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和田 尚之, 斎藤 秀之, 小林 壱徳久, 星野 洋一郎
セッションID: P1-232
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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広葉樹の着花技術は未確立な樹種が多く、効果的な技術開発のために花成メカニズムの解明が必要とされている。ブナの花成はFT遺伝子のDNAメチル化を介したエピジェネティック制御を受けるため、FT遺伝子のDNAメチル化/脱メチル化の決定時期とそこに作用する環境要因を特定できれば、着花技術の開発に役立つ。DNAメチル化レベルはDNA複製時に決まるため、最初に、葉形成の過程におけるDNA複製頻度(細胞分裂頻度)の季節変化をフローサイトメトリー法で調べた。展葉時期に細胞分裂して葉を形成した細胞の割合は9割であった。次に、展葉時期の養分条件がFT遺伝子のDNAメチル化に与える影響を検討するために、展葉前の1年枝を養分条件の異なる溶液に挿して人工環境下で展葉させてDNAメチル化レベルを計測した。DNAメチル化レベルは総合肥料により上昇することがわかった。以上をまとめると、DNAメチル化/脱メチル化の決定時期は展葉時期の割合が大きく、この時期の養分条件がDNAメチル化を介したFT遺伝子の発現の可否をエピジェネティックに規定していると考えられた。
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福井 忠樹, 鳥丸 猛, 赤田 辰治
セッションID: P1-233
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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植物の主要な防御物質として知られている縮合タンニン(プロアントシアニジン、以下PA)は食葉性昆虫による食害や物理的損傷によって葉に蓄積される。また冷温帯落葉広葉樹林の主要構成樹種であるブナにおいて、前年の食害が翌年の若葉におけるPA合成にまで影響を及ぼすことが報告されており、関連遺伝子のエピジェネティックな調節が関与していると考えられる。本研究はブナのPA合成経路に働く傷害誘導性遺伝子の探索と、翌年のPA合成に影響を与えるメカニズムの解析を目的とした。これまでPA合成の調節遺伝子としてシロイヌナズナの種皮着色に関与するTT2が知られており、ポプラではそのホモログとして傷害誘導性のMYB134が報告されている。同様のブナホモログを探索するため、葉の傷害実験を行った。傷害処理前と処理後24時間の葉で発現しているRNAを比較した結果、ブナの傷害誘導性遺伝子としてFcMYB3202が同定された。そこで2016年5月下旬に大学の圃場に生育するブナ(樹齢4年)を用いて全摘葉実験を行った。腋芽からの展開葉が多く観察された7月上旬に葉をサンプリングし全摘葉の前にサンプリングした葉をコントロールとしてPA含量および発現遺伝子を比較した。
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伊原 徳子, 二村 典宏
セッションID: P1-234
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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樹木を含む植物ではあらかじめ高温ストレスを与えておくと個体の高温耐性が増す現象が広く知られている。本研究は高温ストレスの経験の有無によって発現パターンが異なる遺伝子転写産物を明らかにすることを目的としている。25°Cで発芽・育成させた実生を2つに分け、一方に暗条件下で38°C・3時間の高温処理を行った。高温処理の48時間後に全ての実生に45°C・2時間のヒートショックを与え、25°Cに戻した。高温処理の24時間後、ヒートショック後1時間後及び24時間後の各時点において高温処理あり・なしの各4サンプル、計24サンプルについてRNA-Seqを行った。得られたリードについてサンプル毎にde novo アセンブリを行った後、コンティグの重複をまとめて155,006の転写産物配列を得た。これらの転写産物の発現パターンを比較したところ、ヒートショック1時間後において、38°C・3時間の処理の有無が発言パターンに影響する転写産物が多くみられること、これらには既知の発現遺伝子に類似性の低い配列、トランスポゾン様配列、及びコーディング領域を含まない配列が多く含まれることが示された。
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石川 達也, 西脇 宏一, 細尾 佳宏
セッションID: P1-235
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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カリウム(K+)は植物の様々な生理的プロセスにおいて必要不可欠な栄養素であり、浸透圧の調節や気孔の開閉などにおいて重要な役割を果たしている。これらのプロセスでのK+の取り込みと排出に密接に関係しているのが、チャネル、トランスポーターと呼ばれる膜タンパク質である。従って、K+膜輸送の分子メカニズムを明らかにすることは、樹木の成長や環境適応の仕組みを詳細に理解する上で重要な研究課題である。本研究では、スギから新たにK+トランスポーター候補遺伝子であるCjKUP4を単離し、配列解析を行った。さらに、CjKUP4がコードするタンパク質の輸送機能について解析を行った。CjKUP4の推定アミノ酸配列は、KUP/HAK/KTファミリーに属する既知の植物K+トランスポーターのアミノ酸配列と相同性を有していた。そして、大腸菌のK+取り込み能欠損変異株を用いた相補性試験により、CjKUP4がコードするタンパク質はK+の取り込み能を持つことが明らかになった。また、カルシウム(Ca2+)、セシウム(Cs+)を用いた生育阻害試験の結果、CjKUP4がコードするタンパク質のK+取り込み活性はCa2+とCs+の影響を受けることが示唆された。
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細井 佳久, 丸山 E. 毅
セッションID: P1-236
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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【目的】リュウキュウマツ、ヤクタネゴヨウは南西諸島に分布する針葉樹であり、両樹種ともマツ材線虫病の被害を受けている。リュウキュウマツは広範囲に分布し、建築・パルプ材等に利用されており、ヤクタネゴヨウは絶滅危惧種ではあるものの、大径木になるため、用材としての潜在的価値を有している。そのため、細胞工学的手法を用いた材線虫抵抗性個体の作出に向け、基礎的な細胞培養実験を行った。【方法と結果】ヤクタネゴヨウの芽切片と両樹種の針葉切片を殺菌し、オーキシンとサイトカイニンを添加したEM、DCR、改変MS固形培地で培養した。その結果、用いた全ての培地でカルス形成が観察された。しかし、芽などの器官分化はみられなかった。得られたカルスについてセルラーゼRS、ペクトリアーゼY-23、マンニトールを含む酵素液で処理したところ、プロトプラストが単離された。ヤクタネゴヨウ針葉切片由来のカルスから単離したプロトプラストの場合、96ウェル培養プレートで培養すると、カルス形成した。さらに、プロトプラスト単離効率の向上を目指し、カルスを細断し、液体培地で振とう培養することで液体培養細胞を誘導した。
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田口 真
セッションID: P1-239
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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白山(標高2,702m)源流域において、2015年5月に大規模な地すべりが発生し、崩壊土砂は下流に流下し深刻な濁水被害を与えた。このため濁水を抑えるために早期に崩落斜面の植生復元が課題となっているが、発生個所は国立公園特別保護区内にあり、アクセスが困難、多雨多雪、急斜面で土砂移動が激しいなど厳しい条件がある。そこで本研究では、過去の大規模崩壊地(1934年発生)の植生調査、LiDARを用いた地形解析及び不安定斜面にも活着が期待されるヤナギ類を用いたさし木試験を行い、地すべり地の修復の方向性と航空実播の可能性を検討した。この結果、1934年発生の崩壊地においては立地条件の違いにより4タイプの植物群落が発達し、とくに渓流に沿った凹地形にはオノエヤナギ群落の発達がみられた。また、LiDARによる地形解析から斜面侵食は山脚部で著しいが、上部崩落面では小さく、安定化しつつあることが分かった。さらに現場近くから採取したヤナギ類のさし木の実験から、オノエヤナギのみ発芽発根がみられた。この結果から上部崩落面の渓流に沿ってオノエヤナギのさし穂(長さ15cm、直径1~2cm程度)をスラリー式散布することが有効であることが示唆された。
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長岡 貴子, 小野 裕
セッションID: P1-240
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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森林の多面的機能のひとつである崩壊防止機能は、表層土を樹木根系が保持することで発揮されている。樹木根系はその形態によって鉛直根と水平根に区別されており、今回着目した水平根では、根系の直径分布の情報を土の土質強度補強効果ΔCとして組み込むことでその機能評価が行われてきた。しかし、実際の森林斜面では多くの根系が絡み合いながら存在する。したがって従来の断面調査による根系の2次的な情報だけでなく、単位土壌当たりの根系質量や体積等の3次的な情報が、崩壊防止機能の定量的な評価の発展のためには必要である。そこで本研究では、根系の3次元構造が崩壊防止機能に与える影響を明らかにすることを目的として、信州大学演習林内の20年生ヒノキ人工林の立木間中央で、土壌ブロック(30cm×30cm×高さ20~30cm)の採取を行った。採取後、室内で土壌と根系とを分離し、画像解析ソフト等を用いて根量を測定した。これらの作業を異なる立木間隔、また等高線方向と斜面方向の立木間において採取し(計6ヶ所)、その根量を比較した。発表では、等高線方向と斜面方向における根系分布の違い等について考察し、その結果を報告する。
