日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
選択された号の論文の406件中151~200を表示しています
T9(口頭).カーボンゼロエミッションに貢献する石油天然ガス石炭地質学・有機地球化学
  • 三瓶 良和, 内堀 奈美, 石田 貴博
    セッションID: T9-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

     化石燃料は水素を取り出せる新たな資源物質として期待されている。天然ガスから水素が生成されるシステムは既に確立されており,また,これまで使われてこなかった低品位の石炭のうち褐炭は日本とオーストラリアの共同開発「褐炭水素プロジェクト」によって新たな水素資源になろうとしている。水素の原料となる炭化水素を多く発生させるケロジェンなどの起源有機物は,一般に単位有機炭素あたりの水素含有量が多い傾向がある。本講演では,本邦における褐炭を含む石炭の分布とその特徴について,旧来の元素組成(炭素・水素含有量)・発熱量と熱分解Rock Eval法で計測される水素指数(Hydrogen Index: HI値)との関係を考察し,褐炭や亜炭などの未熟成石炭の特質を再評価する。また,褐炭・亜炭よりも続成作用の進んでいない現世陸源有機物の陸上-河川-湖沼堆積システムにおける水素指数の変化の特徴について,斐伊川-宍道湖および飯梨川-中海水系を対象として考察する。

    【本邦の石炭の水素指数:文献値によるまとめ】

     本邦の石炭の分布および元素組成などの基本データについては,地質調査所(1960)「日本鉱産誌(BV-a)石炭」に詳しくまとめられておりその後の新しい炭田開発等はほとんどないため,この文献が日本の石炭資源に関する最も包括的で網羅的な資料と位置づけられる(この資料をもとに日本の炭田図が1973年に作られている)。この資料には日本のほぼ全ての石炭層が記載されており主要な炭田での石炭の水分,灰分,揮発分,TOC濃度,発熱量,イオウ濃度などの個々のデータが記録されている。褐炭は燃焼時の発熱量が低いためにこれまで石炭としては低品位とされてきた。しかし泥炭・褐炭の水素含有量は大きいため水素資源としての期待は高い。地質調査所(1960)では本邦の泥炭,褐炭,瀝青炭,無鉛炭の水素濃度をそれぞれ5.5%,約5%,4.5-5.5%,3-4%,TOC濃度をそれぞれ60%,65-75%,75-90%,92-94%,と総括している。一般に,水素濃度とHI値の間には正の相関関係が認められるため(例えば,HI = 691(H/C) – 378: Tissot and Welte 1984に基づき算出;HI=895.7(H/C)2 – 514.3(H/C) +77.6: Lewan and Pawlewicz 2017),水素濃度の高い泥炭・褐炭・亜炭は水素資源としての価値は高いことが予想される。この関係式で計算される泥炭・褐炭のHI値は最大約400mgHC/gCとかなり高く,水素資源としてのポテンシャルの高さが伺われる。

    【斐伊川-宍道湖および飯梨川-中海水系の陸源有機物のRock Eval等の分析結果】

     両水系をまとめると,植物,腐植化植物(土壌と一体化していない表層の枯葉枯草等),その下の土壌,その直近の沢・河川の泥,宍道湖・中海の表層1cmの泥の分析結果は以下のとおりである。(TOC濃度)植物のTOC濃度は平均値42.2%(範囲33.4-50.4),腐植化植物は41.3%(22.7-52.2),土壌は4.9%(0.8-14.4),河川泥は4.2%(1.4-8.4),湖底泥は3.3%(1.9-3.9)であった。灰分は植物(0.05-17%)よりも腐植化植物(1.8-39 %)で多いので腐植化に伴った有機物分解の程度が分かる。(C/N比)腐植化と土壌化に伴って窒素濃度は減少したがC/N比(重量比)も減少した。このことは,タンパク質分解速度よりもセルロース分解速度のほうが大きいことを示唆する。土壌・河川泥のC/N比は約15を示し,起源植物の数分の1に減少していた。(HI値)植物は平均値383mgHC/gC(範囲53-823),腐植化植物は440mgHC/gC(127-898),土壌は221mgHC/gC(62-453),河川泥は212mgHC/gC(90-425),湖底泥は286mgHC/gC(137-382)であった。陸上植物は腐植化に伴い水素指数が増加している。なお,湖沼泥には自生性の植物プランクトンが優勢に加わっている。

     以上のことから,陸源有機物はこれまで考えられていたよりも潜在的に大きな水素指数を有するものと考えられる。

    (文献)地質調査所(1960)日本鉱産誌(BV-a)石炭.775pp.東京地学協会.砧書房. Lewan, M.D. and Pawlewicz, M.J. (2017) AAPG, 101 (12), 1945-1970. Tissot, B.P. and Welte, D.K. (1984) Petroleum formation and occurrence. 699pp., Springer-Verlag.

T10(口頭).鉱物資源研究の最前線
  • 野崎 達生
    セッションID: T10-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1977年のガラパゴス海嶺における海底熱水噴出孔の発見以来,世界で700を超える海底熱水サイトが報告されている.日本近海では1986年の伊平屋小海嶺東方なつしま84-1海丘における低温熱水湧水域の発見を端緒に,沖縄トラフおよび伊豆・小笠原海域から30を超える熱水サイトが発見されている.その後,船舶や探査機による調査から海底面上の試料・データに関する膨大な知見が得られているが,海底下の地球科学的事象を直接的に観察するには高コストの掘削しか手段がなく,海底下鉱化作用についてはいまだ不明な点が多い.そのような中,2010~2016年にかけて地球深部探査船「ちきゅう」による4度の掘削航海が沖縄トラフで行われた.本講演では,これらの航海から描像された海底下鉱体の成因モデル・初期形成過程について論じる.

    海底下軽石置換鉱化作用の提唱:2016年11~12月に中部沖縄トラフ伊是名海穴においてCK16-05航海が行われた.本航海ではJOGMECニュースリリース (2013,2016) と同様に,北部マウンド中心に位置するHole C9027A,Bおよび北部マウンド東方のHole C9025A,C9026A,C9028A,C9032Aで硫化鉱を捉えた.特に,北部マウンド東方では層厚30~35 mの海底下鉱体を捉えたが,硫化鉱は複数枚の非変質~弱変質堆積物を挟在し,単純一様な塊状鉱体ではなかった.Hole C9025A,C9026A,C9032Aの物理検層によるガンマ線強度は類似の深度プロファイルを示し,海底下鉱体に挟在する堆積物が広く延長している.また,Hole C9025A,C9026Aにおいて,海底下鉱体とその上位の堆積物層の連続的採取に成功した.船上記載とXRD分析から,海底下鉱体の上部境界は上位~下位にかけて,硬石膏に富む中性変質粘土層⇒カオリナイトに富む酸性変質粘土層⇒重晶石に富む層 (硬石膏層に由来)⇒硫化鉱と遷移する.このような層準変化は,上部境界ほど明瞭でないが海底下鉱体の下部境界でも観察される.また,北部マウンド北方あるいは北西のHole C9029A,C9030Aからは細粒~粗粒軽石が互層するコア試料が,カルデラ底の東端よりさらに東方に位置するHole C9031Aからは半遠洋性堆積物に富むコア試料が得られている.したがって,伊是名海穴の海底下鉱体は軽石と堆積物の互層を受け皿とし,透水率の高い軽石層を置換しながら鉱化作用が進行していると考えられる.また,堆積物との境界部では硬石膏のキャップ層が形成され,海底下の熱水移動を側方規制していたと考えられる.キャップ層直上の酸性変質粘土層は,キャップ層からしばしば漏れ出る酸性流体により,pHが間欠的に低下して形成されたと考えれば調和的である.以上から,海底下鉱体は硬石膏キャップ層と外側にしばしば酸性粘土層を随伴し,熱水活動の強弱に伴いキャップ層を移動させながら成長していると考えると,コア試料の記載・岩相・構成鉱物・同位体比組成を調和的に説明できる.

    鉱床の初期形成過程と微生物活動の関係:海底熱水鉱床と聞くと300度を超える熱水が噴出するイメージから,生物の生息限界温度 (122度) より高温の無機化学的反応が支配する世界を想像する.したがって鉱床学者も含め,海底熱水鉱床生成における微生物活動の寄与はマイナーであるというのが通説である.しかし,沖縄トラフの掘削コアおよびチムニー中の黄鉄鉱粒子の局所硫黄同位体比組成 (d34S) 分析を行った結果,鉱床の初期形成過程に微生物活動が大きく寄与していることが明らかとなった. 分析には,2010~2016年に沖縄トラフで行われた4度の掘削航海のコア試料および人工熱水孔上のチムニーを用いた.マウンドおよび海底下鉱体中の黄鉄鉱は,成熟度に応じて『フランボイダル⇒コロフォーム⇒自形』組織を示す.これらの黄鉄鉱粒子のd34Sは,鉱化作用の進行に伴い,大きく負の値から正の値へと漸移する.特に,フランボイダル黄鉄鉱のd34Sは最低で-38.9‰を示し,海水硫酸 (+21.2‰) と比べて-60‰に達する同位体分別が起こっている.一方,チムニー中の黄鉄鉱は,組織・晶出順序に関わらず約0‰のd34Sを示した.海底熱水鉱床中の硫黄の起源として,(1) マグマ起源,(2) 硫酸塩鉱物や海水硫酸の熱的還元,(3) 海水硫酸の微生物還元の3つが考えられるが,(1) および (2) では-60‰に達するd34Sの分別を説明できない.また,フランボイダル黄鉄鉱は,しばしば黄銅鉱や方鉛鉱などの他の硫化鉱物に置換されており,引き続く鉱化作用で鉄や硫黄を供給する『核』となっている.したがって,海底下鉱体の初期生成過程は微生物硫酸還元プロセスにより促進されていることが明らかとなった.

  • 澤嵜 友彦, 石田 美月, 大田 隼一郎, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本に存在する鉱山の多くは,既に操業を終えて閉山している.しかしながら,2016年頃からJapan Gold Corp. やIrving Resources Inc. などの海外資本が日本国内での金鉱床探査に本格的に乗り出しており,日本の金鉱床に対する注目度が再び高まっている.

     金鉱床を探査する上で重要な鍵となる情報が,鉱床の成因である.世界に存在する金銀鉱床の多くは,地殻中の高温流体 (熱水) が有用な金属元素を溶解・運搬し,温度や圧力などの変化に伴って金属が沈殿することで形成された熱水性鉱床に分類される.日本で採掘された金も,その総量の9割以上は,熱水性鉱床の中でも地下浅部 (~1 km) で生成した浅熱水性鉱床から生産されたものである[1].しかし,浅熱水性金鉱床の成因は,未だ完全に解明されているとはいえない.その原因のひとつとして,鉱床の生成年代の情報が不足していることが挙げられる.鉱床の生成年代を精確に明らかにすることは,元素の濃集を引き起こした地質学的現象が何であるかを解明するための大きな手掛かりとなり[2],熱水性鉱床の成因に重要な制約を与えることにつながると期待される.

     本研究で対象とした佐渡鉱床は,新潟県佐渡島南西部に位置する浅熱水性金銀鉱床である.佐渡鉱床の歴史は古く,1600年代前半に最盛期を迎え,年間で金を400 kg,銀を40 t以上生産し,当時の日本最大の金銀山として栄えた.佐渡鉱床の現在までの産金量は,国内では鹿児島県の菱刈鉱山に次ぐ第2位となっている[4].しかしながら,現在も操業中の高品位鉱山である菱刈鉱山の研究は精力的に行われているのに対して,佐渡鉱床の研究は,その鉱床規模や歴史的重要度に鑑みて十分とはいえない.特に,鉱床の形成年代については,氷長石を用いたK-Ar法による年代測定から,鹿園ほか (1982) [5] は14 Ma,通産省 (1986) [6] は24 Maとするなど,複数の年代が得られており,未だコンセンサスが得られていない.

     その原因のひとつとして,年代決定手法の問題が挙げられる.これまで佐渡金山を含む国内の金鉱床では,鉱石鉱物そのものではなく,脈石鉱物である氷長石を用いたK-Ar法による年代測定によって,間接的に鉱床の生成年代が求められてきた.一方,近年硫化鉱物に富む鉱床において,レニウム (Re)-オスミウム (Os) 法による年代測定によって鉱石鉱物そのものから生成年代が直接得られている [3].そのため,金鉱化作用に関連して生成された硫化鉱物に対してもRe-Os法を適用することができれば,浅熱水性金鉱床の精確な生成年代を決定するうえで有効と考えられる.

     そこで本研究では,佐渡鉱床の様々な鉱脈に産する鉱石試料について、Re-Os法による年代決定が適用可能かどうかの検討を行う.そのために,まず鉱物学的および地球化学的な特徴を把握することを第一の目的とする.こうした鉱物学的・化学的データは,佐渡鉱床に適した年代決定法を検討し,佐渡鉱床の鉱化年代を鉱脈毎に決定していくうえで重要となる.これまでに,東京大学総合研究博物館の保有している佐渡鉱床の鉱石計35試料に対して,SEM-EDSによる観察と元素マッピングおよびICP-MSによる微量元素分析を実施した.その結果,佐渡鉱床の鉱石試料は,(1) 金銀鉱物を伴わない硫化鉱物主体の低品位鉱石,(2) 銀鉱物を伴う硫化鉱物主体の中品位鉱石,(3) 金銀鉱物が主体の高品位鉱石,の3グループに分類できることが分かった.特に,(3) の高品位鉱石については,卑金属鉱物と共生する超高品位鉱石と,金銀鉱物のみの高品位鉱石へとさらに分類された.これらの鉱物組み合わせから,硫化鉱物は佐渡鉱床の鉱化作用を特徴付けており,年代決定に有用であると考えられる.本講演では,上述した佐渡鉱床の試料の鉱物学的・地球化学的特徴の詳細を述べ,今後の年代決定および鉱床成因の解明へ向けた議論を行う.

    <引用文献> [1] S. Garwin et al. (2005), Econ. Geol. 891-930. [2] Yang JH et al. (2002) Geology 29 711–714. [3] 野崎達生ほか(2014) 地球化学.48,279-305. [4] 渡辺寧 (2004) 地質ニュース599, 31-39. [5] 鹿園直建, 綱川秀夫. (1982) 鉱山地質 32(6), 479-482. [6] 通商産業省資源エネルギー庁 (1986): 昭和61年度広域調査報告書. 佐渡地域.

  • 松村 太郎次郎, 高橋 朋子, 永田 賢二, 安藤 康伸, 矢田 陽, 桑谷 立
    セッションID: T10-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)は,海洋底探査における海中の岩石や堆積物のオンサイトで実行可能な元素分析手法として知られている[1, 2].しかし,水中でのLIBSによって得られたスペクトルデータの解析は,観測プラズマの寿命が短いことや激しいピークブロードニングなどにより複雑な形状のバックグラウンド成分の除去や多数のピーク成分の分離といった煩雑な作業が必要になる.このような作業は,一般に,手作業による試行錯誤を要し,短時間に多くのスペクトルデータを処理することは困難である.そのため,大量のスペクトルデータが現場で手に入ったとしても,解析作業が手に負えず,実際に取り扱えるデータの数が制限されてしまっていた.

     発表者らは煩雑なスペクトルデータ解析作業の効率化を目指して,機械学習で利用されるEMアルゴリズムを応用したスペクトルデータ解析手法の開発に取り組んできた[3, 4].最近では,拡張手法として,柔軟にフィッティングモデルを扱えるspectrum adapted ECM algorithmを提案している[4].この手法はスペクトルデータの測定エネルギーステップに対応した強度をデータの重みとして取り扱うことによって,スペクトルデータの一次元への変換を行うことなく,計算挙動の安定化と高速化を実現している.

     本発表では,Spectrum adapted ECM algorithm のさらなる拡張として,ノンパラメトリックなバックグラウンド処理手法であるBaseline estimation and denoising using sparsity[5]とSpectrum adapted ECM algorithm[4]を組み合わせたスペクトルデータ解析手法を提案する.この手法によってバックグラウンド処理と効率的なピークフィッティングを同時に実行可能とした.本発表では,この手法の概要とレーザー誘起ブレークダウン分光法におけるスペクトルデータ解析への適用例を紹介する.

    引用文献

    [1] Thornton, B., Takahashi, T., Sato, T., Sakka, T., Tamura, A., Matsumoto, A., Nozaki, T., Ohki, T. & Ohki, K. (2015). Development of a deep-sea laser-induced breakdown spectrometer for in situ multi-element chemical analysis. Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers, 95, 20-36.

    [2] Takahashi, T., Yoshino, S., Takaya, Y., Nozaki, T., Ohki, K., Ohki, T., Sakka, T. & Thornton, B. (2020). Quantitative in situ mapping of elements in deep-sea hydrothermal vents using laser-induced breakdown spectroscopy and multivariate analysis. Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers, 158, 103232.

    [3] Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2019). Spectrum adapted expectation-maximization algorithm for high-throughput peak shift analysis. Science and Technology of Advanced Materials, 20(1), 733-745.

    [4] Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2021). Spectrum adapted expectation-conditional maximization algorithm for extending high–throughput peak separation method in XPS analysis. Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 1(1), 45-55.

    [5] Ning, X., Selesnick, I. W., & Duval, L. (2014). Chromatogram baseline estimation and denoising using sparsity (BEADS). Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 139, 156-167.

  • 北澤 尭大, 見邨 和英, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    2011年に加藤ら [1] は,レアアースを豊富に含む深海堆積物「レアアース泥」が太平洋に広く分布しており,新たなレアアース資源となりうることを報告した.さらに2013年には,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域内において,総レアアース濃度が5,000 ppm を超える極めて高品位なレアアース泥を発見し [2, 3],産学官による開発に向けた機運が高まっている.このレアアース泥を効率的に探査するためには,その成因を明らかにし,レアアースの濃集に必要な条件を満たす有望海域を理論的に絞りこむことが重要である [4].この成因解明の鍵となるのが,堆積年代である.

    しかし,レアアース泥が区分される遠洋性粘土は珪質・石灰質の微化石をほとんど含まず,また古地磁気の記録も不明瞭である.そのため,海底堆積物の年代決定に一般的に用いられる珪質・石灰質微化石層序や古地磁気層序といった手法を適用することができず,堆積年代の決定は非常に難しいとされてきた.そこで着目されたのがイクチオリスと呼ばれる,魚類の歯や鱗の微化石である.イクチオリスは難分解性のリン酸カルシウムで構成されているため,海底堆積物中に普遍的に存在することが知られている [5].イクチオリスの生層序は 1970—80 年代に確立され,深海掘削計画 (DSDP) などで得られた遠洋性粘土コアの堆積年代決定に適用されてきた [6].そして,近年の我々の研究により,イクチオリス層序がレアアース泥の堆積年代決定にも有効であることが確認された [7].

    しかしながら,従来のイクチオリスを用いた手法では,顕微鏡を用いてイクチオリスを1つ1つ手作業で分類する必要があり,作業効率の低さが大きな課題であった.この問題を解決するために,我々は深層学習モデルを用いたイクチオリスの自動検出システムを構築し,顕微鏡画像からイクチオリスを効率的に観察することを可能にした [8].このシステムを用いて,南鳥島EEZ内で採取されたコア試料 (MR14-E02 PC05) を対象にイクチオリスの検出と鑑定を行った結果,本手法が実際に年代決定に利用可能であることが示された [9].さらなる効果的な年代制約のために,我々はこれまで行えていなかった鱗の検出を目的として,新しい物体検出モデル [YOLO-v5] の使用の検討を進めている.本発表では現在までの検討結果と今後の展望について報告する.

    <引用文献>

    [1] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.

    [2] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.

    [3] Takaya et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.

    [4] 安川ほか (2018) 地球化学 52, 171-210.

    [5] Sibert and Norris (2015) Proceedings of the National Academy of Sciences, 112, 8537-8542.

    [6] Doyle and Riedel (1985) Initial Reports of the Deep Sea Drilling Project, 86, 349-366.

    [7] Ohta et al. (2020) Scientific Reports, 10, 9896.

    [8] Mimura et al., submitted to Applied Computing and Geosciences

    [9] 北澤ほか (2022), 日本地球惑星科学連合.

  • 浅見 慶志朗, 町田 嗣樹, 平野 直人, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 小木曽 哲, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    海底火山活動に伴う熱水活動の中でも,熱水の温度が300℃を越える高温熱水活動は資源的価値の高い硫化物鉱床を伴うため,多くの研究がなされている [1].一方,高温熱水活動域の周辺や小規模火山では低温(<150℃)の熱水から鉄マンガン (Fe-Mn) 酸化物が析出する低温熱水活動が確認されているが,活動プロセスや高温熱水活動との関係など未解明な部分は多い.しかし,海底熱水活動の熱水循環システム全体を理解するためには,低温熱水活動を含めた議論が必要不可欠である.

    低温熱水活動の中でも,低温熱水が堆積物中を海底面方向へ上方拡散する (diffuse flow) 活動形式の場合,堆積物-海水境界付近でFe-Mn酸化物が析出するため,(しばしば熱水変質した) 堆積物や火山砕屑物を多量に含む熱水性Fe-Mn酸化物が形成する [2].また,活動初期に形成したFe-Mn酸化物がキャップロックとなって海底面からの熱水の流出を妨げるため,Fe-Mn酸化物は堆積物中で下方向へと成長してゆく事が知られている [3].キャップロックによって金属を含む熱水の流出が妨げられた結果,Fe-Mn酸化物が効率よく金属を取り込み,Co, Ni, Cuの合計濃度が4%を超えた事例も報告されている [4].このように,キャップロックの形成過程や,それによってせき止められる熱水の性質推定は,堆積物に覆われた海底面で活動する熱水活動を理解するうえで非常に重要である.

    本研究では,東北日本沖で採取された熱水性Fe-Mn酸化物から,低温熱水活動の活動推移の推定を行った.試料の鉱物・化学組成から,水-岩石反応が200℃以下であり,Fe-Mn酸化物が低温熱水から析出したことが明らかになった.また,変質した砕屑物の周囲をFe-Mn酸化物が固める構造を持つことから,堆積物中を拡散した熱水からFe-Mn酸化物が析出したと考えられる.

    試料の研磨片に対してµXRFを用いた元素マッピング分析を行い,得られたデータに対して独立成分分析を実施した.独立成分分析とは,複数の独立した起源に由来する信号が混ざり合った観測データから原信号を復元する統計解析手法である.元素マッピングデータに対して独立成分分析を実施することで地球化学的特徴と組織構造の双方から形成過程の推定が可能となる.独立成分分析の結果,主にMn酸化物からなるキャップロックが形成した後に,熱水の性質もしくは堆積場の環境が変化した事でFe酸化物が析出していた事が明らかになった.

