日本赤十字看護学会誌
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23 巻, 1 号
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原著
  • 遠山 義人
    2022 年 23 巻 1 号 p. 74-81
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,若年成人期にがんと診断された男性がその後の人生をどのように生きぬいていくのかを明らかにすることを目的とした,現象学的アプローチを手がかりとする質的記述的研究である.6名の参加者の内,本論文では【がん患者である自己を複数の自己へと切り分ける】というテーマが導き出されたCさんの経験を記述した.

    20代半ばにスキルス胃がんの診断を受けたCさんは,がん罹患後10年という経過の中で,“無限に患者状態”となってしまう現状から脱するために,がん経験者としての活動や仕事,家庭における自己を切り分けることで,在りたい自分へと向かうことができた.それによってCさんは,がんとパートナーになり共に歩んでいくという現在の生き方・在り方が可能となっていた.

    彼らと関わる人々は,新たな自己を追い求める彼らに「がん患者」ということを押し付けることがないよう,彼らの多元的な自己の在り様に目を向け関わっていく必要性が示唆された.

  • 前田 陽子, 志賀 加奈子
    2023 年 23 巻 1 号 p. 104-114
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/05
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,積雪寒冷地の災害訓練における特別支援学校教諭の認識と取り組みを明らかにすることであった.教諭6名を対象に半構造化面接を行った.その結果,教諭は子どもたちの特徴から【冬の避難訓練は子どもの体調に関わる】ことへの懸念に加え【自分たちが子どもを守らなきゃ】という使命感を認識していた.しかし,積雪寒冷に伴う子どもへの影響を検討した上で【冬季の災害訓練に挑む】取り組みを行っていた.さらに,【雪道の避難は厳しい】や【人手がないと避難できない】との認識から【手分けして子どもを避難させる】取り組みを行っていた.また,【子どもが混乱すると避難できない】ため,見通しが立つよう【子どもたちの想像を促す】など取り組んでいた.冬季の災害訓練の課題解決に向け医療と教育が協働し積雪寒冷地におけるより安全な災害訓練について検討する必要性が示唆された.

研究報告
  • 藤本 法子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/10
    ジャーナル フリー

    日本の精神科医療は急性期中心に変わりつつあるが,今なお数十年に及ぶ超長期入院の患者がいる事実はあまり顧みられることがない.本研究の目的は,精神科病棟での研究者と超長期入院患者とのかかわりの中で捉えられた患者たちの体験世界を描き出し,その特徴とかかわりの意味について考察することである.

    研究者は身分と目的を明らかにした上で,慢性期女性開放病棟で週1回,合計50回,日勤帯にフィールドワークを行った.研究参加者は精神科病院に通算40年以上入院し,研究参加に同意した入院患者4名であった.

    結果として,研究参加者が自身の過去を語ることは容易ではなく,語られたとしても記憶は断片化し,時間的・人間的なつながりや意味が失われてしまっており,彼女たちが過去にトラウマを体験していることが示唆された.考察では,トラウマをもつ患者とのやりとりの特徴や,語りを聞くことの難しさ,回復の可能性を検討した.

  • 大重 育美, 石飛 マリコ
    2022 年 23 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,COVID-19に感染した看護師の職場復帰に至るまでの経験について明らかにすることである.COVID-19治療病棟に勤務する女性看護師1名を対象に,半構造的面接をオンラインにて行い,質的帰納的に分析した.結果,65コード,24サブカテゴリー,14カテゴリーが形成された.感染前には,COVID-19患者ケアを【志願せざるを得ない状況の中で自らを制御】し,感染直後には,【感染したショックと次々に起こる感染にまつわる不安】を抱えていた.入院中は,【COVID-19患者のケア経験から感染後の不安の増強】を感じていた.復帰時には,【職場の上司との関係性からのストレス】や【復帰してもぬぐえない後遺症や再感染の不安】を感じつつ,【職場復帰に向けて自ら取り組んで心身の強化】をしていた.したがって,COVID-19治療病棟に勤務する看護師には,感染しても復帰しやすい勤務体制の整備および長期的なメンタルサポートの必要性が示唆された.

  • 上野 富衣, 山川 京子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 82-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/15
    ジャーナル フリー

    〈目的〉中途採用看護師の職場適応と業務遂行,人的支援,周囲の人との関係の良さ,働きやすさとの関係を明らかにする.

