日長調整は行わなかった。 供試植物は,直径18cmのビニールポットに植え付けた,和歌山とほぼ同緯度である大分県産のブナの3年生実生苗とした。実験1,実験2ともに供試個体数は,各処理区につき10個体ずつとした。一般に,ブナは標高750m__から__1700mに分布している。供試したブナの母樹の生育標高について正確には不明であるが,実験地の標高は80mであり,その場での野外の気温は,ブナにとって少なくとも+4.0℃以上温暖化された条件といえる。そこで,設定した温度条件を,実験1,実験2ともに設定温度に対し4.0℃加温して考察した。 実験1では,2002年春季のシュート伸長量とシュートが1mm伸長するのに必要な積算温度を測定した。また,実験2では,2002年夏季の頂芽の発育量と,頂芽が1mm発育するのに必要な積算温度を測定した。 2002年春季のシュート伸長量については,+2.5℃区において大となる傾向が認められた。また,+5.5℃区,+7.0℃区,+8.5℃区のシュート伸長量は小となった。シュートが1mm伸長するのに必要な積算温度については,設定温度の高い処理区ほど積算温度が高くなる傾向が認められた。 2002年夏季の頂芽の発育量については,+5.0℃区において大となる傾向が認めれた。また,+6.0℃区と+7.0℃区では,発育量は大とならなかった。頂芽が1mm発育するのに必要な積算温度については,設定温度の高い処理区ほど積算温度が高くなる傾向が認めらた。 温暖化に伴う気温の上昇の影響として,+4.0℃から+5.0℃程度の気温上昇下では,春季のシュート伸長量および夏季の頂芽の発育量が大きくなると考えられた。また,+5.0℃を上回る気温上昇下では,ブナのシュート伸長や頂芽の発育の際,積算温度が高くなると考えられた。このことから,+4.0℃から+5.0℃を上回る気温上昇下でのブナの成長は,非常に効率が悪くなると考えられた。
  • 山ノ下 卓, 益守 眞也, Nuyim Tanit, 八木 久義, 小島 克己
    セッションID: Q05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    カユプテの適応機構を明らかにすることを目的として、現地調査と室内実験により、カユプテの火事への適応能力を評価した。火事などの大きな攪乱のないカユプテ林の林床で2年間にわたって実生の発生を調べたところ、カユプテの実生はほとんど発生しないことがわかった。しかし、火事跡地では実生の発生が見られたことから、カユプテにとって、火事は重要な更新機会になっていることがわかった。火事跡地に残存したカユプテの成木について、樹上のさく果の状態を観察した。枯れた枝のさく果はほとんど種子嚢が開いて種子が散布されていたのに対し、緑色の葉を着けていた枝では種子嚢が開いていないさく果が多かった。このことから、火事の高温や燃焼もしくは火事後の枝の枯死によって樹上のさく果の種子嚢が開いた可能性があり、火事が直接的もしくは間接的に引き金となってカユプテの種子が樹上から散布されると考えられる。 実験室内でさく果による種子の保護効果を調べた。さく果を10分間以上高温にさらすと、種子を直接高温に同じ時間さらしたときに比べて種子の発芽率は低くなった。しかし、短時間種子とさく果を高温にさらすと、逆に、枝に着いた状態のさく果、朔果、種子の順に発芽率が高かった。種子はさく果によって10分間以上の高温から保護されることはないが、短時間の高温にさらされた場合は保護されると考えられる。種子が樹上に蓄えられていることと種子の高い高温耐性に加え、さく果によって保護されることで、火事中にカユプテの種子が比較的発芽能を維持している可能性が高いと考えられる。高温にさらしたさく果のうち、種子嚢が開かずにいたものは開いたものより含水率が高かったこと、実際の火事直後に、樹上のさく果は種子を含んだままだったので、種子嚢は熱ではなく、乾燥によって開くことが示唆された。種子は火事中には放出されず、火事後に枝の枯死に伴って放出されると考えられる。火事と種子散布に時間差があることは、炎に直接種子がさらされないという利点がある。
  • 則定 真利子, 小島 克己
    セッションID: Q08
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    東南アジアにおける主要な造林樹種であるマメ科のAcacia auriculiformis,A. mangium,Paraserianthes falcataria,Leucaena leucocephala ついて、リン酸欠乏件下での根の高親和性リン酸トランスポーターの遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により調べた。根のクエン酸合成酵素遺伝子と分泌性酸性ホスファターゼ遺伝子の発現を併せて調べた。播種後1ヶ月の芽生えを砂耕栽培し、0.6 mMのリン酸ナトリウムを含む培養液とリン酸を含まない培養液を与える処理区を設けて3ヶ月間栽培した。いずれの遺伝子についてもリン酸欠条件による顕著な誘導が認められなかった。
  • 古川原 聡, 山ノ下 卓, 則定 真利子, 益守 眞也, 小島 克己
    セッションID: Q09
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    湛水耐性の高い種として知られるカユプテを用いて、根圏の低酸素濃度に対する光合成と糖代謝の反応を調べた。低酸素濃度条件が呼吸基質を葉から地下部に転流する量に影響するかどうかに着目し、ショ糖代謝に関わる酵素活性の変化をみた。
  • 田原 恒, 則定 真利子, 山ノ下 卓, 益守 眞也, 小島 克己
    セッションID: Q10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    フトモモ科樹木であるEucalyptus camaldulensis、Melaleuca cajuputi、Melaleuca bracteataのアルミニウム耐性と有機酸などの根からの分泌物の関係について調べた。
  • 楢本 正明, 片畑 伸一郎, 千葉 幸弘, 向井 譲, 角張 嘉孝
    セッションID: Q15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     林床の暗い光環境に生育する稚樹が、上層木の枯死・風倒などによって生じた明るい光環境で成長・生存していくためには、光環境変化に対する光合成適応が重要な要因となる。異なる光環境に生育する葉の光合成適応については、これまで多くの研究がされており、明るい光環境に生育する陽葉は豊富な光エネルギーを有効に利用できるように、高い光合成能力を示し、同時に過多な光エネルギーが光合成機能低下を招く光阻害の原因となるため、光阻害を回避するための光防御機能を強化していることなどが報告されている。しかし、光環境変化への適応過程における、さまざまな生理機能を時間経過を追って調べた研究は少ない。 新潟県苗場山系標高700mのブナ林床において生育するブナ稚樹をポットに移植して実験を行った。ポットを移動することで、間伐や枝打ち、風倒などによる稚樹の生育する光環境の変化を再現し、葉の形態的・生理的特性について測定を行った。林床の光環境を樹冠の閉鎖した林床から林縁にかけて3段階設定し、明るい方から、H(high light)、M(medium light)、L(low light)とした。それぞれの光環境は、光量子センサー(小糸工業社製)を用いて測定を行った。ポットに移植したブナ稚樹は、もともとLに生育しており、高さ50__から__100cm程度であった。移植は1999年11月に行った。Lにおいて葉が展開した後、2002年8月にHとMへポットを移動し、実験を開始した。以下この2処理区をそれぞれL-H・L-Mとする。