ポスト2020 生物多様性枠組に関する国際的な議論では,2030年までに世界各国の陸域と海域のそれぞれ30%を保全する目標「30by30」が前提となっている。また,NbS(Nature- based Solutions:自然を基盤とした解決策)的アプローチの重要性や,多様なコミュニティの活動を巡る議論も交わされている。日本国内においては,グリーンインフラ官民連携プラットホームが設立されるなど,NbS の概念は土地利用に関連した政策にも好影響をもたらしている。30by30 の量的充足のみならず,自然環境の質,それを支える仕組みやコミュニティの質や行動形態,環境便益を含んだ経済価値などの多様な指標を検討するとともに,その実効性の評価の仕組みを明確にしていくことが今後求められる。
本稿では,30by30 目標について,その基となった愛知目標の意義や30by30 目標が国際的に取り上げられるようになった経緯,さらにそれを日本国内で取り組んでいく意義について概観した上で,30by30 目標の具体的な道筋として関係省庁とともに取りまとめた「30by30 ロードマップ」や,その達成に向けて多様な主体による取組を進める「生物多様性のための30by30 アライアンス」,さらに日本版OECM となり得る「自然共生サイト」,その取組を加速するための「インセンティブの検討」の概要や取組状況について記述した。その上で,今後の課題と展望として再生可能エネルギーとの共生や,生物多様性地域戦略の重要性とTNFD との関係背についても解説した。
本稿では,生物多様性に関する国際議論や科学的議論について,本特集のテーマである30by30 目標を中心に概観した。はじめに,IPBES が公表した地球規模評価報告書や生物多様性条約事務局が公表した地球規模生物多様性概況第5版を中心に概観し,2020 年までの生物多様性に関する国際目標である愛知目標が達成されず,生物多様性の損失が進行している現状を解説した。次に,ポスト2020 生物多様性枠組や30by30目標の議論の経緯や,関連する国際的議論の概要について述べた。最後に,30by30 目標の国際的議論における留意点として,面積(量)を目標に掲げることの弊害,経済的立場による国同士の利害の対立,先住民等への配慮,科学的根拠の4 点について触れた。
G7 サミットで採択された保護地域30by30 目標は,生物多様性条約のポスト2020 年目標であると同時に,国際自然保護連合(IUCN)の提言を受け,科学的な根拠をもって提案された目標である。国連環境計画(UNEP)によれば,世界の陸域・陸水域の16.7%,沿岸・海域の7.7%,環境省によれば日本の陸域・陸水域の20.5%,沿岸・海域の13.3% が保護地域となっているが,厳正に保護された地域は少ない。保全すべき生物多様性の多くが保護地域外に分布していることから保護地域以外のOECM に注目が集まっている。OECM が有効に機能するためには保護地域と合わせたネットワークの形成と保全団体への支援が求められる。
わが国における国立公園をはじめとした保護地域の現状を整理した。わが国において陸域は 20.5%が,海域は13.3% が既に保護地域に位置づけられているが,これを 2030 年までに陸域・海域の少なくとも30%を保全する 30 by 30 目標達成に向けた取組を進めていく必要がある。 保護地域の課題としては,①人口減少の加速,②協働型管理と地域ビジョン,③利用のゾーニングと利用ルール,④脱炭素政策等との連動,⑤保護地域の持つイメージ,社会的意識,⑥自然文化を活用した地域創生の視点,が挙げられるが,環境保全を全面に押し出すのではなく,コミュニティに焦点を置いた保護地域のあり方を考えていくことを提案したい。
里山・里海を対象としたOECM の検討には,保全すべき場所を指定するだけでなく,その場所に根付いた持続的かつ包括的な自然資源の利用や管理が求められる。また,生物文化多様性の保全という観点から地域を一体でとらえた法制度の指定は少なく,日本各地の生物文化多様性を継承し,活用していくという視点が不可欠になる。里山・里海の自然や文化に即した伝統知・地域知を顕在化し,普遍性と固有性を見極めながら課題解決につなげていくことが重要となる。こうしたプロセスを経ながら里山・里海をOECM に位置づけることは,生物文化多様性の保全の意義やそのための具体的な道筋を認識,共有する契機となると考えられる。
生物多様性条約のもとでの新たな世界目標に関して, 2030 年までに陸域と海域の30%を保護・保全するという目標(いわゆる30by30)が議論されている。これに伴い,わが国でもOECM に関する国内制度である「自然共生サイト(仮称)」の試行が開始され,企業などの関心も急速に高まっている。30by30 目標の達成によって,防災・減災への寄与などのNbS 効果も期待される。本稿は,こうした内外の情勢の中で,30by30 目標の基礎なる保護地域の歴史的な流れについて確認し,30by30 実現のカギを握ると考えられるOECM 誕生の背景や今後の実装に向けての課題について議論を試みる。
