Japanese Journal of Endourology and Robotics
Online ISSN : 2436-875X
最新号
選択された号の論文の35件中1~35を表示しています
特集1 : 前立腺肥大症に対する新規経尿道的手術―各術式のポイントとコツ―
  • 小林 恭, 井川 掌
    2025 年38 巻1 号 p. 1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    1. 「前立腺肥大症手術に必要な解剖」

     遠藤文康 (聖路加国際病院泌尿器科)

    2. 前立腺肥大症に対する経尿道的ツリウムレーザー内視鏡手術

     小路 直 (東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学領域)

    3. RezumTMシステム

     設樂敏也 (渕野辺総合病院 泌尿器科)

    4. 経尿道的前立腺吊り上げ術

     持田淳一 (日本大学医学部泌尿器科学系泌尿器科学分野)

    5. 前立腺肥大症手術を考える ~現状とこれから~

     西原聖顕 (久留米大学医学部泌尿器科学講座)

     

     時を遡ること5億年あまり, 古生代カンブリア紀の初頭に地球上の生物種の多様性が一気に高まったいわゆるカンブリア爆発 (Cambrian explosion). 近年の前立腺肥大症に対する経尿道的手術も続々と新規技術や術式が開発され,さながらカンブリア爆発の再来のようだと言ったら大袈裟だろうか.

     本特集では, 一気に多様化しつつある前立腺肥大症に対する経尿道的手術に焦点を当てたものである. 今後参入を検討している読者にとっては当然興味のあるところだと考えるが, 現状自ら直接携わる予定はないという読者にとっても, 患者さんに尋ねられたり紹介の必要に迫られたりといった場合を考えれば, 知っておいて損はない基本的な知識となる内容となっている.

     新規技術・術式を評価する上で基礎知識として欠かせない男性下部尿路の解剖に始まり, 新規レーザー技術を用いた蒸散術, 水蒸気治療, インプラントによる吊り上げといった最新の術式について, その特徴を踏まえて解説いただき, 最後に前立腺肥大症に対する経尿道的手術に関する今後のあり方について展望していただく.

     冒頭のカンブリア爆発では, 多様な生物種が一気に誕生しただけでなく, 今日見られる動物の門の多くが出現したとされる. つまりその時代に出現した新種をルーツとする生物が淘汰の波を乗り越え, 現代の生態系の根幹を成している. この数年で一気に増えた前立腺肥大症に対する経尿道的手術が, 今後どのように進化を遂げ, どの術式が生き残り未来のスタンダードになるのか. 本特集からその行末を占っていただくのも面白いのではないだろうか.

  • 遠藤 文康
    2025 年38 巻1 号 p. 2-5
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本論説では, 前立腺肥大症手術における機能温存のための解剖学的理解と, それに基づく手術手技に焦点を当て解説する. 低侵襲手術療法 (MIST) であるPULやWAVE, さらに尿道温存を可能にするUrethral-sparing RASP (usRASP) の導入により, 尿禁制や射精機能の温存が可能になってきており, 機能とその責任解剖領域科が明らかになってきている.

     また, 従来は術後の一過性腹圧性尿失禁 (SUI) が問題となっていたHoLEPでは, オメガサイン技術やearly apical releasingといった手法を導入することで, 外括約筋を温存し, SUIの発生を低減する効果があると報告されている.

     射精機能温存については, 精阜周囲の温存が重要であり, TURPやPVPで高い射精機能温存率が達成されている一方で, HoLEPでは意図的に尿道温存がむずかいことから射精機能温存には限界が見られる. Aquablationはbutterfly cutにより射精機能を高い再現性で, 温存することができるとされている.

     これら解剖の知識と種々の手術の成績の知見を積み重ねていくことで, それぞれの術式でよりよい術後QOLを目指すことができると考えている.

  • 大瀧 達也, 小路 直
    2025 年38 巻1 号 p. 6-10
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     ツリウムレーザーの波長は, 1,940-2,013 nmと水分子に吸収されやすく, 前立腺組織への深達度は, 0.2 mm程度と浅い. レーザーは, 連続波, および非連続波での照射が可能であり, 軟部組織の切開, 蒸散のみならず, BPHにおける剥離, 核出操作に有用である. 米国泌尿器科学会や欧州泌尿器科学会では, ツリウムレーザー前立腺核出術は, ホルミウムレーザー前立腺核出術や経尿道的前立腺切除術と同等に標準治療として示されている. ツリウムレーザーの蒸散における特徴として, 高出力による照射により, 蒸散効率を向上できる一方, 深達度には変化を及ぼしにくい可能性が示されている. 近年では, ツリウムヤグレーザーにおいて, 連続波 (CW) とパルス波の両方のモードで動作可能なハイブリットレーザー技術が開発されたことで, 組織切開や蒸散に加えて, 剥離操作に従来よりも有利な効果が期待されている. ツリウムレーザーを用いた経尿道的内視鏡手術は, レーザーの特徴を十分に理解した上で, 実施することが重要である.

  • 設樂 敏也, 杉田 佳子
    2025 年38 巻1 号 p. 11-19
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     現在, 前立腺肥大症の外科的治療は数多く存在しわが国では近年内視鏡核出術が最も多く施行されるようになった. 一方様々な理由で外科的治療を受けることが出来ない患者も一定数存在するがこれまで有効な治療手段が存在していなかった. 2022年9月にわが国で認可されたRezumTMシステムを用いた前立腺水蒸気治療 (water vapor energy therapy : 以下WAVE) は内視鏡下に行う水蒸気を利用した手術で低侵襲治療 (Minimally Invasive Surigical Therapy : MIST) と呼ばれる治療法の一つである. WAVEの出現でこれまで手術を受けられなかった患者にも治療の可能性が広がったと言える. WAVEは水蒸気による組織の熱変性により前立腺肥大が縮小することで下部尿路閉塞を解除し排尿状態を改善する治療であるが治療後一時的ではあるが前立腺が腫脹し排尿障害が強くなるためバルンカテーテルの留置が必要となる. 前立腺の縮小は3-6カ月にかけてみられ5年間の治療効果が確認されている1). 今後わが国でも前立腺肥大症治療の新たな選択肢として期待されて治療成績の報告が待たれる.

