日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
選択された号の論文の406件中201~250を表示しています
T13(口頭).都市地質学:自然と社会の融合領域
  • 保柳 康一, 亀谷 兼人
    セッションID: T13-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     千曲川は,長野,山梨,埼玉の三県境界の甲武信ヶ岳に源を発し,長野県内の佐久平(佐久盆地),塩田平(上田盆地),善光寺平(長野盆地)などの盆地を通り,新潟県境で信濃川と呼称を変えて日本海に達する全長367 kmの日本最長の河川である.2019年10月関東地方西部を通過した台風による豪雨によって,長野盆地で複数の堤防が決壊し,大きな被害をもたらした.千曲川の洪水は,数多く歴史記録に残されているが,最も古い記録は西暦888年の洪水である.河内(1983)は,『日本三代実録』『類聚三代格』『日本紀略』『扶桑略記』の記述に基づき西暦888年(仁和4年)に,千曲川上流の八ヶ岳山麓に形成された天然ダムが決壊して洪水が発生し,長野盆地まで達していたことを示した.このことから,上田盆地,長野盆地の平安期の遺跡や水田跡を覆う砂層は.その際の洪水によりもたらされたものであると解釈され,その発生前の状況についても考古学的に検討された(川崎,2000). この発表では,この洪水砂層とその上位と下位の堆積物を堆積学的に検討して,洪水前の千曲川流域の土地利用と環境,仁和洪水の特徴,洪水後の環境と人間活動についてその概要を示す.

    研究手法

     長野県埋蔵文化財センターによって,発掘が進められている長野市南部の塩崎遺跡,石川条里遺跡,上田盆地北端に位置する坂城町の上五明遺跡,加えて千曲市によって発掘された屋代遺跡,本誓寺遺跡における平安期水田を埋積する砂層とその上下の泥層を数cmから10 cmの上下間隔で採取した.砂層については,レーザー回析法による粒度分析をおこない,岩相記載と合わせてその運搬・堆積機構を考察した.一方,泥層については,全有機炭素量(TOC),全窒素量(TN),全イオウ量(TS),安定炭素同位体比分析(δ13C),珪藻分析によって堆積環境もしくは人為的影響を考察した.

    洪水前の土地利用

     仁和洪水の砂層下は,多くの遺跡において水田跡である.千曲川の氾濫原は,弥生時代以降現在まで水田として耕作されきた.洪水砂層直下の泥層はいずれの場所でも炭質物に富んでおり有機炭素量が1%程度とやや高い.一方,砂を含など淘汰が悪く,珪藻遺骸はほとんど産出しない.洪水砂層の下位20cm前後の炭質泥から求めた放射性炭素年代は4から5世紀の年代を示し,洪水以前は人為的に掘り返しながら,沢などから水を引くことによって水田を長く維持してきたことを示していると考えられる.

    洪水の特徴

     屋代遺跡の2 mに及ぶ砂層は,逆級化構造を基底に伴い,逆級化−正級化のサイクルが2回認められる.しかし,西側の山際に近い石川条里遺跡の洪水砂層は,20 cmの程度の厚さで正級化構造は認められが偽礫や逆級化構造は認められない.前者の例はこの洪水が2回のピークを持っていたことを示し,一方,後者は千曲川から離れた氾濫原に達した洪水はピーク以降にこの地点に達し水域を形成して正級化構造のみを形成したことを示す.さらに,洪水砂の直上の泥層には停滞水域を示す珪藻の遺骸が比較的保存良く産出することがあり,洪水後も長野盆地南部にはしばらく水域が残されたと考えられる.

    洪水後の環境と人間活動

     長野盆地南部の水域消失後,その上位の泥層のTOC値などから水田としての利用が再開されたと考えられる.珪藻化石の保存は極めて悪く,水田を耕作するような人的な撹乱があったと考えられる.また,考古学情報からも多くの遺跡で水田の復興を示す人的撹乱が認められている.ただ,2 mの砂層が堆積した千曲市屋代では,砂層の堆積により相対的な高地が出来上がり,水田としての利用は難しくなったようで,最上部の人的撹乱はかなり新しいものと思われる. 2019年の台風豪雨の洪水と仁和洪水ではその発生要因が全く異なるが,千曲川上流域に発生原因があることでは一致している.このように,過去の事例は河川の近隣に住む人々に重要な情報をもたらしてくれる.

    文献

    河内晋平,1983,八ヶ岳大月川岩屑流,地質学雑誌,89,173-182.

    川崎 保,2000,「仁和の洪水」砂層と大月川岩屑なだれ,長野県埋蔵文化財センター紀要,8,39-48.

    研究協力:(財)長野県埋蔵文化財センター

  • 三田村 宗樹
    セッションID: T13-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    都市域の夏季・冬季の熱需要に対して,エネルギー緩和策技術の一つとして,地中熱利用がある.深度10mを超えると地中温度は,地上の季節変動を受けにくくなり,年中ほぼ一定で,冬季は大気より高く,夏季は低いので,温熱・冷熱として活用できる.また,地中の蓄熱特性を利用することで,季節間蓄熱によるエネルギーの循環的利用が行える.建物内での汎用性のある地中熱利用としては,ヒートポンプを介するシステムが一般的である.地中熱ヒートポンプシステムには,井戸内にヒートパイプを挿入し,熱媒体となる流体を循環さるクローズドループ方式と地下水をくみ上げ,その熱を直接利用するオープンループ方式がある.オープンループ方式には,熱交換後の地下水を地下に戻さない放流方式と地下に還元する還元方式に分かれ,帯水層に蓄熱して循環的な熱利用を行う帯水層蓄熱(ATES)も含まれる.イニシャルコストは,オープンループの方がクローズドループよりも低いとされる(環境省,2018).しかし,オープンループ方式は,地下水揚水を伴うため,地下水揚水規制がなされる地域では,その実施が困難で,これまでの地中熱ヒートポンプシステム設置実績として,クローズドループ方式が圧倒的に多い(環境省,2018).オープンループ方式の一つであるATESは,位置の離れた同じ帯水層に介在する地下水を,交互に揚水・注水し,その熱利用と熱貯留を行うもので,一方的な揚水による熱利用ではないため,地盤沈下への影響は抑えられる方式となっている.ATESは,ヨーロッパなどで実用化され,オランダでは,2015年には2500サイトを上回る導入が行われている(Heekeren & Bakema, 2015).

     ATES活用のために地下水地盤に求められる基本的要件として,①地下水流動が小さく熱貯留に耐えられること,②地下水揚水・注水が容易に行えるための高い透水性を有すること,③地盤沈下・地下水汚染拡大などにつながらないこと,③帯水層分布が安定していることなどである.熱需要の盛んな大都市の多くが,日本では厚い第四紀層が伏在する沖積平野に位置し,環境省(2018)によると,地中熱ポテンシャルも高い地域となっている.これは,平野地下に存在する更新統が良好な帯水層となりえるためである.

     東京・大阪・名古屋など熱需要の高い大都市圏が位置する沿岸部の沖積平野では,沖積層が分布し,完新世海進に伴ういわゆる沖積粘土層は,正規圧密状態にあり,地下水の水位変動で容易に地盤沈下を生じる.このため,沖積層直下にある帯水層のATES活用は,地盤沈下誘発や地下水汚染拡大の危惧から避けざるを得ない.ATESでは,構築する井戸の掘削は,イニシャルコストの面から通常100mの深さまでが一般的であるとされる.このような沿岸沖積平野下とその周辺地域では,帯水層を分ける粘土層が過圧密状態にあり,深度100m程度までに存在する帯水層として中‐上部更新統がその対象となりえる.該当する帯水層は,関東平野では下総層群,濃尾平野では熱田層下位の更新統,大阪平野では田中層上部などに挟まれる砂礫層となる.

     大都市圏は,かつて揚水過剰による地盤沈下が生じ,その対策として地下水揚水規制がなされている地域でもある.しかし,ATESでは,このような規制地域は,稼働する井戸施設が少なく,地下水停滞の状況が見込まれる地域で,むしろ好適地として位置づけられる.試験的運用での実証実験を進め,地盤沈下や周辺井戸への影響評価をもとに,行政の理解が得られれば,特例的に規制緩和への道が開かれるものと考える.

     ATESの導入に関わる基本的資料として,中‐上部更新統に関わる帯水層の上・下面深度(標高),層厚,上・下位層の状況,地下水規制の有無,既設井戸状況など,平野地下における帯水層の明確な区分や分布状況をまとめた水理地質図の充実が望まれる.今回は,大阪平野での例を紹介する.

    引用文献

    環境省 (2018) 地中熱利用にあたってのガイドライン 改訂増補版, 148p.

    Heekeren & Bakema (2015) The Netherlands Country Update on Geothermal Energy, Proceedings World Geothermal Congress 2015, 1-6.

  • 米岡 佳弥, 坂田 健太郎, 中澤 努, 本郷 美佐緒, 中里 裕臣
    セッションID: T13-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    関東平野中央部に分布する更新統下総層群は,これまでにボーリングコア及び土質ボーリング柱状図資料を用いて詳細な分布形態や層序が検討されてきた[1],[2],[3]など.産総研では現在この地域において都市DXに対応した3次元地質地盤図の整備を進めている.今回は,3次元地質地盤図作成のための標準層序構築を目的とした,千葉県野田地域の更新統下総層群の上泉層(MIS 7e)から木下層(MIS 5e)の層序の再検討結果について報告する.

    これまでの調査により,MIS 7c(清川層堆積期)の海域は,現在の千葉県野田市南部付近まで広がっていたことが推測されている.つまり下総台地北部に分布する清川層は,野田市南部付近を境に層相が大きく変化することが予想される.また既報によれば,この付近では清川層とその上位の横田層(MIS 7a?)や木下層(MIS 5e)との関係も不明である.以上のことから,下総台地北部に位置する千葉県野田市山崎でGS-ND-2コアを掘削採取し,MIS 7e〜5e相当層の層相記載とテフラ・花粉群集の分析を行い層序関係の検討を行った.

    GS-ND-2コアのMIS 7〜5e相当層は大きく4つの堆積サイクル(下位より堆積サイクルA〜D)に区分される.このうち最下部の堆積サイクルAは陸成の泥層から海成の砂層へと変化し,泥層の最上部付近に上泉層のKm2(TCu-1)テフラが挟在することから,下総層群上泉層に相当するMIS 7eを中心としたサイクルであることが分かる.堆積サイクルBは下位のサイクル最上部(海浜相)を覆う土壌から始まり河川チャネル成の礫混じり砂層,そして生物擾乱の著しい砂質泥層へと変化するサイクルである.ただしこのサイクルにテフラの挟在はない.堆積サイクルCは河川チャネル成の礫混じり砂層から氾濫原の泥層へと変化する.このサイクルには下部に清川層のKy3に類似するテフラが挟在する.堆積サイクルDは生物擾乱を受けた砂優勢の砂泥互層から植物根痕を含む砂質泥層へと変化する.

    花粉化石群集に基づけば堆積サイクルDはCryptomeria(スギ属)を多産することから木下層上部に相当するMIS 5e後期を中心としたサイクルであると推測される.また下位の堆積サイクルCは層相からは木下層下部の谷埋め堆積物の可能性も否定できないが,花粉化石群集に基づけば木下層下部に特徴的なHemiptelea(ハリゲヤキ属)の多産がみられないことから木下層下部の可能性は低い.

    ここで問題になるのは,清川層のKy3に類似するテフラと上泉層の間に,海水の影響を受けたと考えられる生物擾乱を強く受けた泥質が挟まることである.房総半島ではKy3テフラは清川層の下部に挟在する.清川層は上泉層の直上の層であるが,GS-ND-2の堆積サイクルC下部のテフラがKy3テフラならば清川層と上泉層の間にもうひとつ海進イベントがあったことになる.

    本講演では以上のような関東平野中央部の下総層群の層序の問題点を整理したうえで,層相・テフラ・花粉化石群集の統合層序により改めてMIS 7e〜5e相当層の層序の再構築を試みたい.

    [1] 中澤・遠藤(2002)大宮地域の地質,5万分の1地質図幅; [2] 中澤・中里(2005)地質雑, 111, 87-93; [3] 中澤・田辺(2011)野田地域の地質,5万分の1地質図幅

  • 吉田 剛, 伊藤 直人, 風岡 修, 香川 淳, 八武崎 寿史, 小島 隆宏
    セッションID: T13-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     千葉県北西部の台地は中期更新世〜後期更新世の下総層群から構成され,下位より地蔵堂層,藪層,上泉層,清川層,横田層,木下層の各累層がみられる.これらの累層は下部が主に泥層から,上部が主に厚い砂層から構成される.清川層以深の泥層及び砂層は側方によく連続している.地下水にとって,泥層は難透水層,砂層は透水層として機能するため,これらの側方への連続性の把握は地下水を持続的に利用するにあたり重要である.地盤沈下や地下水汚染等の環境問題では,地下水の流動方向・汚染物質の難透水層への浸透性を把握した上で,対策を行う必要がある.千葉県北西部において行った地質環境調査の結果をまとめ,この地域の水文地質構造を把握し,透水層単元に統一名を与え,上位よりYK-S1透水層・YK-S2透水層・YK-S3透水層とこれらを分けるYK-C1難透水層・YK-C2難透水層に区分することができた(風岡ほか,2013, 2018; 吉田ほか, 2017).また,火山灰の同定より,区分した水文地質単元と上述の地層名との対比も行い,YK-S1透水層は清川層,横田層,木下層の砂層にあたり,YK-S2透水層は上泉層の砂層,YK-S3透水層は藪層の砂層として主に一致することがわかった(吉田ほか, 2017).今回は,これら成果を持続的な地下水利用に活用するため,透水層(YK-S1,S2,S3)の地下水流動方向を求めることを目的とし,地下水環境調査用の観測井に加え,市が管理する災害用井戸も観測井として利用し,地下水流動方向の把握の精度向上を試みた結果を報告する.

    手法

     調査地域のオールコアボーリングの再検討と千葉県地質環境インフォメーションバンク内の柱状図から水文地質単元で区分した地質断面図を作成した(吉田ほか,2017).地下水位を測定した井戸は, YK-S1, S2, S3透水層に対応するスクリーンを持つ観測井と災害用井戸である.災害用井戸は,井戸作成時の柱状図・電気検層図によりスクリーンがどの透水層に対応するかを判断した.水準測量により各井戸の管頭標高を求め,センチメートルオーダーで地下水位を測定し,地下水面図を作成し流動方向を求めた.

    結果

     千葉県北西部のYK-S3透水層を対象に,2020年9月の地下水面図を作成した.左図は観測井(赤色丸)の水位のみで地下水面図を作成し,右図は災害用井戸(黄色丸)の測定値も併せた地下水面図である.等量線の脇に書かれた数字は水面標高(m)を示し,水色の矢印は推定される地下水の流向を示す.左図・右図で地下水流向のスタート地点が同じ「左図の左側矢印」と「右図の中央の矢印」とを比較すると,左図は北から南西への流向を示すが,右図は北から南への流向となり,流向が約45度異なることが示された.

     このように,災害用井戸などの既存の井戸も加え,より多くの井戸の水位データを加えることによって,より正確な地下水流動方向を知ることができ,地下水を含めた適切な水循環を検討できるようになる.

    引用文献

     風岡 修ほか,2013,下総台地中央部の更新統の透水層構造と地下水質の概要—印西市〜八千代市について—.第 23 回環境地質学シンポジウム論文集,69-74.

     風岡 修ほか,2018, 第6章 応用地質及び環境地質.都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書),35-44.

     吉田 剛ほか, 2017, 千葉県北西部に広域に連続する難透水層(YK-C1,YK-C2)の分布.第 27 回環境地質学シンポジウム 論文集,125-130.

  • 北田 奈緒子, 濱田 晃之, 水谷 光太郎, 三村 衛
    セッションID: T13-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    関西地域においては,過去30年以上にわたり地盤情報の蓄積がなされており,土質工学会関西支部(現地盤工学会関西支部)の研究委員会を発端に“関西陸域”と“大阪湾海域”の地盤情報データベースベースの構築と地盤研究が始まった。この活動は2つの組織〔関西地盤情報活用協議会(1995~2003),大阪湾地盤情報の研究協議会(1998~2003)〕に継承され,2003年に1つの組織〔関西圏地盤情報の活用協議会(2003~2005)〕に一体化された。この1つの組織に一体化された時点で2つの地盤情報データベースが統合され,現在の“関西圏地盤情報データベース”へと引き継がれている。その後,2005年からは,「関西圏地盤情報ネットワーク(KG-NET)」を形成し,“関西圏地盤情報データベース”を“関西圏の財産”と位置付けて活動を行っている。

     地盤情報データベースは公共事業などで実施されたボーリングデータの柱状図や各種土質試験情報などをデジタル化しており,基本的には工学的な土質試験情報と土層(粒度の異なる堆積物を区分した情報)が示されている。この情報に同地域で実施された地質学的な調査ボーリングデータを加えることで,地質層序の情報明らかになり,側方対比や地層の同定を行うことが可能になる。  KG-NETの中には,これらのデータの利活用事例を示すことを目的に,地域ごとにスポットを当て検討を行った。その成果は書籍として新関西地盤シリーズとして,大阪平野,京都盆地,奈良盆地,近江盆地,和歌山平野などの地域が取りまとめられた。各地域での取りまとめでは,地域の代表的な表層地盤の断面図や地質学的な層序,堆積物の特徴,地質構造との関係などがとりまとめてあり,さらに工学的な特徴などもまとめてあるので該当地域での地質調査業務などの概要説明や調査時の対象地層の確認,調査計画などに利用されている。また,大阪平野など港湾部を含む地域は,基本的に海水準変動に伴った海成粘土層が特徴的に分布することから,地層の対比は比較的にスムーズであり,これに伴って中間砂層(Dg層)の特徴や分布は工学的基盤の分布状況を示すことが可能であり,杭基礎の深度の推定などの建設施工時の情報としても有効である。一方で,内陸地域では河川堆積物の特徴や基盤岩露出地域の岩石の特徴を反映した後背地の特徴などが明らかになり,地域ごとの地盤特性の取りまとめなどが可能となった。

     ボーリングデータベースを用いた地層分布や堆積状況を把握することで,工事トラブルのリスクの高い地質がどのような堆積状況の場所に分布するのかが明らかになり,留意点も明らかになってきた。一例を挙げると,完新統の海成堆積物の中で陸地付近やある程度の流れのある地域で堆積する「砂」層は,注意が必要である。砂洲や砂堆の堆積物は中砂程度の粒径で分布し,スポット状に分布する事が多い。一方,湾奥の流れの少ない海岸付近では細粒砂が部分的に散見される。いずれも淘汰が良く,地下水位が比較的高い地域では液状化などのリスクが高いことが一般にも知られている。しかし,工事トラブルと合わせて検討すると,シールド工事などの地下掘削時にも掘削の振動に伴って流動化するなどの危険性がある事が判ってきている(地盤工学会関西支部(2013),北田・三村(2021),北田(2022))。さらに,河川デルタ地域で発見された旧河道部での地層の削り込みや断層変形に伴う撓曲構造の抽出などがボーリングデータを用いて広域的な地層分布を把握することによって解明することが可能となり,一般の工事などに伴う局所的な施工時ボーリングでは十分に把握しきれない地質・地盤リスクを抽出することが可能である。2018年からは木津川~淀川上流域における河川と周辺流域の特徴について検討を行っており,破堤にともなう堤内の堆積物の特徴などが明らかになりつつある。

     以上のように,ボーリングデータベースなどを用いた理学的な検討と社会的なインフラ整備に関するリスク検討を組み合わせることが可能になれば,都市域における地質学的な検討を社会活動に活かせるのではないかと考える。

    引用文献:

    地盤工学会関西支部:地下建設工事においてトラブルが発生しやすい地盤の特性とその対策技術に関する研究委員会 報告書,99p., 2013.

    北田奈緒子・三村 衛:大阪平野を例とした地質地盤リスクの高い堆積構造の分布と特徴, 第56回地盤工学研究発表会講演集, CD-ROM, DS-3-11, 2021.

    北田奈緒子:地盤情報の活用による地質地盤リスク評価,地盤工学会誌,70(5),p10-13,2022.

  • 重松 紀生, 吾妻 崇, 中島 礼, 安江 健一, 立石 良, 廣内 大助
    セッションID: T13-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    活断層の過去のすべり方向は断層面上に見られる条線から知ることが可能である.しかし,多くの活断層においてすべり方向は地形等の特徴から推定されることが多く,断層条線が調べられている例は少ない.

    恵那山断層は岐阜県中津川市から土岐市南部に至る北東–南西走向南東傾斜の活断層である.すべり方向は,地形などの特徴から断層の南東側が北西側に対して相対的に隆起する逆断層とされ,河川屈曲から右横ずれ成分を伴うとされているが,具体的には不明である.本研究では恵那山断層のすべり方向を,断層露頭の構造解析と条線の方位計測から明らかにした.

    岐阜県恵那市山岡町に位置する原陶土産業の丸原鉱山内では,恵那山断層が 700 mに渡り連続露出し,岩村層群遠山層の礫岩-シルト岩互層もしくは領家帯の花崗岩類が瀬戸層群東原層の砂礫層の上にずり上がっている.調査では恵那山断層に沿う4 箇所において断層を横切るピットを掘削し,それぞれのピット内において露頭観察及び条線計測を行った.また露頭の全体像とピット内の詳細構造把握のため、露頭全体及びピットごとのデジタル露頭モデル (DOM) をフォトグラメトリ (例えば Bemis et al., 2014) により構築した.構築したDOMは全球測位衛星システムによる干渉測位とトータルステーションを用いた測量により地理座標の情報を付与した.

    各ピットにおいて,恵那山断層の最新すべり面と岩村層群遠山層の礫岩-シルト岩互層もしくは領家帯の花崗岩類,瀬戸層群東原層,それらを覆う崖錐堆積物の関係が観察できた.恵那山断層の最新すべり面は必ずしも岩相境界断層とは一致しておらず,また最新すべり面は崖錐堆積物の一部を切断している.各ピットにおいて恵那山断層は,下部では北東–南西走向で60°~70°南東傾斜の断層面を持つが,上部では傾斜角が小さくなる.断層面に沿っては複数の断層ガウジによる層状構造が認められ,最新すべり面は平滑性の高い面として観察される.断層面は全体的には連続性は悪く,複数のすべり面が組み合わさる複雑な形状を持つ.

    最新すべり面上では,北東方向から 20°から 80°のレーク角を持つ条線が観察され,その非対称構造は断層の上盤側が上昇,もしくは右横ずれで動いたことを示す.また詳細な観察からレーク角 70°の条線をレーク角20°の条線が上書きし,さらにすべり始めはレーク角 70°であったのがより小さなレーク角に曲がっている様子が観察された.以上のことから恵那山断層の最新すべり面では,高角のレーク角ですべりはじめ,すべりの途中でレーク角20°の方向に運動方向が変化したと考えられる.

