日本森林学会大会発表データベース
第129回日本森林学会大会
選択された号の論文の883件中251~300を表示しています
学術講演集原稿
  • Kyaw Thu Moe -, Owari Toshiaki, Kasahara Hisatomi, Ogawa Hitomi
    セッションID: P1-048
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    Understanding individual tree growth of economically high-value timber species, such as Monarch birch (Betula maximowicziana) and castor aralia (Kalopanax septemlobus), is crucial for the reliable application of the selection system and also for the simulation and development of various management options. In this study, we examined the individual tree basal area growth of high-value broadleaved timber species in a cool-temperate mixed forest in central Hokkaido managed under selection system. Individual tree data were obtained from permanent sample plots at the University of Tokyo Hokkaido Forest in which all trees with DBH greater than 5 cm have been measured at 5 year intervals. Inventory data from 31 plots measured between 1968 and 2016 were used for this study. We also examined the stand level density and basal area of high-value timber species during the first measurement intervals and last intervals.

  • 前田 雄介, 玉井 裕, 宮本 敏澄
    セッションID: P1-049
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    アカエゾマツコンテナ苗の育苗期間を短縮することを目的として長日処理,水耕処理および木炭施用の有効性について検討した。播種床から水耕栽培器に移し2か月間育成した苗をコンテナに移植し100日間育成した。コンテナにはJFA150,Mスターコンテナを使用し,それぞれ培土には蝦夷砂とピートモスに木炭を0,10,20%添加し用いた。白色LEDを使用し16時間日長で照射した。水耕処理後の苗は苗高6.3 cm根元径1.1 mmであった。コンテナ育成後の苗はJFA150では木炭無施用区で地上部の成長が最も良好で苗高14.2 cm根元径2.7 mmであった。いずれの試験区においても根鉢の形成は確認されなかった。Mスターでは木炭10%施用区で最も地上部の成長が良好で苗高15.4 cm根元径3.4 mmであった。木炭10,20%施用区において根鉢の形成が確認された。以上より水耕処理からMスターコンテナにピートモスを培土として木炭を10%施用し移植,長日条件下で育成することが最適条件であると判断した。この条件により育成を続けるとコンテナに移植後150日で2号苗の規格(苗高20 cmかつ根元径4 mm以上)に達した。以上より播種から11か月で山出し可能なアカエゾマツコンテナ苗を生産できることが示唆された。

  • 染谷 祐太郎, 丹下 健
    セッションID: P1-050
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    一貫作業システムの普及には、植栽に適したサイズのコンテナ苗を通年供給するための伸長成長を制御する育苗技術が必要である。本研究では、暗所処理によるスギコンテナ苗の伸長成長抑制効果と苗木の生理活性への影響を調べた。スギ実生1年生コンテナ苗(JFA150)を供試し、5月から10月にかけて暗所処理を1ヶ月または2ヶ月施し、未処理苗と比較した。各処理の供試苗数は20個体である。処理中は3-4日おきに潅水した。当年シュートの水分特性値をP-V曲線法により測定した。各処理14個体ずつ苗畑に植栽し、1ヶ月後に掘り取り、根鉢から土壌中に伸長した細根量を調べた。いずれの月も暗所処理によって3週間以内に苗の伸長成長が停止した。6月の1ヶ月処理で10個体、7月・8月の2ヶ月処理でそれぞれ5個体・2個体が枯死した。いずれの月も暗所処理によって細胞内の溶質濃度の低下による乾燥ストレス耐性の低下は明瞭ではなかった。植栽後の枯死は7月・8月植栽の1ヶ月処理で2個体ずつ、8月植栽の2ヶ月処理で1個体と少なかった。植栽後の細根成長量は10月の処理苗で未処理苗より有意に少なかったが、それ以外の月では処理苗と未処理苗で有意な差は認められなかった。

  • 古里 和輝, 伊藤 哲, 平田 令子
    セッションID: P1-051
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    主に蔬菜用で利用される生分解性ペーパーポット苗は、コンテナ苗と同様に培地と根系が一体化しており、植栽時の水ストレスを受けにくいとされる。また、育苗容器ごと植栽できるためコンテナ苗に比べて培地の崩落や根の折損が起きにくいと予想される。一方で、ペーパーポット苗の育苗容器には根巻き防止の機構がなく、容器ごとの植栽を行うため、植栽後の活着や成長、根系の発達形態について明らかにする必要がある。そこで本研究では、ペーパーポット苗の利用可能性を明らかにすることを目的として、ペーパーポット苗とコンテナ苗の春植栽試験を行い、1生育期間の成長と根系発達を比較した。その結果、コンテナ苗ではやや樹勢の低下が見られたのに対してペーパーポット苗では樹勢は低下せず、伸長成長と肥大成長は苗種間で差はなかった。またペーパーポット苗の根は、容器を突き破っての伸長をしており、コンテナ苗と同様に水平根と斜出根の発達が認められ、植栽1年目の段階ではルーピングの発生はなかった。このことから、ペーパーポット苗はコンテナ苗と同等の活着と成長が期待できると考えられた。

  • 米山 隼佑, 紙谷 智彦
    セッションID: P1-052
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    本研究はマツ枯れの激しい内陸側の海岸林において,常緑広葉樹へ樹種転換するための適切な環境条件(光環境と土壌環境)と土壌改良の方法を明らかにする。2015年3月にクロマツが残存し広葉樹が侵入したマツ枯れの激しい新潟市の海岸林に,タブノキ830本を試験植栽した。植栽苗は,植鉢の種類で普通鉢・深鉢の2種類,植え穴の処理方法で無処理・パーライトの2種類を組み合わせた計4通りである。光環境は苗木の直上での光合成有効光量子束密度の相対値(rPPFD)を,土壌環境は 8月上旬の真夏日における苗木周辺の地表下10cm の地温と土壌水分を測定した。rPPFDの平均値で密林冠と疎林冠に分けたところ,密林冠に比べ疎林冠の苗で生残率が17%低かった。疎林冠の下では光量と地温が高く,それによって土壌が乾燥し,活着率が低下していた。3成長期を経た生残率は,従来植栽に比べ,パーライト施用で17%,深鉢ポットでは27%高かった。したがって,マツ枯れが進む海岸林へのタブノキの植栽では,残存したクロマツ樹冠や侵入した広葉樹の樹冠下に,乾燥を防ぐための深鉢や土壌改良が効果的である。

  • 古幡 奏未, 武田 浩太, 熊谷 唯, 牧口 未和, 伊藤 貴則, 高橋 一秋
    セッションID: P1-053
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    気象条件が厳しい海岸防災林再生地では、苗木の状態や植栽後の保育管理が苗木の生長を大きく左右する。本研究では、2Lペットボトルを2つ縦に連結して作製した植木鉢を使って苗木を生産・植栽し、その後1年間の苗木の生長に防風ネットとマルチング材が与える効果を検証した。2017年5月に3年生苗木100本(コナラ40本、ヤマザクラ40本、ヤマグワ15本、ムラサキシキブ5本)を「みやぎ海岸林再生みんなの森林づくり活動」対象地(山元地区)に植栽した。円柱形の植栽穴(直径30cm、深さ30cm)を掘削し、苗木との隙間には土壌改良材(人工土壌、バーミキュライト、パーライト、バーク堆肥=15:2:2:2で配合)を導入した。同年6月に、2mmメッシュの防風ネット(9つの面積区画〔1.4m×1.4m、1.4m×2.8m、…、約9.8m×28.0m〕で各1~2区画ずつ)とマルチング材(ジュート麻、麻袋、ヤシマット、藁を各20枚ずつ)を設置した。一般化線形混合モデルとAICを用いたモデル選択を行った結果、苗木の「枝・幹枯れ率」は「防風ネットの区画面積」と「防風ネットまでの最短距離」から有意な正の効果を受けていた。したがって、防風ネットは植栽後の苗木の生長にとって効果があることが示された。

