日本赤十字看護学会誌
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21 巻, 1 号
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原著
  • 黒田 裕美, 大重 育美, 菅原 直子, 北條 智子, 有安 直貴, 姫野 稔子, 髙橋 清美, 田村 やよひ
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,2016年に発生した熊本地震の被災地域にある医療施設に勤務する看護師を対象とし,熊本地震発災約8~9か月後における看護師の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の実態及び発災直後に仕事に関することで印象に残った内容を調査した.分析対象は322名であり,PTSDハイリスク者は46名(14.3%)であった.PTSDハイリスク者に,より年齢が高いことや,中間管理者であることが関連した.また,PTSDハイリスク者には本震時に勤務していたことや自宅被害状況が半壊であったことが関連しており,これらを経験した看護師に対する支援の必要性が示唆された.また,災害看護研修の受講経験者にPTSDが少ない傾向があった.災害看護研修の受講は災害時対応のイメージ化を促進することに繋がり,災害時のPTSDへの有効な対策となると考える.

  • 山本 卓真
    2021 年 21 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,病棟看護師の腰痛に関連する業務の実態,腰痛体操に取り組むプロセスを明らかにすることである.

    結果,病棟看護師の約40%は腰痛があり,ケア場面では腰部の負担が大きい場面があり,多くの者が腰部負担を感じていた.しかし,看護師たちは,業務が忙しいため腰痛予防対策の実施に困難を感じていた.

    腰痛体操を行った病棟の看護師の変化のプロセスは4つの時期を辿った.これらの時期ははっきりと区別できるようなものではなく徐々に移行していった.第一期では看護師たちは淡々とした様子で体操を実施し,積極性はなかった.第二期では体操を続けていると看護師たちの態度に変化が見られ始めた.第三期で新たな介入を追加すると,研究者と看護師の関係性が築かれ変化が促進された.第四期では看護師の態度の変化が徐々に見られ,体操に積極的に参加する,自身で腰痛対策を行う者も現れた.

  • 川名 るり, 江本 リナ, 吉田 玲子, 山内 朋子, 鈴木 健太, 楠田 智子, 筒井 真優美
    2021 年 21 巻 1 号 p. 18-26
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は小児看護学実習における「わかった」というアハ体験を学生の視点から明らかにすることであった.

    【方法】看護系大学の小児看護学実習で子どもと家族について「わかった」という実感を得た経験のある学生3名にナラティブアプローチに基づくインタビュー調査を行った.

    【結果】学生らのナラティブから,1. 家族の時間軸が目の前で合致する「本当にわかった」体験,2. 子どもとの関係構築に「ハッ,そうだったんだ」と気づく体験,3. 子どもの声が聴こえた手応えで見方が「丸ごと変わる」体験が明らかになった.

    【考察】研究者らがアハ体験と捉えていた学生の「わかった」という体験は,共通して,小児看護学実習当初に抱いていた各々の悩みや戸惑いが劇的に変化する,学生にとっての学びへの転換であったことが明らかになった.

研究報告
  • 藤谷 未来
    2021 年 21 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:北海道オホーツク地域における男性高齢者のボランティアの特徴を明らかにする.方法:ボランティア登録中の男性高齢者629名に無記名自記式質問紙調査を行い,ボランティア活動内容,活動継続動機尺度及び援助成果尺度と,属性との差・関連を検討した.結果:回答率33.4%,174名を分析対象とした.81.6%の人が高齢者を対象としたボランティア活動をしており,この活動は年齢との弱い正の相関がみられ(ρ=0.212, p<0.01),前期高齢者に比べ後期高齢者の方が頻回に参加していた(U=2358.5, p<0.01).また,援助成果の尺度合計点において75歳以上が有意に多かった(p=0.003).考察:高齢者を対象としたボランティア活動は,前期高齢者に比べ,後期高齢者が頻回に参加していたことなどから,年齢に関係なく参加できる活動であることが示唆された.更に,後期高齢者はボランティア活動を通してやりがいや充実感といった援助成果を得ていることが考えられた.

