日本赤十字看護学会誌
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25 巻, 1 号
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原著
  • 長尾 幸恵
    2024 年 25 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,一般病棟における患者の意向に沿った終末期を支える患者と家族への看護実践を明らかにすることである.ナラティヴ・アプローチに基づくインタビュー調査を9名の看護師に行った.データは参加者毎に事例として再構成し,テーマ的ナラティヴ分析を行った.9事例の看護実践は,単に患者の意向を聞いてその通りに叶えるというものではなく,患者の病状や家族の状況,関係性に合わせて,よりよい方策を探りながらさまざまな障壁を乗り越え実現させていくプロセスであった.これらを解釈し,患者の意向を支えることに際立って影響を及ぼした実践として,次の5つの特質が明らかになった.1)意向の深い意味を捉える,2)家族のありように迫り患者と家族をつなげる,3)その人を大切にするケアに挑み続ける,4)看護チームとしてのケアを実現させる,5)一般病棟の特性をケアに活かす.本研究結果は一般病棟における終末期看護の卓越性の一端を示し,一般病棟特有の終末期看護を示すものであった.

  • 有家 香
    2024 年 25 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    目的:2年目看護師は,他職種を含むチームメンバーとのかかわりを通して,チームの一員としてどのように看護を実践しているのか明らかにする.

    方法:臨床経験2年目の看護師7名を対象に,参加観察法と半構造化面接法を用いた質的記述的研究である.

    結果:2年目看護師が,看護を実践している様相として,3つの大テーマ【自分中心からチーム志向へと考え方や行動の軸が変化する】,【期待される役割に応えようともがく】,【自分なりの看護を探し始める】が導き出された.

    結論:2年目看護師は,日々の業務の実践に慣れてきて時間に余裕が生まれたことで,チームの一員としての立場や状況に合わせて考えて行動するように軸の変化が起こっていた.また,もがきながら日々努力して困難さを伴う実践に挑んでいる姿も明らかとなった.2年目看護師にとって学びのサイクルを循環させるためには,先輩看護師の存在が重要であることが考えられた.

  • 高橋 美穂子, 宮本 眞巳
    2024 年 25 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    助産師には援助対象者のニーズを的確に捉えながら援助関係を構築する力が求められている.本稿は,同じ周産期病棟の助産師4名を対象に,援助関係論を基盤とした教育的な介入として「感情に焦点を当てた事例検討会」を行い,その学びの構造を明らかにしたものである.介入前後にインタビューとアンケートを実施し,質的統合法(KJ法)を用いて分析した結果,感情を活用することへの理解,発想の転換,ケアに活かせるという期待,の3段階の学びのプロセスと,それらの学びを支えた3つの側面が抽出された.また,学びのプロセスにおいて3つの困難が生じていたことが明らかになったが,教育的介入と実践とサポートの連続性が,困難からの脱却をもたらし,学びの深化と定着につながる可能性が見出された.「感情に焦点を当てた事例検討会」が,身体的・心理社会的に複合的な問題を抱えやすい周産期病棟において,有用な継続教育の方法であることが示唆された.

  • 田原 ゆう子, 本田 多美枝
    2024 年 25 巻 1 号 p. 111-122
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/05
    ジャーナル フリー

    目的:教育経験10年以上の看護系大学教員である教授,准教授の「一皮むけた経験」を明らかにする.

    方法:看護基礎教育での教育経験10年以上を有する教授,准教授6名に半構造化インタビューを行い,個別に質的記述的分析を行った.

    結果:看護系大学教員が一皮むけるきっかけとなった出来事は,研究に関する苦悩,職務に対する重圧,卒業生の自殺,多重課題などのキャリア上の危機であったが,出来事から内省し,あきらめない姿勢で危機に対峙していた.中でも5名に共通する危機には研究が含まれており,内3名は新任期に起こっていた.

