日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
選択された号の論文の406件中251~300を表示しています
G2. ジェネラル-サブセッション2 第四紀地質
  • 北村 晃寿
    セッションID: G2-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    2021年7月3日に,静岡県熱海市逢初川の源頭部(標高390 m,海岸から2 ㎞上流)にあった約56,000 m3の盛土のうちの約55,500m3が崩壊して発生した土石流は,死者・行方不明者28人,全・半壊家屋64棟の被害を出した.同様の盛土崩壊は周辺地域では起きていないので,逢初川源頭部の盛土は災害危険性が最大であったこととなる.よって,この盛土の性状の調査は,今年5月27日に公布された「盛土規制法」の実効性の確保と既存の盛土の災害危険性の評価基準の策定に必須の情報を提供する.そこで,著者は共同研究者とともに,静岡県と熱海市の協力の下で,盛土・土石流堆積物の地球科学的研究を行い,次の知見を得た.

     (1)盛土最下端の基底部は含礫砂層(0.1m厚)と亜円礫層(0.4m厚)の累重からなる露頭を発見した.前者の礫は火山岩の角礫である.後者の礫は堆積岩の亜円礫で,礫支持であり,礫間の砂質堆積物は放散虫化石を含む泥岩岩片と有孔虫を含むので,供給源の一部は沿岸堆積物である(北村・山下・本山・中西・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).また,砂質堆積物の含泥率は10%程度なので,亜円礫層の透水性は高いと推定される.

      (2)盛土最下端から約350 m下流の堰堤を埋めた土石流堆積物から海綿骨針を含む泥岩岩片を発見した(北村・矢永・岡嵜・片桐・中西・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).泥岩岩片の産出は,堰堤を埋めた土石流堆積物の供給源が亜円礫層の可能性のあることを示唆し,言い換えると,盛土崩壊の初期の土石流が盛土最下端に由来する可能性を示唆する.

     (3)盛土には褐色の土砂と黒色の土砂があり,前者は熱海周辺の岩体に由来すると考えて良く,一方,後者は現世~中期完新世の沿岸性貝類や古生代末期~中生代の放散虫化石を含むチャート岩片を産するので,供給源の一部は沿岸堆積物や中部完新統海成層で,また後背地にはチャートが分布する(北村, 2022, 第四紀研究, 61; 北村・岡嵜・近藤・渡邊・中西・堀・池田・市村・中川・森, 2022, 静岡大学地研報, 49).これらの粒子組成から盛土の採集地を特定できれば,盛土の力学的性質の推定に最も確実な制約を与える「採集地に残された土砂の土質力学的性質」の情報を得ることができる.

G3. ジェネラル-サブセッション3 環境地質
  • 吉田 剛, 小島 隆宏, 風岡 修
    セッションID: G3-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     千葉県九十九里浜におけるガス湧出地点の堆積構造の例 はじめに千葉県九十九里平野では,「上ガス」と呼ばれる天然ガスの湧出現象が水田や河川で気泡として見られる.このガスは上総層群中の遊離ガスの可能性が高い(楡井ほか,1978;風岡ほか, 2006).また,九十九里浜南半部の潮間帯(前浜)においても天然ガスの湧出が認められている(吉田ほか, 2008, 2009, 2020).ガスの湧出箇所は上述のような水域以外,目視による確認は難しい.

     本発表では九十九里浜においてガス湧出地点の堆積構造を示し,過去の地層中におけるガス湧出痕の可能性の一例として報告する.九十九里平野の表層に分布する潮間帯(前浜)堆積物中,下総層群中の潮間帯(前浜)堆積物中でこの構造を発見できた場合,過去にガス湧出が存在した可能性が高いということができ,計測機器等でガスの存在が認められれば爆発事故や火災等の事故を未然に防ぐ対策が可能となる.

    調査地及び手法

     調査地は千葉県九十九里平野中央部を流れる真亀川の河口より南方約900mの海岸であり,この地点は2007年にガス湧出が原因で起こる潮溜まりの白濁現象が報告されている.ここでは,常にガスが湧出している地点である(吉田ほか,2012).地表面にある径5cmほどのガス湧出孔の周辺をシャベルで掘削し,堆積構造を壊さぬように採取し,その地層断面を観察した.採取した地層試料は,深度25 cm・幅20 cm・奥行き10-15 cmである.湧出しているガスについてはメスシリンダーで捕集し,その流量を測定した.

    調査結果

     ガス湧出地点の地層断面について述べる.地表面で認められるガス湧出孔は,湧出部の中心が濃青灰色を呈している(左図).この湧出孔の地層断面を右図に示す.断面の深度17 cm以深は,還元色を示す濃青灰色の砂が分布し,その上位には地表まで平行なラミナを持つ淡褐灰色砂が重なる.濃青灰色砂部には貝殻破片(ヒメバカガイ・フジノハナガイ;径20 mm以下)の密集部があり,この密集部は淡褐灰色砂の中を貝殻破片の脈となって深度2 cmのところまで伸びている.この貝殻破片脈の幅は3-5 cmであり,そこがガスの流路(脱ガスパイプ)となり貝殻破片脈周辺を還元させ濃青灰色となっている.深度2 cm以浅の淡褐灰色の砂層は,貝殻破片脈を浸食もしくは覆い堆積している.この貝殻破片脈を通り湧出していたガスの流量は毎分約500 mLであった.

    引用文献

     風岡 修ほか,2006,九十九里地域中部における上ガスの発生状況-上ガスに関する地質環境調査結果.地質汚染-医療地質-社会地質学会誌,2,82-91.

     楡井 久・矢田恒晴,1978,天然ガス生産に伴う天然ガス(上ガス)湧出被害と天然ガス湧出現象のメカニズムについて(その2).全国公害研究所会誌,2,53–55.

     吉田 剛ほか,2008,千葉県長生村一松海岸で起きた潮溜まりの白濁現象.第17回環境地質学シンポジウム論文集,17,41–46.

     吉田 剛ほか,2009,天然ガスの湧出する潮溜まりの白濁と色調変化.第19回環境地質学シンポジウム論文集,19,191–196.

     吉田 剛ほか,2012,千葉県九十九里浜の天然ガス(上ガス)の湧出する潮溜まりの白濁現象.地質学雑誌, 118, 172-183.

     吉田剛, 2020, 九十九里浜南半部における潮溜まりの白濁の発生可能性地域.令和元年度年報

  • 藤崎 克博
    セッションID: G3-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    韮山町(2005年に伊豆長岡町・大仁町と合併して伊豆の国市に)の地下水・地盤沈下シミュレーションを1991年に実施した(韮山町,1992).これは1980~1990年を内挿検定期間とし,1991~2001年を予測期間とするものであった.内挿検定期間中の水準点変動量データがなかったため,隣接する函南町の水準点変動量を用いて内挿検定をおこなった.2003年にシミュレーション結果の事後監査をおこなった(藤崎,2003).一点しかデータがないが,水準点K-18の沈下量は1989~1999年で73mmに達し,揚水量増加案の予測値より大きな値を示していた.揚水量は横ばい傾向であったので,計算値は過小な予測をしていたといえよう. 今回,2015年までの水準点変動量データ(静岡県,1992-2017)によって,再び事後監査をおこなった.韮山町北部の水準点K-17では,1989~2002年の実測沈下量は111mmに達し,揚水量増加案の計算値より大きく,検定されたモデルは地盤沈下量について過小評価していたと評価される.韮山町中部の水準点K-18は,上記のとおりモデルは過小評価していた.その西の水準点K-19でも1989~2002年の沈下量は83mmで揚水量増加案を上回り,モデルは過小評価していた.韮山観測井付近の水準点K-20では,1991~2001年の累積計算沈下量が10~40㎜であるのに対して,1992~2015年の実測値は隆起を示していた.ここではモデルは沈下量を過大評価していた.韮山町南部の水準点136-005では,1992~2002年で3㎜の沈下を示し,揚水量減少案の計算値と対応していてモデルは妥当であったと評価される. 函南町の水準点K-13は1980~1988年で隆起していた.水準点K-16は1980~2008年で隆起していた.計算値はいずれも沈下をしており,モデルにおける韮山町の延長で設定した粘土層厚が誤りであったと評価される.K-12は内挿検定に使用した水準点であるので,実測値は計算値とほぼ一致している.伊豆長岡町の水準点K-21では,1994~2005年の沈下量が130mmを越え,計算沈下量は著しく過小評価となっている.K-22では1994~2015年で20mm程度の隆起をしめし,揚水量減少案の計算値に近く,モデルはほぼ妥当であると評価できる. 内挿検定に利用できる地盤沈下量データがわずかであったため,モデルの精度が低く地盤沈下量を過小評価していたことはやむを得ないと考えられる.また,一つの町のデータでモデルを構築するため,粘土層厚などのデータを外周に延長せざるを得ず,そこでもモデルの精度を低下させていた.地下水盆の一部分をモデル化することの限界があらわれている. 参考文献 韮山町,1992,韮山町の自然環境(ビデオテープ).藤崎克博,2003,第13回環境地質学シンポジウム論文集,321-326.静岡県,1992-2017,地下水調査報告書.

  • 古野 邦雄, 香川 淳
    セッションID: G3-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    関東地下水盆の地下水位経年変化:関東地方の各自治体による観測成果はそれぞれの自治体ごとに公表され活用されてきたが,関東地方知事会関東地方公害対策本部地盤沈下部会(1983)が1964年以降の関東地下水盆の地下水位図を発表して以降,同組織が2011年に解散されるまでは同組織により関東地下水盆の地下水位図が適宜公表されてきた.また,同組織が解散した後は筆者らにより随時作成されてきた. それらによれば,1964年の地下水位図では東京の江東地区に-50mTP(TPは標高を意味する)の最も地下水位の低い等値線を中心に盆状の形状となっている.その後,最も低い地下水位等値線は,1971年は,-60mTP,1975年は-40mTP,1980は-30mTP,1984年は-20mTPであり徐々に上昇してきている.その後は大きな変化はなく,渇水時など稀に-30mTPまで低下することもあったが,-20mTPが最も低い等値線であった.地下水位はその後もわずかながら上昇を続け2001年には-10mTPとなった.これ以降は大きな変化はなく,最も低い等値線は-10mTPが続いている.

    2017年と2020年の地下水位の比較:最近の地下水位について2017年7月と2020年7月の関東地下水盆の地下水位図を比較して述べる2017年から2020年にかけて地下水位は全体的にはわずかながら上昇している.最も地下水位が低下している地下水盆の中央部は-10mTPの等値線が見えるがその範囲は縮小している.千葉県佐倉市にあった-10mTPの等値線は消滅した.東京都西部にあった地下水位の高まりを囲んで独立して存在していた+10mTPの等値線は消え,+10mTPの等値線はこの高まりを飲み込む形で東に大きく張り出した形となった.千葉県南西部の0mTPの等値線が消滅した.また,横浜市の地下水位測定の再開により,2020年の横浜市付近の地下水位が明らかとなった.両図から地下水盆の縁辺部の地下水位を見ると,地下水盆北部では群馬県で+90m,栃木県で+70mTP,地下水盆北西部では埼玉県北西部に+60mTP, 地下水盆西部では東京都北西部に+80mTP,地下水盆南東部では千葉県中央部で+50mの等値線が見える. 南関東地方では1970年代に地下水位が上昇しているが,北関東地方では地下水位が低下している観測井もある.

    まとめ 地下水位が最も低下した時期は1971年で-60mTP,その後は南関東地方では上昇を続け,現在は-10mTPに回復している.北関東地域では現在も地下水位が下がったままの地域もあるが全体としては上昇傾向が続いておりその傾向は2020年においても変わらない.関東地方の自治体がそれぞれの自主性を尊重しながら,お互いの情報を交換し合い,共同して調査・研究を進めてきた関東地方知事会環境対策推進本部地盤沈下部会は2011年に解散したままだが,一刻も早い同様組織の再開と関東地下水盆の地下流体資源の持続的な有効活用の検討が望まれる.

    謝辞: 関東地方における地盤沈下観測井・地下水位観測井などのモニタリングの維持管理および観測記録の取りまとめは.各自治体の担当職員,現場において品質の良い現場データ維持管理および計測を担当されている多くの観測員の努力によりなされている.これらの方々に感謝いたします.

    引用文献(参考文献): Nirei. H., and Kunio F., 1986, Development of Quaternary Resources and Environmental Protection, -Status of Underground fluid resources use in the Kanto groundwater basin-, Recent Progress of Quaternary Research in Japan, National Committee for Quaternary Research in Japan, vol.11, Quaternary Research, 71-80.

    楡井久・古野邦雄, 1998, 地下水盆のモニタリング, アーバンクボタ No.27, pp20-26

    関東地方知事会 関東地方公害対策推進本部地盤沈下部会,1983,関東地方広域地下水位等調査報告書 p228

    関東地方知事会 関東地方環境対策推進本部地盤沈下部会,2005,

    関東地方広域地下水位等調査報告書 p124 関東各都県 地盤沈下調査結果報告書, 各年, 関東各都県.

  • 岩井 久美子, 楠田 隆, 田村 嘉之, 瀧 和夫, 中村 正直, 近藤 昭彦
    セッションID: G3-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     印旛沼は千葉県北西部の下総台地のほぼ中央部に位置する面積約11.55k㎡の湖沼である。流域面積は千葉県面積の約1割に相当する約541k㎡(千葉県、2007)で、利根川水系一級河川鹿島川をはじめ、手繰川、師戸川、新川とそれらの支川を含め7河川から構成されている。

     印旛沼流域内の地形地質は、後期更新統下総層群よりなる下総台地と、これらの台地を樹枝状に開析する「谷津」と呼ばれる完新統の谷から成る。流域内の下総台地の標高は約T.P.20~50mで西側に向かって低くなっている。一方、谷埋め低地の標高はT.P.10~40mほどで流域上流側ほど谷が浅くなっている。

     調査地は、印旛沼流域のほぼ西側下流部に位置し印旛沼まで直線距離で約5kmの位置にあり、標高約14m、谷頭部までの奥行き約100m、幅約50mほどの手繰川支川畔田沢に注ぐ枝谷津のひとつである(図-1)。調査地は約20年前まで水田耕作地であったが、現在は放棄され、カサスゲやガマなどの群落がみられる。谷頭部には湧出口が2箇所あり、それぞれ谷津の右岸、左岸の水路を流下しているほか、一方の湧水は谷津低地内に流入し湿地を形成している。

     筆者らは湿地内で湧水中の硝酸性窒素の脱窒による浄化機能を検証し、脱窒機構解明を目的として、2016年7月より調査を開始した。本稿では、谷津低地に設置した観測井の地下水調査より、完新統と更新統の地下水位の変化と水質について報告する。

    2.調査内容

     谷津低地内の水文地質構造を把握するために、ハンドオーガーにより深度3.5mまで地質調査を7箇所で実施した。また、Φ50mmの観測井を谷津低地の完新統に8本(深度GL-1.0、-1.5m、-2.0m、-2.5m各2本)、更新統に1本(深度GL-3.2m)設置し、月1回の頻度で実測による地下水位を測定している。2019年には簡易揚水試験により透水係数を算出した。さらに、2020年より自記記録計(HOBOウォーターレベルロガー)による地下水位の観測を開始した。

     水質測定は、2016年より湧水、観測井、湿地表流水を対象に月1回の頻度でpH、電気伝導率、溶存酸素濃度、酸化還元電位、硝酸性窒素濃度(パックテスト)、二価鉄(パックテスト)、水温の7項目について現地測定を行っている。そのほか、形態別窒素4項目、主要イオン8項目、窒素安定同位体比、酸素安定同位体比の室内分析を行った。

    3.調査結果及び考察

     地質調査の結果、谷津低地は地質調査の結果は下位より凝灰質中砂を主体とする更新統及び軟質で含水が大きい有機質シルトや腐植土を主体とする完新統よりなることを確認した。完新統の層厚は下流に向かって厚くなり、上流部では2.5m、中流部では3.5m以上であった。完新統は全体に暗褐色~黒色を呈し、不均質で連続性は認められなかった。

     現場揚水試験で算出した透水係数は完新統が7.2×10-7~2.31×10-8の値、谷津低地の更新統は5.26×10-7であった。完新統ではGL-2.5m付近で最も透水性が低いことが確認された(図-2)。完新統内の水位の回復は一様ではなく、浅い観測井で相対的に回復が早い傾向がみられたが、完新統内の不均質性に因るものと考える。一方、水位が安定した後、完新統底部に設置した観測井W2-2.5②と更新統の観測井W2の水頭は拮抗して変動しており、両者の水頭の順位交代により更新統と完新統の境界付近で地下水の上下方向の動きが生じているものと想定される。図-2に示した室内分析による主要8イオンのヘキサダイアグラムではW2とW2-2.5②の水質に類似性がみられたことからも推察できる。また、これまでの水質調査により更新統の地下水は硝酸性窒素濃度が高いこと、完新統の地下水は酸化還元電位がGL-2.0~2.5mの範囲で還元的環境にあることを示している(図-2)ことから、完新統と更新統の境界付近で脱窒の場が形成されている可能性がある。

     現在、完新統の透水係数や水質データに欠測があるため、今後はこれらのデータを補完するとともに、谷津の台地から谷津低地までの地下水流動系と脱窒との関連性を明らかにすることが必要であると考える。

    4.謝辞

     本調査はちば環境再生基金の助成事業として実施しました。また土地の立入りや観測井の設置に関して地権者および佐倉市環境保全課のご理解とご協力をいただきました。。ここに関係者の皆様に深く謝意を表します。

    (参考文献)

    千葉県(2007):印旛沼流域情報マップー治水・利水編ー,p5

  • 田村 嘉之
    セッションID: G3-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    産業廃棄物最終処分場の設置については、「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」において技術上の基準が定められている。その基準に地質環境に関係する立地条件はない。その他、「千葉県廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する指導要綱」に廃棄物処理施設の立地等に関する基準がある。その基準のうち、地質に関係する立地環境等としては、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地、地すべり防止区域を含まない等の項目がある。また、地下水などの水環境については、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」で評価するが、立地基準とはなっていない。

    一方、地下水を含む水循環としての法律として、水循環基本法の一部が改正され、令和3年6月16日に公布、施行された。今回の法改正により、地下水の適正な保全及び利用を図るために必要な措置を講ずるよう努める規定が追加された。その他、「水源地域保全条例」、「水道水源保護条例」により規制している自治体があり(一般財団法人地方自治研究機構webサイトhttp://www.rilg.or.jp/htdocs/ の条例の動き参照)、千葉県では、我孫子市、君津市等で「水道水源保護条例」を制定している。条例では、対象となる事業としてゴルフ場、最終処分場等を対象とし、排水基準による規制のみで、立地規制とはなっていない。本発表では千葉県内の産業廃棄物最終処分場を取り巻く地質環境の概況、地質災害との関連性及び埋立地の維持管理上で発生している問題点について述べる。

    概況

    千葉県における産業廃棄物最終処分場は、図-1に示したように9箇所ある(https://www.pref.chiba.lg.jp/haishi/shorigyou/meibo.html)。安定型、管理型の設置位置は、人口密集地である千葉県の東京湾岸、東葛飾でなく、房総半島の南側に集中している。このうち、管理型処分場の立地している地質環境を以下に示す。

    管理型1

    地形:標高215m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場の北側隣接地に地すべり地形がある。

    地質:上総層群黄和田層。地質構造は概ね北西へ20~10度傾斜している単斜構造。処分場北西側と東側には向斜軸、また北西側向斜軸の北側に低角な断層がある。

    水文環境:処分場は湊川に流入する支流である高宕川の上流部である。処分場周辺の水道水源は表流水で、処分場から北西へ約10kmの地区では地下水が水道水源である。

    管理型2

    地形:標高90m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場付近に地すべり地形、急傾斜地の区域はない。

    地質:上総層群梅ヶ瀬層。地質構造は概ね北西へ約12度傾斜している単斜構造。

    水文環境:処分場は小櫃川に流入する支流の最上流部である。また、処分場から北へ約6kmの位置には平成の名水百選の1つである久留里の生きた水として知られる自噴井戸群がある。

    管理型3

    地形:標高58m前後の埋立地。もとは南側に開いた谷地形である。処分場南側には海食崖がある。

    地質:下総層群香取層、犬吠層群名洗層、飯岡層。地質構造は、北西方向へ緩く傾斜している単斜構造で、上位の香取層とは不整合関係にある。

    水文環境:もとは谷地形で、水路が南側に向かっていたと推定される。処分場のある自治体の水道水源は全て表流水である。

    管理型4

    地形:東京湾岸部の標高1m前後の埋立地。

    地質:人工地層。震度5強の地震で処分場のほとんどの場所で液状化として“ややしやすい”と予測されている。

    水文環境:処分場の周囲は東京湾である。処分場は高潮浸水想定区域図より、1.0m~3.0m未満の浸水予測が分布している。また、津波浸水予測図より、房総半島東方沖地震で50~80cm程度の浸水が予測されている。

    管理型処分場の諸問題

    現在、千葉県で稼働している管理型最終処分場のうち、管理型1及び管理型2で、高濃度の塩化物イオンがモニタリング井戸で検出された。

    管理型1は、不透水性の地層である黄和田層を埋立底面とし、人工的に構築した遮水構造物がない状態で、廃棄物の埋立が行われている。モニタリング井戸で高濃度の塩化物イオンが検出された原因は、埋立層中の保有水が黄和田層の火山灰鍵層Kd38が透水性がよいため、火山灰層を経由して処分場外に流出したとされている。現在、埋立地の下流側に揚水井戸を多数設置して、高濃度の塩化物イオンを含む地下水が流出を防止する対策を講じている。

    管理型2は、埋立底面に遮水シート等を人工的に構築した遮水構造と漏洩検知システムも備えている。モニタリング井戸で高濃度の塩化物イオンが検出された原因は、埋立上面から保有水が土堰堤等から埋立地外へ流出したとされている。本事例では一時的な保有水の流出と位置付けられ、モニタリング井戸による継続した水質監視のみで対応している。

  • 川辺 孝幸, 阿部 修, 清野 真人, 高桑 順一, 最上小国川の 清流を守る会
    セッションID: G3-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    近年,「防災と環境の調和」を目指して環境に優しいという触れ込みで「穴あきダム」(流水型ダム;以下,穴あきダムと表記)の建設が各地で進められようとしている(池田ほか,2017).現在までに5基が完成し,4基が建設中,さらに川辺川ダムをはじめ,今後nの治水対策で穴あきダムが選ばれようとしている.

     池田ほか(2017)の穴あきダムのモデル(図1左)では,平常時もしくは常用洪水吐より低い洪水時には,流れはダムが無いのと同じで,常用洪水吐を越える激しい洪水時には,ピークカットして水を貯め,ダム湖ができる.その際,洪水流の土砂や泥はダム湖に堆積するが,ダム湖の水位の低下中の流れで,それらは侵食されてダムから排出され,ダムには堆積物はほとんど残らない.僅かに残った堆積物は人為的に排出する必要がある.

     2020年度に完成した山形県最上郡最上町の最上小国川に建設された穴あきダムの上流域には,約200万年前の赤倉カルデラ湖に堆積した火山ガラスを主体とする非常に淘汰良い火山灰の二次移動堆積物からなる地層が広く分布し,従来から頻繁に崩壊して下流に濁流をもたらしてきた.しかし平均河床勾配が1/77.5と急なため濁流は下流まで一気に流下し,雨が収まると翌日には清流に戻ると言われていた.実際,途中で細粒堆積物がトラップされることは無かった.

