日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
選択された号の論文の406件中301~350を表示しています
T1(ポスター).変成岩とテクトニクス
  • 馬場 壮太郎, 加々島 慎一, 中野 伸彦
    セッションID: T1-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    東南極のドロンイングモードランド東部(35°E) からエンダビーランド西部(45°E)にかけての地域には,エディアカラ〜カンブリア紀の変動帯であるリュツォ・ホルム岩体が分布する(Hiroi et al.,1991; Shiraishi et al., 1994; 2003). この岩体については日本南極地域観測隊によって調査がすすめられ,27編の地質図がまとめられている. 2021年11月~2022年3月(第63次南極観測隊)にリュツォ・ホルム岩体の未踏査露岩,近年調査が実施されていない露岩を対象に広域的な地質調査が実施された.その概要を報告する.

     観測船「しらせ」が昭和基地付近に滞在する2021年12月下旬から2022年1月下旬までの間に,プリンスオラフ海岸,リュツォ・ホルム湾南沿岸,同湾西部地域に分布するリュツォ・ホルム岩体についてキャンプを伴う調査を6地点で行った.このうち,プリンスオラフ海岸東部のちぢれ岩,リュツォ・ホルム湾西部のベルナバネは,日本南極地域観測隊が未踏査の露岩である.加えて,これまで露岩の地質情報が無く,岩石試料の採取が行われていなかったヒスタ,インステクレパネ(北西露岩)においても短時間の調査を実施した.今回調査を実施した露岩は,リュツォ・ホルム岩体での下記の問題に対して貢献すると考えている.

     リュツォ・ホルム湾沿岸に分布するリュツォ・ホルム岩体については,U-Pbジルコン年代,岩相に基づきいくつかのユニット区分(Takahashi et al., 2018; Takamura et al., 2018; Shiraishi et al., 2019; Dunkley et al., 2014; 2020)が提案されているが,西部地域への延長については十分に理解されていない. 今回調査を実施したベルナバネ,ヒスタ,ベストホブデにおける岩相,変成作用,変成年代,原岩構成,原岩年代は現在提案されている区分図を検証する上で重要な位置にある.

     Baba et al.(2022)は,プリンスオラフ海岸のあけぼの岩の片麻岩について二次イオン質量分析計を用いて変成年代の解析を行い,ジルコンのTi含有量とその年代値に基づき,角閃岩相の変成作用は937 ± 6 Maのトニアンであることを明らかにした.このことはリュツォ・ホルム岩体の変成度がカンブリア紀の広域変成作用で,累進的に上昇したという従来の考えを否定する結果である.また,日の出岬を含むトニアンに活動した変成岩体がまとまって分布することを暗示している.あけぼの岩の東方に位置するちぢれ岩はこれまで未踏査であったが,その変成作用,変成年代,原岩の情報はトニアンの年代を示す変成岩体の延長とその範囲を明らかにするうえで重要である.

     以上の二点を踏まえ,今後研究を進めていくが,本講演ではちぢれ岩の地質概略および岩石試料について報告を行う.

    引用文献

    Baba et al. (2022) Gondwana Res. 105, 243–261. Dunkley et al. (2014) 7th International SHRIMP Workshop, Abstract. Dunkley et al. (2020) Polar Sci., 26, 100606. Hiroi et al. (1991) Geological Evolution of Antarctica, 83-87. Shiraishi et al. (1994) Journal of Geology, 102, 47–65. Shiraishi et al. (2003) Polar Geosci., 16, 76-99. Shiraishi et al. (2019) Int. Symp. Antarctica Earth Sci., Abstract. Takahashi et al. (2018) Journal of Asian Earth Sciences, 157, 245–265. Takamura et al. (2018) Geoscience Frontiers, 9, 355–375.

  • 北野 一平
    セッションID: T1-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    栃木県の地質の基盤は足尾帯のジュラ紀付加体であり,美濃―丹波帯の東方延長とみなされている(矢内,1972;竹内,2008).足尾帯のジュラ紀付加体はしばしば白亜紀~古第三紀花崗岩類に貫入され,ホルンフェルス化している(河田・大澤,1955;矢内,1972,2008;伊藤・中村,2021).しかしながら,栃木県北東部の那須町伊王野では,珪線石および菫青石を含む黒雲母片麻岩が2 km四方以上にわたって産出することが報告されている(酒井,1989).本研究は,栃木県西部の鹿沼市板荷において片麻状構造および鉱物の配向性を有する片麻岩を見出したので,その岩石学的特徴を報告する.なお,本研究で用いた試料の一部は,標本番号(503081)として栃木県立博物館に登録・収蔵されている. 栃木県西部足尾山地では,主に砂岩と頁岩からなる砕屑岩や,珪質頁岩,珪質粘土岩,チャート,緑色岩類および炭酸塩岩類からなるジュラ紀付加体が広く分布している(鎌田,2008).花崗岩体の周囲1–2 kmにわたってホルンフェルス化し,自形で1–2 cm大の菫青石または紅柱石を含むことがある(河田・大澤,1955;矢内,2008).変成泥岩に炭質物温度計を適用して約290–510℃の変成温度が見積もられている(伊藤・中村,2021).鹿沼市板荷では,黒雲母花崗岩が層状チャートに貫入し,気成鉱化作用によりタングステン鉱床を胚胎する(櫻井,1943;中沢・物部,1957;Ishihara and Sakai, 1995).この花崗岩から64–63 Ma の白雲母または黒雲母K–Ar年代が得られている(Ishihara and Sakai, 1995). 採取試料は中沢・物部(1957)で記載されている板荷鉱山の変質帯付近に産し,0.5–1.5 cm厚の珪質層と数mm厚の雲母質層が互層する面構造を有する.この雲母質な面上では,フィブロライトの数mmの集合体が配列し明瞭な線構造をしめしている.その珪線石の大半をランダムに配向した大小の紅柱石が置換している.珪質層は褐色味があり,比較的粗粒で暗褐色の石英が点在している.顕微鏡下では,雲母質層は主に細粒な黒雲母,白雲母,フィブロライト,粗粒な紅柱石から構成される.黒雲母,白雲母およびフィブロライトは定向配列し,紅柱石が部分的にフィブロライトを置き換えている産状や二次的な白雲母に置き換えられている産状が認められる.珪質層は粗粒~細粒な石英と細粒な黒雲母で占められる.粗粒な石英は面構造に沿ってやや扁平した形状を呈し,同方向に配列している細粒な黒雲母や稀にフィブロライトを包有し,その粒間や周囲を包有物のない比較的細粒な石英または黒雲母が充填している. 本研究で採取した片麻岩は面構造を有し,定向配列するフィブロライト,黒雲母,白雲母を含む.また,面構造に調和的に配列した黒雲母やフィブロライトを包有する石英の産状も確認された.これらの組織は,上記の変成鉱物が高温条件下で形成し,同時期に延性変形を受けて定向配列した過程を示唆する.定向配列するフィブロライトはランダムな方向性を呈する紅柱石に置換されており,片麻岩形成後に変形を伴わない熱変成を重複して被り,紅柱石安定領域条件下での再結晶化が促されたことが想定される.また,この片麻岩の卓越する珪質層と薄い雲母質層からなる片麻状構造は原岩の構造に由来すると考えられ,板荷周辺では薄層の泥質岩を伴うチャートが卓越していることから,片麻岩の原岩は周囲のジュラ紀付加体の層状チャートであると推察される.つまり,鹿沼市板荷に産する片麻岩は足尾帯ジュラ紀付加体を原岩とし,高温条件下で延性変形を受けて片麻岩となったのち,周囲の付加体とともに白亜紀~古第三紀花崗岩類に貫入されてホルンフェルス化を被った過程が考察される.足尾帯は美濃―丹波帯に相当することから,本研究で見出された栃木県西部の片麻岩は領家帯の一部である可能性が示唆される.この結果は,足尾帯として位置付けられている栃木県には領家帯に相当する片麻岩類が分布する可能性を示唆し,更なる詳細な地質調査および岩石学的解析を踏まえて地体構造区分を再検討する必要がある. 引用文献 Ishihara and Sakai (1995) Resource Geology,伊藤・中村 (2021) 地質調査研究報告,鎌田(2008) 「関東地方」朝倉書店,河田・大澤 (1955) 5万分の1地質図幅説明書「足尾」,中沢・物部 (1957) 地下資源調査報告書,酒井 (1989) 日本地質学会第96年学術大会要旨,櫻井 (1943) 自然科学と博物館,竹内 (2008) 「関東地方」朝倉書店,矢内 (1972) 岩石鉱物鉱床学会誌,矢内 (2008) 「関東地方」朝倉書店

  • LU ZEJIN, 大和田 正明
    セッションID: T1-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1、地質概要 山口県南部には、三畳紀高圧型変成岩類(周防帯)、白亜紀領家変成深成複合岩体、白亜紀火山岩類が分布する。大津島は周防帯と領家帯の境界部に位置する。大津島に産する変成岩類は主に泥質片岩から構成され、珪質片岩や少量の石灰珪質片岩と変玄武岩を伴う。片理面は東西方向で北南に傾斜し、褶曲構造が認められる。また、南部には走向とほぼ平行で、20-30 ˚北傾斜の衝上断層が発達する。島の北東部には白亜紀の花崗岩が貫入している。

    2、岩石記載 野外の産状から3ステージの変形作用が想定される。ステージ1:原岩の層理面とそれに平行な片理面の形成(S1面の形成)、ステージ2:波長数mの閉じた褶曲構造の形成と軸面劈開(S2面の形成)、ステージ3:衝上断層の形成(S3面の形成)。 泥質岩の鉱物組み合わせは以下の通り。ステージ1:黒雲母(Bt)、白雲母(Ms)、斜長石(Pl)、石英(Qtz)を含み、低変成度では緑泥石(Chl)、高変成度では紅柱石(And),珪線石(Sil),ざくろ石(Grt),菫青石(Crd)、カリ長石(Kfs)とコランダム(Crn)を含む。ステージ2では褶曲軸面に沿ってMsとBtが再結晶し、ステージ3は衝上断層沿いにのみ発達し、BtがChlに置換される。

    3、変成分帯 ステージ1は最高変成時の組み合わせを示し、鏡下組織と鉱物組み合わせなどからBt zone、And-Crd zoneとSil zoneに区分できる。

    Bt zone:  Bt+Ms±Chl

    And-Crd zone:  Bt+Crd+And+Kfs; Bt+Ms+Grt±Kfs; Bt+Crd+Ms+Kfs±Chl; Bt+And+Ms

    Sil zone:  Bt+Crn+Crd+Sil+Kfs; Bt+Grt+Kfs+Crd

     各帯は、北から南へSil zone、And-Crd zoneそしてもっとも低変成度のBt zoneが分布し、向斜軸を挟んで再びAnd-Crd zone、Sil zoneが分布する。そして、ステージ3の衝上断層を挟んでAnd-Crd zoneの変成岩類が最南部に分布する。

    4、議論 (1)変成履歴:And-Crd zoneでは、Andの中にMsとQtzを包有されることから以下の反応が推定される:Ms+Qtz =And+Kfs+H2O。また、Crd中にはChlやMsが包有されることから、Chl+Ms+Qtz =Crd+Bt+H2Oの反応が想定される。これらは昇温期の変成作用に相当する。

     Sil zoneでは、面構造を形成するCrdがBtを含むことからSil+Bt+Qtz=Crd+Kfs+H2Oの反応が考えられる。Sil zoneはコランダム(Crn)を含むが、CrnはしばしばMsに置換される。これは、Crn+Kfs+H2O = Msが温度低下によって進行したことを示す。すなわち、大津島の変成岩は時計回りのP-T Pathを示すと推察される。

    (2)大津島変成岩の原岩:大津島の砕屑性ジルコンの最も若いU–Pb 年代年代は249.2±1.3Maで、原岩の堆積年代はトリアス期であると考えられ、周防帯に相当し、その後、高温低圧型の変成作用を受けたと考えられる。先行研究による砕屑性ジルコン年代と変成作用の類似性から、田川北東地域約250Ma(柚原ほか、2021)、久留米地域260〜250Ma(Tsutsumi et al.,2003)、そして大牟田地域約250Ma(Miyazaki et al.,2017)も大津島と同じ地質体に属すると推察される。

    参考文献

    Tsutsumi, Y., Yokoyama, K., Terada, K. and Sano, Y., 2003, SHRIMP U–Pb dating of detrital zircons in metamorphic rocks from northern Kyushu, western Japan. J. Mineral.Petrol. Sci., 98, 181–193.

    Miyazaki, K., Ikeda, T., Matsuura, H., Danhara, T., Iwano, H.and Hirata, T., 2017, A high-T metamorphic complex derived from the high-P Suo metamorphic complex in the Omuta district, northern Kyusyu, southwest Japan. Isl. Arc, 26, e12208, doi: 10.1111/iar.12208.

    柚原 雅樹, 清浦 海里, 日髙 万莉亜, 外田 智千, 早坂 康隆, 北部九州東部に分布する田川変成岩類の変成作用, 地質学雑誌, 2021, 127 巻, 8 号, p. 447-459

  • 小野 晃
    セッションID: T1-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    三波川変成岩と珪長質火成岩類が関東山地北縁部に分布している.これらは白亜紀後期から古第三紀初期の弧‐海溝系において相互にかなり離れて分布していた地質体である.それらが現在同じ地域に分布している理由は,珪長質火成岩類がナップテクトニクスを被って三波川変成岩の分布域に移動したためである.実際,関東山地には跡倉ナップが存在する.中新世前期には跡倉ナップに重なる領家ナップ[1]も存在していた.これらのナップの研究に基づいて,本州中央部の古第三紀初期ごろの弧‐海溝系が復元されている[2,3].その模式的復元図を少し修正したものがFigure Aである.赤色領域は領家変成岩の分布域で,その南東(海洋側)は領家南縁帯[4]である.領家南縁帯は領家帯の南縁部と誤認される恐れがあるので,ここでは領家外縁帯と呼称する.

     関東山地に領家帯は確認されていないが,領家ナップ由来の礫が小川盆地や秩父盆地の中新世礫岩にみられる[1].花崗岩礫などの鉱物や全岩のK-Ar年代は,約60-75Maであり,伊那山地の領家帯の年代データと調和している.領家外縁帯には非変成のジュラ紀付加複合体や白亜紀後期の珪長質火成岩類や白亜紀後期-古第三紀初期の堆積岩などが分布している.領家外縁帯の海洋側にはおもに白亜紀前期以前の地質体が分布しており,そこでは白亜紀後期以降にナップテクトニクスが起きている.その更に海洋側では三波川変成岩が上昇している(Figure A).

     群馬県下仁田地域での領家外縁帯の地質体は,ジュラ紀付加体の南蛇井層,約95Maや70Maの花崗岩類,67Maの骨立山凝灰岩,73Maの酸性凝灰岩,白亜紀後期-古第三紀初期の神農原礫岩および83Ma-64Maごろに堆積した赤津層などである.年代値はジルコンのU-Pb年代であり[5,6],これらの年代データによって65-75Maごろの火成活動が領家外縁帯で生じていることが判明した.埼玉県寄居-小川地域の領家外縁帯に由来する地質体は,跡倉ナップの寄居層,寄居酸性岩類,寄居花崗岩およびジュラ紀付加体と推定される固結度の高い泥岩や砂岩やチャートの小岩体である(Figures B - F).チャートはおもに微細な石英粒子と少量のセリサイトからなり,放散虫化石の保存状態はかなり良好である(Figure D).顕著な変成作用は被っていない.寄居花崗岩は中粒塊状の黒雲母トーナル岩で,牟礼の市野川沿いの一か所に露出している(Figure C).寄居層はおもに砂岩や礫岩から成るが,寄居町三ケ山や五ノ坪では炭質物に富む黒色泥岩(Figure F)が広範囲に分布している.寄居層の固結度は低く,礫岩の比較的大きい礫は,ハンマーで軽く叩いて取り出せる(Figure E).礫岩の礫は,おもに火砕岩,凝灰岩,花崗岩,花崗斑岩,火山岩などであるが,泥岩,砂岩,珪質岩も多い.砂岩や泥岩の礫は固結度が低いものが多く,放散虫化石の骨格は非晶質シリカである.これらの礫の供給源は,角礫が少なくないことからみて,寄居層の近傍にあった白亜紀末期の堆積岩であろう.流紋岩礫と泥質ホルンフェルス礫のK-Ar全岩年代は,それぞれ80.5Maと66.5Maである[7].このホルンフェルス礫を除いて,変成岩礫は見出されていない.領家帯に由来する領家変成岩,マイロナイト,片麻状トーナル岩の礫は発見されていない.

     寄居町荒川沿いにはチャートに類似する細粒の暗黒色凝灰岩が寄居層の西方に分布している.ジルコンのフィショントラック年代は60.7Maで,火山活動の年代とされている[8].この凝灰岩は寄居酸性岩類という見解もあるが,寄居酸性岩類には細粒の暗黒色凝灰岩はどこにも見あたらない.しかも,寄居酸性岩類はジルコンのU-Pb年代が67Maの骨立山凝灰岩に対比されている[4].したがって,暗黒色凝灰岩は古第三系寄居層の一員と推定される.

    [1]小野,2004, 地質雑, v. 110, no. 7, 395-402.[2]小野,2010, JpGU Meeting, SGL046-P10.[3]小野,2014, JpGU Meeting, SMP46-P19.[4]埼玉総会中・古生界シンポ世話人会,1995, 地球科学, v. 49, no. 4, 271-291.[5] 河合ほか,2022, 群馬県立自然史博物館報 (26), 75-90.[6] 佐藤ほか,2020, 群馬県立自然史博物館報 (24), 53-70.[7]小野,2000, 地質雑, v. 1060, no. 9, 620-611.[8] 大平,2004, 地団研専報52号, 51-65.

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    木村 太星, 平内 健一
    セッションID: T1-P-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    深部低周波微動と短期的スロースリップの同時発生現象であるepisodic tremor and slip (ETS)の一部は、巨大地震震源域の下限以深に沿って帯状に分布していることが明らかとなっている(Rogers and Dragert, 2003; Obara et al., 2004)。近年のETSの発生に関する構造地質学的研究では、レオロジーの不均質性に注目している。例えば、Tarling et al. (2019)では、スラブ・マントル境界域で形成された蛇紋岩メランジュ内での交代作用に着目し、粘性変形が卓越する蛇紋岩マトリックス内部にて、蛇紋岩やロジン岩などからなるブロックとの間で起きた交代作用によって水が放出され、間隙水圧の上昇が起こることで脆性破壊が誘発される可能性を指摘している。そこで、本研究では、蛇紋岩メランジュにおける交代作用がスラブ・マントル境界の力学・変形特性に与える影響について明らかにするために、野母半島の長崎変成岩類を研究対象として構造岩石学的解析を行った。

     野母半島長崎変成岩類には塩基性片岩と泥質片岩からなる結晶片岩類と蛇紋岩類、古期変成はんれい岩複合岩類が分布している。結晶片岩類は泥質片岩の鉱物組合せをもとに緑泥石帯、ザクロ石帯、黒雲母帯に分帯されており、そのうち黒雲母帯は緑簾石角閃岩相に相当することが知られている(宮崎・西山,1989)。本研究では、宮崎町川原木場において蛇紋岩体と黒雲母帯に属する結晶片岩類の境界部に露出した蛇紋岩メランジュ(西山ほか,1997)に着目した。蛇紋岩メランジュは主に変成塩基性岩と曹長岩から構成される。変成塩基性岩では大きさ数cm~数10 cmの曹長石からなるレンズ状のブロックとそれを囲むアクチノ閃石、緑泥石からなるマトリックスから構成されるblock-in-matrix構造が認められる。マトリックスでは、アクチノ閃石と緑泥石の形態定向配列により、片理が形成されている。また、マトリックス内にはクリノゾイサイトが濃集した部分や緑泥石からなる局所的な剪断帯がみられる。さらに、変成塩基性岩を切るように発達した幅数cm程の緑泥石-アクチノ閃石片岩が確認される。緑泥石-アクチノ閃石片岩は、周囲の変成塩基性岩に比べて片理が強く発達しており、剪断帯を形成している。

     上記の結果は、スラブ・マントル境界域において曹長岩が高間隙水圧下にて破砕され、ブロック化したことを示唆する。そして、マトリックスがアクチノ閃石や緑泥石、クリノゾイサイトから構成されていたことから、破砕によって形成された間隙にCaやAlに富んだ流体が浸透し、交代作用によって析出したと考えられる。このプロセスは間隙率を低下させることから、再び高間隙水圧条件を促し、曹長岩の破壊を引き起こすことが示唆される。また、マトリックスでのみ片理が認められたことは、ブロックとマトリックスの間で強度差が生じ、レオロジーの不均質化が生じたことを示唆する。さらに、緑泥石―アクチノ閃石片岩にて剪断帯が形成されていたことから、開口破壊域にアクチノ閃石や緑泥石がより多く析出した領域では変形の局在化が起こると考えられる。以上のように、間隙水圧の上昇による破砕作用とそれに伴う交代作用がスラブ・マントル境界域の力学・変形特性に重要な影響を与える可能性がある。

    引用文献:宮崎・西山(1989),地質学論集,33,217-236.西山ほか(1997),日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書,131-162.Obara et al. (2004), Geophysical Research Letters, 31, L23602. Rogers and Dragert (2003), Science, 300, 1942-1943. Tarling et al. (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042.