  • 中山 美智子, 紙谷 智彦
    セッションID: P1-054
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     本研究は遷移が進行したマツ枯れの激しい海岸林において、シロダモの天然更新稚樹を活かした海岸林再生のための施業法を検討する。新潟市四ツ郷屋浜海岸林に設置した100m×100mの調査区内には6,600本のシロダモ稚樹が更新していた。その分布は偏在しており、また、低木類の繁茂で樹高成長が制限されていた。そこで、シロダモ天然更新木の分布密度が低い10m×100mのベルト2本で2m以下の低木のみを伐採してシロダモとタブノキを混植した。また、天然更新稚樹を刈り出すために、10mおきに10m×100mの下刈りと対照のベルトを5回繰り返し、それぞれの生残率と樹高成長を測定した。生残率は、天然更新木では刈り出しの有無によって差はなく、植栽木では下刈りによって低下した。樹高成長は、天然更新木では刈り出しによって促進し、植栽木では植栽1~2年目では下刈り無しで大きかった。シロダモの天然更新稚樹を被陰する低木層の樹種は、葉層の位置によって被陰強度が異なった。したがって自然侵入しているシロダモ稚樹は直接被陰する樹種を選択的に刈り出すことが効果的である。これらの結果から、天然更新稚樹を活用するための刈り出しの方法を明らかにする。

  • 石渡 雄基, 上村 真由子, 丸山 温
    セッションID: P1-055
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    トベラは海岸の裸地から暗い林床まで様々な環境で生育する。こうしたトベラの環境応答能を評価する目的で、異なる光環境下に置いた苗の成長と葉の形態、光合成特性を調べた。日本大学生物資源科学部藤沢キャンパス内の常緑林下(相対光強度約30%)で2015年12月から半年間生育させた苗を、2016年5月に同じ敷地のヤブツバキ林下(同約10%、以下A区)とイチョウ林下(同約60%、以下B区)、全天光下の屋上(以下C区)に移動させ、一部の個体はそのまま置いた(以下D区)。2成長期間生育させた結果、成長は暗いA区や強光下のC区と比べて中間のB・D区が良好であった。C区では個葉の面積やクロロフィル含量の指標となるSPAD値が小さくLMA(葉乾重/葉面積)が大きい陽葉の特徴を示した。光合成の光補償点はA・D区がB・C区と比べて低かったが、最大光合成速度はD区が最も高かった。このようにトベラでは光環境に対して一定の適応が認められ、ある程度の被陰下で生理的機能や成長が最も良好になることが示された。C区に移動させた苗では1年目の夏季に葉の黄変や枝の部分枯れが発生したことから、裸地へ植栽する場合には生育する光環境の前歴に注意する必要がある。

  • 中島 有美子, 吉﨑 真司
    セッションID: P1-056
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    管理不足やマツ材線虫病被害を受けた海岸クロマツ林で広葉樹の自然侵入が確認されている。本研究はマツ材線虫病被害を受け、クロマツ林が消失もしくは疎林化した暖温帯の海岸林を対象に、広葉樹の個体密度、種組成と気象・立地条件の関係を検討し、海岸クロマツ林の広葉樹林化の可能性を検討することを目的とした。マツ材線虫病被害跡地の海岸クロマツ林として侵入程度の異なる千葉県~宮崎県内の広葉樹の海岸林を調査対象地とした。樹高に応じて5m×5m~10m×10mの方形区を計200地点設置し、樹高1.2m以上の木本類を対象に樹高、胸高直径を測定した。気象・立地条件としては温良指数、最寒月平均気温、年間降水量、方位別の月平均風速、方位別の10m/S以上の風速の予測回数、地形、汀線からの距離、土性を方形区毎に求めた。確認された広葉樹は海岸風衝林及びタブ型林の構成種が多くを占めた。広葉樹の個体密度は方位別の月平均風速、方位別の10m/S以上の風速が大きくなると高くなる傾向にあり、風環境が広葉樹林化の可否に影響する可能性が示唆された。また、種組成は温良指数、地形、汀線からの距離、土性に応じて変化する傾向が認められた。

  • 横沢 広朗, 戸田 浩人, 崔 東壽
    セッションID: P1-057
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    針葉樹人工林の多くが利用期を迎えるなか、管理が行きとどかない人工林を整備する方法の一つとして広葉樹林化が挙げられる。より省力的に適切な広葉樹林を造成するために、天然下種更新を利用して広葉樹を導入することが有効である。しかし、人工林内への広葉樹の種子散布と実生の発生・定着を同所的に調査した例は少ない。本研究では、皆伐・間伐・非間伐のスギ・ヒノキ林内での2年間の散布種子と実生の発生、および強度列状間伐後5年目の広葉樹稚樹の侵入状況を調べ、種子散布と実生発芽から定着の可能性を考察した。調査地は東京農工大学FM草木(群馬県)、FM唐沢山(栃木県)の、斜面上部に天然生広葉樹林が存在する人工林に設けた。各地点で広葉樹林から人工林内へ10mごとに2m×2mの方形区を設置し、発生する実生の樹種と個体数を調べた。FM草木では、散布される種子も調べた。その結果、10m程度までは隣接広葉樹林にある遷移後期の高木種の重力散布と定着がみられた。また、30m離れても風散布や鳥散布で埋土種子となる高木種の発生はみられるが、低木の先駆種に被圧されていた。発表では、今後の広葉樹林化施業方法についても検討する。

  • 根岸 有紀, 林 誠二, 松尾 歩, 岡野 邦宏, 多田 千佳, 鈴木 政紀, 清和 研二
    セッションID: P1-058
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    【背景・目的】持続的な人工林施業には木材生産と生態系機能の両立が重要であるが、両者の両立を検証した例はない。本研究は間伐強度を変えたスギ人工林における14年間の調査から、種多様性および生態系サービス(N循環)の回復状況、スギと広葉樹の木材生産(材積、DBH、材質に関わる形質)を調べた結果を報告する。【方法】本数間伐率で0%(対照区)、33%(弱度区)、67%(強度区)の三段階の強度の間伐を植林後20年、25年生時の2回行った。【結果】種多様性は弱度区では下層レベルでのみ、強度区は林冠レベルでも増加した。さらに間伐強度が高いほど土壌間隙水中の無機態NO3-量が減少した。これは林冠レベルの混交により地下部細根量が増加したためと考えられる。スギ・広葉樹を合わせた林分材積成長量は無間伐・弱度区に対し強度区が最も低かったが、直径成長量と広葉樹材積成長量は強度区が最も高くなった。【まとめ】弱度間伐はスギの木材生産には適するが生態系機能の回復の程度は低い。一方、強度間伐は林冠レベルで種多様性が回復し、生態系機能の高次の発揮が期待できる。一時的に低下した木材生産も長伐期化によって広葉樹生産による補完が可能になるだろう。

  • 生亀 史恵, 北上 夏陽子, 塚原 雅美, 伊藤 幸介, 箕口 秀夫, 紙谷 智彦
    セッションID: P1-059
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    本研究は、用材林に誘導した旧薪炭ブナ林において、ブナ前生稚樹の成長を促すための施業方法を検討する。稚樹の成長は、林冠疎開の有無による林冠下の光環境、下刈り前後での低木樹種の被陰強度の変化、高さの異なるブナ稚樹の伸長成長量で評価した。調査は、新潟県魚沼市の旧薪炭ブナ林約3haにおいて実施し、31か所の5m×10mの調査区に出現した0.5m以上のブナ稚樹と低木樹種の樹高、および、その中に設置した各20個の1m×1mの調査枠に出現した0.5m未満のブナ稚樹の樹高を記録した。さらに、16個の調査区に10か所の刈り出し枠を設置し、低木樹種刈り払い前後の光環境を測定した。 その結果、疎開した林冠下では良好な光環境の下でブナ稚樹の樹高成長は良好であるが閉鎖した林冠下では、林冠の被陰の影響が強く、100cm以上に成長できなかった。閉鎖林冠下では刈り出し効果が見られず、疎開林冠下では林冠下の光環境が良いほど刈り出し効果が高かった。低木層ではササの被陰効果が極端に高かった。低木層を優占する7樹種の間で、地上高による被陰の特徴はあったが、その効果には明確な差は無かった。これらの結果をもとに、ブナ用材林の更新方法を検討する。