    今後,様々な海域の熱水性Fe-Mn酸化物に本研究の手法を適用して比較することで,低温熱水活動の特徴や有用金属を濃集する条件などを明らかにできる可能性がある.

    引用文献 [1] German & Seyfried 2014, Treatise on Geochemistry, 191-233. [2] Hein et al. 2008, J. Geophys. Res., 113(B8). [3] Yamaoka et al. 2017, Ore Geol. Rev., 114-125. [4] Pelleter et al. 2017, Ore Geol. Rev., 126-146.

  • 安川 和孝, 愛知 昭人, 中村 謙太郎, 野崎 達生, 高谷 雄太郎, 石田 美月, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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  • 平子 雅啓, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    レアアース (Rare-earth elements and yttrium, REY) は,特異な磁気的・光学的性質を有するため,様々なハイテク製品に不可欠であり,その消費量は年々増加している.しかしながら,陸上で採掘される既存のREY資源については,供給リスクや採掘時の環境への悪影響が世界的な問題となっている [1].このような状況の中,REYを濃集した海底堆積物「レアアース泥」が太平洋に広く分布することが明らかとなり,新規レアアース資源として有望視されている [2].

    レアアース泥を含む深海堆積物は一般に,多種多様な起源物質の混合物である.そこで,多元素組成データの全体構造から,起源物質の情報を分離・抽出し,多元素のデータが持つ地球科学的意味を適切に読み解くことで,レアアース泥の時間的・空間的な分布を支配する要素を明らかにできると期待される.このような多変量の地球化学データの解析には,独立成分分析 (Independent Component Analysis, ICA) が有用であることが近年明らかとなってきている [3]. Yasukawa et al. [3] は,レアアース泥の起源の解析を目的として,太平洋及びインド洋から得られた約4,000試料の全岩化学組成データに対して,ICAによる解析を行った.その結果,レアアースの濃集に関連する成分は海水起源マンガン酸化物, リン酸カルシウムおよび熱水起源鉄酸化水酸化物であり, いずれの成分で特徴づけられるレアアース泥であっても,資源として高いポテンシャルを有するためには,十分に遅い堆積速度の下でゆっくりとREYを濃集する必要があることが示唆された.

    しかしながら,これまでの研究では,解析対象試料の採取された海域が太平洋及びインド洋に限られていた.また,試料の種類についても遠洋性粘土および炭酸塩軟泥が大多数を占めていた.深海堆積物のバリエーションの全体像を捉えるためには,より広範なデータの収集が必要と考えられる.そこで本研究では,IODP (International Ocean Discovery Program) による航海で採取された海底掘削コア試料の化学組成データが公開されている「JOIDESデータベース」を中心として,公表されている文献情報をコンパイルし,世界中の様々な海域の多様な堆積物の化学組成データセットを構築する.そして,構築したグローバルデータセットに対して,ICAをはじめとする各種統計解析を行い,深海堆積物の化学組成が示す多元素のデータ構造を包括的に理解することを目的とする.本発表では特に,深海堆積物のグローバルな化学組成データ構造の中におけるレアアース泥の位置づけについて議論する予定である.

    [1] N. Dushyantha et al., Ore Geol. Rev., 122, 103521 (2020).

    [2] Y. Kato et al., Nat. Geosci., 4, 535-539 (2011).

    [3] K. Yasukawa et al., Sci. Rep., 6, 29603 (2016).

  • 中村 謙太郎
    セッションID: T10-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    2012年に南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) 内においてレアアース泥が発見されたことで,国産レアアース資源の開発に向けた期待は高まっている [1].特に,2013年に発見された総レアアース濃度5000 ppm以上の超高濃度レアアース泥層は,その極めて高い資源ポテンシャルから大きな注目を集めており[2],その分布や資源量の見積りに向けた成因の解明が求められている.

    堆積物の成因を考察するためには,層序に関する情報が不可欠である.しかしながら,レアアース泥を含む南鳥島EEZの深海底堆積物は,遠洋性粘土と呼ばれる記載的な特徴に乏しい堆積物であり,一般的な記載による層序区分が難しいという問題があった [3].そこで,発表者らの研究グループでは,化学組成の特徴から層序を区分する「化学層序」の手法を,南鳥島のレアアース泥を含む深海堆積物に適用した [4].その結果,南鳥島EEZの堆積物はユニットI~Vの5層と,それに挟在する3層のレアアースピーク (REY>2000ppm) の計8層からなることを明らかにした [4].

    一方で,この層序区分においては,Unit IVとVの上下関係および第2,第3レアアースピークの層序的な位置 (Unit IV, Vとの層序的関係) が明確になっていないなど,いくつかの未解明の点も残されている.Tanaka et al. [4] における化学層序の判別は,高次元の化学組成データを2次元の元素プロットに投影し,そこに現れるデータのクラスター構造の境界を,肉眼によって見極めて判別するという手法で行われている.しかし,実際のデータは高次元のデータ空間中に分布しているため,2次元に投影されたプロット上でクラスター境界を定義することは難しい.そのため,高次元空間の中で正しくクラスター境界を見極めて判別することが必要であり,それができれば,より完全な化学層序を定義することが出来ると期待される。

    そこで本研究では,Uniform Manifold Approximation and Projection (UMAP) [5] という次元削減手法とHierarchical Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise (HDBSCAN) [6] というクラスタリング手法を組み合わせた新しいアプローチによって,南鳥島EEZの深海堆積物のクラスタリングを行い,その結果を元に化学層序を再定義した.発表では,新たなアプローチによって明らかになった化学層序と,それを元にしたレアアースピーク形成イベントのタイミングおよび堆積物の削剥イベントの発生位置と回数について議論を行う.

    <引用文献>

    [1] 加藤泰浩ほか,資源地質学会第62回年会講演会,O-11 (2012). [2] Iijima et al. (2016) Geochem. J., 50, 557-573. [3] 中村謙太郎ほか,日本地質学会第123年学術大会,R24-O-3 (2016). [4] Tanaka et al. (2020) Ore Geol. Rev., 103392. [5] McInnes et al. (2018) J. Open Source Softw. 3, 861. [6] McInnes et al. (2017) J. Open Source Softw. 2, 205.

  • 小田 裕太, 大田 隼一郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    レアアースは,強力な永久磁石や蛍光体などの原料として,様々なハイテク・低炭素技術に不可欠の元素群である.2011年に加藤ほか [1] は,このレアアースに富む堆積物「レアアース泥」が太平洋の深海底に広く分布しており,有望なレアアースの新資源となり得ることを報告した.さらに,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) 内において総レアアース濃度が5,000 ppm を超える極めて高品位なレアアース泥が発見され [2, 3],国産レアアース資源として期待が高まっている.今後日本のEEZ内の他の海域や公海にも対象を広げて高品位なレアアース泥の分布域を把握するには,レアアース資源ポテンシャルが高く優先的に探査すべき海域を理論的に絞り込むことが必要である.そのために,レアアース泥の成因を解明することが不可欠となる[4].

     南鳥島周辺EEZ内の深海堆積物は3層のレアアース濃集層 (総レアアース濃度が2000 ppm以上の層準) を持ち,上位の層準から1st, 2nd, 3rd REY peakと名付けられている[5].2016年に大田ほか [6] は,南鳥島EEZ南部海域で採取されたKR13-02 PC04およびKR13-02 PC05という2本の堆積物コアを対象として,粒度分析と鉱物組成分析を実施した.その結果,1st REY peakに相当する層準において,(1) 堆積物中の魚骨片 (生物源リン酸カルシウム) の割合が最大になること,(2) 魚骨片および十字沸石 (phillipsite) の粒度が他の層準よりも大きくなること,の2点を明らかにした.そして,こうした堆積物の特徴には,強い底層流による海底堆積物の粒度選別効果が寄与していることを示唆した.さらに2020年,大田ほか [7] は, オスミウム (Os) 同位体比層序とイクチオリス (魚類の歯や鱗の微化石) 生層序を用いて,1st REY peakの生成年代が約3440万年前であることを明らかにした.この結果に基づいて大田ほか [7] は,同時期に起こった南極氷床拡大イベントに伴う海洋鉛直循環の強化により強い底層流が生じ,その底層流が海山に衝突して湧昇流が発生したと考えた.そして,この湧昇流により海洋深層の豊富な栄養塩が表層に供給されて遠洋域の生物生産性が高まり,魚類が増えたことで海底に沈積するBCPも増加し,その結果,極めて高品位なレアアース泥が生成したと結論した [7].

     このように,堆積物の鉱物的特徴と堆積年代に基づいて,1st REY peakの成因については理解が進んできた.一方,南鳥島周辺の深海堆積物において2ndおよび3rd REY peakが確認されているコアは少ないため,2nd, 3rd REY peakを含めた本海域の堆積層全体がどのような鉱物組成・粒度の変遷を経てきたのかについては,未だ十分に検討されていない.またこのことが,2nd, 3rd REY peakの成因解明を阻む大きな障害ともなっている.そこで本研究では, 3つすべてのREY peakを持つMR15-E01 PC07コアに着目し,偏光顕微鏡による観察やX線回折分析を用いて,MR15-E01 PC07コアの全体について詳細な鉱物組成・粒度の情報を取得した.本発表では,当該コアにおける深度方向の鉱物組成・粒度の変遷について議論を行う.

    <引用文献>

    [1] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.

    [2] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573.

    [3] Takaya et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763.

    [4] 安川ほか (2018) 地球化学 52, 171-210.

    [5] Tanaka et al. (2020) Ore Geology Reviews 119, 103392.

    [6] Ohta et al. (2016) Geochemical Journal 50(6), 591-603.

    [7] Ohta et al. (2020) Scientific Reports 10, 9896.

  • 町田 嗣樹, 中村 謙太郎
    セッションID: T10-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    Fe–Mn酸化物は、層厚数cmに達するのに数千万年かけて“ゆっくり”成長するため、組成の濃淡が100 µmオーダーで存在する。このようなFe–Mn酸化物内部の層構造と組成変動を正確に把握するためには、成長方向に直行する断面に記録された微細な組成変動を分析・解析する必要がある。近年、微細組成変動を明らかにするための強力なツールとして微小領域蛍光X線分析装置(µXRF)が注目され、Fe–Mn酸化物試料に応用した例が多く公表されるようになった [例えば1,2,3]。ただし従来の研究では、試料を切断するか割れて現れた面を研磨して分析面を取得するにあたって、内部構造の特徴を予め考慮することは不可能であった。そのため、観察・分析した断面が、その試料の成長履歴を正しく反映しているか、または、その試料が採取した地点を代表するものかどうかを判断する術がなかった。

    これらの現状を打破する方法として我々は、地質試料の非破壊内部観察の手段として有用性が高く評価されているX線CTに着目し、調査航海で採取した全試料の網羅的な構造解析 [4] を行っている。例えば、複雑な内部構造を持つマンガンノジュールは、CT値を用いることでFe–Mn酸化物層を定量的に同定することができる。非破壊で構造を3次元で把握し、そのうえで試料を代表する断面を選定して、そこを切断し分析することで、成長履歴を正確に把握することが可能となる。

    一方、µXRFを用いた分析の最大のメリットは、エネルギー分散型の特性X線検出器により軽元素(Si, Al等)から重元素(Ba, Mo等)までの各元素の濃度分布(元素組成マップ)を、同時に、かつ、最大幅10 cm以上になることもある断面全体に対し100 µm程度かそれ以下の高い空間分解能で取得できることである。しかし、多元素同時分析であるがゆえのデメリットとして、分析したサンプルが持つ2次元化学層序(化学構造)の情報を客観的に把握するには多くの労力を要することが問題となる。特に、網羅的なCT解析にもとづいて多くの試料をµXRF分析の対象とした場合には、直感的に各サンプルの化学構造を把握すると同時に、多くの試料同士の対比を容易に行うことができるような工夫が必要となってくる。

    そこで我々は、マンガンノジュールの分析面においてµXRF分析によって観察された複数の元素の組成分布の情報を、1枚の画像に統合(マージ)して可視化する「化学特徴マップ」を提案した [5]。そして、南鳥島周辺に分布するマンガンノジュール密集域から採取されたサンプルに対し、化学特徴マップを用いて成長履歴を解析した事例を公表した [5,6]。化学特徴マップを導入することによって、広域対比 [5] や大きさの異なる試料間の層同定 [6] が容易になり、マンガンノジュール密集域形成の地質学的な背景を考察することが可能となった。本発表では、化学特徴マップを作成するにあたり重視した点と具体的な画像統合の方法 [5] を解説し、これまでに行った解析事例 [4,5,6] を紹介するとともに、CTと化学特徴マップの組み合わせを用いた統合解析の今後の展望について議論する。

    [1] Hein et al. (2020) Nature Reviews Earth & Environment, 1, 158–169. [2] Usui et al. (2016) Ore Geology Reviews, 87, 71–87. [3] Benites et al. (2018) Minerals, 8, 488. [4] Nakamura et al. (2021) Minerals, 11, 1100. [5] Machida et al. (2021) Island Arc, 30, e12395. [6] Machida et al. (2021) Minerals, 11, 1246.

  • 矢崎 誠, 中村 謙太郎, 町田 嗣樹, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    マンガンノジュールは、マンガンクラスト、海底熱水鉱床、レアアース泥と並ぶ、主要な海底鉱物資源の1つであり、Cu, Ni, Coなど産業的に価値のある金属が豊富に含まれていることから、これらの金属の新たな供給源として注目されている [1,2]。最近、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) においても、マンガンノジュールが広範かつ高密度に分布していることが判明しており、将来の国産資源としての開発が期待される [3,4]。

    将来的なマンガンノジュール開発に向けて有望海域を絞り込むためには、その形成環境と分布の支配要因を明らかにすることが重要である。マンガンノジュールは、中心に核が存在しその周りにFe-Mn酸化物が年輪状に沈積して形成される [2]。このことから、核の存在こそがノジュール形成の鍵となる要因であると考えられる。そのため、核の実態を詳細に解明することができれば、ノジュールの成長開始の条件に関する重要な情報を取得することができると期待される。

    先行研究では、南鳥島のマンガンノジュール核についてX線CTスキャンとICP-MS分析を行い、形状や密度、化学組成に大きなバリエーションが存在することを明らかにしている [5,6]。さらに、核を構成する岩石には、海山起源と考えられる火山岩、鉄石、燐灰岩などが含まれることも明らかとなっている [6]。しかし、最も多数を占める「固結した堆積物からなる核」の由来は明らかになっていないなど、核の実態は未だ完全には解明されていない。

    これまでの研究では、核を単純な岩塊と捉え、それらのバルク (全岩) 分析が行われてきた。しかし、マンガンノジュールの核は、実際には単純な塊ではなく、複雑な内部構造を有していることが微視的な観察の結果からわかってきた。そのため、このような核の実態を詳細に観察・分析によって解明することが、マンガンノジュールの成因を明らかにする上で重要であると考えられる。

    そこで本研究では、µXRFによる核の高解像度元素マッピングを実施した。発表では、核の元素マッピングの結果を示し、南鳥島EEZのマンガンノジュールの核の岩石学的・地球化学的特徴と起源について議論を行う。

    引用文献: [1] Petersen et al. (2016) Marine Policy, 70, 175–187. [2] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews, 51, 1–14. [3] Machida et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 539–555 [4] Machida et al. (2021) Marine Georesources & Geotechnology, 39, 267–279 [5] Shimomura et al. (2018) JpGU meeting 2018. [6] Terauchi et al. (2019) JpGU meeting 2019.

  • 青柳 颯汰, 大田 隼一郎, 矢野 萌生, 見邨 和英, 浅見 慶志朗, 野崎 達生, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 町田 嗣樹, 加藤 泰 ...
    セッションID: T10-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    マンガンノジュールは,マンガンや鉄の酸化物・水酸化物を主成分とする化学堆積岩であり,マンガンと鉄のほかに,コバルト,ニッケル,銅,希土類元素等の希少金属元素が高濃度で含まれていることから,将来の資源として開発が期待されている [1].2010年には,南鳥島沖の日本の排他的経済水域 (EEZ) 内でも,マンガンノジュールの大規模な密集域が発見された [2].さらに,2016年と2017年には,YK16-01航海およびYK17-11C航海がそれぞれ実施され,マンガンノジュールが南鳥島EEZの東方から南方にかけての広大な範囲に分布していることが明らかにされるとともに,それぞれ8回ずつ合計16回の潜航調査により,多くのノジュールサンプルが採取された [3].

    発表者らは,これまでに南鳥島EEZの東部から採取された2試料のマンガンノジュールに対してOs同位体層序年代決定を行い,これらのマンガンノジュールが約35 Maに成長を開始している事を明らかにするとともに,30~10 Maにかけて20 Myr程度の無堆積期間(ハイエイタス)が存在している可能性を指摘した [4].本研究では,さらに南鳥島EEZの南東部および南部から採取されたマンガンノジュールに対してもOs同位体層序を用いた年代決定を行い,海域によるマンガンノジュールの成長履歴の違いについて比較・検討を行った.また,鉄マンガン酸化物層の微小部蛍光X線 (μXRF) 分析を実施し,ハイエイタスが存在する部分の成長構造および鉱物化学組成についての検討も行った.

    Os同位体比分析は,時間・空間解像度を上げるために直径2mmのタングステンカーバイド製ドリルを用いて2mm間隔でそれぞれ約1mgの粉末試料を削り出し,千葉工業大学次世代海洋資源研究センターに設置されているMC-ICP-MSに気化法を組み合わせて実施した [5,6].またその際,極少量の試料から高精度で同位体比を得るために,イオンカウンターを用いて測定した [6].そして,分析によって得られたOs同位体比を海水のOs同位体比変動曲線にフィッティングすることで,年代値を制約した.フィッティングに際しては,マルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC) によるベイズ推定 [7] を用いることで,可能性の高い年代値を絞り込んだ.さらに,Os同位体分析用の試料を削り出した半割ノジュール試料に対して,鉄マンガン酸化物各層の年代値と化学組成の対応を見るためにμXRFによる酸化物層の元素マッピングも行った.

    本発表では,得られた年代値およびμXRF分析の結果について報告し,南鳥島マンガンノジュールの成長履歴とハイエイタスの発生年代およびその原因について議論を行う.

    <引用文献>

    [1] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews 51, 1-14. [2] Machida. et al. (2016) Geochemical Journal 50, 539-555. [3] Machida et al. (2021) Marine Georesources & Geothechnology, 39, 267–279. [4] 青柳ほか (2021) 日本地質学会第128年学術大会 [5] Nozaki et al. (2012) Geostandards and Geoanalytical Research,36, 131-148. [6] Ohta et al. (in press) Journal of Analytical Atomic Spectrometry. [7] Josso et al. (2019) Chemical Geology 513, 108-119.

  • 藤永 公一郎, 矢野 萌生, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 大田 隼一郎, 桑原 佑典, 中山 健, 加藤 泰浩
    セッションID: T10-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    Re-Os放射壊変系は187Reがβ-壊変によって187Osになることを利用した系列であり,Osに比べてReが液相に分配されやすいため,年代効果によりOs同位体比 (187Os/188Os) は広い変動幅を持つ.そのため,大陸地殻フラックス (187Os/188Os = ~ 1.4) とマントル起源・宇宙起源物質フラックス (187Os/188Os = ~ 0.126) は,一桁も違う極めて対照的なOs 同位体比組成を示す [1].海水のOs同位体比はこれらのフラックスの相対強度によって決定されるため,その経年変動から陸上岩石の化学風化やマントル活動の変動のほか,隕石衝突などの短期的なイベントを捉えることが可能である.また,海水中のOsの滞留時間は25 – 45 kyr [1] であり,海洋循環の時間スケール (~1 kyr) よりも十分に長いため,全海洋において海水のOs同位体比はほぼ均一な値 (現在の海水:187Os/188Os =1.06) を持つ.したがって,海水のOs同位体比はグローバルな地球表層環境の変遷を解読するための最適な地球化学的トレーサーのひとつである.

    過去の海水のOs同位体比についてはこれまで,海洋底から得られたFe-Mnに富む熱水性堆積物や遠洋性粘土,遠洋性炭酸塩堆積物,Fe-Mnクラスト・ノジュールなどを用いて,80 Ma以降の連続したOs同位体比変動曲線が復元されている [2].しかし,海洋底はプレートの沈み込みにより常に更新されているため,現在の海洋底に存在する堆積物から古海水のOs同位体比変動曲線を復元するには限界がある.その一方で,沈み込み帯における付加作用によって付加体中に取り込まれた過去の海底堆積物が,より古い時代における古海水情報を読み解くための重要な記録媒体となっている [3-9]. 日本列島は主に付加体から構成される地質体であり,数多くの層状Fe-Mn鉱床やMn鉱床,別子型鉱床などの層準規制型鉱床が分布している [10, 11].このうち,層状Fe-Mn鉱床 (以後アンバー [umber] と呼称する) は,そのほとんどがMORB由来の玄武岩に伴われて産する重金属に富んだ泥質岩であり,一部はFeやMnの低品位資源として小規模に開発が行われていた.講演者らのこれまでの研究により,アンバーは過去の海嶺近傍で堆積した熱水性Fe-Mn堆積物であり,海水中からP,V,REY,そしてOsなどの様々な元素を吸着しながら堆積したことがわかっている [5, 6, 8, 12-14] .

    そこで本研究では,高知県南部の横浪半島に分布する白亜紀のアンバーを研究対象とした.横浪アンバーは枕状玄武岩と層状赤色チャートの境界部に狭在される赤褐色~暗赤褐色の泥質岩で,その起源は直下の玄武岩火成活動に伴う熱水性堆積物であることが指摘されている [15].また,上位の層状赤色チャートの放散虫化石年代から,横浪アンバーの堆積年代は前期白亜紀のValanginian (137.7-132.6 Ma) と推定される [16] .本講演では,横浪アンバーおよびその周辺岩石の詳細な地球化学的特徴を報告し,横浪アンバーの起源と堆積場について検討を行う.そして,横浪アンバーから復元した前期白亜紀の海水のOs同位体組成について議論する.

