日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
選択された号の論文の406件中351~400を表示しています
T12(ポスター).火山噴出物から読み解く火山現象と防災への応用
  • 鈴木 和馬, 戸丸 淳晴, 長谷川 健
    セッションID: T12-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに 吾妻火山群は福島県と山形県にまたがる大型の複合火山群であり,最新の活動は,約7,000年前から活動したとされる浄土平火山で発生している(山元, 2005;松本他, 2018).浄土平火山は吾妻火山群東部に位置し,吾妻小富士火砕丘を代表とする複数の火口と溶岩流で特徴づけられている.本火山のテフラ層序は山元(2005)により報告されており,溶岩流を含めた吾妻小富士噴出物(Az-KF)は全体の99%以上を占めるとされている.しかし,溶岩流については年代や層序関係を示す地質学的証拠に乏しいため,本火山全体の層序に組み込まれていない.そのため,吾妻小富士火砕丘については,東麓に流出する溶岩流(以降,吾妻小富士溶岩)とテフラ層との時間的関係は不明であり,浄土平火山全体の噴火層序も不完全であった.今回,浄土平火山を調査し,室内分析の結果も参考にして溶岩流を含めた吾妻小富士の新たな層序と形成史を検討した.

    2.露頭記載 吾妻小富士溶岩上に位置する登山道沿いの露頭(loc.2)では,浄土平火山由来のテフラ層が7層(下位からL2-1 ~ L2-7)確認できる.L2-5の直上には層厚1 cmの黄色細粒火山灰層が,L2-7上位にはロームを挟み層厚2 cmの白色軽石層が存在する.これらは層相・岩質と火山ガラス組成から,それぞれ,十和田―中掫テフラ(To-Cu:6 ka),沼沢―沼沢湖テフラ(Nm-NK:5.4ka)と認定できる.L2-1は層厚2 m以上で基質支持の火山灰火山岩塊層である.本層は淘汰が悪く,発泡した溶岩片と同質の粗粒火山灰からなり,流理構造をもつ溶岩岩塊も含まれる.この層相はHasegawa・Suzuki(2021)が吾妻小富士で報告した溶岩流末端崩壊型の火山岩塊火山灰流堆積物(loc.3)に酷似しており,本層も同様の発生機構が示唆される.両者の分布域を考慮すると同一のユニットではなく,異なる溶岩ローブの崩壊に由来すると考えられる.L2-2 ~ L2-7(L2-4を除く)は層厚5 cm~23 cmで淘汰の良い火山灰または火山礫からなる層で,構成粒子は最大粒径約4 cmの角ばった安山岩質溶岩片であり,ブルカノ式噴火に由来する降下テフラと解釈できる.L2-4は層厚が50 cmで比較的淘汰が悪く,炭化木片も含まれることからブルカノ式噴火に伴う火砕流堆積物である可能性がある.

    3.議論 これまで吾妻小富士溶岩の層序・年代は不明であったが,その末端崩壊による火山岩塊火山灰流堆積物がTo-Cuに覆われることから6 ka以前と結論できる.その上位のブルカノ式噴火堆積物を主とするテフラ層については,山元(2005)で報告されている露頭(loc. 1)と比較すると,To-Cu直下のL2-5と,To-CuとNm-NKに挟まるL2-6,L2-7はAz-KFに対比されると考えられる(Fig.).L2-2 ~ L2-4については既報のテフラとの対比が不明であるが,層序や分布域,層相や岩石学的特徴(全岩化学組成等)の類似性から吾妻小富士由来の可能性が高い. これらのデータを統合すると吾妻小富士火砕丘の活動は,大きく①溶岩流ステージと②爆発的噴火ステージに分けることができる.溶岩流ステージでは,安山岩質の塊状溶岩(吾妻小富士溶岩)を広範囲に流出し,吾妻小富士火口東麓に溶岩台地を形成した.この活動では溶岩流末端崖の崩壊により,複数の火砕流も発生した.溶岩流の流出が終息した後は,ブルカノ式噴火を主な噴火様式としてテフラを生成する爆発的噴火を頻発した.

    4.今後の課題 観察した露頭数が少ないことや,既報のAz-KFとの対比が完全ではないことから,溶岩流ステージ以前,または同時期に爆発的噴火が発生していた可能性は否定できない.一方で,既報のAz-KF以外のテフラが,吾妻小富士由来である可能性についても再検討が必要である.また,吾妻小富士火砕丘内ではストロンボリ式噴火堆積物が露出しており,火砕丘を構築している主要な堆積物であると考えられるが,こちらもAz-KFとの対比はされていない.したがって,火砕丘を構成する堆積物と,溶岩流・ブルカノ式噴火堆積物との前後関係は不明であり,今後の課題である.今後は火砕丘内の調査を行い,地質学的・岩石学的な対比により吾妻小富士全体の噴火履歴を構築する.

    引用文献

    Hasegawa・Suzuki(2021)日本地球惑星科学連合2021年大会講演要旨

    松本・中野・古川・山元(2018)地質調査報告,69,153-163.

    山元(2005)地質学雑誌,111,94-110.

T13(ポスター).都市地質学:自然と社会の融合領域
  • 根本 達也, 野々垣 進, 升本 眞二, 米澤 剛, ラガワン ベンカテッシュ
    セッションID: T13-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     3次元地質モデルは地下の3次元空間の地層分布を表す代表的な地質情報であり,地震動や地下水流動のシミュレーション,地すべりのリスク評価など,地質構造が関係する様々な研究分野(環境保全,都市開発,資源開発,廃棄物処理,災害の被害軽減)において必要不可欠である.国内外で様々な3次元地質モデラーが開発されているが,大量のボーリングデータから地層を対比・区分する作業は作成者が手作業で行うため,膨大な時間がかかるのが一般的である.

     効率的に地層を対比するために,深層学習を用いた地層区分の検討を開始した.本発表では,その一環として開発したボーリング柱状図表示システムを紹介する.

    システム概要

     ボーリング柱状図表示システムはサーバ/クライアント環境で動作する.対象とするボーリングデータは,地質・土質調査成果電子納品要領のボーリング交換用データ(国土交通省, 2016)である.

     本システムでは,ボーリング柱状図を2次元および3次元で表示できる.2次元表示では,HTTPリクエストを送ることにより,任意側線の近傍にある複数のボーリングデータを断面に投影して表示する.柱状図に表示するのは,地質区分とN値である.3次元表示では,WebGLを用いて複数のボーリング柱状図を表示する.マウス操作により拡大,縮小,視点の変更が可能である.

    おわりに

     地層対比システムの一環として,複数ボーリング柱状図の表示システムを開発した.今後は,機械学習による対比結果の表示と対比結果の修正機能を追加する予定である.本研究はJSPS科研費JP21K11905の助成を受けたものである.

    文献

    国土交通省,2016,地質・土質調査成果電子納品要領.国土交通省,50p.

  • 坂田 健太郎, 野々垣 進, 尾崎 正紀, 中澤 努, 宮地 良典
    セッションID: T13-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    これまで地質図といえば地質構造を平面図と断面図という2次元図面で表現することが一般的であった.しかし,都市平野部においてはその地形の平坦さゆえに2次元での表現には限度があった.一方,近年の情報技術の進歩を考慮すれば3次元的な地質図の表示や,それをウェブで配信することは技術的に十分可能と考えられる.これらを踏まえ,よりわかりやすく使いやすい地質情報の整備を目的として産業技術総合研究所地質調査総合センター(以下,産総研)は3次元地質地盤図を作成した.これはその名が示す通り対象地域の地質構造をコンピュータ上に3次元地質モデルで表現した地質図である.この3次元地質モデルは産総研が実施した層序ボーリング調査のデータ(基準ボーリングデータ)を基準に,自治体などが公開している公共工事等のボーリングデータを用いて地層の広域な対比を行い,さらにコンピュータ処理により3次元分布形態を解析することで作成される(中澤ほか,2016).またウェブを用いて容易に閲覧および利用することが可能であり,現在のところ千葉県北部および東京都区部の2つの地域が公開されている[URL1].

    茨城県南部に位置するつくば市およびその周辺地域の地質構造もまた上記の2つの地域と同様に都市平野部の特徴を持ち,そのため従来の2次元的表現ではその詳細を把握することは難しかった.現在演者らは本地域の地質構造の理解を深める目的で3次元地質地盤図の作成を試みている.検討したのは茨城県南部のつくば市および土浦市の市街地を含む範囲で,主に筑波台地と桜川低地からなる.本地域の地質については宇野沢ほか(1988)により調査が行われており,その報告によれば筑波台地の地下浅部には更新統下総層群が分布し,下位より地蔵堂層,薮層,上泉層,上岩橋層,木下層,常総層の6層に区分されている.また,つくば市真瀬付近から土浦市街地を経由し霞ケ浦方面に向かい東西に分布する埋没谷の存在が示され,この谷は上岩橋層(清川層)の堆積物が充填するとした.一方,坂田ほか(2018)は宇野沢ほか(1988)が基準ボーリングとして利用したGS-TS-1およびGS-TS-2コアと新たに掘削したGS-GM-1コアについてテフラおよび花粉分析を用いて本地域の地質層序の再検討を行い,薮層,上泉層および常総層においては概ね宇野沢ほか(1988)の層序区分を踏襲したものの,上岩橋層(清川層)および木下層については異なる解釈を提示した.坂田ほか(2018)は宇野沢ほか(1988)が上岩橋層(清川層)とした深度についてGS-TS-1では全て,GS-TS-2では一部を木下層とし,筑波台地地下に分布する谷埋め堆積物は上岩橋層(清川層)ではなく木下層に相当するものとした.木下層の谷埋め堆積物は近辺では千葉県柏市から成田市にかけての地域などにもみられ,更新統であるにもかかわらずN値の低い軟弱な泥層を含み,台地の軟弱地盤として懸念が持たれている(中澤ほか,2014; Nakazawa et al., 2017).よって本地域の木下層の谷埋め堆積物の分布を詳細に把握することは地質の理解にとどまらず,工学的な地盤リスク評価においても有用な情報となる.

    つくば市域の3次元地質地盤図の作成にあたっては,坂田ほか(2018)の層序区分を基準として,宇野沢ほか(1988)が報告したボーリングデータやウェブで公開されている公共工事のボーリングデータを見直して層序対比作業を行うことで,最新の層序区分に基づく,本地域の全く新しい3次元地質モデルの作成を試みている.数値データとして供与される3次元地質モデルは,スマートシティ等の都市DXに親和性の高いデータであり,地質地盤情報の社会実装をより効果的に推進するものと考える.このような3次元地質地盤情報が,災害リスク評価やインフラメンテナンス,また市民や行政担当者といった非専門家のステークホルダーへの地質・地盤の理解の向上に資するだろう.

    文献

    中澤ほか(2014)地質調査総合センター速報,66,207-228.

    中澤ほか(2016)Synthesiology9,73-85.

    Nakazawa et al. (2017)Quat. Int., 456, 85-101.

    坂田ほか(2018)地質雑,124,331-346.

    宇野沢ほか(1988)2万5千分の1筑波研究学園都市及び周辺地域の環境地質図説明書

    [URL1] 都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/

  • 照井 孝之介, 古山 精史朗
    セッションID: T13-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    関東平野中央部に広がる低地は、中川、荒川、多摩川といった河川によって形成された沖積低地である。沖積層は、地震動の増幅や地盤沈下といった災害に関連することが知られているうえ、人口密集地が広がっており、その構造を研究する意義は大きい。関東平野中央部では 1923 年の大正関東地震以降多くの研究が重ねられている。例えば田辺(2021)は、2 万本以上のボーリング柱状図を利用した沖積層とその基盤の復元を行っている。しかし、関東平野中央部と連続する東京湾の沖積層については、輻輳する海上交通に妨げられ、十分な調査が行われていない。そこで本研究では、東京海洋大学が所有する練習船「神鷹丸」に搭載されたサブボトムプロファイラ(SBP)を用いて、東京湾海底下の反射断面を取得し、層序学、堆積学の見地から解釈を試みた。 東京海洋大学 練習船「神鷹丸」搭載の SBP TOPAS PS18(Kongsberg社製)を使用した。発振間隔は、水深に合わせて変更したが、主に 300〜350 ms である。サンプリングレートは 32 kHz、発振波形は主にチャープ波を使用した。なお、神鷹丸は、船体の大きさが 50 m 以上あり、東京湾においては航路以外の場所をほとんど航行できないため、SBP 断面は主に航路上にて取得した。調査の際の船速は約 9 knotである。 SBP で取得された反射断面の特徴から、本研究では東京湾を、東京湾北部、東京湾南部、南房総沖に分けて記載する。東京湾北部は羽田空港北東沖から東扇島公園沖にかけての海域である。ここでは音響的散乱層が卓越しており内部構造をほとんど観察できないが、成層構造を観察できた羽田空港沖の一部では、不整合を境に地層を 2 層に区分できた。海底に起伏はほとんど認められない。本研究では下位からそれぞれ羽田沖A層、羽田沖B層とした。 東京湾南部は横浜市本牧沖から富津市浜金谷沖にかけての海域である。海域の南側は東京海底谷の谷頭付近に相当するため海底地形は起伏に富むが、それ以外の場所で海底に起伏はあまり認められない。不整合と音響的層相に基づき東京湾南部の地層を、下位から本牧沖A層、本牧沖B層の2層に層序区分した両層とも成層構造が発達する。このうち本牧沖B層は基本的に傾斜する地層で特徴づけられるが、一部でカオティックな反射面が認められる。またこの海域においても一部で音響的散乱層を認めることができる。 南房総沖は、富津市浜金谷沖から館山沖にかけての海域とした。不整合にもとづいて、南房総沖A層と南房総沖B層に区分した。南房総沖A層は成層構造が発達した地層が褶曲を受けて変形していることで特徴づけられる。南房総沖B層もまた成層構造が発達した反射面で特徴づけられるが、南房総沖A層には変形は認められない。 本発表では、これらの結果に加え、海上保安庁水路部が反射法音波探査により取得した東京湾の反射断面を、海上保安庁海洋情報部の許可を得て使用した。

  • 辛島 康大, 辻 智大
    セッションID: T13-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】熊本県中部に発達する出ノ口断層は2016年熊本地震を引き起こした布田川断層帯とSlip partitioningの関係であると解釈されている(Toda et al., 2016)。布田川断層帯は大分-熊本構造線の一部とされており(鎌田, 1992)、別府-島原地溝の南限を担う(松本, 1993)ことや地溝と横ずれ断層の複合体を基本構造とする中部九州剪断帯の南限を布田川断層帯が成している(大橋ほか, 2020)ことが指摘されている。また、カルデラ形成のマグマ供給系と断層は深く関わるとされており、Miyoshi et al., 2013では阿蘇カルデラ形成時のマグマ供給系に対し、大分-熊本構造線に沿うように阿蘇カルデラ中心から20㎞以上マグマが移動したと述べられている。これらのことから、大分-熊本構造線は九州中部の地質構造を語るうえで必要不可欠な構造線及び断層であるといえる。布田川断層帯は2016年熊本地震の影響により、阿蘇カルデラ内部にて新たに約3.5㎞にわたって地表地震断層が表れた(遠田ほか, 2019)。しかし、布田川断層帯とSlip partitioningの関係である出ノ口断層に関しては、2016年熊本地震において布田川断層帯に沿うように約10㎞にわたって活動が確認されたが、俵山北部を東限に、阿蘇カルデラ西壁・阿蘇カルデラ内部では確認されていない。そのため、出ノ口断層の東方延長を発見・観察することで、大分-熊本構造線を明確にし、九州中部に発達する阿蘇カルデラの形成・発達や別府-島原地溝などの詳細な検討を行うことができる。本研究では熊本県西原村地域で東限となる出ノ口断層の阿蘇カルデラ西壁においての分布と構造について考察する。

    【研究手法】南阿蘇村地域の阿蘇カルデラ西壁において、地表の土壌分布を詳細に記載した。また、地形判読を用いて当該地域の地形区分を行った。

    【結果】阿蘇カルデラ西壁にあたる南阿蘇村柏野地域において、沢沿いに~60㎝程の小段が観察された。小段は走向N40~70°Eで連続して露出し、中角~高角な北傾斜を成しており、北側が低下する正断層として発達していた。撓曲のようになだらかに地表高が変化する場所もあったが、新鮮な土壌が露出するように小段が形成されている場所も観察することができた。

    【考察・今後の課題】今回観察された小段は新鮮な土壌が露出している、新鮮な土壌中に草や木の根がむき出しになっているなどの観察結果と地形判読の結果から、2016年熊本地震に伴って形成された小段であると考えられる。また、出ノ口断層の延長上で出ノ口断層と調和的な走向傾斜・変位方向を持つ小段が形成されたことを考慮すると、本研究によって確認された小段は出ノ口断層の延長であると推定できる。このように阿蘇カルデラ西壁で出ノ口断層の延長を観察されたため、大分-熊本構造線が阿蘇カルデラ中心・阿蘇カルデラ東壁でも観察される可能性がある。今後の課題として、出ノ口断層を阿蘇カルデラ東壁にて発見・観察を行うとともに、大分-熊本構造線を成す断層が阿蘇カルデラの形成・発達や別府-島原地溝などの地質構造発達にどのように関係しているかなどが挙げられる。

    【引用文献】 鎌田浩毅(1992)地質学論集, 40,53-63.松本徰夫(1993)地質学論集 ,41, 175-192.Miyoshi et al.(2013)Chemical Geology ,352, 202-210.大橋ほか(2020)地学雑誌,129(4),565-589.Toda et al.(2016)Earth,Planets and Space,68:188.遠田ほか(2019)活断層研究,51,13-25.

G1(ポスター). ジェネラル-サブセッション1 構造地質
  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    川路 真子, 橋本 善孝, 濵田 洋平
    セッションID: G1-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ●はじめに

     近年,地球物理学的手法により発見されたスロー地震は,汎世界的な現象であることが明らかとなり,スロー地震と巨大地震との関連が注目されている. しかし,スロー地震を発見した地球物理学的観測では空間的な相互作用を理解することが困難であり,空間分解能が高い地質学的手法によってスロー地震の化石を認定することが鍵となるが,決定的な証拠は発見されていない.

     そこで,本研究では巨大地震とスロー地震の断層岩が共存していることの認定を目指し, 陸上付加体において石英がゆっくりと変形した痕跡を示す結晶塑性変形組織が見られる巨大地震の化石を含む断層を対象に,石英が遅い変形を起こした際の被熱温度とすべり挙動の定量化を目的とした.

    ●地質概説

     対象の断層は,四国白亜系四万十帯に属する横浪メランジュの北縁断層である五色ノ浜断層で,およそ2 mmの断層帯である.個々の断層には,厚さ約20 cmの破砕帯を伴うものがあり,破砕帯中を厚さ約1 mmの断層が切っている.この断層には摩擦発熱による溶融を示すシュードタキライトが見られ,過去の地震断層と認定される.また,母岩のメランジュの過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率によって約250 ℃と報告されている(Sakaguchi, 1999).