また、対照としてLのほか、H(2000年11月落葉後にHへ移動)、M(2001年11月落葉後にMへ移動)を設定した。処理開始から1ヶ月間、クロロフィル蛍光測定器PAM2000(WALZ社製)を用い、夜明け前に最大量子収率の測定を行った。このほか光合成速度・葉数の測定を定期的に行い、同時に採取した葉は実験室に持ち帰り比葉面積(SLA)やC・N、色素等の解析を行った。最大光合成速度(PNmax)の測定には、携帯用光合成蒸散測定装置LI-6400(LICOR社製)を用いた。光量子束密度は、Lでは500μmol/m2/sとし、その他は700μmol/m2/sに設定した。光以外の環境は、気温22℃、相対湿度70%、CO2濃度350ppmに設定した。 8月の1ヶ月間の平均日積算光量子量は、Hが21.0 mol/m2、Mが9.8 mol/m2、Lが0.5 mol/m2であった。対照として設定したH・M・LにおけるPNmaxは、それぞれ7.2、5.4、2.5 mmol/m2/sであり、日積算光量子量の増加に伴ってPNmaxも増加した。また、SLAは日積算光量子量の増加に伴って低下した。最大量子収率はLで最も高く0.8程度であり、H・M はLと比較して低かったが(0.75程度)、HとMの間に差は見られなかった。 明るい光環境へ移動したL-H・L-Mの最大量子収率は、1日目に0.5程度まで低下し、ともに2日目に最低となる0.08・0.37の値を示した。その後両処理区とも最大量子収率は徐々に増加し、約2週間後にはそれぞれ0.5・0.6程度で安定した。最大量子収率の低下より、L-H・L-Mともに光阻害が確認されるが、その程度はL-Hにおいて大きいことがわかる。移動後7日目のPNmaxは、Lと比較してL-Hでは低下し、L-Mでは増加していた。しかし、その後PNmaxの大きな変化は見られなかった。光環境の変化によってL-MのPNmaxは増加したが、Mと比較して低い値であった。また、移動前の葉数を100%とすると、9日目ではL-H・L-Mともに100%であったが、1ヶ月後にはL-Hで63%、L-Mで92%まで低下し、特にL-Hにおいて多くの落葉が見られた。明るい光環境へと変化することで見られた光阻害の程度は光環境の勾配によって異なり、明る過ぎる光環境ではPNmaxの低下が見られた。PNmaxが低下することなく光合成適応が起こるには適切な光環境があることがわかった。 光環境の変化に対する光合成適応過程について理解することは、間伐や枝打ち等の施業に生理・生態学的な意義付けをする意味で重要であり、より効果的な施業を行うための貴重な資料になると思われる。
  • 光阻害からの回復過程について
    加藤 万季, 片畑 伸一郎, 篠原 健司, 角張 嘉孝, 向井 譲
    セッションID: Q16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめにスギの針葉は、冬期に直射日光にさらされると、緑色から褐色に変化することが知られている。この変化はカロチノイドの一種であるロドキサンチンが蓄積することによる。これまでの研究によりロドキサンチンは低温、強光条件下での光阻害に起因して蓄積し、光阻害の進行を防止する光防御機能をもつことが明らかされている。また、異なる標高に生育するスギを用いた実験から、厳冬期に、標高間で比較すると、ロドキサンチンの蓄積量には差が観られなかったが、標高の高い試験地ほどクロロフィル蛍光収率(Fv/Fm)が低下し、深刻な光阻害を受けていることが示唆された。そこで本研究では、気温が低下し、スギが最も低温・強光ストレスを受けていると考えられる1月に、異なる標高に生育するスギの切り枝を持ち帰り室内で回復させ、Fv/Fmと、色素組成の経時変化を調べた。これらの結果から、冬期に異なる標高に生育しているスギが受けている光阻害の程度とその回復過程を明らかにすることを目的とした。2.研究材料及び方法2002年1月24日に、静岡県仏谷山南側斜面の標高1120m、標高900m、標高630m、標高150mに生育するスギを用いてFv/Fm測定した後、切り枝を実験室に持ち帰り、水切りを行った後、実験室内の温度は20℃、光強度は50μmol/m2sに設定したグロスチャンバー内においた。これらを用いて回復の過程を調べるため毎日Fv/Fmを測定し、色素分析用の葉を採取した。採取した葉を用いて、80パーセントアセトンで色素を抽出し、分光光度計(Ultrospec2000 Pharmacia Biotech)及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC Shimadzu)を用いてクロロフィル及びカロチノイドの分離、定量を行った。また、光合成関連の代表的なタンパク質(Rubisco大小ユニット、LHC)をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法で解析した。3.結果及び考察 Fv/Fmは、標高1120mにおいて、現地では0.058と0.1を大きく下まわっていたが、11日後に0.58まで回復した。しかしその後0.8まで回復しなかった。標高900mにおいては、5日間で0.15から0.56まで上昇し、その後緩やかに上昇し、11日後には0.72まで回復した。標高630mにおいては、5日間で0.42から0.71まで上昇し、その後緩やかに0.76まで回復した。標高150mにおいては、5日間で0.58から0.78まで上昇し、その後0.78から0.80の間で推移した。 一方、キサントフィルサイクルの脱エポキシ率は、標高1120m、標高900mにおいては、4日間でそれぞれ0.77から0.09、0.68から0.06までと急激に低下し、Zは完全に消失した。また、標高630m、標高150mにおいても、2日間でそれぞれ0.54から0.08、0.44から0.07まで低下し、Zは完全に消失した。 ロドキサンチン量は、各標高とも0日目には大きな差はなかったが、回復過程で明確な違いが観られた。標高1120mにおいては、4日間増加し続けた後、急激に減少し、13日後には完全に消失した。標高900m、標高630mにおいては、緩やかに減少しはじめ5日目以降急激に減少した。標高150mにおいても、4日目以降急激に減少した。また各標高とも個体によって蓄積量に大きな違いがみられたが、標高間で比較すると有意な差があった。 光合成関連のタンパク質は、標高1120mにおいて他の標高と比較して著しく少なかった。また、回復過程において、標高900m、標高630m、標高150mにおいては3日後に増加が観察されたが、標高1120mにおいては変化が観られなかった。 以上の結果から、各標高におけるFv/Fmの回復と脱エポキシ率の回復に明らかな時間差があった。したがって、Fv/Fmの低下がZの残存にのみ起因しておらず、D1タンパク質などの減少にもよることが示唆された。また、標高の高い試験地の個体ほど、Fv/Fm、脱エポキシ率の回復、ロドキサンチンの消失に時間がかかった。特に、標高1120mにおいては、タンパク質が著しく減少していたことから、キサントフィルサイクルでは消去しきれない過剰な光エネルギーが多く発生し、これによって、タンパク質がより多く酸化分解されていることが示唆された。今後、光阻害からの回復過程に及ぼす光強度の影響を明らかにするため、異なった光条件下での回復過程を解析する予定である。
  • 菅原 誠司, 泉 憲裕
    セッションID: Q21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    組織培養により増殖させた3種のキリを順化させたところ、順化から約一年でヒカリギリ(Paulownia tomentosa var. tsinlingensis)において花芽形成したことを確認した。
    この花芽形成は巻き締めによって阻害されることが示唆された。
    また、この花芽形成には、キリてんぐ巣病ファイトプラズマは関与していないことが確認された。