  • 山崎 秀策, 倉橋 稔幸
    セッションID: T1-P-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     沈み込み帯における蛇紋岩化作用は、マントルウェッジを構成するかんらん岩に沈み込むプレートから供給された流体が付加し、かんらん石・輝石が蛇紋石化する変成反応である。形成される蛇紋岩類は、温度圧力条件や関与した流体の組成と、蛇紋岩化の度合いに応じて様々な蛇紋岩化の組織と反応鉱物が形成され、多様な強度、密度や磁性を示す。従って、マントルウェッジにおける蛇紋岩化プロセス、岩石物性、化学組成の多様性を系統的に理解するためには、定性的な岩相・組織の記載に留まらず、蛇紋岩中の構成鉱物量比の定量化が必要であると考えられる。しかしながら、肉眼・偏光顕微鏡観察により蛇紋石種を精細に判別することは難しく、蛇紋岩類の組織や構成鉱物の多様性を定量的かつ簡便に評価する手法は確立されていない。

    2.手法

     熱重量・示差熱重量(TG-DTA)分析は、試料の加熱に伴う重量変化と基準物質との温度差(示差熱)を測定する手法であり、含水鉱物種の判別や含有量の推定に用いられる。また、TG測定結果を温度微分したDTG曲線より、リザーダイト、クリソタイル、アンチゴライトのピークを分離することで、蛇紋石鉱物の識別と含有量を推定する手法が提案されている(Viti et al. 2011)。先行研究では、ピーク形状が左右対称のVoigt関数を用いており、TG-DTAでは反応速度の温度依存性から一般にピーク形状が左右非対称となるため、解析結果に誤差を生じる可能性が示唆される。そこで本研究では、DTG曲線のピークフィット解析に、非対称形の関数である指数関数的に改変したガウス関数(EMG関数)を適用することで、蛇紋岩中の含水鉱物種の識別と含有量の定量化、そして総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比の推定を行った。また、XRD分析による鉱物含有量の分析、岩石薄片を用いた高温・低温蛇紋岩化組織の面積測定結果との対比を行った。

    3.試料と地質背景

     測定試料は、北海道の神居古潭帯に分布する鷹泊蛇紋岩岩体の縁辺部を掘削したトンネル建設において採取された水平ボーリング試料であり、蛇紋岩化度が95-100%の非変質な塊状蛇紋岩類を採取し分析した。蛇紋岩類は、リザーダイト+クリソタイル+ブルーサイト+磁鉄鉱のメッシュ状組織からなる低温型蛇紋岩と、一部に、アンチゴライト+クリソタイル+磁鉄鉱+ブルーサイトによる綾織状組織を示す高温型(アンチゴライト)蛇紋岩、および両組織が混在する岩相が確認された。また、かんらん石が残存する高温型蛇紋岩試料では、一部に変成かんらん石を伴うものがある。高温型蛇紋岩化作用に伴い、クロムスピネルの縁辺部が磁鉄鉱により交代される。また、蛇紋岩類の源岩はハルツバージャイトが主体であり、一部にダナイトを伴う。

     鷹泊蛇紋岩岩体は、空知—エゾ帯の幌加内(空知)オフィオライト下のマントルセクションに相当すると考えられており、白亜紀前弧海盆堆積物の蝦夷層群とその下位の空知層群の玄武岩類に覆われ、構造的下位で沈み込みスラブを起源とする角閃岩および青色片岩を含む神居古潭変成岩類(幌加内ユニット)と接する(竹下ほか, 2018)。試料採取地点を含む岩体縁辺部においてアンチゴライト蛇紋岩および混在型蛇紋岩が出現することから(Igarashi et al., 1985)、鷹泊岩体の縁辺部はウェッジマントルにおける蛇紋岩化の反応前線を記録している可能性がある。

    4.測定結果

     TG-DTAによる含水鉱物の定量結果として、蛇紋岩10 mgを用いたTGの繰り返し分析から、含有量5 wt%以上では誤差2-5%、含有量2-5 wt%では10-20%の精度で蛇紋岩中の含水鉱物(ブルーサイトおよび総蛇紋石量)を定量可能であった。また、アンチゴライト+ブルーサイト+磁鉄鉱からなる高温組織の面積率が61%となる蛇紋岩試料を対象に、EMG関数を用いたDTG曲線のピークフィット解析を行ったところ、アンチゴライト含有量は68%と推定され、XRDによる解析結果とも整合的であった。このように、TG分析により測定される総蛇紋石量に占めるアンチゴライト量比をDTG曲線のピークフィット解析により比較的精度良く推定することが可能であることがわかった。

    【引用文献】

    竹下ほか (2018), 地質学雑誌, 第124巻, 第7号, 491–515.

    Igarashi et al. (1985), Jour. of the Faculty of Sci. Hokkaido Univ., Series 4, 21(3), 305-319.

    Viti, C. et al. (2011), American Mineralogist, Vol. 96, 1003-1011.

  • 岡本 敦, 吉田 一貴, 大柳 良介
    セッションID: T1-P-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    海洋リソスフェア、または沈み込み帯において最も大きな物質的な境界の1つは地殻とマントルの境界である。地殻はシリカに富み、マントルはマグネシウムに富むために、水流体が存在する場合には大きな物質移動を伴った反応、すなわち交代作用が起こる。特に、地殻に石英が存在する場合、その溶解度は非常に高いために、沈み込み帯のプレート境界ではシリカがマントル側に移動して滑石などができるシリカ交代作用が起こると考えられている(Manning, 1995)。また、マントル-地殻境界を模擬したかんらん石-石英、かんらん石-斜長石の物質境界を用いた水熱実験(200-300 degreeC, 飽和蒸気圧)においては、石英や斜長石側が一方的に溶解して、かんらん石側にそれぞれ滑石/蛇紋石/蛇紋石+ブルース石+マグネタイト、Al蛇紋石/蛇紋石/蛇紋石+ブルース石+マグネタイトという反応帯を作ることを報告している(Oyanagi et al., 2020)。一方で、三波川変成帯などで観察される蛇紋岩体と泥質片岩の境界においては、蛇紋岩体側にトレモライト岩が形成し、泥質片岩側に緑泥石岩が形成することがしばしば報告されている(Okamoto et al., 2021)。このことは、マグネシウムがマントルから地殻へと移動していることを示唆している。本講演では、沈み込み帯におけるマグネシウムとシリカの移動度について、その要因と重要性について検討した結果を報告する。近年、開発が進んでいる、溶液の熱力学モデルを用いて、南海トラフの沈み込み帯の温度構造に沿って、泥質片岩及びかんらん岩と平衡な溶液組成を計算した。その結果、450˚C, 1GPa程度の条件において、泥質片岩中の水溶液ではシリカの濃度がマグネシウムに比べて4桁以上も高くなる、一方、蛇紋岩化したかんらん岩に平衡な流体は、Mg濃度の方がシリカよりも2桁ほど大きい。また、興味深いことに、マントル中のMg濃度は泥質片岩中のシリカ濃度と同等、または大きくなることが明らかになった。このことは、沈み込み帯深部の条件において、シリカとマグネシウムの相互の元素移動が起こることを示唆している。このような条件は、沈み込み帯流体のpHやそれによるMg(OH)2,aqなどの錯体の濃度が高いことに依存すると考えられる。また、シリカが流入してながら蛇紋岩化してマントルウェッジが膨張する、または、マグネシウムが抜けながら体積収縮しながら交代作用をする、という2つのケースについて離散要素法のシミュレーションをおこなった。その結果、流体圧の上昇の仕方、また亀裂の形成の仕方が大きく異なることが明らかとなった。この沈み込み帯溶液組成の違いを異なる沈み込み帯で比較するとともに、天然の産状との対応を詳細に検討する予定である。 Manning, C.E., (1995) Int Geol. Review, 337, 1074-1093; Oyangi et al., (2020) Geochim. Cosmochim. Act., 270, 21-42; Okamoto, A. et al., (2021) Comm Earth Env, 2:151

  • 阿部 日誉里, 平内 健一
    セッションID: T1-P-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沈み込み帯域オフィオライトは,海洋プレートの沈み込み開始時におけるマントルウェッジの様子を観察できる天然の例として挙げられる(Prigent et al., 2018b).オフィオライトの下位にみられるメタモルフィックソールはスラブ物質を起源とし,両者の境界は沈み込み開始当時のプレート境界に相当する.したがって,オフィオライトの基底部かんらん岩の変形・熱水変質作用の特徴を調べることは,スラブ直上のマントルウェッジのレオロジー的性質を理解する上で重要である.本研究では,マントルウェッジ基底部における変形・熱水変質作用が沈み込み開始過程に及ぼす影響を理解することを目的として,フィリピン共和国のパラワン島に露出するパラワンオフィオライトの基底部かんらん岩体について構造岩石学的解析を行った.

     パラワン島のUlugan Bay東岸にはメタモルフィックソールを構成する角閃岩が分布し,直上に位置する基底部かんらん岩と断層を介して接する(Keenan et al., 2016).Valera et al. (2021)は,メタモルフィックソールの角閃岩の変成ピークが約700 °C,13 kbarであることを明らかにした.Keenan et al. (2016)は,オフィオライト構成岩石と角閃岩の年代測定結果から,約34 Maに中央海嶺の拡大軸付近で強制的沈み込みが起こったことを指摘している.

     本研究で採取した基底部かんらん岩はダナイトおよびハルツバージャイトまたはレルゾライトから構成され,少なくとも幅約2 kmにわたってかんらん石の動的再結晶による細粒化が進んでいることを明らかにした.細粒化の程度はメタモルフィックソールに近い地点ほど高く,細粒なかんらん岩は,より低温下でのかんらん石の溶解と滑石の析出を経験していた.滑石はネットワーク状に析出しており,かんらん石以外の鉱物はほとんど認められなかった.

     オフィオライト基底部において,かんらん石の変形機構が転位クリープであったことが示唆される.また,滑石の析出は,スラブ脱水に由来する水流体の供給に伴って起こったことが示唆される.摩擦係数の低い滑石が片理面に沿ってネットワーク状に析出していることは,基底部かんらん岩の強度を低下させると考えられ,このことから,沈み込み初期のマントルウェッジ基底部における熱水変質作用は,剪断帯を弱化させ,海洋プレートの継続的な沈み込みを促進していたことが示唆される.

    引用文献:Keenan et al. (2016), Proceedings of the National Academy of Sciences, 113, 7379-7366. Prigent et al. (2018b), Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123, 7529-7549. Valera et al. (2021), Journal of Metamorphic Geology, 40, 717-749.

  • Chenghan Liu, Qi Wang, Takamoto Okudaira, Norio Shigematsu
    セッションID: T1-P-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Introduction:Cathodoluminescence (CL) is sensitive to defects and/or impurities in crystals. CL images have been used to observe microstructures within grains to understand mineral growth and diagenetic processes (Götze 2009). It has also been used in structural geology to observe patterns of healed fractures, subgrain boundaries (SGBs), and twins (Shimamoto et al 1991; Hamers et al 2017). We observed deformed quartz phenocrysts with different degrees in mylonitized granite porphyries reported by Kano and Takagi (2013). In CL images of the deformed quartz phenocrysts, some planar deformation features (PDFs) can be observed. In this study, we analyzed the CL images and EBSD maps of the weakly deformed quartz phenocryst to clarify the formation processes of PDFs observed in CL images. In addition, we will evaluate impurity distribution within quartz phenocrysts by EPMA compositional maps and FT-IR H2O concentration maps.

    Results and Discussion:Quartz phenocrysts exhibit an undulose extinction indicative of internal plasticity under the optical microscope. Kernel Average Misorientation (KAM) maps and orientation difference profile normal to the extension direction of an undulose extinction show misorientation angles between two adjacent pixels are less than 2°. SGBs with a misorientation angle of no less than 0.4° can be assigned to almost all the PDFs. In pole figures, the crystallographic axes and planes of quartz are rotated around the c-axis, and the misorientation axes distribute parallel to the c-axis, indicating a dominant prism <a> slip system. Our observations suggest that SGBs under the optical and EBSD observations can be comparable with the PDFs in CL images, implying that the PDFs in CL images can be derived from the accumulation of defects to SGBs. Furthermore, we estimated the stress applied to quartz phenocryst based on the subgrain size piezometer of Goddard et al (2020). Given the misorientation angle of 1°, the subgrain size is 29 µm, and the estimated stress is 14 MPa.

    References: Goddard et al (2020) Geophys Res Lett 47:e2020GL090056; Götze (2009) Mineral Mag 73:645–671; Hamers et al (2017) Phys Chem Mineral 44:263–275; Kano and Takagi (2013) Geol Soc Japan 119:776–793; Shimamoto et al (1991) J Struct Geol 13:967–973.

  • 王 琦, 奥平 敬元, 重松 紀生
    セッションID: T1-P-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    During plastic deformation of quartz under the upper crustal conditions, <a> slip systems are predominantly active, which has been considered to be temperature-dependent (Law 2014). However, based on a detailed textural analysis of CPOs of experimentally and naturally deformed quartz samples, Kilian and Heilbronner (2017) argued that the basal <a> slip system is not the dominant slip system under the upper crustal conditions. To clarify the relative importance of slip systems in quartz, based on optical and EBSD observations, we analyze quartz phenocrysts in deformed granite porphyry samples of different strains reported by Kano and Takagi (2013). The quartz phenocrysts exhibit undulate extinction, commonly elongate and lenticular with different aspect ratios (ARs) (i.e., strain) ranging from 1.2 to 6.3 to identify the dominant active slip system based on misorientation analyses via EBSD data (Lloyd et al. 1997). The misorientation axis of almost all concentrated subparallel to the Y-axis (i.e., rotation axis) of the sample coordinates. Only the phenocryst with AR=1.8 has concentrated in the periphery near the Z-axis of the sample coordinates and also parallel to the [c] axis; the high density distributed around the [c] axis in the crystal coordinates may be twist boundary. Phenocrysts with ARs of 6.3 and 3.7, the misorientation density shows a maximum around the [c] axis, indicative of the activity of prism <a>. Phenocryst with AR of 3.1, the highest density concentration is close to the {m} and perpendicular to the [c] axis, indicative of the activity of basal <a> (+ prism [c]). The phenocryst with AR of 1.6 has distributed two concentrations around the [c] and <a> axes, indicative of twist boundary (basal +basal ) and the activity of prism [c]. Consequently, the dominant slip systems in the quartz phenocrysts are prism <a> and basal <a> (+ prism [c]). The values of the AR of quartz phenocrysts indicative of the activity of prism <a> slip system are higher than those with basal <a> slip system, implying that the CRSS for the former is lower than that for the latter. References: Kano and Takagi (2013) J Geol Soc Japan 119:776. Lloyd et al. (1997) Tectonicphysics 279:55. Kilian and Heilbronner (2017) Solid Earth 8:1095. Law (2014) J Struct Geol 66:129.

T2(ポスター).新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで
  • 辻野 匠
    セッションID: T2-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    [はじめに]

    京都府北部 丹後半島は西南日本背弧側にあって,火山岩の卓越した中新統・鮮新統が広く分布している.本地域の火山活動・堆積盆発達史の解明は中新世の日本海の拡大の実態の理解に貢献する.ここでは,作成中の地質図に基づき火山岩の主成分分析194点(変質岩を含む),微量元素分析33点(分析 Actlabs)の結果を考察する.

    [地質概説]

    本地域の新第三系は宮津花崗岩を基盤として薄い礫岩を基底に下から八鹿層,豊岡層,網野層,丹後層,経ヶ岬層に区分される.八鹿層は玄武岩〜安山岩を主体とし,多くは陸成である.豊岡層は陸成・湖成の砕屑岩と火山砕屑岩からなり,一部は熔結する.網野層は海成層で基底礫岩に泥岩が累重し,それに火山砕屑岩が指交・累重する.サージや豆石が認められ浅海化が示唆される.豊岡層と網野層中には流紋岩のドームも発達する.丹後層はデイサイト溶岩・火山砕屑岩・貫入岩が卓越し,浅海・陸上噴火を示す.最上位に玄武岩質安山岩溶岩が累重し,蝙蝠岳部層と呼ぶ.これは丹後層の上位層とされていたが,噴出年代(後述)が同時期なので丹後層に含める.更に上位にデイサイトからなる経ヶ岬層が累重する.

    [分析結果]

    本地域の火山岩はTAS図では全て非アルカリ岩で,概ねmedium-K領域にある.FeO*/MgO比では八鹿層と蝙蝠岳部層がソレアイト(TH)とカルクアルカリ(CA)両側にまたがるが,豊岡層・網野層はTH,丹後層と経ヶ岬層はCAである.八鹿層はSiO2が49-58%で幅があるが,程度の差はあれ変質している.MgOは2.5-7.5%で,やや富むものもある.豊岡層と網野層のSiO2は72%以上で,MgOは概ね1%以下である.丹後層のSiO2は63-74%で,MgOは0.3-2%である.蝙蝠岳部層は54-55%,MgOは4-6%で,八鹿層と似ているが層位が異なり,まったく新鮮である.経ヶ岬層はSiO2が64%前後で,MgOは1.5-3%である.なお,経ヶ岬層はYが7.1-8.4,Sr/Yが86-115で,アダカイトである.L-Ybでもアダカイトの下限に位置する.

    不適合元素では全体にLILEが富みHFSEに乏しい島弧的なパターンを示すが八鹿層はLILEとHFSEの差は10倍程度である.シリカが多い豊岡層・網野層でLILEとHFSEの差が拡大し,PとTiが枯渇する.丹後層のデイサイトは八鹿層と豊岡層・網野層の中間的な組成を示す.蝙蝠岳部層は逆に八鹿層と同じパターンに戻る.経ヶ岬層は丹後層デイサイトと類似するがYに枯渇し,HFSE間の差が乏しいフラットなパターンを示す.N-MORBで規格化した微量元素パターンでは全体としてNb, Taに枯渇しPbに富み島弧的であるが,八鹿層と蝙蝠岳安山岩はZr,Hf,軽希土類が低めになる.経ヶ岬層は重希土類に枯渇している.

    [年代]

    八鹿層は基底付近が約21.5 Ma(1)で前期中新世である,豊岡層上部の熔結凝灰岩基底の非熔結部(網野字郷切畑)から16.6±1.0MaのジルコンFT年代(分析 京都フィッショントラック)が得られた.この試料のU-Pb年代は60-90Maに集中する(加重平均 72.4±0.65 Ma).網野層からは全岩及び黒雲母K-Ar年代として約15 Ma(2)を示し,上部の凝灰岩(五色浜の府道)から16.2±1.0 MaのU-Pb年代が得られた(分析 同社).丹後層は,蝙蝠岳部層以外の全岩K-Ar年代は15〜13 Maに集中し(2),蝙蝠岳部層(新井漁港南0.4kmの海岸)は基質K-Ar年代として14.01±0.80 Ma(分析 蒜山地質年代学研究所)が得られている.経ヶ岬層は3.8 Maの全岩K-Ar年代が得られている(2).

    [地史と考察]

    八鹿層はリフト期で苦鉄質火山活動が活発だったが,それが終了して陸成・湖成層の豊岡層が堆積した.この時は熔結凝灰岩をともなう珪長質な火山活動だが,凝灰岩のU-Pb年代値は異質ジルコンの混入を示唆し,72 Maという年代は基盤の宮津花崗岩(60 Ma頃)より若干古い花崗岩が地下にあることを窺わせる.続く網野層の海進は近隣の但馬地域や内浦湾岸地域と違って急に深くなる.流紋岩の火山活動は続くが浅海化し,丹後層ではデイサイト質になるが,最後に八鹿層と近い組成の蝙蝠岳部層が噴出して,中新世の活動は終了する.これは内浦湾岸地域(青葉山安山岩)と共通する.リフト期にしばしば見られるバイモーダル火山活動は丹後半島では時期がずれている.網野層・丹後層の急速な隆起と火山活動の変質は15 Maころのリフトの中断との関係が示唆される.また,西南日本のアダカイトの東端は氷ノ山(兵庫県)であったが,経ヶ岬も加わる.

    [文献] (1) 羽地・山路,2019,地質雑,685-698.(2) 山元・星住,1988,地質雑,769-781

  • 長坂 知佳, 清杉 孝司, 鈴木 桂子, 中岡 礼奈, 三木 雅子
    セッションID: T2-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    西南日本は日本海拡大初期(19-18Ma)に回転を伴わずに大陸から分裂・ドリフトし,18-16Maのある時期に約40° 回転して現在の位置に移動したと考えられている[1;2].これらのテクトニクスのアプローチと共に,そこに噴出するマグマの性質や関連性を明らかにする第一歩として,日本海拡大初期に噴出した玄武岩を含む北但層群八鹿累層と,西南日本の時計回り回転時に形成された北但層群豊岡累層(共に京都府北部丹後半島に分布)の,古地磁気方位測定及び全岩化学組成の分析を行った.

    地質概要

    八鹿累層は20-17Ma[3]のピクライト質玄武岩~安山岩溶岩と火砕岩からなり,このピクライト質玄武岩は日本海拡大初期に形成されたと考えられている[4].古地磁気方位はSakamoto[5]により測定されているが,溶岩のクリンカー部を測定しているためかサイト平均にばらつきが見られる.豊岡累層は,下位は溶岩層,上位は堆積層[3]で形成され,丹後半島では不規則な割れ目の入った流紋岩質の塊状溶岩が観察された.また堆積層には15Maの中新統に見られる動物化石群を含む[6].豊岡累層の古地磁気方位測定結果は,下位の溶岩層が偏角D=23.8° を示し,上位の堆積岩層の偏角がほぼ北向きを示すことから,西南日本の時計回り回転を記録していると考えられている[6].ただしIshikawa et al.[6]で示された回転量は,[1]による西南日本の総回転量である約40° と比較するとかなり小さい.

    手法

    本研究では,八鹿累層の塊状溶岩3露頭と豊岡累層の塊状溶岩2露頭から,それぞれ8-10個のサンプルを採取し,段階熱消磁実験による古地磁気方位測定を行った.また同試料を用いて全岩化学組成分析も行った.古地磁気方位測定は,神戸大学のスピナー磁力計 (夏原技研製SMM-85)を用い,段階熱消磁実験にはTDS-1を使用した.全岩化学組成分析は,神戸大学の蛍光X線分析装置(リガク製ZSX Primus II)を用い,主成分と微量元素の測定を行った.

    古地磁気方位測定結果

    八鹿累層は,走向傾斜を得られていないため傾動補正を行っていないが,得られた平均古地磁気方位は下位から上位にかけて偏角D=36.3°, 35.9°, 24.0° と東偏から北偏へ変化していた.伏角はI=68.2°,15.1°,57.5° が得られた.豊岡累層は,同地域に分布する豊岡累層の砂礫層から得られた走向傾斜(N16°E, 9°E)を用いて傾動補正を行い,下位から偏角D=40.5°, 33.0°,伏角I=70.4°, 14.7° を得られた.豊岡累層の古地磁気方位の結果は,現在の磁北の位置より東偏であり,先行研究で得られている古地磁気方位の結果[6]と整合的である.

    全岩化学組成分析結果

    八鹿累層の3露頭から得られた溶岩の全岩化学組成及び微量元素の測定結果は,下位の溶岩で約50-52 wt% のSiO₂量を示し,上位の溶岩で約58 wt% のSiO₂量を示した.またピクライト質玄武岩ではNb値に強い負の異常が見られた.これは石渡, 今坂[4]と整合的である.豊岡累層下位の2露頭から得られた全岩化学組成及び微量元素の結果は,SiO₂量が約68-76 wt% の非アルカリ性のデイサイトから流紋岩を示し,こちらも先行研究[3]と一致する結果が得られた.

    議論

    本研究において,豊岡累層から得られた古地磁気方位測定の結果は,Ishikawa et al.[6]が測定した豊岡累層の溶岩の古地磁気方位(D=23.8°)より大きな東偏を示した.このことから,本研究で測定した豊岡累層は,Ishikawa et al.[6]が調査を行った豊岡累層の溶岩よりも下位の層に相当すると考えられる.また傾動補正を行っていないものの,八鹿累層の古地磁気方位測定結果からも偏角に変動の兆候が見られた.このことは,八鹿累層が日本海拡大初期のみならず,西南日本の時計回り回転も記録している可能性があることを示す.古地磁気方位を物差しとした溶岩層序の再検討を行うことで, テクトニクスに対応したマグマ組成の変遷を明らかにできる可能性がある.

