日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
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T13 森林の分子生態学--植物,菌類そして動物--
  • 久保田 耕平
    セッションID: R17
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年,分子マーカーを用いた系統樹の構築が昆虫の多くの分類群について行われている。オサムシ科オサムシ属オオオサムシ亜属に属する日本固有のグループについては研究例が多く,核DNAにもとづいた系統樹とミトコンドリアDNAにもとづいた系統樹が大きく食い違い,核DNAにもとづいたものが,形態形質にもとづく従来からの分類により近いということがわかってきた。この原因のひとつに種間の交雑とその後の戻し交雑によるミトコンドリアDNAの浸透が考えられる。 演者らはオオオサムシ亜属のアオオサムシとシズオカオサムシの境界付近で両種のミトコンドリアDNAを解析し,形態形質とミトコンドリアDNAのハプロタイプの分布境界がずれていることを明らかにした。これは過去の交雑の影響でミトコンドリアDNAが一方向に浸透したことを意味する。さらに中部地方では他の種を含め,複雑なミトコンドリアタイプの分布が認められた。これらは異所的分化後の二次的接触で交雑を繰り返しながらも完全に同化することなく,分化を続けてきたこのグループの進化過程をを示唆するものである。 このグループではマイクロサテライト領域の解析も可能となり,今後さらに精度の高い遺伝的変異により,種分化や分布域形成過程の探究が行われることであろう。
  • 呉 炳雲, 奈良 一秀, 宝月 岱造
    セッションID: R18
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    【はじめに】
     外生菌根菌は樹木の養分吸収を促進し、森林生態系において、重要な役割を果している。Cenococcum geophilum (以下 Cg) は、世界中に広く分布する外生菌根菌の1つであり、特に乾燥耐性が強い菌と言われている。
     富士山南東斜面5合目付近は、イタドリなどの先駆植物がパッチ状に点在し、ミヤマヤナギをはじめとする外生菌根樹種がそのパッチ内に進入する一次遷移の初期過程にある。ここではハマニセショウロなどのキノコを作る菌根菌が優占しているが、Cgなど、キノコを作らない菌類の菌根も部分的に共生していることが、地下部の調査で明らかにされた。Cgのようにキノコを作らない菌がどのように繁殖しているかは興味深いが、今までその有性生殖過程も知られておらず、その繁殖機構は不明である。
     本研究では、富士山南東斜面のミヤマヤナギに共生するCgの繁殖様式や集団間の遺伝的関係を明らかにすることを目的とし、SSRマーカーを用いてDNA多型解析を行った。
    【材料と方法】
     富士山南斜面から東斜面にかけて、下記の四つの調査地(御殿場、富士宮、須走1、須走2)を設けて、2002年7月から10月までの間、調査とサンプリングを行った。
     御殿場の調査地においては、100×550mの調査区を設定した。調査区には159のパッチが点在し、ミヤマヤナギはその内37のパッチに存在している。パッチのミヤマヤナギが生えている部分の周囲から約1m間隔で土壌サンプル(10×10×10cm)を掘り取った。その他の三つの調査地においては、約100×100mの範囲で、ミヤマヤナギの樹下から同量の土壌サンプルを各20取った。各土壌サンプルの中から、実体顕微鏡下でCgの菌根と菌核を採取した後、シリカゲルで乾燥し、DNAを抽出した。抽出したDNAについて、作製した5つのSSRマーカーを用いて多型解析を行った。
    【結果と考察】
    (1)御殿場調査地内の多型解析
     御殿場調査地内のミヤマヤナギが存在する37個のパッチのうち、8個のパッチにCgの菌根や菌核が存在した。22個の土壌サンプル中のCg菌体から、7つの遺伝子型が見出された(図―1)。同じ遺伝子型が複数のパッチに存在したり、異なる遺伝子型が1つのパッチに混在することもあった。最も広く分布する遺伝子型(B)は、5つのパッチに存在し、山斜面の方向に沿って78mの範囲で分布していた。Cgは胞子を作らないので、菌核が雨水や砂れきの移動に伴って広がったものと考えられる。
    (2)集団間の遺伝的関係
     各集団のCg菌根は比較的多型が多いことが示された。御殿場調査地では、22土壌サンプル中に7つの遺伝子型が存在したのに対し、他の3つの調査地では、より多い多型が見られた。富士宮では、9土壌サンプル中から10個の遺伝子型、須走1では、5土壌サンプル中から8個の遺伝子型、須走2では、7土壌サンプル中から10個の遺伝子型が存在した。1つの土壌サンプル中に、二つの遺伝子型の菌根が存在することもあった。
     一方、御殿場の7つの遺伝子型中の4つは富士宮のものと共通していたが、その他の集団間では共通する遺伝子型はほとんどなかったことから、Cgは各集団間で遺伝的に比較的分断されていることがわかった。
  • 奈良 一秀, 宝月 岱造
    セッションID: R19
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    一次遷移の初期過程では、利用できる土壌養分の量は非常に限られる。外生菌根菌は樹木の根に共生し、その養分吸収を促進することから、先駆樹木実生の定着や生育に必要不可欠である。我々のこれまでの研究によって、富士山の一次遷移初期過程においても、多種多様な外生菌根菌が存在していることが分かっている。それぞれの菌は、宿主樹木に対して異なる影響を及ぼすことから、どのような菌が実生に定着するのかを明らかにすることは、実生の生育のみならず、植生遷移を考える上で重要であろう。本研究では、先駆樹木の当年生実生を、ミヤマヤナギのあるパッチ、ミヤマヤナギのないパッチ、裸地に植栽し、既に存在する菌根性樹木の存在が実生の菌根形成と菌根菌群集構造に及ぼす影響を調べた。さらに、それぞれの実生の乾重や養分含量を測定し、共生する外生菌根菌の種と実生の生長の関係を調べた。裸地やミヤマヤナギのないパッチに植栽した実生は菌根が形成されず、成長も悪かったが、ミヤマヤナギのあるパッチに植栽した実生はいずれも菌根を形成し、成長も促進された。形成した菌根の大部分は、成木に感染している菌と同じであった。このことから、既に存在しているミヤマヤナギが菌根菌母樹として機能し、実生の菌根形成、成長を促進したものと考えられる。こういった機能は、植生遷移の進展に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
  • 宝月 岱造, 練 春蘭, 成松 真樹
    セッションID: R20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    国内でのマツタケの生産量が近年急激に減少し、現在、マツタケは、日本で最も高価な林産物の一つとなっている。過去数十年にわたって様々な人々がマツタケの人工栽培に挑戦してきたが、未だ十分な成果は得られていない。一方、マツタケの自然繁殖力を高めるマツ林管理の方法を確立して、マツタケ生産量を増やそうとする努力もなされてきたが、未だ満足する成果は得られていない。 私達は、マツタケ生産に有効な方法を考案する上で、なによりもまず、自然におけるマツタケの繁殖機構をより深く理解することが不可欠だと考え、マツタケが発生するアカマツ林におけるマツタケ個体群の遺伝解析を行った。
  • Kanchanaprayudh Jittra, 周 志華, Sihanonth Prakitsin, Yomyart Sunadda, 宝月 ...
    セッションID: R21
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    タイにおけるEucalyptus camaldulensis人工林内の菌根菌集団の遺伝的構造を解析した。また、Pisolithus albusの地下ジェネットの同定を試みた。試験地内に2m×2mの枠、5個を作った。枠を16個の格子に区切り、各格子から、土壌プロック(10cm×10cm×20cm)を堀取り、土壌から菌根をサンプリングした。その後、菌根サンプルからDNAを抽出し、ITS1f-4およびITS3-4領域のPCR増幅を行った。ITS領域の塩基配列をDatabaseのデータに比較することにより、9種の菌根菌が存在していると推測した。また、推定された9種の菌根菌は場所と時間に徒って非常に安定していることが示唆された。SSR マーカーを用いたP. albusの地下部ジェネットの解析により、子実体と同じ遺伝子型を持つ菌根が子実体の下と近くに存在していることが分かった。
  • 後藤 晋, 吉丸 博志, 高橋 康夫
    セッションID: R22
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年、貴重な森林の保全管理には,構成樹種の繁殖様式や遺伝的多様性に関する知見が重要であると認識されるようになってきた.そこで本研究では,マイクロサテライトマーカーとRAPDマーカーを利用して個体密度が異なる状況におけるヤチダモの花粉散布パターンを調べた.その結果,個体密度の低い状況における飛散距離は最大1,500m以上になり,ヤチダモの雌孤立木が受精できるのは,想像以上に大きい花粉飛散能力によることが明らかになった.個体密度が高い場合,花粉飛散距離は,平均で約80mであった.交配成功には,雄花着花量が影響を与えることが示唆された。本研究で用いた1座のマイクロサテライトマーカーは,19のアレルを持ち,13座のRAPDマーカーと同程度の識別能力を持っていた.両方のマーカーの情報を組み合わせることにより,効率的に父性解析が可能であると考えられた
  • 河原 孝行
    セッションID: R23
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    ムニンビャクダンSantalum boninense Tuyamaは小笠原諸島に固有の低木種で、数種の植物に半寄生している植物である。現在、環境省版レッドデータブック(2000)により絶滅危惧IB類に指定され、個体数は250個体未満と推定されている。また、稀にしか結実しないことが報告されており、後代の育成が危惧されている。ムニンビャクダンは特に利用されていないが、ビャクダン属は香木として珍重されており、将来遺伝資源として利用可能性がある。ムニンビャクダンは地下茎により無性的に増殖しているらしいことから、現在1つの個体群に考えられるようなものでも実際は1つのクローンに由来している可能性があり、。ムニンビャクダンの低い結実率は、1)磁化不和合性または近交弱勢と2)クローンにより広がった集団の遺伝構造、、3)訪花昆虫の欠落などが要因として仮定される。そこで、本研究では、絶滅危惧植物ムニンビャクダンの保全を目標に、1)分布など現状の解明、2)分子マーカーによる遺伝構造の解析を行った。 小笠原諸島父島・母島にてムニンビャクダンの現地調査を行った。各集団のラメットの概数を数えた。6集団より異なるラメットと考えられる(1__m__以上離れている)計71個体より葉を採取し、DNA抽出を行った。核ゲノム上のrDNAクラスターのスペーサー領域であるITS1及びITS2、葉緑体ゲノム上のスペーサー領域psbM-trnD、、trnR-trnNをダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した。また、RAPDマーカー及びSSRマーカーを用いた結果も発表を予定している。 ムニンビャクダンは父島3ヶ所(長崎約50ラメット、旭山8ラメット、奥村約30ラメット)、母島3ヶ所(東山約50ラメット、乳房ダム8ラメット、万年青浜約30ラメット)に分布していた。長崎ではいずれも尾根や斜面上部の比較的日当たりのよいやや乾燥した立地に生育していた。父島では樹高平均が1.3__m__に対し、母島では1.7__m__と高い傾向が見られた。ITS1は376bp、ITS2は358bpの全長があった。6集団x個体中に多型は見られなかった。葉緑体DNAは各集団2個体計12個体を抽出し、塩基配列を比較した。psbM-trnDイントロン1001bp、trnR-trnNイントロン630bpはすべての個体で同じ塩基配列を示し多型はなかった。 ITSはこれまでの結果から、ムニンビャクダンではITS領域、葉緑体スペーサーとも多型が見いだされず、非常に遺伝的に均質であることが示唆された。各集団が単一または少数のクローンにより維持されている可能性が高い。また、集団間でも多型が検出されなかったことから各集団が近年の同祖的な期限に由来しているのかも知れない。多くの木本性植物が高い他殖性を保っていることを考えると、この遺伝的な多様性の低さは自殖または近交による弱勢を生じている可能性があり、自然状態での非常に低い結実率を説明できるかも知れない。多型性が高いSSRマーカーや情報量の多いRAPDマーカーの利用による精密なクローン同定が期待され、今回その1部も併せて報告する予定である。また、今後、人工交配により自家和合性・近交弱勢の調査が必要である。
  • 島谷 健一郎
    セッションID: R24
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    プロット内の全成木の遺伝子型データが与えられた時,そこから予測したいものはいろいろある.繁殖過程をいろいろ変えた時に得られる次世代の空間的遺伝構造,それが現世代とほぼ同一(即ち遺伝構造が安定状態にある)になるための繁殖過程が満たすべき条件,あるいは次世代遺伝構造が稚幼樹個体群などで実際に与えられている時,どのような機構が繁殖に働いたらそのような構造が現れるのか. これらは単純には実際のデータから始めてシミュレーションを行えばいちおう結果を得る事はできよう.しかしそのような数値計算は致命的欠陥を伴う.繁殖過程に働く要因を2つ以上考えてパラメーターにすると,それらの様々な組み合わせによって次代の構造が様変わりするが,有限個の何らかの意味で恣意的に選ばれたパラメーターの組み合わせの結果だけでは,重要な変化を見落とす恐れがある.もっとも恐ろしい量のシミュレーションをこなせば,全パラメータの連続的変化に伴う遺伝構造の変化もかなり見て取れよう.しかしどうあがいても,例えば遺伝構造が安定であるための最適な繁殖過程(パラメーター)を求める事はできない.最尤法などで最適解を求めるには,コンピューター実験ではなく,何らかの理論的枠組みの構築が不可欠である. ここでは,雌雄同株,自家不和合性を持つ樹種に対して,(1) 交配は2個体の距離について単調減少する関数に従う,(2) 次代個体は各母樹のまわりに現れる,(3) 母として子供を残せる個体は全体の一部かもしれない,という3つの原理しか伴わない簡略(即ち非現実的)な機構のもとでは,どのような遺伝構造が次代に出現するか,そして現世代の構造が安定であるためには機構がどうあるべきか,理論式と実データへの適用例を報告する.