    地震の破壊数値計算では、モードⅡとⅢの混合モードにおけるすべり始め方向は,断層にかかる広域的な応力場による最大剪断応力方向とは異なる方向となる (Spudich et al., 1998).さらにこのずれは地表付近で大きく,条線の大きな曲がりの原因となる一方,最終的すべり方向は広域的な応力場と一致する (Kearse et al., 2019; Kearse and Kaneko, 2020).本研究の条線観察と破壊の数値計算を比較すると,恵那山断層の広域応力場によるすべり方向は北東方向からのレーク角 20°の方向と考えられる.また条線の曲がりから,最新すべり面上での破壊開始点は調査を行った丸原鉱山よりも北東に位置し,北東から南西に破壊が伝播したものと考えられる.

    恵那山断層の南西延長には,名古屋市をはじめとする都市が分布する.今回の恵那山断層における横ずれが卓越するという結果は,防災上重要な意味を持つ.また断層条線の曲がりからある程度の震央が推定できる可能性がある.本研究は,文部科学省の委託研究「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」(研究代表機関:名古屋大学,研究代表者:鈴木康弘)の成果の一部である.また調査にあたり原陶土産業株式会社に協力をいただいた.

    Bemis et al. (2014) J. Struct. Geol., 69,163–178; Kears e et al. (2019) Geology, 47, 838–842. Kearse and Kaneko (2020) J. Geophys. Res., 125, e2020JB019863; Spudich et al. (1998) Bull. Seismol. Soc. Am., 88, 413–427.

  • 鈴木 毅彦, 千木良 雅弘, 松四 雄騎, 中山 大地
    セッションID: T13-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに:日本列島各地にはローム層と呼ばれる降下テフラや火山灰土(鈴木,1995)からなる未固結な風成堆積物が分布する.これらは台地や丘陵などを被覆し不安定な斜面を構成する.このため,強い地震動発生時に流動性地すべりが生じ,場合により大規模な斜面災害が発生する.2018年北海道胆振東部地震,2016年熊本地震,2011年東北地方太平洋沖地震の際には各地域においてこのような流動性地すべりが発生し,被害が生じた.ローム層が分布する湿潤変動火山帯特有な斜面災害といえる.ところでローム層分布域の中には人工改変によりローム層が除去される場合がある.台地や丘陵を被覆するローム層の層厚は火山からの距離や方位,台地や丘陵の原面をなす地形面の形成年代により大きく変化する.ローム層がどの程度除去されるかは改変規模によると考えられるが,ローム層が完全に除去された斜面ではローム層崩壊の流動性地すべりは発生しない.人工改変地においてローム層の地震時流動性地すべりのリスクを検討する上で人工改変,すなわち切土によるローム層の除去の実態を把握する必要がある.このような観点にたち,ローム層への人工改変が進んだ東京西部の多摩ニュータウン(多摩丘陵)を事例に,人工改変前後の2時期を対象にローム層層厚分布図を作成し,人工改変によりローム層の流動性地すべりリスクがどのように変化したかを検討し,また切土のみならず盛土分布とその層厚をマップ化した(鈴木ほか,2021).以下,その概要を述べるとともに今後の課題を記す.

    手法:人工改変前の地形復元には1950 年代に刊行された 3,000 分の 1 地形図「御殿峠」「唐木田」(東京都,1958)の等高線よりDEMを作成した.改変後の地形は航空レーザーデータ(2 m メッシュ)と国土地理院基盤地図情報の数値標高モデル(5 m メッシュ)より復元した.ローム層分布は宇野沢ほか(1972・1989)による10,000 分の1「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」を参照した.ローム層の残存層厚を求めるため,地形改変後標高からローム層基底(御殿峠礫層堆積面) 高度を差し引いた数値が正であればローム層が残存しており,負であればローム層は除去されたと解釈した.

    結果:御殿峠礫層堆積面上のローム層について人工改変前後の層厚を把握するため,御殿峠礫層分布域のデータポイントでの改変前後でローム層層厚出現頻度の変化を検討した.改変前の御殿峠地域ではローム層層厚が30〜20 mの地点がわずかに存在するのに対し,20 mから0 mにかけての地点数は0 mにむけて一方的に増加する.これに対して改変後では30〜20 mの地点数には変化はあまり見られず,20〜10 mにかけての地点数は多少の減少を示し,5〜0 mにかけての地点数は大幅に減少する.これを補うようにローム層基底からさらに15 m程度切土された地点が目立つ.すなわち全体的にはローム層は切土のため除去された傾向にあり,ローム層が引き起こす地震時流動性地すべりリスクは低下したと考えられる.地点数の減少が認めにくいローム層層厚30〜20 mの地点については,元々大規模な谷の分水界上の高まりに相当し,おそらく土地改変を進めながらも自然斜面を残存させるために意図的に地形改変がなされなかった地域と考えられる.その近傍には宅地も多くあり,地震時流動性地すべりのリスクは残されている.改変前の唐木田地域では,ローム層層厚が27 mの地点数から0 mの地点数にかけてほぼ一方的に増加する.これに対し改変後の層厚出現頻度は,全体的に層厚が減少傾向にあり,その分ローム層基底以上に切土された地点の増大を予想していた.実際にローム層基底よりも切土された地点数は広範囲に認められる.しかしそれ以外で明確に減少したのは5〜0 mにかけての地点であり,それ以外の範囲では10 m強と20 m付近で明らかに増大のピークが認められ,その前後もやや増大傾向にあり予想外の結果であった.増大傾向が見られた理由として「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」で示された御殿峠礫層分布域の正確性に起因するものである.単純に新旧の地形の変化のみから切土・盛土を議論するのではなく,地質を加味する場合,参照とする地質図での描かれ方に細心の注意を払う必要が示唆される.

    引用文献:鈴木(1995)火山,40,167-176.鈴木ほか(2021)京大防災研年報, 64B, 115-130.東京都建設局(1958):3,000分の1地形図.宇野沢ほか(1972・1989)多摩丘陵北西部関東ローム地質図,地質調査所.

  • 野々垣 進
    セッションID: T13-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地下における地層や物性等の3次元的な広がりを仮想的に表現する3次元モデルは,持続可能な都市の実現に向けた諸活動,特にインフラ整備やハザードマップ作成などに必要不可欠な地下空間情報のひとつである.地層や物性等の広がりを表現する3次元モデルは,しばしば観点の違いから“3次元地質モデル”と”3次元地盤モデル”とに分類される.前者は地質学的観点から地下を分類したものを,後者は工学的観点から分類したものを指すことが多い(3次元地質解析技術コンソーシアム,2021).また,このような3次元モデルは対象物の表現方法の違いから,サーフェスモデル,ソリッドモデル,ボクセルモデルの3種類に大別される.サーフェスモデルは“面”を基準として地下空間を表現するものであり,地下に存在する各地層の分布域を把握する際などに役立つ.ソリッドモデルはサーフェスモデルで定義される各領域に属性を付与したものであり,地質体の質量・体積計算やFEM解析によるシミュレーション等で利用される.ボクセルモデルは属性をもたせた立方体を敷き詰めることで地下空間を表現するものであり,地層や物性の分布の表現に利用されることが多い.このように3次元モデルは,その用途に応じて使い分けられるのが一般的である.

     産業技術総合研究所地質調査総合センター(以下,GSJ)では,経済産業省による知的基盤整備の一環として,自治体と協力しながら”都市域の3次元地質地盤図”の作成に取り組んでいる.この取り組みは,ボーリングデータを利用して,都市域の地下数十メートルを対象としたサーフェスモデル型の3次元地質モデルを作成するものである.ボーリングデータには,学術研究のために作成されたものと,公共工事などの際に作成されたものを用いる.前者には数は限られるが層序学・堆積学的に詳細な情報を含んでいるという特徴が,後者には地質学的な情報は乏しいが数万本単位かつ広域的に存在するという特徴がある.ここでは,前者から得られた層序区分を基準として後者について地層の対比を行い,そこから得られる複数の地層基底面に関する大量の深度情報を基にサーフェスモデル型の3次元地質モデルを作成する.これにより地震防災施策などで重要となる軟弱層の分布など,都市地下浅部の詳細な地質構造を明らかにする.都市域の3次元地質地盤図は,これまでに千葉県北部地域(納谷ほか,2018)と東京都区部(納谷ほか,2021)についての整備が完了しており,これらはGSJのウェブサイト「都市域の地質地盤図」[URL1]から公開されている.本ウェブサイトでは,3次元地質モデルから作成した地質図(平面図)やモデルを構成する地層基底面の等高線図をWebマップとして閲覧できるほか、区画単位での立体図の表示や任意の測線に沿った地質断面図の作成などを行える.立体図の表示では,岩相やN値に従って配色したボーリングデータを地表面や地層基底面と合わせて表示できるため,軟らかい地層や固い地層が地下でどのように広がっているのか,どのように積み重なっているのかを簡単に捉えられる.今後GSJでは,物性の3次元モデル化なども検討しながら,3次元地質地盤図の整備範囲を埼玉県南東部や千葉県中央部などに拡大していく予定である.

     地質構造を仮想的に表現する3次元地質モデルは,国が推進するデジタルトランスフォーメンションとの親和性が高い.土木分野で実施されているBIM/CIMに活用できるほか(国土交通省,2022),都市デジタルツインを用いた防災活動や地学・地理教育活動における活用も期待できる.しかし,地質構造などの3次元地質情報を扱う都市スケールのデジタルツインを作成した事例は国内外を問わず限られており,都市デジタルツインにおける3次元地質モデルの利用については,今後ユースケースの充実が望まれている.GSJにおいても地質情報の社会実装を目指して,自治体などと協力しながら都市域の3次元地質地盤図を都市デジタルツインで利用することを検討し始めた.本発表では,GSJが整備を進める都市域の3次元地質地盤図について,その作成手法や公開ウェブサイトの詳細について述べるとともに,現在検討している都市デジタルツインでの利用や課題について話題提供する.

    文献

    国土交通省(2022)BIM/CIM活用ガイドライン(案)第1編共通編.136p.

    納谷友規ほか(2018)都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書).55p.

    納谷友規ほか(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」(説明書).82p.

    3次元地質解析技術コンソーシアム(2021)3次元地質解析マニュアルVer3.0,333p.

    [URL1] 産総研地質調査総合センター,都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/.

  • 宮城 康夫, グエン ティ タオ バン, 尾高 潤一郎
    セッションID: T13-O-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    現在、国土交通省ではインフラ分野のDXを強力に推進し,インフラのデジタル化,BIM/CIM活用,3次元データやリアルデータを活用した新技術の開発等を掲げている[1]。本発表では,XR技術の一つである複合現実(Mixed Reality: MR)技術を使った3次元地質地盤モデルへの活用事例を紹介する。

     複合現実(MR)技術とは,現実空間に対応する仮想3Dデータをホログラムとして映し,現実世界と仮想世界を融合させる技術であり,このような仮想現実技術(AR・MR・VR)を総称してXR技術とよばれている。今回,米国マイクロソフト社が開発したHoloLens2を用いて,3D地質地盤モデルへのMR技術の適用を試行した。

     試行例①は,砂防堰堤とその地下地盤からなる3次元モデルに対して3Dホログラム表示を行った例である。本3Dモデルのホログラムでは,手指により3Dモデルの砂防堰堤や各地層を直接動かすことができ,地下地盤の地層構成を直感的に確認・観察することができる。

     試行例②は,落石発生源の3D露頭モデルをホログラム表示した例である。本モデルは,実際の露頭付近で数十枚以上の写真撮影を行ったうえで,フォトグラメトリーソフトを用いて3Dデータとして作成した。本3D露頭モデルを用いることで,技術者や有識者が急峻で足元が危険な現場に行くことなく,室内で安全に落石源の露頭状況を確認・判断・評価することが可能である。

     試行例③は,AISTの地質調査総合センターが公開している東京都区部の3次元地質地盤図[2]に対し、今回3Dホログラム表示を試行した。なお、3Dデータは現在のWebGL仕様となる前にダウンロードしたものを用いている。また,3Dデータの位置合わせは,AISTの3次元地質地盤図内のボーリングデータと東京都土木技術支援・人材育成センターで公表されている「東京の地盤(GIS版)」[3]と同一のボーリングデータの位置情報を用いて実施している。東京都江東区亀戸付近(地区番号1008)の3次元地質地盤図(立体図)モデルをホログラム表示した結果,ホログラム版はオリジナル版と同様に地表面と沖積層基底面のサーフェスと多数の3Dボーリングが表示されるが,岩相や深度情報等の属性情報が直接確認できない。一方で,本モデルのホログラム表示を行うことで,江東区東部の沖積層基底面が相対的に低いことが,よりリアルに体感できる。さらに,3D都市モデルを提供するPlateau[4]データをランドマークとして利用することで,東京都市部の地下地盤状況を3Dホログラムとしてリアルに体験することができる。

     今回紹介したMR技術を使った3D地質地盤モデルは,地下の地質地盤状況を直感的に理解することが可能であるとともに,地質学分野の様々な研究領域(自然科学,応用地質,アウトリーチ等)に対して幅広く適用可能と考えられる。

    文献

    [1] 国土交通省「インフラ分野のDXに向けた取組紹介」

    (URL: https://www.mlit.go.jp/tec/content/200729_03-2.pdf) (2022年6月27日閲覧)

    [2] 産総研地質調査総合センター・東京都土木技術支援・人材育成センター(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」

    (URL: https://gbank.gsj.jp/urbangeol/ja/map_tokyo/index.html)(2021年5月26日閲覧)

    [3] 東京都土木技術支援・人材育成センター「東京の地盤(GIS版)」(2014.05.01一部更新)

    (URL: https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/tech/start/03-jyouhou/geo-web/00-index.html)(2022年6月27日閲覧)

    [4] 国土交通省「PLATEAU」

    (URL: https://www.mlit.go.jp/plateau/)(2022年6月27日閲覧)

  • 戸邉 勇人, 松川 剛一, 升元 一彦
    セッションID: T13-O-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

    都市基盤を整備する際には建築物や土木構造物(以後「構造物」)の建設が必要である.構造物を合理的に設計・施工し,持続可能な都市の発展に寄与するためには,構造物の施工予定地周辺の地質情報を,事前に迅速かつ網羅的に集約することが重要である.地質学者および地質技術者(以後「地質学者」)は地質情報を構造物の設計技術者や施工技術者に正確かつ詳細に伝達するために多くの時間を必要とする一方,地質学者の人的資源は慢性的に不足している.これらのことから,地質情報を短時間で自動的に集約する技術が望まれてきている.

    文献情報の集約には人工知能技術の一つであるテキストマイニング技術の活用が有効だが,既存のテキストマイニングシステムを地質文献に適用することは,Webやクラウドの活用によるシステムの肥大化や情報漏洩のリスク対策を必要とすることなどから,最適な手段といえない.そこで本研究では,組織外のネットワークを介さないことにより情報漏洩のリスクなく文献から地質情報を集約可能な,コンパクトな手法の開発を試みたので,その概要について説明する.

    2.手法の概要

    本研究では,これまで行われていた構造物の設計・施工技術者への情報提供の手順をシステマティックに見直すことから始めた.地質学者は,まず地質文献からキーワードを選別している.次にこれらのキーワードと関連の強い,施工上発生しうる問題点を過去の施工資料から読み取っている.そして最後に,施工資料から抽出したキーワードと地質文献から抽出したキーワードとを組み合わせて施工に有用な地質情報を集約している.このことから,キーワード抽出作業を自動化することにより,地質学者の負担が軽減できると考えられる.

    文献からキーワードを自動抽出するには,近年のAI技術の発達によりテキストマイニング技術が使われてきている.本手法の開発においても,この技術を取り入れ,下記の(1)~(4)の手順でキーワード抽出と文献を検索(逆引き)ができるようにした.

    (1)形態素解析

    日本語は単語ごとに区切った書き方(分かち書き)をしないため,文章を解析するには,文を単語(形態素)に分解する必要がある.形態素解析を行うソフトウェアには無償かつ高速なMeCabを使用した.初期状態のMeCabは専門用語を正確に認識できないため,地学辞典と土木用語辞典から約25,000語を抽出しMeCabの辞書に追加した.

    (2)ベクトル化

    文献から抽出された単語を,出現頻度の表にまとめた.この手順は,単語の種類を次元,出現頻度を要素とするベクトルを算出すること等価である.

    (3)共起解析とキーワード抽出

    文献中の単語の重要性は,出現頻度,位置,他の単語との関連性,および出現する文や単語の類似性などを基にして,多変量解析により算出した(共起解析).そして重要性の高い単語は,キーワードとして抽出した.

    (4)データベース化と文献検索

    キーワードを文献のタイトルとともにデータベース化し,キーワードを検索キーとして文献の検索(逆引き)を実行可能とした.また,逆引きにより得られた文献からキーワードを抽出し,さらなる逆引きを可能とした.これにより,関連性の高い多数の文献を即時に引用できた.

    3.対話システムによる性能向上

    データベースの検索性能を向上させるため,新語登録とアノテーション付与の機能を付加した.この機能の付加には対話システムを応用した.

    新語登録は,形態素解析エンジンに未登録の専門用語を追加する仕組みである.新語登録は,たとえば「スレート」と「へき開」が別の単語として抽出された場合,これらを1つの専門用語「スレートへき開」として扱うための仕組みである.

    アノテーション付与は,単語間の意味を付与する仕組みである.たとえば「花崗岩」と「マサ」が関連性の高い単語として抽出された際.両者の関係性(アノテーション)は「風化」とすることにより,データベースは「花崗岩が風化によりマサとなったことを記す文献」といった,より高度な検索が可能になる.

    この2つの機能の付加は,データベースに対話機能をもたせ,地質学者とのチャットにより学習させることによって実現した.

    4.おわりに

    本手法により,組織外のネットワークを介することなく地質文献からキーワードを抽出し,さらに逆引きを迅速に行うことが可能となった.この手法は知見や経験の不足している初学者の教育や補助としても有用と考えられる.しかしながら,現状の手法では新語登録やアノテーションの付与に地質学者との対話による学習を必要とするなど,解決すべき課題が残されている.今後は,この解決に尽力し,より実用性の高い地質情報の集約手法を研究・開発していく予定である.

  • 香川 淳, 吉田 剛
    セッションID: T13-O-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】 2022年1月15日13:00過ぎ(日本時間),南太平洋トンガ王国のフンガトンガ-フンガハアパイ火山(以下,フンガ火山)が大規模に噴火し,この際に発生した「空振」(急激な気圧変動)や「津波」は約8000km離れた日本でも観測され,一部では漁業関連の被害を生じた.こうした噴火の影響が,千葉県内の観測井においても地下水位変動として観測されたことから報告する.

    【気圧変動】 千葉県では,圧力式水位計の大気圧補正用として気圧計を県内各地に設置しており,その多くは,水位計の記録間隔に合わせて10分ごとの大気圧を記録している.唯一,千葉市美浜区稲毛海岸に設置している水位計に付属した気圧計(Onset社製 HOBO-MX2000型水位計)では,30秒間隔,0.01hPaの分解能で計測を行っている. フンガ火山が爆発的に噴火した1月15日,各地の気圧計では20:00過ぎに1hPa前後の急激な気圧の変化を記録した.特に稲毛海岸の30秒間隔記録の気圧計では,20:26頃に最大1.8hPaの気圧上昇の後,上昇直前よりも約0.5hPa低下し,その後は0.5hPa程度の振動をくり返す気圧変動が観測された(図).この気圧変動は,フンガ火山で発生した「空振」(約300m/s)が,約7時間かけて約8000km離れた日本まで到達したとする計算とおおむね一致する.さらに,地球2周目の到着時刻にあたる1月17日09:00前にも約0.8hPaの気圧上昇が観測されている.こうした地球規模で伝播した気圧変動は,大規模噴火にともない発生した長周期大気音波の一種(大気Lamb波:大気境界波)と考えられている(東大震研,2022).

    【地下水位変動】 千葉県では約150本の観測井により地下水位を連続観測している.このうち下総台地の不圧地下水を対象とした観測井では,台風等の気圧変化と調和的に地下水位が変動することが知られている(香川,2021).フンガ火山の「空振」到達時においても,いくつかの観測井で明瞭な地下水位変動が観測された. 成田市三里塚に設置されている「成田-3(深度50m・スクリーン深度18.1~29.1m)」では,1月15日20:00過ぎに地下水位が低下を始め,20:26前後に最大12mmの低下が観測された.その後地下水位は上昇し,20:47頃に低下直前よりも約5mm上昇した後は,数mmの振動が22:00頃まで継続した(図). また稲毛海岸の気圧記録では,気圧上昇時にスパイク状の一時的な気圧低下が認められるが,これに呼応するように「成田-3」でも一時的な地下水位上昇が認められている. なお「成田-3」では,「空振」2周目に相当する1月17日09:00前にも7mm程度の地下水位低下が観測されている. また,八千代市村上に設置されている「八千代-1(深度60m・スクリーン深度28~45m)」においても,1月15日20:00過ぎに約10mmの地下水位低下が観測された. 市原市奈良に設置されている「Ic-4(深度100m・スクリーン深度52~80m)」では,1月15日20:00過ぎに約10mmの地下水位低下が観測された.

    【大気圧と地下水位の相関】 「成田-3」において「空振」1周目に観測された約6.7mm/hPaの地下水位変動や,2周目の約8.8mm/hPaの地下水位変動は,台風通過時にみられる地下水位変動量(8~10mm/hPa)とおおむね一致することから,「空振」通過時の気圧変動により急激に地下水位が変化したものと推定される.なお,こうした急激な気圧変動に対し,台地上の不圧地下水が特に感度良く応答する原因については今後検討する必要がある.

    【文献】

    東京大学地震研究所(2022)【研究速報】 2022年1月15日13時頃(日本時間)のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火(https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/15712/).

    香川 淳(2021)2019年台風第15号・第19号の影響による地下水位変動, 日本地質学会第128年学術大会講演要旨集.

  • 風岡 修, 小島 隆宏, 伊藤 直人, 八武崎 寿史, 吉田 剛, 香川 淳
    セッションID: T13-O-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:

     人間活動が営まれているアーバン地域では,自然現象と人為活動が相まって,さまざまな災害が発生することがある.国内の第四紀層が分布する地域の中には,天然ガスの噴出現象である「上ガス」(以下「上ガス」と呼ぶ)により,農作物被害や構造物での火災・爆発が生ずることが,新潟県,北海道,千葉県などで報告されている.これらの発生場所の多くは,水溶性天然ガス田上である.

     上ガスの発生状況の調査から,戦後の復興のため水溶性天然ガス田の発見やその開発につながってきた(金原ほか,1949;品田ほか,1951).