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飯田 晴花, 沼本 晋也, 島田 博匡
セッションID: P1-241
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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森林環境の保全および下流域へ与える影響の軽減などの観点から、林地における土砂移動は抑制することが望ましい。リターの土砂移動抑制効果については多くの既往研究があるが、気乾重量や被覆率などによって量的に評価したものが多い。しかし、林床に堆積しているリターはスギ葉・ヒノキ葉・広葉樹葉・枝・樹皮・実など多種多様である。これらの形状の違いは土砂移動抑制効果に直接的、間接的に影響を与えていると考えられる。本研究では、リター形状の違いがリター自体の移動のしやすさに与える影響を明らかにすることを目的とする。そこで、約1カ月間に移動したスギ葉の林床被覆面積とその期間内の降水量等の関係から、スギ葉の重量が移動要因に影響を与えるかどうかを考察した。約1カ月おきに林床の定位置において撮影した写真から、林床に堆積しているスギ葉を個体単位で識別し、その林床被覆面積から個体サイズを検討した。試験地は三重大学平倉演習林の第11林班のスギ人工林斜面である。林床植生が年間を通して繁茂しない地点を選出した。
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小柳 賢太, 五味 高志, Roy C. Sidle
セッションID: P1-242
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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本研究は、2016年4月の熊本地震により斜面崩壊の多発した阿蘇中央火口丘群の西麓流域(床瀬川・濁川流域)を対象として、森林と草地における崩壊時の生産土砂量や崩壊後の土砂移動特性を検討した。2016年5月、9月、11月の3回の現地調査では森林の崩壊23箇所、草地の崩壊19箇所を対象に、崩壊深の測定と崩壊土砂の残土量の推定を行った。森林と草地の平均崩壊深はそれぞれ2.1m、1.2mであった。森林の崩壊では樹木の根系を含んだ降下テフラがブロック状に散在しており、樹木根系により崩壊深が草地より深くなったと考えられた。これらの現地調査に加えて、2016年4月29日に撮影された空中写真の立体視から流域内の崩壊地を判読し、ArcGIS(Esri社)上でポリゴン化し崩壊地の面積を求め、崩壊深と乗じて生産土砂量を算定した。現地調査で得られた残土量を生産土砂量で除した残土率は森林で50%、草地で21%であった。森林における崩壊は、崩壊土砂に含まれる倒流木により土砂が捕捉され、残土率が高くなる傾向があったと考えられた。これらの結果から、崩壊発生箇所の土地被覆状態が崩壊のみならず、その後の土砂移動特性の評価でも重要であることが示唆された。
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Arief Mochamad Candra Wirawan, Itaya Akemi
セッションID: P1-243
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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Recovery of Banda Aceh after the catastrophic disaster should be conducted carefully and concerning multifaceted aspects. Vegetation recovery and its sustainability become priority along with the coastal economic livelihood. The purpose of this study was to estimate potential site for vegetation recovery after the 2004 tsunami. Vegetation areas in 2004, which was before the tsunami, were detected by image analysis using satellite image downloaded from Google Earth Pro. Settlement and water stream were obtained from Global Map. Potential sites for vegetation recovery were estimated by MARXAN which is decision support tools. As a result, 4,797 ha (53.42% of study area) was estimated as conservation priority, and area for vegetation recovery is 4,228 ha (47.08% of study area). 745.07 ha of them was overlapped with ponds area and 481.16 ha with paddy field area. The government has to consider land use such as land sharing/land sparing.
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横山 泰之, 小田 智基, 熊谷 朝臣
セッションID: P1-244
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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オイルパームはその有用性から近年マレーシアやインドネシアを中心に急速な栽培面積の拡大が続いている。天然林の伐採によるオイルパーム林への転換を行っており、大面積の森林の転換は水循環や生態系にも影響を及ぼしていると考えられる。本研究はオイルパーム林への転換が水循環に与える影響を評価するため、マレーシアサラワク州のオイルパームプランテーション林で遮断蒸発特性の検討を行った。16年生の林分で30m×30mのプロットを設定し、2016年8月~11月まで林内雨量20点・樹幹流量5本で1~3降雨イベントごとに観測を行った。その結果、林外雨量に対する樹冠遮断量の割合は4.1%・林内雨量は94.4%・樹幹流量は1.5%となり、林内雨の割合が大きく、樹幹流・樹冠遮断量は小さいことが分かった。さらに林内雨・樹幹流が発生するまでの降雨量はそれぞれ1.5mm・3mmと非常に小さいことや、降水量の増加と共に樹冠遮断量は増大するが、イベントあたりの降雨量が40mmを超えると樹冠遮断量は5mm程度の頭打ちになることも分かった。このことからオイルパームの樹冠は降雨を滴下させやすい形状をしているため、樹冠での貯留量が小さく、樹冠遮断量が小さくなっていると考えられる。
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仙福 雄一, 小杉 緑子, 鶴田 健二, 高梨 聡
セッションID: P1-245
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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森林樹冠から大気へと放出される水蒸気には蒸発によるものと蒸散によるものがあり、森林の水循環を考える上でこの2つの過程を分けて考える必要がある。また、降雨後遮断蒸発から蒸散へと移り変わっていく過程で光合成速度にも影響があると考えられる。本研究では森林の降雨時の樹冠遮断と蒸発散過程の実態を把握するために、滋賀県桐生水文試験地のヒノキ壮齢林において、電気抵抗式の濡れセンサーを自作して樹冠上層・中層・下層の葉の濡れ具合を測定し、樹間各層の保持水量の推定を試みた。また渦相関法による生態系フラックス測定(CO2、潜熱、顕熱)と多層モデルによる再現計算も行い、葉の濡れや生態系フラックスの実測値とモデル計算値を比較した。濡れセンサーの性質を知るため、室内実験において濡れセンサーの出力値とヒノキの葉の保持している水分量を測定した。室内実験の結果、ヒノキの葉面積あたりの最大保持水分量は0.18±0.04kg/LAIだった。また、濡れセンサーの出力値と葉面積あたりの保持水分量との関係式を作り、それをもとにして樹間各層の保持水量を推定し、モデル計算値および樹冠上で実測された潜熱フラックスと比較した。
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Seonghun Jeong, Kyoichi Otsuki, Akio Inoue, Ayumi Katayama, Yoshinori ...
セッションID: P1-246
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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We monitored the partitioning of gross rainfall (Pg) into throughfall (TF), stemflow (SF) and interception loss (Ic) in a 20 m Χ 10 m plot at the 32 years old non-managed plantation of Japanese cypress (Chamaecyparis obtusa) (2,500 trees ha-1) in Fukuoka, Japan. The results showed that Pg, TF and SF were 1757.4 mm, 1018.8 mm (58.0 %), 303.8 mm (17.3 %), respectively, which resulted in Ic of 434.8 mm (24.7 %). Although Ic ratio was comparable to those reported in previous studies in mature Japanese cypress stands (30 data set), SF ratio was the largest. We assumed that TF was diverted to SF when dropping from canopy due to the unpruned dense dead branches in this stand.