  • 酒井 若菜, 久保 満佐子, 尾崎 嘉信
    セッションID: P1-060
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    【背景・目的】近年、コナラ二次林の多くが伐採されず高齢化が進み、日本海側のコナラ二次林ではナラ枯れによるコナラの枯損が拡大している。島根大学三瓶演習林のコナラ二次林でもナラ枯れによりコナラの林冠木が減少しているが、ナラ枯れ後の森林の再生については明らかではない。そこで本研究では、ナラ枯れ後のコナラ二次林における散布種子と実生の更新、刈り取り(林床植生を刈り取り後、放置する)、持ち出し(刈り取り後、外に持ち出す)、掻き起し(持ち出した後、表層土壌を掻き起す)の林床処理に対する高木性樹種の実生の更新を調べ、林床処理の効果を明らかにする。【結果・考察】本演習林のコナラ二次林では、構成樹種の散布種子が多く確認され、ウリハダカエデ、クマノミズキ、コナラなどが多かった。林床に生育する実生は0.1本/㎡と少なく、樹種はカエデ属が多かった。一方、林床処理によりクマノミズキやアカメガシワ、リョウブなどの高木性樹種の実生が多く、刈り取りで4.6本/㎡、持ち出しで45.4本/㎡、掻き起しで45.4本/㎡の高木性実生が確認されたことから、刈り取り後の持ち出しにより実生の更新が可能になっていると考えられた。

  • 山崎 遥, 吉田 俊也
    セッションID: P1-061
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    樹木の天然更新を促進する掻き起こし作業において、表土を多く残すことによる成長の改善が注目されている。しかし、表土を残す方法の違いは考慮されてこなかった。そこで複数の作業種を対象として、更新に影響すると考えられる表層土壌の諸特性を比較した。北海道大学研究林内で、通常の掻き起こしと、表土を意図的に残す作業2種(取り除いた植生および表土を施工地に敷き戻す作業:表土戻し、および、植生を除去する際に表土をふるい落とす作業:ふるい落とし)を実施した。施工後の表土の特性には、表土を残すふたつの作業種間で差が認められた。ふるい落とし処理箇所の土壌硬度や残存根茎量は表土戻し処理と有意に異なっており(硬度が高く、根茎量は少ない)、むしろ通常の掻き起こし処理に近い値だった。また、土壌の含水率は、表土戻し処理において高い箇所が多かった。このように、表土を残す作業の効果は作業法によって大きく異なることが明らかになった。掻き起こし地では乾燥が実生の定着をしばしば妨げることから、表土戻しは更新をより促進しうる作業であることが示唆された。本発表では上記の結果に加え、植生の定着状況も踏まえた作業の選択について議論する。

  • 鈴木 ななみ, 吉田 俊也
    セッションID: P1-062
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    北海道の森林においては、重機を用いたかきおこし処理が広く行われてきた。処理後は一般にカンバ類が優占するが、初期には針葉樹の更新も見られることから、それらを活かして植栽コストを削減することが期待されている。本研究では、針葉樹の更新に適したかきおこしの方法を明らかすることを目的とした。針葉樹(特にトウヒ属)の更新は、鉱物質層が露出する土壌で多いこと、また、表土の量が多いとカンバ類の更新が盛んになることが知られている。そこで、表土の量が少ない処理で針葉樹の本数密度が多くなるという仮説を検証した。2004年に、残る表土の量を変えて3種類(表土多・中・少)のかきおこし処理を行い、経年的に稚樹調査を行った。処理後5年目の時点でトドマツの稚樹密度は、表土の量が少ない処理で有意に高かった。一方、アカエゾマツは処理間で差は見られなかった。しかし10・13年目には表土の量が多い処理で両樹種共に本数密度が極端に低下すると共に、表土が少ない処理では樹高や成長が高く、長期的にみれば仮説は支持された。ただし、表土が中程度の処理との差は小さく、表土の量が多くなければ、両樹種の定着はある程度促進されることが示唆された。

  • 木下 勇作, 大住 克博
    セッションID: P1-063
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    ヒノキ実生はリター(L)上で少なく、地表・倒木上などの蘚苔類(コケ)の上で多い。先行して行ったヒノキ人工林内での野外調査および発芽実験では、ヒノキ実生の成立はマット状のカガミゴケ上で促進され、立体的なシッポゴケ上で阻害さることを明らかにし、その差は、コケの形態により種子の水分環境が異なるためと推測した。今回は、コケが抗菌性を持つことで、ヒノキ実生の病害が回避されている可能性を調べるために、上記2種のコケの枯死体に、マット状構造を持ち抗菌性は低いと推測されるハイゴケの生/枯死体を加え、母材として発芽試験を行った。その結果、ハイゴケの生体及び三種全ての枯死体でカビが発生し、発芽本数は極端に減少し、それらの抗菌性が低いことが予測された。さらに、コケの組織が抗菌性を持つことを確認するため、L層およびカガミゴケ、シッポゴケ、ハイゴケの生/死サンプルそれぞれの懸濁液を組み合わせて培地に散布し。カビの発生状況を観察した。その結果、カガミゴケ生体の懸濁液には、L層の菌に対する抗菌性があると考えられた。以上のように、ヒノキ実生成立に関するコケの効果は、種と構造、生死により異なると考えられた。

  • 松永 宙樹, 斎藤 仁志, 城田 徹央, 植木 達人, 大矢 信次郎
    セッションID: P1-064
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     カラマツの天然更新誘導にあたっては,初期に高密度に更新しても,他の雑草木との競合によりその後成林しない可能性が考えられる。本研究では,カラマツ天然下種更新地において,実生の初期成長と競合状態を調査することで,下刈りの効果とその必要性を明らかにすることを目的とした。調査地は長野県南佐久郡北相木村の山木村有林である。2014年に小面積皆伐と地表面の掻き起こしが行われ,2015年の春に実生の発生が確認された。 調査地に20m×2mのプロットを3箇所設置し,2016年~2017年の2年間,実生の調査と競合状態を把握すると同時に,異なる下刈り処理を実施し,下刈りの効果を検証した。競合状態を考慮して実生成長量をモデル化するため,SfM技術を用いて雑草木群落の3次元情報を把握した。分析の結果,無処理区でも競合状態の低い個体は,D2H増加量が大きかった。しかし,良好な成長を示した個体の割合は,下刈り処理区では約40%であったのに対し,無処理区では13%程度と大幅に少なかった。順調な成林を促すうえでは,初期本数密度と競合状態を考慮し,状況に応じて下刈り処理を行う必要があると考えられた。本研究はJSPS科研費26450222の助成を受けたものです。

  • 笹原 千佳, 柴田 昌三
    セッションID: P1-065
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    ケニア山岳部では自生竹Arundinaria alpinaが自生しており、住民によって利用されている。同国では、各県ごと森林管理区が設定されており、住民は森林管理区内の共用農林地を利用することが出来る。その一方で、その他の区域は森林保全区となっているため立ち入りが禁止されている。本研究では、自生竹生育地であるカマエ森林管理区における森林保全区と共用農地内それぞれの竹林の地上部現存量を推定することを目的とした。調査では、毎竹調査と伐倒調査を行った。毎竹調査では、森林保全区及び共有農林地内それぞれに5箇所及び2箇所のプロット(10×10m)を設置し、プロット内の全ての竹のDBHを計測した。伐倒調査では、50本の竹を伐り出し、それぞれの長さと乾燥重量を計測した。その結果、自生竹の地上部現存量は森林保全地区で46.33t/ha、共用農林地で15.102t/haであった。森林保全地区内における竹密度は19980本/ha、共用農林地では15200本/haであった。立竹の胸高直径は、森林保全地区では胸高直径3cmを中心に一山型の分布傾向がみられたが、共用農林地では、森林保全地区と比較して2cm以上の竹が少なく、住民によって2cm以上の竹が利用されていると考察された。