  • 北井 喜美恵
    2021 年 21 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,不妊治療を受けている女性が,「治療の場」に我が身を置くことにおいて,どのような経験をしているのかを明らかにすることを目的とした質的記述的研究である.不妊治療の経験がある女性6名に各1回ずつインタビューをした結果,【敷居が段々低くなり,いつの間にか巻き込まれていく】と【周囲を気にしながらじっと待つ】の2つのコアカテゴリーが導き出された.

    彼女らは,初めて不妊治療を受診する際,「治療の場」に足を踏み入れづらい敷居の高さを捉えていた.しかし,その「敷居の高さ」は,通院を繰り返すうちに段々低くなり,次第に行かずにはいられないほど「治療の場」に巻き込まれていった.また彼女らは,待合室で周囲を気にかけながらじっと待つ経験をしていた.よって,不妊当事者が望むタイミングで,“これまで”や“これから”について自由に語れる場を,看護師が提供することは,看護実践の一助となると考えられる.

  • 岡本 明子
    2021 年 21 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    研究目的は,高齢の脳卒中患者を看る妻が,在宅に移行して夫婦だけで生活する中でどのような体験をしているのか,レジリエンスに焦点を当てて報告することである.研究方法は質的記述的デザインで,自宅に複数回訪問し参加観察とインタビューでデータ収集した.研究参加者は,脳卒中の夫を3~5年程度看ている60歳代後半~80歳代前半の妻だった.

    研究参加者のレジリエンスは「夫を失うかもしれない苦悩に立ち向かう」「自分のペースを取り戻す」「障害を負った夫を一人で看ない」「元の夫を取り戻す」「無我夢中で何年か過ごした」「夫を看る責任感を強くもった」「限界を感じても奮い立たせる」「一人で闘うしかないと覚悟した」「夫の主張に振り回されない」であった.

    以上の結果から,研究参加者は,培ってきた経験をもとに,困難を乗り越え自分らしさを取り戻していた.しかし,限界があっても介護を続けようとするレジリエンスが孕む危うさがあった.

  • 小林 尚司, 山下 香枝子
    2021 年 21 巻 1 号 p. 54-63
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    特別養護老人ホームの看護師を対象にした,看取りの概念的知識となる入所から死亡退所までの期間を通した長期的・連続的な過程を学ぶ研修を考案し実施した.本研究の目的は,研修の講義の理解しやすさ,有益性,活用性の評価と,研修後の看護の変化を明らかにすることである.理解しやすさ,有益性,活用性については,質問紙で回答を得た.看護の変化は,半構成面接と質的分析を用いた.受講した19名のうち18名が,「看取り各期の名称と期間」「各期の高齢者の心身の特徴」を,有益で活用できる知識と評価した.研修後に看取りを経験したのは9名で,その内容を表す中核カテゴリーとして,《看取りを過程として認識》《論理的思考に基づく看護の展開》《特養の看護を価値づける》が抽出された.研修受講者は,看護を自ら考えて深化させていることから,今回の内容は看取りの概念的知識の獲得に有効であることが示唆された.

  • 伊富貴 初美
    2021 年 21 巻 1 号 p. 64-73
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は日本の地域医療に米国のNurse Practitioner(以下,NPとする)と特定行為研修修了者を導入した場合の診察料シミュレーションを行うこと,また訪問看護師へのインタビューを通じて日本の地域医療の課題とNP導入によって期待される効果を明らかにすることである.病院併設のX訪問看護ステーションを利用している69名の訪問看護記録と受診記録のデータを用いて診察料シミュレーションを行った結果,NP導入により平均して介護保険で29%,医療保険で21%,特定行為研修修了者導入により介護保険で2%,医療保険で5%の削減効果が確認できた.また,同施設に所属する訪問看護師3名に対するインタビューを通じて,医師の指示の範囲でしか対応できないことなど課題を感じており,NPなどの高度実践者の導入により在宅医療におけるコーディネートとして活動するなどの効果が期待されていることが明らかになった.