  • 楠本 大, 鈴木 和夫
    セッションID: Q22
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    エチレンおよびジャスモン酸は防御反応を誘導あるいは調節するシグナル伝達物質であり、植物の誘導抵抗性や全身獲得防御に関与する。これらの物質はPRタンパク質やフェノール、テルペンなど防御物質の生成を促進するほか、傷害樹脂道形成などの形態的変化を誘導することが知られている。これまでの研究から、リグニンの合成に関しては、phenylalanin ammonia lyase等の一部の酵素についてエチレンやジャスモン酸が影響を与えることが分かっているが、実際に合成されるリグニン量に対して影響するかは明らかにされていない。本研究では、ヒノキ師部に傷を付けたときに合成されるリグニンに対し、エチレンおよびジャスモン酸がどのように影響するかを明らかにすることを目的とした。また、リグニンの前駆物質であるフェニルプロパノイドを抽出し、エチレンおよびジャスモン酸がリグニン合成系のどの反応を制御するかを考察した。実験は2002年9月、東京大学田無試験地で22年生ヒノキ5本を用いて行った。樹幹に形成層に達する傷を1個体につき7カ所付け、下記の試薬を含ませた脱脂綿を24時間傷口に接触させた。傷口に処理した試薬は__丸1__500ppmエスレル、__丸2__50ppmエスレル、__丸3__1mM CoCl2、__丸4__500ppmエスレル+1mM CoCl2、__丸5__2mM ジャスモン酸メチル(JaMe)、__丸6__0.5mM JaMe、__丸7__蒸留水である。傷付けから2週間後、傷の周囲の樹皮を採取した。傷口周辺の師部組織をいくつかの部位に分け、それぞれを80%メタノールで抽出して、可溶性フェニルプロパノイドを分析した。次いで、1N NaOHで残査を抽出し、エステル化フェニルプロパノイドを分析した。そして最終的に残った残査を、アセチルブロミド法を用いてリグニンの定量を行った。解剖観察は20 μm厚の生切片を作製し、フロログルシン__-__塩酸法によりリグニンを染色した。傷害リグニンの蓄積は、解剖観察により、傷害周皮のコルク組織外層と傷害周皮の外側にできるligno- suberized impervious tissue (SIT)で認められた。いずれの処理においてもリグニンの染色性や染色される範囲に差異はなかった。SITおよびコルク組織を含めた壊死部における細胞壁中のリグニンの割合は、500ppmエスレル処理および2mM JaMe処理によってのみ有意に増加した。一方、エチレン生成を阻害したCoCl2処理では、リグニン量は対照と変わらず、また、解剖観察においても対照と同様の蓄積が認められた。リグニンの前駆物質であるフェニルプロパノイドは、メタノール抽出物中には検出されなかったが、アルカリ抽出物中にはフェルラ酸のみが検出された。エステル化フェルラ酸は、健全師部に比べて、壊死部において著しく増加していた。しかし、各部位において処理間で有意な差は認められなかった。本実験では、傷に反応して生成される内生エチレンや内生ジャスモン酸に加えて、さらにエチレンやジャスモン酸を処理することによって、傷害リグニンの合成が促進されることが明らかとなった。一方、CoCl2処理では、内生エチレンを阻害したにもかかわらず、リグニン合成は抑制されなかった。このことはエチレンがリグニン合成にとって必ずしも必要不可欠ではないことを示唆している。また、処理によってリグニンが蓄積する位置が変わらないことは、リグニン合成の誘導因子として別の物質が存在することを示している。以上のことからエチレンおよびジャスモン酸によるリグニン合成の調節機構を考察すると、傷によって発生した何らかの物質がリグニン合成を誘導し、それに対してエチレンやジャスモン酸が付加的にリグニン合成を調節すると考えられる。エステル化フェルラ酸は傷害リグニンが増加している部位において著しく増加し、リグニン蓄積の経時変化と同様の変化を示す。したがって、エステル化フェルラ酸はリグニン合成に対して強く関与していると考えられる。しかしながら、リグニン量はエチレンとジャスモン酸によって増加したにもかかわらず、エステル化フェルラ酸は変化しなかった。このことから、エチレンとジャスモン酸はフェルラ酸以降の生合成を促進している可能性が推察された。
  • 楠城 時彦, 篠崎 一雄, 篠原 健司
    セッションID: Q23
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     環境劣化と食糧危機は、深刻かつ危急の問題であり、劣悪な環境での緑化の推進と農作物の生産性向上が強く求められている。とりわけ、バイオテクノロジーによる環境ストレス耐性植物の分子育種に対する期待が高まっているが、そのためにはまず高等植物の環境ストレス応答や耐性のメカニズムを知る必要がある。
     自然環境下に生育する植物は、乾燥、高塩濃度、低温、高温、強光などさまざまな環境ストレスにさらされている。そして、これまでに環境ストレスにより特異的な遺伝子の発現が誘導されることが明らかにされた。中でもシロイヌナズナ等のモデル植物では、近年のゲノム科学的解析手法の発展にともない、ストレス応答や耐性に関与する遺伝子が数百個以上存在することが分かっている。
     一方、樹木を対象としたゲノム科学的研究も近年活発に進められている。特にポプラに関しては、全ゲノム解読プロジェクトが進行しており、「モデル樹木」としての重要性が一層増すことは必至である。本研究は、ポプラゲノム解読後に到来する「ポストゲノム時代」を見据えた緊急的なバイオリソースの整備とそれらを用いた樹木の環境ストレス応答機構の解明を目的とする。

    2.研究手法
     樹木は、草本植物と比べて一般的にライフサイクルが非常に長く遺伝学的な解析が困難である。このため、ポプラのような形質転換系が確立している樹種では、特に逆遺伝学的アプローチが有効である。
     本研究では、ポプラの環境ストレス応答機構解明のために、以下に示す手順により完全長cDNAの収集を目指す。
    __丸1__ストレス処理をした稚樹からのmRNA抽出
    __丸2__完全長cDNAライブラリー作成
    __丸3__完全長クローンの塩基配列解読
    __丸4__配列情報に基づく遺伝子群の機能予測
    __丸5__単離したクローンと配列情報の公開

    3.期待される成果と今後の展望
     植物の環境ストレス応答には非常に多くの遺伝子が関与しており、それらの産物であるタンパク質の種類は多岐に及ぶ。本研究により、機能が未知のものを含めて多数のポプラ遺伝子の正確な構造が明らかになる。加えて、完全長cDNAを利用することにより樹木の生命現象の解明や組換え樹木の作成が可能となり、有用遺伝子の同定とその利用が促進される。
     ポプラゲノムの全塩基配列の決定は、2003年中の完了が予定されている。ゲノム情報がもたらす効果は、基礎生物学の分野にとどまらず、産業や地球環境問題といった応用分野においても革命的な影響を及ぼすと予想されている。もとより、樹木の環境ストレス応答機構の解明に向けた取り組みも、ポプラのポストゲノム時代に対応したものでなければならない。具体的には、ストレス関連遺伝子群の発現プロファイルの網羅的解析手法の整備(DNAマイクロアレイ解析)、あるいはシロイヌナズナをはじめとするモデル植物の情報を活用した統合的な解析システムの確立が必要である。
  • 二村 典宏, 篠原 健司
    セッションID: Q25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     近年、スギ花粉症患者が急増し、ひとつの社会問題となっている。スギ花粉症の原因物質として、2種類の主要アレルゲン (Cry j 1, Cry j 2) が同定されている。スギ花粉中にはCry j 1・Cry j 2以外の未知のアレルゲンも存在すると考えられている。