  • 渡邉 大地, 大久保 達弘, 逢沢 峰昭, 原 正利, Rantai Jawa, Paul P.K. Chai
    セッションID: P1-066
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    東アジアおよび東南アジアのブナ科植物は中国南部からインドシナ北部、ボルネオ島に分布するが、近年ボルネオでは森林減少や断片化が進行している。本研究はボルネオ島・サラワク州に生育するブナ科植物の垂直分布様式を把握し、採取個体の葉緑体DNAのrbcLaおよびmatK部分配列を用い、外部形態に基づく種同定との整合性と併せてDNAバーコーディングの有用性を検討した。本研究では同州クチン、エンカリおよびバラム川の各流域で採取した457個体(4属77種)の垂直分布をTree Flora of Sabah and Sarawak(TFSS)(Soepadomo 2000)およびキナバル山(Beaman 2005)のデータと比較した。結果TFSSに記載されている標高分布を超える種や新産地種が15種見られた。また出現のピークがジャワ島では標高1400~1800m(A.van der Kaars et al.1995)、スマトラ島西部では400~700m(Fujii 2006)に出現のピークがあるのに対し、ボルネオ島サラワク州では500~600mおよび900~1000mにピークがみられ、樹種構成に地域差が認められた。DNAバーコーディングでは葉緑体DNAの上記2領域を用いた結果、種同定能は34.5%であったため、遺伝子間領域のtrnH-psbA領域を加え、同定精度の向上を図った。

  • 小西 雄大, 齊藤 陽子, 井出 雄二
    セッションID: P1-067
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     シオジは冷温帯渓畔林の主要な構成種で、谷壁斜面に優占林を形成する一方、谷底の渓流沿いでは線状に連続分布する。秩父山地における先行研究では、谷壁斜面集団間で遺伝的多様性が同程度に保たれていること、また渓流沿いで広範な遺伝子流動が起きていることが示唆されており、集団間遺伝子流動の経路として渓流沿いのシオジ個体の寄与が考えられる。そこで本研究では、秩父山地の入川流域、東谷流域で渓流沿いシオジ林と谷壁斜面集団との間での遺伝子流動を明らかにし、前述の仮説を検証した。核SSRマーカー14座を使用し566個体を解析した。 入川流域では、STRUCTURE解析において渓流沿いの大部分の個体と谷壁斜面集団が同一クラスターに分類され、さらに移入率推定や親子解析の結果、渓流沿いから谷壁斜面への遺伝子流動が逆方向に対し卓越していることが推定された。したがって、渓流沿いのシオジ個体は谷壁斜面集団間の遺伝子流動に一定の貢献をしうると考えられる。一方、東谷流域では渓流沿いと谷壁斜面が異なるクラスターに分類され、さらにこれらの間に明瞭な遺伝子流動は確認されなかったため、渓流沿いの個体の集団間遺伝子流動への寄与は小さいと推察される。

  • TINIO CRUSTY, San Jose-Maldia Lerma, Saneyoshi Ueno, Kentaro Uchiyama, ...
    セッションID: P1-068
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    The genetic diversity (GD) and fine-scale spatial genetic structure (SGS) of Parashorea malaanonan were assessed using the 10 polymorphic markers newly developed for the species. These markers were used to analyze GD and SGS at different life stages: adult, juvenile and seedlings. The number of alleles per locus ranged from seven to 23. The estimates of allelic richness (Ar) and gene diversity (He) generally showed a high level of genetic diversity across life stages, with no significant differences across the life stages. Significant SGS was found in seedlings within 100 m, suggesting that seed dispersal mainly occurred near a mother tree particularly within 50 m. This implies that seeds for ex situ conservation should be collected from trees at least 50-m apart to reduce genetic similarity between neighboring individuals. This study demonstrates the utility of developed markers for the analysis of GD and SGS in the species.

  • 小濱 宏基, 阿部 晴恵, 上野 真義, 森口 喜成
    セッションID: P1-069
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    新潟大学のゆきつばき園と新潟県森林研究所には、新潟県内の山地や農家の庭先などから収集された花形態が特異的なツバキが合わせて269本植栽されている。これらの個体は野生のヤブツバキとユキツバキの交雑,または両種の突然変異個体が由来だと考えられている。これらは,花型や花色などの花形質が多様であり,遺伝資源として非常に貴重であるが,年数の経過により,その多くは導入の記録や個体情報が紛失してしまっている。そこで、本研究ではこれらのツバキの花形質および遺伝的特徴を明らかにすることを目的とした。ゆきつばき園の花型を調べた結果,八重咲きが最も多く,次に一重咲きが多かった。遺伝解析は,葉緑体DNAと核DNAの双方で行った。解析の結果,ゆきつばき園の個体には,核はヤブツバキ型,葉緑体はユキツバキ型を示す個体がいくつか検出された。また,倍数性が疑われる個体もいくつか存在した。一重咲きの個体には,核DNAがヤブツバキ型の個体が多く,花形質もヤブツバキに近いことが明らかとなった。発表では,新潟県森林研究所のツバキの結果も交えて議論する。

  • 塚本 将司, 鳥丸 猛, 赤田 辰治
    セッションID: P1-070
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    植物のMYB転写因子は色素の生合成や、乾燥、高塩濃度など様々なストレスへの応答に関与するものがある。本研究ではブナにおけるR2R3MYB遺伝子ファミリーの中から、乾燥応答の候補遺伝子であるFcMYB1603とタンニン合成経路に働く傷害誘導性遺伝子であるFcMYB3202の塩基配列の地理的変異を調べた。FcMYB3202の一部(545bp)の塩基多様度を日本海側[大山(鳥取県)と白山(石川・岐阜・福井県)]と太平洋側[段戸山(愛知県)]で算出した結果、日本海側集団(同義置換サイト:0.0045、非同義置換サイト:0.0019)が太平洋側集団(0.0028と0.0009)より高い値を示した。FcMYB1603の一部(718bp)の塩基多様度は、同義置換サイトでは日本海側集団(0.0069)よりも太平洋側集団(0.0118)が高く、非同義置換サイトは太平洋側集団(0.0037)よりも日本海側集団(0.0040)が高くなった。Tajima’s Dを算出した結果、FcMYB3202の日本海側集団で-1.0143、太平洋側集団で-1.4862となり、FcMYB1603の日本海側集団で-1.4752、太平洋側集団で-1.1750となった。本報告では集団の動態を推定し、それらの形質が地域固有の自然環境に適応するための自然選択を受けていたかどうかを議論する。

  • 中谷 崇人, 上谷 浩一, 伊東 明, 名波 哲, 田中 憲蔵, 米田 令仁, Bibian Diway, Lucy Chong, Moha ...
    セッションID: P1-071
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    東南アジア地域における現在の熱帯雨林の分布は、過去の海水面変動と気候変動の影響を強く受けていることが知られている。私たちは、樹木集団の遺伝情報から東南アジア熱帯雨林の過去の歴史を再構築することを目的に研究を行っている。Shorea curtisiiは、丘陵フタバガキ林に生育する代表的なフタバガキ科樹木の1つである。マレー半島のS. curtisiiは海岸から内陸まで広く分布しているが、ボルネオでは北部の海岸沿いの一部に隔離した小集団が分布している。本研究では、マレー半島から21集団とボルネオから3集団の計24集団を対象に葉緑体の2遺伝子領域の塩基配列を決定した。その結果、マレー半島とボルネオのそれぞれから異なるコモンハプロタイプが見つかった。そこから分岐したレアハプロタイプはマレー半島では18タイプ見つかったのに対し、ボルネオでは3タイプのみであった。さらに、Tajima’s Dなどの中立性の検定の結果、マレー半島の集団はボトルネックを受けた後、分布を急速に拡大したことが示唆された。また、本発表ではマイクロサテライト多型データを加えて推定した過去の集団サイズの動態についても紹介する予定である。

