1 大豆黒痘病は, 昭和21年夏長野県上水内郡七二会村に於てその発生が始めて発見された。次いで青森・秋田・岩手・宮城・山形・千葉・広島・熊本の各県に於て, 同病の発生のあることが報告された。
2 本病々原菌は, Deuteromycetes-Melanconiales-melanconiaceaeに属するSphaceloma glycines Kurata et Kuribayashiである。
3 本病々原菌々系は, 無色乃至淡褐色であるが, 古くなると禍色乃至濃褐色となる。分生胞子は, 大さ4.4~10.2×2.9~4.5μであり, 無色又は暗色, 1-2個の眼点を有する。小型分生胞子は, 透明球状であり微小である。分生子堆上に分生子梗 (大さ18.0~23.0×3.8~6.2μ) が形成され, この鈍頭状の頂端に1個の分生胞子が着生する。
4 分生胞子は, 酵母の出芽法に似た発芽を行う。胞子は12時間以内では発芽せず, 50%以上の発芽率を見るには, 約27時間を要する。温度20-25℃; pH6.2-6.8; 空気湿度100%乃至水滴内の条件下で, 最も発芽が良好である。又光線が発芽を促進する傾向である。
5 分生胞子は, 雨水により発芽が促進される。又大豆葉上露滴も発芽を促進するが, その程度は品種の本病に対する抵抗性の大小により異る。罹病性品種の露滴は, 促准するが, 抵抗性品種のそれは殆んど影響がない。
6 本病々原菌は, 各種の液体・固体天然培地上に生育するが, 生育速度は緩慢である。固体培地上では, 菌層は色素を形成し又隆起・皺褶を生ずる。綿状の気中菌糸を形成することはない。
7 本病々原菌は, 培地上では室内・室外を間わず約3ケ年以上生季し得る。分生胞子は, 病斑上では200-250日間生存するが, 病斑から分離された状態では生存期間が短く, 11-24日位で発芽力を失う。
8 本病々原菌は, 被害茎葉上で越冬することが出来る。
9 本病々原菌の寄生範囲は狭く, 大豆以外には, ツルマメ・フジマメに僅かに寄生するのみである。
10 本病は, 大豆の茎・葉・葉柄・花柄及び莢に発生する。組織の軟弱な幼葉・幼茎等に特に発生が多い。葉の病斑は, 円形・斑点状であり, 病斑組織は肥厚隆起する。病斑の色は, 黄白色→黄褐色→灰褐色→濃褐色→黒褐色の順に変化する。病斑の大きさは, 径2~5粍位である。茎の病斑は, 円形又は楕円形を呈し肥厚隆起し, 瘡痂状とる。大きさは, 長径1糎以上に達する場合もある。莢の病斑は, 茎・葉と殆んど同じであるが, 色は濃褐色を呈し中央部が凹陥する。発病株の主茎及び側枝に, 蔓性化が起る。
11 病斑は, 葉脈の両側及び葉柄表面に特に多数形成する。
12 本病々原菌は, 角皮侵入を行う。発芽管から侵入糸を形成して表皮を貫通する。一般に表皮細胞縫合部からの侵入が多い。侵入後, 菌糸は細胞間隙或は細胞内を伸長迷走する。
13 本病々原菌の侵害に対する寄生組織の示す反応は, 品種の抵抗性の程度により異る。抵抗性品種では, 菌糸の侵入は表皮細胞にのみ止まる。被侵入細胞は速かに褐変・凝固して扁平化する。又柵状組織には, 抵抗組織の分化が生ずる。罹病性品種では, 菌糸は自由に柵状組織に迄侵害する。被侵入細胞並びに粗織は, 褐変・扁平化するが, 抵抗組織の分化は無い。
14 寄主組織の示す抵抗反応は, 組織の成熟度により異る。抵抗性品種の成葉に於ては, 最も典型的な組織形態の変化による物理的抵抗を示す。幼葉では, 細胞の急速な壊死に由る生理機能的抵抗を示す。老葉は, 幼葉に於ける反応と略々似て居る。
15 柵状組織に見られる形態的抵抗組織の分化は, 機械的損傷により誘起されることはなく, 病原菌による刺激を必要とする。
16 本病の第一次発生は, 前年の罹病茎葉莢に形成する分生胞子の飛散による。種子伝染は行われない。
17 第一次発生以降の蔓延は, 病斑上の分生胞子の飛散による。
18 株間には, 飛火的蔓延は少く, 発病株を中心として周囲に漸次蔓延する。
19 本病の発生と環境との関連は明瞭ではない。然し圃場への撒水を多くした場合には発生が多くなる。
20 本病発生に及ぼす栽植密度の影響は, 大豆の生育初期には, 若干現はれ密植の場合発病が多いが, 生育が進むに伴い影響は薄れる。
21 肥料三要素の本病発生に及ぼす影響は明瞭ではない。唯無肥料・無堆肥等生育不良の場合には, 発生が多くなる傾向である。
22 大豆の連作は, 本病の発生を多くする。大豆・小豆を交互に輸作すると発病は減少する。大豆作の間に2ケ年禾穀類或は大豆以外の豆類を栽培すれば, 発生は極めて減少するか, 或は発生が見られなくなる。
23 品種間の発病差異は, 明瞭である。無発病品種も多数認められた。各品種の諸形質と発病程度との間には一定の関係が認められない。発病株歩合の高い品種が常に罹病度も高くなるとは限らない。
24 薬剤撒布の防除効果は認められる。撒布により罹病株率は減少しないが, 罹病度が減少する。
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