  • 持田 淳一, 大日方 大亮, 髙橋 悟
    2025 年38 巻1 号 p. 20-24
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     前立腺肥大症の薬剤療法とTURPなどの従来の手術療法の間を埋める低侵襲な外科的治療法として, 2022年4月よりUroLift2®システムを用いた経尿道的前立腺吊り上げ術が本邦で保険適応となった. 合併症の多いハイリスク患者やポリファーマシーによる影響が危惧される高齢者にとって, 安全かつ効果的な治療法として現在期待されている術式である. 本手術は適切なanterior channelを形成することで, 下部尿路症状に対し有効性を発揮する. 専用のデバイスを用いた術式のため, 術中の操作上の注意点を学び, 前立腺の形状の違いによるインプラントの刺入部位の選定法や留置方法を理解する必要があり, 稀ではあるが骨盤内血腫など特有の合併症も発生しうることから, 術者には十分な技術の習得が求められる. 今回, PUL手術における適切なchannel形成のポイントとコツについて概説する.

  • 西原 聖顕
    2025 年38 巻1 号 p. 25-29
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     前立腺肥大症に対する手術の第一目標は, 前立腺肥大に伴う膀胱出口閉塞に起因する下部尿路症状の改善である. その主体をなすものは「前立腺組織の除去」を目的としたTURP, HoLEPやPVPなどの術式であり, 本邦でも広く普及している. 近年, 新規低侵襲的外科治療 (MIST) としてPULやWAVEなどの術式に代表される新たな術式が誕生している. その特徴は出血などの有害事象の軽減, 麻酔による負担の軽減により, 全身状態が不良で合併症のリスクが高い症例や抗血栓薬を服用中で出血のリスクが高い症例などの従来の手術療法が実施困難であった症例なども手術可能である. また, MISTの多くは術後の射精機能などの性機能も温存可能であることより, 下部尿路症状の改善かつ, 術後のQOLも重要視するような症例に対しても有用な術式となりうる. 近年, 米国においてはMISTによる手術症例の割合が大きく増えており手術傾向は大きく変化してきている. 本邦においても近年ではTURPよりHoLEPやPVPなどのレーザー手術の割合が多くを占めており, 今後, MISTの登場でさらに大きく変化することが予想される. 前立腺肥大症に対して多くの術式が利用可能となることであらゆる患者のニーズに合った治療を提供できることは我々泌尿器科医としては喜ばしいことである. それぞれの術式にはそれぞれの特徴があり, その特徴を十分に理解し, 手術を必要とする患者に対し最適な治療を提供できるように努力していく必要がある.

特集2 : 最新のエビデンスからみる尿路結石手術の適応と守備範囲
  • 山本 新吾, 安井 孝周
    2025 年38 巻1 号 p. 30
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     尿路結石治療に革命をもたらしたESWL (extracorporeal shockwave lithotripsy : 体外衝撃波砕石術) の登場は40年以上前である. 近年は, 軟性尿管鏡, レーザー, 関連デバイスの進歩によって, 内視鏡手術が大きく発展した. 画像診断ではCTが一般化し, 局在診断のほか結石・尿路の情報から治療方針決定にも利用されている. PNL (percutaneous nephrolithotripsy : 経皮的腎砕石術) のトラクトは細径化し, f-TUL (flexible transurethral ureterolithotripsy : 軟性尿管鏡下経尿道的腎尿管結石砕石術) の急速な普及, ECIRS (endoscopic combined intrarenal surgery : 内視鏡併用腎内手術), RIRS (Retrograde Intrarenal Surgery : 逆行性腎内手術) の登場などから, 適応も大きく変化した. その中にあってESWLの守備範囲もおおきく変化している. さらに, 内視鏡, 砕石器, デバイスのいずれかひとつでも技術が進化, 新たな製品が登場するたびに, 最適治療の選択が変化し, 治療成績や合併症の発生率も常に変化しているため, 尿路結石治療を考えるうえで最新のエビデンスに基づいた治療戦略が必要である.

     本特集では最新のエビデンスから尿路結石手術の適応と守備範囲をテーマに治療経験が豊富な先生方から寄稿いただいた. はじめに, 柑本康夫先生から, 尿路結石の成因と腎尿管の解剖について解説いただいた. 手術治療にあたっての尿路結石の理解が深まると確信する. ついで, 手術治療については, 濵本周造先生にESWL, 岩本秀安先生にECIRS, 井上貴昭先生にRIRSの現状, 適応, 限界, 注意点など詳細に解説いただいている. 最後に, 岡田淳志先生に, 最新の腎結石治療について, 現在の手術適応とそれぞれの術式の守備範囲について総括いただいた.

     毎年のように変化していく尿路結石治療の適応に悩む泌尿器科医にとって本特集は有用と確信するとともに, 治療決定の参考になれば幸いである.

  • 柑本 康夫, 山下 真平, 原 勲
    2025 年38 巻1 号 p. 31-35
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     尿路結石の成因を理解することは術後の再発予防のみならず, 手術適応を検討するためにも重要である. また, 術前画像検査により手術に必要な解剖学的情報を得ることは, 適切な術式選択や効率的で安全な手術に不可欠である. 本稿では, 尿路結石手術に携わる泌尿器科医が知っておくべき尿路結石の成因および腎尿管の解剖について解説する. (1) 尿路結石の成因 : 近年, 尿路結石形成の分子生物学的機序 (尿細管細胞障害, 炎症, 酸化ストレス, オステオポンチン, マクロファージなど) や病理組織学的機序 (Randall’s plaqueなど) が明らかにされてきたが, 現状で臨床応用されているのは物理化学的機序 (結晶核形成, 成長, 凝集, 結石化) に基づく治療である. 尿酸結石やシスチン結石における尿アルカリ化療法により手術を回避できる症例もあることや, 原発性副甲状腺機能亢進症, 腎尿細管性アシドーシス, 腸性高シュウ酸尿症などの基礎疾患を有する症例では腎結石に対する手術よりも基礎疾患の治療を優先すべき場合もあることなどに留意すべきである. (2) 腎尿管の解剖 : ESWL, TUL, PNL/ECIRSの治療成績に影響する重要な因子である. ESWLでは下腎杯結石は排石されにくいため, f-TULやPNL/ECIRSが優先される. さらに, 下腎杯の形態はESWLのみならず, f-TULの治療成績にも影響することが報告されている. TULでは, 尿管の生理的狭窄部や3次元的弯曲をともなった走行を, PNL/ECIRSでは, 腎と周囲臓器との位置関係や腎の内部構造 (血管や尿路) を理解しておく必要がある.