    ●手法・結果

     まず,塑性変形した石英のバルジの粒径を測定し変形温度に変換するStipp et al. (2002)の手法を採用し分析を行った.この結果,推定された変形温度は299 ~324 ℃と母岩の過去の最高温度よりも有意に高く,温度分布は測定範囲内(断層中心から約15 mm)で一定の値を示した.

     次に,発熱帯の厚さとすべり速度の条件を複数設定して摩擦熱による熱拡散パターンの時間変化をシミュレーションし,石英の粒径から推定された温度分布に適合するすべり速度とすべり時間を拘束した.この結果,発熱帯が1 mmの場合にはすべり速度が10-5 m/sですべり時間が104 s,発熱帯が20 cmの場合にはすべり速度が10-1-10-6 m/sですべり時間が100-107 sと広い範囲で許容された.

     より精度の高い制約を行うため,破砕帯に隣接する未変形砂岩ブロックの母岩でビトリナイト反射率(Ro) を測定したところ距離に応じたRo の減少パターンが見られた.この現象パターンと試料の熱物性を用いて,Hamada et al. (2015)の手法で摩擦熱による温度推移を再構築した.数値計算では,ビトリナイトの反応速度と断層からの距離による温度の時間発展を組み合わせ,最適なQ(単位面積・単位時間あたりの熱量)とtr(すべり継続時間)を求めた.この結果,発熱帯の厚さは20cm,すべり時間は1034 s,単位発熱量は10443 J/m2/sと制約され,この時のすべり速度はおよそ10-4 m/sと推定された.

     また,熱源が摩擦発熱ではなく高温流体によるものである可能性を考慮し,メランジュ相母岩と未変形砂岩ブロックの母岩,破砕帯,断層のXRD分析を行い,RockJockを用いて,それぞれの鉱物組成とそこから推定される化学組成を求めた.この結果,破砕帯はメランジュ由来のものであることがわかり,易水溶性で岩石―流体間反応で減衰するSiがメランジュ相母岩,破砕帯,断層で不動性のAlと相対的にほとんど同じ割合で含まれていた.よって,流体の影響は小さく,塑性変形した石英やビトリナイトが記録している変形温度は摩擦発熱によるものと推測された.

    ●議論

     これまでに物理学的に観測されている地震のデータから,地震の規模Moとすべり時間Tdにスケーリング則が見られ,通常地震とスロー地震ではMoとTdの関係が異なるトレンドを持つことが既に明らかとなっている(Ide et al., 2007). このMoを,単位面積・単位時間あたりの熱量Qに変換し,地球物理学的手法によって過去に観測されたスロー地震と本研究の結果を比較したところ,本研究で得られた値はスロー地震に対するスケーリング則(Ide et al., 2007)と一致した.

     以上のことから,対象の地震断層の破砕帯が過去にスロー地震の化石である可能性があり,同一断層で巨大地震とスロー地震が共存しうることが示唆された.

     ただし,さらに精度高く岩石―流体間反応を考慮するために,今後はXRFやICP-MSによって追加の分析を行う必要がある.また,現在までに推定された温度構造の確度を高めるため,ラマン分光法による分析も行う予定である.

    ●引用

    ①Sakaguchi, A., 1999, Earth and Planetary Science Letters

    ②Stipp, M et al., 2002, Journal of Structural Geology

    ③Hamada, Y et al., 2015, Earth Planet and Space

    ④Ide, S et al., 2007, Nature

  • 金木 俊也, 野田 博之
    セッションID: G1-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地震時の断層帯では、摩擦発熱によって鉱物の化学反応が進行する場合がある。Platt et al. (2015)は、高速滑り時の断層帯の一次元力学モデルを考えて、thermal pressurizationおよび鉱物の熱分解反応によって、断層中心にピークを持つ剪断集中帯の厚みが数十マイクロメートルとなることを報告した。Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)は、同じ力学モデルを用いた数値計算をより長い時間スケールで行い、剪断集中帯のピーク位置が断層中心から移動することを報告した。この挙動は流体の拡散と未反応の鉱物の枯渇によって引き起こされたとされているが、その詳細な原理については不明な点が多い。

    Platt et al. (2015)のモデルで考慮されている主な機構は、慣性と体積力を無視した連続体の運動方程式(力学平衡)、速度依存摩擦構成則、流体の質量保存則、エネルギー保存則、反応速度論に従う鉱物の熱分解である。ここではPlatt et al. (2015)に倣い、代表的な反応として方解石の熱分解反応に着目した。本研究では、時間について一次の前進差分、空間について二次の中心差分をとった数値積分を、上述の機構を表現した偏微分方程式について実行することで、Platt et al. (2015)の計算結果を再現するコードを自作した。再開発したコードを用いた数値実験の結果、Platt et al. (2014)およびRice et al. (2015)によって報告された剪断集中帯の移動が再確認された。また、剪断集中帯が移動する方向は常に一定ではなく、採用するグリッドサイズやステップ数によって左右どちらにもなりうることがわかった。この事は、左右対称な解がある時点で不安定化し、数値計算の丸め誤差の増大が数値解を選択している事を示唆する。すなわち、剪断集中帯の移動が観測されたこれらの数値解は、今回のモデルの解析解に対する適切な近似解として扱うことができないと言える。「初期反応率が一様」といった単純な条件の問題設定では、滑り速度履歴や応力履歴を与えても、地震性滑り後の反応帯の幅は一意には定まらない可能性がある。

    この問題を解決する手段の一つは、予め対称性を崩してやることである。そこで、初期反応率を空間不均質とした場合の解について調べた。初期反応率が空間座標の線形関数であるとした場合、時間ステップの増加に伴って剪断集中帯のピークが初期反応率が低い側へと移動する挙動が確認された。これは、断層中心の両隣のグリッドで初期反応率が異なる場合、より反応率が低いグリッドにおいて反応が進行しやすいため、断層強度がより弱化することで剪断集中のピークがそちらに移動するためであると解釈できる。移動が発生した解の収束性テストを実施した結果、空間グリッドのサイズについて二次のオーダーで数値誤差が小さくなることが確認された。これは、二次の中心差分を取ったことによって生じる数値誤差の理論値と調和的である。これらの結果から、初期設定で対称性を崩してやることにより、解の一意性が担保された問題設定となり、数値解は解析解の近似として扱う事ができる様になると言える。

    本講演では上述の内容に加えて、初期反応率の空間不均質性を導入したモデルを用いて予察的に実施した数値実験の結果についても発表する予定である。

    参考文献

    Platt et al. (2014) AGU Fall Meeting 2014 Abstract

    Platt et al. (2015) Journal of Geophysical Research

    Rice et al. (2015) EGU General Assembly 2015 Abstract

  • 中尾 龍介, 相山 光太郎, 中田 英二
    セッションID: G1-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    断層岩には,断層の活動履歴が保存されていると考えられる.我々は,第四紀層に覆われてない断層の活動性評価手法を確立するために,断層岩に記録された破砕構造を比較・検討している.本研究では,活断層である阿寺断層と敦賀断層が伴うガウジとカタクレーサイトの微細構造を観察・比較した.

    ●阿寺断層

     田瀬露頭(加藤ほか,2015)の断層岩から採取・作成された研磨片・薄片の詳細観察を実施した.研磨片の観察によると,断層岩は断層ガウジ帯,主断層面(最新活動面),断層岩類と砂礫の混合帯,花崗岩起源のカタクレーサイトに区分される.薄片は,研磨片内に分布する断層ガウジ帯で2枚(薄片1および2),カタクレーサイトで1枚(薄片3)観察された.

      薄片1および2の断層ガウジは,色調・フラグメントの種類・基質の構成物から,5層(Ag1~Ag5)に区分される.断層ガウジ中のフラグメントは石英,長石類,黒雲母,花崗岩起源のカタクレーサイト岩片,断層ガウジ片からなる.さらにAg4およびAg5には,堆積物起源とみられる粒子が認められる.Ag2では,粘土鉱物の定向配列によるP面やR1面が確認され,左横ずれの剪断センスを示す.Ag3は,定向配列した粘土鉱物が直交ニコル下で消光するステージ回転角度の違いにより,さらに複数の薄層に細分され,層状構造を呈する.

     薄片3のカタクレーサイトは大小様々な石英や長石,黒雲母等のフラグメントを有し,基質は主に破砕された微細な鉱物片からなる.色調や粒径等の違いによる層状構造は確認されない.石英や長石の一部は,ジグソー状構造(Manatschal, 1999)を呈し,黒雲母の一部は塑性変形している.

    ●敦賀断層

     ・北セグメント

     福井県敦賀市堂で,敦賀断層の北セグメントを対象にボーリングが掘削され,深度75.50 m付近で主断層面が出現した.そこで,その主断層面を含む研磨片・薄片の詳細観察を実施した.研磨片の観察によると,断層岩はカタクレーサイト,主断層面,断層ガウジに分類される.断層ガウジは色調により2層(S3g1とS3g2)に区分される.

     薄片は,研磨片内のカタクレーサイト,主断層面,S3g1を含む範囲である.S3g1にみられるフラグメントは石英,アルカリ長石,斜長石,炭酸塩鉱物,カタクレーサイト岩片,断層ガウジ片からなる.フラグメントの定向配列が認められ,右横ずれセンスを示す.一方カタクレーサイトは,石英,アルカリ長石,斜長石,白雲母,炭酸塩鉱物からなる.粒子間は主に微細な炭酸塩鉱物からなり,一部に粘土鉱物が認められる.明瞭な剪断面は認められない.石英および長石にはジグソー状構造が確認され,珪質鉱物の一部には相山・金折(2019)に示される破砕流動が見られる.

     ・南セグメント

     福井県三方郡美浜町折戸谷の断層露頭には,敦賀断層の南セグメントが分布する.この断層露頭を構成する断層岩の研磨片・薄片を詳細観察した.研磨片の観察によると,断層岩は主に混在岩からなるカタクレーサイト,主に混在岩からなる断層ガウジTg1,主に花崗岩からなる断層ガウジに区分され,花崗岩からなる断層ガウジは,色調およびフラグメントの量により北西から3層(Tg2~Tg4)に細分される.

     薄片は,研磨片内のTg1とTg2を含む範囲である.ガウジ中のフラグメントは石英,アルカリ長石,雲母鉱物,炭酸塩鉱物,不透明鉱物,珪長質鉱物主体のカタクレーサイト岩片からなり,Tg1には玄武岩質岩片も認められる.Tg1では,周囲より粘土鉱物が卓越する幅1 mm程度の薄層が認められる.この薄層中には粘土鉱物とフラグメントの定向配列によるP面が確認され,右横ずれセンスを示す.

    ●まとめ

     阿寺断層と敦賀断層の研磨片・薄片観察により,断層ガウジとカタクレーサイトに特徴的な微細構造を確認した.断層ガウジでは層状構造が認められ,断層ガウジ片や堆積物起源とみられる粒子の取り込みも認められた.これらの構造は地表付近での複数回の断層活動を示すと考えられる.一方カタクレーサイトでは,ジグソー状構造,雲母鉱物の塑性変形,破砕流動といった地下深部での断層活動を示す構造が確認された.今後も断層岩の破砕構造の比較事例を増やし,断層の活動性に関する検討を進める.

     本研究は電力受託研究「上載地層を必要としない断層活動性評価手法の開発に関する研究」の成果の一部である.また,本研究で観察した研磨片と薄片は,関西電力株式会社より提供された.ここに記して感謝の意を表する.

    引用文献

     相山ほか,2019,地質学雑誌,125,555-570.

     加藤ほか,2015,活断層研究,43,1-16.

     Manatschal,G.,1999,Journal of Structural Geology.21,777-793.

  • 森 宏, 友岡 洋介, 野部 勇貴, 山岡 健, 常盤 哲也, 纐纈 佑衣
    セッションID: G1-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】高圧変成岩類が分布する三波川帯に関する既存研究は,深部情報を記録した高変成度域を中心になされてきた.一方で,三波川帯の大部分は低変成度域が占めるとともに,近年では,その形成場は地震発生領域であるモホ面付近であることが指摘されており(Kouketsu et al. 2020),低変成度域の研究は三波川帯の包括的理解や沈み込み境界における諸現象の究明に重要である.ただし,三波川帯は低変成度域を含めて上昇時に複数回の延性変形を被っており(e.g. Wallis et al. 1992),沈み込み時の状態復元には,これら上昇期の変形影響,特に普遍的に発達する主片理面を形成した上昇初期の変形評価は欠かせない.近年,Yamaoka & Wallis(2022)は,紀伊半島中央部の低変成度域において,砕屑性粒子を用いた歪解析による変形評価を実施している.ただし同研究は,中央構造線近傍域での主片理面を基準としたXZ面のみの解析であり,より大局的な傾向把握や,高変成度域で実施された三次元解析(Moriyama & Wallis 2002)との比較にはデータが不十分である.そこで本研究では,紀伊半島中央部・香肌地域のMTL近傍(北限域)から秩父帯との境界付近(南限域)までを対象に,XZ面とYZ面に関する三次元的な歪解析を行った.

    【地質概要】香肌地域の三波川帯(e.g. 西岡ほか 2010)には,北から南に,粥見コンプレックス,波瀬コンプレックス,蓮コンプレックス,および迷岳コンプレックスが分布する(Jia & Takeuchi 2020).大局的には北ほど粒径が大きく,主片理面の発達が顕著になるとともに,粥見コンプレックスのみに主片理面を曲げる微細褶曲の普遍的な発達が認められる.また今回,変成度把握のために実施した炭質物ラマン温度計(Kouketsu et al. 2014)による最高被熱温度推定では,粥見コンプレックスで約310〜400 °C,波瀬コンプレックスで約300〜310 °C,蓮コンプレックスで約250〜300 °C,迷岳コンプレックスで約250〜300 °Cが得られた.

    【歪解析手順】砕屑性の石英・斜長石粒子を歪マーカーとして,長軸/短軸比(Rf)および長軸方向と片理面のなす角(φ)を計測した後,Rf-φ法による粒子形状と変形の相関関係の検討,Harmonic mean法による歪楕円の楕円率(Rs)の算出,Flinn図に基づく歪量および歪タイプの検討を行った.

    【鉱物種の比較】鉱物種ごとのXZ面とYZ面のRs値(以下では,それぞれRs(XZ)とRs(YZ)とする)は,石英でRs(XZ) = 1.5〜2.9とRs(YZ) = 1.4〜1.9,斜長石でRs(XZ) = 1.4〜2.0とRs(YZ) = 1.4〜1.7を示す.また,Rs値の空間分布の大局的な特徴としては,XZ面では石英の方が斜長石よりも地点間の変化が大きい一方,YZ面では石英・斜長石ともに地点間の変化は乏しい.また,Rf-φ図においても,石英のXZ面のみに分布形態の差が試料間で認められる.本地域の変成温度が400 °C以下であることを考慮すると,この鉱物ごとの挙動の違いは変形に対する鉱物間の強度差に起因するとともに,本研究で着目する延性変形履歴は石英のみに記録されていることを示唆する.

    【空間変化と高変成度域との比較】試料間の差が最も大きかった石英のRs(XZ)値に関しても,コンプレックス境界をまたいで顕著な変化は認められない.また,主片理面を曲げる上昇後期の変形を強く被った際にYZ面上の粒子形状影響が生じる可能性が指摘されているが(Moriyama & Wallis 2002),石英のRs(YZ)値に関して主片理面を曲げる微細褶曲が発達する粥見コンプレックスを含めほぼ一定の値を示す.これらは,主片理面形成後の変形作用ではコンプレックス境界を含め大規模な地質構造改変は生じなかったことを示し,隣接地域の研究結果(Yamaoka & Wallis 2022)とも整合的である.一方,本研究で得られた解析結果をFlinn 図上にプロットすると,歪タイプとしては高変成度域の解析結果(Moriyama & Wallis 2002)と同様にflattening strain領域に分布する一方で,高変成度域よりも明瞭に原点側に偏っており歪量は小さい.このことは,三波川帯上昇初期における延性変形時の歪量が,変成度に依存していた可能性を示す.

    【引用文献】Kouketsu et al., 2014, Island Arc; Kouketsu et al., 2020, JMG; Moriyama & Wallis, 2002, Island Arc; 西岡ほか, 2010, 産総研・地調; Wallis et al. 1992, Island Arc; Yamaoka & Wallis, 2022, Island Arc.