  • Kataru Onosato, Asako Matsumoto, Yoshihiko Tsumura
    セッションID: P1-072
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    コナラとミズナラは日本の温帯林及び冷温帯林を構成する生態学的に重要な種で、植生回復などでも広く植林に用いられている。遺伝的撹乱は、由来の異なる集団を同じ場所に植栽することなどで起こり得うる。これを未然に防ぐためにはまず、各地の集団の遺伝的境界線を明確にする必要がある。コナラとミズナラの遺伝的組成は中部地方を堺に南北タイプに大別されるが、詳細な境界線は分かっていない 。 そこで本研究では、両種における南北タイプの境界線をローカルスケールで明らかにし、その成立要因を解明することを目的とした。サンプルは中部地方を10kmメッシュに区切り、各メッシュから1個体ずつを目安に天然性個体の葉組織を採取した。コナラ約150個体、ミズナラ約100個体を採取し、採取個体の南北系統の違いは、葉緑体ゲノム上の3’to_rps2の塩基配列から得られたハプロタイプで決定した。遺伝的境界線の成立要因は、採取地点の標高および気温などの環境要因と南北タイプの地図上の位置とを比較することで考察を試みた。その結果、遺伝的境界線は単純な線では表せないこと、南北タイプ間で地形や標高、積雪量に差があることがわかった。

  • 片倉 慶子, 河上 友宏, 渡辺 洋一, 藤井 英二郎, 上原 浩一
    セッションID: P1-073
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    現在日本に生育するイチョウは中国から伝来したものだが、どのような経路で日本各地に広まっていったのか明らかになっていない。そこで本研究では、中国から日本に伝来してきた当初の遺伝的変異を維持していると考えられる巨木を対象とし、遺伝的変異の地域的特性から、日本国内でのイチョウの伝播経路を推定することを目的とした。九州地方から東北地方までの幹周8m以上の巨木を網羅的に採集し、199個体について8遺伝子座を用いてマイクロサテライト解析を行った。解析の結果、8つの遺伝子座から9~21の対立遺伝子を検出し、140種類の遺伝子型を認識した。遺伝子型を共有しているクローンと考えられる個体には分布が離れているものが見られ、巨木が寺社に多く存在することと僧侶がイチョウでできた杖を地面に刺した等の伝承が日本各地にあることから、挿し木で増やした可能性が考えられる。地方ごとに遺伝的多様性を比較したところ、遺伝子多様性(He)は0.57~0.82、アレリックリッチネス(AR)は3.32~6.31となり、どちらも東日本で低い値を示したため、中国から西日本にイチョウが伝来し、その一部が東日本に運ばれたと考えられる。

  • 安藤 岳洋, 齊藤 陽子, 黒河内 寛之, 井出 雄二
    セッションID: P1-074
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    カバノキ科のアサダ(Ostrya japonica)は冷温帯性の落葉高木で、房総半島では、関東地方の他集団から隔離されて生育すし、集団数、個体数ともに限られている。本研究では、アサダの国内における遺伝構造とその成立プロセスを明らかすることで、房総集団を遺伝的に位置付け、また、その遺伝的多様性を個体数の多い富良野の集団と同じ面積規模で比較し、集団の現状を把握した。房総8地点に加え、日本の各地域20地点から葉サンプルを採取し、新たに開発した核SSRマーカー17座を用いて解析した。STRUCTURE解析の結果、K=3で北海道、東日本、西日本の3系統が確認され、K=4で房総集団が単独の系統となった。DIYABCを用いた集団動態推定やMAXENTを用いた過去の分布域推定などから、これらの3系統は最終氷期の頃同時期に分化し、房総集団は約5000年前に東日本の系統から分かれたことが示唆された。また、房総半島では、分集団をまたいだ個体間の血縁度の低さやFSTの大きさなどから、地域内の遺伝的交流の減少により集団間分化が促進されていることが考えられ、加えて分集団内の血縁度も高く、地域集団の存続が危ぶまれる状況にあることが示唆された。

  • 和田崎 直隆, 石田 清, 戸丸 信弘
    セッションID: P1-075
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    繁殖干渉は、外来種と在来種の交雑により生じる在来種への影響の1つである。シデコブシの分布域には分布しないコブシが、シデコブシの生育地付近に植栽されている例や逸出している例が報告されており、シデコブシにとってコブシは外来種といえる。そこで、それぞれを母樹とし、種内交配・種間交配・混合花粉・自然受粉の4つの処理区を設けて、人工授粉実験を行い、シデコブシとコブシ間の繫殖干渉を評価した。成熟した果実数と種子数から結果率、結実率、雌性繁殖成功度(結果率×結実率)を算出し、処理ごとに比較した。また、プログラムCERVUSを用いて混合花粉処理により得られた種子の花粉親を特定した。結果率と雌性繁殖成功度は、両種ともに処理間に差はなかった。結実率は、種内交配がシデコブシを母樹とするとき他の処理よりも高くなり、コブシを母樹とするとき種間交配よりも高くなった。また、混合花粉処理により得られた種子には両種ともに種間交配による種子が確認された。したがって、両種の花粉が同時に受粉した際には花粉管競争が生じ、雑種形成により純種の種子数が減少していると考えられ、シデコブシとコブシ間に繫殖干渉が生じていることが示唆された。

  • 加藤 敬介, 向井 譲, 鶴田 燃海, 安藤 正規
    セッションID: P1-076
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     サワラはヒノキ科ヒノキ属に属する針葉樹である。現在、広域に植栽されたヒノキ人工林から飛散する花粉が、サワラの胚珠に誤って取り込まれることで繁殖干渉を引き起こし、種子の充実率を低下させる可能性が指摘されている。しかし、種子の充実率は繁殖干渉以外にも、胚珠が取り込む花粉の個数や種類により様々な影響を受ける。花粉を取り込まなかった胚珠は充実種子にならない。また、多くの胚珠が自家花粉を受粉した場合、胚致死遺伝子がホモ接合になる確率が上昇し、近交弱勢がはたらくことで充実率は低下する。以上のことを考慮すると、繁殖干渉が実際に生じているか判断するには、胚珠が受粉してから種子が成熟するまでの過程で作用する様々な要因を考慮したモデルを構築し、解析する必要がある。本研究では、受粉率と近交弱勢の影響を考慮した充実率推定モデルを構築することを目的とし、自然受粉における胚珠の受粉率、種子の充実率と自殖率を測定した。加えて、自家花粉および他家花粉を人工交配させた胚珠の受粉率と、その種子の充実率をそれぞれ測定し、近交弱勢による充実率の低下の程度を推定した。

  • 田玉 巧, 戸塚 聡子, 長谷川 陽一, 内山 憲太郎, 上野 真義, 松本 麻子, 森口 喜成
    セッションID: P1-077
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    花粉症対策に利用されている無花粉スギは、常染色体劣性遺伝を示す単一の遺伝子により発現することが明らかにされている。現在までに合計23個体が選抜され、4種類の雄性不稔遺伝子(MS1,MS2,MS3,MS4)が同定されている。それぞれの地域に適した優良な無花粉スギの実生苗を効率的に生産するためには、より多くの無花粉スギや雄性不稔遺伝子をヘテロ接合体で保有するスギが必要となる。また、これらの無花粉スギの育種素材を用いて品種改良や種苗生産を行う際には、雄性不稔遺伝子の種類の特定と、近交弱勢の影響をできるだけ避けて交配させるための育種素材の遺伝的な類似性に関する情報が必要となる。新潟県の無花粉スギ育種素材のうち、四分子期に異常が生じる新大11号と新大12号は、原因遺伝子が未だ明らかにされていない。そこで本研究では、まず、交配試験により、新大11号と新大12号の原因遺伝子を調査した。さらに、新潟県が保有する無花粉スギ育種素材の遺伝的類似性を評価した。遺伝的類似性の評価は、スギ高密度連鎖地図に散在する258座のSNPマーカーを用いて実施した。本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の助成を受けて行われた。