     2000年代に入る頃より,房総半島の九十九里平野中央部の東金市,大網白里市,九十九里町を中心に,水田の農作物被害やガス爆発事故が報告されたため,この地域での上ガスの発生状況が調べられてきた(風岡ほか,2006;風岡ほか,2021など).今回は,本格的に噴出量も含めて現地調査が行なわれた2009年から2022年春の調査までの対象地域全域の調査結果について,250 mの行政メッシュを利用しまとめた結果を報告する.

    調査・集計方法:

     毎年4月~6月初旬に水田や河川・池などの水域において,場所を変えながらガスの噴出地点と噴出量を観察した.水が張られた水田において,噴出ガスの泡1つが約1 mLであることを水上置換法の測定により確認した.これを利用して,1 m2あたり1秒間に何個の気泡が噴出しているのかを観察し,噴出量を見積もっている.ガス噴出が見られた際には,10秒間に噴出する気泡の個数を同じ場所に対して3回調べ,ほぼ同数となることを確認し,その位置と噴出量を記録した.ガス噴出のタイプについては,次のように区分した.ガスが出ていないが噴出孔がみられるものをCタイプ,噴出孔から数秒または数分ごとに断続的に出るものをBタイプ,連続的にガスが噴出しているものをAタイプとした.さらに,Aタイプについては,1 m2あたり1秒間にガスの気泡が1~2個噴出しているものをA1タイプ,3~7個噴出しているものをA2タイプ, 8~20個噴出しているものをA3タイプ, 21個以上噴出しているものをA4タイプとした(風岡ほか,2020).集計にあたっては,1メッシュの中で1/4以上の面積の調査を行ったメッシュについて集計を行った.

    調査結果:

     1メッシュあたり0.5 L/sec以上のガス噴出量が多いメッシュが塊となっている部分が複数箇所にみられた.特に北西部において多数みられ,上総層群の大局的な走向方向である北東方向に連なっていることが明らかとなった.一番面積の大きな塊は,東金市福俵~大網白里市清名幸谷である.

     調査地域全体で見つかった上ガスの総発生量は,418.104L/sec.日量に換算すると36,124m3/day であった.これは,千葉県内での2018年度における水溶性天然ガスのガス採取量である1,126,485m3/day(九十九里地域地盤沈下対策協議会,2020)の約3.2%である.また,調査対象の3市町における同年度のガス採取量である124,555m3/dayの約29%にも達していることが明らかとなった.

    引用文献:

    風岡 修・風戸孝之・笠原 豊・楠田 隆,2006,地質汚染-医療地質-社会地質学会誌,2巻,82 - 91.

    風岡 修・伊藤直人・潮﨑翔一・吉田 剛・荻津 達,2020,千葉県環境研究センター年報,令和元年度版,6P.https://www.pref.chiba.lg.jp/wit/chishitsu/nenpou/ documents/ar2019chishitsu011.pdf

    風岡 修・小島隆宏・伊藤直人・香川 淳・荻津 達・八武崎寿史・吉田 剛,2021,第31回環境地質学シンポジウム論文集,9-12.

    金原均二・大山 桂・小野 暎・伊田一善・本島公司・石和田靖章・品田芳二郎・牧野登喜男・三梨 昂・安國 昇,1949,石油技誌,vol.14,245 - 274.

    九十九里地域地盤沈下対策協議会,2020,天然ガス採取の現状と地盤沈下の防止対策 令和元年度版,九十九里地域地盤沈下対策協議会事務局,58P.

    品田芳二郎・牧 真一・高田康秀・大森えい,1951,石油技誌,16巻,312-326.

  • 髙嶋 洋
    セッションID: T13-O-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    水は循環性資源であり,都市において上水道は重要な生活インフラである.近年,日本の人口減少に伴い,水道経営が厳しさを増す中,持続可能な水道システムの構築が喫緊の課題となっている.身近な上水道水源としては,地下水が注目されているが,とりわけ湧水は,地盤沈下など地下への負荷がなく,組み上げに係る電力を必要としないなど,環境面で低負荷な水源として期待される.一方,地表に接する地下水であるため,汚染や渇水,湧水停止などのリスクを有し,持続的に利用するためには,土地利用に係る脆弱性の検討や地下水の涵養・湧出機構の解明及び湧水のモニタリングなどが重要となると考えられる.

    湧水を利用する上水道は,水道統計の水道水質データベースが公表されており,浄水場別,原水の種類別に1日平均浄水量が確認される(日本水道協会, 2021).最新データは令和元年度のものであるが,原水の種別が湧水に限定される1日平均浄水量を集計し,水道事業体別に湧水利用量を調べた結果,日本最大の湧水利用量を誇る水道事業体は鹿児島県霧島市であることが判明した.人口125,000人を擁する霧島市は,浄水量の8割近くが湧水起源であり,極めて高い湧水ポテンシャルを有する地域と考えられる.また,2位は鹿児島市,4位は鹿屋市,5位が熊本県人吉市,9位が宮崎県小林市であり,南九州の自治体が10位以内に多くリストされることが判明した.一方,日本最大の柿田川湧水を有する静岡県は,3位に伊東市,8位に伊豆の国市,10位に富士宮市が確認された. 鹿児島県霧島市の主要な水源は,台明寺や奥新川などが認められ,いずれも日量1万トン以上を湧出する(日本水道協会, 2021).このうち,奥新川水源地には,地区内に数多くの湧水が確認されるほか,日量30,000トンを湧出し,観光地となっている「大出水の湧水」が存在するなど,極めて湧水が豊富な地域である.当地区の湧水は,霧島市の国分平野を北北東から南南西に流下する天降川の中流域において,これに接続する久留味川沿いに分布する.奥新川水源地で最大の湧水量を誇る奥新川第3水源地や大出水の湧水は,いずれも加久藤火砕流堆積物の中から地下水が湧出している.当地区の加久藤火砕流堆積物は,概ね水平の堆積層で弱~中溶結を呈し,目が詰まった断裂が数mおきに発達するが,湧出口は1m程度の孔となっている(霧島市上下水道部聞き取り).当該地区は広く入戸火砕流堆積物に覆われ,加久藤火砕流堆積物は河床付近にのみ認められ(大木・湯浅, 2012),露出が少ない.また,入戸火砕流堆積物が100m以上厚く堆積しており,観測可能な井戸も認められない.このため,地下水湧出機構の具体的な研究事例は確認できていない.

    一方,当該地区は,露木(1969)が示した北北東-南南西方向に発達する鹿児島地溝帯内に存在し,数多くの温泉湧出箇所が天降川沿いに分布する.湧水が集中する奥新川周辺では,河川は北西-南東方向に流路を持つが,妙見温泉や安楽,日の出,新川温泉など河床から直接湧出する温泉が多数観察される.平面的には,久留味川が天降川に合流する地点付近を境に湧水地帯と温泉湧出地帯が明確に区分され,これより北西側には湧水のみが認められ,南東側には温泉湧出が分布する.温泉は炭酸泉で鉄分を含み,飲用には適さないため,これらを明確に区分する地質構造が,地域の湧水を保全しているものと考えられる.

    本論では,都市を支える湧水の存在と,その地質状況および水文地質構造を概観し,持続可能な水道水源の特性と在り方を考察する.

    (公社)日本水道協会, 2021, 水道水質データベース, http://www.jwwa.or.jp/mizu/(20220627閲覧).

    大木公彦・湯浅秀隆, 2012, 天降川中流・上流域の地形・地質に関する一考察. 鹿児島大学理学部紀要, 45, 19-29.

    露木利貞, 1969, 九州地方における温泉の地質学的研究(第5報) 鹿児島地溝内の温泉-特に温泉貯留体について. 鹿児島大学理学部紀要, 2, 85-101.

  • 石川 正弘
    セッションID: T13-O-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    現代は都市が地球上で急激に拡大する時代であり、経済活動のグローバル化によってグローバルサウスにおける労働力と地球環境の搾取が急拡大する時代でもある。 Rockström et al. (2009)はプラネタリー・バウンダリーという概念を導入し、地球環境を9つの項目(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素・リン循環、淡水利用、土地利用変化、生物多様性損失、大気エアロゾル負荷、化学物質汚染)に区分して、それぞれの臨界点の具体的な評価を行った。ミレニアム開発目標(MDGs)にロックストロームらの唱えたプラネタリー・バウンダリーの概念を取り込んだものが、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)である。人類が抱える都市・社会・環境に関する様々な問題やリスクは、グローバル・ローカルな問題でもあり、世代間格差の問題でもあり、多面的である。問題解決のためには分野の枠を超えて、都市・社会・環境などの複眼的に視点から思考することが求められている。 O’Neillほか(2018)は“A good life for all within planetary boundaries”という論文において社会的課題11項目(人生の満足度、平均余命、栄養、衛生、所得貧困、エネルギーへのアクセス、教育、ソーシャルサポート、民主的な品質、平等、雇用)と地球環境課題7項目(二酸化炭素の排出、リンによる環境負荷、窒素による環境負荷、淡水資源(水資源)、土地利用変化、エコロジカルフットプリント、マテリアルフットプリント)を国別に評価している。この評価についてはUniversity of LeedsのA Good Life For All Within Planetary Boundariesのホームページ(https://goodlife.leeds.ac.uk/)にて参照可能である。社会的課題11項目の達成数と地球環境課題7項目の違反項目をそれぞれ縦軸と横軸にプトットした結果は大変興味深い。社会的課題の解決項目が多く豊かな社会を築いている国々(米国、日本など)は地球環境課題の違反項目が多い。つまり、地球環境を過剰に搾取した国だけが、国民の人生の満足度が高く、健康的な生活を送り、栄養も十分摂取でき、衛生レベルも高く、所得が高く、電気エネルギーを簡単に利用でき、教育水準も高く、ソーシャルサポートも十分であり、民主的・平等な社会であり、雇用の機会が十分にあるような社会を構築できている。対照的に、社会的課題の解決項目が少ない国(例えば、フィリピン)は地球環境課題の違反項目が少ない(地球環境の搾取が非常に小さい)。地球環境課題の違反項目が多いにもかかわらず、社会的課題があまり解決されていない国も多く存在する(例えば、パラグアイ)。このタイプの国は地球環境の搾取で得られるはずのベネフィットが自国民に還元されておらず、他国のために地球環境を搾取していることになる。まさに、経済活動のグローバル化によってグローバルサウスにおける労働力と地球環境の搾取が行われている例であろう。持続可能性という視点から唯一希望的な国家がベトナムである。地球環境課題の違反項目が少ないにもかかわらず、国家として社会的課題の解決に積極的に取り組んでいる。社会的課題の解決項目が少ない国にとってベトナムはモデルケースとなると期待される。 人新世における人類の活動は急激に増大しており、経済活動のグローバル化に伴って、地球環境に及ぼす影響は広範囲かつ回復不可能な領域に達しいる可能性が高くなっている。地球環境のレジリエンス(回復力)の限界を超えることが危惧される。プラネタリー・バウンダリーを超えないように、つまり、人類にとっての壊滅的な環境リスクを回避しつつ、社会的課題を解決するためには、どうしたらよいであろうか?分野横断かつ文理融合の知の統合的研究を押しすすめる必要性を感じる。

    引用文献

    O’Neill, D.W., Fanning, A.L., Lamb, W.F. et al. A good life for all within planetary boundaries. Nat Sustain 1, 88–95 (2018). https://doi.org/10.1038/s41893-018-0021-4

    Rockström, J., Steffen, W., Noone, K. et al. A safe operating space for humanity. Nature 461, 472–475 (2009). https://doi.org/10.1038/461472a

T14(口頭).大地と人間活動を楽しみながら学ぶジオパーク
  • 笠間 友博
    セッションID: T14-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに  箱根ジオパークは2020年の審査で再認定はされたものの、多くの指摘事項があった。その中でテーマ「北と南をつなぐ自然のみち 東と西をつなぐ歴史のみち」の「北と南をつなぐ自然のみち」の「みち」が、依然として分かりにくいままであるという指摘があった。箱根は天然の障壁であることは広く知られているが、障壁を「歴史のみち(街道)」と語呂合わせをして「みち」と表現している。すなわち、人にとっての障壁は自然豊かな場所であり、野生生物が行き来し、分布を広げることのできる「みち」になるというのが、この「自然のみち」の意味である。テーマは「カルデラ」など火山としてのイメージを前面に出してはどうかという意見も審査で出されたが、10年近く使用したテーマで地域にも馴染んでおり、学術部会の検討でも変更せずに使用する事とした。しかし、何らかの補強は必要である。ここでは、この指摘を受けて著者が取り組んでいるテーマ補強の取り組みと、ガイド研修への応用について報告する。具体的には、このテーマを箱根ジオパークの南と北へ拡大して当てはめ、周辺地域全体の特徴として捉え、拡大した地域から箱根ジオパークを俯瞰してテーマ理解を深める試みである。これは箱根の地形、地質を客観的につかむ事にもつながり、ガイド研修にも効果があると考えている。現在、箱根ジオパーク推進協議会員向けのメーリングリストで、「テーマ解説」としてテーマ補強に関する話題を週一回程度配信することから始めている。

    2.テーマの補強  この自然豊かな「北と南をつなぐ自然のみち」は、南は地形的に伊豆半島から始まり、箱根火山、足柄山地、丹沢山地、関東山地と北へ連なる。関東山地の北には浅間火山があるが、その付近から山並みは北東方向の越後山脈へと続く。南北方向につなぐと越後山脈の西側あたりがこの「みち」の北端と言える。ここには富士箱根伊豆国立公園、秩父多摩甲斐国立公園、上信越高原国立公園と「自然のみち」の要素が連なる。これらの地域はいわゆるフォッサマグナ地域内にあり、関東山地以南は、植物区のフォッサマグナ区に含まれ、植生の共通性がある。これも「自然のみち」の要素である。このように拡大することで生物のつながりが強調できると考えた。ジオパークの分布をみると、ここには伊豆半島、箱根、秩父、下仁田、浅間北麓、苗場山麓、さらに伊豆大島も含めると7つのジオパークが南北に連なっている点も注目される。

    3.ガイド研修への応用  箱根ジオパークでは、ガイド研修の主体は箱根火山の理解になる。教科書的に使用している日本地質学会国立公園リーフレット1は記載が細かく、詳細な形成史にガイドの興味、知識が偏りがちな傾向が見受けられ、細かい形成史が語れても、地層や岩石の基本的な理解に著者は不安を感じる事がある。そのためガイド研修を城ヶ島で行ったこともあった。そこで「北と南をつなぐ自然のみち」を利用して、隣の伊豆半島ジオパークとの地質の類似性、秩父、下仁田ジオパークの付加体、変成岩などの多様な地質、岩石、伊豆大島、浅間北麓、苗場山麓ジオパークとの火山地質の共通点、相違点など、周辺ジオパークの勉強を通して地質学的な総合力を養い、解説にふくらみをもたせることが目的である。一方「歴史のみち」は、江戸時代の東海道、奈良平安時代の足柄古道である。地域を俯瞰すると、上記のジオパークにも「東と西をつなぐ歴史のみち」が存在する。伊豆半島は東海道の続き、秩父に秩父往還、下仁田に下仁田街道、浅間北麓に大笹(信州)街道がある。「北と南をつなぐ自然のみち」は江戸時代には江戸の防衛線としての役割が加わり、「歴史のみち」との接点では関所(箱根では箱根関所)が設けられたが、秩父に栃本関所、下仁田に西牧関所、浅間北麓に大戸関所がつくられている。この「歴史のみち」の共通点の話題も「自然のみち」同様、メーリングリストの返信でガイド団体からの反響が寄せられており、研修意欲向上になっていると思われる。

    4.おわりに  テーマの分かりにくさの補強から、ガイド研修への発展について述べた。ガイド研修は自己ジオパーク内で完結することが一般であるが、近隣ジオパークとの比較から学ぶも事も当然多い。ここでは近隣ジオパークを、テーマの地域的俯瞰から結び付け、ガイド研修に役立てる可能性について言及したが、この試みはまだ始まったばかりである。取り組み具合を含め、今後どのような効果があるか検証していく。

     「歴史のみち」、関所については箱根町立郷土資料館および箱根関所の学芸員に助言をしていただいた。

  • 小笹 直人, 市川 燈
    セッションID: T14-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    箱根ジオパークでは、過去に発生した自然災害を風化させず後世に語り継ぎ、今後の災害に備えるため、2021年4月から国土地理院が行っている自然災害伝承碑の公開に向けた取り組みを開始した。取り組み開始時の神奈川県内にある自然災害伝承碑公開数は、寒川町の5基、箱根ジオパークである南足柄市の1基のみであったが、同年9月1日に箱根町が10基(同日、秦野市も3基公開)の自然災害伝承碑を公開した後、県内でも取り組む市町が増え、公開数は増加した。箱根町が記者発表したことで新聞紙や地元テレビで紹介されたことにより広まったと考えられる。箱根ジオパークエリアでは、2021年12月21日に小田原市が6基、南足柄市が2基、2022年1月14日には真鶴町が2基の石碑を公開した。これにより箱根ジオパークエリアには合計21基の自然災害伝承碑が公開されている。県内の自然災害伝承碑公開数が49基(2022年6月23日時点)であることから、箱根ジオパークエリアの自然災害伝承碑が県内では多くを占めている。自然災害伝承碑から分かる箱根ジオパークエリアの災害は時代順に①洪水(1708年、1711年、1734年(宝永噴火によるもの))②洪水(1913年)③関東大震災(1923年)④北伊豆地震(1930年)⑤アイオン台風(1948年)⑥土砂災害(1953年(早雲山地すべり))である。また箱根ジオパークエリアのみで考えると、①は南足柄市、②は小田原市、④⑤⑥は箱根町のみ被害があったが、③は箱根ジオパークエリア全体で被害があったことが分かる。自然災害伝承碑があることで、一つの災害が広範囲に影響を及ぼしている災害か、あるいは地域特有の災害かを判別する指標として活用できる。その点において、複数市町で構成される箱根ジオパークが自然災害伝承碑に取り組んだことで、③の災害が市町毎の災害ではなく、箱根ジオパークエリア全体で、地震、津波、土砂災害といった様々な災害を引き起こしたことを整理することができた。公開に向けた情報収集では、箱根ジオパークエリアの各市町で把握している石碑関係の調査資料や国土地理院からの情報提供の他、地域住民にも身近にある石碑の情報提供を求めた。広報紙(箱根町・真鶴町・湯河原町)や、記者発表(箱根町)による新聞紙への掲載により情報収集を行った他、真鶴町では箱根ジオ真鶴町では箱根ジオパークガイドとして活動している真鶴観光ボランティアガイドが調査を行った。なお、2022年度は、南足柄市で活動している箱根ジオパークガイド南足柄ジオガイドの会が調査を行い、追加公開へ取り組む予定である。公開された自然災害伝承碑は、広報紙(箱根町・真鶴町・南足柄市)や箱根ジオパークホームページ等に掲載している。また、箱根町では総務防災課と協力し、「はこね防災ガイドブック」への掲載や防災出前講座での取組み紹介を箱根ジオパーク推進室がしており、自然災害伝承碑の取組み目的である地域住民による防災意識の向上に役立てている。箱根ジオパーク推進協議会では、県立高校図書館で行っている展示活動(小笹・笠間,2022 JpGU発表)の一環として自然災害伝承碑を紹介するパネルを作成した。本展示では、箱根ジオパークエリアの災害の他、相模湾を震源域として発生した関東大震災について、箱根ジオパークエリアと大磯町の被害から、これからの防災を考える内容となっている。なお、本展示では、国土地理院に協力を依頼し、パネルデータの提供を受けている。これらの取組みは、国土地理院ホームページの自然災害伝承碑活用事例として紹介されている。(https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi_utilization.html)

  • 松原 典孝, 石井 三重子, 目代 邦康
    セッションID: T14-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    持続可能な地域を実現する上で,地域社会における自然資源利用に関する伝統知の解明,すなわち人間の自然環境利用の実態把握が求められている.地形学・地質学・地理学的環境の利用に関する伝統知の重要性も主張されており(鬼頭,2016),適切な地域資源マネジメントのために,地形学や地質学などの科学知と伝統知の関係を捉えなおす必要がある.

     島国日本には漁港が多い.日本は台風や季節風・津波など自然の猛威が世界的にみても厳しいところで,元来日本の漁業はそれらの猛威から守られる地形構造のところに立地してきた(堀,1995;土井・堀1996).日本の漁港の地形構造の類型化を行った土井・堀(1996)は,自然地形を利用した漁港のほとんどが,崎山(岬状に山が沖に突出している地形)や入り江,前島(沖にある島)やそれらの複合的要素で囲まれた場所に立地するとした. これらは,それぞれの地域の自然条件の中で人々が作り出した伝統知の結果である.

     近畿地方の日本海側に位置する山陰海岸ジオパークにおいては,リアス海岸の入り江が天然の良港として利用されてきたことが報告されている(先山ほか,2012).しかし,丹後半島の北側に位置する京丹後市沿岸の地形は,リアス海岸の地形要素も存在するものの,海岸段丘が発達(植村,1981)し,リアス海岸地形が残っていない地域が存在する.では,リアス海岸の地形が残っていない場所ではどのような地形を漁港に使用しているのだろうか.土井・堀(1996)は,様々な自然地形を人々が漁港として利用していることを指摘したが,その地形がどのようにしてできたのか,特に,地質と地形の関係については言及していない.一方で,地形形成には地質(岩質)の違いが大きな影響を与えることが知られている(Asheley,G,H,1935など).固結した岩石から成る海岸すなわち岩石海岸における地形変化は,地殻変動および氷河性海水準変化に起因する変化を除けば,もっぱら波浪による構成岩石の除去すなわち侵食変形であり,岩石の侵食に対する抵抗力を波の侵食力が上回ると侵食が起こる(砂村,1975;Sunamura, 1994など).また,強度の異なる地質が隣接してある場合,軟らかい地質が早く風化・侵食され,硬い地質が風化・侵食されないなど,差別侵食による地形は,地形と地質とが対応関係にある(高橋,1975;辻本,1985;森山・青木,2020など)ことが指摘されている.京丹後地域沿岸は火成岩や堆積岩が複雑に分布する.本研究では京丹後周辺においても漁港には強い季節風を遮る岬や岩礁が存在し,それがつくる地形を利用していると考え,京丹後市の行政上の指定漁港13港を対象に,①漁港の地形の特徴を解明②その地形がどのような過程でつくられているのかを漁港周辺を構成する地質の特徴も踏まえて考察し,漁港立地と地形地質の関係を検証した.