  • 練 春蘭
    セッションID: R25
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    マイクロサテライト(SSR)は、真核生物のゲノム中に多数散在しており、しかも多型性がきわめて高い部位である。そのため、個体群生態学および分子育種学の分野で極めて有効なDNAマーカーとして広く利用されている。本研究の結果は、SSRマーカーの中には、一個体内で多型を示すほど変異性が高いものも存在することを示しており、SSRマーカーの安易な利用に赤信号を灯すものである。今後、SSRマーカーを用いて個体識別や親子判定等の分子生態学的解析を行う場合、それぞれのマーカーの変異性を十分チェックする必要があろう。
  • 陶山 佳久, 佐藤 元紀, 清和 研二
    セッションID: R26
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的クリなどの大型の堅果は野ネズミなどの貯食行動によって母樹から遠く離れた場所にも散布されることが知られている。これまで堅果の散布から実生の定着までの過程を明らかにするために、堅果に目印の糸を付ける方法や、電波発信機・磁石を付ける方法、放射性同位体や油性インクを用いて識別する方法など様々な工夫がなされてきた。しかしながら、これらの手法にはサンプル数や探索範囲、再発見率などに限界があり、実生の出現まで追跡して定量的な評価を行うことは多くの場合極めて困難であった。そこで本研究では、堅果の果皮が母樹由来の組織であることに着目し、DNA分析によって当年生実生の母樹を特定する手法を用いた。すなわち、出現したクリ当年生実生の地下部に残存する果皮からDNAを抽出してマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を調べ、周辺に生育する成木の遺伝子型と照合することによって実生の母樹を特定した。この手法によって、種子散布の結果として出現した当年生実生の母樹を正確に特定し、クリの種子散布パターンを明らかにすることを目的とした。2.方法宮城県鳴子町にある東北大学大学院農学研究科附属農場内のクリを含む落葉広葉樹二次林に70m×40mの調査区を設置した。2002年6月下旬から10月下旬までに調査区内に出現したすべてのクリ当年生実生に標識を付けて出現位置を記録し、地中に果皮が残っていたものについてはその果皮を採取した。さらに調査区を含む周囲30m以内に生育するすべてのクリ成木(35個体)を母樹候補木として位置を記録し、DNA抽出用サンプルとして葉を採取した。採取した果皮および葉からDNAを抽出し、5遺伝子座のマイクロサテライトマーカーを用いてそれらの遺伝子型を調べた。3.結果 調査区および周辺領域に生育していた35個体のクリ成木について5つのマイクロサテライトマーカーの遺伝子型を調べた結果、すべての成木が異なった遺伝子型を持つ個体として識別可能であることがわかった。一遺伝子座あたりの対立遺伝子数は9.0、平均へテロ接合体率の期待値は0.632であった。 70m×40mの調査区に合計199個体のクリ当年生実生が出現した。そのうち172個体については残存していた果皮を発見することができたためそれらを採取し、DNAを抽出した。果皮サンプルの中には高品質なDNAを抽出できなかったものもあり、15サンプルについては十分な遺伝子型の判定をすることができなかった。遺伝子型が明らかになった157個体の果皮のうち、母樹候補木のいずれかの遺伝子型と一致したのは約3分の1にあたる50個体であった。それらは調査区内に生育する6母樹由来の実生であると判定され、各母樹の実生数は多いものから順にそれぞれ23、11、7、4、3、2個体であった。実生が出現した位置とそれらの母樹との距離の平均値は14.5mであり、最大で42.5m離れた位置に出現した実生もあった。4.考察母樹由来の組織である果皮からDNAを抽出して遺伝子型を調べることにより、効果的にクリ当年生実生の母樹を特定することができた。ただし、特定率は3分の1にとどまり、その原因として、1)調査区外からの散布、2)ジェノタイピングミス、3)未発見母樹の存在など、いくつかの可能性が考えられた。今後、1)母樹候補木の対象範囲を広げる、2)ジェノタイピングの再確認、3)未発見母樹の再探索をするなどして原因の特定を行う必要があると考えている。別途行った堅果生産量調査(調査区中央部に生育する4個体のクリ成木が対象)において多くの堅果を生産したことがわかっている個体は、同様に多くの実生の母樹であるという結果が得られ、堅果生産量と出現実生数の間に矛盾は認められなかった。また、さらに別途行った磁石入り堅果を用いた堅果の散布追跡調査で明らかになった堅果の移動距離に比べ、当年生実生の出現位置と母樹との距離は平均値・最大値ともに大きかった。これは、磁石による追跡調査では散布過程の途中で被食される堅果が主な調査対象になるのに対し、当年生実生は何度かの移動・貯蔵過程を経て最終的に被食されずに生き残った堅果が発芽したものであり、結果として移動距離が長くなる可能性が高いためであると考えられた。本研究では、DNA分析を用いてクリ当年生実生の母樹を特定し、効果的にクリの種子散布パターンを明らかにすることができた。本手法は様々な大型種子をもつ種について応用可能であると考えられ、種子散布研究の新しいアプローチとして注目に値すると考える。
  • 中西 敦史, 戸丸 信弘, 吉丸 博志, 河原 孝行, 真鍋 徹, 山本 進一
    セッションID: R27
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     近年、超多型で共有性の遺伝マーカーであるマイクロサテライトマーカーを用い、植物集団における遺伝子流動の研究がおこなわれている。コナラ属では、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析により、風媒による長距離の花粉流動(Dow and Ashley 1998)、負の指数関数的な交配距離と交配頻度の関係(Streiff et al. 1999)等が既に明らかになっている。しかしこれらのコナラ属の研究は主に落葉のコナラ亜属におけるものが多く、またその調査林分では対象樹種が優占していた。しかし本研究の対象樹種であるウラジロガシは常緑のアカガシ亜属であり、調査地の老齢照葉樹林では他の優占樹種と比べ密度も低い。その為、花粉流動もそれらの研究と比べ異なることが予想される。本研究は、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析により老齢照葉樹林におけるウラジロガシの花粉流動を明らかにし、さらに花粉親の父性繁殖成功度に影響する要因を明らかにすることを目的とする。調査地は長崎県対馬下島の龍良山(558.5 m)のふもとに位置し、そこでは約100 haの照葉樹林が原生状態を保っている。1990年に龍良山の北向きの斜面に設置された200 m×200 mの4 haプロットを本研究の調査地とした。このプロットにおいてウラジロガシの成木(胸高直径(DBH)≧5 cm)は、林冠構成樹種ではあるが他のスダジイ、イスノキ、サカキ、ヤブツバキ等の優占樹種と比べ密度は低く、かつランダム分布していた。1999年10月と2000年5月に4 haプロット内に生存していた全成木45個体の新葉を採取し、また1999年10月に4本の成木の樹冠下において223個の種子を採取した。DNA抽出はCTAB法(Murray and Tompson 1980)を改変しておこなった。 河原(2000)らにより開発されたプライマー2組(CT15, CT33)、Steinkellner et al.(1997)により開発されたプライマー3組(QpZAG16, QpZAG36, QpZAG119)、Dow & Ashley(1996)により開発されたプライマー1組(MSQ4)を用いて成木と種子の遺伝子型を決定した。得られた種子と種子親、その他の成木の遺伝子型を基に父性解析を行ない、各種子の花粉親を推定した。この結果から、プロット外からの花粉流動の割合を推定し、プロット内における花粉散布様式を明らかにした。またプロット内で起きた交配を解析することで、種子親に対する花粉親の空間分布、血縁度、花粉親のサイズが父性繁殖成功度に与える影響を明らかにした 父性解析の結果、見えない遺伝子流動を考慮すると、花粉による遺伝子流動のうち58 %がプロット外からの花粉によるものであった。またプロット内における交配距離の平均は57.4 m、最大で123.1 mであった。これらの結果から他のコナラ亜属における結果(Dow and Ashley 1998; Streiff et al. 1999)と同様に、老齢照葉樹林におけるウラジロガシにおいても高頻度の長距離花粉散布が効果的に起きていると考えられた。 プロット内で起きた63 回の交配(自殖の1回は除く)を解析した結果、交配距離はランダムな種子親と成木との距離より有意に小さく(Mann-Whitney検定 P<0.001)、交配距離と交配頻度の間には有意な負の相関があった(Spearman’s r = -0.471 P<0.05)。これらのことから種子親からの距離が近いほど父性繁殖成功度が大きいことが明らかになった。また全成木内における種子親からの近さ順位と交配頻度の間には相関がなく、種子親から最も近い成木の交配頻度が最も高いわけではなかったが、花粉親内における種子親からの近さの順位と交配頻度の間には有意な負の相関があり(Spearman’s r = -0.865 P<0.05)、種子親から最も近い花粉親の交配頻度が最も高かった。これらの原因として成木における開花の有無、開花期のずれ、または自然選択により種子親から近い位置の成木が花粉親として貢献できていないことが考えられた。交配血縁度(交配した種子親と花粉親の間の血縁度)はランダムな種子親と成木の血縁度より有意に大きかったが(Mann-Whitney検定 P<0.01)、交配血縁度と交配頻度の間には有意な相関はなかった。これらの結果は成木の遺伝構造が影響していると考えられる。成木の個体間の距離と血縁度の間には有意な負の相関があり(Mantel検定 P<0.05)、その為、種子親から近い成木は、種子親との血縁度が高い。また上で述べたように種子親から近い成木は交配頻度も高い。その結果、種子親と血縁的に近い成木の交配頻度が高くなったと考えられる。全成木と花粉親のDBHに有意な差はなく、また花粉親のDBHと交配頻度の間には有意な相関はなかった。少なくともプロット内のDBH5cm以上のウラジロガシにおいて父性繁殖成功度におけるDBHの影響は小さいと考えられる。
  • 吉丸 博志, 杉田 久志, 金指 達郎
    セッションID: R29
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    早池峰山に隔離分布するアカエゾマツの小集団は、1948年に発生した土石流によって被害を受けた、被害を受けなかった場所には、胸高直径(DBH)20cm以上のものが62個体、DBH5cm以上のものが78個体生残し、土石流跡地に更新している稚樹でDBH5cm以上のものが約130本ある。これらの個体群について、マイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的多様性の解析を行った。遺伝的多様性が最も大きいのは、非被害地のDBH20cm以上の個体群であった。それにくらべて、非被害地のDBH5cmの個体群は、対立遺伝子の平均数で79.2%、遺伝子多様度で95.1%であった。また、土石流跡地の更新個体群では、対立遺伝子の平均数で89.6%、遺伝子多様度で90.3%であった。非被害地においても、土石流跡地においても、若い固体の遺伝的多様性は減少する傾向が見られた。
ポスター発表
林政I
  • 古賀 陽子, 小林 達明
    セッションID: P1001
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    千葉県の房総低山地域に自生するミツバツツジ(Rhododendron dilatatum Miquel)とキヨスミミツバツツジ(Rhododendron kiyosumense Makino)の略奪的採取の実態とその社会的背景を明らかにした。両種は1970年から1985年にかけて著しい山採りブームが生じており、その結果、現在では両種の自生域に位置する民家の約7割、自生域と非自生域の境界に位置する民家の約約5割、非自生域に位置する民家の約1割で庭木として植栽されていた。こうした略奪的採取の社会的背景としては、1965年に臨海工業地帯に八幡製鐵株式会社が参入したことがあげられる。その結果、著しい世帯数の増加が生じ、両種の庭木としての需要が急速に拡大したものと考えられる。また、君津市の産業構造の変化を見ると1960年以降、一次産業の割合が著しく低下しており、山間部の集落でも、1963年から1975年の間に炭焼き施業が放棄されている。この時期はエネルギー革命による木炭需要の低下に加え、豊英ダムの建設工事など、日雇い労働の需要が多かった。また当時の農村地域の日給の推移とミツバツツジ節2種の単価変動をみると、ミツバツツジ節2種の単価は日給と同等かそれ以上を示していることもあった。両種は花の美しさに加え経済的価値を有していたことがわかる。山間部の集落では、製炭業が放棄された後、しばらくの間は日雇い人夫として働くものの割合が高く、恒常的勤務に就く人の割合が日雇い人夫の割合を超えるのはようやく1980年になってからであった。このように考えると、山間部における農的生活から都市的生活への移行期に、ミツバツツジ節2種の著しい濫獲ブームが生じていたのである。
  • 西 信介
    セッションID: P1002
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    鳥取県ではイノシシ被害が深刻で、2001年度に特定鳥獣保護管理計画を策定して通常11月15日から翌年2月15日の猟期をイノシシに限り11月1日から翌年2月28日まで猟期を延長した。甲種、乙種の狩猟者を対象に、猟期延長前の2000年度と猟期を延長した2001年度の出猟状況と捕獲状況を、狩猟カレンダーをもとに比較検討した。甲種、罠猟は11月、12月が盛んであった。猟期延長により罠の設置期間が長くなった。捕獲数も増加したと思われるが、狩猟カレンダーでは捕獲月日が不明なので、その効果はわからない。乙種、銃猟は1月、2月が盛んであり、11月の猟期延長は捕獲数の増加に効果があまりなさそうであった。2月の猟期延長期間には146頭が捕獲され、捕獲数の増加に効果がありそうである。今回、2年間の単純比較であり、生息数、気象条件などは考慮していない。今後も調査を続けて、猟期延長の影響をモニタリングする必要がある。
  • 甲斐 敬子, 山本 信次
    セッションID: P1003
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     目的 現在、国立公園の管理活動の向上を目的として導入されているパークボランティア(以下、「PV」とする)制度は、単に管理に必要な人員を補う制度であるというだけではなく、国立公園の管理における、行政と市民・住民との新たな関係の枠組みとなる可能性を持つ制度であるといえる。 しかし重要なのは、制度が実際どのように運営され、どのような役割を果たしているのかということである。本研究では、今後、国立公園の管理システムについて考える際の一助となることを目指し、このPV制度の意義と課題を明らかにすることを目的とした。 考察 PV制度はレンジャー不足の現状の中、国立公園管理の質の向上に役立っているといえる。 しかし、実際の運営については地区ごとにその内容は異なるものの、課題を抱えているが、多くの地区に共通の問題として、活動参加者の固定化、やPVの高齢化、活動のマンネリ化などが挙げられ、それらへの対応が求められている。 また、現行の制度では、PV組織は環境省の要望に沿って活動することを求められ、その活動の方向性も事務所によって定められているが、ボランティアによる活動の発展を考える場合、そういったシステム自体すなわち環境省とボランティアの関係のあり方自体も見直す必要があるのではないだろうか。
  • 藤原 千尋
    セッションID: P1005