    [1] Peucker-Ehrenbrink and Ravizza, 2000 Terra Nova, [2] Peucker-Ehrenbrink and Ravizza, 2020 Geologic Time Scale 2020 (Chapter 8), [3] Ravizza et al., 1999 Geology, [4] Ravizza et al., 2001 Earth Planet. Sci. Lett., [5] Kato et al., 2005a Geochem. Geophys. Geosyst., [6] Kato et al., 2011 Gondwana Res., [7] Kuwahara et al., 2021 Goldschmidt2021, [8] Fujinaga et al., 2022 Ore Geol. Rev., [9] 矢野ほか, 2022 JpGU2022, [10] Nakamura, 1990 Pre-Jurassic evolution of Eastern Asia, [11] Sato and Kase, 1996 Island Arc, [12] 藤永ほか, 1999 地質学論集, [13] 藤永・加藤, 2001 資源地質, [14] Kato et al., 2005b Resour. Geol., [15] Matsumoto et al., 1988 Modern Geol., [16] 岡村・宇都, 1982 高知大学学術研究報告.

T11(口頭).堆積地質学の最新研究
  • 菊地 一輝, 成瀬 元
    セッションID: T11-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    本研究は,海底掘削コア画像から生痕化石を自動抽出するモデルを開発し,生痕化石の密度の長期間の変動を検討した.生痕化石Phycosiphonは様々な方向へ蛇行を繰り返す暗色の細粒砕屑物からなる管とそれを取り囲む明色の物質で構成される.本生痕属は,混濁流の流下などの海底の物理的撹乱の直後に入植する日和見主義者による移動摂食痕と解釈され,しばしば一時的な生態系の破壊とその後の回復を示す指標として扱われる(Wetzel and Uchman, 2001など).しかし,長期的な堆積環境の変化に対しての本生痕属の応答様式は明らかになっていない.

     生痕化石は海底掘削コアの断面画像においても観察可能である.コアの場合,同一海域において連続した地層記録を観察できる利点がある.一方で,コア画像に基づいて長期的な生痕化石の産出記録を得るためには,たとえば厚さ1000 mオーダーのコア画像を同時に解析する必要がある.そこで本研究では,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いたセマンティックセグメンテーション技術によって,コア画像から生痕化石の領域を自動抽出するモデルを開発した.そして,ベンガル湾南部のIODP Exp. 362 Site U1480で掘削されたコア画像にモデルを適用し,海底扇状地システムの時間発展に伴うPhycosiphonの密度の層位変化を検討した.

     Site U1480では後期中新世から更新世にかけて発達したNicobar Fanの堆積物が採取されている.調査地域において,Nicobar Fan堆積物は堆積相と地震波探査断面の解釈から,下位から海底扇状地縁辺相,ローブ複合体及びチャネル―レビー相,チャネル―レビー相,に区分される(Pickering et al., 2020).この堆積環境の変化は海底扇状地システムの前進を反映すると解釈されている.

    本研究では,ローブ複合体相の厚さ約4 m分のコア画像を,背景,コア断面,生痕,の各領域で人為的に着色した画像を作成し,コア画像との関係をCNNに学習させた.CNNの構造として,活性化関数前置型残差ブロックを用いたU-Netを採用した.そして,クラス間不均衡を補正した損失関数(Cui et al., 2019)を最小化する学習を300エポック行った.また,学習初期の10エポックでは線形に学習率を上昇させ,以降は余弦関数に従って減衰させることで,教師データへの過剰適合を軽減させた.学習したモデルを未知のコア画像に適用したところ,約83%のピクセルの分類が人為的に着色した正解画像と一致する推定画像が得られた.背景部分とコア断面部分は精度よく推定されたものの,生痕部分はPhycosiphonを除きほとんど再現されなかった.正解画像と推定画像を10 cm間隔の区間に分け,生痕の面積の割合を計算して同じ区間どうしで比較した結果,RMSEは0.004であった.したがって,本研究で作成したモデルはPhycosiphonの密度推定には充分な精度を持つといえる.

     本研究のモデルをHole F(98–805 mbsf)とHole G(759–1431 mbsf)のコア画像に適用した.各コア画像で生痕の面積の割合を計算することで,約1.5 m間隔でPhycosiphonの密度を見積もった.その結果,堆積環境ごとに生痕密度の変動パターンに違いがあることが明らかになった.Phycosiphonの密度は海底扇状地の堆積開始直前に上昇し,海底扇状地縁辺相では比較的高い密度を示す.ローブ複合体相では,泥岩優勢部では密度は上昇するものの,砂岩優勢部では低下する変動パターンが見られた.また,チャネル―レビー相では比較的低い密度を示した.この変動パターンの違いは,海底扇状地システムの前進に伴って堆積場の物理的撹乱の頻度や規模が増大することで,しだいに生痕形成者が入植しにくくなったことを反映していると考えられる.今後,他地域のコア画像の解析も行うことで,海底扇状地システムの生痕密度の普遍的な層位変化パターンが明らかになるだろう.堆積環境ごとの層位変化パターンの普遍性が明らかになれば,限定的なコア情報からの堆積環境の推定や異なる時代間での比較が可能になると期待される.

    引用文献

    Cui, Y. et al., 2019, In Proceedings of the IEEE/CVF CVPR, 9268–9277.

    Pickering, K. et al., 2020, Sedimentology, 67, 2248–2281.

    Wetzel, A. and Uchman, A., 2001, Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 168, 171–186.

  • 長門 巧, 成瀬 元
    セッションID: T11-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    分厚く粗粒な砂からなる砂岩層の基底部には,逆級化を複数回繰り返す多重逆級化構造と呼ばれる堆積構造が観察されることがある.多重逆級化構造はトラクションカーペット堆積物やSpaced stratificationなどと呼ばれ,深海の粗粒な砂岩だけでなく陸上で発生したハイパーコンセントレイティッド流堆積物などにも特徴的な堆積構造として知られている.この構造は高密度な流れの底部に形成されるトラクションカーペット,または掃流状集合流動などと呼ばれる,粒子が濃集した領域が長期間維持されることによって形成される構造だと考えられてきた(Sohn, 1997).しかし,従来考えられていた高密度な流れよりもはるかに低濃度な流れでも,底面に発達するベッドフォームが移動することによって多重逆級化構造が形成されるとする,水槽実験に基づいた仮説が提唱されている(宮田・田中, 2011).野外で観察される多重逆級化構造について,これらの形成仮説のうちどちらが主な原因となって形成されているのかを検証するには,粒子配列を可視化して測定・解析し,構造を形成した流れを復元することが有効である(横川, 1998).多重逆級化構造の粒子配列に着目した先行研究は存在するが(Hiscott and Middleton, 1980; Yagishita, 1988),技術的な制約のためか細粒な部分や,粒径が次第に移り変わっている部分について,構造の特徴を連続的に観察している例は無い.

     そのため,本研究では畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた画像認識モデルを作成し,肉眼では捉えられない微細な特徴について,構造全体を連続的に観察することに成功した.

     今回,西南日本に分布している上部白亜系和泉層群に含まれる,徳島県北部大毛島に分布する板東谷層および兵庫県淡路島南東部に分布する灘層において,多重逆級化構造を示す砂岩試料を見出した.これらの試料について粒子配列および粒度変化の特徴を解析した結果,粗粒な砂岩層に観察される多重逆級化構造には複数の逆級化パターンが観察された.今回明らかになった逆級化パターンを形成した流れの水理条件は現時点で明らかではないが,本研究の調査地で観察された多重逆級化構造は少なくとも2つ以上の異なる流れから形成されている可能性が高い.

    参考文献

    Hiscott, R. N. and Middleton, G. V., 1980, Journal of Sedimentary Research, 50, 703–721.

    宮田・田中, 2011, 地質学雑誌, 117, 133–140.

    Sohn, Y. K., 1997, Journal of Sedimentary Research, 67, 502–509.

    横川, 1998, 地球科学, 52, 370–377.

  • 蔡 之榕, 成瀬 元
    セッションID: T11-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Earthquakes and tsunamis are catastrophic geohazards that bring destruction to cities and

    sometimes countries. The recurrence interval of mega-earthquake occurrence has long been a topic of focus due to its close association with the risk assessment of natural hazards. Goldfinger et al. (2003) proposed the use of seismo-turbidite as an indicator of earthquakes. Seismo-turbidite are deposits of turbidity currents induced by the seismic activities and can be identified as a potential marker for seismic events in sedimentary records. Even though seismo-turbidites proved to be a good indicator of earthquake records in sedimentary successions, there is one major problem that needs to be resolved. That is how to determine the scale of the seismic event that deposited the seismo-turbidite. The goal of hazard prevention is to identify the frequency of events that may affect human activities on land, not any seismic activity. This study proposes the inverse modeling of seismo-turbidites to reconstruct the scale of earthquake induced turbidity currents from the deposited seismo-turbidites. Japan Trench has a relatively accurate historical record of past mega-earthquakes (Ikehara et al. 2016), making it the ideal study area as the first location for the testing the inverse analysis of seismo-turbidites deposited in nature.

    This study presents a preliminary test of the inverse analysis of seismo-turbidites using artificial datasets of cores at the proposed sites of IODP Expedition 386 in a Japan Trench topographic setting. In this study, we used 2D numerical simulation and the submarine topography of the region to examine the behavior of turbidity currents resulting from the large area of submarine failure. Then, DNN inverse analysis was tested to determine whether it can reconstruct the location and the scale of the initiation region of turbidity currents resulting from mega earthquakes.

    Goldfinger et al. 2003: Deep-water turbidites as Holocene earthquake proxies: the Cascadia subduction zone and Northern San Andreas Fault systems

    Ikehara et al. 2016: Documenting large earthquakes similar to the 2011 Tohoku-oki earthquake from sediments deposited in the Japan Trench over the past 1500 years

  • 田中 凌悟, 成瀬 元
    セッションID: T11-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    深海の重力流堆積物には,多様な堆積構造区分が内部に発達することが知られている.Haughton et al. (2009) は大型の泥質礫を多く含む粗粒重力流堆積物の堆積構造を記載し,それらが標準的にはH1-H5の5つに区分されるとした.そして,重力流が移動中に土石流から混濁流(もしくはその逆)に移行するflow transformation現象によりこれら不連続な堆積構造区分が形成されると解釈し,このような層をハイブリッドイベント層と呼んだ.しかしながら,上記のような肉眼観察による区分の成因がflow transformationと一対一で対応するのかについては,十分に実証されてはいない.特に,砂岩中の塊状構造は土石流でも混濁流でも形成されうるため,肉眼観察から堆積構造区分の成因を判断することは難しい.

     そこで,本研究は,粗粒重力流堆積物の各堆積構造区分がflow transformationにより形成される現象なのか,粒子配列に基づき検証することを試みた.既存研究から,一見して塊状であっても,粒子配列から流れのプロセスを判別できることが指摘されている(Naruse and Masuda, 2006).粒子配列解析にあたっては,樹脂で固定した砂岩試料の研磨断面をデスクトップスキャナーで撮影した.そして,研磨断面画像から自動的に粒子を識別する畳み込みニューラルネットワークを作成し,粒子長軸の方向分布を測定した.

     検討対象とされた大田代層は,千葉県房総半島に分布する海底扇状地堆積物である.本研究では,大田代層の火山灰鍵層O7近傍の層準に見られる2枚の砂層を検討の対象とする(Fukuda and Naruse, 2020).

     本研究で解析した2枚の堆積層には,下位から順に以下の四つの堆積構造区分が観察された.区分I: 厚さは約20 cmであり,主に粗粒砂〜極粗粒砂で構成され,貝破片を含む.塊状または弱い級化構造を示し,最下部では下位の層を侵食する.区分Ⅱ:厚さ15 cmで,区分Iとの境界は粒度の急激な細粒化によって明瞭に識別される.堆積物の淘汰は悪く,主に細粒砂〜中粒砂であり,粒子支持の大型(直径10 cm程度)の泥質礫を多数含む.区分Ⅲ:主に極細粒砂〜細粒砂で,小型(直径約2 mm以下)の泥質礫のみが散在的に含まれている.塊状または弱い級化を示し,厚さは15 cm程度である.区分Ⅱとの境界は明瞭である.区分Ⅳ:砂層の最上部10 cm程度を占め,主に極細粒砂〜細粒砂で構成され,葉理構造が観察される.

     粒子配列を解析した結果,区分Ⅲ下部の特徴が他とは大きく異なることが明らかになった.区分Ⅰの粒子配列は10–20°の低角で上流あるいは下流に傾いたインブリケーションを示すのに対して,区分Ⅲは下部では40–60°の高角なインブリケーション角を示す.この区分Ⅲの上部では,インブリケーション角が10–20°と再び低角になる.

     粒子配列の特徴から,区分Ⅰは高密度混濁流堆積物であるのに対し,区分ⅡおよびⅢの下部は土石流堆積物と推定される.Naruse and Masuda (2006) は,土石流堆積物の粒子インブリケーション角が基底部では低角であるのに対し上部では40–80°と高角になることを示した.一方,タービダイトの粒子配列は一貫して低角(10-20°)であった.すなわち,区分Ⅱおよび区分Ⅲ下部の粒子配列はどちらも土石流堆積物と類似し,区分IとIII上部はタービダイトの粒子配列の特徴と一致する.

     本研究の結果は,粗粒重力流堆積物の堆積構造区分の成因が必ずしもflow transformationとは限らないことを表す.区分Ⅱと区分Ⅲ下部の境界は明瞭だが,粒子配列はどちらも土石流堆積物のものであり,flow transformationとは無関係に区分境界が形成されていることがわかる.また,肉眼では一連の区分Ⅲだが,下部と上部で流れの状態が異なる可能性は高い.すなわち,flow transformationが起こっても堆積構造区分には反映されない場合もあることが伺える.今後は,flow transformation現象と堆積構造区分の関係を理解するため,実験や理論に基づく検討が必要となるだろう.

    文献

    Fukuda, S. and Naruse, H., 2020, Jour. Sed. Res., 90, 1410–1435.

    Haughton, P., Davis, C., McCaffrey, W., and Barker, S., 2009, Mar. and Petr. Geol., 26, 1900–1918.

    Naruse, H. and Masuda, F., 2006, Jour. Sed. Res., 76, 854–865.

  • 飯嶋 耕崇, 成瀬 元, 菅原 大助
    セッションID: T11-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    津波堆積物から得られる情報を用いて、津波堆積物を形成させた津波の水理条件、さらには津波の波源となった断層等の情報を推定する試みを逆解析と呼ぶ。これまでに、一地点における津波堆積物の粒度情報から津波浸水流のせん断流速を推定したり(Moore et al., 2007)、傾斜一定な地形において流速一様かつ底面堆積物の連行無しとする単純な断面1次元津波伝播モデルにより波高を推定する手法(Soulsby et al., 2007)が提案された。しかし、水理条件を過度に単純化したため実際の津波の複雑な挙動を十分再現できず、現世の津波で検証すると流れの規模を過大もしくは過小に評価する傾向があるとの指摘がある(菅原、2014)。

    これらに対し、津波堆積物を用いて波源断層パラメーターを推定した既往研究として、西暦869年の貞観津波の例がある(菅原ほか、2011)。断層パラメーターや潮位を変化させ順解析を実施し、堆積物分布と浸水範囲の比較により、断層パラメーター推定に成功した。ただし、津波浸水流が堆積物運搬の限界掃流力を超えているかのみを逆解析結果の判断基準とし、堆積物の層厚や粒度情報は用いられていない。計算結果と観測結果の比較も人為的判断に頼っており、計算資源量の問題もあったため、客観的・定量的比較に課題を残していた。

    一方、近年開発された津波堆積物の逆解析手法として、DNN (Deep Neural Network)を用いたものがある(Mitra et al., 2020, 2021)。傾斜一定な地形を仮定した断面1次元順解析モデルを用い、津波伝播・土砂移動の順解析を多数回実施、津波の初期水理条件と堆積物性状の組み合わせを多数生成し、それを教師データとして機械学習を行う事で逆解析モデルを構築した。仙台平野およびタイ・プラトン島の現世津波堆積物を対象とした解析の結果、津波の水理条件として妥当な復元値を示す事が確認された。一方で、断面1次元順解析では津波の平面的挙動を考慮できず、より複雑な地形を遡上した津波の逆解析は困難である。また、復元値は海岸線における波高・流速等の初期水理条件であり、波源断層パラメーター推定には至っていない。

    そこで本研究では、津波堆積物から波源断層パラメーターを復元する新しい逆解析手法開発を試みている。実地形上での津波挙動を考慮可能な、水平2次元順解析モデルであるDelft3D-FLOW (Deltares, 2021)を用いて、津波伝播・土砂移動計算を実施した点が特色である。解析対象は2011年東北地方太平洋沖地震津波の堆積物であり、対象地域として宮城県仙台市の七北田川右岸を選んだ。波源断層モデルは今村ほか(2012)に従い、断層パラメーターのうち断層変位量と断層幅を復元対象とした。教師データ生成にあたり、断層変位量は1~40m、断層幅は10~200kmの範囲で変化させた。底面堆積物の初期条件として、4粒径クラス(140, 250, 420, 1000 μm)の一様分布を仮定した。対象地域上の測線における各粒径クラスの堆積量を、順解析を多数回実施して求め、教師データを生成した。その後、教師データをDNNに学習させ逆解析モデルを構築した。本研究で用いたDNNは入力層、3層の中間層、出力層の計5層で構成され、活性化関数にReLU、損失関数に教師データと予測値間の平均二乗誤差を用いた。

    順解析により、断層変位量および断層幅が、津波の遡上過程や津波堆積物分布に影響を与える事が観察された。断層変位量が大きいほど遡上距離は長く、同一地点における堆積物層厚は大きくなった。また、断層幅が大きいほど遡上距離は長くなる傾向が観察された。一方、海岸線から300~600mの範囲では、断層幅が100km前後の場合に堆積物層厚が極大となり、それより断層幅が増減すると層厚が減少する傾向がみられた。

    さらに、数十例の順解析結果を用いた予察的な逆解析を実施した。その結果、断層変位量と断層幅について、教師データと予測値の間に相関関係が観察され、逆解析による推定が可能である事が示唆された。一方、ハイパーパラメーターを調整しても過学習傾向がみられ、教師データ数の不足が示唆された。今後は順解析数の増加により過学習傾向が低減され、より高精度な逆解析が可能となる事が期待される。

    引用文献

    Moore et al., 2007, Sediment. Geol.

    Soulsby et al., 2007, Coastal Sediments

    菅原ほか、2011、自然災害科学

    今村ほか、2012、東北大学モデル(version1.2)

    菅原、2014、地学雑誌

    Mitra et al., 2020, JGR Earth Surf.

    Mitra et al., 2021, Nat. Hazards Earth Syst. Sci.

    Deltares, 2021, Delft3D-FLOW

  • 張 天逸, 太田 亨
    セッションID: T11-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    大陸地殻の化学風化は,気候条件を反映して進行するため,過去の気候の復元に活用できる指標となる.また,化学風化は大気CO2の消費を通して気候を寒冷化させることで地球環境の温度調整を担うことや,大陸地殻から海洋への栄養塩供給を担うことで,地球表層環境を制御する重要なプロセスである.風化生成物である砕屑物の化学組成は,生成当時の風化強度を反映する.したがって,砕屑物の主要元素を用いた風化指標は,過去の風化度を見積もる際に良く用いられてきた(Nesbitt and Young, 1982).しかし,堆積物・堆積岩の化学組成は,風化強度のみによって規定されるわけではなく,源岩の化学組成の差異によっても変化する.この問題を是正したのが風化指標W値(Ohta and Arai, 2007)であり,化学風化と源岩組成に依存した化学組成情報を独立化させた.しかしながら,W値は,堆積物にしばしば混入する生物源や続成起源物質(シリカ,カルサイト等)による化学組成変化の影響を補正できていない.

    そこで,本研究ではこの問題を解決するために,生物源や続成起源物質からの寄与が考えられるSiO2,CaO,P2O5を用いない新たな化学風化指標RW indexを構築した.これは,様々な組成をもつ未風化な火成岩と現世風化プロファイルの主要元素のデータセットに多変量統計解析を適用することにより,SiO2,CaO,P2O5の値を使用せずに源岩組成トレンドと化学風化トレンドを統計的に独立に抽出することで構築されたものである.火成岩のデータはUSGS,GSJの標準試料などを,現世風化プロファイルについては熱帯雨林気候や温帯気候,乾燥気候,氷雪気候に発達するサプロライトやラテライトなどを使用した.この組成データのデータセットについて有心対数比変換を施した後に,独立成分分析を適用し,源岩組成(苦鉄質~珪長質)の差異によるトレンドと化学風化のトレンドの2つの独立成分を抽出した.この主要元素の対数の線形結合で表される2つの軸を,等長対数比変換の逆写像を用いることで,新たなデータを投影することのできる三角図に整備した(mafic-felsic-RW diagram).

    RW indexの構築には使用していない現世の風化プロファイルや古土壌のデータにRW indexを適用することで,RW indexの有用性を確認した.花崗岩と玄武岩のサプロライトプロファイルにRW indexを適用したところ,地中の未風化の源岩から風化が進行している表層に近づくに伴いRW indexの値が上昇した.また,RW indexを異なる気候帯に発達する現世土壌に適用した結果,寒冷気候,温暖気候,熱帯雨林気候の順に化学風化度を反映してRW indexの値が増加した.さらに,カルサイトノジュールを多く含む古土壌プロファイルにRW indexを適用した結果,カルサイトの濃度変化傾向とは独立に,土壌表面に近づくにつれて風化度が上昇する傾向を示した.以上の結果より,RW indexは「異なる源岩組成をもつ砕屑物について適用可能」,「多元素を用いているために特定の元素濃度に影響されづらい」といったW値の利点を引き継ぎつつ,シリカ,カルサイト,アパタイトといった生物・続成起源物質の混入の影響にも強固な指標であることが確かめられた.RW indexにより,続成や生物源のシリカ,カルサイトを多量に含む浅海堆積物や陸成堆積物においても,追加の実験や補正を必要とせずにケイ酸塩化学風化度を簡便に算出することが可能となったため,今後の陸成層・海成層双方を用いた複合的な古環境解析においての適用が期待される.

    文献:

    Nesbitt and Young, 1982, Nature 299, 715-717. Ohta and Arai, 2007, Chem. Geol. 240, 280-297.