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上倉 義人, 小谷 亜由美, 太田 岳史
セッションID: P1-247
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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森林群落内外の風環境は、樹木への物理的ストレスをもたらす一方で、物質輸送にも影響を及ぼす。群落構造は風環境の形成要因のひとつであり、様々な森林群落での研究が必要である。そこで本研究では、他地域の森林と比較して樹冠密度の小さい東シベリアカラマツ林を対象として、風環境への樹冠の影響を明らかにするため、林外と林内の風速、摩擦速度、空気力学的コンダクタンス、および林外から林内への摩擦速度減衰率に着目してそれらの時間変動の要因を調べた。本カラマツ林の摩擦速度減衰率は他地域の森林より減衰率は低く、LAIの小さいことを反映している。同程度のLAIの森林と比較すると、不安定時には減衰率は小さく、安定時には減衰率は大きいという結果が得られた。摩擦速度と風速の変動要因として、安定度・年月・風速を検討した。空気力学的コンダクタンスの時間変化については、林冠の季節変化と年変化を考えると、林外と林内で異なる時間変化がみられた。
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水垣 滋, 勝山 正則, 小田 智基, 谷瀬 敦, 新目 竜一
セッションID: P1-248
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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山地流域における浮遊土砂の流出プロセスを明らかにするために、北海道の沙流川水系総主別川流域を対象に濁度計による浮遊土砂(SS)濃度観測(2011~2016)を行い、融雪・降雨出水時のSS濃度の履歴(ヒステリシス)を解析した。また、2016年7月27日~29日の降雨出水(総雨量141.5 mm、最大時間雨量12.5 mm)について、自動採水器による連続採水と水質・安定同位体分析を行い、複数トレーサにより水・土砂流出プロセスを考察した。その結果、ヒステリシス・ループ形状の出現傾向は出水規模に応じて異なることがわかった。2016年7月の降雨出水は、高水時は増水時より減水時にSS濃度が高く、低水時はその逆になる8の字型のヒステリシスであった。高水時の減水時に高いSS濃度は、水の酸素同位体比やシリカ濃度等の変動傾向から、斜面や河道に蓄積されてきた堆積物中を通過する水によって浮遊土砂が供給されたものと推察された。このように浮遊土砂のヒステリシス・ループの発生要因を複数トレーサによって水の挙動とともに解析することにより、未解明な部分が多い山地流域での土砂流出プロセスの理解がより深まることが期待される。
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酒井 佑一, 小田 智基
セッションID: P1-249
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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これまで、森林土壌での流出プロセス解明のため、トレーサーを用いた研究が多く行われてきた。しかし、水質変化の野外観測は一般に無降雨中に行われるため、降雨中の流出および水質形成の変化をとらえられていないことが多い。そこで、本研究はカラム土壌を用いて降雨中の流出および水質形成のメカニズムを実験的に検討することを目的とした。実験では、直径0.6 mmで均一粒径のガラスビーズを用いてカラム土壌を作成した。そして、カラム土壌の上端から、降雨として純水または食塩水を与え、下端からの流出水の流量と電気伝導率(EC)を連続的に測定した。供給する純水のECは8 μS/cm、食塩水のECは6500 μS/cmとした。降雨の供給は、純水、塩水、純水の順に、流出水のECが一定値になるまでそれぞれ定常的に供給した。2回目に純水を供給して流出水のECが一定値になった後、一旦降雨の供給を停止し、時間をおいてから純水の供給を再開したところ、ECの増大が見られた。この増大は、供給を止めている時間が長いほど大きくなった。これは、降雨時では水が土壌内の水みちを選択的に流れるが、物質は拡散によって水みち以外の部分に保持され、無降雨時に拡散するためと考えられる。
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浅野 友子, 高木 正博, 芳賀 弘和, 山川 陽祐, 小野 裕, 沼本 晋也
セッションID: P1-250
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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気候変動により豪雨の規模や頻度が増加することが予測されているが、山地河川では大きな出水時の量水観測が難しいためデータが少なく、現象の理解や水・土砂流出予測が進まない現状がある。そこで(1)山地河川での増水時の量水観測精度の向上と(2)山地河川での大規模な増水時のデータの取得を目標として研究を行っている。全国大学演習林のネットワークを利用して、流域面積5.93~1760 haの6つの山地河川で雨期に並行して量水観測を行うと同時に、観測方法と観測における課題の整理を行った。インターバルカメラによる増水時の状況把握が精度向上に有効であること、流量公式を適用できる横断面が固定された量水堰堤では、増水時も計測可能範囲内で土砂濃度が低い場合は観測精度が高いが、土砂濃度が高い場合は土砂の影響を検討する必要があることが整理された。また、増水時に流量データを取得する最適な方法は河川の規模や特徴によって異なるが、特に流域面積>103haの山地河川での増水時の有効な観測方法が確立されていないこと、またどの規模の河川も増水時に移動する土砂や流木の処理が観測上の大きな課題であることが明らかとなった。
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瀧澤 英紀, 玉乃井 梓, 豊泉 恭平, 小坂 泉
セッションID: P1-251
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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本研究では、日本大学みなかみ演習林の隣接した大小2流域(13.7ha,1.2ha)において融雪流出観測を行い,イオン濃度変化と流量について2シーズン調べ、流出特性を比較した。降雪量に関して2015年は多雪であり、2016年は少雪であった。多雪年では大小2流域ともにNO3-は流量増加に伴い濃度増加であったが、少雪年は小流域のNO3-濃度のみ極端に低い値を示した。SO42-では、多雪年においては流量増加に対して濃度減少の傾向であるが,少雪年では濃度変化はほとんど生じなかった。Cl-に関しては流量との関係が小さく、かつ、大小2流域において濃度差が小さかった。多雪年では融雪の進行によりCl-濃度が変化するものの、少雪年では濃度の変化はなかった。以上より、ロームの堆積がみられる土壌層の厚い大流域ではNO3-が示す表層土壌由来の流出が大きいのに対し,土壌層の薄い小流域ではSO42-示す基岩近傍由来と思われる流出が大きいと考えられた。すなわち、融雪量が多い年では2流域で共に流量増加に対してNO3-濃度が増加し、融雪水が表層土壌を押し出し流出させたのに対し、少雪年では土壌層の薄い小流域ではNO3-を含まない地下水の流出が占めたことが考えられた。
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山川 陽祐, 谷口 未峰
セッションID: P1-252
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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降雨によって発生する深層崩壊は降雨ピークに対して様々な遅れ時間を伴って発生していることが報告されており,ここには地下水挙動を規制する基岩構造の空間的不均一性が大きく関係していると考えられる。降雨による深層崩壊の発生件数は西南日本外帯の付加体堆積岩地質の地域において比較的多く,他の地質帯に比べて深層崩壊が起こりやすい斜面を多く有する地質帯であることが指摘されている。本研究では,当該地質帯における基岩内地下水挙動について空間的不均一性を踏まえた実態解明を目的として,南アルプス南部の付加体堆積岩山地流域(流域面積は約2350ha)の計4地点において斜面上の湧水量観測を行い,それらの降雨応答特性を解析した。降雨条件が概ね一様と考えられる4地点間において,湧出量増加および逓減の応答が大きく異なった。4地点間の湧水量と実効降雨の相関解析では,それぞれ相関係数が最も高くなる最適半減期が数十時間から百数十時間の範囲で顕著な相違が認められた。
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山本 嵩久, 有賀 一広
セッションID: P1-254