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    __I__ 目的本研究では鳥獣行政における環境省と在京市民団体の関係を実証的に明らかにし、今後の関係について考察することを研究目的とする。特に本稿ではスペースの関係上、現在の法改正や基準の策定に大きな影響を与えた1999年の法改正を巡る動きに重点を置き、環境省と在京市民団体の関係を検討する。__II__ 研究・調査方法鳥獣行政にかかわる文献を収集・検討すると伴に、環境省の鳥獣保護法担当者、在京市民団体の「野生生物保護法ネットワーク(以下、野生ネットとする)」事務局、野生ネットに世話人として参加している5つの在京市民団体の担当者に対して聞き取り調査を行った。これらの聞き取り調査は、2002年10月17日から11月29日の間に行った。なお、本研究においては筆者が調査した在京の自然保護団体を「在京市民団体」とし、それ以外も含む場合は「市民団体」と表記する。__III__ 1999年鳥獣保護法改正の経緯と在京市民団体の活動 鳥獣保護法改正の動きはまず自民党農林族議員が「農林業有害鳥獣対策議員連盟(以下、議員連盟)」を1995年末に設立したところから始まる。これは、シカ、サル、イノシシなどによる農林業被害の軽減のために設立されたものである。また、鳥獣保護法改正にかかわるもう1つの流れは地方分権であり、地方分権推進委員会の2度に及ぶ勧告を一言でまとめると、国が持っていた権限を原則として都道府県に、都道府県が持っていた権限を原則として市町村へ委譲することを進めるものであった。1998年の春頃、野生動物研究者や市民団体が入会している「野生動物メーリングリスト」に「鳥獣保護法が改正されるらしい」という噂が流れ始める。つまりこの時まで、市民団体は鳥獣保護法改正の動きについて殆ど知らなかったのである。そのような中、4月に環境庁が「狩猟鳥獣の捕獲の禁止及び制限の変更等に関する公聴会」を開催。狩猟の規制緩和を進める内容に市民団体が危惧を抱き、ネットワーク設立に向け動き始め、5月1日付けで「鳥獣保護法「改正」を考えるネットワーク(以下、鳥獣ネット)」が設立される。1998年5月には「鳥獣管理・狩猟制度検討会」が報告書を提出する。その内容は特定の個体群の保護管理のための仕組みの創設(以下、特定鳥獣保護管理計画)、地方分権推進委員会による勧告を踏まえての国と都道府県の役割分担の明確化等を提言したものであった。鳥獣ネットはこの内容に対し、市町村への権限委譲をすると、国や都道府県によるチェックが行き届かないため乱獲をもたらす、特定鳥獣保護管理計画は、生息地の復元、保護よりも個体数管理にのみ偏る可能性が高いと批判をした。特に地方分権をしても地方には野生動物管理を行うシステム、人材がないことを指摘した。同年12月の自然環境審議会野生生物部会野生鳥獣保護管理方策小委員会の答申提出後、関係省庁との調整が行われ、鳥獣保護法の一部改正法案が1999年2月に閣議決定される。4月からは参議院先議でこの法案についての審議が始まる。鳥獣ネットは今回の改正は時期早尚として反対運動を繰り広げ、国会審議においては民主党議員と協力関係を結び、国会における参考人として会の世話人を送り込み、反対陳述を行った。このロビイング活動によって議員の発言力が高まり、環境省は法案の不備について厳しく追及された。しかし、5月21日には参議院で可決、6月には衆議院でも可決され、その際3年後を目途に法制度の見直すこと等10点の付帯決議が付けられた。鳥獣保護法の一部改正を受け、「鳥獣保護法「改正」を考えるネットワーク」は7月11日付で「野生生物保護法制定を目指す全国ネットワーク(以下、野生ネット)」に改称し、それに伴い参加団体も増加した。__IV__ 1999年改正とその後の市民運動の方向性1999年の改正では、市民団体の反対意見にもかかわらず鳥獣保護法は改正された。この面だけ見れば市民団体は敗北したのである。しかし、在京市民団体によってエンパワメントされた国会議員が環境庁を厳しく追及したことは、在京市民団体自身に彼らの持つ力を認識させることとなり、国会議員に対する活動を強めることとなった。単に環境省に対して陳情や意見交換をするより、国会議員と関係を持つ事の方に実効性を感じはじめたのである。そして現在では野生ネットの運動の運動方向性は『市民立法』に向かっている。以上のことを総括するならば、野生ネットを構成する在京市民団体は鳥獣保護法を巡る一連の過程を経て、自らの力を認識するとともに確実に国会への関与を強め、「環境省に対して意見を提出する」という段階から「環境省をあてにせず、自らで法案を作成する」という段階に達したといえよう。ここにおいて在京市民団体は、単なる環境省に対する「要望団体」ではなく、環境省のライバル的存在になったと考えられる。
風致
  • 井川原 弘一, 横井 秀一, 松波 謙一
    セッションID: P1008
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     森林の保健休養効果を客観的に検証した事例はまだ少ない。数少ない検証事例で行われているのは森林(主に針葉樹林)と非森林(都市環境)の対比がほとんどである。そこで,本研究では心理指標と客観的な生理指標の2つを用いて非森林と森林環境(広葉樹林内・針葉樹林内)における保健休養効果について検討した。心理指標としてPOMSを用い,生理指標として脳波を用いた。脳波は脳機能研究所が開発した感性スペクトル解析装置(ESA-16)である。また同時に16項目の7段階 SD法による官能評価も行った。官能評価の結果によると室内と森林内(広葉樹林・針葉樹林)での評価は大きく異なり,広葉樹林内と針葉樹林内での評価は似通っていた。評価尺度「快適な-不快な」では,森林内では快適であり,室内では不快な評価であった。POMSの結果から広葉樹林と針葉樹林が気分に与える影響は異なっていることが予想された。気分尺度「緊張・不安」,「抑うつ・落込み」は広葉樹林で有意に低く,「活力」は針葉樹林で有意に高かった。脳波を感性スペクトル分析したところ広葉樹林内を散策することで,Relax成分が大きくなる傾向がみられた。
  • 牧野 亜友美, 柴田 昌三, 大澤 直哉, 中西 麻美
    セッションID: P1012
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    里山は伐採や落ち葉かきなど定期的な人為攪乱が加えられることにより、その環境に特有の多様な生物が維持されてきた。しかし、生活・生産様式などの変化に伴って、次第に利用価値が減少し放置されるようになった。そのため、京都市近郊の里山ではヒノキ林や照葉樹林に遷移が進行し、生物多様性の低下が指摘されている。一方、一見安定している森林において倒木などによって形成されるギャップは、生物多様性を維持する働きを持つことが知られている。本研究では、放置された里山において生物多様性を保全するための手法として、小面積伐採による人工ギャップ創出をとりあげた。手法の生物多様性保全への効果を明らかにするとともに、京都市近郊の森林における植物多様性の維持機構を把握するために、人工ギャップ創出後の木本植物の多様性の変化を追跡した。 調査対象地は、上賀茂試験地内の50年以上放置された森林である。かつてはアカマツが優占していたが、マツ枯れ被害により現在はヒノキが優占している。その森林の同一斜面上において斜面の上部、中部、下部に合計0.21haのギャップ区を設定した。ギャップ創出前に、胸高以上のすべての木本植物の種名、位置および胸高直径を記録した。そして、2000年1月下旬に、胸高直径5cm以上の針葉樹11本と落葉広葉樹26本を残してすべての植生を伐採、除去する施業を行った。ギャップ創出後の2000年5月から萠芽再生した株の種類と個体数を記録した。2001年1月からギャップ内に散布された種子の種類と数量を記録した。2001年5月からギャップ内で出現した実生の種類と個体数を記録した。 どのギャップ区においても、ヒノキ、アカマツの萠芽再生はみられなかった。広葉樹については、21種466株のうち約93%が萠芽再生し、萠芽再生がみられなかった樹種はタカノツメのみであった。また、散布された種子のうちヒノキの占める割合はどのギャップ区においても大きく、上部で81%、中部で95%、下部で93%であった。実生においても、ヒノキが占める割合はどのギャップ区においても大きく、上部で49%、中部で61%、下部で50%であった。伐採前には存在しなかったが伐採後実生が確認された種は、上部で12種、中部で18種、下部で18種であり、これらは主に、ギャップ創出による光環境の改善に伴って土中の埋土種子が発芽したものであると考えられた。 伐採前と伐採後3年目の種数を比較すると、伐採後に上部では11種、中部では18種、下部では17種の増加がみられた。これらの樹種の多くは、先駆的な性格をもち、遷移が進行した森林の林冠下ではみられない樹種であった。このことから、人工ギャップ創出は、林冠下では更新できない特定の樹種の更新を促進することで、森林の木本植物の多様性を増加させる効果があると考えられた。一方で、ギャップ内に散布された種子の約85%がヒノキの種子であり、散布後にヒノキの発生、定着が観察されたことから、今後はヒノキの密度が増加し、木本植物の多様性が再び失われることが考えられた。そのため、今後木本植物の多様性を維持するためには、ヒノキの除去などの管理やギャップ創出の継続が必要であると考えられた。
経営I
  • __-__インドネシア西ジャワ チアンジュール県を事例に__-__
    加藤 顕, 露木 聡, Budi Prasetyo Lilik
    セッションID: P1016
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    インドネシアでは年間1万km2ずつ森林が減少している。熱帯林保全の見地からインドネシアでは近年、天然林伐採を制限し、林業省から伐採権を取得した企業に限り森林伐採を行うようになってきている。インドネシアジャワ島の森林伐採を行う最大の企業はPerhutani(林業公社)である。Perhutani施業地における全施業面積の55%を占める主要造林樹種は、Teak(Tectona grandis)であり、本研究はTeak(チーク)に注目した。本研究では、衛星リモートセンシング技術とGIS技術を用い、チアンジュール県におけるチーク造林地の判別、分布特性の把握を行い、チーク造林地選定に資することを目的とした。
     使用した衛星データはLandsat ETM+2001年,TM1989,91,92,97,98年,MSS1976,83年の計12シーンである。解析を行う前処理として、より正確なチーク林抽出を行うために衛星画像はすべて修正ミンナート関数により地形補正を行い、陰の影響を低減した。最尤法により土地被覆分類と植生指数を用いてチーク林を抽出した。また1976年__から__2001年の土地被覆分類図から経年的土地被覆変化の傾向を解析した。判別したチーク林分布域においてPerhutaniの森林簿に記載されている地位情報に、地形要因、地質要因、水分条件などのレイヤを、GISを利用して重ね合わせ、チーク造林地の分布特性を解析した。
  • 小林 裕之
    セッションID: P1019
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    ASTER画像6シーン,IKONOS画像2シーン,Quick Bird画像2シーンの可視近赤外データについて,製品添付の位置情報を元に水平誤差を計測したところ,それらはASTERでは57.8m,37.6m,68.6m,87.8m,69.7m,27.0m,IKONOSでは14.7m,16.5m,Quick Birdでは7.0m,26.7mであった。ASTERの誤差は,系統誤差と標高差による歪みが合成されたものと考えられ,画像全体のオフセットの後,更なる幾何補正が必要と考えられた。IKONOS,Quick Birdの誤差は標高差による歪みが主要因であると考えられ,小縮尺地形図を用いたPiecewise Affine変換が2次補正法として適していると思われた。
  • 天然林林相区分手法の開発
    笹川 裕史, 露木 聡
    セッションID: P1020
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    I.目的
    近年、高解像度衛星計画が活発化している。高解像度衛星センサの地上分解能は0.6__から__1mであり、これまでの衛星センサによる森林個体群の観測と異なり、各個体ごとの観測を行うことが可能になると考えられる。その結果、従来、人間の経験を頼りにアナログ的に空中写真で行われていた樹種、樹高、樹冠直径など単木情報の判読が、コンピュータによって高速に大面積に対して客観的にデジタル処理されることになるであろう。また、詳細な天然林の林相区分はこれまで空中写真では目視の限界、衛星データでは分解能の限界から困難とされてきたが、高解像度衛星データの利用によって簡易なものになることが期待される。
    そこで本研究では高解像度衛星データを用いた天然林林相区分手法の開発を行うことを目的とした。
    II.資料
    データサイトは東京大学北海道演習林岩魚沢大型固定試験地内のプロット18ヶ所である。試験地は天然林で構成されており、プロットの大きさは50×50mである。本研究では樹木位置・樹高・樹冠半径4方向を測定した。また、ジオリファレンスの際にはGPS測量を元に作成された施業図を使用した。
    衛星データには2002年6月7日撮影のQuickBird画像を使用した。QuickBirdはパンクロセンサと青・緑・赤・近赤外の4つのカラーセンサで構成されている。分解能はパンクロセンサが0.61m、カラーセンサが2.44mである。
    III.方法
    本研究の流れは以下の通りである。
    1.衛星データ上の単木と地上データの同定
    針葉樹と広葉樹はフォールスカラーでそれぞれ緑色と赤色に近く表示されるので、施業図、樹木位置データおよび樹冠データから作成した樹冠投影図を参考にパンクロ画像およびカラー画像にジオリファレンスを行った。次に、パンクロ画像を元にカラー画像を0.61m解像度にリサンプリングを行った。
    2.画像解析ソフトによる林相区分
    本研究では画像解析ソフトeCognition(独DEFINIENS社)を用いて林相区分を行った。ここで、eCongitionとは従来の画素ベースの分類処理ではなく、テクスチャーとしての分類処理(ファジー分類など)を行うオブジェクト志向型自動分類処理ソフトである。eCognitionの処理過程は1.隣接するピクセルの同一性の許容範囲を決定するパラメータであるスケールパラメータ、色、形状、なめらかさなどで構成されるパラメータを決定して自動画像分割を行う。2.画像分割によって形成されたオブジェクトの分類を行う、である。本研究では針葉樹・広葉樹別の林相区分から始まり、樹種の判定がどこまで行えるかを検討した。
    3.精度の評価
    eCognitionで分類された様々な程度の林相区分による樹冠被覆率と地上調査から計算された上層木の樹冠被覆率を比較した。
    IV.結果および考察
    本研究は単木を対象としているので、精密なジオリファレンスを行わなくてはならず、分解能、センサの角度による歪み、参照する地図の誤差、GCP選定の難しさなどでジオリファレンスは非常に困難であった。
    画像解析ソフトで針葉樹に分類された樹冠被覆率と地上調査から計算された上層木針葉樹の樹冠被覆率を比較したところ回帰式は
    y=0.46x+0.29 (R2=0.68)
    ただし、x:樹冠半径から計算された樹冠被覆率、y:画像ソフトから計算された樹冠被覆率
    となった。画像ソフトによる樹冠被覆率が過大推定された原因の1つは、影の部分も針葉樹に分類されたからだと考えられる。しかし、両者の相関が高いことから、本手法によって天然林の林相区分が行えることが明らかになった。今回使用したソフトで画像分割・分類を行う際のパラメータが他の季節および地域でも用いることができるかどうかの検討は今後の課題である。
  • __-__文明桧親木の選抜経緯、その形状と管理状況__-__
    柴山 善一郎, 今安 清光, 山本 武
    セッションID: P1022
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    優良品種導入は小面積林家の経営上きわめて重要である.筆者らは特にさし木・ヒノキに注目して、四国における優良な親木とその品種について調査を続けている.一般的にはヒノキのさし木苗をつくるのは難しいと考えられている.しかし、今回、愛媛県在住の篤林家である小倉文明氏と石田多美雄氏の2人が協力して、これまでの常識にとらわれない柔軟な発想から, 100年を超える樹齢の通直なヒノキ古木(平成15年1月に品種名称が「文明桧」から「百年桧」へと変更された)からさし木苗の育成に成功した. そこで、その選抜・育成の経緯を聞き取り、ヒノキ林況を調査して百年桧の位置図や林分概況をまとめた. 特に注目すべきは選抜の経緯である.今から50年以上も前に小倉氏は当時通直だったその木を通し柱用に伐採しようとしたものの、少し細かったために将来優れた木になると考え直して、その木の伐採をとりやめた.結果的には、偶然にも近くに生えていた適寸のスギがそのヒノキの身代わりになって伐採された.それを契機にしてそのヒノキは大切に保存されてきた.今から2年前に両氏はその木をさし木で殖やそうと3m前後枝打ちして穂を50本前後採って、通常のやり方でさし木をして30本から根が出て、苗木を育成することができた.この百年桧は古木から選抜・育成された画期的な品種である.これまでの常識を覆すようなさし木品種を実現した小倉文明氏と石田多美雄氏の両氏は林業界のレオナルド・ダ・ヴィンチである.