  • 泉 湧一郎, 田村 美帆, 田端 雅進, 井城 泰一, 渡辺 敦史
    セッションID: P1-078
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    ウルシは日本、韓国、中国に分布し、その樹液、”漆”の用途は広く、接着剤や漆器などに使われてきた。特に、良質とされる国内産漆は文化財修復に用いられるため、要望は根強い。しかし、国内産漆の供給は漆使用量の数%に留まっており、漆の安定的かつ多量な生産を行うことが必要である。そこで、本研究では、優良ウルシ早期選抜に向けたDNAマーカー開発を試みた。個体識別を行うためのマイクロサテライトマーカーは既存のマーカーと独自に開発したマーカーを組み合わせ最適化した2セットを作成した。種苗の移動を評価するため、ウルシ葉緑体ゲノムについては次世代シーケンサーを用いて解読を行い、ゲノム中の変異を探索した。さらに、複数処理区から採取したRNAをRNA-seqに供試し、遺伝子発現を確認後、特異的な発現を示す遺伝子をマーカー化するための変異探索を行った。これら開発したそれぞれのマーカーは、全国から収集したウルシ個体に適用することでその性能を評価すると共に、得られたデータを効果的に利用する方法について検討した。

  • 北村 啓, 玉井 裕, 東 智則, 宜寿次 盛生, 宮本 敏澄
    セッションID: P1-079
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    シラカンバ(Betula platyhylla var. japonica)は北海道に自生する早生樹であり、種々の外生菌根菌との共生が知られる。菌根性食用キノコの栽培化へ向けた菌根合成苗の研究はまだ緒に就いたばかりであり、苗の大型化や育苗期間の短縮など種々の課題を抱えた状態である。そこで本研究では、早生樹シラカンバを用いて菌根合成苗の短期育成方法を検討した。シラカンバの種子を低温湿層処理後、乾熱滅菌した蝦夷砂上に播種して約1か月間育成し、本葉が展開したものを水耕栽培器で1か月間育成した。その後マツタケ菌を担持した培土中で46週間育成し、4週間毎に生育状況を観察した。その結果、12週目までは、根系全体に根毛が見られ菌根形成は確認されなかったが、16-20週目で徐々に根毛の消失及び菌根の形成が始まり、24週目には発達した菌根が確認された。菌根菌接種後46週目には苗高約65cmに達した。以上のことから、早生樹と水耕栽培を組合せることにより、短期間で野外植栽可能な大型菌根合成苗を育成することが可能となると考えられた。

  • 杉本 小夜, 坂本 淳, 佐野 豊
    セッションID: P1-080
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    きのこ栽培の主流である菌床栽培では、他産地との差別化や付加価値の高いきのこ生産が求められている。本報では和歌山県の特産品で梅干し加工副産物である梅酢や紀州備長炭(以下「炭」)を培地添加材に利用することで、子実体の収量やミネラル量に与える影響を検討した。予備試験として、ナメコとシイタケについて種類、濃度の異なる梅酢や炭を添加した試験管内培地での菌糸伸長量を調査し、その結果をもとに対照区と比較して増加または同程度であった培地組成を用いて栽培試験を行った。ナメコでは脱塩梅酢および濃縮脱塩梅酢(各0.2%区、0.5%区、1%区)を、シイタケでは炭(5%区)、濃縮脱塩梅酢(1%区)を添加し、子実体収量を調査した。また、収穫した子実体のミネラル(K、Ca、Mg、Na)量を測定した。収量はナメコでは脱塩梅酢1%添加区で、シイタケでは炭5%添加区で対照区よりも増加した。ミネラルはナメコでは脱塩梅酢添加区でCaが増加し、シイタケでは炭添加区、濃縮脱塩梅酢添加区においてMgが増加した。以上から、ナメコでは脱塩梅酢、シイタケでは炭が子実体の収量とミネラルを増加させる菌床培地添加材として利用できる可能性が示唆された。

  • 上辻 久敏
    セッションID: P1-081
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    出荷後のシイタケが流通中に変色する事例が全国の産地で発生している。近年、岐阜県ではシイタケの変色に酸化酵素が大きく関与している試験結果を得たことから、酸化酵素の働きを抑制する可能性が高いシイタケを密封する処理でシイタケの変色を抑制する効果を得ることに成功している。過去の報告から酸化酵素が、超臨界二酸化炭素処理で失活する現象が報告されており、シイタケの変色抑制効果を調べるため、シイタケ子実体の酸化酵素に対する超臨界二酸化炭素処理の影響について検討した。その結果、二酸化炭素が臨界点を超え超臨界状態となっている35℃、8.5MPaの処理では、シイタケ子実体由来の酸化酵素が活性を維持していることがわかった。

  • 渥美 幸大, 矢田 豊, 小谷 二郎
    セッションID: P1-082
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    近年、石川県内で生シイタケ栽培用の原木の需要が増加しており、その安定供給が重要視されている。そうした中で、原木となるコナラの高齢化・大径木化が顕著であり、大径木化したコナラ林の有効利用の一環として、シイタケ原木(7≦φ≦14cm)の供給量の推定が求められている。本研究では、コナラの立木状態において樹冠投影面積を中心から4方向に距離を測定し算出し、胸高直径を林尺で測定した。また、伐採後に樹高ならびに分枝の長さおよび直径を1.0mごとに測定し、それぞれ実測値をもとにした相関関係からバイオマス量および原木を推定する手法を検討した。結果として、樹幹投影面積と樹高について原木採材量およびバイオマス量と高い相関が確認され、その結果をもとに生長曲線に近似した推定式を作成した。これにより、樹冠および樹高情報からシイタケ原木の採材量およびバイオマス量を推定することについての可能性が示唆された。また、近似曲線のばらつきに枝分かれ数が関係していることが関与している可能性が示唆されたことから、各調査対象木あたりの成立状態についても含めて言及し、実用に向けた推定精度の向上を検討する。

  • 藤田 徹
    セッションID: P1-083
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    マツタケのシロ形成の適地条件の一つは宿主であるマツの根が多いこととされる。林地で種菌の接種による菌根形成を行う際に、接種箇所の条件をシロ形成の適地に近づけるため、根系処理したマツ苗を植栽することで地表付近のマツの根の量を増やすことを試みた。アカマツは圃場で育苗した育苗2年目の苗を用い、5月に細根を除去しオキシベロンで発根促進処理後、300mlの育苗コンテナを用いパーライトで育苗した。7月に根の発根状態を調査するとともに、新根の本数を4~5本にし、アカマツ林3箇所に各5本ずつ、地面に寝かせるように植栽した。8月に苗を回収し、根の状態の変化を調査した。その結果、約89%の根で側根が発根し、これらの根は生存していると判断された。この方法で、林地で菌根形成可能なマツの根を局所的に増やすことが可能と考えられた。しかし、成長中の根は植栽前の約33%に減少しており、林地への順化処理を行うなどの改良が必要と考えられた。

  • 古村 善則
    セッションID: P1-084
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     ツバキは花の観賞用としてしか品種の選抜がされていないこともあり、野生種のヤブツバキでは個体ごとに結実した種子のばらつきが大きい。種子の収量の不安定さは生産者にとって大きな問題であり、収量の増加と結実の安定が求められている。そこで、生理落下を抑え重量の重い種子を採取できるような資料が得られればと考え、無受粉・自家受粉・他家受粉・自然受粉という受粉形態別に、結実率や結実後の種子の大きさ・重量を比較してみた。その結果、自然受粉の中には自家受粉が混じっていることが推測され、他家受粉の割合を高めることが、結実率が高く、かつ結実した種子重量を高めることとなり収量の増加につながることがわかった。

  • Omari Abdulhaq, Toda Hiroto, Choi Dongsu
    セッションID: P1-085
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    Ectomycorrhizal fungi (ECM) can enhance nutrient uptake, moisture, and alleviate high transpiration rate. Thus, a greenhouse experiment in which seedlings were exposed to three levels of water-stress and two levels of ECM fungi, was conducted using multi cavity containers to assess ECM infection rate, seedlings growth, nutrient uptake and transpiration rate. Results showed that ECM infection rate of fine roots generally increased by artificially-inoculated seedlings regardless of water levels. Seedlings dry weights were not significantly different between naturally-inoculated and artificially-inoculated treatments throughout water-stressed levels. Although artificial-colonized treatment did not enhance the growth, they controlled transpiration rate and increased P uptake of the leaves and roots significantly. It suggests that high rate of ECM infection can decrease the stress through nutrient absorption and prevention of high transpiration rate in dry condition.

