東京医科歯科大学教養部研究紀要
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2023 巻, 53 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 猪熊 恵子
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 1-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    一般に、小説ジャンル誕生後ほどなくして書かれたリアリズム小説の多くは、「〈はじめ〉から〈なか〉を経て〈おわり〉に至る」という直線的時間軸に沿って展開するが、時代が下りモダニズム、ポストモダニズム小説が書かれるようになると、作品内の時間軸はより複雑で錯綜したものに置き換わる、と言われる。しかしこのような説明こそ、小説形態の時代に伴う変遷に直線的モデルを当てはめるものではないだろうか。本稿ではこの疑問から議論を起こし、小説黎明期の作品の多くが一本調子の時系列に対してきわめて自意識的な距離をとるものであることを明確にし、〈小説のはじまり〉がはらむ根源的な論理破綻に光を当てることを目指す。最終的に、あらゆる小説とは一見したリアリズム色の濃淡に関わらず、常にその〈はじまり〉において、「すでにあるはずのものに依存しなければ何もはじめられない」のに、「何かが今・ここではじまっているように信じたふりをしなければ何もはじめられない」という存在論的矛盾を抱え込むものであることを明らかにしたい。
  • 澤野 頼子
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 15-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    ブロメラインはパイナップルに含まれる主要なタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)である。本酵素は、そのタンパク質分解活性やそれに基づく薬理学的作用により、食品、化粧品、医薬品、医療分野で様々に利用されている。本総説では、ブロメラインの生化学的性質を述べるとともに、産業利用および構造機能相関解析に利用するための抽出・精製法に関する研究動向について紹介する。
  • 澤野 頼子, 奈良 雅之
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 25-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    2012年度より医学科、歯学科2年生向けに開講された生命科学基礎(化学)について報告する。2023年度に予定されているカリキュラム改革において、2年次の教養教育としての化学の科目は廃止されるが、これまでに果たした役割について議論する。
  • 丸岩 美結, 丸山 雄介, 服部 淳彦
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 35-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    ゾウリムシ(Paramecium caudatum)は繊毛を使って遊泳を行っているが、その運動は昼夜で変化することが知られている。本研究では、ゾウリムシの日周変化や概日変化とそれに対するメラトニンの影響について、ゾウリムシの遊泳速度と方向転換の頻度、繊毛打の周期性を指標として調べた。ゾウリムシの行動の日周変化を解析した結果、暗期には遊泳速度が低下し、その時に方向転換頻度が増加して繊毛打の周期が長くなるという有意な変化が見られた。一方、恒暗条件におけるゾウリムシの行動を解析した結果、暗期にあたる時間には遊泳速度の低下と方向転換頻度の増加、周期の延長が見られた。そこで、哺乳類において体内時計の同調因子として知られているメラトニンを添加したところ、メラトニン群で遊泳速度が低下し、方向転換頻度が増加して繊毛打の周期が延長するという夜間と同様の行動を誘導することが確認された。これらの実験結果は、ゾウリムシには概日時計の役割をする機構が存在し、メラトニンが影響を与えている可能性を示唆するものである。
  • 包 敏
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 43-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    「2020年度国家老齢事業発展公報」によると、2020年11月1日零時、中国全土における60歳以上の老年人口は2億6,402万人、総人口に占める割合は18.7%に達した。そのうち、65歳以上の高齢者人口は1億9,064万人で、総人口に占める割合は13.5%になった。 高齢化のスピードは予想以上に高まっている現状では、高齢者向けサービスの充実を一層図らなければならない。中国務院は2022年2月21日、「第14次5カ年(2021~2025年)計画期間における国家高齢者事業の発展と養老サービス体系に関する計画」(以下、計画)を発表した。本論文は、同計画の主な内容を紹介したうえ、今後5年間展開される中国の高齢化対策を考えたい。
  • 閆 佳祺
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 59-70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本稿は中国語の異なるジャンルに属する新聞記事と小説におけるいわゆる「意合法」の状況を比較した。結果として、新聞記事における接続語のゼロ形式の割合は33%であり、小説における接続語のゼロ形式の割合より約20%少なかった。このことから、新聞記事における論理関係は明示的な手法により表す傾向があるといえそうである。これは、新聞記事の執筆の面においての要求に由来すると考えられる。新聞記事は、限られた紙面の中で、事実を簡潔明瞭かつ正確に伝えることが求められるため、接続語の使用は効果的かつ効率的な表現手段であると考えられる。このほか、新聞記事には事柄についての報道以外にも論説があり、これも小説よりも新聞記事に接続語が多く使われている要因の1つである。
  • 田中 丹史
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 71-82
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    日本の終末期医療政策をリバタリアン的合意とコミュニタリアン的合意の視点から歴史的に考察した。まず日本安楽死協会が治療停止に関する法案を作成したが、ルール化に至らなかった。この法案は治療停止に関して自己決定権を重視しており、リバタリアン的合意を目指したものと言える。さらに日本医師会が複数の報告を発表し、リビング・ウィルやアドバンスディレクティブに言及するなどリバタリアン的考え方に基づく見解を表明した。2007年には厚生労働省がガイドラインを策定し、患者・家族の社会的な側面も含めた医療・ケアが必要とされていることからコミュニタリアン的合意に至ったものと言える。その後、日本救急医学会や日本医師会もガイドラインを発表しているが、リビング・ウィルやアドバンスディレクティブに言及するなどリバタリアン的な発想も強い。とくに日本医師会は医師の法的責任の免除を強調している。そのため、医療関係者がリバタリアン的合意に近づくことの根底には責任をめぐる争いがあると言える。
  • 野口 大斗
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 83-90
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    機械翻訳の発展は目覚ましく、その訳文の質は多くの学習者のものよりもよい。機械翻訳のモデルは対訳コーパスを基に訓練される一方で、教室以外で目標言語に触れることがない学習者の多くは教科書を使用して伝統的な方法で言語を学ぶ。日本も例外ではなく、高等学校では、英語は学習指導要領に準拠した教科書を使用して教えられる。 本稿では、その高校の英語リーディング教科書では、翻訳システムを構築するのに十分なインプットを与えることができないことを報告し、学習のためにどのようなデータが必要なのかについて議論する。
  • 野口 大斗
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 91-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    機械翻訳技術の進歩や、COVID-19によるオンライン授業の影響は語学教育のありかたを考え直すきっかけとなった。本稿では、授業実践を振り返り、機械翻訳と共存する方法について紹介する。
  • 伴野 崇生
    2023 年 2023 巻 53 号 p. 95-112
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/24
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    難民を対象とした日本語教育実践については、現状、NPOやボランティアの努力に過度に依存している状況にあり、人材育成のための環境が十分に整備されているとは言い難い。本研究では、筆者自身の自己形成・成長過程について、特に内面の変化に焦点化して分析・考察を行った。またそれにより、難民を対象とした日本語教育の実践者の変容過程を事例としてまとめ、今後民間セクターで難民を対象とした日本語教育に関わろうとする人々の参考材料として示すことを目指した。分析手法としては「対話的自己」(ハーマンス&ケンペン1993=2006)を用いた。七つの時期を経て、様々な外部ポジション「◯◯から見た自分」と内部ポジション「ボランティアとしての自分」「難民を対象とした教育実践者としての自分」「大学教員・研究者としての自分」との間の自己内対話を通じて、筆者自身の中の様々な声が矛盾なくまとめられていったことで「「専門家」としての自分」という統合された新たな内部ポジションを得ることができたことが確認された。
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