光学特性の違いによって夜間就寝前の光環境がヒトの精神生理状態に及ぼす影響が異なる可能性がある。そこで本研究では,分光分布の異なる照明による,光曝露中とその後の睡眠中の精神生理状態を評価することを目的とした。対象者は,睡眠に関する問題のない若年成人男性20名とした。照明条件は白熱電球と,電球色相当の青色励起及び紫色励起LED照明,昼白色相当の青色励起及び紫色励起LED照明の5条件(1夜1条件)とした。紫色励起LED照明は,青色励起LED照明よりも自然光に近いブロードな分光分布を持つ。対象者は約100分間の光曝露の後,完全に消灯してから7時間の睡眠をとった。ipRGCsの受光量比率など,短波長成分に関する光学特性に着目した非視覚的生理作用の予測値は,昼白色相当の紫色励起LED(P-LED_C)で最大であったが,実験の結果,光曝露中の深部体温の低下率は昼白色相当の青色励起LED(B-LED_C)で最も小さかった。さらに,B-LED_Cの睡眠潜時は5条件の中で最も長かった。これらの結果から,B-LED_Cが睡眠にとって最も好ましくない条件であることが示された。
以上,本研究より短波長成分の光学特性だけでは睡眠への影響を評価しきれず,励起光や長波長成分の違いも考慮する必要性が示唆された。
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