     調査の結果,京丹後地域の漁港に使われている場所は,①リアス海岸地形の入り江に泊地が存在するところ(6港)と,②リアス海岸地形がないが,岬・島・岩礁に囲まれた入り江に泊地があるところ(7港),また③リアス海岸地形でありながら,岬・島・岩礁が存在する「複合タイプ」の漁港(3港)に分けられた.②と③に存在する岬・島・岩礁はどのようにできたかを検討するために,漁港周辺を構成する地質の岩石強度を,シュミットハンマーを用いて調べたところ,岬・島・岩礁は,一つを除き,岩石強度の大きい岩石と岩石強度の小さい岩石が存在し,岩石強度の大きい岩石はどれも安山岩からなることが分かった.これらの漁港では岩石強度の違いから差別侵食がすすみ,安山岩が岬・島・岩礁となり漁港に利用できる地形がつくられると考えられる.調査した海食崖下の礫浜の礫組成をみると,岩石強度の大きな岩石を起源とした礫が優占している.これが研磨剤となり岩石強度の小さい岩石を侵食したと考えられる.

    <引用文献>Asheley, G. H., 1935. But, Geol, Soc, Am, vol. 46, 1395-1436.

    土井良浩・堀繁,1996. 第31回日本都市計画学会学術論文研究集,296.

    堀繁,1995.沿岸域第8巻第1号, 8-31.

    鬼頭秀一 2016.E-journal GEO, 11, 329.

    森山雄太・青木久,2020.学芸地理76号,25.

    先山徹ほか,2012.地質学雑誌,118捕遺,1-20.

    砂村継夫,1975.地理学評論48-6,395-398.

    Sunamura. T., 1994.Transactions,Japanese Geomorphological Union.15.253-272.

    辻本英和,1985.地理学評論58,180-192.

    高橋健一,1975.地理学評論,48,43-62.

    植村善博,1981.古今書院,430–437.

  • 川村 教一, 澤口 隆, 佐野 恭平, 松原 典孝
    セッションID: T14-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    背景

    GigaPan架台は,モザイク合成のための写真撮影に特化したコンピュータ制御のカメラ雲台である。この架台を用いて自動撮影した多数の画像をモザイク合成することで,数十ギガバイトにも及ぶ1枚の画像(以下,GigaPan画像と称する)を作成できる(例えば,澤口,2022)。GigaPan画像はその解像度の高さを生かし,海外では地質工学分野での利用(Lee et al., 2019)のほか,地質学教育(例えばStimpson et al, 2010; Piatek et al., 2012)にも導入されている。

    経緯

    演者のうち澤口は,秋田県,男鹿半島・大潟ジオパークの安田ジオサイトの露頭のGigaPan画像を撮影した(川村・澤口,2021)。さらに,露頭の高解像度画像を自由に拡大・縮小して閲覧できるウェブサイトを開発した(澤口ほか,2021;澤口,2022)。野外活動の災害リスクに関する授業において,このウェブサイトを用いて大学生の露頭画像閲覧状況について授業前後で差異を見出すことができ,授業の評価に使用可能であることが明らかになった(澤口ほか,2021)。

    ねらい

    演者らは,ジオパークのジオサイトにある露頭の観察に利用できるのではないかと考えた。そこで今回は,山陰海岸ジオパークのジオサイトである,豊岡市日高町の後期更新世の神鍋火山,豊岡市竹野町の(通称)猫崎半島の中新統の堆積岩・火山岩体で2ケ所,計3カ所で露頭のGigaPan画像を撮影した。いずれも画像の拡大縮小を繰り返すことで,地質や構造について閲覧者自身が形成過程などについての考えを持てると推測される対象である。これらの画像は,学校教育,社会教育の教材として活用するために撮影した。

    撮影方法

    澤口(2022)を参照されたい。

    作例1:スコリア丘の断面

    神鍋火山の画像は,スコリア層の露頭を撮影したものである。GigaPan画像を利用者に閲覧させることで,粒径が異なる粒子で地層が構成されていることや,粒子の形状・内部構造の特徴を画像から見出させることを企図としている。画像閲覧を通じて,火山体(スコリア丘)が,噴火に伴うマグマの飛散により形成されたことを推測させることが可能ではないかと考えている。

    作例2・3:堆積岩と堆積構造や火山岩体との関係

    猫崎半島の露頭2カ所は,層理が明瞭な堆積岩中の荷重痕と推測される構造および堆積岩と火山岩の境界面である。前者(作例2)は上位の礫岩が下位の砂岩泥岩互層に下方に貫入した堆積構造を撮影したものであり,大規模な荷重痕の形成過程を推論する教材として好適である。後者(作例3)は堆積岩中に流紋岩の岩床が貫入,もしくは溶岩流が堆積岩を覆ったものである。層理や節理の有無を観察することで地質の境界面を見出せることができ,観察を通じて露頭から情報が得られることがわかる。

    展望と課題

    これらの画像は,山陰海岸ジオパークの観光用,教育用,保全計画用に活用することを想定している。GigaPan画像を閲覧することによる効果を明らかにすることが今後の課題である。

    文献

    川村教一・澤口 隆(2021):日本地球惑星科学連合2021年大会.

    Lee, H., Mostegel, C., Fraundorfer, F., Kieffer, D. S. (2019) : IAEG/AEG Annual Meeting Proceedings, San Francisco, California, 2018. Springer International Publishing AG, Vol. 6. p. 207-215.

    Piatek, J. L.et al. (2012): Developing virtual field experiences for undergraduates with high-resolution panoramas (GigaPans) at multiple scales. In Google Earth and Virtual Visualizations in Geoscience Education and Research, Geological Society of America Special Paper, 492, 305-313.

    澤口 隆(2022):東洋大学紀要 自然科学篇,66,15-32.

    澤口 隆ほか(2021):日本科学教育学会研究会研究報告,35(5),1-4.

    Stimpson, I., et al. (2010): Multi-scale Geological Outcrop Visualisation: Using Gigapan and Photosynth in Fieldwork-related Geology Teaching. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2010EGUGA..12.4702S/abstract

  • 藤原 勇樹, 山陰海岸ジオパーク 推進協議会
    セッションID: T14-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    山陰海岸ユネスコ世界ジオパークは,京都府(京丹後市),兵庫県(豊岡市,香美町,新温泉町),鳥取県(岩美町,鳥取市)の3府県(6市町)から構成され,「日本海の形成」をテーマにしたジオパークである.山陰海岸ジオパークエリア内には,日本海の形成に伴う大地の営みの歴史が,岩石や地層として残されており,沿岸部ではそれら地質的背景から形成された海浜や海食地形などを活用し,海水浴や遊覧船といった観光が盛んである.さらに,近年のコロナ禍においては,比較的個人客の多く,野外で密を避けられるシーカヤックやスタンドアップパドル(SUP),シュノーケリングといったアクティビティの人気が高まってきている(松原ほか,2021).またそれらに伴いアクティビティ事業者から、シーカヤック等の技術だけでなく、海岸地形(洞門や洞窟など)の形成メカニズムや、海中や岸壁に見られる動植物を解説したいなどのガイドのニーズも高まりつつある(金山・太田,2022).

    このような背景から山陰海岸ジオパークでは,推進協議会をはじめとする行政,地域の大学や博物館,アクティビティ事業者やガイドが連携し,「GEO✕アクティビティプロジェクト」と題した事業を展開している.この事業では,シーカヤック上からガイドするための素材や資料をまとめた“アクティビティガイドのためのテキスト”を作成し,アクティビティ事業者やガイドを対象とした座学と現地講習を実施している.アクティビティガイドの顧客を楽しませる視点と,地形・地質や生物などの専門家の学術的知識を掛け合わせることにより,アクティビティ体験を通して大地(ジオ)とその上に広がる動植物や自然(エコ),私たちの生活・文化・歴史を楽しみながら学ぶことにつながることが期待される.

    松原ほか(2021)コロナ禍のジオツーリズム~フィールドの強み:山陰海岸ジオパークの例~.JpGU2021 講演要旨.

    金山・太田(2022)鳥取県,浦富海岸のガイド資料集作成過程での科学的知識の共有.地形,43-1,41-54.

  • 高木 秀雄
    セッションID: T14-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    2015年のユネスコの正式事業化に伴い,ユネスコのガイドラインの設定に伴ったジオサイトの定義の変化への対応が求められてきた.ジオサイトの見直しは,筑波山地域ジオパークの緊急の課題となっている.そこで,筑波山地域ジオパーク推進協議会事務局による見直しとは別個に,昨年度に筑波山地域の旧ジオサイトを取材し,ジオサイトの整理と新たなジオサイトの提案も含めながら,Suzuki and Takagi (2018) に基づくジオサイトの評価を行った.この評価法は,6つの主項目(教育的価値Ved,科学的価値Vsc,観光価値Vtr,安全性とアクセスVsa,保全状況とサイトの持続可能性Vcs,情報の整備状況Vti)を3つづつの副項目に分けて,各々1点〜4点まで4段階評価した平均値を各主項目の点数として評価したものである.また各ジオサイトについての課題を検討しつつ,今後のジオツーリズムの活用につなげる基礎資料を作成し,2022年3月に事務局に提供した. 旧来の定義に従った広い面積を持つ「ジオサイト」は26箇所設定されており(筑波山地域ジオパークHP),それらを今回「エリア」と読み替えて新しい定義のジオサイトを設定した.ただし,これまで取材・評価できたのは地質や岩石が優先的にみられる14エリア,19ジオサイトである.なお,旧採石場跡については,事務局からの情報でジオサイトから外す方針であることから,取材対象から外した.結果をまとめると以下のようになる.

    (1)ジオサイト評価の総合点で24点満点中18点を超えるジオサイトは筑波山山頂エリアの3ジオサイトと筑波山南麓エリアの筑波山梅林ジオサイト, 崎浜・川尻のカキ礁ジオサイトだけであった.いずれも共通するのはジオサイトに案内板が存在し,観光価値が高いのが特長である.

    (2)15点〜18点のジオサイトは, 高峯山麓の花崗岩, 椎尾山薬王院, 閑居山の百態磨崖仏, 滝野不動堂の石灰岩である. 高峯山麓の道路沿いの花崗岩は新鮮であることから,案内板が必要.他の3ジオサイトは歴史や文化と関連性が深く,ジオの見どころがあるサイトである.

    (3)残りのジオサイトは15点未満となっている. それらが共通する点はVti(情報の整備状況)の評価が低いことであり,拠点には大きな案内板があっても,ジオサイトに案内板がないサイトが大部分であることから,ガイドなしで訪問するのが難しい.個別のジオサイトの案内板は大きくなくても良いので,早急に整備が必要である.そのほか,誘導版,パンフレット,webサイトなどの情報の充実が望まれる.

    (4)今回新たに設定した林道今泉吾国線沿いのジオサイトは,八溝帯の要素である付加体の重要な岩石の組み合わせ(石灰岩,チャート,砂岩泥岩)が道路沿いで見られるサイトであることから,変成作用は受けているものの今後の整備と活用が期待される.

    文献

    Suzuki, D. A. and Takagi, H., 2018, Geoheritage, 10, 123-135.

    筑波山地域ジオパーク・ホームページ(https://www.tsukuba-geopark.jp/sp/).(2022.6.29参照)

  • 小河原 孝彦, 香取 拓馬, 茨木 洋介, 郡山 鈴夏, 竹之内 耕, 小林 猛生
    セッションID: T14-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    新潟県糸魚川市にある糸魚川ユネスコ世界ジオパークでは,日本列島の大地を知る活動として地域学習や防災学習を推進してきた.学校や地域住民向けの出前講座では,変動する大地である日本列島の形成史とその大地がもたらした恵みや災害について知り,大地から受ける恩恵と災いは切離せないことを伝えている.

    糸魚川市では,学校教育として0歳から18歳までの子ども一貫教育を実施しており,その中にふるさと学習としてのジオパーク学習が体系的に盛込まれている.これは,0歳から8歳を地元ジオサイト体験期,9歳から10歳を地元ジオサイト探索期,11歳から12歳をジオパーク学習期,13歳から18歳をジオパーク研究期としており,保育園・幼稚園の周囲から関心を広げ,最終的にはジオパークを活用した地域づくりの実践や交流活動の推進を目標としている.

    現在までのジオパーク学習の到達点は,市内小学校・中学校に対して糸魚川市教育委員会事務局と連携しながら取組みを進めることで,全ての学校で多くの実践がなされている.その一方で,糸魚川市内の高校に対する取組みは遅れがちであった.2019年度に文部科学省の地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力化型)のアソシエイト校に糸魚川市内の高校が認定されたことは,糸魚川市と高校,ジオパーク協議会が一体となったジオパーク学習の推進に対して良い影響をもたらしている.糸魚川高校ではSDGsを始めとする地域課題の探究活動を実施している.糸魚川白嶺高校では,まちづくりと防災に関わる探究活動を推進し, 新潟県立海洋高校では,水産資源,製造・販売等の探究活動を実施している.特に糸魚川白嶺高校は,白嶺防災フォーラムなどを通じて室戸ユネスコ世界ジオパークの室戸高校ともジオパーク学習で連携し,2021年度に糸魚川フォッサマグナミュージアムと連携協定を締結するなど関係を深めている.

    2021年度,糸魚川ジオパーク協議会は,内閣府が主催する防災教育チャレンジプランの実践団体に採択され活動してきた.テーマは,「活火山の新潟焼山を知る!楽しむ!備える!プロジェクト ~ボトムアップの防災学習実践~」である.防災学習の対象である新潟焼山は,日本国内に50山ある気象庁の常時観測火山の一つである.今回の防災教育チャレンジプランでは,活火山である新潟焼山を知り,楽しみ,備えることを目標としている.今回は,糸魚川白嶺高校を舞台として,地域住民や大学研究者,他地域のジオパーク関係者,山岳団体など多くの関係者と関係を持ちながらボトムアップのジオパーク学習を実践したことから報告する.

    学校での焼山を知る・楽しむ・備える活動として,糸魚川白嶺高校での新潟焼山防災学習を実践するにあたり重要視したことは,一方的に教える従来の出前授業形式ではなく,双方向の学びの場とすることであった.初回は生徒を対象に新潟焼山の何を知りたいかワークショップ形式で意見出しを行い,主催者側の押しつけではない自発的な学びのきっかけを作る努力をした.次に,生徒の興味・関心を念頭に,高校での講義を実施した.ジオパークのネットワークを生かし,新潟焼山を研究している大学教員や類似した活火山を有した島原半島ジオパーク,洞爺湖有珠山ジオパークの専門員にも講師をお願いした.これは,高校のICT設備を活用し,Zoomを利用した講義で実現した.学習の成果は,2月に開催された「高校生国際交流会(高知県室戸高校主催)」で発表した(図1).

    このような,生徒の意見を聞きながらボトムアップの活動を推進することは大きな労力や時間を必要とする.しかし,レジリエンスの本質を考えた際に,行政や研究者からの押しつけで防災力は向上していくものではなく,地域住民の生活や人間関係から育まれ向上していくものであることから,今後とも学校と連携したボトムアップのジオパーク活動を推進していきたい.

  • 郡山 鈴夏, 茨木 洋介, 小河原 孝彦, 香取 拓馬, 小林 猛生, 竹之内 耕
    セッションID: T14-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    近年SDGsに関する取り組みを耳にする機会が増えてきた.SDGsとは2015年9月の国連サミットで採択された,国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である.17のゴールとそれらを達成するための169のターゲットで構成されており,国連加盟国が達成に向けて活動している.国内では2020年ごろから急速に普及し始め,現在の認知度は86%(2022年,電通による調査)に上り,前年度の同調査から30ポイント以上も上昇している.急速な認知度の向上は,企業の積極的なプロモーション活動およびゼロカーボン・レジ袋の有料化などの身近な政策により広く認知されるようになったものであると考えられる.

    このSDGsゴールのなかでもとくに「11住み続けられるまちづくりを」,「13気候変動に具体的な対策を」,「14海の豊かさを守ろう」,「15陸の豊かさも守ろう」は地球科学分野にも関連が深い.自然災害に関する知識や,地球温暖化や海水準変動等の科学的根拠のある正確な情報を知ることが求められている.2030年までにSDGsのこれらのゴール達成に向けては,正しい知識を持ったうえで課題解決に向けて行動していくことが必要不可欠である.

    本発表では,糸魚川ユネスコ世界ジオパークにおけるSDGs普及の実践事例を共有する.糸魚川ジオパークでは2020年にプロジェクトデザイン及びイマココラボが開発したゲーム『2030SDGs』ゲームを活用した講演会を開催し,市内外から約60名が参加した.現在も本カードゲームを活用して小学校に出前講座を行うことでSDGsの普及活動を実践している.

    糸魚川ジオパークでは,SDGsの取り組みが始まる以前より,地域の地質学的遺産を保全しながら活用し,持続可能な地域づくりの取り組みを行ってきており,今後も積極的なSDGsの実践活動を行っていく.また,新潟県糸魚川市のフォッサマグナミュージアムは公益財団法人日本環境協会ESD(Education for Sustainable Development)活動支援センターが指定するESD拠点としても2020年に登録されており,今後さらなるSDGsに関連した教育普及活動が求められる.地球科学分野の博物館として,今後どのようなSDGsへの貢献が必要かを議論していく.

  • 天野 一男
    セッションID: T14-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    ジオパークでは,地球・大地(ジオ)の上に広がる動植物の生態系の中で,人間の文化,産業,歴史を学び,地域の魅力を知るとともにそれを教育や観光に活用しようという目的をもって,活動が展開されている.その際,日本列島形成史に関する知識が基本となる.地質学を中心とした地球科学の学術研究の最新の結果を組み入れた知識の枠組みの中で,ジオパークのストーリーが学際的に展開されることが必要となろう.

     日本列島形成史は,7億年前から5億年前の大西洋型受動的大陸縁のステージ,5億年前から2000万年前の太平洋型活動的大陸縁のステージ,2000万年前以降の島弧のステージに分けられる(磯﨑ほか, 2011).活動的大陸縁ステージを特徴づけるものは付加体であり,島弧のステージを特徴づける事件は日本海の拡大である.日本列島形成史は,現在も精力的に進められている研究対象であるが,必ずしも定説はない.しかし,歴史の大部分が活動的大陸縁と島弧であったと言う大きな枠組みは今後も変わることはないものと考えられる.

     2022年1月現在,日本には9地域のユネスコ世界ジオパークを含む46地域のジオパークがある.それぞれのジオパークでは,地域のジオの特徴を生かしたストーリーが作られている.大部分は工夫された良いストーリーであるが,日本のジオパークが総体として世界に何をアピール出来るかという点では課題が残る.活動的大陸縁から島弧の形成という,日本列島の地球科学的特徴を前面に押し出したストーリーの構築が必要となろう.

     日本のジオパークの分布を地域別に調べてみると,東北,中部,九州,関東,北海道,近畿・中国地方は13〜18%で大きな差はない.四国は7%であるが,面積が狭いことを考慮すると,全国にジオパークはおおよそ均一に分布していると言える.日本列島形成史の様々の局面のストーリーを網羅することが可能と思われる.次にそれぞれのジオパークの主要テーマを1ジオパークにつき1つのキーワードを当てて分類して見ると,『第四紀火山』が最も多いが,『日本海の形成』と『グリーンタフ』を合わせたものがそれに続いている(図1).これは,島弧の形成に関するテーマを扱っているジオパークが多いことを示している.

     日本海拡大事件は,日本列島形成にとって重要であるが,現時点で必ずしも定説はない(柳井ほか, 2010; 天野・細井, 2021).本講演では,日本海の形成に関するストーリーが各地のジオパークでどう扱われているかを検証し,日本のジオパークのストーリーが今後一層国際性を持つための課題ついて考察したい.

    [文献]

     天野一男・細井 淳, 2021, 東北日本のグリーンタフ地域における日本海拡大期に関する研究史.地質雑, 127, 381-394.

     磯﨑行雄・丸山茂徳・中間隆晃・山本伸次・柳井修一, 2011, 活動的大陸縁の肥大と縮小の歴史-日本列島形成史アップデイト-. 地学雑誌, 120, 65-99.

     柳井修一・青木一勝・赤堀良光, 2010, 日本海の拡大と構造線:MTL, TTLそしてフォッサマグナ.地学雑誌, 119, 1079-1124.

