芸術工学会誌
Online ISSN : 2433-281X
Print ISSN : 1342-3061
78 巻
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芸術工学会誌 78号
  • ドミニカ共和国の日本におけるコーヒーとカカオ豆のパッケージデザインを事例として
    MARTINEZ ANGELES Yarased del Carmen
    原稿種別: 論文
    2018 年 78 巻 p. 4-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/11/23
    ジャーナル フリー
    近年コーヒーおよびチョコレートは、だれもが容易に購入することができる商品である。しかしながらそれらの原産国は、赤道付近のある特有の自然環境を有する場所に限り、栽培することができる。またコーヒーおよびカカオ産業は、多職・多様な人々(農家、貿易業者、ロースト業者、開発者、デザイナー、流通業者、消費者)の関係で成り立っている。  本研究は、原産国のイメージを輸入先でパッケージデザインされている商品に注目している。  そうしたなかパッケージデザインは、単に消費者の購入行動に直接的な影響を与えるだけでなく、原産国および生産者と消費者をつなぐ重要な役割を担い、そこにはインタラクティブな関係が内在すると考えられる。パッケージには、肯定的もしくは否定的な印象を想起させる可能性があり、原産国の正確な情報を消費者に提供しなければならない。すなわち、パッケージデザインは消費者の第一印象を形成するため、その表記方法およびデザインにおいて、原産国および販売国のいずれの理解を持ち合わせなければならないと考えている。  本稿はそうした視点から、日本市場におけるドミニカ共和国産のコーヒーとカカオのパッケージデザインを事例に、1)消費者へのアンケート調査による原産国のイメージの抽出、2)メーカーおよび専門店へのインタビュー調査、3)パッケージデザインの比較分析、以上3つの観点から研究を進めている。1・2)を通して、消費者および販売者の両側面から原産国のイメージについて、アンケートおよびインタビュー調査を通して現状のパッケージデザインの把握をおこなっている。3)においては、パッケージデザインを8つの要素(a.原産国名(日本語表記)、b.原産国名(ローマ字表記、外国語)、c.国旗、d.地図、e.色彩、f.国のイメージ、g.国の紹介・説明・国のシンボル、h.調達方法(産地、フェアトレードなど))に分類し分析をおこなっている。  これらの調査・分析により、パッケージデザインに表記されている原産国名(ドミニカ共和国)が誤って表記がされている。また、パッケージデザインの価値的要素である原産国のイメージ、色彩はデザインに使用されていないことが明らかになった。
  • ポンペイ住宅のペリスタイル列柱配置における視覚効果の形式とその変遷についての考察
    安田 光男, 松隈 洋, 木村 博昭
    原稿種別: 論文
    2019 年 78 巻 p. 12-19
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/23
    ジャーナル フリー
    本研究は古代ローマ住宅ペリスタイルの列柱についての研究の第二編である。メナンドロスの家においてみられた様々な視覚効果をもたらす柱間の操作について、ポンペイにおける他の邸宅と比較し考察を行う。 どのような種類のものがどの住宅につかわれているか分析を行った上で、そういった操作がどの時代に行われていたかを確認し、視覚操作が行われている邸宅と行われていない邸宅の違いについての考察を行う。考察の要点は以下の3つである。1.初源的な遠近法を用い、奥行を実際よりも深く見せているかどうか。2.ペリスタイル列柱の操作を行うことで、アトリウムとペリスタイルを関係づけようとさせているかどうか。3.ペリスタイルに面する部屋の前の列柱は柱間が他のものよりも拡幅されているかどうか。  信頼のできる詳細な平面図が掲載されている資料「Häuser in pompeji」から7件と前論考で取り上げたメナンドロスの家を加えた計8件を対象とし、上記の3_つの要点に沿って考察を行った。その結果、紀元前40年以降に現在見られる形にペリスタイルが成立した6件についてはペリスタイル列柱に視覚的操作が随所に見受けられるが、それ以前に成立した2件及び前者の6件でも年代が古い改築前のペリスタイルについては視覚的操作に関しては顕著なものが見受けられず、均等配置や軸対称の配置等、幾何学的な規則性に基づいた配置がより優先的に行われていることが分かった。  