自己複製分子のホモキラリティーの確立とRNAワールド仮説との関連を考察する一環として,2’-deoxyadenylyl-(3’-5’)-2’-deoxyadenosine[d(ApA)]の4種の光学異性体[D-d(ApA), d(ADpAL), d(ALpAD), L-d(ApA)]を合成し,それらの右巻きらせん形成能について検討を行った.円二色性(CD)スペクトルからD-d(ApA)とd(ALpAD)は右巻きらせんを,L-d(ApA)とd(ADpAL)は左巻きらせんを形成することが明らかになったが,これらのpoly(U)との三重鎖形成能を指標とした右巻きらせん形成能を評価したところ,ヘテロキラルなd(ALpAD)およびd(ADpAL)の右巻きらせん性に大きな差違はなく,また,D-d(ApA)のそれとも顕著な差がないことが明らかになった.以上の結果から,DNAダイマーの3’-末端側残基のキラリティーがpoly(U)との三重鎖形成能に及ぼす効果はRNAダイマーの場合ほど強くないことが明らかになった.今回得られた知見を基に,RNAの化学進化とホモキラリティーの起源について考察した.