  • 石渡 明
    セッションID: T11-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    石渡他(2019)は河川と海岸各100個の礫につきキッチンマットとフリーの画像計測ソフトImage-Jを用いてデジタル礫形計測を行い、ab面の真円度(4π面積/(周囲長)2)と楕円近似の短径長径比(c/a、扁平さ)を計測して、統計的に「海岸礫は河川礫より円くて扁平である」ことを認め、中山(1965)等の結果を再確認した。石渡(2022)は日本各地でこの結果の普遍性を示したが、岩石海岸では川と海で扁平さに違いがない場合もあった(真円度には差がある)。Ishimura & Yamada (2019)はデジタル礫形計測で岩手県山田町の津波堆積物を研究し、円磨度の高い海岸礫の内陸への到達距離から津波遡上高さを推定したが、扁平さの違いは無視した。

    _小杉(1962)はCailleux*(カユー, 1947, 1952)が「海成礫は河成礫に比べて相対的に扁平度((a+b)/2c)が高いこと…を実証した」と述べ、「この形態的差異は、根本的にその営力の違いによって生ずる」と示唆し、Vernhet* (1953)の意見として、モナコのLarvotto湾内においては、扁平度は波が静かな場所で高く、円磨度は波が荒い場所で高いと指摘した。小杉(1968)は、「きわめて扁平性に富みしかもよく円形化された対称的な形態の海浜礫と、これとは対照的に不規則形を示す周氷河起源およびそれらの中間的な河床礫や湖沼礫のそれぞれ固有の形態は、環境条件に左右されながらも、各種の最終営力の特性をより一層敏感に反映したものと解釈される」と総括した。

    _石渡他は河川での転動、海岸での滑動(摺動)という礫の運搬プロセスの違いが礫形の違いの原因と示唆した。宮田・末弘(2016)は「扁平礫問題」を取り上げ、「礫浜には扁平礫の割合が高いことは従来から知られていたが、その原因として礫浜特有の摩耗があるという解釈と、形状による淘汰の結果ではないか、という異なった考えがある」と述べ、「決定的な証拠を得るには至っていない」が、礫の大きさ((abc)1/3)と扁平度((a+b)/2c)の間に相関がないか、または正の相関がある(大礫ほど扁平度が高い)ことを示す彼らのデータは「選択的な扁平化をもたらす礫浜特有の摩耗作用を示唆している」。

    _石渡他は河川礫に対する海岸礫の境界値として真円度0.78以上、短径長径比0.48以下を示した。礫の円磨度判定には長年Krumbein*(1941)の円磨度印象図(保柳ほか, 2004, p.104;公文・立石, 1998, p.130)が使われてきたので、今回この図のデジタル計測を行った。その結果、円磨度0.1の角礫の真円度は0.72程度、円磨度0.9の円礫の真円度は0.84程度となり、真円度の川・海境界値0.78は円磨度0.6に相当し、これは中山(1965)の川・海境界値と一致する。公文・立石(1998)のp.131の礫形図を計測すると、真円度は超円礫≧0.84、円礫≧0.81、亜円礫≧0.78、亜角礫≧0.75、角礫≧0.72、超角礫<0.72とするのが妥当と判断される。同じ円磨度の礫でも細長いと真円度が低くなるので、等方礫と伸長礫の中間値を採った。特にKrumbeinの図の円磨度0.5の礫は細長くて真円度が低く出る。その意味で、円磨度を円形度と言い換えるのは良くない。

    _日本の地質学教科書は海岸礫の扁平さを無視してきた。角(すみ、1966)は「川・海を比較すると海の礫に少し球形度の低い割合が少ないという違いしかありません」と述べたが、この辺が無視の源流だろうか。しかし、簡便で客観性・再現性の高いデジタル礫形計測は堆積環境の解明に有用であり、扁平円礫の多産は海岸での形成を示す。

    文献(*印の論文の出典は、その前後で引用した論文等を参照)

    保柳康一・公文富士夫・松田博貴(2004)堆積物と堆積岩. 共立.

    Ishimura, D. & Yamada, K. (2019) https://doi.org/10.1038/s41598-019-46584-z

    石渡明(2022)http://www.geosociety.jp/faq/content1002.html

    石渡明・田上雅彦・谷尚幸・大橋守人・内藤浩行(2019)http://www.geosociety.jp/faq/content0864.html

    小杉健三(1962)北海道学芸大学紀要第2部B, 13(1), 120-131.

    小杉健三(1968)http://hdl.handle.net/10097/23430

    公文富士夫・立石雅昭編(1998)新版 砕屑物の研究法. 地団研.

    宮田雄一郎・末弘美咲(2016)地質学会123年会演旨R8-P-1, 231.

    中山正民(1965)地理評, 38(2), 103-120.

    角靖夫(1966)地質ニュース, 145, 36-42.

  • 横山 由香, 中村 希, 坂本 泉, 馬塲 久紀, 平 朝彦
    セッションID: T11-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    堆積物を浅海から深海底に運搬するメカニズムの一つとして,混濁流の存在が知られている.混濁流を発生させるトリガーとしては,地震性の海底斜面の崩壊,前進するデルタの斜面崩壊,および河口へ流出する洪水によるものなどが知られているが,発生予測が難しいことに加え,海底への安定した機器設置が難しいことから実海域観測によって確認した報告は少ない.

     駿河湾は,湾奥・西部から4つの一級河川(狩野川,富士川,安部川,大井川)が流入し,大雨や台風時に,それぞれの河口から砕屑物を含む濁水が流入する様子が,衛星・航空写真から観察されている.実際に,駿河湾奥部富士川沖では,台風前後に採取されたコア試料を比較した結果,特徴の異なる堆積物が確認され,この変化は台風による洪水流の影響によると推定された(西田・池原,2016).2018年台風24号通過時には,駿河湾奥部を東西に横断するように設置した海底地震計が複数台急浮上,および海底面上を約0.8 km移動したことが報告され,台風による富士川洪水起源の混濁流の影響を受けたものと推察された(馬塲ほか,2021).このように駿河湾では,大雨・台風に伴う洪水による混濁流の発生,それに伴う堆積物移動が多く起きている可能性が考えられ,洪水性混濁流の実観測・メカニズム解明に適した海域であるといえる.そこで,駿河湾において,洪水起源混濁流の実観測と発生・堆積物運搬機構の解明を目的とし,総合的な観測を開始した.本発表では,富士川沖を中心に駿河トラフに沿って行った,海洋地質学的調査(海底地形,底質分布,海底観察映像など)の結果と,今後の総合観測の展望を報告する.

     海底地形および後方散乱強度から,富士川沖は粗粒堆積物の分布を示す強反射面が南北方向に発達する様子が明瞭に確認され,水深約1400 mまで認められた.これらの反射面分布を基に,富士川河口を始点とし駿河トラフ沿いを南北方向に,表層堆積物(水深約110~2500 m,河口から約1~60 km)を採取した.海底観察映像および採取された試料から,ほぼすべての観測点で極表層は泥質堆積物からなる.その下位層は河口から約10 km(水深約1300 m)までは,主に中粒砂の砂質堆積物からなり,水深約1200 m以深ではサブコア(長さ平均約10 cm)の軟X線写真からラミナが認められる.その沖合(河口から約13 km,水深約1400 m)では,泥質堆積物からなるが砂質泥層を狭在し,軟X線写真からラミナの発達が確認される.岩相,粒度変化と合わせ,泥層・砂礫層の互層となっていることが認められ,これらはイベント性堆積物と通常時堆積物の違いを示しているものと推察された.また,河口から約7 km(水深約1000 m)までは,約数~数10 cmの円摩度の高い礫が確認される.これらの礫は,その礫種から主に富士川流域に分布する礫と推察される.さらに,2021年台風16号の通過後の調査では,河口から約7 km(水深約1075m)の海底で,河口域に分布するミズクサの一種が新鮮な状態で確認され,台風時の洪水によって運搬された可能性が考えられた.したがって,少なくとも富士川沖の約13 kmまでは,洪水などのイベントによって,堆積物を含む様々な物質が運搬されることが明らかになった.

     さらに沖合の湾口部(水深約2500 m,河口から60 km)では,表層堆積物および海底観察映像から,表層は含水率の高い泥質堆積物からなり,その下位に砂礫質堆積物が分布している.この含水率の高い表層の泥質堆積物から,運搬されてから時間が経過していない,または常に流動している場所であることが推察された.これらの堆積物は,海洋性プランクトンを多く含み,富士川沖堆積物(淡水プランクトン,砕屑物)とは明らかに組成が異なる.これらは,富士川河口を始点とした洪水性混濁流が,湾口方向へ流下するにしたがって,海域堆積物を取り込んで運搬した結果,または駿河湾内の別地点より運搬された可能性も推察されるが,現時点では不明である.

     今後,河口を出発した洪水起源混濁流がどのように堆積物を運搬し,堆積させるのか,そのメカニズムを明らかにすべく,台風前後の堆積物特徴・分布把握と共に,係留システム(流速計・セディメントトラップ・濁度計・カメラなど)を富士川沖から湾口へ向かう各水深に設置し,混濁流の実観測に取り組む.また,モーションセンサー内蔵の自己浮上式海底設置型混濁流観測装置の開発も進めている(中尾ほか,2022).今後、海洋地質学,物理学,化学,生物学などを総合的した混濁流観測と堆積物の分析に取り組む予定である.

     [引用文献]西田・池原(2016)海陸シームレス地質情報集,S-5. 馬塲ほか(2021)地震,73, 197-207. 中尾ほか(2022)JPGU2022,MIS16-P05.

  • 葉田野 希, 川野 律歩, 吉田 孝紀, 福地 亮介, 朝日 啓泰, 沢田 健
    セッションID: T11-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:諏訪盆地は,中部日本の山間に位置する構造性盆地である.この盆地を埋積する上部更新統は,約1.5~3.0 m/千年と早い堆積速度を示すことから[1, 2],短い時間スケールでの環境変動の記録媒体として期待できる.また,諏訪盆地は,冬に寒冷・乾燥化し,年間日照時間が長く,年較差と日較差の大きい内陸性気候に特徴づけられる.これより,諏訪盆地の堆積物は,気候変動,特に日射量の変動や乾燥・寒冷化に対して鋭敏に反応したことが期待できる.今回,諏訪盆地で得られた沖積堆積物コアを対象に,堆積学・古土壌学的記載を行うとともに,湖成泥質堆積物の主要元素組成を検討した.特に本発表では,最終氷期末~完新世の珪藻質泥・古土壌シーケンスに記録された数百年~数千年スケールでの湖水位の変動を報告する.

    コアの概要:本研究では,諏訪湖の南岸で得られた堆積物コア2本(ST2020コア,最深部の較正年代:約26.7 cal kyr BP;SK2021コア,最深部の較正年代:約20.2 cal kyr BP)を対象とする.両コアともに,掘削長30.0 mであり,礫,砂,泥,珪藻質泥,火山灰,泥炭から構成される.コアの年代―深度モデルは,植物片の放射性炭素年代(AMS14C)を用いて構築した.

    堆積システムと古土壌:粒度,堆積構造などの堆積学的特徴と根化石,集積粘土,粘土被膜などの古土壌学的特徴,TOC, TNをもとに,堆積ユニットを区分し,堆積システムを解釈した.掘削地点によって堆積システムの移行期に1~2 kyrの時差があるものの,両コアともに下位より,蛇行河川システム,沼沢地・湖システム,デルタシステムへと堆積システムが変化したことを示す.特に,両コアともに,約12.5 cal kyr BPから完新世にかけて,湖システムが卓越したことを示す.蛇行河川システムでは,砂礫層と砂層が優勢であり,B層の発達を証拠づける褐色系土色・集積粘土を伴う古土壌を複数挟在する.沼沢地・湖システムでは,珪藻質泥,泥炭層,泥層が卓越し,細根化石と粘土被膜を伴う古土壌を複数挟む.本システムの堆積ユニット上部(約7.0~5.7 cal kyr BP)は,珪藻質泥が卓越し,C/N 比が全層準の中で最も低く,古土壌を挟まないことから,最も深い湖の層相を表す.デルタシステムでは,礫層,砂層,泥炭層からなる上方粗粒化・厚層化・黒色化サクセッションに特徴づけられ,古土壌が発達する上部においては離水したことを示す.

    全岩化学組成:沼沢地・湖システムとデルタシステムの泥層から,10~15 cm間隔で泥質試料を採取し,全岩での主要元素組成分析を行った.SiO2濃度は,約13.9~2.2 cal kyr BPにおいて数百~千年スケールで増減し,古土壌で低く珪藻質泥で高い.珪藻質泥におけるSiO2濃度は,現世の諏訪湖流入河川の懸濁泥[3]と比べても高い値であり,珪藻由来であることを示す.

    議論:湖システムの泥質堆積物に挟まれる古土壌は,陸上での風化曝露を示し,短期間での湖水位の低下イベントを意味すると考えられる.高SiO2濃度を示す珪藻質泥と古土壌の互層は,約12.5 cal kyr BP以降において,湖水面が短い時間スケールで上下変動していたことを示す.特に,湖水面が低下したと考えられる約9.8 cal kyr BP,約8.5~8.0 cal kyr BP,約7.8 cal kyr BPは,諏訪盆地北西縁をはしる岡谷断層の活動時期[4, 5]やボンド・イベント[6]と一致する.一方,深い湖の層相を示す約7.0~5.7 cal kyr BPは,完新世中期の最温暖期[7, 8]に相当する.諏訪盆地埋積物における珪藻質泥・古土壌シーケンスが示す湖水面の変動は,北半球規模の広域的な気候変動や断層活動に伴う局地的な地形変動によって引き起こされた可能性がある.

    引用文献:[1]山崎ほか, 1988, 科学技術庁研究開発局, pp. 129–137. [2]安間ほか, 1990, 地質学論集 36, 179–194. [3]葉田野, 印刷中, 長野県環境保全研究所報告 18. [4]東郷ほか, 1988, 活断層研究 5, 3–10. [5]山崎ほか, 1991, 科学技術庁研究開発局, pp. 69–79. [6]Bond et al., 1993, Nature 365, 143–147. [7]Xiao et al., 2004, Quaternary Science Reviews 23, 1669–1679. [8]Park et al., 2019, Scientific Reports 9, 10806.

  • 福地 亮介, 沢田 健, 朝日 啓泰, 葉田野 希
    セッションID: T11-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    [はじめに]近年、湖沼において古環境・古気候復元が広く行われているが、年縞堆積物などの層相が比較的均質の泥・シルト層がおもに研究されている。一方で湖沼は湖水面積の拡大縮小に応じて河川域や湿原などの環境に遷移しやすく、その堆積相・堆積環境が大きく変化する。そのような多様で非定常的な堆積物から古環境・古気候を復元することは難しいながらも、重要な情報源になり得る。さらに多様な堆積過程をとおした環境情報が記録されている可能性もある。本研究では長野県諏訪湖で採取された堆積物コアを用いて、多様な堆積相に対応したバイオマーカー分析を行い、古環境・古気候変動の復元および堆積環境の評価を試みた。

    [試料と方法]本研究では2020年に諏訪湖湖岸域で採取された堆積物コアST2020を用いた。コアの年代は14C年代測定により決定し、コア最下部が約2.7万年前である。コア試料は1~2cm層厚で採取し、凍結乾燥後に外側を取り除いて粉末にした。粉末試料から抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MSを用いてバイオマーカー分析を行った。コアST2020では堆積学的な調査によって下層から氾濫原相、沼沢相、湖成相、デルタ相など堆積環境が大きく変化したことが推定されている(葉田野ほか, 2022)。

    [結果と考察]堆積物試料からは、植物ワックス由来の長鎖n-アルカン、菌類起源と考えられるペリレン、植物テルペノイドであるα-アミリン、β-アミリン(被子植物起源)、デヒドロアビエチン酸(DAA; 針葉樹起源)が検出された。n-アルカン奇数鎖優位指標(CPI)は湖成相において低い値、氾濫原相、デルタ相において高い値をとった。特に葉田野ほか (2022)によって古土壌の形成が確認されている層では顕著に低い値となった。古土壌層では一時的に湖水位が下がり、地表が露出したことで土壌形成作用を受けた。そのため、CPIが顕著に低下したのだと考えられる。TOCあたりペリレン量は湖成相において低い値をとり、氾濫原相、デルタ相においてはより高い値をとった。後者の堆積環境では周辺環境からの堆積物の運搬が盛んであり、陸上起源の菌類の寄与率が高くなったのだと考えられる。植物テルペノイドの濃度は下層の沼沢相、氾濫原相、湖成相において低い値をとり、デルタの拡大期に顕著に高い値をとった。デルタの拡大期に砕屑物の流入が増大するとともに、後背地からの植物由来成分の運搬が促進されたのだと考えられる。DAAとβ-アミリンの比を針葉樹の寄与率の指標としたが、DAA/β-アミリン比は湖沼相において低い値をとり、1.8ka、1.3ka、4kaにおいて高い値をとった。これらの高い値を示した時期は諏訪湖や集水域である霧ヶ峰での花粉分析の結果(安間ほか 1990, Yoshida et al., 2016)でマツ属などの針葉樹花粉が多産する時期と一致した。DAA/β-アミリン比の変動は堆積環境の変化よりも古植生変動を反映していると考えられる。その他のバイオマーカーごとに堆積環境による変動には差異があったが、それらの差異は堆積過程や供給源変化の解明に有用であると考えられる。

    [引用文献]

    葉田野ほか (2022) JpGU2022

    安間ほか (1990) 地質学論集, 36, 179-194

    Yoshida, A. et al., (2016) Vegetation History and Archaeobotany, 25, 45-55

  • 岡崎 浩子, 中里 裕臣, 田村 亨
    セッションID: T11-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    関東平野には最終間氷期(海洋酸素同位体ステージ(MIS)5e)の海成段丘が広く分布し,その標高分布から最終間氷期以降の段丘を形成した全体的隆起と,地域的な隆起域や沈降域の存在が示唆されている(貝塚,1987).これらの地形面の対比には火山灰層序が用いられた(町田,1971;杉原,1970など).しかしながら関東平野東縁に位置する千葉県飯岡台地や茨城県鹿島台地や行方台地などでは指標テフラの認定が十分ではなく,その対比は地形面の連続性によるところが大きかった.近年,新たに火山灰層序とOSL年代値を組み合わせた層序の再検討から当該地域には,MIS5cと5aの海成層が分布することが明らかになった(中里ほか,2016;田村ほか, 2021).飯岡台地では,段丘面は2つの海水準変動の高海水準期から低海水準期にかけて発達した海岸システムの前進からなり,これにより当地域のMIS5c以降の隆起速度が求められた(Okazaki et al., 2022).鹿島台地や行方台地においても同様に外浜―海浜,砂丘の堆積物が認められた(図).本報告ではそれぞれの台地の堆積相の相違からこれらの海成段丘の形成過程について考察する.

    引用文献

    貝塚爽平, 1987, 地学雑誌, 96, 51-68.町田 洋, 1971, 第四紀研究,10, 1-20.中里裕臣・奈良正和・岡崎浩子・水野清秀・伊藤久敏, 2016, JpGU2016大会講演要旨, HQR15-P08.Okazaki H., M. Nara, H. Nakazato, A. Furusawa, K. Ito, T. Tamura, 2022, Quaternary Science Reviews, 285, 107507.杉原重夫, 1970, 地理学評論, 43, 703−718.田村亨・岡崎浩子・中里裕臣・納谷友規・中島 礼, 2021, 日本堆積学会2021年大会, オンライン.

  • 中嶋 健
    セッションID: T11-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    混濁流によるサイクリックステップのうち、海底チャネル自然堤防上の細粒サイクリックステップ(セディメントウェーブ)の内部堆積構造については、富山深海長谷自然堤防上のセディメントウェーブのコアを用いてタービダイト単層の層厚・堆積構造・粒度の詳細な側方変化が報告されている(Nakajima and Satoh, 2001; Sedimentology, 48, 435-463)。一方、ファンデルタ前面斜面や海底谷底の粗粒サイクリックステップでは、海底でのコアリングが難しいため、その内部構造の観察については地層の露頭観察によるしかないが、地層堆積当時の海底地形や堆積環境について確度を持って復元することは通常難しい。本発表では、富山深海長谷最初期の礫質ファンデルタ堆積物中に見いだされた礫質サイクリックステップの内部堆積構造の特徴について報告する。富山県八尾地域には、リフトの堆積物である八尾層群(17.5-15.2 Ma)を不整合で覆い、主として浅海成砂岩からなる天狗山層(ca, 15 Ma)が分布する。天狗山層下部は和田川橋礫岩部層と呼ばれる礫質ファンデルタのデルタフロントの堆積物からなる(中嶋ほか、2019; 地質学雑誌, 125, 483-516)。八尾地域の南端は、リフト期には富山トラフリフトの最南端の東西方向北落ちの境界断層付近に位置していたと考えられる(中嶋ほか、2021; 地質学雑誌, 127, 165-188)。和田川橋礫岩部層は15 Ma付近のリフティングの終了と隆起テクトニクスへの転換により、富山トラフが南端から埋め戻され始めた頃のリフト境界断層沿いの急斜面に形成されたファンデルタのデルタフロント堆積物で、現在の黒部川扇状地前面海底斜面と同様の地形・堆積環境が推定される。観察を行った和田川橋礫岩部層の露頭は、層厚0.2-2 mの礫支持中礫岩と層厚0.4 m以下の砂岩との互層である。この露頭には次の5種類の堆積相が認められた。G1:バックセット礫岩:層厚2 m以上の塊状礫支持中礫岩が上流側に傾斜するバックセット面で下位の砂岩を0.5 m程度削り込む。層厚20 cmの小規模なものもある。G2:平行層理(塊状)礫岩:層厚0.15-1 mの塊状礫支持中礫岩で、露頭規模では層厚変化が小さく、下位層の浸食も軽微である。北向きの古流向を示す礫のインブリケーションを示すことがある。S1:バックセット砂岩:層厚15-40 cmの砂岩層で、上流側に傾斜するバックセット葉理を持つ。上位に平行層理砂岩(S2)を伴うことが多い。S2:平行層理砂岩:層厚20-40 cmの細粒〜粗粒砂岩で、平行層理が発達するTb砂岩。多くはバックセット砂岩S1上に重なる。側方に小規模なバックセット礫岩G1に移化し、下位層を浸食することがある。S3:フォアセット砂岩:礫岩を1 m程度削り込んだScourの上流側斜面に、下流側に傾斜する平板型斜交葉理の発達する砂岩で、3 cm程度の層厚の葉理の中で細礫岩から中粒砂岩へと級化する。サイクリックステップの水路実験結果(Ono et al. 2021; Sedimentology, 68, 1328-1357)や既存の堆積相モデル(Postma and Cartigny, 2014; Geology, 42, 987-990;Postma et al. 2014; Sedimentology, 61, 2268-2290)と比較すると、バックセット礫岩G1及びバックセット砂岩S1は、hydraulic jumpの上流進行によりサイクリックステップのstoss sideに堆積したバックセット構造と解釈され、フォアセット砂岩S3はhydraulic jumpによるScourの上流側斜面にできた下流傾斜の葉理と解釈することができる。平行層理砂岩S2は、バックセット砂岩S1に累重し、バックセット礫岩G1に側方相変化することから、サイクリックステップのクレストからlee sideでsuspensionまたはtraction carpetにより堆積したと推定される。平行層理(塊状)礫岩G1は、同様にサイクリックステップのクレストからlee sideで主にtractionにより堆積したものであろう。和田川橋礫岩部層で観察された粗粒(礫質)サイクリックステップは、黒部川扇状地のファンデルタフロントの水深10m以深の谷筋に観察された波長20-40 mのベッドフォーム(斎藤、2001; 月刊地球号外、32, 56-60)と同様の堆積環境(礫床、急傾斜〜10°)で堆積したと推定され、礫質ファンデルタのデルタフロントに発達するサイクリックステップの内部堆積構造を代表していると考えられる。

  • 横川 美和, 永野 蓮, 松波 和真, 福岡 篤生
    セッションID: T11-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    混濁流によってデルタ斜面や海底谷近辺にセディメントウェーブが形成されることが知られている.富山深海長谷では,自然堤防上に混濁流の溢れ出しによって形成されたと考えられるセディメントウェーブがあり,これを構成するタービダイトの最粗部の粒度を比較すると,場所によって上流側斜面の粒度が下流側斜面に比べて粗い場合もあれば,逆の傾向になることもある(Nakajima & Satoh, 2001).また,サージ的混濁流によってサイクリックステップを形成する実験(藤田ほか,2019)でも,条件により上流側と下流側の粒度の大小が変わった.混濁流によるサイクリックステップの形成過程やその粒度分布については,実験例が少なく,詳細はわかっていないことが多い.そこで本研究では実験水路でサージ的混濁流によってサイクリックステップを形成し,その粒度分布を詳細に調べた.