  • 濵本 周造, 河瀬 健吾, 岡田 淳志, 安井 孝周
    2025 年38 巻1 号 p. 36-40
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     尿路結石の罹患率は増加しており, その治療法の選択が臨床現場において重要な課題となっている. 低侵襲である体外衝撃波結石砕石術 (Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy ; ESWL) は, 結石の特性や患者の個別因子に応じて高い効果を発揮するが, 再治療が必要となる症例も少なくない. 一方, 近年急増している経尿道的尿管砕石術 (Transurethral Lithotripsy ; TUL) は, 単回での結石除去率は高いものの, 発熱や敗血症, 尿管狭窄といった周術期合併症のリスクが懸念される. 昨今, ガイドライン改定や技術革新により, ESWLの適応が見直される中, 適切な適応選択や新たな治療アプローチの導入が求められている. 本稿では, ESWLを再考し, その適応範囲, 成功に関わる要因,またそれらに基づいた効果的な治療方法を概説する.

  • 岩本 秀安, 大橋 かすみ, 小林 隆彦, 賀本 敏行
    2025 年38 巻1 号 p. 41-46
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     内視鏡併用腎内手術 (endoscopic combined intrarenal surgery : ECIRS) は, 腎臓内視鏡手術の最先端技術の一つであり, サンゴ状結石のような複雑な腎臓結石において標準的な治療として位置付けられるようになってきた. 経皮的腎砕石 (percutaneous nephrolithotipsy : PNL) と経尿道的腎尿管結石砕石術 (transurethral lithotripsy : TUL) を組み合わせて上部尿路結石を治療する術式で, 従来までのPNLやTUL単独手技と比較し, 理想的な砕石と抽石効果が期待できる. しかし, 経皮的アプローチを必要とし, 手術の技術には依然として高い障壁が存在している. 本稿では, ECIRSの現在の適応とその限界について考察し, 今後の展望についても言及したい.

  • 藤田 雅一郎, 井上 貴昭
    2025 年38 巻1 号 p. 47-51
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     近年の医療機器分野の開発スピードは速く, 尿路内視鏡治療においてもこの数年で大きな進歩を遂げている. 中でもRetrograde Intrarenal Surgery (RIRS) は10年前と比べて, 軟性腎盂尿管鏡, レーザー機器などの周辺デバイス開発が進み, 治療適応, その方法が日々変わってきている. そのため, 我々臨床医はこの変化についていき, 新しい知識を知る必要がある.

  • 岡田 淳志
    2025 年38 巻1 号 p. 52-56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     尿路結石治療において, 外科的治療を安全に有効に行うための新たな技術が開発されつつある. 本稿では, 最新のエビデンスに基づく治療の適応と守備範囲を総括する. 内視鏡技術の発展により低侵襲手術が普及する一方で, 術後合併症の増加が課題として指摘されている. ツリウムファイバーレーザーは, 従来のホルミウムレーザーと比較してエネルギー効率が高く, 微細な砕石片の生成や残石率の低下が期待されている. また, 腎盂内圧制御デバイスや吸引機能付きアクセスシースの導入により, 術中の腎内圧管理が可能となり, 安全性向上に寄与している. さらに, ロボティクス技術は, 術者の身体的負担軽減や操作精度向上を実現し, 複雑な症例への適応が広がっている. 一方で, 高コストや学習曲線の課題が普及の妨げとなっている. AI技術は, 体外衝撃波結石破砕術の治療成功率予測や患者個別化医療の最適化に有望とされるが, リアルタイムでの結石位置追跡や破砕効果評価の技術開発は今後の課題である. 結論として, 尿路結石治療は, 低侵襲性, 患者QOL向上, 安全性の確保を目指し進化を続けている. 最も安全な治療は手術を回避することであることを忘れず, 正確な診断, 適切な手術適応の判断, デバイスの選択, リスク評価と予防治療の実施が重要である. 本稿が, 読者の尿路結石診療の一助となれば幸いである.

特集3 : PDD-TURBTの有用性とピットフォール
  • 東 治人, 井上 啓史
    2025 年38 巻1 号 p. 57-58
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

     本邦における膀胱癌の新規患者数は年間2万人以上とされており, その内70%以上が筋層非浸潤性膀胱癌 (NMIBC) (0期, 1期) です. 5年生存率は, 80%以上と報告されており1), 生命予後は比較的良好であるが再発が多く, 繰り返し施行するTURBTによる頻尿や尿失禁は患者のQOLを大きく低下させます. また, BCGや抗がん剤の膀胱内注入法が治療法として保険収載されているが確立された治療とは言えず, 進展して筋層浸潤を来す症例, あるいは, BCG不応性の再発例には, 膀胱全摘除術が標準治療となっています.

     再発のピークは2峰性でTURBT後500日以前の早期再発とそれ以後に再発する後期再発があります2). 早期再発はTURBT時の残存腫瘍や腫瘍細胞の腔内播種が原因として考えられ, 経口5-アミノレブリン酸 (5-ALA) 塩酸塩を用いた光線力学診断補助下TURBT (PDD-TURBT) は, 再発率低下に繋がる治療方法の一つです.

    【PDD-TURBTの原理と有用性】

     5-ALAは, 光感受性物質であるプロトポルフィリンIX (PPIX) の前駆物質でポルフィリン生合成経路を通じてヘムに代謝されるが, がん細胞では正常細胞と比較して, ヘムへの代謝能が低いため, 5-ALAはがん細胞内にPPIXとして集積します3). PPIXは波長375-445 nmの青色光を照射すると, 赤色光 (600-775 nm) を放出し, いわゆる“がん細胞が赤く光る”ため通常の白色光では見えにくいような小さな病変, 特にcarcinoma in situ (CIS) など, 境界が判然としない病変も視認しやすくなり, 再発防止に繋がると報告され4), 日本泌尿器科学会の2019年版膀胱癌診療ガイドラインでPDD-TURBTはNMIBCの治療の際に膀胱癌の再発率低下につながることから推奨とされています5).

     また, PDDは偽陽性が多いと言われていますが, その要因としてPPIX蓄積を伴う異形成による組織学的要因の可能性があるとされており, このような偽陽性粘膜では染色体9番上の変異があり, 切除すると再発率が低下する傾向にあることを示した報告もあります6), 7). このように, PDDは癌病変の他に前癌病変も視認している可能性があり, 前癌病変を切除することで, 再発率低下につながった可能性が考えられ, 今後, さらなる研究の進展が期待されています.

