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町田 怜子, 木俣 知大, 矢島 万里, 入江 彰昭
セッションID: S10-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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「緑の少年団」は、昭和44年(1969)に提唱され、設立当初は、わが国の緑化運動の展開や拡大造林推進などの政策的背景もあり約3,300団が結成された。「緑の少年団」は、学校単位で結成される「学校団」と、地域単位で保護者や地域住民等により構成される「地域団」に分類される。今日は、環境教育推進の動向から学校や地域コミュニティの中で、森林環境教育活動の中核を担う役割が期待される。しかし、林業の衰退や少子化や子どもの繁忙化(塾・習い事等)に加えて、教育課程改革や教員の働き方改革に伴い団員減少や団数の大幅な減少となっている。そこで、本報告では、都道府県緑の少年団連盟にアンケート調査を行い、「緑の少年団」の実態や課題、先駆的事例を調査した。その結果、統廃合に伴う退団傾向は顕著であり、市町村が連携した「緑の少年団」の継続支援が求められていた。また、学校教育での課外活動の実施は今後さらに困難になることが想定され、「学校団」の持続的な運営のためには、「学校団」と「地域団」を一体化し、森林・林業分野の教科横断性を活かした「緑の少年団」の活動内容と教育課程(教科、特別活動)との連携関係の明示が挙げられた。
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岡田 美香, 井上 真理子
セッションID: S10-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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IUFRO(国際森林研究機関連合)は、タスクフォースに森林教育を掲げている。Working Group6.09.(森林教育)は、IFSA(国際森林学生協会)と連携し、森林教育の国際的展望を示すことを目的にGOFE(Global Outlook on Forest Education)プロジェクトを進めている。本報では、9か国(フィンランド、中国など)の調査研究をまとめたGOFE中間報告書(2017年)をもとに、海外の現状を報告する。中間報告書は、高等教育機関の卒業生を対象として職業に必要なコンピテンシー(成果を上げる行動特性)を調査し、高等教育のカリキュラムを分析している。総計231人の卒業生へのインタビューから、職場で遭遇した出来事をもとに鍵となるコンピテンシーを抽出し、コンピテンシーの取得という点からカリキュラムを評価している。9か国の調査結果では、卒業生は専門教育が十分になされていると認識しており、むしろ、リーダーシップやマネージメント、職場での対人関係、一般の人とのコミュニケーションなどの一般的なコンピテンシーの重要性が指摘されていた。
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吉元 美穂
セッションID: S10-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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近年のアウトドア市場の傾向では、ライトアウトドア分野、アウトドアウェアなどを取り入れたライフスタイルの増加がみられる。消費者層が求めているのは自然体験活動の入口の活動と考えられる。我々は2002年に自然体験活動を行う市民団体として発足し、2007年に登別市の社会教育施設の指定管理者となった。活動のグレードで表現すると「自然ガイドステージⅡ」にイメージが近く、まさに自然の入口の体験を提供しているといえる。
しかしながら入口の活動では、レジャー施設との差別化が図りにくく、ユーザー側も区別がつきづらい。継続した調査から利用者満足には自然体験活動の本質に関わる要因より、付帯的な要因である「快適性・前提条件」が多く寄与していることがわかった。サードプレイス的な多様な人が集うゆるやかな空間づくりを進めることが必要である。さらに教育機関として事業効果を高めるためには、その空間を活かしつつ、入口から発展する機会を創出し、一方ではプロ指導者の養成や関係機関との連携推進などを取り入れグレードの多層化を図ることを目指している。その際、多様さを包摂する運営方法と品質管理の精査が課題としてあげられる。
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近藤 聡
セッションID: S10-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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生きづらさを抱えた子どもたちが、森林教育活動を通して社会的自立に必要なスキルを身につけることを本実践では目指している。参加者は、環境の変化に順応することが苦手で、学校や家庭で頻繁に情緒不安定や適応困難になる小学生で、事業参加2年目となる。森林においては、激高が減り、短時間でクールダウンができたり、感情や自己をコントロールして体験活動に取組んだりする姿が多くみられる。人と関わり合うことが苦手な子どもたちが助け合い、譲り合うなどの協働姿勢が多くみられ、折り合いをつけながら一緒に楽しむ姿が1年目以上に顕著にみられた。こうした効果は、壮大な自然によって作り出された森林環境が、人間にとっての自然に還る場であることや、すべての人間性を無条件に受け入れる多様性をもっていることに起因すると考える。また、体験を重ねたことに加えて、定期的な保護者面談で得られる生育歴、特性、生活実態とその対応などの情報を踏まえた指導者の関わりや支援の質の向上、さらには保護者自身の子どもへの対応の変化もあると考える。生きづらさを抱えた子どもたちが生まれもった力を発揮することに効果がある森林教育活動の事例を紹介する。
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小森 伸一
セッションID: S10-5
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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自然体験活動(または野外活動)及びその学習活動となる野外教育・環境教育等の領域でも、質的アプローチを用いた研究が見られるようになってきた。質的研究における分析手法には、大きくは「カテゴリー分析」(セマティック分析)と「シークエンス分析」の2つに大別される。今回主題とする「ディスコース分析」は、「シークエンス分析」に類する手法である。
その「ディスコース分析」は、さらに「談話分析」「フーコー派ディスコース」「批判的ディスコース」「ディスコース心理学」の4つの流れの中で実施されてきた。しかし近年では、それらに加えて「主観的経験を研究するディスコース分析」が提唱されている。それは、その人にとって人生の一部で特別な意味をもち、振り返ることがあるような経験について、またそれが多くの人たちに共通する同じ種類の経験であるなら、語られ、記述される際に何等かのパターンがあると考えられるのであり、この経験の語りや記述パターンを検討していくアプローチである。
当発表では、このディスコース分析の手法を用いた質的研究について紹介する。
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大崎 久司
セッションID: S10-6
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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北海道立総合研究機構では,北海道産カンバ類による内装材(フローリング)や家具などへの用途適性に関する研究を行ってきた。その中で、ダケカンバの密度や曲げ強度などの物性がシュガーメープルに近いことが明らかとなったことから,シュガーメープルが主に使われる野球用バットを製作し,立木から製品化までの工程における歩留まり等の調査を行ったので報告する。
北海道大学雨龍研究林(幌加内町),三井物産フォレスト(株)社有林(厚真町,むかわ町)のダケカンバ19個体(胸高直径:24~56㎝,平均37㎝)からの50本の原木を道内の製材工場にて断面7.5㎝角×長さ105㎝に製材し(584本),本州のバット加工工場にて真空乾燥装置で人工乾燥を行った後,バットに加工した。加工したバットを目視により仕分けた結果,「プロ用」の品質の材が19%,「アマチュア用」が40%であった。北海道日本ハムファイターズの田中賢介選手(当時)による試打の結果,「メープルとアッシュの中間の打球感」との評価を受け,試合用バット10本(材密度:0.71~0.73g/㎝3)を提供し,プロ野球の公式戦で使用された。なお,本研究は,北海道からの受託研究にて実施した。
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田邊 純, 桐島 俊
セッションID: S10-7
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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我が国の普通教育において,木材の性質や加工,利用および木材と環境との関わりを系統的に学習するのは,中学校技術・家庭科 技術分野(以下,技術科とする)のみである。これまで,著者らは中学生や技術科教員養成学科所属の大学生等を対象に,木材加工に関する授業,特に樹種による材質の多様性に関する実践・教材の開発を進めてきた。本研究では,異なる樹種を実際に加工することを通じて,生徒が材質や質感等の違いをどのように感じるのかを明らかにするために,4樹種を側板とした枡を題材とする授業実践を行った。題材に用いた樹種は,スギ,ヒノキ,ホオノキ,ブナとし,対象は千葉県内の国立中学校2学年とした。題材の製作すなわち4樹種の加工を通じて,生徒はスギが柔らかくブナが硬いなど物性値をある程度正確に捉えている傾向が見られた。また,SD法により抽出された因子および自由記述の対応分析により抽出された因子は,硬さや色の物性の文献値との間に高い相関関係が認められた。このことは,実際の加工が,生徒に樹種間の材質の違いを印象付けるのに有効であることを示す。