     しかし,我々の調査で,ダムができたために河床の状況は一変したことが明らかになった(図右).すなわち,ダム建設中の2019年10月台風19号と2020年1月29日豪雨の際には,いずれもダムの約3.8km上流のヘアピン状の曲流の攻撃斜面で崩壊が起こり高濃度の濁流が流下した.ピークカットでできたダム湖に流れ込むと,粗粒粒子は水中扇状地または三角州を作って堆積する一方で,細粒堆積物は,厚さ5~3mの密度流状の堆積物重力流となって約1.6km下流のダム提体まで,植生の有無によらず,ダム湖底一面に広がって流れ下り,細粒堆積物を沈殿・堆積させた.これにより,ダムからは7~8日の間下流に濁流が流下した.さらに堆積した粒子はその後の降雨で徐々に流出して下流を濁らせる.

     このように,下流での長期の濁りは,ピークカットで水の流れを止めるという穴あきダムの本質に伴い発生する現象であり,穴あきダムは濁りを持続させる点で,環境に優しくないということができる.

    文献:池田ほか(2017)流水型ダム−防災と環境の調和に向けて−.技報堂出版,270p.

  • 髙嶋 洋
    セッションID: G3-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    「人工地層」は人為の働きによって形成される地層と定義される(Nirei,et,al, 2012).人の地質体への働きかけは拡大の一途をたどり,都市地質の主体は人工地層である.さらに,人為による土地改変は都市の地形や水循環を大きく変容させている.

    髙嶋・吉富(2021)は,陸域において形成される盛土アソシエーション(楡井,1995)の発達状況と都市地形の解析を行い,土地改変箇所の地形的上流側や周辺の開発箇所との間において,未開発地などが残され,プール状に地形的凹地が形成される現象を確認した.開発行為では,流水調整はなされるものの,地形的連続性や整合性までは問われない.開発地とそれ以外の土地において,人為的かつ非意図的に不連続な地形的凹地が形成されることから,これを堰き止め地形と定義している(髙嶋・吉富, 2021).

    盛土アソシエーションは,それぞれ盛土の目的に合致した盛土材で形成されるが,形成された人工地層の層序及び層相の観察から,人の意図を判別するのは,極めて難しい.しかし,航空写真や現場報告書などの記録に残る特性を有しており,「人が作成した情報」を活用することにより,解析が可能である(髙嶋・楡井, 2019).一方,直径数mの地下浸透池と30haを超える堰き止め地形の形成では,施工方法や期間も大きく異なり,開発の規模や目的によって,地層の形状や層相に違いが発生することが想定される.そこで,堰き止め地形の航空写真判読を実施し,地層の形成過程の検証を行った.解析時間スケールは,航空写真が撮影された数年~10年オーダーの変化である.

    千葉県野田市では,下総層群の洪積台地に発達した谷津低地の河川接続部において,高規格堤防が建設され,堰き止め地形が形成されている(髙嶋・吉富, 2021).高規格堤防は北側の座生地区が1995年に,また南側の堤台地区が2002年に開発が開始され,それぞれ1998年,2004年に完了している.堤台地区では,1995年に水路沿いの道路部分に盛土され,2002年に全面で盛土が開始されている.また,この間,地下化される堤台幹線が掘削され,構築された.盛土の際は,転圧をかけるため,施工区ごとに何層もの転圧層が形成されたと推定される.なお,隣接する座生地区の盛土アソシエーションの一部は,2002年の盛土で覆われている.開発区域外との関係は,敷地境界で仕切る場合と旧地形面にかぶせる形態が存在するものと考えられた.

    一方,鹿児島県霧島市の国分平野の調査地では,1946年以前に天降川の旧河道低地を東西に横断する形で,調査地北側に日豊本線の線路が,また,西側には農業用水路が,南北に続く盛土アソシエーション上に構築された.南側の県道は1970年から1975年までの間に3期にわたり盛土して直線化された.農業用水路の西側の天降川との間では,1970年代から造成が開始され,水路の付け替え工事ののち,北側隣接地では圃場整備が行われた.1975年より盛土と共に大規模工場が建設され,1978年には工場の東側隣接地でも盛土が実施された.これにより,工場敷地から農業用水路まで一体化されている.1989年には,工場北側の圃場整備地も含めすべて工場敷地として造成されている.一方,1970年以降,県道両脇では,沿道サービスの開発が行われた.このため,盛土アソシエーションは細かなパッチワーク状に広がっている(吉富他, 2021). いずれの開発においても,開発の対象となる土地の区割りに基づき,盛土が実施されるため,パッチワーク状に人工地層が形成されることが判明した.

    楡井 久, 鈴木喜計, 佐藤賢司, 古野邦雄, 1995, 地質環境における新しい単元の形成, URBAN KUBOTA 34, 2-9.

    Nirei, H., Furuno, K., Osamu, K., Marker, B. & Satkunas, J. 2012. Classification of man made strata for assessment of geopollution. Episodes, 35, 333-336.

    高嶋 洋・楡井 久,2019,人工地層の観察と人為堆積物との比較による層序特性, 第29回社会地質学シンポジウム論文集, 149-152.

    高嶋 洋・吉冨 邑弥, 2021, 人工地層による堰き止め地形, 第31回社会地質学シンポジウム論文集,59-62.

    吉冨 邑弥・田中 龍児・高嶋 洋, 2021, 霧島市国分野口地区における人工地層の発達過程と堰き止め地形, 第31回社会地質学シンポジウム論文集,63-66.

  • 風岡 修, 小島 隆宏, 荻津 達, 香川 淳, 八武崎 寿史, 伊藤 直人, 吉田 剛
    セッションID: G3-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:

     2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の際,東京湾岸埋立地北部では斑状の液状化-流動化に伴う地盤の沈下が多数発生した.この中には,被害から10年経た現在でも地盤の沈下が継続し,地表の変形が進んでいる部分が存在する.その中の浦安市高洲9丁目にて地質調査を行った結果を述べる.

     調査地付近では,東日本大震災直後2011年3月~4月の地表調査により,液状化-流動化に伴い45~80cmの建築物の抜け上がりがみられていた(千葉県環境研究センター,2011).その後,グーグルアースの時系列航空写真によれば,2012年4月にはそれらの敷地全体は平らに補修されたが,2016年12月には再び抜け上がりがみられるようになった.2022年3月の実測では,17~18cmにも及んでいる.

     オールコアボーリングは抜け上がりがみられた施設から約6m離れた場所(北緯35度37分46秒,東経139度55分3秒,標高3.0m)で深度22.45mまで行った.また,この周囲で4mから8m間隔に動的コーン貫入試験(斜面調査用簡易貫入試験)を深度約9~10mまで行った.

    地層構成:

     深度9.58mに人自不整合があり,これより上位は人工地層,下位は沖積層である.

    沖積層は,層相上,下部(深度17.93m以深)・中部(深度17.93~11.24m)・上部(11.24~9.58m)に細分され,下部は厚さ0.5~7cmの極細粒砂~細粒砂層をまれに挟む黒褐~灰オリーブ色のシルト層,中部は厚さ0.2~1.4mの灰オリーブ色の極細粒砂~細粒砂層と厚さ0.1~0.8mの黒褐~暗灰黄色の泥勝ち砂泥互層との交互層,上部は生痕が多くみられる灰オリーブ~オリーブ黒色の極細粒砂~中粒砂層から構成される.

     中部の厚さ0.2m以上の砂層の一部では斜交葉理が不明瞭ないし変形がみられ,これ以外の砂層の多くは斜交葉理が明瞭にみられる.

    人工地層は,深度0.69mを境にこの上位が盛土アソシエーション,下位が埋立アソシエーションである.

    埋立アソシエーションは,砂層からなる最下部バンドル(深度9.58~8.50m),泥層からなる下部バンドル(深度8.50~7.67m),細粒砂層主体の中部バンドル(深度7.67~4.58m),泥層主体で砂層を挟む上部バンドル(深度4.58~2.00m),貝殻質砂層主体の最上部バンドル(深度2.00~0.69m)から構成される.

     最下部バンドルは,オリーブ黒色の塊状の中粒砂層から構成され,硬さはNc=15~30(簡易貫入試験値を以後「Nc=」と略す)とゆるい~中位である.下部バンドルは,灰オリーブ色の泥層から構成され,硬さはNc=6~10と軟らかい~中位である.中部バンドルは,厚さ約0.1mのシルト層をしばしば挟む灰色の極細粒砂~細粒砂層を主体とする.砂層は泥質で,塊状ないし葉理が不明瞭であり変形を伴う.下半部は塊状な砂層が優勢でNc=6~10と非常にゆるい.上半部は葉理が不明瞭な砂層が多くNc=6~15とゆるい場合が多い.上部バンドルは,灰黄褐~暗灰黄色の泥層を主とし,厚さ0.3~1mの灰色の細粒~中粒砂層を挟む.砂層中の葉理は不明瞭ないしほぼ消失している.泥層はNc=3~6と非常にやわらかい~やわらかい.砂層はNc=6~20と非常にゆるい~ゆるい.最上部バンドルは,シルト礫や貝殻片を含む黄褐~オリーブ褐色ないし灰色の葉理がみられる細粒砂~中粒砂層から構成される.硬さはNc=5~15と非常にゆるい~ゆるいが,側方で貝殻片を多く含みNc=25~40となる.地下水面は本層中の深度約1.5mである.

    盛土アソシエーションは,灰色の砕石層と黄褐~にぶい黄色の細粒砂層ないし極粗粒砂層との互層である.硬さはNc=10~25とゆるい~中位である.

    液状化-流動化に関して:

     液状化-流動化の判定は,風岡ほか(1994)・風岡(2003)に基づき,地層断面における初生的な堆積構造の状態により判断した.埋立アソシエーションの最下部・中部・上部バンドルの砂層の大部分では,葉理が不明瞭ないし消失していることから,この部分が液状化-流動化したものと考えられる.特に,中部バンドルの下半部の砂層は現在でも非常にゆるく,この上位の厚い泥層である難透水層により,地震時に上昇した間隙水圧の減衰速度が規制され,沈下が継続している可能性が考えられる.

    引用文献:

    千葉県環境研究センター,2011,千葉県環境研究センター報告,G-8, 3-1~3-25.

    風岡 修・楠田 隆・香村一夫・楡井 久・佐藤賢司・原 雄・古野邦雄・香川 淳・森崎正昭,1994,日本地質学会第101年総会・討論会 講演要旨,125-126.

    風岡 修,2003,液状化・流動化の地層断面.アーバンクボタ40号,5-13.

  • 笹尾 英嗣, 村上 裕晃, 尾崎 裕介, 湯口 貴史
    セッションID: G3-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     地下深部では,物質移動経路周辺の母岩への元素のマトリクス拡散や収着により,物質の希釈や移動の遅延が起こるため,マトリクス拡散の理解は重要な課題の一つである。

     岐阜県南東部に分布する土岐花崗岩では,岩石ブロックを用いた拡散試験が行われ,岩石ブロックの中心部に設置されたトレーサー添加孔にウラニン(フルオレセンナトリウム)を添加してから約13か月後にトレーサー添加孔から数十mm の範囲でウラニンが分布すること,ウラニンは主に斜長石内部で認められることが明らかにされている(石橋ほか,2016)。この結果は,鉱物内部の微小空隙が数cm以上にわたって連結することを示唆する。

     土岐花崗岩では,主に斜長石とカリ長石の内部に微小空隙が見出されている(Yuguchi et al., 2019,2022)。そこで,鉱物中の微小空隙が物質移動特性に及ぼす影響を明らかにするための最初のステップとして,空隙率測定と透過拡散試験を行った。本発表では,その結果を報告する。

    実施内容

     本研究では,岐阜県瑞浪市に所在した瑞浪超深地層研究所の換気立坑に沿って掘削されたボーリングコア,13試料を使用した。試料は地表からの深度約200m~約530mの範囲のもので,すべて土岐花崗岩である。空隙率測定と透過拡散試験には,採取したコアから直径25mm,厚さ5mmの円盤状に加工・研磨した試料を使用した。

     空隙率は,山口ほか(1999)に従い,水飽和法で測定した。

     透過拡散試験では,アクリル製の試料ホルダーにエポキシ樹脂を用いて測定試料を固定した後,試料ホルダーの両側に2つの容器(高濃度側リザーバー・低濃度側リザーバー)を密着させた。高濃度側リザーバーにはトレーサーとして塩化ルビジウム(RbCl)・塩化バリウム(BaCl2)を各1mmol/Lとウラニンを500mg/Lを含む溶液を, 低濃度リザーバーには超純水を各々約100 mL満たした。試験中の濃度変化は,低濃度側リザーバーから5mL溶液を分取し,ウラニン,Ba,Rb,Clの濃度測定により把握した。なお,低濃度リザーバーから溶液を分取した後は水頭差が出ないよう,超純水を5mL添加し,希釈されたトレーサー濃度は計算で補正した。透過拡散試験は151日間(3623時間)行い,この間に12回,溶液を採取した。

    結果

     透過拡散試験の結果から得られた低濃度側リザーバーの各トレーサーの濃度変化を1次元有限差分法で計算し,計算結果と観測結果の誤差を最小化することで実効拡散係数Deと収着容量αを算出した。誤差の最小化処理はNelder-Mead法(Nelder and Mead 1965)に基づいた.

     各トレーサーのDeの平均値は以下の通りとなった(括弧内は最小値と最大値を示す);ウラニン:3.0×10-13(3.5×10-14~1.1×10-12),Ba:3.7×10-13(1.0×10-13~1.0×10-12),Rb:1.3×10-12(4.4×10-13~2.3×10-12),Cl:8.6×10-13(2.6×10-13~1.9×10-12)。また,αの平均値は以下の通りである;ウラニン:0.003(0.00002~0.02),Ba:0.44(0.00001~0.92),Rb:0.53(0.00002~1.33),Cl:0.001(0.00001~0.02)。

     この結果,ウラニンのDeが比較的小さく,RbのDeは比較的大きいことがわかった。また,αについては陽イオンで大きく,ウラニンと陰イオンで小さい。陽イオンのαが高いのは,微小空隙周辺に収着されることによる陽イオン加速の効果のためと考えられる。また,陰イオンのαが低いのは,微小空隙周辺に収着されず,かつ鉱物表面の電気二重層表面が負に帯電していることによる陰イオン排除効果のためと考えられる。

     一方で,空隙率とDeやαとの間には相関は認められなかった。この点については,今後,鉱物レベルでの空隙の分布や連続性を調査し,鉱物中の微小空隙と物質移行の関係を検討する予定としている。

     本研究はJSPS科研費21H01865の助成を受けたものです。また,元素分析は原子力機構東濃地科学センター年代測定技術開発グループの皆様にお願いしました。ここに記して感謝します。

    文献

    石橋ほか(2016)原子力バックエンド研究,23,121–130.

    Nelder and Mead(1965)Comput. J.,7,308–313.

    山口ほか(1999)放射性廃棄物研究,3,99–107.

    Yuguchi, et al.(2019)Am. Mineral.,104,536–556.

    Yuguchi, et al.(2022)Am. Mineral.,107,476–488.

  • 川村 淳, 賈 華, 小泉 由起子, 丹羽 正和, 梅田 浩司
    セッションID: G3-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【背景・目的】

     高レベル放射性廃棄物の地層処分事業や安全規制において、地層処分のサイト選定や安全評価における重要な火山・火成活動に関する調査・評価技術における課題の一つとして、マグマの影響範囲を把握するための技術の高度化が挙げられる。特に岩脈の発達が第四紀火山の中心から半径15 km(科学的特性マップにおける好ましくない範囲の基準)以上に及ぶ場合のデータの蓄積が求められるが、現存の火山体下に伏在している火道やそこから派生している岩脈の分布を把握することは現実的に困難である。そのため西山ほか(2022)などでは、火山体が中心火道とそこから放射状に伸びる岩脈の分布を反映しているといった仮定のもと、地理情報システム(GIS)を用いた数値標高データの解析により、岩脈分布のモデル化および火道安定性評価の検討している。しかしながら、本検討では解析の範囲を火山体に限定しているため、火山体を超えた岩脈についてはモデル化や評価ができないという問題がある。

     野外で地質踏査をすると、第四紀火山から離れた場所でも小規模ながら岩脈が貫入している露頭が見つかることがある。このような岩脈が近傍の第四紀火山に関連するかどうかは、岩脈の広がりを評価するうえで重要となる。そこで我々は、産業技術総合研究所発行の地質図幅が丹念な地表踏査の結果を記載したものとして着目し、地質図幅から「岩脈類」を抽出し、周辺の第四紀火山との関連性について評価を試みた。本試みは昨年度から実施しており(川村ほか,2021)、本報告はそれの続報である。

    【実施内容】

     昨年度に引き続き、中国、四国地方及び北海道南部渡島半島の20万分の1の地質図幅を使用した。抽出対象とした「岩脈」は図幅の凡例にある「寄生火山」、「貫入岩」、「岩頸」、「岩脈」及び「岩床」を対象とした。データ抽出作業としては、岩脈の分布についてはデジタルでトレースを行い、GISデータを作成して白地図上に整理したうえで、「位置(緯度・経度)」、「サイズ(長径・短径など)」、「時代」、「岩型」、「岩脈が貫入している地層名、時代」及び「最寄り火山の火山名、火口からの距離」のデータを抽出した。また、中国、四国地方では古い火山活動の痕跡であるコールドロンが存在しており、それらの位置を文献情報に基づきGIS化するとともに「最寄りコールドロン名、コールドロン重心からの距離」もデータ化した。

    【結果】

     抽出された火山岩岩脈等の数は、中国地方593、四国地方228及び北海道南部渡島半島308であった。全体的には岩脈の長軸長は1 km未満のものが半数以上を占め、2 km未満まで含めると80%を超える。10 kmを超える岩脈もあるが、これはコールドロンの外周に分布しているものである。すなわち過去に形成された火山の地下部の痕跡であると考えられ、活動当時に火山近傍に形成されたものであり、火山から離れた場所に形成されたものではない。

     これら3地域において地表に露出している第四紀の岩脈分布は第四紀火山から10 km以内に限られる。第四紀よりも古い岩脈については、第四紀火山と岩脈との距離、その方位と岩脈の伸長方向のなす角の関係を検討し、第四紀よりも古い岩脈と第四紀火山との関係性は低いと考えられた。

     四国の石鎚コールドロンを事例として、先第四紀(新第三紀)の火山活動と、それと関連するとされている岩脈との距離についても検討した。その結果、石鎚コールドロンの場合、関連する岩脈との距離は最大で5 km程度であることが示された。一方、中国地方の吉備高原に分布するアルカリ玄武岩の岩鐘群を事例としそれらの分布についても検討した結果、岩鐘の分布は活動の中心点から概ね15kmの範囲内であることが分かった。このような検討は、火山活動に伴う岩脈の進展の程度が、古い火山活動においても第四紀火山と同様であったかどうかを把握する上で重要であると考えられる。

     以上のように、中国地方、四国地方及び北海道南西部を事例対象として進めてきた岩脈情報の網羅的な収集及びそれらを用いた統計的な検討は、処分事業においてマグマの影響範囲を調査・評価する上での基礎情報としても有益であると考えられる。例えば、既存の火山の将来的な発達や、新規火山の発生に係る評価を行う際に、岩脈形成に関する地球物理学的モデルの構築や岩脈分布の確率論的な評価を行う際に有用となり得る。

    【参考文献】

    西山ほか,JpGU2022講演要旨,HCG24-01,2022.

    川村ほか,日本地質学会第128年学術大会要旨,R23-P-1,2021.

    謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

  • 松井 みのり, 梅田 浩司
    セッションID: G3-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    火山活動の中・長期的予測は,主に地質学的な手法が用いられており,対象とする火山の詳細な噴火史や噴火間隔と噴出量の規則性から(例えば,噴出量階段図),次の噴火の時期や規模の予測が行われている.同様のアプローチが原子力発電所に及ぼす火山活動の影響評価に用いられている.「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(NRA,2013)によると,更新世に活動した火山のうち,最後の活動終了からの期間が,過去の最大休止期間より長い場合には,将来の活動可能性が十分に小さいと評価している.一方で,このガイドには数値基準が示されておらず,曖昧かつ恣意的な方法であるといった指摘もある(例えば,小山,2015).そのため,本研究ではNRAの火山影響評価ガイドの評価手法を日本列島の第四紀火山に適用し,どのような火山の活動可能性が十分に低いと評価されるかの検討を行った.実際の火山にこの評価を適用する場合,対象とする火山の詳細な噴火史の情報が限られる場合が多く,過去の最大休止期間を決めるための噴出量階段図がまとめられている日本列島の火山は56火山のみである(山元,2014).一方,過去の最大休止期間は,その火山の全体の活動期間を超えることはないことから,活動期間を最大休止期間と保守的に見做すことができる.今回は,活動期間と最終活動年代から現在までの期間を比較することにより,火山の活動可能性を評価した.なお,活動期間(活動開始年代と最終活動年代の差)は,「第四紀噴火・貫入活動データーベース」(AIST,2014)のうち年代信頼度Aで活動期間が計算できる307火山を対象とした.活動期間の最大は隠岐道後の238万年,最小は昭和新山の0.005万年,平均値は42.6万年,中央値は30万年であった.また,最終活動年代から現在までの期間が活動期間を上回るのが179火山,下回るのが128火山であった(図).このことから,対象の307火山の58%は,活動可能性が十分低い火山と評価された.活動可能性の高い火山と低い火山について,現在のマグマ活動を反映すると考えられる低周波地震の発生状況の違いを検討した.低周波地震のデータは,気象庁一元化震源カタログの低周波イベントのフラグのデータ(1997~2021年)を使用した.これによると,活動可能性が高いと評価された火山の近傍では,低周波地震が発生していること多いのに対して,活動可能性の低い火山の周辺には地震活動が殆ど認められなかった.

    (引用文献) 原子力規制委員会(2013)原子力発電所の火山影響評価ガイド,26p.;小山真人(2015)原子力発電所の「新規制基準」とその適合性審査における火山影響評価の問題点,科学,85,182-193.;山元孝広(2014)日本の主要第四紀火山の積算マグマ噴出量階段図,地質調査総合センター資料集,no.613.;産業技術総合研究所地質調査総合センター(2014)第四紀噴火・貫入活動データーベース,https://gbank.gsj.jp/quatigneous/index_qvir.php

  • 竹内 真司, 後藤 慧, 中村 祥子, 吉田 英一
    セッションID: G3-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     近年の研究により,炭酸塩コンクリーションは海底堆積物中に埋没した生物遺骸から拡散した有機酸と海水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応により,数年~数十年という地質学的に極めて短期間で形成された(Yoshida et al., 2015など).このコンクリーションは形成後,数万年~数千万年の長期間に渡って安定的に存在することから,この特性を地下構造物の亀裂などの空隙構造へのシーリングに応用することが検討されている.しかし,シーリング機能を工学的観点から評価する上で重要な水理・力学特性が検討された事例はほとんどない.そこで本研究では,天然の炭酸塩コンクリーションを用いて,透水特性や硬度特性に関する検討を行なった.対象とした試料は,神奈川県三浦半島に分布する前~中期中新世の葉山層群および岐阜県瑞浪市に分布する中新世瑞浪層群から採取した炭酸塩コンクリーションである.対象地域の葉山層群は付加体で(Yamamoto et al.,2017)),瑞浪層群は内湾性の環境で(入月・細山,2006),それぞれ形成されたと考えられている.

    2.試験方法

     水理特性は,空隙率測定と変水位透水試験により行なった.空隙率測定は,岩石片試料の乾燥重量と湿潤重量及び体積を測定することで算出した.また,変水位透水試験は,コンクリーション部と周辺母岩部の試料を直径5cm,厚さ約3cmの円筒形に成型し,JIS A 1218に準拠して実施した. 力学特性は,Proceq社のエコーチップ硬さ試験装置(EQUITIP3®)を用いた.この装置は超鋼製のボールチップの試料表面への打撃速度と跳ね返り速度の比から硬度(HL値)を求めるものであり,HL値は一軸圧縮強度と相関性を有する(川崎ほか,2002).