    〈方法〉全国赤十字の91病院に勤務する中途採用看護師を対象に自記式質問紙調査を実施.職場適応度は「業務自律」「上司との関係」「職場雰囲気」「環境受容」の4因子からなる既存の尺度で測定し,自作した業務遂行10項目,人的支援29項目,周囲の人との関係の良さ4項目,働きやすさ4項目と職場適応との関係を分析した.

    〈結果〉187名を分析対象とした.職場適応度と業務遂行では,夜勤のリーダーができた,日々の業務リーダーができたとかなりの相関関係があった.人的支援では,看護師長からの支援2項目,プリセプターからの支援2項目,看護スタッフからの支援5項目とかなりの相関関係があった.周囲の人との関係の良さでは看護スタッフとの関係の良さとかなりの相関があり,働きやすさでは3項目と弱い相関があった.

  • 中村 滋子, 清田 明美, 本庄 恵子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 93-103
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/15
    ジャーナル フリー

    〔目的〕赤十字の理念を基盤とした施設に勤務経験のある熟練看護師の実践を明らかにする.

    〔方法〕赤十字の理念を基盤とした施設に勤務経験のある看護師6名に非構造化面接を行い,質的に分析し記述した.

    〔結果〕【みえてくるものすべてからその人らしさを拾う】【その人の気持ちをくみ取り心の風景を読む】【決めつけず,出会ったその時のままを大事にする】【スピード感をもった判断で見通す】【一般的な感覚をもち続ける】【看護ケアへのこだわりをもつ】【看護の考えを視点の異なる他職種に伝える力をもつ】の7つの実践が明らかになった.

    〔考察〕赤十字の理念を基盤とした施設に勤務経験のある熟練看護師の実践は,その人らしさを尊重する,「看護とは」を探求し実践にこだわる,という特徴があった.またひとりひとりを大切にする多様性を認める実践は,赤十字の理念である人道とリンクして今日に継承されていた.

  • 工藤 有希
    2022 年 23 巻 1 号 p. 115-124
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    目的:在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy;以下HOT)を受ける人が,どのように社会生活を行い,どのような思いを抱えているか,体験を明らかにする.方法:HOTを受ける9名に半構造化インタビュー法を用いて質的記述的に分析を行った.結果:【HOTの煩わしさから距離を置く社会生活】では,様々な負担を感じながらも,社会との関わり方を模索していた.【継続している社会生活】では,仕事や趣味を続けるために自分なりの工夫が加えられていた.【新たに創る社会生活】では,役割の再調整や他者との関係性から身の置き所を考える体験が明らかになった.結論:HOTを受ける人の社会生活を営む体験は,人や環境と関わりを持つことで,自己の中で生じる様々な感情や身体症状とのバランスを保ちながら,その人なりに工夫を凝らすものであった.当事者が望む社会生活には,社会全体でHOTの認知度を上げることが重要である.

実践報告
  • 園田 希, 西山 陽子, 苑田 裕樹, 原田 紀美枝, 大重 育美, 倉岡 有美子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/05
    ジャーナル フリー

    A大学は2020年度「看護の統合実習」を,臨地実習からオンライン実習へ変更した.本稿は「看護の統合実習」の企画とその評価を記述することを目的とする.A大学の「看護の統合実習」の目的は,病院や施設で,臨床に即した看護を経験する中で,専門職者として必要な知識・技術・態度を統合できる能力を獲得することである.学生は〈本物の患者を想像しながら事例に向き合えた〉ことや,〈記録物・ディスカッションに時間をかけることができた〉ことをオンライン実習の効果と捉えていた.一方,〈臨床と同様の臨場感が得られない〉こと,〈患者との双方向性のやり取りができない〉こと,〈学生や教員との意思疎通の不十分さ〉,〈自身の成長の手応えがない〉ことをオンライン実習の限界と捉えていた.以上のように,臨地実習からオンライン実習に変更し,学生はオンラインならではのメリットと限界を実感していた.本稿の結果から,オンラインによる実習の企画だけでなく,臨地実習前の講義・演習へのあり方についての示唆を得た.

  • 山田 典子, 板東 利枝, 鈴木 美里, 新井 浩和, 田村 真通
    2022 年 23 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/05
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,児童虐待対策委員会(以下,CAPSと略)委員の虐待支援に対する困難感を明らかにすることである.12人のCAPS委員にインタビューを行い,得られたデータはKJ法の手順に沿って分析した.

    CAPS委員は【医療者として責務を遂行】することを意識し,児童虐待に対して【事実確認の必然性】を認識し,【不確かな状況下で求められる医療者としての対応】や【虐待を疑われた親の反応と配慮】に困難を感じていた.特に,親への対応の困難感は祖父母も含めた【世帯間の価値観の多様化】や【親の特性と虐待との関連性】に苦慮し,【医療体制側の障壁】となっていた.