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東原 貴志, 佐藤 正直, 井上 真理子, 村田 功二, 児嶋 美穂, 井上 慎也, 村上 弘晃
セッションID: S10-8
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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本研究では、被写体認識基盤サービスを利用して、学生が製作した木製品の個品認証を試みた。2020年6月から7月に大学の学部授業(木材手工具加工法)において、学生が木組みのおもちゃであるクミノを4個製作し、レーザー加工機で製作者氏名等を刻印した。それらを正面から撮影し、被写体認識基盤サービスを利用し画像認識システムのサーバにサムネイル画像を登録した。また、Googleサイトを利用してクミノの製作過程を記録したホームページを作成した。これらの登録後、タブレット端末を用いて撮影したクミノの写真データをサービス専用のホームページを介して画像認識システムのサーバに送信した。
授業実践の結果、被写体の撮影条件が良好な場合は被写体検索の結果およそ7割がサムネイル画像と一致し、個品認証の技術が木製品に応用できる可能性を見いだせた。また、製作過程を記録したホームぺージと紐づけることにより木製品とその製作者が結び付き、付加価値の向上に寄与することを理解していた。一方で、画像認識の仕組みの理解やサムネイル画像の撮影条件などについての学生向けの使用マニュアルの作成を今後の検討課題とした。
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五味 高志, 堀田 紀文
セッションID: S11-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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人工林を中心として50年生以上の林分が半数以上を占めるなど森林資源が充実している状況である。かつて、ハゲ山であった山地からの森林の回復過程では森林の有無を中心とした水源涵養機能の評価から、森林の管理や森林状態を考える必要がある「森林飽和」時代の水源涵養機能の評価において、林相状態や管理を考慮に入れた水源涵養機能の評価が必要である。一方で、森林の水源涵養機能を中心とした公益的機能は森林土壌に強く依存するものとしての認識もあり、森林状態や成長による林相の変化と森林の水源涵養機能との関係は十分に議論されていない。ここでは、これまでの観測研究等を事例を網羅的に把握することで、水源涵養機能の評価の現状と課題を考えていく。
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小田 智基, Mark B Green, Lawrence Band, Todd Scanlon, 清水 貴範, Stephen Sebes ...
セッションID: S11-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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森林の水源涵養機能を明らかにするために、多くの森林流域で対照流域法を用いた森林伐採の影響評価が行われてきた。これらの研究により、森林伐採直後の流量応答については多くの知見が得られているが、森林の成長過程における長期的な流量変動については、解析事例が限られており、十分な理解には至っていない。本研究では、日米の30流域での長期流量観測データを収集し、異なる気候、樹種での森林成長過程における流量変動を解析することで、森林成長過程での水源涵養機能を評価することを試みた。その結果、流量増加は積雪地の針葉樹林で大きいことが分かったが、森林成長に伴って流量が伐採前の状態に回復するまでの時間に対する気候や樹種の影響は見られなかった。また流量回復パターンに着目すると、全流域で共通して植生回復初期の数年間と流量が伐採前の状態に戻る直前の数年間に大きな流量回復が見られた。さらにこの挙動には樹種が影響しており、広葉樹林では流量回復期間の前半に流量が大きく回復し、針葉樹林では後半に大きく回復する挙動が見られた。日米の長期流域試験データを用いて、樹種や気候が森林の成長過程での流量変化に与える影響が明らかになった。
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清水 貴範
セッションID: S11-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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気候環境や植生の成長状態などが異なる森林流域で、降雨-流出の特性を把握することを目的として、森林総合研究所では北海道から九州まで全国各地に観測流域を設定し、観測を実施してきた。特に長期理水試験地として観測を継続している5つの試験地(定山渓:北海道、釜淵:山形県、宝川:群馬県、竜ノ口山:岡山県、去川:宮崎県)の日降水量・日流量は、研究報告およびWebサイト”森林理水試験地データベース”を通じて公表を行い、研究目的での利用を推進している。本発表では、これら5つの試験地に加えて、関東地方(筑波・茨城県)および九州地方北部(鹿北・熊本県)の2つの流域試験地を対象に、試験地の気候・立地環境とともに、皆伐・部分伐採・山火事などによって変動してきた植生履歴について、整理して紹介する。また、各試験地における流出量の変動を時系列で追跡した結果を植生履歴と対照して示すとともに、損失量(降水量と流出量の差)について試験地間で比較を行った結果も合わせて報告する。
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小松 光
セッションID: S11-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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近年、森林管理と蒸発散の関係は世界の多くの国で注目されている(中国、米国、イタリア、スペインなど)。この世界的注目より遥か以前から、日本では森林管理と蒸発散の関係が調査・研究されてきた。筆者は、過去の調査・研究結果を総合して森林経理学の知見に接続することで、スギ林・ヒノキ林の蒸発散モデルを作った。このモデルは、管理シナリオ(地域、樹種、間伐回数と強度)と気象庁データだけから蒸発散量を計算するもので、様々な管理による水資源量の変化を算定できる。本発表ではこのモデルを紹介したのち、(1)モデルが政策決定を支援できそうか、(2)無理そうなら今後何が必要か、の2点を参加者と議論したい。
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邱 湞瑋
セッションID: S11-5
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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森林からの蒸発散量を定量化することは、降雨の流出過程を理解し、持続可能な水資源管理を行う上で重要である。しかし、林分の状態によって水文プロセスと水資源涵養機能が変化するものの、林分の実測データ(樹種や林齢,林分密度など)を入力パラメータとして広域の蒸発散量を推定する手法は依然として確立されていない。従来、森林からの蒸発散量を計測する手法としてはフラックス観測や流域水収支法が用いられてきたが、これらのプロットや小流域スケールでのみ得られており、広域の蒸発散量推定に活用することは困難である。加えて、森林の状態を記録した森林簿や森林計画図は各都道府県と国によって個別に整備されており、面的に連続した林分データの把握する上での障壁となっている。即ち、非常時も含めた持続的な地下水利用体制を整備するためには、林分の状態を入力パラメータとして、詳細かつ広域の蒸発散量を推定する手法の確立が必要である。そこで、本研究では、実際の林分データと現地観測データに基づいて広域の蒸発散量及び可能地下水涵養量を評価する手法を開発することを目的とした。
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堀田 紀文
セッションID: S11-6
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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森林の水源涵養機能に関しては内外に多くの観測報告があり,水文プロセスのモデル化に立脚した評価手法も各種開発されている.さまざまな施業に対応したシナリオ検討も技術的には可能な段階にきており,水源涵養機能の科学的な評価に基づいた森林管理も現実的な方策だと言えるが,日本ではそうなっていない.その要因として,各水文プロセスのモデル化が十分ではない(例えば,遮断や深部浸透,滞留時間),「場」の条件の複雑さ(例えば,地形や土壌に加え,気象条件の差異による相対的な森林の影響の大小)などが挙げられる.水源涵養機能において支配的なプロセス自体が,地域や対象森林のスケールによって変わることを考慮すれば,森林の水源涵養機能を一般化して論じることは(少なくとも定量的な評価が必要な場合には)困難であり,対象とする森林ごとに取り扱う必要がある.
