「参加」を環境問題の解決の上で重要概念として位置付けたのはUNCED リオ宣言と第10 原則である。 今日,持続可能な社会の構築を目指し,これまで隆盛であった技術,制度,資金の流れ,街づくり,人々の価値観,生活様式を根本的に見直し,変革を実現していくことが求められている。扱う問題は広範・複雑であり,科学的不確実性との対峙も不可避である。目標達成への道筋は多様な絵が描け,複数選択肢が存在する。ここにおいて,科学技術・専門家が提示する多くの代替案の中から,徹底討議を通じて,たどるべき途を選択し意思決定する市民社会の役割が大きい。経済社会のエコロジカルな展開を可能とする大きな要素が熟議民主主義の定着である。
この半世紀の間に,世界は環境政策の制度化と並行して,ジェンダーの主流化に取り組んだ。世界では,いかにしてジェンダーの主流化が起きたのか。それは環境取組とどう連動しているのか。逆に,ジェンダー主流化の前に環境政策の制度化が進んだ日本で,その後ジェンダー主流化が遅れていることは,その後の環境政策の決定や実施にどのような影響を及ぼしているのだろうか。本稿ではジェンダー主流化をめぐる国際的な流れと,その中で日本の位置付けを考察した。複数の事例の考察から,ジェンダーフリーと環境パフォーマンスには,強い関連性があり,命を世話する術があるからこそのリスク感覚や生活感覚の違いが反映されるか否かが,環境政策の積極性と消極性に影響を及ぼしている様相が浮かび上がった。
気候変動の影響により水害が激甚化・頻発化し,流域治水への転換が求められるなかで,グリーンインフラを活用することで,災害リスクの低減,そして健全な水循環・生態系の再構築を実現していくことが期待される。そこでは,グリーンインフラが有する雨水の流出抑制機能を評価するとともに,地域における環境改善効果を共有するための統合的な情報基盤が必要である。また,コミュニティや市民によるモニタリングと管理を促進していくための情報活用も重要となる。水循環と生態系を統合的に管理しながらグリーンインフラを実装していくために,統合自体の概念を顧みつつ,流域スケールでの情報の枠組みやその活用のあり方について考える。
日本の国土の2/3 を覆う森林が有する生態系サービスは森林の多面的機能と呼ばれ,その発揮と林業の持続的な発展が求められている。森林の10 種類の多面的機能を林相と林齢の関数としてモデル化したところ,林齢の大きな天然林で高い値を示す機能がある一方,人工林でも高い値を発揮する機能や伐採により増加する機能も認められた。結果をもとに多面的機能の戦後の変遷を予測したところ,拡大造林とその後の森林の成熟に伴って機能の大きな増減がみられた。シナリオ分析から,減産・現行下では若い森林で高い値を示す機能が将来的に減少を続け,増産下でも急傾斜地で伐採を抑制すると土砂崩壊リスクを低減できると予測された。
SDGs は2023 年に折り返しとなる中間年を迎える。横並び意識で取り組むSDGs に関する企業活動が増える中で,今一度企業が経営戦略としてSDGs ビジネスを捉えるための枠組みを提示する。枠組みは,シングルマテリアリティとダブルマテリアリティからなる2 つのマテリアリティと,短期と中長期からなる2 つの時間軸から構成される 4 つの領域で表される。そして,この枠組みによって,SDGs に関するリスクマネジメントと価値創造を目的とする企業活動が明確に位置づけられる。また,各領域における企業活動を推進するために必要な組織変容を促す要因を経営学の視点から明らかにする。
「伝統知」とは,それぞれの地域で世代を超えて受け継がれてきた知識・知恵の体系であり,それは生物多様性保全や持続可能性等の文脈で近代知とは異なる価値を期待されている。一方で,近年の人類学における知識や技術をめぐる議論では,B. ラトゥールに代表されるように伝統知と近代知を二分法的なものととらえず,それがいかに翻訳され変容するかに焦点を当てる。この観点から,本稿では筆者らが取り組む在来作物に関する事例を紹介し,伝統知は固定的な実体としてあるのではなく,社会・経済・環境的条件との織り合わせに着目する必要性を示した。そして今後の課題として,織り合わせの産物への着目と,多分野協働プロジェクト推進の2 点を提示した。
