芸術工学会誌
Online ISSN : 2433-281X
Print ISSN : 1342-3061
63 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 河 宗秀, 金 大雄, 石井 達郎
    2013 年 63 巻 p. 91-97
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、一般家庭おいて3Dテレビや手軽に使える小型の一体型二眼式3Dカメラの普及により、3D映像コンテツを制作する機会が増えてきている。一体型二眼式3Dカメラは、立体感を損なわず快適に見られるためのコンバージェンスポイントの自動調整機能が搭載しているものもある。しかし、ズームインの時には被写体が拡大され、コンバージェンスポイントの自動調整ができない。このようなズームインの3D映像を見た時に映像酔いを誘発する視覚的不具合が発生することもある。しかも、ズームインまたはコンバージェンスポイントの移動によって奥行き感が変わってしまう空間歪みが発生する場合もある。  本研究では、3D映像制作におけるズーム機能を用いた撮影の際に発生する視覚的不具合と空間歪みを最小化する手法を提案した。  まずはズームイン前のワイドな状態でフォーカス、被写体及びコンバージェンスポイントの位置に従いフォーカス、被写体及びコンバージェンスポイントの関係モデルを9種分類した。そしてこのモデルに四つのコンバージェンスポイントの調整技法を提案し、実写を用いた四つのコンバージェンスポイントによる調整技法の比較と優秀性を立証した。  その結果、快適視差範囲内のコンバージェンスポイント移動技法が、視覚的不具合や空間歪みを起こさない優れた技法であることを明らかにした。
  • 大串 誠寿
    2013 年 63 巻 p. 99-106
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    新聞グラフィックスの外観を成立させる要因を理解する上で、その発達過程を知ることは有益である。本論では明治初期の和装新聞である『筑紫新聞』の検証を行う。同紙は九州地方ブロック紙『西日本新聞』の始祖であり、新聞グラフィックスの原初的形態の一典型と捉え得る。『筑紫新聞』は西南戦争に伴う報道新聞として、1877(明治10)年3月から9月までの間に総計31500部が発行され、福岡を中心に東京、京都、大坂でも販売された。しかし、その制作手法を記した資料はなく、版式は明確でない。筆者はこれを明らかにすることを目的として文献調査を行い、さらに芸術工学会誌・第61号掲載論文「明治初期・和装新聞に於ける版式判定」に於いて示した判定法を実施した。研究は以下の順序で行った。 (1)文献調査による『筑紫新聞』第壱號の周辺概況確認、(2)同紙の精査・分析。出現文字の集計とサンプル文字選定、(3)写真撮影による同紙の紙面サンプル採取、(4)サンプル文字に対する輪郭線照合による版式判定実施  その結果、(1)で発行地・福岡の近郊都市・久留米に於いて1873(明治6)年に活版印刷が実施されたことを示した。また福岡は全国11位の人口規模を持つ地方中核都市であったが、各都市の新聞発行開始年の早さを比べると全国26大都市中22位となり、福岡の『筑紫新聞』は比較的後発であったことを示した。さらに記述内容と発行日の関係から、編集・制作・印刷の工程を1~2日で行い得る速報性に対応していたことを確認した。その結果、『筑紫新聞』は鋳造活字版で印刷された蓋然性が高いと判断された。(2)で同紙を精査し、総文字数3009個を確認した。同じ字形の繰り返し出現数を文字体系別に比較すると、平仮名・変体仮名が平均12.77個と最多であり、字形照合を行う対象として適することを確認した。同文字体系の中で最多出現文字である「変体仮名・能(の)」をサンプルに選定し、(3)で画像データとして取得した。(4)で版式判定を実施した。第2丁の「能(の)」24個のうち4個を印刷不良のため除外し、残る20個をサンプルとした。これらは字形の異なる「A・多数型グループ」と「B・大型グループ」に大別された。「B・大型グループ」2個をサンプル数不足から判断保留とし、「A・多数型グループ」内の類型のひとつである「a4・起筆部変形型」1個を、原因不明の変形から判断保留とした。残る「A・多数型グループ」の17個について字形の相違は見出されず、従ってこれらは全て鋳造活字と判断された。これに(1)の結果を勘案すると、『筑紫新聞』第壱號・第2丁に出現する「変体仮名・能(の)」が鋳造活字で印刷されたことは確実であると結論された。
  • 森崎 巧一, 竹内 晴彦, 林原 泰子
    2013 年 63 巻 p. 107-114