     本実験では,長さ7.6m,幅0.3m,高さ1.2mの水槽の中に,長さ7m,幅8cm,高さ50cmの水路を勾配7°で設置した.また,サイクリップステップが形成されやすいようにアクリル板で上流端に傾斜7°の斜面(長さ180cm)を設置した.塩水(密度1.16g/cm3)と2種類のプラスチック粒子を重量比20:1:1の割合で自動攪拌機を用いて混ぜ合わせてヘッドタンクから供給し,混濁流を発生させた.プラスチック粒子の粒度範囲は,粒径75-150µmと180-325µmである. 1回のサージは3秒間で,流量約17.7Lを141回流した.その結果,2つのステップが形成された.上流側のステップの波形勾配は0.06であった.

     141回流した後の堆積物表面では中央粒径は下流側に向かうほど大きくなる傾向が見られた.また,上流側のステップ1では上流側斜面より下流側斜面の方が粗い傾向がある一方で,下流端近くに位置するステップ2では上流側斜面の方が粗い傾向がある.初期状態での混濁流中の浮遊砂の濃度と粒度を上流端から400cm,590cm地点で調べた結果,混濁流の底面付近の浮遊砂の中央粒径は,ヘッドでは400cm,590cm地点ともにおよそ230μm,ボディーでは400cm付近でおよそ220μm,590cm付近でおよそ160μmであった.堆積物表面の中央粒径と比較すると,上流端から400cm付近ではボディーの浮遊砂の中央粒径と近く,560cm付近ではヘッドの底面付近の浮遊砂の中央粒径と近かった.

     いずれのステップでも上流側斜面で流れの厚さが増すが,下流側に位置するステップ2の方が,流れの厚さの増加度合いが大きく,増加と共に周囲水の巻き込みがみられるなどヘッドの減速が示唆される.堆積物表面や混濁流中の浮遊砂の粒度分析結果を合わせて考えると,上流側のステップ1ではヘッドの流速が大きくヘッドに含まれる浮遊砂はバイパスしてボディーから堆積が起きたのに対し,下流側のステップ2では,ヘッドの流速が落ちてヘッドの浮遊砂から堆積が起きたと推定される.水路全体の下流粗粒化の傾向も,このような上流側でのヘッドの浮遊砂のバイパスにより説明できると考えられる.

     引用文献

    藤田和典ほか, 2019, 日本地質学会第126年学術大会(2019年山口大会)講演要旨.

    Nakajima, T., and Satoh, M., 2001, Sedimentology, 48, 435-463.

  • 武藤 鉄司, 王 俊輝
    セッションID: T11-O-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    海水準上昇のもとで成長過程にある下流域沖積系にはデルタ堆積作用を持続することのできる面積の限界Acrtが存在する.海水準上昇開始前までにAcrtを十分に超えている沖積-デルタの場合,上昇開始と同時に非デルタ性海進沖積系に遷移する.これらはオート層序学の基礎的知見であるが(Muto, Steel & Swenson, 2007 JSR),この海進のもとでの沖積系を支配するモルフォダイナミクスについて.理論的考察をさらに進め,水槽実験で検証してみた.

     相対的海水準(もしくは基準面)の上昇速度Rblr,上流側からの堆積物供給速度Qs(体積/時間)とすると,オート層序学的長さスケールはΛ3D = (Qs/Rblr)1/2で与えられる.AcrtはΛ3Dの2乗におおよそ等しい(Acrt ~ Λ3D2)ことから,下流域沖積系の面積AをΛ3D2で無次元化(A* = A3D2)して扱えば,同様に,Acrt* = Acrt3D2 ~1となる.海水準上昇に先立って下流域沖積系がAcrtを大幅に超えてデルタを成長させていたならば(A* >>1),上昇開始とともに非デルタ性海進が必然的に起こる.この海進のもとで沖積系は縮小し続け,その面積はAcrtへ漸近していく(A* → 1).Qsが時間的に不変であるならば,沖積系全体の埋積速度Ragg_overallA反比例の関係にある.Ragg_overallRblrで無次元化したRagg_overall*(= Ragg_overall/Rblr)はA*-1に等しい.縮小し続ける沖積系は,最終的に,A* (~ 1)とRagg_overall* (~ 1)が変化しなくなるモルフォダイナミクス上の平衡状態に到達する.沖積系面積の一部を占めるに過ぎない沖積チャネルの埋積速度Ragg_channelRagg_overallよりも格段に大きな値をとりうる.Ragg_overall*が1へ漸近する過程で,Ragg_channel*は1を超えて増大しうる.すなわち,沖積チャネルは氾濫やアバルジョンを生じやすくなり,一層不安定化する.

     長崎大学のマルジ系実験水槽を使用して,全8ランの実験シリーズを実行した.この実験シリーズでは,基盤地形,初期水深,初期堆積地形(静止水位のもとで生成したデルタ)のサイズAo(>> Λ3D2),堆積試料,Qs,水流量Qwを,全ランを通じて固定し,水位上昇速度Rblrだけをラン毎に変えた.実験結果およびチャネルマッピングを含む解析結果は次のように要約される.(1)水位上昇開始とともに,それまでのデルタ性海退が非デルタ性海進に転換した.(2)海進の間,沖積系は縮小し続け,また埋積速度Ragg_overallは増加し続け,最終的にモルフォダイナミクス上の平衡が実現した(A* ~ 1, Ragg_overall* ~1).(3)沖積チャネルは,海進早期においては埋積速度が小さく,側方へも移動せず,安定した状態を生じやすい (A* >> 1, Ragg_channel* << 1).しかし,海進後期においては埋積速度が大きく,頻繁に側方移動するチャネルがオートステップ(Muto & Steel, 2001 Geology)を発達させる傾向を強める(A* ~ 1, Ragg_channel* > 1 or >> 1).(4)より大きなΛ3Dのもとでは,チャネル安定期からチャネル不安定期への移行がより早いタイミングで実現しやすい.(5)モルフォダイナミクス上の平衡が実現するのに要する時間はAo1/2に比例する.

     オート層序学理論とそれを裏付ける実験結果から,天然デルタの存亡の理解に関わるヒントが得られた.後氷期海進の末期になるまでデルタが存在しなかった(Stanley & Warne, 1994 Science) のは,それに先立つ低海水準期のデルタが陸棚外縁付近まで延伸し,その時の沖積系面積がΛ3D2を大幅に超えていたからであろう(e.g., Wang, Tamura & Muto, 2019 Geology).その後の海水準上昇の開始に伴い非デルタ性海進が起こり,沖積系の面積はΛ3D2へ向けて縮小したはずである.現世デルタを造っている沖積系は低海水準期のそれより遥かに小さいが,それでも現下の海水準上昇とその加速傾向に鑑みれば厳しい未来が待っているかもしれない.IPCC WG1(2021)AR6 SPMの中で示されているCO2排出量が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)を想定するなら,急激な海水準上昇(e.g., Rblr = 0.57−2.4 cm/年)のもと,西暦2300年までに現世デルタの大半が非デルタ性海進系に転換している可能性を否定できない.

  • 高野 修, 徳橋 秀一, 中嶋 健
    セッションID: T11-O-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    経緯・目的:1980年代後半以降,海底扇状地の形態タイプに関する議論が盛んに行われ,砂質ラジアルファンや泥質チャネルレビーシステムなどの様々なバリエーションが存在することが明らかにされてきた(例えばReading and Richards, 1994)。これらの海底扇状地形態タイプは,各々の海底扇状地の生成から消滅までの長期過程において,全く変化しないのであろうか。シーケンス層序学の議論の中では,相対的海水準変動によって形態変化が起こりうることがモデル化されているが(例えばbasin floor fan→slope fan;Posamentier et al., 1988など),相対的海水準変動サイクルよりさらに長い地質学的期間(例えば複数の累層形成期間)においては,海底扇状地の形態タイプになんらかの変化傾向があるのであろうか。あるとしたら,複数の海底扇状地に共通な変化傾向を示すのであろうか。それとも,地質セッティングに支配されて,ケースバイケースの変化をするのであろうか。さらに,これらの変化傾向は何が要因となるのであろうか。本研究では,これら諸点の解明を目的として地質時代の海底扇状地事例の検討を行った。

    検討手法:本研究では,ある地域における海底扇状地システムの発生から消滅まで,あるいは現世までのある程度長期間(200万年〜1,000万年スケール)にわたって発達した海底扇状地群を複数選定し,形態タイプの長期変化傾向を検討した。検討を行った海底扇状地は,日高前縁盆地海底扇状地群(中新世〜更新世),下北沖海底扇状地(更新世),富山深海長谷(中新世〜現世),東海沖〜熊野灘海底扇状地群(鮮新世〜更新世),清澄〜安野海底扇状地(鮮新世),新潟堆積盆田麦川トラフ充填タービダイト(鮮新世),新潟堆積盆難波山海底扇状地(中新世),新潟堆積盆北蒲原海底扇状地群(鮮新〜更新世),メキシコ湾岸海底扇状地群(暁新世)である。これらの形状変化傾向把握の後,外的要因,内的要因両面の観点から,形態変化の要因の考察を行った。

    海底扇状地形態の定向変化傾向:形態タイプの変化の検討の結果,形成発展過程の前期には砂質ラジアルファンタイプの形状を示し,後期には泥質チャネルレビーシステム(場合によっては+ターミナルファン)へと移行する傾向を示す事例が多く見られることが明らかになった。さらに,形状変化に伴って,堆積領域が先へ前進する傾向が見られた。また,最も初期には,粗粒砕屑物からなる斜面エプロンタイプの海底扇状地が発達する場合も見られる。堆積同時性褶曲によって堆積地形が規制されるトラフ充填タイプでは,初期的には砂質で,徐々に泥質となり,最後にはチャネルレビーシステム主体となる傾向が見られた。

    変化傾向の外的内的要因:海底扇状地の発生〜発展過程において,初期的には後背地のテクトニクス等による供給ポテンシャルの高まりに伴って海底扇状地の発達が始まり,前半は砕屑物供給量が豊富で粗粒であったのに対して,後期には供給量の減少と泥質(細粒)化が起こることにより,砂質ラジアルファン→泥質チャネルレビーシステムへと変化したことが考えられる。これは,後背地のテクトニクスと侵食運搬ポテンシャルが徐々に弱まる「tectonic waning過程」を反映した外的要因による変化である。一方,海底扇状地の堆積が進行することによって,内的要因による形態変化が起こることも考えられる。斜面直下に海底扇状地タービダイトが累積することによってウェッジ状累積やプログラデーションが起こり,これによって堆積面の傾斜が徐々に増加し,海底扇状地が開き始めるtransition point (Posamentier and Walker, 2006)が徐々に沖合側にシフトし,先端部(ターミナルファン部分)を除く海底扇状地の多くの部分がチャネルレビーシステム主体となるプロセスが考えられる。実際の個々のケースでは,外的要因による変化と内的要因による変化の組み合わせ(比重はケースバイケース)によって変化の程度や速度が決定されると考えられる。

    <文献> Posamentier et al., 1988, SEPM Special Publication no. 42, 109-124;Posamentier, H. and Walker, R.G., 2006, SEPM Special Publication, no. 84, 397-520; Reading, H.G. and Richards, M.T., 1994, AAPG Bull., 78, 792-822.

  • 沢田 健, 朝日 啓泰
    セッションID: T11-O-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    イベント堆積層、特に洪水などにより形成されたタービダイトについて単層単位で化学データを得て、その堆積過程や堆積後の初期続成作用を評価する研究が近年になって行われている。Hage et al.(2020)では現世から更新世のフィヨルド沿岸で堆積したタービダイトシーケンスについて、炭素安定同位体比(δ13C)と放射性炭素同位体比(14C)をトレーサーとした単層単位のデータプロファイルを作成し、陸源有機物を多く含む混濁流において堆積時に有機物の密度により活発な分別作用が起こる状態を表示し、有機物組成がタービダイトシーケンス内で大きく多様化する結果を報告した。このようなシーケンス内の(単層単位の)化学データをシーケンスで表現して堆積メカニズムに関連した現象を解析・評価することを、演者らは’化学堆積学シーケンス( Chemosedimentary sequence)’ と呼ぶことを提案する。そして、この化学堆積学シーケンス解析において、バイオマーカーデータが、特に新第三紀以前のタービダイトシーケンスには有用であることを提案する。本講演では、北海道中央部に分布する中新統川端層のタービダイトシーケンスでの事例を紹介する。

    川端層からはタービダイト試料を3シーケンス採取した。堆積構造はBoumaシーケンスに類似し、下部からmassiveな中粒-細粒砂部、平行葉理部、タービダイト性および半遠洋性泥岩部で構成される。有機物濃集部は主に細粒砂で構成され、平行葉理部に相当するユニットで観察される。川端層のタービダイト内の有機分子(バイオマーカー)濃度は、有機物濃集部のみで目立って高い値を示し、陸源有機物は起源となる植物の部位や粒子の密度によらず有機物濃集部に顕著な濃集傾向が見られた。また、シーケンス内の有機物組成における陸起源/海起源比は有機物濃集部で最大となり、その層から離れるに従い海成起源有機物の寄与率が増加し、下部砂岩と泥岩部で最も低い値を示した。この傾向は堆積場の酸化還元度や陸源有機物供給量を示すプリスタン/フィタン比(Pr/Ph)にも見られる。これらの結果から、下部砂岩では混濁流に削剥された海底堆積物粒子の混入と、混濁流本体からの陸源有機物などの低密度粒子の排出によって相対的に海洋成分の寄与が高くなったと考えられる。混濁流流下後に巻き上げられた有機物が徐々に堆積し、特に有機物濃集部で陸源有機物が集中して堆積する。その後に半遠洋性の堆積物がゆっくりと沈降・堆積することで、上方へと向かうにつれ海洋成分が増加すると考えられる。これらの混濁流中の有機物分別は主に有機物粒子の粒径によるものと考えられる。

    引用文献

    Hage S. et al., 2020. Geology. 48, 882-887.

  • 野口 貴德, 千代延 俊, 荒戸 裕之, 佐藤 宏大, 間所 洋和, 永吉 武志
    セッションID: T11-O-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

     秋田県西部に位置する男鹿半島には上部新生界が広く分布し,露頭の連続性も良いことから日本の代表的な上部新生界の標準層序として,多くの研究がなされてきた.本研究対象である男鹿市生鼻崎地域には砂岩,シルト岩,及び泥岩の互層が発達した北浦層の上部が海食崖を形成し大露頭を成している(鹿野ほか,2011).また,この露頭を対象に千代延ほか(2021)は北浦層砂岩泥岩互層における堆積物の地質セッティング,及び砂岩貯留岩性状を調査し,露頭画像と合わせた機械学習によるモデル化技術を検討した.その中では,単層スケールでの不均質性を画像上で明らかにするため,北浦層の砂岩部の色の違いに着目し,岩色と粒径分布及び孔隙率に相関があると認めた.ただ一方で北浦層砂岩部の色と孔隙率の関係は定性的な解釈にとどまり,定量的に評価しモデル化するにはより多くの測定点を加える必要があった.そこで本研究では,測定点の記録を増加し,砂岩層の岩色や岩相の違いと孔隙率,淘汰度の関係性から砂岩の不均質性を抽出する目的で検討を行った.

    【研究手法】

     本研究では露頭調査として,対象とした岩相の柱状図を作成するとともに,幅6 m に渡り露頭のスケッチを行った.併せて砂岩単層を1 m 四方に区切り,定方位試料を合計101個採取した.さらに,調査対象層の孔隙率の分布を明らかにする目的で合計30枚薄片を作成し,定方位試料の鉛直方向面を観察した.孔隙率は撮像した検鏡画像から画像編集ソフトを用いて計測した.

    【結果】

     調査対象とした砂岩の単層は砂岩優勢砂岩シルト岩互層中の中粒~極細粒の砂岩である.単層の上部には平行葉理が見られ,炭質物も多く認められた.砂岩の岩色は,赤褐色,褐色,灰色を呈し,この3種類に大きく区分することが可能である.その分布は褐色の割合が最も大きく,赤褐色及び灰色の割合はほぼ同程度であった.また灰色の部分に生物擾乱が顕著に発達している.

     砂岩の薄片の観察からは,全岩相で石英と有色鉱物が多く,わずかに斜長石も認められた.粒子の円磨度を見ると,褐色,灰色,赤褐色を呈する岩相のいずれも亜角礫~円礫であった.有色鉱物の量は,赤褐色が最も多く,褐色,灰色と減少した.孔隙率の測定結果からは,赤褐色の平均孔隙率は15.9%,中央値は15.8%で,褐色の平均孔隙率は 16.8%,中央値は16.6%,灰色の平均孔隙率は19.0%,中央値は19.1%であった.孔隙径やその連続性に注目したところ,赤褐色の孔隙径は約0.2 ~0.3 mmであり,連続性も乏しい.一方の褐色及び灰色の孔隙径は約0.5 ~0.6 mmであり,灰色の岩相で孔隙径の大きさに差違が認められた.孔隙を埋めるように存在する粘土鉱物も観察でき,赤褐色で最も多く認められた.また,石英や斜長石などの鉱物の大きさは灰色が最も大きく,次いで赤褐色,褐色と小さくなる.

    【考察および結論】

     以上の結果より,中粒~極細粒砂岩の単層内で岩色の違いにより粒度の違いが認められ,岩色が砂岩の不均質性を表していることが明らかとなった.また,不均質性をもたらす要因として,粒度の違いだけでなく,孔隙率,孔隙径及びその形状も重要となることが示された.孔隙率や形状の変化は,孔隙を二次的に埋める粘土鉱物に大きく影響を受けていることが指摘できる.本調査より砂岩の不均質性は,粒度の違いだけでなく,孔隙率,孔隙径及びその形状の違いによることが明らかにできた.この結果は砂岩貯留岩の不均質性をモデル化する上で重要であり,今後の貯留層モデル構築への基礎データとなることが期待できる.

