発表者は防災意識向上を目的とした市民へのアプローチとして、「地域食材」「産業動物・ペット」「臨時災害放送局」「アウトドア」等多種多様な切り口で講演会やワークショップ等の活動を進め、一定の防災意識の向上につなげることができた。しかし、活動をおこなうなかで、これまでとは異なる新たな視点での防災の切り口も必要となっている状況も感じている。そのようなことから、さらなる防災意識向上を目指し、新たな切り口である「文化芸術×防災」を提唱し活動を開始した。
これまでにない文化芸術の視点から防災を意識するきっかけを創ることで、市民の防災意識の深化に繋げるとともに、文化芸術に関わるアーティストには「地域防災」を通じた新たな視野の提供にも繋げることを目的としている。さらに、近年の防災に対する一般企業の意識の変化もあり、新たな経営改善事業の創出の一端を創ることも期待できる。活動は文化芸術に関わる分野に携わる研究者だけでなく、他分野においても文化芸術につながる研究を行っている方々、舞踊や絵画などのアーティストと協働し行っているが、研究者やアーティストの視点だけではうまく進行しないことも多く、地域の様々な協力者も交えながら活動を行っている。
今年度は文化からのアプローチとして、作物学研究者と協働で蕎麦と防災食に関わる講演会を実施した。蕎麦の栄養成分と行者・忍者の
携行食
について講演を実施し、災害時の食を意識してもらう目的で行った。あわせて、蕎麦職人による蕎麦打ちの見学と試食、災害時の食事としての活用できる蕎麦掻き体験と実食を行った。その後「蕎麦文化」と「防災」のクロストークを実施した。公共文化施設からのアプローチとして、災害時避難所になりうる美術館を舞台に、公共文化施設の発災時の課題についての講演を行った。ここでは能登半島地震発生から1年以上被災者対応を行っている団体と、2019年の東日本台風の際に要配慮者の避難を実施した福祉施設の関係者に話をしてもらうとともに、事業団グループで実施した東日本大震災被災公共文化施設の調査報告を実施した。その後自由討論型でのディスカッションを発表者、参加者を交えて実施した。
日常生活において防災は重要であるという認識は、ほぼすべての人に浸透しているが、実際の防災普及はまだまだと言わざるを得ない。そのような状態のなか、いかに防災に興味関心を持ってもらい自分事として意識してもらうかが重要である。そのため新たな切り口での防災普及が今後さらに重要になると考える。
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