  • 窪田 安打, 竹下 徹
    セッションID: G1-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.研究経緯

     中央構造線の古第三紀の運動像は詳細な研究により,市之川フェーズ(59 Ma)は中央構造線が大規模な正断層運動を行う運動時相であること,その後の先砥部フェーズ(47-46 Ma)は,中央構造線に平行~雁行配列する内帯の断層群が左横ずれ逆断層運動により形成された運動時相であることが示された(Kubota and Takeshita 2008; Kubota et al. 2020)。このなかでKubota and Takeshita (2008)は,四国西部の中央構造線の破砕帯の一部に市之川フェーズの北フェルゲンツ褶曲に重複するN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲が分布することを報告している。これらを形成したフェーズは明確ではないため,中央構造線の運動史の研究課題として,詳細な検討を進めている。研究方法は現地踏査,研磨片・薄片観察による構造地質学的な手法による変形構造の解析である。

    2.検討結果

     四国西部の中央構造線周辺で現地調査をおこなった結果,これまでに報告されていない運動センスを示す変形構造を確認した。概要は以下の通りである。

    ・中央構造線湯谷口露頭(愛媛県西条市丹原町中山川河岸) 中山川東側露頭は,Kubota et al. (2020)の報告以降に河川浸食の進行により,土砂に被覆されていた範囲から岩盤が露出した。ここは三波川変成岩と中新世の酸性岩脈の貫入境界から北側へ約7mに位置しており,幅2m程度で北へ約30°程度で傾斜する和泉層群の砂岩泥岩層からなるカタクレーサイトが分布する。WNW-ESE走向で約30°N の主せん断面にtop to the eastの明瞭な複合面構造と条線が発達する。このカタクレーサイトゾーンは正断層変形を受けたドロマイト質片岩のカタクレーサイトに北側からスラストを受けている。また,南側は中新世の酸性岩脈の貫入を受けている。

    3.考察

     中央構造線湯谷口露頭で認められるtop to the eastの破砕帯は,正断層変形を受けたドロマイト質片岩のカタクレーサイトの岩体に北からスラストを受けているため,正断層変位の市之川フェーズよりも後の変形であると考えられる。更に中新世の酸性岩脈の貫入を受けていることから,古第三紀~新第三紀の間の変形であると考えられる。 以上のような中央構造線の右ずれ変位は,四国西部の中央構造線が左屈曲する付近に圧縮場を形成し(i.e. restraining bend),上述したN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲(Kubota and Takeshita, 2008)と関連する可能性がある。また,中央構造線の先第四紀の右ずれ破砕帯は他地域でも報告されており(Jefferies et al., 2006; Shigematsu et al. 2017),関係性を検討する必要がある。

    (引用文献) Jefferies et al., 2006, Journal of Structural Geology, 28, 220–235; Kubota, Y., & Takeshita, T., 2008, Isl. Arc, 17, 129-151. https://doi.org/10.1111/j.1440‐1738.2007.00607.x; Kubota, Y., Takeshita, T., Yagi, K., & Itaya, T., 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. https://doi.org/10.1029/2018TC005372; Shigematsu, N., Kametaka, M., Inada, N., Miyawaki, M., Miyakawa, A., Kameda, J., Togo, T., & Fujimoto, K., 2017, Tectonophysics, 696-697, 52-69. http://dx.doi.org/10.1016/j.tecto.2016.12.017

  • 橘 隆海, 藤内 智士, 山田 泰広
    セッションID: G1-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    プレートの沈み込み帯に形成される付加体ウェッジは,多数のせん断帯が形成されることが特徴である.せん断帯はウェッジの変形様式や流体の流れを制御しており,その形成機構は極めて重要である.砂箱実験による先行研究では,典型的なウェッジの形状とせん断帯のパターンが報告されている.本研究では,充てん方法や材質を変え初生的な強度構造が異なる砂層を用意し,変形様式のバリエーションについて検討した.付加体ウェッジは,底面シートを敷いたアクリル製の箱(118 mm×693 mm×158 mm)に乾燥砂(厚さ約16 mm)を充てんし,シートを箱から引き出して砂層を変形させて作った.シートの水平変位は250 mmとした.実験に用いた砂層は,(A)空中落下で充てんした豊浦珪砂層,(B)流し込みで充てんした豊浦珪砂層,(C)空中落下充てんのマイクロビーズ下層+空中落下充てんの豊浦珪砂上層,(D)空中落下充てんのマイクロビーズ下層+流し込み充てんの豊浦珪砂上層,の4種類である.それぞれの砂層についてX線コンピュータトモグラフィー(XCT)データをもとに強度構造を求めた.各実験における変形は連続写真で記録し,一部の実験ではXCTスキャンを行った. 実験の結果,付加体ウェッジの表面傾斜角は実験Aで最も大きくなり,実験B,C,D の順に傾斜角が小さくなった.また,実験Bでは実験Aよりもせん断帯の間隔が狭くなったが,これは流し込んだ砂層のひずみ弱化の程度が小さいためであると考えられる.実験CおよびDでは,バックスラストが明瞭に発達し,底面のマイクロビーズ層がデコルマとして変位した.CT画像からは,実験Aでは新たなせん断帯 (フロンタルスラスト)が形成される直前にデコルマの伝播が短期間で起こり,実験CやDでは新たなフロンタルスラストが形成されるかなり以前からデコルマの伝播が始まっている様子が見られた.これらの結果は,初生的な強度構造が付加体ウェッジのせん断帯間隔とデコルマの伝播様式に影響を与えることを示している. また,Cascadia,南海トラフ,Barbadosなどの現世の天然付加体ウェッジにおいても,実験で観察されたような構造の特徴が観察される.これらのウェッジの検層データと反射法地震探査データを比較すると,インプット堆積層の密度構造に違いがあること,ウェッジ部ではプロトデコルマの有無やバックスラストの発達具合に違いがあることがわかる.このことは,インプット堆積層の強度特性が天然の付加体ウェッジの変形様式にも影響を及ぼしている可能性を示唆している.

  • 津金 達郎
    セッションID: G1-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ■はじめに

     2020年4月から始まった上高地群発地震について,津金(2021)は2021年8月20までのデータを用い,同地域で発生した1998年8月からの群発地震とその活動推移を比較・検討した.その結果,群発地震は3D震源分布から判読できる10以上の断層(東西走向)での連鎖的な本震-余震活動として認識でき,微小地震数が群発開始以前に比べ十分減少していないことから活動はまだ終息していないとした.また,1998年群発地震で最大マグニチュード(M5.6)を記録した槍ヶ岳以北で規模の大きな地震が起きていない事を指摘した.

     その後2021年9月19日に槍ヶ岳西方(2㎞)でM5.3の地震が発生した(919地震と呼ぶ).初秋の北アルプスは好天で多数の登山者が訪れており,地震発生時の落石や崩壊を捉えた多くの動画がweb上で確認できる.報道では落石によるけが人の報告があるが,誰も亡くならなかったのは幸運でしかない.

    ■新たな地震と南北走向断層の判読

     9月19日は槍ヶ岳西方から西穂高岳付近まで,震度1以上の16回の地震が発生したが(気象庁震度データベース検索),M4以上の震源を見ると2時間半ほどで,北から南へ震央距離8㎞の間で震源深度が次第に深くなるという特徴があった.その後の余震も含めて3D震源分布から全体では南北11kmで垂直に近い(やや西傾斜)の断層面と認識した.2020年5月にはこの断層面南部付近でM4.4~5.4の4度の地震が発生していたが,この時は余震が少なかったため,これらが同一断層か並行(雁行)する別断層によるものか判断しづらい.しかし南北走向の活動的な断層が北アルプス主稜線近くに存在するのは確かである.1998年群発地震でもこの断層面の中北部付近でM4以上の7回の地震が発生していた.なお,この断層面(南北走向)は上高地付近に並行して存在する断層面(東西走向)を切らない.

    ■活断層との関係

     東西系の断層面の一部は地表に延長すると上高地断層(井上・原山,2012・本合ほか,2015)と一致する(津金,2021).この付近の南北走向の活断層は,上高地黒沢断層と徳本峠断層(本合ほか,2015),屏風岩断層(本合ほか,2017),境峠断層があるが,位置的にこれら既知の活断層には全く対応しない.

    ■活動推移の比較

     [1998年/2020年]群発地震を発生から2年間で比較する.総観測地震は設定範囲(30km以浅)で[7675/49281]回,極微小な地震を除いたM1以上の地震回数は[3919/7827]回.2年目の1年間での地震数増加率は全地震[11.4/17.3]%,M1以上[5.4/14.7%]であった.最大Mは[5.6/5.5]と1998年の方が大きいが,2年目は最大Mは[3.1/5.3]である.総地震エネルギーをM換算すると,[5.757/5.914]となり,2020年は1998年の約1.7倍である.1998年群発地震は2年目中には完全に終息したとみられる(津金,2021).2020年群発地震の微小地震の発生数は群発開始前ほどまでは減っていないが(2022年6月時点),919地震前と比べれば格段に低下してきており,ようやく終息に向かいそうだ.ただし,群発域と設定した最北部の野口五郎岳付近での大きな地震は1998年群発地震では発生したが(最大M4.9)が2020年群発地震では発生していない.この付近は鷲羽・雲の平DHC(後述)近傍であるため,DHCとの関係を議論するなら野口五郎岳付近の地震は上高地群発地震と区別するべきかもしれない.

    ■20㎞以深を震源とする地震と群発地震の関係

     津金(2021)は活火山近傍の15㎞以深で地震の発生する領域を深部震源クラスター(DHC)と呼び,焼岳DHC(深度20-40km前後)での地震活動と群発地震(15km以浅)の関係を考察した.2020年群発地震開始の1年ほど前からDHCでの地震が増加しており,群発開始後はDHCでの地震の増加に対応してその1-2か月後に群発地震が活発化している可能性を示した.919地震は2021年3月下旬から6月中旬のDHCでの地震活動と対応しているように見える.また,2022年4月頃のDHCの地震活動が再び群発地震につながるのか注視しているところである.なおDHCは活火山周辺の深部低周波地震として認識されている(小菅ほか,2017など)ものである.

    ◇文献

    本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015)地質学会演旨

    本合弘樹・井上 篤・原山 智(2017)地質学会演旨

    井上 篤・原山 智(2012)地理学会演旨

    小菅正裕・野呂康平・増川和真(2017)地震研究所彙報

    津金達郎(2021)地質学会演旨

    震源データは気象庁地震月報,気象庁一元化処理震源要素による.

  • 木村 陽介, 森 宏, 永冶 方敬
    セッションID: G1-P-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本陸上最大の断層である中央構造線(MTL)近傍の領家帯には,マイロナイト化が進行した岩石(以下,マイロナイト類)がMTLに沿って分布する.これらは深さ約10〜15 kmにおける断層活動の情報を記録した岩石であるとされており(Wibberley and Shimamoto, 2003),MTLの深部断層活動履歴を考える上で重要である.特に,紀伊半島中央部では,MTLに近づくにつれてのマイロナイト化の系統的な変化が明瞭に認められ,数多くの研究がなされてきた(e.g. 高木,1985;Shigematsu et al., 2012).また,同地域内では,鉱物組み合わせに関してもMTLに近づくにつれての系統的な空間変化が認められ,MTLの断層運動との関連性が示唆されている(Jefferies et al., 2006).ただし,これらの研究はいずれも原岩が同一のマイロナイト類(畑井トーナル岩起源)を対象とするとともに,再結晶石英粒径に基づくマイロナイト分類(変形作用の影響)と鉱物組み合わせの詳細な空間的関係性の議論は数百m以内の狭いエリアに限られており,その広域的な一般性が期待される.そのため,原岩の異なる領域を含むより広域的な検討は,変形過程と構成鉱物の関係性,さらには,MTL深部断層運動の一般化モデルの構築には欠かせない基礎情報となるが,未だ明らかではない.

     そこで今回,紀伊半島中央部・高見山地域〜丹生地域のMTL近傍・領家帯(南北約2 km以内および東西約40 km)において,異なる原岩起源の領域(東から西に畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩)をまたいで再結晶石英粒径(マイロナイト分類)と鉱物組み合わせの空間変化を検討した.

     本研究では,畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩を原岩とするマイロナイト類について,約150試料の岩石薄片を作成し,偏光顕微鏡観察を行った.いずれの原岩起源の領域でも,MTLに近づくにつれての細粒化が認められる一方で,草鹿野アダメロ岩を原岩とする調査地域の西側はMTL最近傍でも比較的粗粒で,ウルトラマイロナイトは確認されない.鉱物組み合わせに関しては,変形の影響が少ないMTLから離れた地域では,主要構成鉱物は石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母,白雲母,および,緑泥石であり,畑井トーナル岩のみ角閃石を主要構成鉱物として含む.鉱物組み合わせの空間変化としては,いずれの原岩起源のものであっても,MTL近傍約200 m以内で黒雲母が確認できなくなる一方で,石英,斜長石,アルカリ長石,白雲母,緑泥石は普遍的に認められる.

     MTLに近づくにつれての系統的な細粒化とMTL近傍のみでの黒雲母の消滅が,原岩の違いに関わらず共通して認められたことは,鉱物組み合わせの空間変化がMTLの断層運動に起因することを強く支持する.また,MTL最近傍において緑泥石が存在することに加え,MTLからある程度離れた地域では黒雲母の部分的な緑泥石化が認められることを考慮すると,MTL近傍にあった黒雲母は緑泥石化により消滅したと考えられる.さらに,本研究において,黒雲母に脆性剪断組織の発達が顕微鏡観察から認められたことに加えて,これまでの研究から,MTLに近づくにつれて低温型への石英のc軸ファブリック転移が認められること(島田ほか,1998),および,MTL近傍で熱水変質による鉱物の存在が認められること (e.g. Shigematsu et al., 2012) を考慮すると,MTL近傍における緑泥石化の卓越は,比較的低温化での変形作用による脆性剪断組織の発達と熱水による変質の促進に起因すると推察される.

    【引用文献】 Jefferies et al., 2006, Journal of Structural Geology, 28, 220-235. Shigematsu et al., 2012, Tectonophysics, 532-535, 103-118. 島田ほか,1998,地質学雑誌,104,825-844. 高木,1985,地質学雑誌,91,637-651. Wibberley and Shimamoto, 2003, Journal of Structural Geology, 25, 59-78.

  • 三谷 陣平, 橋本 善孝
    セッションID: G1-P-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    帯磁率異方性(Anisotropy of Magnetic Susceptibility, AMS)によるひずみ解析は、延性ひずみに敏感である特性を用いて、過去の応力と変形機構との関係を理解する上で有用である。過去に沖縄本島の四万十帯付加体では広域AMSで沈み込み帯でのひずみの発展を明らかにした(Ujiie et al., 2000)。また、IODPコアの高密度なAMS解析では断層でひずみが変化することが示された(Annika et al., 2020)。しかし、陸上付加体で断層を挟んだ高密度なひずみ解析を行った例はない。よって高密度サンプリングによるAMS解析で断層に応じたひずみの空間分布から局所的かつ脆性的な地震断層の影響ではない延性ひずみの厚さを明らかにすることを目的とする。   白亜系四万十帯に属する横波メランジュの北縁にある五色ノ浜断層を対象に行う。最終活動年代は52.4Maで、幅2~3mの断層帯で20センチほどの脆性破砕帯を伴う。その脆性破砕帯の中では厚さ数百ミクロンの局所化した断層があり、流動組織、溶解組織、注入脈、発泡組織などのほかシュードタキライトも発見されている(Hashimoto et al., 2012)。  五色の浜断層を中心に南北40mの範囲でサンプリングを行い、計100個のデータを獲得した。露頭から採取する時に、試料に走向と傾斜の線を引く、その走向の線をめがけて、コアドリルを用いて円柱状にくり抜き、軸方向が2㎝になるように切断し、走向の一方向を下向きにセットし解析を実行する。 帯磁率は、ある一定の外部磁場を与えたときに獲得する磁化強度の比であり、異方性は、磁化許容量である帯磁率の偏りである。この三次元的な帯磁率強度分布を長軸(Kmax)・中軸(Kint)・短軸(Kmin)の3成分を持つ異方性楕円体として表すことができる。この3成分から形状パラメータTと異方性強度パラメータP‘を求め、3成分の方位と共にひずみを評価する。Tは-1から+1の範囲で葉巻型(prolate)から扁平(oblate)とひずみの形状を示す。Pは帯磁率楕円体が球形であったとする初期状態からの変化量を示す。  Kminは低角でNE-SW方向やや集中し、KmaxとKintはNW-SE方向にガードル状に分布した。さらにT-P‘ダイアグラムで全体的に扁平(oblate)を示したことから、大局的に見た場合、堆積時の層に垂直な荷重による圧密の記録が残されていることを示唆している。また、断層に近づくに従ってT、P’値ともに小さくなる傾向が見られた。このことから破砕帯内では圧密による扁平なひずみに剪断変形による葉巻型のひずみが上書きされたことを示唆している。これは他の断層帯でも、ひずみが扁平(oblate)から中性的な平面ひずみ、葉巻型(prolate)へと上書きさることは示されている(Shihu et al., 2020)。破砕帯内には破砕粒子の周辺に泥質な基質が流動的に剪断変形しており、葉巻型のひずみの上書きに寄与していると考えられる。その破砕帯内のT値を3つに分類し、方位の比較を行った。0.4∼0.7は葉巻型のひずみに近づいているといえるが、3成分の軸が揃っていることから延性ひずみが保持されていると考えられる。一方、0.4以下になると方位がばらつく。これは葉巻型のひずみが更に上書きされると脆性破壊が起こり、粒子がランダムに回転するためばらついていると示唆される。今後の課題は、ひずみパラメータと変形組織を対比し、解釈を裏付ける組織が見られるかを検討することである。 Ujiie et al., 2000, JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH Annika et al., 2020, Earth and Planetary Science Letters Hashimoto et al., 2012, Island Arc Shihu et al., 2020, Geophysical Research Letters

  • 福別府 渉
    セッションID: G1-P-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    近年、沈み込みプレート境界面でプレート収束運動より速く、通常地震より著しく遅いすべりである「スロー地震」という現象が発見され、世界中で通常地震との関係性について追求されている(Obara and Kato., 2016)。このことから、沈み込みプレート境界面では、通常地震と「スロー地震」のように、すべり速度に多様性があることが明らかとなった。先行研究では、この多様性を生むモデルとして、物性や応力分布の空間スケールが階層的であることを原因とする提案が出されたが(Ide et al., 2014)、これはあくまで概念的であり、その不均質性そのものの要因については様々な議論がある。

     そこで、本研究では、東西約11㎞、南北約26㎞を範囲とした南海トラフ紀伊半島沖三次元地震波反射断面による実際の沈み込みプレート境界を対象とし、天然における地形という要素の不均質分布をラフネス解析で階層的に明らかにした上で、概念的モデルを検証しようとする。具体的には、天然のデコルマ地形のラフネス解析により得られた地形の振幅分布を図示し、セグメント長さの違いによる異なるスケールにおける高振幅領域の階層的な分布を検討した。最終的にこのラフネスの階層性が物性や応力の分布と対比し、地形の物性や応力への影響を明らかにする。

     本研究では、セグメント長さを変えながら地形波形のフーリエ変換で得た波長とPSD間の関係から、波長と振幅には冪乗の関係が成立していることが明らかとなった。小さいセグメント長さでは、振幅の変化を空間的に細かくとらえており、面積の小さいパッチ状のものが所々で確認できた。また、大きいセグメント長さでは、高い振幅の領域が比較的広範囲に分布する。  様々な検証によってこのセグメント長さに応じたパッチのサイズ変化は天然の特性であると考えられる。これは、セグメント長さが大きいことによって、振幅の数値を平均する範囲が広くなるため、波の中でも比較的大きな範囲で見た波長をとらえることができたと推定した。逆に、セグメント長さが小さくなるにしたがって、振幅の変化を細かくとらえていることが確認できたことも、振幅の数値を平均する範囲が狭いため、微小な波長や、細かい振幅の変化もとらえることができたと考えられる。以上のことから、セグメント長さの変化に応じて、地形の効果として高い振幅領域の階層的な分布が見られたと言える。  Hashimoto et al. (2022)では、本研究と同地域において、断層のすべりやすさを示すスリップテンデンシー(Ts)と、断層の開きやすさを示すダイレーションテンデンシー(Td)の分布をそれぞれ0.0~1.0の範囲に標準化したうえで、マップ化を行った。これらの分布と、本研究で作成した相対地形のマップやラフネスマップを対比した。

     Ts分布と相対地形のマップとの比較では、Ts分布の高い領域または低い領域は、相対地形の変曲点と位置がほぼ一致していた。これは、Tdの分布との比較でも同様なことが言える。  また、相対地形のマップとTs、Td分布のそれぞれの差をとることで、相対地形とこれら2つの要素の大小関係をマップ化することができた。反対に、和をとることで、例えば、相対地形の高い領域とTs、Td分布のそれぞれの高い領域が、より強調されて空間的に表現することができた。

     Ts分布とラフネスマップとの比較では、分布が似たような傾向であった。これは、Tdの分布との比較でも同様なことが言える。

     以上のことから、地形のラフネスとTs、Tdには密接な関係があると言える。ここで我々のいうラフネス(あるセグメント長さの地形の振幅)が幾何学で支配される応力の分布と同じ意味を持つことを示している。

     応力以外にも、流体圧や間隙率、弾性波物性などの要素が、地震の発生に強く関係している。よって今後は、これらの要素でも、本研究で作成した相対地形のマップやラフネスマップとの対比を行い、具体的には、地形が弾性波物性に対してどのような影響を与えているか、あるいは地形が間隙流体圧に対してどのような影響を与えているかなどを模索し、それぞれの相互関係について検討していきたい。

    引用文献

    Obara, K., Kato, A., 2016.Science 353, 253-257.