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久保山 裕史
セッションID: T1-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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統計データと調査結果から、2019年の針葉樹材生産量2,646万m3、そのうち燃料生産量は562万m3と推計された。他方、林地残材発生量は、タンコロや末木等の幹部が294万m3、枝葉676万m3と推計された。一方、稼働している未利用木質発電所の燃料需要は761万t-50%w.b.と推計でき、燃材供給量約693万m3によって概ねまかなわれていると推察された。ただし、一般木質発電所も森林系バイオマスで燃料の5%をまかなっていると仮定すると、146万m3が追加的に必要となることから、燃材の集荷競争は激しくなっていると推察される。発電所の新規稼働が今後も続くことから、現状ではほとんど利用されていない林地残材の低コスト供給や、A~C材需要を増やすことによる伐採量の拡大、未利用広葉樹材の活用、ヤナギ等の超短伐期林業の低コスト化が必須である。
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佐藤 政宗, 小川 聡志
セッションID: T1-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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木質バイオマス燃料において、ガス化発電用燃料については一昨年度、高い燃料製造コストが課題になっている点を実態とともに報告した。そこで、本報告では蒸気タービン発電用と熱利用ボイラ用の燃料供給の実態について報告する。
蒸気タービン発電用では燃料輸送距離が数十~数百kmに及ぶため、チップ製造場所と運搬方法が重要である。FIT施行当初は山土場でのチップ化が有効であるとされていたものの、山土場での燃料加工事例は少ない。そうした中、岐阜県の燃料供給会社では地域の未利用資源を活用する取り組みを行っており、効率的かつ低コストな燃料供給体制を構築している事例について紹介する。
熱利用燃料については乾燥が肝要であるが、試算の結果、チップ乾燥によって流通価格自体は上昇するが、熱量当たりの単価は同等か下がる傾向が示された。また、チップ輸送に関しての試算では車両サイズと輸送距離によって最適な輸送方法が異なることが示唆された。
また、COVID-19や自然災害、木材輸出により大きく影響を受けた2020年の九州の木質バイオマス燃料流通についても言及する。
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横田 康裕, 天野 智将, 垂水 亜紀, 北原 文章, 早舩 真智
セッションID: T1-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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近年、木質バイオマスの小規模分散型エネルギー利用へ注目が集まり、エネルギー利用効率の高さからガス化CHP事業への期待が高まっている。しかし、小型ガス化CHP装置は高品質燃料が必要であり、特に低水分率の確保は重要な課題となっている。そこで本研究では、乾燥燃料供給の現状と課題を明らかにすることを目的とし、小型ガス化CHP装置向けに燃料チップを供給・供給検討しているチップ生産者4事例(東北、四国、九州)を調査した。いずれの事例でも乾燥への取組は限定的で、土場在庫中の丸太天然乾燥が主であり、乾燥チップは供給されていなかった。丸太天然乾燥は、土場確保や在庫コスト等から限界があるとされた。チップ人工乾燥は、乾燥コストの価格への反映が前提となるが、需要者との合意に至ることが難しいとされ、需要量確保よりも重要な課題とされていた。また、一部の取引では生重量ベースの価格設定となっているが、これを絶乾重量や熱量ベースとすることが求められていた。ガス化装置の種類によって要求水分率水準が異なること、チップ乾燥後に水分率が戻る地域もあることから、チップの装置への投入前段階での仕上げ乾燥が重要と示唆された。
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相川 高信, 古俣 寛隆
セッションID: T1-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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バイオマス起源のCO2は、植物に再吸収されるため、差し引きゼロ(炭素中立/カーボンニュートラル)とされて、バイオマスエネルギーの利用を気候変動対策として進める根拠となってきた。しかし近年、この考え方は単純すぎるという批判が強まっている。
事実として、木材中の炭素をカウントする場合、化石燃料に比べてバイオマス燃料の方が単位エネルギー量あたりのCO2排出量が多く、大気中のCO2量を一時的に増加させる。特に、樹木・森林の場合は、成長・再生に時間を要するため、放出されたCO2の再吸収にかかる時間が長く、CO2削減効果が発現するのに時間がかかると批判されているのである。
一方で、このような批判的な研究の多くは、一定区画の森林を分析単位とし、皆伐されて樹木全てが燃料利用されるという想定を置くなど、現実に即した設定になっていないという反論もある。そこで本報告では、国際的な論争の論点整理を行うとともに、実際に日本の森林をケースとして、前提を変化させた炭素動態の計算を行う。最後に、これらの結果を踏まえて、日本の林業・バイオマス政策への示唆を示したい。
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小島 健一郎, 岩岡 正博, 三木 茂
セッションID: T1-5
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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木質バイオマスのエネルギー利用が進む中、作業場所の制約を受けにくい移動式チッパの需要が高まっている。移動式チッパは破砕・切削の方式や移動の方法、生産容量、効率等が様々であるため、チッパを必要とする場合に、客観的かつ定量的な評価が欠かせない。そこで、本研究では移動式チッパに対して、性能に基づく評価を行った。このような研究の成果が蓄積されることで、用途に適したチッパが採用されるとともに、チップ生産の採算性やチップの品質の向上が図られる。
今回の研究で試験の対象としたチッパは、ドイツのHeizomat製、Heizohack HM6-300VMならびにHM8-400VMの2機種である。それぞれ、刃物は切削タイプのドラム方式、ディーゼルエンジン駆動である。
性能評価に用いた材の樹種はスギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツで、材長は概ね2mと4mの2種類である。評価項目は時間当たりの生産量、燃費ならびにチップの品質とした。チップの品質に関しては、水分、かさ密度、粒度分布を試験した。
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鈴木 保志, 吉村 哲彦, 森田 大輔, 守口 海, 早田 佳史, 浦部 光治, 今安 清光
セッションID: T1-6
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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旧薪炭林などの放置広葉樹林に適切な施業を行うためには、伐出等の施業経費を、収穫材からの収入で賄えることが重要である。択伐や小面積皆伐など小規模な施業には投資が少ない小型機械による伐出システムに優位性がある (鈴木・吉村 2019)。得られる材は燃料材としても有用であり、すでに地域における木質バイオマス事業において材供給の一端を担っている事例も見られる。高知大学演習林のアカガシが優先する広葉樹二次林プロット0.9haにおける小規模模機械(0.1m3クラスのグラップルと林内作業車)による試験作業の結果、路網間隔30m程度の作業道路網と組み合わせることで、2m3/組日 (2人組作業; 素材材積は9株から7.9m3)の生産性が得られた。すべて発電用の燃料材とすると自家労働ならば赤字にならない程度だが、単価の高い用材の可能性がある材(末口20cm以上、長さ2m以上)および自家生産すれば利益率の高い薪の適寸材(末口10-15cm)はそれぞれ素材材積の2割程度を占めていた。これらの販路の確保等により施業の収支を担保することが課題である。発電等の燃料材には、残る6割を充てるのが適切と考えられる。
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酒井 明香, 石川 佳生, 津田 高明
セッションID: T1-7
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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木質バイオマス発電所向けの燃料材の集荷量拡大や運搬の効率化など、未利用木材のサプライチェーンの改善を目的とし、中間土場に着目して流通システムの実態と課題を把握した。
北海道を事例地とし、木材関連事業体を対象とした調査の結果、2020年3月現在、77か所の中間土場が確認された。そのうち発電所向けの未利用木材集荷が行われているのは46か所(60%)であった。中間土場の管理主体は発電所直営が4割、素材生産事業体等の管理が6割となっていた。これら中間土場から発電所までの片道距離は30km~290km(平均160km)で、2019年度に中間土場を経由して発電所に搬入された未利用木材は少なくとも12万m3に達したことが明らかになった。トドマツの未利用木材を中間土場で乾燥させチップ化し、50km圏内の発電所に納入するケースを想定しコスト試算をしたところ、チップ化による減容効果を考慮しても運搬費の掛増しが大きかった。中間土場は広域集荷の拠点となり集荷量の増大に寄与していることが明らかになったが、コスト面が大きな課題であった。