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    本研究は、印象評価を用いたイラスト作品評価について検討し、大学生を対象に2期にわたって評価実験を実施した。1期目はピクトグラム風イラスト、2期目は年賀状イラストを扱った。作品制作では、学生が独自の創意により作品を制作する試作品と、他者から修正情報を集めて試作品を改善する改良作品を制作させた。その後、試作品と改良作品それぞれの印象を調査し、その結果について主成分分析を行なって印象特徴を解釈した。ピクトグラム風イラストについては、第1主成分を「デザイン性」、第2主成分を「シンプル性」と解釈した。年賀状イラストについては、第1主成分を「洗練性」、第2主成分を「シンプル性」と解釈した。また、主成分得点による分析では、同一制作者の試作品と改良作品を矢印で繋ぎ、作品を改良することによる印象の変化を表現した。これによって、意味付けられた主成分をより詳細に分析し、作品のデザインの変化に対する印象への影響を確認した。  また、以上の学生による作品評価の結果について、デザインの専門家(デザイン教育者及びデザイン経験者)による評価と比較した。その結果、第2主成分の代表的な印象「シンプルな」を評価する場合、学生と専門家はほぼ共通した評価であった。第2主成分の両者の評価基準は概ね同様であると推察される。しかし、ピクトグラム風イラストの第1主成分の代表的な印象「デザインのよい」や年賀状イラストの第1主成分の代表的な印象「洗練された」を評価する場合、学生と専門家の評価は半数以上について共通であったものの、両者の間で評価の異なるケースも認められた。第1主成分については、学生の評価基準と専門家の評価基準に、ばらつきがあることが推察される。
  • 工藤 達郎, 源田 悦夫, 武末 直也
    2013 年 63 巻 p. 115-122
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    本研究では、仮想空間内の被写体を実動作をもって撮影し、銀塩写真の質感をもつ画像を出力するシステムの構築を行った。本システムは写真撮影に特化した画像形成過程をもち、実空間におけるライティングや構図の設定を忠実に仮想再現した撮影と、フィルム現像、焼き付けのシミュレート結果として1枚の画像を形成する。  システムの構築は「撮影」パートと「印刷」パートに分けて行った。撮影パートでは、モーションキャプチャ装置を用いて現実のカメラデバイスの位置および撮影方向を検出し、仮想空間内の視点情報へと適用した。また同様の方法で光源位置を検出し、Opticube という全方位型の受光装置による光強度情報を組み合わせることで、1光源条件下での任意のライティングを仮想再現した。印刷パートでは、撮影パートで取得された仮想空間画像を入力とし、フィルム特性曲線を用いた高速のデジタル銀塩写真、化学的な銀の成長シミュレーションを経た高精度のデジタル銀塩写真の双方を出力可能とした。出力に際してはフィルムの種類、現像液及び現像時間、印画紙の種類及び焼き付け時間などのパラメータの選択により、実際の技術に即した調整を可能とした。  本システムの有効性は、現存の石膏の胸像をフィルムカメラで撮影した銀塩写真と、同形状の仮想物体を本システムで撮影して得たデジタル銀塩写真を比較することで検証した。さらにシステムの応用として、カンボジアの伝統舞踊「アプサラダンス」のデジタルアーカイブデータを用い、現実には困難な撮影対象を本システムで撮影、デジタル銀塩写真の生成に成功した。
  • 金 明煥, 佐藤 優
    2013 年 63 巻 p. 123-130
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    屋外電光板は、発光する大型ディスプレイ画面上にさまざまな動画像の画像コンテンツを放映することによって、街路景観にさまざまな影響を与える。特に、都心の繁華街など人通りの多い場所において屋外電光板は、それらの地域にふさわしい賑わいの演出に役立つものであると理解し、数多くの設置事例をみることができる。しかし、それらが街路景観における賑わいの形成に貢献するかどうかは、まだ確認されていない。そこで、「賑わい感(Liveliness)」をキーワードにした屋外電光板景観の在り方について調べた。 先行研究において、福岡市とソウル市における屋外電光板景観の類型と特徴、そして屋外電光板の設置がもたらす街路景観への影響を確認した。本稿では、画像コンテンツの種類、構成方法、類型などによって異なる街路景観における賑わい感への影響を次の順で調べた。1. モニタリング調査とその分析結果から、68 個の画像コンテンツを収集し、福岡市とソウル市で、その種類をそれぞれ5つに分類した。2. それらの画像コンテンツの構成内容を分析し、種類ごとに代表的な事例を選定した。