本研究では,立木を叩いた際に発生した音を画像化し深層学習を用いて樹高,材積を推定した。立木20本の樹幹を1本につき100回打撃した際に発生した音を録音,0.6秒間における各周波数の音圧を表したスペクトログラムを10,000枚作成し入力画像とした。深層学習システムはNNCを,深層学習アルゴリズムは出力層を回帰層としたLeNetを用いた。学習用データを5セットに分割し,三つの学習パターン(LP-Ⅰ:訓練事例8割,未知事例2割,LP-Ⅱ:大中小三区分から1本ずつ抽出した木を未知事例,LP-Ⅲ:2本ずつ抜出した木を未知事例)の樹高,材積を推定した。推定精度の検証には平均絶対誤差,平均絶対パーセント誤差および決定係数を用いた。その結果,各学習パターンの未知事例に対するR2値は,LP-Ⅲの樹高(0.3672)を除き,非常に高い値(0.9192から0.9996)を示した。LP-Ⅲの樹高では,30 m以上が過小に,30 m以下が過大に推定される傾向を示した。一方,材積はどの学習パターンにおいても全体的に偏りのない推定を行うことができたことから,本手法は材積推定において有効であることが示唆された。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、立木を打撃すれば樹高が推定できそうだという素朴なアイデアを、音情報の画像化と深層学習によるスペクトログラム画像解析といった今日的な技術を組み合わせることで実装したもので、新規性という点で高く評価できる。また、近年の森林計測分野ではレーザー測量や写真測量によって樹木サイズを計測する試みが多くなされているが、本論文ではレーザーや写真以外の情報源として打撃音が有効であることを示した点で、学術的発展性を有するものと高く評価できる。さらに、著者らは今後に取り組むべき課題を複数提示しており、これらを一つずつ解決することにより、将来的には、測定対象木を数回打撃してその場でスマートフォンに録音するだけで樹高や材積が推定可能なシステムが開発される可能性があり、高い社会的波及性のほか進歩性も期待できる。
世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、中国の森林資源動態を対象として、経済水準が森林面積に与える影響を、これまで試みられていなかった長期と短期の双方の視点を取り入れて、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルを導入して分析したものであり、この点に新規性と独創性が認められる。また、分析においては、丁寧な検討をした上で、計量経済学的に適切なモデルと検定を用いており、進歩性が認められるほか、このような長期と短期の双方の視点を取り入れたARDLによる解析は、将来的に学術分野の発展に多大な貢献をもたらすという点で高く評価できる。さらに、脱炭素社会に向けて森林動態の研究が国際的に注目される中で、中国を事例にして森林面積に対する複数の社会経済要因の影響を明らかにしたという点で社会的波及性もあり、将来的に持続的森林管理に向けた政策や投資などに関する一層の重要な知見をもたらすことが期待できる。
スギ人工林の下刈り要否の判断基準を提示することを目的に,福岡県八女市において毎年下刈りが行われた競合植生の異なる林地の植栽木と競合植生を多点調査した。その結果,下刈り1年後の競合植生の再生高は優占する植物タイプにより異なり,ススキタイプの再生高が他の植物タイプより高かった。一方,出現頻度の高かった3種(ススキ・ヌルデ・アカメガシワ)では,各々下刈りの累積回数による再生高の変化は認められなかった。スギ樹冠の梢端部が競合植生による被覆から抜け出すスギ樹高は競合植生の類型によって異なり,ススキが優占する植生類型よりもその他の方が低かった。以上より,毎年下刈りによる競合植生の再生高の低下はほとんどなく,植物タイプごとの再生高の違いが要因で,植生類型ごとに下刈り要否の判断基準は異なることが明らかになった。下刈り直前に林分内のスギ植栽木の本数割合90%以上が競合植生より高くなるには,前年の成長休止期のスギ樹高が,ススキが優占する植生類型で2.2 m以上,それ以外で1.4 m以上必要と評価された。スギの多くが競合植生に覆われない状況を維持するためには,目安としてこの樹高まで毎年下刈りが必要と考えられる。
令和3年(2021年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、九州北部のスギ造林地を対象に、様々な植生タイプを網羅する44林分100プロットにおいて2,765本のスギが調査し、その結果、成長休止期の時点で次回の下刈り要否をスギ植栽木の樹高に基づいて判断する基準を植生タイプごとに示したものである。下刈りコストの削減は,我が国の再造林,ひいては持続的な森林経営の実現のために必要不可欠なテーマであるが、その点に関して重要かつ具体的な提言を行っていることから、高い社会的波及性を認めることができる。調査のサンプリングは綿密に計画され,種に特有な空間獲得・空間修復能力に着目して種間競争を評価し,最終的に下刈り要否の判断基準における種組成の重要性に言及した点は高い新規性・進歩性を有する。また、データの重厚さ,論点の簡潔性,科学的手法への重要な提言など、今後の当該分野の研究の発展につながりうるものであることから、学術的発展性も高いもとと認められる。