  • 佃 栄吉
    セッションID: T14-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    奈良大仏造営の国家的事業には、当時最高の土木・建築技術、鉱山採掘・精錬技術が必要であり、渡来系を中心とする技術者集団が活躍した。701年大宝律令や718年の養老律令の制定、720年の日本書記の完成など天皇を中心とする中央集権体制が浸透し、全国から資源情報の収集体制が可能となっていた。741年には聖武天皇により諸国に仏教による国家護持のために国分寺の建立が発願され、国家仏教政策が勧められた。当時の政情不安や734年の畿内七道の地震、737年の天然痘大流行などの社会不安が大きく影響したものと考えられている。大仏制作を行った技術者としては大仏師として国中連公麻呂、鋳師として高市大国、高市真麻呂らの名が伝わっているが、この事業全体の総指揮を執ったのが、灌漑事業を主導し土木技術者集団の信頼の厚かった大僧正「行基」である。今回の発表では大仏建立に必要な金属資源に注目し、大仏本体を作る銅、そして鍍金に必要な金と水銀に関連して、日本のジオパークを繋ぐ話題提供を試みる。

     大仏は最初紫香楽宮で造られ始めたが、都を平城京にもどして、新たに大和国の国分寺としての東大寺が造営され、その本尊として大仏が建立された。銅はMine秋吉台ジオパークのジオサイトの一つ長登(ながのぼり)銅山から産出されたことがわかっており、このジオパークの主要地質体である秋吉石灰岩と白亜紀の花こう斑岩の接触交代作用により形成されたものである。長登は奈良に銅を出荷する「ならのぼり」が変化したものと伝えられていたが、昭和63年の東大寺大仏殿西回廊西隣の奈良県立橿原考古学研究所の発掘調査の際に大仏建立時の遺物が大量に発見され、木簡の解読やや青銅塊の化学分析結果により、奈良大仏の原料銅は長登銅山由来のものであることが確実となり、これまでの伝承が実証された。長登銅山の発掘調査によると8世紀初頭には採銅・精錬のための官衙(役所)があったことがわかっており、銅イオンを含む地下水の効果により保存状態のよい木簡が多数見つかっており、さらに多くの木簡が未発掘のまま残されている。

     「続日本紀」には708年に武蔵国秩父郡が和銅(にぎあかがね・自然銅)を献上し、これを喜んだ元明天皇が年号を「和銅」と改めたと記されている。和銅元年には和同開珎が発行され、初めて広く流通した最古の公鋳の日本の貨幣と知られている。 和銅遺跡(秩父ジオパーク)はこの和銅採掘露天掘り跡とされ、出牛-黒谷断層の破砕帯付近に位置している。なお、和同開珎は上記の長登鉱山産出の銅が多く使われたことが判っている。8世紀初頭には日本の各地域で鉱物資源開発が振興されていたことが推察される。

     大仏は745年に建設工事が開始され、鋳造は747年から始まり749年まで2年余りかけて終了している。天平勝宝4年(752年)4月に開眼供養会が行われたが、大仏は完成しておらず、鋳造の不具合を修正したり、補強したり、表面を平滑にする仕上げ作業は755年まで続けている。鍍金作業は開眼供養会の直前752年3月に開始され、757年に作業が完了したと「正倉院文書」に記されている。高さ16mの世界最大の金銅大仏・大仏殿建立という国家プロジェクトは完成までに12年の歳月を要している。熟銅は496㎏使われた。

     「続日本紀」によれば、749年に陸奥国守であった百済王敬福が陸奥国小田郡(宮城県遠田郡涌谷町)で採取した砂金九百両(約13kg)を聖武天皇に献上している。涌谷町にある国史跡黄金山産金遺跡で天平年間に建立された仏堂跡が見つかっている。国内で待望の砂金が発見されたことに聖武天皇は大いに慶び、年号を「天平」から「天平感宝」へと改元した。大伴家持は「すめきろの みよさかえんと あずまなる みちのくやまに くがねはなさく」(万葉集)と歌っている。後の奥州藤原氏の平泉文化を支えた北上山地南部地域の自然金は、肉眼でも確認できる粒の大きさが特徴とされている。ちなみに涌谷町の北東にある三陸ジオパークに属する宮城県気仙沼市北部の鹿折金山で1904年に重さ2.25㎏、含有率 83%の「モンスターゴールド」が発見され、同年開催の米国セントルイス万国博覧会に出品され、青銅メダルを受賞している。元の大きさの6分の1のものが地質標本館で展示されているが、これは故徳永重元氏が上記金塊を発見した父徳永重康(元早稲田大学理工学部教授、元地質学会会長)が残したものを寄贈したものである。

     鍍金は水銀アマルガム法により行われ、使用された錬金の量は146㎏、水銀は820㎏であると「東大寺要録」に記録されている。水銀は丹生族などの技術集団が水銀の採掘・精錬をしながら西南日本外帯の四国や和歌山などの山地を移動していたと考えられ、各地に丹生の地名や神社・遺跡を残している。

G1(口頭). ジェネラル-サブセッション1 構造地質
  • 矢部 優, 濱田 洋平, 北村 真奈美, 福地 里菜, 橋本 善孝
    セッションID: G1-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    堆積物の空隙率とP波速度の間の経験式はこれまで多くの提案がなされている.例えば,Erickson and Jarrard (1998)はグローバルなデータセットをコンパイルして,2種類の経験式(normal consolidationとhigh consolidationモデル)を提案した.特に西南日本の付加体に注目すると,さらに多くのモデルが提案されている.Hoffman & Tobin (2004)は室戸沖のデコルマ下盤の堆積物のデータを用いた経験式を提案した.Kitajima & Saffer (2012)は熊野沖のインプット堆積物の圧密実験の結果がHoffman & Tobin (2004)と調和的であることを示した.一方,Tudge and Tobin (2013)は,スメクタイト含有量の多いインプット堆積物はErickson and Jarrard (1998)やHoffman & Tobin (2004)の経験式よりも低速であることを提案した.また,Hashimoto et al. (2010)は熊野沖のIODP掘削サイトC0001のデータから,スロープ堆積物と付加体がそれぞれ異なる関係式に従うことを提案した.Kitajima et al. (2017) は,熊野沖のIODP掘削サイトC0002のデータから独自の経験式を得た.このように西南日本付加体における空隙率とP波速度の間の経験式は多くの提案がなされているが,これらの研究は対象とするローカルな地質構造内での関係に着目しており,俯瞰的な視点による経験式と地質体の関係は整理されていなかった.そこで本研究では,西南日本熊野沖におけるインプット堆積物から前弧海盆に至るまでの様々な地質環境のIODP掘削サイトのデータをコンパイルすることで,経験式と地質体の関係の俯瞰的な整理を試みた.

    コンパイルの結果,複数の空隙率とP波速度の間の経験式が確認され,スメクタイトの含有割合と沈み込みによる圧縮応力場を経験したかどうかが付加体堆積物の物性を決める大きな要因となっていることが明らかになった.

    (1)高スメクタイト含有地質体における超低P波速度スメクタイト含有量が40-60wt%に達するインプット堆積物(Middle Shikoku Basin・Lower Shikoku Basin)で見られる,最もP波速度の低い経験式.Tudge and Tobin (2013)が提案した経験式に対応する.

    (2)非圧縮場における低P波速度スメクタイト含有量の低いインプット堆積物(Upper Shikoku Basin)やトレンチ堆積物,スロープ堆積物など,沈み込みによる圧縮応力を経験していない地質体で見られる,P波速度の低い経験式.Erickson and Jarrard (1998)のnormal consolidationモデルに対応する.

    (3)圧縮場における高P波速度付加体に取り込まれ,圧縮場を現在もしくは過去に経験した堆積物に見られる,P波速度の速い経験式.Erickson and Jarrard (1998)のhigh consolidationモデルに対応する.

    空隙率とP波速度の間の経験式は,地震探査で得られたP波速度構造から付加体の物性を推定する際によく使用される.これまでのようにローカルなデータセットに基づいた経験式を使用する場合,広域の構造に対して経験式を適用することの妥当性が明らかではなかった.本研究が明らかにした俯瞰的な付加体物性と地質体の関係に基づいて,広域な付加体の構造に対して経験式を使い分けて物性の推定を行うことが可能となり,地震探査の速度構造から推定される付加体物性の正確性が向上すると期待される.

    【引用文献】

    Erickson, S. N., & Jarrard, R. D. (1998), JGR, doi:10.1029/98JB02128

    Hoffman, N. W., & Tobin, H. J. (2004), Proceedings of the Ocean Drilling Program, Scientific Results, 190/196, 1–23.

    Hashimoto, Y., Tobin, H. J., & Knuth, M. (2010), Geochem. Geophys. Geosyst., doi:10.1029/2010GC003217

    Kitajima, H., & Saffer, D. M. (2012), GRL, doi:10.1029/2012GL053793

    Kitajima, H., Saffer, D., Sone, H., Tobin, H., & Hirose, T. (2017). GRL, doi: 10.1002/ 2017GL075127

    Tudge, J., and H. J. Tobin (2013), Geochem. Geophys. Geosyst., doi:10.1002/2013GC004974.

  • 金川 久一, 中西 智哉, 藤森 純矢, 嵯峨野 紗弓, 澤井 みち代
    セッションID: G1-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    We conducted triaxial friction experiments on opal gouge at a confining pressure of 150 MPa, a pore water pressure of 50 MPa, temperatures (T) of 25–200°C, and axial displacement rates (Vaxial) changed stepwise among 0.1, 1 and 10 μm/s, in order to investigate its temperature-dependent frictional properties and their controlling factors. Because opal is known as a main component in chert on the Pacific plate subducting at the Japan Trench, its frictional properties would be applicable to those of chert subducting there.

    The results showed frictional strength increasing with increasing T, rate-weakening behavior at T ≧100°C, where frictional strength decreases or increases when Vaxial is increased or decreased, and stick slips at T ≧150°C. When fitted by the rate- and state-dependent friction constitutive law, steady-state friction coefficient μss increases with increasing T or decreasing Vaxial, while ab (rate dependence of μss implying stable (aseismic) faulting if positive, i.e., rate strengthening, and potentially unstable (seismic) faulting if negative, i.e., rate weakening) decreases with increasing T or decreasing Vaxial, and becomes ≈0 at 50°C and negative at T ≧100°C, being larger negative at higher T or lower Vaxial in the latter case.

    These results indicate that frictional properties of opal gouge are dependent on not only T but also Vaxial, suggesting that a thermally activated process is responsible for the observed frictional properties. Gouge layer at higher T contains a smaller fraction of submicron-size particles, which have likely been dissolved away at higher T. In addition, gouge layers at T ≧100°C do not show clear cataclastic microstructures, but are rather dense. These microstructures suggest the activation of thermally activated pressure solution during the experiments, which promoted gouge densification to increase frictional strength with increasing T or decreasing Vaxial, thereby decreasing ab to <0 at T ≧100°C. Our results also show that ab ≈ 0 at 50°C, suggesting that the transition from aseismic faulting to seismic faulting occurs at ≈50°C along the megathrust at the Japan Trench subduction zone if the megathrust is located in chert on the subducting Pacific plate.

  • 橋本 善孝, 川路 真子, 三谷 陣平, 内田 泰蔵
    セッションID: G1-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    ●はじめに

    過去の断層のすべり挙動を制約することは、地球物理学的に観測されている多様なすべり速度を持つ断層の物質科学的理解につながる。この制約が広くなされれば、異なるすべり速度の断層群の相互作用も明らかになるだろう。これはスロー地震と通常地震の相互作用の理解へ発展していく可能性がある。 本研究は1)断層からの距離に応じた被熱減衰パターンが断層摩擦発熱を起因とした時のすべり挙動の制約(例えばHamada et al., 2015)、2) 延性変形に敏感な帯磁率異方性(AMS)によるひずみ解析(Greve et al., 2020)、および3)段階熱消磁実験によるイベント温度の同定と磁気方位の変化から、すべり速度、ひずみ、変形機構といった観点で総合的に断層挙動を理解しようとするものである。

    ●地質概説

    対象は四国白亜系四万十帯横浪メランジュの北縁に位置する五色の浜断層である。断層帯の幅は2-3mで、破砕帯を伴う複数の断層からなる。一つの破砕帯の厚さは10-20cmで、石英質の砂岩ブロックを取り囲む泥質基質は流動的な組織を示す。石英は鏡下で波状消光し、場所によってバルジが見られる。母岩の輝炭反射率から最高被熱温度は約250˚Cである。また、1mm以下の厚さのシュードタキライトを伴うシャープな断層が破砕帯内部に見られ、過去の地震断層と認定される(Hashimoto et al., 2012)。

    ●摩擦発熱によるすべり挙動の制約

    再結晶粒子サイズ温度計から破砕帯内部地震断層から1.5cmまでの被熱温度はほぼ一定で約370˚Cであり、母岩より有意に高い。また破砕帯から母岩の輝炭反射率分布には距離に応じた減少傾向が弱く見られた。この両者の温度分布が摩擦発熱のためだとすると、約20cmの破砕帯がすべり時間103.4乗秒、発熱量が104.43J/m2/s程度であることが制約された。このすべり時間と発熱量は観測されるスロー地震のスケーリング則に調和的であり、破砕帯はスロー地震の化石であることが示唆される。すなわち、スロー地震と地震断層は同じ断層帯を利用していることが考えられる。

    ●ひずみ解析

    バルジの粒径から推定されるひずみ速度および変位速度はプレート運動よりも桁違いに遅く、泥質基質の流動が変位を賄っていることが示唆された。そこで延性変形に敏感なAMS解析からひずみの分布を検討した。その結果断層帯から十分遠い母岩のオブレートなひずみに断層帯内でのプロレートなひずみが重複して断層帯中心付近で平面ひずみとなる傾向が見られた。また断層帯内でプロレートなひずみの重複量が中程度まではひずみ軸の集中が見られるのに対し、重複量が大きいとひずみ軸がランダムな分布を示した。これは、プロレートのひずみの重複に伴って延性ひずみが脆性破壊へ変化したことを示唆している。

    ●段階熱消磁実験によるイベント温度の抽出

    断層岩および母岩メランジュサンプルに段階熱消磁実験を行ったところ、250-300˚Cで磁気方位が変化した。これは、特定の磁性鉱物が熱イベントを被った温度と言える。この温度は母岩の過去の最高被熱と下限で調和的であるが、上限は断層摩擦発熱とする熱イベントとも調和的であるとも言える。ただし、断層岩と母岩メランジュの両者ともに同様の熱イベントが認定されることから、断層摩擦発熱による局所的な温度上昇とは言えない。現在は予察的な結果であり、今後データの精査が必要である。本手法は熱イベント温度の追認の意味だけでなく、熱イベント前後での岩体の回転も検討できることから、将来、ひずみやひずみ速度の制約につながることを期待している。

    ●まとめ

    ・四国白亜系四万十帯北縁に位置する五色の浜の破砕帯中にはバルジの動的再結晶が観察された。このひずみ速度は著しく遅く泥岩基質の流動が変位を賄っていることが示唆された。

    ・温度減少パターンから破砕帯のすべり速度・すべり時間が制約され、スロー地震に相当する。

    ・AMSから剪断ひずみ帯が制約され、ひずみが中程度までは延性的な変形機構が、ひずみが大きくなると脆性的な変形機構が示唆された。

    ・磁性鉱物の段階消磁実験から他の温度情報と調和的な熱イベントが得られた。

    Hamada et al., 2015, Earth Planet and Space, 67:39: DOI 10.1186/s40623-015-0208-0/ Annika Greve et al., 2020, Earth and Planetary Science Letters, 542, https://doi.org/10.1016/j.epsl.2020.116322/Hashimoto, Y et al., 2012, Island arc, 2012, 53-56.

  • 中村 佳博, Sasidharan Kiran, Madhusoodhan Satish-Kumar
    セッションID: G1-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地質時代に形成された沈み込み帯境界面は,現在観測される深部プレート境界面での流体活動や力学特性を陸上で観察できる貴重な地質記録である.最近Nakamura et al. (2022)は,三波川変成帯と領家変成帯が地下30km付近ですでに接合し,中央構造線が古第三紀のプレート境界面として機能していたことを報告した.つまり中央構造線に記録される断層岩とそれに伴う断層脈の特性から,各深度におけるプレート境界面での流体活動を追跡できる可能性がある. そこで本研究では,中央構造線中軸部に広く分布する炭酸塩脈を対象に詳細な記載と地球化学的研究を実施した.長野県大鹿村地域には,オレンジカタクレーサイトと呼ばれる鉄酸化物と炭酸塩脈からなる強変質帯が広く分布する.炭酸塩脈はウルトラマイロナイト面を切断し,左横ずれを示すポーフィルロクラストのテイルを充填している.一方で右横ずれを示す断層ガウジ中には,クラスト単体として存在するか,斜長石を置換している.このような微細観察からウルトラマイロナイトが形成される時期から脈形成が開始し,断層ガウジが形成されるときにはすでに沈殿が終了したと示唆される.

     この炭酸塩脈を南北20kmから計28試料採取し炭素酸素同位体分析を新潟大学にて実施した.採取した炭酸塩脈のXRD分析では,ほとんどがカルサイトであり一部ドロマイト試料も含まれている.δ13CV-PDBは–3.64‰から–10.9‰まで変動しδ18OV-SMOMも+11.04‰から+23.5‰まで変動した.本研究地域の炭素酸素同位体値は弱い正の相関を有する.このような炭素酸素同位体値の線形関係は2種類のCOH流体の混合で説明できる(Zhang and Hoefs, 1993). そこで我々の炭素酸素同位体分布を説明できるfluid Aとfluid Bをモデル計算した.大規模なせん断帯中のマイロナイトは天水起源の流体が地下10km付近まで浸透していることが,石英の酸素同位体値から明らかになっている(Fricke et al. 1992). そこでfluid A (δ13C=–3.5‰, δ18O = 0 ‰)を天水と仮定し,流体混合モデルの計算を行った.すると炭酸塩脈の炭素酸素同位体値を説明できるfluid Bはδ13C =–15 ‰, δ18O = +3 ‰となり,大きなδ13C値の変動が混合モデルから推定された.この値は泥質片岩中有機物(–25‰)の寄与を強く示唆しており,フランシスカン変成帯や三波川変成帯中の泥質片岩中炭酸塩脈と近い炭素酸素同位体値を示す(Bebout, 1995; Morohashi et al. 2008). つまりプレート境界下盤側の三波川変成岩の脱水反応で形成されたCOH流体がfluid Bの起源である可能性が高い.そして地下深部で形成された変成流体と天水がせん断帯を浸透する間に混合し断層面に炭酸塩脈を沈殿させたと考えられる.大鹿村地域では現在でもスラブ流体起源とされる塩水が中央構造線沿いに湧出しており,この塩水との関連も含めて議論を行う.

    [引用] Bebout (1995), Chemical Geology; 126, 191–218. Fricke et al. (1992), CMP; 111,203–221. Morohashi et al. (2008), JMPS; 103, 361–364. Nakamura et al. (2022), JMG;40, 389–422. Zhang and Hoefs (1993), Mineral. Deposita; 28, 79–89.

  • 細川 貴弘, 橋本 善孝
    セッションID: G1-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    流体は断層挙動に重要な影響を与えている。沈み込みプレート境界地震発生帯の流体圧の変動には2つのモデルがある。一つはFault valve behaviorで、イベント発生時に流体圧力が低下するものである(Sibson, 1992)。もう一つは、摩擦熱により流体圧力が上昇するThermal pressurization (TP)である(e.g., Sibson, 1973)。この2つのモデルは時間スケールが異なるため、あるイベントにおいて共存する可能性がある。両者の流体圧変動を一つの断層帯から定量的に制約することはこれまでなされていない。そこで本研究では、牟岐メランジュに見られる伸長鉱物脈を伴う底付け断層帯を対象とし、断層帯から地震サイクルに伴う流体圧変動を定量的に制約することを目的とする。

    牟岐メランジュは、底付け付加体である。本研究で対象とした断層帯は、東北東方向に走向を持ち、南または北に急傾斜する。玄武岩を主体としており、底付け付加に関連していると考えられる(Ikesawa et al., 2005)。断層帯直上の陸原性堆積物からなるメランジュでは、メランジュ構造を切断する伸長鉱物脈がネットワーク状に発達している。この鉱物脈は断層帯近傍で観察されることから、底付け断層帯に関連した鉱物脈であると解釈される。また、ネットワーク状鉱物脈は互いに切断していることから、鉱物脈が複数のステージで繰り返し発達したことが示唆される。

    本研究では、鉱物脈に対して混合ビンガム分布法を適用し、古応力と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji and Sato, 2011, Yamaji, 2016)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧(ΔPo)を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。P*を推定するためにDriving pressure index (DPI)を用いた。DPIは、鉱物脈形成時の正規化した法線応力の確立分布を示す関数の95パーセンタイル点を近似することで、P*の代表値とするものである(Faye et al., 2018)。 その結果、3つの応力(応力1,2,3)とそれに対応するP*を得ることができた。鉱脈形成時の応力場を復元するために、断層帯の面構造を水平に回転させた。回転後の応力1は、正断層応力場 (P*= 0.30) 、応力2は、アンダーソン的ではない応力場 (P*= 0.15) 、応力3は、逆断層応力場 (P*= 0.24) を示している。逆断層と正断層応力場が記録されており、露頭の観察から鉱物脈が複数の応力ステージの繰り返しを示すことから、この鉱物脈は、地震サイクル間での応力変化を記録している可能性がある。P*とMatsumura et al. (2003)による流体包有物からの流体圧の最大値と最小値を用いて、引張強度 (Ts) と深度をそれぞれ約6.94-9.38MPa と約5.14-5.33 kmと制約した。岩石破壊理論(Secor, 1965)より、深度とTsから鉱脈形成時の最小流体圧(Pfmin)を計算できる。P*が0より大きい場合、ΔPoも0より大きく、このΔPoとPfminの和は、鉱物脈形成時の最大流体圧(Pfmax)を示す。推定したP*とTsを用いて最大のΔPoは逆断層応力場で約6.7-9.0MPa、正断層応力場で約8.3-11.3MPaと制約した。 逆断層応力場で推定されたΔPoは静岩圧を超える流体圧上昇を示し、TPなどの動的な流体圧上昇である可能性がある。また、正断層応力場での鉱物脈形成時の流体圧は、逆断層応力場で形成される鉱物脈より小さくなることが示され、地震後の流体圧減少を示している可能性がある。そのため、流体包有物から推定される流体圧の幅は、Fault valve behaviorで想定される流体圧の最小減少量の最大見積りを示している。

    本研究で制約された流体圧変動は、伸長鉱物脈形成領域下のものである。地震サイクル間での流体圧変動を捉えるためには、剪断モード領域において流体圧変動を制約する必要があるため、今後検討を行っていく。

    引用文献 Sibson, 1992, Tectonophysics; Sibson, 1973, Nature Physical Science; Ikesawa et al., 2005, Tectonophysics; Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology; Yamaji, 2016, Island Arc; Otsubo et al., 2020, Scientific reports; Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology; Matsumura et al., 2003, Geology; Secor, 1965, American Journal of Science

  • 内田 泰蔵, 橋本 善孝
    セッションID: G1-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:断層は多様なすべり速度を持つ。地質学的にはシュードタキライトを伴う高速すべりを示す断層や、圧力溶解劈開や動的再結晶などの低速な塑性変形を示す断層が観察される。一方、地球物理学的には高速な巨大地震と低速なスロー地震が観測されている。地質学的に断層すべり挙動を制約することが可能になれば、地球物理学的観測を物質科学的に理解することにつながる。Hamada et al. (2015)は、紀伊半島沖のIODP掘削試料を用いたビトリナイト反射率の測定をもとに、断層帯からの距離に応じた熱拡散パターンを見出し、断層のすべり挙動を制約した。このように、熱イベントの痕跡はすべり挙動の制約に利用できる。古地磁気学的手法で熱イベントを認定することは可能であるが、地震断層に適用された例は少ない。そこで本研究では、古地磁気学的手法を用いて地震断層の熱イベントを認定することを目的とする。また、古地磁気学的手法では古地磁気方位を得ることができるため、熱イベント前後での地質帯の変動を得られるという他にない利点がある。

    ●地質概説:本研究では、白亜系四万十帯・横浪メランジュ・五色ノ浜断層を対象とする。横浪メランジュは主に泥質な基質部と砂岩のブロックで構成されている。五色ノ浜断層の断層帯の厚さは約2mで、断層帯には厚さ数~数十cmのカタクレーサイトが発達しており、長径約2mの砂岩ブロックを取り囲んでいる部分もある。メランジュの約50 m北方には整然層の須崎層群の地層が分布している。母岩の最高被熱温度はビトリナイト反射率から約250 ℃と報告されている(Sakaguchi, 1999)。これまでに、五色ノ浜断層の破砕帯中の石英の塑性変形に注目した研究で、母岩に対して優位に高い温度を記録していることが報告されている(川路・橋本, 2021)。

    ●手法:残留磁化を記録する強磁性鉱物は、地震発生時の断層の摩擦発熱によって熱残留磁化(TRM)を獲得する可能性がある。TRM獲得時の断層帯の被熱温度は、強磁性鉱物のブロッキング温度に反映されると考えられる。このことから、断層からの距離に応じてブロッキング温度の変化(熱拡散パターン)が見られる可能性がある。この熱拡散パターンをもとに、摩擦発熱時間を制約し、すべり挙動の推定を目指す。 試料には、断層帯から南北約20 mの範囲で、メランジュの砂岩ブロックおよび泥質な基質部から断層帯からの距離に応じてブロックサンプリングしたものを、古地磁気測定用の円柱状の1インチ試料にして使用した。試料のアンブロッキング温度を知るために段階熱消磁実験を行った。

    ●結果:全ての試料で250 ℃~400 ℃付近でアンブロックされる磁化成分が確認された。全ての試料は500 ℃付近の消磁中に酸化してしまったため、自然残留磁化(NRM)の約10~50 %までしか落としきることができなかった。

    ●議論:250 ℃のアンブロッキング温度は、母岩の最高被熱温度とほぼ一致している。しかし、250 ℃以上でアンブロックされる磁化成分は、仮にこの磁化成分がTRMだった場合、この地域のビトリナイト反射率の測定から推定された最高被熱温度と整合的でないことが示唆された。さらに、今回の結果は断層帯を中心に20 mほどの範囲で行っており、断層帯に局所化したイベントとはいえない。そのため、北部の整然層も含めたこの地域の古地磁気方位を詳細に調べる必要がある。また、ブロッキング温度は断層帯からの距離に応じて変化が見られなかったため、メートルスケールでは熱拡散パターンを確認できないことが示された。そのため、今後は断層帯周辺のより狭い範囲でサンプリングする必要がある。

    引用文献 Hamada.Y, Sakaguchi.A, Tanikawa.W, Yamaguchi.A, Kameda.j, and Kimura.G, 2015, Earth, Planets and Space, 67(1), 1-12. 川路真子, 橋本善孝, 2021, 日本地質学会学術大会講演要旨第128学術大会 (2021 名古屋オンライン), 一般社団法人 日本地質学会, 2021, 187 Sakuguchi.A, 1999, Earth and Planetary Science Letters, 173(1-2), 61-74.

