【背景】我々は既に、ラットへの28日間反復投与により発がん標的細胞に増殖活性の亢進を示す発がん物質は、標的臓器を問わず細胞周期停止を反映した分子発現とアポトーシスの増加と共に、Ubiquitin D (UBD) のG
2期からの異常発現によるM期スピンドルチェックポイントの破綻を誘発する可能性を見出した。
【目的】本研究では、腎発がん物質の投与初期に生じる腎尿細管上皮細胞の増殖活性の変動に伴う、細胞周期分子発現の経時的な変化を検討した。
【材料と方法】F344ラットを用いて、無処置群、腎発がん物質投与群[nitrofurantoin (NFT), 1-amino-2,4-dibromoantraquinone (ADAQ), 1,2,3-trichloropropane (TCP)]ないし非発がん性腎毒性物質投与群[1-chloro-2-propanol, triamterene, carboxin (CBX)]を設定し、実験開始後、3、7及び28日目に腎臓を採取し、免疫組織化学的解析を行った。
【結果】実験開始後、尿細管上皮細胞の増殖活性の増加が、3日目ではNFT, TCP, CBXで、7日目ではNFT, TCPで、28日目ではNFT, ADAQ, TCP, CBXで認められた。NFTによる増殖活性の増加は7日目で最も高く、28日目では低下した。また、28日目ではADAQ, TCP, CBXにおいてG
2/M期分子のTopoIIα陽性細胞及びUBD陽性細胞が増加し、NFT, CBXではM期分子のp-Histone H3陽性細胞が増加した。更に、この時点でのNFT, ADAQ, TCP, CBXにおける免疫二重染色による解析の結果、ADAQ, TCPでは、UBD陽性細胞でのp-Histone H3の発現割合が減少したが、NFT, CBXでは変動を認めなかった。
【考察】28日間の反復投与時に強く増殖活性が促進した物質のうち、発がん物質のみがUBDのM期での発現を減少させた。一方でNFTは、UBDのM期での発現変動はなく、28日目で増殖活性が減弱した。以上より、投与28日目で強い増殖活性を示す腎発がん物質に特異的に、細胞周期内でのUBDの発現時期の異常に起因するM期スピンドルチェックポイントの破綻が誘発される可能性が示された。
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