    Ide, S., 2014. Proceedings of the Japan Academy, Series B 90, 259-277.

    Hashimoto, Yoshitaka, et al. Scientific reports 12.1 (2022): 1-9.

G4(ポスター). ジェネラル-サブセッション4 地学教育・研究史
  • 吉田 勝, Student Himalayan B.N.Upreti, Paudel Mukunda, 在田 一則, 酒井 哲弥, Upre ...
    セッションID: G4-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    2012年より毎年実施されてきた学生のヒマラヤ野外実習ツアー(SHET)は、2022年3月に第10回目が実施された(詳細は吉田,2022)。実習ツアー出発2週間前の2月20日段階で、感染危険度の基本的な指標とされる新型コロナ感染症10万人当り新規感染者数は、ネパールは日本の約50分の1であった(OテレNews,2022)。また、ネパール現地の情報でも、当時すでにネパールでは新型コロナ感染症の蔓延問題は殆ど完全に収まっており、街も大学も平常に戻っているとのことであった。実際にネパールは、ツアー始めの3月6日には154倍、ツアー終わりの3月18日には257倍も日本より安全だったのである。日本社会では旅行、とりわけ海外旅行自粛ムードが一般的であったが、それは上記のようにネパールに関しては実態を踏まえないものであった。 しかし残念ながら日本では多くの大学、教員、学生がそのムードを共有していたようで、本実習ツアー(SHET-10)の参加希望者は12月末の段階で10人しか居らず、さらに2月中旬には5人が参加キャンセルした。結果としてSHET-10チームは日本学生5人、ネパール学生1人と日ネの教員各1人の総勢8人となった。出発前日にはPCR検査陰性証明書取得のため、参加者全員が筆者の自宅に宿泊した。 以上の経過の後3月4日にカトマンズに到着して空港を出てからは、全てががらっと変わったのであった。カトマンズのホテルもレストランも、街中も大学も全く平常であった。そのような状況の中、野外実習ツアーは全く自由に、例年通りのコースと日程(図1)で支障なく実施できたのである。ツアー期間中天気は良く、参加者の健康問題も無く、始から終わりまで真に快適なツアーであった。参加者が少なかったため、毎夕の勉強会では全参加者が英語で複数回発表するなど、例年より濃度の高い学習ができた。野外ツアー後の日ネ合同報告会も全員がパワーポイントを活用し、英語で10分前後の発表と質疑応答をするなど、従来より高いレベルであった。 帰国時には、出発時と同様に乗継空港と日本入管の検査に備えて帰国出発前の2日間はカトマンズで待機せねばならなかった。当初日本帰国後は7日間の自宅待機とされていたので、筆者の自宅に全員が滞在する準備をしていたが、実習ツアー期間中に日本の水際対策が緩和されて関空のホテルでの観察拘束3日間だけとなっていた。 今回はコロナ騒ぎの影響で航空運賃は例年の5割から9割高く、またネパール滞在日数も増え、加えて高額のPCR検査費用などもあって参加者1人当たりのツアー経費は332170円と、過去9年間平均であった187433円の約1.8倍になった。ツアー出発前の2月下旬には参加費がかなり高額になると予想されたため、クラウドファンディングを開始した。その結果4月19日までに総額354000円の支援金が寄せられた。他にも2組織からの寄付金もあり、参加者1人当り131170円の補助ができ、1人当りの参加費をほぼ20万円に納めることができた。 無事、成功裏に終了できた本実習ツアーにご関心、応援あるいはご推薦下さった皆様、ご後援名義を下さった日ネの関係5学会、クラウドファンディングにご支援下さった28人の皆様に深く感謝します。なお、第11回の学生ヒマラヤ実習ツアーは来年3月に実施予定です。詳細は学生ヒマラヤホームページ(2022)で公開しています。 なお、来年以後のSHET参加学生の参加費補助を目的として、学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト主宰による通年常時受け付けのクラウドファンディング「学生ヒマラヤ-学生にヒマラヤで学ぶ機会を!」を立ち上げ、広くご関心の皆様にご支援をお願いすることにしました。趣旨にご賛同、ご興味の方は下記「学生ヒマラヤCFサイト」(www.gondwnainst.org/shet-cf)をご覧下さるよう、お願いします。 引用文献 学生ヒマラヤホームページ,2022, www.gondwanainst.org/geotours/Studentfieldex_ index.htm OテレNews, 2022, データとグラフで見る新型コロナウイルスwww.ntv.co.jp/ news24/corona_map/,2022年6月7日閲覧. 吉田勝,2022(編),ヒマラヤ造山帯大横断2022.フィールドサイエンス出版,191頁. https://www.data-box.jp/pdir/8d74595d276149a99b6ffac68d9b6391

  • 川勝 和哉
    セッションID: G4-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1 SSH指定の柱としての科学倫理教育

     本校は令和2年から6年まで文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定を受けている。主な研究課題として「科学倫理教育のロールモデルの作成と全国への発信」がある。本校の科学倫理教育は、図のように定義している。大学に進学して初めて科学研究を行っていた時代と異なり、現在は高校生による科学研究が盛んに行われるようになった。しかし、研究に伴うはずの倫理に関する学びは体系化されておらず、様々な教育現場で模索が続けられている。

     盗用や改ざんの禁止など、研究者や科学者だけでなく課題研究を行う高校生も守るべきルールは、最初にきちんと教えられなければならない。これは研究倫理と呼ばれ、地学基礎や理数探究基礎の教科書の中でも取り上げられている。これに対して、たとえば地球温暖化問題など、視点によって帰結する答えが異なるような問題に対して、データを集めて分析し、それをもとに考察することを科学倫理と呼んでいる。科学倫理は、自然科学を対象にした課題研究と同様に、主体的で対話的な探究活動に位置づけられる。将来科学に携わる者だけではなく、社会を構成する者すべてが科学技術を評価する必要があり、その意味ですべての生徒が、自然科学や科学技術について自ら情報を集め、主体的に判断することができるようになる必要がある。

    2 科学倫理教育の具体的な取り組み

     本校に入学してきた1年次生は、全員がグループによる課題研究に取り組み、一通りの探究活動を経験する。経験も知識も少ない生徒にとって、議論しながら進めることによって大きな成果を得ることができる。その後2年次生になると、4月に生徒自ら主体的に自然科学のテーマを設定し、本格的な課題研究を始める。7月になり、自然科学をテーマとする課題研究が進み始めると、テーマにしている自然科学に関連する科学倫理のテーマを設定し、科学倫理をテーマにした課題研究を並行して始める。資料として、筆者が出版した「科学倫理」を参考にする。

     理系の生徒は「理数探究・科学倫理」2単位で、文系生徒も「総合的な探究の時間」1単位で実施する。各クラスは3名の教員によるチームティーチングを行う。すべての自然科学研究には科学倫理的な問題要素が含まれているため、これらを並行して同一の班メンバーで研究する。

     公的機関が公表しているデータや先行研究を活用するだけではなく、生徒自らが校内外を問わずアンケートを取ることにより、データを収集し、それに基づいた議論をすすめる。得られた成果は、本校主催で開催するGirl’s Expo with Science Ethicsでポスターおよび口頭発表を行う。ここには科学倫理の専門研究者ら20名や大学院生らを招き、助言を得たり互いに議論したりする。さらに、得られた助言を取り入れて、自然科学研究論文集とともに科学倫理研究論文集としてまとめて公表する。

    3 成果と課題

     生徒は、マスコミやSNSの情報を鵜呑みにせず、自ら正しい情報を得て自ら判断することの重要性を認識し、また視点を変えることによって意見が異なることも知る。自然科学のテーマに必ず内包される科学倫理のテーマを掘り起こし、並行して研究するためには、指導助言する教員の力が不可欠である。テーマの設定や進め方、計画の立て方、発表や評価の仕方など、折に触れて「課題研究研修会」を繰り返し実施したり、困難をざっくばらんに話し合い情報を共有する「課題研究学習会」を定期的に開催するなどしており、徐々に学校をあげた探究活動に発展しつつある。

     これらの成果は冊子にまとめて公表することによって、科学倫理教育のロールモデルの発信を行っている。ここに示したような課題研究の評価方法はまだ確立されておらず、課題研究をどのように評価するかが現在の課題である。

G5(ポスター). ジェネラル-サブセッション5 地域地質・層序・層序
  • 吉田 孝紀, 小澤 菜々子, 川野 律歩, 上山 瑛梨佳
    セッションID: G5-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1. はじめに 新第三紀から第四紀の地球規模の気候変化に伴い, 北半球では植生分布が大きく変化した(百原, 2010).メタセコイアはこの植物相変遷期の示準化石とされており(百原, 2010), 日本各地から産出する. 植物化石の存在はその地にかつて植生が繁茂し, 古土壌が広がっていたことを示す.東京都八王子市清川町から楢原町付近の北浅川河床にはメタセコイア化石林が広く露出し, その周辺には古土壌が分布する. この研究では,このメタセコイア化石林周辺の堆積相と古土壌から,詳細な古環境とメタセコイアの生育環境を検討した.

    2.地質概説 加住丘陵と北浅川に分布する上総層群は下から山田層, 加住層, 小宮層, 福島層, 小山田層, 連光寺層に区分される(植木・酒井, 2007). 東京都八王子市上壱分方町から清川町にかけての北浅川河床には山田層, 加住層が露出し, これらは完新世の現河床堆積物に覆われている. 本研究地より上流に位置する上壱分方町の北浅川河床には, 基盤岩である四万十帯美山ユニットを覆う山田層が露出し, 広域テフラ(火山灰)から約2.0Maの年代値が得られている(多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会, 2020). 加住層は上壱分方町付近で山田層を不整合関係で覆い, 本研究地では材化石を多量に含む細粒砂層からシルトからなる(植木・酒井, 2007).

    3. 研究手法 現地での露頭観察・岩相記載・古土壌記載・1/10スケールでの柱状図作成を行い,採取した試料について,鏡下観察を行った.野外での古土壌記載では植物化石の産状に留意し, メタセコイア化石(直径50 cm以上)・立木化石(直径50 cm以下)・根化石(太さ5 mm以上)・根化石(太さ5 mm以下)・細根(太さ1 mm以下)・異地性の材化石に分類した. 古土壌薄片の偏光顕微鏡下での観察では, 土壌微細構造である団粒構造・ペレット・Cutan・Sepic plasmic microfabric組織に注目した.

    4. 北浅川の堆積環境と古土壌形成 北浅川河床において層厚約10mの柱状図を作成した. また岩相・堆積構造・植物化石の産状から9つの堆積相を認定し,それぞれの各層準において岩石薄片を作成して観察した. その結果,堆積相組み合わせの検討から後背湿地~氾濫原~自然堤防~河川の変化が見られ, 北浅川河床では蛇行河川システムが発達していたと考えられる. また薄片観察ではどの層準でもペレットや団粒構造が見られ, 土壌化が起こったことを示す.鏡下では,粘土鉱物が一部分のみ連結したMosepic plasmic組織, 粘土鉱物が断片的に基質に形成されたInsepic plasmic組織が認められた.メタセコイア化石の産出する層準付近は根化石を含むやや粗粒な氾濫源相であり,メタセコイアの樹幹から水平に根を張る状態が2層準にわたり観察できた.その層準を古地表面として記載し,その直下の土壌組織を鏡下で観察したところ,自生粘土鉱物が全体に発達し同時消光するOmnisepic plasimic組織, 粘土鉱物が直交しない2方向に発達したClinobimasepi plasmic組織が特徴的に認められた.しかし土層分化は不十分であり,集積粘土の形成に乏しく,土壌化の程度は低い.

    5. メタセコイアの生育環境 メタセコイア化石は根化石の豊富な氾濫源相にのみ見られる.この堆積相は側方漸移関係にある氾濫源相に比べてやや粗粒で堆積構造に乏しいことから, 氾濫原の微高地であったと推測される. 鏡下において観察できる土壌組織からはわずかに土壌化が進行した状態であったと考えられる.現生メタセコイアや他地域のメタセコイア化石も氾濫原や地形的高まりを好むとされており(百原ほか, 1993;百原, 2017), 北浅川河床のメタセコイアの生育環境もその生態と整合的である. 本研究では2枚の古地表面が認識され, 氾濫原の洪水イベントにより植生破壊と更新が繰り返されたと考えられる. また薄片観察の結果からメタセコイア化石の層準付近は他の層より土壌化が進んでいたと考えられるが,この層準の古土壌成熟度は低い. これはメタセコイアの成長速度が非常に早く, 先駆植物のような存在であることから(百原ほか, 1993), 短い土壌化期間でも森林を形成できたことを示すと考えられる.

    引用文献 百原 新, 2010, 第四紀研究, 49, 299-308; 百原 新, 2017, 第四紀研究, 56, 251-264; 百原 新ほか, 1993, 植生史研究, 1, 73-80; 多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会, 2020, 報告書. 222p; 植木岳雪・酒井 彰, 2007, 青梅地域の地質. 199p.

  • 岩水 健一郎, 姜 志勲, 堀江 憲路, 外田 智千, 竹原 真美, 早坂 康隆, 大藤 茂
    セッションID: G5-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    背景と目的

    韓国の先カンブリア時代の基盤岩は、主に北西部の京畿地塊と南東部の嶺南地塊に分布する。両地塊の境界は、三畳紀に形成され始めたと考えられているSouth Korean Tectonic Line(SKTL)である [1]。ジュラ紀の花崗岩類の貫入などが原因で、地表でのSKTLの詳細な位置は不明である。

    筆頭著者らは、韓国の錦山地域のジュラ紀花崗岩中の花崗片麻岩のジルコンU–Pb年代を測定した [2]。ジルコンからはコア・マントル・リムが確認された。コアからは約2.5 Gaのマグマ固結年代が得られた。マントル(Th/U比 < 0.1)からはディスコーダントなデータが得られ、コンコーディア曲線との交点は約1.89 Gaと174 ± 74 Ma(共に変成年代)となった。ただ、マントルは波動累帯構造を示すため、火成ジルコンの可能性がある。ジュラ紀の変成作用に伴って過成長したと思われるリムは測定できていない。韓国において、ジュラ紀の700℃以上の接触変成作用の報告はわずかで(例えば [3])、ジュラ紀の広域変成作用は認知されていない。従って、ジュラ紀のコンコーダントなU–Pb年代を示す過成長ジルコンの報告はわずかであり(例えば [4])、希土類元素の挙動の詳細は不明である。

    錦山地域にはSKTLが位置すると想定される [2, 5]。錦山地域周辺の嶺南地塊では古原生代の岩石中のモナズ石にペルム紀~三畳紀の変成年代が見られないが [6]、京畿地塊では見られる [7] ため、モナズ石の変成年代からSKTLの位置を推定できる可能性がある。

    そこで本研究では、[2] と同一の試料(花崗片麻岩)から、以下の不明点を探究した。

    ■ マグマ固結年代と変成年代

    ■ ジルコンの希土類元素の挙動

    ■ SKTLの位置

    国立極地研究所での分析手法

    モナズ石とジルコンを分離した。EPMAでモナズ石のBSE像の撮影とTh–U–total Pb年代の測定を行った。電子顕微鏡でジルコンのCL像を撮影し、SHRIMPでジルコンのU–Pb年代と希土類元素濃度を測定した。先カンブリア時代の年代については「ディスコーダンス < 5%」のものをコンコーダントとして207Pb/206Pb年代を用いて議論する。顕生代の年代については「コンコーディア曲線と誤差範囲で交わる場合」をコンコーダントとして206Pb/238U年代を用いて議論する。

    結果と考察

    ■ ジルコンU–Pb年代に基づくマグマ固結年代と変成年代

    コアは約3480–2100 Ma、マントルは約1917–1896 Ma、リムは約180–170 Ma(例外的に1粒子のみ約230 Ma)である。太古代のコアが初めて得られたため、約2.5 Gaのコアの年代をマグマ固結年代だと解釈した [2] は誤りだと判明した。よって、コンコーダントなマントルの加重平均年代(約1.9 Ga)がマグマ固結年代だと解釈できる。マントルのディスコーディアの下方交点(約290 Ma)は、[2] とは対照的にペルム紀の変成作用を示唆する。ジュラ紀のリムの加重平均年代(175.6 ± 0.9 Ma)は、ジュラ紀の高温の変成作用を示唆する。

    ■ ジルコンの希土類元素とTh/U比に基づく鉱物共生

    ジルコンのコアよりも、マントルとジュラ紀のリムの方が、Ceの正異常が小さく、Th/U比が低い(< 0.1)。CeとThはジルコンよりもモナズ石に多く含まれるため、マグマ固結時と変成作用時におけるジルコンとモナズ石の共生が示唆される。

    ■ モナズ石・ジルコンの変成年代に基づくSKTLの位置

    約1845–158 Maの幅広い年代を示すモナズ石が1つ得られたが、その他のモナズ石の年代は約244–147 Maの範囲内である。モナズ石の変成年代分布の最大の極大値は約173 Maである。モナズ石の変成年代分布はペルム紀~三畳紀の極大値をもたないが、前述の通りジルコンのマントルはペルム紀の変成作用を示唆するため、SKTLの位置については今後さらなる検討が必要である。

    文献

    [1] Chough et al., 2000, Earth Sci. Rev., 52, 175–235.

    [2] 岩水ほか, 2021, 地質雑, 127, 121–129.

    [3] Kim et al., 2020, Precambrian Res., 346, 105739.

    [4] Cheong et al., 2015, Ore Geol. Rev., 71, 99–115.

    [5] Hong & Choi, 1978, Geological Map of Geumsan Sheet, 1: 50,000, Korea Res. Inst. Geosci. Miner. Resour., Seoul.

    [6] Oh et al., 2013, J. Petrol. Soc. Korea, 22, 117–135.

    [7] Horie et al., 2009, Geosci. J., 13, 205–215.