    引用文献

    1.Otofuji, Y. 1996, Isl, Arc 5, 229-249.

    2.星博幸 2018, 地質雑 124, 675-691.

    3.山元孝広, 星住英夫 1988, 地質雑 94, 769-781.

    4.石渡明, 今坂美絵 2002, 地質雑 108, 671-684.

    5.Sakamoto, M. 1992, J Geomag. Geoelectr., 44, 55-63.

    6.Ishikawa, N., et al. 2017, Evolutionary Models of Convergent Margins Origin of Their Diversity Edited by Itoh, Y. 155-176.

  • 松原 典孝, 郡山 鈴夏, 佐野 恭平, 羽地 俊樹, 檀原 徹, 岩野 英樹, 平田 岳史
    セッションID: T2-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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  • 矢部 淳, 清水 道代, 齊藤 毅, 小林 真生子
    セッションID: T2-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    鳥取―岡山県境地域は後期中新世の陸上植物相を代表する三徳型植物群の模式地であり,当時地質調査所に所属していた棚井敏雅と尾上亨によって1961年に報告されて以来,多くの古植物学的研究が行われてきた(Tanai and Onoe, 1961; Ozaki, 1979, 1980a, b, 1981; Uemura, 1986など).Tanai and Onoe (1961)は,「三徳型」の名前の由来となった三徳植物群(鳥取県三朝町吉原)とともに,人形峠植物群(鳥取―岡山県境)と恩原植物群(岡山県鏡野町)という大型植物化石群集を報告し,それら3つをあわせて伯耆植物群と呼んだ.これらの植物化石群集は温帯性の落葉広葉樹と針葉樹に若干の常緑広葉樹を含む組成で,特に後2者にムカシブナFagus stuxbergiを多く含むなど組成的類似性があるものの,中期中新世からつづく温暖要素の割合などに違いが認められていた.Tanai and Onoe (1961)は,その原因を化石群集の時代差に求め,中期中新世以降,鮮新世まで一様に寒冷化するという当時の古気候論に沿って,もっとも温暖な組成を持つ三徳植物群を後期中新世に,恩原植物群を中新―鮮新世に,人形峠植物群を鮮新世に対比した.これら鳥取―岡山県境域の中新―鮮新統は主として陸成層(湖成層)からなり,層序が複雑であることに加え,近年まで信頼性の高い放射年代値も得られずにいたため,その後の地質学的研究の中では,しばしば植物化石にもとづいた化石群集の時代論が参照されていた.しかし,近年得られるようになった年代値や花粉層序学的なデータは,これらの時代論に見直しが必要なことを示唆していた(Yabe and Yamakawa, 2017).演者らは,日本の温帯林植生の起源を考える上で重要な「三徳型」の時代や環境そして植生の広がりを解明するため,現在,伯耆植物群の再検討を進めている(清水ほか, 2022).講演では,赤木ほか(1984)で報告され,吉原と同層準と推測される三朝成の化石群集の検討結果と,新たに得られたU-Pb年代の測定結果を報告するとともに,峠を挟んで恩原と対照的な位置にあり,層序学的に対比可能な辰巳峠植物群化石産地での花粉分析結果(齊藤・市谷, 2007)を踏まえて,伯耆植物群が互いにほとんど時代の変わらない堆積物であり,概ね5-6Maの年代に集中することを述べる.また,三朝成での研究から,少なくとも同化石群集については,当時成立した内陸湖近傍の植生を反映していると予想されることから,植物化石群集の組成から堆積盆の高度などを議論して,中国地方のテクトニクスの議論に貢献できるデータとなる可能性がある.

    <参考文献>

    赤木三郎ほか, 1984, 鳥取大教育研報. 自然, 33: 49-70; Ozaki, K., 1979, Sci. Repts. Yokohama Natl. Univ., II, (26), p. 31-56; Ozaki, K., 1980a, Bull. Natl. Sci. Mus., C, 6: 33-58; Ozaki, K., 1980b, Sci. Repts. Yokohama Natl. Univ., II, (27): 19-45; Ozaki, K., 1981, Sci. Repts. Yokohama Natl. Univ., II, (28): 47-75; Uemura, K., 1986, Bull. Nat. Sci. Mus., C, 12: 121-130; 齊藤 毅・市谷年弘, 2007, 日本花粉学会会誌, 53, 29-39; 清水道代ほか, 2022, 鳥取地学会第27回総会・記念講演会・研究発表会講演要旨, 11-12; Tanai, T. and Onoe, T., 1961, Rept. Geol. Surv. Japan, (187): 1-63; Uemura, K., 1986, Bull. Nat. Sci. Mus., C, 12: 121-130; Yabe, A. and Yamakawa, C., 2017, Paleont. Res., 21: 309-328.

  • 崎 海斗, 遠藤 俊祐
    セッションID: T2-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】 四国の中央構造線(MTL)は,西条市湯谷口西方から東温市音田にかけて南北走向・西傾斜となり,桜樹屈曲と呼ばれる.桜樹屈曲南方には,中新統の久万層群や石鎚層群が広く分布し,日本海拡大期の前弧地殻内変形に関する多くの研究が行われている.基盤の地質構造に関して,桜樹屈曲以西の三波川変成岩の構造的上位には唐崎マイロナイトが分布する低角構造が保存されているなど,桜樹屈曲を境に違いがみられる.桜樹屈曲北部は現在の応力場で右横ずれ活断層の重信川断層と川上断層のあいだの圧縮性ジョグに相当する一方,それより南方に貫入する土谷流紋岩体(14 Ma)は顕著な破砕は受けておらず,桜樹屈曲中部~南部(千原鉱山周辺)は中期中新世以前の地殻変動史を保存していると考えられる.今回,この地域から新たに見出した桜樹屈曲のMTL露頭と変成斑れい岩について報告する.

    【地質】 本地域の三波川変成岩の層序は見かけ下位から,泥質片岩卓越層(A unit),苦鉄質片岩卓越層(B unit),珪質片岩を挟む泥質片岩層(C unit)に区分でき,これらはまとめて四国中央部の白滝ユニットに対比できる.この基本層序は,東西軸の横臥褶曲の繰り返しによる極めて複雑な地質構造を示す.三波川変成岩の主延性変形は,南北走向の桜樹屈曲近傍でも四国の一般傾向と同じく東西伸長線構造を示す.変成作用は一部の苦鉄質片岩に藍閃石+緑れん石が出現し,泥質片岩はざくろ石を含まない緑泥石帯高温部の変成度が大部分を占めるが,面木山周辺域は泥質片岩が粗粒化し,ざくろ石が出現する.C unitは面木山稜線からMTL沿いに分布する.MTL沿いのC unit最上位にカタクレーサイト化した変成斑れい岩を見出した.この変成斑れい岩は,残留鉱物として単斜輝石と褐色~緑色ホルンブレンド,変成鉱物としてアクチノ閃石~フェリウィンチ閃石+緑れん石+アルバイトを含む.桜樹屈曲部のB unitとC unitの境界は西落ち高角正断層となっており,これは千原鉱山坑内で記載された正断層群(Kanehira 1959)に関係づけられる. 土谷流紋岩体の貫入面東側に桜樹屈曲のMTL露頭を2箇所発見した.2箇所のうち北側の露頭は和泉層群由来の未固結破砕帯で,主断層面は中角西傾斜,P-Y複合面構造から上盤南南西ずれを示す.南側の露頭は苦鉄質片岩と和泉層群の泥岩の地質境界で,主断層面は極めて低角な北西傾斜,P-Y複合面構造から上盤南西ずれを示す.

    【議論】 本地域の三波川変成岩の構造的最上位を占める変成斑れい岩は,角閃石や単斜輝石の組成から原岩形成後にグラニュライト相~角閃岩相の冷却を経て,周囲の結晶片岩と同等の三波川変成作用を受けている.明確な三波川変成作用の証拠をもたない唐崎マイロナイトの一員と考えるのは難しい.また,四国西部に分布する139-135 Ma火山弧型変成斑れい岩(Kawaguchi et al. 2022)との関係も明らかでないが,本地域の変成斑れい岩も産状から上盤(大陸下部地殻)から取り込まれた可能性が高い. 千原鉱山の東西に伸長したキースラーガー鉱床は桜樹屈曲に向かい西落ち高角正断層により段階的に変位しており(Kanehira 1959),本研究により地表でも同様の固結断層を確認した.少なくともある時期に桜樹屈曲は正断層として活動したことを示すと考えられる.また,桜樹屈曲から直接得られた上盤南西~南南西ずれ(左横ずれ~正断層成分を含む左横ずれ断層)の運動は,付近の土谷流紋岩が破砕を受けていないため,14 Ma以前と考えられるが,未固結断層であるため深部のものではない.久万層群および石鎚層群の形成期間(18~14 Ma)に,弧平行(ENE-WSW)伸長テクトニクス(楠橋・山路2001),弧垂直短縮テクトニクス(砥部衝上),弧垂直伸長テクトニクス(石鎚時階)の変遷があったとされる.前二者のどちらかの応力場での運動と考えられるが,より詳しい時期の制約や桜樹屈曲の成因との関係は今後の課題である.

    引用文献 Kanehira, K. (1959) Jour. Fac. Sci. Univ. Tokyo, Sec. 2, 11, 308-339. Kawaguchi et al. (2022) Geosci. J. 26, 37–54. 楠橋・山路(2001)地質雑誌,107, 26-40.

  • 石野 沙季, 井上 卓彦, 三澤 文慶, 高下 裕章, 有元 純
    セッションID: T2-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    琉球孤は典型的な海溝―島弧―背弧海盆系を形成しており,琉球孤東方の琉球海溝ではフィリピン海プレートが北西方向に沈み込み,また西方の沖縄トラフでは背弧拡大が進行している.琉球孤の海域を対象とした研究は,東シナ海陸棚及び沖縄トラフの地質構造発達史を広域的に理解しようとしたものや,熱水活動が多く発見された沖縄トラフ南部海域における精密地質調査に関するものが多い(例えば,Nishizawa et al., 2019; Fang et al., 2020; Ishibashi et al., 2015; Arai et al., 2017).一方で,トカラ列島を中心とした琉球孤北部のローカルなテクトニクスに関する知見は南部に比べて少ない.産業技術総合研究所では,地質情報整備の一環である海洋地質図の作成を目的として,2021年より琉球孤北部・トカラ列島周辺の海底地質調査を実施している.本発表では,2021年までに実施した宝島周辺海域の音波探査記録によって得られた音響層序や火山・断層の特徴について報告する.

    マルチチャネル反射法音波探査には,東海大学海洋調査研修船「望星丸」および東京海洋大学海洋調査船「神鷹丸」を使用した.測線は,口永良部島から悪石島に至る第四紀の火山弧に対して直交する西北西―東南東方向に2マイル(約3.7 km)間隔で,火山弧に並行する北北東―南南西方向に4マイル(約7.4 km)間隔で設定し,およそ100 km四方に渡って探査を実施した.音源はGIガン(Sercel社製,355 cu. in.)を,受波は200mデジタルストリーマーケーブル(Geometrics社製GeoEel:受信点8 ch /100 m)を用いた.発振点間隔は約25 m,共通反射点間隔(CMP)は約6.25 mとなるよう設定した.収録したデータは,バンドパスフィルタリング,球面発散補正,デコンボリューション,速度解析を行なった上で,重合処理をした.なお,本航海では反射法音波探査の他に,サブボトムプロファーラーによる高分解能音波探査,海底地形調査,重磁力調査,海底試料採取も行っている.

    本研究では,宝島の東部および西部海域で分け,主要な構造運動によって形成されたと考えられる不整合面に従って地層を区分した.

    調査海域西部では,宝島西方の堆積層中に3面の不整合面が認められ,地層を4層に区分した.反射断面に見られる地層の変位と同航海で観測した海底地形に認められる線状構造(高下ほか,2022)を照らし合わせた結果,北東―南西および東北東―西南西走向の正断層が複数分布することがわかった.音響層序ごとの変位・変形と対比した結果,これらの正断層は沖縄トラフ東縁部に沿った構造運動で形成されたもの(北東―南西走向)と,沖縄トラフ内部および宝島南西沖の比較的新しい構造運動で形成されたもの(東北東―西南西走向)に識別された.

    調査海域東部では,音響的な層相の違いおよび不整合面から地層を5層に区分した.この海域では調査海域西部とは異なり,東西走向の正断層が卓越して分布する.奄美トラフやトカラ海峡付近では,断層による累積性のある変位が反射断面で区分した複数の地層に認められることから,断続的に南北方向の伸張を受けていると考えられる.一方で,宝島東側の一部の斜面では全ての地層が正断層によって同様の変形を伴っており,トカラ海峡周辺に分布するものより新しく活動を開始した断層の存在が示唆された.

    [引用文献]

    Arai, R. et al. (2017) Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 122, 622–641.

    Fang, P .et al. (2020) Marine and Petroleum Geology, 111, 662–675.

    Ishibashi, J. et al. (2015) In: J. Ishibashi, K. Okino, and M. Sunamura (eds.) Subseafloor biosphere linked to hydrothermal systems.Springer, 337–359.

    高下ほか(2022)地質調査研究報告,in press.

    Nishizawa, A. et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71, 1–26.

  • 高下 裕章, 佐藤 太一, 石野 沙季, 三澤 文慶, 有元 純, 鈴木 克明, 石塚 治, 横山 由香, 佐藤 悠介, 永井 あすか, 古 ...
    セッションID: T2-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    大陸縁辺の沈み込み帯で初期背弧拡大が活動的な場所は,地球上に沖縄トラフと南極半島・ブランスフィールド海峡のみである.両海域は沈み込み帯縁辺での背弧拡大が始まるメカニズムを理解するための重要な研究対象地域であるため,現在も活発な研究や議論が行われている.沖縄トラフは後期中新世から現在に至るまでリフティングが継続する活動的な背弧海盆として知られ,地形的な凹地であるトカラギャップ及び慶良間海裂により北部・中部・南部の3つに区分される.この3区画ではリフティングの進行過程が異なることが明らかになっており,同じ海域内でリフト形成過程の時間変化を調査することができる特徴を持つ. 産業技術総合研究所では,地質情報整備の一環である海洋地質図の作成を目的として,2021年よりトカラ列島周辺の海底地質調査を実施しており(神鷹丸GS21, GS22; 望星丸GB21-1, 2, 3, GB22-1),本研究ではそれらのデータに加え,白鳳丸KH-22-2のデータも加えて,沖縄トラフ内でも最も若いリフティング域として知られる北部海域のトカラ列島周辺海域で最も高密度な地球物理学データ(地形・磁気)を観測し,コンパイルを行った.また,コンパイルした地形データを基にブーゲー重力異常の計算を行った. これらの地球物理学的データの集積により,沖縄トラフ北部内では活発な断層・火成活動が認められた.まず,調査海域内に2系統のリニアメント(N24°E及びN73°E方向)が混在することが明らかになった.これらのうちN73°Eのリニアメントで構成される海丘群を横当雁行海丘群と名付け,その地形学的記載を行った.横当雁行海丘群は磁気異常の特徴から火山性の構造が示唆され,かつ周囲に存在するグラーベンも同様のリニアメントを示す.このことから,横当雁行海丘群および周辺海域の一部ではN73°Eのリニアメントを形成するようなローカルな伸長場が存在し,この伸長速度と地下からのメルト供給のバランスで海丘群が形成されたと考えられる.本海域は沖縄トラフの拡大・トカラギャップの形成という2つのテクトニクスの影響を強く受けた海域であり,今後の課題として横当雁行海丘群や周辺の海底火山群の地形探査を進め、さらにそれらの形成年代を海底岩石調査などで調べて相互に比較することが背弧リフト形成史の理解につながると考えられる.

T3(ポスター). 南大洋・南極氷床:地質学から解く南極と地球環境の過去・現在・未来
  • 石輪 健樹, 徳田 悠希, 香月 興太, 佐々木 聡史, 板木 拓也, 菅沼 悠介, 奥野 淳一
    セッションID: T3-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    南極の湖底堆積物は、海水準や氷床変動などの古環境を復元するための貴重な地質学的アーカイブである。しかし、南極の湖沼において、1つの湖の詳細な古環境復元を複数の湖底堆積物コア試料から試みた例は少なく、海水準変動をはじめとする外的要因に対する湖沼内で応答の違いについて詳細な検討はなされていない。本研究では、1つの湖沼から採取された複数の堆積物コア試料から海水準変動に対する湖沼内の環境変化を復元することを目的とした。第61次日本南極地域観測隊の地形調査では、東南極リュツォ・ホルム湾のラングホブデに位置するぬるめ池において4本の堆積物コア試料を採取した(石輪ほか、2020)。最深部(約16 m)のコアは湖盆上の地形で採取され、他のコアは比較的浅い(約8–5 m)谷状の地形で採取された。ぬるめ池は成層構造を有しており、異なる深度のコア試料分析により過去の成層構造の変化を復元可能である。放射性炭素年代測定の結果、完新世の古環境変動が復元可能であることが示された。本研究では堆積層解析、CTスキャンやXRFによる非破壊分析、および珪藻分析から過去の水塊構造の変化を推定した。また、GIAモデルにより海水準変動史を求め、海水準変動がぬるめ池に及ぼす影響を評価した。本発表では、堆積物コア試料から復元された古環境変動と海水準変動との関連性について議論する。

    引用文献

    石輪健樹, 徳田悠希, 板木拓也, 佐々木聡史. 2020. 第61次日本南極地域観測隊における宗谷海岸域の地形調査の報告. 南極資料 64, 330–350.

  • 佐々木 聡史, 入月 俊明, 石輪 健樹, 徳田 悠希, 板木 拓也, 菅沼 悠介
    セッションID: T3-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    最終氷期最盛期以降,南極氷床は融解を始め,現在の急速な融解は大きな地球環境問題となっている(e.g., DeConto and Pollard, 2016).東南極の氷床量は西南極より約10倍(Paolo et al., 2015),東南極における古環境変動に関する研究は西南極に比べ少なく(e.g., 菅沼ほか,2020),南極氷床融解史を構築する上での不確実性に繋がっている.南極氷床の融解量や空間分布の定量的な評価には、海水準変動をはじめとする古環境変動を地質試料から復元することが重要である. “示相化石”を用いた古生物学的研究が古環境変動研究では有用な手法である.甲殻類に属す貝形虫は,堆積物中に長期間保存される1 mm前後の2枚の石灰質殻をもち,他の微化石と比べ,各々の水環境に対して種ごとに細かく棲み分けており,進化速度が遅く現生と化石間で分類群の共通性が高いことから,新第三紀や第四紀のような新しい時代の地層における有力な示相化石として古環境を復元する上で重要な分類群である(e.g., Horne et al., 2002).しかし,貝形虫の現生種分類や分布に関する研究は西南極を中心に行われ,東南極における研究は少ない(Yasuhara et al., 2007).また,種構成と生息場所の底質,水深,水温などの環境条件との関連性は十分には明らかになっていない(e.g., Sasaki et al., in press). そこで本研究では,第61次日本南極地域観測隊地形調査において、東南極ラングホブデ地域の浅海域で採取された堆積物中の現生貝形虫種の分布と水塊や底質の環境因子との関係を解明することを目的とした.5つの表層試料と4つのドレッジ試料の合計9試料から,少なくとも20属32種の貝形虫が産出し、貝形虫の個体数は全体的に少なく,4試料に関しては試料1 gあたりの個体数が1個体未満の試料であった.また,30個体以上貝形虫が産出した5試料に関して,Q-modeクラスター分析を行った結果2つのクラスターに識別された. 生物相Ⅰは,水深60–100 mから採取された3試料で構成され,主に冷たい浅海域で生息する種が優占し,南極の下部浅海帯から上部漸深海帯の冷水塊に適応した群集によって特徴づけられた.生物相Ⅱは,水深30m以浅で採取された2試料で構成され,海藻や海草が繁茂する“藻場”の葉上種や浅海種が優占することを示した. 以上のことより,南極における浅海域の貝形虫群集は,水深や水質によって大きく異なり,過去の水塊の変化や海水準を復元する指標として優れていること示した.

    引用文献

    DeConto, R.M. and Pollard, D., 2016: Contribution of Antarctica to past and future sea-level rise. Nature, vol. 531, p. 591–597.

    Horne et al., 2002: Taxonomy, morphology and biology of Quaternary and living Ostracoda. In, Holmes, J. A. and Chivas, A. R., eds., The Ostracoda -Application in Quaternary Research, p. 5–36. American Geophysical Union (Geophysical Monograph 131), Washington, D. C.

    Paolo et al., 2015: Volume loss from Antarctic ice shelves is accelerating. Science, vol. 348, p. 327–331.

    Sasaki et al., in press : Relationship between modern deep-sea ostracods and water mass structure in East Antarctica. Paleontological Research.

    菅沼ほか, 2020: 東南極における海域-陸域シームレス堆積物掘削研究の展望. 地学雑誌, vol. 129, p. 591–610.

    Yasuhara et al., 2007: Modern benthic ostracodes from Lützow-Holm Bay, East Antarctica: paleoceanographic, paleobiogeographic, and evolutionary significance. Micropaleontology, vol. 53, p. 469–496.