  • __-__新品種の東山1号・文明桧を中心にして__-__
    今安 清光, 柴山 善一郎, 山本 武
    セッションID: P1023
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    小面積の林家が収益を高めるためには良材生産が重要になる. 愛媛県には「優れた品種が見つかれば林業ほど将来性のある仕事はない」と考える民間人(愛媛県久万町の石田多美雄氏と小倉文明氏)が存在している. 彼らは独自の考えで数種のヒノキさし木品種を選抜・育成している.それらを山に植林して良材を生産しようときめ細かな手入れを行っている. 林業的にはヒノキのさし木品種の種類も少ないうえにあまり一般林家には知られていない.しかし、その品種が多彩になれば林業上極めて有意義である.愛媛県久万町では小倉東山1号や百年桧(平成15年1月に旧称「文明桧」から「百年桧」に品種名が変更された)が新しい視点から選抜されて、さし木苗の親木として大切に保存されている.その2種の親木選抜の林業的意義について簡明に論じた.あわせて、多彩な新品種を選抜育成するための方法を提案した.すなわち、東山1号は木の形質のはっきり分かった伐採木から選抜され、百年桧はこれまでのさし木の常識を覆す古木から選抜された.両品種の選抜・育成は、各地の必要性に応じた多彩な新品種を選抜・育成することに大きく道を切り開く画期的なものであることを強調した. あわせて今後の課題についても簡潔に論じた.
  • __-__京都府立大学農学部附属大枝演習林を事例として__-__
    鈴木 倫史, 藤田 訓佳, 美濃羽 靖, 伊藤 達夫, 田中 和博
    セッションID: P1030
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    生産的、効率的な林業経営のためには経営対象全域の地位指数を把握することが重要である。地位指数推定に応用できる新たな技術として空間情報を直接的に計測できる航空機搭載型レーザープロファイラーが注目を浴びてきた。本研究では航空機搭載型レーザープロファイラーと現地調査の結果から樹高を推定し、推定した樹高と地形因子の関係を重回帰分析した。その結果を用いて全林におけるヒノキの地位指数を推定した。
  • ( I )森林域の抽出と樹木個体抽出の可能性について
    山本 一清, 高橋 與明, 奥山 智代, 都竹 正志, 千田 良道
    セッションID: P1031
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     本研究では、里山における森林域の自動解析技術開発の基礎的研究として、航空機LiDARによる森林域の抽出と樹木個体抽出の可能性について検討した。その結果、前回報告したGap抽出手法により非森林域が良く抽出され、それが里山における森林域の抽出に有効であることが示唆された。一方、抽出された非森林域を除いた森林域における樹木個体の抽出は、誤認識も一部に含まれ、今後更なる検討が必要であることが示唆された。
  • 1.スキャン角の違いによる比較
    高橋 與明, 山本 一清, 千田 良道, 都竹 正志
    セッションID: P1032
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、メートルオーダー以下の高分解能センサで物体の形状を把握しうるヘリ搭載型LIDAR(中日本航空)を利用し、レーザーのスキャン角の違いから生じるサンプリング密度の大小が、急峻かつ複雑な地形で密な林分という特徴を持つ日本の森林における森林資源量の推定にもたらす影響を明らかにすることを目的とした。47年生スギ人工林を対象として、平均傾斜約40°の同一斜面内の上部、中部、下部に約10m×20mのプロットを設置し、10°,45°,60°の3種類のスキャン角で観測されたレーザーデータから各プロットの樹木本数および平均樹高の推定をし、実測値との比較を行った結果、どのスキャン角においても、本研究で提示した手法を用いれば、高精度の樹木本数推定および平均樹高推定が可能であることが示唆された。
  • 松英 恵吾, 内藤 健司, 小谷 英司, 松田 誠祐
    セッションID: P1033
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     蒸発散はその仕組みが複雑で、広域における蒸発散量を直接測定することは不可能である。そのため通常、蒸発散量は他のパラメータを用いて間接的に算出して推定されている。その推定方法として、一般的には水収支法が用いられている。水収支法では、降水量、流出量、貯留量変化の関係など、水量の面から蒸発散量を算出する。この手法には、推定に必要なパラメータが少ないという利点があるが、流量が観測されている流域単位でしか蒸発散量の推定は行えず、土地被覆や地形の違いによる影響など、蒸発散量に関わる因子について詳細に分析することもできない。そこで今回は、こういった点を解決すべく、エネルギー収支式をふまえた経験式で、熱収支法と気体力学法を組み合わせたペンマン法に、人工衛星のデータを用い解析を行うリモートセンシング手法、面的なデータを効率よく分析できるGIS(地理情報システム)を組み合わせることにより実蒸発散量の推定を行った。また、今回行ったペンマン法による推定の結果を検証するために、水収支法(タンクモデル)により蒸発散量を算出し比較を行った。その結果、雨量、気温、風速、日射量、湿度などの気象データ、土地被覆状態を考慮に入れて解析をすることで、より現実的な実蒸発散量の推定ができた(図1)。また、リモートセンシング手法をペンマン法に応用することで、より広域について詳細な推定結果が得られた。加えて従来手法である水収支法との比較を行うことでペンマン法による実蒸発散量推定の結果について検証し、その結果からも本報告で行った実蒸発散量推定が有効な方法であったことがいえた。
  • 奥山 智代, 山本 一清, 竹中 千里, 宮坂 聡, 徳村 公昭
    セッションID: P1034
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、樹木個体認識と連携した樹種分類方法を確立することを目的とし、解像度約1.7 mの航空機搭載型MSSのデータと解像度約50 cmのDSMを用いて、樹種固有の特徴を持つデータとして樹冠頂部に相当するMSSデータのDNをトレーニングデータに用いる樹種分類方法の有用性について検討した。その結果、本研究で提案した手法が個体レベルでの樹種分類に有効であることが示唆された。
  • 武田 知己, 米 康充, 小熊 宏之, 藤田 玲, 山形 与志樹
    セッションID: P1035
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに森林の葉面積密度は、森林の微気象や放射環境を決定する重要なパラメータとして広い分野にわたって必要とされている。現在、森林の葉面積密度を測定するためにPlant Canopy Analyzer(LAI2000,Li-Cor、以下PCA)が広く利用されているが、PCAは測定が天候に左右されたり、葉面積密度を測定するためにはセンサーを高さ方向に移動する必要があるなど制約が多い。本研究では、PCAに関する問題点を解決するために、レーザースキャナを使用した葉面積密度の測定法を開発したので、その測定結果を報告する。2. 実験方法葉面積密度を間接的に測定する方法の多くは、樹冠を透過してくる日射の割合であるGap Fractionを測定することで成立している。日射の入射角θiにおけるGap Fractionは、T(θi)=exp{LG/cos(θi)}   ・・・  (1)で表される。ここで、TはGap Fraction、Lは葉面積指数、Gは光線の入射角と葉の傾斜角によって決定される係数である。(1)式をLについて解くことで、葉面積指数が求まる1)。本研究では、レーザースキャナを使用して樹冠のGap Fractionを測定した。レーザースキャナは、センサーから発射したレーザーが測定対象物に反射されて戻ってくるまでの時間から測定対象物までの距離を計算し、同時にレーザーの発射角度を記録しておくことで、測定対象物のxyz座標を測定することが可能である。したがって、樹冠に向けてレーザーを発射し、レーザーが樹冠によって遮断された高さを測定することで、層別のGap Fractionを測定することが可能となる。測定は、2002年9月10日に苫小牧フラックスリサーチサイト(苫小牧国有林内)のカラマツ林で行なった。レーザースキャナ(LMS-Z210,Riegl)を林床1mの高さに設置し、レーザーを上に向けてを発射してGap Fractionを測定した。また、タワー上26mの高さからレーザーを下に向けてを発射してGap Fractionを測定した。比較のため、2002年9月11日にPCAを使って葉面積指数を測定した。3. 結果群落全体の葉面積指数は、PCAでは3.5、レーザースキャナでは林床とタワーでそれぞれ4.2と5.1となり、レーザースキャナを使用した方が大きな値を示した。後で詳しく述べるが、タワーからの測定結果は地表面でのレーザーの遮断による影響を受けるため大きな値を示す可能性がある。地上からの測定で大きな値を示す原因については不明である。図1に、レーザースキャナを使用して林床とタワーから測定した葉面積密度の垂直分布を示した。比較のため、2001年8月に層別刈り取り法によって測定したカラマツ7個体の平均葉乾物重量の垂直分布もあわせて示した。葉乾物重量の垂直分布をみると、カラマツ葉は主に6mから16mの高さに分布していることが分かる。これに対して、レーザースキャナを使った測定では幹や枝、低木によるレーザーの遮断も含まれるため、葉面積密度に幹や枝の影響が含まれた結果となる。葉面積密度が最大になる高さは、地上で測定した結果がタワーから測定した結果よりも低い位置に見られる。タワーからの測定結果は、地表面に近い位置で大きな葉面積密度を示しているが、これはレーザーが地表面で遮断された結果、地表面付近のGap Fractionを正しく計算できなかったためと考えられる。森林の上からレーザースキャナを使って葉面積密度を測定するためには、植物によって遮断されたレーザーと地表面で遮断されたレーザーを区別する必要があり、そのためには地表面の高さを正確に測定しておく必要がある。
  • 田中 博春, 小熊 宏之
    セッションID: P1036
