防腐剤としてトルオールを用いて皮を塩蔵し,塩蔵中における組織液中の球状蛋白質とそれに関係ある多糖類の塩による変化を明らかにするのを目的とする.
白色家兎の皮を用い,肉面に固体の食塩を散布してから飽和
食塩水
中にいれ,トルオールでおおい貯蔵した.3日目,1ヶ月日,2ヶ月目,4ヶ月目あるいは6ヶ月目に皮をとり出し,圧搾してできるだけ飽和
食塩水
をしぼり,乾燥して粉粋した.粉砕した皮粉について,10%
食塩水
抽出,あるいはその後に飽和石灰水抽出を行なつた.貯蔵に用いた飽和
食塩水
,10%
食塩水
抽出液,飽和石灰水抽出液については,透析により除塩後,蛋白質,ヘキソサミン,ヘキソースを定量する.また飽和
食塩水
と10%
食塩水
抽出液は透析により除塩後,硫安で塩析し,塩析物を水にとかし除塩して乾燥秤量した.またこの塩析物の乾燥品をべロナール緩衝液に溶解して,移動界面電気泳動あるいはろ紙電気泳動を行ない,得られたパターンを比較した.得られた結果は次の通りである.
1) 20°Cで貯蔵した場合,10%
食塩水
により抽出される蛋白態窒素量は4ヶ月日まで次第に増加し,ヘキソサミン抽出量もこれに呼応して増加する.これに反し,塩水抽出後に和石灰水で抽出される蛋白態窒素量と非透析性ヘキソースとが次第に減少する.貯蔵に用いた飽和
食塩水
中の蛋白態窒素量はほとんど変化しない.26°Cで貯蔵した場合には10%
食塩水
で抽出される蛋白態窒素量は2ヶ月目で最高となつた.
2) 飽和
食塩水
や10%
食塩水
抽出液からの塩析物の重量を測定しても1)と同様のことが観察された.
3) 飽和
食塩水
からの塩析物質の移動界面電気泳動図に3種のピークが得られるが,その移動距離とピークの面積は貯蔵期間によつてほとんど変化しない.10%
食塩水
抽出液よりの塩析物質では,示される3種のピークのうち,移動距離の最大のものは,貯蔵期間の経過と共に次第に面積を減少し,移動距離の最小のものは次第に面積を増加し,移動距離も次第に減少する.
4) 塩析物質のろ紙電気泳動図では,BPBで染色される2種のスポットが見られ,10%
食塩水
抽出液の塩析物では移動距離の大きい方が貯蔵期間の経過とともに色が薄くなり,シッフの試薬で染色されるスポットの移動距離は次第に小さくなる.
5) 上記の結果から,塩蔵中において皮の組織液中の塩可溶性蛋白質とアルカリ溶性蛋白質との変化は相互に関連があり,多糖類の変化とも密接な関係があり,変化要因の主なるものは塩の作用と温度と推定される.
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