    3.実施結果

    3-1.水理特性

    (1) 空隙率: 採取したコンクリーションおよび周辺母岩の空隙率を測定した結果,葉山層群のコンクリーションの空隙率は1.5~2.0%,周辺母岩は45~55%であった.また,瑞浪層群のコンクリーションは3.0~8.0%,周辺母岩では30~40%であった.コンクリーション部は周辺母岩よりも一桁程度低い空隙率を示しており,緻密であることが分かる.

    (2) 室内透水試験 :変水透水試験の結果,葉山層群中の軟質のコンクリーションの透水係数は約8.0×10-8(m/s)であり,コンクリーションの周辺母岩の透水係数は約2.0×10-7(m/s)であった.また,葉山層群中の硬質のコンクリーションは,2.0~3.5×10-9(m/s)の透水係数を示した.一方,瑞浪層群のコンクリーションは,9.5×10-10~8.5×10-9(m/s)の値を示した.

    3-2.硬度測定

     エコーチップでの硬度測定の結果,全ての試料においてコンクリーション中心部から同外縁部,さらには周辺母岩部に向けて硬度(HL値)が低下する傾向を示した.また,個々の試料におけるコンクリーション部のHL値は概ね同等の値を示した.さらに硬質のコンクリーションでは両地域で同程度のHL値(700~800)を示した.

    4まとめ

     中新統の葉山層群および瑞浪層群中のコンクリーションと周辺母岩を対象に,水理・力学特性について検討した結果,コンクリーション部の空隙率,透水係数,硬度は一部の軟質の試料を除けば両層群ともに同程度で,周辺母岩と比較して透水係数,間隙率は低く,硬度はより高いことが明らかとなった.両層はほぼ同じ地質年代で,付加体と内湾性の堆積物という形成環境の違いはあるものの水理・力学特性に関わる物性値は同程度であることから,生命体の死滅後,短期間で硬化したコンクリーションは堆積環境やその後の変形作用の影響を大きく受けることなく,長期間にわたって安定的に存在したことを示唆している.この特性は,コンクリーションの長期間のシーリング性能の健全性を工学的に評価する上で重要な知見である.

    文献)

    入月俊明・細山光也(2006)日本地方地質誌4 中部方,pp.368-369,朝倉書店.

    Yamamoto Y. et al.(2017) Techtonophysics, 710, pp81-87.

    川崎 了ほか(2004)応用地質,43, 4 ,pp.244-248.

    Yoshida H. et al.(2015) Scientific Reports, doi:10.1038/srep14123.

  • 吉田 英一, 山本 鋼志, 刈茅 孝一, 松井 裕哉
    セッションID: G3-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

    球状コンクリーションには,鉄やシリカ,炭酸塩(カルサイトやドロマイト)を主成分とするものがある.その中でも炭酸カルシウムを主成分とする球状岩塊は,世界中の数億年〜完新世までの海性堆積岩中から発見され,そのサイズは数センチ〜数メートルと様々である.この炭酸カルシウムを主成分とするコンクリーションは非常に緻密で,地表に露出した後も風化に耐え,内部の化石も新鮮な状態のまま保持されていることが多い.このような産状や特徴を有するコンクリーションの成因・形成速度を明らかにすることを目的に,国内外の数百に及ぶ試料を用いて,産状や形態,化学成分などの調査・分析を進めてきた.その結果,球状コンクリーションは,未固結の海底堆積物中において,炭素起源となる生物を取り巻くようにコンクリーションが内部から外へと急速な反応(数ヶ月〜数年)で成長することが明らかとなってきた(例えばYoshida et al., 2018; 吉田, 2022).

    2.コンクリーションの工学的評価

    このようなコンクリーション化プロセスを工学的に応用することを目的に,天然のコンクリーションの緻密性,力学特性,透水性などの工学的評価と人工的にコンクリーション化を促進させるコンクリーション化材の開発を進めている.工学的評価に関してはこれまでの測定結果から,以下のことが分かってきた.まずコンクリーション部分に含まれる炭酸カルシウムの量は,周辺地層の約10〜20倍の50〜60wt%である.この割合は,ほとんどのコンクリーションに共通した値である.またこの割合は,海底堆積物(未固結)の初期空隙率に近く,コンクリーションが未固結堆積物中で形成されたことと整合的である.またコンクリーションの空隙率は,古い地質時代のコンクリーションほど低い値を示す傾向があるものの,完新世のコンクリーションにおいても5%程度であり,炭酸カルシウムの濃集・沈殿が速やかに進行したことを示す.また,透水係数も10-12m/s オーダーと花崗岩に匹敵するものが認められる.炭酸カルシウム(カルサイト:CaCO3)を主成分とする球状コンクリーション中の化石が保存良好なのは,微細なカルサイト結晶の空隙内での急速な沈殿によって,堆積物の細かい隙間まで充填・シーリングされることで外部との化学反応が抑制され,物質循環的に隔離されるためと考えられる.

    3.コンクリーション化剤の開発と原位置実証試験

    人工的コンクリーション化材の開発については,地下岩盤中での水みちなどの空隙をシーリングさせるための‘コンクリーション化剤(コンクリーションシード(略称コンシード))’を積水化学工業と共同で開発してきた(特願第6889508号).このコンクリーション化剤の利点・特徴は;1)従来の物理的圧入法と異なり,元素の拡散・沈殿によりミクロンオーダー以下の微細な空隙もシーリングが可能であること2)元素の拡散によるシーリングであることから,地下水の(高)間隙水圧の影響を受けないこと3)地下水中の自然由来の重炭酸イオンやカルシウムイオンも活用可能であり,持続的かつ長期的なシーリングが可能,という点である. 開発したコンクリーション化剤を用いた実証試験を,日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)において現在実施中である.実験は,地下350mの試験坑道において,地下坑道掘削に伴う岩盤の破壊領域(掘削損傷領域:EDZ)部分を対象とし、コンクリーション化剤によるシーリング効果を確認するために,坑道壁面や底盤から深さ1〜2mのボーリングを複数本掘削し,そのうちの1本を透水性変化のモニター孔として残し,他のボーリング孔にコンクリーション化剤を注入し,時間経過と共にどのように水みちが閉塞されていくのかの変化をモニターするものである.その最新の結果として,地下坑道周辺の掘削に伴い生じたEDZの透水性が,これまでに約2オーダー以上低下し,周辺母岩とほぼ同様の透水性にまで改善されつつあることが確認された.今後,さらに実証研究を進めるとともに,将来的には,岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちの止水対策や,既存トンネルの修復に用いられるグラウト技術の代替策として,さらにはCCSや石油廃孔の長期シーリングなどへの適用性も検討する計画である.なお,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地層処分施設閉鎖技術確証試験)」の成果の一部である.

    文献1) Yoshida,H. et al., (2018) Scientific Reports,doi.org/10.1038/s41598-018-24205-5.2) 吉田英一 (2022) 球状コンクリーションの理解と応用, 地質学雑誌(印刷中).

G4(口頭). ジェネラル-サブセッション4 地学教育・研究史
  • 矢島 道子
    セッションID: G4-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    脇水は慶応3(1867)年、維新の前年に大垣藩士の家に生まれた。大垣は各界に名だたる学者を輩出、「博士の町」と呼ばれたようだが、彼もその一人に数えられよう。美濃地方は松井直吉はじめ、関谷清景、安藤伊三次郎等、多くの地球科学者を輩出している。明治26(1893)年帝国大学理科大学地質学科を卒業。卒論は東北地方の岩石の研究"On the Geology of Oshima, Rikuzen, with Special Reference to its Eruptives"。新設の帝国大学農科大学に土壌学教官として就職した。2年間の海外留学で、オーストリアとイタリアを択び、森林土壌学と砂防治水を学んで帰国した。大正8年(1919)年に理学博士の学位を得ている 昭和3(1928)年東京大学退官後は駒澤大学の地理学教室の教授となり、文部省の史跡名勝天然記念物の調査にかかわり、国立公園の審議にも携わった。 日本の地質学界は2008年ころから、地質の日制定、日本にジオパークをつくるという動きがあり、この動きの中から深田研ジオ鉄普及委員会という活動も生まれてきた。脇水の『車窓から観た自然界』がジオ鉄の元祖ではないかと思える。なぜ『車窓から観た自然界』という考えが生まれたのだろうか。脇水は「旅行の時、車窓から見る自然界をとてもおもしろく思い、見飽きない」と自序に書いている。この発言はどこから生まれたのだろうか。 『車窓から観た自然界』は、特に『山陽道』のほうは死後出版だが、若いころ学んだ地質学の上に、土壌学が載り、そして諸外国の地形を視察後に天然記念物、国立公園制定にかかわったことが大きく関係していると思われる。地質学出身で地形学、地理学に興味が動いていくのはそんなに珍しいことではない。しかし、脇水のそれは大衆的である。 脇水の集めた土壌標本は現在でも東京大学農学部に保存されている。そして、脇水の集めた地質標本も埼玉県立自然史博物館に所蔵されている。

    (文献)

    脇水鐵五郎『車窓から観た自然界』誠文堂新光社 1942年

  • 宮下 敦
    セッションID: G4-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    戦前の鉱物・岩石・地質学に関する教育は,講義形式で暗記を主体とした博物学であった.しかし,東北帝国大学理科大学地質学教室において神津淑祐(1880-1955)の薫陶を受けた福田 連(むらじ, 1885-1969)は,1925年設立の旧制成蹊高等学校において,独自に鉱物・岩石・地質学の教材を開発し,実験観察を中心とした地学教育を実践していた.

     成蹊学園は,日本が西欧と肩を並べて発展するため,優秀な科学技術者養成の必要性を認め,理化館と呼ばれる理数系専用講義棟を建築し,ドイツ製偏光顕微鏡やクランツ標本など旧帝国大学教室に匹敵する機材を整備して,福田を支援した.また,福田の助手であった地理学者で地形模型製作者の西村健二(1906-1959)は,精密な教育用立体地形模型を数多く制作し,これも地形学・地質学の授業に組み込まれた.この授業を受けた旧制高校生からは,鉱床学の立見辰雄(1916-1997)など,多くの地質学者や地質技術者が輩出した.

     福田は,これらの教材を「実験鉱物地質学Ⅰ(福田,1932)と実験鉱物地質学Ⅱ(福田,1940)という書籍にまとめて公表したが,当時の地学教育関係者には受け入れられなかったと見られ,現在の地学教育史においても,ほとんど取り上げられることがない.これは,神津の実験的な岩石学・鉱物学が,当時は理解されにくかったこと共通性があると考えられる.

     福田は,第二次世界大戦前に満州帝国国務院大陸科学院地質調査所所長に転じ,戦後は民間企業でエンジニアとしてショットピーニング技術の研究と普及に努め,教育界に戻ることはなかった.新制となった成蹊中学高等学校では,内田信夫(1920-2015)らにより,実物を用いたり,手を動かして地形を解析したりすることを通じて,生徒たちが主体的に学ぶ教材として福田らの遺産が受け継がれ,現在に至っている.

    福田 連, (1932), 実験鉱物地質学Ⅰ, 昭晃堂,362頁.

    福田 連,(1940), 実験鉱物地質学Ⅱ, 昭晃堂,212頁

  • 加藤 潔, 阿部 葉子, 岡田 志織, 石橋 文人, 田口 凌太
    セッションID: G4-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    [はじめに]埼玉県飯能市入間川上流の飯能河原は,飯能駅や聖望学園から近く,徒歩で簡単にアプローチできる場所である.聖望学園では,数年前から全教科でiPadを使った授業が行われている.聖望学園の格別なご協力を得て,生徒たちから有志を募ってiPadを使った飯能河原の礫を調査させる実習を何度か行おうとした(2021年7月〜11月).残念ながら,コロナ禍などで実現しなかったが,著者らは教員研修をかねてこの教材を使って飯能河原の礫の調査を行った.本稿では,地域地質を活かした教材として, iPadを使った作成例・実践例を紹介するとともに,調査結果を基に,礫の供給源について考察する.

    [地形]飯能河原は,関東山地と関東平野のほぼ境界に位置する.東方では,関東山地から関東平野に向かって,高麗丘陵(飯能丘陵)と加治丘陵(阿須山丘陵)が半島状に突き出し,それらにはさまれて,台地と低地が形成されている.

    [地質]飯能河原の西方(関東山地東部)には,主に,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体が分布する(例えば,Hisada, 1983;指田,1992).また,その秩父累帯中軸付近には,周辺の付加体とは異なる黒瀬川岩石と考えられる地質体が点々と露出する(例えば,島村ほか,2003;加藤,2016;加藤,2017).飯能河原の露頭や河床には,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体中の緑色岩,チャート,砂岩が露出する.

     飯能河原の東方の丘陵には,秩父累帯のジュラ紀―白亜紀前期の付加体の上に乗る前弧海盆堆積物である上総層群相当層の飯能(礫)層・仏子層・多摩ローム層が分布する(例えば,竹越ほか,1979;庄田ほか,2018).また,台地には更新世後期以降の海成層・陸成層・ローム層が分布する.低地には沖積層が分布する.

    [作業手順]飯能地域の地形・地質,調査の心構え・日程・調査道具・作業手順・礫種の鑑定のコツ(写真付き),小レポートの書き方を生徒達にあらかじめ知らせるために, PDFファイルのテキストを作成した.また,生徒が書き込むための提出用「河原の石の調査レポート」ファイルも作成した.それらをクラウド上のMetaMoJi ClassRoom にインポートした.WiFiが使える場所で,iPadなどでファイルを一度開いておけば,学校だけでなく,自宅や調査地域でも,テキストを読むことができる.

     飯能河原で,上記のファイルを使って地形・地質の説明を行った後,礫の調査を行なった(約2時間).1.位置確認.2.石の採取.縦横1m×1mの枠を設定.淘汰度の記録.枠内の約3cm以上の礫を採取.3.石の仲間わけ.4.鑑定(ファイル上の写真・文章を参考にする)とiPadで写真撮影.5.計測・観察など.礫種ごとに円摩度や個数の記録.6.データの共有. 7.礫種の構成比(%)の計算.

    [礫種の調査結果]チャート,118個(約60%);砂岩,69個(約35%);珪質泥岩,1個(約0.5%);泥岩,1個(約0.5%);礫岩(飯能礫層),2個(約1%);緑色岩,5個(約2.5%);弱変成砂岩,2個(約1%);人工物,1個(0.5%).枠外の礫:弱変成チャート,石灰岩,ホルンフェルス,メタガブロ, 花崗岩類.

    [実習に関する考察]地域地質を活かしたICT教材による教育によって,生徒と先生の作業が効率化するばかりではなく,生徒たちは総合的な理解を深めることができる.例えば,生徒たちに,撮った写真をiPad小レポート用紙に貼り付けさせたり,記載を書き込めさせたりすることができる.自主的にリンク先に飛んだり,ネット上で色々なことを調べることもできる.先生方は,生徒達の書き込み状況をチェックし,きめ細やかな指導ができる.また,紙媒体を使わずにレポートの添削・評価を行うこともできる. 今後の課題は,現地でのWiFiルーターなどの使用である.

    [礫の供給源に関する考察]大部分の礫は,上流の秩父累帯の地質体に由来する可能性が高い.その内,メタガブロや弱変成岩類の礫は,黒瀬川帯(例えば,加藤,2017)からもたらされた可能性がある.花崗岩類の礫は飯能礫層にも含まれるが,元々,多摩川や入間川上流の黒瀬川岩石由来の可能性もあるので,今後,放射年代の研究が必要であろう.

    [文献]Hisada, 1983, Sci. Rep. Inst. Geosci. Univ. Tsukuba,Sec. B. 4, 99-119. 加藤,2016,駒澤地理,52,81-93.加藤,2017, 駒澤地理,53, 73-85.指田,1992,地学雑,101,573-593.庄田浩司ほか,2018,地球科学,72,59-72.島村ほか,2003,地質雑,109,116-132.竹越 智ほか,1979,地質雑,85,557-569.

  • 有道 俊雄
    セッションID: G4-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【活動の背景】

     中学校学習指導要領(平成29年告示)によると,「大地の成り立ちと変化」の学習の中では,「身近な地形や地層,岩石などの観察を通して,土地の成り立ちや広がり,構成物などについて理解するとともに,観察器具の操作,記録の仕方などの技能を身に付けること」とあり,「身近な地形や地層,岩石などの観察」については,学校内外の地形や地層,岩石などを観察する活動とすることとある.しかし,日々の授業の中で身近な地形や地層のフィールド調査をすることは難しい.

     2018年の神戸市中学校教育研究会理科部会の調査では,中学校教員の中で地学を専門とする教員は8.9%,地学分野を指導することを苦手と考えている教員は,50.7%であった.また,兵庫県南部地震を体験している教員も半分以下となり,神戸で起こった過去の自然災害(水害・地震など)を授業で語れないだけでなく,神戸の地質・地形について理解していない教員が多いことがわかっている.

     六甲山は断層によってできた山であるが,六甲山はマグマ由来の花崗岩でできていると説明をすれば,六甲山は火山だと思いこむ生徒もいる.一般市民も同じで,「私たちのすむ神戸」にある山であるにもかかわらず,その生い立ちはあまり理解されていない.

     1970年ごろから,地球科学の世界では大きな意識変革「プレートテクトニクス革命」・「放散虫革命」などがあった.このころ神戸では,藤田和夫先生・前田保夫先生・觜本格先生らにより,神戸地域の地質について詳しい調査が行われ,数多くの研究の成果が発表された(5万分の1図幅「神戸地域(1983),須磨地域(1984)」,神戸市教育研究所発行の神戸の自然シリーズ「六甲の断層をさぐる(1979)」「神戸の地層を読む 1(1983)」「神戸層群の化石を掘る(1987)」「神戸の地層を読む 2(1989)」「アカシ象発掘記(1988)」「六甲山はどうしてできたか(1989)」など).現在でも神戸の地質を考える際の基盤となっている.

     神戸は昔から自然災害による被害を受けてきている. 「地震災害(1995年兵庫県南部地震)」,「水害(652年から1938年までに72回の洪水・土砂災害が発生.近年の水害としては,阪神大水害(1938)がもっとも大きい). このような自然の脅威を防ぐことはできないが,災害を最小限にすることはできる.また,防災教育の基礎としても,地質や地形を正しく理解しておくことは大切である.

    【活動の趣旨】

    ① 神戸で理科教育に携わる教員は,神戸の地質や地形を正しく理解しておきたい.そのためには『学び』が必要であるが,文献や論文から学ぶだけでなく,専門家らのレクチャーや会員相互によるディスカッション,フィールドワークを通して『深い学び』につなげる.

    ② 「学び」を大切にしていく.学ぶ(学習)は,能動的に学んで身につけることである(勉強は,強く勉めることである).この会への自発的な参加が,「学び」の姿勢の表れである.

    ③ 元神戸市中学校理科教員の觜本格先生(かがく教育研究所長,元神戸親和女子大学教授)は,前述の通り神戸の地質・地形についての草分け的存在である.本会では学術考証役としてご指導いただく.

    【活動の内容】・・・月に1回程度実施

    ① 学習会(参加者の発表等)

    ② フィールド調査

    【これからの展望】

    ① 神戸の理科教員として知っておいてほしいジオサイトを整理した上で資料を提示し,効果的な指導法や教材化の研究を進めたい.GIGAスクール下で,地質・地形情報のWebメディアを構築し,各ジオサイトの写真動画を自由に閲覧できるという教材の利用法についての研究も進める.

    ② 防災教育の観点からのアプローチも取り入れ,科学的リテラシーを高める教材化の研究にもつなげる.

  • 浅野 俊雄
    セッションID: G4-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本は世界でも指折りの,四季が豊かで自然に恵まれた国である.その一方で地震や火山が多く,台風や津波などの災害も数多く受けてきた.災害による被害軽減を実現するためには,社会の防災・減災力を向上させることが重要であることは広く認められている.そして,その根底には,災害全般に対する理解が必要であり,その基本部分は,学校教育で学ぶことがふさわしい.

     小中学校の1947年の学習指導要領,社会科編(Ⅱ)では,自然の災害をできるだけ軽減するにはどうすればよいか」という防災に関する内容が,1単元となっていた.

     しかし,1955年度の指導要領の改訂で,「系統主義」と呼ばれるカリキュラムへと変化し,1958年に改訂された指導要領での中学校の社会科では,地理的分野の内容として触れられているが,自然環境の特色は生産活動との関係で捉えさせることが中心で,その関係として災害にも触れられている程度であった.一方,理科においては,第2分野において「地震のおもな災害と,その防止の方法について知る.」という内容で,地震に限って防災に関する内容が取り扱われていた.そして,1989年の改訂では,ついに中学校の社会科から防災教育の内容が姿を消した.

     この流れを大きく変える契機となったのは, 1995年の阪神・淡路大震災である.震災で顕在化した災害の人間的・社会的側面が重視され,幅広い視点から防災教育の充実化が図られた.そして,2011年に発生した東日本大震災による大津波は,「生きる力」を児童生徒に育む必要性を強く認識する契機となった.

     高等学校でも,戦後新たに発足した科目「地学」で,恩恵(資源)と災害(防災)という自然の両面を扱うことを通して,人間と自然環境の関わりを認識し,その保全に対して自らも参画し,意思決定する態度を育成することが目指されていた.また,「地理」は,自然地理学から人文地理学まで様々な分野を扱っている.そのなかで,当然,防災も含んでいる.一時,選択科目となった地理は,今回の学習指導要領の改定で「防災教育は地理だけでなされるわけではないが,高等学校では「地理総合」で防災が主題となることから,地理が防災教育の中核となり,地理的な見方・考え方を働かせながら,中学校までの地理をはじめとし,他教科で学んだ知識をも活用しながら防災の学習が行われる.」とあり,「地理総合」として必修科目となった.

     地理総合で,防災教育はどのように扱っているか.気象災害だけでも,大雨,水害として土石流,河川の氾濫,台風被害などが写真を使って紹介されている.さらに,減災への取り組みとして,ハザードマップでの実習,防災訓練なども紹介している.教科書「新地理総合」(帝国書院)は,本文177ページ中,自然環境,防災関連は64ページ(36%)で,世界の地形と人々の生活,世界の気候と人々の生活,多様な地球環境問題(含む地球温暖化)と地震(津波),火山災害,気象災害とあり,このような災害への備えも出ている.

     地理総合では,「日本の風土に見合う防災のあり方について」すなわち長期的課題・実践的内容については学習している.その他にも,DIGによる「共助」のしくみの理解,防災機関の対応や「公助」のしくみなど実践的内容については学習している.しかし,基礎的内容である「自然そのもののメカニズム」や「自然現象が災害を引き起こす過程についての理解」については,地学でしか扱っていない.

     防災教育の必要性がいわれるなか,多岐にわたるため多くの教科での学習が必要である.本来,高校教育として防災教育を位置づけるのであれば,全員が学ぶ必修教科であったり(地学基礎などは選択科目),総合的な学習の活用が考えられる.  1/4の生徒しか履修していない「地学基礎」(地学専門の先生は少ない)だが,「地球環境の変化に伴う影響」で,地球温暖化と大雨なども扱っている.必履修である防災教育は,地理総合の必修化によって改善されたように見えるが,まだ総合的な科学である防災教育ができているとはいえない.