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    I. はじめに 分光日射計データから得られる各種植生指標の季節変化を、CO2吸収量ならびに葉面積指数の季節変化と比較した。データは、国立環境研究所苫小牧フラックスリサーチサイト(カラマツ人工林)のタワーデータを用いた。・各種植生指標:全天分光日射計 英弘精機MS-131WP使用。地上高40mに設置した上向き・下向きの日積算日射量より各種植生指標値を算出。波長帯は、可視(Ch3:590-695nm≒ 赤)と近赤外(Ch5:850-1200nm)の組み合わせ[図1-a]、ならびに可視(Ch2:395-590nm≒青・緑)と 近赤外(Ch4:695-850nm)の組み合わせ[図1-b]の2通りを用いた。・CO2フラックス日中積算値:クローズドパス法非分散型赤外線分析計Li-Cor LI-6262使用。地上高27m 9:00から16:30までの30分値を加算、日中の積算値とした[図1-c]。・葉面積指数(LAI):光合成有効放射計Li-Cor LI-190SB 地上高1.5mと40mの下向き光合成有効放射量(PAR)の日積算値の比から、Lambert-Beerの式を用いPAI(Plant Area Index)を算出。落葉期の測定値を減じLAIとした [図1-d]。II. 日中CO2フラックスと植生指標GEMIの整合性[図1-c] Ch2とCh4から求めた植生指標GEMI(Global Environmental Monitoring Index)の季節変化と、日中積算CO2フラックスの極小値を結んだ包絡線の季節変化の間によい一致がみられた[図1-c]。特にカラマツの萌芽後のGEMI値の急増時期や、展葉に伴うGEMI値の増加傾向が、CO2フラックスの変化傾向とよく一致している。ただし紅葉期は両者は一致しない。これは、光合成活動が低下した葉が落葉せずに残るためと思われる。III. 各種植生指標の季節変化 [図1-a,b] これに対し、植生指標としてよく用いられる正規化植生指標NDVI(Normalized Vegetation Index)は、CO2フラックスの季節変化傾向と一致しなかった。NDVIは春先の融雪に伴う値のジャンプがあり、また6__から__10月の活葉期に値がだいたい一定となる。この特徴は、Ch3とCh5から求めた図1-aの4つの植生指標も同様であった。しかし、Ch2とCh4を用いた図1-bのGEMIと、近赤外と可視の差であるDVI(Difference Vegetation Index)にはこれらの特徴がみられず、CO2フラックスの季節変化傾向と同様に萌芽後に値が急増し、6月にピークを迎えた後なだらかに減少した。IV. 葉面積指数LAIと植生指標GEMIの整合性 [図1-d] 葉面積指数(LAI)が正常値を示す、積雪期以外のLAIの季節変化を、Ch2とCh4によるGEMI(≒CO2フラックスの季節変化)と比較すると、カラマツ萌芽後の展葉期にはGEMIより1__から__2週間ほど遅れてLAIの値が増加した。タワー設置のモニタリングカメラの日々の画像の変化を見ても、カラマツの葉の色の変化が先に現れ、その後に葉が茂ってゆく様子がわかる。 萌芽後、LAIは直線的に増加するが、GEMIの増加は立ち上がりは急なものの徐々に増加量が減ってくる。これは、萌芽後LAIの増加とともに葉の相互遮蔽が生じ、下層まで届く光量が減少するため、群落全体としての光合成活動が低下することが原因と思われる。 他にも、今回の測定方法ではLAIとしてカウントされていない林床植物のCO2フラックスの影響等が想定される。<CO2フラックス・LAIデータ提供: 産業総合技術研究所 三枝 信子・王 輝民>
  • 藤原 章雄
    セッションID: P1037
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    I.はじめに 本研究では,既報のロボットカメラシステムによって取得したブナ天然林樹冠部の定点長期連日映像を用いて,開芽,堅果の落下について映像から観察できる情報を分析し,定点長期連日映像のフェノロジー観察への応用可能性について検討した結果について報告する。II.材料と方法 東京大学秩父演習林内の山地帯天然林長期生態系プロットの観測鉄塔上部に設置して自動運転による連続運用試験を行っている天然林樹冠部ロボットカメラシステムによって得られた映像記録を分析対象として用いた。本研究では,ロボットカメラシステムによる定点長期連日映像のフェノロジー観察への応用可能性を探るため,得られた映像データの中から,ブナのシュートの変化が観察でき,凶作年と豊作年の両方が観察できるショット7の1997年2000年の映像を分析に用いることとした。観察は,ビデオテープから観察する日付のショット7が記録されている部分のうち約2秒間についてノンリニア編集ソフトを用いてパソコンに取り込み,ショット7のみの連日映像を作成し,それを再度ビデオテープに出力したものをVTRと一般のテレビモニタによって適宜再生し観察する方法と,取り込んだ映像から毎日の静止画像を作成しパソコンモニタもしくは印刷したものを観察する方法の2つの方法で行った。III.結果と考察1.開芽 開芽期の連日映像を観察し以下の結果を得た。1997年では5月3日から7日の5日間で開芽度は0.5,1,2へと急激に移行していることが分かった。2000年では,画面に映っている芽はほとんどが葉と花を同一芽内に含む混芽であり,雄花の下垂などが観察できた。このように,4,5日で急激に進行し数日間隔観測では見逃してしまう開芽の現象を観察し記録するには,連日映像が有効であった。また,葉芽と異なり混芽は雄花の下垂など細かな変化があるが,静止画観察では判別しづらい。しかし,動画観察では立体感と動きの情報が加わるため風に揺れる雄花が葉の部分と判別しやすく同じ解像度であれば静止画観察より動画観察の方がより細かな観察が可能であると考えられた。2.堅果の落下 映像を詳細に観察することで殻斗がまだ割れていない状態(未割),殻斗が割れて堅果が露出している状態(堅果露出),堅果が脱落して殻斗のみになった状態(堅果脱落)を判別することができる。図は豊作年であった2000年の10月2日から11月22日の静止画観察から画像上で状態を判別できる殻斗の数を「未割」,「堅果露出」,「堅果脱落」に分けて示したものである。風により枝が動くこと,雨の重さによって枝が下方に曲がること,落葉によって枝が軽くなり上方にあがること,落葉により葉で隠れていた殻斗が新たに見えるようになること等により,毎日の映像で見える殻斗は同一のものではないが,樹冠を母集団として一定のカメラ画角によってサンプリングした観測データであるとみなして上記のような集計を行った。堅果の落下は10月3日から11月1日にかけて起こっており,「未割」と「堅果露出」の状態にある殻斗の減少傾向を見ると,10月15日前後でその傾きの大きさが最大すなわち日堅果落下数の極大となっている。堅花の落下が終わったと考えられる11月4日以降殻斗の数は減少しないで推移しており,全体の2割程度の殻斗が堅果落下後も枝に着いたまま残っている様子も確認できる。IV.まとめ 天然林樹冠部ロボットカメラシステムで得られた長期定点連日映像によって従来は困難であった樹冠部の連日観察が可能となり,一般的な樹木のフェノロジー観測項目である開芽観察を1日単位で行うことができた。静止画観測では判別が困難な部分も動画観察を行うことで立体感,動きの情報が加わりより詳しい観測が可能であった。さらに,これまでフェノロジー観測としては困難であった観測項目(堅果の露出,落下)についても直接観察できるという特性が有効であることもわかった。
  • 米 康充, 小熊 宏之
    セッションID: P1038
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的 温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が採択され、削減目標には吸収源の算入が認められているが、吸収量評価手法に不確実性がある場合,セーフサイドまで割り引くことになっている。このため吸収量が最大限評価されるためには,精度よく評価を行う手法を開発する必要があり,そのような方法の一つとして地上レーザスキャナを用いて森林バイオマス計測を行う手法がある。これまでの研究は主にDBHの測定精度や,DBHから推定したバイオマス量推定について議論されている。しかし,これらの方法を用いて広範囲に測定を行おうとした場合,樹高曲線作成の必要性や複数点からの測定結果の接合精度の問題等があり容易に計測できないことが予測される。そこで,これらの問題に対応するため,ビッターリッヒ法を用いた方法を検討したので報告する。2.調査地と方法 調査は,茨城県つくば市にある国立環境研究所敷地内のアカマツ林において行った。林内に60m×45mのプロットを設定し,DBH8cm以上の個体についてDBHを測定,代表木について樹高を測定し,樹高曲線を作成,立木幹材積表により材積を求めた。調査地のha当たり本数・材積は440本/ha・278m3/haであった。林床は定期的な草刈りにより強度に刈り払われており,地形はほぼ水平である。測定には,地上レーザスキャナであるRIEGL社製LMS-Z210を用いた。本装置の計測範囲は,2m~350m,計測精度は±25mm,視野角は330°(水平)×±40°(垂直),角度分解能は0.072°である。スキャナ計測は対象地内の5カ所(点A~E)において行った。各計測点において水平方向に向きを変えることで,視野角360°(水平)の情報を取得した。取得した情報は,マシンビジョン画像解析プログラムを用い、領域成長法により樹幹部を抽出し,任意の位置の樹幹直径・測定高・仰角を自動計測した。材積の算出にあたっては,ビッターリッヒ法の発展形である,箕輪の上部直径による林分材積推定法(以下箕輪法)を用いた。箕輪法は一定仰角で樹幹を照準しその樹幹直径・高さを計測する手法であるが,本研究ではその仰角を2.5~37.5°まで5°間隔で解析した場合の変化についても検討を行った。3.結果と考察箕輪法による材積推定結果は,最上部を測定した仰角37.5°の場合,すべての観測点における材積推定値の平均は269m3/haで,毎木調査に対し誤差は約3.3%と高い精度で推定することができた。計測地点別にみると,D点のみ他より材積推定値が低い結果となった。これは,D点が林冠ギャップの近辺で局所的に材積が低かったためと考えられる。解析する仰角を変化させた場合,2.5~7.5°では過小評価が拡大する傾向があったが,12.5~37.5°の範囲では,268~275m3/haとほぼ一定した結果が得られた。これは,仰角が小さくなるに従い,測定範囲が広がるため計測誤差を生じることや林分の樹高情報が箕輪法の推定に十分反映されないことが原因と考えられる。4.おわりに 地上レーザスキャナ計測結果に箕輪法を適用した場合,仰角をある程度自由に設定しても,推定結果に大きく影響しないことがわかった。本手法を林地で使用する場合,林床の傾斜や下層木による遮断等の問題が考えられるが,解析する仰角を変えることで柔軟に対応できる可能性がある。また,計測の工程も計測手法がさだまれば,現地計測・解析を1人日で処理することができると考えられ,今後の実用化への可能性が期待できる。今後は,様々なタイプの林分での計測や,自動抽出の高精度化と,傾斜地での計測方法ついて研究を行う必要がある。
  • __-__高知大学物部キャンパス造園木とヒノキさし木品種を対象にして__-__
    佐鹿 雅敏, 柴山 善一郎, 山本 武, 今安 清光
    セッションID: P1039
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    林業上重要である樹幹の曲がりや傾きを簡単に測定できるようにするためにポケットコンパスに着目して簡便な測定法を提案した.方法はつぎのとおりである.立木の曲がりや傾きが良く見える場所にコンパスを水平に設置して、測定対象木とコンパスとの水平距離を測った.樹幹のある高さの中央部を視準して、コンパスの黒針が指し示す方位角を0.25°刻みで読み取った. 測定高は,仰角が最大44°までとし,俯角は木の根元までで,それぞれ2°刻みで読み取った.測定対象木は高知大学農学部内の造園木であるアベマキ、ラカンマキ、クス、ナギなどの計28本と愛媛県久万町のヒノキさし木品種である東山1号桧、東山3号桧の親木などの計38本である.コンパスでの測定結果として、造園木では特徴のある樹幹の曲がりや傾きをみた目に近い形で的確に表現することができた.ヒノキ植林木については,みた目では極めて通直に見える立木でも樹幹にゆれや傾きが観察された.この測定法の長所と短所について簡潔にまとめた.コンパスを使った簡便な方法でも,眼では確認しにくい立木の曲がりや傾きを表現できた.今回測定した造園木や植林木の中には,根元から梢端に至るまで真直ぐで水平面に垂直に立っているような樹木は1本もないことが明らかになった.コンパスを使った測定精度は必ずしも高くはないが、現場の人誰でもが立木の曲がりや傾きを簡便に測定できるので有益である.