  • 梶田 展人, 菅沼 悠介, 工藤 栄, 杉山 慎, 大河内 直彦
    セッションID: T3-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    脂肪酸は、バクテリアから高等植物、昆虫から動物に至るまで様々なレベルの生物によって合成されており、世界中の海洋や湖沼の堆積物および土壌に普遍的に含まれている。堆積物コアに含まれる脂肪酸の炭素鎖の特徴や、炭素や水素の同位体比には、脂肪酸の起源となる生物の種類やその周囲の環境変化が反映されるため、様々な古環境復元に用いられてきた。一般に、炭素数22以上の脂肪酸(本研究では長鎖脂肪酸と呼称する)は、主に陸上高等植物のクチクラ層に由来するとされており、その炭素鎖長や安定炭素同位体比は、植生や気温、相対湿度のプロキシとして用いられる。一方で、炭素数18以下の脂肪酸(短鎖脂肪酸)は、主にバクテリアや藻類、菌類などによって合成されている。さらに、脂肪酸は、エアロゾル粒子や海流に乗って長距離運搬されることが確認されており、物質輸送のトレーサーなどにも応用されている  南極沿岸の棚氷下の海洋堆積物には、古環境指標や年代決定などに汎用できる炭酸塩微化石が殆ど産出しない他、光遮蔽によって一次生産が抑制されているため有機化合物の含有量も少ない。このような南極大陸沿岸域において、ガスクロマトグラフによって容易に同定可能であり、含有量も比較的大きく同位体比分析に必要な量を確保しやすい脂肪酸は、貴重かつ重要な古環境プロキシとなる。例えば、短鎖脂肪酸のcompound specificな放射性炭素測定によるdead carbon effectを排除した堆積年代モデルの作成や、水素安定同位体比測定による棚氷の融解史復元などの研究が行われている。  しかしながら、南極沿岸域の海洋堆積物に含まれる脂肪酸が、どこに棲息する、何の生物に由来するものなのか厳密には特定されておらず、これは上記のような古環境研究における一つの不確定要素となっている。特に、南極大陸から海洋へ輸送される脂肪酸の組成やフラックスを明らかにすることは、沿岸海洋における脂肪酸のデータを正しく解釈するために必要なことだ。そこで本研究では、第55次および第59次南極観測隊で採取された、東南極昭和海岸沿岸とシューマッハオアシスの湖沼堆積物および、ラングホブデ氷河接地線付近の堆積物に含まれる脂肪酸の組成を分析した。 宗谷海岸沿岸の多くの湖沼では、C10~C18の短鎖脂肪酸のみが検出され、C22以上の長鎖脂肪酸は検出されなかった。特にC16とC18の含有量が大きく、これは海洋堆積物から検出される脂肪酸の特徴と酷似している。一方で、一部の湖沼では、短鎖および長鎖の脂肪酸が両方検出され、短鎖/長鎖の比率は2~20程度であった。さらに、シューマッハオアシスの淡水湖沼は、調査した全ての淡水湖沼において、C22以上の長鎖脂肪酸が検出され、長鎖/短鎖の比率は1~6程度であった。さらに、ラングホブデ氷河接地線付近の堆積物からも脂肪酸が検出された。これらの結果は、南極沿岸の海洋堆積物に多く含まれている短鎖脂肪酸の全てが必ずしも海洋での生物生産に由来するとは限らないことを示しており、その炭素や水素の同位体比を使用した指標の解釈においては陸源物質の寄与について留意する必要があることを示している。さらに、陸上高等植物が殆ど存在しない南極大陸において、パッチ状に長鎖脂肪酸が検出されたことは、長鎖脂肪酸が大気輸送によるものではなく現地生であることを示している。これは、長鎖脂肪酸の由来を安易に高等生物に帰着させてきた他地域の先行研究の危険性を指摘するものである。 今後の研究(第64次南極観測隊)では、露岩域における地衣類や蘚類、大型生物の遺骸や土壌、岩石に含まれる脂肪酸を詳しく調査し、湖沼堆積物に含まれる脂肪酸の由来を特定する。さらに、それらの沿岸海洋への流出量について評価を行い、沿岸海洋堆積物に含まれる脂肪酸への寄与を明らかにする。

  • 川又 基人, 菅沼 悠介, 香月 興太, 佐々木 聡史, 柴田 大輔, 大森 貴之, 工藤 栄
    セッションID: T3-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    南極氷床の融解は,海水準や海洋循環の変動を通して全球的な気候変動と密接に関連しているため,南極氷床の融解メカニズムの把握は今後の気候変動予測にとって重要である.とくに氷床の消耗域である南極大陸の沿岸地域における,氷床融解年代や古環境変動を記録する地形地質学的データは,近年注目されている海洋に起因する急激な氷床融解プロセスを理解する上で非常に重要である.日本の南極観測拠点,昭和基地が位置する東南極宗谷海岸には露岩域が点在し,多数の湖沼が存在する.湖沼堆積物は氷床融解後からの連続的な古環境変遷を記録していると考えられ,その最下部に存在する氷河性堆積物の堆積年代は湖沼の成立,すなわち氷床融解のタイミングを示すと考えられる.このように南極湖沼堆積物は,氷床融解年代と湖沼成立以降の古環境情報を得ることのできる貴重な古環境アーカイブ試料であるが,これまで南極で用いられてきた人力による押し込み式ピストンコアラーではその貫通能力の限界のため,そのほとんどが氷河性堆積物まで達していなかった.そこで我々は,第59次南極地域観測隊(2017年11月〜2018年2月)において,新型コアリングシステム(可搬型パーカッションピストンコアラー)(菅沼ほか,2019)を用いた掘削を行い,5湖沼から得られた堆積物コアの堆積相の記載,磁化率等物性データの取得,14C年代の測定を行った.その結果,堆積物コア最下部には既存研究では確認されなかった氷河性堆積物と思われる礫を含む基質支持のシルト層を確認することができた.またコア下部の14C年代は8542〜7386 cal.yrBPの範囲となり,堆積物コアが得られた近傍の表面露出年代と整合的であることが示された.これらの結果は,新型コアリングシステムを用いて採取された湖沼堆積物コアの14C年代を用いることで,表面露出年代と同様に氷床の融解年代を探ることができることを示すと同時に,この地域の氷床融解が前期–中期完新世にかけて空間的に急激に完了したとする先行研究結果(Kawamata et al., 2020)を支持する.

    参考文献

    ・菅沼悠介・香月興太・金田平太郎・川又基人・田邊優 貴子・柴田大輔(2019):可搬型パーカッションピス トンコアラーの開発,地質学雑誌,125,323–326.

    ・Kawamata, M., Suganuma, Y., Doi, K., Misawa, K., Hirabayashi, M., Hattori, A. and Sawagaki, T. (2020): Abrupt Holocene ice-sheet thinning along the southern Soya Coast, Lützow-Holm Bay, East Antarctica, revealed by glacial geomorphology and surface exposure dating, Quaternary Science Reviews, 247, 106540.

  • 菅沼 悠介, 第Ⅹ期南極地域観測事業 重点サブテーマ1-2課題申請メンバー
    セッションID: T3-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    近年,南極氷床融解の加速が相次いで報告され,近い将来の急激な海水準上昇が社会的に強く懸念されている.一方,このような氷床の融解傾向は,過去数十年の観測から得られたもので,短周期の揺らぎである可能性もあり,長期的に継続し,やがて地球環境の激変に至るような現象であるかについては,まだ不明な点も残されている.また,南極氷床融解の予測には精密な大気-海洋および氷床モデルシミュレーションが不可欠であるが,現状の氷床融解メカニズムの理解は充分とはいえず,いまだ海水準上昇の将来予測には不確実性が大きい.この問題を解決する方法の一つとして,南極現地で直接得た地質データに基づく精度の高い過去の南極氷床融解の復元や,現在の観測のみでは見通せない大規模かつ急激な氷床融解のメカニズムの解明することが強く求められている.そこで,2022年度から開始した南極観測事業第Ⅹ期重点研究計画では,サブテーマ1-2「東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明」として,砕氷船「しらせ」による本格的な海底堆積物掘削や,新開発の地層掘削システムを用いた凍結湖沼上からの湖底堆積物掘削,さらには露岩域での陸上ボーリングなどを実施することで,過去数十万年間における長期的な東南極氷床変動の復元と,さらには最後の氷期から現在の間氷期への移行期におきた急激かつ大規模な氷床融解の実態とそのメカニズム解明を目指す.さらに,本計画では東南極内陸部での永久結氷湖掘削や西南極ロス棚氷下掘削などの国際プロジェクトに参画し,国際的な連携の中で南極氷床変動メカニズムの総合的理解にも貢献する.本発表では,南極観測事業第Ⅹ期重点研究計画サブテーマ1-2の調査計画とスケジュールの概要について紹介する.

T4(ポスター).地球史
  • 海保 邦夫
    セッションID: T4-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Major mass extinctions in the Phanerozoic Eon occurred during abrupt global climate changes accompanied by environmental destruction driven by large volcanic eruptions and projectile impacts. Relationships between land temperature anomalies and terrestrial animal extinctions as well as the difference in response between marine and terrestrial animals to abrupt climate changes in the Phanerozoic have not been quantitatively evaluated. My analyses show that the magnitude of major extinctions in marine invertebrates and that of terrestrial tetrapods correlate well with the coincidental anomaly of global and habitat surface temperatures during biotic crises, respectively, regardless of the difference between warming and cooling (correlation coefficient R = 0.920.95). The loss of more than 35 % of marine genera and 60 % of marine species loss corresponding to major mass extinctions so called “big five” correlate with a > 7 °C global cooling and a 7–9 °C global warming for marine animals, and a > 7 °C global cooling and a > ~7 °C global warming for terrestrial tetrapods, accompanied with ± 1 °C error in the temperature anomalies as the global average, although number of terrestrial data is small. These relationships indicate that (i) abrupt changes in climate and environment associated with high energy input by volcanism and impact relate to the magnitude of mass extinctions and (ii) the Anthropogenic future extinction magnitude will not reach the major mass extinction magnitude, when the extinction magnitude parallelly changes with global surface temperature anomaly. In the linear relationship, I found lower tolerance of terrestrial tetrapods than that of marine animals for the same global warming events and a higher sensitivity of marine animals to the same habitat temperature change than terrestrial animals. These phenomena fit to the ongoing extinctions.

  • 高橋 宏明, 清川 昌一, 安永 雅, 池端 雄太, 池原 実
    セッションID: T4-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    五島列島は日本列島の最北西に位置し,日本海拡大時に関連する下部-中部中新世の五島層群からなる.五島層群は層厚2000-3000mとされ,下部ユニット,中部ユニット,上部ユニットの3つに分類される.下部ユニット:玄武岩質の火山性物質からなる緑色火山砕屑岩.中部ユニット:泥岩主体の砂岩泥岩互層からなり,リップルラミナや氾濫原泥岩層を含む.上部ユニット:大型の斜交層理からなる砂岩主体の砂岩泥岩互層.五島層群は陸生層として知られており,中新世における環境変動の鍵となる,温暖性を示す台島型植物化石群が報告されている(植田,1961).しかし台島型よりも涼しい環境を示す植物化石も発見されている(安永ほか,2007).植物化石の詳細な研究は4か所しかなく,3000mに及ぶ地層層序の変化に伴う環境変化についての情報は得られていない.本研究では有機物を伴う泥岩層について,詳細な柱状図作成/ファシス解析によりどのような堆積場かを認定し,五島層群における下位から上位にかけての泥岩層の変化を観察した.

    調査場所

    下部ユニット(カヤバ浦):緑色の火山砕屑岩からなる.20-50cmの火山角礫岩を含むが,上方になるにつれ細粒化し,平行葉理が発達する.火山砕屑層には数10cmの泥岩を挟む.鏡下観察ではマトリックスの中にシルトサイズの石英粒子や30μmの棒状黒色有機物が確認された. 中部ユニット中部(戸岐―久賀島):厚い泥岩勝ちの砂岩泥岩互層からなる.5-10cmの互層が規則的に繰り返し,薄い砂岩層を挟む.砂岩層にはリップルが発達する部分もある.泥岩層にはシルトサイズの石英を含んでおり,シリカやアルミニウムに富む粘土鉱物や有機物の粒子も多く含まれる.層内ではコンボリューションが発達する層も見られる. 中部ユニット上部(戸楽):リップルや地域的な斜交層理を伴う砂岩主体の砂岩泥岩互層からなる.戸楽海岸では,3次元的に砂岩層中にチャネル構造が見られ,ラグブレッチャーを伴うカットバンク構造も顕著に残る.厚い砂岩層の間に厚さ50cmの泥岩層を挟む.この泥岩層はカットバンクの外側に分布しており,砂岩層を挟まない事より氾濫原堆積物であると思われる.鏡下観察ではほとんど石英粒子が入らない粘土であり,10-40μm黒色の紐状の有機物が確認された. 上部ユニット(打折):5-10mの厚い砂岩主体と50cm-1mの泥岩層が繰り返し,上方粗粒化が少なくとも3回観察される.鏡下観察ではシルトサイズの石英粒子は少なく,10-30μm棒状黒色有機物を多く含む.

    堆積場復元

    下部ユニットは基本火山砕屑岩であり,薄い泥岩層は火山砕屑岩の供給がなくなる時に火山周辺にできる氾濫原などで堆積していたと思われる.中部ユニットは,少なくとも数キロ規模の湖に堆積した可能性があり,泥岩に挟まれる規則的な砂岩層から,湖の周囲からの流れ込み(季節による可能性)が示唆される.そこに見られる石英を含まない泥岩と細かいラミナを持つ泥岩層は,湖の周辺部の河川部分と湖本体の地層との違いであると思われる.上部ユニットの泥岩層は厚い砂岩層に挟まれており,石英が少なく植物片を含む泥岩層から厚い砂岩層への上方粗粒化を示す.河川システムに残る氾濫原もしくは三日月湖のような泥の堆積場に河川の氾濫により徐々に砂が供給されて,最終的に斜交層理が発達する厚い砂を供給できる巨大な河川に移行するものであると考えている.  このように五島層群は火山体近傍の火山砕屑物層から湖,湖に流れ込む河川,最後に巨大河川へと変化したと考えられる.

    <引用文献>

    植田芳朗,1961,五島層群の研究. 九州大学理学部研究報告, vol.5, p.51-61

    安永雅・清川昌一・植村和彦,2007,長崎県五島列島中部(若松島及び中通島西部)の新第三系五島層群の岩相層序と植物化石の産出について.地質学研究,no.64,p.151-161

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    桑野 太輔, 土屋 祐貴, 亀尾 浩司, 林 広樹, 宇都宮 正志, 久保田 好美, 万徳 佳菜子, 大浦 佑馬, 岡田 誠
    セッションID: T4-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    前期–中期更新世には,Mid–Pleistocene Transition (MPT) と呼ばれる気候の移行期が存在し,この間に氷期・間氷期の周期が約4万年から約10万年へと変化したことが知られている(e.g., Clark et al., 2006).これまで,北西太平洋海域においても,多くの古海洋学的な研究が進められてきたが(e.g., Matsuzaki et al., 2015),高い時間分解能での古海洋環境の復元は下部-中部更新統境界付近などの限られた層準でのみ行われている(e.g., Kubota et al., 2021).本研究では,MPTの開始付近(MIS 36–40)をターゲットとし,房総半島中央部に分布する上総層群黄和田層から産出する微化石群集の検討,および有孔虫化石の同位体分析をもとに古海洋環境の復元を行った.

    得られた微化石群集と酸素同位体比の変動は,概ね氷期・間氷期のスケールでの変化が卓越しており,房総半島沖の海洋環境は,黒潮水域から黒潮フロントに近い混合水域の影響を受けていたと考えられる.また,微化石群集によって復元された表層海水温は,現在の房総半島沖と比較しても約2℃ほど高く,現在よりも温暖な海洋環境であったことが示唆される.しかし, MIS 38の後期(約125万年前)では,いずれのプロキシにおいても寒冷化が記録されており,このことから黒潮フロントの一時的な南下が発生したことが推定される.MIS 38では,中国内陸のレス堆積物が粗粒化し,東アジア冬季モンスーンの強化が推定されていることから(Sun et al., 2010),黒潮フロントの南下は東アジア冬季モンスーンとリンクしていた可能性が高いと考えられる.さらに,こうした大規模な黒潮フロントの南下は,MIS 38以降の氷期に発生することから,MPTに伴う寒冷化はMIS 38以降に開始したことが示唆される.

    [引用文献] Clark et al., 2006, Quat. Sci. Rev. 25, 3150–3184. Kubota et al., 2021, Prog. Earth Planet. Sci. 8, 29. Matsuzaki et al., 2015, Mar. Micropaleontol. 118, 17–33. Sun et al., 2010, Earth Planet. Sci. Lett. 297, 525–535.

  • 佐々木 佑二郎, 藤田 和彦, 白石 史人
    セッションID: T4-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    微生物岩は過去37–35億年間の生命活動や地球環境を記録しており,近年では石油貯留岩など資源的な観点からも注目されている.微生物岩は,先カンブリア時代では広く見られた一方で,現在の海洋環境にはほとんど見られないことから,モダンアナログを用いた形成過程の研究はあまり進んでいなかった.しかしながら近年,サンゴ礁石灰岩の空隙中に礁性微生物皮殻 (RMC; reefal microbial crusts) や骨格内・穿孔充填微生物岩 (IBFM; intra-skeletal and boring-filling microbialite) が発見され,微生物岩のモダンアナログとして注目を集めている.そこで本研究は,沖縄県久米島の完新統サンゴ礁石灰岩中に見られるRMCおよびIBFMの特徴を調べた. RMCは主に無節サンゴモの表面を被覆しており,一方のIBFMはサンゴモ中に形成された穿孔内を部分的に充填していた.これら微生物岩の内部またはその近傍にはスフェルライトが見られた.一般的にスフェルライトは微生物岩中によくみられるため,しばしば微生物起源とされる.しかしながら,顕生代ではホヤが骨片としてスフェルライトを形成することから,それらの解釈には注意が必要である.そこで本研究は,久米島に生息する現生ホヤも採集し,偏光顕微鏡などを用いてRMCおよびIBFMに含まれるスフェルライトと比較した.観察したホヤ骨片は球状または突起を持った金平糖状の外形を呈し,内部は針状結晶の太い束が複数集合して構成されていることが薄片上の消光パターンとして確認された.同様の特徴を示すスフェルライトはRMCおよびIBFMにも含まれており,それらはホヤ骨片起源であると考えられる.しかしながら,RMCおよびIBFM近傍の空隙中のスフェルライトは,細い針状結晶が放射状に配列しており,隣接するスフェルライトと密接しているためにその外形は他形を示した.さらには,内部には直径約1ミクロンのフィラメント状構造がしばしば認められ,中心部から放射状に配列する場合もあった.このような特徴はホヤ骨片とは明らかに異なっていることから,微生物起源である可能性が考えられ,今後の検討によってその成因が特定できると期待される.

T5(ポスター).グローカル層序学・年代学
  • 當山 凜太郎
    セッションID: T5-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに: 空知層群は後期ジュラ紀の玄武岩 (下部) と,前期白亜紀の堆積岩(上部)からなり,渡島帯東縁に付加した玄武岩に島弧から供給された砕屑物が堆積することで形成されたと考えられている.近年, 空知層群とされる地層から産出するピクライトに焦点が当てられ,空知層群の無斑晶質玄武岩と共に海台玄武岩に起源をもつとする説や大陸縁辺の拡大により形成されたものであるとする説が唱えられてきた. しかし模式地を含む空知層群の大部分を構成する無斑晶質玄武岩と芦別岳西側斜面に局所的に分布するピクライトとの層序関係は確認されておらず.ピクライトを本当に空知層群として議論してよいのか,という疑問の余地がある. 本発表では模式的な空知層群下部の玄武岩とピクライトの関係を野外調査と全岩化学組成から見直し,2 種類の岩石の起源, 火成活動についての考察を行なう. 層序: 芦別岳東側のユーフレ川の空知層群は,下位から無斑晶質玄武岩からなる芦別岳層 (S1) と火山砕屑性砂岩と珪質泥岩からなる主夕張川層(S2)に区分される(地層名は橋本, 1953に,記号は紀藤, 1987に従う). 主夕張川層の基底部にある赤色泥岩の基質と玄武岩及びドレライトの角礫からなる礫岩層を新たにユーフレ川礫岩部層 (S2a) とした. 芦別岳層の枕状溶岩の流層面は西に20°から50°傾斜しており,垂れ下がりから西上位である.芦別岳層の下部にはドレライト岩床が貫入している.ユーフレ川礫岩部層および上位層の層理は急立・東上位であることから,主夕張川層は芦別岳層を傾斜不整合で覆うと考えられる.また芦別岳の西側斜面には極楽平層(高嶋ほか, 2001) のピクライトや玄武岩が分布している.前述のとおり芦別岳層が西上位であるため,西側に分布する極楽平層は芦別岳層の見かけ上位となる. 記載岩石学的特徴: 芦別岳層の玄武岩が無発泡であるのに対し極楽平層のピクライトは強く発泡している. また極楽平層のピクライトとピクライト質玄武岩は斜長石に乏しく単斜輝石に卓越しており芦別岳層の岩石と比較してより苦鉄質である. 薄片観察により芦別岳層の玄武岩にはぶどう石や沸石が見られるのに対し,極楽平層のピクライトや玄武岩にはパンペリー石やアクチノ閃石などの変成鉱物が見られた. このことから極楽平層はパンペリー石-アクチノ閃石亜相に相当する変成作用を被っており, 沸石相の芦別岳層よりも高圧の変成を受けたと考えられる. 元々芦別岳層より深部にあった極楽平層が芦別岳層の見かけ上位にあることから,極楽平層は断層で芦別岳層の上位に乗り上げたと考えられる. 全岩化学組成: 極楽平層のピクライトはMgOが 20~25 wt% と非常に多く, TiO2が 1 wt% 未満である.芦別岳層の玄武岩と,極楽平層のピクライトおよび玄武岩の双方とも,非調和元素に涸渇しN-MORBに類似した微量元素組成を示した. しかし極楽平層の岩石はMREEに対しHREE にやや涸渇した特徴を示すことで,HREEが涸渇しない芦別岳層と異なる. HREE の涸渇はマントルのより深部での溶融を示すと考えられる.そのため,芦別岳層の玄武岩が通常の拡大軸で形成された一方,極楽平層のピクライトや玄武岩はプルームに関連して形成された可能性がある. まとめ: 変成度と全岩化学組成の違いから極楽平層と芦別岳層の岩石は同じ地層とは考えにくく,とくに極楽平層は神居古潭変成作用に対比できる高圧の変成作用を被っていることから,空知層群に帰属しないと考えられる. 極楽平層が神居古潭変成岩類に含まれる場合, 空知層群とは沈み込んだ側と沈み込まれた側の関係になる.そのため,芦別岳層と極楽平層が互いに別のプレートに属していたことが示唆され,同一の火成活動場で形成された可能性は低いと考えられる.今後両層の起源をさらに詳しく検討することにより,当時の西太平洋のプレート配置の復元に貢献できることが期待される. 文献 橋本 亘, 1953, 5万分の1地質図幅説明書「山部」, 北海道開発庁, 82p. 紀藤典夫, 1987, 北海道神居古潭帯における緑色岩と砕屑性堆積岩の関係. 地質学雑誌, 93, 21–35. 高嶋礼詩・吉田武義・ 西弘嗣, 2001, 北海道夕張-芦別地域に分布する空知層群・蝦夷層群の層序と堆積環境. 地質学雑誌, 107, 359–378.

  • 細井 淳, 羽田 裕貴, 岡田 誠
    セッションID: T5-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    棚倉断層帯の西側には,中新世の棚倉堆積盆が発達する.棚倉堆積盆は日本海拡大期のテクトニクスに関連し,棚倉断層の運動によって急速に発達した堆積盆として考えられており(天野ほか,2011; Hosoi et al., 2020),棚倉堆積盆の構造発達史は,日本海拡大のテクトニクスを検討する上で重要な情報はもたらす.堆積盆の昇降運動や古応力変遷,回転運動の有無などを検討するためには,棚倉堆積盆を埋積する新第三系の詳細な層序の構築が必要不可欠である.