  • 吉本 剛瑠, 鈴木 雄大, 張 鋒, 千代延 俊, 大森 康智, 山本 由弦
    セッションID: G1-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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  • 亀高 正男, 下釜 耕太, 岩崎 将明, 酒井 亨, 岡崎 和彦, 中田 英二, 相山 光太郎, 林崎 涼, 飯田 高弘
    セッションID: G1-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    下条山麓断層は長野県南部に位置し,北東-南西方向に広がる伊那谷と南西側の山地の境界をなし,北西-南東方向に延びる活断層である.有井(1958)は下條村親田の牛ヶ爪川沿いの2ヶ所で,段丘礫層を切って花崗岩が衝上する露頭を見出し新田断層と名付けたが,露頭の詳細については記載していない.仁科ほか(1985)は,この断層を長さ10 kmの下条山麓断層としている.岡田ほか(2003)及び鈴木ほか(2010)は,下条山麓断層に相当する並走した2条の「推定活断層(地表)(位置やや不明確)」を図示している.調査地域の北部では,津久井・小林(2019a,b)によって断層の構造解析が行われている.今回の調査では下條地域の地形判読を行い,地表踏査によって下条山麓断層の断層露頭を数カ所で確認したので,それらの概要を報告する.

    【牛ヶ爪川露頭】

     入登山神社北方の牛ヶ爪川左岸に活断層露頭が露出しており,有井(1958)が記載した露頭とみられる.花崗岩とそれを覆う礫層が断層に切られており,これらを含礫シルト層及び含礫腐植質シルト層が覆っている.花崗岩中の断層は幅5〜30 cm程度の断層ガウジを伴い,上盤及び下盤は主に花崗岩質の断層角礫からなる.断層面の走向はN20〜32°W,傾斜は32〜70°Wで露頭上方へ向かって低角化し,レイク60°北落ちの不明瞭な条線が認められる.断層は礫層基底を鉛直方向に1.5 m程度,逆断層センスに変位させている.この礫層は周辺に分布する中位段丘面を開析して堆積したとみられるため,より新しい時代の礫層と考えられる.断層を覆う含礫腐植質シルト層からは,813±19 cal.yr.BCなどの14C年代が得られた.

    【牛ヶ爪川支流露頭】

     牛ヶ爪川露頭の北西約100 mの沢沿いの両岸に断層が露出している.露頭では鮮新—更新統伊那層群と考えられる礫層に,花崗岩の破砕帯が大規模に衝上している.断層は2条認められ,それぞれ幅約5 cmの断層ガウジを伴う.上盤側の花崗岩は破砕され風化が著しく,右岸側では大規模な崩壊地を形成している.下盤側は褐色のクサリ礫主体の巨礫礫層からなる.この露頭では,断層と新期の地層との関係は観察できていない.

    【鶯巣川支流露頭 】

     鶯巣川支流の極楽沢右岸に活断層露頭が露出している.花崗岩の破砕帯及び上載する礫層を断層が切断している.花崗岩中の断層は幅2〜4 cm程度の断層ガウジを伴い,上盤及び下盤は主に花崗岩質の断層角礫からなる.断層面の走向はN38〜40°W,傾斜は25°SW,レイク60°北落ちの条線が認められる.礫層基底を鉛直方向に0.5 m程度,逆断層センスに変位させている.この礫層は周辺に分布する低位段丘を開析して沢沿いに亜段を形成していることから,さらに新しい時代の礫層と考えられる.

    【増の沢露頭】

     阿智村中野の大沢川支流増の沢の右岸に断層露頭がみられる(田中・小泉,2012).この露頭では,中新統中野層の砂岩に破砕された花崗岩が衝上している.断層はNW-SE走向でSWに傾斜する逆断層である.露頭の位置や姿勢から,下条山麓断層の北西延長部にあたると考えられる.この露頭では,断層と新期の地層との関係は観察できていない.

    【下条山麓断層の活動性】

     下条山麓断層は伊那谷の地形を規制し,鮮新—更新統の伊那層群を大規模に切ることなどから,過去には活発に活動していたことが示唆される.ところが,下条山麓断層の変動地形は非常に不明瞭であり,地形判読からは最近の活動性は高くないと推定される.一方で,鶯巣川支流露頭では新期の礫層を切断しており,ごく新しい活動もあったと考えられる.今後,下条山麓断層の第四紀における活動履歴を明らかにする予定である.

    【謝辞】

     本研究は,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究」及び「上載地層を必要としない断層活動性評価手法の開発に関する研究」の成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.

    【引用文献】

    有井琢磨,1958,地理学評論,vol.31,no.6,p.14-30.

    仁科良夫ほか,1985,信州大学理学部紀要,no.20,p.171-198.

    岡田篤正ほか,2003,1:25,000都市圏活断層図「時又」,国土地理院.

    鈴木康弘ほか,2010,1:25,000 都市圏活断層図「妻籠」,国土地理院.

    田中 良・小泉明裕,2012,伊那谷自然史論集,vol.13,p.19-24.

    津久井脩平・小林健太,2019a,日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS15-P09.

    津久井脩平・小林健太,2019b,日本地質学会第126年学術大会講演要旨,R15-P-13.

  • 水野 瞳, 山口 飛鳥, 井尻 暁, 佐野 貴司
    セッションID: G1-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沈み込み帯における水の挙動は地震発生に関係していると考えられている。珪質軟泥は、海洋底の年齢が古く海溝の水深が炭酸塩保証深度を超える冷たい沈み込み帯に供給される主要な構成物であり、その脱水がプレート境界断層の発達に関与している可能性がある(Kameda et al., 2012; Kimura te al., 2012)。本研究では日本海溝のような冷たい沈み込み帯における流体の挙動を理解するために、美濃帯犬山セクションをその陸上アナログとして研究した。犬山セクションは分厚い層状チャートが60 m.y.以上の期間にわたって堆積しており、古い海洋プレートの沈み込みで形成されたことを示唆している(Matsuda and Isozaki, 1991)。犬山セクションでは、赤色チャートの層の中に2-10 mおきに白色チャートの層がみられ、これは流体の通り道であったと考えられている(Kameda et al., 2012)。白色チャートを形成するために必要な流体の量は単位質量あたりの珪質軟泥から脱水する水の量よりも明らかに多く (Yamaguchi et al. 2016)、外部からの移流があると考えられる。本研究では冷たい沈み込み帯に供給される流体の起源を制約するため、チャートの露頭や研磨片、薄片の観察を行うとともにチャートの中の様々な沈殿タイミングの石英に対し酸素同位体比と微量元素の分析を行った。チャート中の石英の形態は赤色チャート、白色チャート、石英脈の3つに大別され、また先に述べた順番に沈殿している (Kameda et al., 2012)。本研究では赤色チャート、白色チャート、石英脈中の石英についてそれぞれの酸素同位体比及び微量元素の値を測定し、石英を沈殿させた流体の起源を議論する。 酸素同位体比について、赤色チャート7試料、白色チャート4試料、石英脈3試料の測定をActivation Laboratories Ltd.に依頼した。その結果、赤色チャートはδ18O=-3.70~10.00‰、白色チャートはδ18O=-1.00~14.00‰、石英脈はδ18O=0.55~13.00‰となった。一方、白色チャート3試料について高知コアセンターの酸素同位体分析ライン(Ijiri et al., 2014)で分析したところδ18O=26.6~25.5‰となった。Kameda et al. 2012の計算によると、日本海溝における石英の沈殿は70℃前後で開始し100~130℃で終了する。同位体平衡の元、70℃及び130℃で石英が沈殿したと仮定すると、流体のδ18OはActivation Laboratories Ltd.で測定された値を採用すると-29.56~-11.86‰ (70℃) 、-21.14~-3.44‰ (130℃) 、高知コアセンターで測定された値を採用すると-0.4~0.7‰ (70℃) 、8.1~9.2‰ (130℃) となる。Activation Laboratories Ltd.のデータから計算された流体のδ18O値は天水、高知コアセンターで測定したデータから計算された流体のδ18O値は海洋地殻やマントルウェッジ由来の、深部からの水が起源であると考えられる。このため、差異が生じた理由を検討し、流体の起源を制約するために微量元素の分析を行う予定である。

    引用文献

    Ijiri et al., 2014. Journal of Quaternary Science, 29, 455-462.

    Kameda et al., 2012. Earth Planet. Sci. Lett., 317–318, 136–144.

    Kimura et al., 2012. Earth Planet. Sci. Lett., 339–340, 32–45.

    Matsuda, T., Isozaki, Y., 1991. Tectonics, 10, 475–499.

    Yamaguchi et al., 2016. Tectonophysics, 686, 146–157.

  • 岡崎 啓史
    セッションID: G1-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    プレートテクトニクスのダイナミクスはかんらん岩中のカンラン石の変形特性により支配されていると考えられている。カンラン石の結晶塑性変形の構成則である流動則は、様々な条件により決定されている。その一方で、多くの巨大地震が発生する地震発生域の下限域のような、岩石の破壊・摩擦と結晶塑性変形が混在する領域の変形特性についてはよくわかっていない。本発表では日本海溝周辺の深部アウターライズ地震発生域に相当する温度圧力条件(温度400–800degC, 圧力500–1000MPa)でのカンラン石多結晶体の変形実験の結果について報告する。すべての変形実験において破壊音とAEを伴う不安定断層すべりが観測された。しかし、本実験で得られたカンラン石多結晶体の摩擦係数はおよそ0.4と一般的な低圧室温下での岩石の摩擦係数(0.6–0.85: Byerlee則)よりも低かった。力学データと変形回収試料の組織との比較から変形は、若干の結晶塑性変形の存在も示唆されるものの主にY(B)面に繋がるR1せん断面に集中していた。このような“弱いけど不安定”な変形挙動がアウターライズ地震が発生するような海洋リソスフェアの変形を担っている可能性がある。

  • 高下 裕章, 芦 寿一郎, 朴 進午, 宮川 歩夢, 矢部 優
    セッションID: G1-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    クリティカルテイパーモデル(CTM)は,プレート収束域において海溝に向かって先細る楔(ウェッジ)形を示すfold-and-thrust beltや付加体の,断面形状と断層強度の関係を理解するために考案された手法であり,ウェッジ形状を示す斜面傾斜角αとデコルマ傾斜角βからプレート境界断層の摩擦係数(μb’)を計算することができる.

    ただし,地形パラメータでもデコルマ傾斜角βを求める際に問題が存在していた.βは基本的に反射法地震探査断面から推定されるため,断面の深度処理の精度に大きく影響を受ける.そのため断面ごとにμb’を比較する目的の場合,深度変換の精度が高い断面が必要となるため,結果としてCTMを適用できる断面の数が限られてしまう.

    本研究ではこの状況を改善するために,CTMの力学的意味を再検討した.その結果,CTMに対するデコルマ傾斜角βの影響は小さく,特に①間隙水圧比が大きい場合と②内部摩擦が小さい場合,あるいはその両方の条件を満たす場合,斜面傾斜角αがμb’のプロキシとなりうることを発見した.更に,本研究で新たに導入したパラメータWOA(Weight of Alpha)によりαとμb’の近似の妥当性を検証できるようにした.検証の結果、多くの沈み込み帯でこの近似のための条件が満たされていることも明らかにした.

    改めてこの近似を日本海溝に適用し,既存の水深測量データ71点のαを求め,浅部プレート境界断層の摩擦係数分布を推定した.その結果,摩擦係数が最頻値より小さい領域は2011年東北沖地震(Mw9.0)で大きな浅部破壊が発生した区間に相当することがわかった.

  • 中田 英二, 平田 康人, 林崎 涼
    セッションID: G1-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1、はじめに

    風化作用にともなう岩石の体積変化の有無はよくわかっていない。 White(2002)は岩盤のサプロライト化において浅部の土壌化した部分を除き体積はほとんど変化しないと考えている。一方、Noe et al.(2007)らは吸水膨張によってベントナイト層が体積膨張し、建物が傾斜した例を示している。大山ほか(1998)は石膏の結晶成長により建物が傾斜した例を示しており、中田ほか(2012)は硫酸塩鉱物の晶出により坑道坑壁が剥離する可能性を指摘した。 風化作用によって形成された粘土鉱物による吸水膨張を考える場合、膨張性粘土鉱物が風化作用によって大量に形成される必要がある。一般的に日本のような湿潤で地下水位が高い地域では岩石の体積を変化させるほどの大量の膨張性粘土鉱物は形成されない。加えて大気中のCO2を取り込んだ雨水によって風化帯内の膨潤性粘土鉱物は溶解、消失する。すなわち風化作用では蒸発などで間隙水中の鉱物の飽和度が上昇し、結晶が成長する場合を除き、体積の増加は起きないと推測できる。 現在、山口県下関市では長門市街-豊田町を結ぶ縦貫道が建設されており、赤色強風化した法面が多く開削されている。今回、一つの法面において上に凸の撓みと撓みを切る正断層群を確認した。地層の短縮と引張を説明するためにいくつかのモデルを紹介する。

    2、地質

    調査地は豊田町西市付近にある。本地域では長門構造線から西に向かって白亜紀前期に堆積した関門層群が分布している。関門層群は下位から礫主体で砂、泥層の互層状に挟む脇野亜層群、上位に安山岩溶岩、火砕岩からなる下関亜層群からなる。下関亜層群の下部は礫層、赤紫泥岩層、砂層の互層からなり、安山岩質火砕岩へと移り変わっている。堆積環境は東から西に向かって海から浅海、陸へと移り変わっている。 今回調査した法面は下関亜層群の下部で赤紫泥岩層と礫層の互層が認められる。地層の走向はN20E、傾斜は20度で西に緩く傾斜している。法面は約45°の勾配で概ね地層の走向と並行に開削されている。

    3、露頭状況

    図1に法面状況を示す。法面の高さは11 mである。法面下部には礫層が水平に認められる。法面中部では赤紫泥岩層と砂層の互層が認められ、上部では再び赤紫泥層が優勢となる。中部の互層はマウンド状に50 ㎝程度盛り上がっている。その上部には南に落ちる正断層群が認められる。この断層は法面下部の礫岩層まで達していない。法面では赤紫泥岩層中に幅15cmの砂岩の貫入岩が認められ、厚さ5cmの凝灰岩層で南に30cm水平にずらされている。

    4、考察

    法面中部で地層の南北圧縮、その上に南北伸張の断層が認められた。この状況から本法面での地質状況を説明する6つのモデルを考えた。①強風化に伴う岩盤の体積膨張による上に凸状のマウンドの形成とその膨張により正断層群が生成。②地震に伴う受動的な地すべりにより正断層群が生成。③層面すべりによる圧縮とすべり慣性により正断層群が生成。⑤法面手前方向への地すべり。⑥法面中部と上部とで異なる時期で変状が発生。現状でこの地質状況を明確に説明する解は見つかっていない。

    引用文献

    中田ほか(2012)トンネル坑壁表面で認められる高溶解度結晶(硫酸ナトリウム)について. 平成24年度研究発表会講演論文集, 205-206. Noe et al. (2007) Steeply Dipping Heaving Bedrock, Colorado: Part 1—Heave Features and Physical Geological Framework. Environmental and Engineering Geoscience 13, 89-308. 大山ほか(1998)泥岩の化学的風化による住宅基礎の盤ぶくれ.応用地質, 39, 261-272. White (2002) Determining mineral weathering rates based on solid and solute weathering gradients and velocities: application to biotite weathering in saprolites. Chemical Geology 190, 69-89.

  • 竹山 翔悟, 高木 秀雄
    セッションID: G1-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    伊豆弧衝突帯はフィリピン海プレートが本州側のプレートに対して西北西に年間約4 cmの相対速度で収束しており,衝突は現在も継続している (小田原ほか, 2011).伊豆弧の衝突テクトニクスを明らかにするためには,衝突帯における地質構造に残された変形機構から推定される古応力方向の情報は重要な手がかりになる.

    本研究はプレート境界断層の一つである神縄断層の南側に位置する更新統足柄層群中の岩脈群に着目した.σ3軸に直交して発達する岩脈は古応力方向の推定に役立ち,足柄層群中の岩脈を対象に古応力方向ついて議論した例には天野ほか (1986) などがある.これらの研究では従来の岩脈法を用いて岩脈群の極からσHmaxを推定するに留まっていたが,昨今の岩脈法の発展に伴い3つの主応力軸方向や応力比を推定できる手法が開発された.そこで本研究では足柄層群中の岩脈群の方位データに新岩脈法を適用し,従来明らかになっていなかった3つの主応力軸と応力比も含めた古応力方向の復元を行った.

    手法

    本研究では地質調査で得られた40枚の岩脈方位データに対してYamaji and Sato (2011), Yamaji (2016) の手法を用いて応力解析を試みた.この手法ではあてはめるクラスター数ごとにBICを評価し,最小の値を示したクラスター数を最適解として検出する.なお足柄層群は北北西に約32°沈下する褶曲軸を持つ背斜構造が認められるが,本研究地域はその背斜構造の西翼部にあたる.ただし岩脈の貫入と背斜構造形成の前後関係が明らかになっていないことから,(1) 褶曲形成後に貫入した場合 (つまり現姿勢での解析) と (2) 貫入後に褶曲した場合 (褶曲で受けた傾動を補正したデータでの解析) の両方を想定した.

    結果

    (1) と (2) の場合共にBICはクラスターが1つのときに最小になったので,データ群を1つにまとめた際の結果を述べる.(1) ではほぼ鉛直のσ1軸と,SE-NW方向のσ2軸,NE-SW方向のσ3軸が検出され,応力比 Φ= (σ2-σ3)/(σ1-σ3) は0.37を示した.(2) ではSW-NE方向のσ1軸,SE-NW方向のσ2軸,N-S方向のσ3軸が検出され,応力比は0.31を示した.また天野ほか (1986) は角閃安山岩脈について畑火道角礫岩体を中心とする放射状の分布を認めているが,今回の調査では明瞭な放射状の分布は確認されなかった.

    議論

    先行研究の天野ほか (1986) ではNE-SW方向のσ3の検出から直交するN52°WのσHmaxを想定しており,小断層の解析結果との整合性から岩脈の貫入は褶曲形成後に起きたと見積もっている.これは (1) の結果と調和的で,先のσHmaxは本研究結果のσ2軸に対応し,最大主応力軸σ1軸は鉛直方向であったことが明らかになった.鉛直方向のσ1軸についてはプレートの収束境界である伊豆弧衝突帯の中でどのようなテクトニクスを反映しているかについて検討が必要である.

    また北垣・高木 (2019) は神縄断層および周辺の小断層スリップデータを対象に応力逆解析を行い,NW-SE方向のσ1軸を報告している.この結果は本研究結果と一致しないことから,神縄断層が示す古応力と岩脈群が示す古応力は異なるステージの応力場を反映していると考えられる.足柄層群の褶曲の形成と岩脈の貫入の前後関係も含めて,より詳細に伊豆弧衝突帯のテクトニクスの変遷について議論する.

    文献

    天野一男・高橋治之・立川孝志・横山健治・横田千秋・菊池 純,1986.北村信教授退官記念:地質学論文集,7-29.

    北垣直貴・高木秀雄,2019.第126回地質学会学術大会講演要旨.

    小田原 啓・林 広樹・井崎雄介・染野 誠・伊藤谷生,2011.地質雑,117,135-152.

    Yamaji, A., 2016. Island Arc, 25, 72-83.

    Yamaji, A. and Sato, K.,2011.J. Struct. Geol33,1148-1157.

  • 酒井 亨, 亀高 正男, 青木 和弘, 島田 耕史, 高木 秀雄
    セッションID: G1-O-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    断層破砕帯に形成される断層岩類には,内部に複合面構造などの微細構造が発達することが知られており,それらを詳細に観察することで構造形成時の運動方向を推定することが可能である(例えば,Rutter et al.,1986;高木・小林,1996).一方,過去の断層活動時の応力場の復元には,断層スリップデータを用いた多重逆解法(Yamaji,2000)が広く用いられているが,この手法は基本的には広域に分布する小断層を対象としており,単一の断層破砕帯中軸部に適用された事例は少ない.本研究では,2011年福島県浜通りの地震で活動した塩ノ平断層と,その南方延長部に位置するが活動しなかった車断層を対象に,断層岩の複合面構造解析を実施した.露頭観察,研磨片および薄片による構造観察に加え,破砕帯中軸部で断層スリップデータを密に計測し,多重逆解法による応力逆解析を試みた.観察・解析の概要と結果,考察を下記に記す.

    【構造観察】

     塩ノ平断層の塩ノ平地点および別当地点の断層露頭を詳細に記載した.また,各露頭から採取したブロック試料,塩ノ平断層塩ノ平地区のSSH-1孔,別当地区のSBT-1孔,車断層水上北地区のKMK-2孔のボーリングコア試料から,最新活動面に直交する鉛直断面で研磨片および薄片を作製し,上下方向の運動成分を推定した.その結果,両断層とも破砕帯の外側から最新活動面にかけて,やや固結して粗粒な断層角礫から未固結で細粒な断層ガウジが分布し,正断層成分,逆断層成分,正断層成分の順に変形組織が確認された.断層破砕帯の幅は隆起に伴い薄化するとされ(例えば,Scholz,2002),破砕帯の外側から中軸部にかけて,古い組織から新しい組織が形成されることが示唆される.したがって,塩ノ平断層および車断層の最新活動面付近の運動として,正断層成分,逆断層成分,正断層成分の順に変遷が生じていると考えられる.他方,塩ノ平地区では上盤の古第三系~新第三系には逆断層成分の組織のみ確認され,別当地区では逆断層成分の組織を切る方解石脈が認められた.

