I.目的 近年、高解像度衛星計画が活発化している。高解像度衛星センサの地上分解能は0.6__から__1mであり、これまでの衛星センサによる森林個体群の観測と異なり、各個体ごとの観測を行うことが可能になると考えられる。その結果、従来、人間の経験を頼りにアナログ的に空中写真で行われていた樹種、樹高、樹冠直径など単木情報の判読が、コンピュータによって高速に大面積に対して客観的にデジタル処理されることになるであろう。また、詳細な天然林の林相区分はこれまで空中写真では目視の限界、衛星データでは分解能の限界から困難とされてきたが、高解像度衛星データの利用によって簡易なものになることが期待される。
そこで本研究では高解像度衛星データを用いた天然林林相区分手法の開発を行うことを目的とした。
II.資料 データサイトは東京大学北海道演習林岩魚沢大型固定試験地内のプロット18ヶ所である。試験地は天然林で構成されており、プロットの大きさは50×50mである。本研究では樹木位置・樹高・樹冠半径4方向を測定した。また、ジオリファレンスの際にはGPS測量を元に作成された施業図を使用した。
衛星データには2002年6月7日撮影のQuickBird画像を使用した。QuickBirdはパンクロセンサと青・緑・赤・近赤外の4つのカラーセンサで構成されている。分解能はパンクロセンサが0.61m、カラーセンサが2.44mである。
III.方法 本研究の流れは以下の通りである。
1.衛星データ上の単木と地上データの同定針葉樹と広葉樹はフォールスカラーでそれぞれ緑色と赤色に近く表示されるので、施業図、樹木位置データおよび樹冠データから作成した樹冠投影図を参考にパンクロ画像およびカラー画像にジオリファレンスを行った。次に、パンクロ画像を元にカラー画像を0.61m解像度にリサンプリングを行った。
2.画像解析ソフトによる林相区分 本研究では画像解析ソフトeCognition(独DEFINIENS社)を用いて林相区分を行った。ここで、eCongitionとは従来の画素ベースの分類処理ではなく、テクスチャーとしての分類処理(ファジー分類など)を行うオブジェクト志向型自動分類処理ソフトである。eCognitionの処理過程は1.隣接するピクセルの同一性の許容範囲を決定するパラメータであるスケールパラメータ、色、形状、なめらかさなどで構成されるパラメータを決定して自動画像分割を行う。2.画像分割によって形成されたオブジェクトの分類を行う、である。本研究では針葉樹・広葉樹別の林相区分から始まり、樹種の判定がどこまで行えるかを検討した。
3.精度の評価 eCognitionで分類された様々な程度の林相区分による樹冠被覆率と地上調査から計算された上層木の樹冠被覆率を比較した。
IV.結果および考察 本研究は単木を対象としているので、精密なジオリファレンスを行わなくてはならず、分解能、センサの角度による歪み、参照する地図の誤差、GCP選定の難しさなどでジオリファレンスは非常に困難であった。
画像解析ソフトで針葉樹に分類された樹冠被覆率と地上調査から計算された上層木針葉樹の樹冠被覆率を比較したところ回帰式は
y=0.46
x+0.29 (R
2=0.68)
ただし、
x:樹冠半径から計算された樹冠被覆率、
y:画像ソフトから計算された樹冠被覆率
となった。画像ソフトによる樹冠被覆率が過大推定された原因の1つは、影の部分も針葉樹に分類されたからだと考えられる。しかし、両者の相関が高いことから、本手法によって天然林の林相区分が行えることが明らかになった。今回使用したソフトで画像分割・分類を行う際のパラメータが他の季節および地域でも用いることができるかどうかの検討は今後の課題である。
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