2018 年 18 巻 9 号 p. 447-453
水分子はそのユニークな性質から,さまざまな生体反応に極めて重要な働きを持つことが知られている。特に水素結合を介した分子間の相互作用は多くの場面で働いているものの,それ自身を直接計測する手法は限定的である。本報では,テラヘルツ時間領域全反射減衰分光法と2界面モデルを組み合わせて,細胞単層の複素誘電率を決定する方法を提示する。0.25から3.5THzの間の純水およびHeLa細胞単層の複素誘電率は,水分子のデバイ型緩和およびローレンツ型振動ダイナミクスに由来し,遅い緩和,速い緩和および分子間伸縮振動の重ね合わせとして表すことができる。この解析方法を用いて,純水と細胞水との間に明確なダイナミクスの違いが確認できる。さらに,生体水の誘電緩和に着目したCMOSバイオセンサ集積回路を紹介する。このセンサは近接センサとして機能することができるので,その上に培養された細胞の誘電特性を評価した事例を紹介する。このような簡便なセンサは,サブテラヘルツ領域でのバイオアプリケーションを切り拓く可能性があると期待される。