睡眠と環境
Online ISSN : 2758-8890
Print ISSN : 1340-8275
15 巻, 1 号
睡眠教育の重要性と実践
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著論文
  • 岡野 慎也, 横江 顕彦, 五十棲 計, 大平 雅子
    2020 年 15 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,既知の研究において鎮静作用が認められているラベンダーと覚醒作用が認められているジャスミンが,仮眠の質に与える影響を検証し,より良い仮眠環境条件をデザインするための基礎データを得ることを目的とした。  本研究では,睡眠障害のない男子学生12 名を対象に,対象者内実験計画を実施した。対象者には安静座位でラベンダー,ジャスミン,無臭空気(コントロール)のいずれかを5 分間呈示した後,20 分間の仮眠を取らせた。ラベンダーを呈示した条件では,他の条件と比べて,仮眠中に有意な心拍数の増加が認められた。この結果は,入眠前の香りの呈示が,その後の副交感神経活動の亢進を妨げるような影響をもたらしたことを示唆している。香りによりネガティブな影響がもたらされた一因として,香りの嗜好性が考えられる。香りは,嗜好性により生体反応に影響を与えることが分かっている。本研究の結果においても,ラベンダーの嗜好性により心拍数が有意に増加した。したがって,これらの結果は,香りの嗜好性による影響が大きく,ラベンダーの香りが嫌いで鎮静効果が表れなかった故の結果であると考えられる。
特集「睡眠教育の重要性と実践」
総説論文
  • - 神経発達症児の睡眠教育を含めて -
    堀内 史枝
    2020 年 15 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    睡眠は子どもの心身の成長および発達に必要不可欠である。睡眠のパターンは,胎生期から存在するが,その構造や生理は中枢神経系の成熟度と大きく関連する。自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症などの神経発達症児は定型発達児と比較して,睡眠の質・量・規則性の問題を有している場合が多い。睡眠の問題は,不眠障害,過眠障害,睡眠時随伴症(パラソムニア),呼吸関連睡眠障害,睡眠関連運動障害,概日リズム睡眠-覚醒障害など多岐にわたり, 幼少期より症状が出現する場合も少なくない。なかでも,入眠困難と概日リズム睡眠-覚醒障害は,睡眠教育が重要であることはこれまでにも報告がある。本稿では,神経発達症と睡眠障害の関連について述べた上で,神経発達症児への早期の睡眠教育の重要性について述べる。
  • 山本 隆一郎
    2020 年 15 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,児童期から思春期にかけてどのように睡眠習慣や睡眠問題が変化するか,睡眠健康の保持・増進にどのような睡眠教育や公衆衛生活動が必要かについて論じることである。第二次成長期の生物-心理-社会的変化に伴い,子どもたちの睡眠は乱れ,睡眠負債や社会的時差ぼけが生じやすい。このことから,学校において睡眠衛生や睡眠健康の維持に寄与する行動を支える睡眠教育を提供することが重要である。さらに,子どもたちの“よい睡眠” を支えるための保健システムを構築することが重要である。  本論考では,2つの形態の睡眠教育(知識提供型プログラムと行動変容重視型プログラム) について解説し,日本における睡眠教育の現状と展望について論じた。加えて,日本と海外における児童期から思春期にかけての睡眠公衆衛生活動(例えば,始業時刻遅延)の現状と展望についてレビューし,子どもたちの“よい睡眠”を支えるための政策や制度の展望について論じた。
  • - 眠りやすい夜を迎えるための週に3 日の意識改革 -
    田村 典久, 田中 秀樹
    2020 年 15 巻 1 号 p. 27-37
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    睡眠は,児童・生徒の健康ならびにウェルビーイングの本質である。しかし, 既報では,睡眠不足が,世界各国の子どもに共通してみられること,広範囲に及ぶ身体的・ 精神的健康の悪化と関連することが指摘されている。これら睡眠不足によって児童・生徒 に多くの影響が及ぶことを考えると,彼らやその保護者,教職員に健康睡眠に関する教育 と,そのような睡眠の確保を促すツールを提供していくことが不可欠である。そこで本稿 では,児童・生徒に共通する睡眠の問題を概観するとともに,学校場面での睡眠教育の実 践例について報告する。児童・生徒に共通の睡眠問題,学校場面での睡眠教育に関するレ ビューの結果,以下の4 点,(1)睡眠時間は年齢とともに減少することが確認されたが, 特にその傾向は児童期に比べて青年期で著しい,(2)睡眠不足に起因する睡眠負債は,平 日と休日の起床時刻の乖離の引き金となっている,(3)これら睡眠の問題は日中の眠気や 精神的・身体的健康の低下と関連する,そして(4)自己調整法を伴う睡眠教育プログラム は,児童・生徒の不規則な睡眠習慣,日中の眠気,イライラの改善に効果的である,こと が明らかとなった。そしてその上で,学校で睡眠教育プログラムを成功させるためのキー ポイントについて議論した。
  • - 乳幼児期から青年期にどう取り組むか -