実践報告
  • 山本 孝治, 大重 育美, 苑田 裕樹, 福島 綾子, 姫野 稔子, 髙橋 清美, 田村 やよひ
    2021 年 21 巻 1 号 p. 74-80
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,災害拠点病院のない地域におけるARCSモデルに基づく災害看護研修の開催を試みたので報告をする.研修はインストラクショナルデザインのARCSモデルを参考に設計した.アンケートを用いた研修に対する評価では「災害時に活用できる情報が得られた」,「職場に伝達したい内容だった」の項目についてほとんどの参加者が「当てはまる」と回答しており,高い評価を得た.また参加者は研修を通して,自施設の課題を振り返る機会を得たことに加え,近隣の施設間での連携の必要性も実感していた.一方,災害看護に対する参加者のレディネスには個人差があり,学習ニーズについてもトリアージの実践や地域連携の在り方など多様であることが明確になった.引き続き地域の特性とニーズを考慮した研修を検討し,災害看護に関する現任教育支援について整備していく必要がある.

  • 倉岡 有美子, 大重 育美, 姫野 稔子, 髙橋 清美
    2021 年 21 巻 1 号 p. 81-87
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    A大学の4年生対象の看護技術演習に,看護実践能力の向上を目指して,シミュレーション学習と結びつけたOSCEを導入した.本稿の目的は,本演習科目について,科目の実践内容と評価を記述することである.本演習科目の学習目的は,看護職者として必要な知識・技術等の能力が身についているか客観的に評価するとともに,自らの課題解決に向けて取り組むことであった.シミュレーション学習を実施した結果,90%以上の学生が「十分できる」と回答した項目は19項目中16項目であった.また,評価表の自由記載欄の記述内容より,学生は自分の実力を見直し,卒業までに克服すべき課題を明確にしていた.OSCEを実施した結果,60点満点で平均45.4点(75.7%)であった.本演習科目は,学生の看護実践能力の向上を促進できたと考える.一方で,シミュレーション学習とOSCEを結びつけることによる学習効果を,より高められるような工夫が必要であることが示唆された.

資料
  • 木村 勇喜, 百田 武司
    2021 年 21 巻 1 号 p. 88-93
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    目的:緊急入院した高齢者で,せん妄回復時に消失したせん妄発症要因を明らかにする.方法:緊急入院した65歳以上の患者で,せん妄評価尺度(ナース版)において,せん妄を発症した35人を対象に,診療録から調査を行った.結果:せん妄回復時に消失したせん妄発症要因は,「疼痛」,「発熱」,「血清クロールの異常」,「ベンゾジアゼピン系薬剤の使用」,「侵襲の多い検査・処置」,「経皮的酸素飽和度の異常」,「治療拒否の訴え」,「不安の訴え」,「不眠の訴え」,「時計の不設置」がせん妄発症時に比べ,せん妄回復時で有意に少なかった.結論:緊急入院した高齢者のせん妄回復時に消失したせん妄発症要因が明らかになり,せん妄発症後,せん妄回復に向けた看護援助の方向性の示唆となった.

  • 関根 弘子
    2021 年 21 巻 1 号 p. 94-100
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,集中治療室における子どもへの看護実践について国内文献検討を行い,研究の動向と看護実践の実際を明らかにし,今後取り組むべき課題を検討することを目的とした.医中誌Web版(ver.5)を用いて2007年から2019年8月までの国内文献を検索し,集中治療室で実際に行われている看護実践が抽出できる文献16件を得た.結果,文献数は2017年より増加傾向にあり,質的研究が7件と最も多かった.看護師は鎮静下にある子どもの覚醒徴候を生命に直結すると認識し,身体の異変を予測して更なる重症化を防ぐ,治療上の厳重な制限下にある子どものできることを引き出す,生命に直結しない子どもの個性を捉えていることが明らかになっていた.今後は,集中治療室で覚醒する子どもの生命の危険を回避し,ニーズを充足させる看護実践について,看護師の思考過程を含めた働きかけと子どもの変化を具体的に明らかにする必要がある.

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