【はじめに】
本邦における膀胱癌の新規患者数は年間2万人以上とされており, その内70%以上が筋層非浸潤性膀胱癌 (NMIBC) (0期, 1期) です. 5年生存率は, 80%以上と報告されており1), 生命予後は比較的良好であるが再発が多く, 繰り返し施行するTURBTによる頻尿や尿失禁は患者のQOLを大きく低下させます. また, BCGや抗がん剤の膀胱内注入法が治療法として保険収載されているが確立された治療とは言えず, 進展して筋層浸潤を来す症例, あるいは, BCG不応性の再発例には, 膀胱全摘除術が標準治療となっています.
再発のピークは2峰性でTURBT後500日以前の早期再発とそれ以後に再発する後期再発があります2). 早期再発はTURBT時の残存腫瘍や腫瘍細胞の腔内播種が原因として考えられ, 経口5-アミノレブリン酸 (5-ALA) 塩酸塩を用いた光線力学診断補助下TURBT (PDD-TURBT) は, 再発率低下に繋がる治療方法の一つです.
【PDD-TURBTの原理と有用性】
5-ALAは, 光感受性物質であるプロトポルフィリンIX (PPIX) の前駆物質でポルフィリン生合成経路を通じてヘムに代謝されるが, がん細胞では正常細胞と比較して, ヘムへの代謝能が低いため, 5-ALAはがん細胞内にPPIXとして集積します3). PPIXは波長375-445 nmの青色光を照射すると, 赤色光 (600-775 nm) を放出し, いわゆる“がん細胞が赤く光る”ため通常の白色光では見えにくいような小さな病変, 特にcarcinoma in situ (CIS) など, 境界が判然としない病変も視認しやすくなり, 再発防止に繋がると報告され4), 日本泌尿器科学会の2019年版膀胱癌診療ガイドラインでPDD-TURBTはNMIBCの治療の際に膀胱癌の再発率低下につながることから推奨とされています5).
また, PDDは偽陽性が多いと言われていますが, その要因としてPPIX蓄積を伴う異形成による組織学的要因の可能性があるとされており, このような偽陽性粘膜では染色体9番上の変異があり, 切除すると再発率が低下する傾向にあることを示した報告もあります6), 7). このように, PDDは癌病変の他に前癌病変も視認している可能性があり, 前癌病変を切除することで, 再発率低下につながった可能性が考えられ, 今後, さらなる研究の進展が期待されています.
【副作用】
本剤の副作用で重要なものに, 肝機能障害, 光線過敏症, 低血圧, 嘔吐・嘔気があげられます. 肝機能障害は一過性に肝酵素の上昇を認めるも, 術後1週間以内に自然に改善することがほとんどで, 光線過敏症に関しても, 投与後48時間を照度500ルクス以下の室内で過ごさせることで予防できます. 低血圧に関しては, 昇圧剤を服用する必要のある症例が多数報告されており, 特に長時間にわたる昇圧治療を要する遷延例が問題とされています.
【まとめ】
以上, 簡潔にPDD-TURBTの臨床における概要を述べましたが, 本稿では, PDD-TURBTの開発と発展に貢献されてきた施設から3名の膀胱癌治療のエキスパートの先生方に「PDD-TURBTの有用性とピットフォール」について論じて頂いています.
高知大学の山本新九郎先生には, 「偽陽性に着目したPDD-TURBTの有効性とピットフォール」を, 大阪医科薬科大学の小村 和正先生には, 「PDD併用en-bloc TURBTの経験と可能性」のタイトルで, 臨床におけるPDD-TURBTの有用性に焦点を絞った内容で, また, 奈良県立医科大学の三宅 牧人先生からは, 「PDD-TURBTのエコノミカルベネフィットを見つめる」というテーマで, 経営的見地からみたPDD-TURBTの有益性についてご教授頂きます. 是非, 最後までご一読下さい.
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