     棚倉堆積盆を埋積する新第三系は,陸成層と海成層からなる.陸成層はそもそも微化石層序学的な検討ができず,また海成層からは有孔虫や珪藻化石の年代指標データが得られているが(大槻,1975; Maruyama, 1984),産出状況は良いとは言えない.棚倉堆積盆において数万~数十万年スケールの時間解像度でテクトニクスの議論をするためには,放射年代測定や古地磁気データ等,他の様々な年代データと組み合わせ,高時間解像度の年代層序を構築する必要がある.

     近年,棚倉堆積盆の新第三系からU–Pb・FT年代測定値が多く得られてきている.また,澤畑ほか(2016)は棚倉堆積盆の古地磁気学的研究を実施し,棚倉堆積盆を埋積する新第三系における古地磁気分析の有用性を示した.そこで本研究では澤畑ほか(2016)で不足する古地磁気データを収集し,棚倉堆積盆における高時間解像度の年代層序について検討した. 棚倉堆積盆を埋積する新第三系は主に下位から順に,北田気層,浅川層,男体山火山角礫岩,苗代田層,小生瀬層,内大野層である(天野ほか,2011).今回の古地磁気分析の結果,新たに北田気層と苗代田層,小生瀬層,内大野層から固有磁化成分が得られた.これらは褶曲テストまたは逆転テストに合格することから,地層形動前あるいは地層堆積時の磁化成分であると考えられる.本測定データと澤畑ほか(2016)の古地磁気測定データを層準毎にまとめると,以下の通りである.

    ○北田気層~男体山火山角礫岩:全サイトが逆帯磁を示す.

    ○苗代田層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が2層準認められる.

    ○小生瀬層~内大野層:逆帯磁層準に挟まれた正帯磁層準が1層準認められる.

     既存の放射年代測定値(Hosoi et al., 2020など)を考慮すると,北田気層~男体山火山角礫岩の逆帯磁はクロンC5Brに相当し,苗代田層~内大野層で認められる正帯磁層準は,それぞれクロンC5Cn.3n,C5Cn.2n,C5Cn.1nに相当すると考えられる.

     従来,棚倉堆積盆の新第三系最上部層である内大野層からは年代指標となるデータが無かった.そのため,内大野層の年代は隣接する地層の化石データや関東周辺で認められる広域的な不整合(庭谷不整合)(大石・高橋, 1990; 高橋, 2006)を内大野層の堆積末期とみなし,その上限年代は15.3 Maと考えられた(Hosoi et al., 2020).その一方で最近,新たに内大野層上部に共在する火砕岩からは,16.4±0.3 MaのU–Pb年代値が得られた.この年代値は,小生瀬層~内大野層にクロンC5Cn.1n(~16.3–16.0 Ma; Kochhann et al., 2016)の正磁極期があるとする本結果と整合的である.

     以上を踏まえると,棚倉堆積盆は17–16 Maという極めて短期間に発達した堆積盆であることが考えられた.本講演では棚倉堆積盆の年代層序を基にした構造発達史等についても少し触れる.

    <文献>

    天野ほか, 2011, 地質雑. 117補遺, 69–87.

    Hosoi et al., 2020, J. Asian Earth Sci., 190, 104157.

    Kochhann et al., 2016, Paleoceanography and Paleoclimatology, 31, 1176–1192.

    Maruyama, 1984, Sci. Rep. Tohoku Univ., second Ser. Geol., 55, 77–140.

    大石・高橋, 1990, 東北大地質古生物研邦報, no. 92, 1–17.

    大槻, 1975, 東北大地質古生物研邦報, no. 76, 1–71.

    澤畑ほか, 2016, JpGU2016大会講演要旨, SGL36-P01.

    高橋, 2006, 地質雑, 110, 290–308.

  • 古山 精史朗, 唐澤 卓朗, 鍵谷 祥麦, 横山 青
    セッションID: T5-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沿岸海域の地質情報は、陸域から得られる地質情報を補強し当該地域の地質形成史解明に貢献する(佐藤ほか, 2021)。近年では、再生可能エネルギー導入にともなう沿岸海域開発の促進により、沿岸海域の地質情報は重要度を増している。こうしたなか、1976年から刊行された海上保安庁水路部(現 海上保安庁 海洋情報部)の「沿岸の海の基本図」は、沿岸海域の地質情報を知る上で貴重な資料である。「沿岸の海の基本図」に含まれる海底地質構造図は、反射法音波探査によって取得された海底下の地質断面の解釈に基づいて作成される。反射法音波探査の調査測線は対象海域について高密度に設定され、地質構造の連続性を精度良く追跡できる。しかし、「沿岸の海の基本図」には1970年代〜1980年代に作成されたものも多く、それらにはその後に普及した、例えばシーケンス層序学などの概念は反映されていない。近年の研究成果を「沿岸の海の基本図」に適用し反射断面を再解釈することで、当該地域の地質形成史を詳細に明らかにできる可能性が高い。そこで本研究では、和歌山県南西部田辺市沖(以下、田辺沖)を対象とした「沿岸の海の基本図 日ノ御埼」(海上保安庁水路部, 1987)の作成に用いられた反射断面について再解釈を行った。それらの反射断面は、1986年 (昭和61年) 6~8月にかけてスパーカーを音源とした反射法音波探査で取得されたものである。なおデータは海上保安庁 海洋情報部の許可を得て使用した。

    海上保安庁水路部 (1987) の調査海域は、北緯33度53分42.011秒、東経134度54分50.120秒から北緯33度38分12.145秒、東経135度21分49.991秒の範囲である。隣接する陸域では、下位から上部白亜系日高川層群、暁新統〜下部始新統音無川層群、中部始新統〜下部漸新統牟婁層群、下部中新統田辺層群、中部中新統〜上部中新統目津層、下部更新統塔島層、沖積層が分布する。海上保安庁水路部(1987)は、内部反射の特徴に基づき、田辺沖の地層を下位からⅧH層〜ⅠH層に層序区分した。ⅧH層は音響的に不透明な地層または層理面を確認でき、褶曲構造の発達した地層で、日高川層群・音無川層群・牟婁層群・田辺層群を含む地層とされる。ⅦH層およびⅥH層は平行な縞状模様で特徴づけられ、斜交層理があまり認められない地層で、上部中新統〜鮮新統に対比される。ⅤH層、ⅣH層、ⅢH層およびⅡH層では、陸棚上でほぼ水平な反射面が発達し外縁部に向かって斜交層理が発達するとされ、更新統に対比される。ⅠH層は本海域における最上位の地層で、全般にやや白く抜けるパターンを呈し、完新統に対比される。 本研究では、不整合および内部反射の特徴と、地層の形成過程を考慮し、海上保安庁水路部(1987)で8層に区分された田辺沖の地層を、下位から音響基盤、田辺沖ユニット1、田辺沖ユニット2、田辺沖ユニット3の4層に層序区分した。海上保安庁水路部(1987)において最下位層であるⅧH層のうち音響的に不透明とされる地層は、褶曲構造の発達した地層と不整合で区分され、またその分布が日高川層群、音無川層群、牟婁層群の海域延長部に位置する。これらのことから、本研究ではⅧH層を2層に区分し、音響的に不透明な地層を音響基盤、褶曲構造の発達した地層を田辺沖ユニット1とした。ⅦH層〜ⅡH層はその堆積パターンの特徴が一連の海水準変動での形成を示唆する。このことから、本研究ではⅦH層〜ⅡH層を田辺沖ユニット2とし、堆積パターンの特徴から2a, 2b、2c、2d、2eの5層に細分した。田辺沖ユニット2aは田辺沖ユニット1を不整合に覆い、沖でプログラデーションパターンを示す。田辺沖ユニット2bは田辺沖ユニットaに対し平行に重なり、オンラップパターンで特徴づけられる。田辺沖ユニット2c、田辺沖ユニット2d、田辺沖ユニット2eはプログラデーションパターンで特徴づけられる。田辺沖ユニット3は本地域のほぼ全域に認められる最上位の地層でⅠH層に相当する。連続性が良く海底面とほぼ平行な反射面で特徴付けられる。

    本講演では、これらの音響層序区分とその堆積パターンに基づいて推定した各ユニットの地質時代と、和歌山県南西部のにおける田辺層群堆積以降の地質形成史について議論する。

    [引用文献] 海上保安庁水路部, 1987, 5万分の1沿岸の海の基本図「日ノ御埼」. 日本地質学会, 2009, 日本地方地質誌 5 近畿地方, 朝倉書店, 141−263. 佐藤智之, 2021, 10万分の1相模湾沿岸域海底地質図説明書. 海陸シームレス地質情報集, 相模湾沿岸域, 海陸シームレス地質図S–7.

  • 羽田 裕貴, 中谷 是崇, 水野 清秀, 納谷 友規, 中島 礼
    セッションID: T5-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    徳島平野は紀伊水道西岸に位置し,海岸部では南北に約10 km,西方へ約75 kmの奥行きを有する.平野北縁は東北東-西南西方向に伸びる中央構造線断層帯によって,讃岐山地を形成する上部白亜系和泉層群と区切られる.徳島平野は,中央構造線断層帯の活動によって形成された構造盆地であると考えられ,その地下地層は,上位から第四系の徳島層および北島層,三波川変成岩類に由来する基盤岩から構成される.徳島層は沖積層に相当し,その堆積環境や年代について,先行研究によって議論されてきた.一方,徳島層の下位に分布する北島層については,その年代や堆積環境についての記録に乏しい.北島層の層序を明らかにすることは,中央構造線断層帯の活動履歴や徳島平野の発達史を議論する上で重要である.

     近年,徳島平野地下の北島層の分布を明らかにする試みがなされている.西山ほか(2017)は,既存ボーリング資料を用いて,北島層の分布形態を考察した.その結果,北島層中に,平野南部から北に向かって分布深度が大きくなる3枚の海成泥層を認めた.佐藤・水野(2021)は,平野北部の徳島県鳴門市から掘削された坂東観測井コアの深度90 m以深から,海洋酸素同位体ステージ(MIS)5〜13に対比される海成層を報告した.また,中谷ほか(2021)は,吉野川南岸に位置する中徳島町から掘削された80 mオールコアボーリングの層序を検討し,北島層の堆積開始がMIS 13まで遡る可能性を示した.しかし,海成層の認定やMISとの対比については議論の余地がある.そこで,本発表では,徳島平野沿岸部に位置する沖洲地区から掘削した131 mオールコアボーリング(GS-TKS-1)について,層相観察,放射性炭素年代測定,火山灰分析,珪藻・花粉化石分析を行い,徳島平野南部における地下層序を検討した.

     層相観察、放射性炭素年代測定などに基づいて,GS-TKS-1コアを13の堆積ユニットに区分した.ユニット12(深度5.00〜39.54 m)は,塊状泥層、砂質泥層、泥質砂層、細粒〜中粒砂層からなり,Kawamura (2006)における徳島層下部〜上部に相当する.深度30.5 m付近に,屈折率n=1.508〜1.513(モード:n=1.509〜1.511)の火山ガラス濃集層が挟まり,含まれる木片からは約7,000〜7,300 cal BPの放射性炭素年代値が得られた.そのため,本層はK–Ah火山灰層(町田・新井 2003)に対比が予想される.徳島層基底は砂礫層と礫混じり泥層から構成されるユニット11(深度39.54〜53.14 m)に位置すると考えられるが,徳島層最下部と北島層の礫層を岩相で判別することはできなかったため,その深度は不明である.

     北島層は礫層,砂質層,塊状泥層,有機質泥質層から構成され,その基底は深度130.43 mである.泥層を含む細粒堆積物は下位から,深度109.00〜125.49 m(ユニット3〜4),深度92.50〜101.00 m(ユニット6),深度70.20〜74.39 m(ユニット8),および深度53.14〜66.20 m(ユニット10)に分布する.塊状泥層のユニット10および有機質泥層のユニット4は,それぞれ貝殻片と海生〜汽水生珪藻化石が認められることから,海成層と考えられる.また,花粉化石分析の結果,ユニット10からは低率ながらサルスベリ属が,ユニット4からはコナラ属アカガシ亜属が20%を超えて産出した.そのため,ユニット10および4は,ぞれぞれMIS 5eおよび11に対比される.また,ユニット6および8は坂東観測井コアの花粉群集との対比から,それぞれMIS 9および7に相当すると考えられる.しかし,これら堆積ユニットからは貝殻片や珪藻化石を認めることができず,現状では堆積環境の判断はできない.

     以上より,徳島平野沿岸部・沖洲地区では,MIS 11以降の中・上部更新統〜完新統が分布し,沖積層を含めて,少なくとも3枚の海成層が分布することが明らかになった.今後,既存ボーリング資料との対比を進めることで,徳島平野の発達史の解明を試みる.

    <引用文献>

    Kawamura, 2006, Jour. Geoscience, Osaka City Univ., 49, 103–117.

    町田・新井,2003,東京大学出版会,336p.

    中谷ほか,GSJ速報, 82, 7–20.

    西山ほか,2017, 日本地質学会第124年学術大会講演要旨集,135.

    佐藤・水野, GSJ速報,82,21–27.

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    吉岡 純平, 黒田 潤一郎, 仁木 創太, 松崎 賢史, 平田 岳史
    セッションID: T5-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    堆積物を用いて古環境復元を行う際に最も重要となるのが年代決定である。そして、中新統珪藻質堆積物において最も時間解像度の高い生層序の1つに珪藻化石層序がある。しかしながら、生層序とは、別の方法で年代決定がなされたモデル堆積物(多くの場合は海洋掘削コア)での産出記録をもとにした間接的な年代決定法である。そのため、その年代値はモデル堆積物の年代モデルに強く影響され、さらに海域の違いに伴う優占種の違いによって年代値に偏差を生じる可能性を含んでいる。そこで、本研究では既に珪藻化石層序が報告されている珪藻質堆積物を対象とし、そこに狭在する火山灰層の堆積年代と比較した。火山灰層の堆積年代決定には火山灰層から分離したジルコンのU-Pb年代測定法を用いた。ジルコンのU-Pb年代系は堆積以後の変質に対して頑強であり、また近年の標準物質の確立(Iwano et al., 2013)や年代分析法の改良に伴い、比較的若い中新世の試料に対しても正確かつ高精度な年代値の取得が可能である。

    調査を行ったのは、新潟県佐渡島に分布する中新統中山層であり、柳沢 & 渡辺 (2017)によって珪藻化石層序が報告されている。今回は2枚の火山灰層(TBA-3, WKA-5)からジルコン粒子を抽出し、U-Pb年代測定を行った。その結果、それぞれ10.874±0.065 Ma、6.68±0.18 Maという年代値(2σ)を得た。また、これら2枚の火山灰層は、Yanagisawa & Akiba (1998)の珪藻化石帯区分においてそれぞれNPD5C帯とNPD7A帯に属する(柳沢 & 渡辺, 2017)。

    次に、これらを珪藻化石層序年代と比較するために、珪藻化石層序年代の誤差範囲の計算を行った。この誤差範囲の計算は、珪藻化石層序の根拠となっているモデル堆積物においてその年代モデルの誤差範囲を計算し、それを珪藻化石層序年代に反映させることで導出した。モデル堆積物の年代モデルの誤差範囲の計算にはUndatable (Lougheed & Obrochta, 2019)を用いた。この誤差範囲を含んだ珪藻化石層序年代と、今回得られたジルコンU-Pb年代を比較したところ、それらは2σの誤差範囲内で一致し、本調査地域において珪藻化石層序年代を放射年代により裏付けることができた。したがって、当該地域において珪藻化石層序年代が信頼に値するものである可能性が高い。このように、生層序のような相対年代をU-Pb年代のような数値年代と比較し、その確度を評価していくことは、対象とする堆積物においてより統一的でより正確で間違いのない年代モデルを築いていくために重要なことであると考える。

    以下、発展的内容であるが、今回調査を行った一部のセクションにおいて、全岩主要元素組成を連続的に分析することで得られた元素の周期的な変動を用いて、上記の年代制約と組み合わせることで、サイクル層序を構築することができた。これは、陸上に露出する日本海中新統珪藻質堆積物としては、異例の時間解像度を持つ年代モデルであり、今後の古環境研究への活用がより一層期待される。

    参考文献

    Iwano, H., Orihashi, Y., Hirata, T., Ogasawara, M., Danhara, T., Horie, K., Hasebe, N., Sueoka, S., Tamura, A., Hayasaka, Y., Katsube, A., Ito, H., Tani, K., Kimura, J., Chang, Q., Kouchi, Y., Haruta, Y., & Yamamoto, K. (2013) An inter-laboratory evaluation of OD-3 zircon for use as a secondary U-Pb dating standard. Island Arc, 22, 382-394.

    Lougheed, B. C. & Obrochta, S. P. (2019) A rapid, deterministic age-depth modeling routine for geological sequences with inherent depth uncertainty. Paleoceanogr. Paleoclimatol., 34, 122-133.

    Yanagisawa, Y. & Akiba, F. (1998) Refined Neogene diatom biostratigraphy for the northwest Pacific around Japan, with an introduction of code numbers for selected diatom biohorizons. Jour. Geol. Soc. Japan, 104, 395-414.

    柳沢幸夫 & 渡辺真人 (2017) 大佐渡地域南部に分布する新第三系の海生珪藻化石層序. 地質調査研究報告, 68, 287-339.

  • 小杉 裕樹, 桑野 太輔, 久保田 好美, 岡田 誠, 亀尾 浩司
    セッションID: T5-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    千葉県銚子地域の沖合海域は,黒潮フロントと呼ばれる暖流の黒潮と寒流の親潮とが会合する海域に相当することから,かつてのフロントの南北振動が氷期・間氷期サイクルとどのような関係にあったのかを明らかにする上で非常に重要な地域である. とくに,銚子地域に分布する犬吠層群の堆積時期は,Early-Middle Pleistocene Transitions(EMPT)と呼ばれる氷期・間氷期サイクルが約4万年周期から約10万年周期へと変化した時期に相当することから,地球規模での気候変動システムの移り変わりの時期における北西太平洋海域の海洋表層環境の変化を知る上でも重要である.そのような研究を行うためには,氷期・間氷期サイクルよりも詳しい時間分解能での年代モデルを構築する必要がある.そこで本研究では,犬吠層群小浜層・横根層に相当するコア試料から産出した底生有孔虫化石の酸素同位体比を用いて正確な年代モデルを構築することを試みた.本論で取り扱った地層は,銚子地域分布する犬吠層群(Matoba, 1967)のうち,下位の地層群である小浜層および横根層である.検討した試料は,1998年に千葉県銚子市森戸町で東京大学海洋研究所によって掘削された全長250 mのボーリングコア銚子コアの深度250 m–150 mを検討対象とし,泥岩試料から取り出した底生有孔虫化石の酸素同位体比の測定を行った.なお,酸素同位体比の測定は,国立科学博物館筑波分館所有の炭酸塩分解装置(KIEL IV Carbonate Device)と質量分析計(MAT 253)を使用した.

    銚子コアのうち深度250 m–180 mから産出した底生有孔虫化石における酸素同位体比の測定値によって作成した酸素同位体比曲線は2.90–4.32‰の間で推移し,4つの氷期・間氷期サイクルの変動が認定された. 得られた酸素同位体曲線について標準曲線 (LR04;Liscieki and Raymo, 2005)との対比を行ったところ検討層準はMIS18から26であることが明らかになった.これは,従来,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比による年代モデル(Kameo et al., 2006)と異なる. その要因として浮遊性有孔虫化石による酸素同位体比曲線は氷床量の変動に加えて,表層海洋の水温の変動を反映しているため振幅が大きくなり対比が困難であったことが考えられる. また,各層準に年代値を決定するべく,設定した対比面とテフラの厚さを除いた層厚を基に堆積速度を算出したところ堆積速度は際立って特徴的な変化は見られず氷期・間氷期サイクルによって堆積速度が変化しないような沖合の環境であったことが示唆された.

    引用文献

    Kameo, K., Okada, M., El-Masry, M., Hisamitsu, T., Saito, S., Nakazato, H., Ohkouchi, N., Ikehara, M., Yasuda, H., Kitazato, H., Taira, A., 2006, Age model, physical properties and paleoceanographic implications of the middle Pleistocene core sediments in the Choshi area, central Japan. Island Arc, 15, 366-377. Lisiecki, L. E., Raymo, M.E., 2005, A Pliocene-Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records. Paleoceanography 20, 1003. Matoba, Y., 1967, Younger Cenozoic foraminiferal assemblages from the Choshi district, Chiba Prefecture. Science Reports, Tohoku University, 2nd Series (Geology) 38, 221–63.

T6(ポスター).日本列島の起源再訪
  • 西川 謙吾, 辻 智大
    セッションID: T6-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】 蛇紋岩層は,沈み込み帯の形成史を語るうえで重要な岩石であり,地帯構造区分境界の分類において,最も重要とされるものの一つとされている(磯崎ほか,2010).対象地域である高知県高岡郡梼原町は,西南日本外帯で最大級の層厚を持つ蛇紋岩層とペルム紀の付加体から白亜紀の堆積岩類までといった幅広い年代の地層を持つ.本地域の地質構造は,広域的に,辻󠄀(2014),村田・前川(2013),Ishizaki(1962)によって明らかにされており,白亜紀堆積岩類に関しては,香西ほか(1991)および甲藤ほか(1994)によって議論されている.しかし,蛇紋岩層の記述および蛇紋岩層から見た本地域の地質学的見解は乏しい.そのため,蛇紋岩層と周辺地層の構造関係の理解を目的とし,蛇紋岩中クロムスピネルの化学組成分析および地質調査を行った.

    【地質概要・手法】 本調査地域は,北域からペルム紀付加体である大野ヶ原ユニット,トリアス紀変成岩類である四万川ユニット,中央域に白亜紀堆積岩類,田野々断層を挟みジュラ紀付加体である大平山ユニットとその南域にジュラ紀堆積岩類の鳥巣層群が分布する.このうち,蛇紋岩層は,大野ヶ原ユニットの南限断層付近,四万川ユニットの中央部,白亜紀堆積岩類の境界部に位置する.

     クロムスピネルの化学組成分析は,山口大学機器分析センターにある電子マイクロアナライザ(EPMA:JXA-8230)の波長分散型分光器(WDS)を用いて行った.