  • 羽地 俊樹, 工藤 崇, 佐藤 大介, 仁木 創太, 平田 岳史
    セッションID: G5-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    山陰東部の但馬地域でよく参照される地質図と層序は,1960年代中頃に公表されたものである(池辺ほか,1965; 弘原海ほか,1966).この地質図は東西約80 kmに及ぶ広域を調査対象として約25万分の1の縮尺で描かれたもので,あくまでも層序の概要を示したものに過ぎなかった.ゆえに,その解像度は堆積盆発達史の制約条件として十分とは言い難い.しかしながら,後続の地域地質的な研究例はほとんどなく,精査が必要な状況であった.

     そこで発表者は但馬地域の堆積盆発達史の解明を目指し,層序と地質構造の調査を進めている.本発表では兵庫県の北西端に位置する浜坂地域の新第三系(中新統・鮮新統)について,暫定版の地質図面を基に層序の改定案を提示する.

    中新統北但層群

      中新統は北但層群と呼ばれる京都府北部から兵庫県北部にかけて広く分布する地質体からなる.浜坂地域に分布する北但層群は,下位から順に八鹿層・豊岡層・七釜層(新称)に分けられる.

      八鹿層は陸上噴出の安山岩の溶岩および同質火山砕屑岩を主体とする地層である.本研究で,安山岩溶岩に挟在する珪長質火山岩および火山砕屑岩から19.5 Ma頃のジルコンU‒Pb年代を得た.

      豊岡層は八鹿層を不整合に覆う地層である.岩相は植物片を多産する氾濫原の細粒砕屑岩とチャネル状の河川成礫岩の互層であり,沖積平野の堆積物からなる地層と判断される.従来の研究では本地域の豊岡層は上記の砕屑岩だけでなく,それを覆う珪長質火山岩類も含めた地層とされていた(例えば,池辺ほか,1965).しかし本研究では珪長質火山岩類を豊岡層から独立させ,七釜層という新しい地層名を与える.

      七釜層は海成泥岩の偽礫を多量に含む珪長質な火山礫岩および凝灰角礫岩からなる.七釜層は七釜集落を中心として北西–南東方向に約8 km,北東–南西方向に約4 kmの幅を持つ楕円形の盆地の内部を埋積した地層であり,八鹿層・豊岡層に高角度にアバットしている.以上のように,本火山岩類と豊岡層の砕屑岩は岩相が明確に異なり,また両者には構造差が存在する.したがって,本火山岩類は独立した地層として定義すべきと判断した.本層の凝灰角礫岩から17.7 MaのジルコンU‒Pb年代の報告がある(松原ほか,2021).

    鮮新統千谷火山噴出物および鐘尾火砕流堆積物

     鮮新統は千谷火山噴出物と鐘尾火砕流堆積物(いずれも新称)からなる.浜坂地域の西部の尾根上には玄武岩溶岩を主体とする火山岩類が存在する.この火山岩類は従来,浜坂火山(Furuyama et al., 1993)と呼称されていた.しかし,浜坂の地名は別の地層名で利用されていることや,推定される噴出源が浜坂集落から離れていることなどから,本研究ではこれを模式的な岩相が分布する千谷の地名を利用して千谷火山噴出物と再定義する.千谷集落の西方で溶岩と同質のスコリア丘堆積物や火道岩脈が見いだされ,千谷火山噴出物は単成火山(千谷火山と命名)起源の地層であることが明らかになった.

      鐘尾火砕流堆積物は,鐘尾集落西方の山地の2地点で今回新たに発見された厚さ約10 mの珪長質な火山礫凝灰岩を主体とする火砕流堆積物である.本火砕流堆積物は,千谷層の玄武岩溶岩に挟まれる.2地点の軽石火山礫凝灰岩試料から,共に3.65 MaのジルコンU‒Pb年代を得た.

    分布と地質構造

     本研究で地層の分布が大幅に修正された.例えば,池辺ほか(1965)では三成山西方では基盤の花崗岩を鮮新統玄武岩(本報告の千谷火山噴出物)が直接覆うとされていたが,両者の間には広く中新統が分布することが分かった.また,上述のように豊岡層の砕屑岩類と七釜層の火山岩類の分布,層序および構造関係が明らかになった.

      本地域の中新統は各層が下位の地層とアバット不整合の関係にあることが明らかになった.従来の地質図では基盤と八鹿層境界に断層が想定されていたが,それは認定されなかった(羽地,本大会口頭発表).浜坂地域の中新統の各層は,比高100 mを超える地形的起伏を埋積して堆積したものと考えられる.

    <引用文献>

    Furuyama et al., 1993, Earth Sci., 47, 519‒532; 池辺ほか,1965,日本地質学会第72年大会見学案内書; 松原ほか,2021, 日本地質学会第128年学術大会講演要旨, R7-P-2; 弘原海ほか, 1966,松下進教授記念論文集,105‒116.

  • 木村 一成, 榊原 正幸
    セッションID: G5-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    中央構造線は西南日本内帯と外帯をわける大断層で,四国では愛媛県伊予市から徳島県の吉野川沿いをほぼ東西方向に通過する.愛媛県にある砥部衝上断層は中央構造線の活動を記録した地質学的に重要な露頭として砥部衝上断層公園内で観察できる.この断層露頭は砂岩泥岩互層主体の白亜系和泉層群と和泉層群由来の砂岩円礫を多数含む礫岩層の第三系久万層群明神層が接する露頭であり,この露頭から約180m上流では久万層群の基盤岩である三波川変成岩類の境界が露出している.

     越智ほか(2014)に従うと,久万層群は砂岩泥岩円礫主体の明神層と結晶片岩角礫主体の古岩屋層に分類されるが,従来から三波川変成岩類と久万層群明神層の境界部には,古岩屋層とまでは言えない小規模な“結晶片岩礫主体の礫岩”が分布することが知られている(例えば,奈良ほか,2017).奈良ほか(2017)は,この断層公園内の角礫岩を「結晶片岩礫から主に構成される淘汰不良の礫岩」と記載し,「基底礫のようなもので,明神層が直接不整合で基盤を覆っているところではしばしば見られる」としている.一方,岩本(1984)は砥部川右岸側の段丘面で深さ約1.4mの簡易トレンチ調査を行い,三波川変成岩類と明神層の間に層厚0.3~0.5mの断層角礫を含む断層粘土が存在するとした.そして,砥部川河床部の結晶片岩礫岩を断層角礫岩と考え,トレンチで確認した断層粘土との位置関係から南傾斜の逆断層が存在すると解釈した.また,高橋ほか(1992)は,砥部衝上断層露頭の約30m北側で実施された深度100mのボーリング試料を観察し,上位から破砕された和泉層群,“安山岩(フィロナイト様岩)”,久万層群の礫岩層,三波川変成岩類が重なり,特に久万層群礫岩層の最下部の鉛直層厚8.3m程度は,結晶片岩礫主体の角礫岩から構成されると記載した.

     今回,筆者らは砥部川の三波川変成岩類と結晶片岩礫主体の角礫岩の露頭観察を行い,角礫岩の特徴や下位の基盤岩および上位の久万層群明神層との関係を記載し,それらの関係を再検討した. その結果,以下の点が明らかになった;

    ① 角礫岩は径2~30cm程度の泥質片岩角礫~亜角礫を主体とし,基質部はこれらの細礫で充填されている.

    ② 角礫岩には層理面等の特定の堆積構造は認められない.一方,礫支持部では原岩の片理面が保存された箇所がある.

    ③ 砥部川左岸側に基盤岩と角礫岩の境界があり,境界面の走向傾斜はN84°E24°Nである.この境界では基盤岩と角礫岩は密着している.

    ④ 角礫岩と久万層群明神層の境界の走向傾斜はN78°E60°Nで,明神層の層理面(N52°E12°N)とは斜交関係を示す.角礫岩との境界付近の明神層は径10~20cm程度の砂岩円礫を多く含むが,時に角礫岩の礫と同質の結晶片岩礫を含む.

     以上の事実および既存データに基づくと,砥部衝上断層公園の上流部で基盤岩直上に分布する結晶片岩角礫岩は約200m北側まで連続し,この場合,基盤岩上に北傾斜で分布する.また,高橋ほか(1992)に「断層角礫と見間違うような礫支持礫岩」との記載はあるが,断層粘土の記述はなく,砥部川左岸側の露頭では厚さ数10cmの断層粘土は確認できない.以上より,岩本(1984)が指摘する南落ち逆断層は存在しないと考えられる.

     基盤岩直上の角礫岩の構成礫が角礫~亜角礫主体で,淘汰が悪く,原岩片理を保存したような礫群が確認されることから,礫の供給源は近いと予想され,その位置関係から下盤側の三波川結晶片岩の可能性が高い.通常,基盤岩付近に基盤岩と同種角礫の堆積物がある場合,基盤側の斜面崩壊や地すべり等の堆積物と考えるのが妥当である.当箇所では河床の不整合部から約200m先まで角礫岩が連続すると推定され,当時の地形条件にもよるが地すべり的な斜面変動が発生したと予想される.地すべり等の堆積物は規模にもよるがその後の侵食によって地質学的時間の中では認識できなくなると予想される.しかし,当箇所では地すべり発生後速やかに久万層群明神層の堆積場となったことで化石地すべり堆積物が現在まで残存したと推測される.このことから,この三波川変成岩類の礫からなる角礫岩は,久万層群の堆積場形成プロセスを示す重要な露頭と考えられる.既往研究では当箇所と類似した産状報告があり,地すべりは当然過去にも発生していたことから,現在の応用地質学的観点を取り入れた露頭観察を行うことで過去の地層形成に関する知見を得られる可能性がある.

    【参考文献】越智ほか(2014):地質学雑誌,第120巻,第5号,p165-179.奈良ほか(2017):地質学雑誌,第123巻,第7号,p471-489.岩本(1984):砥部町資料.高橋ほか(1992):愛媛大学教育学部紀要,第Ⅲ部,自然科学,vol.13,no.1,p9-13.

  • 楢崎 眞一郎, 服部 海, 林 広樹, 小田原 啓
    セッションID: G5-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本中央部の神奈川県西部から静岡県東部にかけての地域には,本州弧と伊豆-小笠原弧の衝突帯が位置しており,多くの活断層が分布する.このうち, 平山−松田北断層帯は, 神奈川県南足柄市から山北町南部を経由し,松田町にかけて分布する断層帯である.本断層帯が一つの区間として活動する場合,M6.8程度の地震が発生する可能性があるとされる.また,今後30年の間に地震が発生する確率が,日本の主な活断層の中ではやや高いグループに属する(地震調査委員会,2015). 平山断層は,平山-松田北断層帯を構成する断層の一つであり,山崎(1971)により,神奈川県山北町平山の酒匂川右岸の露頭において最初に報告された.平山断層の南部が分布する南足柄市矢倉沢周辺地域では,今永(1976)などの研究により,内川断層や定山断層,夕日の滝断層など,平山断層に切られる断層が報告されており,最新活動や運動センスの評価が望まれる.また,本地域には足柄層群のうち瀬戸層,畑層,塩沢層が分布するとされているものの,模式地と岩相や層厚が大きく異なっており,岩相境界が時間面と斜交している可能性も考えられる.  本研究では,平山断層の南部が分布する南足柄市矢倉沢周辺地域にて詳細な地質調査を実施した.その成果の一部は楢崎ほか(2021)で報告したが,本講演ではその後の予察的な成果について発表を行う. 引用文献:今永(1976),箱根火山北麓地蔵堂の地質.神奈川県博研報,9, 77-84;地震調査委員会(2015), 塩沢断層帯・平山−松田北断層帯・国府津−松田断層帯(神縄・国府津−松田断層帯)の長期評価(第二版);楢崎ほか (2021), 神奈川県南足柄市矢倉沢地域の地質.神奈川県温泉地学研究所報告,第53巻,1-17; 山崎(1971),山北から洒水の滝へ.神奈川県地学のガイド,コロナ社,67-72.

  • 新妻 信明
    セッションID: G5-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    気象庁がHPで公表している発震機構解にはCMT(Centroid Moment Tensor)解と初動IM解および精査前の速報Prel解がある.東北日本弧にはCMT解が1994年9月から2812個,IM解が1997年10月から9937個あり,速報解は2011年4月から2865個ある.

     これらの震源分布から東北日本弧に沿う11の震源帯と78の震源区に自動区分し,島弧地殻Mantle構造および歪場について解析を進めている.本講演では,東北前弧沖震源帯ofAcJ・東北日本海沿岸沖震源帯oJscJ・西南日本海沿岸震源帯JscPhを取り上げ地震活動の伝搬について述べる.

     これらの震源帯の阿武隈震源区ofAcJAbk,出羽震源区oJscJDw,能登震源区JscPhNotoでは2016年以降静穏化していたが,2019年から2022年6月に被害地震が発生した.これらの震源区の積算地震断層面積は総地震断層面積を図幅に合わせたBenioff曲線で,2019年6月18日M6.7の最初の段,2021年2月13日M7.3の2つ目の大きな段,2022年3月16日の3つ目の大きな段が認められ,今回の地震活動の活発化は,2019年の最初の段から開始したことが分かる.最初の段が日本海Slab沈込によって開始され,太平洋Slabを抑え付けている東北前弧沖震源帯ofAcJと能登震源区JscPhNotoの活動を誘発し,阿武隈震源区ofAJAbkの2021年2月13日M7.3の2段目と2022年3月16日M7.4の3段目の活動に到り,能登震源区JscPhNotoの6月19日M5.4に及んだ(付図).

     CMT解には地震断層開始点に対応する初動IM震源と主破壊に対応する主波源重心CMTのCMT震源が掲載されている.破壊の進展する面が断層面であるので,破壊開始点と主破壊点は地震断層面上に載る.また,中間N主歪軸も断層面に載ることから,地震断層面の走行・傾斜を算出できる.断層面に対する圧縮P・引張T主歪軸方位から断層型も決定できる(新妻2012).

     阿武隈震源区ofAcJAbk2022年3月16日M7.4Pの主破壊のCMT震源は,IM震源から7㎞南東方(140°)の6㎞上に位置し,中間N主歪軸は194+2とほぼ水平で南南西であることから,地震断層面は走向192°傾斜49°と算出できる.この地震断層面は西方に傾斜する太平洋Slab上面下のMoho面付近に位置し,圧縮P主歪方位は西北西‐東南東方向水平104+0なので,西側の東北日本弧の上部Mantleが東南東にせり上がる逆断層になる.

     P主歪軸に直交するT歪軸方位は9+88とほぼ垂直に近いことから,東北日本弧上部Mantleは地震断層運動で真上に突上げられる.新幹線の乗客によると肘掛を掴んでいないと体が浮き上がる程であったと報道されており,新幹線の車輪がこの突き上げによってrailから外れ脱線したのであろう.M7.4による住宅被害は約2万棟にも及んでいる.建物等の構造物は上載荷重によって安定化を計っているため,垂直突き上げには脆弱であり,今後の防災対策に地震断層面の方位と引張T主歪軸方位も加えた検討が必要である.

     能登震源区の2022年6月19日M5.4+pが2019年6月8日M5.5Pより規模が小さいのに震度と被害が大きく上方への歪が大きかったのは2022年3月16日阿武隈震源区ofAcJAbkM7.4の島弧上部Mantleの上方突き上げが伝搬したと考えられる.

    引用文献:新妻信明(2012)新妻地質学研究所速報,33,niitsuma-geolab.net/archives/1873

G7(ポスター). ジェネラル-サブセッション7 海洋地質
  • 福地 里菜, 浜橋 真理, 村山 雅史, 白石 和也, 大熊 祐一, 芦 寿一郎, 山口 飛鳥
    セッションID: G7-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    海山などの地形的高まりの沈み込みによってもたらされる付加体の発達過程の変化と地震活動の関係はこれまで数多く議論がされており(Scholz and Small, 1997; Cloos, 1992; Cloos and Shreve, 1996; Wang and Bilek, 2014 ほか),近年ではスロー地震との関係性も明らかになってきた(Sun et al., 2020ほか)。海底面の凹凸よりもプレート境界断層面の摩擦が付加体前縁部の構造発達に寄与するとの議論もなされているが,その原因や発達過程と時空間的な情報についてはデータが少ない。 熊野灘の付加体前縁部では磁気異常データから,南海トラフの北西側に地形的高まりが沈み込んでいることがわかっており,国際深海掘削計画(IODP)C0006地点,C0007地点,C0024地点では掘削がなされ,層序と年代により構造発達がわかってきた(Yamaguchi et al., 2020)。断層の西側では,約10 km平方におよぶ窪んだ地形と地すべり地形が発達し,地形的高まりの沈み込みによるものと考えられる。 そこで,2022年3月に東北海洋生態系調査研究船(学術研究船)「新青丸」KS-22-3次航海において,この場所の海底面の地形的高まりの沈み込みによって引き起こされた地すべり地点で採泥した。採泥には,パイロットコアラーを装着したピストンコアラーを用いた。採泥長は約2.8 m であった。採取したピストンコア試料は高知コアセンターにてX線C T分析を行い,半割し,岩相記載,スミアスライド観察,マルチセンサーコアロガー(MSCL)による物理計測とXRFコアスキャナー(ITRAX)による元素分析をそれぞれ行った。MSCLによるガンマ線密度は約1.5–2.0 g/cm3の範囲を示し,海底下0-1.4 mまでは増加傾向を示す。それ以深は礫が入ってくるために測定値に誤差が大きい。帯磁率は約0.66–2.9×10-3 SIを示し,海底下1.38 mで最も高い値を示した。この層準は極粗粒砂を含むシルト質砂であり,不透明鉱物やスコリア質のものが多く見られたため,火山性砕屑物を含むと考えられる。コアの帯磁率は,付加体前縁部のC0024地点では1.5–4×10-3 SI(Yamaguchi et al., 2020),一方で四国海盆堆積物であるC0012地点のUnit I ~Vに対して低い値を示す(Saito et al., 2010)。ガンマ線密度や帯磁率は付加体前縁部浅部と物性値の範囲が重複した。 海底下1.4-1.7mの礫は砂岩であるのに対し,1.7m以深では緑色粘土を基質に持つ泥岩礫であった。泥質礫はITRAXにおけるCaやFeの増加としても反映されていた。コアでは1.7 mを境に礫の岩相が違うことがわかったが,この地すべり堆積物自体はさらに深部にも続く。そのため,本地点では複数回または大規模な地すべりによって地形が形成したと考えられる。今後,本研究の礫と付加体前縁部の堆積物の複数対比によって礫の後背地が明らかにできると期待する。

    【謝辞】 X線C Tの解析は阿久津紗梨氏(高知大学)の協力を得て行われた。

    【引用文献】

    Cloos, M. (1992), Geology, doi:10.1130/0091-7613(1992)020<0601:TTSZEA>2.3.CO;2

    Cloos, M. and Shreve, R.L. (1996), Geology, doi:10.1130/0091-7613(1996)024<0107:SZTATS>2.3.CO;2