    【応力逆解析】

     最新活動面を含む破砕帯中軸部を重点的に観察し,塩ノ平断層塩ノ平地区SFS-2孔の深度16.00~19.00 mから42データ,車断層水上北地区MFS-1孔の深度20.00~24.00 mから55データの断層スリップデータを取得した.これらの断層スリップデータをもとに多重逆解法を用いて応力逆解析を実施したところ,塩ノ平断層および車断層でそれぞれ4つの応力状態が検出された.各応力状態において低ミスフィット角(≦30°)を示す剪断面は,ある深度区間に集中する傾向がみられた.破砕帯の薄化現象によって,外側から最新活動面にかけて新しい組織が形成されていると仮定し,ステージ分けを行った.その結果,塩ノ平断層で6ステージが推定され,Stage S-Ⅰの正断層,Stage S-Ⅱの逆断層,Stage S-Ⅲの正断層,古第三系~新第三系堆積後にStage S-Ⅳの逆断層,Stage S-Ⅴの逆断層成分を伴う右横ずれ断層,方解石晶出後に浜通りの地震を含むStage S-Ⅵの正断層の順に活動が生じたと考えられる.車断層では4ステージが推定され,古第三系堆積後にStage K-Ⅰの逆断層,Stage K-Ⅱの右横ずれ成分を伴う正断層,Stage K-Ⅲの左横ずれ成分を伴う逆断層,Stage K-Ⅳの右横ずれ成分を伴う正断層の順に履歴が復元された.構造観察で判読した鉛直成分は,塩ノ平断層はStage S-Ⅲ~Stage S-Ⅵ,車断層はStage K-Ⅱ~Stage K-Ⅳに該当すると考えられ,矛盾しない.以上より,塩ノ平断層と車断層の破砕帯中軸部の複合面構造解析を実施した結果,両断層は異なる運動方向と応力場の変遷を経験していることが明らかとなった.

    【引用文献】

    Rutter et al.,1986,PAGEOPH,124,3-30.

    Scholz, C. H.,2002,The mechanics of earthquakes and faulting,2nd ed.,Cambridge University Press,471p.

    高木秀雄・小林健太,1996,地質学雑誌,102,170-179.

    Yamaji, A.,2000,J. Struct. Geol.,22,441‒452.

  • 大谷 具幸, 矢田部 和真, 森 崇, 梅村 綾子, 吉田 英一, 勝田 長貴
    セッションID: G1-O-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    原子力規制庁が行った孔井掘削により得られたボーリングコアを用いて,1891年濃尾地震で活動した根尾谷断層の地下浅部における断層ガウジのX線CT観察,粉末X線回折(XRD)分析,蛍光X線(XRF)分析,微小部蛍光X線(XGT)分析,走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)分析を行った.これらより根尾谷断層の地下浅部における最新すべり面およびその近傍の断層ガウジの特徴を明らかにすることにより,断層浅部における鉱物充填過程を検討することが本研究の目的である.

    調査対象地は濃尾地震の際に6 mの垂直変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥であり,圧縮性断層ジョグに位置している.本研究では,2019年に原子力規制庁が掘削したパイロット孔であるNDFP-1と本孔であるNDFD-1-S1のボーリングコアを調査対象とする.NDFP-1孔は傾斜井であり,掘削長140.0 m,孔底深度106.8 mである.NDFD-1-S1はほぼ鉛直に掘削された孔井であり,掘削長524.8m,孔底深度516.9 mである(原子力規制庁, 2019).

    X線CT観察では,最新すべり面と想定されるせん断面内部はきわめて低いCT値を示し,低密度となっている.一方で,他の断層ガウジでは低いCT値は認められず,断層角礫等の他の断層岩類と同様の値を示す.XRD分析では,最新すべり面の有無にかかわらず断層ガウジに方解石とスメクタイトが含まれる.XRF分析では,NDFP-1の最新すべり面とその近傍でCaの濃度が高い値を示す.XGT分析では,最新すべり面のごく近傍でCaの濃度が高いのに対して,最新すべり面そのものでは相対的に低い値を示す.SEM-EDX分析では,方解石と思われるCaの濃集が認められ,最新すべり面ではフラグメント化しているのに対して,それ以外では脈状や面構造に沿って配列するような分布を示す.

    Scaringi et al.(2018)は低封圧下の600 kPaで地すべり粘土のリングせん断試験を行い,変位速度が大きい場合には変位量が大きいほど地すべり粘土の体積膨張が大きくなることを示している.よって,最新すべり面では圧縮性断層ジョグであるにもかかわらず濃尾地震の際に最新すべり面に沿って断層ガウジの体積膨張が生じ,密度が低くなったと考えられる.また,断層ガウジ試料全般からスメクタイトが検出されることから,最新すべり面の断層ガウジで密度が低くなることは,スメクタイトの膨潤作用によって生じた可能性は低いといえる.一方で,他のガウジではCT値が高く密度が大きいことから,鉱物充填が進み,すべり面の密度回復が十分に生じていると考えられる.過去のすべりによって生じた最新すべり面近傍の断層ガウジでは,最新すべり面に比べてCaの濃度が高いこと,Caの濃集部は最新すべり面以外では脈状や面構造に沿って配列するような分布を示すことから,方解石が鉱物充填に重要な役割を果たしているといえる.一方で,最新すべり面ではCaの濃集部はフラグメントとしてのみ認められるため,濃尾地震から約130年が経過した現在でも鉱物充填はまだ進んでいないといえる.なお最新すべり面の断層ガウジは,他の断層ガウジと同様にスメクタイトを含むため,形成条件は類似していることが考えられる.よって,いまだ低密度のままである最新すべり面の断層ガウジは,これから時間をかけて方解石による鉱物充填が進むことが予想される.一方で,今回対象としているボーリングコアは地下浅部であり封圧が小さいことから,次の地震に向けて歪エネルギーをこの深度で蓄積する必要はない.よって,次の断層運動までに断層強度は完全には回復しない可能性がある.

    原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書, 断層活動性評価手法の構築に係る破砕帯掘削調査.

    Scaringi et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45, 766–777.

  • 坂口 有人
    セッションID: G1-O-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    カルサイトは応力と歪みの増加に伴って、結晶内部が双晶変形する特性がある.特に歪み2%以下程度以下の場合は,歪み硬化を伴いながら薄い双晶帯の数が増えていく.大理石のようなカルサイトだけの岩石の場合は,幅広い温度圧力領域で,様々な塑性変形機構を伴いながら岩石試料全体として延性変形するため議論が複雑になる.しかし硬質な粒子からなる多鉱岩中にカルサイトが散在し,試料全体が弾性変形する場合は,試料全体の歪みに応じてカルサイト粒子中に双晶変形が生じる.この場合の平均カルサイト双晶密度と試料全体に生じた応力とが比例することが,三軸圧縮試験および個別要素法シミュレーションで示された(坂口ほか,2011).ただしこの論文では,特定の硬質砂岩でのみ実験が行われたため,その実験で得られた関係式は,弾性率の異なる他の岩石に適用することはできなかった. 天然の岩石に含まれるカルサイトは,初生的に一定の双晶変形を被っており,特に低応力の圧縮試験による双晶密度変化をみるのが難しい.そこで初生的な双晶変形を有しない水熱合成カルサイト粒子を,高強度セメントによるモルタルに混ぜ込んだ試料で一軸圧縮試験を行った.セメント材料は添加する水の量によって弾性率や破壊強度が変化するので,任意の弾性率の試料を作成することができる. その結果,試料の弾性率によって平均双晶密度と応力との関係式はそれぞれ異なるが,一方でたとえ弾性率が変わっても,平均双晶密度は試料全体に生じた歪みと正比例することがわかった.この関係は、天然の砂岩を含めて一つの式で表される.この新しい式は天然岩石やモルタルの様々な材料に適用でき,カルサイトの双晶密度から歪みが得られる.もし当該試料が弾性変形を被ったと仮定できるなら,試料の弾性率と双晶密度から得られた歪の値から古応力を推定することができる(坂口・安藤,特願2020-118208).

    引用文献

    Sakaguchi A., Sakaguchi H., Nishiura D., Nakatani M. and Yoshida S., Elastic stress indication in elastically rebounded rock, Geophysical Research Letters, 38, L09316, doi:10.1029/2011GL047055, 2011.

    坂口有人・安藤航平、セメントを主体とする複合材における応力・歪みの履歴推定方法、特願2020-118208

  • 神谷 奈々, 林 為人, 林田 明
    セッションID: G1-O-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    海底の堆積物は,次々と上部に積み重なる新たな堆積物による上載圧を受けて,脱水を伴いながら体積が減少することにより,埋没していく.この体積減少の過程を圧密という.側方からのテクトニックな応力を受けない堆積盆においては,上部地層の上載圧によってのみ圧密が進行すると考えられるが,沈み込み帯に形成される前弧海盆のように,堆積過程において側方圧縮を受ける堆積盆で,圧密がどのように進行しているのかについては,ほとんどわかっていない.本研究では,造構運動により褶曲が形成される際,堆積物の圧密がどのように進行するかを明らかにするために圧密の異方性に着目した.褶曲が発達する露頭から泥質岩を採取し,褶曲軸と地層面を考慮した3方向について圧密実験を実施し,それぞれの方向の圧密度合い(圧密降伏応力)を比較して,圧密異方性を検討するとともに,褶曲軸との関係性から褶曲形成時の古応力との対応関係を考察した.また,磁気ファブリック解析である初磁化率異方性解析を組み合わせることで,粒子の配列方向等,微細組織についても明らかにし,造構運動と圧密過程の関係について統合的に考察を行った.研究対象は,房総半島に分布する前弧海盆とした.

    房総半島は,南部から順に付加体,隆起帯,前弧海盆で構成される.これらのうち房総前弧海盆は,黒滝不整合を境に三浦層群と上総層群に大別される(小池,1951).三浦層群の堆積年代は,約15-3 Maで,下位から順に木の根層,天津層,清澄層,安野層に区分され,木の根層および天津層は一般に遠洋性泥岩,清澄層および安野層はタービダイト性堆積岩からなる(中嶋・渡邊,2005).三浦層群は,基本的には東西走向で北上位の構造をもち,東西を軸とする褶曲構造が発達しその変形は南部ほど激しい.メソスケールの断層が発達し,主に東西走向の逆断層および北東–南西走向の正断層,北北東–南南西走向の横ずれ断層が卓越する(Kamiya et al., 2017).また,小断層解析により三浦層群形成時期には,南北圧縮場であったことが示されている(Angelier and Huchon, 1987).

    房総前弧海盆の三浦層群から,地層の傾斜が65˚〜20˚となる範囲で定方位試料のサンプリングを行い,圧密リングを用いた定ひずみ圧密試験を実施した.載荷方向は,地層面に対して垂直な方向,褶曲軸に垂直な方向,褶曲軸に平行な方向の3方向とした.本研究では,褶曲軸の方向と古応力方向を考慮して,褶曲軸に平行な方向を東西方向,褶曲軸に垂直な方向を南北方向として設定し,露頭の現位置状態での水平面内における東西および南北方向,すなわち地層面が傾斜した状態での東西および南北をそれぞれ褶曲軸に平行な方向,垂直な方向とした.その結果,褶曲の翼部では,地層面に垂直な方向の圧密降伏応力に対して,圧縮方向の圧密降伏応力が大きく,褶曲軸方向の圧密降伏応力が小さくなる結果を得た.それに対し,褶曲軸付近では,地層面に垂直な方向の圧密降伏応力に対して,圧密降伏応力が圧縮方向で小さく,褶曲軸方向で大きくなる傾向が見られた.一方で,初磁化率の異方性が示す磁気ファブリックとしては,異方性楕円体の最小軸が地層面に対して垂直に分布し,中間軸および最大軸が地層面と平行に分布したことから,初磁化率を担う粒子が地層面に平行に配列している可能性が示唆される.フリンダイアグラムが,翼部では針状異方性を示すことなどから,翼部では堆積時の層構造が乱されやすい可能性が考えられる.本研究から,圧密の異方性は地層の傾斜の大きさよりも褶曲構造の翼部か軸部付近かにより違いが生じる可能性が示唆されたが,圧密降伏応力の異方性度合いは小さいため,圧密自体が等方的に進行する可能性も考えられる.

    引用文献

    Angelier, J. and Huchon, P., 1987, Earth and Planetary Science Letters, 87, 397–408.

    Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. and Takemura, T., 2017, Tectonophysics, 710–711, 69–80.

    小池 清,1951,地質学雑誌,57,143-156.

    中嶋輝充,渡辺真人,2005,富津地域の地質,産総研地質調査総合センター,102p.

  • Yeo Thomas, Shigematsu Norio, Wallis Simon, Katori Takuma
    セッションID: G1-O-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Stress build-up processes within fault zones have been discussed as phenomena that occur during the seismic cycle. Geological studies of this nature are few but bear importance in bridging geophysical and microstructural observations. Methods for investigating stress records in rocks are performed through the application of palaeo-piezometre. This however requires that the rocks are deformed through the dislocation creep mechanism.

    Our studies are conducted on the exhumed mylonitic samples from the Ryoke belt along the Median Tectonic Line. The samples contain f-type quartz microstructures and are reported to preserve records of high differential stress deformations. Although deformed under similar temperature conditions close to the brittle-ductile transition, these samples display heterogeneous strain distributions [1], thus suitable to examine stress accumulation processes. However, the samples display trends of the weakening of CPO fabric intensity with increasing strain for the composing quartz crystals. Generally, this phenomenon is accredited to the onset of grain boundary sliding from the dislocation creep mechanism, thus inhibiting the application of the palaeo-piezometre.

    Our samples contradicted numerous studies have shown that the CPO fabric intensity increases with strain (e.g. Heilbronner & Tullis, 2006; Muto et al., 2011). Thus, we aim to investigate the effect of strain on the evolution of the CPO fabric intensity and clarify the mechanism involved. The recrystallised fraction of dynamically recrystallised grains is adopted as a proxy for strain evaluated using a newly developed routine to process the EBSD data. Achieving the target enables us to determine sample conditions that are suitable for the application of the palaeo-piezometre, which result will be conducted for the study of stress-strain relationship along the Median Tectonic Line.

    [1] Katori et al., 2021. JSG. [2] Heilbronner & Tullis., 2006. JGR. [3] Muto et al., 2011. JGR.

  • 岩見 丞, 坂口 有人
    セッションID: G1-O-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    四万十帯をはじめとする沈み込み帯には、いくつものメランジュが存在する。そのなかでも重力性滑動による崩壊起源のものと、泥の貫入によるダイアピル起源のものとを露頭産状から区別することは難しい(Orange,1990)。これらを識別する上では、露頭スケールの詳細な産状観察だけではなく、変形帯のみならずその周囲の構造を含めた、全体的な構造と岩相的特徴の詳細を明らかにする必要がある。 四国四万十帯南帯の伊田層は、比較的整然としている砂岩頁岩互層を特徴とするが、一部に著しく変形した混在岩相が存在し、それは長さ約数100mの岩礁地帯に淘汰の悪い泥質基質中に分断された砂岩層が様々な向きに散在することで特徴づけられる。これまで、露頭スケールの観察から海底地滑りによるスランプ褶曲と剪断変形で形成されたという議論もある(岡田ほか,1988)。しかし、伊田層の混在岩相には、泥の注入脈や水圧破砕などの高間隙水圧を示唆する変形構造も頻繁にみられる。また、混在岩相全体の分布や、周辺層との関係もよくわかっていない。本研究ではこの伊田層中の特異な混在岩相について、周辺の構造と比較しながら、その分布と詳細な変形組織から、成因を議論することを目的とした。 ドローンによる空中撮影及び、陸上踏査による露頭スケールでの観察から、伊田層中の変形帯の分布を明らかにした。 本調査地域は、変形の弱い北部、変形が著しい混在岩相を含む中部、そして変形の弱い南部に分けることができる。北部は北西走向急傾斜であり、南部は北東走向急傾斜である。北部と南部は波長5m程度の大から中規模の褶曲が発達しており、一部に膨縮構造、ブーディナージ構造が観察されるが、中部と比較すると地層の連続性はきわめて良い。中部では、淘汰の悪い泥岩気質に大小様々な塊状砂岩を含む。ブロックインマトリックス組織を持つ混在岩が卓越する。地層の連続性は極めて悪い。混在岩中の一部の砂岩ブロックは、基質泥岩の注入組織を示す。また、基質泥岩と砂岩ブロック境界部の砂粒子が脆性破壊されていないという特徴から、未固結あるいは半固結状態で変形作用を被ったことがわかる。この混在岩相は縦約400m×横約150mの範囲に分布し、その北端、西端、南端で周辺層との境界を観察できる。北端と南端は周囲の整然とした地層とは不規則な形状の境界が観察できる。西端部では、混在岩相の周辺の砂岩頁岩互層と接するが、この砂岩頁岩互層は境界の近傍でのみ混在岩に引きずられたように南北走向を示す。 以上のように混在岩相は、岩相や変形組織が周辺層とは大きく異なり、伊田層中に貫入してできたような分布を有することがわかった。これらの分布と各スケールで観察される変形構造から、伊田層中の特異な混在岩相の部分は泥ダイアピルによって形成されたのかもしれない。

  • 佐藤 活志
    セッションID: G1-O-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    断層群の方位解析により地殻応力を知るため,構造地質学と地震学の分野で応力逆解析法が広く用いられている.近年,応力だけでなく断層の摩擦係数を推定する手法が開発されてきた.しかし,多数の断層データから,複数の応力や複数の摩擦係数を検出する手法は確立していない.特に構造地質学分野では,地質時代の複数の変形を記録した断層群のデータが得られる場合が多いので,複数の応力と摩擦係数を検出できる手法が求められる.

    複数の応力を検出する手法は,2000年代以降にいくつか提案されてきた.岩脈や方解石双晶を用いた応力逆解析では,情報量規準を用いた応力数の決定ができるようになっている.しかしながら,断層データを用いた解析では,情報量規準による応力数の決定ができていない.これは,断層データの頻度分布を表現する確率分布モデルが存在していないためである.

    本研究は,逆解析の目的関数を断層ごとに算出し,目的関数値の頻度分布を表現する確率分布モデルを考案した.目的関数は,従来の応力逆解析で最小化されるミスフィット角(観測された滑り方向と剪断応力がなす角)と,摩擦係数の決定において最大化される断層不安定度(滑りやすさ)の両方から構成される.複数の確率分布を重ね合わせた混合分布モデルを用いることで,最尤法の手順によって複数の応力と摩擦係数を決定できる.また,混合する分布の数を変えて解析結果を比較すれば,情報量規準によって最適な解の数を決定できる.

    模擬データの解析により,新手法の性能を検証した.模擬データは,南北圧縮と東北東圧縮の2つの逆断層型応力に適合する断層を50条ずつ混ぜ合わせたデータである.前者の応力に適合する断層は,内部摩擦角を30°と想定し,断層不安定度の大きい方位に集中している.後者の応力に適合する断層面の方位はランダムである.解析の結果,情報量規準によって応力数2が正しく選択された.主応力軸はほぼ正しく決定されたが,摩擦係数の確度は低かった.

    新手法を,別府-島原地溝の第四系碩南層群を切る小断層群に適用した.結果として応力数2が選択され,南北引張と東北東-西南西引張の2種類の正断層型応力が検出された.上位層準との比較により,およそ100万年前に応力転換があったことが示唆された.

G2. ジェネラル-サブセッション2 第四紀地質
  • 里口 保文
    セッションID: G2-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】  オルドバイ逆磁極帯の直上付近に挟在する恵比須峠福田(Eb-Fukuda)テフラは、中部山岳地域を噴出源として近畿〜関東〜北陸地域に広く分布することが知られている(吉川ほか,1996).本テフラ層は,複数の異なった層相と性質を持つ降灰ユニットから形成される(長橋ほか,2000)ことから,降灰時代の特徴と合わせて,多くの地点で対比が行われている.また,本テフラは,降灰後にテフラ粒子を多く含む洪水流によって,噴出源地域から遠方地域にまで運ばれた堆積ユニットをもち,その堆積による堆積盆地への影響が議論されている(Kataoka and Nakajo, 2002).このように多くの地点で記載されており,噴出源地域から洪水流によって運搬し,各地で堆積した堆積ユニットがあるテフラは,噴火当時の異なった堆積盆地を結ぶ水系の情報を保持している可能性がある.水系を明らかにすることは,古環境推定のみならず,現在の淡水生物分布の成立過程を考える上でも,さらに時代的変化を追うことによって,対象地域における構造運動を知る上で重要である.本研究では,恵比須峠福田テフラの降灰時における近畿地方の水系について検討する.

    【地下情報の追加】  本テフラは,近畿地方の多くの地点で記載が行われているが,現在も堆積域である地域については,その地下に保存されている.本研究では,関西国際空港における深層ボーリングコア(KIX-18コア),旧巨椋池付近で行われた京都市による深層ボーリングコア(KD-0コア),琵琶湖南東岸における深層ボーリングコア(KRコア)について観察を行った.これらのコアはいずれも,琵琶湖博物館の堆積物資料として保管されている.これらのコアにみられるEb-Fukudaテフラ層の深度は,KIX-18コアが約-580m,KD-0コアが約-670m,KRコアが約-860mであり,それぞれの標高を考慮したとしても,琵琶湖地域のKRコアが最も深く,京都,大阪の順に浅い層準にある.

    【Eb-Fukudaテフラ堆積時の水系の推定】  いずれの地点においても,本テフラ層の基底部は,降灰ユニットと考えられるユニットA1(吉川ほか,1996)が観察され静穏な堆積環境下で堆積が始まったといえる.KRコアはその上位の降灰ユニットであるユニットBがないが,他の2地点には存在し,その上位には平行葉理などの堆積構造が観察され,流れによって運搬されたと考えられる堆積ユニット(ユニットC)と推定される.これらの地点におけるユニットCは,その多くはシルトサイズ以下の粒径のテフラからなるが,KIX-18コアのみ砂サイズの軽石を含む.このことはこの周辺の大阪府貝塚市の本層のユニットCには軽石が含まれる(吉川ほか,1996)ことと整合的であり,大阪南部地域には,噴出地域を上流とする河川系がつながっていたと考えられる.一方,KD-0コアとKRコアのEb-Fukudaテフラには軽石が含まれていない.KD-0コアより北方の宇治川より北の地域は,この時期には堆積域ではなかった(京都市地域活断層調査委員会,2004)ことから,本地点には北の地域に降灰したテフラの再堆積が大部分を占めていると考えられる.KRコアは,当時には谷間の地理的位置にあり,現在の琵琶湖北部地域からの流入があったことが推定されている(増田・里口,2021).軽石が含まれないことだけでは,当時の噴出火山地域からの本流となる水系との関係を議論することはできないが,前述の条件から考えれば,KD-0およびKRコアの地点本流から外れた地域であった可能性がある.