     一方、他の植物でのアレルギー研究から、多くの感染特異的タンパク質がアレルゲン活性を有していることが明らかになっている。スギでも、感染特異的タンパク質がアレルゲンとして働いている可能性がある。本研究では、北米で報告されているビャクシン(Juniperus ashei)花粉症の感染特異的タンパク質アレルゲンJun a 3に相同性のあるスギcDNAを単離し、その発現特性について解析した。
     Jun a 3の配列情報と、Jun a 3と相同性を有するスギEST情報をもとに、スギ花粉cDNAライブラリーから、Jun a 3と相同性のあるcDNAクローンを6種類(Cry j 3.1からCry j 3.6)単離した。Cry j 3.1からCry j 3.6cDNAの塩基配列から予想されるアミノ酸配列とJun a 3は約42%から57%一致した。このことと特徴的な16個のシステイン残基が見られることから、Cry j 3.1からCry j 3.6はJun a 3と同じく感染特異的タンパクPR-5ファミリーに属することが明らかになった。6種類のCry j 3のうち、Cry j 3.1からCry j 3.3は互いに86%以上一致し、高い相同性を示した。これに対し、Cry j 3.4からCry j 3.6は、相互の相同性もCry j 3.1からCry j 3.3に対する相同性も最高で約66%とそれほど高くなかった。また、Cry j 3.1からCry j 3.3のアミノ酸配列の長さはJun a 3とほぼ同じであった。一方、Cry j 3.4からCry j 3.6はJun a 3にない挿入配列やC端の付加配列をもち、いずれもJun a 3より10アミノ酸残基以上長かった。
     次に、DNAゲルブロットによりCry j 3.1からCry j 3.6のゲノム内の分布を調べた。その結果、Cry j 3.1からCry j 3.4は多重遺伝子族を構成していた。に対して、Cry j 3.5Cry j 3.6は少ないコピー数か1コピーからなることが判明した。また、Cry j 3.1からCry j 3.3は互いの相同性が高いために、cDNA全長をプローブとした解析では、互いを区別することができないことが明らかになった。
     さらに、RNAゲルブロットによる解析により発現の器官特異性を調べた。その結果、Cry j 3.1からCry j 3.4は雌性花序と発達した雄性花序及び根で発現量が多かった。Cry j 3.5は花粉と発達中の雄性花序で発現レベルが高かった。Cry j 3.6は成熟した雄性花序で最も高い発現が見られ、その他の器官での発現レベルは低かった。以上の結果から、花粉での発現レベルが最も高いCry j 3.5がアレルゲンとして働いている可能性がある。
  • 伊ヶ崎 知弘, 毛利 武, 篠原 健司
    セッションID: Q26
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    近年、日本国内ではスギ花粉症患者が激増し、大きな社会問題となっている。この原因の一つとして、戦後に人工造林された多くのスギが着花年齢に達し、大量の花粉を生産するようになったことがあげられる。「スギ花粉症」対策として、医学的治療や飛散予報の高度化など実用化研究が進められている。我々は、その一環として、遺伝子操作により雄花やアレルゲン生産量を抑制したスギ形質転換体の作出を進めている。本研究では、スギ未熟種子胚から不定胚を経由した個体再生系を確立した。スギ未熟種子は前年にジベレリンによる着花処理を施した約10年生の個体から6月下旬に採取し、滅菌後、未熟種子胚を取り出し、2,4-DとBAを含む改変MS培地に置床し、暗所25℃で培養した。約4週間後にembryogenicなカルスが確認され、これらを2,4-DとBAを含む改変MS液体培地に移植し懸濁培養した。懸濁培養は暗所で行い、2週間ごとに新しい培地に継代した。100 μ__m__径のナイロンメッシュで培養細胞を回収し、ポリエチレングリコール、アブシジン酸、活性炭等を含んだスギ固体再生培地上に移植した。約4週後には様々なステージの不定胚が形成された。これらはジベレリンを含む発芽培地に移植すると発芽し、正常に生育した。
T13 森林の分子生態学--植物,菌類そして動物--
  • 生方 正俊, 上野 真一, 林 英司
    セッションID: R01
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    ケヤキの遺伝資源を効果的に保全・管理していく上で,地理的な遺伝変異を明らかにすることは重要である。被子植物においては,葉緑体DNAは,母性遺伝するとされており,種子の散布によってのみ移動が可能であることから,地理的変異を解明するのに適しているといわれている。葉緑体DNAの2領域(TrnL 5’exon – TrnL 3’exonおよびatpB – rbcL)を対象に,新潟県から熊本県までの6産地の各1個体を用いてシークエンス反応を行い塩基配列を決定した。その結果,atpB – rbcLのスペーサー領域で,九州の1産地(熊本県菊池市)とその他の5産地との間に塩基置換1サイト,挿入・欠失1サイトが確認された。今後は,今回検出された多型を用いて,ケヤキの地理的変異の調査を進めるとともに,新たな領域での多型の検出も併せて行っていく予定である。
  • 宮下 直哉, 練 春蘭, 呉 炳雲, 寳月 岱造
    セッションID: R03
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的
     現在までに様々な植物を対象とした、様々なスケールにおける集団間遺伝的変異の研究が多数行われている。しかし、日本の木本植物に対して分布域の大部分に渡って広範囲にこのような研究が行われたのは現在のところ、ブナ(Fagus crenata)のみである。アロザイム、ミトコンドリアDNA、葉緑体DNAをマーカーとした研究が進められた結果、最終氷期における分布域の南下と再北上、リフュージアの存在などが明らかにされてきた。
    ダケカンバ(Betula ermanii)は亜高山帯に生育する落葉高木であり、低木状となって樹木限界付近まで分布している。また、先駆的樹種であり山火事跡地などで大群落を作る。日本においては北海道、本州(北中部)、四国の山岳地域に分布していることが知られている。花粉、種子共に風散布であり、重力散布・動物散布のブナとは散布距離が大きく異なると考えられる。また、生育適温もブナより低い。
     本研究では、ブナとは生態的特徴の異なるダケカンバを対象に葉緑体DNA、核DNAのSSRマーカーを用いて、1)本州中部以東における地理的変異、2)独立峰である富士山における集団間の変異を解析することを目的とした。
    2.材料と方法
     2001年夏、2002年夏__から__秋にサンプリングを行った。東京大学農学部北海道演習林、八甲田山、八幡平、栗駒岳、鳥海山、蔵王山、吾妻山、赤城山、八ヶ岳、富士山(11プロット)、塩見岳、権兵衛峠、乗鞍岳の計13山系、各5__から__30個体から新鮮葉あるいは冬芽を採取、乾燥の後、改良CTAB法によりDNAを抽出し解析に用いた。
    葉緑体SSRマーカーにはCpBepl02、CpBepl03、CpBepl05の3遺伝子座を、核SSRマーカーにはBeer01、Beer03、Beer12の3遺伝子座を用いた。
    3.結果と考察
     3つの葉緑体SSRマーカーによって、全サンプルは6ハプロタイプに分離された。各プロットにおけるハプロタイプの割合をFigure 1に示す。タイプAは栗駒岳以西での大部分を占めていた。タイプB、Cは北海道、北東北で大きな割合を占め、それ以外の地域と異なる系統がこれらの地域に分布していることが分かった。また、八ヶ岳を除くほとんどの山系では99__%__以上が1?2ハプロタイプしか見られなかった。特に八幡平、鳥海山、吾妻山、塩見岳、権兵衛峠では全ての個体が同じハプロタイプを示した。
