人口統計分析を集落単位で行うことの必要性はたびたび指摘されてきたが,資料の不足により,研究事例が少ない。本稿の目的は,集落人口を対象にしてコーホート分析を行うことで,集落合併を集落人口の観点から考察するとともに,国勢調査を用いた集落人口分析の可能性を探ることである。新潟県上越市不動地区で2020年に行われた3集落の合併を分析対象として,以下の3点の結果を得た。(1)1965年から1995年の集落人口は国勢調査区を集落と読み替えることで把握できたが,2000年以降の集落人口は抽出できなかった。(2)1950年代に拡充された小学校に通った「独立校世代」は人口が多く,2000年代以降,少子化や小学校の閉校に対応した新たな結びつきを作ることを求められた。(3)地区の役員を務める60~70歳代の人口が2015年をピークに減少すると予想された。これらのことから,2020年の集落合併は,役員年代となった独立校世代が今後の人口減少を見越して敢行したことであると解釈された。今後の課題は,世代を形成する個人の具体的な履歴を紐解くことや,男女別の動向や社会移動を考慮に入れた集落人口分析の改良である。
令和6年(2024年)日本森林学会誌論文賞集落人口分析のために、国勢調査の市区町村より小さな範域の集計の利用可能性は論じられてきたものの、具体的実証研究は多くない。本論文は、これまで十分に分析されてこなかった集落単位の人口統計分析を、国勢調査の調査区別集計と自身のフィールド調査を組み合わせたことで、先行研究に比べてはるかに高い精度での分析を可能とし、一歩踏み込んだ新規性がある。これらの手法により、2020年の集落合併の要因を明らかにした点に高い独創性が認められる。また、本論文は統計資料の利用可能性を再認識させ、本論文で提案された方法は国内の同様の地域の分析にもあてはまる普遍性を有しており、当該分野の研究の進展を期待させる内容といえる。
開花ステージ判定の精度は人工交配の成否に関わるため重要である。従来は目視判定するのが一般的であるが,習熟が必要であり,判定に個人差があるなどの課題が存在する。今回,クロマツ雌花について,調査者の目によらない簡易な開花ステージ判定手法を構築するため,深層学習を用いた分類モデルを作成し,モデルを組込んだWebアプリケーションを開発した。習熟した複数の調査者が様々なクロマツ雌花の画像をステージⅠ,ⅡおよびⅢに分類し,全員の判定が一致した画像合計3,074枚の画像を使用して,MobileNetV2の転移学習によってモデルを作成した。雌花が画面全体に対して小さい画像や,雌花と関係のない物体が写りこんでいる画像,雌花が黄緑色をしている画像などでモデルの予測が正しくないものがあったが,正解率は0.974,適合率と再現率をバランスよく評価するFスコアは0.949とともに非常に高かったため,実際の野外での形質評価における使用も期待できると考えた。
令和6年(2024年)日本森林学会誌論文賞従来、クロマツの開花ステージ判定は目視によって行われ、習熟や経験が必要であった。深層学習モデルとそれを組み込んだアプリを用いてそれを判定する本研究の試みは、新しい技術を応用するという点で、新規性・独創性がみられる。本技術は経験が少ない技術者・研究者でも簡単に人工授粉に適した開花ステージを判定できるため、社会的波及性は極めて高い。研究における当該技術の適用箇所が秀逸であり、深層学習を適用し成功した事例研究としての価値だけでなく、林木育種をはじめとする森林科学全体そして林業・林産業分野にも応用できる発展性を有している。
森林変化や土地被覆変化マップなどの主題図には現実との相違がある程度含まれる。主題図を効果的に利用するためには,マップ分類がどの程度正しいかを表す精度を評価することが重要になる。本総説では,衛星データを用いて作成した森林変化マップの面積推定と精度評価における基本的な原則を整理し,精度評価の構成要素をSampling design,Response design,Analysisにわけ,それぞれで基準と推奨される手法を示した。また,精度評価を実施する上での留意点についても記述した。統計的に厳密な精度評価では,無作為抽出を基本とした確率抽出によりサンプルを抽出し,リファレンスデータとの相違を解析して,マップ分類の精度を推定する。精度評価と面積推定では,母集団誤差行列が中心的な役割を担う。サンプル抽出に対応した不偏推定量もしくは一致推定量を利用することで,精度と面積の推定値と信頼区間を算出し不確実性を示すことができる。精度評価の基本的な手法は確立されているが,より新しい手法も提案されている。精度評価では全てに対応する単一の手法はなく,目的に応じて適切かつ基準を満たす手法を選択する必要がある。