    【副作用】

     本剤の副作用で重要なものに, 肝機能障害, 光線過敏症, 低血圧, 嘔吐・嘔気があげられます. 肝機能障害は一過性に肝酵素の上昇を認めるも, 術後1週間以内に自然に改善することがほとんどで, 光線過敏症に関しても, 投与後48時間を照度500ルクス以下の室内で過ごさせることで予防できます. 低血圧に関しては, 昇圧剤を服用する必要のある症例が多数報告されており, 特に長時間にわたる昇圧治療を要する遷延例が問題とされています.

    【まとめ】

     以上, 簡潔にPDD-TURBTの臨床における概要を述べましたが, 本稿では, PDD-TURBTの開発と発展に貢献されてきた施設から3名の膀胱癌治療のエキスパートの先生方に「PDD-TURBTの有用性とピットフォール」について論じて頂いています.

     高知大学の山本新九郎先生には, 「偽陽性に着目したPDD-TURBTの有効性とピットフォール」を, 大阪医科薬科大学の小村 和正先生には, 「PDD併用en-bloc TURBTの経験と可能性」のタイトルで, 臨床におけるPDD-TURBTの有用性に焦点を絞った内容で, また, 奈良県立医科大学の三宅 牧人先生からは, 「PDD-TURBTのエコノミカルベネフィットを見つめる」というテーマで, 経営的見地からみたPDD-TURBTの有益性についてご教授頂きます. 是非, 最後までご一読下さい.

  • 小村 和正, 前之園 良一, 西村 一希, 辻野 拓也, 東 治人
    2025 年38 巻1 号 p. 59-63
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     筋層非浸潤性膀胱がん (NMIBC) の治療において, 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) は診断治療を兼ね備えた最も重要な手術である. 5-アミノレブリン酸 (5-ALA) 内服による光線力学診断法 (photodynamic diagnosis : PDD) 併用TURBTは, とくにCarcinoma In Situ (CIS) の検出率向上に寄与し, 膀胱内再発率を低下させることが示されている. 近年同時にTURBTにおいて腫瘍を一塊切除するen-bloc TURBTが注目されている. 従来のTURBTでは腫瘍細胞の尿路内播種の可能性や腫瘍細断化による病理診断の精度に課題があったが, en-bloc TURBTはこれらを改善し得る手技として注目されている. しかし, en-bloc TURBTの膀胱内腫瘍再発抑制効果には明確なエビデンスが不足しており, 2019年度版膀胱がん診療ガイドラインにおいてもNMIBC治療においてen-bloc TURBTに関する記述はされていないのが現状である. 近年デバイス進化が進んでおり, 当教室ではPDD併用en-bloc TURBTをNMIBC症例に積極的に施行していることから, ここではその経験と可能性について議論する.

  • 三宅 牧人, 西村 伸隆, 藤本 清秀
    2025 年38 巻1 号 p. 64-69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     膀胱癌治療の出発点は, 経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT) であり, 腫瘍の摘出と診断を兼ねた根幹をなす尿路内視鏡手術である. しかしながら, 切除断端残存腫瘍, 白色光膀胱鏡では確認が困難な微小病変や平坦病変である上皮内癌の存在など, 膀胱癌の生物学的な特徴やTURBTという手術手技の不確実性は治療成績に大きく影響する. 2017年12月, 経口アミノレブリン酸塩酸塩を用いた光力学診断併用TURBT (PDD-TURBT) が本邦保険承認され, 7年が経過した. この術中イメージング技術はこれまでのTURBTの不確実さの補填, 手術スキルの均霑化を通じて, 治療成績の改善に寄与してきた. 本新規技術の導入によってもたらされた真の臨床的意義を, 有効性・安全性・医療経済性など多岐にわたる観点から明確にすべき時期がきている. PDD-TURBTは, 初回治療後の頻回膀胱再発を抑制し, 再入院・再手術・術後追加治療を減少させ得ることに加え, 治療強度・検査強度が増すことになる疾患進展をも抑制することも明らかとなってきた. 初期投入費用に対してどれだけのベネフィットが得られるかを評価することは本邦保険医療の効率性を考える際に必須である. しかしながら, 医療経済学的概念においては, 死生観, 物価, 医療資源, 健康保険システムの異なる他国で生み出されたエビデンスを本邦に外挿することはできない. 本稿では, 本邦におけるPDDの利用が医療経済へ与える影響, エコノミックベネフィットについて考えてみたい.

  • 山本 新九郎, 重久 立, 福原 秀雄, 井上 啓史
    2025 年38 巻1 号 p. 70-74
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     2017年に本邦で5-アミノレブリン酸 (5-aminolevulinic acid : ALA) を用いた光線力学診断 (photodynamic diagnosis : PDD) が保険収載され, 膀胱癌診療ガイドライン2019年版においても推奨された. 光線力学診断補助下経尿道的膀胱腫瘍切除術 (photodynamic diagnosis assisted transurethral resection of bladder tumor : PDD-TURBT) の治療効果として, 通常の白色光下経尿道的膀胱腫瘍切除術 (white light transurethral resection of bladder tumor : WL-TURBT) と比較して術後の再発率を低下させることが期待される. 保険収載以後, 多くの臨床データが蓄積され, 残存腫瘍率や累積再発率が有意に減少することが新たに示された. 偽陽性に関連する治療効果として, PDD偽陽性の切除によって累積再発率の低下が期待されるとの報告もある. 一方, 副作用として光線過敏症や肝機能障害は保険収載以前にも報告されていたが, 保険収載後, 新たにALA誘発性低血圧が報告されており, 注意が必要である. このように泌尿器科医は, PDDのベネフィットとリスクのバランスを考慮し, 適切に適応を判断する必要がある.