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有賀 一広, 関口 大晴
セッションID: T1-8
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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山岳地域となる森林における路網整備は、山地崩壊リスクの高い場所に建設されることになり、また、不適切な路網整備は山地崩壊を引き起こす誘因となる。また、近年は気候変動による豪雨災害も増加しており、山地崩壊リスクは増大している。平成27年9月関東・東北豪雨による林道被害について栃木県庁へ聞き取りしたところ、損壊した林道の主な原因として、山地から流出した土石や林地残材が排水施設を塞ぎ、そのまま土石や林地残材が林道へ流入したことによる路体の損壊が挙げられた。そこで、林道排水施設設置基準をもとに安全率を計算し、排水施設の大きさや種類が林道被害へ与える影響を検討した(松岡ら関東森林研究2020)。本研究では、栃木県内の林道に多大な被害をもたらした平成27年9月関東・東北豪雨と令和元年10月台風第19号を対象として、雨量や集水域の施業履歴の違いから、雨量や林内環境を踏まえた林道の排水施設の安全性を検討し、今後の気候変動による雨量の変化や、持続的な木材生産や森林整備等における林内環境の変化を見据えた適切な森林内路網整備について考究する。
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高山 範理, 佐野 由輝, 伊藤 弘, 竹内 啓恵, 天野 亮
セッションID: T2-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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森林浴の効果については、以前より森林環境で行われるプログラムによって異なるといわれるが、あまり解明が進んでいない。本研究では、秋冬季の都市近郊林を舞台として、セルフ・カウンセリング(SC)と自然観察会(NO)への参加によって、参加者の心身に生じる影響の異同について調べた。大学院生等(10名(SC)、31名(NO))に対し、事前に共通のストレスを与え、唾液中アミラーゼ活性とPOMS、ROSをそれぞれ生理・心理指標として、運動量を同等に調整した上で両プログラムを体験してもらい、体験前後の心身の状態を調べた。調査・分析の結果、生理指標の唾液中アミラーゼ活性はNOの体験後に有意に上昇したが、SCに体験前後には有意な変化がみられなかった。一方、心理指標の気分の状態(POMS)主観的回復感(ROS)を調べたところ、両プログラムともに体験後にポジティブな変化がみられたが、特にSCの体験後には「活気」が有意に上昇するといったNO体験後にはみられない効果が得られた。以上の結果は、森林環境に滞在することにより一定程度の共通した効果は得られるが、プログラムが異なることにより、心身にもたらす回復効果が異なる可能性を示したものと思われる。
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竹内 啓恵, 藤原 章雄, 林 潔, 長井 聡里, 川畑 真理子, 上原 巌
セッションID: T2-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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近年、都市部に住む人々の健康維持・増進,さらにテレワークやワーケーションなどの目的で、森林空間を利活用する動きが期待されている。しかし、人々の心の健康の目的で森林空間や自然の要素を用いたカウンセリングの臨床研究はいまだに数少ない。
演者はこれまで都市部に居住する人を対象に、都市部の森林公園や里山を利用したカウンセリングの臨床研究を行ってきたが、その効果の一つに「転地効果」があることが示された。そこで、本研究では、居住空間が森林内に位置する人々が、その居住空間と同様に森林空間を利用したカウンセリングを行った場合の効果を検証した。場所と対象は山梨県山中湖村の地域住民であり、地域内の大学演習林を利用した森林散策カウンセリングを行い、考察した。その結果、転地効果がなくても、繰り返し森林空間でカウンセリングを行うことで、被験者らは爽快感とともに自然体験を通じた自己の振り返りを行い、自己肯定感が向上したことが示された。また、「地域の森林や自然のある環境へ出かけるようになった」「気持ちが沈んだ時、心地良い場所を思い出そうとした時、大学演習林を思い出した」などの報告から、日常生活への影響も示された。
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尾崎 勝彦, 狩谷 明美, 平野 文男
セッションID: T2-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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背景・目的;前報では、青年を対象にした調査で注意回復とマインドフルネスが関連する可能性を示した。本報では、中高年を対象に同様の調査を行い青年と比較した。
方法;青年女性72名(M=19.6歳、SD=1.8歳)、中高年女性18名(M=53.4歳、SD=10.0歳)を対象とし、都市、寺院庭園、山林、平地林、渓流の風景を評価させた。評価測度は日本語版注意回復尺度、および前川・越川(2015)の6 因子マインドフルネス尺度のうちの4因子、自他不二の姿勢、描写、客観的な観察、今ここに存在すること、の設問文に「この場所では」という接頭句をつけたものであった。分析は2要因混合分散分析で、対象者内要因は風景の5水準、対象者間要因は年齢の2水準であった。
結果と考察;風景の主効果は全てにおいて有意(p<.001)、風景×年齢の交互作用は全て非有意であった。年齢の主効果は、注意回復において非有意、マインドフルネスでは有意(p=.008~.044)で、中高年>青年であった。その後の検定で、都市は常に最低位の、寺院庭園と渓流は最高位のグループに所属した。従って中高年においても注意回復がマインドフルネスに関連する可能性が示された
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上原 巌
セッションID: T2-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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本研究では、東京近郊の地域病院において、約30年放置されてきた病院所有の広葉樹二次林を、保健休養のために整備した一事例を報告する。
調査地は、東京近郊に位置する地域病院とその所有林(面積約6ha)である。森林は、病院の南側に隣接しており、高木層はコナラ、クヌギ、クリ、ケヤキ、エノキ、ホオノキ、亜高木層はイヌシデ、ヤマボウシ、アラカシなど、低木層は、エゴノキ、ヤマグワ、ヒサカキなどで、林床にはシノチクが繁茂していた。立木密度は4000~6000本/ha前後であり、林内の相対照度は5~15%程度であった。
これらの状況をふまえ、除伐および間伐作業を行った(作業は、(株)東京チェーンソーズが実施した)。除・間伐の対象は、ヒサカキやアオキなど、林床を暗くさせる常緑樹を中心とし、作業後、立木密度は1500本となり、林内相対照度は、15~30%前後にまで向上した。林内の見通しも大きく改善され、最長で50m以上の直線距離を見通すことができるようになった。しかしながら、林床の樹種数は40種類前後をキープし、除伐した材は休養ベンチを作って林内に設置し、間伐材は薪炭材として利用したほか、散策路の設置にも活用した。
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藤原 章雄, 齋藤 暖生, 高山 範理, 森田 えみ, 竹内 啓恵
セッションID: T2-5
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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森林は地域の健康と文化や暮らしの豊かさに貢献する可能性を持つと考えられるが,物理的,制度的,心理的,技術的など様々な面において地域住民と森林の間にはギャップやミスマッチがあり,地域の森林が持つ可能性をうまく引き出せていないという問題がある。東京大学富士癒しの森研究所は,山中湖村においてその課題解決のために実際に地域に深く関わりながら調査研究するアクションリサーチに取り組んでいる。地域住民の協力を得ながら行政と連携して行っている地域の森を活かした住民の健康のための地域づくり「森活で健康」プロジェクトはその一部であり,その一環として実行した「癒しの森の朝もや音楽会」についてその目的と経緯や実行において有効に機能したネットワークなどについて報告する。地域の森林活用に関心を持ち研究所とともに実践に取り組む住民グループ「癒しの森の会」が手作りで整備した0.2ha程度の森林空間を会場とした弦楽トリオによる早朝1時間弱の演奏に約200人の観客が集まった。音楽会開催のノウハウがなく,さらに森林内で早朝という特殊な条件での音楽会だったが,そのしかけを楽しんで頂けたことが窺えるアンケート結果が得られた。
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Christian Kolonel, Satoshi Yoshino, Takayoshi Sato
