日本地質学会学術大会講演要旨
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T7.クトニクス
  • 照井 孝之介, 芦 寿一郎
    セッションID: T7-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    南海トラフでは,プレート境界型巨大地震が100 ~ 200 年の周期で発生することが知られる.プレート境界型地震は,強震動や津波による被害と同時に,沿岸域の地形に大きな影響を与える.例えば室戸岬では,1946 年南海地震により 1.2 m 隆起しており,周期的な地震によって平均 2 mm/y の隆起が見積もられた(吉川ほか, 1964, 地理評).一方,室戸岬の潮間帯に生息した付着生物群体を用いた研究では,完新世の隆起の累積におけるプレート境界型地震の寄与は小さく,1000~2000 年ごとの2~4 m の間欠的隆起の影響が支配的であると報告された(前杢, 2001, 地学雑).この間欠的隆起の原因は陸に近い海域の断層の可能性が指摘されており(前杢, 2006, 地学雑),地殻変動から南北走向・西傾斜の断層が室戸半島およびその沖に推定されること (Matsu'ura, 2015, Geomorphology)や,海域の室戸岬から南に伸びる海脚と西南西方向の外縁隆起帯からなる逆L字型隆起帯(粟田・杉山, 1989,地震)の存在と矛盾しない.

    上で述べたように,室戸-足摺沖はプレート境界の巨大地震に加えて,陸側プレート内の活構造の影響を受けている可能性が高い.プレート境界断層については地下構造や深海掘削,海底地震計を用いた研究が多く行われているが,より陸側の外縁隆起帯や前弧海盆の断層・褶曲の研究は非常に限られる.本研究では,室戸-足摺沖の陸側プレート内の断層に着目し,マルチチャネル反射法地震探査(以下MCS)データとサブボトムプロファイラ(以下SBP)記録を用いて,地質構造を明らかにし海底変動の履歴の推定を目的とする.これまで注目されてきたプレート境界地震に対して,同様に甚大な被害が想定される陸に近い断層活動の理解を深め,地震災害軽減に有用な情報の提供を目指す.

    SBP,MCS,海底地形の3種のデータを用いた. SBP記録は,白鳳丸KH-15-2, KH-16-5次航海で取得されたものを用いた.同航海ではSBPを無人探査機NSSに搭載し,海底面上15 m前後で探査することにより,高解像度の浅部地下構造記録が取得されている.MCS データは,Pre-Stack Time Migration されたものを海洋研究開発機構(JAMSTEC)から提供を受け,AspenTech 社製解析ソフト「Paradigm Echo」により解析を行った.海底地形データは JAMSTECの研究航海で取得された,グリッド間隔 0.002°のデータの提供を受けた.

    海底地形には,地形的高まり,海底谷,さらに様々な海底地形を横断する直線的な構造(リニアメント)が認められる.リニアメントは外縁隆起帯に位置し,東北東-西南西方向の走向を持つ.一部のリニアメントは海底谷や地形的高まり上を伸びており,しばしば同方向に伸長した凹地を伴う.足摺海底谷では,東側の谷壁が直線的で西側の谷壁がクランクを示す地点があり,リニアメントを挟んで右横ずれで流路が変遷してきたことが示唆される.また,海底谷がリニアメントを横断する地点では,海底谷に落差が認められ,下流側にplunge pool(滝壺)が発達する.足摺海底谷と交差するリニアメントについて, MCS データから高角の断層が発達していることが認められる.また,断層にともなう堆積層の変形が海底面まで及んでいることが分かった.

    本研究により,室戸-足摺沖の外縁隆起帯付近には東北東-西南西走向のリニアメントが多数分布し,一部で右横ずれ成分を持つ断層の発達が明らかになった.これらの断層は室戸岬に続く南北性の隆起帯に連続することから,室戸岬の隆起は粟田・杉山(1989)の提唱する逆L字型の活構造により起きている可能性が高い.