現代日本の森林管理に大きく影響を与える森林計画制度の起源を明らかにするため,1939(昭和14)年森林法中改正と敗戦後の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)主導の占領期林政の2時点に焦点を当て,制度の形成過程とそれに携わった政策担当者らの言説を中心に分析を試みた。その結果,1939年森林法中改正は施業案制度を私有林にまで拡げるものであり,森林簿等の技術的仕組みを含め,現在の森林計画制度を用意した原点といえることが分かった。一方,1939年森林法中改正の評価については,特に戦時体制との関連で,政策担当者らの間でも分かれる。そのため,1939年森林法中改正の意義は戦後過小評価されてきた可能性がある。占領政策については,特にGHQ/SCAP文書中の「林業計画」が,森林計画制度成立の偶然を用意したことを指摘した。当時の政策担当者らの言説からは,占領政策との駆け引きの中で森林計画制度が成立し,戦後林政の中枢を占め続ける端緒となったことが明らかとなった。
令和2年(2020年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、日本の民有林行政の大きな柱である森林計画制度の原点が1939年森林法の中改正にあったことを示したものである。従来の学説では、森林計画制度は敗戦後1951年の森林法改正によってスタートしたとされていたが、その見方に対して大きな一石を投じた。日本の森林計画制度がわが国独自の経験知と問題意識から生まれた必然性、GHQとのギリギリの攻防の中で主体的に形成されたものであるという知見は森林科学の学術分野に大きな影響を与えるとともに、林業、林産業などの裾野の広い社会分野への確実な貢献も果たすものと考える。また、山本会員は関連する公文書、報告書、雑誌、私的に綴った文書を丹念に収集・整理する作業を進め、関係者へのインタビューも十分に積み重ねた末に本論文の結論に到達した。このことは、ともすれば埋もれがちな資料の価値をわれわれは再評価すべきであることを示すものである。以上のように、山本氏会員の当該論文はきわめて優れた業績である。
自然体験活動の有効性が様々な研究において論じられてきたが,本研究では森林環境における自然体験活動が参加した子どもたちの生きる力と自然との共生観に及ぼす影響を検証した。また,参加者のもつ特性に着目し,元々の自然体験の経験の多寡という視点と自然の営みにより心身に大きな損傷を受けるような自然災害というネガティブな経験をした子どもたちへのプログラム効果を検証することとした。分析対象者はふくしまキッズプログラムに参加した子どものうち有効回答が得られた213名とその保護者であった。参加者には,生きる力,自然との共生観,自然体験の経験を問う項目,保護者には,被災時の経験等を問う項目でそれぞれ質問紙調査を行った。自然との共生観について,自然への親和性,自然と生命の関係性,自然への興味と配慮の3因子構造が認められた。参加者全体において,プログラムによる生きる力および自然との共生観の向上効果が実証された。参加者のうち自然体験の経験が少ない子どもは,多い子どもよりもプログラムによる向上効果がみられた。また震災による恐怖体験の有無は身体的能力の変容に影響を与えることが明らかとなった。
令和2年(2020年)日本森林学会誌論文賞
この論文は、森林体験活動の教育的な効果を環境教育や野外教育の評価手法を応用して分析を試みた研究であり、森林科学では初の取り組みである。ひとくちに森林体験活動といっても、その活動内容は幅広いため、教育的な活動の成果の評価軸の設定が難しかったが、山田会員は心理学的手法をもとに開発された評価尺度(IKR評定用紙など)を応用し、さらに複合的な評価を行うことで科学的なエビデンスを提示することに成功した。また、林野行政では森林サービス産業など森林空間の活用が期待されているが、本論文で提示された手法を用いることで森林での多様な体験活動の改善につなげることが可能であろう。また、山田会員は東日本大震災の避難時の困難な状況下にあった子ども達を研究対象に選ぶことで、被災時の子ども達のストレスの軽減に関わる自然体験の意義を示した。これは、自然災害が多発する今の日本における社会的ニーズに応えうる研究成果といえる。以上のように、山田氏会員の当該論文はきわめて優れた業績である。
熱帯林減少の原因と解決策
公開日: 2023/02/17 | 105 巻 1 号 p. 27-43
宮本 基杖
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林業・緑化分野における高吸水性高分子樹脂の利用
公開日: 2019/02/01 | 100 巻 6 号 p. 229-236
高橋 正通, 柴崎 一樹, 仲摩 栄一郎, 石塚 森吉, 太田 誠一
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日本の主要樹種75種の樹高と胸高直径の関係
公開日: 2021/06/26 | 103 巻 2 号 p. 168-171
小林 勇太, 堀内 颯夏, 鈴木 紅葉, 森 章
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日本におけるキャンプ場を通じた森林利用の発展と現状
公開日: 2023/03/29 | 105 巻 3 号 p. 76-86
平野 悠一郎
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樹高成長の制限とそのメカニズム
公開日: 2009/01/23 | 90 巻 6 号 p. 420-430
鍋嶋 絵里, 石井 弘明
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