2024 年 24 巻 10 号 p. 447-453
廃食油は調理中に何度も高温にさらされて劣化した油である。廃食油の環境への負荷を減らすため,多くの論文で廃食油の再利用に向けた研究が紹介されている。その中の一つに天然由来で環境に優しいソホロリピッド(SL)へのアップサイクル活用が注目されている。SLは環境やヒトにとって多くの利点がある一方で,製造コストが高いことが懸念点として挙げられる。SL製造コストの削減のため,フレッシュな油よりも安価な廃食油をSLの原料として利用することは大きな可能性を秘めており,これまで数多くの論文が報じられている。しかし,劣化した廃食油の性質はフレッシュな油の性質とは異なっており,SL生産性(g/day)にどのような影響を及ぼすのかはいまだ調査されていない。本研究では,劣化油の酸価(AV),過酸化物価(PV),カルボニル価(CV)に注目し,それぞれの物性値がSL生産性にどのような影響を与えるのかを調査した。6種類の劣化度合いの異なる油についてSLへのアップサイクルを試みたところ,フレッシュな油の場合のSL生産量(111.1g/L)と同等のSL生産量(106.7~113.0g/L)となった。一方,油脂の消費速度はCVが高くなると遅くなり,フレッシュな油の培養日数が6日であったのに対して,CVが105.34,109.88(μmol/g)の劣化油の場合,完全に消費するまで培養日数が9日かかることが分かった。