    <引用文献>千代延ほか,2021:JAPT講演要旨,鹿野ほか,2011:地質図幅

  • 松本 良, 武内 里香, 中川 洋, 佐藤 時幸, 井龍 康文, 松田 博貴, 小松原 純子, 佐藤 道夫, 山本 聡
    セッションID: T11-O-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沖縄本島の中部から南部に分布する陸棚斜面堆積物・島尻層群とそれを覆う浅海性知念層の関係は時間間隙をともなう傾斜不整合であるとする研究が少なくないが、知念半島久手堅に出現した大規模な露頭(うりずん露頭)で観察される両者の関係、微化石層序、底生・浮遊性有孔虫の群集解析は、両者が時間間隙を持たず急激に層相変化したものであることを示唆する。急激な浅海化にともない上部陸棚の石灰質砂層が重力流・スランプ堆積物として下部陸棚斜面(〜1000メートル)へ供給されて知念層が始まったと言える。2Ma頃とされる島尻層群新里層最上部〜知念層基底付近にはドロマイトからなる炭酸塩コンクリーションが多産する。ドロマイト含有量は75~85wt%と高く、孔隙率の高い海底直下での生成と考えられる。コンクリーションの中心付近に中空パイプやその痕跡が見られることから、メタンガスやメタン含有流体が生成に関わっていた可能性が高い。ドロマイトの炭素・酸素同位体組成はそれぞれ、-31.56〜-23.77‰VPDBと+3.89〜+2.25‰VPDBであり、同一のコンクリーションでは外縁へ向かってd13Cは重くなり、d18Oは軽くなるという傾向を示す。天然ガス探査掘削(沖縄県、2014)によると島尻層群のガス(メタン)の炭素同位体組成は-60‰から-70‰である。コンクリーションの炭酸は、堆積物中のメタン由来炭酸(-60‰から-70‰)と間隙水(海水)のDIC(〜0‰)に由来し、ドロマイト・コンクリーション(d13C = -31.56 〜 -23.77‰)はその炭素の約40%を島尻層群のメタンに、残りは海水のDICに由来すると見積もられる。コンクリーション中のd13C値のゾーニングから、メタン由来炭酸の寄与率はコンクリーション形成の初期ほど高かったことがわかる。堆積物中を海底へ向かって拡散・流動するメタンは海底付近で海水由来の硫酸により酸化され炭酸を生成(嫌気的メタン酸化反応、AOM)して炭酸塩鉱物を形成する。この時海水由来硫酸SO42- は還元されパイライトとして沈澱、中空パイプとその周辺にはパイライト密集帯が認められる。流動・拡散するメタンにより中空パイプの周辺からコンクリーションの形成が始まり、メタン供給が減少する生成の後期には海水DIC由来の炭酸の寄与率が増加したと解釈される。コンクリーション中のd18Oは、中心部の方が平均的に約0.6‰重い。これを生成温度の違いとすると、内部は14℃、外縁は16℃と2℃の温度差となる。埋没の進行による地温の増加を反映したとすると、100メートル以上の埋没が必要となり、海底面直下での生成という説明と矛盾する。新里層〜知念層の堆積場はその境界付近で陸棚斜面の下部から上部へと急激に浅化(中川 , 2002私信; Matsumoto et al.,2002)しており、深層水温度も上昇したと考えられる。現在の沖縄近海の水温は水深500メートルで14℃、300メートルで16℃であり、2Ma 頃の浅海化がドロマイトのd18Oを軽くした要因の一つであったと言えよう。沖縄南東沖合、水深1000〜2000メートルの前弧海盆の堆積物中にはメタンハイドレートの分布を示すBSR (Bottom Simulating Reflector, 海底擬似反射面)が確認されている(林ほか、2010)。一方、周辺の水温プロファイルから沖縄周辺海域でメタンハイドレートが安定に存在しうる上限深度は600メートルである。従って、現在の沖縄南東沖合では、水深1000〜2000メートルの前弧海盆から斜面を這い上がり水深600メートル付近の堆積物中にまでハイドレートが分布している可能性がある。島尻層群新里層の堆積盆は島棚から前弧海盆へ至る斜面上(500〜1000メートル)に発達していたと推定され、新里層のシルト中にはハイドレート集積帯が分布していた可能性が高い。堆積場の浅化(“知念変動”)による温度・圧力の変化を反映してメタンハイドレート分布域は沖合―陸棚下部へシフトする。新里層はハイドレート安定領域から外れ、新里層に発達していたメタンハイドレートは分解し大量のメタンガス(d13C =-60‰から-70‰)を堆積物に放出・供給したと考えられる。一方、ハイドレート中の水のd18Oは周辺の水より約3‰重いことが知られている(Matsumoto, 2000)。コンクリーション生成初期のd18Oが重いのは、深層の低水温だけでなく、メタンハイドレート由来水の影響もあったと考えられよう。新里層最上部と知念層の基底部に見られるドロマイト・コンクリーションは“知念変動”における堆積盆の急激な浅化を引き金とするメタンハイドレートの分解、メタンフラックスの増大を反映したものと結論づけられる。

  • 村田 彬, 加藤 大和, 狩野 彰宏
    セッションID: T11-O-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    石灰岩地帯の河川で堆積するトゥファは炭酸カルシウムを主成分とし、年縞を持つことから、高解像度の古気候記録媒体として期待されている(Kano et al., 2003; Kawai et al., 2006)。しかし、河川で発達するトゥファを対象とした研究では、トゥファの堆積に伴う流路変化によって記録が数十年を超えず、断続的になるという問題点が指摘されていた。一方で、滝から流れ落ちた水によって同じ地点でマウンド状に形成されるカスケード型トゥファは、石筍のように長期間かつ連続的な記録を保持すると期待される。

    本研究では、鹿児島県徳之島の小原海岸に広く発達するカスケード型トゥファを対象とした。連続堆積が期待できるサンプルを2地点から採取し、内部に形成された年縞を詳細に観察することで堆積期間を217年(Site 2, 長さ20 cm)、192年(Site 3, 長さ50 cm)であると決定した。その上で、酸素・炭素同位体分析を行った。

    また、小原海岸から北東1 kmほどに位置する小島鍾乳洞からは長さ15 cmの石筍を採取した。内部に発達する年縞とU-Th年代から、約140年間の記録を持つことが確認された。

    トゥファの酸素同位体比は2地点で一致した変動を示し、約20年の周期性を持っていた。また、石筍とトゥファの酸素同位体比は変動パターンが異なり、石筍の方が明らかに高い値を示した。これは、洞窟内の気温が外気温に比べて一年を通した変化が小さく、特に夏季の気温が低いことを反映している。今後、雨水記録や継続的なデータ採取、凝集同位体比の活用などから詳細な古気候の解釈へとつなげていく。

    Kano, A., Matsuoka, J., Kojo, T., & Fujii, H. (2003). Origin of annual laminations in tufa deposits, southwest Japan. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 191(2), 243–262. https://doi.org/10.1016/0031-0182(02)00717-4

    Kawai, T., Kano, A., Matsuoka, J., & Ihara, T. (2006). Seasonal variation in water chemistry and depositional processes in a tufa-bearing stream in SW-Japan, based on 5 years of monthly observations. Chemical Geology, 232(1–2), 33–53. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2006.02.011

  • 狩野 彰宏, 加藤 大和, 村田 彬, 柏木 健司
    セッションID: T11-O-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    石筍の酸素同位体記録は後期更新世以降の陸域古気候記録として極めて重要である。特に,2000年代以降に中国から報告された過去60万年間の記録は世界的標準として認知されている。

    原理的に酸素同位体比は方解石の形成温度と環境水の酸素同位体比の2つの要素に依存するが,これまで報告されてきた石筍記録の多くは環境水すなわち雨水の酸素同位体比への依存度が高く,降水現象を反映していると解釈されてきた。中国の記録では夏の降水強度を示すと考えられ,その解釈は「強い雨ほど酸素同位体比が低くなる」という量的効果との整合性で補強された。

    中国から10年遅れて,日本産の石筍記録も公表されるようになった。広島産石筍の研究では,中国石筍記録との相同性が強調されたが,変動幅が小さいことから量的効果が弱かったとも指摘された (Shen et al., 2010)。新潟産石筍の研究では,冬季の降雪強度とともに日本海の汽水化が重要であると解釈された (Sone et al., 2013; Amekawa et al., 2021)。一方,三重産石筍の過去8万年間の記録は,酸素同位体比の振幅が著しく小さく,水蒸気ソースである海水の値と同調した長期的変動を示すことから,温度変化と海水の酸素同位体比変動だけで説明できると解釈された (Mori et al., 2018)。この研究では量的効果の重要性に対して疑問が呈され,中国石筍の大きな振幅は海水変動に伴う東シナ海の陸化による内陸度(海岸線からの距離)の変化も影響している可能性が示唆された (Mori et al., 2018)。

    石筍酸素同位体比記録の解釈は量的効果の評価に依存する。そこで,日本国内で採集された雨水酸素同位体比を用いて量的効果の定量的評価を試みた。Amekawa et al. (2021) が用いたいたモンテカルロ的な統計処理の結果は量的効果を認定する。しかし,その効果は弱い。石筍同位体比記録を量的効果のみで解釈すると,過去において年間2000mL以上の大きな幅で降水量が変化したことになり,別の要因も影響していたと考えられる。

    Amekawa et al., 2021. PEPS, 8, 1-15.

    Mori et al., 2018. QSR, 192, 47-58.

    Shen et al., 2010, QSR, 29, 3327-3335.

    Sone et al., 2013. QSR, 75, 150-160.

  • 加藤 大和, 森 大器, 狩野 彰宏
    セッションID: T11-O-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    大西洋への氷山流出に端を発するハインリッヒイベントは、最終氷期を通じて、大規模な寒冷化イベントを周期的に引き起こした。本邦におけるハインリッヒイベントの影響を明らかにした研究成果は限定的であるが、中村ほか(2013)は、野尻湖堆積物の音波探査による過去4.5万年間の湖水位変動記録から、ハインリッヒイベントに伴う寒冷期に、冬季アジアモンスーン(EAWM)が強化し、冬季降水量が増加したと推定している。

    発表者らは、鍾乳洞で発達する石筍の安定酸素同位体比(δ18O)と炭酸凝集同位体(Δ47)による温度指標を併用し、最終氷期から現在までの、日本陸域における古気温変化と、降水変動を明らかにする研究を行なっている。本発表では、これまでに分析した複数の石筍データから、ハインリッヒイベントに関連した気候変動記録を紹介したい。

    日本の気候は、東アジアモンスーンの影響を強く受けている。夏季アジアモンスーン(EASM)は、太平洋側から日本の広い範囲に、高δ18Oの降水をもたらし、冬季アジアモンスーン(EAWM)は、日本海側から低δ18Oの降水をもたらす。EASMとEAWMは、季節的に変化する海洋/陸域間の熱コントラストによって駆動され、両者の強度には、数百年規模では負の相関関係があることが知られる。

    岐阜県の大滝鍾乳洞から採取された石筍OT02(Mori et al., 2018)は、4度のハインリッヒイベントの記録を含む。OT02石筍のΔ47値は、ハインリッヒイベントに対応した数℃の寒冷化を記録しており、また、石筍δ18OとΔ47温度から復元される降水のδ18Oは、寒冷期に低い値をとる。ハインリッヒイベントに伴う寒冷期には、EASMの弱化とEAWM強化により、低いδ18Oをもつ冬季の降水量比が相対的に上昇したことで、年平均的な降水δ18Oが低下したものと考えられる。

    一方、広島県幻鍾乳洞産の石筍Hiro-1(Shen et al., 2010; Hori et al., 2013, 2014; Kato et al., 2021)は、ハインリッヒ氷期(HS1)に成長量が著しく低下しており、洞窟環境の乾燥化を示唆した。幻鍾乳洞地域は、中国山地によって日本海側からの水蒸気流入が阻まれ、冬季の降水が非常に少ない。ハインリッヒイベントによる寒冷期には、EAWM強化による冬季降水量の増加は限定的である一方、EASMの弱化により、年降水の大きな割合を占める夏季降水量が減少した結果、年降水量が著しく減少した可能性がある。

    引用文献

    Hori et al. (2013) Prior calcite precipitation and source mixing process influence Sr/Ca, Ba/Ca and 87Sr/86Sr of a stalagmite developed in southwestern Japan during 18.0 4.5 ka. Chem. Geol. 347, 190−198.

    Hori et al. (2014) Rare earth elements in a stalagmite from southwestern Japan: A potential proxy for chemical weathering. Geochem. J. 48, 73–84.

    Kato et al. (2021) Influences of temperature and the meteoric water δ18O value on a stalagmite record in the last deglacial to middle Holocene period from southwestern Japan. Quat. Sci. Rev. 253, 106746.

    Mori et al. (2018) Temperature and seawater isotopic controls on two stalagmite records since 83 ka from maritime Japan. Quat. Sci. Rev. 192, 47–58.

    中村ほか (2013) 長野県野尻湖における過去4.5万年の湖水位変動とその要因. 第四紀研究 52, 203–212.

    Shen et al. (2010) East Asian monsoon evolution and reconciliation of climate records from Japan and Greenland during the last deglaciation. Quat. Sci. Rev. 29, 3327–3335.

  • 渡邊 剛
    セッションID: T11-O-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地球上に広範囲に分布する炭酸塩岩には海洋生物の骨格が含まれるものが多く、それらの特性や形成過程を理解することにより、地球環境変動を詳細に知る手がかりとなる。その中でもサンゴは過去数億年間の様々な地質記録から産出され、現在においても深海から浅海域まで幅広い生息域を持っている。現在の沿岸域においては、六射サンゴが炭酸カルシウム(アラレ石)からなる骨格に年輪を刻みながら付加成長し、それらの骨格からなるフレームワークは他の生物遺骸や堆積物を捕捉しながらサンゴ礁と呼ばれる独特の地形を形成する。サンゴ礁では、自然の防波堤である礁嶺が外洋からの波浪のエネルギーを吸収し造礁サンゴと体内に生息する褐虫藻が織りなすミクロコズム(準閉鎖生態系)が物質循環を支えることにより、サンゴ生態系の豊富な生産性と生物多様性を支えている。サンゴ礁内には、造礁サンゴと同様に共生藻類を体内に保持して分厚い殻を形成するシャコガイや共生藻類を持たずに海底洞窟などに生息する硬骨海綿などが生息しており、それぞれ日輪や年輪を刻みながら生息時の様々な情報をその骨格の中に閉じ込めている。これらの高時間解像度の地質記録は、様々な地質時代において当時の環境と生物の関係を切り取る“時代窓”、或いは、精巧なタイムマシーンとして用いることができる。サンゴ礁の多くが分布する熱帯域、亜熱帯域はエルニーニョ現象などに代表されるように、地球規模の気候変動に大きな影響を与える”駆動部”に位置しており、地球温暖化や二酸化炭素濃度の上昇、海洋酸性化といった百年スケールの大気海洋の変化やその影響を捉えるには重要な海域である。また、火山噴火や地震・津波、台風といった短期間に起こる環境事変を捉えることができる。一方で、サンゴ礁は、近年頻発している白化現象などに見られるように地球温暖化やそれに伴う海洋酸性化などのグローバルな環境ストレス、土地開発などによる土砂の流入や富栄養化、海洋汚染などのローカルなストレスによる複合的な要因による生育環境の劣化が指摘されている。サンゴは数億年の地球環境の激しい変動の中で敏感に応答し、進化や適応を繰り返してきた。また、サンゴのもつ多様性と可変性、そして多元的な物質循環はサンゴ礁生態系に高い生物多様性を維持させている。このサンゴ礁生態系のもつ"敏感性"と"強靭性"の二つの相反するように見える特性はどのように生まれて維持されてきたのか、また、人間活動がもたらす急激で複合的な環境ストレスは将来の人とサンゴの関係性にどのような影響を与えるのか、現代において人類は、サンゴからの恵みを享受するのと同時に大きな影響を与えうる存在になっている。サンゴ礁という人と生物、そして環境が多次元で絡み合う複雑系を理解しようとする時、我々研究者は何ができるだろうか。また、これらの課題は広く地球環境と人類の関係性を考える上でも重要な示唆を与えるものである。奄美群島の喜界島に著者らは2014年からフィールド研究の拠点を形成してきた。喜界島では過去10万年前から現在までの様々な地球環境において形成されたサンゴ礁段丘が観察でき、完新世以降の陸上にはサンゴ石灰岩に蓄えられた湧水と地下水、サンゴ礁から得られた食資源や石材を活用した集落が古い歴史と多様性を保ちながら存在する。このような恵まれた立地もあり自然科学の一研究者の学術的な関心で始まったフィールド拠点は、現在では人文科学や社会科学を含む様々な研究分野の研究者、子どもから大学院生までの幅広い世代の学生、多種多様な生業を営む島の住民と地域から国政を担当する行政や政治関係者などのステークホルダー、演劇から音楽、舞踊など様々な表現方法を持つアーティストが集まり、過去から現在、そして未来の人と環境の関係性という問いへの探究を目指している。これらの現象もサンゴ礁のもつ魅力と特性よるものと捉え、それら一体の研究と活動をサンゴロジーと呼んでいる。本講演では、著者の専門である炭酸塩骨格を用いた地球環境変動研究の現状と問題点から、多分野異文化の人々を巻き込んだ総合的な観点からのサンゴ礁と地球環境の問題につながった研究と実践への発展を概観する。

  • 白石 史人, 半澤 勇作, 朝田 二郎, CURY Leonardo, BAHNIUK Anelize
    セッションID: T11-O-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ブラジルのラゴアベルメーリャにおいて,微生物炭酸塩の分解に対する環境変化の影響を理解するため,ラグーンに見られるストロマトライトと塩田に見られる微生物マットを調査した.ストロマトライトは主にMg方解石とあられ石からなり,ドロマイトを含む炭酸塩クラスト上に発達していた.多くのストロマトライトが水面まで侵食されていたが,いくつかの小さな緑色のストロマトライトは,水面下でドーム状形態を保持していた.しかしながら,ストロマトライト表面では岩内性シアノバクテリアが卓越しており,それらによって多数の微小穿孔が形成されていた.また,微生物の好気呼吸は暗条件で炭酸塩の溶解を引き起こしており,多細胞動物はストロマトライト内部を削り取って糞源ペレットを排出していた.これは,恐らく近年のラグーン水化学組成の変化によってストロマトライトの形成が停止し,それらが分解していることを示している.一方,炭酸塩と石膏を沈殿している塩田では,厚さ約3 cmの微生物マットが発達しており,石英・方解石・あられ石・石膏が含まれていた.本研究の調査時点ではCaCO3の沈殿は見られず,従属栄養菌が光合成菌よりも優勢であるために,むしろ溶解が起こっていた.これは,塩田で蒸発が進行することでシアノバクテリアの個体数が低下し,その結果として光合成によるCaCO3沈殿が抑制されたためと考えられる.ラゴアベルメーリャにおけるこれら2つの微生物炭酸塩から得られた結果は,グレージングと微小穿孔に加えて微生物代謝も微生物炭酸塩を分解するための重要なプロセスであること,また塩分濃度変動などの環境変化によって炭酸塩を形成する微生物群集から炭酸塩を破壊する微生物群集へと変化しうることを示している.

  • 松田 博貴, 林田 将英, 熊谷 優香, 得重 和希, 辻 喜弘, 佐々木 圭一
    セッションID: T11-O-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    鹿児島県喜界島には,サンゴ礁複合体堆積物からなる中・上部更新統琉球層群が広く分布する.喜界島は,我が国でも隆起速度が最も大きい地域の一つであり,最終間氷期(MIS 5)以降,汎世界的な海水準の低下と相まって,島の最高地点である百之台(標高212m)を含め複数の時代のサンゴ礁複合体が形成されてきた.その結果,島の段丘地形に応じて,より高位の段丘にサンゴ礁を構成するサンゴ石灰岩が,より低位の段丘に同じ時代の島棚外側から島棚斜面上部で堆積したコケムシに富む淘汰の悪い生砕性石灰岩や石灰藻球石灰岩が対をなして分布することが知られている(大村ほか,2000).しかしながら,島周縁部において,相対的海水準低下に伴い,島棚斜面上部から浅海域へと堆積環境が変化していく過程の詳細についてはよく判っていない.そこで著者らは,喜界島における最終間氷期以降の堆積環境と堆積メカニズム,加えてそれらと海水準との関係を明らかにするために,この数年にわたり調査・研究を進めてきた.本発表では,喜界島西部の坂嶺から湾,ならびに水天宮山から手久津久にかけて分布する上部更新統琉球層群の岩相と堆積環境の変化,ならびにそれらと海水準の関係について新たに得られた知見について報告する.

     調査地域の上部更新統琉球層群は,主に淘汰の悪い生砕性石灰岩,特にコケムシに富む生砕性石灰岩(以下,コケムシ質石灰岩)と,淘汰の良い生砕性石灰岩からなる.コケムシ質石灰岩は,島西岸の坂嶺から池治にかけてと南西部の上嘉鉄北方から手久津久北方にかけての標高8〜40mに分布する.中部更新統琉球層群を不整合に覆い,粗粒砂〜細礫サイズのコケムシ片,大型有孔虫Amphistegina sp.,軟体動物片や棘皮動物片などの生物骨格粒子を主体とする未固結〜半固結grainstoneからなる.コケムシは,網目状,太枝状,ならびに細枝状の群体形の遺骸片が卓越する.また石灰藻球を伴い,まれに中礫サイズのサンゴ礫を含む.坂嶺周辺ではしばしば 平板型斜交層理が発達し,同一層準に逆方向の平板型斜交層理が観察される場合もある.これらの特徴から,コケムシ質石灰岩は,宮古島西方沖現世海底堆積物におけるコケムシ質堆積物相(辻ほか,1993)に相当し,MIS 5a(約80ka)の礁前縁相堆積物(大村ほか,2000)に対比される.またコケムシの群体形(Bone and James, 1993)や喜界島南西沖現世試料から,堆積環境は水深130〜170m程度の島棚外側から島棚斜面上部と考えられる.さらに平板型斜交層理から,島の伸長方向に沿う北東-南西方向の潮汐流影響下の島棚外側から島棚斜面上部で堆積したと推定される.

     淘汰の良い生砕性石灰岩は,主にコケムシ質石灰岩より島外縁側の標高8〜50mに分布し,サンゴ片,石灰藻,大型有孔虫Baculogypsina sp.などの粗粒の生物骨格粒子を主体とする未固結〜半固結grainstoneからなり,しばしば平板型ならびにトラフ型斜交層理を伴う.まれに大礫サイズのサンゴ礫を含む.またよく円磨されたサンゴ円礫も観察され,池治では最上部に約51kaを示す造礁サンゴを含む(大村ほか,2000).これらの特徴から,淘汰の良い生砕性石灰岩は, MIS 5a 以降,相対的海水準が低下し,MIS 3(約50ka)前後以降に礁原から礁斜面上部で堆積したと推定される.また北東-南西方向ないし北方向への流れを示す平板型斜交層理の存在から,潮汐流の影響下にあるものの礁微地形に規制された流れにより堆積したと推定される.

     各岩相の関係は,坂嶺西部では,平板型斜交層理のよく発達するコケムシ質石灰岩から,上位に向け径1〜2cm程度の石灰藻球を含むようになり,さらにサンゴ礫を含む淘汰の悪い生砕性石灰岩へと変化するサクセションが観察される.手久津久北方から水天宮山南方にかけての一帯でも,同様の岩相変化が観察される.また赤連南東では,径1〜2cm程度の石灰藻球をまれに含む淘汰の悪い生砕性石灰岩から,上位に向けサンゴ石灰岩へと変化するサクセションが観察され,さらにその上位に風成砂丘砂層が重なる.これらの岩相変化は,上方あるいは外側への側方浅海化を示しており,最終間氷期以降の相対的な海水準の低下に伴って,島周縁側へ向けてサンゴ礁複合体がオフラッピングしていく過程を表したものと考えられる.

     今後は,さらに調査を進めると共に,より詳細に堆積環境の変化を明らかにするために,構成生物遺骸粒子,特に大型有孔虫の解析と年代値の決定を行うことが重要であろう.

    Bone and Jame, 1993, Sediment. Geol., 86, 247–271.

    大村明雄ほか,2000,第四紀研究,39,55–68.

    辻 喜弘ほか,1993,石油公団石油開発センター研究報告,no.24,55–78.

  • 船場 大輝, 江﨑 洋一, 足立 奈津子
    セッションID: T11-O-25
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    後期ジュラ紀の礁はテチス海と古太平洋に広く分布しているが,従来,ヨーロッパに分布するテチス海の礁の形成様式が重点的に研究されてきた(e.g., Leinfelder et al., 1993).後期ジュラ紀に特徴的な礁の形成様式や海洋環境を理解するためには,両海域からの情報が必要である.本発表では,古太平洋で形成された鳥巣石灰岩の中でも,大型造礁骨格生物の産出が豊富な和歌山県由良地域に着目し,被覆性微生物類が礁の構築に果たす役割を検討する.