     次に、詳しくサンプリングを行った富士山における葉緑体ハプロタイプの比率をFigure 2に示す。北斜面ではタイプAが優先しているのに対し、南東斜面の御殿場口に近づくにつれてタイプDの比率が高まっている。これは1707年の宝永噴火による火山噴出物に覆われ植生が失われた地域に、新たに異なった母系集団が進入、定着した創始者効果の結果だと考えられる。
     以上のことより、風散布種子であるダケカンバにおいても、その母系分布範囲を拡大するためには、新たな生育空間の存在が必要不可欠なのであろう。
  • 鈴木 節子, 戸丸 信弘, 石田 清, 山本 進一
    セッションID: R05
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. はじめに シデコブシはモクレン科の落葉小高木で、東海地方の丘陵地や台地・段丘地帯の湿地のみに生育する固有種で、東海丘陵要素とも呼ばれる。雌雄同株で、複数幹からなる株を形成する。花粉は虫媒である。近年では宅地やゴルフ場開発などによって生育地が急速に減少し、絶滅が危惧されている。本研究では、シデコブシ集団の繁殖様式を明らかにし、それがシデコブシ集団の遺伝的構造に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    2. 調査地と方法 調査地は愛知県瀬戸市南東部地域、海上の森屋戸川上流域約9.3 haである。2001年、シデコブシが生育する谷に沿って、幅10 m、全長660 mのベルトトランセクトを設置し、トランセクト内の立木(胸高直径10 cm以上)の毎木調査を行った。また、シデコブシに関しては流域内全体において、サイズに関わらず全幹の毎木調査を行った。シデコブシの幹が集中している部分をパッチと定義しパッチ当たりの幹数を測定した。2002年、流域内の578幹から葉サンプルを採取した。Isagiら(1999)により、ホオノキを用いて開発されたマイクロサテライトマーカー、11プライマーのうち6プライマー(M6D1、M6D3、M6D4、M6D8、M10D6、M15D5)を用いて遺伝解析を行った。これらのマーカーについて578幹の遺伝子型を同定し、多数遺伝子座遺伝子型が同一の幹を同一のジェネットとみなした。区別されたジェネットの遺伝子型をもとに遺伝的変異の大きさを表す集団遺伝学的パラメーター推定とFISの0からの偏りの検定をFSTAT(Goudet, J. 2002)を用いて行った。ジェネットごとおよびラメートごとの対立遺伝子の分布を評価するために空間自己相関モランのIを用いて解析を行った。モランのIのコレログラムはSpatial Genetic Software(Degen, B. 2000)を用いて作成した。
    3. 結果と考察 調査林分における優占種はアカマツ、コナラ、ソヨゴ、リョウブであった。これらの4樹種で全幹数の90 %を占めた。シデコブシは斜面下部と谷に沿って分布していた。流域内にシデコブシは169パッチ、幹数では1325本存在した。マイクロサテライト6遺伝子座について169パッチ、578幹の遺伝子型を同定した結果、176個のジェネットが識別された。検出された対立遺伝子数は合計55個で1遺伝子座あたり9個、ヘテロ接合度(期待値)の平均値は0.675であった。近交係数の推定値は平均で0.034であり、M15D5を除く全ての遺伝子座においてハーディーワインバーグ比からの偏りは有意ではなかったが、全体では有意となった。パッチあたり平均1.05個のジェネットが存在し、全体の87 %が1個、残りの13 %が2から6個のジェネットを保有していた。近隣の異なるパッチ間において同一の遺伝子型を共有する場合は19組あり、数メートル離れたパッチ間においても観察された。この遺伝子型の共有は伏条更新によるものと考えられる。1つのジェネットが保有する幹数は平均7.4本(樹幹長1.3 m以上の幹数平均2.9本+樹幹長1.3 m未満の幹数平均4.5本)であった。ジェネット数を種子繁殖由来の幹数、その平均幹数からジェネット数を差し引いたものを栄養繁殖由来の幹数と考えると、栄養繁殖による更新は種子繁殖のものより6.4倍多く行われていることがわかった。ジェネットごとのコレログラムは距離階級0から10 m及び10から20 mにおいて有意に正に偏っており、近い距離階級で遺伝的構造がみられた。ラメートごとのコレログラムでは近い距離階級において、栄養繁殖による、より強い構造がみられるものと予想される。
  • 面積110haの集水域におけるトチノキの遺伝構造解析
    斎藤 大輔, 井鷺 裕司, 川口 英之, 舘野 隆之輔
    セッションID: R06
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     渓畔林を構成するトチノキは虫媒・重力散布の高木種である.種子は重力散布種の中でも特に大きく,落下後小動物によって二次散布される.このため,トチノキ個体群では,種子散布による遺伝子流動が尾根により制限され,谷毎に分化した遺伝構造が形成されていると考えられる.そこで本研究では,複数の谷を含む面積110haの集水域におけるトチノキ個体群を対象として,その遺伝構造をマイクロサテライトマーカーにより解析し,遺伝構造を規定する要因を検討した.  調査地は,成熟したトチノキ個体群が広範囲に分布し,複数の谷が入り組んで存在する京都大学芦生演習林上谷上流域(110ha)とした.調査地内の全繁殖個体から葉を採取し,5個のマイクロサテライト遺伝子座(Minami et al., 1998)において遺伝子型を決定した.本研究では,調査地全体のトチノキを全個体群とし,各谷毎の集団を6つのサブ個体群として認識した.全個体群において,固定指数と個体間血縁度を算出し、個体間距離と血縁度の関係を検定した.次に,地形が血縁構造に与える影響を検討するため,全てのサブ個体群間で血縁関係が全体から異なるか検定した。最後にサブ個体群内の血縁構造を検討するため,サブ個体群毎に血縁度と地理的距離の相関を検定した.また,サブ個体群毎に最近接個体間距離と血縁度の平均値を求め,両者の相関を検討した. 得られた固定指数から,全個体群レベルではHardy-Weinberg平衡が保たれている事が明らかになった.また,個体間距離と血縁度の間には有意な負の相関があり、個体間距離150m以内の個体間で有意に血縁度が高かった. サブ個体群間の血縁関係を検証した結果,ほとんどのサブ個体群間(15組合せ中13組)において全体から有意に異なる血縁関係は見られなかった.ほぼ全てのサブ個体群で個体間距離と血縁度の間に有意な負の相関があった。また,サブ個体群内の最近接個体間距離とサブ個体群内の平均血縁度には有意な負の相関が見られた. 全個体群,サブ個体群ともに個体間距離と血縁度に負の相関があり,また個体間距離150mまでの個体間の血縁度が有意に高いことから,トチノキ個体群では制限された種子散布を反映して,局所的な血縁集団が形成されていると考えられる.サブ個体群に見られた,最近接個体間距離と平均血縁度の負の相関は,近距離の個体が多いほど,隣家受粉や種子散布の重複が多くなり,その結果集団全体の血縁度が高くなるために起こると考えられる. 一方,ほとんどのサブ個体群間の血縁度は、全個体群の血縁度と有意な差がないため、本調査地のトチノキ個体群は、谷毎に分化していないといえる.これは,ランダムな長距離花粉散布によって,血縁集団の分化が抑制されているためと考えられる.以上から,トチノキ個体群の血縁構造は,制限された種子散布距離により形成される局所的な血縁集団の分布と,長距離の花粉流動による血縁構造の均質化の効果によって規定されると考えられる.   