    結論:看護系大学教員が新任期に研究と職務を両立させることはキャリア上の危機に相当するが,研究成果を公表し,社会から認められることが看護系大学教員としての自信につながり,教育力が育まれ,次世代育成につながっていた.ゆえに,看護系大学教員のキャリア発達にとって研究成果を公表していくことが重要であり,そのための組織的な研究支援が肝要であることが示唆された.

研究報告
  • 辻田 幸子, 安部 陽子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 33-42
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/15
    ジャーナル フリー

    目的:急性期病院の看護部トップマネジャが行っている看護補助者の活用を明らかにすることであった.

    方法:質的記述的デザインで,急性期病院の看護部トップマネジャ3名に半構造化インタビューを行った.

    結果:急性期病院の看護部トップマネジャの看護補助者の活用は,【目的・目標の明確化】【協働のための体制構築】【看護師長に委譲する協働のプロセス】【補助者との直接的なかかわり】の4カテゴリーから構成されていた.

    考察:看護部トップマネジャは,看護補助者の活用を看護師との協働と捉え,人事を伴う組織構造への介入など組織全体を動かすダイナミックな管理を実践していた.また,看護補助者の活用の課題は,看護補助者の確保の困難さであり,看護部トップマネジャは,施設方針を考慮しつつ,看護補助者の採用などを検討し,対応していた.看護補助者の活用の要である看護師長へのポジティブなフィードバックの重要性が示唆された.

  • 大谷 則子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    目的:一般病院の外来診療に携わる看護師に外来という場がどのように意味づけられ経験されているのか,看護師の経験がいかに外来という場を成り立たせているのか記述する.

    方法:一般病院の外来看護師2名に非構造化面接を行った.逐語録をデータとし,現象学的な態度を手がかりに記述・分析した.

    結果:研究参加者にとって外来は,「患者の困っていそうだなを見抜く場」「患者を気にかけ,違和を感じとる場」として経験されていた.経験は,それぞれの研究参加者の「退院支援をやりたい」「患者の気持ちを橋渡ししたい」という指向性に支えられていた.

    考察:研究参加者は,外来において個々の患者の生活に継続的に深く関与していた.その人への関心を基盤とし,対話を通して際立つ事象を把握し,生活に合わせた支援をしていた.業務に追われ,多くの困難の中で勤務していると捉えられがちな外来の看護について,本研究の結果は示唆を与えるものであった.

  • 松田 優子, 石田 咲, 森田 一三, 東野 督子, 下間 正隆
    2024 年 25 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    介護施設職員の感染対策力向上のために「標準予防策」と「経路別感染対策」の動画を作成,4施設の職員を対象に動画視聴効果を検討した.2施設を標準予防策動画の視聴群(A群),他2施設を経路別対策動画の視聴群(B群)とし視聴後に質問紙で質問した.2種類の動画視聴群と職業間の質問紙平均スコアの差は,二元配置分散分析にて分析し,問題毎にカイ2乗検定またはフィッシャーの正確確率検定で分析した.結果,経路別感染対策の得点はA群に比べB群で有意に高かった(p<0.001).項目別の分析では,B群看護職は「空気感染する病原体」の正答率がA群に比べ有意に高かった(p=0.026).介護職では「接触感染や空気感染の特徴」,「N95マスクの適応」に関する質問のB群正答率がA群に比べ高かった(p<0.001 to 0.048).介護施設職員の感染対策力向上に,特に経路別対策の動画視聴が有用である可能性が示唆された.