環境政策の制度化以来のこの50 年は,成長させるべき「経済」と守るべき「環境」の攻防の歴史であったとの認識に立ち,本稿では,「経済」と「環境」の関係性を環境政策史の視点から検討した。その結果,「経済」と「環境」をめぐるさまざまな主体の姿勢は,「環境主義」「経済成長主義」のほか,「経済」と「環境」の両立を追及する「環境リアリズム」という立場から説明されうることが示された。 そして,今後の環境政策研究における課題として,今日の環境政策に大きな影響力を持っている,環境リアリズムの形成・展開過程の歴史的解明が見出された。
産業革命期の都市居住の劣悪な衛生状態を改良した第一段階,大都市が成長し車に依存した都市開発のもたらす陰に対処して人間らしいまちを求めた第二段階を受け,気候行動を伴う「第三段階」の持続可能なまちづくりを展望した。 2050 年に向けカーボンニュートラルのまちづくりの試みを紹介し,CNCA 等の先進国中心のネットワークの都市の取り組みとともに,環境市民団体の取り組みに注目している。地球規模の制約を意識し,誰一人取り残さないグローバルな人間福祉をめざす都市づくりへの学術界,特に若手研究者の取り組みを励ましている。エネルギ資源の依存が平和構築の障害であることから,グリーン化を加速し,人間安全保障や緊急支援との両立を図ることに言及した。
新型コロナは,社会のさまざまな分野に大きな影響をもたらした。欧米ではグリーンリカバリー政策が打ち出され,ESG 金融が盛んになるなど脱炭素の取組が加速化した。今般,さらにウクライナでの戦争勃発により,世界的な地政学的リスクの高まり,資源・エネルギー価格の高騰,各種サプライチェーンの分断など社会への影響が出てきている。この中で,主要国の環境政策がどのように動いているのか,欧米中にいる第一線の行政官に,最新動向を聞いた。 なお,本誌50 周年の節目を踏まえ,大きな環境政策の流れの中で,今回の戦争による環境政策への影響や今後の見通しについて意見交換を行った。
本研究では,「風力発電に係るゾーニング導入可能性検討モデル・実証事業」における先行事例として長崎県を選定し社会的合意形成に向けた自治体の役割を明らかにした。遠定事例において策定・議事要旨内容の把握・整理およびヒアリング調査を実施し,策定の基本方針,地城便益および環境影響噌已慮の3 点において分析・考察を行った。その結果,以下の3 点の知見を得た。(1) 県協議会と各市協議会が併設され議論が行われた。(2) 県協議会では基本方針の間題提起や環境面 での広域的な議論がされたが,地域便益の具体的な議論はなかった。(3) 各市協謡会では基本方針の議論が引き継がれ,地域便益・環境面の双方で地域的な議論が行われた。これらにおいて,その役割は,各協議会の適切な利害関係者の参加および統括的な事務局の運営により,重層的議論と県域・市域での議論を策定内容に反映したことであったごとが明らかになった。
本研究は高齢者の生活行動を構造モデル化し,建造環境と社会関係資本の組み合わせ条件が健康に及ぼす影響を検証した。方法は,2010 年横断研究に2013 年までの健康状態のイベントデータを加えた前向きコホート研究を行った。分析は確率的潜在意味構造モデルによる確率推論を行った。この結果,社会関係資本は良好,中程度,不良,無回答,建造環境は良好,立ち寄りなし,危険・障害はない,無回答の潜在クラスに分けられた。構造モデルの確率推論から建造環境と社会関係資本の組み合わせについて最も健康リスクが高い条件から最も低い条件へ改善した場合,死亡などの健康リスクを1割程度抑制できると推定された。
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