【はじめに】
サリドマイド
は、鎮静・睡眠薬として世界中で使用されたが、胎児寄形という大きな薬害を引き起こし、販売が中止された薬剤である。近年、アメリカで難治性多発性骨髄腫に対し治療効果があると報告され、患者の個人輸入により
サリドマイド
が使用されている。しかし、その管理は必ずしも適正であるとはいえず、再び
サリドマイド
による被害が発生する危険性が否定できない状況であり、昨年12月に、厚生労働省より「多発性骨髄腫に対する、
サリドマイド
の適正使用ガイドライン」が出された。当院では、それ以前から
サリドマイド
治療がスタートしており、我々も
サリドマイド
の管理と運用に積極的に関わってきたので、その運用方法と現在の状況を報告する。
【運用方法】
サリドマイド
が患者の輸入手続により手元に届いたら、すぐに薬剤・供給部門の専用の保管場所に保管し、
サリドマイド
管理用ファイルを作成する。管理用ファイルには、患者名、患者ID、生年月日、管理ファイル作成日、作成者、依頼医師名、入庫日、入庫数、ロット番号、残数を記入している。
サリドマイド
は麻薬と同等の扱いで調剤や受け渡しを行ない、常に施錠された場所に保管するなど厳重に管理している。また、
サリドマイド
による治療は入院中に開始されるため、病棟薬剤師が服用前に服薬指導を行なうこととした。その際に、用法、用量、副作用に加え、
サリドマイド
の社会的な背景をお話し、服用中の飲み残しがあった場合、服用が中止になった場合は必ず薬剤・供給部門への返却をお願いした。また、自宅での管理方法の指導も行ない、誤って第三者が
サリドマイド
を服用することがないように十分に説明を行なった。
【実際の状況】
現在内服中の患者は、体調不良等により飲み残しが発生した際に、薬剤・供給部門の窓口に飲み残し分をすべて返却している。患者自身が
サリドマイド
の返却の意義を充分に理解しており、不要な
サリドマイド
はすべて回収され、この薬物が適正に管理されているといえる。
【おわりに】
サリドマイド
を薬剤・供給部門で厳重に管理し、患者へ十分な説明を行なうことで、他に薬害を出すことなく安全に治療を進めることができている。過去の経緯から、
サリドマイド
が適正に使用されないことで、全面的に使用が制限されてしまう事態を招く可能性もある。
サリドマイド
の承認を待つ患者も多い中、その適正使用に薬剤師が関わる意義は大きいと考える。今回の経験を生かし、他の薬剤の適正使用にも薬剤師が積極的に関わり、患者の治療の選択肢の幅を広げていけたらと思う。
抄録全体を表示