  • 菱沼 真千子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 88-95
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    筋萎縮性側索硬化症により意思疎通が困難な閉じ込め症候群の患者の意思を,訪問看護師がどのように理解し,ケアをしているかを明らかにすることを目的とした.TLS患者2名をケアしている訪問看護師4名に対して参加観察と半構造化面接を行った.結果,患者の意思の理解に関するカテゴリー《目の表情をよく見て調子の良し悪しを見分ける》《身体的なサインから本人の状態を確かめる》《TLSになる前からの患者との関わりを活かして患者の辛さを察する》と,患者の意思を踏まえたケアに関するカテゴリー《心地よさを感じてもらうケア》《話しかけて「今」を感じてもらい「自分」を感じてもらう》《その人らしさを認めて伝える》《家族の健康を見る》が明らかになった.訪問看護師は,目の表情から患者の調子の良し悪しと患者の思いを解釈してケアを行っていた.

  • 加門 恵
    2024 年 25 巻 1 号 p. 123-130
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:准看護師養成所の教務主任が抱く准看護師教育の現状に対する思いを明らかにする.

    方法:准看護師養成所の教務主任の中で経験3年以上3名の教務主任に協力を得て,半構成的面接法を用いた質的記述的研究で実施した.

    結果:准看護師教育の現状に対し語った内容を分析して再構成した結果,202コードが得られ,8つのサブカテゴリーに分類された.そして,サブカテゴリーに共通する3つのカテゴリー【様々な背景を持つ学生に対する指導が難しい】【現場で通用する准看護師を育てたいという思いと准看護師の教育内容に板挟みを感じる】【努力をしても実習場所と専任教員の確保が難しい】が得られた.

    考察:教務主任は,入学生の背景の変化により学生を教育する上での困難と准看護師の教育内容との間で揺れ動く思いを抱え,教育に取り組んでいることが明らかになった.准看護師として働く卒業生が困らないよう准看護師教育内容の議論の継続は必要であると考える.

  • 森本 浩史, 東野 督子, 小林 尚司
    2024 年 25 巻 1 号 p. 131-141
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/15
    ジャーナル フリー

    目的:ICU熟練看護師の人工呼吸器装着患者に対する呼吸音聴診では,どのような手技や内容が選択され,どのような経験があったのかを明らかにする.

    方法:ICU熟練看護師9名に半構成的面接を行った.面接結果は呼吸音聴診における手技や内容,ICU熟練看護師の経験に基づいて分類,カテゴリー化した.

    結果:ICU熟練看護師が人工呼吸器装着患者に対し実践している呼吸音聴診として,【患者の苦痛緩和を目的とした多面的な情報に基づく呼吸音の予測や選択的聴取】等の4カテゴリー,20サブカテゴリーが示された.経験は【呼吸音の解釈が呼吸ケアと病状変化に及ぼす影響の理解】等の4カテゴリー,9サブカテゴリーが示された.

    結論:ICU熟練看護師は,人工呼吸器装着患者の苦痛緩和のため,多面的な情報に基づいて呼吸音を予測・確認し,病態や体位に応じて聴診部位や頻度を選択し,適切なタイミングで聴診していた.これらは呼吸音聴診に基づく呼吸ケアが,人工呼吸器装着患者に与える影響を理解した経験を通し精錬されていると捉えられた.

実践報告
  • 糸川 紅子, 荻原 麻紀, 髙橋 のどか, 井上 善行, 新田 純子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,看護過程展開で解剖生理や病理などの理解を深めた事例を用いたシミュレーション演習における早期離床を安全に実施するための学生の判断を明らかにし,教育的示唆を得ることである.

    看護過程展開と同一事例を模擬患者で再現した早期離床支援のシミュレーションの参加者7名によるデブリーフィング・シートの「安全確保の留意点」の記述から学生の判断を抜粋し,質的統合法で分析した.その結果,早期離床支援の安全確保における学生の判断として【離床の可否の確認】,【離床に向けた協力体制の構築】,【離床に伴う事故防止】や【離床に伴う合併症予防】が示された.看護過程と同一事例を用いたシミュレーションは急性期リハビリテーションの安全確保で推奨される十分な観察,段階的な支援による身体的負荷の低減や異常の早期発見・対処につながる協力体制の構築を網羅し,早期離床の安全確保に重要な判断を学ぶ方法として有用性があるといえる.