セッションID: T3-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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The use of biomass briquettes is broadly expanding in many countries across the world, widely used for steam; cooking fuel and co-firing in gasifiers; direct power and combined heat and power generation. The global biomass briquette market is expected to reach 612.6 million US$ by 2026 from 372.1 million US$ in 2020 at7.3% CAGR, ascribed to: emissions reduction and health concerns in coal-rich countries; woodfuel substitution to combat forest decline; CDM projects for fossil fuels-dependent countries; environmental and biodiversity protection; energy source diversification and climate change mitigation. Tied to research projects, briquettes production in developing countries is less likely to take off due to early donor withdrawal and short project span. Nevertheless, advanced and efficient technologies, coupled with large scale briquetting plants are only available in developed countries.
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HOANG PHAN BICH NGOC, Fujiwara Takahiro, Iwanaga Seiji, Sato Noriko
セッションID: T3-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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The Payment for Forest Environmental Services (PFES) in Vietnam employs the K coefficient, which consists of forest condition (K1), forest function (K2), forest origination (K3), and the level of difficulty of protection (K4), to calculate the payments. This study aims to clarify (1) the payment distribution and (2) challenges of K-coefficient application under PFES for ecosystem providers. We collected data through key informant interviews and Focus Group Discussions in Thua Thien Hue Province. The findings showed that the province fully applied K-coefficient. Also, forestland allocation determined Forest function (K2) and forest origination (K3). Consequently, forest owners in the form of organizations were likely to have higher distribution. Forest owners' forest conservation efforts could improve K1; however, K1 assessment for the payment was costly and time-consuming. Besides, it was also a challenge that most forest owners did not understand the application of all four elements.
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Takahiro Fujiwara, Nariaki Onda
セッションID: T3-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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Much transdisciplinary research has been carried out in recent years. To explore the lessons for promoting stakeholders' collaborations in the transdisciplinary research, we discussed a case of industrial tree plantation in Indonesia that continues fierce conflicts among stakeholders due to its significant environmental, economic, and social impacts. The first lesson is that the degree of interest and priority for problems differs among stakeholders. Therefore, an understanding of these differences is the first step toward collaborations. The second lesson is on the importance of considering history. It is necessary to build a consensus among stakeholders as a time point to go back to discuss the problem. The third lesson is that a procedure for data presentation agreeable among stakeholders as independent, neutral, and fair is essential for their collaborations. Therefore, data presentation methods agreeable by all stakeholders is essential to promote their collaborations.
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Masahiko Ota
セッションID: T3-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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There is growing recognition that elite capture often takes place under decentralized forest governance settings in tropical developing countries. This presentation attempts to present a synthesis of previous studies about elite capture in tropical forest governance. Using Scopus, academic articles including “forest” and “elite” were searched. After excluding irrelevant articles based on certain criteria, synthesizing work was conducted. The presentation will particularly focus on the contexts in which studies use the term of “elite”, i.e., kinds of actors, scales, etc., and characteristics of the information that can be derived, i.e., qualitative/quantitative, empirical/theoretical, etc. Several concrete cases of elite capture will also be presented focusing on Asia.