    参考文献:学習指導要領(1947年,1958年,1968・69年,1977年1989年,1998年,2009年,2018年発行の小学校,中学校,高等学校),文部(科学)省 他

  • 吉田 勝, 学生のヒマラヤ野外実習 プロジェクト
    セッションID: G4-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ヒマラヤの地質は、そこを歩いた学生に大きなインパクトを与えるだろう。そのインパクトは日本の学生と教員の中にわずかづつでも広がって行くだろう。野外実習が軽視される最近の日本の大学教育を補強し、あるいはいずれそれに歯止めをかける力になるかもしれない」との期待(吉田、2014)で2012年に始まった学生のヒマラヤ野外実習ツアー(SHET)は、学生のヒマラヤ野外実習プロジェクトによる立案・発注を受け、ゴンドワナ地質環境研究所(GIGE)を実施主体、ネパール国立トリブバン大学トリチャンドラキャンパス地質学教室(TU)を共同実施主体としてコロナ感染症問題で休止した2021年を除いて2022年3月まで10年間毎年行なわれてきた(Student Himalayan Field Exercise Project HP, 2022)。 実習ツアーはネパールヒマラヤ中西部をバスで北から南に横断し、テチスヒマラヤ帯-高ヒマラヤ帯-低ヒマラヤ帯-亜ヒマラヤ帯-ガンジス沖積帯の地質・地形・自然災害を10日間程で観察する(第1図)。実習ツアーのコースと日程は毎年ほぼ同一ではあったが、年を追って実習内容とロジスティックスが少しずつ変化した。詳細は毎年の実習ツアー報告書(吉田,2022ほか毎年発行されている)で見ることができるほか、本学術大会でもポスターで報告した(吉田・学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト、2022)。 10年間の参加者は日本、ネパール、インド、中国の28大学2高校の学生・生徒139人と市民11人であった。航空運賃など全ての経費を含む学生の実習ツアー参加費は138000円~201000円で10年間の平均は約169000円であった。毎年実習ツアーでは寄付金収入があるため、参加費は実際の経費より数万円安価であった。実習ツアーは10年間無事故で、重大な健康問題も発生しなかった。本プロジェクトに対する実習ツアー参加者の評価は高く、ヒマラヤの地質のすばらしさに加えて、英語の実習テキスト(Yoshida & Ulak, 2017 ) の活用とトリブバン大学生らとの緊密な交流による英語環境への親密感の高揚が特筆された。 発表では実習ツアー10年間のハイライト、ロジスティックス、参加者構成、ツアー経理、評価と成果を報告する。 なお、来年以後のSHET参加学生の参加費補助を目的として、学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト主宰による通年常時受け付けのクラウドファンディング「学生ヒマラヤ-学生にヒマラヤで学ぶ機会を!」を立ち上げ、広くご関心の皆様にご支援をお願いすることにしました。趣旨にご賛同、ご興味の方は下記「学生ヒマラヤCFサイト」(www.gondwnainst.org/shet-cf)をご覧下さるよう、お願いします。 引用文献 学生のヒマラヤ野外実習プロジェクトHP,2022,www.gondwanainst.org/geotours/ Studentfieldex_index.htm 吉田勝,2014,学生のヒマラヤ野外実習プログラムI―プロジェクトの発足とプログラムの準備.地学教育と科学運動,73,57-62. 吉田勝,2022(編),ヒマラヤ造山帯大横断2022-第10回学生のヒマラヤ野外実習ツアー2022年3月の記録.フィールドサイエンス出版,191頁.https://www.data-box.jp/ pdir/8d74595d276149a99b6ffac68d9b6391 吉田勝・学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト、2022、第10回学生のヒマラヤ野外実習ツアー(2022年3月)報告と第11回実習ツアーへの誘い。日本地質学会2022年学術大会ポスター発表。 Yoshida, M. and Ulak, P.D., 2017, Geology and Natural Hazards along Kaligandaki and Highways Kathmandu-Pokhara-Butwal-Mugling –guidebook for Student Himalayan Exercise Tour--. GIGE Miscellaneous Publication No. 35, Field Science Publishers, Hashimoto, 145 pages.

    [1] 第18回ゴンドワナからアジア国際シンポジウム(2021年9月)で一部を発表. [2] ゴンドワナ地質環境研究所,トリブバン大学(名誉教授). [3] 世話人会:吉田勝(代表)、在田一則(北大総合博物館)、酒井哲弥(島根大理工学部)、ウプレティB. N.(ネパール科学技術アカデミー)

  • 中条 武司, 別所 孝範
    セッションID: G4-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    「砂」は私たちの周りにありふれたものであるにもかかわらず、資源としての砂は世界的に枯渇してきているといわれている(Torres et al., 2017;UNEP,2019)。建設資材、工業材料などに大量の砂が採取されることで、砂資源の枯渇だけでなく、環境改変による生物種の減少や絶滅、海岸侵食による砂浜環境の消失など、自然環境への影響も非常に大きくなっている。地質学的側面から見れば、砂は河川を流下する過程で、破壊・摩耗・選別され、また他流域からの砂と混合する。やがて海に流れ出て、波でさらに選別されて海浜に堆積し、その地域に特有の砂組成となる。すなわち、地質や生物の多様性と同様に、それぞれの地域・環境に堆積する砂も、その場所ごとの多様性を有しているといえる。多くの人の知らぬ間に砂資源が危機的状況を迎えている現在、砂の多様性が軽視されていることは、地球環境を考える上で看過できない問題である。

     多種多様な自然のアーカイブを目的の1つとする自然史系博物館では、砂の多様性が維持されている現在のうちに、砂の標本およびその情報を集めていく必要がある。一方で、砂は多くの人にとって安全かつ身近に接することのできる多様な地域性を持った地質学的素材であるといえる。砂に関する普及教育活動を行うことで、多くの人に砂粒子の背後にある砂の成り立ちや地球の歴史を伝えることができるであろう。本報告では、大阪市立自然史博物館(以下、自然史博物館)で行っている海浜砂を中心とした砂標本の収集活動と、その砂を活用した普及教育活動について紹介し、地質学分野における環境教育や市民科学についての展望を考察する。

     自然史博物館における砂標本は、発表者の1人(中条)が採用されるまではほとんど収集されておらず、また一部の収集された標本についても登録が行われていなかった。これは、堆積学・地質学を専門にしている学芸員が不在だったことに加え、現在ほど砂資源の重要性が認識されていなかったことに起因していると考えられる。現在(2022年6月時点)の自然史博物館の砂標本は、海浜砂を中心にして900資料を超え(未登録標本も含む)、日本国内のみならず海外の砂資料も収集が進んでいる。砂標本の収集に関しては、岩石や化石などの他の地質標本と比べて収集するのが非常に容易かつ安全であることから、市民科学(citizen science)的手法を用いて自然史博物館友の会を中心とした一般市民にも協力してもらっている。一般市民による収集に関しては、砂浜海岸の観察会や講演会を通じて、法令の遵守や砂の採取による環境への負荷について事前に研修を行い、その内容を理解してもらったうえで実施してもらっている。

     自然史博物館では全国から収集された砂資料を基に、それぞれの地域の代表的な砂浜や、特徴的な砂組成を持つ資料を選んで、展覧会の開催(テーマ展示「砂浜の砂とその自然」、2021年7月24日〜9月26日)やフルカラー冊子の作成(別所・中条,2021)を行った。これらの展示や冊子を活用して、砂の形成や砂組成・鉱物の観察、そのバックグラウンドである地球の歴史を知るきっかけを提供している。また、砂に関する子ども向けワークショップを開催し、砂の観察を通じて子どもたちへの砂に対する見方・理解を深めることを試みている(山中ほか,2019)。

     これまで砂は私たちの生活の中で身近な素材でありながら、自然史資料的価値や教育的素材、地域学習の教材として十分に活用されてこなかった面がある。今回紹介した事例では、砂、特に砂浜の砂の収集によって砂の地域性や多様性を明らかにし、環境教育や自然環境保全、地域学習を博物館活動を通して進めてきた。また、砂標本の収集に市民科学的の手法を取り入れて資料収集を行うことで、市民への地質学への理解を促進させるとともに、環境問題に目を向けるきっかけになることが期待される。砂粒子は地域ごとに異なった組成を持ち、地域に根ざした自然科学や理科の学習、自然環境の保護と地域の地質を学ぶのに適切な素材であるといえる。

    文献:別所・中条(2021)大阪市立自然史博物館.74pp.;Torres, A. et al., (2017) Science, 357, 970-971.; UNEP(United Nations Environment Programme)(2019)UNEP, 35pp.;山中ほか(2019)日本堆積学会2019年大阪大会プログラム・講演要旨,46-47.

  • 大森 聡一
    セッションID: G4-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    放送大学の遠隔教育における,ネットワークを利用したリモート実験室を紹介し,走査型電子顕微鏡観察実験の実施例と学生評価の結果を紹介する。

     機器を使用した分析実験体験は,科学教養教育の一環として重要である。放送大学では,各都道府県に配置された学習センターにおけるスクーリング(面接授業)で,各種実験科目を開講し,教養としての科学実験科目を提供している。しかし,各学習センターで,高額でメンテナンスの必要な機器を利用した実習に対応することは,予算,スペース,人員的な問題を含んでいる。以上の遠隔教育の状況をふまえ,私たちは,最近の分析・観測機器の特性を活用して,リモート・オンラインで機器を用いた実験実習を提供することを目指して,リモート実験室の構築を計画した。その背景には,多くの分析・観測機器がコンピュータコントロールに移行しており,ネットワーク経由での遠隔操作で主な機能を操作することが可能になったことが挙げられる。リモート実験室は,実際に機器を操作するという点で,コンピュータ上に仮想実験室を構築するバーチャルラボとは性格が異なる。

     この計画の第一弾として,走査型電子顕微鏡観察実験を面接授業,およびオンライン講義で実現する方法を紹介する。使用機器には,電源のオンオフと試料交換以外の分析操作をWindows のアプリケーション上で行う走査型電子顕微鏡(日立ハイテック製TM3030型)を用いた。TM3030は,USB接続されたPC上で操作ソフトを介して操作する。PCのOSは,MS-Windows 8.1proである。 このPCをリモートでコントロールすることで,TM3030を外部から利用することが可能となる。本研究では,Microsoft Remote Desktop を利用する方法と,zoomの共有機能を利用する方法の2通りの方法で,リモート実験を実現した。

     Microsoft Remote Desktop は,MS-Windows 8.1proに標準で搭載されているデスクトップ共有機能である。接続のクライアント側は,MS-Windows,MacOS, iOS, Android が利用可能で,MS-Windows 以外の環境では,マイクロソフト社が無料で提供するクライアントアプリを使用する。リモートデスクトップ機能により接続した後は,TM3030操作ソフトを起動して,あたかも装置の側に座っているかのように,TM3030を操作可能である。およそ5Mbps程度のインターネット回線速度であれば直接操作とほぼ同じ感覚で操作できる。

     2021年度よりZoomを用いたオンライン授業が開始されたため,あらたな共有形態としてzoomによるアプリケーション画面の共有とコントロール機能を用いた実験方法を導入した。この方法では,複数の受講者が同時に実習を行うことが可能であり,実習中に講師が解説を付与したり,受講生間で議論・提案しながら観察を進めるなど,より双方向性の高い実習が可能である。

     放送大学では,2015年度から地球科学に関する面接授業において,および2020年度からはオンライン授業においても,これらの方法によるリモート実験を実施してきた。接続,操作方法は手順書や動画により説明している。観察の対象は,火山灰,砂漠の砂粒子,微小化石(有孔虫,珪藻),温泉沈殿物などで,探索と形態観察に基づく考察を課題としている。受講生の感想では,電子顕微鏡という装置を操作するという経験,バーチャル実験とは異なり本当に自由に操作できること,探索操作の面白さ,高倍率観察による感動などが,ポジティブな評価としてあげられる。一方で,一部の受講者からは,自由すぎて途方に暮れた。ガイドツアーつきの観察を希望するという感想が寄せられた。受講生の多様なリテラシーレベルへの対応が今後の検討課題であると言える。

G5(口頭). ジェネラル-サブセッション5 地域地質・層序・層序
  • 中川 登美雄
    セッションID: G5-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    福井県南条山地の美濃帯湯尾C(中江ほか,2013,2015)に分布する芋ヶ平石灰岩は,多くのペルム紀化石が産出する(中村・伊藤, 1985).中川ほか(2019)はこの石灰岩が石灰岩礫岩で,後期三畳紀のコノドントや放散虫を含む薄殻二枚貝石灰岩礫や前期ジュラ紀以降に生息期間を持つ放散虫を得た.このような礫質石灰岩は石灰岩の起源や付加様式を考える上で重要と考えられるので,石灰岩礫の産状および岩相,産出化石について報告する.

     本石灰岩の礫として最も多くみられるのは灰~灰白色の含フズリナ石灰岩礫でNeoschwagerina sp.を含むペルム紀石灰岩である.次に多いのが濃赤~赤紫色,灰白~淡桃色,暗灰色などのミクライト質含薄殻二枚貝石灰岩で,鏡下での観察では,packstone ,wackestone,石灰泥岩に区分される.石灰岩礫の大きさは変化に富み,淘汰不良で,基質はごく少量が見られるにすぎない.礫間を埋める基質は緑灰〜暗灰色の泥質堆積物からなる.基質は個々の石灰岩礫の輪郭を縁取るように幅狭く,線状に分布し,強くスタイロライト化している.多くの場合,線状部の幅は1~2 mmである.石灰岩礫と基質の境界は明確で,岩相的な漸移は認められない.

     含薄殻二枚貝石灰岩8試料を蟻酸処理すると,三畳紀コノドント・放散虫が産出し,内5試料からは前期ジュラ紀以降の放散虫が混在する残渣試料が得られた.全岩処理で得られた微化石のうち,コノドントのNorigondolella naviculaNorigondolella steinbergensisおよびEpigondolella spp. は後期三畳紀ノーリアン期あるいはレーティアン期を特徴づける種である.一方,放散虫は中期~後期三畳紀を示すが,この他に,前期ジュラ紀トアルシアン期のHelvetocapsa minoensisや前期ジュラ紀~後期白亜紀のTriactoma sp.が得られた.そこで,量的に多く見られる帯赤色含薄殻二枚貝packstone礫,白・淡桃色薄殻二枚貝wackestone礫,暗灰色石灰泥岩礫の3つを単離して微化石抽出を行った.各々10gを個別に蟻酸処理して微化石の抽出を試みた.packstone礫から10gあたり176個のN. steinbergensisEpigondolella spp.からなる後期三畳紀ノーリアン期のコノドント化石群集を得た.含薄殻二枚貝wackestone礫と石灰泥岩礫から産出したコノドントは N. steinbergensisだけである.含薄殻二枚貝石灰岩は岩相により産出量は異なるが,同定できたコノドントはすべて後期三畳紀ノーリアン期あるいはレーティアン期を示すことからこの時代に堆積した石灰岩と考えられる.また,石灰岩礫岩の全岩処理で得られた前期ジュラ紀の放散虫を含む石灰岩礫は発見できなかった.

     これらのことから前~中期ペルム紀に海山上に形成された石灰岩体がプレート上を沈降しながら移動し,後期三畳紀に一時,CCDより浅くなり深海性石灰岩が堆積した.それが前期ジュラ紀に海溝手前で崩壊し,石灰岩礫岩が形成され付加体に取り込まれた可能性が考えられる(Fig. 1).

     研究を行うにあたり佐野弘好先生,上松佐知子先生,指田勝男先生にお世話になりました.

    引用文献:中江ほか,2013,今庄及び竹波地域の地質.産総研/中江ほか,2015,冠山地域の地質.産総研./中川ほか,2019,地質雑,125,877-884/中村・伊藤,1985,福井市郷土自然科学博,31, 27‒34.

  • 川上 高平, 尾上 哲治
    セッションID: G5-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    西南日本外帯の黒瀬川帯からは,一部に陸棚石灰岩を伴うペルム系〜白亜系堆積岩類が古くから知られている.九州西部に分布する黒瀬川帯は,この堆積岩類の分布域に基づいて,北から宮地帯,日奈久帯,渋利帯,坂本帯の4帯に区分されている.このうち日奈久帯の白亜系層序は,松本・勘米良(1964)によって詳しい研究がなされ,下位から川口層,八竜山層,日奈久層,八代層がほぼ南から北に向かって,整合または非整合で,帯状配列することが明らかにされている.その後,田代ほか(1994)の調査により,松本・勘米良(1964)の調査地域の南西部にあたる田浦-日奈久地域の日奈久帯白亜系は,北東-南西方向に伸びる断層によって南北の2帯にわけられることが主張された.この研究では,断層の南側に主に分布する黒崎層と川口層から,ジュラ紀〜前期白亜紀の年代を示す二枚貝化石が報告されている.しかしながら,田浦-日奈久地域に分布する黒崎層・川口層の詳しい堆積年代や堆積環境については詳しい研究が進んでおらず,模式地の川口層との岩相層序に関する対比も十分に行われていない.そこで,本研究では,田浦-日奈久地域に分布する上部ジュラ系~下部白亜系について,それらの堆積環境と詳細な地質年代を明らかにすることを目的として,研究を行った.

     調査範囲は,熊本県芦北町太田海岸~八代市二見洲口町までを対象とし,現地にてルートマップ,地質図,柱状図を作成した.さらに,頁岩,石灰岩,チャートの試料採取を行い,微化石を抽出することで,地質年代の決定を試みた.

     調査の結果,調査地域の岩相層序は,下位より(1)主に頁岩・砂岩で構成されている小崎層,(2)砂岩頁岩互層からなる黒崎層,(3)アルコース質の礫岩・砂岩,および凝灰質な頁岩をともなう砂岩頁岩互層からなる川口層下部層,(4)砂岩頁岩互層・頁岩層からなる川口層上部層からなり,さらにみかけ上位には(5)中礫~大礫からなる礫岩層を基底にもつ砂岩層および頁岩層からなる地層(従来の宮地層)が累重していることが明らかになった.田代ほか(1994)では,川口層の上限は日奈久断層で境され,宮地層の礫岩と接するとされてきた.しかし,本研究では,田代ほか(1994)の日奈久断層の露頭を確認することができなかったため,川口層とみかけ上位の礫岩層との接触関係を明らかにすることはできなかった.川口層の地質年代については,黒崎,および川口層から採取してきた29試料の処理を済ませたが,年代決定に有効な放散虫化石の発見には至っていない.川口層の堆積環境については,HCS砂岩や炭質物を含む凝灰質頁岩が観察される下部層から,砂岩頁岩互層を経て,頁岩層へと上方細粒化している層序が確認されたことから,波浪の影響を受ける沿岸域から,より沖合への堆積環境へと変化したことが考えられる.

    引用文献

    田代 正之,田中 均,坂本 伝良,高橋 努,1994.九州南西部田浦・日奈久地域の白亜系,高知大学学術研究報告 第43巻,自然科学,69-78

    松本 達郎,勘米良 亀齢,1964.日奈久5万分の1地質図幅説明書,地質調査所,1-147

  • 川口 健太, Oh Chang Whan, Jeong Ji Wan, 古姓 昌也, 柴田 悟史, 早坂 康隆
    セッションID: G5-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本海拡大以前の原日本列島はアジア大陸東縁において成長した。地理的観点から、原日本列島の少なくとも一部は、韓半島と共通の進化を遂げたと予想できる。従って、東アジアの構造進化を包括的に理解するには、日本列島と韓半島との対比が極めて重要である。しかし、先カンブリア紀の地塊を主体とする韓半島と、古生代以降の沈み込み帯で成長した原日本列島を構成する地体は決定的に異なり、両者の繋がりは不明な点が多い。日本海拡大以前の両者の正確な繋がりを復元するためには、日本列島と韓半島とに共通する「マーカー」を見出し、産状と定量的なデータに基づいた議論が極めて重要である。本研究では、韓半島東縁部と日本列島に分布するジュラ紀弧花崗岩類に着目し、その全岩化学組成、ジルコンU-Pb年代とLu-Hf同位体組成を報告し、ジュラ紀火成弧の進化、また原日本列島と韓半島との繋がりを考察する。

     韓半島東縁部のジュラ紀花崗岩類のジルコンU-Pb年代を包括的に測定し、その重みつき平均年齢を地体ごとにまとめると、南からGyeongsang Basin(GB): 188–186 Ma、Yeongnam Massif (YM): 183–177 Ma、Taebaeksan Basin(TB): 168 Ma、Gyeonggi Massif(GM): 173–166 Maを示す。一方、飛騨帯の宇奈月地域におけるホルンブレンド閃緑岩の同年齢は201 Maを示す。また能登半島西縁部に位置する中新世の火山砕屑岩層から採取した黒雲母花崗岩角礫3試料の重みつき平均年齢は184–183 Maで、周囲に地窓状に産する飛騨花崗岩の産状を考えると、これらは飛騨花崗岩起源であると考えられる。また、鳥取県西部の江尾花崗岩のうち、マイロナイト化したホルンブレンド花崗閃緑岩が247 Ma、ホルンブレンド–黒雲母花崗閃緑岩が192–191 Maの重み付き平均年齢を示した。本研究で測定したポイントは全てCL像下でオシラトリーゾーニングを示し、ジルコンの微量元素は高いTh/U比と右上がりのHREEパターンを持つことから、得られた年齢は火成年代を示す。韓半島東縁部と日本列島のジュラ紀花崗岩は、そのジルコンHf同位体組成から、εHf(t)値により(1) -0.8から+13.2 (飛騨花崗岩、江尾花崗岩、GB)と、(2) -25.0から-13.9 (YM、TB、GM)を示すものとに明瞭に2分される。(1)は201–183 Ma、(2)は183–166 Maの異なる火成年代を示す。ジルコンのTi温度計[1]を適用しジルコンの結晶化温度を求めた結果、(1)は750–830 °Cと高温を示すのに対し、(2)は680–750 °Cの低温を示した。またインヘリテッドジルコンは(1)には皆無、あるいはペルム紀からトリアス紀のものが10 %以未満であるのに対し、(2)には最大50 %程度含まれ、その大部分は古原生代の年代を示す。全岩化学組成は(1)、(2)ともにNb、Ta、P、Tiに涸渇したパターンを示し、微量元素を用いた判別図においてはいずれも火成弧の領域にプロットされる。(1)は低いSr/Y比を有し、典型的な弧火成岩の特徴を持つ一方、(2)の大部分は高いSr/Y比をも持ち、アダカイトの組成を示す。その全岩組成は厚い下部地殻の溶融により形成されたアダカイト[2]と高い類似性を持つ。

     韓半島南部から中部においては北西方向に、また韓半島北部から北東中国にかけては西方向にジュラ紀花崗岩の年代若化が認められ[3]、韓半島東縁部の花崗岩類も同様の年代極性を有する。江尾、飛騨花崗岩もこの極性に調和的である。韓半島全体を見渡すと、(1)と共通のジルコンU-Pb年代、正のεHf(t)値を持つ花崗岩類は南東部のGBと北東部のDumangang Belt(DB)に認められる[4]。一方、半島東縁中部に位置する(2)の花崗岩類のジルコンは著しく低いεHf(t)値を持つことから日本列島とGB、DBの花崗岩類とは区別できる。従って、韓半島南東部のGBから江尾花崗岩、飛騨花崗岩を経て韓半島北東部のDBにかけては共通の年代、地球化学的特徴、Lu-Hf同位体組成を持った花崗岩が狭長かつ弧状に分布しており、このことは江尾、飛騨花崗岩が、韓半島南東部から北東部に続く一連の沈み込み帯で形成されたことを示唆する。

    引用文献: [1] Ferry and Watson (2007) Contrib. Mineral. Petrol., 154, 429–437. [2] Atherton and Petford (1993) Nature, 362, 144–146. [3] Kawaguchi and Oh (2021) J. Geol. Soc. Korea, 57, 565–587. [4] Zhang et al. (2021). J. Geol. Soc. Korea, 57, 523–544.

  • 藤本 幸雄
    セッションID: G5-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    この地域の白亜紀花崗岩類は田沢湖東方の生保内岩体(加納・ 小林,1979)を北端に鳴子地域まで点在して分布する(永広ほか, 1989).このうち生保内、湯田ダム、焼石岳南は既に報告した( 藤本,2013).今回は生保内岩体の補足および南方の湯田ダム岩 体との間に点在する花崗岩類,鳴子地域の北北西にあたる湯沢市 東鳥海山周辺の花崗岩類について報告し,生保内・焼石岳南を含 めて地体構造上の位置について検討する.