  • 金道 知聖, 楠本 大, 久本 洋子
    セッションID: P1-086
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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     放置竹林の拡大にはタケ類の地下茎の伸長が大きく関与する。竹林の外縁部では竹林内部に比べて地下茎の伸長速度が速いことが報告されている。地下茎の伸長速度の違いをもたらす要因として地上部の光環境の影響が推察されるが、地下茎の伸長には地下部の環境そのものも影響すると考えられる。本研究では、地下の障害物が地下茎の伸長に影響を及ぼす影響を明らかにするため、障害物を埋設した実生苗の植栽実験を行った。 2016年6月、苗畑に杭を埋めた区を4区画、石を埋めた区を5区画、無処理区を3区画設置し各区画にモウソウチクの3年生実生苗を植栽した。杭と石の密度は一般的な放置竹林での地下茎密度の4倍とした。2017年にかけて出現した稈の数、稈高、根元直径、葉の数を測定し、2017年7月に地下茎を掘り上げ、本数、長さ、根元直径、形状を調査した。その結果、稈の成長は各区画で差が無かったのに対し、地下茎は障害物のある区画では無処理区に比べて本数は多いが太くて短く、湾曲回数が多い傾向があった。以上から、地下の障害物が地下茎の伸長を抑制する一方で、障害物によって地下茎の密度が高くなる可能性が示唆された。

  • 吉村 知也, 栗田 学, 田村 美帆, 酒本 大, 大田 宗太郎, 渡辺 敦史
    セッションID: P1-087
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    スギは我が国における主要な林業樹種でありながら、非モデル植物でありその遺伝的・生理的理解が遅れているのが現状である。挿し木における遺伝的・生理的理解もその1つであり、植物工場等による効率的な苗木生産体制の体系化を一層進めるためにも、さし木に関する遺伝的背景の理解が必要である。本研究では、挿し木に影響を及ぼす環境要因の中でも、光に着目した遺伝子発現解析を行った。赤色光、青色光、またそれらの混合色光の各光質(色)をスギの挿し穂に照射した結果、各光質におけるスギ挿し木の発根率には差異が認められた。そこでスギに対する光質の影響に関する遺伝的背景を明らかにするため、スギ実生を24 時間暗黒条件下に静置した後、白色光、赤色光、青色光を40 µmol/m2sの各条件下で処理し、この時の遺伝子発現を次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析した。さらに、これら人工光と自然光間における比較から、室内環境を想定したスギ挿し木における光環境について考察した。

  • 井上 直樹, 東 若菜, 鎌倉 真依, 小杉 緑子
    セッションID: P1-088
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    樹木にとって根は水を得るための重要な器官であり、根の水ポテンシャルは土壌からの吸水プロセスに大きく寄与するが、野外における実態や特性についてあまりよく知られていない。本研究では、細根の水分生理学的な特性を明らかにするため、滋賀県南部の桐生水文試験地ヒノキ林において、土壌表層から採取したヒノキ細根の水ポテンシャルをプレッシャーチャンバー法を用いて現地観測した。2016年6月から翌年12月までに22回、日中の水ポテンシャルを観測するとともに、2017年10月1日に1~2時間毎に24時間集中観測を行った。並行して葉(プレッシャーチャンバー法)・幹(ステムサイクロメータ法)・土壌(テンシオメータ法)の水ポテンシャルも観測した。また、細根サンプルの水ポテンシャルと相対含水率の関係(水分特性曲線)を測定し、野外で観測した水ポテンシャル日変化から相対含水率の日変化を計算した。さらに、水ポテンシャル勾配と蒸散速度(ポロメータ法)から、根―葉間の通水コンダクタンスの日変化を求めた。細根と葉の水ポテンシャル及び含水率のレンジ、水分特性曲線の比較、細根の水ポテンシャル及び含水率の日変化の結果と、細根の水分生理学的な特性について報告する。

  • 大曽根 陽子, 田中 憲蔵, 井上 裕太, 鳥山 淳平, 山下 尚之, 荒木 眞岳, 橋本 昌司
    セッションID: P1-089
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    人工林は日本の森林面積の40%を占めるにも関わらず、その気候変動の影響予測は十分ではない。精度の高い評価を行うためには、対象樹種の特性を反映させたモデルのパラメータが必要である。日本では、1950年代から主要造林樹種において、生理特性や林分構造、物質循環に関する多くの研究がなされ、膨大な知見が蓄積されている。私たちは現在、こうした文献を収集し、スギ・ヒノキを対象とした生理、形態、解剖学的特性のデータベースを整備している。本発表ではこのデータベースを紹介する。データベースには現在までに236報の文献より、180の特性、20000件のデータが登録されている。最もデータが多い特性はスギで光合成能力、葉の窒素濃度、葉のカリウム濃度、ヒノキで幹呼吸速度、葉の窒素濃度、葉のリン濃度だった。気候変動影響評価に重要な樹木の水利用に関するデータも多く、日中の水ポテンシャルはスギで301、ヒノキで117のデータがあった。データ数が多い特性に関しては葉齢、季節、樹幹内の位置、個体サイズで測定されたものが含まれ、各特性の空間的・時間的な変動の解析も可能である。

  • 井上 裕太, 北岡 哲, 荒木 眞岳, 釣田 竜也, 阪田 匡司, 田中 憲蔵, 齊藤 哲
    セッションID: P1-090
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    本研究は、スギの葉のガス交換特性と水ポテンシャルの季節変化を明らかにすることを目的とした。茨城県の39年生スギ人工林において、樹冠上部の葉を対象に、光飽和時の光合成速度(Amax)と蒸散速度(Emax)、夜明け前、日中、原形質分離時の水ポテンシャル(πtlp)、および葉面積当たりの葉重(LMA)を、2017年2月から12月まで毎月測定した(3月を除く)。ガス交換特性に用いた測定枝は2月から6月までは2016年の当年葉を、6月から12月までは2017年の当年葉を対象とした。6月の当年葉のAmaxEmaxは6月の一年葉とほぼ同等の値を示した。その後、Amaxは9月、Emaxは8月まで増加したが、それ以降は12月まで低下し、季節変化が大きかった。当年葉のLMAは6月から12月にかけて増加した。日中の水ポテンシャルはEmaxが最大値を示した8月に最も低い値を示した。耐乾性の指標であるπtlpは当年葉のLMAとの間に有意な負の相関関係が見られ、当年葉の成熟に伴い、耐乾性が高くなることが示された。以上から、スギの葉の水利用は気象条件の変化と葉の成熟に大きく影響されることが示唆された。

  • 作田 耕太郎, 石川 達也, 倉本 哲嗣
    セッションID: P1-091
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

     初期成長に優れた苗木の育成は,人工林における保育費用の削減に対して有効な手段であり,林業の収益性向上への貢献が期待される。このような林業の低コスト化の実現に向けて,スギ精英樹第二世代候補木の特性評価が行われつつあるが,精英樹系統間での生理的特性の差異について比較した例は少ない。本研究では,林木育種センター九州育種場内に植栽されている,スギ精英樹第一世代と第二世代候補木の当年生シュートについて,水分特性値の季節変動を調査した。水分特性値の測定は,系統間で初期成長量に差が認められている6~7年生の5系統を対象として,プレッシャーチャンバーを用いたP-V曲線法によって行った。測定は2017年5月から2018年の3月にかけて8回実施し,系統間での当年生シュートの水分特性値について比較,検討を行った。全ての系統に共通して,膨圧を失うときの水ポテンシャルと飽水時の葉の含水量は春から冬にかけて低下する傾向を示した。また,初期成長量の大きい系統では,膨圧を失うときの水ポテンシャルと飽水時の含水量が,ともに初期成長量の小さい系統よりも低いと言う結果を示した。

