芸術工学会誌
Online ISSN : 2433-281X
Print ISSN : 1342-3061
69 巻
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芸術工学会誌69号
  • 字間と行間の関係
    楊 寧, 伊原 久裕
    2015 年 69 巻 p. 106-113
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、日本語と中国語を併記した印刷物において、調和ある組版を実現するために必要な条件として、本文の読みやすさに着目し、両言語にとってそれぞれ読みやすい字間と行間の範囲を探り、その比較を行うことを目的とする。 まず、両言語の組版規則書それぞれ15冊を取り上げ、読みやすいとされる字間、行間の関係について整理した。その結果、中国語と日本語とでは、特に字間の設定に違いがあることがわかった。字間については、日本語ではほとんどがベタ組みを基本としているのに対し、中国語ではベタ組みの組み方以外に字間を若干開けるという考え方も見られた。行間については、半角アキから全角アキまでの範囲でほぼ一致していた。 次に、中国人と日本人それぞれを対象とした中国語と日本語の文字組で、字間と行間をインタラクティブに動かせる統一フォームをウェブ上で作成し、調査を行った。この比較調査から、両言語の読みやすい行間の設定範囲については、3/4アキから全角アキまでの範囲で一致しており、またこの範囲に対してより適していると想定される字間はベタ組みであった。日本語については予想される結果であったが、中国語については、字間を空けるほうが読みやすいとする経験則が必ずしも事実ではないことがあきらかとなった。 以上から、調和のある中国語と日本語を併記するうえで必要な条件としては、組版の読みやすさについては字間をベタ組み、行間を3/4アキから全角アキまでの範囲で適宜調整することで対応可能であることがわかった。また、この結果に基づいて、最後に両国語を併記したレイアウトサンプルを提示した。
  • 石田 優
    2015 年 69 巻 p. 114-121
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/12/19
    ジャーナル フリー
    哲学者ルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタインがアドルフ・ロースの弟子パウル・エンゲルマンとともに設計をおこなったストンボロー邸は、当時の建築家による建築における計画の考え方とは大きく異なる方法により秩序づけられた内部空間の関係性、機械工学レベルの精度の高さに特徴を持っており、また著書『論理哲学論考』の命題の記述方式とその空間構造の類似性が指摘されている。 この建築の空間構成の解読は、新しい建築空間の構成方法のあり方を考える上でも重要であり、また哲学者としてのヴィトゲンシュタインの活動や著作を読み解く上でも重要な作業であると考えられる。 非常に緻密に考えられ、かつ高い精度で建設されたストンボロー邸のディテールとその空間構成、こうした設計意図を読み解くためには、細部にわたる正確な寸法の把握と、空間を関係づける寸法体系の把握が前提となる。しかし、現在残されている1920 年代の図面および1976 年に実施された実測調査の記録には、こうした寸法体系を把握するためには必要な情報が欠落しており、研究をおこなう前提となる情報は整理されていない。  本研究においては、現地におけるレーザー測距器を使用した実測調査を行い、空間の関係性を考察する上で必要と思われる寸法の採取を新たに行った。この結果得られた情報を、残された1920 年代の図面および、1976 年に行われた実測調査の結果と照合し、情報の整理をおこなった。 これにより、これまで不明であった「朝食室」の寸法が明らかになり、主階を構成するすべての部屋に関する比較考察の基盤を確立した。さらに、実施調査の結果新たに得られた情報に基づき、各部屋の正確な容積およびそれらの比率の関係性を明らかにした。また特に、ストンボロー邸の空間の関係性を知る上で重要と思われる各部屋のドアの類型化を行い、ホールを中心とする5部屋の関係をそれらをつなぐドアという視点からとらえ、その寸法体系を明らかにすることを試みた。
  • 天使とマリアの「あいだ」
    寺門 孝之