    【結果】 本地域の蛇紋岩層を,単斜輝石岩,かんらん石輝石岩,結晶片岩のブロックを含むタイプAと,それらを含まないタイプBに区分した.タイプAは,東側蛇紋岩体と田野々断層沿いの蛇紋岩層である.タイプAの一部である東側蛇紋岩体はデュープレックス構造を形成しており,大野ヶ原ユニットの緑色岩やチャートの一部と同調した分布,白亜紀堆積岩類の東西方向への不連続性,そして白亜紀堆積岩類の東へのプランジ(礫岩の分布)が確認できる.タイプBは,西側蛇紋岩体と四万川ユニット中の蛇紋岩,白亜紀堆積岩類北限・南限断層に沿って分布する蛇紋岩が対象である.その一部である西側蛇紋岩体で一貫した複合面構造のTop-to-the-Southの剪断センス成分を観察した.また,これらのクロムスピネルの分析結果としてCr# = 0.67-0.78, Mg# = 0.33-0.45, TiO2 < 0.3 w%という値を得た. これらに加えて,タイプAに属する東側蛇紋岩体付近で,蛇紋岩礫を含む泥質砕屑岩の露頭を観察した.露頭位置は,太田戸川中流付近に分布する.黒色の泥質な基質であり,蛇紋岩岩片を含むことが特徴である.露頭位置は白亜紀堆積岩類中であるが,黒色の泥質基質を持つ特徴から,白亜紀堆積岩類との違いを確認した.

    【考察】 本地域の形成史の考察を以下に示す.1)ペルム紀付加体である大野ヶ原ユニットが付加した後,トリアス紀変成岩類である四万川ユニットの接合. 2)横ずれ断層によるプルアパートベイズンの形成により白亜紀堆積岩類の堆積. 3)褶曲および白亜紀堆積岩類の北限・南限を切る断層の形成.同様の断層運動により圧砕花崗閃緑岩および石英に富む花崗質岩が併入.4)タイプBの蛇紋岩がTop-to-the-Southの剪断センス成分を伴い定置.5)大野ヶ原ユニットが調査地域中央部でデュープレックスを形成し,タイプAの蛇紋岩が定置.6)デュープレックス構造の形成による変動により,蛇紋岩片を含む泥質砕屑岩を形成したと考えられる.また,本地域の蛇紋岩の原岩形成のテクトニックセッティングは,島弧から前弧域で形成された可能性が高く,それらが,本地域の地形形成後に貫入および併入したと考えられる.

    【参考文献】 Ishizaki (1962) Strati graphical and Paleontological Studies, Tohoku University. 134-136.磯崎ほか .(2010) 地学雑誌, 119, 1022-1026. 甲藤ほか (1994) 高知大学学術研究報告,32,193-199.香西ほか (1991) 高知大学学術研究報告, 40, 223-236. 辻 (2014) 博士論文 23-25.村田・前川 (2013) 徳島大学ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 27 ,89-98.

T7(ポスター).マグマソースからマグマ供給システムまで
  • 成田 佳南, 楠橋 直, 谷 健一郎
    セッションID: T7-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    中期中新世の西南日本では,活発な火成活動により瀬戸内火山岩類や外帯珪長質火成岩類が形成された.この火成活動はその直前に起こっていた日本海や四国海盆の拡大と関連して生じたと考えられている (例えば, Shimoda et al., 1998).四国北西部の石鎚山周辺からその西方に分布する石鎚層群 (堀越, 1957) もまた,この時期の火成活動の産物である.

    石鎚層群は下部~中部中新統の久万層群を傾斜不整合に覆い,下位から高野層・黒森峠層・皿ヶ峰層・天狗岳層で構成される (例えば, 吉田ほか, 1993).しかしながら,これまでの石鎚層群の研究は石鎚コールドロンを中心に, 同層群最上部の天狗岳層を主に扱っていて (例えば, Yoshida, 1984),それより下位の層については研究があまり進んでいないのが現状である.同層群を形成した石鎚火成活動全体を理解するためには,下位層に関する詳細な層序学的・岩石学的研究が必須である.そこで本研究では,石鎚火成活動の初期の様子を明らかにすることを目指し,愛媛県東温市の滑川渓谷において,同層群の最下部を構成する高野層の調査をおこなった.

    調査地域の高野層は層厚が 300 m ほどで,滑川渓谷では最下部と最上部を除き,全層厚にわたってほぼ連続して露出する.この地域の同層は,全体が一連の cooling unit を構成する流紋岩質火砕流堆積物からなる.また,同層は結晶片岩の細片を異質岩片として含む中程度ないし強く溶結した火山礫凝灰岩からなる下部 (層厚約 80 m) と,高温石英・黒雲母を多く含む溶結の弱い結晶質凝灰岩からなる上部 (200 m) の大きく二つの岩相に分けられ (堀越, 1957),下部から上部へは層厚 25 m程度の漸移部を挟んで漸移する.一方で,下部に上部の岩相が,あるいは上部に下部の岩相が挟まることはない.溶結の程度の急激な変化や異質岩片の量などに基づけば,少なくとも下部は 5 つ, 上部は 3 つの flow unit に区分することができる. 下部から上部まで全体的にザクロ石が含まれ,下部はそれ以外に石英・黒雲母・斜長石を,上部は石英 (特に高温石英)・黒雲母・斜長石・サニディンを多く含んでいる.

    高野層の上位には,黒森峠層が露出する.この地域の黒森峠層は,層厚 170 m 以上で,最下部に側方へ連続しない礫岩を挟むほかは,安山岩質な火砕流堆積物 (block and ash flow 堆積物を含む) からなる.斜長石・角閃石・直方輝石が多く含まれる.

    流紋岩質でザクロ石を含むという高野層の特徴は,瀬戸内火山岩類の流紋岩と類似する (例えば, Shimoda and Tatsumi, 1999).全岩化学組成についても,瀬戸内火山岩類や外帯珪長質火成岩類のものとよく似ている.ただし,瀬戸内火山岩類よりも Y や Nb に富むという点では外帯珪長質火成岩類に近い (新正ほか, 2007).また,高野層の最上部では全岩化学組成が流紋岩質からデイサイト質へとわずかに苦鉄質に変化するようである.このことは,上位の黒森峠層を形成した安山岩質マグマの活動が高野層堆積末期にはすでに始まりつつあったことを示しているのかもしれない.

    滑川渓谷に露出する高野層最上部の結晶質凝灰岩について,LA-ICP-MS を用いたジルコンU–Pb年代測定をおこない,約 14.6 Ma の加重平均年代を得た.また,調査地域南方の久万高原町で割石川に露出する久万層群明神層最上部の凝灰岩からは約 15.2 Ma の年代を得ている.これらの年代からは,明神層と高野層とが構造的には傾斜不整合でありながら,両者の間の時間間隙は短かったことを示している.

    引用文献

    堀越 (1957) 愛媛大紀要, 2, 127–137; Shimoda and Tatsumi (1999) Island Arc, 8, 383–392; Shimoda et al. (1998) EPSL, 160, 479–492; 新正ほか (2007) 地雑, 113, 310–325; Yoshida (1984) JGR, 89, 8502–8510; 吉田ほか (1993) 地質学論集, 42, 297–349.

  • 平井 智望, 亀井 淳志, 藤原 まい, 遠藤 俊祐
    セッションID: T7-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    隠岐変成岩類の地質学的位置づけは中国大陸-韓半島-日本列島を含めた北東アジアの地質基盤構造の理解やペルム紀-三畳紀以前の当地のテクトニクスを議論するうえで重要である.最近,その位置づけに関して2つの説がある.1つ目は,隠岐変成岩類中の古原生代の変花崗岩(約1.97-1.81Ga)が火山弧型の化学組成を有するために韓半島のYeongnam massifに対比される説である(Cho et al., 2021).2つ目は,隠岐変成岩類が古原生代(約1.85Ga)のグラニュライト相に達する変成作用を被っていることからGyeonggi massif北部に対比される説である(Kawabata et al., 2021).これらの説に関しては,いくつか解決すべき問題点もある.前者では,まず変花崗岩の検討試料数が少ないことがあげられる.さらに地球化学的判別図により火山弧型花崗岩としているが,マグマの起源物質を堆積岩と推定しているためにテクトニクス背景を限定できるかは要注意である.また後者では,Gyeonggi massif北部に対比しているが,ここに普遍的とされる衝突帯型花崗岩(Lee et al., 2014)の存在がまだ隠岐島後に確認できていない.このような背景から,本研究では隠岐島後の変花崗岩に注目し,地質調査,岩石記載,および全岩化学分析を行った.

     隠岐島後の北東部には新生代火山岩類の基盤岩として円環状に隠岐変成岩類が露出する.岩相はミグマタイト質片麻岩が多くを占め,角閃岩や変花崗岩を伴う(例えば,山内ほか,2009).これまで隠岐片麻岩類の変花崗岩に注目した調査報告は少ないが,本調査によって大小さまざまな規模で普遍的に産することが確認された.変花崗岩には2つの産状が認められ,ひとつは片麻岩の片理を切る不調和タイプ,もう1つは塊状のブロックタイプである.大多数は不調和タイプの産状を示し,ブロックタイプは今のところ1露頭である.薄片観察では両タイプの鉱物組合せに大きな違いはなく,主に石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母を含み,少量のザクロ石を伴うことがある.

     全岩化学分析の結果から,コンドライトで規格化したREEパターン図の検討を行った.不調和タイプでは,高REE量かつEuの負異常を持つものと,低REE量かつEuの正異常を持つものが認められた.高REE量のものは相対的に「高HFS量」である傾向があり,低REE量のものは「低HFS量」である傾向がある.また,不調和タイプはPearce et al.(1984)のY+Nb vs Rbの判別図で,火山弧型,衝突帯型,プレート内型の幅広い特徴を示す.高HFSタイプは火山弧型~プレート内型の傾向があり,低HFSタイプは火山弧型~衝突帯型の傾向がある.一方,ブロックタイプの地球化学的特徴に関しては現在検討中である.

     今回は不調和タイプの変花崗岩の検討を中心に紹介する.上述のように高HFSタイプと低HFSタイプのREEパターンには違いがあり,そのEu異常とREE含有量の傾向から長石類の分別効果が疑われる.そこで平衡結晶作用のモデル計算を試みた.その結果,主に斜長石とアルカリ長石が結晶化した際に,高HFS量のメルトと低HFS量の集積岩とに分離したことが示唆された.したがって,地球化学的判別図の使用や成因の検討には,メルト相に区分される試料を扱うことが好ましい.メルト相の試料(高HFSタイプ)をPearce et al. (1984)の判別図で確認すると,長石の分別が進行するにつれて火山弧型からプレート内型に組成が変化していることが示唆された.このことから,不調和タイプの変花崗岩は,火山弧型の特徴をもつ親マグマから生成されたと解釈できる.ただし,マグマの起源物質が火山弧型であると解釈されるものの,その活動場を火山弧に断定できるとは限らず,今後の更なる検討を要する.

    引用文献:Cho et al. (2021) Lithos, 396, 106217; Kawabata et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology, 40(2), 257-286; Lee et al. (2014) Precambrian Research, 248, 17-38; 山内ほか(2009) 地質調査総合センター, 14-19; Pearce et al. (1984) Journal of petrology, 25(4), 956-983.

  • 村岡 やよい, 宮崎 一博
    セッションID: T7-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    北部九州には白亜紀に活動した花崗岩類が広く分布しており,現在17岩体に区分されている(大和田・亀井,2010など).福岡県西部に位置する糸島半島周辺には,糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩及び深江花崗岩の4岩体が分布する.本発表では,糸島花崗閃緑岩2試料,北崎トーナル岩1試料,志賀島花崗閃緑岩1試料,深江花崗岩1試料の年代測定の結果を報告するとともに,冷却史についても考察する.一部の年代データは昨年の地質学会にて発表したが,新たに得られた年代データとあわせて改めて報告する.

     糸島花崗閃緑岩は北部九州で最も広く産する白亜紀花崗岩体で,東西約60km,南北約35kmの分布面積を誇る.また,同地域で最も初期に活動した花崗岩体ともされ,深江花崗岩,佐賀花崗岩,早良花崗岩,福岡花崗岩,三瀬花崗岩に貫かれる.北崎トーナル岩は糸島花崗閃緑岩とは変成岩のルーフを挟んで北側に分布し,さらに北側には志賀島花崗閃緑岩が分布する.志賀島花崗閃緑岩は北崎トーナル岩を貫き,累帯深成岩体を形成する.深江花崗岩は脊振山地南部に広く産するほか,糸島花崗閃緑岩に伴って散点的に産する.

     糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩及び志賀島花崗閃緑岩については,同一露頭のサンプルを用いて,ジルコンU-Pb年代,黒雲母K-Ar年代及びジルコンFT年代を測定した.また,深江花崗岩はジルコンU-Pb年代のみ測定した.糸島花崗閃緑岩からは106.1±0.9Ma ,105.0±1.4MaのジルコンU-Pb年代,96.1±2.1Ma,91.4±2.0Maの黒雲母K-Ar年代,105.1±4.7Ma,101.5±6.1MaのFT年代が得られ,北崎トーナル岩からは111.5±1.3MaのジルコンU-Pb年代,94.3±2.1Maの黒雲母K-Ar年代,100.±6.0MaのFT年代,志賀島花崗閃緑岩からは110.1±0.5MaのジルコンU-Pb年代,92.9±2.0Maの黒雲母K-Ar年代,100.8±6.0MaのFT年代が得られた.深江花崗岩からは100.3±0.5MaのジルコンU-Pb年代が得られた.

     年代測定の結果,北崎トーナル岩のジルコンU-Pb年代が最も古く,最初期に活動した可能性が示された.さらに,北崎トーナル岩に貫入する志賀島花崗閃緑岩も糸島花崗閃緑岩より古い年代を示すため,累帯深成岩体を形成した一連のマグマ活動が,糸島花崗閃緑岩マグマの活動に先立って起こった可能性が考えられる.

     一方,一般的な各年代測定の閉鎖温度はジルコンU-Pb年代が約900℃,黒雲母K-Ar年代が約300-350℃,FT年代が約250℃とされる.このことを踏まえるとFT年代が最も若い年代を示すと推測されるが,糸島花崗閃緑岩,北崎トーナル岩,志賀島花崗閃緑岩の3岩体4試料については,黒雲母K-Ar年代が最も若い値を示したため,年代値の扱いや冷却史の解釈には慎重な考察が必要である.この点について本発表では,測定鉱物の粒径と閉鎖温度の関係から検討を行う.

    【引用文献】大和田・亀井 (2010) 日本地方地質誌 8, 朝倉書店, 304–311.

  • 江島 圭祐, 大和田 正明, 亀井 淳志
    セッションID: T7-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    花崗岩や閃緑岩などの深成岩体はマグマ溜まりの化石と称され(Wibe, 1994),マグマ溜まりの状態,その中でのマグマの挙動および深成作用(分化,同化および混合)の影響などマグマが固結するまでの様々な活動履歴を保存している.また,これらの情報はマグマがどのようにして形成,上昇または定置したのかというマグマの「空間問題」に対しても様々な知見を与えてくれる.最近ではアナログ実験(Kavanagh et al., 2006)や数値シミュレーション(Melkin et al., 2021)などラボスケールでの再現実験やデータ駆動型の検討が多くなっている.しかしながら,このような解析結果を野外地質や岩石の特徴または岩石の化学組成を用いた検討,特に岩体のマグマプロセスを反映した検討は少ない.そこで,本発表では詳細な野外調査から得られたマグマの流動データ(面構造,線構造),高密度サンプリングによる岩体規模の鉛直・平面化学組成変化および岩体固有のマグマプロセスを統合し,岩石学的なアプローチで岩体成長過程とマグマの上昇過程を明らかにする.また,再現実験や数値シミュレーションの解釈を検証し,適応することでより詳細な岩体成長過程を編む. 対象岩体の牛斬山花崗閃緑岩体が分布する北部九州花崗岩バソリスは17または18個の小規模岩体で構成される(大和田・亀井, 2010).この花崗岩バソリスの中で牛斬山岩体は他の花崗岩類と接しておらず独立した小規模岩体であるという特徴を持つ.この特徴は一つのマグマ溜まりの詳細や岩体の成長過程を考える上で大きなアドバンテージとなる.そして,牛斬山周辺の地質は,石灰岩・変成岩とそれらを貫く牛斬山花崗閃緑岩及び小規模な岩脈から構成され,牛斬山花崗閃緑岩は,牛斬山山頂部から東西に延びる細粒相を境に北部岩体と南部岩体に区分される.南部岩体は北部岩体とは異なり,母岩の捕獲岩,岩脈類の貫入および火成起源の緑簾石の存在が確認できる.一方で北部岩体は一部斑状を呈する花崗岩が存在する.また,牛斬山岩体全体では岩体の外形に沿うようなホルンブレンドと斜長石の定向配列による面構造(流理構造)と付随するドーム型の形状を示す線構造が発達する.一般にどちらも弱い構造であるが南部岩体と細粒相では多く確認できる.モード組成と全岩化学組成データは細粒相を境界に南北に2つの累帯組成変化を示し,この平面変化は岩体の面構造の形態と調和的である.さらに,南北両岩体の活動年代はホルンブレンドのK-Ar年代測定から南部岩体105.3 ± 3.2 Ma,北部岩体100.9 ± 2.9Maとされ,活動時期の少し異なる2つのマグマの上昇が考えられる. また,南部岩体のみに含まれる自形かつ火成起源の緑簾石の存在から南部岩体マグマは固結時の定置P-T条件よりも深い地下深部で一度マグマ溜まりを形成したことが予想され,そのことと調和的に北部岩体に比べ南部岩体のホルンブレンドのコアのAl含有量は高い.そして,南部岩体の母岩を捕獲岩として含む産状,北部岩体より肥沃な同位体組成および古いK-Ar年代値から,南部岩体マグマが先に母岩を捕獲または同化しながら上昇し,一度安定し再び上昇するというプロセスが編まれる.一方で,北部岩体は南部岩体と同じ火道(通路)を使用することで,Vent cleaning(Harris et al., 1999)が作用し,母岩との反応が抑えられたマグマとして上昇・定置したと考えられる.北部岩体には斑状組織を呈する岩石も産することから上昇速度も速かったと予想できる.また,牛斬山花崗閃緑岩体は変成岩とその上部の石灰岩との低角度境界部に貫入しており,牛斬山山頂部では変成岩のルーフが確認できる.このことはアナログ実験で検証された岩体(シル)の形成過程と類似する.加えて,両岩体に発達する面構造はマグマが供給口から半円状のローブとして流れ,塁重したものと解釈できる.これらのことから,マグマの上昇過程や成長過程の岩石学的な検討は1種類の事象や1種類のデータでは難しいが,岩体の分布条件や岩石の露出状況などを考慮し,複数個の岩石学的データを用いることで検討可能である. 【引用文献】Wiebe (1994) Jour. Geol., 102, 423–437. Harris et al. (1999) Jour. Petrol., 40, 1377–1397. Kavanaghet al. (2006) EPSL, 245, 799–813. 大和田・亀井 (2010) 日本地方地質誌8, 朝倉書店, 304–311. Melkin et al. (2021) JGR, Solid Earth, e2021JB023008.

  • 和田 伸也, 木村 皐史, 大山 隆弘, 鈴木 茂之, 岩森 暁如, 大塚 良治, 大野 顕大, 小割 啓史, 木村 一成, 柳田 誠
    セッションID: T7-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:夜久野オフィオライトは,岡山県の井原地域から福井県の大島半島にわたって分布する,上部地殻からマントルまでの層序を保った,古生代後期の複合火成岩体である[1].オフィオライト最下部のマントルかんらん岩は,大島半島の南部と東端部に,大島岩体,待ちの山岩体として分布する[1].2014 - 2018年,大島半島北部の大飯発電所敷地内において実施された深度1000 mを超えるボーリングにより,かんらん岩まで到達する連続的なコア試料が得られた.本発表では,これらの岩相記載と,コア試料の帯磁率およびX線CTの結果から得られた知見について報告する.

    岩相記載:本コアの岩相は,深度0 - 623 mの地殻セクション,623 - 1005 mのマントルセクションに大別される.地殻セクションでは,浅部に頁岩,玄武岩-ドレライト(以下,ドレライト類と呼称),中部にドレライト類,深部に斑レイ岩が認められた.ドレライト類には,ドレライトゼノリスを含む珪長質~苦鉄質貫入岩や,変質によって二次的に形成されたと考えられるエピドーサイトが認められた.例えば,中部のドレライト類の鉱物組み合わせは,主に斜長石,緑簾石,マグネタイト,石英,緑泥石であったが,エピドーサイトでは主に緑簾石,石英に変化していた.斑レイ岩には,塑性および脆性変形を被った剪断変形組織が認められた.これらの地殻セクションは,上位から下位にむかって温度の上昇する中圧型の変成作用を被っており,緑色片岩相から緑簾石角閃岩相をへて,角閃岩相に到達していることが観察された.マントルセクションでは,浅部にハルツバーガイト,ダナイト,輝石岩,深部にウェールライトおよび輝石岩が認められた.かんらん岩類には,かんらん石が保持された新鮮部が認められる一方で,一部,二次的な蛇紋岩化作用が認められた.例えば,ウェールライトの鉱物組み合わせは,主にかんらん石,単斜輝石,クロムスピネルであるが,蛇紋岩化作用を強く被ると,主に蛇紋石,マグネタイト,角閃石となっていることが観察された.

    物性値の測定結果:コア試料の帯磁率測定の結果,地殻セクションのドレライト類は0.222 - 186×10-3 SIであり,変質部は新鮮部よりも低い値を示した.珪長質~苦鉄質貫入岩は0.04 - 0.518×10-3 SIであった.斑レイ岩は0.134 - 0.258×10-3 SIであった.マントルセクションのハルツバーガイトは5.34 - 16.4×10-3 SI,ダナイトは18.4 - 44.7×10-3 SI,輝石岩は2.17 - 39.9×10-3 SIであった.蛇紋岩は10.1 - 96.1×10-3 SIであった.変質した試料の一部には,数cmスケールの帯磁率の不均質性が認められた.X線CTの結果,変質した試料には幅数mmのマグネタイトの濃集脈などが,三次元的に発達していることが観察された.CT値と密度の関係式[2]から,コア試料の三次元的な密度変化を1ピクセル0.07 mmの画素サイズのCT画像を用いて決定した.

    考察:帯磁率に対する二次的な変質作用の影響を評価するため,新鮮部と変質部が共存するドレライト類およびウェールライト試料を対象に,帯磁率と岩石組織の関係について考察した.変質程度が異なる試料について,帯磁率と薄片観察より得られた各鉱物の体積比との相関をとると,帯磁率とマグネタイトの体積比に強い正の相関が認められた.従って,ドレライト類が変質すると,マグネタイトが緑簾石の形成のために消費されることで,帯磁率が低下すると考えられる.また,かんらん岩が変質すると,かんらん石の分解によってマグネタイトが増加するために,帯磁率が増加すると考えられる.変質した試料でみられた帯磁率の不均質性は,X線CTの結果から,三次元的に発達するマグネタイトなどの濃集脈の影響と考えられる.これらにもとづき,全てのボーリングコアの帯磁率層序から貫入岩や変質作用の影響を取り除くと,帯磁率の一部に周期的な変化が認められた.この変化は,火成作用によって形成された鉄酸化物などの量比と相関する可能性があり,オフィオライトを形成したマグマの化学組成の変化と対応する可能性がある.