特集4 : 腹部領域のリンパ節郭清は必要?不要?各疾患におけるリンパ節郭清の実際
  • 菊地 栄次, 槙山 和秀
    2025 年38 巻1 号 p. 75
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     リンパ節郭清は, 泌尿器癌の外科的managementにおいて重要な役割を果たす. 病理学的リンパ節ステージングは, リンパ節転移を検出する最も正確な方法であり, 予後予測因子として貴重な情報を提供する. 一方で, リンパ節郭清の治療的意義, 特に長期予後への影響については, リンパ節郭清による合併症発生率とのバランスを考慮しながら評価する必要がある. 本特集では腹部領域のリンパ節郭清に焦点を当てており, 骨盤領域のリンパ節郭清の意義に関しては取り上げていないが, 膀胱全摘除術や前立腺全摘除術においては拡大リンパ節郭清が予後向上に寄与するかどうかが注目されている. 膀胱全摘除術においては, LEA試験およびSWOG S1011試験という2つの重要なランダム化比較試験が実施されたが, 拡大リンパ節郭清による生存率向上は示されなかった. その結果, 現時点では標準的リンパ節郭清 (閉鎖, 内腸骨リンパ節, および外腸骨リンパ節領域の郭清) が基本とされている. 前立腺全摘除術に対しては, 2023年版前立腺癌診療ガイドラインにおいて, 低リスク症例に対しては, リンパ節郭清は不要であるが, 中間リスク症例, 高リスク症例に対しては拡大リンパ節郭清を行うことを弱く推奨すると記載されている. 新たなステージング手法, 術前・術後補助療法の導入により, リンパ節郭清の臨床的意義は刻一刻と変化する. さらに手術手技が向上, とくにロボット支援技術の導入により, 腹部領域のリンパ節郭清に関するエビデンスは再構築される必要がある.

     今回5名の先生方に腹部領域のリンパ節郭清の役割と実際について概説頂いた. 九州大学の塩田先生には腹部リンパ節郭清に必要な解剖をリンパ管経路や大血管周囲を走行する自律神経の解剖も含めて解説頂いた. 大動静脈周囲解剖の包括的理解に非常に役立つ解説である. 東北大学の山下先生には精巣癌における後腹膜リンパ節郭清の意義と適応, 郭清範囲, 術後の射精障害を解説頂いた. 東京女子医大足立医療センターの近藤先生には上部尿路上皮癌に対するリンパ節郭清において, テンプレートに沿った所属リンパ節の郭清が治療的意義につながることを解説頂いた. 武田病院の鈴木先生には腎癌におけるリンパ節郭清について京都大学の方針を含めて解説頂いた. 治療的意義を示すエビデンスは乏しいものの, 進行例の一部には治療的意義があるかもしれない. 長崎大学の大場先生にはロボット支援下手術の普及した現在における腹部リンパ節郭清の実際と今後の展望について解説頂いた. 本特集が日常診療の一助となれば幸いである.

  • 塩田 真己, 松元 崇, 種子島 時祥, 塚原 茂大, 牟田口 淳, 後藤 駿介, 小林 聡, 江藤 正俊
    2025 年38 巻1 号 p. 76-80
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     脊椎動物は, 心血管系と共にリンパ系を形成し体液を循環させるシステムを有しており, リンパ系は末梢組織から中枢の大静脈にリンパ液を輸送する. リンパ液には, 蛋白質などの高分子物質, 組織の代謝産物に加えてリンパ球に代表される免疫細胞が存在し, 感染防御や癌免疫の観点からも重要なシステムである. 癌は主に血行性やリンパ行性転移を来し, リンパ行性転移では原発巣からリンパ管に沿って癌細胞がリンパ節に転移するため, リンパ節転移の診断目的として, 一部の癌では治療目的として, リンパ節郭清が行われる. 副腎癌や腎癌, 腎盂尿管癌, 精巣癌において, 腹部のリンパ節郭清が必要となる場合がある. しかし, リンパ節郭清により, リンパ液の滞留によるリンパ浮腫やリンパ液の溢流によるリンパ瘻, リンパ嚢腫などのリンパ管そのものの損傷による合併症に加え, リンパ管が伴走する動静脈や周囲神経の損傷に伴う合併症が惹起される可能性がある. したがって, 泌尿器癌の診療において必要となる腹部リンパ節郭清には, リンパ管の走行とその周囲の血管, 神経, そして膜構造に関する局所解剖に十分に通じておくことが必要である. 本稿では, 腹部リンパ節郭清に必要な知識について解剖学的事項を中心に概説する.

  • 山下 慎一
    2025 年38 巻1 号 p. 81-85
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     精巣癌は思春期・若年成人男性において発症することが多い精巣の悪性固形腫瘍で, 後腹膜リンパ節に最も転移しやすい. 一方で医療の進歩や精巣癌の診療ガイドラインの普及に伴い精巣癌の治療成績は向上しており, 転移を有する進行例においても適切な化学療法とその後の残存腫瘍切除を含めた集学的治療によって長期生存が期待できるようになった. そのなかで後腹膜リンパ節郭清は精巣癌の治療において重要な役割を担っている.

     化学療法後に腫瘍マーカーが正常化し後腹膜リンパ節転移が残存した場合には特に非セミノーマでは後腹膜リンパ節郭清で残存腫瘍を基本的に切除する. その目的は癌細胞が残存していないかどうかを確認することおよび奇形腫を摘出することである. 精巣癌に対する後腹膜リンパ節郭清は腎動脈から総腸骨動脈の間で, 右側は傍大静脈と大動静脈間, 左側は傍大動脈のリンパ節をテンプレートで実施する. 郭清範囲には射精に重要な腰内臓神経から下腹神経への神経が走行しており, フルテンプレートのリンパ節郭清では術後の射精障害を軽減させるために可能な範囲で神経温存に努めることが大切である.

     また, 2020年に腹腔鏡下後腹膜リンパ節郭清が本邦で保険収載された. 化学療法前の後腹膜リンパ節転移が限局している場合には残存腫瘍を含めたテンプレートで腹腔鏡下後腹膜リンパ節郭清を実施している. そこで, 本稿では当科の経験も踏まえて精巣癌におけるリンパ節郭清について概説する.

  • 近藤 恒徳
    2025 年38 巻1 号 p. 86-93
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     上部尿路上皮癌に対するリンパ節郭清は, 各ガイドラインにおいて推奨グレードは弱いものの, 進行癌においては行う事が推奨されている. 推奨グレードが弱い理由はランダム化試験がないためであるが, リンパ節郭清手技の標準化が難しいこと, 倫理的な問題からもランダム化試験は難しい. また, これまでの後方視的試験結果も治療的意義においては一定の結果になっていないこともその理由の1つである. しかしこれらの研究を詳細に見ていくと, 郭清範囲を一定にして行っている研究では治療的意義があるとする報告が多く, 逆に多施設研究で多く見られる郭清範囲が一定になっていない研究ではリンパ節数も少なく, 治療的意義がないとするものが多い. したがって郭清においては, 郭清範囲を決めて行う必要がある. テンプレートの範囲も, われわれの報告, 米国の報告ともにほぼ同様であることから, コンセンサスが得られているものと考えている.