    【医療者の価値観に影響される現象の解釈】は,直接的支援や行政との連携を図る等【現況での対応策の試み】をし,【関連団体・施設との連携困難】の課題が諸現象から見え,【内在している家族が抱える問題】【医療者が抱える虐待見逃しへの危惧とジレンマ】が困難感を深める要素となっていた.

  • 萩原 智代, 鈴木 美里, 南部 泰士, 五十嵐 優子, 遠藤 恵美子, 齋藤 さおり, 佐藤 涼子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    目的:教員と臨地実習指導者が連携した授業展開を記述し臨床につながる取り組みへの示唆を得る.

    方法:授業の期待されるアウトカムを事前に設定し担当者で共通認識し授業展開を行った.授業後,学生に無記名自記式アンケート調査,臨地実習指導者にインタビューを行った.

    結果:学生アンケートでは「緊張感があった」「実践的指導が受けられた」が多く,臨地実習指導者のインタビューでは「統合看護技術における課題と新人看護職員育成につながる臨地実習指導者の気づき」として「学生自身」では【自分で得ている知識・情報を看護に生かしきれない】という特性,「統合看護技術に関する課題」では【大学での授業への理解】の一方で【学習方法と臨床実践の乖離】と感じ【OSCEに向けた練習による成長がある】というカテゴリが抽出された.

    考察:本実践で行った授業展開は学生の特性を捉え実践的な指導ができ学生の授業への参加意欲向上につながることが示唆された.

資料
  • 淡路 和暉
    2022 年 23 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,赤十字系看護大学のディプロマ・ポリシー(以下,赤十字DP)の独自性と看護学士課程教育におけるコアコンピテンシーとの連関を明らかにし,所属する看護学生として学ぶ意義(赤十字系看護大学の学生が,将来看護職として働くために,赤十字系看護大学で身につけることのできる能力)を考察することである.

    分析方法は,KH Coder(Ver.3.0)を用いて計量テキスト分析の手法にて,赤十字DPの内容分析を行った.

    分析の結果,赤十字DPは9つのカテゴリーが導き出され,その内容はコアコンピテンシーI~VI群を網羅していた.コアコンピテンシーには,「国内外」という記述はなく,赤十字DPの独自性であった.

    赤十字系看護大学生として学ぶ意義は,「人道」などの赤十字の理念を体現化した教育を受け,行動で示すことができる看護職者になることであると考えられた.

  • 岩澤 敦史, 井上 善行
    2022 年 23 巻 1 号 p. 36-45
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,国内の文献検討を通して現在行われている身体拘束への課題を整理し精神科病院における身体拘束最小化を目指すための必要な要因や対策に対して一定の知見を得ることである.医学中央雑誌web版を用いた文献検索を行い,2000~2021年に発表された文献から,本研究のテーマに即した19の文献について検討した.19の分析対象文献から23件の課題内容が抽出でき,「精神科スタッフの葛藤や身体拘束解除に伴う不安の解消」「認知症および高齢患者増加に伴う安全の確保」「身体拘束最小化に向けたデータの蓄積」「人員配置や医療者の意識・組織風土の変容」の4つのカテゴリに課題を分類できた.本邦の身体拘束件数は諸外国とは逆行して増加傾向にあるため,課題解決に向けて様々な専門性のもと広い公共圏で議論を行い,研究機関と現場施設が連携して必要以上の身体拘束を実施しない状態の実現を目指していくことが重要である.

  • 窪田 光枝
    2022 年 23 巻 1 号 p. 46-54
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,肺がん患者の治療に関連した経験に関する研究の動向と知見を明らかにし,今後の看護実践と研究の方向性の示唆を得ることである.医学中央雑誌web版(ver.5),CINAHL with Full Text, MEDLINE with Full Textを用いて「肺がん“lung cancer”」「患者“patients”」がタイトルに入る2015年以降に発表された原著論文を検索し,26文献を分析対象とした.治療別に患者の経験の記述を抽出し,類似の内容でまとめて整理した.その結果,薬物療法を受ける患者を対象とした文献が最も多く,標的療法や免疫療法で生存期間が延長されたことによって生じる新たな不確かさの様相や満たされないニーズが明らかになった.標的療法や免疫療法を受ける患者は増えており,治療によって延長された難治性がんを生きる患者の経験についてさらなる研究が必要であることが示唆された.

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