    1. 生保内岩体:東西をNNE方向の左雁行とNNW方向右雁行 配列する断層に挟まれ,南北に延びて分布する.中粒~粗粒普通 角閃石黒雲母花崗閃緑岩を主とする東部岩体と西部岩体の間に 中粒~粗粒黒雲母花崗岩を主とする中央部岩体が貫入関係で分布 する.東部岩体は中央部と南東端に黒雲母片麻岩~片岩・角閃岩 の500×1500mサイズの捕獲岩体を伴い,前者はNNE,後者は NNWに延びた形態を示す.東部 岩体の鉱物配列による面構造は,北部のENE走向S傾斜から 中央部~南部のNNW~NS走向E傾斜と変化し,南東に開いた ベーズン状構造をなす.線構造はベーズン状構造の軸部に向かうものが多い.北西部シトナイ川下流域で粗粒トーナル 岩が分布し,帯磁率が部分的に高い(15.4SI)がベーズン構造の 内側に相当する北東部では明白色の中粒花崗閃緑岩が分布し帯 磁率は低い(0.27~3.67SI).中央部以南では0.32~0.45SIの帯 磁率を示す.中央部岩体は北西部から南部にかけて広く分布し, 塊状であるが東部岩体との接触部では強片状を呈してK長石の 眼球状結晶が見られる.帯磁率は中央部で0.24~2.55SIと低いが 周縁部の北部と南部で4.15~4.97SIとやや高くなる.西部岩体は 西部と南端部にNW方向の面構造を示して狭く分布する.

    2.沢内村南川舟東方の花崗岩類:生保内岩体の南東6kmの南川舟 地区東方には小杉沢中流と湯ノ沢中~上流に中粒普通角閃石黒雲母 花崗閃緑岩が分布する.小杉沢中流ではNNW走向38~65°E傾斜 の面構造を示し,普通角閃石の配列による線構造はNNW~Nに5 ~12°落としている.帯磁率は0.37~2.81SIを示す.湯ノ沢中~上流ではWNW~EW走向35~56°N傾斜の面構造を示す強片状中粒 普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布し,上流部ではNE走向38 ~65°NW傾斜に変化する.この強片状岩相は鏡下で斜長石の半自形結晶を取り巻く黒雲母と再結晶石英のバンドが認められ,プロトマイロナイト~マイロナイトの特徴を示す.東のNE走向から西のWNW~EW走向に収斂して強片状化することから,マイロナイトの北が東にずれる右横ずれ変位が推定できる.湯ノ沢の南4kmの七内川上流には中粒普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩と中~細粒普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布し,前者は13.8,後者は5.89,25.3SIの帯磁率を示す.

    3. 東鳥海山周辺の花崗岩類:笹田(1985)による鬼首-湯沢マイロ ナイト帯を挟んで西側には片麻岩~片岩・角閃岩を伴う花崗閃緑岩とそれを貫く黒雲母花崗岩が分布する.東側には普通角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布し,マイロナイト帯はプロトマイロナイト~ウルトラマイロナイトだが,東鳥海山周辺ではマイロナイト面構造がNNE~NEを示し,マイロナイト帯の北東方向への変化を示唆している.

     随伴する変成岩・帯磁率・化学組成から生保内岩体は阿武隈帯の花崗岩類に,湯田ダム岩体と焼石岳南岩体は南部北上帯に対比できる. 帯磁率から沢内村に点在する花崗岩類は湯ノ沢上流のマイロナイト質花崗岩類以北は生保内岩体の延長部に,以南は湯田ダム岩体と同様,南部北上帯の花崗岩類に対比可能である.湯ノ沢のマイロナイト質花崗岩類は畑川破砕帯の東にシフトしての北方延長(久保ほか,2003)を担った一部と考えられる.

    引用文献

    永広昌之・蟹沢聡史・丸山孝彦(1989)日本の地質「東北地

    方」第2 章,中・古生界,66-70.

    藤本幸雄(2013)日本地質学会120年大会講演要旨.62p.

    加納 博・小林治朗(1979)秋田大学地下資源開発研究報     告,45,77-88.

    久保和也・柳沢幸夫・山元孝弘・駒澤正夫・広島俊男・須藤   定久(2003)20万分の1地質図幅「福島」.産総研.

    笹田正克(1985)地質雑,91,1-17.

  • 長森 英明, 古川 竜太, 藤原 寛, 山﨑 誠子, 吉川 敏之
    セッションID: G5-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    北部フォッサ・マグナ地域北西端に位置する長野県北西部から新潟県西部は,西頸城隆起帯と呼ばれる(正谷・市村,1970).この隆起帯には約1 MaのジルコンFT年代値を示す雨飾山(1963 m)などの貫入岩体があり,前期更新世以降の急激な隆起が想定される(長森ほか,2010).西頸城隆起帯の南側にも高妻山(2353 m)などの貫入岩体があり,そのジルコンFT年代は約1 Maの値を示す(長森ほか,2003)ため,西頸城隆起帯と同時期に隆起した可能性が高い.このことから,従来西頸城隆起帯が隆起量の多い地域とされてきたが,その南側も同様の隆起が生じていることになる.第四紀の隆起が想起されるものの,時期や範囲などについては不明な点が多い.本報告では,長野県小谷村の糸魚川–静岡構造線相当断層沿いの地質・構造を検討する過程で認められた隆起帯に挟まれた地溝状構造について報告する.

     小谷村付近では,糸静線の東側に姫川断層,さらに東側に小谷–中山断層が併走する.姫川断層の変位センスは東側に分布する火山岩類の対比の違いにより東上がりの見解と西上がりの見解があった.この火山岩の平倉山山頂付近の安山岩(平倉山層)のK-Ar年代値として18.1±0.3 Maの年代値が得られたことにより,姫川断層の変位センスは西上がりであることが判明した.また,従来中土断層とされていた断層は姫川断層へ連続する同一の断層と判断される.姫川断層の南端は糸静線に収斂するとみられる.姫川断層と小谷–中山断層は南部域では糸静線と縦走して南北方向に延びるが,小谷村の立山付近から北東方向へ延び,糸静線から離脱する.

     姫川断層と小谷–中山断層の間の層序は,下位より小谷温泉層,雨中層,奉納層,曲師谷層,細貝層,岩戸山層に区分される.北部フォッサ・マグナ地域では一般的に北方に新しい地層が累重するが,これらの地層は南に向かい新しい地層が重なる.姫川断層と小谷–中山断層間では,断層間の地層が断層を介して古い地層と隣接するため,地溝状の構造と判断される.ところで,南方の長野県大町市付近では,糸静線と小谷–中山断層に挟まれる地溝状堆積盆として特徴付けられる大峰帯(小坂, 1980)が分布する.大峰帯の北端は立山南方の“横根沢断層”とされていた.しかし,“横根沢断層”の存在を示唆する証拠はない.さらに立山以北にも大峰帯と同様の地溝状構造が連続することから,姫川断層と小谷–中山断層間の相対的に沈下した地域は,大峰帯の北方延長と判断される.ただし,地溝状構造は大町付近では糸静線と小谷–中山断層の間に分布するが,大町よりも北では姫川断層と小谷–中山断層,さらに立山付近以北では延びの方向が北東となり糸静線から離脱する.この大峰帯から連続する地溝状構造は,北西側の西頸城隆起帯と南東側の高妻山を含む地域の境界となる.

     糸静線を境に西側の飛騨山地は前期更新世に隆起したとされる(原山ほか2003).しかし,立山以北の糸静線は断層によって寸断されており,第四紀に活動した形跡はない(長森ほか,2010).このため,糸静線最北部では西頸城隆起帯と飛騨山地が一体となって隆起した可能性が高い.これらの隆起域の縁辺は最北部をのぞく糸静線と姫川断層となる.大峰帯の東端断層の小谷–中山断層は東から西へ高角衝上し,後期中新世から前期更新世まで活動していた(加藤・佐藤,1983など).断層の東側には1Maの高妻山の貫入岩体があり,前期更新世の大きな隆起量が想定される.

     これまで北部糸静線沿いの一部に認められていた大峰帯の北方延長が,北部フォッサ・マグナ地域北西部の隆起域を分断するように延びていることが明らかとなった.大峰帯の成因はいまだ確定していないが,より広範囲のテクトニクスを考慮にいれた検討が必要となる.

    <文献>

    加藤・佐藤(1983)信濃池田図幅,地質調査所,93 p.

    原山ほか(2003)第四紀研究,42, 127-140.

    小坂(1980)信大理紀要, 15, 31-36.

    正谷・市村(1970)石油技術協会誌, 38, 1-12.

    長森ほか(2003)戸隠図幅.産総研地質調査総合センター, 109 p.

    長森ほか(2010) 小滝図幅.産総研地質調査総合センター, 134 p.

  • 宮田 和周
    セッションID: G5-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    九州の北部および西部では,夾炭層の探索に伴って1920年代に当地の古第三系層序の概要が明らかとなった.初期の層序学的枠組みはいくつか改定を経て引き継がれ,現在においても踏襲されるものとなっている.岩相層序と産出する軟体動物化石は,当地の古第三系の地域間層序対比に貢献し,1990年代以降にはナノ化石層序も加わることで対比の解像度が高まった.近年では,ジルコン粒子のU–Pb年代測定によりさらに対比の精度を高め,層序と年代の検証に役立つ報告もある.しかし,九州の古第三系は未だ年代の充分なデータは揃っていない.本報告では,西九州の古第三系基底部に着目し,過去に提唱された層序学的枠組みは見直す必要性があることを紹介する.

     九州西部(熊本県西部,長崎県中南部,および鹿児島県北西部)では,古第三系基底部として赤色岩を伴う陸成層が広く分布し,長尾(1922, 1926: 共に地質雑)においては赤崎層,松下(1949: 九州大理研報)においては赤崎層群と呼ばれた.これら赤色岩を伴う陸成層には,多くの地域でその上位に中期始新世の軟体動物化石などを含む海成層が累重する.北は長崎県西海市寺島の赤崎層群呼子ノ瀬層,その南に長崎市高島炭田の赤崎層群香焼層,さらに南方は熊本県西部と鹿児島県北西部の天草地域に広がる弥勒層群赤崎層,最も南は薩摩川内市甑島列島の上甑島層群中甑層(井上ほか, 1979: 地調月報)が古第三系基底部の赤色岩を伴う陸成層である.熊本県の北方にはその延長となる赤崎層群銀水層や山ノ神層もあるが,天草下島には分布がない.これら陸成層は化石に乏しいが,弥勒層群赤崎層と中甑層は共にその上限付近に約50 Maの前期始新世後期の凝灰岩を挟在し(Miyake et al., 2016: Paleont. Res.; 宮田ほか, 2018: 日本地質学要旨),始新世の哺乳類化石の報告もある(Miyata et al., 2011: Vertebr. PalAsia.など).最近,天草市御所浦町横浦島の赤崎層においては,その基底付近から大型の裂歯類化石の産出が報告され(宮田, 2022: 御所浦白亜館報),赤崎層の堆積年代の下限は前期始新世後期と見られる.山下ほか(2020: 日本地質学西日本要旨)は,中甑層の古地磁気データからその堆積年代を前期始新世の約50~52 Maと推定した.だが,ほかの基底層は依然としてその年代が明確でないうえ,疑義のある事実も明らかになった.

     最近,呼子ノ瀬層は上部白亜系であることが恐竜化石の産出と凝灰岩の年代測定(宮田ほか, 2022: 日本古生物学要旨)により明らかとなった.その上位の寺島層群寺島層と共に,呼子ノ瀬層からはそれまで化石の報告は無いが,白亜紀のハドロサウルス上科鳥脚類(恐竜)のデンタルバッテリーの一部(5 本の歯が並ぶ右歯骨歯)と,別個体の恐竜と考えられる大きな骨(椎体と骨盤)が呼子ノ瀬層から発見された.呼子ノ瀬層に挟在する酸性凝灰岩の最若クラスターの加重平均年代値は66.90 ± 0.97 Maであり(宮田ほか, 2022: 同上),呼子ノ瀬層はマーストリヒト階最上部と考えられる.寺島層が上部白亜系かは明らかでない.すなわち,長崎半島西海岸の上部白亜系三ツ瀬層(カンパニアン)には関係しない白亜系(呼子ノ瀬層)が存在し,岩相上,上に述べた古第三系基底の赤色岩を伴う陸成層に似る.呼子ノ瀬層は高島炭田の赤崎層群香焼層と対比されてきた.香焼層の上限付近からは,中期始新世と考えられる浅海ないし汽水棲の軟体動物化石産出の既報があるが(Mizuno, 1964: Rep. Geol. Surv. Japan),下位の上部白亜系三ツ瀬層と香焼層の境界は岩相上の類似から不明とされ,香焼層からほかに古第三系として確証づける証拠は未だない.長崎市の岳路にある三ツ瀬層とされた堆積岩からは,約52Maの前期始新世を示唆する砕屑性ジルコン年代が報告されているが(長田ほか, 2014: 日本地質学要旨),これが関連するかは不明である.以上のように,長崎県の古第三系基底層は判然としないうえ,松下の提唱した赤崎層群は見直しと改定が必要となっている.

  • 川原 和博
    セッションID: G5-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    九州北西沖合の五島列島は、延長約100 kmの北東-南西に連なる主要な5つの島とその他の小島から構成されている。列島の主体を成すのは、中新世中〜後期の非海成の五島層群とそれを不整合に覆う中通島層群、およびそれらと準同時に活動した火山岩、半深成岩類である。福江島と小値賀島には第四紀に活動した単成火山群が分布している。五島列島は日本海拡大時の回転のピボット軸の直ぐ北東に位置し、大陸地殻が割れ、背弧海盆が形成された初期のプロセスを記録していることが考えられる。しかし海岸は急崖が多く、アクセスできる露頭が限られることや年代測定データが限られていることなどから、日本海拡大時の五島列島のテクトニクスや火山活動に伴う堆積作用が充分に解明されているとは言い難い。

    演者らは、中通島層群の築地部層の細粒砂岩層と岩瀬浦部層の流紋岩質火砕流堆積物の巨大地滑り岩塊および神ノ浦部層の泥岩が、乱雑に混在している露頭を発見し、それらを流紋岩質火砕流の噴火・運搬活動により海底地滑りが発生し、それぞれが混在したものと解釈した。中通島中央部の神ノ浦採石場の巨大地滑り堆積物の露頭の写真を、地質学会の写真コンテストに応募したところ、幸いに会長賞を頂くことができたが、一方で演者らの解釈に対し“その混在岩はメランジュではないのか?”という疑問が投げかけられた。そこで本発表では、乱雑な混在岩相の堆積物の特徴を報告し、メランジュではないと結論した根拠について議論する。またこのような火砕流堆積物が崩壊して形成された混在岩相のテクトニックな意義を議論する。

    本露頭は海岸線にほぼ平行な東西方向約150m、高さ約130mの南側に面した大露頭である。黒色の細粒砂岩層に白色の流紋岩質火砕流堆積物の不定形な地滑り岩塊が乱雑に堆積している。火砕流堆積物は嘴状、くの字状に地層面に沿って剥がれ、そこに黒色砂岩が注入している。また両層の不定形の岩塊が、複雑に入り混じっている部分もある。スランプ岩塊は定向配列しておらず、基質に相当する細粒砂岩や泥岩には鱗片状の劈開や小断層を欠き、堆積後に剪断変形を受けた小構造は認められない。

    流紋岩質火砕流堆積物は直径10cm程度の岩片、50cmを越える軽石ブロックおよび鉱物粒子や火山灰より構成され、10cm程度の泥岩の侵食偽礫を含む。岩片は変質作用を受け、有色鉱物は緑簾石や緑泥石に置き換わっている。溶結構造はきわめて限られた地点にのみ見られる。

     細粒砂岩層は黒色塊状で無層理である。多量の白色の鉱物粒子や軽石片、泥岩を含む。細粒砂岩層からはかつて少量ではあるが石炭を採掘し、海棲貝化石を産出したという報告がある(鎌田、1966)。局所的であるが、この細粒砂岩層には五島層群由来の円磨度の低い砂岩や砂岩泥岩互層の礫が含まれる。礫径は数10cm程度のものが多いが、10m x 5mを越える巨大なブロック状のものもある。これらの礫も海底地滑りによって運搬されと考えられる。

     広域の調査によると岩瀬浦部層の火砕流堆積物は、場所毎に下位の地層との層序関係が異なり、水平方向にも垂直方向にも岩相変化が著しいことが報告されている(川原他、1984)。下位の神ノ浦部層は泥岩を主体とし、海棲貝化石を産出し、その模式地では岩瀬浦部層の火砕流堆積物が整合的に堆積している。しかし、若松町男鹿島では神ノ浦部層を欠き、その下位の築地部層の砂質泥岩との境界は擾乱されている。このような地層の欠如や著しい岩相変化は、火砕流の堆積と準同時に発生した海底地滑りが原因である可能性が考えられる。

     五島層群は非海成層であり、その直上の中通島層群有川層は基底礫岩と溶結した火砕流堆積物から成るが、神ノ浦部層は内湾性群集からなる海棲貝化石を産する厚い海成層から構成されている。恐らく大陸地殻に割れ目が発生して形成された地溝に海が侵入し、海成の神ノ浦層が堆積した時に、大規模な火山活動があり、岩瀬浦部層の火砕流堆積物が形成されたものと思われる。この火山活動に伴って巨大な海底地滑りが発生し、その結果3つの部層が崩壊、再堆積し混在岩が形成されたものと推定される。

    引用文献

    鎌田泰彦(1966):五島列島若松島の地質,長崎大学学芸学部自然科学研究報告,17,55-64.

    川原和博・塚原俊一・田島俊彦・鴨川信行(1984):五島列島中通島の後期中新世火成活動,地質学論集,no.24,77-91.

  • 西川 治, 長井 香, 石山 大三
    セッションID: G5-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    秋田地域に広く分布する新第三系海成堆積岩類は,多くの炭酸塩ノジュールを含んでいる.炭酸塩ノジュールは,続成初期に極めて短期間で生成されると考えられている(Yoshida et al., 2015など).また,細粒な炭酸塩粒子が硬く緻密な組織を形成するため,ノジュールの中では圧密や溶解沈殿反応が抑制されている (西川ほか, 2020).このように,炭酸塩ノジュールは,堆積物の堆積後間もない時期の状態を保持しているため、組織や組成を母岩と比較することで,続成作用前後の堆積物の変化を定量的に議論することができる.著者らは,これまで秋田・庄内地域において,ノジュールを用いた堆積物の圧密量の見積もりや(西川, 2017),ノジュールを形成する鉱物相や酸素・炭素同位体組成,Sr同位体組成について報告してきた(安東ほか,2015;西川ほか,2018).本研究では,秋田地域の新第三系に産する炭酸塩ノジュール及び同層準の母岩の粒径分布,粒子構成及び化学組成を調べ,岩相の違いに及ぼす堆積物の供給源の変化と続成作用の影響について検討した.

    試料と方法

    秋田地域の3か所(太平山南麓地区,岩城地区,矢島・鳥海地区)で,新第三系最下部から上部(権現山層・女川層・船川層・天徳寺層)の炭酸塩ノジュールおよび同層準の母岩を採取し,粒度,粒子構成,鉱物組成,全岩化学組成および有機炭素量を比較した. 固結度の低い母岩や希塩酸処理で炭酸塩が除去できるノジュールについては,構成粒子を単離した.分解が困難な固結した岩石については、薄片を作成した。

    結果と考察

    珪藻や放散虫殻などの生物源粒子は、続成過程で船川・天徳寺層で約40%~50%,権現山層や女川層では80%以上が溶解している.全岩化学組成の変化は続成前後でほとんど認められないことから,溶解した物質はほとんど移動せず再沈殿していると考えられる.女川層と船川層の境界を挟んで、Al2O3が増加傾向を示す.粒子構成では秋田堆積盆北中部の太平山南麓では、火山ガラスの量が激増する一方、西部の岩城地区では大きな変化は認められない。秋田地域では,8.5Maを境に火成活動が活発化し、横手盆地北縁部では,安山岩質~デイサイト質のテフラが大量に噴出した(周藤, 2009など).女川層硬質泥岩から船川層塊状暗灰色泥岩への岩相変化は従来指摘されていた後背地の隆起による砕屑物の増加だけで無く,火山活動の活発化による火山砕屑物の増加も大きく寄与していると考えられる. 有機炭素量は,西部の岩城地区の女川層で非常に高い値を示す.また,全域で炭酸塩ノジュールは母岩に比べて有機炭素を多量に含んでいる.このことから,炭酸塩ノジュールの有機炭素はほとんど移動しておらず,続成前の堆積物に含まれる有機炭素量が保持されていると考えられる.

    文献:

    安東大輝ほか, 2015. 日本地質学会学術大会(長野)講演要旨.122.

    西川 治, 2017. 日本地質学会学術大会(松山)講演要旨.124.

    西川 治ほか, 2018. 日本地質学会学術大会(札幌)講演要旨.125.

    西川 治ほか, 2020. 地質学雑誌,126,53-69.

    周藤賢治,2009. 東北日本弧―日本海の拡大とマグマの生成―, 252p.

    Yoshida, H., et al.,2015. Sci. Rep., 5, 14123.

  • 楠橋 直, Zin Maung Thein, Thaung Htike, Ye Ko Latt, Man Thit Nyein, 成田 佳南 ...
    セッションID: G5-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ミャンマー中央部に南北に長く広がる中央 “第三系” 帯は北からチンドウィン盆地,ミンブー盆地,イラワジ・デルタに区分される (高井ほか, 2018).このうち中部に位置するミンブー盆地には漸新–中新統ペグー層群と中新–鮮新統イラワジ層が広く露出する (Naing Maw Than et al., 2017).ペグー層群は主として海成層からなり,ミンブー盆地においては下位よりピャウウェ層,チャウコック層,オボゴン層から構成される.その上位のイラワジ層は河川成層からなり,これまでペグー層群を不整合で覆うと考えられてきた.本研究では,ミンブー盆地南部,マグウェ南東のテビンガン地域において,エーヤワディ川の支流であるミェビャ川,クンオン川,マジガン川,タブッチョー川沿いに地質調査をおこない,オボゴン層とイラワジ層との関係について検討した.

    調査は4つの川の中下流部から上流部に露出するオボゴン層上部からイラワジ層下部についておこなった.この地域の岩相は大きく8つに分類できる: すなわち,(1) 生物擾乱の発達するheterolithic層; (2) しばしば周囲の一般的な層理と斜交し,生物擾乱のほとんど見られないheterolithic層; (3) マッド・ドレイプを伴う斜交層理砂岩層; (4) マッド・ドレイプの見られない斜交層理砂岩層; (5) 平行に成層した細粒砂岩層; (6) 平行に成層したシルト~極細粒砂岩層; (7) 中礫岩層; (8) マッド・クラスト礫岩である.このうち (1) は調査セクションの下部にのみ見られ,しばしば二枚貝類・腹足類・フジツボ類・サメ類の歯などの化石を産する.(1)・(2)・(3) は一方向あるいは二方向の古流向を示す (大局的に西~南西向きと東~北東向き).(4) は (1)・(2)・(3) よりもやや粗粒で,古流向は一般に南~南西向きの一方向である.調査セクションの下部には (1)・(3) の岩相が卓越し,この層準は岩相から考えてオボゴン層である.その上位では (1) は見られなくなり,代わりに (2) がしばしば挟まれるようになる.下部からの変化は漸移的で,岩相上も構造上も不連続は見られない.セクション最上部では (1)・(2)・(3)・(6) は見られなくなり,(4) が卓越するようになる.最上部への変化もやはり漸移的である.最上部の層準はその岩相からイラワジ層であると考えられる.つまり,この地域のオボゴン層とイラワジ層との間に明瞭な不整合はなく,両者は中間的な岩相を示す漸移帯を挟んで連続的に堆積している.