自然保護区の拡大による生物絶滅の抑止効果は,「保護区を設置する場所」に依存する。一方,保護区は土地・海域の利用に関する法的規制を伴うため,保護区を拡大できる場所は,社会経済的に制限される。陸や海の空間計画には,生物多様性保全と社会経済的利用の調和が求められる。したがって,自然共生の理念を基に,ある空間を経済的に利用しつつ保全も副次的に達成するOECM によって,民間主導の保全事業を推進することは有望である。しかし,保全の実効性を担保するという観点では,OECM の難易度は低くなく,保全政策としては共同幻想に終わる可能性もある。生物多様性保全を目的としたOECM を長期的に駆動させる原動力として,生物多様性ビッグデータ・テクノロジープラットフォームが重要である。
OECM は,2018 年に定義が合意された新しい保全地域の枠組みである。保護区が生物多様性の保全を主要な目的とする区域であるのと異なり,OECM は,必ずしも保全を目的としないさまざまな人間の営みの結果として,生物多様性の保全がなされてきた地域を含む。里地里山において維持されてきた生物多様性を抱える日本においては,このような地域を対象とした保全の重要性はある意味では常識となっている。一方で,国際的には,OECM の拡大や実装にあたっては,さまざまな課題や懸念が指摘されている。 本稿では,主に国際的な議論や観点から,現在国内において進んでいるOECM の認証制度や実装の検討において必要とされる視点を示す。
金融市場が企業に対して自然関連リスクを管理し,情報開示を求める時代となり,日本企業の30by30 やOECM に対する関心が高まっている。直接関係のないこの事象を結び付けるための制度設計について考察する。
30by30 達成のためには,既存の保護地域に加えて身近な地域における生物多様性保全に貢献してきた民間保護地域の取り組みが重要である。法的な強制力によらない民間保護地域が機能するためには,地域の自然をよく知る市民や専門家,行政,NPO など多様な主体が参画する仕組みや中間支援組織としての事務局が重要である。綾の照葉樹林プロジェクトや綾ユネスコエコパークと,赤谷プロジェクトやみなかみユネスコエコパークにおける官民協働管理の枠組みの経験やその中で市民の参加とその役割や課題を明らかにする。30by30 達成に向けて民間保護地域を活用した実効性ある保全管理のための方策を考える。
八幡堀の構成要素および八幡堀に対する価値評価と,八幡堀周辺の特定要素と八幡堀周辺に対する価値評価の関連を年齢層別,利用頻度別に分析した。その結果,八幡堀周辺の観光において体験されたと思われる観光体験要素が年齢層,利用頻度に関わらず高い評価を得たことを示した。 若年齢層は間接利用価値や遺贈価値を直接体験も交えて評価し,中年齢層は特定要素だけではなく,自身の利便性により評価し,高年齢層は自身の直接体験に基づいて直接利用価値を評価している。 新規来訪者は特定の価値評価に収斂しておらず,リピーターは直接利用価値を評価しながら,さらなる利便性等の環境整備や改善への要求をしていると思われた。
本研究では中国水稲研究所データベースの登録情報に対する分析を通じて,黄河上流の一大灌漑稲作地域・寧夏回族自治区におけるイネ品種開発の傾向を明らかにした。その結果,品種のタイプとルーツの傾向等が把握できた。とくに1979 年から2020 年にかけて,低アミロース化,高株高化,多産化,生育期間の長期化,必要な施肥量の増加が進んでおり,生育期間の長期化は中国全土の目標とは一致しなかった。低アミロース化は主要消費者である寧夏や黄土高原の人々の嗜好を表象する可能性,温暖化の影響等が考えられた。また黄河中上流域では断流や水質汚染が課題である一方,生育期間と必要な施肥量の傾向は必ずしも環境負荷を低減する方向には進んでおらず,気候変動適応の観点でも課題があると示唆された。
本研究は都市圏における営農の実態により即したLCA 導入に関する知見を得ることを目的とし,横浜市農業専用地区内の1 農家を対象にLCA の試算を行った。LCCO2 排出量の算出にあたっては農水省CO2 見える化事業のLCCO2 排出量算出式を再構築した。その結果,対象農家におけるLCCO2 排出量は,中型機械の導入や消費者の需要に応えた特別栽培を行う等の,都市圏という立地環境に影響されていることが明らかとなった。また都市圏における営農では消費者需要に応えるために多様な流通経路があり,個別包装の有無や輸送距離が短い直売所販売等の違いによって,出荷段階におけるCO2 排出量に違いが生じることが推察された。
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