    Saito et al.(2010), IODP Expedition 322 C0012, doi:10.2204/iodp.proc.322.104.2010

    Scholz and Small, (1997) ,Geology, doi: 10.1130/0091-7613(1997)025<0487:TEOSSO>2.3.CO;2

    Sun et al. (2020), Nat. Geosci., doi: 10.1038/s41561-020-0542-0 Y

    amaguchi et al., 2020;IODP Expedition 358 C0024, doi: 10.14379/iodp.proc.358.104.2020

    Wang and Bilek (2014), Geology, doi: 10.1130/G31856.1

  • 松崎 賢史, 上栗 伸一, 佐川 拓也
    セッションID: G7-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    浮遊性有孔虫・石灰質ナンノ化石の生層序学研究が行われてきた。現在の西赤道太平洋は高海水温によって大気循環を駆動し全球気候に強い影響力を持つため,新第三紀の高海水温による大気循環の進化を明らかにする目的で、2016年12月に国際深海科学掘削計画(IODP)第363次航海が実施された。結果としては当初の予想通り,IODP Site U1490では海洋底から250mの深さにかけて主な地層は石灰質軟泥であった。しかし、250m以深は放散虫が多い石灰質軟泥が主な地層であることが船上の堆積物の観察から明らかになった。古地磁気層序・石灰質ナンノ化石・浮遊性有孔虫の生層序によるとそのコア深度はちょうど中期中新世・前期中新世の境界と一致する。前期〜中期中新世の放散虫生層序はインド洋・東赤道太平洋での先行研究により確立されている。放散虫が多い石灰質軟泥が堆積する区間のコアキャッチャー試料を処理したところ,保存の良い放散虫化石が産出することが分かった。放散虫生層序の予備調査を行った結果,いくつかの放散虫生層準を認めることができたので,石灰質微化石の年代指標と合わせて前期中新世の年代モデルを作成することができた。特に、前期中新世の前期に対して、石灰質微化石および古地磁気層序が設定されていないため、そこを放散虫化石のみで堆積年代を推定することができた。例えば、Arthophormis gracilis Riedelの絶滅がおよそ347 m CSFに確認できたことからサイトボトムは22.7 Ma の年代であることが明らかになった。さらに、Calocycletta costata(Riedel)、Stichocorys wolffii Haeckel、Dorcadospyris alata (Riedel)などの初産出・絶滅も記録することができた。

  • 濱田 洋平, 真田 佳典, 廣瀬 丈洋
    セッションID: G7-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    褶曲は過去の応力方向の変遷の情報を保存する重要な構造である。しかし、褶曲軸、軸面、インターリム角などの褶曲パラメータは大規模な地質露頭においても直接測定できることは限られており、まして~数十センチメートルの掘削試料や孔壁画像から詳細な褶曲姿勢を見出すことは困難である。本研究では、孔壁画像を用いた地層姿勢の解釈をもとに、深さ方向に連続的に褶曲パラメータを算出する手法を開発した。褶曲が同心褶曲とみなせる場合、中位面・変曲点での地層の姿勢(変曲面)を延長することで、疑似的な褶曲軸を描くことができる。また、褶曲軸面は変曲面ベクトルの交点と褶曲軸から、インターリム角は変曲面のなす角からそれぞれ算出することができる。模擬褶曲モデルを作成し、この手法の正確性を検討したところ、孔壁画像から正確な変曲面を認定することができない場合でも、前後の地層の走向・傾斜を用いることで、ある程度正確な褶曲パラメータが推定可能であることが示された。また、本手法は同心円褶曲を想定しているが、相似褶曲などの対称褶曲に適用可能であり、正確に褶曲軸と軸面を推定することができることを示した。 また、開発した手法を南海トラフ掘削計画で得られた孔壁画像データに適用するとともに、孔壁画像の記載・構造解析をおこなうことで、インナーウェッジの内部構造を復元し、南海トラフ付加体の応力方向の変遷を推定した。南海トラフ掘削計画第314、338、348次航海では、熊野海盆に位置するC0002サイトにおいて前弧海盆堆積物を貫き付加体に達する掘削孔が掘られ、海底下約3000 mまでの連続的な検層データが得られている。このうち、孔壁画像データや電気比抵抗・ガンマ線検層データなどから、地層面や亀裂面の認定と走向・傾斜測定をおこなった。付加体内の地層面は2000個所程度見いだされ、60-90°の高角でNNW及びSSE両方向へ傾斜することが分かった。一方、300ほどの亀裂面は明瞭な方向を持っていなかったが、海底下2600–2700 m付近で亀裂の集中帯が認められた。これらの記載は、それぞれの航海レポートや先行研究(Boston et al. 2016)とおおむね同じ結果であったが、新たに比抵抗画像上に眼状紋(eye)を見出した。eyeの上下では地層の傾斜方向が大きく変化することから、これは褶曲軸部の閉じた地層であると考えられる。このとき、褶曲軸の走向はこのeye spotに直行する方位で与えられ、ENE–WSW となることが確認された。  また、本研究で開発した手法を用いて褶曲パラメータの深度分布を推定した。この結果、褶曲は主として翼間150°– 170°程度の開いた褶曲で、軸の走向はENE–WSW方向となり、eyeから求めた方向と調和的であった。しかし、そのプランジは0-70°と大きく変化しており、単一の褶曲とはとらえられない。ただ、この褶曲軸はステレオプロット上でガードル分布を示すことから、この褶曲はNNW–SSE方向に軸を持つ褶曲によって二次的に変形していることが示唆された。実際、このガードル分布を回帰する面の軸方向に褶曲面を回転させたところ、ほぼ鉛直に極を持つ、単一の褶曲面が得られた。  以上のことから、紀伊半島沖南海トラフインナーウェッジには高角の地層と開いた褶曲の存在が明らかとなった。この褶曲軸は水平でENE–WSW方向を示し、褶曲軸面が低角である。このことから、この褶曲は地層が傾動する前に、現在この低角軸面褶曲がみられるアウターウェッジのトラフ近傍で形成したと考えられる。その後、傾動とともに、または傾動の後に、stage2の褶曲がNNW–SSE方向を軸に発達したと考えられる。この歪みの方向は、掘削孔を用いた応力方向解析や巨大分岐断層近傍での横ずれ断層運動(Tsuji et al., 2014)と調和的であり、本研究によって明らかとなった多重褶曲はアウターウェッジからインナーウェッジへと遷移した際の応力変化を記録していると考えられる。

    引用文献 B. Boston et al., 2016, Geochem. Geophys. Geosyst., 17, 485–500. T. Tsuji et al., 2014, Earth, Planets and Space, 66:120.

  • 廣瀬 丈洋, 濱田 洋平, 北島 弘子, Saffer Demian, Tobin Harold
    セッションID: G7-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    2007年に開始された地球深部探査船 「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削(NanTroSEIZE)は、これまでに紀伊半島沖の東南海地震震源域付近で12航海を行い、16地点で掘削がおこなわれてきた。本計画の科学目標の1つに、南海トラフ地震発生場における応力状態の解明があった。発表ではこれまで明らかになってきた地震発生帯近傍における応力状態、特に超深度ライザー孔C0002での解析の結果をレビューする。

    NanTroSEIZE Stage 1-2では、海底下深度~1kmまでの掘削が行われ、海側から陸側に至る側線沿いの7孔で応力状態が調べられた。その結果、深度1km以浅では最大主応力(σ1)が鉛直方向であり、水平面内での最大応力(SHmax)の方向がプレート運動方向と平行であることが明らかとなった(Lin et al., 2016)。ただし、熊野堆積盆の海側端の地点ではSHmaxの方向がトラフ軸に平行になっていることが報告されている。より深部の応力状態を解明するために、Stage 3では深度~5kmにプレート境界断層が想定されているSite C0002でライザー掘削が行われた。

    C0002孔では、深度872mと1936mでリークオフテスト(LOT)、2910m付近でstepped-rate injection test (SRIT)を行い、最小主応力(σ3)を測定している(Strasser et al., 2014; Tobin et al., 2015, 2022)。これら3つの深度のσ3から推定される最小主応力勾配は~16MPa/kmであり、深度3km以浅でのσ3は掘削試料や物理検層の密度測定値から計算される上載岩圧(Sv)より優位に小さい。よって、深度3km以浅の付加体内部における応力状態は、逆断層場ではなく、横ずれ断層場もしくは正断層場であることがわかっている。さらに応力状態に制約を与えるため、掘削コア・データから岩石の強度特性を調べて応力状態を推定する研究が行なわれてきた(Kitajima et al., 2017; Tobin et al., 2022)。

    海底下の岩石強度は一般的に掘削コア試料を用いた室内実験室で測定される。Kitajima et al. (2017)は、速度検層データから現在の間隙率の深度変化を計算し、その間隙率を説明しうる応力状態を、コアを用いた室内実験で確立した圧密特性を活用して推定した。その結果、深度1.4~3kmでは横ずれ断層応力場になっていることを明らかにした。一方Tobin et al. (2022)は、深度3km付近で発生した孔崩落(Pack-off events)の際に、掘削泥圧がスパイク状に61~63MPaまで上昇したにもかかわらず、10時間以上漏泥が起こらなかったことから、この掘削泥圧がSHmaxの上限を与えると仮定して応力状態を推定した。そして深度3km付近では、Svの方がSHmaxより数MPa程度大きくなっていることを示し、応力状態が正断層場から横ずれ断層場への遷移状態であることを報告した。同様の応力状態は、本孔の深度1~2kmにおいても報告されている(Chang & Song, 2016; Huffman et al., 2016)。 彼らは、孔壁に観察されたブレークアウトの解析から、応力状態が正断層~横ずれ断層場であり、またSHmaxの方向がトラフ軸に平行であることを報告している。深度2~3kmにおいてもブレークアウトが観察され、少なくとも深度3kmまではSHmaxがトラフ軸に平行なNE-SW方向であることがわかった(Kitajima et al., 2020)。

    Site C0002における深度3kmまでの正断層~横ずれ断層応場で、かつSHmaxがトラフ軸に平行な応力状態では、深度~5kmにあるプレート境界断層で南海地震を引き起こすような低角逆断層運動は起こりようがない。可能性としては、プレート境界断層に近づくにつれて、もしくは南海地震が迫るにつれて現在の応力状態が逆断層場に変化すると考えられる。この仮説の検証のためには、超深度掘削によるプレート境界断層近傍での応力状態、そして応力状態の時間変化を探る必要がある。

    Lin et al. (2016) Tectonophysics, 692

    Strasser et al. (2014) Proceedings of IODP Exp. 338

    Tobin et al. (2015) Proceedings of IODP Exp. 348

    Tobin et al. (2022) Geology (in press)

    Kitajima et al. (2017) GRL, 44

    Chang & Song (2016) G-cubed, 17

    Huffman et al. (2016) EPS, 68

    Kitajima et al. (2020) Proceedings of IODP Exp. 358

G8. (ポスター)ジェネラル-サブセッション8 応用地質・地質災害・技術
  • 林 宏樹, 林 茉莉花, 田中 宗一郎
    セッションID: G8-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     上載地層法による断層の活動性評価が適用できない場合の断層活動性評価手法として,近年,断層破砕物質の化学組成を用いた手法が提案されている(Niwa et al., 2019; 立石ほか, 2021).また,成因評価の難しい断層の例として新第三紀など地質時代に発生した海底地すべり(古海底地すべり)があるが,このすべり面の破砕物質を対象とした地球化学的研究はほとんど行われていない.本研究では先行研究で古海底地すべりと活断層が報告されている秋田県横手市の露頭を対象に,断層の成因評価の観点から古海底地すべり面と活断層の違いに関する知見を蓄積するため,XRFを用いてそれらの断層破砕物質の化学的な性状の違いを確認した.なお,本研究は原子力規制庁と新潟大学との共同研究「断層の成因評価に関する基礎的研究」の一部として実施したものである.

    調査地域

     秋田県横手市には層状珪質泥岩と凝灰岩の互層からなる上部中新統~鮮新統の山内層及び相野々層が分布し,それぞれ秋田-山形堆積盆の女川層及び船川層に対比される.東方の真昼山地から盆地内に向けて緩い褶曲構造,過褶曲や異常堆積構造,泥岩岩塊を取り込んだ凝灰岩が見られることから,これらの構造は凝灰岩形成時に西向きにすべった長さ5~10km程度の海底地すべりに起因するものと考えられている(阿部ほか, 1994, 2005).

     本研究の対象露頭は古海底地すべりに起因すると見られる変形構造や破砕帯を伴う横手市南部の3露頭と,横手盆地東縁断層帯のうち金沢断層の副断層として細矢ほか (2018)で報告された横手市北部の活断層露頭である.横手市南部の露頭はいずれも珪質泥岩と凝灰岩の互層,横手市北部の露頭は凝灰岩と段丘堆積物からなる.凝灰岩は珪質で一般に白色~黄灰色を呈し,一部の層は暗色又は赤褐色に変質している.本研究において,横手市南部の露頭中の凝灰岩から9.4±0.4Ma~10.0±0.6MaのジルコンFT年代が得られた.

    結果と考察

     XRF全岩化学組成分析には新潟大学理学部のRigaku製RIX3000を用いた.本地域の凝灰岩には鏡下で多量の変質鉱物が確認され,全岩化学組成もNa2O及びK2Oが共に1.5wt%未満と低い値を示すことから,主としてNaやKの溶脱を伴う変質作用が示唆される.古海底地すべり面と活断層のガウジではほとんどの元素について系統的な違いは認められなかったが,活断層のガウジ試料でMgO又はFe2O3*が突出して高くK2Oが比較的低い傾向を示すことから,K2O-(Fe2O3*+MgO)の図にプロットすると活断層のガウジはFe2O3*+MgO>8atm%かつK2O<0.15atm%の高苦鉄質・ごく低K領域に,古海底地すべり面のガウジは原岩が珪質泥岩か凝灰岩かを問わずFe2O3*+MgO<7atm%かつK2O<0.7atm%の低苦鉄質・低K領域に集中する結果となった.この原因としては古海底地すべり面と活断層で深部への連続性が異なる点が考えられ,特に今回調査した活断層露頭から東方に数km離れた地点には玄武岩質溶岩・火砕岩が露出していること,本断層がNS~NE-SW走向の中角東傾斜であることから,本断層又は本断層の主断層である金沢断層が地下深部で玄武岩質岩に接している可能性がある.一方,横手市南部の露頭付近に苦鉄質岩は見られないことから,MgやFeの供給源と供給経路(水みち)のいずれか又は両方が両者の化学的差異の原因となった可能性がある.

    参考文献

    Niwa et al., Eng. Geol., 260, 105235, 2019; 立石ほか, 応用地質, 62, 2, 104-112, 2021; 阿部ほか, 応用地質, 35, 5, 15-26, 1994; 阿部ほか, 地すべり学会誌, 41, 5, 447-457, 2005; 細矢ほか, 地質学会要旨, R22-O-18, 2018.

  • 林崎 涼, 谷口 友規, 平野 公平, 飯田 高弘, 相山 光太郎, 中田 英二
    セッションID: G8-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     光ルミネッセンス(OSL)年代測定法を用いて断層活動性評価を試みた.

     断層ガウジでOSL年代測定を実施した例として,鴈澤ほか(2013)は跡津川断層(最新活動:1858年飛越地震)から0.2±0.2 kaの年代値を報告している.また,Tsakalos et al.(2020)は,野島断層(最新活動:1995年兵庫県南部地震)から18.5±1.3~62.8±4.3 ka の年代値を報告している.今回,阿寺断層(最新活動:1586年天正地震)の田瀬露頭(遠田ほか,1994)での年代測定例を報告する.

    2.測定試料・分析方法

     田瀬露頭では厚さ13 cmの断層ガウジが認められる.最新面の走向傾斜はN34°W48°NE,条線方向は20°NWである.断層ガウジは,主として上盤が苗木・上松花崗岩(約60 Ma;山田ほか,1992)のカタクレーサイト(A),下盤が年代不明の砂礫層(E)と接する.断層ガウジは,上盤側から幅8 cmの灰色粘土(B),1cmのチョコレート色粘土(C),4 cmの灰色粘土(D)が帯状に分布する(図1).

     試料採取のために灰色粘土(B)と(D)は2cm幅で細分した.砂礫層(E)は,断層ガウジと接する2cm幅を取り出した.年代測定には90-150 µmの石英を用いた.測定では1試料につき別途12個の測定試料を作成した.年代値は12個の平均値とした.

    3.結果

     図1の右上の表は,年代値の結果を示している.断層ガウジと砂礫層(E)の年代値は数万年前で,苗木・上松花崗岩より若い年代値が得られた.

    4.考察

     断層ガウジの年代値は,15 kaと30 kaで繰り返している.年代値の繰り返しは,異なる断層活動の時期により主たるせん断面が異なったことを記録している可能性が考えられる.一方,同一時期にせん断した断層ガウジ内でも主たるせん断面では年代値が減少し,その周りは年代値の減少量が少ないせん断影響帯が形成された可能性もある.OSL年代測定は最新活動の年代値は示さないものの,せん断運動の影響を記録し,断層の活動性評価に役立つ可能性が考えられた.

    謝辞

     本研究は,電力委託研究「破砕部性状等による断層の活動性評価手法の高度化に関する研究」及び「上載地層を必要としない断層活動性評価手法の開発に関する研究」の成果の一部である.ここに記して感謝の意を表する.

    【引用文献】

    Tsakalos et al., 2020, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, vol.125, p.1-18.

    鴈澤好博ほか,2013,地質学雑誌, vol.119,p.714-726.

    遠田晋次ほか,1994,地震 第2輯,vol.47,p.73-77.

    山田直利・柴田 賢・佃 栄吉・内海 茂・松本哲一・高木秀雄・赤羽久忠,1992,地質調査所月報,vol.43,p.759-779.

  • 大野 顕大, 和田 伸也, 大塚 良治, 岩森 暁如, 朝日 信孝, 山根 博, 林崎 涼, 中田 英二, 松四 雄騎
    セッションID: G8-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに:活断層において宇宙線生成核種(10Be)を用いた断層活動性の検討を行った.宇宙線生成核種(10Be)を用いた研究は地盤の削剥速度決定や,段丘の形成年代決定に用いられている例が紹介されている(松四ほか, 2007). 10Beは宇宙線の照射により地表付近の石英中に生成する.断層等の不連続面で両側の地盤が上下変位する場合,相対的に大きな速度で削剥される隆起側の地盤で宇宙線生成核種濃度が小さくなると予想される.他方,両側の地盤で上下変位が無い場合,同じ侵食履歴を有し,両盤で宇宙線生成核種濃度に差異は生じないと予想される.こうした断層両盤での宇宙線生成核種濃度の相対比較に基づき,断層の上下変位の有無や変位速度の大小を類推することが可能だと期待される.本研究では,福井県敦賀半島に分布する江若花崗岩(後期白亜紀)中で北北東-南南西方向に延びる白木-丹生断層(最新活動時期:約9,000年前以降,約7,700年前以前,平均変位速度:約0.1–0.2 m/ky)を対象とし,活断層近傍の地表における宇宙線生成核種10Beの濃度分布の特徴を紹介する.

