睡眠と環境
Online ISSN : 2758-8890
Print ISSN : 1340-8275
18 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 南 陽一, 岸 哲史, 上田 泰己
    原稿種別: 総説論文
    2024 年18 巻2 号 p. 21-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー
    日本人の睡眠時間は世界的にみても短いことが知られており,また睡眠に対する満足度も高くないことが知られている。このことは,睡眠に対する問題が潜在的に存在し,対策が求められていることを示唆する。厚生労働省では「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表し,知識の普及と睡眠の向上に努めている。多くの人々が求めるのは,「よりよい睡眠」をとりたいという健康科学的側面であるかもしれない。ピッツバーグ大学のBuysse はスリープヘルスという概念を提示し,睡眠を満足度,日中の覚醒度,(起床時刻のような)タイミング,効率(熟眠度),睡眠時間,といった多次元で評価することを提案しており,注目されている。上田生体時間プロジェクトでは,睡眠を健康評価につかい,健康の維持・増進につなげる「睡眠健診」という概念を提示し,必要な基礎技術であるウェアラブルデバイスを用いた睡眠覚醒判定法(ACCEL)の開発,大規模データを利用した睡眠覚醒クラスタリングの実施例を報告している。また2022年からは「子ども睡眠健診」プロジェクトとして,日本の子どもたちの睡眠の実態把握の試みを行っている。将来展望として,睡眠健診の制度化による睡眠計測をもとにした健康維持の仕組みを提案している。
  • ― well-beingを高める睡眠促進行動の提案―
    山岡 香織, 松木 太郎, 田中 秀樹
    原稿種別: 原著論文
    2024 年18 巻2 号 p. 1-12
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー
     本研究では,幸福感,健康感と睡眠休養感,社会的つながり(相談相手,信頼感),ライフスタイル(運動習慣,食事バランス,笑い習慣,生きがい,ストレスのなさ)との関連を検討すること,well-being を高める睡眠促進行動について,提案することを目的とした。B 市在住の2,001 名を対象に分析した。ロジスティック回帰分析の結果,幸福感に成人,高齢世代ともに相談相手,笑い習慣,生きがい,睡眠休養感, ストレスのなさが関連し,健康感には,睡眠休養感,生きがい,ストレスのなさが関連していた。  本研究結果より,成人,高齢世代ともに,幸福感には,相談相手がいること,笑い習慣や生きがいがあること,睡眠で休養がとれていること,ストレスのなさが重要であることが示唆された。一方,健康感は,成人,高齢世代ともに,睡眠休養感,生きがい,ストレスのなさが重要であることが示唆された。つまり,幸福で健康であるためには,成人,高齢世代ともに,睡眠で十分に休養をとり,生きがいをもって生活することが重要であることが示唆された。  さらに,well-being を高めるには,成人,高齢世代ともに,「夕方以降は居眠りをしない」,「寝床で悩み事をしない」,「休日も,起床時刻が平日と2 時間以上ずれないようにする」などの睡眠促進行動が重要であると示唆された。
  • 影山 隆之
    原稿種別: 総説論文
    2024 年18 巻2 号 p. 13-20
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー
    自殺予防と睡眠の関係について考えるには,自殺リスクの進行について理解する必要がある。 深刻なストレスがうつ状態を経て自殺念慮へ発展する過程には,各種の促進因子や防御因子が関与す る。促進因子以外にも危険因子を知ることは,自殺予防の標的集団を絞り込む助けになる。一般住民 のうち睡眠で十分な休養が取れていない人では,最近1年間の自殺念慮の有症率は11% と高く,この 人々に注目すると自殺念慮を有する人の32%をカバーすることになる。ただし睡眠不全は,ストレス を自殺念慮へと発展させる促進因子ではなく,ストレスと自殺念慮の中間に位置するうつ状態の一部 を成している可能性が高い。自殺予防ゲートキーパーが,睡眠不全には様々な原因があることを知っ た上で,睡眠不全を有する人に接近し,その人を有効な支援につなぐことができるならば,自殺予防 のためにも睡眠健康のためにも有効である。
  • 森長 誠
    原稿種別: 総説論文
    2024 年18 巻2 号 p. 27-33
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー
    交通騒音はパワーレベルが大きな音の一つであり,なおかつ,我々の生活に身近に存在するため,幹線道路や鉄道の沿線,航空機の飛行経路の付近などでは,寝室内に伝搬した交通騒音が睡眠妨害を引き起こすことがある。交通騒音が睡眠に及ぼす影響については古くから研究がなされているが,2002年の環境騒音指令の発令,あるいは2009年の WHO 欧州事務局による夜間騒音ガイドラインの発行などを契機に,夜間騒音による睡眠妨害,ひいては健康への悪影響についての議論が欧州地域を中心として加速している。本稿は,交通騒音と睡眠妨害に関する国内外の科学的知見に基づいたエビデンスを紹介するとともに,今後の研究課題についての考察を行うものである。最初に,交通騒音による睡眠妨害の評価がどのような方法で実施されているか概観する。次に,もっとも単純な騒音の発生条件として,1回の騒音が発生した時の強度と覚醒の関係についての研究事例を紹介する。さらに,現状での環境騒音政策の基礎となっている,夜間全体での平均的な騒音レベルと主観申告による睡眠妨害についての研究事例を紹介するとともに,交通騒音による睡眠妨害の評価方法に関する今後の課題について考察した。
  • 名子 翔太, 山本 匡
    原稿種別: 技術報告
    2024 年18 巻2 号 p. 34-42
    発行日: 2024/12/31
    公開日: 2025/01/30
    ジャーナル フリー
    本研究では無充電を実現した活動量計であるMOTHER Bracelet® による睡眠計測の妥当性をアクチグラフィ(wGT3X-BT)との比較により検証し,その有効性を確認することを目的とした。実験への参加の同意が得られた健常者6 名(男性5 名,女性1 名)を対象とし,連続した7 夜の睡眠状態の計測を前述の2機器を併用し行った。比較項目は総睡眠時間(TST),中途覚醒時間(WASO),睡眠効率(SE)とエポックごとの睡眠・覚醒判定とした。Bland-Altman 分析より,MOTHER Bracelet®はwGT3X-BT と比べてTSTを18.29分過大評価,WASOを34.45分過小評価,SEを4.33% 過大評価した。また,MOTHER Bracelet® はwGT3X-BT をグランドトゥルースとする睡眠の検出において高い精度(85.8%)と感度(94.4%)を示したが,覚醒の検出においては低い特異度(21.2%)を示した。さらに,TST は2 つの機器間で有意に高い相関を示した。(r=0.8483; P<0.01)今後は睡眠ポリグラフ検査と比較した研究を行い,睡眠計測機器としての更なる有効性を確認することが期待される。
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