    岩相の組み合わせから,オボゴン層上部は潮汐低地・潮汐流路堆積物を主体とすると考えられる (Warr Warr Thidar Swam et al., 2019).オボゴン層–イラワジ層漸移帯は生物擾乱が弱いこと,海棲生物化石を産しないこと,inclined heterolithic stratificationを伴うことなどから,tidal–fluvial transition zoneの堆積物であると解釈できる (Van den Berg et al., 2007).イラワジ層は河川成層であろう.したがって,この地域のオボゴン層上部からイラワジ層下部は,潮汐低地から,潮汐の影響を受ける河川,そして河川へという海退に伴う一連の堆積環境の変化を記録していると考えらえる.調査地域北西方のインゼイ地域にもオボゴン層–イラワジ層漸移帯と思われる岩相が見られるため,ミンブー盆地南部においては広くオボゴン層からイラワジ層への漸移が見られるのかもしれない.

    引用文献

    Maw Than et al. (2017) Myanmar: Geology, Resources and Tectonics, 143–167; 高井ほか (2018) 化石, 103, 5–20; Van den Berg et al. (2007) Neth. J. Geosci., 86, 287–306; Warr Warr Thidar Swam et al. (2019) Proc. 3rd Myanmar Natl. Conf. Earth Sci., 421–434.

G6(口頭). ジェネラル-サブセッション6 岩石・鉱物・火山
  • 岩森 暁如, 小北 康弘, 島田 耕史, 立石 良, 高木 秀雄, 太田 亨, 菅野 瑞穂, 和田 伸也, 大野 顕大, 大塚 良治
    セッションID: G6-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:岩石の風化に関する研究はこれまで地質学,地形学,鉱物学等の多岐にわたる分野で進められてきた.風化作用とは,岩石が地表条件のもとで,気圏,水圏,あるいは生物圏の影響で変化していく現象であり,物理的風化作用,化学的風化作用,鉱物学的風化作用に大別される (木宮, 1991).このうち,化学的風化作用は,岩石と水,酸素や二酸化炭素を主とするガスとの反応による岩石の化学変化であり(関, 1998),その尺度をあらわす指標としてAl2O3, Na2O, CaOなどの不安定な鉱物の分解に着目した多くの風化度指数がこれまで提案されている.Ohta and Arai (2007) は,単一鉱物の溶解過程ではなく,風化過程における平均的な地球化学的反応を把握することを目的とした風化度指標W値とMFWダイアグラム (M:苦鉄質源, F:珪長質源, W:風化物質) を提案した.本稿では,若狭湾東方陸域に分布する江若花崗岩中の断層岩を対象とし,断層岩のW値について検討し,風化の進行度等の諸特性についてMFWダイアグラムを用いて検討した.また,江若花崗岩と美濃丹波帯変玄武岩との地質境界の断層についても同様の検討を行い,江若花崗岩中の断層岩との特徴の相違について検討した.

    断層岩試料およびXRF分析:今回の検討には江若花崗岩の断層岩試料 (n=33) および美濃丹波帯変玄武岩の断層岩試料 (n=8),合計41試料を用いた.江若花崗岩の断層岩試料は,活断層の白木丹生断層,非活断層の高速増殖原型炉もんじゅおよび美浜発電所の各敷地内の破砕帯において採取した.一方,変玄武岩の断層岩試料は,活断層の敦賀断層において採取した.XRF分析は,日本原子力研究開発機構所有のZSX Primus II (X線管球フィラメント:Rh) (㈱リガク製) を使用し,ガラスビート法により行った.  W値は,Ohta and Arai (2007) にしたがい,XRF分析で得られた10成分の酸化物の重量%データのうち,一般的に検出限界以下となる MnO, P2O5を除く8成分 (SiO2, TiO2, Al2O3, Fe2O3, MgO, CaO, Na2O, K2O) の総量が100wt.%になるよう設定した重量%データを用いて算出した.

    結果:江若花崗岩:母岩 (No.33,転石) は,F値=94.2%,W値=4.9%であり,珪長質でほとんど未風化である.断層岩試料は,活断層・非活断層にかかわらずM値が約3%でほぼ一定であり,風化が進展するとF値が減少し,W値が増加する.8成分の酸化物について,W値への影響度とW値の変動傾向との整合性の観点から検討した結果, 特にNa2OとCaOがW値の増減に大きな影響を与えることが確認できた.また,母岩No.33の Al2O3を不変と仮定し,マスバランス法により母岩に対する各酸化物の絶対量変化率を算出した結果,Na2OはW値の増加に伴い減少するのに対し,CaOはW値が40%程度までは母岩に比べて増加するものの,40%を超えると減少する傾向がみられた.さらに,別途実施したXRD分析の結果,W値が大きい断層ガウジでは斜長石のピークが減少する.以上より,江若花崗岩のW値は,F成分の斜長石の増減と関係すると考えられる.なお,白木丹生断層では,地下水位以下のボーリングコア試料 (No.5, 6, 7) のW値 (15.0%-18.4%) は,地下水位以浅の露頭試料 (No.1, 2, 3, 4) のW値 (29.2%-48.7%) に比べて小さい.これは,CaOの絶対量変化率の傾向の違い (露頭:-60~-86%,ボーリングコア:+45~+61%) が要因であり,W値およびCaOは地下水の影響 (斜長石の溶脱、方解石の沈殿等) を大きく受けると考えられる.なお,別途実施したTiO2を不変とした場合の絶対量変化率の検討では,風化の進行に伴い酸化物の総重量%が増加する等,Al2O3と異なる結果が得られたが,これは元々のTiO2含有量が少ないことによる誤差が要因と考えられる. 変玄武岩:母岩 (No.38,転石) は,M値=88.2%,W値=6.6%であり,苦鉄質でほとんど未風化である.カタクレーサイト (No.36, 37) まではF値がほぼ一定であり,風化が進展するとM値が減少し,W値が増加するが,断層ガウジ (No.34, 35, 39, 40, 41) ではW値の増加に伴いF値の増加もみられた.これは,薄片観察において断層ガウジ中に石英のフラグメントの混在がみられたこと,XRD分析により石英とカリ長石の混在がみられたことから,断層活動による江若花崗岩の岩片の混入が要因と考えられる.

    引用文献:木宮一邦, 1991,応用地質, 32, 22-31. 関陽児, 1998,地質調査月報, 49, 639-667. Ohta T, Arai H, 2007, Chemical Geology, 240, 280-297.

  • 沢田 輝, 森下 知晃, 谷 健一郎
    セッションID: G6-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ジルコンは主に花崗岩質岩に含まれる鉱物だが、かんらん岩やクロミタイトなどの超苦鉄質岩からも稀に産出し、その起源については様々な議論がある。太古代超苦鉄質岩は、コマチアイトなどの噴出岩を除くと、緑色岩体の構成岩石として存在するものと、片麻岩体中の数mから数kmスケールのブロックとして点在するものとに大別できる。多くの場合、角閃岩相~グラニュライト相程度の強い変成作用や花崗岩質岩貫入などの影響を受けている。このような太古代超苦鉄質岩に含まれるジルコンの起源を分類すると、(1)火成起源ジルコンが変成・変質に耐えて初生的組成を保持しているもの、(2)火成起源ジルコンが変成・変質したもの、(3)変成起源ジルコンがさらに変成・変質したもの、となる。(1)の例として、グリーンランド南西部の約3.7 Gaイスア緑色岩体苦鉄質マグマからの沈積かんらん岩中に産するジルコンがある[1]。(2)の例として、インドDharwar地塊Chithradurga縫合帯[2]やグリーンランド南西部Itsaq片麻岩体中のUjaragssuit Nunat岩体[3]が挙げられる。これらの超苦鉄質岩中で変成・変質を受けたジルコンは、周辺地質情報や微量元素組成からウラン鉛年代が変成イベントの年代を示すと解釈される一方で、一部のジルコン粒子のHfモデル年代は火成イベントの時期を示す。(1)、(2)共に、超苦鉄質岩中の火成起源ジルコンは、約2.05 Ga Bushveld層状貫入岩体で見られるように沈積岩形成過程で分化の進んだメルトの影響で晶出したものであると考えられる[4]。一方で、(3)はZrを含む鉱物が変成によって分解して生じるジルコンであり、グリーンランド東海岸Rae地塊東端Ivnartivaq岩体に産する蛇紋岩の脱水で生じた変成かんらん岩中のジルコンが挙げられる[5]。超苦鉄質岩中ジルコンは火成起源であっても波動累帯構造が明瞭でないことも多く、(1)~(3)を区別するにはウラン鉛年代測定だけでなく、産状や微量元素組成、酸素・Hf同位体比等から総合的に判断する必要がある。太古代超苦鉄質岩中ジルコンは特にウラン鉛年代が変成イベントによってリセットされてしまうことが多い点は特筆される。蛇紋岩化作用に伴ってロディン岩やヒスイ輝石岩などに熱水ジルコンが生じることから類推すると、ジルコンは超苦鉄質岩中では珪長質岩中よりも変成・変質に弱い可能性がある。このことは、超苦鉄質岩中ジルコンは火成活動やマントル進化の解読に使うには不利であるが、変質履歴の解読には有用であることを示唆する。

    参考文献

    [1] D'Andres et al. (2019). Geochimica et Cosmochimica Acta, 262, 31-59.

    [2] Santosh et al. (2020). Lithos, 376, 105772.

    [3] Sawada et al. in prep.

    [4] Yudovskaya et al. (2013). Mineralogy and Petrology, 107, 915-942.

    [5] Peters et al. (2020). Earth and Planetary Science Letters, 544, 116331.

  • 河原 弘和, 吉田 英一, 西本 昌司, 纐纈 佑衣, 勝田 長貴, 梅村 綾子
    セッションID: G6-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【背景】赤色砂岩などの酸化鉄を含んで赤色を呈する堆積岩において、酸化鉄が分解してできた数mm~数cm大の白色スポット(: Bleached spotあるいはReduction spot)が見られることがある。その局所的な白色化のプロセスについては様々な要因が考えられており、炭化水素を含む流体、先駆物質の有機物及び微生物活動によるものと説明されてきた。白色スポットの一部に、中心にウランやバナジウムといった重金属元素の濃集部を伴うタイプがある。近年、そのような重金属元素濃集を伴うスポットのウラン同位体比パターンにより、そのスポットが微生物活動によって形成したことが示された[1]。そのため、一部の先行研究では白色スポットをバイオマーカーとみなし、火星での生命探査に応用する提案がなされている[1][2]。しかし、ほとんどの白色スポットは上記のような重金属元素の濃集は伴わないため、白色スポットの存在だけで生命活動の痕跡として良いかは議論の余地があると考える。

    【研究対象】本研究において、ゼブラロックと呼ばれる豪州北部に産する特徴的な酸化鉄からなるバンド模様を呈する堆積岩中に、中心に特徴的な多角形の結晶を伴う直径100 μmほどの微小な白色スポットを発見した。ゼブラロックの鉄バンド形成プロセスについては議論があるが、鉄を含む酸性流体と母岩との反応によって生じた可能性が提案されている[3][4]。スポットの産状から中心物質とスポット形成との関連が推測され、先駆物質の痕跡が残る白色化現象として注目した。

    【結果】本研究では、偏光顕微鏡観察、XGT分析、ラマン分光分析、SEM-EDX分析及びEMPA分析の結果を基に、ゼブラロック中の白色スポットの形成プロセスについて検討を行った。中心結晶の形状及び元素マッピングの結果から、結晶は、自形で立方体及び八面体となる黄鉄鉱がディッカイト、ゲーサイト及びヘマタイトに置き換わったシュードモルフであると推測した。また、スポットは鉄バンドの縁あるいはバンドの外の鉄が薄く沈澱した箇所でのみ認められ、バンド内の鉄の濃度が大きい箇所では認められなかった。

    【考察】スポットの分布から、鉄バンドの酸化鉄鉱物の沈澱とスポット形成が同じイベントで形成したと考えられる。従って、スポットの形成プロセスとして以下のステップが考えられる:(1) Fe2+を含む酸性流体が母岩中の炭酸塩鉱物や長石類によって緩衝され、Feがゲーサイト(FeOOH)として沈澱する(:鉄バンド形成)(2) 母岩中の初生黄鉄鉱が酸性流体によって分解し、周囲にH+イオンが拡散される。(3) H+イオンが拡散した範囲では、局所的にpHが低下してゲーサイトが分解する(4) 初生黄鉄鉱の分解した箇所にはディッカイトが充填し、分解せず残った箇所はゲーサイト及びヘマタイトに変化する(5) その後、全体が酸化してゲーサイトがヘマタイトとなる。ゲーサイトが分解した範囲は酸化鉄フリーの白色スポットとして残るスポットの有無は、初生黄鉄鉱の分解に伴う酸化鉄の分解反応と周囲の酸化鉄の沈澱反応のどちらが優勢であったかによる違いであると考えられる。なお、ゼブラロック中では初生黄鉄鉱が残っていないため、微生物による硫酸還元で生じたものか、続成作用で生じたものかは現時点では断定できない。

    【結論】本研究によって白色スポットが必ずしも微生物活動などの有機的な反応だけでなく、硫化鉱物が酸化分解による局所的なpH変化という無機的な反応によっても生じうることがわかった。このことから、全ての白色スポットが必ずしもバイオマーカーとなりうるわけではなく、スポットの起源はその中心物質を精査した上で判断すべきであると考える。

    【引用文献】[1] McMahon et al., 2018. Nature Comm. [2] Parnell et al., 2016. Origins of Life and Evolution of Biospheres. [3] Retallack, 2021. Aust. J. Earth Sci. [4] Kawahara et al., 2022. Chem. Geol.

  • 山内 彩華, 坂口 有人
    セッションID: G6-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

    結晶中に流体が閉じ込められているものを流体包有物とよぶ.流体包有物は結晶の格子欠陥よりもはるかに大きな欠陥である.Roedder(1984)では流体包有物の形成モデルとして6つの案を挙げているが,現在もどのようにしてこのような欠陥が結晶成長中に形成されるのかわかっていない.

    一般的な結晶合成実験では流体包有物は形成されない.早川,南部(1974)は石英とカリミョウバンの合成において極端に過飽和な条件で包有物が形成されることを確認し,過飽和度が要因のひとつではないかと指摘した.柳澤,後藤田(2011)がカルサイトの育成実験において結晶を大きくするために一度徐冷した状態から再び昇温・徐冷する2段階徐冷実験を行ったところ,オーバーグロース層中に多数の流体包有物が存在することが確認された.

    本研究ではオートクレーブを用いて2段階徐冷の実験条件を変えながらカルサイトを合成し観察を行うことにより,流体包有物の形成条件を明らかにすることを目的とする.

    【研究手法】

    実験条件として2段階徐冷時の昇温後の高温保持時間の有無や継続時間,その時の撹拌の有無の条件を変更しながら実験を行なった.

    【結果】

    2段階徐冷時の高温保持時間が短い場合,および強制撹拌を行わなかった場合には流体包有物は確認できなかった.一方で2段階徐冷時の高温保持時間が十分に長く,そしてその間に強制撹拌,もしくは自然対流によって溶液を循環させた場合には流体包有物を含んだカルサイト結晶が形成された.

    これらの実験の各段階でクエンチし,走査型電子顕微鏡を用いてカルサイト結晶の表面の観察を行なった.2段階目の昇温の直後までは結晶表面はフラットであったが,溶液を撹拌しつつ12時間高温保持をしたあとには様々な深さをもつ凹部がみられるようになった.このあと2段階徐冷が進むにつれて凹部をもつ結晶は少なくなった.

    【議論】

    流体包有物の形成には結晶表面の融解によって深い溝や凹部が生じることが必要であると考えられる.撹拌や自然対流によって結晶表面に高温の溶液が触れ続けることで表面の融解が促進される.それによって結晶表面に凹部が生じる.その後,結晶成長が進むにつれて結晶表面の凹部が起点となって起点よりもはるかに大きな空洞に成長すると考えられる.最終的に空洞が閉じられて流体が捕獲されると考えられる.

    【文献】

    Edwin Roedder (1984) Fluid Inclusions, 13-19

    早川典久,南部正光(1974) 人工結晶中の包有物の形状 ―地質温度計としての液体包有物に関する研究(第3報)―. 日本鉱業会誌, 90, 479-485

    国立大学法人高知大学. 柳澤和道・坂口有人・阪口秀. カルサイト単結晶の製造方法. WO2012/108473. 2014-7-3.

    佐脇貴幸(2003) 流体包有物 ―その基礎と最近の研究動向―. 岩石鉱物科学, 32, 23-41.

    Sterner, S.Michael., Bodnar, Robert.J.(1984) Synthetic fluid inclusions in natural quartz I. Compositional types synthesized and applications to experimental geochemistry. Geochimica et Cosmochimica Acta, 48, 2659-2668

    柳澤和道・後藤田智美(2011) 科学研究費補助金基盤研究B 多鉱岩の弾性変形におけるカルサイト応力計の開発 分担研究「微細なカルサイト単結晶の水熱育成」 2010年度成果報告書

G7(口頭). ジェネラル-サブセッション7 海洋地質
  • 梶原 勘吉, 鶴 哲郎, 井上 卓彦
    セッションID: G7-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東京湾は世界でも有数の船舶輻輳地域であり,かつ漁業活動が盛んである.そのため,地震探査やボーリングなどの海洋調査の実施が困難で,首都圏に位置しながら,その地質情報は著しく少ない.1980年代から,海上保安庁水路部による反射法地震探査によって,海底下約100 mまでの詳細な地下構造が明らかにされてきたが,湾中央部から北部では,海底下約10 mおよびそれ以深に音響散乱が広範囲に確認され(加藤,1984),依然として地下構造の全貌は不明のままである.2000年代からは、海洋生態系への環境負荷の懸念から爆破型震源の使用が制限され,東京湾でも,地震探査がほとんど行われなくなった.すなわち,東京湾北部は,一部海域が地震探査の空白域となっている(鶴ほか,2021). 本地域の音響散乱について、その要因は古東京川の礫層(中条,1962),沖積層や埋没谷を埋積する軟弱層(菊池・菊池,1991),あるいは堆積物中のガス(たとえば,岩淵ほか(1998))等の指摘があるが,明らかではない.  そのような中,Tsuru et al(2019)では,2017年12月,東京湾北部において,環境配慮型震源の水中スピーカーを用いた地震探査が行われた.その結果,浦安沖の海底下約7~8 mにガス層の存在を示す極性が反転した強振幅の反射波が観測された.また,地震探査データの速度解析結果からは,その下位に,低速度層が存在することが示され,ガスの存在が指摘された.さらに採取されたガスの組成分析から,96.8 %がメタンであることが明らかとなっている.このメタンガスの成因は,堆積物中の微生物によるもの又は,南関東ガス田由来の水溶性天然ガスが深部から移動してきたものと考えられている. しかし現在も,東京湾北部のガス層の詳細や音響散乱との関連性及び,その層序は未解明のままである.そこで,本研究では2017年から2022年までの東京海洋大学による水中スピーカーを用いた地震探査のデータから,これらについて検証を行った, まず,最大で海底下約60 mまでの詳細な層序が明らかとなった.本研究において,最上位に位置し,海底面と平行な成層した反射面を持つ層をT1層と定義する.続けて,T1層の下位に位置し,起伏のある強い反射上面で特徴づけられる層をT2層と定義する.それ以下には地層境界を反映したような反射波は確認できなかった.T1層は湾中央部から北西部で厚く,最大25 m以上の層厚を持つ.一方で,湾中央部に向けて層厚を減じる傾向にある.比較的水平な成層構造が発達している点や,大きな河川の多い湾北西部で層厚が増すことからも,第四紀完新世の沖積層である有楽町層に相当する.T2層は湾中央部で最も浅くなるが,湾中央部から南方では,再び深度を増し,丘のような形態を呈している.その反射上面は,段丘堆積物の削剥された地形を特徴的に捉えており,第四紀後期更新世の埋没段丘堆積層に相当する. 次に,東京湾北部の広範囲で負の極性を示す反射波及び,その下位に低速度層が確認できた.これにより,ガス層の分布と,一部でその層厚が明らかとなった.その分布は湾北西部に偏っており,海上保安庁によって報告された音響散乱層の分布(菊池・菊池,1991)とも重なる.さらに,この反射波は,幾つかの特定の層で確認できることから,ガスの集積が複数の時代で行われている,または深部から上昇している可能性が示唆される. 本講演では,東京湾北部の浅部の層序とガス層の分布及び音響散乱との関連性ついて議論する. 引用文献 岩淵 洋・西川 公・野田直樹・田賀 傑・雪松隆雄,1998:東京湾北部の海底断層調査,水路部技報,16,85–88. 加藤 茂,1984:東京湾の海底地質構造,地学雑誌,93,119–132. 菊池真一・菊地隆男,1991:マルチチャンネル反射法音波探査記録からみた東京湾底浅層部の地質構造,水路部研 究報告,27,59–95. 中条純輔,1962:古東京川について ―音波探査による―,地球科学,59,30-39 Tsuru T., K. Amakasu, J.-O. Park, J. Sakakibara and M. Takanashi, 2019: A new seismic survey technology using underwater speaker detected a low-velocity zone near the seafloor: an implication of methane gas accumulation in Tokyo Bay, Earth Planets Space, 71–31. 鶴 哲郎・竹内 賢太郎・板橋 哲也,2021:練習艇「ひよどり」によって発見された東京湾北部の海底ガス集積層,石油技術協会誌,86,105–111.

  • 村山 雅史, 神徳 理紗, 新井 和乃, 原田 尚美
    セッションID: G7-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    内湾は、自然による環境変化や人間活動による環境変化を詳細に記録している場所である。特に、産業革命以降、人間が地球環境に負荷を与えてきた記録が残されており、新たに「人新世(Anthropocene)」とよばれる地質年代が提唱されている(Crutzen and Stoermer, 2000)。海底堆積物から、東京湾(陶ほか, 1981)や大阪湾(陶ほか, 1983)、伊勢湾(陶ほか, 1982)などの大都市や工業地帯周辺での解析が報告され、その概要は報告されている。しかしながら、「人新世」付近の人為的な影響がある時代をより連続で分析している研究例は少ない。そこで、本研究では、工業地帯の影響が少ない、地方の高知県中央部に位置する浦ノ内湾の海底堆積物中に記録されている人新世を挟んだ時代の環境変動について検証することを目的とする。重金属の濃度と有機物の濃度や組成変化を調べた。浦ノ内湾は湾口が狭く、東西に12kmの細長い地形を持つ沈降性の内湾であり、連続的な海底コア試料が採取された。

     浦ノ内湾の海底表層堆積物は、湾奥と湾央で、潜水士によって直接パイプを直接押し込み、各地点2本ずつコア試料を採取した。これらは、X-CT、MSCL測定を行い、半割後、digital image, XRF core scanner (ITRAX)をもちいて元素組成分析を行った。また、1㎝間隔で深さ方向に切りわけた後、冷凍保存し、凍結真空乾燥を行い、粉末状にして、EA-IRMSによる有機物分析とγ線スペクトル分析装置をもちいた年代測定をおこなった。

    湾奥(U-1)と湾央(U-3)の堆積物は、シルト質軟泥であり貝化石を多く含む。コア上部には貝殻片が少なくヘドロが堆積していた。湾奥(U-1)では、重金属元素(Cu, Zn, Ni, Pb, Cd, Cr)が、コア表層より約18cm(1964年)付近から増加し、湾央(U-3)では、コア表層より約36.5cm(1954年以前)付近から増加が見られた。重金属元素は、第二次世界大戦以降、約2倍近く増加していた。また、酸化還元の指標となるMnは、湾奥では約14cm(推定1977年)から減少、湾央では約34cm(1954年)から減少しており、この頃から海底環境が還元的になったと考えられる。海起源有機炭素の指標となるBrは、湾奥では約25cm(1953年)から増加、湾央では約45cm(1922年以前)から増加しており、植物プランクトン由来のそれらが増加したことが推定できる。さらに、有機炭素量(TOC)とC/N比は、湾奥では約25cmから増加、湾央では約45cmから増加しており、それに伴い安定同位体比(δ13Corg., δ15Norg.)も変化した。この時期から養殖がおこなわれており、人為的な影響が大きいと考えられる。湾奥(U-1、水深9.7 m)と湾央(U-3、水深19 m)を比較すると、平均堆積速度は2倍異なるため、海底地形や海盆面積にともなう堆積量の違いから、重金属元素や有機物の変化の開始時期が異なったと考えられる。

    引用文献:

    陶正史,峯正之,岩本孝ニ,当重弘,東京湾海底堆積物の重金麗汚染,水路部研究報告第16号, 1981.