3. 先行研究を通して得た屋外電光板景観の類型から、福岡市とソウル市の代表的な事例を一ヶ所ずつ選定した。4. これらのデータを用いて、SD 法による印象評価実験のためのシミュレーション画像を製作した。実験の際には、ドーム型立体映像提示システム「サイバー・ドーム」を用いた。 実験の結果、総合評価因子とした「好き」と「賑わい」の相関はなかったが、画像コンテンツの種類、構成方法、類型などによって人々の受ける印象は大きく変わることが把握できた。画像コンテンツの種類をみると、コマーシャル広告や独自放送・地域情報などでは「好き」が、ニュース・キャンペーンや政府公示などでは「賑わい」の評価が高い。構成要素では、人物、事物、風景などのイメージ中心の画像コンテンツが「賑わい」と「好き」ともに高い評価を得た。また、画像コンテンツの類型では、設置された場所との関連が高い情報を盛り込んだ画像コンテンツが、屋外電光板景観への印象により大きな影響を及ぼすことが分かった。今後、これらの研究結果を踏まえて、望ましい屋外電光板景観を作り上げるためのコントロール手法の提案に取り込んで行きたい。
  • 出原 立子, 川﨑 寧史
    2013 年 63 巻 p. 131-137
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    本研究は、インタラクティブメディアを活かした街中でのコミュニケーション手法をデザインするための考え方を提示し、その方法を用いた実践的な取り組みを行い、街中での情報伝達のための新たな機会を創り出す手法を提案・検証する事を目的とする。それを通じて、人と人、人とモノ、そして人と街との相互の関係性を創出する可能性を考察する。 インタラクティブメディアの技術開発によって、メディアの活用の場は屋内屋外を問わず拡張されてきた。また、センサ技術の高度化によって様々な場面での活用が可能となった。こうした技術的背景の下、本研究ではインタラクティブメディアを活用し公共の街中において地域民に向けた情報伝達の手法、コミュニケーション手法をデザインするための考え方をまとめ、その方法を用いて金沢の街中において3 カ年に渡って継続的に実践的取り組みを行い検証を行った。 インタラクティブメディアを活用した街中でのコミュニケーション手法をデザインするために重要な視点として掲げたのは、街中のシーンの選出とそこで人々と情報伝達との接点を如何にして創り出すかということである。それによって、単なる情報伝達に留まらない人と人、人とモノ、そして人と街といった相互の関係性を創出することを目指した。 この視点を重視したデザインプロセスに沿って実践的に3つの事例に取り組んだ。その結果、それぞれの目的に応じて次の3つのコミュニケーション手法が考え出された。一つ目は、街中で配布する紙媒体とAR( 拡張現実)による人と情報伝達との接点創出の手法。二つ目は、伝えたい情報に関連するシーン作りと、そこでの人の行為による接点創出の手法。三つ目は、街中での自然な振る舞いによる接点創出の手法である。各々の実践結果より、各手法の有効性、課題を考察した。
  • Christian CRUZ
    2013 年 63 巻 p. 139-143
    発行日: 2013年
    公開日: 2018/12/03
    ジャーナル フリー
    本論文は、オートポイエーシスの生物学理論に基づき、一般概念のユーザー及びインターフェースのコンセプトから、デザイン原理の論理的な定義を確立する試みである。「一般」というのは個人など主観的な解釈ではなく、普遍的客観的な意味で捉えている。 本論文ではデザインの定義は下記のよう提案する。デザインとは、インターフェースを最適化することで、「構造的カップリング」を達成することによって、ユーザー環境の問題点を解決する活動である。  構造的カップリングとは環境と人間の間不具合が発生する場合、つまりユーザー環境に問題点がある場合は、環境及び人間がその不具合を相互的に補う、問題点を解決する関係を指している。  ユーザーとは、心理学的認識的発生条件の視点から、特定の時間に起きた環境の不具合を補うことにより、構造的にカップリングを完成させる対象のことを指している。  インターフェースとは、構造的カップリングが発生の場を指している。構造的カップリングの発生による成功した相互作用は「有効行為」と呼ばれる。  以上に述べたユーザーおよびインターフェースの両方は、発生した現象そのもののストラクチャーではなく、第三観察者のストラクチャーに関連する。つまりユーザー及び環境の情報交換という概念は元々存在しない、第三観察者の解釈により存在することになる。
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