     これらの地点に加え,これまでに記載されている本テフラ層の地点と層相から,当時の水系について議論を行う.

    【文献】 Kataoka, K. and Nakajo, T., 2002, Sedimentology, 49, 319-334.;京都市地域活断層調査委員会,2004,活断層研究,24,139-156.;増田富士雄・里口保文,2021,琵琶湖博物館研究調査報告,34,95-109.;長橋良隆ほか,2000,地質学雑誌,106,51-69.;吉川周作ほか,1996,地質学雑誌,102,258-270.

  • 竹下 欣宏, 浅田 愛美
    セッションID: G2-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    長野盆地は長野県北部にある北東-南西方向に伸びる内陸盆地で,この盆地の西縁は西側隆起の逆断層型活断層である長野盆地西縁断層帯によって限られる(Okada and Ikeda,2012).この断層帯の平均変位速度(上下成分)は1.8~2.6mm/yrと見積もられており,800~1000年に1回という高い頻度で大地震を繰り返し発生させたと考えられている(Sugito et al., 2010).

     長野盆地を埋積する堆積物の厚さ(長野盆地の底の深さ)と基盤岩の帰属を明らかにすることは長野盆地西縁断層帯の垂直方向の総変位量を明らかにする上で極めて重要である.しかし,長野市権堂町の温泉ボーリングに基づき,長野盆地の底は海抜-400mよりも深いと推定されている(赤羽,2000)ものの,盆地の底に達する地質学的データはこれまで報告されていない.岡田ほか(2006)は,浅部反射法地震探査により地下構造を解析し,盆地を埋積する堆積物と基盤岩の境界が海抜-700m程度の深さ(地表から約1150m下)にあると推定した.以上の研究成果に基づくと,地表から深さ1200mまでの連続した地質試料を入手することができれば,長野盆地を埋積する堆積物の厚さおよび基盤岩の帰属を明らかにできる可能性が高い.

     2015年3月~10月に長野市川中島町今井において,深度1250.5mに達する温泉ボーリング(川中島温泉)が掘削され,10mごとにカッティングスが採取された.カッティングスは粉砕されているため,コアに比べると深度情報がやや不正確であり,岩石学的検討が難しいが,川中島温泉のカッティングスは長野盆地の地下地質を直接探ることができるきわめて貴重な試料である.今回,川中島温泉社長の河本昇司氏からカッティングス試料を提供いただき,顕微鏡観察を実施することができたので報告する.

     カッティングスは121試料あり,地表に近いものから順にKwb01~125のように試料番号を付した.掘削時に採取できなかった深度1060~1100mの4試料(Kwb106~110)については欠番とした.1mm以上の粒子の形状を実体顕微鏡で観察し,新鮮な破断面のみで囲まれた粒子(以後◇と表記)とそうでない粒子(一部でも円磨された礫としての面が残る粒子)とに区分して,1試料につき100粒ずつ鑑定した.

     一部の試料で1mm以上の粒子が少なく100粒カウントできないものもあったが,Kwb01~77(深度0~770m)では◇が1~32%と少ないのに対し,Kwb79~125(深度780~1250m)では◇が91~100%を占めた.Kwb78(深度770~780m)は,◇が56%であった.カッティングスは掘削泥水の循環にともない地上に上がってくるものを採取するので,上位の地質体由来の破片が混入する可能性があるため,ほぼ◇からなるKwb79~125は固結した岩石,すなわち長野盆地の基盤岩が掘削により破砕されたものと判断できる.Kwb78で◇の割合がそれより浅い試料に比べ20%以上増えるため,長野盆地の底(基盤岩の上面)は深度770~780mの間にあると考えられる.

     Kwb79~93はフレイク状に破砕された5mm以下の黒色~暗灰色泥岩片からなる.Kwb94~106は黄鉄鉱をまれに含む灰白色に変質した泥岩片からなり,形状と大きさはKwb79~93によく似る.Kwb111~125は中粒から粗粒砂サイズの緑灰色~灰白色軽石質凝灰岩の破片と少量の長石と石英粒子からなり淘汰が良い.長野盆地周辺で150mを超える層厚をもち緑灰色~灰白色を呈する凝灰岩は小川層の裾花凝灰岩部層(加藤・赤羽,1986)のみであるため,Kwb111~125は同部層に対比される.Kwb79~106は,裾花凝灰岩部層を覆う論地泥岩部層(加藤・赤羽,1986)に対比されると考えられる.

     川中島温泉の標高は359mであるので,この地点における長野盆地の底は海抜-310~320mに位置することが明らかになった.また,長野盆地西縁断層帯西側(上盤側)における裾花凝灰岩部層と論地泥岩部層の境界は標高600~650mにあり,川中島温泉(下盤側)では海抜-700~740mの間にあるため,この断層帯の垂直方向の総変位量は1300~1400mに達する可能性がある.

    引用文献:赤羽(2000)市誌研究ながの,8,227-236.加藤・赤羽(1986)長野地域の地質,5万分の1地質図幅,120p.Okada and Ikeda(2012)Jour. Geophys. Res. 117,B01404.岡田ほか(2006)地震研究所彙報,81,171-180.Sugito et al. (2010) Bull. Seismol. Soc. Amer., 100, 1678-1694.

  • 嵯峨山 積, 越田 賢一郎, 渡井 瞳
    セッションID: G2-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本海に面する石狩平野は,石狩低地と長沼低地に細分され,そこには多くの人々が生活している.一方,同平野には縄文時代以前からの遺跡が多数存在し,縄文人の生活の場でもあった.

     遺跡群の分布は約11,000年前までの旧石器時代から縄文時代草創期,約11,000~7,000年前の縄文早期,約7,000~5,000年前の縄文前期,約5,000~4,000年前の縄文中期,約4,000~3,000年前の縄文後期,約3,000~2,400年前の縄文晩期,約2,400~1,300年前の続縄文文化期,約1,300~800年前の擦文文化期に区分される.

     約1万年以降の海面変化は,約7,000年前を高頂期とする縄文海進と,その後の海退へて現海面高に至っている(遠藤,2015など).赤松(1972)によれば石狩平野の縄文海進高頂期の海面高は標高約3 mとされ,日本海側から内陸に流入した海水は,石狩川や夕張川,千歳川などの淡水に希釈され,広大な汽水湖(古石狩湖)が形成されたと考えられる.その規模は東西約40 km,南北約30 kmで,現在の海岸線から約38 km離れた長沼町南長沼まで同湖が広がっていたことが珪藻分析により明らかされている(嵯峨山ほか,2013;嵯峨山,2022).現海岸線と平行に発達する紅葉山砂丘の下位には砂礫層が分布し(小山内ほか,1956),同層は高頂期における古石狩湖と外洋を隔てる砂堤であったとされている(松下,1979).

     旧石器時代の海面は標高約−40 m以下であり,海岸線は現在より遠く沖合側に位置していたと考えられる.次に,縄文早期では海面は急速に上昇し,同期の終わりである約7,000年前は高頂期に相当し,上に述べた大規模な汽水湖が形成されていった.その後の縄文前期や縄文中期では海面は徐々に低下し,最終的に現海面高に至っている.

     海面変化と遺跡群の分布を,特に日本海に面する臨海域に注目して検討すると,縄文早期の遺跡群は比較的内陸に位置し,現海岸線付近には存在しない.次の縄文前期になると,2つの遺跡が紅葉山砂丘上に認められる.海退期に当たるこの時期には,紅葉山砂丘が砂堤上に形成されており,これらのことに時代的矛盾はない.縄文中期になると,遺跡は更に現海岸線近くに存在し,更に海岸線が海側に後退したことを示している.縄文後期では,遺跡の位置は縄文中期とほぼ同じで,縄文晩期ではより海岸線付近にいくつかの遺跡が認められる.

     この様に,臨海域の遺跡群の分布は海面変化と矛盾なく説明できる.なお,内陸の長沼低地における古石狩湖の形成や広がりと遺跡群の分布については,特にボーリングによる解析結果が少なく,十分な検討には至っていない.今後の課題である.

    <文献>

    赤松守雄,1972,石狩川河口付近の自然貝殻層.地質学雑誌,78,275-276. 遠藤邦彦,2015,日本の沖積層-未来と過去を結ぶ最新の地層-.冨山房インターナショナル,415 p. 松下勝秀,1979,石狩海岸平野における埋没地形と上部更新統~完新統について.第四紀研究,18,69-78. 小山内 熙・杉本良也・北川芳男,1956,5万分の1地質図幅「札幌」及び同説明書.北海道立地下資源調査所,64 p. 嵯峨山 積,2022,石狩低地帯の成り立ち:地形と地質.北海道自然保護協会,北海道の自然,60,3-10. 嵯峨山 積・藤原与志樹・井島行夫・岡村 聡・山田悟郎・外崎徳二,2013,北海道石狩平野の沖積層層序と特徴的な2層準の対比.北海道地質研究所報告,85,1-11.

  • 渡辺 正巳, 田畑 直彦
    セッションID: G2-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     山口県南東部、周南市を流れる島田川中流域右岸(北岸)の丘陵上には、弥生時代中期~終末期の高地性集落跡である石光遺跡、天王遺跡、追迫遺跡、岡山遺跡が分布する(谷口編,1988など)。一方、丘陵上に立地する高地性集落出現の背景には、「戦争」をはじめとする何らかの社会的緊張が想定されている(小野編,1953)が、現在まで結論が得られていない(田畑,2006)。また、高地性集落の研究において、周辺の低地に立地する遺跡との関係や生業についても不明な点が多い。

     今回の講演では、追迫遺跡,天王遺跡と岡山遺跡の間(安田地区)の低地で採取したボーリング試料を対象とした花粉分析及び14C年代測定結果について報告し、高地性集落の眼下に広がる沖積平野と生業の場について考察するとともに、弥生時代以降の古植生変遷について考察する。

    調査地点・調査方法

     図1にボーリング地点と遺跡の関係、及び各地点のボーリング柱状図を示す。SKY-1、2の2地点で機械ボーリングを用いた、トリプルサンプラーによるオールコアサンプルを実施した。また、全ての採取試料は文化財調査コンサルタント(株)の試験室に持ち帰り、アクリル管から抜き取り、観察後、試料の粒度によって1cm~5cmの厚さで分割を行った。その後、試料観察を基に図1の柱状図を作成した。

     SKY-1では地表下4mまでの試料を採取したが、表層を除きほとんどが砂礫層であった。一方、SKY-2では地表下2.3m付近まで腐植に富む砂質粘土~シルトが分布し、下位に礫混じり粘土~中粒砂層が続いた。試料観察結果を基に、SKY-2について花粉分析(渡辺;2010による)を行った。

    分析結果・考察

     花粉分析結果から、Ⅰ~Ⅴ帯の5局地花粉帯を設定し、更にⅠ帯をa~c亜帯、Ⅲ帯をa、b亜帯に細分した。以下に、下位(Ⅴ帯)から、概要を示す。

     Ⅴ~Ⅳ帯では花粉・胞子化石の含有量が少なく、統計処理に十分な200粒の木本花粉化石が検出できなかった。また、シダ類胞子化石の占める割合が高かった。Ⅴ帯ではアカガシ属、シイノキ属-マテバシイ属などの照葉樹林要素の木本花粉化石が多く検出され、Ⅳ帯では温帯針葉樹のコウヤマキ属花粉化石が多く検出された。

     Ⅲ~Ⅰ帯では十分な量の木本花粉が検出されたものの、b亜帯とした下部2試料の花粉・胞子化石含有量はやや少なかった。Ⅲ帯を通してマツ属(複維管束亜属)花粉化石が増加傾向を示すほか、スギ属花粉化石が増加(b亜帯)、減少(a亜帯)傾向を示す。また、Ⅲ帯から上位では、栽培種であるイネを含むイネ科(40ミクロン以上)花粉化石が多量に検出されるほか、栽培種のソバ属花粉化石が低率であるが連続して検出されており、調査地を含む近辺でイネやソバの栽培が連綿と行われていたものと考えられる。Ⅲ帯基底部からは弥生時代早期後半に相当する2,725±25 yrBP(913-813 cal BC)の年代測定値が得られている。Ⅱ帯でも引き続きマツ属(複維管束亜属)花粉化石が増加傾向を示す。Ⅰ帯ではマツ属(複維管束亜属)花粉化石が高率を示し、その他の木本花粉化石は低率である。下位のc亜帯では栽培の可能性が指摘できるアカザ科-ヒユ科、アブラナ科花粉化石が増加し、ソラマメ属花粉化石も検出される。b亜帯ではスギ属花粉化石が高率になり、近・現代のスギ植林の影響が示唆される。a亜帯では、再びマツ属(複維管束亜属)花粉化石が高率になり、その他の木本本花粉化石は低率になる。

    謝辞

     本研究を進めるに際し、ボーリング用地の御提供を頂いた地権者、耕作者の方々、ボーリング作業を実施していただいた株式会社宇部建設コンサルタント、試料の分割・整理、データ整理、図面作成など本研究の多くの部分に協力いただいた文化財調査コンサルタント株式会社 平佐直子氏、以上の方々に厚くお礼申し上げます。

     また、本研究には日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C) 課題番号20K01074(代表者 田畑直彦)を利用した。

    引用文献

    小野忠凞編(1953)『島田川 周防島田川流域の遺跡調査研究報告』,谷口哲一編(1988)『天王遺跡』,田畑直彦(2006)日本考古学協会2006年度愛媛大会 発表要旨集, 177-198,渡辺正巳(2010)『必携考古資料の自然科学調査法』,174-177.

  • 嶋池 実果, 辻本 彰, 廣瀬 孝太郎, 瀬戸 浩二, 赤對 紘彰, 入月 俊明
    セッションID: G2-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    島根県と鳥取県の県境に位置する中海は,砂州の発達により日本海と分断された汽水の海跡湖であり,中海は境水道を通じて日本海と,大橋川を通じて宍道湖とつながっている.中海では,戦後の食糧難を解決する目的で,国営の干拓および淡水化事業による埋め立てや水門・堤防の建設などの人工改変が行われたり,事業中止を受けて堤防の一部開削や撤去が行われたりするなど,過去約60年間の間に中海の環境は人為的に大きく改変された. 湖底堆積物は過去の環境変化を記録しており,中海ではこれまでにも堆積物中の貝形虫(入月ほか,2003;山田ほか,2015)や有孔虫(Nomura,2003)などを用いた人為的な環境変化に関する研究が行われてきた.本研究では,環境変化に鋭敏に反応する有孔虫化石を用いて,中海の生態系の動態を理解するとともに,人工改変等に関連した環境変化を議論することを目的とした. 試料は2017年に中海南部に流入する飯梨川の河口から北に約2 kmの地点Nk - 3C(水深約7.2 m)において採集され,コア長は183 cmであった.本コア試料は廣瀬ほか(2020)によって,年代モデルや地球科学的環境の変化が報告されており,基底部が西暦1400年頃と推定されている.有孔虫分析用試料については,63㎛の篩で水洗・乾燥処理を行った後,残渣試料を106㎛の篩でふるい,実体顕微鏡下で各試料から有孔虫を200個以上抽出し,種の同定を行った.その結果に基づき,種の相対産出頻度,単位重量当たりの個体数,種多様度を求めた.また,客観的に有孔虫群集とその変遷を把握するため,Qモードクラスター分析を行った. 分析に用いた47試料からは13属21種の有孔虫化石が産出し,過去約600年間の間に中海の有孔虫群集に大きな変化が生じていることが明らかとなった.産出した有孔虫は,その変化によって5つの有孔虫相に区分できた.phase 1(西暦1400年頃-1700年頃)では,現在の中海に優占するAmmonia beccariiTrochammina hadaiが変動を伴いながらも優占しており,Miliolinella subrotundaBuccella frigidaなどの浅海性種も連続的に産出している.A. beccariiT. hadaiは現在の中海において,塩分の影響を受けて分布が規制されており,塩分変動の影響が示唆される.phase 2(西暦1700年頃-1750年頃)では浅海性種であるElphidium cf. excavatumB. frigidaが減少し,多様性が低下している.また,Nomura (2003) で富栄養・湖水の停滞性の指標とされるT. hadaiの割合が増加していることから,一時的に湖水の停滞が生じた可能性がある.Phase 3(西暦1750年頃-1900年頃)では,浅海性種であるAmmonia tepidaM. subrotundaの増加が見られることから,水の循環がよくなったと推測できる.phase 4(西暦1900年頃-1970年頃)では前phaseまで増加を見せていたA. tepidaM. subrotundaが減少しており,人為的な環境変化の影響と考えられる.phase 5(西暦1970年頃以降)では,多様性の顕著な低下が特徴として挙げられる.1968年から始まった本庄工区を囲む堤防の建設により,中海の閉鎖性が増大したことが認められていることから,この時期の多様性の低下の原因の一つとして,堤防建設等による閉鎖性の増大が考えられる.

    引用文献

    廣瀬ほか(2020)Laguna vol. 27,p. 41-57 (2020)

    入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22, p. 149–160.

    山田ほか(2015)第四紀研究,vol. 54, no. 2, p. 53–68.

    Nomura(2003)Jour. Geol. Soc. Japan,vol. 109, no. 4, p. 197-214

  • 小安 浩理, 加瀬 善洋, 川上 源太郎, 石丸 聡, 仁科 健二
    セッションID: G2-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    北海道には周氷河性斜面が広く分布する(小泉,1992).周氷河性斜面の堆積物は,一般的に不淘汰で角礫が主体なため,礫の産状に着目されてきた(山本,1989など).一方,凍結融解作用により不淘汰な堆積物中にもシルトを主体とする構造が存在し,斜面災害との関連を指摘されるが(石丸,2017),そのような構造の詳細な記載例は少なく,形成プロセスも不明な点が多い.本発表では,北海道における周氷河性斜面堆積物の特徴を記載し,形成プロセスを考察する.

    調査地域の地形と地質および調査手法

    調査地域は標高500- 1000 mで,概ね30°以下の緩傾斜な山地が分布する.本研究では日勝峠および狩勝峠周辺における日高山脈西山麓の泥質片岩,片麻岩および花崗閃緑岩分布地域において高品質ボーリング掘削を実施した.コアは肉眼観察により層相を区分するとともに,X線CT撮影によりコアの礫質褐色土における成層構造および礫の配列方向を記載した.

    結果

    泥質片岩分布地域

    層相 風化基盤岩上の堆積物は層厚2.5 mで,表層から黒土,礫質褐色土となる.黒土は層厚50 cmで,最上部10 cmは礫を殆ど含まない.下方に向けて有機質は減少するが礫の含有量は増加し,礫質褐色土に漸移する.礫質褐色土の礫は細~中礫径の角礫で,平板な泥質片岩からなり,下方に向けて礫の径と量が増大する傾向がある.基盤岩は泥質片岩で,多く含まれる黒雲母に沿って片理が発達する.最上部はジグソー状に破砕するが下方に向けて破砕の程度は減少し,風化基盤岩の上面から1 m以深は硬岩となる.

    成層構造および礫の配列方向 多くの層準で礫は強く配列するが,長軸に卓越する方向はない.砂が多い部分はあるが成層構造は不明瞭である.最下部の約50 cmでは礫の長軸と配列の最大傾斜方向が一致する傾向にある.

    片麻岩分布地域

    層相 風化基盤岩上の堆積物は層厚3.6 mで,表層から黒土,礫質褐色土となる.黒土は層厚70 cmで礫を殆ど含まない.礫質褐色土の礫は片麻岩で細~中礫径の角礫からなる.最上部30 cmは細礫混じりの砂質シルトからなる.砂質シルト以深では礫が多い層と少ない層を繰り返しながら,礫の量および礫径が下方に向けて増大する傾向がある.最下部60 cmでは基質が減少し粗粒化する.基盤岩は白黒の縞状構造が明瞭な片麻岩で,片理面には黒雲母が多く含まれる.最上部ではジグソー状に破砕するが,下方に向けて破砕の程度は減少し,風化基盤岩の上面から1 m以深は硬岩となる.

    成層構造および礫の配列方向 砂質シルトおよび礫の少ない部分でも明瞭には成層しない.全体的に礫の配列は弱く,礫の長軸には卓越する方向はないが,下部の約60 cmでは礫の長軸と礫の配列の最大傾斜方向が一致する傾向にある.

    花崗閃緑岩類分布地域

    層相 風化基盤岩上の堆積物は層厚2.5 mで,表層から黒土,Ta-dテフラ(9 ka),礫質褐色土となる.礫質褐色土は花崗岩類の角礫を含む.最上部20 cmは礫が少なく砂質シルトが多い.礫は角礫で細礫径が多いが,中礫径も散見され,定方向に配列する.中部の1.5 mでは,礫は細~中礫径の角礫となる.礫質褐色土の下部40 cmには礫を含まない砂の薄層が頻繁に挟在し,基底部の砂層はシルト質で,10 cm程になる.基盤岩である黒雲母花崗閃緑岩は,最上部では粘土質に風化し軟岩状になる.粘土質風化部のより下方では鉱物粒子が分離し結合が弱く,風化程度は下方に向けて弱くなる.

    成層構造および礫の配列方向 最上部では礫の比較的少ない細粒部があるものの明瞭には成層しない.中部では部分的に礫が弱く配列することがあるが礫に卓越する長軸方向はない.下部では明瞭な砂の薄層と並行に礫が配列し,礫の長軸方向は最大傾斜方向と直交する傾向がある.

    周氷河性斜面における堆積物の形成プロセス

    礫質褐色土は黒土ないしTa-dの層序的下位にあること,En-aテフラ(19-21 ka)を欠くことから,最終氷期以降の周氷河環境で形成されたと考えられる.礫質褐色土下部は,泥質片岩と片麻岩分布地域では,礫の長軸と配列方向が一致すること(French, 2017)から,典型的な周氷河プロセスのソリフラクションで形成されたと考えられる.一方,花崗閃緑岩分布地域おける礫質褐色土下部のシルト質砂層は成層構造が明瞭で礫の長軸と最大傾斜方向が直交すること(山本, 1998)から,地表の掃流により運搬堆積した可能性がある.また,礫質褐色土の上部では礫の長軸に卓越する方向が確認されず,周氷河以外のプロセスが寄与した可能性も示唆される.

    文献

    French (2017). Wiley; 石丸 (2017). 防災研資,411,17-24; 小泉(1992). 地理評A, 65, 132-142;山本(1989). 第四紀研, 28, 139-157; 山本(1998).地形, 19, 243-259.

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