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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平成24年7月に再生可能エネルギ固定買取制度FITが開始され、平成26年11月時点でFIT設備認定を受けた木質バイオマス発電設備は全国で43ヵ所と計画が進展しており、栃木県においても那珂川町の製材所で出力2,500kW、年間燃料消費量約50,000tの木質バイオマス発電施設が稼働している。木質バイオマス発電の計画が進展している一方、燃料となる木質バイオマスの原料調達が課題となっていることから、今後は地域の実情に即した燃料の供給体制を確立し、適切な規模で取り組むことが重要となっている。ただし、発電設備が小規模になると発電効率が低くなるため、ガス化による発電効率の向上が期待され、ヨーロッパで最大のシェアを持つ小規模ガス化発電施設などが群馬県上野村や福島県郡山市に導入されている。本研究では、那珂川町の発電施設への聞き取りとGISを用いた解析により、発電設備の燃料調達範囲を確定し、それを栃木県の収穫可能量マップと重ね合わせることにより、小規模バイオマスガス化発電適地を探索した。その結果、県内の複数の市町村において、新規バイオマスガス化発電施設稼働の可能性が示唆された。
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中田 知沙, 板谷 明美
セッションID: P1-255
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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三重県では3つの木質バイオマス発電所が稼働しており,森林資源の供給について早急に課題を明らかにし,対応を検討する必要がある。本研究では,収穫・輸送費用を指標とした木質バイオマス発電所への森林資源供給の可能性について検討した。人工林の分布は,第6回自然環境保全基礎調査植生調査報告書のスギおよびヒノキ植林地を使用した。集水域の算出には,国土数値情報の標高・傾斜度4次メッシュデータを使用した。人工林の分布を集水域で区分し,重心位置を求めて出発点とし,木質バイオマス発電所の位置を着点とした。発着点間の経路をGoogle Map APIを用いて計測した。津市内に建設された木質バイオマス発電所への木質資源の平均輸送距離は77.01kmで,公道上の平均輸送時間は1.78時間であった。平均収穫・輸送費用は46150.06円,最大で156601.77円であった。三重県は南部に多くの人工林が分布しているが,収穫・輸送費用を考慮すると採算性が課題となり,より効率的な作業が求められると考えられた。北中部では森林資源は多くないが,木質バイオマス発電所が近接して稼働しており,過伐採に対する管理が必要と考えられた。
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吉岡 和起, 矢部 和弘, 今冨 裕樹
セッションID: P1-256
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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わが国においては、プロセッサの利活用が積極的に行われている。このような状況の中でプロセッサの生産性を高めていくことは重要な課題である。そこで本研究では樹種に応じた生産性が高い造材方法を明らかにすることを目的として試験を実施した。 今回の調査にはI社製のプロセッサを使用した。樹種は、スギ及びヒノキとし、造材方法として送材、玉切りを交互に行うA方式と先行枝払い後に送材、玉切りを行うB方式の比較を行った。なお、本研究では工程分析、生産性、損傷度を通して造材方法の評価を行った。工程分析では、要素作業を「空移動」「荷つかみ」「実移動」「元口切り」「送材」「玉切り」「枝払い」「逆送材」「末端処理」に区分した。その結果、スギにおいてはA方式とB方式を比較すると「実移動」に有意差がみられた。一方、ヒノキにおいてはA方式とB方式を比較すると「枝払い」に有意差がみられた。ヒノキのような堅い樹種ではA方式が良いと考えられた。生産性ではスギ、ヒノキ両方ともにA方式がB方式に比べて高いことが分かった。損傷度については、先行枝払いを行うB方式ではローラーによる損傷が目立ったが、A方式においての損傷度は少なかった。
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市川 翔悟, 榛村 航一, 金谷 勇作, 佐藤 風香, 吉岡 和起, 矢部 和弘, 今冨 裕樹
セッションID: P1-257
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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日本の森林は急峻な場所が多く架線による集材方式が採用されてきた。その一方、作業効率面から高密度な作業道を活用した車両系による集材方式も取り組まれてきている。しかし路網を開設することが適切でない急峻地形等では架線集材が有効と考えられる。 近年、わが国では先進林業機械の導入・活用が試されている。そこで本研究では欧州製自走式搬器を活用した事例を通し、生産性の向上及び効率的な作業方法を考察することとした。対象は、オーストリア製自走式搬器ウッドライナーを用いた集材作業システムである。調査地は静岡県掛川市にあるスギ・ヒノキ混合林約1haの皆伐施業地で、2回に分けて調査を行った。1回目が土場に2人(荷おろし・造材、椪積み)林内に1人(荷掛け)、2回目が土場に1人(荷おろし・造材・椪積み)林内に2人(伐倒、荷掛け)、当施業地は2回の主索の張り替えが行われ、1回目のスパン長は235m、2回目は243mであった。集材作業の労働生産性は1回目(14サイクル)10.46㎥/人日、2回目(31サイクル)8.96㎥/人日であった。架設撤去作業は4人で架設3時間7分49秒、撤去2時間44秒であり、架設撤去作業能率は既報と類似した結果であった。
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沢崎 元美, 吉村 哲彦, 千原 敬也, 鈴木 保志
セッションID: P1-258
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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欧州で一般的な主索を用いた軽架線集材システムをベースに、日本のスイングヤーダで主索と係留装置を使った集材システムを実現するため、クランパーを使った簡易的係留装置の開発とスラックライン式での実証試験を行った。集材距離と横取り距離をそれぞれ20.6m、7m(斜距離)とし、簡易的係留装置による「係留有り」の場合と「係留無し」の場合で10回ずつ集材した。その結果、サイクル時間には差が見られなかったものの、簡易的係留装置による「係留有り」の横取り時間は平均31秒で、「係留無し」に比べて平均12秒短くなった。横取り開始時の搬器の位置と横取り完了時の搬器の位置とで搬器がずれた距離を測定すると、「係留無し」では平均5.6m(斜距離)動いていたが、「係留有り」はほとんど動かなかった。搬器の位置がずれたことによって「係留無し」は横取り中に合計19回残存木へぶつかり、その内15回は引っかかったためトビによる作業が加わった。「係留有り」で残存木にぶつかったのは合計2回で、トビによる作業はなかった。そのため、簡易的係留装置をつかう集材は横取り時の残存木の損傷を減らし、作業者の労働負担も軽減できると考えた。
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青木 遥, 鈴木 保志, 吉村 哲彦, 山崎 真, 山崎 敏彦
セッションID: P1-259
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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小規模な林業では,林内作業車のような比較的安価で小型の機械がよく使われる。路網密度をあまり高くしない場合には,搭載ウインチをにより単線地引き作業による集材が行われ,さらに長距離の集材が必要な場合には,簡易な索張りとともに架線型の集材も可能である。こうした架線集材は「軽架線」とよばれることもあり,各地で事例がみられるようになってきているが,索張りの分類は明確ではない。そこで,本研究では国内外の軽架線方式を調査・整理し,軽架線の索張り方式の分類を試みた。また,軽架線に用いられる搬器は係留機構を備えていないものが多いが,作業効率を考えると引き寄せや横取り中に搬器が移動しないことが望ましい。搬器の荷上げ索に動滑車が用いられている索張り方式では荷上げの力を大きくする他に,そのような効果も重要である。今回は,堀(1974)の傾斜荷重の定義を用いて,荷重のかかる方向によって変化する搬器を係留しておく力の数値モデルを作成した。その結果,搬器と荷掛けフックの間でワイヤーロープの折り返しがないものに比べ,動滑車を追加し,折り返しを作った三好式や土佐の森方式では効果が大きくなることが確認できた。
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五明 友実, 後藤 純一
セッションID: P1-260
