硬, 軟両食品
咀嚼
時の頭蓋の力学的反応の違いと頭蓋の成長, 発育との関連性を明らかにすることが, この研究の目的である. 立位に固定した麻酔下の成熟期 (体重 : 7.0〜10.4kg) および幼年期 (体重 : 2.3〜2.7kg) の日本ザルの下顎骨の両側の臼歯部骨体部ならびに両側の上顎骨の臼歯部骨体部, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部, 側頭骨鱗部, 頭頂骨中央部および側頭骨顎関節周辺部の合計14か所に三軸ストレインゲージを貼付し, 両側の咬筋を同時に電気刺激して収縮させ, 咬合,
咀嚼
させた. なお, 電気刺激の強さは, 咬合時の両側咬筋ならびに硬食品 (クッキー) および軟食品 (マシュマロ)
咀嚼
時の左側 (
咀嚼
側) 咬筋においては60V, 食品
咀嚼
時の右側 (非
咀嚼
側) の咬筋は30Vである. 咬合時に対する
咀嚼
時の全総主ひずみ量 (
咀嚼時に咀嚼側と非咀嚼
側との頭蓋各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率は, 硬食品
咀嚼
時には成熟期頭蓋と幼年期頭蓋とではほとんど差は認められないが, 軟食品
咀嚼
時には幼年期頭蓋のほうが小さい. 咬合時に対する
咀嚼
側頭蓋総主ひずみ量 (
咀嚼時に咀嚼
側頭蓋の各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率については, どちらの食品を
咀嚼
しても, 両頭蓋間にそれほど差が認められないかあるいは差が認められたとしてもその差はわずかである. それに対して, 咬合時に対する非
咀嚼
側頭蓋総主ひずみ量の百分率は, 幼年期頭蓋のほうが硬食品
咀嚼
時では大きく, 軟食品
咀嚼
時では著しく小さい. すなわち, 硬食品
咀嚼
においては, 非
咀嚼側頭蓋にはその発育を促すのに必要なだけの大きさの咀嚼
力が加わっているのに対して, 軟食品
咀嚼
時には加わらない. したがって, 摂取食品の性状による頭蓋の力学的反応の悪影響は, 軟食品
咀嚼
時において, とくに幼年期の非
咀嚼
側の頭蓋に現われる.
咀嚼
時には,
咀嚼物質の大きさや性状等によって頭蓋各骨に加わる咀嚼
力の方向, したがって主ひずみの方向が咬合時と異なる骨とまったく差異の認められない骨とがある. 前者の骨は, 幼年期頭蓋のほうに多く認められる. このことから, 成熟期頭蓋のほうが応力が集中しやすいことがわかる. また, 頭蓋各骨における
咀嚼
時の主ひずみ量が咬合時に比べて増加する骨は, 軟食品
咀嚼時よりも硬食品咀嚼
時のほうが, また幼年期頭蓋よりも成熟期頭蓋のほうが多い. 頭蓋各骨における
咀嚼
時の主ひずみ方向の変動および主ひずみ量の増大についての以上の知見から, 成熟期頭蓋においては
咀嚼
時には個々の骨がそれぞれ単独に, これに対して幼年期頭蓋では頭蓋を構成するすべての骨が一塊として,
咀嚼
力を緩衝していることがわかる. 非
咀嚼
側の頬骨弓は,
咀嚼
力の緩衝作用に対して重要な働きをしている. すなわち, 頬骨弓の主ひずみ量は, 軟食品
咀嚼時の幼年期非咀嚼
側頬骨弓における場合を除いては, 他の頭蓋各骨よりも著しく大きい. また, その主ひずみの方向は非
咀嚼
側頬骨弓では変わりやすく,
咀嚼
側頬骨弓では変わりにくい. 量と方向とについての以上の現象から, 非
咀嚼
側の頬骨弓は第2級のてこの作用が十分に発揮されるように, 機能していることが証明される. しかし, 幼年期の非
咀嚼
側頬骨弓は, 軟食品
咀嚼
時には主ひずみの方向は変わりやすいが, 主ひずみ量が大きくないから, 第2級のてこの作用は発揮されない. なお, latency time, peak time, restoration timeおよびひずみ波形のパターンを測定し, 粘弾性体としての頭蓋各骨の力学的モデルは三要素モデルによって説明できると判断した.
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