    まとめと今後の展望:大島半島北部において,オフィオライト層序を保持した連続的なボーリングコアが得られた.本研究では,当該コアの岩相記載を実施し,帯磁率やX線CTを組み合わせることで,岩石が被った代表的な変質作用と帯磁率の関係を議論した.二次的な影響を減じた帯磁率層序に認められる周期的な変化は,マグマ組成の変化に対応する可能性がある.今後,これらの岩石の化学分析を実施し,本オフィオライトを形成したマグマ組成の経時変化について議論したい.

    [1] Ishiwatari, 1985, Journal of Petrology;

    [2] 岩森ら, 2020, 岩石鉱物科学

  • 福井 堂子, 齊藤 哲
    セッションID: T7-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

    白亜紀後期のユーラシア大陸東縁では大規模火成活動がおこり,西南日本内帯の領家帯と山陽帯を構成する花崗岩類を形成した.この大規模火成活動に伴う大陸地殻の成長過程を理解するためには,花崗岩類を形成した火成作用やそれに引き続く交代変質作用などの地殻深部プロセスについて明らかにする必要がある.愛媛県北部伯方島は西南日本内帯に位置し,多様な岩相を示す深成岩類がみられることから,白亜紀後期における地殻深部プロセスの検討に適した研究地域である.当地域について,越智(1991),桃井ほか(1991),松浦ほか(2002)などの先行研究では,それぞれ花崗岩類の岩相区分などの記載岩石学的研究がなされてきた.しかしながら,火成作用や交代変質作用の考察に必要な全岩化学組成や鉱物化学組成などについての検討はこれまでなされていない.そこで本研究では,伯方島の深成岩類を形成した地殻深部プロセスを明らかにするために,野外調査,岩石記載,全岩化学組成分析,鉱物化学組成分析をおこない,当地域の深成岩類の岩石学的特徴を検討するとともに,その成因関係を考察した.

    岩相区分と岩石記載

    野外産状,構成鉱物及びモード組成から,当地域の深成岩類は黒雲母花崗岩,黒雲母花崗閃緑岩,角閃石閃長岩,苦鉄質岩脈,花崗斑岩脈の5岩相に区分できる.黒雲母花崗岩および黒雲母花崗閃緑岩中には苦鉄質包有物が多数みられ,鏡下ではいずれもカリ長石にポイキリティック組織がみられる.また黒雲母花崗岩中にはしばしば優黒質な岩相がみられ,それらは角閃石黒雲母トーナル岩の組成を持つ.鏡下ではこれらの優黒質部には,斜長石の汚濁帯やポイキリティック組織がみられる.一方,角閃石閃長岩は,周囲の黒雲母花崗岩との境界域に漸移的な岩相変化がみられる.鏡下では構成鉱物としてアルカリ長石,斜長石,角閃石,石英,燐灰石,ジルコン,柘榴石,スフェーンなどが認められ,角閃石には粒状集合組織がみられる.

    全岩化学組成と鉱物化学組成

    全岩化学組成については,深成岩類及び岩脈類でSiO2含有量が52~80 wt%と組成範囲が広く,ハーカー図上で単一の組成トレンドを形成しない.特に角閃石閃長岩はNa2O含有量が6.1~6.5 wt%と他の岩相(4.2 wt % 以下)に比べ著しく高い.また,黒雲母花崗閃緑岩中の苦鉄質包有物については,ノルムAn-Ab-Or花崗岩分類図でトーナル岩の組成を示す.一方,黒雲母花崗岩については,固有の組成トレンドを形成する.鉱物化学組成については,角閃石黒雲母トーナル岩中の汚濁帯をもつ斜長石のAn成分が,汚濁帯付近で急激に増加する特徴がみられる.

    考察

    当地域の黒雲母花崗岩には,トーナル岩の組成を持つ優黒質部がみられ,花崗岩質マグマとトーナル岩質マグマの共存及び混合を示唆する.また,優黒質部にみられるAn成分に富む汚濁帯をもつ斜長石は,高温のマグマとの接触を示唆している(例えば, 池田ほか, 2019).さらに,黒雲母花崗閃緑岩とその苦鉄質包有物が,黒雲母花崗岩と優黒質部との中間的な組成を示すことから,これらが上記の2つのマグマの混合により形成されたことが示唆される.このような野外産状と岩石記載の特徴から,当地域の花崗岩類について,「花崗岩質マグマとトーナル岩質マグマとの混合による花崗閃緑岩質マグマの形成」の成因関係が考えられる. 一方,黒雲母花崗岩にみられる主要元素の組成トレンドについては,マスバランス計算から,黒雲母,斜長石,カリ長石,燐灰石の分別により説明でき,黒雲母花崗岩のマグマ過程として結晶分化作用がおきたと考えられる. 角閃石閃長岩については,周囲の黒雲母花崗岩からの漸移的な岩相変化や角閃石の粒状集合組織,Na2Oに富む特異な全岩化学組成といった特徴が交代変質作用による花崗岩質岩の変化が示唆される(村上, 1976).また,当地域の角閃石閃長岩は構成鉱物や組成的特徴から,村上(1958)に記載されたType Bの閃長岩に相当すると考えられる.以上のことから,角閃石閃長岩の成因は黒雲母花崗岩に高温でNa2Oに富むアルカリ揮発性成分が関与した交代変質作用であると考えられる.

    まとめ

    伯方島にみられる多様な深成岩類を形成した地殻深部プロセスとして,①結晶分化作用(花崗岩質マグマの結晶分化),②マグマ混合(花崗岩質マグマとトーナル岩質マグマの混合),③交代変質作用(Na2O流体による交代変質)の3つが関与したと考えられる.

    引用文献

    池田ほか 2019 地雑 125 167-182.松浦ほか 2002 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」 産総研.桃井ほか 1991 愛媛県地質図(20万分の1)第4版 トモエヤ.村上 1958 岩鉱 42 309-318.村上 1976 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号 1 261-281.越智 1991 日本の地質8 四国地方 共立出版 6-12.

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    谷脇 由華, 齊藤 哲
    セッションID: T7-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに 花崗岩質マグマの固結圧力は、造山帯の構造発達史や個々の花崗岩体のマグマ過程など、広い範囲の地質現象の理解に欠かせない基本情報である。花崗岩体の固結圧力を岩石学的に制約する方法として、角閃石Al地質圧力計が広く用いられているが、角閃石を含まない花崗岩類には適用できない問題がある。一方、流紋岩などの火山岩類ではガラス(メルト)組成とQz-Ab-Or系の相平衡関係からマグマ溜まりの深度が検討されている。従って、花崗岩類についてもメルト組成を得ることができれば、マグマの固結圧力を制約することができると考えられる。しかしながら、花崗岩類にはガラスが含まれないため、直接メルト組成を得ることは困難である。本研究では、新たに花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコンに着目し、そのメルト包有物の均質化実験と組成解析を試み、花崗岩質岩体の固結圧力の検討を行った。

    実験試料 本研究では、西南日本外帯酸性岩体の1つである中新世御内岩体を対象にジルコンメルト包有物の解析を行った。御内岩体の花崗岩類は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母から構成され、ジルコン・燐灰石・スフェーン・電気石を副成分鉱物として含む。鏡下観察からジルコンは自形を呈し、主成分鉱物の粒間に認められた。全岩化学組成分析を行った10試料のうち、比較的Zr含有量の高い試料からジルコンを抽出し、SEM-EDSによりジルコンの内部構造を観察したところ、微細な石英・長石類からなる不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。

    実験方法 ジルコンメルト包有物の均質化実験はピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで行った。まずメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後、試料の全岩化学組成から見積もったジルコン飽和温度(Watson & Harrison 1983 CMP)より、840℃で24 時間保持した。実験後の試料は室温まで急冷させたのち回収し、SEM-EDSにより反射電子像観察、化学組成分析を行った。

    結果 御内岩体のメルト包有物のSiO2含有量は75~80 wt%の範囲であり、SiO2含有量の増加に対してAl2O3、CaO、Na2O、K2O含有量は減少する。また、岩体の全岩化学組成とメルト包有物組成を比較すると、ハーカー図においてNa2OとK2Oについては両組成トレンドが斜交する。さらに、御内岩体の全岩化学組成はMgO含有量が2.0 ~ 0.1 wt%、FeO含有量が4.0 ~ 0.3 wt%であるのに対し、メルト包有物組成についてはMgOは検出されず、FeO含有量も1.2 wt%以下と低く、全岩化学組成とメルト包有物組成のトレンドは大きく異なる。

    考察 メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところに位置する。従って、ジルコンは結晶成長時に鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられるが、このことは鏡下観察からジルコンが主成分鉱物粒間に認められることと調和的である。メルト包有物組成はSiO2の増加に対して、Na2OとK2O含有量が減少するトレンドを示す。この組成トレンドの解釈として、(1)マグマ固結過程で組成変化するメルトが示すトレンド、(2)ジルコンがメルトとともに微細結晶を取り込んだ包有物を、実験により均質化させたことによる混合トレンド、の2つが考えられる。(1)については、マグマ固結過程でのメルトの組成変化は、岩体の全岩化学組成変化と同様の傾向を持つことが予想されるが、ハーカー図上において、Na2O、K2O、FeO、MgOはメルト包有物の組成トレンドが全岩化学組成トレンドとは大きく斜交している。これに対し、ハーカー図上にアルカリ長石の組成をプロットしたところ、メルト包有物の組成はアルカリ長石(Or:Ab=3:2)との混合線上に並ぶ。このことから、メルト包有物のうち、SiO2含有量が低く、Na2OとK2O含有量が高いものについては、メルトとアルカリ長石の微細結晶が混合したものである可能性が高い。このことは、SiO2含有量の低いメルト包有物がFeOやMgOをほとんど含まないこととも調和的である。 次に、固結圧力検討のために、メルト包有物組成の中でも特に微細結晶を含んでいる割合が低いと考えられるデータをノルムQz-Ab-Or図(Blundy & Cashman 2001 CMP)に投影した。その結果、メルト包有物組成はおよそ180~50 MPaの圧力範囲にプロットされる。御内岩体の産状のうち、貫入母岩との境界部近傍に見られる発泡痕や、変成岩ゼノリス中に含まれる紅柱石は、比較的圧力の低い地殻浅部への貫入を示唆する。御内岩体のメルト包有物組成から得られた固結圧力は、これらの低圧を示唆する産状と調和的である。

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    下岡 和也, 齊藤 哲, 谷 健一郎
    セッションID: T7-P-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1. はじめに 近年、大陸地殻の成長を解明するための鍵として火山弧でのマグマの異常発生期である“フレアアップ”が注目されている。西南日本内帯に分布する花崗岩類をはじめとした珪長質岩類は白亜紀フレアアップによって形成され、近年の同位体岩石学をはじめとした研究から、苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられている(例えば, Nakajima 2004)。しかしながら、そのメカニズムについては未だ明らかにされておらず、苦鉄質岩および珪長質岩類の産状と年代学データを紐づけた議論が必要不可欠である。

     四阪島梶島は愛媛県北東部に位置する南北800 m、東西500mの小島であり、全島が斑れい岩類により構成され、岩脈状に珪長質岩が分布する。堀内(1985)は当地域に分布する斑れい岩類について詳細な記載岩石学研究を行い、鉱物組成の特徴から当地域の斑れい岩類が同一のマグマから形成されたことを示唆した。一方で、Kagami et al. (1985; 2000)は梶島の斑れい岩類を含む西南日本白亜紀深成岩類の同位体岩石学研究から苦鉄質岩と珪長質岩の成因的関連性を示唆した。Okano et al. (2000)は梶島の斑れい岩についてSr-Nd同位体組成分析を行い、101.9±3.2 MaのRb-Sr鉱物アイソクロン年代と、220±46 MaのSm-Nd鉱物アイソクロン年代を報告している。しかしながら、珪長質岩についての研究は極めて少なく、堀内(1985)で僅かに触れられた岩石記載研究に限られる。そこで本研究では、梶島に分布する深成岩類について新たに岩石記載とジルコンU-Pb年代測定を行い、その特徴を明らかにするとともに、西南日本に分布する白亜紀深成岩類との比較を行なった。

    2. 岩石記載 梶島の苦鉄質岩類は、野外産状および記載岩石学的特徴から、含かんらん石優白質輝石角閃石ノーライト、含角閃石トロクトライト、優白質輝石角閃石斑れいノーライト、優白質輝石角閃石斑れい岩、含かんらん石優白質角閃石斑れい岩、苦鉄質岩脈に大別できる。珪長質岩は野外産状により片状なものと塊状なものの2岩相に分けることができる。片状な岩相は、異なる斑れい岩相どうしの境界域に産し、岩脈中心部では岩脈の貫入方向と調和的な変形構造を示すが、周縁部では塊状に変化する。鏡下ではカリ長石および斜長石のポーフィロクラストとサブグレイン化した石英・斜長石を観察でき、黒雲母は岩脈の示す変形構造に調和的に配列する。塊状な岩相は斑れい岩相内部に産し、石英、斜長石、および黒雲母からなり、しばしば他形のカリ長石を含む。このカリ長石は鏡下で融食縁を示す斜長石、球状の石英・自形〜半自形の黒雲母をポイキリティックに内包する。

    3. ジルコンU-Pb年代 優白質輝石角閃石斑れいノーライト、含かんらん石優白質角閃石斑れい岩、珪長質岩の片状岩相、塊状岩相の試料からジルコンを分離し、U-Pb年代測定を行った。その結果、優白質輝石角閃石斑れいノーライトから約92 Ma、含かんらん石優白質角閃石斑れい岩から約91 Ma、珪長質岩の片状岩相から約84 Maと塊状岩相から約91 Maの年代が得られた。

    4. 議論 斑れい岩類は92〜91 MaのジルコンU-Pb年代を示し、約91 Maの年代値を示す珪長質岩塊状岩相と同時期に形成されたと考えられることから、両者の成因的関連性が強く示唆される。一方で、珪長質岩からは約91 Maと約84 Maの岩相によって異なる年代値が得られており、この地域に少なくとも2つの異なる珪長質岩形成時期があったことを示している。珪長質岩のジルコンU-Pb年代値について、約91 Maを示す塊状岩相は、近傍の高縄半島に分布する花崗岩類の年代値(99~89 Ma; Shimooka et al., 2019)に類似するが、約84 Maを示す片状岩相はこれらに類似しない。しかしながら、本研究で得られたジルコンU-Pb年代は西南日本に分布する白亜紀深成岩類の年代分布範囲に収まることから、梶島の深成岩類は西南日本内帯の白亜紀深成岩類を代表するものと考えることができ、苦鉄質下部地殻での珪長質マグマ形成過程を記録した地質体と捉えることができる。

    引用文献 : Kagami et al. (1985) Geochem. J. 19, 237-243. Kagami et al. (2000) Island Arc 9, 3-20. 堀内(1985) 岩石鉱物鉱床学会誌, 80, 104-112. Nakajima (2004) Transactions of the Royal Society of Edinburgh: Earth Sciences, 95, 249-263. Okano et al. (2000) Island Arc, 9, 21-36. Shimooka et al. (2019) JMPS, 114, 284-289.

T8(ポスター).文化地質学
  • 谷川 亘, 望月 良親, 徳山 英一, 高木 翔太, 中村 璃子, 山本 裕二, 濱田 洋平, 渡部 淳
    セッションID: T8-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    全国各地には江戸時代に造営された荘厳な大名墓所が存在し、その墓所内には数メートル規模の巨石で制作された墓石が奉られており、その巨大な墓石は当時の世相を映す鏡となっている。また、大名の墓石に使用されている石材の産地、および運搬工程は当時の文化産業を知る手がかりとなりうるが、石材産地に関する文献記録が少なく、産地不明の墓石が多い。高知市筆山の北麓にある土佐藩主山内家大名墓所には花崗岩で制作された大名墓石(一代、二代、九代藩主)があるが(高知県、2015)、その産地については議論が残されていた。そこで本研究では、山内家の大名墓所の墓石を対象に非破壊岩石分析によりカリ長石の色、帯磁率、有色鉱物の粒径を計測した。非破壊分析で得られた墓石の特徴について、高知県南西部で産出される花崗岩と瀬戸内海で石材用として採取されてきた13地域の山陽花崗岩と比較を行い、石材産地の推定を試みた。花崗岩に含まれるカリ長石は白色から赤色を示すが、墓石のカリ長石は肉眼観察では白色を示した。帯磁率の平均値はいずれの大名墓碑も0.3~0.5×10-3 SIを示し、ガウス分布に従った。また、花崗岩に含まれる有色鉱物の粒径は対数正規分布に従うとともに、全鉱物に対して有色鉱物の占める割合(含有率)と粒径は他の花崗岩と比較して大きい特徴を示した。以上の3つの特徴は高知県南西部大月町(頭集・古満目地区)で産出する花崗岩にも認められた(図1)。一方、山陽花崗岩についてはすべての特徴が合致する花崗岩は確認できなかった。本研究の結果、山内家大名の墓石は高知県南西部の大月町産の花崗岩から制作されたものである可能性が高いことが分かった。江戸時代以前の中世に造られた高知県の石造物はおおむね六甲御影石(山陽花崗岩)由来だと言われている(市村、2013)。本研究結果は江戸時代前後に高知県の石材の流通ルートの変遷とその原因について重要な示唆を与える。

    [文献]

    高知県(2015)土佐藩主山内家墓所調査報告書、高知県文化生活部文化推進課、167p

    市村高男(2013)御影石と中世の流通、高志書院、282p

T11(ポスター).堆積地質学の最新研究
  • 中村 希, 坂本 泉, 横山 由香, 平 朝彦
    セッションID: T11-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    駿河湾はプレートの収束域に位置し,最深部は約2600 mに達する.駿河湾奥部には一級河川富士川(全長約128 km)が流入している.富士川では,台風や梅雨時に浸水や流出災害を伴う氾濫が多く発生している(国土交通省HP).このような氾濫時には,濁度の高い河川水が河口から駿河湾内へ流入する様子が航空写真から観察され,多くの砕屑物を含む河川水が海域へ流出していることが推察される.したがって,洪水による堆積物運搬および海域への影響を検討する上で,富士川沖海域は適した海域であると言える.そこで,本研究では,河川の氾濫による海域への堆積物供給過程の解明に向けて,駿河湾奥部における海洋地質学的調査を行った.

    調査は東海大学所有の大型調査船望星丸(2000 t)に搭載されているマルチナロービーム音響測深器を用い,駿河湾の詳細な海底地形および後方散乱強度データの取得と蓄積を行った.沿岸域では同大学所有の小型調査船,北斗・南十字(19 t)を用い,表層堆積物の底質調査を行った.海底地形的特徴から,富士川沖に広がる海底扇状地(池原・西田,2017,Soh et al, 1995)は本調査により,①扇頂部(水深600 m以浅,勾配約16%),②扇央部(水深600~1300m,勾配約12%),③扇端部(水深1300-1400 m,勾配約3%)の3つに区分された.後方散乱強度マップ(2014年取得)からは,粗粒な堆積物を示すと考えられる強反射が南北方向に網状河川のように分布することが確認された.

    2021年度は,後方散乱強度マップに基づき,富士川河口から南北方向に設定した測線上の水深110 mから1418 m(河口から約13 km)までの13地点に加え,駿河トラフ沿いの水深1445 m(湾奥部),水深1596 m(湾央部),水深2618 m(湾口部)の3地点の合計16地点において採泥調査を実施した.採泥調査ではスミスマッキンタイヤ式グラブ採泥器を用いた.実施した調査地点のうち,水深560~1418 mに位置する7地点と駿河トラフ沿い(水深1445 m,水深1596 m,水深2618 m)の3地点から柱状アクリルケースを用いて柱状試料(最大20 cm)を採取し,肉眼観察,軟X線写真観察,レーザー回析散乱法による粒度分析,スミアスライドによる堆積物観察を行った. その結果,堆積物試料および海底映像から,以下の6つの特徴が確認された. (1)海底映像からは,水深約100~1400 m付近に至る全域にわたり,海底表面がオリーブ色の泥質堆積物に覆われていた.(2)海底映像や堆積物試料から,水深約1000 mまで大きさ数cm~10 cmの礫が散在している様子が確認された.(3)水深560 m~1343 mまでに位置する7地点から採取した柱状試料では,軟X線写真からラミナの発達が確認される砂質堆積物(粒径約2φ)が採取された.(4)水深1387 mおよび水深1416 mの採泥点では,表面を覆うオリーブ色の泥質堆積物の下位に,厚さ数cmにおよぶポケット状に堆積した黒色植物が観察された.また,水深1416 mの採泥点では,表層1 cmに黒色植物層,その下位にラミナが発達するシルト層が堆積していた.(5)スミアスライドによる観察結果から,湾奥部の堆積物は淡水性プランクトンが多く観察され,海洋性プランクトンは観察されなかった.湾口部の堆積物は海洋性プランクトンが多く観察された.(6)水深1075 mに位置する採泥点では,海底映像から,根のついた緑色の新鮮な状態の植物(全長約20 cm)が海底表面に堆積している様子が観察された.

    以上より堆積物特徴,分布範囲などから富士川を起源とする堆積物は,湾奥部に広域に分布することが明らかになった.したがって,駿河湾奥部では台風などの大雨を伴うイベント時には,富士川からの砕屑物を多く含む河川水による堆積物の運搬が起きていたと考えられ,今後この運搬メカニズム解明に取り組む予定である.

    引用文献 西田尚央,池原 研(2017)駿河湾北部沿岸域の海底堆積物の特徴とその堆積プロセス,海陸シームレス地質情報集,駿河湾北部,海陸シームレス地質図S-5, 2016

    Soh,W., Tanaka,T. and Taira, A. (1995)Geomorphology and processes of a modern slope-type fan delta(Fujikawa fan delta), Suruga Trough, Japan, Sedimentary Geology, 98, 79-95.

  • 中野 有紗, 丸茂 恭徳, 太田 亨
    セッションID: T11-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

    カソードルミネッセンス (Cathodoluminescence: CL) は,物質に電子線を照射した際に生じる発光現象である.その特性は結晶中の格子欠陥や不純物元素を反映するため,石英のCLを利用した後背地解析手法が提案されてきた (Zinkernagel, 1978; Augustsson and Reker, 2012).しかし,これらの研究の多くはCL組織や発光スペクトルの概形に基づく分類にとどまっているため,一部の岩種は識別が困難である,発光中心の形成要因に関する議論に乏しいといった課題がある.本研究では,火成岩および変成岩に含まれる石英粒子のCLスペクトルを測定し,ピーク分離を用いてCL特性を定量的に評価することで源岩判別指標の構築を試みた.