  • 長谷川 尚史, 中川 恒祐, 米津 克彦
    セッションID: P1040
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     森林内においては,GPS衛星からの信号が地形や植生の影響で遮断されることが多くなるため,実際に現地に行ってみると測位が不可能な場合があり,あるいは測位は可能であっても,充分な精度管理が困難な場合が多い。事前に現地のGPS測位状況を予測し,適切な観測計画を策定する手段が必要となる。
     筆者らはこれまで,任意の地点,任意の時刻における地形および植生を考慮した捕捉衛星数予測モデルを提示した(Yoshimura, et al., 1999; 長谷川ら,2002)。これらのモデルによって,GPS測位が可能かどうかは捕捉衛星数の確率分布によって推定することができることが示されたが,しかしながらこのモデルは衛星仰角に対して一意の捕捉確率を与えているため,瞬間的に衛星が捕捉できなくなり衛星数が減少する現象が再現できない。そのため,測位成功確率に最も重要な,衛星数が少ない状況において,衛星数を過大評価する傾向にある。そこで,このモデルに時系列の概念を表す以下の確率を導入し,モンテカルロ法による捕捉衛星数の予測を試みた。
    Lock確率pLi :エポックt で捕捉できた仰角i の衛星がエポックt+1 でも捕捉できた確率
    Find確率pFi :エポックt で捕捉できなかった仰角i の衛星がエポックt+1 で捕捉できた確率
     pLi およびpFi は,それぞれ仰角を独立変数としたロジスティックモデルで表すことができた。得られたpLi およびpFi をもとに,実際の衛星仰角のみを用いてモンテカルロシミュレーションを行ったところ,得られた捕捉衛星数の確率分布は,実際のものと良く合致した。
  • 吉田 剛司, 高畑 麻衣子, 美濃羽 靖, 田中 和博
    セッションID: P1041
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    森林における野生動物の行動調査は、持続可能な森林経営のためにも重要な課題である。北米などでは、ディファレンシャル補正機能をもった、GPS発信機が実用化されつつあり、既存尾の研究では、優れた測位精度が検証されている。ただし、我が国の植生などに、どの程度適応しているか検証が必要である。そこで本研究では、樹冠のうっペい度の異なる調査区において、DGPSテレメトリーの測位精度を検証した。結果、樹高、胸高直径が、特に受信に影響をあたえることが判明した。
立地I
  • 安田  洋, 相浦  英春
    セッションID: P1045
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     富山県の森林における酸性雨の実態を把握するため、1990年に4カ所の観測地点が設けられ、以来、週一回の頻度で酸性雨のモニタリングが継続されている。その結果によると、ここ約10年、森林における降水の年平均pH値は 4.7〜4.9 の範囲でほぼ横ばいの状態で推移している。仮に、年平均pH値を 4.7、年降水量を3,000mmとして、雨や雪によって森林に降下する水素イオン量を試算すると60 me/平方メートルとなる。大気中における窒素酸化物等の酸性物質の大気環境が早急に改善されないことから、将来にわたってこのような量の酸性物質が森林に負荷されると予想されている。そこで、大気から流入する酸に対して現状の森林がどの程度の感受性を持っているかを知るために、富山県の林地を対象として1Kmメッシュの感受性図と森林土壌の緩衝能図の作成を試みた(衰退森林健全化技術対策事業2001年・林野庁委託)。
    方法
    (1)感受性の評価
     環境要因として地質、土壌、土地利用、降水量を用い、それぞれの要因を区分して評点を与えるストックホルム環境研究所の方法(1991年)と吉永の方法(1994年)を参考にした。使用した図幅は、土地分類基本調査で得られた 1/5 万縮尺の表層地質図および土壌図と自然環境保全基礎調査で得られた現存植生図、さらには降水量区分図を 1Km×1Kmのメッシュに区画し、その対角線の交点上の情報を代表値とした。さらに、地質では花崗岩や片麻岩のように中和能力が低いか、あるいは石灰岩のように中和能力が高く緩衝能が高いか、また、褐色森林土のように緩衝能が高いか、ポドゾル化土壌のように緩衝能が極めて低いかどうか。といったように、それぞれの要因で重みづけをした区分を行い、点数を与えた後、4要因の点数を重ね合わせにより加算し、1メッシュごとに得られた得点を基に感受性の強弱をあらわした。
    (2)森林土壌の緩衝能
     富山県内に分布する森林土壌の内、土壌型、土壌母材、堆積様式などにより区分した64タイプの森林土壌( 200地点 )の上層50cmを対象に、硫酸を用いたpH測定による簡易な酸緩衝能試験を行い、その結果をもとに土壌タイプと標高情報から1Kmメッシュごとの緩衝能をあらわした。
    結果と考察
     総メッシュ数は 4,126で、そのうち評価対象とした林地のメッシュ数は 2,870であった。感受性の強弱は7段階に区分され、土壌緩衝能は50から10,000me/m2/50cmを示し、その高低は7段階に区分された。低海抜の里山の森林では酸性雨に対する感受性は弱く、森林土壌の緩衝能は高い。一方、高海抜地では酸性雨に対す感受性は強く、緩衝能は低いという傾向がみられた。
  • 土壌カラム実験による解析
    金 ミンシク, 竹中 千里, 吉田 恭司, 朴 ホタク
    セッションID: P1049
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1. 緒論愛知県豊田市の豊田フォレスタヒルズの渓流水のpH値は約6__から__7で、一般的な渓流水の安定した数値を示しているにもかかわらず、土壌の酸性化によって溶出する物質であるアルミニウム濃度は他の渓流水と比較して約10__から__100倍高く、その流出メカニズムは非常に興味深い。前回はろ過の際のフィルタ孔径の違いによる分析結果の解析から、0.20m__から__0.45mの大きさのAl, Feが比較的浅い表層土壌で溶出し、それがその形態のまま渓流へ流出したことが示唆された。今回は、アルミニウムの移動過程を把握するため、土壌抽出実験とカラム実験による分析を行ったので、その結果の一部を報告する。2. 材料と方法 豊田のフォレスタヒルズはコナラ、アベマキ、タカノツメなど優占する落葉広葉樹の二次林であり、一部にはアカマツが生育する。表層地質は風化花崗岩である。現場で渓流水、湧水と堆積地の水を採集して、研究室に持ち帰り、これらの試料は分析まで4℃に保存した。土壌は7月26日と9月12日に深さ0__から__5 cm、20__から__25 cm、0__から__60cmで6ヶ所から採集した。実内実験として抽出実験では土壌と超純水を1対5の比率で混合し、1時間振とうした。これを3500rpmで15分間遠心分離し、その上澄みを0.45mフィルタでろ過後に分析した。カラム実験では二種類の実験を行った。(1)超純水100mlを深さ0__から__5 cm、20__から__25cmで採集した厚さ5cmの土壌に透過させ、その透過水を分析に供した。(2)超純水500mlあるいは林内雨と樹幹流を9対1と比率で混合させた水(以下は「林内雨」と表示)500mlをそれぞれ始めに0__から__30cmの深さの土壌に透過させ、その透過水400mlを次に深さ30__から__60cmの土壌に透過させ、その透過水を分析した。各室内実験は2回繰り返した。pHとECを測定し、溶存イオンはろ過後にICPとICで分析した。DOCはTOC メータで分析した。3. 結果と考察 2002年の調査地の土壌の抽出実験とカラム実験(1)の室内実験の結果、溶存イオンの中でFeとSiにおいてAlと明らかな相関関係が見出された (図 1)。土壌抽出実験の結果、深さ0__から__5cmのAlとFeおよびSiの相関関係はSi(Si = 0.5267x + 0.6743, R2 = 0.97)と Fe(Fe = 0.2176x - 0.102, R2 = 0.97)であり、深さ20__から__25cmの場合も、Si(Si = 0.5526x + 0.6393, R2 = 0.94)と Fe(Fe = 0.2379x - 0.23, R2 = 0.90)となり、Alの増加と共に明らかな増加の傾向があった。この結果に注目し、全ての実験結果におけるAlとFe, Siの関係の解析式を表 1に、渓流水の値とともにまとめた。深さ0__から__5cmの土壌を用いたカラム(1)の実験の結果では、AlとSi濃度の関係式の傾きは同じ値だったが、相関係数は低くなった。しかし、AlとFeの関係式の傾きは低い値となり、相関係数は抽出実験と同じく高かったでした。一方、超純水カラム実験(2)の結果、0__から__30cmの深さの土壌におけるAlとSiの関係式の傾きと相関係数は低かったが、深さ30__から__60cm土壌の傾きは高い値(5.91)であり、相関係数も高くなった。この傾向は林内雨カラム実験(2)でも見られた。一方、カラム実験(2)におけるAlとFeの関係式では、超純水、林内雨いずれにおいても傾きと相関係数が低い値となった。これは、カラム長が5cmのカラム実験(1)に比べてカラム長が30cmの実験(2)では、溶出したFeの再吸着が起こりやすいためと考えられる。これらの実験結果と渓流水でのAlとFe, Siの関係を比較すると溶出しやすいAlは表層土壌にFe, Siと共に存在しているが、土壌中を移動する間に、それぞれ異なる挙動をとり、渓流水に流出してくるものと考えられる。
  • 小野 裕, 平澤 智幸, 北原 曜
    セッションID: P1051
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
     コナラとミズキを主とした広葉樹林と、ヒノキ人工林、カラマツ人工林を対象に、土壌の団粒発達特性と土壌物理性との関係について検討を行った。広葉樹林においては斜面上部(広葉樹林A)と斜面下部(広葉樹林B)に、ヒノキ林とカラマツ林 においては斜面下部に調査区を設定し、土壌調査と毎木調査を行った。また、A層上部から採取した土壌試料を用い、水中ふるい分け法による団粒分析試験、孔隙解析、透水試験、全炭素と全窒素の測定を行った。団粒分析試験の結果は団粒指数によって表した。その結果、団粒指数は広葉樹の2林分で高く、広葉樹林のほうが団粒が発達していることがわかった。全炭素量、全窒素量、CN比については一定の傾向がみられず、団粒指数との間に相関は認められなかった。-6.2kPa以上に相当する粗大な孔隙の量は、広葉樹林Aが最も多く、次いで広葉樹林Bとヒノキ林が同程度、カラマツ林が最も少なかった。また、団粒指数と-6.2kPa以上相当の孔隙量との間に正の相関が認められた。全孔隙量についてもこれと同様の傾向が認められた。これらのことから、今回調査対象とした4林分に関しては、広葉樹林と針葉樹林で団粒発達程度に差異がみられ、広葉樹林で団粒が発達し、そのため粗大孔隙量や全孔隙量が多くなっていると考えられた。飽和透水係数はいずれの調査区でも10-2cm/sのオーダーで大きな差異は認められず、ある一定量以上の粗大孔隙が存在していれば、透水係数はほぼ一定の高い値になると考えられた。
  • 山中 高史, 岡部 宏秋
    セッションID: P1054
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    三宅島2000年噴火前の1999年と、噴火後の2001年および2002年に、三宅島で土壌微生物相を調査した。調査は、希釈平板法により細菌数について、バイオアッセイ法により外生菌根菌数およびフランキア菌数について行なった。
    2000年噴火前調査ではフランキア菌は、オオバヤシャブシ根圏土壌に多く存在し、クロマツ菌糸圏土壌にはわずかではあるが存在していた。非菌糸圏土壌には存在していなかった。外生菌根菌は、オオバヤシャブシ根圏土壌には、オオバヤシャブシに菌根を形成するものが多く、クロマツに菌根を形成するものはクロマツ菌糸圏土壌に多かった。細菌は外生菌根および菌糸圏土壌に多く、非菌糸圏土壌には少なかった。
    2000年噴火後の調査においては、フランキア菌は、火山灰堆積層においては、ほとんど存在していなかったが、堆積層の下の土壌においては、多く存在していた。火山灰の堆積地でも、その後の泥流により、火山灰と土壌が混合したと思われる地点では、火山灰堆積層であっても、フランキア菌は存在していた。外生菌根形成が認められた土壌においては根粒の形成も良好であった。細菌数を火山灰堆積層とその下の土壌とを比較すると、低栄養細菌数に関してよりも、従属栄養細菌数に関して大きな違いが認められた。
  • 北山 佳奈, 松下 範久, 鈴木 和夫
    セッションID: P1055
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.目的
    リターの分解は森林生態系における物質循環の重要な過程である。しかし、アカマツ林ではマツタケ増産を目的として、地掻き・除伐が行われている。そのため林地は貧栄養化し、土壌微生物に影響を与えると考えられている。そこで本研究では、地掻き・除伐の土壌への影響を明らかにするために、土壌微生物量・CN量などを調べた。

    2.調査地と方法
    調査は、広島県加計町のアカマツ天然林において行った。5m×5mの試験区を、1996年8月に2ヶ所(96LR区と96C区)、2002年7月に2ヶ所(02LR区と02C区)設定し、それぞれ1ヶ所(96LR区と02LR区)について地掻き・除伐を行った。
    2002年7月に、各試験区内に0.5m2のリタートラップを3個設置し、2002年12月まで1から2ヶ月毎にリターを回収して乾重を測定した。
    1997年11月に96C区と96LR区から、2002年7月および2002年11月に全試験区から土壌を採取した。採取した土壌のpHをガラス電極法で、CN含有率をCNアナライザーを用いて測定した。2002年11月に採取した深さ5から10cmの土壌中の細菌・放線菌・糸状菌数を希釈平板法により計数した。また、各試験区の地温は地表から5cmの深さを計った。

    3.結果と考察
    02LR区と02C区のリター量を比較すると02LR区は11.59±1.69(g/m2)、02C区は12.28±1.62(g/m2)で顕著な差はなかった。96LR区と96C区を比較すると96LR区は2.50±0.32(g/m2)、96C区は2.83±0.75(g/m2)で大きな差はなかった。
    5-10cmの細菌・放線菌・糸状菌個体数は、02LR区と02C区間と96LR区と96C区間どちらもほとんど差はなかった (図1) 。除伐のため明るくなり、9月中頃の日平均地温は96LR区が96C区より約1℃高かったが、影響しなかった。
    96LR区と96C区の土壌のpHは、1997年11月と2002年11月で比較すると全体的に上がっていた(表1)。とくに96LR区の0-5cmは4.2から4.9へと高くなっていた。また、02LR区の土壌のpHは、5-10cmの2002年7月と11月を比較すると、多少高くなっていた。このようなpHの変化は、02C区には認められたかったことから、地掻きによりA0層が除かれて有機酸が減少したためと考えられた。
    炭素の含有率は、02LR区と02C区の2002年7月と11月を比較すると5-10cmでは2.99±0.57から1.64±0.45へ、 02C区は7.36±4.58から3.24±1.91へと減少の傾向がみられた(図2) 。このことは、地掻きの影響よりも季節変動の影響の方が大きいことを示していた。96LR区と96C区の1997年11月と2002年11月の比較をすると0-5cmでは、96LR区は3.64±0.76から2.64±0.98へと、96C区は3.86±1.59から2.46±0.66へと減少傾向がみられた(図3) 。96LR区と96C区の5-10mと15-20cmではどれも変化しなかった。窒素の含有率は全ての試料で0.1%前後であった。