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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森林作業の機械化に伴い無線機器の利用が増えている。活用が広がる現場では通信の安定性が第一に重視される。しかし、電波は距離の2乗に比例して減衰する特性を持つ。さらに、電波は森林内に存在する様々な物体の影響を受けていると想定される。そこで、森林内に存在する様々な物体はどの程度影響するのか以下の実験を行い、林分環境に適した電波の利用条件を明らかにする。今回、調査周波数は特定小電力無線が利用可能な[142MHz,426MHz,807MHz,1216MHz]の4種類を用いた。試験地は高知大学演習林内において、林分環境の異なる[林道,広葉樹林,スギ・ヒノキ人工林,スギ幼齢林(新植地)]とした。それぞれ、送信地点から60mの直線距離をとり、10m間隔ごとに広帯域レシーバーを介してSメーター出力の電圧を記録した。後日、地上型LIDARを用いて、林内に存在する物体を把握した。また、試験周波数以外にどのような周波数の電波が伝搬しているのか電波調査を行った。受信電波のS値を用いて、調査地の影響を比較すると[広葉樹林,スギ・ヒノキ人工林]は[林道,スギ幼齢林]よりも電波減衰が大きい。以上の結果を含め、林分環境の影響を明らかにした。
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亀山 翔平, 吉岡 拓如, 井上 公基
セッションID: P1-261
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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平成28年台風10号によって北海道をはじめとする各地で被害が発生した。そのなか、北海道二海郡にある日本大学が所有する八雲演習林では樹木の風倒被害が発生し、早急な被害状況の把握と処理が必要となった。そこで、本研究は日本大学八雲演習林で台風10号の強風によって被害を受けた風倒木処理に先立って実施した被害地調査結果について報告する。調査にはDJI製のPhantom3 Advancedを2台使用し、演習林の上空から被害地の撮影を行った。また、面積、被害地の把握はArc GISを用いて行った。ドローン空撮による調査から、八雲演習林内の31箇所で被害が確認され、その面積は16.3haであった。被害地の倒木状況は東風による西側への倒木が大半であった。また、樹木の被害形態は、根返りした転倒木が30箇所、根が浮いた傾斜木が26箇所、幹が折れた枯損木が5箇所であった。本調査からドローン空撮により、風倒被害の確認ができたとともに、調査が短期間であるために早急な処理、人件費を削減することができた。さらに、被害地の状況が画像で確認できるため、今後の処理に向けた低コストで安全な作業方法の立案等に役立のではないかと考える。
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大塚 大, 斎藤 仁志, 守口 海, 松永 宙樹, 木下 渉, 野溝 幸雄, 植木 達人
セッションID: P1-262
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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人工林経営のうち,高い割合を占める初期保育段階の費用を軽減する目的で,天然更新施業が注目される。しかし,国内の導入は戦前より行われていながら,その作業条件の複雑さ,労働環境の変化などの要因により,具体的な作業方法の検討事例は少ない。複層林における伐出作業では,世代交代時の損傷をいかに軽減するかが大きな課題である。複層林での作業コストは単層林と比較して高額になるため,下木を可能な限り保全し,育林費を削減できなければ経営選択肢として妥当でない。筆者らは,ヒノキ漸伐林分における損傷について,伐倒木を説明変数に簡易な損傷モデルを作成し,伐出後の下木分布予測を試みた。その手法は実用に向けて期待が持てるものであり,本研究は予測精度の向上を目的に伐出試験を行い,伐倒木1本あたりの損傷発生範囲の観測を行った。
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林 愛佳音, 竹中 千里, 富岡 利恵, 金指 努
セッションID: P1-265
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故により、放射性核種が大量に放出された。放出された放射性Csの多くは森林に沈着し、その一部は土壌に不均一に存在している。今後、森林の除染や森林利用を計画する上で、放射性Csの挙動に関する知見を得ることは重要である。そこで本研究では、放射性Csの樹木根による吸収や根における転流、また根が枯死、分解される際の土壌への再拡散といった挙動の可能性に焦点をあて、放射性Csの挙動に対する植生の影響を明らかにすることを目的とした。福島県川俣町山木屋地区世戸八山の隣接したスギ林、アカマツ林、広葉樹林の3林分においてスギ、アカマツ、コナラを3本ずつ伐採し、それぞれから根を深さごとに採取し、放射性Csの測定を行った。これらの研究対象地は植生以外の環境条件がほぼ同じと考えられる。3樹種すべての根において放射性Csが検出され、根からの吸収が確認された。またスギ、アカマツと比較して、コナラの根においてより深くまで放射性Csが移動していることが明らかとなった。このような樹種による放射性Csの挙動の違いが、土壌中放射性Csの分布の不均一性に寄与することが示唆された。
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佐野 みずほ, 大橋 瑞江, 田野井 慶太朗, 二瓶 直登, 大手 信人
セッションID: P1-266
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、森林を含む周辺地域に大量の放射性物質が飛来・沈着した。森林は、資源、環境面において人間生活に身近な存在であり、森林生態系内での放射性物質の挙動を調べる必要性は大きい。そこで2012年から2014年に、福島県小国川集水域に位置する落葉性混交林とスギ人工林において、137Csの空間分布と、その経年変化を調べた。2012年の木本内の137Csの分布は、落葉性広葉樹林では、樹皮(20.9kBq/m2)と枝(5.9kBq/m2)に多く、スギ人工林では葉(70.1kBq/m2)と枝(24.9kBq/m2)に多かった。この違いは森林の展葉の違いに伴う事故後の137Csの初期分布の違いによるもので、その後の林冠から林床への移動に違いをもたらすことが示唆された。心材、辺材、事故後に展葉した葉に137Csが存在することから、樹体外から樹体内へ137Csが吸収され転流が生じていることが示された。また、土壌中の137Csは空間的に極めて不均一に分布していることが明らかになった。これらの結果をふまえ、土壌中の放射性セシウムの空間分布を決定する要因を林内雨・樹幹流・リターフォールの影響からgeostatisticsを用いて明らかにすることを試みた。
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氏家 亨, 山村 充, 海 虎
セッションID: P1-267
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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福島県では平成25~28年度にかけて、福島県内の森林域約70箇所における空間線量率及び立木の放射性セシウム濃度についてモニタリング調査が行われた。対象となる樹種はスギ、ヒノキ、アカマツの3樹種である。調査箇所ではそれぞれ、同一樹種1個体を対象に、対象木周囲の地上1m高空間線量率、対象木の部位別放射性セシウム濃度(樹皮、辺材、心材、枝、葉)、落葉層及び土壌層の放射性セシウム蓄積量について調査されている。大局的には、空間線量率が高い調査箇所では立木部位の放射性セシウム濃度や地表面蓄積量が高い値となる傾向が続いている。各部位の推定残存量を乗じて林分あたりの部位別放射性セシウム蓄積量を求めると、林内に分布する放射性セシウムの約90%以上が落葉層及び土壌0-10cm層に存在する状況が確認された。本報では、これらの調査結果に基づき、福島県森林域における林内及び材内の放射性セシウム分布傾向について検討する。
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原 竜弥, 富岡 利恵, 青木 弾, 金指 努, 竹中 千里
セッションID: P1-268