    2015 年 69 巻 p. 122-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、14~15 世紀のトスカーナ地方の画家達によって制作された受胎告知画において、視覚的に表出された天使像が諸々の形象群とともに構成する絵画空間の在り様を解明し、その変容を分析することから、そこに天使の果たした役割を明らかとすることを目的としている。  筆者の究極の目的は、絵画表現における天使とは何か、なぜ人間は天使を存在させたのかを考察し、時代を超えた天使像を提示することにある。  キリスト教美術は、数多の天使像を視覚的に表出して来たが、受胎告知画はキリスト教の起点ともいえる主題を視覚化しようとするものである。受胎告知画が多く描かれたのは、ルネサンス初期から中期(14~15 世紀)の中部イタリア、トスカーナ地方であり、フラ・アンジェリコをはじめとする当地の画家達による作品群は現在においても、天使の視覚イメージを代表している。  本研究では、これらのトスカーナ地方の画家による作品群を中心に抽出した、144 点の受胎告知画を対象に比較分析を行なった。  その考察の結果明らかとした事は、①天使とマリアが同一地平上に向かい合い、線対称的に表出されるものが圧倒的に多く、その対称軸は、本来、受胎告知場面が描かれた場所が、教義的内容との連関から「門」「扉」であったことの残像を成す。②天使とマリアとに挟まれる領域に「門」「扉」としての「開き」が潜勢し、その二者の「あいだ」が、絵を見る者(視者)に意識化され、そこに、天使とマリアが交わす言葉の「文字列」、受胎の成就、救世主の到来としての「柱」、彼方へと導く「小径」、眼差しの前進を遮る「扉」といった形象が、互いに置換―補完し合うように生起して来る。③これら形象が視者に「遠/ 近」「見通せる/ 見通せない」の対立的な見え方を意識させることにより、絵画空間において「奥行き」方向が強調され、いわゆるルネサンス遠近法的三次元性が優勢的となって行く。④その過程における天使の役割とは、マリアと向かい合い、対称を成すことによって強調される「水平―垂直の軸線」に対し、天使がマリアに示すささやかな所作によって生み出す「斜線」が、絵画内に運動性・回転性を生起させ、視者の眼差しを絵画内へ誘導し、空間のみならず時間的な「前進」をも促すことであり、絵を視る者に絵の奥行き方向の「彼方」へ誘うことである。  今後の展開は、以上4 点の研究成果をふまえ、14~16 世紀の天使の飛翔表現から見た絵画空間の構成と、天使の役割について調査研究を行う予定である。
  • 張 美弘, 佐藤 優
    2015 年 69 巻 p. 130-137
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究では、日本、韓国、中国の国別に街路景観における賑やかさと圧迫感、好感度及び居住希望と訪問希望の関係に関する印象の違いを調査することを目的にする。 調査方法としては、12種類の景観の写真を用い、3国で印象評価を行い、項目別の平均値と頻度を分析し、景観の賑やかさと他の項目間の相関関係について分析した。 その結果、3国ともに開放感がある田園的な街路景観を好むことが分かった。相関関係の分析でも、3国ともに住居地域としては、賑やかな街路景観より穏やかな街路景観を好んでいることが分かった。 また、屋外広告物が多くても街路の幅員が広い景観には好感度を持ち、個性のない屋外広告物がある景観には好感度を持たないことが分かった。
  • 畑中 久美子, 木村 博昭, 小玉 祐一郎
    2015 年 69 巻 p. 138-145
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/12/19
    ジャーナル フリー
    土壁の工法のひとつである版築は、製造エネルギーが他素材に比べて格段に低いこと、単純な工法なため、だれにでもつくることができること、などの理由から、これからの建物に活用すべき素材として注目されている。本稿では、版築における建築デザインの実践的試みによる、その一般化について、デザインと工法の視点から論ずるものである。 版築の施工性、設計上の留意点を知るため、2001 年5 月から、2002 年3 月にかけて4畳半程度の版築構造の実験棟「版築造実験居室」(2002)(図2)を計画、セルフビルドによる建設をおこなった。このことで版築のテストピースの圧縮強度、建設にかかる日数、人数、施工費、さらにはセルフビルドで版築をつくることのメリットとデメリットについて検討した。 2004 ~ 2007 年にかけて、本研究で得られた一連の知見を基に、版築を用いた建築作品「H 邸」(2004)、「清水ヶ丘の家」(2005)、「セトレマリーナびわ湖」(2014)、ほか17 の事例が実施され、版築の一般化と普及に繋がった。
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