  • 加藤 珠理, 向井 譲
    セッションID: R07
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    本研究では、オオシマザクラが多く分布する伊豆諸島において、自家不和合性遺伝子座における遺伝子流動の実態について解析した。オオシマザクラを含むバラ科の自家不和合性の制御にはS-RNaseが関与しているので、分析個体のS遺伝子型はオオシマザクラのS-RNaseをプローブとして、サザンハイブリダイゼーションを行い、検出された制限酵素断片長多型(RFLP)に基づいて、決定した。なお、制限酵素はBglII、DraI、EcoRVを用いた。
    まず、大島と八丈島に生育するオオシマザクラのS遺伝子の保有状況を比較するために、大島において2集団50個体、八丈島において3集団97個体のオオシマザクラを分析した。その結果、大島では計38個、八丈島では計25個のS対立遺伝子が観察された。推定される対立遺伝子数は大島の集団が43.4個、八丈島の集団が18.5個で、大島に生育するオオシマザクラのS遺伝子のほうが多様性に富んでいた。大島は本州に近接しているので、八丈島よりも多くのS対立遺伝子が本州から流入していると考えられる。大島と八丈島の両方の島で観察されたS対立遺伝子は12個のみで、島間でS遺伝子の遺伝子流動は制限されていた。両方の島で観察された12個のS対立遺伝子の保持率は大島が43.1%、八丈島が63.5%であった。
    また、八丈島に分布するオオシマザクラ林において、2箇所の調査地を設け、母樹と種子の間における花粉を介したS遺伝子の流入について解析した。各調査地内に生育する全てのオオシマザクラ個体(計165個体)とそのうちの6個体から採集した種子(1母樹当たり15-25個)を分析した。その結果、各調査地内には約20個のS対立遺伝子が保持されていたが、実際に種子の花粉親として、寄与したS対立遺伝子は6-9個(平均7.83個)のみであった。集団内に多くのS対立遺伝子が保持されていても、各母樹に対して、交配に関与できるS対立遺伝子の数は限られており、このことは特定の個体間での交配が多いことを示唆しているだろう。
  • 服部 紗代子, 加藤 珠理, 向井 譲
    セッションID: R08
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     サクラの自家不和合性は、S遺伝子座の複対立遺伝子(S-RNase)により決定される。同じS対立遺伝子を持つ場合には、別個体や別品種であっても交雑できない。この性質は、他殖性を促進することから、種間雑種ができやすくなると考えられる。それ故、S-RNaseの遺伝子型を決定すれば、サクラの交雑や保全を行う上で貴重な情報が得られると思われる。本研究では、富士山西麓標高約800mに生育する、フジザクラ(Prunus incisa)天然林を対象としてS-RNaseの多型分析を行うと共に、決定したフジザクラのS-RNaseの塩基配列および、アミノ酸配列を基にS-RNaseの構造と分子進化について考察する。
     サザン・ハイブリダイゼーションにより、検出されたフジザクラのS-RNaseのRFLPパターンには個体間に豊富な多型性があり、51種類のS対立遺伝子が識別された。推定したS遺伝子型をもとに交配実験を行った結果、和合の組み合わせでは約50%の結実率、不和合の組み合わせでは結実は観察されなかった。この結果から、推定したS遺伝子型により、交雑和合性の評価が可能であることが実証された。
     集団に保有されるS対立遺伝子の推定値Nの値は、51.52と高い値となった。集団内に保有されるS対立遺伝子の数が少ない場合、遺伝的浮動によりS対立遺伝子の消失が起こり、集団の絶滅が示唆される。試験地としたフジザクラ集団では、非常に多くのS対立遺伝子が保有されており、フジザクラの遺伝的多様性が維持された健全な個体群であるといえる。
     PCRによるS-RNaseの増幅状況を電気泳動で確認したところ、36個体のうち31個体において、S-RNaseと思われるDNA断片を確認することができた。増幅されたDNA断片の長さは、個体間、対立遺伝子間で変異が認められた。増幅断片をクローニングし、S-RNaseの塩基配列を決定した結果、26種類のS対立遺伝子を同定できた。同定した塩基配列には、長さの異なるイントロンが含まれていることがわかり、PCR増幅断片の長さの違いに影響していると考えられる。また、PCRでは増幅されないS対立遺伝子が存在したことに関しては、プライマー部位での塩基置換や、通常のPCRでは増幅できないような長いイントロンを含んでいる可能性が考えられる。
     同定した26種類の塩基配列および、アミノ酸配列をもとに、フジザクラのS-RNaseの構造を解析した。系統樹を作成した結果、フジザクラのS-RNaseは、サクランボやアーモンドのサクラ属と同じクラスターを形成し、ナシやリンゴとは分化していることがわかった。フジザクラ集団で実在するS対立遺伝子対では、認識部位での変異が大きくなり、Kaは高くなると予想した。しかし、実在するS対立遺伝子対のKaの平均は0.111、実在しないS対立遺伝子対のKaの平均は0.109とほとんど変わらなかった。これは、自然集団では、受粉相手が常に変化する可能性があり、同じS遺伝子型をもつ個体以外のいかなる相手と受粉しても結実可能であることを反映する適応的な進化であると考えられる。また、アミノ酸配列からフジザクラのS-RNaseタンパクの二次構造を予測し、既報のナシの二次構造を比較したところ、alpha-herix、beta-strandの構造が非常に良く似ていることがわかった。更にフジザクラS-RNaseの立体構造の解析を行うことで、今は明らかにされていない自家不和合性の自己認識機構の解明に重要な情報を与えると考えられる。
     野生樹種であるフジザクラの自家不和合性に関する知見は、森林を管理していく上で良いモデルになると思われる。また、自家不和合性が交雑に及ぼす影響や、S-RNaseの分子進化に関する貴重な情報が提供できるものと思われる。
  • 森口 喜成, 谷 尚樹, 平 英彰, 津村 義彦
    セッションID: R09