  • 梅野 華乃子, 糸川 紅子, 新田 純子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 104-110
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/05
    ジャーナル フリー

    看護系大学におけるがん看護の科目において,看護学生がAYA世代のがんの課題をどう捉えたか,その様相をリアクションペーパーの分析に基づき報告する.分析は,テキストマイニングの手法を用いた.看護学生は,AYA世代のがんについて,【患者が長期に抱える心理・社会的困難】や【ライフイベントと治療の両立】などの臨床的課題と同様の課題を捉えていた.一方で,【健康維持のための食習慣】や【予防意識の向上】など,特発的な希少がんが多いAYA世代のがんの病態と異なる理解も示していた.看護学生のAYA世代のがんに関する理解には,疾病の成り立ちに関する基礎科目や,初等・中等教育におけるがん教育の影響が推測された.看護学生にAYA世代のがんに関する講義を行うにあたり,学生がこれまでに学習してきたがんに関する知識や,学生が持っているがんに対するイメージについて確認していく必要があると考えられた.

資料
  • 服部 弓子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

    目的:看護専門学校の教員が病院以外の場で母性看護学実習を展開する上での工夫と課題を明らかにする.

    方法:3年課程看護専門学校に所属している母性看護学実習担当教員4名に対し半構成的面接を行い,主要なテーマを抽出した.

    結果:病院以外の場で母性看護学実習を展開する上での工夫として,【母性看護学としての幅広い学びが得られるように設定する】【病院における分娩直後の母子への看護ケアと関連させる】【教員不在の実習に備える】【実習の場を常に探す】が抽出された.【実習の場の根本的不足】【実習内容設定の難しさ】【実習指導の難しさ】が課題として示された.

    考察:看護専門学校の教員は,病院以外の場での実習の位置づけを検討し,その意義を認めながらも,病院以外の場を実習施設として確保していくことの現実的な難しさと希望する実習体験の得づらさや教員不在な状況で実習指導を行う難しさがあることが明らかになった.

  • 込山 洋美
    2024 年 25 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    世界的に増加傾向にある炎症性腸疾患患者の発症の1~2割は小児期,特に思春期から青年期に多く見られ,小児医療の領域では移行期医療・支援も課題となっている.そこで,2007~2023年までの国内における思春期・青年期のIBD患者と家族の体験に関する研究論文を検討し,その特徴と必要な支援を明らかにすることを目的に文献検討を行った.その結果,思春期・青年期IBD患者の体験は日常的にある症状による辛さ,学校生活における困難さと辛さ,日々繰り返される療養行動,病気を抱えながら生活する思い,ソーシャルサポートに分類され,家族の体験としては,母親の心情,子どもの病気に自ら取り組む,他者からのサポートに分類された.思春期・青年期患者と家族との親子間の軋轢を調整しながら,疾病による生活への影響を最小限にし,より自分らしく健康を維持できるようなセルフケアを習得できることを目指し,親子双方への支援をしていくことが必要である.

  • 種本 純一, 志賀 加奈子, 石﨑 智子
    2024 年 25 巻 1 号 p. 96-103
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    日本の看護倫理科目の教授方法の現状と課題を明らかにするため,文部科学省ホームページに記載されている文部科学大臣指定の看護学科のある私立大学全204校を対象にシラバス調査を実施した.看護学科のある私立大学のうち,7割近い大学が看護倫理科目を開講していた.講義のみとしている大学は10校(9.2%)に留まっており,9割近くの大学がアクティブラーニングを取り入れていた.現行の看護倫理科目においては看護師として倫理的に判断し,行動するための基礎的能力を養うための教授方法としての効果が十分に検証されていない現状が窺えた.今後の課題として,アクティブラーニングをはじめとする具体的な方法論とその効果,他の関連科目における位置づけや科目担当者との連携等の研究が必要であることが示唆された.

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