  • Philomene Vanessa ONDO, Kohsaku ARAI, Ayanori MISAWA, Yuka YOKOYAMA, I ...
    セッションID: T7-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    Sedimentary basins analysis through MCS profiles suggests that basins present in the landward slope of the Eastern Nankai trough originate from the compressional stress produced by the subduction of the Philippine Sea plate beneath the Southwest Japan. 26 migrated MCS profiles-oriented northwest – southeast made during Geological Survey of Japan research cruises GC98 and GA99, as well as a bathymetric map generated by GMT5 software were used to identify the basins. Once a basin was confirmed both by the MCS profile and on the bathymetric map, from the Nankai trough to the landward slope, a number (from 1 to n) was assigned to it. Then, basins with the same number were grouped together, and the basin with the greatest thickness was chosen to analyse the area deposition, thickness deposits, and structural direction. A total of 14 basins were identified and interpreted as piggyback basins (basins created by anticlines or syndepositional growth structure (Ori and Friend (1984))), and among these basins Kanasunose Trough (basin 2), Yukie Trough (basins 5-7), Shima-Oki Trough (basins 13-14) were recognized. Five preferential directions were identified: North-South (basins 8, 11, 14), North northeast – South southwest (basins 7,12), Northeast-Southwest (basins 5, 6, 10, 13), East northeast – west southwest (basins 1, 2, 3, 9), and West northwest – East southeast (basin 4). Basin 4 has a peculiarity by the fact of its west northwest – east southeast direction corresponding to the direction of the compressional deformation meaning that this basin is probably syn-tectonic. These piggyback basins with a landward tilting are composed of two seismic sequences S2 and S1. S2 (sub-parallel to migrating wave internal reflectors, continuous to discontinuous with varying amplitude events) unconformable onlaps onto the basement, and S1 (parallel internal reflectors, continuous with low to moderate amplitude) unconformable onlaps onto S2. S2 and S1 respectively can probably correspond to the Unit II and Unit I defined by Hiroki et al. (2004) in the well BH-1 giving an age comprised between 0.5-1.2 Ma for Unit 2 and 0-0.5 Ma for Unit 1, using Quaternary standard nannofossil events (events 1-10) of Sato and Takayama (1992), and corresponding to the nannofossil zone CN15-CN13b of Okada and Bukry (1980).

    References

    Hiroki Y., Watanabe K., and Matsumoto R., 2004. Lithology, Biostratigraphy, and Magnetostratigraphy of Gas Hydrate-Bearing Sediments in the Eastern Nankai Trough. Resource Geology. Vol. 54, no 1, 25-34.

    Okada H., and Bukry D., 1980. Supplementary modification and introduction of code numbers to the low-latitude coccolith biostratigraphic zonation (Bukry, 1973; 1975). Marine Micropaleont., 5, 321-325.

    Ori G.G. and Friend P.F., 1984. Sedimentary basins formed and carried piggyback on active thrust sheets. Geology,12, 475±478.

    Sato T., and Takayama T., 1992. A stratigraphically significant new species of the calcareous nannofossil Reticulofenestra asanoi. In Ishizaki K., and Saito T., (eds.) Centenary of Japanese Micropaleontology, Terra Scientific Publ., 457-460.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    小野 誠太郎, 沖野 郷子, 島 伸和
    セッションID: T7-P-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    地磁気異常データを用いたマリアナトラフの拡大過程Spreading process of the Mariana Trough using geomagnetic anomaly data マリアナトラフは,太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込むことにより形成された,現在でも活動的な背弧海盆である.マリアナトラフは地形の特徴から北部,中部,南部の3つの地域に分けることができる.これまでに3つのそれぞれの地域で地磁気異常データの解析を元に拡大開始年代や拡大速度が考察されてきたが,マリアナトラフ全体の形成史について総合的な研究はなかった.本研究ではマリアナトラフ全体の地形,地磁気異常を解釈することで,拡大開始から現在までの拡大過程を考察する.世界の背弧海盆の中でも,地形・地磁気異常データが全域で得られている場は稀であり,本研究によって背弧海盆の形成過程に新たな知見を与えることが期待できる.

    本研究に用いたデータは,海底地形データ,地磁気異常z成分の2種類である.海底地形データは研究調査船「よこすか」,「かいれい」,「白鳳丸」によるY96-13,YK99-11-Leg2,YK00-13,YK01-11,YK03-09,YK09-08,YK10-10,YK10-15,KR98-12,KR02-14,KR03-13,KR05-17,KR06-12,KH92-1の14航海でのマルチナロービーム測深器で測定された.これらのデータを用いて50mグリッドの地形データを作成し,データが不足している部分はKitada et al(2006)の0.1分グリッドの地形データで補完して,マリアナトラフ全体の地形データを作成した.地磁気データは,研究調査船「よこすか」,「かいれい」,「白鳳丸」による Y96-13,YK99-11-Leg2,YK01-11,YK03-09,YK08-08 Leg1,2,YK09-08,YK10-10,YK10-12,YK10-15,YK12-11,YK14-13,YK15-11,KR97-11,KR98-12,KR00-03,KR02-01,KR02-14, KR03-13,KR05-17,KR16-14,KH92-1の21航海で,船上3成分磁力計によって取得された.マリアナトラフが磁気赤道に近い場所での東西拡大であること,水平ジャイロコンパスの不調により地磁気異常水平成分の精度が悪いデータがあったことから,本研究では地磁気異常z成分を使用した.まずIsezaki(1986)の手法を用いて船体磁化の影響を補正し,Parker and Huestis(1974)のインバージョン手法を用いて,船体磁化補正した地磁気異常z成分を海底下の磁化強度に変換した.

