睡眠と環境
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17 巻, 1 号
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原著論文
  • 田村 典久
    2023 年 17 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    夜間の光曝露量が未就学児の睡眠問題に関与している可能性が考えられるが,これまでに未就学児の日常生活環境で光曝露量を連続測定し,日中と夜間の照度比を交えて,メラトニン分泌量や睡眠の質との関連を調べた報告は本邦ではみとめられない。本研究では,未就学児10 名(平均年齢4.9± 1.1 歳)を対象として,日中と夜間の光曝露量とメラトニン分泌量や睡眠問題の関連を予備的に検討することを目的とした。本研究では対象者の自宅を訪問し,アンケート調査,日中と夜間の光曝露量の測定,睡眠日誌の記録,採尿を依頼した。夜間の光曝露量を測定する照度ロガーは3 日間連続で測定し,日中の光曝露量を測定するアクチグラフは照度ロガーでの測定日を含む7日間連続で測定した。採尿は測定2日目の朝に各家庭で行い,メラトニン分泌の指標である尿中6-sulphatoxymelatonin 濃度(以下,メラトニン分泌量)を算出した。その結果,日中の光曝露量はメラトニン分泌量および睡眠効率と正の相関を示し,夜間覚醒回数と負の相関を示した。以上より,夜間の光曝露量が少ない場合には,日常生活下での日中の光曝露量は未就学児のメラトニン分泌量や睡眠の質と密接にかかわっている可能性があるため,光環境の側面からも未就学児の睡眠問題を把握する必要が示唆された。
  • 武藤 貴雄, 高椋 皓一, 牧井 美波, 粂 和彦, 佐藤 公治
    2023 年 17 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    本研究では,起床時に首肩のこり症状がある被験者を対象に,普段使用している枕(BP:Baseline Pillow)と頸椎胸椎アライメントを考慮した枕(TP: Test Pillow)を使用した際の首肩のこり症状と睡眠への影響について比較検討した。被験者は,首肩のこりの程度とピッツバーグ睡眠質問票が相対的に高い被験者を選定し,起床時に首肩のこり症状がある29名(男性 13 名,女性 16 名,年齢 53.5 ± 7.1 歳)とした。BP とTP を1週間使用し,起床時に首肩のこりに関する自覚症状と睡眠に関する主観的評価を行った。また,各期間後に筋硬度測定とOSA 睡眠質問票MA 版によるアンケートを実施した。各1週間の首肩のこりの自覚症状の平均は,BP: 6.20 ± 1.59 ,TP: 4.95 ± 1.99 で有意な低下を示した(P〈 0.001)。各1 週間の起床時睡眠感(眠気,寝つき,熟睡感,目覚め)の平均値は,BP に比べTP の使用により有意に低下した。OSA 睡眠質問票MA 版では,入眠と睡眠維持,疲労回復,睡眠時間の因子において有意に高くなった。TP 使用による筋硬度への影響は,BP に対して有意に変化を示さなかった。本研究では,起床時に首肩のこり症状がある被験者において,TP が起床時の首肩へのこりの自覚症状を軽減し,睡眠感を改善する可能性が示唆された。
  • ― 快眠のための騒音への対策―
    笹澤 吉明, 森長 誠, NGUYEN Thu Lan
    2023 年 17 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    交通騒音を主とした環境騒音の睡眠及び心身への影響についてレビューした。交通騒音の間接的影響に睡眠妨害があり,不眠症を誘発し,自律神経や内分泌系にストレス反応を生じ,高血圧や心疾患などの生活習慣病に進行する原因となる。道路交通騒音の睡眠脳波への影響は,レム睡眠の減少である。間歇的なトラック通過音の睡眠脳波への影響は,ピーク音45 dBでも紡錘波が大幅に減少し,最小影響量は30 dBであり,ピーク音55 dB でδ波%が減少し,最小影響量は41 dBである。睡眠段階の浅化の最小影響量は45 dB 以下である。夜間騒音レベルLeq 65 dB(A)の幹線道路沿いに住む成人女性は不眠症のリスクが約3倍になる。米軍基地周辺のLnight 50 dB(A)以上の地域に住む成人の不眠症のリスクは2.5 倍である。WHO の勧告値は,道路交通騒音で45 dB,航空機騒音で40 dBである。日本の夜間の環境基準は,静穏地域で40 dB 以下,住宅地域で50 dB 以下,幹線道路近接地域で65 dBと幅をもって設定される。環境基準の設定は科学的知見(クライテリア)に,技術的・社会的・経済的配慮,利害集団間の調整,行政機関による判断と決定等の指針(ガイド)を介して行われる。環境騒音の健康影響を最小限にするため更なる研究の蓄積と,騒音発生源への対策が必要である。
  • 岡島 義
    2023 年 17 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    :睡眠を測定する場合,その手段として客観的評価と主観的評価が用いられるが,特に主観的評価には,相談者の「悩み・つらさ」が反映されているため,その心理的状態の変化を捉える上で,主観的評価は極めて重要なツールである。本稿では,睡眠の主観的評価として,睡眠ダイアリーおよび自記式尺度について解説した。睡眠ダイアリーは,相談者の毎日の睡眠状態の変化を「見える化」するために用いられる。自覚的な睡眠状態をアセスメントする上でのゴールドスタンダードとして推奨されている。自記式尺度は,比較的簡便に睡眠問題の変化を測定することができる。特に,Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)とAthens Insomnia Scale(AIS)は,睡眠の質や不眠症状を測定する尺度として世界各国で翻訳されており,ゴールドスタンダードといえる。その他にも,日中症状として眠気,休養感を測定するEpworth Sleepiness Scale(ESS)やRestorative Sleep Questionnaire(RSQ)についても解説した。最後に,主観的評価だけではなく,客観的評価も組み合わせて実施することの重要性について述べた。
総説論文
  • 神川 康子, 新田 祐介, 窪田 篤志
    2023 年 17 巻 1 号 p. 25-31
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/09/01
    ジャーナル フリー
    本総説では, 行政と取り組む富山県民の睡眠満足度向上の試みについて概説する。2018 年時点で富山県は女性の睡眠満足度が最下位(男性46 位),男性の運動不足も最下位(女性46 位)で,高血糖の人の割合も男女ともに全国平均を上回っていた。そこで, 富山県厚生部健康課で県民の生活習慣改善による健康向上を目標に,まず睡眠習慣改善の取組みを開始した。2021 年度は睡眠習慣改善のために,企業や家庭,仲間等でチームを組み3 週間の睡眠改善に取り組むキャンペーンを実施し,結果の分析から継続しやすい生活改善行動等を探った。まず睡眠改善に繋がる生活習慣9 項目を設定し,チーム(243 チーム1352 人)で3 週間取り組んだ。継続が容易であった生活行動は「夕食は就寝2 時間前まで」「就寝前に水か白湯を飲む」「起床後カーテンを開ける」であった。またチーム規模は8 人か9 人でチャレンジしたチームの睡眠改善人数が4 分の3(75%)以上という高い達成率となる傾向がみられた。この事から少人数よりも企業の部署や企業ぐるみで取組むことが改善効果を上げ,健康経営にも繋がる可能性が示唆された。
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