    測定試料・分析方法:試料は白木-丹生断層(SN地点)の上盤,下盤両側の地表で採取した(図-1,2).白木-丹生断層は粗粒黒雲母花崗岩中に約60°の東傾斜で右横ずれを伴う逆断層として認められ,幅約2~3 mのカタクレーサイトと,幅約1㎝のチョコレート色,および灰白色の粘土状破砕部を伴う. 試料からの石英抽出は松四(2017)に示される手法を用いた.試料の10Be/9Be同位体比は,東京大学総合研究博物館タンデム加速器研究施設(MALT)の加速器質量分析(AMS: Accelerator Mass Spectrometry)システムで測定した.同位体比は,米国カリフォルニア大学が配布販売する標準物質(KNSTD07, KNB5-1)で計測値を規格化することで算出した.核種濃度は,得られた同位体比にキャリア量を乗じ,バックグラウンドを差し引いたのち,石英重量で除して算出した.分析の誤差は,AMSシステムの揺らぎ,および検出器での10Be計数誤差,キャリアの添加量の不確かさを考慮し一標準偏差(1σ)とした.

    結果: 断層上盤は断層下盤に比べて核種濃度が低い(図-2).上盤は断層活動により相対的に下盤よりも隆起し,速い侵食が生じた影響を受けていると考えられる.なお,SN地点における核種濃度は,断層上盤,断層下盤ともに絶対値としては小さい.これは,SN地点における侵食速度が大きいことが要因と考えられ,現状のSN地点がほぼ裸地状態であることと整合する.  活断層である白木丹生断層では,断層面を挟んで上盤と下盤で核種濃度に有意な差が認められた.従って,宇宙線生成核種を用いて活断層と非活断層を区別できる可能性があると考えられる.今後は,非活断層に対しても本手法を用いた検討を行い,活断層との特徴の違い等について比較・検証をする予定である.

    【引用文献】

    松四ほか(2007)宇宙線生成核種10Beおよび26Alのプロセス地形学的応用:地形,28,87-107.

    松四雄騎(2017)宇宙線生成核種を用いた岩盤の風化と土層の生成に関する速度論-手法の原理,適用法,研究の現状と課題-:地学雑誌,126(4),487-511.

  • 川又 基人, 日外 勝仁, 坂本 尚弘, 倉橋 稔幸
    セッションID: G8-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    北海道の沿岸には急崖斜面が多く分布し,岩盤崩壊や落石が多発している.急崖斜面沿いに国道その他保全対象物が存在する場所では,不安定な岩盤斜面や岩塊の所在の把握が必要である.そのため落石や岩盤崩壊といった斜面変状の把握や崩壊プロセスの推定に向けた,急崖斜面の効率的な斜面点検調査手法の構築が求められている.我々は,近年急速に普及している小型無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:以下UAV)により,同一地点から異なる時期に撮影した2枚の画像を重ね合わせた上でその色調差分から斜面変状箇所を抽出する「背景差分法」と,写真測量技術(Structure from Motion with Multi-View Stereo Photogrammetry)により作成した3次元地形モデルの差分から斜面変状箇所を抽出する「地形モデル活用法」の2つの写真計測技術について検討を進めてきた1)2).背景差分法での落石箇所抽出には,比較する前後の2画像を重ね合わせが重要であるため,比較する写真は撮影位置と撮影方向を揃えた同じ図郭である必要がある.一方,地形モデル活用法は,2時期で得られた3次元モデル間の差分解析のため,背景差分法で不可欠であった色調の処理や同じ図郭での撮影を必ずしも必要としない利点がある.そこで本発表では上記2種類の斜面点検手法ついて比較を行い,それぞれの利点・注意点を整理した。その結果,急崖斜面への背景差分法への適用の際には,斜面表面に特徴点を配置した立面オルソを作成することにより,2時期のUAVの位置情報や撮影画角の違いの影響が軽減され,差分抽出において効果的であることが明らかになった。また地形モデル活用法については,背景差分法では検出するのが困難なガリー域の侵食や、斜面脚部への土砂移動の傾向といった微細な地表面変動の検出において有効であった。一方で,オーバーハング等複雑な斜面形状に伴う不可視領域については点群モデルの構築がうまく行われず,落石変状箇所が正しく抽出されない事例が確認された.これらの結果は,落石や土砂移動箇所の抽出において2手法間には得手不得手があることを示し,捉えたい現象や規模により適切なUAVの運用方法・写真計測技術手法を選択する必要があることを意味する.

    参考文献

    1)寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム:写真計測技術を活用した斜面点検マニュアル(案). https://chishitsu.ceri.go.jp/soft.html.

    2)寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ防災地質チーム:空中写真から作成した地形モデルを活用した斜面調査マニュアル(案). https://chishitsu.ceri.go.jp/soft.html.

G9(ポスター). ジェネラル-サブセッション9 古生物・古環境
  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞
    石㟢 美乃, 椎野 勇太
    セッションID: G9-P-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ペルム紀末の大量絶滅直後の回復期である前期三畳紀の生物とその適応放散様式は,中生代以降の多様化や,現在の生態系を主に構成する現代型動物群を理解するうえで重要である.前期三畳紀の生物相の回復は,海の貧酸素環境と密に関連するため,各海域,各堆積場で,どのような酸化還元状況であったかを明らかにする必要がある.南部北上山地に分布する下部三畳系大沢層は,岩相と産出する化石に基づいて堆積場が貧酸素環境であったことが知られており,前期三畳紀の生物の適応環境を考えるのに適している.しかしその堆積環境は,外側陸棚から深い海底扇状地まで多様な解釈がなされ,いまだ共通見解に至っていない(例えばKawakami and Kawamura 2002).そこで本研究は,前期三畳紀に認められる生物の適応放散様式を理解することを目指して,宮城県本吉郡南三陸町歌津舘崎地域に分布する大沢層の詳細な岩相・堆積相・生痕相解析,貧酸素の指標となるフランボイダルパイライト解析を行った.得られた結果を基に,堆積環境を再解釈するとともに,大沢層堆積時の海底および水柱の酸化還元状況を復元した.

     岩相解析の結果,先行研究で「laminated mudstone」とされた本地域の大沢層の泥質岩相は,薄いイベント性の砂岩が泥岩中に頻繁に挟在した極薄の砂泥互層であることがわかった.さらに,泥質岩相に挟在する比較的厚い砂岩層は,タービダイト砂岩に加え,トラクション流の影響を受けて堆積したイベント性の砂岩であることが明らかになった.このトラクション流でできた砂岩層の多くは侵食面を伴い,頻繁に級化―逆級化構造のセットを呈するため,ハイパーピクナル流に由来することが示唆される.また,大沢層上部でみられる泥質岩相中には,植物片やポリフランボイド状のパイライトが多量に含まれる.大沢層の下位層にあたる平磯層が,ファンデルタを後背地とするセッティングで堆積したことを考慮すると(例えば鎌田・川村 1988),砂質岩相および泥質岩相中に含まれる無数の薄いイベント性砂岩層は,後背地からプロデルタ(外側陸棚)に相当する大沢層に豊富な砕屑物供給があったことを示唆する.また,砂質岩相から推定されるデルタフロント堆積物の崩壊によって生じた混濁流や,後背地に存在した河川の洪水によるパイパーピクナル流は,堆積場への豊富な泥や有機物供給を促進したと考えられる.

     生痕相および生物擾乱強度の解析に基づくと,大沢層下部から中上部にかけて生物擾乱強度が劇的に減少することから,大沢層堆積場のある深度において,底質に酸素―貧酸素の急勾配があったことが示唆される.これは,底質の酸化還元状況の指標となるフランボイダルパイライトが豊富に含まれることからも支持される.また,直径6 μm以下のフランボイダルパイライトが豊富に含まれることから,底質だけでなく,水柱でも酸素に乏しい環境が断続的に発生していた可能性も見えてきた.

     以上の検討から,大沢層の堆積場は,河川の洪水で発生したハイパーピクナル流が頻繁に流入するプロデルタ(外側陸棚)であることがわかった.このハイパーピクナル流が陸から多量の有機物を供給し,結果的に底質の貧酸素環境を生み出したと考えられる.大沢層が形成された前期三畳紀は,温暖化が進んでいたことが知られている.一般的に温暖化は陸域の風化侵食作用を促進させることを考慮すると,大沢層で認められたハイパーピクナル流が頻発するイベントは,沿岸域で起こる汎世界的な貧酸素化イベントの一端を垣間見ているのかもしれない.

    引用文献

    Kawakami, G. and Kawamura, M., 2002. J. Sediment. Res., 72, 171–181.

    鎌田耕太郎・川村寿郎, 1988. 月刊地球, 10, 494–498.

  • 福島 佑一, 上松 佐知子, 松井 久美子, 藤原 謙如, 丸岡 照幸
    セッションID: G9-P-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    コノドント化石は生層序の指標として役立てられてきたが,一方で生物学的側面については未だ不明瞭な点が多い.それは体化石が保存されにくいことに加え,形態が異なる複数個のエレメントによって構成される摂餌器官が化石化過程で分離してしまうことに起因している.そのためエレメントが棲息時の配列を保った産状とみなされる自然集合体が,系統分類学や古生態学的検討の材料として重要視されてきた (上松・鎌田, 2018).自然集合体標本の産出はきわめて少ないものの,日本においてはジュラ紀付加体を構成するペルム紀–三畳紀の遠洋深海成粘土岩 (いわゆる黒色有機質粘土岩,砥石型珪質粘土岩) からの産出が報告されており (例えばKoike et al., 2004; Agematsu et al., 2008; Takahashi et al., 2019),コノドントの生物学的研究に貢献している.演者らは熊本県五木地域に分布する砥石型珪質粘土岩から前期三畳紀オレネキアン期後期 (スパシアン亜期) のコノドント自然集合体を見出し,これについて記載学的検討を行ったので報告する.

     五木地域には秩父帯ジュラ紀付加体を構成する石灰岩,チャート,砥石型珪質粘土岩,緑色岩,砕屑岩類が分布している (五木村総合学術調査団, 1987).川辺川に注ぐ五木小川支流の折立セクションでは砥石型珪質粘土岩が露出しており,オレネキアン期後期 (スパシアン亜期) を示すTriassospathodus homeri, Ts. symmetricus, “Neohindeodella benderi”などのコノドント化石が良好な保存状態で産出する.本セクションにおいて,Agematsu et al. (2008) はNeostrachanognathus tahoensis Koike, 1998の自然集合体標本の産出を報告し,摂餌器官について復元を試みている.

     本研究の検討材料である自然集合体標本は,Agematsu et al. (2008) による標本と同層準の砥石型珪質粘土岩から産出した.標本は層理面上でわずかに埋没しているため,SPring-8においてシンクロトロン放射光X線CTを撮影し,得られた断面画像からコノドントエレメントを抽出したのち,3Dモデルを作成してエレメントの形態を観察した.集合体は9個のbipennate ramiformエレメント (単一のS0, 1対ずつのS1, S2, S3, S4),2個のbreviform digyrate ramiformエレメント (1対のMあるいはP3),4個のconiformエレメント (1対ずつのP1, P2) から構成されている.P1エレメントは前方縁が弓状,後方縁がほぼ垂直を呈する主歯と,短い小歯を前側方に持つconiformを呈することから,Neostrachanognathus属に分類される.

     Agematsu et al. (2008) による復元では,N. tahoensisはS0,M相当のエレメントを欠き,1対のP3エレメントを有する14個のエレメントから構成される器官とされている.このような構成は,三畳紀に優勢なgondolellid器官 (15個のエレメントからなる器官) とは異なっており,さらにPエレメントがconiformを呈することから,Neostrachanognathus属の系統関係は不明とされてきた (Chen et al., 2016).しかしながら本研究により,このコノドントがS0エレメントを有していることが明らかとなり,Neostrachanognathus属の摂餌器官がgondolellid器官に対比される可能性が高くなった.

    【参考文献】

    Agematsu et al. (2008) Palaeontology, 51, 1201–1211.; 上松・鎌田 (2018) 地質学雑誌, 124, 951–965.; Chen et al. (2016) Papers in Palaeontology, 2, 235–263.; 五木村総合学術調査団 (1987) 五木村学術調査 自然編, Ⅱ 地質, 121–245.; Koike (1998) Paleontological Reserch, 2, 120–129.; Koike et al. (2004) Paleontological Reserch, 8, 241–253.; Takahashi et al. (2019) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 524, 212–229.

  • 山本 知真理, 入月 俊明, 瀬戸 浩二
    セッションID: G9-P-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    広島県庄原市とその周辺に分布する中新統は,備北層群(今村ほか,1953)と呼ばれ,中国地方の瀬戸内区の代表的な層序学的単位である.備北層群は,白亜系吉舎安山岩類,高田流紋岩類,および花崗岩類のような基盤岩を不整合に覆い,下位より非海成の礫岩・砂岩・泥岩からなる塩町層,浅海成の主に砂岩からなる是松層,および深海成の泥岩からなる板橋層より構成されている(上田,1989).層厚は150 m前後で,火砕岩に乏しく,著しい褶曲構造などは認められない.軟体動物化石や底生有孔虫化石をはじめとして,多くの化石を産出するため,中新世における瀬戸内区の古地理を考察する上で,古くから地質学的・古生物学的に注目され,多くの研究が行われてきた(上田,1986, 1989など).しかしながら,微化石の一種で甲殻類の貝形虫化石を対象とした研究は,予察的なものしか存在しないため,種構成が明らかになっていなかった.

     そこで,本研究の目的は,広島県庄原市西城川河床に露出する備北層群是松層と板橋層の貝形虫化石群集を明らかにすること,さらに,この結果とCNS元素分析による全有機炭素 (TOC),全窒素(TN),全硫黄(TS)含有率の測定結果と合わせて,古環境を復元することである.

     貝形虫化石の処理には採取された34試料を用い,硫酸ナトリウム法とナフサ法を併用して岩石を細粒化し,その後,全ての貝形虫化石を抽出した.CNS元素分析には主に泥質岩よりなる26試料を使用し,島根大学エスチュアリー研究センターのFISON製CHNS元素分析計を使用した.

     地質調査の結果,調査地域における岩相は,下位から礫岩,砂岩,泥岩を主体とし,大型有孔虫のOperculina密集層を挟む是松層,その上位に位置する黒色ないし暗灰色の塊状泥岩からなる板橋層よりなり,山本(1999)により定義されたユニット1〜4が認められた.

     貝形虫化石分析の結果,17試料から貝形虫化石が産出した.是松層最下部のユニット1の泥岩から内湾奥泥底種のSpinileberis sp.などが産出した.砂岩と砂質泥岩の互層からなる是松層のユニット2では,ほとんど貝形虫化石が産出しなかった.是松層最上部のユニット3の泥岩では多様性の高い群集が認められた.この群集は藻場周辺を示唆するPseudoaurila ishizakii, 内湾種のTrachyleberis leei, T. mizunamiensis, T. praeniitsumai,および温暖な浅海生種のAcanthocythereis aff. munechikaiなどが主な構成種であった.これらの種は門ノ沢動物群が産出する1600万年前前後の浅海成層から普通に産出する(Ozawa, 2016など).板橋層に相当するユニット4では,下位の群集と全く異なり,Cytherella sp., Krithe sp., Bradleya sendaiensis, および Hirsutocythere nozokiensisのような深海生種が認められた.この群集はOzawa (2016)により富山県の下–中部中新統黒瀬谷層から報告された群集Aと類似し,当時の日本海の深海を代表する群集であると推定される.

     CNS元素分析の結果,是松層の試料のTOC/TN比は15前後と高く,陸上高等植物由来の有機物を多く含んでいることが示された.一方,板橋層の試料のそれは10前後と相対的に低く,海洋プランクトン由来の有機物が混在していることが示唆された.TOC/TS比は,板橋層の最上部層準以外は全体的に低く,堆積時に比較的還元的な内湾環境であった可能性がある.

     以上の結果から,本地域の是松層堆積期では,徐々に海進が進み,閉鎖的内湾奧の環境から温暖な浅海環境へと変化したが,陸域からの河川の影響を受けやすいやや閉鎖的な環境であったことが推定された.また,板橋層堆積時には急激な深海化が起き,さらに外洋からの暖流の影響を受ける環境へと変化した.

    【引用文献】 今村ほか(1953)巡検案内書, 50p., 広島大地鉱教室.Ozawa (2016) Paleont. Res., 20, 121–144. 上田(1986)地球科学,40, 437–448. 上田(1989)地質雑,95, 919-931. 山本(1999)地球科学,53, 202–216.