     2022年より本邦でもロボット支援腎尿管全摘術が保険収載された. ロボット手術の導入によりリンパ節郭清が行なわれる症例は多くなる傾向にあると報告されている. 郭清範囲としては右腎盂, 上中部尿管癌に対する大動静脈間リンパ節の摘除を含むリンパ節郭清の手技の標準化が課題となってくると思われる. ただこれまでの報告では, ロボット手術による切除リンパ節数は開腹手術とほぼ同等であることも報告されている. 腹腔鏡下腎尿管全摘術では, pT3以上の進行癌において開腹手術よりも癌制御が劣ることも報告されている. リンパ節郭清を確実に行う事でロボット腎尿管全摘ではpT3以上の症例でも開腹手術と同等の成績を示す事が期待される.

  • 鈴木 良輔, 後藤 崇之, 牧野 雄樹, 河瀬 紀夫
    2025 年38 巻1 号 p. 94-98
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     腎癌に対するリンパ節郭清の適応や範囲, 治療的意義に関する高いエビデンスは乏しく, 実際には, 進行例以外では積極的なリンパ節郭清が行われることは少ない. リンパ節転移を有する場合は予後不良であり, リンパ節郭清による正確な病期診断により予後予測, 術後補助治療の選択の決定に役立つ. 術前にリンパ節腫大がある場合は偽陽性が多く, 腫大が無い場合はリンパ節郭清を行っても病理病期リンパ節転移陽性となる頻度は低い. そのため診断目的の全例のリンパ節郭清は推奨されず, 特に病理病期リンパ節転移陽性リスクが高い症例においてはリンパ節郭清の診断的意義がある. 一方, 治療的意義を示すエビデンスは乏しく, 前向き試験では治療的意義を認めなかった. 後ろ向き試験においては高リスク症例の一部で予後改善効果が示されている. リンパ節郭清の範囲や拡大郭清の是非についても統一した見解がなく, 適切な郭清範囲の決定が困難である. 郭清範囲の拡大に伴うリンパ節郭清の合併症についても配慮したうえでの郭清の有無, 範囲の決定が必要である.

  • 大庭 康司郎, 今村 亮一
    2025 年38 巻1 号 p. 99-104
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     リンパ節郭清術は, 手技の煩雑さや合併症のリスクに比して, ベネフィットが見合っていないこともあり, 施設間での取り組みにも差があると思われる. 腹部リンパ節郭清を行う泌尿器癌としては, 精巣腫瘍, 腎盂尿管癌, 腎癌が挙げられ, 郭清範囲に大きな違いはないものの, その意義はそれぞれ異なる.

     精巣腫瘍に対するリンパ節郭清は, 進行癌に対し化学療法を行った後の, 残存癌細胞を完全摘除することが目的である. セミノーマと非セミノーマで適応に若干の違いがあり, セミノーマにおいては残存腫瘍が小さい場合は癌検出率が低いため, 画像所見も考慮しながら経過観察の選択の余地がある. 腎盂尿管癌に対するリンパ節郭清では, 診断的意義については支持する報告が多いものの, 治療的意義については十分な検討がなされていない. 近年ではリスク分類を行い, 高リスク患者に対する腎尿管全摘除術の際にリンパ節郭清を行うことが推奨されているが, 明確な予後改善を示すエビデンスはなく, さらなる情報の集積が必要である. 腎癌に対するリンパ節郭清の意義は, 術前の評価により異なる. 術前にリンパ節腫大を認めない場合はリンパ節転移の可能性が低く, 郭清が再発予防や生存率向上に寄与しないとされている. 一方, 術前にリンパ節転移が疑われる場合は, 郭清による病理診断が術後補助化学療法の選択を可能にするため, リンパ節郭清には診断的意義があるとの意見が多い.

     腹部リンパ節郭清は, 適応や手術手技が標準化されておらず, これまでの報告の再現性に疑問があることと, リンパ瘻を含む合併症のリスクが問題点である. 今後は, ロボット支援下手術の普及により, これらの課題が解決することを期待したい.

特集5 : ロボット新機種の持ち味とプロパティ
  • 武中 篤, 白木 良一
    2025 年38 巻1 号 p. 105
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     本邦では2012年にロボット支援前立腺全摘除術が保険収載されて以降, 手術支援ロボットが多くの施設に導入されてきた. 2010年代はIntuitive surgical社のda Vinci Surgical systemが手術支援ロボットの代名詞であり, ロボット手術=ダビンチと言う時代が長く続いてきた. 2020年代になり, インテュイティブサージカル社が保有するパテント切れに伴い, 一社独占の状況から国内外より多くのメーカーが手術支援ロボットのマーケットに参入しつつある.

     2025年の現在, 「ロボット新機種」として国内で使用可能な主要な機器として「daVinci X & Xi」, 「hinotori」, 「Hugo」, 「Saroa」, 「daVinci SP」がある. これらのロボットはそれぞれ異なる特徴や利点, 欠点を有しており, 様々な術式や患者の状況に応じて選択されている. 一方, 国内では多機種を装備することは費用負担, 機器のメインテナンス, 使用する鉗子類や周辺機器等, 様々な問題もあり一部の施設に限定されているのが現状である. また, 各機種の使用方法の違いもあり, 術者及びサージカルサイトアシスタントには新機種の使用開始に際し各々相応のラーニングプログラムがあり実機を用いた1-2日の学習も必要となる.

     日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会では, 「daVinci X & Xi」, 「hinotori」, 「Hugo」, 「Saroa」, 「daVinci SP」をそれぞれ別機種として認定しており, 各機種を新たに導入する際, 『新機種導入時の学会認定暫定術者に関する規定』により導入初期の安全性を担保するよう支援している. 他にも, 各機種および各術式に対するプロクター認定プログラムを創設し手術指導者の養成と安全な手術の遂行を目指している.

     本企画では手術支援ロボットの新機種に関し, その特徴を紹介することにより会員諸氏の参考となり新規機種においても引き続き安全なロボット手術の遂行に寄与する事が望まれる.

