近年, 核磁気共鳴画像 (MRI) や, 生検技術の進歩に伴い, 前立腺内部の“臨床的に意義のある癌” (significant cancer) の局在診断の精度が飛躍的に向上した. 前立腺全摘除術後の摘出標本をみて, 初めて癌局在を認識する時代から, 癌局在とその悪性度を診断してから治療へと進む時代が到来したと言っても過言ではない. 画像診断や生検技術の進歩のみならず, 治療モダリティーも進歩した. 従来は, 前立腺全体を治療した凍結療法, 小線源療法, 高密度焦点式超音波療法は, 長期臨床成績が示されたと同時に, 治療技術や機器の進歩により, 前立腺内部の標的領域を正確に治療可能となった. これら複合的な技術の進歩が融合し, 前立腺癌標的局所療法 (focal therapy) が実施可能となった.
Focal therapyは, significant cancerを治療する一方, 可能な限り正常組織を温存することで, 癌制御と生活の質の温存を両立する治療戦略であり, 高齢化社会である, わが国における期待は大きい. わが国では, 2016年に前立腺癌診療ガイドラインにおいて, 限局性前立腺癌の治療戦略の一つとして示されたが, 残念ながら現在のところ, 普及には至っていない. しかし, その後に報告された国内外の臨床成績は, その有効性と安全性を期待させるものであった. 現在, 世界的に使用されているfocal therapyの主なモダリティーは, 凍結療法, 小線源療法, および高密度焦点式超音波療法 (high-intensity focused ultrasound : HIFU) であり, わが国では治験, 保険診療, 先進医療として, それぞれ実施されている.
Focal therapyの実施施設では, 正確な癌局在診断, 正確な治療, そして, 経過観察方法といった課題に挑みながら, 臨床研究に取り組んでいる. 本特集では, わが国において, focal therapyを凍結療法, 小線源療法, HIFUにより実施している3名のエキスパートの先生にfocal therapyの最前線について, 今回お示しいただくこととした.
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