    陶正史,柴山信行,峯 正之,岩本孝二,当重弘,松本敬三,稲積忍,伊勢湾海底堆積物の重金属汚染,水路部研究報告第17号, 1982.

    陶正史,柴山信行,峯 正之,岩本孝二,当重弘,松本敬三,大阪湾海底堆積物の重金属汚染,水路部研究報告第18号, 1983.

    Crutzen and Stoermer, The ‘Anthropocene’,A New Epoch in Earth’s History,edited by Paul J. Crutzen and the Anthropocene, pp 19–21, 2000.

  • 芦 寿一郎, 中西 諒
    セッションID: G7-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    南海トラフでは,古文書・遺跡・津波堆積物の研究から繰り返し発生する海溝型巨大地震が報告されているが,海域からの古地震の情報は限られる(Garrett et al., 2016, Earth-Science Reviews).海底試料の分析が進めば,より長期にわたるセグメントごとの破壊の時空間分布が解明されると考えられる.最近では2020年に表層科学掘削プログラム(SCORE)が東海沖で行われ,平均して200年間隔のタービダイトの挟在の報告があるが(池原ほか,2020,GSJ地質ニュース),より広域にわたる試料を用いた研究が必要な状況にある.

     本研究では,南海トラフの志摩半島沖から潮岬沖のコア試料において,X線CT画像・帯磁率等の非破壊物性測定,XRFコアスキャナーを用いた非破壊元素濃度分析を行い細粒タービダイトの認定を行った.また,浮遊性有孔虫に加えて全有機炭素(TOC)の放射性炭素年代を用いて堆積年代を求めた.X線CTスキャナは肉眼で識別が困難な細粒タービダイトも明瞭に捉えられるが,生物擾乱を受けた層ではその認定が困難である.そのような場合でも帯磁率や元素濃度(Fe, Ca, K, Mn, Br等)の増減の傾向からタービダイトの存在を推定することができる.さらに肉眼では判別困難なタービダイトの泥質部と半遠洋性泥の境界を後者の方が元素濃度の変動が小さいことから境界位置の推定ができる.ただし,タービダイトの元素濃度の増減の傾向は地点ごとで異なり,供給源の堆積物の違いを反映しているものとみられる.

     年代決定ではタービダイト直下の半遠洋性泥中の浮遊性有孔虫殻の放射性炭素年代がよく用いられるが,測定に十分な量の有孔虫が得られないことが多い.そのため堆積物の全有機炭素(以下,TOC)の放射性炭素年代を本研究では用いたが,様々な起源の有機物に由来するため年代決定の信頼性に問題がある.そこで,多点での浮遊性有孔虫とTOCの放射性炭素年代を比較し両者の年代差を調べた.その結果,志摩半島沖では報告済みの新宮沖(中澤ほか,2018,地質学会要旨)や熊野沖(三浦ほか,2020,地震学会要旨)と同じくその差は1,000から1,600年ほどTOCの方が古い年代となり,潮岬沖ではその差が2,000年前後となった.しかし,各地点内では年代差に系統的な変化が認められないため,TOCの放射性炭素年代値から該当する年代差を引くことにより堆積年代が求められ,他の手法に比べて連続的な年代の推定が可能であることを示した.

     各種分析で推定したタービダイトの枚数と堆積年代をまとめた結果,志摩半島沖では12,000〜20,000年の期間において150〜200年に1回程度のタービダイトの挟在が推定された.しかし,若い年代ではタービダイトの挟在がほとんど見られなかった.この地点の北20 kmの地点では,3,000〜4,000年前の時期において最短170年,最長 680年間隔のタービダイトの堆積が報告されており(池原,1999,堆積学研究),タービダイトの堆積範囲が完新世以降に陸側へ縮小したことに起因していると考えられる.潮岬沖では現在から1万年前の期間において300年に1回程度のタービダイトの挟在が推定された.南海トラフ海域で報告されているプレート境界地震の発生間隔と比較すると少ない頻度となっている.これは,地震の規模と震源との距離(Usami et al., 2018, Geoscience Letters)や供給源となる地層の状態(堆積物が準備されているかどうか)などが影響するため,地震履歴を評価するためには多点の試料を用いた研究が必要である.

     本研究は,令和3年度原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施された.

  • 三澤 文慶, 高下 裕章, 冨士原 敏也, 荒井 晃作
    セッションID: G7-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(MW 9.0)の発生に伴い、東北地方をはじめとする東日本の地域では活発な余震活動や地殻変動である余効変動が継続して発生していることが知られている(例えばYamagiwa et al., 2015)。Arai et al.(2014)による反射断面の研究から、東北沖の陸側プレート(以下、上盤プレート)で数10 kmのスケールの小規模な凹地状の堆積盆が見つかっている。前弧斜面域では2011年地震後の余効変動に起因する新たな地質変動が生じていることが予測される。ただし、当該海域を含めて、日本海溝での海底地形もしくは海底下浅部構造から現在発生している余効変動の影響を捉えた研究事例は未だにない。そのため、本研究では巨大地震に起因した地質変動と現在進行する前弧斜面域の変動を明らかにすることを目的に、前弧斜面域に点在するisolated basinの地質構造に着目して,2011年地震後の余効変動に起因する新たな変動の検出とisolated basinの構造的特徴の解明を試みた。

    本研究では、2017年の新青丸KS-17-8次航海,2018年の白鳳丸KH-18-1次航海,および2020年の白鳳丸KH-20-10航海で取得した海底地形データ,反射法地震探査データ,及びサブボトムプロファイラー(SBP)探査を使用した。このうち,2017年の新青丸KS-17-8次航海でのSBP探査結果では北緯39度以南と以北の堆積盆にて高密度探査を行い、表層構造の比較を行った。また、反射法地震探査データは地震前後の地質構造変化を抽出するべく、2005年と2007年と同じ探査測線にて調査を行った。

    Isolated basin における2011年地震前後での変動に関し、反射断面の比較の結果から、反射断面スケールの大きな構造変化は確認されなかった。ただし、堆積層の層厚と規模に関しては北緯39度周辺を境界として層厚の明瞭な違い及び不整合面の枚数の違いが確認できた。この結果は前弧斜面域の沈降が一様ではないことを示唆する。次にisolated basinにおける地震後の前弧斜面域の変動に関して、2017年および2020年にSBP探査の結果から、北緯39度以北に位置する堆積盆では部分的に海底まで到達した正断層が発達することが明らかになった。この結果は前弧斜面域での局所的な沈降運動の存在を指し示すものと考えられる。海溝軸部分・前弧斜面域の変動に関して、白鳳丸KH-20-10航海で行った海底地形観測結果とFujiwara et al. (2011)の結果を比較した。その結果、Fujiwara et al.(2011)測線においては地震後の余効変動は明瞭ではなかった。一方、これまで報告されていた地震前後の変動がより空間的な広がりを持つこと、更に前弧斜面域のMiddle slope terrace部分にてこれまで報告のない10 mを超える大きな沈降を確認した。 本発表では、複数航海で取得されたデータに基づく東北沖前弧斜面域での研究成果を紹介する。

    <引用文献>

    Arai, K. et al. (2014). Episodic subsidence and active deformation of the forearc slope along the Japan Trench near the epicenter of the 2011 Tohoku Earthquake. EPSL, 408, 9-15. Fujiwara, T. et al. (2011). The 2011 Tohoku-Oki earthquake: Displacement reaching the trench axis. Science, 334(6060), 1240-1240.

    Yamagiwa, S. et al. (2015). Afterslip and viscoelastic relaxation following the 2011 Tohoku‐oki earthquake (Mw9. 0) inferred from inland GPS and seafloor GPS/Acoustic data. GRL, 42(1), 66-73.

  • 中元 啓輔, 亀田 純, 濱田 洋平, 増本 広和
    セッションID: G7-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    沈み込み帯における断層運動は津波を伴う地震を発生させる可能性があり,地震性すべりのメカニズム解明はきわめて重要である.地震性すべりを引き起こす断層運動は間隙水圧の上昇などの流体による影響が考えられる (Sibson, 1973).流体の挙動は透水性によって支配されており,透水性は間隙率との相関性がみられる.しかし,透水性は間隙率だけではなく,間隙構造の違いによっても変化すると考えられる.断層岩の間隙率推定は水銀圧入法や海洋掘削においてはMAD法などによって行われているが,本研究では間隙構造推定に窒素ガス吸着法を用いる.窒素ガス吸着法の岩石への適用はシェールガスなどの資源探査分野で行われており,頁岩のガス貯蔵量推定に用いられている.この手法は水銀圧入法よりも小さい細孔の分析に適しており,細孔容積,BET比表面積といったナノスケールでの岩石の構造を表すパラメータの解析が可能となる.本発表では断層岩の微小構造分析における窒素ガス吸着法の有用性について検討する.

    今回用いた断層岩試料はIODP Exp. 316 (NanTroSEIZE),IODP Exp. 343(JFAST),延岡衝上断層掘削プロジェクト(NOBELL)で採取されたボーリングコア試料と房総半島の白子断層である.試料は実験前に425μm以下に粉砕し,200℃で12時間真空脱気し試料表面の吸着分子を取り除いた.前処理した試料を窒素ガス吸着法で測定し吸脱着等温線 (isotherm)を得た.得られた吸脱着等温線からBET法によりBET比表面積,BJH法により細孔径分布を求めた.

    測定した吸脱着等温線はすべての試料でヒステリシスがみられた.ヒステリシスの形状は細孔の形状を反映すると考えられており(Sing, 1985),測定した試料内で産地・鉱物組成ごとの差だけではなく,断層と原岩の間にもその形状の違いがみられ,断層運動による細孔構造の変化が示唆された.

    BET比表面積を比較すると,間隙率の高い浅部の断層では比較的高い値を示しているが,深部の断層では明確に低下している.また,白子断層のBET比表面積は断層において急激に増加している傾向がみられ,表面構造の変化においても断層運動の影響が示唆された.

    引用文献

    Sibson, R. H. (1973). Interactions between temperature and pore-fluid pressure during earthquake faulting and a mechanism for partial or total stress relief. Nature Physical Science, 243(126), 66-68.

    Sing, K. S. (1985). Reporting physisorption data for gas/solid systems with special reference to the determination of surface area and porosity (Recommendations 1984). Pure and applied chemistry, 57(4), 603-619.

  • 石井 輝秋, 金子 誠, 平野 直人, 町田 嗣樹, 秋澤 紀克
    セッションID: G7-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    マントルに至る地球深部の物質科学的研究には,構成物質であるマントル橄欖岩をはじめとする岩石・鉱物の入手が不可欠である.陸上ではダイアトリュームを伴う火山の母岩及び捕獲岩・捕獲結晶が研究に供されてきた.たとえば,島弧地殻をもつ日本列島では,アルカリ玄武岩マグマ活動による火山岩中の捕獲岩が,大陸地殻を持つアフリカ大陸ではキンバーライトマグマ活動による火山岩中の捕獲岩が研究対象として活用されてきた. 海洋プレート域では,ホットスポットマグマ活動による火山岩中の,マントル橄欖岩捕獲岩が知られているが,其の成因を一義的に決めるのは困難であろう.しかし,近年海洋プレートアスノスフェア由来のマグマ活動による単成火山であるプチスポット火山が発見(Hirano et al., 2006)され,海洋プレート域の汚染の少ない地球深部物質の入手が可能となった.とは言え,これら東北沖プチスポット火山は水深5000m以深にあるため,陸上火山調査に比べ困難が伴う. その後,それらのプチスポット火山の中に爆裂火口(マール=maar)を有する火山が発見され(石井他, 2019)その火山体の基部にはプチスポットパイプと称すべき火山角礫岩からなるダイアトリュームの存在が予想できる.ここではR/V「ちきゅう」によるノンライザー深海掘削を提案する.プチスポット火山産角礫岩は見かけの比重が約1.4と小さいので,緻密な溶岩に比べ格段に容易に掘削可能と考えられる.そこでプチスポット火山火口内にリエントリーコーンを設置しての,R/V「ちきゅう」による,ノンライザー,ノーコアリングの深海掘削を提案したい.水深約5500 m-6000 mの海底に散在している火口から,どの深度まで多孔質玄武岩からなるプチスポットパイプが連続するかは不明であるが,「ちきゅう」の能力を最大限活用すれば,検証可能であろう.海底下数千メートル(条件が良ければ約3000 m-5000 m),否,マントルまでの掘削も夢ではないであろう.何故ならば,プチスポットパイプ及びその周囲はマグマの貫入や,焼き生しで安定している可能性もあり得るからです.ノンライザー深海掘削には不可欠だと思われる,上方掘削可能コアバレルの新規開発・運用をも提言する.ドリルストリングスが回転している限り,即ち上方掘削が可能な限りコアバレルを無事揚収できると考えられる(石井他,2021).更に,掘削孔壁を貫いての斜め掘装置を開発し,数百メートル毎に地質構成岩石採取が可能に成れば尚望ましい.これぞ“プチスポットパイプを活用してのモホール計画”と言っても過言ではない.

    文献

    Hirano, N., Takahashi, E., Yamamoto, J., Abe, N., Ingle, S. P., Kaneoka, I., Kimura, J.-I., Hirata, T., Ishii, T., Ogawa, Y., Machida, S. and Suyehiro, K. (2006): Science, 313, 1426-1428.

    石井輝秋・金子誠・平野直人・町田嗣樹・秋澤紀克(2019):「新青丸」KS-18-9航海,プチスポット火山ドレッジ研究速報と展望:-歴史的大発見:東北沖太平洋超深海底の爆裂火口(マール)-.深田地質研究所年報, 20, 105-128.

    石井輝秋・金子誠・平野直人・町田嗣樹・秋澤紀克(2021):プチスポット溶岩及びマントル捕獲岩・捕獲結晶の地質学的・岩石学的研究 —太平洋プレートのアセノスフェアに至る地質断面構築を目指して—. 深田地質研究所年報,22,99-118.

  • 木下 正高, 北田 数也, 野崎 達生
    セッションID: G7-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    We observed temperature variations over 10 months within a Kuroko ore (hydrothermal sulfide) cultivation apparatus installed atop a 50-m-deep borehole drilled in the Noho hydrothermal system in the mid-Okinawa Trough, southwestern Japan, for monitoring of hydrothermal fluids and in situ mineral precipitation experiments. Temperature and pressure in the apparatus fluctuated with the tidal period immediately after its installation. Initially, the average temperature was 75–76 °C and the amplitude of the semi-diurnal tidal temperature modulation was ~0.3 °C. Four months later, the amplitude of tidal temperature modulation had gradually increased to 4 °C in synchrony with an average temperature decrease to ~40 °C. Numerical modeling showed that both the increase in tidal amplitude and the decrease in average temperature were attributable to a gradual decrease in inflow to the apparatus, which promoted conductive cooling through the pipe wall. The reduced inflow was probably caused by clogging inside the apparatus, but we cannot rule out a natural cause, because the drilling would have significantly decreased the volume of hot fluid in the reservoir. The temperature fluctuation phase lagged the pressure fluctuation phase by ~150°. Assuming that the fluctuations originated from inflow from the reservoir, we conducted 2-D numerical hydrothermal modeling for a poroelastic medium. To generate the 150° phase lag, the permeability in the reservoir needed to exceed that in the ambient formation by ~3 orders of magnitude. The tidal variation phase can be a useful tool for assessing the hydrological state and response of a hydrothermal system.

G8(口頭). ジェネラル-サブセッション8 応用地質・地質災害・技術
  • 加瀬 善洋, 小安 浩理, 仁科 健二, 石丸 聡, 輿水 健一
    セッションID: G8-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

     北海道中標津町北武佐では,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l; 14 ka)が層構造を保った状態で含まれる地すべり移動体(北武佐地すべり)が発見され,内部構造の特徴等から地震起源と推定されている(越谷ほか,2012).しかし,道東での降下火砕堆積物のスライド(テフラ層すべり;石丸ほか,2020)の報告例は上記の1例に限られるため,地震地すべりの規模や発生年代の詳細は不明である.また北武佐地すべりの成因や特徴についても,平成30年北海道胆振東部地震で得られたテフラ層すべりに関する知見をもとに再検討する必要がある.著者らは,北武佐地すべりの成因を再検討するとともに,道東に分布する地震起源の可能性がある地すべりを対象に,地形・地質調査を行っている.ここでは,これまでに得られた調査結果を概説する.

    【研究手法】

     北武佐地すべりでは,地すべり範囲外の崖および移動体末端の縦断面の露頭が確認できたことから,非変動域の土層の層序および移動体の内部構造の記載を行った.次に移動体の内部構造を把握するためGPR探査を行った.さらに,すべり面とその上下層準を対象に,XRDおよび土質試験を行った.

     一方,地すべりの広域的な分布を把握するため,地形判読を行った.2万5千分の1地形図や10mメッシュ標高データではテフラ層すべりの地形特徴である層厚が薄い地すべりの判読は困難であった.そこで空中写真(1978年撮影)を合成処理および点群処理し,SfM解析による数値表層モデルを作成して判読可能であることを確認した後,GIS上で地すべり地形を抽出した.解析範囲は摩周テフラの層厚分布を考慮し,中標津町養老牛~羅臼町幌萌の山麓とした.標津町古多糠~薫別では産総研(2019)のLiDARデータを併用した.

    【結果】

     北武佐地すべりの非変動域の露頭では,Ma-lとそれを覆う摩周テフラを挟在する黒色土(層厚3 m程度)が認められた.Ma-lの最下部には,粘土化した白色風化部(層厚5 cm)が発達する.一方,移動体末端の露頭では,層序を保ったMa-lと白色風化部が黒色土(旧地表面)を覆うことから,白色風化部をすべり面層準と認定した.地形データから算出した等価摩擦係数(地すべりの高さ/同長さ)は0.1と小さい.GPRの結果,反射面は縦断・横断面ともに連続性が良く,移動体の中央部では正断層系,末端では逆断層系の構造が局所的に認められた.XRDの結果,白色風化部はその上下層準よりもハロイサイトを多く含むことが確認された.土質試験の結果は,白色風化部の強度がその上下層準よりも低いことを示す.Ma-lの含水率は200%程度と高く,指で軽石を潰すと水が噴出する.

     SfM解析による地形判読の結果,幅数10 m,長さ100~270 m程度の地すべり地形を複数抽出した.地すべりは分布密度が低く局所に偏在するような傾向は認められないが,解析範囲全域で認められ,傾斜30°以下に分布する.

    【考察】

     北武佐地すべりは,(1)白色風化部がハロイサイトを多く含み,その強度が低いこと,(2)Ma-lが高含水率であること,(3)露頭およびGPRの結果より,移動体の大部分が成層して定置していると推定されること,(4)等価摩擦係数が小さいこと等から総合的に判断すると,従来の報告の地震起源のテフラ層すべりとする解釈が支持される.Ma-lの高ハロイサイト・高含水率・降灰年代は,胆振東部地震のテフラ層すべりの主なすべり面層準であるTa-d(9 ka)の特徴と類似することが特筆される.GPRで確認された正断層系の反射面はホルスト-グラーベン構造,逆断層系はデュープレックス構造(田近ほか,2020)に対応すると解釈される.

     一方,これまでテフラ層すべりの可能性がある地すべりの分布は高精度の地形データが無かったため不明であったが,空中写真SfM画像により判読可能であることがわかった.地すべりの分布は低密度であるが,標津断層帯に沿う広い範囲で認められる一方,大半のテフラは斜面に残存していることになる.なお,薫別の地すべりを対象に予察的な掘削調査を行った結果,Ma-lがすべり面層準であることを確認した.これらの結果は,本地域が胆振東部地震発生前の厚真地域と同様のセッティングにあり,テフラ層すべりの発生ポテンシャルが高いことを示唆する.仮に判読した地すべりが地震起源であった場合,その要因は標津断層帯あるいは千島海溝型地震に求めることができる.判読した地すべりがテフラ層すべりであるかどうかや,地すべりの発生年代・同時性の検討により,誘因となったイベントの特定・再来周期に関する知見が得られることが期待される.

    【文献】産総研,2019,活断層.石丸ほか,2020,地形.越谷ほか,2012,北海道の地すべり.田近ほか,2020,地すべり学会誌.

  • 廣瀬 亘
    セッションID: G8-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

     2018年9月6日午前3時6分に発生した平成30年(2018年)北海道胆振東部地震(以下,胆振東部地震:Mjma6.7)では,地震に伴い安平町,厚真町およびむかわ町にかけての丘陵~山地で広域的な土砂災害が発生した.土砂災害の大半はテフラ層すべりであり,岩盤すべりを伴う(石丸ほか,2020).テフラ層すべりの大半では,斜面に堆積していた後期更新世~完新世テフラが成層構造を保ったまま滑落していることが多い.そのため,強震動でテフラ層中にすべり面が形成され,それより上位が移動体となって滑落したことが指摘されている(廣瀬,2018;田近ほか,2020など).一方,地震が深夜に発生したために映像記録等により崩落過程が直接観察されておらず,特に崩落開始の初期過程については不明な点が多い.また,すべり面はTa-dテフラ中に形成されている事例が多いものの,安平町では層序的により下位のEn-aテフラ,Spfa1テフラ中にすべり面が形成されている場合もあった(千木良ほか,2019).本研究では,崩壊に寄与した地質体の地域性,そして特に崩壊初期過程について地質学的アプローチにより解明することを目指している.

    【崩壊に関与した地質】

     厚真町,安平町およびむかわ町で現地調査を実施した.テフラ層すべりの移動体を形成する地質から,崩壊発生域中~南部(厚真町中~南部)ではTa-dテフラ,崩壊発生域北部(安平町~厚真町北部)では,千木良ほか(2019)などで報告されているとおり,En-aテフラおよびSpfa1テフラ中にすべり面が形成されている.一方,崩壊発生域東部~南東部(厚真町東部~むかわ町)では,より上位のTa-cテフラ・Ta-bテフラ以浅が崩落しているケースが多く見られた.これらの地域では他の崩壊発生域よりも斜面勾配が急なため,アイソパックでは厚さ50cm以上とされているTa-dテフラがほぼ失われ,斜面表層を覆っていたルーズなTa-c以上のテフラ層が崩落したようである.

    【崩壊の初期過程】

     テフラ層すべりが発生した斜面において,移動体が完全に滑り落ちきらず,斜面途中に残存している箇所について地質断面を観察した.下位から,Ta-dテフラ,Ta-cテフラ,Ta-bテフラとそれらに挟まれる有機質土(しばしば軽石混じり)で構成され,移動体内においてもその成層構造がよく保たれている.すべり面は,Ta-d下面~最下部に形成されている場合が多いが,Ta-c下面~下部に形成されている場合もある.滑落崖と比べ移動体で比高が約1m低くなっているケースが見られた.地震前のテフラ層厚が移動体部分と滑落崖部分で同じだったと仮定すると,Ta-d上面以上の層厚がほぼ同じであることから,移動体がほぼ水平方向に2~3m移動して停止する間に,Ta-dテフラ内で厚さ1m前後のテフラ層が失われた可能性がある.これは,地震発生直後にTa-dテフラ下部の水に富む粘土化軽石部分で劇的に破砕が進んだ可能性を示すものであり,引き続き検証が必要である.