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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福島原発事故により放射性Csの汚染を受けた森林の長期的管理や資源利用のため、森林における放射性Csの動態の把握が求められている。樹木はCsの吸収、輸送、落葉等によりCsの移行経路となっており、樹体における放射性Csの存在形態は森林内の放射性Cs動態を把握する上で重要な要素となる。本研究では2015~2016年に福島県内の森林で採取したスギ枝葉、辺材、心材、樹皮を用い、スギ樹体における放射性Csの存在形態を調べた。水及び酢酸アンモニウムによる連続抽出の結果、スギ枝葉中の放射性Csは新葉では主に水溶性Csであり、葉齢が古い枝葉ほど不動態Csが多くなる事、旧葉において不動態Csが枝葉の内側の木部ではなく外側の組織に含まれる事が明らかになった。以上より、スギ枝葉中の放射性Csは枝葉の成熟に伴い外側の組織で不動化する事が示唆された。心材・辺材に含まれる放射性Csは水溶性Csあるいは交換態Csであり、不動態Csは検出されなかった。一方、樹皮には不動態Csも多く含まれていた。事故以前に伸長した枝葉や樹皮等の放射性Csの直接沈着を受けた部位には熱濃硝酸に不溶なCsが含まれており、不溶性粒子として沈着した放射性Csが残留している可能性等が推察された。
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山嵜 丈生, 渡邉 拓也, 大島 潤一, 飯塚 和也
セッションID: P1-269
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2013年に事故を起こした福島第一原子力発電所から南西方向130kmに位置する栃木県塩谷町の林齢33年のスギ林において、立木位置と樹幹木部の137Cs濃度との関係を検討した。2016年2月に間伐された小班内に0.13haの調査区を設定した。なお、小班の北東側に隣接する林分は、事故当時皆伐を終了した裸地であった。伐倒されたすべての健全木80個体の位置図を作製し、地上高0.2~0.3mの部位からサンプルを採取した。また、調査区は地形状態から北側の平坦地に北ブロック50個体と、南東側の傾斜地に南ブロック30個体の2ブロックに分けた。サンプルから、心・辺材の137Cs濃度と含水率、さらに心材は明度(L*)を測定した。その結果、心材の137Cs濃度のみにブロック間の有意差が認められた。また、心材と辺材の137Cs濃度の比と明度との間に有意な負の相関が認められた。以上のことから、心材の137Cs濃度の値は小面積の林分においても立木位置により偏りが存在し、地形に影響されることが示唆された。また、辺材から心材への137Csの動きは、心材の明度と関係性があるといわれている含水率やカリウム量と関係がある可能性が推察された。
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小林 達明, 中平 史織, 遠藤 雅貴, 斎藤 翔, 高橋 輝昌
セッションID: P1-270
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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阿武隈の広葉樹二次林の今後を検討する上で、放射性セシウムの挙動予測は欠かせない課題である。予測のためには林分による吸収量の算出が必要だが、樹体には表面付着したセシウムが残っており、内部からの溶脱の評価がむずかしいが、その分別を試みた。2015年の林内雨および樹幹流中のカリウムと放射性セシウムの動きを比較すると、カリウム濃度は林内雨と樹幹流で大きく変らなかったが、放射性セシウムは顕著に増加した。カリウムは、葉から溶脱したものがほぼすべてであるのに対して、放射性セシウムは樹皮付着物が洗脱したものが加わって濃度が上昇したと考えられる。同じカリウム濃度なら、コナラの樹幹流では林内雨の1.9倍の、アカマツの樹幹流では4.5倍の放射性セシウム濃度だった。したがって、コナラ樹幹流の137Csの約半分、アカマツ樹幹流の137Csの約4/5はフォールアウト樹皮付着由来と考えられる。そのほか、リターフォールのうち、枝は沈着付着成分と考えても、現在の林地供給率0.9%のうち多くは、樹木が吸収して循環しているものと思われる。幹木部への放射性セシウムの不動化量の結果を加えて、当日は説明する。
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大久保 達弘, 佐藤 史佳, 飯塚 和也, 逢沢 峰昭
セッションID: P1-271
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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福島原発事故後、里山落葉広葉樹林の林床落葉を利用した腐葉土に暫定許容値(400 Bq/kg)が設定され現在に至っている。2011年5月以降、栃木県北部の2カ所[塩谷町高原山イヌブナ・ブナ林と那須塩原市関谷コナラ・アカマツ林]で腐葉土利用再開に向けた落葉と表層土壌の放射性セシウムモニタリングを開始した。6年間(2011~2016)で落葉中の放射性セシウム濃度は大きく減少したが(Cs-137で約1/4)、毎年夏季(7月~9月)に一時的な濃度上昇が見られた。また、表層土壌の放射性セシウム蓄積は地表から5cm以内の深さに留まっていた。樹体から林床への放射性セシウムの移行過程を検討するために、樹上の生葉および年別の枝の放射性セシウム濃度を前述2カ所の落葉広葉樹林で3年間(2014-2016)測定した。ブナ類およびコナラの樹上葉と当年枝の放射性セシウム濃度は二年枝・旧年枝 よりも高かったが、落葉期では二年枝・旧年枝の値が樹上葉と当年枝より高かった。また、いずれの枝葉の値とも測定開始(5月)以降減少がみられた。以上、夏季の落葉の放射性セシウム濃度の上昇は春季の高い濃度の樹上葉の落葉により増加している可能性が示唆された。
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橋本 昌司, 金子 真司, 小松 雅史, 松浦 俊也, 仁科 一哉, 大橋 伸太
セッションID: P1-272
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故により汚染された地域の約7割は森林である。森林に降下した放射性セシウムは、森林内での分布が変化していく。今後、観測されたデータを統合的に収集・解析しモデルを用いて放射性セシウムの挙動を予測していくことが必要である。本研究は、森林内での放射性セシウム動態に関する観測データを収集・整理し、データベースを構築することを目的にしている。学術雑誌に掲載されている論文、報告書、ウェブに公開されているモニタリングデータ等からデータを抽出し、データベースを構築する予定である。データベース構築の計画とデータベースの試作について発表を行う。
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河野 沙紀, 戸田 浩人, 崔 東壽
セッションID: P1-273
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2011年の福島第一原発事故で放出された放射性セシウム(Cs)により、福島県から北関東の森林が汚染された。きのこ原木や菌床栽培に利用される広葉樹における放射性Csの樹体内分布を把握することは、これらの利用を考える上で重要である。本研究では東京農工大学FM草木(群馬県みどり市)において2016年8~9月に伐採したミズナラの葉、枝、樹皮、辺材、心材を樹体上部・中部・下部の高さ別に採取し、放射性Csおよび全K濃度を測定した。 その結果、放射性Cs濃度は葉が一番高く、概ね枝、樹皮、辺材、心材の順に低くなった。高さ別では、葉や枝は上部が低く下部が高い傾向があったのに対し、樹皮、辺材、心材はその逆の傾向であった。また、ミズナラが生育していた立地別では、標高の低い谷よりも標高の高い尾根の方が樹体各器官の放射性Cs濃度は高く、差は最大で約10倍に及んだ。発表では、各器官の高さごとの重量から算出した放射性Cs蓄積量についても考察する。
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金指 努, 三浦 覚, 平井 敬三
セッションID: P1-274
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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福島県およびその周辺の、福島第一原発事故による放射性セシウム(Cs)で汚染された地域一帯では、落葉広葉樹の放射性Cs濃度がシイタケ原木利用の指標値を超え、出荷停止に追い込まれている。シイタケ原木生産再開のため、福島県田村市都路町の、主に原発事故以降に萌芽更新または新規植栽した多地点の林分(コナラ、ケヤキ、クリ、サクラ)において、休眠期の当年枝および表層5cm深までの土壌を採取し、セシウム137(137Cs)濃度分布の実態を明らかにした。休眠期の当年枝を選定した理由として、当年枝の137Csは、その年に枝が伸長を開始した後、転流によって樹体内部から輸送され、葉とは異なり枯死・脱落をしないため、1年間で樹体に蓄積した137Csを反映していると考えたためである。当年枝の137Cs濃度は、林分間でも林分内でも大きく異なり、農耕地等として利用されていた土地の植栽木で7 Bq kg-1未満となり、林地の萌芽枝(34~1800 Bq kg-1)よりも著しく低濃度であった。また、事故後に伸長した当年枝には、事故直後の直接沈着を受けていないため、土壌および根株から吸収・転流した137Csによって濃度が変化すると考え、土壌と当年枝の137Cs濃度の関係を検討した。
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飯塚 和也, 大島 潤一, 東谷 奈瑠美, 逢沢 峰昭, 大久保 達弘