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明石 信廣, 雲野 明, 宇野 裕之
セッションID: T4-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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北海道の森林の下層はササが優占することが多く、実生の定着を阻害する一方、シカの冬季の重要な餌となることが知られている。森林におけるシカの影響を示す指標として食痕のある稚樹の割合が有効だが、ササが優占することで稚樹が物理的に保護され、シカに食べられにくくなることが考えられる。そこで、北海道内19箇所の天然林において、高さ20cm以上、胸高直径1cm未満の広葉樹稚樹について、過去1年程度に発生したと思われる食痕の有無を調査し、樹高と食べられやすさの関係がササの被度によって変わるという仮説を検証した。43種845本の稚樹が出現し、210本に食痕があった。18箇所にミヤコザサ、スズタケまたはクマイザサが出現し、平均被度は3~74%、高さは44~117cmであった。食痕の有無を目的変数、調査地をランダム効果とする一般化線形混合モデルの説明変数として、ササの被度と樹高の積が選択され、ササの被度が高いほど、樹高が高くなれば採食されやすくなること、すなわち小さい稚樹が食べられにくいことが示された。この影響は高さ50cm未満の稚樹で顕著であり、シカの影響を示す指標としては50cm以上の稚樹の食痕率が適していると考えられた。
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大谷 達也, 米田 令仁, 野宮 治人
セッションID: T4-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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再造林地における苗木へのシカ食害が深刻であるが、各種の対策の前にどの程度のシカが皆伐地を利用しているか知ることが重要である。そこでシカ出現頻度の簡易推定法を検討した。四国内ののべ29ヶ所の皆伐地において、自動カメラによるシカ出現の記録、および皆伐地外周部における痕跡調査をおこなった。シカの痕跡としてフン、足跡、シカ道、樹皮剥ぎ、および下草に残る食痕を記録したものの、食痕のある植物種数のみでシカの出現頻度をもっともよく再現できることがわかった。すなわち、皆伐地外周部の3ヶ所に設定した長さ50m幅2mの調査区を長さ5mずつに区切り、区画ごとに食痕がなければ0点、1種あれば1点、2から4種で2点、5種以上で3点を与え、全区画の平均値によってシカの出現頻度を推定できた。さらに、普及に向けて簡易化を検討したところ、4段階の点数付けを3段階に(なし、1種、2種以上)、合計150mの調査区を90mにしてもおおよそもとの精度を保てることがわかった。この方法であれば、皆伐地外周を歩いて見つけた食痕がすべて同じ種類かちがう種類が混じっているかを判定するだけなので、普及しやすい方法だと考えられる。
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吉江 凜平
セッションID: T5-1
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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細根は樹木の養分吸収に重要な器官であり、森林の炭素循環においても大きな役割を果たしている。近年、細根動態を観察する方法として提案されたスキャナ法は、ミニライゾトロン法よりも広い撮影面積で細根を観察できる利点があり、主要造林樹種であるヒノキの細根動態の解明に、これらの手法は用いられてきた。しかし樹齢100年を超えるヒノキの細根動態についての知見は少なく、人工林の高齢化が問題になっている現在、その集積が必要である。これまで酸性度や無機態窒素などの土壌環境が異なる「愛知県の119年生幸田ヒノキ林」と「静岡県の110年生三ケ日ヒノキ林」において、幸田の細根バイオマスは低く、細い根系であることが明らかにされてきた。本研究はスキャナ法を用いて土壌環境の異なる高齢ヒノキ林の細根動態を明らかにすること目的とした。その結果、現存量にあたる画像に成長した細根の投影総面積は三ヶ日でより大きくなった。細根成長量は幸田では4月と9月に、三ケ日では7月と10月にピークを迎えた。細根消失量は幸田で9月に、三ケ日では12月にピークとなった。本結果から高齢ヒノキ林の細根生産は、春から初夏、秋に二つのピークを持つことが示唆された。
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桑辺 七穂, 趙 星一, 大橋 瑞江
セッションID: T5-2
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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森林における物質循環への寄与の大きい樹木細根の季節動態を明らかにする事は重要な課題である。先行研究では、細根は温度や水分条件などの複数の環境要因から影響を受け、さらに樹種特性を反映する事が知られている。しかし、細根の分布や動態にはばらつきが大きい事から、林分単位での季節動態を明らかにすることは難しい。そこで本研究では、観察面の大きいスキャナ法を用いて、温帯に属する広葉樹二次林とスギ人工林の細根動態を明らかにする事を目的とした。そしてさらに2つの林分を比較する事で細根動態における種間差を検討した。調査は、兵庫県内の広葉樹二次林とスギ人工林にて2018年4月から2020年3月の2年間継続し、各調査地における代表的な細根生産・枯死の季節変動を求めた。結果、混交二次林とスギ人工林は共に年中を通して細根生産が見られ、月平均生産量は混交林とスギ人工林の間で差はなかった。また細根枯死は、混交林で夏に増加する傾向が見られたが、スギ林では明確な季節性は見られず、月平均枯死量は混交林でスギ人工林より高かった。本発表ではこうした種間での細根動態の違いを環境条件との関連も踏まえて議論する。
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遠藤 いず貴, 久米 朋宣, 仲畑 了, 片山 歩美, 大橋 瑞江
セッションID: T5-3
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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樹木根の動態の解明は森林の炭素循環を理解する上で重要であるが、樹木根の分布は空間的に大きくばらつくため、正確な推定が難しい。スキャナー法は土壌断面を連続的に撮影し、画像内の根の長さや面積を解析することで根の動態を非破壊的に追跡する手法として近年よく用いられる。しかしながら、撮影する地点数が多すぎると画像解析に要する労力が大きくなってしまい、撮影地点数が少な過ぎると調査地の根の動態の代表性が得られない可能性がある。本研究では、スキャナー画像の取得地点数が根の動態の時間変動パターンの推定に与える影響を評価し、効率的なサンプリングデザインを提示することを目的とする。今回用いたスキャナー画像は、マレーシアのボルネオ島の熱帯雨林内5地点で、1地点あたり2面、毎月1回、約1年間撮影された時系列画像である。各画像(A4サイズ)から根の現存面積、成長または消失した面積を抽出し、全撮影面(10面)の各月の平均現存量、成長量、消失量と、撮影面数が10-n (n=1-9)のときの各月における全ての組み合わせの平均値との相関を求めた。その結果、撮影面が5面以上で時間変動パターンの推定に与える影響は少なくなることが示唆された。
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伊藤 拓生, 小田 あゆみ, 暁 麻衣子, 増本 泰河, 牧田 直樹
セッションID: T5-4
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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本研究では樹木細根による無機態窒素(硝酸態およびアンモニア態窒素)の吸収機能の種間差を明らかにするために、吸収速度の直接的な評価を試みた。調査は8月に冷温帯の針葉樹林(長野県信州大学手良沢山演習林)で行い、対象樹種は外生菌根種のカラマツとアカマツ、内生菌根種のヒノキとスギの4樹種とした。細根を樹体につながったまま掘り出し、NH4ClとKNO3を含む窒素溶液に浸して90分間静置後、細根は形態特性の測定、窒素溶液は比色分析による濃度変化の測定を行った。結果、すべての樹種で硝酸態吸収速度よりもアンモニア態吸収速度の方が高く、カラマツで最も高かった。一方で硝酸態吸収速度は、外生菌根種よりも内生菌根種で高い傾向が見られた。このことから今回の対象樹木は、アンモニア態吸収速度は樹種、硝酸態吸収速度は菌共生タイプによって異なった。さらに吸収速度と根特性との関係は、根組織密度で硝酸態吸収速度とアンモニア態吸収速度で逆の相関、根CN比では外生菌根種と内生菌根種で異なる関係が見られた。このことから吸収速度の窒素形態および菌共生タイプによる違いは、根特性に起因する可能性がある。
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暁 麻衣子, 伊藤 拓生, 増本 泰河, 高梨 功次郎, 高橋 史樹, 牧田 直樹
セッションID: T5-5
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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根が滲出させる多様な有機化合物は、根の栄養獲得や生存のために利用されるが、野外の樹木細根が実際どのような物質を滲出させているか、また樹種によってどれほど異なるかは憶測の域を出ない。本研究では、根滲出物の樹種間差を明らかにするため、菌根菌タイプと系統学的グループの異なる樹種を対象として9樹種の総炭素滲出速度および一次代謝産物であるアミノ酸・有機酸・糖を定量化した。2019年2020年の夏季に、冷温帯森林において、裸子―外生菌のアカマツとカラマツ、裸子―内生菌のスギとヒノキ、被子―外生菌のクリとコナラとシラカバ、被子―内生菌のホオノキとクルミの成木の細根を対象に調査を行った。サンプル根にフィルターを接触させ滲出物を採取し、総炭素滲出速度はCN分析器、一次代謝産物はフィルターから水で抽出したのちLC-MSを使用して測定した。総炭素滲出速度は被子―内生菌のグループが最も高く、一次代謝産物の濃度や組成に樹種間差が認められ、滲出物を介した炭素投資や栄養獲得能力に樹種特異性があることを示唆した。また根滲出物と形態特性の相関性は、形態的な栄養獲得能力に加えて、滲出物がそれを促進、補足する関係にあるためだと考えられる。
