【目的】これまでに我々は,凍結融解後のアグー精子において
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の活性化を伴ったアポトーシス様細胞死が誘導されていることを明らかにしてきた。しかし,この凍結障害による精子の
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活性化経路に関しては,未だ十分には解明されていない。そこで本研究では,凍結融解後のアグー精子の性状性および各種
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活性を調べ,凍結障害とアポトーシス様細胞死との関連について検討した。【方法】本研究には,3頭の繁用アグー射出精子を用い,200 µM安定型アスコルビン酸誘導体(AA-2G)と5%低密度リポタンパク質(LDL)を添加した凍結用希釈液(mBF5)を使用した。そして,ミトコンドリアからのシトクロム
cの放出を抑制するBcl-x
Lを基にし作製された新規細胞死抑制タンパク質(PTD-FNK protein)を0もしくは300 nM添加したmBF5中で精子を30分間室温で静置することでPTD-FNK proteinを細胞内へ取り込ませた後,既報に従い冷却・凍結処理を行った。融解後,精子性状に関連する様々なパラメータを評価すると共に,活性型
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-3,8および9を有する精子を計測した。【結果】凍結時のPTD-FNK protein処理精子において,融解後の
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-3と9の活性が有意に減少し,ミトコンドリア正常性や精子運動性が有意に向上した。一方,活性型
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-8を有する精子率には,PTD-FNK protein処理の有無による違いは認められなかった。また,DNAおよび細胞膜の正常性は,融解直後に比較して融解3時間後の精子で有意に減少した。しかし,融解後もPTD-FNK proteinで継続処理した場合,断片化DNAを示す精子の増加は抑制された。これらの結果から,凍結融解後のアグー精子における性状性の低下と
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-3の活性化には,凍結時のミトコンドリア障害に伴って誘導される
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-9の活性化経路が深く関係していることが明らかとなった。さらに,PTD-FNK protein処理に関係なく
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-8の活性化も検出されたことから,他の経路を介したアポトーシス様細胞死誘導機序が存在する可能性も示唆された。
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