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     スギの造林用実生苗の生産に用いる種子の多くは、採種園から供給されている。採種園は、各地域別に選抜された精英樹と呼ばれる優良個体で構成され、自然交配によって種子を生産する。現在、日本で使用されている採種園は、戦後の育種事業発足当初から造成されている従来型採種園と、作業の効率化や育種年限の短縮のために導入されたミニチュア採種園がある。設計様式の異なる2タイプの採種園の遺伝子流動はどのように異なるのか?また、同タイプの採種園でも採種園周辺の環境の違いで遺伝子流動は変化するのか?これらの不明な点を明らかにすることにより、より高い品質の実生苗を供給することができる採種園への遺伝的改良の基礎データを得ることができる。本研究ではマイクロサテライトDNAマーカーを用いて以下の点に着目して調査した。1)採種園外からの花粉の混入率と自殖率2)構成クローンの父親としての寄与の偏り 本研究では3つの従来型採種園A,B,Cと2つのミニチュア採種園D,Eを使用した。解析は採種園あたり12母樹、1母樹あたり30の種子を対象に行った。DNAは、各調査区内に植栽されている全構成クローン及びシャーレで発芽させた実生から改変CTAB法及びCTAB法を用いて抽出した。抽出したDNAを鋳型にマイクロサテライトマーカーでPCR増幅し、ABIPRISM 310, 3100で解析を行った。 解析に使用したマイクロサテライトマーカーは高い多型性を示し、すべての採種園で総父性排斥率は0.999と遺伝子流動の解析で父親を十分に特定できうる値を示した。全構成クローンと実生の間で遺伝子型を比較した時、実生が持つ母樹以外の対立遺伝子を区画内の構成クローンが持っていない場合、区画外からの花粉の混入とみなした。その結果、平均区画外混入率はAで65.8%、Bで47.8%、Cで35.0%、Dで40.8%、Eで50.0%であった(Table 1)。これらの混入率は採種園周辺のスギ林の面積と関係があり、採種園の造成場所の選定が重要であることが示唆された。混入率の違いは採種園のタイプ間では観察されなかった。平均自殖率はAで1.4%、Bで2.2%、Cで4.4%、Dで1.7%、Eで4.4%であった。これらの値は海外の他の針葉樹種とほぼ変わらない。自殖率は、1ラメットあたりの着花量が異なるのでタイプ別に考えなければいけないが、採種園に導入されているクローン数と関係があるのではないかと考えられた。また、園内の構成クローンの父親としての貢献度は、全ての採種園で大きな偏りがあり(Fig. 1)、貢献度の高い構成木上位3クローンで生産種子全体の約25.1-46.5%を占めた。園内の遺伝子流動は、各クローンの相対的な花粉量や開花フェノロジーの影響をうけると考えられた。
  • 育種素材園から得られた実生家系を用いた解析
    高橋 誠, 津村 義彦, 高橋 友和
    セッションID: R10
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     ブナ(Fagus crenata Blume)の交配様式について解析を行った。分析材料には,林木育種センター東北育種場内に設定されているブナ育種素材保存園から得られた自然交配家系6家系の合計217個体を用いた。分析にはTakana et al (1999)が開発した4遺伝子座のマイクロサテライトDNAマーカーを用いた。 分析した217個体の内,173個体(0.797)については花粉親を特定することができた。これらの個体の内,自殖個体は1個体のみで,他殖率は0.994であった。花粉親としての寄与率が最も高かったクローンは三本木103で,0.434であった。花粉親としての寄与率はクローン間で大きく異なり,任意ではない交配が行われていると考えられた。
  • 内山 憲太郎, 津田 吉晃, 高橋 康夫, 後藤 晋, 井出 雄二
    セッションID: R12
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    近年、持続的な森林施業を行うためには、施業対象樹種の遺伝的多様性の維持が必要だと考えられるようになってきた。しかし、実際に施業が行われている森林の遺伝的多様性に関する情報はいまだ少ない。そこで本研究では、持続的な天然林施業が行われている東京大学北海道演習林において、山火事など大規模な攪乱後の先駆樹種で、代表的な有用広葉樹であるウダイカンバ(Betula maximowicziana Regel.)に注目した。そしてその高齢木集団が、施業対象となりうる地域スケールで、どのような遺伝的特徴を持っているのかを明らかにした。
  • 永藤 杏子, 津田  吉晃, 内山 憲太郎, 丹下 健, 高橋 康夫, 後藤 晋, 井出 雄二
    セッションID: R13
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    東京大学北海道演習林では特に表現形質が優れた天然木を登録管理し、保存を図っている。ウダイカンバ(Betula maximowicziana Regel.)は用材として優れた特性をもつが、光要求性が強い樹種であり、天然林内ではほとんど更新が見られない。また造林しても病害や獣害のために成林することは稀である。そこで当演習林では、優良母樹の遺伝子保存を目的として、優良木の周囲のササなどの植生を土ごと取り去る地はぎ処理を行った。しかしその効果について定量的・遺伝的評価はまったくされてこなかった。そこで本研究では、更新木・優良母樹・周辺成木の三集団についてマイクロサテライト多型解析を行うことにより、地はぎ処理の効果を検証した。
  • 高橋 友和, 平 英彰, 谷 尚樹, 津村 義彦
    セッションID: R14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    はじめにスギは日本における主要な造林樹種の一つである。スギ天然林は、北は青森県鰺ヶ沢、南は鹿児島県屋久島と暖温帯から冷温帯まで幅広く分布しているが、断続に分布しておりその面積はごくわずかである。Tsukada(1980, 1982, 1986)の花粉分析の結果によると、最終氷期以降のスギの分布変遷は日本海側及び太平洋側における南方のレフュージア集団からそれぞれ北上したと考察されている。ジテルペン炭化水素分析による研究では、針葉形態から区別されているウラスギ(日本海側)とオモテスギ(太平洋側)の2系統はおおよそ分化していると報告している(Yasue et al., 1987)。しかしアロザイムやCAPSマーカーを用いた研究では、集団変遷及び各集団の遺伝的多様性の固有性に関する情報はほとんど得られていない(Tomaru et al., 1994; Tsumura and Tomaru, 1999)。マイクロサテライトマーカーは共優性マーカーであり多型性が高いことで知られる。特に1遺伝子座あたりの対立遺伝子数が極めて多いことから、allelic richnessを用いたボトルネック効果の検出あるいは出現頻度の低い対立遺伝子の検出が期待でき、これまで明瞭に認められなかった分布変遷経路の把握あるいは各集団の保有する遺伝資源の評価を行う際に有効なDNAマーカーであると考えられる。そこで本研究は全国のスギ天然林を対象にマイクロサテライト遺伝子座を用い、集団の分布変遷の把握及び各集団の保有する遺伝的多様性の評価を行った。材料と方法スギの天然分布域を広くカバーする26集団を対象におよそ30個体から針葉を採取し、改変CTAB法によりDNAを抽出した。遺伝変異の解析にはスギで開発したマイクロサテライト遺伝子座のうち8座を用いた(Table1)。各集団の遺伝的多様性を表す統計量(Ho, He, Alleric richness)及び集団間の遺伝的分化の大きさを表す統計量(FST, RST)、 集団ごとに近交係数(Fis)を算出した。各集団間の関係を調べるために各集団間のNei(1978)の遺伝的同一度を算出し主座標分析を行った。各集団間の遺伝的な違いを調べるために個体の無作為化とG検定を行った。各集団が保有する出現頻度が5%以下の対立遺伝子の分布を調査した。結果と考察遺伝的多様性を評価したところ、CS1906を除く全遺伝子座で高い値を示したが、集団間において明瞭な違いは認められなかった。またGSTの値はこれまでの報告と変わらなかったが、RSTの値はGSTの値より少し高い値を示した(Table1)。Fisの値は各集団、各遺伝子座を通して異なったが、これはヌル対立遺伝子座の存在が考えられた。各集団間の遺伝的同一性を用いた主座標分析から太平洋側と日本海側に分かれるような地理的な傾向が若干認められた。また個体の無作為化とG検定を行ったところ、北限の鰺ヶ沢、桃洞佐渡集団を中心とした日本海側東北集団及び南限の屋久島集団と他集団との間で有意な違いが多く検出された。また希な対立遺伝子を調べたところ、特に屋久島集団で多く検出された。以上のことから、他地域から孤立し大きな集団を形成している南限の屋久島集団では現在でも固有な遺伝的多様性を維持していることが考えられた。