     由良地域からは,層孔虫や六射サンゴ,ケーテテスなどの大型造礁骨格生物が豊富に産出する.被覆性微生物類として,LithocodiumBacinellaGirvanellaOrtonellaThaumatoporellaが認められるが,その中でLithocodiumが最も占有的である.Lithocodiumは,内部の袋状構造とそこから複数分岐するフィラメント構造が発達する周囲のミクライト質の壁によって特徴付けられる.Lithocodiumは,主に層状ケーテテスの側面及び成長末端部を被覆するが,塊状群体六射サンゴの側面にも認められる.成長末端部を被覆するLithocodiumが微生物起源のミクライトと繰り返し累積したり,さらに層孔虫によって被覆される場合も観察される.Bacinellaは,スパーセメントで充填された不規則な網目状構造で特徴付けられる.Bacinellaは,ケーテテスの側面及び成長末端部を被覆するLithocodiumの袋状構造及びフィラメント構造を穿孔する場合がある.また,ドーム状層孔虫を放射状に分岐しながら穿孔するBacinellaを,さらに層状の層孔虫や微生物起源のミクライトが被覆する場合もある.Girvanellaはフィラメント状で特徴付けられる.Girvanellaは,層状ケーテテス内部の空隙の側面を成長方向に沿って充填する場合が認められ,その成長末端部で顕著である.Ortonellaは,フィラメントが束状に集合しドーム状を示す.Ortonellaは,層孔虫の側面を直接被覆する場合が観察される.最後に,Thaumatoporellaは,小胞が側方に連なる壁状の構造を示す.Thaumatoporellaと層状に広がる微生物起源のミクライトが繰り返し被覆する場合が観察される.

     Lithocodiumなどの被覆性微生物類は,ケーテテスや六射サンゴなどの大型造礁骨格生物や他の種類の微生物類を被覆または穿孔する場合が認められ,骨格生物の枠組みを強固にする役割を果たしたと考えられる.さらに,層孔虫などの大型造礁骨格生物によってLithocodiumBacinellaが被覆されることから,被覆性微生物類は大型造礁骨格生物が固着・被覆するための基盤を提供したと推察される.被覆性微生物類間などに認められる微生物起源のミクライトも被覆性微生物類と同程度に豊富であり,礁の構築には量的にも重要な役割を果たしている.

     今後,さらに由良地域に分布する鳥巣石灰岩を広く検討し,被覆性微生物類の生態やそれらと大型造礁骨格生物の相互関係(例えば,Lithocodiumとケーテテスの優先的な被覆関係)及び礁の形成に果たした役割をより詳しく検討していく必要がある.

    引用文献

     Leinfelder, R.R., Nose, M., Schmid, D.U., & Werner, W. (1993). Microbial crusts of the Late Jurassic: composition, palaeoecological significance and importance in reef construction. Facies, 29, 195-229.

  • 須蒲 翔太, 江﨑 洋一, 増井 充, 清水 光基, 長井 孝一, 杦山 哲男, 足立 奈津子
    セッションID: T11-O-26
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    秋吉石灰岩は石炭紀前期からペルム紀中期にパンサラッサ海の海洋島頂部で形成された生物礁複合体起源の石灰岩である(太田,1968).従来,秋吉生物礁の研究では,層孔虫やケーテテス,サンゴといった大型骨格生物に注目し,礁の構築様式の検討が行われてきた.しかし,コケムシの役割は秋吉生物礁では十分に検討されていない.本発表では,Sugiyama and Nagai(1994)による石炭紀バシキーリアン期の礁環境区分(外洋側から順に下部礁縁,上部礁縁,礁嶺,外側礁原,内側礁原,背礁斜面)に従い,石炭紀バシキ―リアン期の礁形成におけるコケムシの役割を考察する.

     下部礁縁では,層孔虫が卓越し,その成長中断面を固着基盤としてコケムシが被覆している.コケムシは成長中断面を広く被覆しているわけではなく,散点的な産状を示す.上部礁縁では,層孔虫とOzakiphyllumPseudopavonaなどのサンゴが主な枠組みになり,コケムシはそれらの表面を被覆する.また,コケムシが枠組みの中で占める割合は下部礁縁より大きい.一方,コケムシは礁嶺と外側礁原では極めてまれである.内側礁原では層孔虫の成長中断面,背礁斜面ではケーテテスの表面のごく一部でコケムシの被覆が認められる.以上のように,コケムシは礁環境の外洋側で多く産出する傾向がある.

     下部礁縁でコケムシが豊富に見られるのは,層孔虫が卓越する環境の下で,汚損物質の堆積などによって一時的に成長中断が生じ,その上面を固着基盤としてコケムシが活用して成長したためと考えられる.上部礁縁でコケムシが繁栄したのは,層孔虫やサンゴが形成する枠組み内の空隙空間を二次的に活用し,被覆することで成長したためと考えられる.上部礁縁における層孔虫の成長形態が掌状で,層状やドーム状の層孔虫よりも空隙が多く,複雑な枠組み構造を持つ事も関係する.また,礁縁環境がいずれも外洋側であることから栄養塩の供給が豊富であったことも大きく関与している.一方,礁嶺環境でコケムシが極めてまれであるのは,層孔虫とケーテテスが相互に被覆し合い堅牢な枠組みを形成するためにコケムシの固着基盤が乏しく,コケムシが発達する余地がなかったことが考えられる.これらのことから,コケムシは特に,下部礁縁,上部礁縁環境において大型骨格生物による礁の構築に補助的な役割を果たしていたと考えられる.

     引用文献

    太田正道,1968,地向斜型生物礁複合体としての秋吉石灰岩層群,秋吉台科学博物館報告,5:1-44.

    Sugiyama, T. and Nagai, K., 1994, Reef facies and paleoecology of reef-building corals in the lower part of the Akiyoshi Limestone (GroupCarboniferous), Southwest Japan. Courier Forschungsinstitut Senckenberg, 172 : 231-240.

  • 江﨑 洋一, 足立 奈津子, 劉 建波
    セッションID: T11-O-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    カンブリア紀後期の芙蓉世(Furongian)は“カンブリア爆発”とオルドビス紀の生物大放散(GOBE)に挟まれ,生物の多様性が見かけ上低い時期に相当する.その初期段階(排碧期)には,有機炭素の埋没率の増加や無酸素水塊の発達に起因するSPICE事変(炭素同位体比の正の偏位)が生じている.本発表では,北中国のカンブリア系上部で形成され微生物岩に酷似する岩石の特性を紹介する.

     北中国の山東省には,炒米店層で代表される芙蓉統(排碧階から第十階)の地層が広く分布している.下位のGushan層(古丈階)は,頁岩や石灰質扁平礫岩で特徴付けられるが,炒米店層の下部ではストロマトライトに酷似した堆積岩からなる礁が顕著である.石灰質扁平礫岩がそれらの礁の基盤になっている場合が多い.露頭やスラブレベルの観察では,典型的な柱状ストロマトライト様の堆積岩の他に,複雑に分岐する微生物岩様やドーム状ストロマトライト様・スロンボライト様の堆積岩が認められる.炒米店層の上部では三葉虫,棘皮動物,腕足類,頭足類の生砕片からなるグレインストンが発達する.ワッケストンでは生物擾乱作用が顕著である.ストロマトライト様の堆積岩のコラム部は選択的にドロマイト化作用を被っているが,ラミナ組織が識別される場合が多い.石灰質微生物類はまれで,わずかにGirvanellaが認められる.ストロマトライト様のコラム内や,コラム間で,骨針を欠くバーミフォーム状の海綿組織が主体の岩石(keratolite: Lee and Riding, 2021)が頻繁に認められる.海綿組織がコラム部をまたぐように側方に分布する場合もある.海綿本体の外形は不明瞭である.海綿組織の周辺でミクライトの集積やスパーセメントの充填を伴うことが多い.keratoliteは,石灰質微生物類(Epiphytonなど)や大型骨格生物(lithistid海綿:Rankenellaやサンゴ類:Cambroctoconus)が豊富な下位層の張夏層(鳥溜期後期〜古丈期前期)でも認められるが,そこでの産出頻度は高くない.

     従来,カンブリア系上部から下部オルドビス系には,“複雑に分岐するスロンボライト”(“maceriate thrombolite”)が汎世界的に分布すると考えられていた(Shapiro and Awramic, 2006).ごく最近,「keratose海綿–微生物コンソーシアム(keratose sponge–microbial consortium)」で,海綿と微生物類が協働し合い,純粋なストロマトライトに見かけ上類似したkeratoliteを形成することが報告されている(Lee and Riding, 2021).keratoliteは,低酸素環境が想定されるペルム紀末の大量絶滅層準直上の最下部トリアス系からも多産する(Wu et al., 2022).骨格生物礁の発達が抑制されていたと考えられていたカンブリア紀後期には,広域的にkeratoliteが形成されていた可能性が高い.keratoliteが卓越したのは,keratose海綿の耐性が強く,無酸素水塊の発達などの環境下でも当該の海綿は排他的に生存し得たことを示している.今後,海綿自体や海綿と共存する微生物類が,どのような相互作用を通じてストロマトライトに類似した堆積岩を形成するのかを明らかにしていく必要がある.

    [引用文献]

    ・Lee, J.H. and Riding, R. (2021) Keratolite–stromatolite consortia mimic domical and branched columnar stromatolites. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 571, 110288.

    ・Shapiro, R.A. and Awramik, S.M. (2006) Favosamaceria cooperi new group and form: A widely dispersed, time-restricted thrombolite. Journal of Paleontology, 80, 411-422.

    ・Wu, S., Chen, Z.Q., Su, C., Fang, Y., and Yang, H. (2022) Keratose sponge fabrics from the lowermost Triassic microbialites in South China: Geobiologic features and Phanerozoic evolution. Global and Planetary Change, 211, 103787.

  • 足立 奈津子, 江﨑 洋一, 劉 建波, 渡部 真人, ALTANSHAGAI Gundsambuu , ENKHBAATAR Batkhu ...
    セッションID: T11-O-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    ストロマトライトは,ラミナ組織で特徴付けられる微生物岩である (Riding, 2000).その形成は,シアノバクテリアによる粒子の捕捉や結束,光合成活動によって誘導された炭酸カルシウムの沈殿作用が強調されている.しかし,光に乏しい隠棲環境でも,ストロマトライトは形成される.モンゴル西部地域に分布するカンブリア系下部のBayan Gol層のスロンボライト層に不随して,赤褐色を呈する微小ストロマトライトが特異的に産出する.本発表では,微小ストロマトライトの形態的な特徴や分布様式をもとに,その成因を検討する.

     微小ストロマトライトは,Bayan Gol層下部の特定層準で観察される.スロンボライトは野外で,暗灰色を示し,石灰質微生物類 (Epiphyton, Renalcis) を豊富に含む小規模ドーム状構造 (直径数十 cmから約1 m) を形成する.スロンボライト間には,石灰質微生物類や微小骨格生物群の破片,緑泥石などからなる堆積物が堆積する.一方,微小ストロマトライトは,赤褐色を示し,スロンボライト内や間に二次的に形成された隠棲環境に発達する.光学顕微鏡下での成長形態や微細組織に基づいて,3タイプの微小ストロマトライトが識別される.タイプ 1: 最も豊富に認められ,暗褐色を示す層 (約0.2 mm) と赤褐色から白色を示す層 (約0.5 mm) が互層し,層状・ドーム状・層状−柱状形態を形成する.タイプ2: 暗褐色を示す樹状形態 (直径約0.05 mm,高さ最大1 cm) で特徴付けられ,層状・柱状の密集部を形成する.タイプ3: 内部に不明瞭なラミナが発達する暗褐色の柱状から樹状形態 (直径0.03−0.05 mm,高さ約1 mm) を示す.Maslov (1960) がFrutexitesと命名したものに相当する.タイプ 1から3のいずれからも微生物類の痕跡 (フィラメント等) は認められない.また,各タイプは,スロンボライト層内で以下の分布を示す.スロンボライト内に形成される数十cm規模の空隙では,タイプ 1や2の発達が特に顕著である.タイプ 1は空隙の底面から上方へ,または,空隙の側壁・天井を被覆して側方・下位方向へと発達する.タイプ 1からタイプ2へと上位方向に移行する場合がある.空隙の底部には,生砕物を含まない細粒の石灰泥が堆積する.一方,スロンボライト間ではタイプ 1や3の発達が認められる.しかし,特に,タイプ3は,スロンボライト間の数十cm規模の空隙だけでなく高さ数mmの極小規模の空隙の天井や側壁,凹凸のある底面も被覆し,上位・側方・下位方向に発達する場合が明瞭である.

     ドーム状スロンボライトは,石灰質微生物類が開放的な空間で,上位・側方へと選択的に成長することで形成された.一方,微小ストロマトライトは,スロンボライト内だけでなく,堆積物が充填するスロンボライト間が部分的に侵食されたり,溶解することに起因する窪地・空隙・亀裂内の壁面を活用して,上位・側方・下位方向へと発達した.そのような空間は,光や堆積物の流入,酸素の供給が抑制された隠棲環境となり,鉄バクテリアの活動が促進され,特異的に赤褐色を示す鉄質ストロマトライトが形成された可能性が高い.各タイプの微小ストロマトライトが,具体的にどのような微生物類の代謝活動や成長によって形成されたのかは,電子顕微鏡観察や地球化学分析をもとに検討する必要がある.さらに,Bayan Gol層でスロンボライトは広く分布するものの,微小ストロマトライトの発達は特定層準に限定されている.微小ストロマトライトの発達が,どのような地域的・広域的なイベント (堆積場や海洋環境の変化等) を反映しているのかについても考察が必要である.

    [引用文献]

    ・ Maslov, V.P., 1960. Stromatolites. Trudy Instituta geologicheskikh nauk Akademiya nauk SSR 41, 188p.

    ・ Riding, R., 2000. Microbial carbonates: the geological record of calcified bacterial-algal mats and biofilms. Sedimentology 47, 179–214.

T12(口頭).火山噴出物から読み解く火山現象と防災への応用
  • 古川 邦之, 宇野 康司, 堀内 悠, 壷井 基裕
    セッションID: T12-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    <はじめに> 黒曜石の形成を伴う流紋岩溶岩の噴出は事例の少ない現象である。そのため詳細を理解するには過去の噴出物を用いた地質学的な研究が求められる。そこで本研究では、大分県姫島に分布する、黒曜石相を含む流紋岩組成の城山溶岩の研究を行った。この黒曜石は国の天然記念物および日本ジオパークに認定されている。城山溶岩は10-30万年の噴出年代が報告されている (兼岡・鈴木, 1970; 鎌田, 1988; 松本ほか, 2010)。基本的な地質学、岩石学的な研究成果は伊藤ほか (1989)に記されている。

    <地質調査結果> 城山溶岩は最大層厚52mで基底は露出していない。観音崎を北端にして南に約480mに渡り分布している。観音崎周辺の城山溶岩下部にはペペライトや多角形割れ目、パーライトが発達しており、水との接触があったことが推測される。ただし溶岩上部や観音崎以南にはそのような特徴は見られないため、観音崎周辺でのみ浅海環境で流動し、大部分は陸上を流動したと考えられる。黒曜石 (obsidian lithofacies)は観音崎北端にわずかに分布があるのみで、その南側で観音崎火砕岩と接する (伊藤ほか, 1989)。またobsidian lithofaciesは、溶岩の大部分を構成する発泡する岩相 (vesicular lithofacies)に漸移する。Obsidian lithofaciesは構造の違いから東西方向に伸びる3つの帯状領域に分けられ、観音崎火砕岩に接する南側から、brecciated zone (BZ), sheared brecciated zone (SZ), massive to brecciated zone (MZ)とした。観音崎火砕岩と接するBZは1m以内の幅で、主に数cm程度の黒曜石クラストと同質マトリクスから成る。また観音崎火砕岩のクラストも混在している。クラストの長軸は鉛直方向に配列することが多い。SZは13m程の幅で、帯状構造の伸びに平行な概ね東西走向の面構造が発達する。面構造は、鉛直方向に長軸を持ち各々長さ20cm程度の偏平な黒曜石で規定されている。この黒曜石の表面には、鉛直方向に平行に発達する多数の細い溝でできた線構造が確認できる。MZは22m程の幅で、主に塊状の黒曜石から成る。塊状の黒曜石には割れ目のネットワークがよく発達する。黒曜石は全体的に細かく発泡しており灰白色を呈するが、割れ目沿いの幅数cm程度の領域は発泡しておらず黒色を呈する。この割れ目を含む領域が塑性変形することもあり、そのような部分では発泡度および色の異なる領域が流紋岩に特徴的な流理構造に遷移している。

    <考察> Obsidian lithofaciesのBZに発達するクラストの鉛直方向の定向配列やSZの鉛直方向の線構造は、セントへレンズ山の露出した火道 (Pallister et al., 2012)でも観察されることから、城山溶岩のobsidian lithofaciesは侵食された火道であると考えられる。火道の北側の境界は海で確認できないが、南では観音崎火砕岩を母岩にしてマグマが上昇し、母岩に接する部分では火道マグマの脆性破壊が起き角礫化したのだろう (BZ)。このマグマ上昇により、接している観音崎火砕岩も侵食されクラストは火道内に取り込まれた。BZのクラストは、火道上昇時に母岩との剪断により鉛直方向に配列したと考えられる。BZより内側でも火道マグマの脆性破壊は起きたが、歪み速度が減少もしくは温度上昇した時にクラストは塑性変形に転じて偏平化し、面構造や線構造が発達した (SZ)。火道の中心部では、歪み速度の上昇もしくは温度下降した時に割れ目ネットワークが発達したと考えられる。その割れ目に接したマグマからは拡散や気泡の崩壊により脱ガスが進行することが期待される (Tuffen et al., 2003)。それにより割れ目沿いでは気泡が消失し、その後、歪み速度の減少もしくは温度上昇により割れ目は癒着した。さらにその部分が塑性変形することで、発泡度の異なる組織が流理構造に発達したと考えられる (MZ)。

    <引用文献> 伊藤ほか (1997) 5万分の1地質図幅「姫島」. 兼岡・鈴木 (1970)地質学雑誌, 76, p309-313. 鎌田 (1988), 月刊地球, 10, p568-574. 松本ほか (2010) 火山学会要旨, p132. Pallister et al., (2012) Geological Society of America Bulletin, 125, p359-376. Tuffen et al. (2003) Geology, 31, p1089-1092.

  • 辻 智大, 太田 岳洋, 藤原 尚起, 中田 英二, 潮田 雅司, 中村 千怜
    セッションID: T12-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】Aso-4火砕流は,約9万年前の阿蘇4噴火によって放出された大規模火砕流の一つであり,国内の活火山から発生した火砕流としては,国内で最も遠くまで到達した火砕流である.Aso-4火砕流のような拡散型の大規模火砕流の移動には内的・外的な要因が複雑に関係することから,その運搬能力や堆積過程は解明されていない.特に,火砕流の末端部に関して産状の記載例が不足していることから,詳細について不明な点が多い.今回,山口県山口市徳地での県の道路改良工事現場にてAso-4火砕流堆積物(以下,Aso-4と呼称する)の最遠部の露頭を発見したので報告し,その堆積過程とその意義について論じる.

    【産状】本Aso-4露頭は,佐波川上流の徳地柚野中学校跡地であり,従来報告されていたAso-4分布域より20 kmほど北東であり(図1),これまで報告されていない地域での発見である.また,本地点は阿蘇カルデラ中心から170 km離れており,Aso-4として最遠方相である.露頭では,下位から,基盤岩を覆う中位段丘礫層,灰白色粘土,Aso-4,白色シルト,砂礫層,褐色土壌,AT,褐色土壌,黒色土壌,K-Ah,黒色土壌が累重する.AT,K-Ahが一つの露頭で観察されるのは本州では非常に希である.露頭西側ではAso-4は侵食されており,露出しない.Aso-4は,下位の灰白色粘土を覆うようにして,層厚20~50 cmで堆積する.本堆積物は,デューンもしくはアンチデューン,斜交葉理、平行葉理の発達した火砕サージ堆積物である.橙色の層と優黒色の層が層厚4~10 cm程度で互層ないしレンズ状に混在して堆積している.各層の内部には葉理が認められる.上位の層が下位の層を侵食する侵食基底面がいずれの層にも認められ,下位の層をレンズ状ブロックとして含んでいることがある.橙色の層は軽石由来の風化粒子に富み,優黒色の層は鉱物に富む.砂サイズの粒子を主体としており,軽石の最大粒径は1 cmである.Aso-4の最下部には層厚2~3 cmで連続性の良い層が認められる.この層はマントルベッドしていること,明瞭な級化構造を示すこと,クラストサポートであること,軽石が円摩されていないことから,降下軽石層と解釈される.

    【考察】堆積学的特徴から,Aso-4は,火砕物密度流の下部にて砂~細礫サイズの粒子が比較的濃密な流れとして移動・堆積したトラクション(掃流)堆積物と考えられる.Aso-4中の堆積ユニットはそれぞれ下位の降下軽石や下位のユニットを侵食していることから,侵食と堆積を何度も繰り返して形成されたと解釈される.Aso-4の発見地点は佐波川の上流域であるにもかかわらず,佐波川の下流域にはAso-4火砕流堆積物は報告されていないことから,輸送経路として谷に沿って椹野川を遡上して佐波川上流に達した可能性がある.Aso-4のような拡散型の大規模火砕流であっても,火砕流の遠方域では,その輸送過程に地形が影響していたと考えられる.これは,Aso-4の層厚分布から地形条件による制約について論じた長田ほか(2018)とも調和的ある.Aso-4のまた,Aso-4の基底部に降下軽石層が存在することは,これまで星住ほか(2022)によってAso-4X降下軽石の報告があるのみであり,非常に重要である.本降下軽石層に関する詳細分析を今後行っていく予定である.

    引用文献:星住ほか(2022)火山,67,91-112.

    図1.九州中部~山口県におけるAso-4の分布.