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池野 英利, 澤志 萌, 平野 恭弘, 藤堂 千景, 山瀬 敬太郎, 谷川 東子, 檀浦 正子, 大橋 瑞江
セッションID: T5-6
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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沿岸地域に植栽されるクロマツは、塩分や強風に耐性があり津波災害等への減災効果が期待される。2011年の東日本大震災においても、根返りや流木化したクロマツが多く見られたが、それらの根系は十分に発達していなかったことが報告されている。このためクロマツの根系構造解析は重要な課題であるが、その方法としては未だ破壊的な掘り取り法が一般的である。本研究では、樹木根系の非破壊的推定手法として近年注目されている地中レーダ法を用いて、クロマツの根系構造を推定することを目的とした。対象は愛知県田原市の海岸クロマツ林で、異なる深度帯を観測できる300MHz(高深度)と800MHz(低深度)の二種類同時探査アンテナを用いてクロマツ個体の地中レーダ画像を取得し、レーダとの交差点における根の位置及び直径を推定した。次に、掘り取り法により実際の根の位置・直径、これら測定点間のつながり情報を取得した。レーダ画像から取得した根の点情報から構造を推定した三次元モデルと、掘り取り法によって取得された実測データに基づく根系モデルを比較した結果、根が集中する部分の分布や、高深度における垂下根の一部が推定モデルにおいて良く再現されていた。
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石川 智代
セッションID: P-001
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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三重県南部に位置する尾鷲木材市場は、尾鷲地域の原木生産地と地域内外の原木消費地をつなぐ流通の拠点となっている。近年の木材流通の状況を考慮すると、地域材の流通を支える原木市売市場には原木の需給コーディネート機能の強化による原木取引の円滑化・効率化が必要と考えられる。そこで、尾鷲木材市場とその利用者(山主・買主)間の原木需給情報のやりとりについて、実態把握とその支援ツールの作成を目的に、市場利用者に対しアンケート調査を行った。調査は令和2年7月から8月に実施し、山主7者と買主16者から回答を得た。その結果、山主6者、買主9者は以前から市場へ情報提供を行っていることがわかった。また、山主4社、買主13者は仕入れや出荷の情報を得たいと回答しており、山主と買主双方に需給情報のやりとりに対する前向きな意思が確認できた。しかし、山主と買主ともに現状の情報のやりとりは「来場」または「電話」に限られていた。これらのことから、市場のコーディネート機能の強化支援には、情報のやりとりを電子化し、山主・買主対応を効率化及び省力化することが有効と考えられた。
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若狭 夏海, 松本 武, 岩岡 正博
セッションID: P-002
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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近世の木材生産におけるコスト構成について、「大沢家文書」を用いて解明を試みた。これは東京都奥多摩町の大沢家における、近世から近代までの村政や家業等についての記録であり、奥多摩町教育委員会によって出版されている。大沢氏は白丸村(現・奥多摩町所在)の名主を務めた傍ら、文化年間に木材生産業に着手し、近隣諸村のほか甲州等近国の山林を購入して木材生産を行っていた。文書は事柄別に章立てされているが、その中で「林業」章を対象として、大沢家による木材生産事業のコスト構成を調べた。
この結果、「林業」章の収録記事106件中、江戸期のものかつ年代が明らかで、木材生産におけるコスト(人工数、費用、食料等)に関する記事は、弘化2年から文久2年のものまで計9件存在し、すべて甲州都留郡における木材生産についての記事であった。これらの記事から、生産された木材については規格と材積、投入コストについては厘代(伐木・造材費)とその単価、山出し(集材)および運材の人工数と賃金、食料の購入量と価格についてまとまった情報が得られた。これらをデータベース化し、各工程の生産性のほか、コストの構成やその決定要因について分析・考察した。
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道中 哲也, 大塚 生美, 御田 成顕
セッションID: P-003
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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製材工場の素材在庫量は,素材の入荷量から消費量を引いた結果だけではなく,持続的な経営のための準備及び将来の利益の指標となり得る。本研究は,2013年1月から2019年12月までの農林水産省「木材統計調査」の県別データと独自集計した「木材統計調査」の調査票データに基づいて,北東北三県における製材工場の素材在庫量変動を分析した。県別データによると,青森県では在庫量が高い水準で推移し,岩手県では下降のトレンドが見られ,秋田県では2019年には在庫量が急増したことがわかった。調査票データによると,年間素材消費量1万立米以上の製材工場においては,月間消費量を基準とする在庫率は,青森県と秋田県では1から3ケ月の範囲で推移していた一方で、岩手県では0.5ケ月以下の工場が多いことが分かった。青森県の県別在庫量には季節性が見られるが,岩手県と秋田県の県別在庫量には季節性が弱い。また,多くの年間素材消費量の1万立米以上の製材工場の在庫量には季節性が見られず、工場別在庫量が季節要因以外の要因に影響されている可能性が指摘できる。
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西原 俊介, 松本 武, 岩岡 正博
セッションID: P-004
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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現在日本には2800棟以上の木造重要文化財建造物が存在する。これらの修理について、文科省は約150年周期で行うのが望ましい一方、現在は約半分のペースである約270年周期の修復に留まっているとしており、今後文化財保護の観点から修復件数が増加することが予想される。重要文化財建造物の修復の際には、なるべく元の状態に近い形で建材の取替えをすることが望ましいとされる。しかしながら大径長大部材については国産材では供給できず外材が使用されるケースもある。今後の文化財修復やそのための国産材による資源供給を考えるうえで重要なのは、部材の樹種・規格情報となる。特に大径長大材の使用が考えられる「柱材」について情報の蓄積が重要と考えられる。
そこで本研究では重要文化財建造物の大径・長大部材のデータベース構築の端緒として、「長野県の国宝・重要文化財建造物修理工事報告書Ⅰ~Ⅲ」(郷土出版社、1988)にまとめられている木造の寺院及び神社28件の修理報告書及び解体図面から各建造物の「柱材」について「長さ・太さ・材種」についてデータベース化した。さらに建造物の創建年代や、周辺地域の植生・地形といった諸情報との関連について分析した。
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志賀 薫, 米田 令仁
セッションID: P-005
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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鳥獣による植栽苗の食害が再造林を阻む課題となっており,再造林や鳥獣害対策に対し,独自の補助事業を実施している市町村も見られる。本研究では,九州・四国の市町村を対象とし,植栽苗を鳥獣害から防護するための対策に対し補助をする事業(以下,事業)の実施概況を明らかにした。2020年8月から11月にかけて,九州・四国の327市町村の林務担当者に対するアンケート調査を実施し,216市町村(回収率66%)から回答を得た。回答のあった市町村の約1割が当該事業を実施していた。事業導入の経緯としては,「自治体内で鳥獣害が拡大したため」がもっとも多く,「国や県で事業が開始されたため」や「林業事業体からの要望があったため」が続いた。担当者のシカ害の深刻度についての認識は,事業のある市町村で,「被害があり対策が必要」,「対策しても被害が出る」といった回答が多かった。一方で,事業を実施してない市町村においては,「被害がない」との回答が多かったが,当該事業の導入を検討中もしくは今後検討すると回答した市町村も1割ほど見られた。
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伊藤 太順, 芳賀 大地
セッションID: P-006
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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ニホンジカ(以下,シカ)による森林,林業への被害拡大が全国的に懸念されている.その展開には地域性があることを踏まえ,本研究ではシカの林業被害と対策について各県の現状を明らかにし,比較によって県ごとの特徴と課題を明らかにすることを目的とする.調査対象は全国の動向と同様に素材生産量が増加している中国山地周辺地域(鳥取県,兵庫県,岡山県,島根県,広島県)とした.