  • 平川 雅文, 市橋 隆自, 福田 健二, 寺田 康彦
    セッションID: P1-092
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    樹木の成長や生命維持には木部組織による水輸送が不可欠であり、森林の蒸発散は地球温暖化問題を考える上でも重要であることから、木部の樹液流速の測定や通水性に関する研究が盛んに行われている。水素原子核の発する信号を可視化するMRI(核磁気共鳴画像法)を用いれば、各ピクセル内に存在する水分子の平均流速を画像化できる。そこで、MRIによる流速可視化手法の一つである位相シフト法を用いて、ケヤキ(Zelkova serrata)とシラカンバ(Betula platyphylla)の苗の樹幹横断面における樹液流速分布を可視化した。まず、任意の流速でチューブに通水できる装置(フローファントム)を用いて流速画像を作成し、位相シフト法により測定された流速を検証した。次に、2017年5月から約1か月毎に、鉢植えのケヤキとシラカンバ各3個体について、1時間に1回の頻度で流速画像の作成を3日間ずつ行った。同時に光合成蒸散測定装置を用いて蒸散速度を測定した。フローファントムのMRIによる流速測定値は、実際の流速ときわめて精度よく一致した(r2=0.98)。次に、両樹種とも、5月には0.2 ~ 0.3 mm/s前後の流速で通水を行っていたが、8月には0.4 mm/sを超える領域がみられた。

  • 松田 敏朗, 上田 正文
    セッションID: P1-093
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    【はじめに】サクラ類には、枝にこぶ症状が表われることが知られている。こぶ症状が表われた枝は、こぶ症状部より先が枯死する。そこで、こぶ症状が表われた枝が枯死する原因を明らかにする目的で、ソメイヨシノのこぶ症状が表われた枝の水分生理状態を調べた。【材料と方法】京都府立大学構内に生育する、ソメイヨシノ6個体(樹高±SD:6.94±1.33m、DBH±SD:20.4±8.3cm)を用いた。こぶ症状が表われた枝のこぶ症状部より先に着生する葉(瘤先)と、こぶ症状が認められない健全枝に着生する葉(健全)について、日中の葉の水ポテンシャル(Ψwmid)を、プレッシャーチャンバーを用いて測定した。また、P-V曲線法により、葉の水分生理状態を表すパラメータを測定した。【結果と考察】日中の水ポテンシャルは、瘤先では健全よりも低い傾向があった。初発原形質分離時の水ポテンシャル(Ψwtlp)と飽水時の浸透ポテンシャル(Ψssat)は、瘤先が健全よりも低い傾向があった。以上の結果から、こぶ症状が表われた枝のこぶ症状部より先に着生する葉は、こぶ症状が認められない健全枝の葉よりも、水不足の傾向にあると考えられた。

  • 谷本 直緒子, 上田 正文
    セッションID: P1-094
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    一般的にヤドリギ類は宿主よりも日中の葉の水ポテンシャルが低く、そのことでヤドリギ類は宿主から水を取り込むことが可能となる。本研究は、日中にヤドリギ類が宿主よりも低い葉の水ポテンシャルを維持することを可能にする木部構造をもつという仮説のもと、ヤドリギ類と宿主の水分通道組織を調べた。材料として、ヤドリギとその宿主であるヤマザクラ、エノキ、クリ、ミズナラ、ズミ、およびマツグミとその宿主であるモミを用いた。2016年と2017年の7月~10月の良く晴れた日に、ヤドリギ類と宿主の日中の葉の水ポテンシャルを測定した。また、ヤドリギ類とその宿主の枝の木部横断面を光学顕微鏡により観察し、道管あるいは仮道管の内径を測定した。よく晴れた日に測定した日中の葉の水ポテンシャルは、測定したすべてのヤドリギ類で、宿主よりも低い傾向が認められた。また、宿主の道管あるいは仮道管の平均内径は、ヤドリギ類の道管の平均内径よりも小さい傾向が認められた。つまり、ヤドリギ類は宿主の道管あるいは仮道管より道管内径を小さくすることで、葉の水ポテンシャルをより低下させる可能性が示唆された。

  • 東 瑛里奈, 上田 正文
    セッションID: P1-095
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    桜の名所である奈良県吉野山において、ヤドリギの寄生により衰弱するヤマザクラが増加している。しかし、ヤドリギがヤマザクラをどのように衰弱させるかについては明確でない。そこで、ヤドリギがヤマザクラを衰弱させる仕組みを明らかにするため、ヤドリギとヤマザクラの水分生理に関するパラメーターを調査した。材料として吉野山に生育するヤドリギが寄生したヤマザクラを用いた。2016年と2017年の7~9月に、ヤドリギの葉およびヤマザクラのヤドリギが寄生した枝とヤドリギが寄生しない枝のそれぞれに着生する葉について、日中の葉の水ポテンシャルを測定した。また、葉の水分生理状態を表すパラメーターをP-V曲線法により測定した。日中の葉の水ポテンシャルは、ヤドリギではヤマザクラより低い値を示した。また、ヤマザクラのヤドリギが寄生した枝に着生する葉の日中の水ポテンシャルは、ヤドリギが寄生しない枝に着生する葉の日中の水ポテンシャルよりも低い傾向を示した。さらに、ヤマザクラのヤドリギが寄生した枝に着生する葉は、ヤドリギが寄生しない枝に着生する葉よりも、初発原形質分離時の水ポテンシャルおよび飽水時の浸透ポテンシャルが低い傾向にあった。

  • 中井 渉, 岡田 直紀
    セッションID: P1-096
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
    会議録・要旨集 フリー

    樹木の年輪内で酸素安定同位体比は周期的な変化を示すことが報告されている.これを年輪のない熱帯樹木の年輪検出に応用するために,年輪のある熱帯材を用いて,木材中における酸素安定同位体比の変化の年周期性を検証した.半島マレーシアのPeronema canescensと東北タイのTectona grandisを用いて酸素・炭素安定同位体比の成長輪内の変化を分析した.また,それぞれの調査地で降水を2週間ごとに採取し,降水中の酸素安定同位体比の季節変化を観測した.マレーシアの降水中の酸素安定同位体比には3月から10月にかけて約5‰の減少が見られた.P. canescensの木材中の炭素安定同位体比は周期的な変化を示し,成長輪付近の孔圏導管のあたりで上昇が見られた.一方,酸素安定同位体比については,成長輪内に大小の複数のピークが見られ,相対湿度などの気象要因の影響が示唆された.タイの降水中の酸素安定同位体比は雨期の始まりから終わりにかけて約8‰の減少がみられ,この季節変動がT. grandisの材中にも記録されていることが期待された.

  • 東 若菜, 中島 健志, 鎌倉 真依, 立石 麻紀子, 鶴田 健二, 吉村 謙一, 小杉 緑子
    セッションID: P1-097
    発行日: 2018/05/28
    公開日: 2018/05/28
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    ヒノキやスギなどの針葉樹の高木種では、高さにともなう根から葉への水輸送の困難さから気孔開度や炭素固定能の低下が引きおこされると考えられている。これに対し、樹体に貯留されている水が蒸散要求に対して迅速に供給されることで、生じうる水ストレスを緩和することが近年示唆されている。本研究では、滋賀県桐生水文試験地内の樹高6.5~8mのヒノキ3個体を用いて、葉および幹における樹体内貯水量と蒸散への寄与率を評価した。2017年10月の晴れた日に、針葉および幹の木部圧ポテンシャル、蒸散速度、幹の伸縮量、樹液流量の日変化を測定した。その後、立木吸水法により樹液流速から吸水量への換算式を得た。また、単木および針葉の水分特性曲線から木部圧ポテンシャルにともなう各々の貯留水変化量を、幹の収縮量から幹の貯留水変化量を算出した。樹体内貯留水は午前の蒸散要求に応じて消費され、蒸散低下後から明け方にかけて再充填されていた。また、単木の日積算蒸散量に対する貯留水量の寄与率は約20%であった。この貯留水量の約50~80%は葉における貯留水であったことから、葉の貯水性は日変化スケールの単木の水輸送体系に重要であると考えられる。

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