研究対象となったポンペイ住宅においてペリスタイル列柱の配置は導入時(紀元前1世紀頃)にはペリスタイル自体の対称性が重視されており、幾何学的な秩序をよりどころに設計されていたものが、次第に柱間間隔を操作し、初源的な遠近法の効果を求めたり、中庭の風景を美しくみせるための視覚的な軸を中心に設計が行われるようになったと推測される。その変化は先行研究が指摘していたようにローマ帝国がポンペイを攻略した紀元前89年以降、紀元前40年頃から始まったと推測できる。また、アトリウムの機能がペリストリウムに移行する中で、ペリスタイル導入時のようにアトリウムとペリスタイルにおいて、空間的な応答関係が列柱の操作を行うことによって生み出される。
  • 分光分析を用いた実践的考察
    岩崎 可奈子
    原稿種別: 論文
    2019 年 78 巻 p. 20-27
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/23
    ジャーナル フリー
    本研究は、分光分析(スペクトル分析)とSD 法による印象評価を関連付け、自然光を作品の一部として取り入れる平面作品の展示手法を提案するものである。まず美術館などでの展示照明を調査し、日本美術の照明手法の考え方から、日本建築での自然光の採光手法に着目し、障子紙を用いた展示手法を提案した。また印象派絵画における光の捉え方を光と色の三原色の視点から調査し、自然の光を作品に取り入れる表現手法をについて考察を行い、自然光を採光する際に色面の分割と配置を行うことで自然光の印象が強くなるのではないかと考えた。  次に実際に作品を制作し、自然光と人工光の影響をそれぞれ分光測色計による光の分光分析を行った。同時に作品に対してSD 法による印象評価を行い評価の項目の値に対して主成分分析を行った。実験の結果と分析から作品に自然光を透過させる展示は、自然光を透過させない展示に比べ一定して肯定的な印象を与えやすいこと、画面上に光の変化による動きをもたらすことも可能となることが分かった。自然光を透過させる展示手法は移り変わる光の変化という自然光の特徴を保ちながら肯定的な印象を鑑賞者に与えることの有効性が示された。しかし自然光を透過させた場合蛍光灯の影響が顕著になると否定的な印象が強くなるため実際に展示をする際には蛍光灯の影響が出ないように配慮し、展示場所や期間なども考慮する必要がある。
  • ―数理的分析に基づいて―
    郭 瑞, 石川 恒夫
    原稿種別: 報告
    2019 年 78 巻 p. 28-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/23
    ジャーナル フリー
    本研究は上海市の外灘区域に存在する近代の建築文化財をいかに評価し、保全につなげるかというテーマに対して、日本人建築家平野勇造が1911 年に設計した旧在上海日本国総領事館新館を事例として取り上げ、まずはファサードにおける建築表現の考察によって意匠面からの評価を試みることを目的としている。数理的分析方法を用いたファサードを対象とする既往研究は、殆ど2 次元の視角から垂直面の建築表現に着目する。しかしながら、空間表現的な相互関係が意匠を評価するために重要なものと考えるため、本研究においては、奥行きを考慮に入れ、3 次元の立場をとる。平野の設計意匠に関する言説はないけれども、固有の建築表現を抽出するために、図面を利用し、スケールに基づいて共通の寸法特徴を持つ基準要素を設け、図形情報を数式に転換する数理的分析方法を提案し、幅と高さ、高さと奥行き、奥行きと幅の3 種類の関係から建築意匠の考察を行った。その結果、研究対象のファサードの設計において以下の知見が得られた。 1).プロポーションを確認したが、際立って黄金比などのプロポーションは使用されていない。 2).水平面と垂直面に、3 つの軸が併用され、左右対称と上下対称の複合の関係が見られる。 3).複合関係の中で、上下対称より、左右対称の表現が優先的に強調されている。 4).軸を巡って、基準要素が等差の関係に基づいて並んでおり、潜在的な数理関係が見られる。 以上の4 点により、旧在上海日本国総領事館新館のファサードにおいて、緻密な規則性が見られ、建築意匠的視点からの新たな評価に理論的根拠を与えることができた。
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