    地掻き・除伐は土壌のpH・炭素量を変化させたにもかかわらず、細菌・放線菌・糸状菌個体数には大きく影響しなかった。
  • 春木 雅寛, 文 ?植
    セッションID: P1056
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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     1977-88年に大噴火した有珠山で、主な植生について、降灰堆積物から土壌が生成されていくプロセスや、植生の違いによる窒素動態の季節的なパターンやその他の物質循環のしかたを明らかにすることを目的として調査を行った。調査は有珠山の北西側において、外輪山内壁で落枝更新により大部分が更新したドロノキ優占林分(PG1、植生高H15m、植被率Cv100%)、火口原内の種子更新によりドロノキを主体にシラカンバ、エゾノバッコヤナギからなる更新が早く進んだ密な高樹高林(PC2、H6.5m、Cv100%)、同様だが更新が緩やかで疎な低樹高林(PC3、H2.1m、Cv45%)、さらにイタドリ、オオイタドリ、アキタブキが優占する多年生の高茎草本群落(HC4、H2.4m、Cv100%)について行った。 試料は、各植生について1994年5月から1995年8月まで積雪のある12-4月を除き、毎月約10m間隔で7地点において土壌を0-5cmの深さで採取した。 各植生のnet NH4+ mineralizationとnet nitrificationは1.各植生によって値や傾向は一様ではなく、季節変化がMineralization、Nitrificationともにみられた。2.MineralizationとNitrificationでは季節変化のしかたが異なり、Nitrificationはnegativeな値が少なく夏期に多いが、Mineralizationはnegativeな値をとることがよくみられ、それは必ずしも夏期に多いということではなかった。3.Mineralizationはあまり明瞭な傾向を示さなかったが、Nitrificationは森林の発達したところで多くなった。しかし、草本群落のNitrificationもかなり多く、よく発達したドロノキ群落PG1に匹敵するほどであった。4.Extractable NH4-NやNO3-Nの量は、上述の各植生のNitrificationはExtractable NO3-Nと同様の傾向を示した。このように植生高は大きく異なるが、多年生高茎草本群落は火山の土壌理化学性の変化に対してかなり寄与すると考えられた。 土壌水分は各季節を通して植生ごとの大きな変化は少なかった。土壌温度についても同様であり、これらの要因が必ずしもMineralization、Nitrificationの制限要因とはなっていないと考えられ、それはKlingensmith & Van Cleve(1993)が報告しているアラスカの森林調査例と同様であった。
  • 石井 秀一, 戸田 浩人, 生原 喜久雄
    セッションID: P1057
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    I はじめに窒素(N)は植物体がタンパク質を合成する上で不可欠な元素である。森林生態系において樹木が直接吸収できるのは土壌から供給される無機態のNである。土壌中における無機態N濃度は全N濃度の1%以下に過ぎず、土壌微生物によるN無機化の活性に左右される。さらに、C/N比が分解のしやすさの指標となることからも分かるように、Nの無機化は有機物の組成に影響を受ける。したがって、土壌への主要な有機物供給源である落葉(リタ__-__フォール)の違いは土壌のN無機化活性、土壌中の無機態N濃度や形態に影響を及ぼすと考えられる。本研究では同一の土壌を用い、同一の環境下において異なる樹種の落葉をそれぞれ設置した時に、樹種の違いが土壌中のN無機化量や無機態Nの形態変化に及ぼす影響を調査した。II 実験方法 丸1 実験地・実験地設定本学農学部苗圃のミズキ林下にて、木製の枠(35×35×高30cm)を設置した(全22区)。枠は下部を地中に10cm埋め込み、枠内の土壌は取り除き、枠下端から上方15cmまでに本学FM大谷山の斜面下部スギ林のA層から採取した土壌を17kg(生重)ずつ入れた。土壌は事前に10mmのふるいにかけ、礫と根をできるだけ取り除き、よく攪拌し均一にした。その上にミズナラ・コナラ・ケヤキ・シラカシ・スギ・アカマツ・マダケの落葉150g(生重)を1枠につき1樹種ずつ入れた。ブランクも含め1樹種につき3枠の繰り返しとし(マダケのみ1プロット)、樹種の配置は無作為抽出法によって決定した。丸2 土壌の採取方法設置(2002年7月2日)してから20日後(同年7月22日)、85日後(同年9月25日)、115日後(同年10月25日)、185日後(2003年1月3日)に土壌を採取した。採取には直径4cm長さ6cm肉厚1.5mmの塩ビ管を用い、表層から6cmまでの土壌を0-2、2-4、4-6cmの深さ別に採取した。採取した土壌は4mmの円孔フルイにかけた。丸3 分析項目・分析方法採取土壌の深度別に、pH(H₂O)、アンモニア態N(NH4-N)濃度、硝酸態N(NO3-N)濃度を測定した。185日後の採取後、設置した落葉(A0層)をすべて回収し秤量した。全C濃度、全N濃度の測定を、設置時と185日後の、落葉・土壌それぞれについて行った。また設置時と185日後の土壌の一部を用いてビン培養法によるN無機化速度の測定を行った。III 結果と考察丸1 土壌中の無機態N濃度およびpH(H₂O)経時変化深さ0-2cmの土壌における無機態N(NH4-N+NO3-N)濃度の経時変化を図-1に示す。NH4-N濃度はミズナラ区が20日後に30mg/kg、コナラ区が85日後に40mg/kgのピークとなり他の区より高かった。NO3-N濃度はミズナラ区が20日後に、マダケ区が85日後に50mg/kgを越えるピークとなり、他の区より著しく高かった。ミズナラ区はNH4-N、NO3-Nともに高く、コナラ区はNH4-N濃度は高いが硝化へと進まず、マダケ区は硝化が著しかった。その結果、無機態N濃度はミズナラ区が20日後に80mg/kg、コナラ区とマダケ区が85日後に60mg/kgのピークとなった。その他の区では明確なピークが見られなかった。2-4cm、4-6cmと土壌が深くなるにつれて全体的に無機態N濃度が低かった(図省略)。落葉の影響は、表層でより大きいといえる。深さ0-2cm土壌のpH(H₂O)は硝化の著しかったミズナラ区の20日後と85日後で低かった。また、どの区も115日後、185日後にはNO3-N濃度が減少し、pH(H₂O)が上昇した。pH(H₂O)とNO3-N濃度の間には強い負の相関(r=0.805)があり、硝化によるH+生成の影響が示唆された。丸2 落葉の重量およびC/N比の変化185日後に落葉の重量減少が多かった樹種はマダケ(-100g)、ミズナラ区(-70g)ついでシラカシ区(-60g)であり、他の区は20__から__30gの減少であった。開始時(0日)のC/N比はマダケ、シラカシ、ケヤキ、ミズナラで23__から__34と低く、これらは185日後にすべて20前後に減少した。NH4-NとNO3-Nともにピークの濃度が高かったミズナラ区とマダケ区では、C/N比が低く、落葉の重量減少が多く、分解が速いといえる。一方、NH4-N濃度のピークは高いもののNO3-N濃度の低いコナラ区は、C/N比がやや高く落葉の重量減少が少なかった。またシラカシ区やケヤキ区ではC/N比の低さや落葉の重量減少量の多さからすると、ミズナラ区、マダケ区、コナラ区ほど土壌の無機態N濃度に影響がみられなかった。IVまとめ ミズナラ区やマダケ区においては落葉のC/N比が林床での分解速度に影響を及ぼし、落葉重量減少の多少を決定し、土壌におけるN無機化や硝化を規制していると言える。しかしコナラ区・シラカシ区・ケヤキ区のようにC/N比、落葉の重量減少と、土壌のN無機化や硝化の関係が明確でない樹種もあった。これには易分解性C量やN量の多少、無機化されていない微細な有機物の土壌への混入の差異などが影響しているものと考えられる。
  • 小澤 恵, 柴田 英昭, 佐藤 冬樹, 笹 賀一郎
    セッションID: P1058
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    林床にササが密生する北海道地方では、森林の更新補助作業として、ササおよび表層土壌を除去する「掻き起こし」と言われる施業が頻繁に行われている。表層の有機物層は養分や微生物に富み、土壌溶液中の無機態Nの主要なソースである。筆者らのこれまでの研究で、この有機物層が掻き起こし処理によって除去されていても、土壌溶液中の硝酸態窒素(NO3-N)濃度は対照区と比べて40倍以上も上昇することが示されている。NO3-Nは、植物の生育に重要であるとともに系外に流出すると富栄養化などの問題を引き起こす。そのため、掻き起こし処理区における窒素の生成・消費・流出プロセスを解明することは、森林の更新だけでなく地球環境の保全のためにも必要である。処理区土壌におけるNO3-N濃度の上昇は、土壌の正味硝化速度増加がその一因であることもこれまでに明らかとなっているが、処理が土壌の窒素無機化特性にどのような影響を及ぼしたのか、詳細は明らかとなっていない。そこで本報告では、有機物層の除去が土壌微生物への養分不足など処理区土壌の窒素無機化特性に影響を及ぼしているかどうか、また処理による窒素循環過程の変化は年数が経過するとどのようになるのかを明らかにするため、CおよびN基質付加による窒素無機化速度の変化を調査した。 北海道北部に位置する北海道大学北方生物圏フィールド科学センター雨龍地方研究林内に、掻き起こし処理施行年の異なる(1994年から2000年の間に毎年施行)7つのプロットを設置した。各プロットに隣接する未撹乱区域にはそれぞれ対照区を設置した。土壌は酸性褐色森林土である。7つのプロット中、掻き起こし処理後1年および5年が経過した2つのプロットから土壌を採取した。採取した土壌深度は、掻き起こし処理区は0-15cm、対照区は0-15cmおよび15-30cmである。実験室において新鮮土約20gをガラス瓶に採取し、基質として溶液でグルコースを1.2mgC付加(C)、硫酸アンモニウムを0.1mgN付加(N)、CとNを両方付加(C+N)、および無処理の4処理を施し25℃で2週間培養した。培養前後の土壌中のNO3-NとNH4-Nを、KCl溶液で浸透抽出し、濃度を比色定量した。培養前後の差を正味窒素硝化およびアンモニア化速度とした。調査期間は2002年8-9月、窒素無機化特性の各処理は5反復ずつで分析を行った。 C付加によって処理区土壌の正味硝化速度は減少していた。対照区の変化量はわずかだった。これはC基質が供給されることによって微生物による無機態Nの有機化が促進されたことを示していると考えられる。つまり、掻き起こし処理に伴う有機物層の除去は土壌へのC供給を減少させ、そのため微生物が無機態Nを有機化するのに十分な量のCが土壌中に存在しなくなることを表している。このことが処理区土壌の正味硝化速度増加とそれにつながるNO3-N濃度上昇の一因となったと考えられる。 N付加およびC+N付加処理によって、処理区土壌の正味硝化速度は増加し、正味アンモニア化速度は減少していた。対照区では正味硝化およびアンモニア化速度がどちらも増加していたが、硝化速度の増加量はわずかだった。対照区の基質を付加しない土壌では、正味アンモニア化速度と正味硝化速度の平均値はそれぞれ17.15 mgN/kg/2 weeks、10.28 mgN/kg/2weeksだった。このことは土壌微生物の硝化活性が処理区の、特に1年目の土壌で高く、対照区では低いことを示している。また対照区土壌はNH4-Nが十分に存在しても硝化されない状態であることから、有機物層から供給されるH+による硝化菌生育の制限や有機酸による硝化抑制などが起こっていると考えられる。掻き起こし処理によってこれらの硝化制限因子が取り除かれ、硝化活性が高まったと推測される。 土壌の窒素無機化速度は、1年目に比べ5年目の土壌の方が硝化活性が低くなる傾向がみられたが、対照区のように硝化が抑制されてはいなかった。掻き起こし処理によって硝化型へと変化した土壌の窒素無機化特性は処理後5年が経過してもその性質を保持しており、森林の土壌窒素動態において掻き起こし処理の影響が長期間持続することが示された。
  • 伊藤 江利子, 小野 賢二, 鹿又 秀聡, 今矢 明宏
    セッションID: P1060
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    矢作川流域をモデル流域とし、流域全体の森林土壌における窒素貯留量を推定した。GISデータを整備し、矢作川流域の森林を7つの森林タイプに区分し、面積を算出した。土壌断面調査を行い、それぞれの森林タイプの森林土壌における窒素貯留量の代表値を明らかにした。対象流域の森林地域166,000haにおける窒素貯留量は1,220,000tと推定された。
  • 野口 享太郎, 阪田 匡司, 溝口 岳男, 高橋 正通
    セッションID: P1064
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.背景と目的 樹木の細根は高い養分吸収活性を持ち、かつ発生・成長から枯死・分解にいたるまでのターンオーバーが速いとされ、生態系内における物質循環に大きな影響を与えていると考えられる。このことから、細根の動態について知ることは、生態系の物質循環を理解するために重要である。 近年になり、欧米を中心にミニリゾトロン法による細根動態の解析が盛んに行われるようになってきた。ミニリゾトロン法は、透明パイプを地中に埋め込み、パイプ面に出現する根を経時観測する方法で、これにより、細根のターンオーバーについて多くの情報が得られることが期待されている。しかし、ミニリゾトロン法は観察用パイプの表面における現象を観測対象とするため、細根動態を定量的に評価するためには、何らかの方法により、得られた値を土壌体積または森林面積を基準とした値に変換する必要がある。一方、従来行われてきたコアサンプリング法は、試料採取方法が破壊的であるため同一地点の継続観測が不可能であるが、土壌体積を基準とした細根量を直接計測できる。したがって、これらの方法を組み合わせることは、細根動態を研究する上で有益であると考えられる。 そこで本研究では、ミニリゾトロン法とコアサンプリング法で観測された細根量を比較し、その関係について検討した。2.試験地と調査方法◎試験地:本研究では、森林総合研究所・千代田試験地(茨城県新治郡千代田町)の25年生スギ林において調査を行った。この林分の地形はほぼ平坦で、林床はクサイチゴなどの下層植生に覆われている。◎ミニリゾトロン法:2001年12月から2002年1月にかけて、上記試験地のランダムに選んだ7箇所において、長さ1m、直径約6cmの透明アクリル製パイプを地表面に対して約45°の角度で設置した。2002年5月より、3週間に1度の割合で専用のカメラ(Bartz technology)を用いてパイプ表面に現れた根の写真撮影を行い、得られた画像を根画像解析ソフトウェア(Regent Instruments)を用いて解析した。本研究で用いた機材は、フレームサイズ1.3×1.9cm(縦×横)の画像をパイプの縦方向に連続して撮ることができる。本研究では、アクリルパイプの地表面に対する角度と画像のフレームサイズを考慮して、土壌深さ10cmに対し11または12枚の画像を解析し、フレーム1枚あたりの細根の長さを根長密度(mm flame-1)として算出した。◎コアサンプリング法:上記試験地において7箇所をランダムに選び、土壌採取オーガー(Split tube sampler, 大起理化工業)を用いて土壌コアサンプル(深さ0__-__40cm)を採取し、これを深さ10cmごとに4つに分け、保冷して研究室に持ち帰った。これらの試料をメッシュサイズ0.5mmの篩い上で水洗し、篩い上に残った根のうち直径2mm以下のものを細根として取り出した。得られた細根を水中に置いた状態でスキャナーを用いて撮影し、根画像解析ソフトウェア(同上)による解析を行った。この作業を2002年5月より2__-__3ヶ月に1度の割合で繰り返した。3.結果と考察ミニリゾトロン法およびコアサンプリング法で得られた結果のうち、直径0.5__-__1mmの細根の根長密度を見ると、一部の結果を除いては、両者とも根長密度は最表層の0__-__10cmで大きく、それ以下の層で減少し、最下層の30__-__40cmで再び増加する傾向にあった。このように、根長密度の垂直分布の傾向については、両方法とも同様であった。しかし、その割合については異なり、ミニリゾトロン法で観測される細根量が、表層土壌では実際よりも低く見積もられるか、あるいは逆に、下層土壌の細根量が実際よりも大きく見積もられる可能性があることが示された。また、数値のばらつきはミニリゾトロン法で大きかった。 ミニリゾトロン法の結果は土壌中の細根の垂直分布パターンを大まかには反映しており、コアサンプリング法の併用は、細根動態の定量化に有効であると考えられる。しかし、その量的割合や各値のばらつきなど、両手法の結果に異なる挙動も見られることから、今後、調査方法の改善や数値に対する何らかの補正を行うことも重要であると考えられる。