セッションID: P1-275
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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福島原発事故後5年間におけるスギの樹幹木部のCs137濃度について、半径方向と樹高方向の濃度パターンを検討した。半径方向では、Cs137は辺材から心材へ移行し,2012年以降の濃度は、辺材よりも心材が高い値を示す傾向が示された。濃度分布のパターンも辺材から心材の髄に向かって高くなる傾向が示された。心材のCs137濃度は、含水率と材色(L*)との間に相関があることが認められた。また,Cs137の辺材から心材への移動は、カリウムの心材と辺材の含有量の比と関係があることが推察された。一方、樹高方向では,測定した樹高11.2mまでにおいて、2012年と2015年の心材・辺材別の濃度パターンは比較的類似していた。Cs137濃度は、地際部位は3.2m部位よりも高い傾向が示された。以上から、事故後5年にともない、スギ樹幹木部に吸収されたCs137は,半径方向では辺材から心材への移行が進行していた。また、サンプルの樹高ごとの測定値から算出した平均値を各個体の代表値とすると、心材と辺材のCs137濃度の比は、心材の含水率とL*との間に相関関係があることが推察された。
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福士 彰久, 竹中 千里, 富岡 利恵, 松田 陽介
セッションID: P1-276
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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ウコギ科のコシアブラは土壌中のMnを特異的に吸収し、地上部に高濃度に蓄積する木本植物である。コシアブラについては、植物体中の放射性Csの濃度が高いこと、細根のアーバスキュラー菌根菌(AM 菌)の感染率とCs集積能力に関係があることが報告されている。本研究ではコシアブラの根系に共生するAM菌とコシアブラのCsやMnなどの元素吸収能との関係を明らかにすることを目的とした。福島県川俣町山木屋地区世戸八山の植生の異なる地点に生育するコシアブラと、福島県林業センター圃場に植栽したコシアブラについて評価を行った。まず細根について、オートラジオグラフィーにより放射能分布と、染色及び顕微鏡観察によりAM菌の感染率を測定した。さらに葉身について、ICP-MSにより元素分析を行い、Well 型 NaI シンチレーション検出器によるγ線スペクトロメトリー法によって134Cs及び137Csの放射能を調べた。また、土壌について、可溶態元素および放射性Cs濃度、土壌pH、可給態リン酸濃度を測定した。以上の結果から、コシアブラの元素吸収におけるAM菌の関与について報告する。
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小林 真生子, 岩澤 勝巳
セッションID: P1-277
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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モウソウチク林における放射性セシウム濃度の経年変化を調べるため、2013年から2016年にかけて千葉県内の3か所の竹林でタケや土壌の放射性セシウム濃度を測定した。放射性セシウム濃度測定用の検体は毎年11月に採取し、葉、枝、稈、地下茎、細根、太根といったタケの各部位と竹林のリタ―層と深さ0-4cm土壌、深さ4-8cm土壌の放射性セシウム濃度を測定した。その結果、タケの各部位(葉、枝、稈、地下茎、細根、太根)の放射性セシウム濃度は、放射性崩壊による減衰割合よりも早く低下していた。一方、リタ―層の放射性セシウム濃度は低下していたが、2015年の調査以降、深さ0-4cm層、深さ4-8cm層の土壌で濃度の上昇が見られる調査地があった。これは、放射性セシウムを含む落葉、落枝の分解に伴って、リタ―層から土壌へ放射性セシウムが供給されるためと考えられる。タケの各部位の放射性セシウム濃度は低下傾向にあることから、経根吸収による濃度の上昇よりも新竹の発生による濃度の希釈及び落葉、落枝による植物体外への排出に伴う濃度低下の方が大きいと考えられる。
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渡邊 菜月, 金子 信博, Huang Yao, 大久保 達弘, 逢沢 峰昭, 飯塚 和也, 関本 均, 竹中 千里
セッションID: P1-278
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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落葉分解過程における落葉の放射性セシウム(137Cs)の増加は、真菌の働きが考えられる。そこで、林床内の137Cs動態理解のために、異なる分解率や年度間で落葉の137Cs濃度の動態を比較した。標高400 mと900 mの広葉樹林で、落葉分解実験を行った。2012年12月にリターバッグを設置し、2013年4、6、8、10、12月に回収した。落葉の137Cs、窒素、真菌・バクテリアバイオマスの測定を行った。初期の137Cs濃度は400 m と900 mにおいて、平均4250、420 Bq/kgで、1年後には平均12000、4000 Bq/kgまで増加した。400 mでは、真菌、バクテリアバイオマスと落葉の137Cs濃度に正の相関があったが、900 mでは関係性が見られなかった。一方、標高に関係なく、落葉の137Cs濃度と分解率に相関性が認められ、分解速度の違いが土壌から落葉への137Csの移行に影響を与える事が示唆された。面移行係数(Tag)を用いて土壌から落葉への137Csの移行量を評価し、年度、標高間で比較した。Tagは900 mよりも400 mの方が高かったが、2013年の400 mの値と標高の近い広葉樹林の2012年の値を比較したところ違いはなかった。分解速度が、標高や年度に関係なく137Csの移行に重要な因子である事が示唆された。
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高橋 輝昌, 斎藤 翔, 小林 達明
セッションID: P1-279
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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放射性セシウムで汚染された落葉広葉樹林の林床において、落葉分解に伴う落葉の放射性セシウム濃度と放射性セシウムの吸着様式(水溶態、土壌の負電荷に弱く吸着した交換態、生態系内を移動しにくい残渣に含まれるもの)の構成割合の変化を調査した。試験地は福島県川俣町の落葉広葉樹林である。試験地内に対照区であるA区、2013年6月にA0層と鉱質土層の一部まで除去したB区と、L層とF層の一部を除去したC区を設けた。2015年11月に試験地内で採取されたコナラの新鮮落葉を乾燥機で乾燥させ、リターバッグ内容物とした。2016年5月に、リターバッグを各区の林床に30個ずつ設置し、1ヶ月ごとに各区から3個ずつ回収し、乾燥重量とC/N比、吸着様式別の放射性セシウム濃度を測定した。乾燥重量とC/N比の変化には区による違いがほとんど見られなかった。調査期間をとおして放射性セシウム濃度は概ねA区>C区>B区の傾向であった。吸着様式の構成をみると、調査期間をとおして、残渣が2割から8~9割に増加し、交換態が4割から1割に減少し、水溶態が4割から1割未満に減少した。A区ではB・C区に比べて交換態と水溶態の割合が高い傾向にあった。
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遠藤 雅貴, 小林 達明, 高橋 輝昌, 永野 博彦
セッションID: P1-280
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
会議録・要旨集
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コナラとアカマツの放射性セシウム(RCs)移行・吸収における有機物と微生物の影響を比較するため、福島県川俣町で採取した鉱質土壌を充填したポットを用いて、コナラとアカマツの苗木の栽培試験を行った。有機物層の有無による植物のRCs吸収特性を比較するため、同地点から採取した有機物層をポット表面に敷いた有機物施用ポットと無施用ポットをそれぞれの樹種に設けた。葉内のRCs濃度は、コナラ・施用区が604Bq kg-1、コナラ・無施用区が364Bq kg-1となり、有機物層があるとRCs吸収量が高い傾向があった。アカマツ・施用区は64Bq kg-1、アカマツ・無施用区は101Bq kg-1であり、無施用区の方が若干高い傾向がみられた。野外での調査と同様に、コナラの方がRCs吸収量が大きく、コナラとアカマツではRCs吸収特性が異なることが示唆された。ポット全体の微生物RCs吸収量は、コナラ・施用区が2231Bq m-2、コナラ・無施用区が1001Bq m-2、アカマツ・施用区は514Bq m-2、アカマツ・無施用区は994Bq m-2であり、苗木のRCs吸収と同様の傾向がみられた。DGGEによる菌叢の予備解析では、有機物層においてナラとマツでバンドの発光の位置や輝度に相対的な違いがみられた。