    【分析試料・手法】

    分析には火山岩,深成岩,高温変成岩,高圧変成岩の計16試料を用いた.CLスペクトルは,回折格子型分光器 (Gatan社製,MonoCL4) を組み込んだ走査型電子顕微鏡 (日立ハイテク社製,S-4300N) によって250-950 nmの波長範囲で測定した.得られたスペクトルをVoigt関数の利用により5個のピークへと分離した.設定した5個の発光中心は,主に結晶中の構造欠陥や不純物元素による発光とされている1.60 eV (770 nm),1.95 eV (620 nm),2.80 eV (450 nm),2.95 eV (420 nm),3.30 eV (380 nm) である.

    【結果・議論】

    火山岩では1.60 eV,2.95 eV,3.30 eVのピークが相対的に大きな発光強度を示した.Stevens-Kalceff (2009) では1.65 eV,Götze et al. (2001) では1.75 eVの発光がFe3+によるSi4+の置換に起因するとしている.また,3.30 eVの発光はAl3によるSi4の置換に因る (Stevens-Kalceff, 2009).したがって,本研究で確認された1.60 eVと3.30 eVの発光も急速な結晶の成長によって取り込まれた不純物元素としてのFe3やAl3+に起因すると考えられる.深成岩および高温変成岩では2.80 eVのピークが最も大きな発光強度を示した.高圧変成岩では1.95 eVの発光が特徴的であった.Stevens-Kalceff (2009) は1.95 eVのCL発光が非架橋酸素正孔中心に関連するとしており,圧力で歪んだSi-O結合がこの前駆体となり得る (Slitter and Götze, 2018). 以上より,1.60 eV+2.95 eV+3.30 eV,2.80 eV,1.95 eVの相対的な発光強度がそれぞれ,不純物元素,被熱,圧力の影響を反映した指標となることが示唆された.そこで,これらを端成分に持つ三角ダイヤグラムを作成した.火山岩と高圧変成岩のプロットは明瞭に分離された.深成岩と高温変成岩は一部重複があるものの,前者は火山岩に近い領域,後者は高圧変成岩に近い領域へプロットされる傾向が見られた.したがって,本ダイヤグラムによって,石英粒子に含まれる不純物元素および被った温度や圧力の程度を復元し,一定の範囲内で源岩を判別できることが示された.本研究結果を砕屑物中の石英粒子に適用することで,後背地解析に有用となる可能性がある.

    文献

    Augustsson and Reker, 2012, J. Sediment. Res., 82, 559-570. Götze et al., 2001, Mineral. and Petrol., 71, 225-250. Slitter and Götze, 2018, Minerals, 8, 190. Stevens-Kalceff, 2009, Mineral. Mag., 73, 585-605. Zinkernagel, 1978, Contrib. sedimentol., 8, 1-69.

  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    中西 諒, 芦 寿一郎, 相澤 正隆, 成瀬 元, 大熊 祐一, 古知 武
    セッションID: T11-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    津波堆積物は観測記録のない時代において津波の遡上範囲を確認する数少ない手段の一つであり,各地の津波堆積物分布を再現する津波の数値シミュレーションによって古地震の破壊領域が推定されてきた.一方,2011年津波の現地調査によって,砂質・泥質堆積物の分布と浸水範囲が比較された(Abe et al., 2012, Sediment. Geol.).その結果,傾斜のなだらかな仙台平野では層厚5mm以上の砂層は浸水範囲の60–80 %の領域に分布しているのに対し,厚さ数mmの砂泥質堆積物は浸水範囲の90%以上の範囲に分布していることが明らかになった.しかしながら,層厚が数mmの砂・泥層は堆積後の擾乱や風化によって保存されない可能性が高い.そのため,地質記録として見出される砂層の分布は実際の津波浸水範囲とは乖離している可能性が高く,古津波・地震の規模を過小評価してしまう危険性がある.そこで,本研究では化学トレーサーに比べて保存ポテンシャルが高いとされる鉱物粒子の存在に基づき,砂層検出限界より内陸側において “Invisible津波堆積物”(肉眼では観察できない津波痕跡)を検出し,真の津波浸水範囲の復元を試みた.

     北海道太平洋沿岸は古津波堆積物の研究が盛んに行われている地域である.先行研究によって,千島海溝では数百年間隔で~M9の地震が発生していることが示唆されている(Sawai, 2020, Earth-Sci. Rev.).調査地としたえりも地域においては過去4000年間の津波履歴が明らかにされており,特に17世紀(S1層)と12世紀の砂質津波堆積物(S2層)の分布が報告されている(Nakanishi et al., 2022, ESSOAr).S2層はS1層と10世紀の火山灰層(B-Tm)に挟まれているため,識別が容易であり,保存状態も良い.そこで,本研究はこのS2層を研究対象とした.

     野外調査では,S2層がせん滅する海岸から1000mから1150mの範囲を5–10m間隔でジオスライサーによってサンプリングを行った.採取したサンプルに対して高知大学海洋コア総合研究センターにおいてX線CT撮影を行い,さらにXRFコアスキャナーによってコア表面の化学組成プロファイルを得た.その結果,肉眼で確認できる砂層は高いCT値を示すのに対し,泥炭層は水と有機物で構成されていることから低いCT値を示した.しかしながら, S2層に対比される層準では,泥炭層中にCT値やTi, K, Caといった元素でわずかなピークがみられた.

     そこで, S2層が存在すると推定されるS1層とB-Tm層間の泥炭層について研磨片を作成し,SEM-EPMA分析によって元素マッピングと砂粒子の点分析を行った.その結果, S2層準には他の泥炭層には含まれていない砕屑物粒子が存在することが確認された.その鉱物組成は石英・長石(83–93%),次いで火山ガラス・岩片(6–12%)で構成されており,少量の輝石・緑簾石(3%以下)を含んでいた.S2層準の砕屑粒子の鉱物組成はS2砂層の本体や海浜砂とおおむね一致しており,斜長石のAn値や火山ガラスの特徴(B-Tmの再堆積物)の点でもよく類似していた.Invisible S2層は砂層本体に比べ比重の大きな有色鉱物の割合が低く,内陸へ向かうほど減少していく傾向がみられた.これは比重の大きな鉱物粒子が選択的に砂層として堆積し,軽鉱物がより内陸まで運搬されたと解釈される.

     マッピングデータの砂粒子像に対してImageJを用いた楕円近似を施し,短軸で代表した粒度組成を算出した.その結果,砂層がせん滅した地点から40mほどの地点までは0.08–0.12mmの粒子が確認されたものの,80m前後の地点では砂粒子がほとんど検出されなかった.この極細粒砂は海浜砂やS2砂層の最も細粒な成分にあたることから,運ばれ得る砂粒子としての末端の堆積物であることを示唆している.

     その鉱物組成の類似性や粒度組成の特徴を総合すると,EPMAマッピングによってS2層準の泥炭層中から得られた粒子はS2層に対比されると考えられる.そこで,Invisible砂層が確認された地点まで津波浸水があったかを判定するため,津波堆積物逆解析モデルFITTNUSS(Mitra et al., 2020, JGR-ES)を用いて,砂層の粒度・層厚分布から古津波の水理条件を復元した.その結果、浸水範囲は砂層のせん滅地点から50–70m程度と推定され,Invisible S2層の分布範囲を網羅していた.本研究の結果は,肉眼では確認できないがCT値・鉱物組成から識別可能なInvisible砂層がより現実的な浸水範囲の推定に有益な指標であることを示している.今後,Invisible 砂層の分布は津波浸水の数値シミュレーションの制約条件として活用できるだろう.

  • 田中 綾香, 保柳 康一
    セッションID: T11-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】

    研究地域の新潟県長岡市から柏崎市に位置する八石背斜周辺には,主に鮮新統から更新統の堆積岩類(一部火山岩類)が分布する.この地域ではこれまで多くの研究が進められており,下位から程平層,八石山層,菅沼層,八王子層,魚沼層群が累重することが明らかとされている(小林ほか,1989など).1990年代以降にはシーケンス層序学による堆積盆解析が進められ,新潟堆積盆内各地域におけるシーケンス層序の概要が明らかになっている(荒戸ほか,1994;高野,1998など). しかしながら,本研究地域の堆積システム復元およびシーケンス解析においては,対象を魚沼層群などの砂質及び礫質な地層にしぼったものが多く,下位の泥岩などが卓越する地層の研究例は少ない.また野外調査と分析の両面から堆積システム復元やシーケンス解析を行った研究も多くない.さらに八石背斜の両翼での堆積環境の対比は十分に行われていない.そこで,鮮新統から更新統までの連続的な野外調査と泥質堆積物の化学分析によって,八石背斜両翼での堆積システム復元およびシーケンス解析を行い,八石背斜周辺の堆積環境の変遷を明らかにすることを目的とし研究を行った.

    【研究手法】

    野外調査を基に1/1000または1/2500のルートマップ,柱状図,地質図を作成した.さらに堆積相解析を行い,両翼での対比を行った.また主に菅沼層から八王子層の泥質試料を厚さ約10 m間隔でサンプリングし,全有機炭素量分析,全窒素量分析,安定炭素同位体比分析,全硫黄量分析,粒度分析,珪藻化石分析を行った.

    【岩相に基づく両翼間の堆積システムの違い】

    本研究の野外調査において,八石背斜の両翼での八石山層の岩相の違い,菅沼層の岩相の違い,魚沼層群の層厚の違いが認められた.八石山層の岩相は,西翼は主に最大で1m程の角礫を含むハイアロクラスタイト,東翼は主に暗灰色シルトと粗粒凝灰岩であった.このような岩相の違いは,八石山層の供給源である海底火山の中心が西側にあったことを示しており,小林ほか(1989)によって研究地域の南西に噴火の中心があったことが明らかとされている.また菅沼層では背斜の東翼においてのみ,炭質物を多く含むハイパーピクナイト層がみられた.これは菅沼層や八王子層の大部分は地形的な影響を受けずに両翼に同様に堆積したと考えられるが,八石山層堆積時の西翼側の地形的高まりにより東翼側でデルタに接続し堆積場の中心になっていたために生じたと考えられる.さらに魚沼層群堆積時には,引き続き東翼側がデルタに接続していたために,東翼の層厚が西翼に比べて大きくなったと考えられる.

    【化学・珪藻化石分析に基づく両翼間の堆積システムの違い】

    両翼の菅沼層と八王子層について泥質試料の化学分析を行った.まず全有機炭素量分析では,東翼に比べ西翼の方が値の変動幅が小さく,東翼では複数のピークがみられるのに対し,西翼では大きなピークは見られなかった.また全有機炭素量と全窒素量の比であるC/N比は,全有機炭素量と同様の両翼間での差異がみられた.さらに安定炭素同位体比分析では,両翼共に上位に向かって有機物の起源が陸源になることを示していた.このような化学分析の結果から,西翼に比べて東翼側の方が,海洋環境であっても陸源有機物の影響をより強く受ける環境であったと考えられる.また両翼共に上位に向かって陸源有機物の影響が大きくなることが示されたため,上位ほどプロキシマルな環境で堆積したと考えられる.このような化学分析結果と同様に,現在分析中である珪藻化石分析についても両翼間の堆積環境の共通点や相違が得られることが期待される.

    【岩相及び化学・珪藻化石分析に基づく両翼間の堆積システムの考察】

    以上の岩相や各分析結果を総合すると,八石背斜地域の堆積環境は八石山層堆積時の西翼側の地形的高まりの形成によって,菅沼層~八王子層堆積時には東翼側でデルタに接続し,より陸源有機物の供給が多かったと考えられる.さらに魚沼層群堆積時にも引き続き東翼側でデルタに接続していたために砕屑物が東翼側に多く供給され,時間スケール全体としてはデルタによる埋積によって両翼共に上位に向かってプロキシマルな環境へと変遷したと考えられる.

    引用文献

    小林巖雄・立石雅昭・黒川勝己・吉村尚久・加藤碵一,1988,岡野町地域の地質.地域地質研究報告,5万分の1地質図幅,新潟(7),49.

    荒戸裕之・亀尾浩司・保柳康一,1994,背弧堆積盆地におけるシーケンス解析新潟県蒲原地域の例.石油技協会誌,59,18−29.

    高野修,1998,新潟堆積盆における上部鮮新統~下部更新統のシーケンス層序-研究の現状と今後の課題-.堆積学研究,48,21-39.

  • 松浦 三偲郎, 大柳 快晴, 千代延 俊, 荒戸 裕之
    セッションID: T11-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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  • 白石 史人, 秋元 貴幸, 富岡 尚敬, 甕 聡子, 高橋 嘉夫
    セッションID: T11-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    トラバーチンは温泉成の炭酸塩沈殿物であり,温泉水からのCO2脱ガスに起因したCaCO3沈殿によって形成される.CaCO3の沈殿はしばしば水底などの固液界面で起きる一方で,水面や気泡などの気液界面がCaCO3で覆われることもあり,水面を覆う沈殿物はペーパーシンラフト,気泡を覆う沈殿物はコーティッドバブルと呼ばれる.これらは気液界面でのCO2脱ガスと,それに伴うCaCO3のその場沈殿によって形成されると考えられているが,その是非は不明であった.そこで本研究は大分県長湯温泉に見られるペーパーシンラフトとコーティッドバブルを対象とし,気液界面の微小領域観察によってそれらの成因を明らかにすることを目的とした. まず両試料を樹脂に包埋して薄片を作成し,偏光顕微鏡および共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて観察を行った.次に薄片の気液界面部分から集束イオンビーム加工によって薄膜試料を作成し,透過型電子顕微鏡と走査型透過X線顕微鏡を用いて観察を行った. 観察の結果,ペーパーシンラフトでは気液界面にあられ石の微粒結晶が密集していた.一方のコーティッドバブルでは,気液界面にあられ石の針状結晶が折り重なるように配列しており,空隙も多く見られた.これらの観察結果から,ペーパーシンラフトは微粒状あられ石のその場沈殿によって形成されている一方で,コーティッドバブルは他所で形成された針状あられ石が気泡表面に付着することで形成されていることが示唆された.気泡表面であられ石のその場沈殿が起きていない原因としては,体積の小さな気泡のCO2分圧が温泉水と速やかに平衡となり,CO2脱ガスが継続しないことが考えられる.

  • 上村 葵, 足立 奈津子, 大西 澪, 江﨑 洋一, 劉 建波, 渡部 真人, Gundsambuu ALTANSHAGAI, Batkhu ...
    セッションID: T11-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    オンコイドは,生砕物などを核として,その周りに同心円状ラミナが発達する球状粒子である.ラミナが発達する被覆部は,微生物活動によって形成される.先カンブリア時代からもオンコイドは報告されているが,カンブリア紀に入って,多様な石灰質微生物類を含むオンコイドが多数報告されるようになる.モンゴル西部ゴビ・アルタイ県に分布するBayan Gol層(カンブリア系下部)では,層厚約8mにわたるオンコイド層が発達する.本研究では,オンコイド層およびオンコイド層から分離した各オンコイドを研究対象とし,オンコイドのタイプを分類し,各タイプの形成様式や層準ごとの分布をもとに,堆積環境を明らかにする.

     砂岩層に挟在するオンコイド層は,オンコイド-ウーイドgrainstone,ウーイド-オンコイドgrainstone,オンコイドgrainstoneから構成される.オンコイドは,微細組織に基づいて5タイプ(層状,一部波状,一部斑点状,斑点状,樹状タイプ)に分類される.発表では,明確に区分される層状,斑点状,樹状タイプを取り上げる.1)層状タイプは,層状ラミナで特徴付けられ,明層(幅0.5~2 mm)と暗層(幅0.5~2 mm)の互層が明瞭である.フィラメント状を示す石灰質微生物類Girvanellaが豊富で明層ではラミナに対して垂直方向に,暗層では水平方向に分布する傾向がある.被覆部には,不規則形態の微小な空隙(直径0.2~2 mm)が多数発達するが,空隙内や空隙間で部分的にGirvanellaのフィラメントが認められる.2)斑点状タイプでは,ラミナが不明瞭であるが,暗色ミクライトからなるドーム状構造が散点的に発達する.ドーム状構造中では,短いフィラメント状を示す石灰質微生物類が豊富である.被覆部では,内部をぺロイド状粒子で充填された空隙(直径1 mm~10 mm)やウーイドが多く認められる.3)樹状タイプは,核の周りで放射状に樹状構造が発達することで特徴づけられる.樹状構造の内では,部分的にGirvanellaを含むラミナが認められる.空隙は稀である.一方,樹状構造間には,ぺロイド状粒子の他に石英粒子が稀に堆積する場合もある.

     オンコイド層内では,ウーイドとオンコイドの占める割合が変化する.ウーイド優占のオンコイド-ウーイドgrainstoneでは斑点状タイプのオンコイドが多く,オンコイド優占のウーイド-オンコイドgrainstoneやオンコイドgrainstoneでは層状タイプのオンコイドが多くなる傾向がある.

     検討したオンコイド層は,ウーイドを豊富に含むことから,浅海のウーイドによる砂瀬周辺で形成されたと推定される.層状タイプはGirvanellaが豊富な明暗のラミナで特徴付けられ,水流の影響で定常的に転がりながら,明層ではGirvanellaが活発に光合成をおこない垂直方向へ成長,暗層では水平方向に成長することで形成された.微小な空隙は,シアノバクテリアの光合成による酸素の泡の捕捉に由来すると説明された (Wilmeth et al., 2015).しかし,空隙内に微生物類のフィラメントが残存していることから,空隙は,微生物類の密集部の分解や,石灰化が弱い部分の溶解に起因すると考えられる.斑点状タイプでは,短いフィラメント状微生物類が多方向に成長することでドーム状構造を次々と発達させた.また,斑点状タイプではウーイドが被覆部にトラップされていることが多いことから,ラミナの発達が抑制された可能性がある.一方,樹状タイプでは,Girvanellaなどの微生物類が上方へと成長することで樹状構造を形成したが,水流の影響で稀に転がり,成長方向を変えることで樹状構造が放射状に発達したと推定される.樹状タイプは,石英粒子を多く含むことから,他のタイプとは異なり,陸源性砕屑物が頻繁に流入する環境で形成されたと考えられる.

    〈引用文献〉

    Wilmeth, D.T., Corsetti, F.A., Bisenic, N., Dornbos, S.Q., Oji, T., and Gonchigdorj, S. (2015) Punctuated growth of microbial cones within early Cambrian oncoids, Bayan Gol Formation, western Mongolia. Palaios, 30, 836-845.

T12(ポスター).火山噴出物から読み解く火山現象と防災への応用
  • 森 光貴, 内山 涼多, 八束 翔, 坂本 泉
    セッションID: T12-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    伊豆大島は,伊豆-小笠原-マリアナ弧の最北端に位置する活動的な火山島である. 3つの旧火山体(岡田・筆島・行者窟)を基盤とし,下位から泉津層群,古期大島層群(Older Oshima Group;以下OOG),新期大島層群(Younger Oshima Group;以下YOG)に区分されている[1].

     本研究では,伊豆大島南東部龍王崎域の火山噴出物の分布・特性から,同地域の火山活動様式について考察した.龍王崎域に分布する海食崖には,下位から龍王崎溶岩,龍王崎火山礫凝灰岩層(以下RLT層),波浮火山礫凝灰岩層(以下HLT層)が露出する.それぞれの火山礫凝灰岩層(Lapilli Tuff層;以下LT層)には,周期数cmから数m規模のさまざまなクロスラミナを伴うサージ堆積物が認められ,岩相の違いから下部,中部,上部に細分した.

     本地域の最下部には,龍王崎溶岩が露出する.溶岩表面は,暗赤色又は黒色を呈し,アアクリンカーが観られる.

     RLT層(最大層厚は約20 m)は,龍王崎溶岩の上位に堆積するLT層で,基質は細粒な灰色火山灰から構成される.また,RLT層が龍王崎から離れるに従い薄層化することに加えて,2010年度に東海大学海洋地質研究室が行った海底精密地形探査より,龍王崎沖の海底にて計5つの火口がみとめられているため,この爆発が龍王崎沖での活動であったと推定した. 本層に含まれる岩片を,記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,(1)Mg値46~53,Al2O3が16~22wt.%のグループ,(2) Mg値が43~45,Al2O3が14~16wt.%のグループ,(3) Mg値が40~44,Al2O3が18~20wt.%のグループに分類した.(1),(2)グループは,それぞれ基盤である筆島溶岩とOOG相当である龍王崎溶岩と類似の組成or岩石化学的特徴を示し,それらを起源とする可能性が示唆されるが,(3)グループに類似する溶岩は本調査地域で確認されておらず,岩片の起源については不明である.

     HLT層(最大層厚25 m)は,RLT層の上位に堆積する.9世紀[1]のスリバチ火口近傍から玄武岩スパター[2]及び波浮溶岩[3]([2]のN3部層に相当)を噴出する陸上での活動から始まり,この波浮溶岩流が現在の波浮港付近で海水と接触し,マグマ水蒸気爆発を起こし,HLT層は堆積したと考えられている. 本層に含まれる岩片は記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,上記の(1),(2),(3)グループに加えて,OOG溶岩(カキハラ溶岩[5],下原溶岩[4]),および波浮溶岩起源岩片等、下位に分布する全ての溶岩の岩石が観られた.

     以上のことから,伊豆大島南東部龍王崎周辺では,火砕サージや巨大な噴石を伴ったマグマ水蒸気爆発が複数回起こった可能性が示唆される.

     RLT層とHLT層で観察された岩片のうち,グループ(3)については,本調査地域における陸上溶岩流としては観察されていない.本研究では,龍王崎溶岩と同じマグマだまり内で生じた分化,または筆島溶岩の分化が進んだ溶岩を起源とするものであると推定した.一方で,伊豆大島では,[6]によって,カルデラ活動期前後に噴出したいくつかの溶岩についてplagioclase controlled magma(以下Pl-magma) とdifferentiated magma(以下D-magma) という二つのタイプへの分類および,2つのマグマが山頂もしくは山腹噴火起源なのかについての研究がなされている.これもふまえて,本研究では伊豆大島南東部というローカルな範囲でもPl-magmaとD-magmaという二つのマグマタイプへの分類が適用できるかどうかの検討を行った.検討を行う際の値として,[6]のNo.R26303のデータを用いた.その結果,伊豆大島南東部の溶岩の内,旧火山体の筆島溶岩を除いて,カキハラ溶岩と龍王崎溶岩,グループ(3)はPl-magma,下原溶岩と波浮溶岩はD-magmaに分類できることが示唆された.

    引用文献

    [1] Nakamura (1964) Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 42, 649-728.[2] 一色 (1984) 地域地質研究報告 (5万分の1図幅), 地質調査所, 133 p.[3] 西尾・大坪 (2018MS) 東海大学海洋学部海洋地球科学科2018年度卒業論文.[4] 田沢 (1980) 火山, 25, 137-170.[5] 田沢 (1981) 火山, 26, 249-261.[6] Nakano and Yamamoto (1991) Bull Volcanology, 53, 112-120

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