  • 上村 真由子, 小南 裕志, 金澤 洋一, 後藤 義明
    セッションID: P1065
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    森林生態系の炭素収支を評価するためには有機物からの分解呼吸量の定量化が必要である(Goulden 1997)。中でも、枯死木の分解呼吸量については、存在する枯死木の量により生態系純生産量が相殺される可能性が示唆されている(Houghton et al. 2000)。よって、枯死木からの分解呼吸量を定量化することが重要である。 これまでの研究から、枯死木分解呼吸量は環境要因(温度や含水率)や枯死木の状態(材密度)に影響されることが示唆されてきた(Yoneda 1985, Jomura 2001)。そこでこの研究では、1) 枯死木分解呼吸量の測定のための自動開閉式チャンバーを開発し、2) このチャンバーを用いて枯死木分解呼吸量を密な頻度で1年間測定し、3) 呼吸量と同時に測定した環境要因(温度や含水率)の変化に対する分解呼吸量の反応性を調べた。 試験は京都府南部の山城水文試験地(34°47’N, 135°51’E)で行った。この林はコナラ、ソヨゴからなる広葉樹二次林であり胸高断面積は20.7m2 ha-1である。平均気温は15.5℃、年間降水量は1449.1mmである。土壌は未熟土である。 枯死木分解呼吸量を連続的に測定するために、上蓋が自動的に開閉できるチャンバーを開発した。このチャンバー(6800cm3)は上下部が開放しており、下部は枯死木上にパテで密着させ、上部は自動的に開閉される上蓋で密閉することができる。測定は1時間に2回、1回につき10分間であり測定中チャンバーは上蓋で密閉されるが、測定外ではチャンバー内は外気にさらされ、降雨も入る構造になっている。チャンバーはチューブによりIRGA(Licor Li800)に繋がれ、ポンプにより1.0l/minの空気が循環している。温度はチャンバー内(Tc)、枯死木表面(T0)、枯死木3cm深さ(T1)、7cm深さ(T2)に熱電対を入れて測定した。枯死木の含水率は土壌含水率計(TDR)を枯死木表面に挿して測定した。チャンバー内の二酸化炭素濃度、温度、含水率のデータはデータロガー(Keyence NR-1000)を用いて1秒間隔で収集した。上蓋によってチャンバーが密閉されてからの二酸化炭素の濃度変化の勾配を枯死木分解呼吸量とした。 枯死木分解呼吸量の測定は試験地の林床に倒伏していたコナラ、アカマツの大径枯死木から直径26cm、長さ75cmの枯死木サンプルを伐りだした。コナラは2002年1月から12月、アカマツは9月から12月まで測定を行った。 コナラの枯死木分解呼吸量は明瞭な季節変化を示しており、呼吸量のピークは6月半ばに見られた。日変化についても温度に対して明瞭な日変化を示した。温度-呼吸量関係では温度の上昇に対して呼吸量が指数関数的に増加する傾向が見られた。この指数関数の傾きで表されるQ10の変動についてはより詳細な解析を試みるつもりである。温度-呼吸量関係の切片は含水率の変化にともなって変化する傾向が見られたが、その反応性は樹種により異なり、コナラでは乾燥に従い切片は増加し、アカマツでは逆に減少する傾向が見られた。
  • 牧野 太紀, 服部 重昭, 佐野 方昴
    セッションID: P1066
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    開閉型と密閉型のチャンバーを用いた土壌呼吸量の比較1.目的 土壌呼吸量の観測はかつての桐田のスポンジ法(1)から現在盛んに行われている自動開閉式チャンバーまで様々な方法で行われてきた。本研究では,落葉広葉樹二次林において通気密閉型チャンバーと自動開閉式チャンバーを用いてそれぞれ長期連続観測を行い,測定方法の違いが土壌呼吸量に及ぼす影響を評価するとともに,観測された季節変化の実態やその変化に影響を与えている要因を考察することを目的とした。2.調査地概要調査地は愛知県豊田市にあるトヨタフォレスタヒルズ林内の落葉広葉樹二次林である。この試験流域は北緯35°02′00″,東経137°11′27″に位置している小流域で,標高40__から__105mの南東斜面で,流域面積は1.47haである。毎木調査の結果から,流域内の胸高直径5__cm__以上の立木密度は3650本/haで,コナラ,リョウブ,アラカシが優占している。樹木の胸高断面積合計は約44__m2__で,そのうち落葉樹は約35__m2__,常緑樹は約9__m2__であった。地質は風化花崗岩で,土壌はかつて禿山だったこともあり未熟である。3.方法 密閉型チャンバーによる観測は__丸1__林外の草地,__丸2__谷筋,__丸3__尾根筋,__丸4__流域頂上の4地点で2001年4月__から__2002年3月まで行った。開閉型チャンバーでは__丸2__,__丸3__の2地点で2002年4月から現在まで観測を行っている。両方法のCO2濃度の測定にはCO2分析計LI__-__800(LI__-__COR社製)を使用した。密閉型の1サイクルの測定間隔は30分で行った。最初の15分間にチャンバー内に外気を取り込みチャンバー内・外の環境条件を同じにし,15分後にチャンバー内への外気の取り込みを停止した。一方,開閉型は上蓋が開いている時間を45分,閉じている時間を15分にセットし,1時間サイクルで観測を行った。密閉型は後半の15分間,開閉型はチャンバーの上蓋が閉じている15分間にチャンバー内に蓄積されていくCO2濃度を測定した。どちらの方法もCO2濃度を3分に1回測定し,データロガー(ホボシャトル,米国オンセットコンピューター社)に記録した。両方法とも装置を2台使用し,密閉型は2週間ごとに場所を移動させて観測を行い,開閉型は__丸2__,__丸3__地点に固定して観測した。地表面温度はチャンバー設置地点で30分毎にチャンバー内と外で観測した。気温は__丸2__地点付近で30分毎に観測した。土壌含水率は2002年8月から__丸2__,__丸3__地点の深度5__cm__でTDR水分計1時間毎データロガー(PG208W,Campbell社製)に収録した。4.結果と考察 密閉型のCO2フラックスは8月1日に最大4.39μmol・m-2・s-1を示した後,地表面温度が夏季から冬季にかけて低下するにつれて,減少していった。12月以降になると,一定幅で推移していき最小値が現れる季節変化を示した。CO2フラックスと地表面温度の関係を見ると,地表面温度が上昇するにつれてCO2フラックスは指数関数的に増加することが確認された。開閉型のCO2フラックスは春季から夏季にかけて地表面温度の上昇とともにCO2フラックスが増加し,7月2日に最大値4.57μmol・m-2・s-1を示した。しかし,その後は地表面温度が高いにも関わらずCO2フラックスは1.0μmol・m-2・s-1前後と低い値を示した。この理由としては7月20日__から__8月14日,8月20日__から__9月5日にかけての降雨が10__mm__以下と非常に少なく,土壌水分が少なく生物活動が衰えたためにCO2フラックスが小さくなったと推察された。CO2フラックスと地表面温度の関係を見ると,地表面温度が上昇するとCO2フラックスも増加した,しかし,降雨が少なく土壌含水率が小さい値を示した期間とそうでない期間を比べると,土壌含水率が低い期間の増加率は土壌含水率の低くない期間より小さかった。これらのことより,CO2フラックスは地表面温度だけでなく,土壌含水率も影響を与えていると推察された。
  • 檀浦 正子, 小南 裕志, 鈴木 麻友美, 金澤 洋一, 後藤 義明
    セッションID: P1067
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに森林生態系における炭素収支を考える上で、土壌呼吸量からの根呼吸量の分離は不可欠であるが、手法や場所の違いにより大きい違いがある。一般に、根を枯死させた処理区とコントロール区での差分で求めたり、掘りとってチャンバーにいれて測定する方法があるが、前者では両区分の根や土壌が同一と仮定するため、今回の調査地のような地形が複雑で不均質な根分布が予想されるような林分では困難である。また後者は掘り取りにより、実際とは違う条件下にあることによる影響が心配される。ここでは西日本に多く見られる広葉樹二次林を対象に、根量との比較から根呼吸量を推定することを目的とした。2.材料と方法京都府相楽郡に位置する山城試験地を調査地とした。年平均気温は15.5℃、年間降水量は1449.1mmであり、針葉樹を含む広葉樹の二次林である。胸高直径3cm以上の樹木に関しては90%が広葉樹である。土壌は花崗岩由来の未熟土的褐色森林土である。土壌呼吸量と含まれる根量とを比較するために次のような実験を行った。まず土壌呼吸量を測定するために、調査地の中腹斜面に2×3mのプロットを設け、その中に直径20cmのソイルカラーを8個設置した。うち1つはコントロールとした。土壌呼吸量は赤外線ガスアナライザー(LI-800:Li-cor社製)を用い、密閉法で測定した。地温は熱伝対を用いて、また土壌含水率はTDRを用いてそれぞれ測定した。測定後、プロット内の土壌を有機物層とB層40cmの土壌中に含まれる根量を測定した。根は生死を分け、さらに2mm以下の細根、2-5mmの小径根、5-20mmの中径根に分けた。分類後、乾重を求め、根量とした。その後、再度同じ場所で同様に土壌呼吸の測定を行った。また試験地内の土壌が薄く比較的乾燥した尾根部、有機物層が厚く湿潤な谷部でも同様のソイルカラーを設置し、土壌呼吸量を測定した後、根量を測定した。3.結果と考察A層とB層40cmの土壌を撤去したところでも土壌呼吸量は0.0105__-__0.0135mgCO2 s-1 m-2の値を示した。土壌有機物が十分に少ないと仮定するれば、この値は硬質土壌中に含まれる根による呼吸と考えられる。土壌呼吸量とその地点に含まれる根量との関係を下図に示す。根量の内訳で5mm以上の根が存在する場合は重量あたりに対する呼吸量効率が大きく減少する。これは根直径によって重量あたりの呼吸量が異なるためであると考えられる。掘り取りにより直径階ごとの呼吸量を評価した実験(檀浦2002)では直径階の小さな根のほうが重量あたりの呼吸量は大きいという結果がでており、根直径を考慮にいれた根呼吸量についても考察する。谷の土壌呼吸量は多く、尾根の呼吸量は少ない。場所による差異は土壌有機物量や根量、含水率などの要因に起因していると考えられる。それぞれの場所ごとの結果をみると、根量と土壌呼吸量には正の相関があり、y軸切片がその場所での土壌有機物呼吸量である可能性が示唆された。
  • 吉田 宗平, 山本 一清, 竹中 千里
    セッションID: P1068
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    1.はじめに
    現在大気中のCO2濃度の増加に伴う地球規模での温暖化が問題となっている。その中で森林の果たしている役割について社会的関心が高まっているが、森林の炭素循環中の重要なフラックスである土壌呼吸に関する知見は未だ十分ではない。土壌呼吸は、樹木の根による根呼吸と、微生物の有機物分解による微生物呼吸から構成されている。しかし土壌呼吸は時間的にも空間的にも変動が大きく、その変動を制御している要因についてもあまり解明されていない。そこで本研究は土壌呼吸と樹木位置との関係を調べることによって、土壌呼吸速度の空間的変動と時間的変動を予測するために必要な知見を得ることを目的とする。
    2.対象地及び測定方法
    対象地は愛知県西加茂郡藤岡町の二次林とした。アカマツ(胸高直径21.7 cm)、ソヨゴ(同6から9cm、株立)、コナラ1(同26.7 cm)、コナラ2(同13.6 cm)をターゲット木として設定し、樹木直下、1.5m地点、3m地点にチャンバーを設置した。CO2濃度測定装置に赤外線ガス分析計(LI-800,LI-COR)を用い、循環式密閉型チャンバー法により2001年6月から2002年12月に毎月1回対象地内において土壌呼吸速度を測定した。同時に地温,気温も測定し、土壌水分量も数回測定した。
    3.結果
    土壌呼吸速度は、特にアカマツとコナラ1において直下で高く、その他の地点で小さくなる傾向が見られた。一方でソヨゴとコナラ2ではそのような傾向はあまり見られなかった。
    どのターゲット木における土壌呼吸速度も気温、地温と同様に明確な季節変化を示し、夏季に土壌呼吸速度は高く、冬季に低くなった。しかし、特に2002年8月に気温、地温はこの年の最高値を示していたが、土壌呼吸速度はその前後の月に比べて低い値を示した。また、地温、気温は樹木からの距離に対してほとんど変化しなかった。一方、多くの報告にあるように、土壌呼吸速度と地温や気温との間に非常に高い相関がみられた。土壌水分量は位置によって大きく異なることはなかった。
    また、根呼吸の影響を最も受けていないと考えられる3mの土壌呼吸速度(SR)と地温(T)の関係を指数関数で表した場合、SR = 0.54e0.08Tで表された。この近似式で表した値を微生物呼吸とみなし、根呼吸の影響を最も受けていると考えられる各ターゲット木の直下の呼吸速度から引いたものと気温の関係の相関係数は、アカマツ、ソヨゴ、コナラ1で高い相関を示したが、コナラ2ではそれほど高い相関は得られなかった。
    4.考察
    多くのターゲット木、特に樹体サイズの大きいアカマツとコナラ1で樹木直下の土壌呼吸速度が高くなる傾向を示した。これは樹木の直下では植物の根量密度が高く、根呼吸が多くなり土壌呼吸速度も高くなるため、根量が多いと考えられるこれらの樹木でその特徴が顕著に表れたものと考えられる。また、直下と3m地点の温度に対する反応の違いから、樹木直下の土壌呼吸量を考慮に入れなければ、過小評価になる可能性が示唆された。
    また、2002年8月に土壌呼吸速度が低下したことから、特に夏季の高温少雨の季節において、温度のみで土壌呼吸量を推定した場合、過大評価になる可能性が示唆された。
  • 長尾 忠泰, 後藤 晶子, 原田 洋
    セッションID: P1069
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/03/31
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    熱海市と川崎市に造成された環境保全林の3ヶ所でリターフォール量の測定を行った。直径64cmのリタートラップを各調査地にランダムに5又は8個設置し,毎月リターフォールを回収した。
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