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市川 貴大, 逢沢 峰昭, 大久保 達弘
セッションID: P1-281
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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【目的】東京電力福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性核種が大気中に放出され,高濃度の放射性セシウム(Cs)が含まれる可能性のある堆肥等の施用・生産・流通の自粛が要請された。そこで,異なる放射性Cs濃度の落葉の分解にともなう濃度および量の変化を比較することで,落葉堆肥の利用可能性について検討した。【方法】試験は栃木県塩谷町熊ノ木地区のコナラ林で行った。1m×1m,深さ30cmの底の開いた木枠を設置し,2016年3月に塩谷町と茂木町にあるコナラ林の林床に堆積している落葉をかき集め,各木枠内に収まるように敷き詰めて有機物分解させた。3か月ごとに分解中の落葉の重量と放射性Cs (134Cs+137Cs)濃度を測定した。【結果】放射性Cs濃度の低い落葉では,9月から12月にかけて放射性Cs濃度および量が急激に上昇し、12月には放射性Cs濃度の高い落葉と違いがみられなくなった。重量残存率は,放射性Cs濃度の低いおよび高い落葉でほぼ同様の変化を示した。したがって,当該林地より放射性Cs濃度が低い落葉を堆肥化させたとしても,当該林地の落葉とほぼ同様の濃度になってしまうことが示唆された。
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武藤 芽依, 金子 信博, 綾部 慈子, 吉田 智弘, 渡邊 菜月, 竹中 千里, 肘井 直樹, 林 愛佳音
セッションID: P1-282
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2011年の福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性セシウムは、土壌の表層に蓄積しており、土壌中で生活する生物を汚染している。また、地上部の捕食性動物の放射性セシウム濃度は、土壌の放射性セシウム量との相関が認められている。これは汚染されている土壌動物が地上部の捕食性動物の餌となるためと推測される。そこで、移行経路として土壌性の腐食・菌食性である双翅目昆虫とトビムシ目の放射性セシウム濃度をスギ、アカマツ、コナラがそれぞれ優占する試験地で測定した。双翅目昆虫は、土壌から羽化する昆虫を採取する羽化トラップを、2016年4月と9月に設置して採取した。トビムシは11月に採取した落葉からツルグレン装置を用いて抽出した。その結果、双翅目昆虫の放射性セシウム濃度は4月に採取した個体の幾何平均が172Bq/kg、9月に採取した個体の幾何平均がおよそ7340Bq/kgであり、スギが優占する試験地で最も濃度が高かった。11月のトビムシの放射性セシウム濃度の幾何平均はおよそ26300Bq/kgであった。放射性セシウムは、腐食昆虫を介して森林土壌から地上部へ動物の餌として移動する事が明らかになった。
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成松 眞樹
セッションID: P1-283
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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ナメコの原木露地栽培で子実体の137-Cs(Cs)の放射能濃度(Cs濃度)を低減させるために,岩手県南部のスギ林で地表処理を行い,2015年5月にホダ木を地伏せした。地表処理はA0層除去,A0層置換,無処理の3区分で,このうちA0層置換区では,A0層をバーミキュライトとバーク堆肥の混合物(資材)に置換した。2016年の秋に子実体,ホダ木およびホダ木直下の資材または土壌(土壌等)を採取し,Cs濃度とCs現存量を測定した。土壌等のCs現存量は,A0層置換区が顕著に低く,次いで無処理区,A0層除去区の順に増大した。ホダ木のCs濃度も,土壌等のCs現存量と同様の傾向を示した。子実体のCs濃度はホダ木のCs濃度と正の相関を示し,A0層置換区で顕著に低かった。一方,子実体発生量はA0層置換区が最大であった。ホダ木の接地面積が大きかったことにより,ホダ木直下の土壌等が,ホダ木のCs濃度や子実体発生量を通じて,子実体のCs濃度に影響を及ぼしたと考える。以上のことから,ナメコの原木露地栽培におけるホダ木と子実体のCs濃度の低減には,バーミキュライトとバーク堆肥によるA0層の置換が有効であり,その効果は少なくとも置換の翌年までは維持されることが明らかになった。
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土屋 慧, 穐元 弘文, 小山内 潤, 工藤 伸一
セッションID: P1-284
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故後、青森県青森市、十和田市、鰺ヶ沢町及び階上町において採取された野生きのこから基準値を上回る放射性セシウムが検出され、国から同市町産の野生きのこ全てに対して出荷制限が指示された。出荷制限は野生きのこの流通や産業に大きな影響を与えており、早期の出荷制限解除が求められている。しかし、野生きのこの放射性物質濃度に地形や生育条件が与える影響は十分に明らかにされておらず、出荷制限解除には多大な時間と労力を要する。本研究では、野生きのこの出荷制限解除に向けた調査の効率化に資するために、野生きのこ放射性セシウム濃度分布に地形が与える影響を明らかにすることを目的とした。野生きのこは青森県内4市町において、2013年9月から2016年11月に18種862試料を採取し、位置情報の記録、形態観察による種同定、ゲルマニウム半導体検出器による放射性セシウムの濃度測定を行った。地形データは数値標高モデル(国土地理院)から取得し解析に用いた。子実体の放射性セシウムは高標高ほど高濃度が検出される頻度が増加する傾向がみられた。発表では放射性セシウム濃度分布に影響する地形要因について考察する。
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松浦 俊也, 杉村 乾
セッションID: P1-285
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は、東日本の広範囲にわたって農山村地域における日常的な森林利用に影響を与えたと考えられ、その実態把握と将来展望が求められる。そこで、事故原発から12~30km圏の阿武隈山地に位置する双葉郡川内村と、130~150km離れた南会津郡只見町明和地区(それぞれ全8行政区)において、山菜・きのこ採りや渓流釣りなどの活動が事故前後(2000年代後半と2015年)でいかに変化したかを定量化するアンケート票を作成した。そして、両地区で予備調査を実施後、事故前から居住する各世帯で山に最も関心のある方一名ずつを対象に全戸配布・回収した。質問項目は、採取活動の月毎頻度、採取していた理由・やめた理由、使途(自家消費・贈答・販売)、贈答先数、山菜・きのこ栽培、落ち葉・刈り草堆肥利用における事故前後の変化などである。その結果、川内村で6割弱、只見町では9割弱の回収率を得られ、変化の程度は川内村で顕著であるが、両地域ともに原発事故後に各採取活動や贈答関係が大幅に低下した実態が明らかになった。
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小河 澄香, 山中 高史, 赤間 慶子, 平井 敬三, 長倉 淳子, 山路 恵子
セッションID: P1-286
発行日: 2017/05/26
公開日: 2017/06/20
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菌根菌を感染させたコナラ苗のセシウム吸収に及ぼす土壌やカリウム添加の影響を調べるため、火山灰土壌または花崗岩土壌を入れたポットにて、菌根菌ツチグリを接種したコナラ実生苗を育てた。カリウム添加の影響は肥料のホーグランド氏液からカリウムを除くことで評価した。菌を接種した1箇月後にポット当り85 µMの塩化セシウム水溶液を50 ml添加した。その1、11、13箇月後の計3回、処理毎に6~8本のコナラ苗を掘り取り、根の菌根形成を観察し、樹体の成長量(乾重)とセシウム量を測定した。植物体全体の成長量(乾重)は、火山灰土壌で育てた場合、花崗岩土壌で育てた場合に比べて有意に大きかった。これは火山灰土壌の場合、根系の発達が花崗岩土壌に比べて大きかったためと考えられた。地上部乾重は、花崗岩土壌で育てた方が増加した。花崗岩土壌で育てた場合の樹体のセシウム含量は、火山灰土壌で育てた場合と比較して39~88%低かった。カリウム添加により、セシウム含量は30~65%減少した。菌根菌接種によるコナラ苗のセシウム含量への影響は認められなかった。これは、菌根菌の感染率が低かったことも考えられ、菌根菌の種類や接種方法を検討する必要があった。
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