本稿は,産業集積地域のイノベーションの継起で注目を集める「集団学習」の認知過程についての研究である.特に,認知過程でのアクターによる知識や情報を解釈・評価・発信する能力(リテラシー)の修得と実践が,地域アイデンティティの徹底化によるイノベーション継起の鍵になると論じた.研究対象事例は,大阪市生野・
東成区
の異業種交流会「フォーラム・アイ(略称FI)」とした.その結果,以下の点が明らかになった.第一は,認知的枠組みとしての集団学習環境が形成されることにより知識や地域アイデンティティの共有が進められたとしても,すぐさまイノベーションに結実しない可能性である.第二は,直接認知の実践が進むに伴い,無数ともいえる地域外部の情報の中から,集団にとって必要となる情報を読解できるようになり,その経験が地域アイデンティティの徹底化と再形成化につながっていた.第三は,集団学習によりイノベーションが継起されるには,地域アイデンティティの共有にとどまらず徹底化されるレベルが求められることである.徹底化を実現するためにFIでは,地域アイデンティティとの対峙を第一に捉えていた.本稿の考察から,知識や情報を解釈・評価・発信するリテラシー能力は,集団学習による地域アイデンティティの徹底化を実現する基礎的役割として重要であり,集団に参加する企業のイノベーションの源泉となっていた.
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