  • 正田 悦子
    セッションID: R15
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    スギカミキリ(Semanotus japonicus)は,班紋の大小や体色の濃淡などの外部形態に地理的変異を持つ。本種の地理的変異の分布は最終氷期最盛期(約1万8千年前)のスギ退避地の分布と対応を示す。氷期にスギカミキリがスギ退避地ごとに分断されたために,種内に遺伝的構造が形成した可能性が指摘されている。しかし,個体群の遺伝的な分化の程度や,変異の分布の詳細については未解明である。本種の個体群構造を,形態と遺伝子から解析した。
    第109回,111回日本林学会大会において,筆者は地域個体群間で卵期発育速度が異なることを発表した。卵期発育速度の変異は,系統的なものであるのかを解明するために,遺伝的分化と卵期日数の差異の対応を評価した。
    形態形質は個体群ごとに一定のまとまりを示した。本州,四国のスギカミキリは日本海側の若狭湾周辺(福井,京都)と太平洋側(茨城,千葉,愛媛,高知)の個体群間で,形態が大きく異なり,中国地方(鳥取,岡山,島根)と岩手の個体群はそれらの中間的な形態を示した。スギは最終氷期に日本海と太平洋沿岸の限られた範囲の退避地に分布していた。若狭湾沿岸と太平洋側のスギカミキリの形態的分化は,スギの最終氷期の退避地でスギカミキリの遺伝的構造化が進んだという仮説と符合した。スギの氷期後の分布変遷によりスギカミキリの形態変異の分布パターンは説明される点が多く,氷河期における隔離は種内変異の形成の重大な要因であることが示唆された
    。ミトコンドリア遺伝子のCOIIからCOII領域の部分塩基配列を,4個体群の52個体について決定した。10ハプロタイプが検出され,2クレードに大別され,それぞれ太平洋側と日本海側の系統である可能性が高い。卵期発育速度の変異は遺伝的分化により説明された。太平洋側の個体群は日本海側の個体群よりも卵期が長い可能性がある。
  • 前原 忠, 周 志華, 坂上 大翼, 寶月 岱造
    セッションID: R16
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     現在もなお日本各地において恒常的に発生しているマツノマダラカミキリ(Monochumus alternatus、以下、カミキリ)の個体群特性、および繁殖特性を明らかにするため、マイクロサテライト(SSR:simple sequence repeat)を利用した遺伝解析を行った。東京都西東京市に所在する東京大学田無試験地において、恒常的に発生しているカミキリについて、2000年に枯死したマツから2001年に発生し採集された集団(以下、AMI01)、2001年に枯死したマツから2002年に発生し採集された集団(以下、AMI02)、2002年に試験地のマツ林で誘引トラップにより捕獲された集団(以下、TRAP02)、および茨城県東茨城郡内原町鯉渕に所在するアカマツ林で2001年に枯死した木から2002年に発生し採集された集団(以下、IBA02)の4つの集団を解析に用いた。
     5つのマイクロサテライト座全てにおいてマイクロサテライトを確認できた個体数は、AMI02が93、TRAP02が40、IBA02が23、AMI01が75個体であった。解析した全個体の5つのマイクロサテライト座(A・B・F・G・I)からそれぞれ5・8・7・5・10種類の対立遺伝子を検出した。
     (1)遺伝的な分化の度合いを示すFst(Nei,1987)の値は、田無産カミキリ(AMI01・AMI02・TRAP02)および茨城産カミキリを併せた全体で0.0305となり、ほとんど分化が見られないレベルであった。各集団間のFstの値も低かった。遺伝的距離(Nei,1972)を元にUPGMA法によるクラスター解析を行った結果、田無のAMI01とAMI02が最も近く、それらに対して次に近いのがTRAP02となり、IBA02が最も遺伝的な距離が離れていることが示された。田無試験地は周辺を住宅地に囲まれた都市林であり、連続した森林帯から離れた場所に位置している。そのような孤立した森林内で発生しているカミキリは、今回併せて解析した茨城の集団と遺伝的に分化が見られるのではないかと予想したがほとんど見られなかった。孤立していると思われた田無のカミキリ集団が、実際には遺伝子交流集団の部分集団であるか、あるいは、実際に集団が孤立していても遺伝的な分化が見られるほどの時間を経過していないのではないかと考えられた。
     (2)田無産カミキリの集団間においてもFstの値は小さかった。しかし、同じ年に発生しているAMI02とTRAP02よりも、発生年が異なるが同じ田無の網室捕獲集団であるAMI01とAMI02の間で遺伝的に近いという結果であった。田無試験地のマツから発生しているカミキリとトラップで捕獲されるカミキリの間に多少の遺伝的な差異が見られることから、試験地内へ他の場所で発生したカミキリ個体が飛来している可能性も考えられた。
     (3)AMI02の集団を発生した4本のマツ個体ごとに分けて、それら集団間の遺伝的な差異を見た結果、Fstは全体で0.0609という値を示し、遺伝的に少し異なることが示された。それぞれの集団で、5つのマイクロサテライト座の全遺伝型から判断し、推定可能な最少の母親カミキリの個体数は、4・3・2・2個体であった。少なくとも複数の母親カミキリがマツ1個体に産卵していることが示された。今回網室に供試した枯死マツは、生存時に最も近いもので2個体間の距離が数mであった。にもかかわらず、発生したカミキリには遺伝的な差が見られた。特定のマツ個体を複数の母親個体が産卵木として利用しており、移動して産卵木をかえることは少ないことが示唆された。
     今後はより情報を確かなものにし、カミキリ集団の遺伝的特性および繁殖特性を明らかにするために、日本各地ならびに周辺アジアのカミキリ集団および野外採集した雌カミキリ個体の受精卵に注目し遺伝解析を進めたい。
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