令和5年(2023年)日本森林学会誌論文賞リモートセンシングにおける解析精度の判定方法の適否は重要な問題であり古くから議論が重ねられてきたものの、日本では精度の評価方法についての学術的な論文・総説がこれまでなかった。志水会員の論文は、精度評価に関する数多くの国際誌を参照して、その問題点と国際的に標準とされる精度評価方法について体系的にまとめ、森林リモートセンシング分野における学術的発展性への貢献が非常に大きい、完成度の高い総説である。海外では違法伐採の監視、国内では伐採届等との突合といった目的でその技術の需要が高まりつつあることを踏まえ、評価に利用したRのモデルを公開することでリモートセンシングの解析において適切な精度評価方法の普及に貢献しうること、森林変化マップを作成する場面で本論を参考に適切な精度評価が実施されるようになることが期待されることなどの波及性が期待される。さらには、和文誌での発表により国内における技術水準の向上に寄与した点はおおいに評価される。
本研究では,立木を叩いた際に発生した音を画像化し深層学習を用いて樹高,材積を推定した。立木20本の樹幹を1本につき100回打撃した際に発生した音を録音,0.6秒間における各周波数の音圧を表したスペクトログラムを10,000枚作成し入力画像とした。深層学習システムはNNCを,深層学習アルゴリズムは出力層を回帰層としたLeNetを用いた。学習用データを5セットに分割し,三つの学習パターン(LP-Ⅰ:訓練事例8割,未知事例2割,LP-Ⅱ:大中小三区分から1本ずつ抽出した木を未知事例,LP-Ⅲ:2本ずつ抜出した木を未知事例)の樹高,材積を推定した。推定精度の検証には平均絶対誤差,平均絶対パーセント誤差および決定係数を用いた。その結果,各学習パターンの未知事例に対するR2値は,LP-Ⅲの樹高(0.3672)を除き,非常に高い値(0.9192から0.9996)を示した。LP-Ⅲの樹高では,30 m以上が過小に,30 m以下が過大に推定される傾向を示した。一方,材積はどの学習パターンにおいても全体的に偏りのない推定を行うことができたことから,本手法は材積推定において有効であることが示唆された。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞この論文は、立木を打撃すれば樹高が推定できそうだという素朴なアイデアを、音情報の画像化と深層学習によるスペクトログラム画像解析といった今日的な技術を組み合わせることで実装したもので、新規性という点で高く評価できる。また、近年の森林計測分野ではレーザー測量や写真測量によって樹木サイズを計測する試みが多くなされているが、本論文ではレーザーや写真以外の情報源として打撃音が有効であることを示した点で、学術的発展性を有するものと高く評価できる。さらに、著者らは今後に取り組むべき課題を複数提示しており、これらを一つずつ解決することにより、将来的には、測定対象木を数回打撃してその場でスマートフォンに録音するだけで樹高や材積が推定可能なシステムが開発される可能性があり、高い社会的波及性のほか進歩性も期待できる。
世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。
令和4年(2022年)日本森林学会誌論文賞この論文は、中国の森林資源動態を対象として、経済水準が森林面積に与える影響を、これまで試みられていなかった長期と短期の双方の視点を取り入れて、自己回帰分布ラグ(ARDL)モデルを導入して分析したものであり、この点に新規性と独創性が認められる。また、分析においては、丁寧な検討をした上で、計量経済学的に適切なモデルと検定を用いており、進歩性が認められるほか、このような長期と短期の双方の視点を取り入れたARDLによる解析は、将来的に学術分野の発展に多大な貢献をもたらすという点で高く評価できる。さらに、脱炭素社会に向けて森林動態の研究が国際的に注目される中で、中国を事例にして森林面積に対する複数の社会経済要因の影響を明らかにしたという点で社会的波及性もあり、将来的に持続的森林管理に向けた政策や投資などに関する一層の重要な知見をもたらすことが期待できる。
熱帯林減少の原因と解決策
公開日: 2023/02/17 | 105 巻 1 号 p. 27-43
宮本 基杖
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日本の主要樹種75種の樹高と胸高直径の関係
公開日: 2021/06/26 | 103 巻 2 号 p. 168-171
小林 勇太, 堀内 颯夏, 鈴木 紅葉, 森 章
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日本におけるキャンプ場を通じた森林利用の発展と現状
公開日: 2023/03/29 | 105 巻 3 号 p. 76-86
平野 悠一郎
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日本におけるトレイルランニングの林地利用の現状と動向
公開日: 2018/06/01 | 100 巻 2 号 p. 55-64
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林業・緑化分野における高吸水性高分子樹脂の利用
公開日: 2019/02/01 | 100 巻 6 号 p. 229-236
高橋 正通, 柴崎 一樹, 仲摩 栄一郎, 石塚 森吉, 太田 誠一
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