  • 朝日 啓泰, 沢田 健
    セッションID: G9-P-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    1.はじめに

     北海道の中新世には,島弧–島弧衝突により南北約 400 km,幅数 10 kmにわたる地域に狭長なフォアランド堆積盆が形成された。日高地域にはフォアランド堆積盆南部に位置する日高堆積盆を充填した泥質-砂質堆積岩が幅広く分布している(Kawakami.2013)。日高堆積盆が充填された中期-後期中新世には、8-7MaのEASMの弱化や東南極氷床の拡大により、複数回の寒冷化が東アジアから北西太平洋で発生したことが東シナ海や日本海、北太平洋外洋域での海洋掘削コアを用いた研究により明らかになりつつある(Matsuzaki et al.,2020)。一方、日本列島の太平洋沿岸域や北部域での古海洋情報は不足しており、日高堆積盆堆積岩から得られる古環境データは不足した領域の古海洋情報を補完できると考えている。本研究では中期-後期中新世までの堆積岩が連続的に露出する波恵川荷菜層の泥質堆積岩から長鎖アルケノンを検出例し、アルケノン古水温指標から復元した当時の海洋表層水温とその定量分析による海洋基礎生産の変動について報告する。

    2.試料と手法

     本試料が採取された波恵川は北海道日高町に位置する。波恵川には後期中新統荷菜層が露出しており、上流域では不整合により二風谷層上部が分布している。岩相は主に泥岩から砂質泥岩で構成されており、時折平行葉理を持つタービダイト層を挟む。また上位層準へ行くに従い粗粒化する傾向が見られ、最上部ではチャネル充填堆積物とされる礫層が卓越する。珪藻群集組成解析による波恵川荷菜層堆積年代では9.7-3.5Maと見積もられており(丸山ほか 2019)、後期中新世から鮮新世初頭にかけての堆積岩が連続して露出すると考えられる。 バイオマーカー分析は荷菜層泥岩から遊離態成分を抽出した後、GC-MS、GC-FIDによって測定・解析を行った。アルケノン古水温復元ではMüller et al.(1998)の換算式SST = (UK’37 -0.044) / 0.033から古水温を算出した。

    3.結果と考察

     波恵川荷菜層からはタービダイト性砂岩以外の全ての泥質堆積岩からハプト藻由来の有機成分であるアルケノンが得られた。アルケノンから見積もった海洋表面温度(SSTUK)は9.3-8.7Maから中新世末まで一貫した低下を示し、中新世末期からは細かい増減変動を見せる。SSTUKは9.3Maから8.0Maでは平均26.0℃、7.7Maから6.5Maでは22.3℃、6.5Ma以降では18.9℃と推算された。これらの結果から日高堆積盆では比較的高温だったSSTが8.7Ma以降急な水温低下が発生しており、これまで報告されてきた7.7Maから6.6MaにかけてEASMの弱化による日本海域でのSST低下と連動すると考えられる。また、6.5Ma以降の寒冷化は太平洋域(ODP site 1208)から報告された黒潮流弱化による寒冷化の影響が示唆されている(Matsuzaki et al.,2020)。日高堆積盆は日本海と太平洋双方の影響を受けてきた海域と考えられるが、その影響の度合は時代により異なることが本研究の結果から示唆され、中新世/鮮新世境界において、日本海側の影響を強く受けるフェーズから太平洋側の影響を強く受けるフェーズへ移行したことが推察される。 C37 アルケノンの濃度結果では、寒冷化を示す層準にて相対的に高い値を示す傾向が見られた。特に6.5Ma以降の層準では堆積物1gあたり最大0.45μgを示す。これらは海洋表層の冷却による海洋循環の強化による基礎生産量の増大を示唆すると考えられる。

    4.参考文献

    ・Kawakami. (2013) InTech 131-155.

    ・丸山ほか (2019) 山形大学紀要(自然科学) 19 15-24.

    ・Matsuzaki et al. (2020) Geology 48 (9) 919-923.

    ・Muller et al.(1998) Geochim. Cosmochim. Acta 62(10) 1757-1772.

  • 宮田 真也, 尾﨑 薫, 福嶋 徹, 樽 創
    セッションID: G9-P-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東京都西部を流れる多摩川水系には鮮新-更新統上総層群が分布している.上総層群は,多摩丘陵西部では下位から寺田層,大矢部層,平山層,小山田層,連光寺層,稲城層,出店層で構成される(植木ほか,2013).加住丘陵では加住層と小宮層からなり寺田層‐平山層と同時異層の関係にある(植木ほか,2013).これらの地層からは軟体動物化石や植物化石などが豊富に産出することが知られており(松川(編),2016;福嶋,2019など),近年ではアキシマクジラEschrichtius akishimaensisなどの海生哺乳類化石や板鰓類化石が報告されている(Kimura et al., 2018;髙桒ほか2021など).

     硬骨魚類化石についてはSakamoto et al. (1998) が日野市の平山層からヒラメParalichthys olivaceusの下顎骨を報告した.近年では,福嶋(2019)が立川市の小山田層から棘鰭類を,尾﨑ほか(2021)が日野市の連光寺層からニシン目魚類とボラ属魚類を報告している. 演者らは日野市の連光寺層と八王子市の大矢部層で調査を行い,新たに多数の硬骨魚類化石を採取した.本講演では,先行研究および演者らが採取した標本を含め,東京都西部の上総層群から産出した硬骨魚類化石の概要を報告する.

     調査の結果,大矢部層からニシン目とカレイ目魚類と考えられる化石を採取した.これまでに大矢部層からの魚類化石の産出報告はなく,本研究が初めてである. 連光寺層からは,新たにニシン目カタクチイワシ科魚類と考えられる頭部骨格を含む化石を採取した. 以上をまとめると,東京都西部の多摩川水系に分布する上総層群では大矢部層からニシン目とカレイ目が,平山層からヒラメが,連光寺層からボラ属,ニシン目,およびカタクチイワシ科魚類が産出する.これらの地層の堆積環境は沿岸域-汽水域の範囲内であると推定されている(松川(編),2016など).そのため,上述の硬骨魚類化石が産出することは現生種の生態を考慮しても矛盾はない.また,テフロクロノロジーの知見も蓄積されており,詳細な年代も明らかになりつつある(鈴木ほか,2016など).したがって,東京都西部の上総層群から産出する硬骨魚類化石は,更新世の関東沿岸域の海水魚類を理解するうえで重要である.ただし,現在のところ種まで同定されている標本は,平山層から産出したヒラメのみで,多くの標本は種まで同定されていない.そのため,現生種との比較や追加標本の採取も含め,今後も引き続き調査を行う.

    引用文献

     福嶋 徹,2019,小山田層産の棘鰭上目魚類化石.p. 116–118. In福嶋 徹,2019, 多摩川産軟体動物化石を利用した環境教育実験と市民参加型・ 調べ学習による「第四紀学」の古環境復元の研究.2018年公益財団法人東急財団助成事業,1. 研究成果報告書,公益財団法人東急財団, 東京.141p.

     Kimura, T., Hasegawa, Y. and Kohno, N., 2018. A new species of the genus Eschrichtius (Cetacea: Mysticeti) from the Early Pleistocene of Japan. Paleontological Research, 22, 1–19.

     松川 正樹(編),2016,多摩川中流域に分布する上総層群の残された問題の解決、総括的研究と地質野外実習教材の改訂.公益財団法人とうきゅう環境財団,120p.

     尾﨑 薫・福嶋 徹・長岡 徹・宮田真也・樽 創,2021, 東京都日野市上総層群連光寺層から産出した魚類化石群.日本古生物学会 2021 年年会講演予稿集,p.14.

     Sakamoto, K., Uyeno, T., and Kase, T., 1998. A Dentary of the Flatfish Paralichthys olivaceus (Pisces: Pleuronectiformes) from the Pleistocene Hirayama Formation, Tokyo, Japan. Bulletin of the National Science Museum Series C, 24, 93–97.

     鈴木毅彦・白井正明・福嶋徹,2016,関東平野南部における上総層群のテフロクロノロジー. 地質学雑誌,122,343–356.

     髙桒祐司・木村敏之・長谷川善和,2021,上総層群小宮層から産出したサメ類化石~アキシマクジラとの共産標本.群馬県立自然史博物館研究報告,(25),49–58.

     植木岳雪・原 英俊・尾崎正紀,2013,八王子地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産業技術総合研究所地質調査総合センター,137p.

  • 小淵 俊秀, 山田 桂
    セッションID: G9-P-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    〔はじめに〕千葉県の房総半島には新第三紀鮮新世から第四紀更新世にかけて堆積した海成堆積物である上総層群が広く分布する.房総半島中部に位置する養老川流域において上総層群は黒滝層から金剛地層の9層に区分される.この中で,前期・中期更新世境界の模式地がある国本層を中心に同位体比ステージの認定や詳しい古環境変化が解析されつつある.特に,貝形虫化石群集は,国本層に加え,長南層の下位の地層である柿ノ木台層から産出が報告されている(入月ほか,2017).しかし,長南層は貝形虫化石を用いた研究は成されていない事に加え,岩相の側方変化も激しく,その古環境変遷は不明な点が多い.本研究では長南層から産出する貝形虫化石と堆積相に基づいて古環境を復元することを目的とする.また,本研究により,国本層(MIS 20ごろ)~長南層(MIS 16)の古環境変遷を連続的に解明でき,各MISの特徴を明確にすることが期待される.

    〔地質概説〕本研究地域は千葉県市原市南部に位置する.そこには下位より上総層群の柿ノ木台層,長南層,笠森層がそれぞれ調査範囲の南部,中部,北部に帯状に分布している.柿木台層は主に貝化石が散在する弱い層理が発達する砂質泥岩または泥質砂から構成される.長南層は塊状泥岩主体の下部,泥優勢砂岩泥岩互層の中部,砂優勢砂岩泥岩互層の上部に区分される.本層中の砂岩泥岩互層の砂岩の多くは正級化のみを示していたが,部分的に炭質物に富む葉理や逆級化と正級化を示すハイパーピクナル流によると考えられる堆積物が見られる.笠森層は長南層との境界直上は貝化石が散在する砂質シルト岩から構成されるが,大部分は生物擾乱が発達する単層厚5~20 cm程度の砂岩泥岩互層からなる.また,調査地域では柿ノ木台層中にKa1,長南層中にCh3およびCh2(河井,1952)のテフラが連続的に追跡可能である.

    〔貝形虫化石群集〕調査地域を流れる7本の河川から合計85試料を採取し,53試料から39属82種が産出した.全体を通し, Acanthocythereis dunelmensis などの上部漸深海帯種が多産した一方で,調査地域西部の柿ノ木台層の試料を中心にAmphileberis nipponica,Schizocythere kishinouyei などの浅海種を30~70%程度含んでいた.

     各試料の上部漸深海帯種の寒流系種(A. dunelmensisなど)および暖流系種(Falsobuntonia taiwanica など)の割合を検討すると,調査地域西部の柿ノ木台層や東部地域の長南層の一部層準を除き,寒流系種が卓越する結果となった.

    〔考察〕産出した貝形虫化石に基づくと,柿ノ木台層および長南層の堆積環境は上部漸深海帯であり,一部調査地域の西側は浅海域と判断される地域も見られた.すなわち,調査地域の西部に陸地が存在したと考えられる.また,上部漸深海帯のタクサに占める寒流・暖流系種の割合については,柿ノ木台層では暖流系種が優勢な試料が多かったのに対し,上位の長南層は暖流系種と寒流系種の両方が産出し寒流系種が優勢だったことから,上部漸深海帯に広がる水塊が変化したと推察される.

    〔引用文献〕入月俊明・柴谷 築・林 広樹(2017)日本古生物学会2017年年会,北九州,2017年6月. 河井興三(1952)石油技術協会誌,17,1–21.

  • 石浜 佐栄子, 久保田 好美, Ortakand Mahsa
    セッションID: G9-P-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本海は周囲を浅い海峡で囲まれていることから、第四紀後半には汎世界的な海水準変動の影響によって劇的な海洋環境の変化を受けている。現在の日本海は対馬暖流(Tsushima Warm Current, TWC)の流入と、対馬暖流を起源とする日本海独自の底層水(日本海固有水;Japan Sea Proper Water, JSPW)の存在が特徴的であるが、過去の海水準変動は対馬海峡を通る海流の強弱や日本海固有水の形成にも影響を及ぼしてきたと考えられる。有孔虫は古海洋環境の復元に非常に有効であり、これまで日本海における有孔虫殻の同位体組成に関する研究は数多く行われてきたが(Oba et al., Paleoceanography(1991)6, 499-518; Sagawa et al., Progress in Earth and Planetary Science(2018) 5:18など)、10万年以上の長期にわたって浮遊性・底生有孔虫の双方を対象として同位体組成から海洋環境の変遷を議論した例はあまりない。そこで今回、日本海東縁で採取された4本のコア(HR14-RC1408(最上トラフ;WD=834 m)/MD179-3312(上越沖;WD=1,026 m)/MD179-3304(上越沖;WD=896 m)/MD179-3326G(西津軽沖;WD=325 m))を用いて浮遊性・底生有孔虫殻の酸素・炭素同位体組成の変動を明らかにし、表層および底層の海洋環境を水深ごとに対比しながら日本海の海洋環境と成層構造の変遷を三次元的に復元することを目的に研究を行なった。

    有孔虫の同位体組成および群集の特徴は4本のコアで良く対比され、最上トラフのHR14-RC1408コアは海洋同位体ステージ(MIS)1-9に相当すると推定することができた。上越沖のMD179-3312はMIS 1-5e、MD179-3304はMIS 1-5cに相当し(Ishihama et al., Journal of Asian Earth Science(2014)90, 254-265)、西津軽沖のMD179-3326GはMIS 1-2に相当すると推定された。MIS 1, 5e, 9の間氷期のピークに相当する層準では、いずれのコアにおいても津軽暖流の流入を示唆する温暖種のGlobigerinoides ruberNeogloboquadrina incompta (dextral)、Globigerina bulloides(thin-walled form)が産出するとともに、浮遊性有孔虫殻のδ18O値が減少し、底生有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値がやや減少する。これらの3層準は現在と同様の高海水準期であり、対馬海峡を通ってTWCが流入し、TWC起源の表層水が沈み込むことによって酸素に富むJSPWが底層に形成され、酸化的な底層で有機物の分解が活発に行われたことを示唆している。MIS 3, 5a, 5cの亜間氷期には浮遊性有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値はやや軽くなるものの底生有孔虫殻の同位体組成には影響を及ぼしておらず、低塩分の東シナ海沿岸水が対馬海峡を通じて流入するものの底層には日本海固有水が十分に発達しなかったと考えられる。

    MIS 2, 6の氷期極相期においては、全てのコアで浮遊性有孔虫のδ18O値がΔ= -3 ‰ほど減少するが、これは従来の研究と整合的な結果であり、表層水の低塩分化による影響をあらわすと解釈できる。一方、底生有孔虫の同位体組成はコアによって特徴が異なり、現水深325 mのMD179-3326G(西津軽沖)では、底生有孔虫のδ18Oおよびδ13C値が浮遊性有孔虫と同調して軽くなる。現水深830 mのHR14-RC1408(最上トラフ)や現水深896 mのMD179-3304(上越沖)では、ピーク時には底生有孔虫がほぼ存在しなくなるものの、ピークよりやや下位で底生有孔虫のδ18O値およびδ13C値がやや減少する傾向があり、さらに現水深1,026 mのMD179-3312(上越沖)ではMIS 2の期間を通してほとんど底生有孔虫が産出しない。表層水の低塩分化による水塊の成層化の影響は、水深によってそのタイミングが異なり、深層から徐々に影響が広がったこと、浅海ではその影響が及ばなかったことが同位体組成変動から明らかになった。またMIS 6ではMIS 2と異なる挙動がみられ、LGMと同様の低海水準となった氷期極相期でも同じような海洋成層化の変遷を辿らなかったことが示唆された。

    なお本研究で使用した試料は経済産業省メタンハイドレート開発促進事業の一環として、産業技術総合研究所の再委託により実施された調査(MD179, 2010年およびHR14, 2014年)で採取した。関係者の方々には心より御礼申し上げる。

  • 竹内 美優, 岩谷 北斗, 天野 敦子, 有元 純, 鈴木 克明, 板木 拓也, 入月 俊明
    セッションID: G9-P-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    【はじめに】 本研究で調査対象とする紀伊水道は、四国と紀伊半島に囲まれた海域であり、北部では紀淡海峡および鳴門海峡により、それぞれ大阪湾および播磨灘と接続し、南部では太平洋へと繋がる。紀伊水道は、瀬戸内海と太平洋の合流地点に位置し、本邦太平洋側を流れる黒潮の動態を解明するために重要な海域である。また、紀伊水道には、主要河川として四国からは吉野川、本州からは紀の川が、都市圏を通り流入しており、人間活動による海洋環境への影響を明らかにするためにも重要な海域といえる。そこで、本研究は海洋環境の変化に鋭敏に応答する貝形虫(微小甲殻類の一分類群)をモデル生物として用い、紀伊水道の海洋生物相分布とその規制要因を明らかにすることを目的として研究を行った。

     紀伊水道周辺海域の現生貝形虫の研究は、大阪湾においてYasuhara and Irizuki(2001)、紀伊水道南部の和歌山県沿岸においてZhou(1995)により行われている。また、紀伊水道北部の紀淡海峡周辺海域では、完新世コアを用いた貝形虫相の鉛直変化について検討が行われている(Yasuhara et al., 2002)。しかしながら、紀伊水道内における現生貝形虫の詳細な水平分布はこれまで明らかにされておらず、本研究が初めての報告となる。さらに、本研究海域より、これまでトカラ海峡以北では報告のなかった南方系の貝形虫種であるNeomonoceratina delicataの遺骸殻を発見したため、ここに報告する。

    【結果と考察】 試料は産総研により実施されたGKC21航海にて、K-グラブ採泥器により採取された表層堆積物を用いた。結果として、日本の内湾域で普遍的に認められる貝形虫種が多く認められた。また、紀伊水道の貝形虫相は、北部、中央部、南部で大きく3つに分けられることが明らかになった。瀬戸内海側(北部)はBicornucythere bisanensisNipponocythere bicarinataCytheromorpha acupunctataといった湾央部の泥底を主に分布の中心とする種(安原, 2007)が優占的に産出した。太平洋側(南部)は外洋種が多くみられ、Argilloecia spp.Bradleya japonicaの産出が認められた。また、太平洋側からは、Falsobuntonica taiwanicaPacambocythere sp.といった暖流域を主な生息域とする種(Zhou, 1995)が特徴的に産出した。南部は北部に比べ底層水温が高いため、温暖な黒潮に影響を受けた群集が形成されている可能性がある。調査地域中央部は内湾種が比較的多く外洋種は南側ほど産出数が多くないが認められる、内湾種と外洋種の混在群集であることが明らかになった。

     紀淡海峡南部の水深51.04 m地点から、保存の良いN. delicataの複数個体の遺骸殻が産出した。N. delicataは、現在、琉球列島や南シナ海、東南アジアなど暖流の影響を強く受ける亜熱帯から熱帯の内湾域に広く分布する種である。日本においても、中~後期更新世の化石記録では九州以北からは内湾域の優占種として多数の報告がある(例えば、入月・瀬戸,2004)。しかしながら、九州以北の完新世以降の記録は、局所的に生存していることが期待されつつも、大阪湾から発見された再堆積と考えられる保存不良な片殻の一標本(Yasuhara and Irizuki, 2001)を除いては、全く報告がなかった。したがって、最終氷期以降の水温低下によりトカラ列島以北の日本列島周辺海域ではほぼ全ての個体群が消滅した可能性が指摘されていた(Irizuki et al., 2009)。

     本研究により得られたN. delicataは軟体部が残っていない遺骸殻のため、リワークの影響を受けている可能性も考えられる。しかしながら、保存状態の良い背甲が複数個体産出しているため、調査海域が何らかのシェルターとして機能することにより、トカラ列島以北の日本における例外的な生息域として、現在も紀伊水道にはN. delicataが生存しているのかもしれない。

    【引用文献】 Irizuki, et al., 2009, Palaeoecology, 271, 316-328. 入月・瀬戸, 2004, 地質学雑誌, 110, 309-324. 安原, 2007, 人間活動による自然の変化, 161―266. Yasuhara, and Irizuki 2001, Journal of Geosciences, Osaka City Univ., 44, 57-95. Yasuhara et al., 2002, Paleontological Research, 6, 85―99. Zhou, 1995, Memories of the Faculty of Science, Kyoto Univ. 57, 21―98.

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