  • 佐々木 雄太郎, 古川 順也
    2025 年38 巻1 号 p. 106-109
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     国産ロボット支援手術システムであるhinotoriサージカルロボットシステムは, 株式会社メディカロイドによって開発され, 2020年12月に初めてロボット支援根治的前立腺全摘除術が行われた. その後, 国内での導入が進み, 2024年8月現在, 60台以上が稼働しており, 泌尿器科をはじめとする多くの分野で6,000件以上の手術が実施されている. hinotoriは, da Vinci Xiと比較して, 稼働関節軸の多いロボットアームや, console surgeonの疲労を軽減する設計が特長である. また, 2023年にはフィンガークラッチボタンがアップデートとして実装された. hinotoriの最大の特性であるドッキングフリーデザインは, 広い作業スペースを確保し, ロボットアーム同士やpatient-side surgeonとの干渉を最小限に抑える利点がある. また, 腹壁に過度のストレスがかからないため, 術後の疼痛軽減にも寄与する可能性がある.

  • 森實 修一, 武中 篤
    2025 年38 巻1 号 p. 110-116
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     2022年にmedtronic社のHugo Robot-Assisted Surgery (RAS) Systemが製造販売承認を取得し, 本邦でも保険診療下での臨床使用が可能となった. Hugo RAS Systemは独立した4本のアームカートとオープンサージョンコンソール, システムタワーから構成され, 他機種と比較して新しいコンセプトの手術支援ロボットとなっている. 本稿ではHugo RAS Systemの概要と本システムを用いた手術の現状について述べる. また, da Vinci surgical systemと比較したHugo RAS systemの現状を把握し, Hugo RAS systemを用いた手術経験から見えてきた今後の課題について考察する.

  • 竹中 政史, 白木 良一
    2025 年38 巻1 号 p. 117-121
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     手術支援システムの進歩と普及に伴い, ロボット支援手術の適応範囲は拡大し, 標準的治療として広く普及している. 2023年1月に本邦で導入されたda Vinci Single-Port (SP) サージカルシステム (以下, SPシステム) は, シングルポートシステムを用いた初の手術支援ロボットであり, 最小限の切開で体腔内の深く狭い術野での手術 (Regionalized surgery) の実現がその最大の特徴である. 後腹膜臓器を扱う泌尿器科領域では, Regionalized surgeryが可能になったことで, 多くの術式において経腹膜アプローチが不要となり, 新たなアプローチ方法が選択可能となった. SP-RARP (Single-Port Robot-Assisted Radical Prostatectomy) では後腹膜アプローチが標準術式となり, さらに低侵襲な経膀胱アプローチも選択可能となった. また, SP-RAPN (Single-Port Robot-Assisted Partial Nephrectomy) では下腹部からの後腹膜アプローチが標準術式となり, 体位変換を伴わない仰臥位でのアプローチが可能となった. SPシステムによるRegionalized surgeryにより, アプローチの選択肢は大幅に広がり, 適切な症例選択を行うことで, より低侵襲で整容性の高い治療を提供することが可能となった.

  • 岩谷 洸介, 三木 淳
    2025 年38 巻1 号 p. 122-127
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     2023年7月, 本邦で新たな手術支援ロボット「Saroa」が登場した. Saroaは, 東京工業大学と東京医科歯科大学が共同で開発した世界で初めて触覚フィードバック機能を備えたロボットである. 2023年8月から当院で世界で初めて泌尿器科領域の手術で臨床応用されている. 本稿ではSaroaの特徴, 泌尿器手術における応用と展望について述べる.

     Saroaは従来のロボット手術が持つ拡大視野や静脈性出血の抑制といった利点に加え, 多関節運動や手ブレ補正によって高い操作性を実現している. 特に触覚フィードバック機能, ロールクラッチ機能, 軽量小型であるという機器の特徴は, 手術における大きな利点となり得る.

     これまで当院では, Saroaを用いて前立腺全摘, 腎・副腎摘出術, 腎部分切除術を実施してきた. 導入初期には, アームの干渉や器具不足などの課題があったが, 開発者との協力で改良を進め, 当初に比べて見違える様な手術が可能になってきた. またSaroaは既存の腹腔鏡用機器と互換性があることから, コスト削減の効果も期待される. 今後Saroaはさらなる発展が期待され, 国産ロボットとしての強みを活かした普及がなされることを強く望んでいる.

Robot手術
  • 山根 浩史, 森實 修一, 本田 正史, 村岡 邦康, 大野 博文, 磯山 忠広, 小野 孝司, 瀬島 健裕, 門脇 浩幸, 武中 篤
    2025 年38 巻1 号 p. 128-133
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    【目的】

     膀胱癌に対するロボット支援膀胱全摘術 (RARC : Robot-assisted radical cystectomy) と開放膀胱全摘術 (ORC : Open radical cystectomy) の成績の比較を目的とした.

    【対象と方法】

     2010年1月から2019年12月に, 鳥取大学泌尿器科関連施設にてRARC, ORCを施行した症例を対象とした. RARC, ORCの2群に分けて, 年齢, Eastern Cooperative Oncology Group-Performance-status, cT stage, pT stage, 術前補助化学療法の有無で傾向スコアマッチングを行い, 患者背景と手術成績を比較した.

    【結果】

     RARC 49例, ORC 49例で比較を行った. 手術時間 (中央値) はRARC 545分, ORC 416分でありRARCで有意に長く (p<0.001), 出血量 (中央値) はRARC 250 mL, ORC 1,000 mLでありORCで有意に多かった (p<0.001). 郭清リンパ節個数 (中央値) はRARC 22個, ORC 13.5個で, RARCで有意に多く (p<0.001), Overall survival (OS), recurrence-free survival (RFS), cancer specific survival (CSS) はRARCでやや良い傾向を認めたが, 有意差を認めなかった (OS : p=0.277, RFS : p=0.185, CSS : p=370).

    【結語】

     RARCとORCの治療成績の比較を行った. 出血量, 郭清リンパ節個数はRARCで, 手術時間はORCで優れていた.

  • 森山 真吾, 小川 一栄, 片倉 雅文, 加羽澤 梨紗子, 加藤 朱門, 田中 宏昌, 田中 佑宜, 平田 渉, 福田 理沙, 乾 幸平, ...
    2025 年38 巻1 号 p. 134-140
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    (目的) ロボット支援下仙骨腟固定術 (RASC) の術中・術後腸管合併症を回避するために, 腹膜外アプローチの手技を開発した.