対象県の鳥獣保護管理計画から各県のシカ対策への取り組みを時系列的に比較した.また,関係機関に問い合わせ,平成10年以降の捕獲頭数や林業被害額を元に県ごとの被害状況を比較した.
その結果,兵庫県のシカに対する対応が非常に迅速であることが分かった.他の県では国の法改正に追従する形でシカ保護管理計画を策定するなどの対応を取っていた.シカの捕獲頭数は年ごとに若干のばらつきはあるものの概ね各県とも増加傾向にある.各種の生息情報を時系列的に比較したところ,シカの生息密度の低下がみられる地域はわずかであった.林業被害額は減少傾向にあるが,造林面積の減少や,防除策の効果,被害が正確に把握されていないなどの可能性も考えられる.
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古賀 達也
セッションID: P-007
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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獣害の深刻化や生息域の拡大による捕獲への社会的要請によってシカ、イノシシの捕獲数は増加している。報酬や負担軽減を通じた狩猟者への支援、特産品開発による山村振興などの観点から捕獲個体は食資源化(ジビエ利用)することが望ましいが、利用率は約1割と低い。利用拡大に向けて様々な方策が考えられるが、獣肉処理場(以下、処理場)へ搬入する個体数を増やす必要がある。本報告は処理場の捕獲個体受入基準に着目し、利用拡大に向けた課題の整理を目的とする。調査対象として近畿地方の処理場3施設、他地方の処理場2施設を事例に取り上げ、受入基準とその背景にある処理場の意向を聞き取り調査から明らかにした。処理場は生体状態の確認や捕殺時の情報を正確に把握することで生産履歴を保証したいと考えており、処理場従業員による止め刺しが可能な罠猟の捕獲個体を優先的に受け入れていた。銃猟捕獲個体は処理場が生産履歴の保証を行えず、捕殺後迅速な処理場への搬入が困難なため、受入は限定的であった。今後の捕獲個体受入拡大に向けて、銃猟捕獲時の生産履歴の保証を図る仕組みの開発が必要と考えられた。
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泉 桂子, 鈴木 正貴
セッションID: P-008
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
会議録・要旨集
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戦前期の山村地域において山野の鳥獣や内水面の魚貝は地域住民にとって重要なタンパク源であった。『岩手県管轄地誌』を用いて1878年前後の岩手県における鳥獣と内水面漁獲物の種類と地理的分布を明らかにした。『管轄地誌』は岩手県が明治政府の指示に応じて著した地誌で,県内642村の人口・農地・地租・物産などが記録されている。物産の項には鳥獣13種,その加工品3種,内水面の魚貝12種が記載されていた。利用していた村数の多かった資源は鳥獣がシカ(45か村,以下単位は同様),キジ(41),イノシシ(37),魚貝がアユ(56),ウナギ(41),ドジョウ(19)であった。ただし,魚貝は海でも取れるサケ・マス類を除いた。イノシシの利用は北上山地(気仙・遠野地域・旧川井村)に多く,現在の岩手県内におけるそれの分布とはやや異なった。クマ,カモシカ,サル,アナグマ,キツネ,ウサギの利用は現在の雫石町,西和賀町,旧川井村等の地域に多かった。魚貝について,ウグイ・アユ・ヤマメの利用に地理的な棲み分けが見られ,耕地に占める水田割合の高い村でタニシが利用される傾向が見られた。
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安達 啓介
セッションID: P-009
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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現代において、規約・慣習にならって実体を保ち続けている伝統的な入会林野は稀少となりつつある。その背景には入会集団の高齢化や経済的基盤の弱体化、過疎化、将来を担う担い手不足、また、よりコストがかからない、省力的な管理体制への移行の必要などのさまざまな課題があり、実際はそれらが複合的に絡み合っている場合が多い。一方で、森林の持続的で健全な管理、安定的な地域資源の活用、さらには気候変動、環境破壊などの環境問題に対する一つの鍵として伝統的な森林管理のあり方を肯定的に捉える向きも強くなってきた。本研究では、福井県美浜町の新庄区入会林野を事例に、上で述べた同様の課題にどのように対応している(きた)かを明らかにする。具体的には、同地区での過去の実態を踏まえた上で、現在の管理体制と利用の実態と課題、現状に対する入会集団の意識、そして入会存続の意向とその背景について報告する。
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Schaefer Holger, 宮口 貴彰, 吉積 巳貴, Tung Nguyen Ngoc
セッションID: P-010
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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ベトナムでは、森林伐採の抑制や植林のため、主に少数民族が利用していた高地の森林が1991年から行政機関による管理・保全されることになった。その後の数十年にわたり、森林の一部分が植林や保全林として地域ごとの住民に配分されてきた。また森林の配分とともに、高地での農業開発が進められてきた。このような森林配分・農業開発の政策により、全国の森林面積が拡大し、貧困率が低下してきたが、地域社会レベルでは様々な悪影響や問題でも近年の研究により明らかになりつつある。
本研究では、ベトナムのフエ省高地に位置するホンハ社を事例に、40件のケーススタディの文献調査をもとに、人間・自然結合システムのフレームワークを用いて森林地配分・農業開発の政策によって生じた社会生態的動態を総合的に分析した。その結果、ホンハ社の森林面積が拡大したと同時に違法伐採が増加して森林の質を全体的に低下させたことや、貧困率が低下したと同時に川沿いにおける農業開発が水害による食料安全保障のリスクを増大させたことが明らかになった。これより、地域社会の実態からみた政策改正の必要性が示唆された。
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山本 伸幸
セッションID: P-011
発行日: 2021/05/24
公開日: 2021/11/17
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森林経営管理法・森林環境譲与税による「新たな森林管理システム」が提唱される中、市町村林政がこれまで以上に重要視されるようになった。しかし、市町村森林整備計画が制度化されてすでに20年経った今なお、その体制は十分とは言えず、その理由の一つとして、市町村における専門人材の不足が挙げられる。民有林の自治体林政の担い手は、多くの地域で現在も都道府県林務組織である。
本報告では、明治以降の日本における森林管理制度の近代化過程において、森林技術者がどのように自治体林政に関わるようになったかを、主に都道府県林政を中心に検討した。
明治30年代を通して、道府県のほとんどに森林技術者が配置されるようになる。その契機は1898(明治31)年の森林法施行、および、林業巡回教師設置を定めた同年の勅令348号発布であった。高まる人材需要に応えるため、中央政府を中心に人材を送り込んできた帝国大学の林学科とは別に、1902(明治35)年の盛岡高等農林学校を嚆矢として、各地域に多くの森林技術者養成機関が設立された。戦後、私有林政策が本格化するとともに、都道府県林務組織は現在に至る体制を整えることとなった。
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