  • 長井 雅史, 三輪 学央, 小林 哲夫
    セッションID: T12-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    伊豆-小笠原弧とマリアナ弧の接合部にある火山列島では近年活発な火山活動が続いている。小笠原硫黄島火山は直径約10kmのカルデラを持ち、水蒸気噴火を伴いつつ再生ドームの成長が続いている。南硫黄島近海の福徳岡ノ場火山では2021年に大規模な軽石噴火が発生し、漂流軽石が南西諸島や本州南岸に到達した。これらの火山では海域であるため火山発達史の全体像はほとんどがわかっていない。そのため火山災害ポテンシャルを評価するうえで必要な、過去の噴火の時期・規模・噴火様式・周辺環境へ与えた影響などの情報がほとんど得られていない。

     我々は硫黄島火山の大規模噴出物の捕捉やマグマ組成の長期的な変遷を解明する目的で、かつてパレスベラ海盆で採取されたピストンコアKR98-01-P1に注目した。このコアは池原ほか(1998)や川村ほか(1999 ; 2002)などで詳しく解析されたもので、全長17m38cmのコア試料はタービダイト層(下位よりT6-2~T1層)と遠洋性粘土層(P6~P1層)の互層からなる。堆積年代は微化石群集解析より46万年前以降とされている。タービダイト層には火山ガラス粒子が多く含まれており、またCCD以深なのに石灰質微化石も多く含有することから、一旦CCD以浅に堆積した火山砕屑物が再移動したものと考えられた。その給源候補として古流向解析と海底地形の検討から採集地より300km以上離れた硫黄島周辺が挙げられた。しかし火山砕屑物粒子の起源についての詳しい検討はなされていなかった。一方、硫黄島及び周辺海域の火山はアルカリに富む噴出物を産することが知られており、岩石学的な特徴による給源火山の同定に有利な性質を持っている。

     高知コアセンターに保存されていたコア試料には欠落もあったが、大部分の地層ユニットから試料を採取することができた。堆積年代を絞り込むため、長期間かけて堆積したとみなされる遠洋性粘土層から広域テフラ粒子の検出を試みた。識別が容易な薄い泡壁状の火山ガラス粒子を選別してSEM-EDSで主化学組成を測定した結果、Kb-Ks、Ata-Th、Aso-4、ATに由来すると考えられる粒子が見つかり、タービダイトは5~10万年程度に1回の頻度で発生したことが推定された。 タービダイト層を構成する火山ガラス粒子の主化学組成は大部分がアルカリに富み粗面安山岩から粗面デイサイトの範囲であった。SiO2組成変化図ではNa2O図やCaO図で大きく2つの組成トレンドに分かれている。個々のタービダイト層では、常に両方のトレンドに乗る火山ガラス粒子が含まれており、双方の組成トレンドを形成したマグマに由来する砕屑物が混合して流下したものと考えられる。

     タービダイト層は直接の噴火堆積物ではないが、低頻度であっても逐次浅海域の新鮮な状態の噴出物を深海に持ち込んだと推定されるので、給源火山の化学組成などの長期的な傾向をある程度平均化しつつ反映していると考えられる。Na2Oに富みCaOに乏しいほうのトレンドの粒子ではK2O量に若干の変化が認められるが、T4-2層以降は陸上の硫黄島火山噴出物とほぼ一致する組成となっている。これは現在の硫黄島火山のマグマ活動に対比されるもので、その開始はAta-Th 降灰以降と推定が可能である。Na2Oに乏しくCaOに富むトレンドの粒子ではNa2O量が次第に増加する傾向があり、T1層では福徳岡ノ場火山噴出物とかなり一致している。こちらは福徳岡ノ場を含む北福徳カルデラの活動に対比される可能性がある。

     今後は化学組成だけでなく、粒子形状の特徴や、今回対象としなかった結晶度の高い粒子の性質などについて、時間変化を明らかにして給源火山の活動実態の解明を進める予定である。遠方のコアに含まれる再堆積物の解析は、手段の限られた海域火山の発達史研究では有用であり、今後多くのコア試料で研究が進むことが望まれる。

    謝辞:海洋研究開発機構には所蔵ピストンコア試料の利用を御許可いただいた。コア試料のサンプリングでは久光敏夫博士をはじめ高知コア研究所のスタッフの御世話になった。記して御礼申し上げる。

    文献:

    池原ほか(1998)JAMSTEC深海研究, 14, 193-204.

    川村ほか(1999)JAMSTEC深海研究, 15, 73-82.

    川村ほか(2002)地質学雑誌, 108, 207-218.

T13(口頭).都市地質学:自然と社会の融合領域
  • 廣瀬 亘, 戸松 誠, 竹内 慎一
    セッションID: T13-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

     千島海溝周辺では,今後30年間以内においてM8.8以上の巨大地震の発生確率が7~40%と,地震に伴う強震動および津波リスクが極めて高い状態にある(地震調査研究推進本部,2017).海溝型の大規模地震では被害が甚大かつ広域にわたるため、事前復興の考え方のもと,国や地方公共団体、関連機関、住民などが様々な対策を事前にとることが必要である.そのためには,建築物や道路等インフラを載せる地盤について,地質学的なデータに基づき強震動および液状化等の地盤災害の稠密な予測を行うことが重要となる.

    【浅部地盤データセットの構築】

     強震動予測の基礎となる,地表から30m深までの地盤平均S波速度分布(AVS30)の設定にあたっては,地盤データの豊富な地域を除き,微地形区分が用いられることが多い.しかし特に平野部では,第四紀の顕著な地殻変動により地下構造が複雑になっている場合が多い.本研究では,北海道および各自治体等で実施された地盤ボーリングデータに基づき北海道の低地部を対象に地盤断面解析を行い,地下30mまでの地盤モデルを作成することとした.

     検討に用いたデータは北海道内で行われた地盤ボーリング調査データのうち,低地で行われた掘削深度10m以上の32,461本である.これらについて,世界測地系による位置情報(緯度・経度・標高(T.P.:東京湾平均海面))の付与,異常な地質データの修正を行った.地盤断面解析には,産業技術総合研究所・防災科学技術研究所が開発,公開している「ボーリング柱状図解析システム」を用いた.断面測線間隔は4分の1地域メッシュ(緯度間隔7.5秒,経度間隔11.25秒:250mメッシュに相当)とし,同サイズのグリッド中央に設定した仮想柱状図に断面測線を投影して,グリッドごとの地質断面図とした.

     北海道は札幌・釧路など都市部を除き,関東地方など本州の大都市圏と比べ低地における市街地面積率が小さく,地盤ボーリング調査地点密度も低い傾向がある.そのため,岡崎(1960)など水井戸柱状図,田村ほか(2009)によるサロベツ原野の電気探査結果など物理探査資料も参照し,近傍の地盤ボーリング柱状図を投影・対比することにより解析精度の向上を図った.また,十勝平野断層帯など活断層の近傍では中~上部更新統以新の地層も断層,撓曲および傾動により変形を受けている可能性があるため,廣瀬ほか(2005)など北海道内の活断層調査結果も考慮した.これらの解析結果に基づき地盤モデルを作成,AVS30を算出した.地盤ボーリング資料や物理探査結果等が乏しい地域については,若松・松岡(2020)および松岡ほか(2005)の手法で,微地形と先第三系・第三系の山地・丘陵からの距離に基づきAVS30を算出した.

    【解析結果】

     AVS30値は,沖積層が厚く発達する石狩平野では後背湿地で15~20%,自然堤防で5~10%など,微地形区分による見積もりに比べ低く,豊平川扇状地周辺や由仁-安平低地など地下浅部に厚く砂礫層が発達する地域では,10~50%前後高く見積もられる傾向があった.これらはたとえば平成23年東北地方太平洋沖地震など北海道周辺での地震で観測された震度分布や地盤液状化被害の傾向とも整合的である.

    【引用文献】

    廣瀬 亘・大津 直・田近 淳・高見雅三・田村 慎・石丸 聡・垣原康之・野呂田晋(2005)北海道活断層図 No.5 十勝平野断層帯 活断層図とその解説.北海道,136p.

    地震調査研究推進本部(2017)千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版),130p.

    松岡昌志・若松加寿江・藤本一雄・翠川三郎(2005)日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均 S 波速度分布の推定.土木学会論文集,No.794/I-72,239-251.

    岡崎由夫(1960)釧路平原とのその地形発達史.地理学評論,33,462-473.

    田村慎・大津直・岡孝雄・秋田藤夫・若浜 洋・酒井利彰・石島洋二(2009)北海道北部,サロベツ原野における浅部地下構造.北海道大学地球物理学研究報告,72,51-77.

    若松加寿江・松岡昌志(2020)地形・地盤分類250mメッシュマップの更新.日本地震工学会誌,40,24-27.

  • 小荒井 衛, 川村 直輝, 中島 展之, 中野 早登, 先名 重樹, 中埜 貴元
    セッションID: T13-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    演者らは、地形分類から見た地盤災害リスク評価の細分化のため、谷底平野の勾配と堆積物の粒度との関係の解析を行ってきた。その一環として、水戸の東茨城台地を解析する谷底平野や霞ヶ浦沿岸の谷底平野において常時微動計測を行い、地下のS波速度構造の違いを検討してきた。その結果を報告する。

    水戸周辺の東茨城台地を刻む谷底平野では、急勾配の箇所が中流域にあり、その場所が現在の侵食前線となっており、現在も後退が進んでいると考えられる。そのため、上流側の緩傾斜部分は沖積層の厚さは薄く、地盤災害のリスクは下流部の沖積層の厚い緩傾斜部と比べて、小さいものと判断される。水戸は谷底平野の都市化は進んでおらず、水田か耕作放棄の荒れ地となっているが、南関東では谷底平野の宅地化が急激に進んでおり、このような場所での地形発達過程を踏まえたリスク評価が重要と考える。

    一方、霞ヶ浦沿岸の谷底平野では開析が水戸地区よりも進んでいて、谷底平野の源流部で急勾配となっていた。水戸地区との違いについては、更新統の地層の力学的特性の違いに起因する可能性が高いと考えるが、詳細は今後の課題である。また、幅の広い谷底平野では場所によって、沖積層の基盤深度が変化していたため、谷底平野内でも面的に多数の常時微動計測を行うようにし、場所による特性の違いを考察した。谷底平野や氾濫平野の中央部に自然堤防や砂州・砂堆等の砂地盤の微高地があったとしても、その下の軟弱な泥層が厚ければ地盤災害リスクは高くなり、単純に地形種だけでリスク評価をすることが難しいことを示している。同じ霞ヶ浦沿岸では、高浜の入りと土浦の入りでは、都市化や土地利用の状況が大きく異なっている。その理由が地盤環境の違いにあると推察して、園部川・恋瀬川・桜川の流域で常時微動計測を行っている。その結果の速報も可能ならば本発表で報告したい。

  • 小松原 純子
    セッションID: T13-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東京都東部から埼玉県東部にかけての低地下には,最終氷期以降に堆積した沖積層が分布する.東京都東部の東京低地,荒川沿いの荒川低地,中川沿いの中川低地については多数の層序ボーリングが掘削され,更新世末期から現在にかけての地史や物理特性等が明らかになってきた(Tanabe et al., 2015; Komatsubara et al., 2017; 小松原ほか, 2022).これらの主要な埋没谷はかつての利根川や荒川が下刻した大規模な谷である.

    主要な埋没谷については理解が進む一方,比較的小規模な開析谷(枝谷)の沖積層に関する研究例は少ない.枝谷内の堆積相や物性は主要な埋没谷とはかなり異なることが知られている(遠藤ほか,1989;中澤ほか,2022など).これは,枝谷が集水域が台地内にとどまるような小さい河川によって形成されたために掃流力がなく,更新統の礫層に阻まれて下刻が進行しなかったり(久保,1988),完新世の高海水準期に大規模河川の堆積物で谷口を塞がれて沼沢化したりという事情による.しかしこのような枝谷は河川や潮汐流の影響を受けにくいために地層の欠損が比較的少なく,完新世の海進海退など環境の記録がより完全な形で残っている可能性が高い.

    このような枝谷の沖積層について堆積相および物性を調べることを目的に,埼玉県の大宮台地を開析する主要な谷の1つである芝川沿いの低地(芝川低地もしくは見沼低地)で2022年3月に2本のオールコアボーリングを実施した.

    2022年の3月に埼玉県さいたま市の浦和くらしの博物館民家園敷地内(GS-SMS-1)と三崎公園(GS-SUM-1)でそれぞれ30 m,20 mのオールコアボーリングを行った.ボーリング孔でPS検層,温度検層を行い,コア試料については堆積相の記載,粒度分析を行った.またコア試料から得られた貝殻片と植物片について放射性炭素年代測定を依頼中である.層相の概要は下記の通りである.

    GS-SMS-1:深度20 m(標高-16.63 m)以深は更新統(固結した泥層)である.沖積層は基底に中粒〜極粗粒砂と泥炭を伴う以外はほとんど泥からなり,極細粒砂の薄層を希に挟む.標高-8.43〜-3.73 mに貝化石を産し,標高-0.98 m以浅には根痕が顕著となる.表層の2.8 mは盛土からなる.

    GS-SUM-1:深度9.05(標高-5.52)以深は更新統(固結した泥層)である.沖積層の基底から約2 mは中粒砂〜granuleからなり,斜交層理や木片を伴う.その上位は泥が主体で一部細粒〜粗粒砂の薄層を挟む.標高-3.47〜-1.57 mにはパイプ状の生痕が見られる.標高-1.57から上位には根痕が顕著となる.地表の1.0 mは盛土である.

    芝川低地では遺跡発掘調査に伴って地質調査が行われ,調査地点の上流側と下流側で海成層の上限下限および年代が得られている(堀口ほか,1982;安藤,1982;埼玉県埋蔵文化財調査事業団, 1992).また,低地の出口付近にあたる埼玉県川口市でも産総研によるオールコアボーリングが行われている(小松原ほか,2010).これらのデータも踏まえ芝川低地の堆積環境変遷と物性との関連および完新世の海面変動について議論する.

    安藤, 1982, 寿能泥炭層遺跡発掘調査報告書 自然遺物編. 153-238.

    遠藤ほか, 1989, 第四紀研究, 28, 61-77.

    堀口ほか, 1982, 寿能泥炭層遺跡発掘調査報告書自然遺物編. 59-136.

    Komatsubara et al., 2017, Quaternary International, 455, 56-69.

    小松原ほか, 2010, 堆積学研究, 69, 73-84.

    小松原ほか, 2022,地質学雑誌, 128, 29-42.

    久保, 1988, 地理学評論, 61, 25-48.

    中澤ほか, 2022,日本地質学会大129年学術大会講演要旨.

    埼玉県埋蔵文化財調査事業団, 1992, 浦和市四本竹遺跡芝川見沼第1調整池関係埋蔵文化財発掘調査報告.

    Tanabe et al., 2015, Sedimentology, 62, 1837-1872.

  • 中澤 努, 長 郁夫, 小松原 純子, 坂田 健太郎
    セッションID: T13-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    台地を刻む谷の谷底低地には軟らかい泥層や腐植層などが分布することが多く,地震の際に揺れを大きく増幅させたり,不同沈下を引き起こしやすいとされる(安田,2017).ただし谷底低地の軟らかい堆積物は上流部へ向け層厚を減ずることが予想され,その場合,基盤の地盤特性を反映して低地といえども堅固な特性を示すケースも考えられる.本研究では谷底低地の地盤特性が下流から上流に向けてどのように変化するかを知るために,東京山の手の武蔵野台地を開析する神田川(善福寺川)及び古川(渋谷川)沿いにおいて,谷底低地を横断する複数の測線を設定し,常時微動観測を実施した.

    いずれの河川でも下流部にはS波速度が100 m/s程度の軟弱な泥層が比較的厚く分布するため,下流部の平均S波速度はかなり低い値を示した.特に泥層の層厚が10〜15 mに達する地域では,地盤震動特性を示すH/Vスペクトルのやや低周波(1.5 Hz付近)にピークがみられた.この地域は,1923年関東地震で被害が著しかった地域(武村,2003)にほぼ一致する.

    一方で神田川(善福寺川)の上流部の谷底低地は,深さ30 mまでの平均S波速度(AVS30)が300〜400 m/sと高く,H/Vスペクトルには高周波にピークが認められるかあるいは高周波までフラットな特性を示した.これは,神田川(善福寺川)の上流部が「名残川」の流水により関東ローム層の母材となる風成物質が常に除去されることで形成された谷であり(久保,1988),段丘構成層である武蔵野礫層が谷底低地のごく浅部に分布するためと考えられる.この場合,周辺の台地には低地との比高とほぼ同じ厚さの軟らかい関東ローム層が分布するため,AVS30は谷底低地よりもむしろ周辺の台地でより低い値を示した.

    同様に,古川(渋谷川)の中流部の谷底低地もAVS30は350 m/s前後と高く,H/Vスペクトルには高周波にピークが認められるかあるいは高周波までフラットな特性を示した.これは,河川の下刻が更新統の東京礫層の上面付近まで達したものの,谷底低地の堆積物はほとんど堆積せず,ごく浅部に東京礫層が分布するためと考えられる.周辺の台地は東京層の軟らかい泥層や関東ローム層で構成されるため,やはりAVS30は谷底低地よりもむしろ周辺の台地でより低い値を示した.

    このように武蔵野台地を開析する小河川沿いでは,下流部には軟弱な泥層が比較的厚く分布するが,中・上流部では谷底の堆積物は薄いかあるいはほとんど分布しない.また河川の下刻は更新統の礫層上面で停止していることが多いため,中・上流部の谷底低地は比較的堅固な地盤からなり,むしろ関東ローム層や東京層の泥層が侵食されずに分布している周辺の台地のほうが軟らかい特性を示すことになる.つまり台地内の小河川沿いでは下流部と中・上流部で,台地地盤と低地地盤の相対的な脆弱性は逆転する.谷底低地は低地といえども地震災害リスクが必ずしも高いとは限らない.このように台地内の谷底低地においては,下流から上流にかけての谷底低地の堆積物の層厚変化と基盤となる更新統の礫層との位置関係を的確に捉えることが強震動予測・地震防災には重要と考えられる.

    久保純子,1988,地理学評論Ser. A,61,25–48;武村雅之,2003,日本地震工学会論文集,3 (1),1–36;安田 進,2017,第四紀研究,56,217–225.

  • 小島 隆宏, 風岡 修, 中澤 努, 吉田 剛
    セッションID: T13-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに 千葉県の東京湾岸地域(以下,千葉県湾岸地域とする)の低地や埋立地には,更新世末期〜完新世に形成された沖積層が広く分布している.沖積層は一般に軟弱であり,地震動が増幅されやすいため,沖積層が厚く分布する地域の表層付近では,大地震時にしばしば液状化現象が生じる.たとえば,2011年東北地方太平洋沖地震時には,千葉県湾岸地域の埋立地において,沖積層埋没谷に沿って著しい液状化被害が見られた(風岡ほか, 2011).

     一方,1923年の関東地震時には,千葉県湾岸地域の養老川及び小櫃川流域の低地において,液状化に関連する思われる被害を受けたことが報告されている(地質調査所, 1925).被害の大きかった地区の一つである市原市町田では,多数の亀裂と噴砂が確認された(地質調査所, 1925; 市原市教育委員会, 1982).この地区において,沖積層の分布深度,層序および液状化が生じた層準について検討するため,オールコアボーリング等の地質調査を実施した.本発表では,現時点での予察的な検討結果を報告する.

    調査地と研究手法 千葉県市原市町田は,養老川下流域の河口付近に位置する.関東地震時には,全ての家屋が全潰または半潰し,地面には亀裂が多く現れ砂と水が噴出し,さらに陥没も生じたことが報告されている(地質調査所, 1925; 市原市教育委員会, 1982).当地区内の熊野神社にて,深度35 mまでのオールコアボーリング及び各種検層等を実施した.得られたオールコア試料(GS-IH-1コア)の層相を詳しく観察するため,コアを深度方向に二分割し,東邦化学工業株式会社製のハイセルSAC-100を分割面に染み込ませ剥ぎ取った.これら剥ぎ取り面やコアそのものを観察し,層相区分を行った.液状化層準については,風岡ほか(2003) に基づき,コアの層相に葉理等の初生的堆積構造が見られるかを基準として検討した.

    調査結果と考察 コアの層相観察からは,調査地の沖積層は深度30.93–0.16 mに分布することが推定される.また,層相に基づき下位よりユニット1〜5に細分できる.

     ユニット1(深度30.93–28.45 m)はオリーブ灰色のシルト層とオリーブ黒色の砂礫層の互層から構成される.S波速度は181–265 m/sである.

     ユニット2(深度28.45–25.54 m)は,黒色の泥炭層を主体とし,黒色〜オリーブ黒色の有機質泥層を伴う.S波速度は120–160 m/sである.

     ユニット3(深度25.54–14.87 m)は,しばしば生痕を伴うオリーブ黒色の泥層(一部有機質)を主体とするが,下端付近(深度25.54–24.34 m)及び上部(深度16.34–15.32 m)には砂層が発達する.S波速度は164–222 m/sである.

     ユニット4(深度14.87–5.63 m)は,生物擾乱が強く発達した青黒〜オリーブ黒色のシルト質砂層または砂質シルト層を主体とする.深度12.18–6.42 mには貝殻が含まれる.S波速度は140–204 m/sである.なお,深度5.63–5.58 mの区間はコアが欠如していたため,層相を確認できなかった.

     ユニット5(深度5.58–0.16 m)は,青黒色やオリーブ褐色等の色調を呈する砂層および砂礫層から構成される.大局的には上方細粒化しており,深度5.58–3.31 mでは砂礫層が,深度3.31–0.16 mでは砂層がそれぞれ卓越する.S波速度は140–161 m/sである.

     風岡ほか (2003) によれば,液状化しさらに流動化した地層では,葉理等の初生的堆積構造が消失する.ユニット5の深度5–1 mの区間から,堆積構造がみられない塊状の砂層が複数の層準から見出された.関東地震時には,これらの砂層が液状化し,被害を生じた可能性がある.

     講演では,追加で得られたデータや検討結果についても併せて報告する予定である.

    引用文献

    地質調査所, 1925, 関東地震調査報告 第二, 地質調査所特別報告, 185 p.

    市原市教育委員会, 1982, 市原市史 下巻, 市原市, 718p.

    風岡 修・古野邦雄・香川 淳・楠田 隆・酒井 豊・吉田 剛・加藤晶子・山本真理・高梨祐司, 2011, 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震とその余震による房総半島における液状化-流動化現象 ―東京湾岸地域―, 地質汚染-医療地質-社会地質学会誌, No. 7, 10–21.

    風岡 修・楡井 久・香村一夫・楠田 隆・三田村宗樹, 2003, 液状化・流動化の地層断面-千葉県東方沖地震から-, アーバンクボタ, No. 40, 4–17.

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