    岡 靖哲
    2020 年 15 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    睡眠は児童青年期の子どもの健康と発達に不可欠である。この時期の睡眠は,生理的発達による変化に加えて,家族や周囲の環境の影響を受ける。情報通信機器やゲームの使用が子どもの睡眠に影響を与えていることも指摘されている。子どもの良好な睡眠習慣を確立するうえで保護者が果たす役割を考慮すると,睡眠教育は子どもと保護者の両方をターゲットとする必要がある。本稿では,児童青年期の睡眠と情報通信機器・ゲーム使用状況を示すともに,乳幼児のこれらの使用についてのガイドラインを紹介する。これらの現状に対して,乳幼児期から青年期にどのように睡眠教育の取り組みを行うかについて議論したい。
  • - 睡眠教育指導者を育成するプロセス -
    古谷 真樹
    2020 年 15 巻 1 号 p. 46-52
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    子ども達の心身の健やかな発達を促進するためには,その基盤である生活リズムを早い段階で確立していくことが重要である。子ども達が規則正しい生活リズムを身につけ,その年齢に適した睡眠時間を確保するためには,家庭教育の役割が大きい。本稿では,幼児期から児童期の親子を対象とした睡眠教育プログラムを紹介しながら,睡眠教育の指導者を育成するプロセスについて概説する。すなわち,1) 子ども達の健康をよく知る養護教諭を学校園での睡眠教育指導者として育成する,2) 学校園と保護者が質問紙調査の結果を共有し現状を把握する,3) 学校園と大学が連携しながら睡眠日誌記録を行う実践型の睡眠教育を行い,保護者が睡眠教育指導者になるよう育成する,である。実践型睡眠教育で重要な点は,1) 実践者に急激な変化や完全な変化を求めないこと,2) 睡眠日誌を家族全体で共有し,家族が支援的なコメントやアドバイスをすること,である。保護者や子どもが生活リズムや睡眠改善を目指す目標を意識しながら行動することで,心身の良好な変化を感じられたなら,睡眠教育は十分機能したと考えてよいと思われる。
  • 笹澤 吉明, 姜 東植, 小林 稔
    2020 年 15 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    全国学力・学習状況調査によって明らかとなった,沖縄県の児童生徒の学力問題に対して,沖縄県の児童の学力向上を目指した睡眠介入研究を2012 年度,2015 年度,2017 年度と3 度に亘って実施した。2012 年度は児童のみ,2015 年度及び2017 年度は児童と保護者に対して睡眠の介入を行った。睡眠の介入内容はいずれの年度も,睡眠日誌とクイズ形式の睡眠の授業を,2012 年度は4 ヶ月間,2015 年度,2017 年度は1 ヶ月間行った。2017 年度はWeb アプリケーションを用いて電子化された睡眠日誌とe ラーニングによる睡眠教育を実施した。その結果,2012 年度,2015 年度ともに,介入群は対照群に比べ,睡眠時間や睡眠の質が有意に改善し,国語,算数,理科,社会の学力に有意な向上がみられた。2017 年度は,Web アプリケーションのログインなどの操作性や,睡眠教育への動機づけの低さから,数組の参加に留まる結果となった。学校現場における睡眠介入のポピュレーションアプローチにおいて,直接対面する授業や紙媒体による睡眠日誌の方法が,Web アプリケーションよりも有効であることが示唆された。
  • - 睡眠知識,行動,アクティブ・ラーニング -
    田中 秀樹, 児玉 奈美枝, 河内 眞実, 田村 典久
    2020 年 15 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    本稿では,中学生,高校生への自己調整法を用いた睡眠教育の効果について概説することを目的とする。筆者らは,睡眠促進行動チェックリストと目標設定に基づく手法(自己調整法)を併用した睡眠教育プログラムの実施が,中学生,高校生の睡眠促進行動や睡眠習慣, 日中の眠気に与える効果を検討した。学校での自己調整法を用いた睡眠教育は,夜型化や不規則な睡眠―覚醒パターンの改善,また,入眠潜時や睡眠満足度,起床時の気分,日中の眠気の改善にも有効であることがわかった。さらに,アクティブ・ラーニングを用いた睡眠教育も睡眠促進行動の改善,イライラの軽減に有効であった。また,本稿では学校における睡眠教育の重要性に言及し,(1)睡眠改善支援には適切な知識の普及,(2)支援ツールの提供,(3)人材育成が必要であることを指摘した。
  • 林 光緒
    2020 年 15 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    大学生は,あらゆる年齢層と比べて生活習慣が乱れやすい。大学生に対して正しい睡眠知識の普及と規則正しい生活習慣を身に着けさせることを目的として,筆者は広島大学において睡眠に関する授業を5 科目担当している。そのうちの一つ,「睡眠の科学」は教養教育科目として開講されており,これまで2,800 名以上が受講している。この授業では睡眠に関する講義のほか,睡眠日誌を用いた体験学習を実施しており,学生の睡眠習慣の改善に一定の効果をあげている。本稿ではその実践例について報告する。
feedback
Top