    (対象と方法) 前メッシュのみ留置するRASC患者を対象とし, 子宮全摘後・岬角難症例を除外した. 約3 cmの下腹部正中切開より腹膜外腔を展開し, 右側より岬角を露出して, 膀胱腟間を膀胱頸部近傍まで剥離してメッシュ留置した.

    (結果) 2023年1月から2024年7月までに47例施行し, 平均年齢は72.3歳, Stage IIIを33例に認めた. 平均の全手術時間192分, コンソール時間132分, 出血量16 mL, 術中・術後合併症をそれぞれ0例, 9例に認め, Clavien grade 3aの合併症を1例 (十二指腸狭窄) 認めたが, 本手術との因果関係は不明であった.

    (結語) 頭低位を必要としない本手術は経腹膜アプローチより低侵襲と考えられ, 短期成績において安全性に問題ない結果と考える.

  • 中村 憲, 金子 雄太, 服部 誠也, 矢木 康人, 西山 徹, 斉藤 史郎, 門間 哲雄
    2025 年38 巻1 号 p. 141-145
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     RARPとBT単独と外部照射併用BTのQOLを比較する. 対象は限局性前立腺癌に対し治療前後に内分泌療法を実施していないRARP : 260例とBT単独 : 530例と外部照射併用BT : 277例. Expanded Prostate Cancer Index Composite (EPIC) を用いてQOLを評価し, 治療前をコントロールとして治療後の変化を比較した. 性の項目は術前IIEF5で12点以上を対象とした. 排尿機能と尿失禁はBTの2群が術後3-36カ月までRARPより有意に良好, 排尿負担感と排尿刺激, 排便の項目はRARPが良好に経過した. 性の項目は治療後12カ月頃までBTの2群が良好に経過するが緩徐な低下を認め, RARPの回復と相まって性機能は36カ月に差が縮まり, 性負担感は24カ月以降に群間差がなくなった. ホルモンの項目は全般にRARPが良好に経過した.

前立腺肥大症手術
その他の領域
  • 佐藤 広高, 栗田 美貴, 加藤 健宏, 安部 弘和, 大塚 勝太, 塚田 幸行
    2025 年38 巻1 号 p. 153-159
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    【目的】内腸骨静脈 (IIV) の変異を持つ患者の仙骨岬角 (SP) の血管窓 (VW) の幅を3次元CT血管造影 (3DCTA) で測定した.

    【方法】2022年7月から2023年4月までに腹腔鏡下仙骨腟骨底術を予定された患者を対象. 主要評価項目は, 3DCTAの標準群と変異群のVWの測定. 副次評価項目は, 2つのIIV群間の差を共分散分析で評価. SPから大血管分岐までの距離に影響を与える要因を調査するため, 重回帰分析を実施.

    【結果】IIVの変異群は20例 (20.2%). 変異群のVWは28.8±12.4 mm, 標準群は39.6±12.6 mm. IIVの変異はVWに影響を与え, 年齢の上昇と共に大動脈とSPの距離が減少した.

    【結論】約5人に1人がSPに血管の変異があり, メッシュ固定の安全ゾーンが3 cm未満に制限された.

  • 引田 克弥, 森實 修一, 武中 篤
    2025 年38 巻1 号 p. 160-164
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    【目的】

     マインドフルネス法が手術執刀時のストレスに与える影響を検討した.

    【対象・方法】

     低侵襲手術を執刀した医師のうち, マインドフルネス法による介入群と対照群を比較した. 生理学的 (血圧, 脈拍, 唾液中アミラーゼ), State-Trait Anxiety Inventory (STAI) によるストレス評価を行った. ロボット支援手術を執刀した医師に対してはGlobal Evaluative Assessment of Robotic Skills (GEARS) で手技を評価した.

    【結果】

     介入群12名, 対照群7名が研究に参加した. 介入群では介入前と比較し, STAIによる不安は対照群と比較して有意に低下した. GEARSは両群で有意差を認めなかった.

    【結論】

     マインドフルネス法は手術時のストレス軽減に有用な可能性がある.

Urologist at Work
  • 井上 稔, 矢嶋 習吾, 小笠原 崚アンディ, 今里 直樹, 廣瀬 航平, 関谷 健, 片岡 円, 中西 泰一, 増田 均
    2025 年38 巻1 号 p. 165-167
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

    目的 : ロボット支援下根治的腎摘除術 (RARN) と腹腔鏡下根治的腎摘除術 (LRN) の周術期成績を比較検討する.

    対象と方法 : 2019年1月から2024年8月までに当院で施行したRARN 40例とLRN 39例を後方視的に解析した.

    結果 : RARN群でLRN群と比較して手術時間 (126分 vs 183分, p<0.01) と気腹時間 (98.5分 vs 155分, p<0.01) が有意に短縮された. 患者背景, 周術期合併症, 出血量に有意差はなかった. 手術材料費 (n=4) はRARN群で, 2万4千円ほど高かった.

    結論 : RARNはLRNと比較して手術時間が短縮され, 安全性も同等であった. 人件費他も考慮すると, RARNは有用な選択肢となり得る.

  • 月野 圭治, 小林 聡, 牟田口 淳, 塚原 茂大, 種子島 時祥, 後藤 駿介, 松元 崇, 塩田 真己, 江藤 正俊
    2025 年38 巻1 号 p. 168-171
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/01
    ジャーナル フリー

     当院では, ロボット支援腎部分切除術における自動追尾型手術ナビゲーションシステムを開発, 実装して手術を行なっており, そのシステムの臨床的有用性も明らかにしてきた. しかし, このシステムでは, 赤外線を使用した光学式追跡システムで一時的に追跡できない術野の「死角」による追跡の「途絶」によって, ナビゲーションの安定性, 精度が低下するという課題が依然解決されてこなかった. この課題によって, ナビゲーションを継続するために3Dモデル画像と内視鏡画像との間で複数回のレジストレーション (位置合わせ) が必要となるため, その結果, 画像支援が中断されて手術進行が妨げられるリスクがあった. この術野の「死角」による追跡の「途絶」の解決に着目し, da Vinci Xi対応のアタッチメントを改良したため報告する.

feedback
Top