     本研究で科学研究費補助金(基盤B一般:課題番号20H02404)を使用した.

    【引用文献】

    千木良雅弘・田近 淳・石丸 聡(2019)2018年胆振東部地震による降下火砕物の崩壊:特に火砕物の風化状況について.京都大学防災研究所年報,62B,348-356.

    廣瀬 亘・川上源太郎・加瀬善洋・石丸 聡・輿水健一・小安浩理・高橋 良(2018)平成30年北海道胆振東部地震に伴う厚真町およびその周辺地域での斜面崩壊調査(速報).北海道地質研究所報告,90,33-44.

    石丸 聡・廣瀬 亘・川上源太郎・輿水健一・小安浩理・加瀬善洋・高橋 良・千木良雅弘・田近 淳(2020)北海道胆振東部地震により多発したテフラ層すべり:地形発達史的にみた崩壊発生場の特徴.地形,41,147-167.

    田近 淳・雨宮和夫・乾 哲也・戸田英明・西野功人・高見智之(2020)地すべり末端隆起の多様な内部構造 : 2018年北海道胆振東部地震によるテフラ層すべりの例.日本地すべり学会誌,57,84-89.

  • 菅原 宏
    セッションID: G8-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     広域に多数の斜面が分布する中で,どの斜面・地域で崩壊・地すべりが発生するのか,その発生可能性のポテンシャルを斜面がどの程度有しているのかを視覚化して明示することは直接的に社会貢献となりうる.

    2.研究手法

     対象地域を1区画の1辺が約1kmのメッシュ区画(80×80)のレイヤーをベースに,各区画における地形要素,地質要素の各レイヤーに対して,全6,400区画で数値化を行った.

     地形要素は,現状斜面を基盤地図情報数値標高モデル10mメッシュから傾斜区分図を作成し摩擦係数を導いた.また,起伏量図(「長野県」「岐阜県」「愛知県」)から各区画に想定した仮想斜面の安定性を示す仮想摩擦係数を算出し,これらの大小によって安定性を評価する摩擦係数比を導入して数値化した.

     地質要素は,岩盤の破壊を考慮して,岩種別の一軸圧縮強度を断層数,割れ目数で補正した補正強度を求め,それを単位体積重量と風化厚さで除して算出される地山強度比を適用して数値化した.岩種は地質調査総合センター(2017)20万分の1日本シームレス地質図,一軸圧縮強度は土木学会(1986)と小島(1992),断層は地質調査総合センター(2012)活断層データベース,割れ目数は瑞浪や幌延の超深地層研究成果(吉田(2013)他全13本)及び現地調査,単位体積重量は巖谷・鹿野(2005)他全12本,風化厚さは川崎・伊藤(2013)及び久慈ほか(2013)を参考とした.

     これらの数値化したデータは,各レイヤーの区画に入力を行い,地形要素から求めた摩擦係数比と地質要素から求めた地山強度比の乗数を発生リスクポテンシャル指数として算出した.

     最終的に発生リスクポテンシャル指数をA~Fの6段階にランク分けして発生可能性リスクモデルとした.

    3.結果

     2009年以降に発生した個別事例19例の検証では,すべてCランク以上で発生していた.このうち12例でランクの変更なし,3例でランク上昇,4例でランク下落であった.ランク上昇した事例の内,1例はランクBで鉄道不通・田畑流出・家屋損壊,1例はランクCで国道不通とそれぞれ甚大な災害であった.

     今後,機械学習のアルゴリズムの検証方法を参考に,モデルのさらなる妥当性を検証し,改良する必要がある.

    主な文献

    国土庁土地局(1974)「長野県」.国土庁土地局(1975)「岐阜県」.国土庁土地局(1974)「愛知県」. 地質調査総合センター(2012)活断層データベース.地質調査総合センター(2017)20万分の1日本シームレス地質図. 土木学会(1986)ダムの地質調査.土木学会,219.小島圭二(1992),土木学会,1-8. 吉田(2013)日本原子力学会バックエンド部会,46p.巖谷・鹿野(2005) 地質雑,111,434-437. 川崎・伊藤(2013)国総研資料,733,2539. 久慈ほか(2013)JAEA-Technology,2013-022,72.

    DEM10のURL: https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-G04-a.html

  • 吉河 秀郎, 福田 毅, 青野 泰久, 齊藤 寛治
    セッションID: G8-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ■背景,目的

     高速道路やバイパス,新幹線等に利用される山岳トンネルの建設工事では,対象となる地山地質を工事前に事前調査するために,一般的に,鉛直ボーリングや露頭調査,産業技術総合研究所による地質図等からの情報をとりまとめて,トンネルと平行に地質縦断図が描かれる.また地表からの反射法地震波探査による弾性波速度の分布図も重ねて描かれるケースも多い.それらの情報にもとづき,トンネルの支保構造等の設計が行われるが,実際に掘削が進むと,その地質縦断図と切羽(トンネルの掘削面)の地質変化が整合しない場合がある.その理由として,ボーリング調査は限られた本数であり,また露頭調査の範囲も限定されていること等があげられる.

     この地質状況の変化,例えば,断層破砕帯の出現位置やその厚さ・走向傾斜を事前に予測することが,切羽での肌落ち(掘削面が崩れ落ちること)等の災害リスクを回避するために重要とされている.そのため,地山性状(地質だけでなく強度も含めた性質)や岩相変化の空間分布の把握を目的に,先進ボーリングや弾性波探査,削孔検層(削岩機による硬軟状況の探査)など,切羽前方数mから100m程度までを対象とした前方探査が行われている.しかし,探査結果から地山状況の変化を明確にイメージすることは専門技術者でないと難しく,施工中の探査データが即座に施工計画の改善・変更に反映されたり,現場職員の注意喚起をうながしているとは言えない状況である.例えば,弾性波探査による反射面の分布を三次元的な地質構造に照らし合わせるには専門的な知識,経験,ノウハウを必要とする.

     そこで本開発では,探査データを比較的簡易に短時間で三次元的に可視化する方法を検討した.従来からその可視化については,三次元地質モデルが資源探鉱,都市地盤評価など様々な分野で用いられている.山岳トンネルや地下発電所といった地下構造物建設の際,詳細な設計の検討が求められる場合には三次元地質モデルが用いられてきた.しかし,前述したように施工中に探査データが得られるたびに逐次的に地質モデルを更新するには,地質専門技術者が常時対応にあたる必要があり時間もコストもかかっていた.よって専門技術者でなくても,時間をかけずに評価対象となる範囲を簡易にモデル更新することできるシステムを構築することにした1)

    ■開発システムの概要

     本開発による地質モデルの逐次更新方法の骨子は,ソフト開発および,各種探査結果の入力・選択・使用方法等のルール化である.ルールを作ることにより,地質専門技術者でなくても比較的容易に地質モデルを逐次更新できるようにすることを目指している.初期モデルは,地質専門技術者により市販のソフトウェアを用いて施工前の事前調査による結果から作成する.その初期モデル(ソリッドモデル)から解析対象範囲,すなわち施工時の探査データを入力して逐次更新したい範囲を選択し,それをボクセルモデル化して,モデル更新部(開発中のソフト)に入力する.モデル更新部では,目的に応じてそのボクセルモデルを地質区分・硬軟区分などモードを切り替えることが可能である.そのため,初期モデル(ボクセルモデル)では,施工前の調査による弾性波速度分布,当初設計の支保パターンに相当する地山区分,ならびに岩相区分などを各ボクセルの属性値として使用する.ボクセルの属性値を逐次更新するための材料は,例えば,先進ボーリング(以下,Br)や発破弾性波探査による弾性波速度(Vp),Brによる岩相区分,Brの試験体を用いた強度試験結果による物性区分,また,油圧ブレーカによる切羽打撃を振動源とした弾性波探査2),3)による弾性波の反射面などを用いる.

    ■現場への適用と今後の展開

     現在,当社施工の山岳トンネル現場において,システム機能の検証を進めている.まだ複数課題を残しているものの,データの入力からモデルの更新まで,最短で10分程度で更新可能である.また,三次元モデルから地山の切断面を抽出できるため,数10m先までの切羽の性状変化の把握が容易になり,施工リスクの検討や現場関係者への注意喚起をおよそタイムリーに実施できる.今後,このシステムで逐次更新した三次元地質モデルを山岳トンネルのデジタルツイン施工のプラットフォームとして活用し,掘削による岩盤力学的な挙動の予測や支保工に作用する応力の予測,トンネル坑内の湧水量予測の高精度化につなげて,山岳トンネル施工の合理化,安全性・生産性の向上につなげていく考えである.

    参考文献

    1 吉河ほか(2021):土木学会第76回年次学術講演会,VI-199.

    2 西・若林(2016):応用地質, Vol.56, No.6, pp.343-349.

    3 吉河ほか(2021):第15回岩の力学国内シンポジウム講演集, pp.115-120.

  • 西山 賢一
    セッションID: G8-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    徳島平野の一部を構成する徳島県鳴門市周辺は,四国最大の河川である吉野川河口域と,紀伊水道と播磨灘の間を流れる強い潮流で知られる鳴門海峡に隣接し,中央構造線活断層帯が通過する位置にある.この地域の沖積低地における地下地質の解明は,紀伊水道から播磨灘沿岸を含めた第四紀における地形・地質発達史の検討や,中央構造線活断層帯の活動履歴の検討に資するところが大きい.今回,四国地盤情報データベースを用いて,鳴門市周辺地域の地下地質を検討した.

     四国地盤情報データベースは,四国地盤情報活用協議会が収集・作成したものであり,徳島県内ではおよそ5,000本のボーリングデータが電子化されて収録されている.今回はこのデータベースを用いるとともに,電子化されていない複数のボーリング資料も収集し,解析に用いた.

     中央構造線活断層帯の鳴門南断層を境とし,南側と北側で地下地質が大きく異なる.鳴門南断層より南では,基盤岩の三波川変成岩まで到達したボーリングはなく,最大で厚さ150mに達する厚い沖積層~更新統が平野地下に伏在している.また,鳴門市板東では岩盤上面深度が-500mより深い(佃・佐藤,1996).これらのことから,鳴門南断層は右横ずれ成分が卓越する活断層として認識されているが,鉛直変位量も極めて大きいことが示唆される.一方,鳴門南断層より北では,沖積面下の-10~-20m程度と比較的浅い深さで基盤の白亜系和泉層群に達する場所と,-40mより深い開析谷が形成された場所とがある.特に,紀伊水道と播磨灘をつなぐ小鳴門海峡地下では,和泉層群の岩盤上面深度が-60m程度と深い開析谷をなし,その上位を更新統と沖積層が埋積している.鳴門断層と鳴門南断層に挟まれた鳴門市街地の沖積低地地下には,深度-10~-20mと浅い深度で和泉層群に達し,かつ,その上面形状がほぼ平坦で,側部に急崖を有することから,埋没波食棚の存在が推定された.この埋没波食棚は上下2面に区分でき,いずれも縄文海進の進行に伴って,和泉層群が侵食を受けて形成されたと推定される.

     徳島平野の沖積層は,基底礫層・下部砂層・中部シルト層・上部砂層に大きく分けられ,最大で厚さが40mに達する.中部シルト層中にはK-Ahテフラ(約7.300年前)が挟在する.一方,小鳴門海峡周辺では沖積層基底礫層を欠き,更新統の上位に中部シルト層が直接累積している.基底礫層を欠く理由は,約1万年前に連結したと推定される明石海峡・鳴門海峡の開通後に生じ始めた渦潮を伴う強い潮流が,最終氷期末期に堆積した基底礫層を侵食したことが考えうる(西山ほか,2017a).

     深度-40m以深には,砂・礫・シルトなどからなる更新統(北島層,川村・西山,2019)が厚く分布しており,最大層厚は少なくとも100m以上に達し,基盤に到達していない.北島層は,少なくとも数枚の海成シルト層を挟在している.北島層から得られたテフラはまだ少ないが,小鳴門海峡地下ではAT(姶良Tn,約3万年前)が,鳴門市の西隣に位置する徳島県板野町では,北島層最上部からSuk(三瓶浮布,約1.9万年)が,それぞれ見出されている(西山ほか,2017a, b).

     引用文献 佃・佐藤,1996,第11回地質調査所研究講演会資料,90-93.西山ほか,2017a,阿波学会紀要,61,1-10.西山ほか,2017b,日本地質学会四国支部第17回講演要旨,5.川村・西山(2019)地質学雑誌,125,87-105.

T1(ポスター).変成岩とテクトニクス
  • 西 玄偉, 田口 知樹, 小林 記之
    セッションID: T1-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    プレート収束域に産出する超高圧変成岩は、地殻物質がかつて地球深部まで沈み込み、その後上昇したことを示す直接的な証拠である(Gilotti, 2013 Elements)。ポホリェ山地は東アルプス・スロベニア北東部に位置し、とりわけ南東部には超高圧変成作用を経験した藍晶石エクロジャイトやざくろ石橄欖岩、泥質片麻岩が露出している。これら超高圧変成岩類の相平衡岩石学的研究は多く実施されているが(e.g. Janák et al., 2015 JMG; Vrabec et al., 2012 Lithos)、プログレード変成期の詳細については不明な点が多い。また近年、本地域では超高圧変成作用を経験した岩体は限定的であり、変成ユニットの多くは超高圧変成条件に達していないという指摘もある(Li et al., 2021 JMG)。本研究ではポホリェ山地産の藍晶石エクロジャイトを対象に、そのプログレード変成作用の詳細復元を目的として、ざくろ石の微細組織、化学組成、包有鉱物の特徴を検証した。

     当地域の藍晶石エクロジャイトは、後退変成作用の影響が比較的小さく、ピーク変成作用期の情報をよく保持すると考えられている(e.g. Janák et al., 2004 Tectonics)。熱力学的解析により見積もられたピーク変成条件は、P/T = 3.0–3.7 GPa/710–940 °Cである(Vrabec et al., 2012)。研究対象の藍晶石エクロジャイトについて、基質ではエクロジャイト相を特徴づける鉱物共生(Grt + Omp + Ky + Qz + Rt ± Ms ± Zo)が認められる。ざくろ石は半自形の結晶(数mm–3 cm程度)をなし、その外縁は部分的に角閃石に置換されている。オンファス輝石の外縁は、斜長石と角閃石からなるシンプレクタイトが僅かに発達する。ざくろ石は主要4元素(Fe・Mn・Mg・Ca)で組成累帯構造を示し、まずスペサルティン成分は周縁部で微増する特徴がある。グロシュラー成分は最外縁部に向かい僅かな単調減少を示す。パイロープ成分は中心部から周縁部に向かい減少した後、最外縁部で再び増加する。一方、アルマンディン成分は周縁部で極大を示し、最外縁部で減少する。今回、これら組成累帯構造の特徴と包有物共生を組み合わせ、コア・マントル・リム部に区分した。ざくろ石コアでは、粗粒な包有物(150 µm前後)が多く分布する。その形状と包有物共生(Zo + Ky)より、原岩に由来する斜長石の初期分解生成物と考えられる。次に、ざくろ石マントルに包有される鉱物共生(Zo + Ky + Mg-St + Ts + Chl)の中で、典型的なMg十字石(XMg = 0.56–0.64)はポホリェ山地で初めて確認された。緑泥石包有物は比較的粗粒かつ角張った形状を示す。今回認められた共生関係(Mg-St + Ky + Chl)とMg十字石形成に関連する反応(Simon et al., 1997 Lithos)を考慮すると、このMg十字石の形成時期は超高圧変成作用に先立つ可能性がある。なお中村(2004 岩石鉱物科学)により報告された組成範囲を参照すると、本Mg十字石は高圧かつSiO2不飽和環境下で形成されたことを示唆する。これは、ざくろ石マントルで石英が観察されない事実と矛盾しない。最後に、ざくろ石リムの包有物共生(Zo + Ky + Ts + Chl + Ms + Qz + Omp)は基質でも一部観察される。ざくろ石リムに取り込まれた包有物の量は、コアやマントルと比べ減少している。また、リム部ではMg十字石が認められないが、放射状亀裂を伴う多結晶質石英(コース石仮像)は観察される。白雲母は亀裂を伴う包有物が大半を占め、変質が進行している。緑泥石の産状もマントル部と異なり、細粒かつ亀裂が基質と繋がっている。そのため、この緑泥石包有物は、ざくろ石リム成長時に取り込まれた初生的なものではないと判断できる。

     今回見出されたざくろ石内の包有物共生の変化は、藍晶石エクロジャイトのプログレード変成進化を記録したものと解釈できる。さらに、ざくろ石リムでのみ石英(コース石仮像)が観察されたことは、マントルからリム成長にかけてSiO2不飽和から飽和環境へと移行したことを暗示する。Mg十字石の発見は、東アルプス地域における高圧−超高圧変成進化とその環境場を読み解く上で有用と考えられる。

  • Sreehari Lakshmanan
    セッションID: T1-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Indian shield has a few Archean cratons and the Dharwar Craton is the largest among them. Based on lithology, age, and geochemical properties the DC is divided into the Western Dharwar Craton (WDC), Central Dharwar Craton (CDC), and Eastern Dharwar Craton (EDC). The WDC preserves the oldest fragments and consist of two generations of volcanosedimentary sequences, –older Sargur Group (>3.0 Ga), younger Dharwar Supergroup (<3.0 Ga)– and multiple generation of granitic rocks ranging from 3.3 to 2.5 Ga. Detailed structural and stratigraphic investigations of the volcano-sedimentary sequences in the WDC are carried out. Especially in the Chitradurga Schist Belt (CSB), Bababudan Schist Belt (BSB) and Shimoga Schist Belt (SSB). Margins of the schist belts which in contact with the basement gneiss are dominated by rift-related conglomerate. Moreover, the schist belts are dominated by sedimentary structures indicating shallow marine sequences and slump deformations. Six stages of deformation events were identified from the study area; among those two events (D2 and D3) were regional-scale deformations. D2 event represents reverse faults and upright folds while D3 event is a strike-slip sinistral fault. The boundaries between schist belt and basement gneiss are also dominated by D2 reverse faults. Most of the rock formation in the WDC is folded during D2 event and the intensity of the folding increases from the west to east. Tightly folded sequences are present in the CSB, that is the eastern margin of WDC. Unfolding of the layers show that the schist belts are narrow, short-lived basins typically resembling aborted-rift settings in the Phanerozoic. Folded layers seem to be sandwiched between reverse faults (D2) represents a fold-and-thrust belt. Results from structural and stratigraphic investigation in the WDC point to the role of failed rifts or half oceans in the Archean. The schist belts distributed at least in the WDC represent the basins formed in the multiple rifting events. These ‘incomplete oceanic’ sequences later amalgamated to each other during regional scale shortening event. The presence of failed rifts also support the absence of complete ophiolitic sequence in the DC.

  • 志村 俊昭, 山根 季里, 坂本 翔, 郷田 翔一
    セッションID: T1-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    スピネル類,(Mg, Fe, Zn, Mn) Al2O4は,泥質変成岩によく出現する鉱物のひとつである.泥質変成岩中のスピネル形成反応には,例えば以下のようなものがある.

      ① Crd = 2(Hc, Spl) + 5Qz

      ② (Alm, Prp) + 2Als = (Hc, Spl) + Crd

      ③ (Alm, Prp) + 2Als = 3(Hc, Spl) + 5Qz

      ④ Alm + 5Crn = 3Hc + 3Als

    これらの反応は鉱物増減反応であり,地質圧力計として利用されている(例えば,Harris, 1981; Perchuk et al., 1989; Bohlen et al., 1986; Shulters & Bohlen, 1989; Nichols et al., 1992など).しかし,式①の反応曲線は研究者によって傾斜に正負の違いがあったり,これらの圧力計による値が期待される値よりも低圧になる傾向があったりする事などから,スピネルは変成条件の指標鉱物としては,ざくろ石や菫青石などに比べあまり利用されていないようである.

     スピネルの活動度モデルは,地質温度圧力計や熱力学ソフトでは,例えば以下のようなモデルが使われている.

    <例1> Holland & Powell (2011) など

      XFe = Fe / (Fe + Mg), XMg = Mg / (Fe + Mg) ,

      aHc = XFe, aSpl = XMg

    <例2> White et al. (2002) など

      XFe = Fe2+ / (Fe2+ + Mg), XMg = Mg / (Fe2+ + Mg),YAl = Al / (Al + Fe3+ + 2Ti) ,

      aHc = XFe YAl, aSpl = XMg YAl

    <例3> Harris (1981),Goscombe et al. (1998) など

      XFe = Fe2+ / (R2+ total), XMg = Mg / (R2+ total),XAl = Al / (R3+ total) ,

      aHc = XFe XAl2, aSpl = XMg XAl2

     スピネル類の化学構造式はR2+ R3+2 O4 と書く事ができ,R2+サイトにはFe2+, Mn, Mg, Zn, Niなどがはいる.R3+サイトにはAl, Cr, Fe3+, Vなどがはいる.前述の式①~④ではFe2+とFe3+の区別が必要で,反応によりAlの移動も伴っている.したがってスピネルのR3+サイト中のAl含有比も考慮しなければならない.しかし例1ではR3+サイトを考慮していない.例2では2モルあるR3+サイトを2乗していない.このため,スピネルが関与する変成反応を解析する際このようなモデルを適用すると,反応曲線の位置や求めた温度圧力の値にずれが生じる事になる.

     スピネルが関与する反応曲線のP-T面上での出現順序は,接触変成帯のアイソグラッドの出現順序として検証できる.前述の①~④のほか,Shimura et al. (2016),志村ほか(2021)などよる以下の鉱物増減反応,

      ⑤ 5Grs + (Alm, Prp) + 12Als = 3(Hc, Spl) + 15An

    も含め,島根県の金成変成岩(郷田ほか, 2010),山口県の吉部コールドロン周辺(坂本・志村, 2021)などの接触変成岩について,スピネル出現アイソグラッドの位置を検証した.その結果,例3の活動度モデルを適用した場合,アイソグラッドの出現順序と矛盾せず,圧力計の計算結果も,従来よりも適切な値が得られることがわかった.

     スピネルのEPMA分析においては,検出限界以上の元素を全て測定し,R2+:R3+:O = 1 : 2 : 4 になるように,かつFe2+とFe3+も区別した原子比を用いれば,その値はR2+の分母を1,R3+の分母を2とした時のモル分率として利用できる.スピネルの鉱物増減反応を考える場合は,例3の活動度モデルを用い,さらにNichols et al. (1992)の過剰相互作用パラメタを考慮してZnの補正をするのが良い.このようにすれば,スピネルの出現・消滅は,変成度の指標として有効に利用できる.

    文献

    Bohlen et al. (1986) J.Petrol., 27, 1143–1156.

    Goscombe et al. (1998) J.Petrol., 39, 1347-1384.

    郷田ほか (2010) 地質学会演旨, P-161.

    Harris (1981) CMP, 76, 229–233.

    Holland & Powell (2011) JMG, 29, 333-383.

    Nichols et al. (1992) CMP, 111, 362–377.

    Perchuk et al. (1989) JMG, 7, 599–617.

    坂本・志村 (2021) JPGU演旨, SMP25-P13.

    Shimura et al. (2016) Goldschmidt Conf., 2833.

    志村ほか (2021) JPGU演旨, SMP25-11.

    Shulters & Bohlen (1989) J.Petrol., 30, 1017–1031.

    White et al. (2002) JMG, 20, 41-55.

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