    作成した詳細地形図の解釈に基づき,拡大軸,セグメント境界,リフティングと海底拡大の境界を認定した.現在の拡大軸は計18個の2次のセグメントに分かれているが,セグメント長は拡大開始から一定ではなく,セグメントの盛衰や分離・融合があったことが明らかになった.特に中部地域では約3Maに海底地形の線構造の走向が大きく変化している.また,海底下の磁化強度分布からは縞状異常の特徴が明らかになり,地形を考慮した二次元ブロックモデルを仮定した地磁気異常のフォワードモデリングを行うことで,セグメントごとに縞状異常の同定を行った.海盆の西縁は,西マリアナ海嶺(古島弧)に接しており,最も古い磁気縞状異常は,中部でC3An.2n_young(約6.4Ma),北部でC2An.3n_old(約3.6Ma),南部でC2An.1n_young(約2.6Ma)であった.海盆の東縁は西側に比べて磁気縞状異常が出にくく,これは火成活動が重なることで元の海盆部分が隠されてしまっていることが原因であると考えられる.また各セグメントでの拡大速度を比較した結果,拡大軸の西側は東側と比べて約5mm/yr大きく,両側拡大速度は,北部のセグメント1での25mm/yrから,南部のセグメント18では49mm/yrとなっており,北部より南部の方が拡大速度が大きい傾向があった.またKato et al (2003)のGPS観測によって決定されたオイラー極・角速度から推定される海底拡大速度と比較すると,特に北部で本研究の拡大速度と一致しない.これはKato et al(2003)では 21°Nから 23°Nのリフティングの影響を考慮せずにオイラー極を計算していることに起因すると考えられる.また本研究で同定した拡大軸の方向と海底拡大速度を元に,Goudarzi et al(2014)の手法を用いてオイラー極の推定を試みた.その結果,オイラー極はKato et al(2003)のものより北側になり,拡大速度の大きさは観測の結果とよく一致したが,拡大速度の南北差が大きく剛体運動の影響は小さいと解釈できる.

    参考文献 :

    Mohammad Ali Goudarzi, Marc Cocard, and Rock Santerre, “EPC: Matlab Software to Estimate Euler Pole Parameters,” GPS Solutions 18, no. 1 (January 2014): 153–62, https://doi.org/10.1007/s10291-013-0354-4;

    Nobuhiro Isezaki, “A New Shipboard Three‐component Magnetometer,” GEOPHYSICS 51, no. 10 (October 1986): 1992–98, https://doi.org/10.1190/1.1442054;

    Teruyuki Kato et al., “Geodetic Evidence of Back-Arc Spreading in the Mariana Trough: GEODETIC EVIDENCE OF BACK-ARC SPREADING IN THE MARIANA TROUGH,” Geophysical Research Letters 30, no. 12 (June 2003), https://doi.org/10.1029/2002GL016757;

    Kazuya Kitada et al., “Distinct Regional Differences in Crustal Thickness along the Axis of the Mariana Trough, Inferred from Gravity Anomalies,” Geochemistry, Geophysics, Geosystems 7, no. 4 (April 2006): 2005GC001119, https://doi.org/10.1029/2005GC001119;

    L. Parker and S. P. Huestis, “The Inversion of Magnetic Anomalies in the Presence of Topography,” Journal of Geophysical Research 79, no. 11 (April 10, 1974): 1587–93, https://doi.org/10.1029/JB079i011p01587.

  • 金子 信行
    セッションID: T7-P-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに 南関東ガス田の貯留層は約3Ma以降に堆積した上総層群であり、その間隙水には膨大な量の微生物起源メタンとヨウ素が溶存している。ヨウ素の年間生産量は、世界の生産量の1/3に及ぶ。半減期1,570万年の129I同位体組成は初生値よりも明瞭に小さく、間隙水が上総層群よりもずっと古い時代に海水から隔離されたことを示している(Muramatsu et.al., 2001)。フィリピン海プレート(PHSP)の運動方向は、約3Maに北から北西に変わったとされ、上総層群の堆積中心も北西方向に移動したことから、PHSPとの関連が指摘されているが、その根拠は示されていなかった。ヨウ素と微生物起源メタンを含む化石海水の起源を推定するために、現在の地殻変動の水平変化などから3Ma以降の地史を復元して、上総海盆(関東堆積盆)の後背地方向への発達要因を考察した。

    約3Ma以降の地殻変動 PHSP斜め沈み込みに伴う上盤プレート上の南関東・甲信地域の最近5-10年の水平変動は、PHSPと同じ北西方向であり、2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響を受けていない(国土地理院, 2024)。即ち、房総半島から飛騨山脈に至る地域は、前弧スリバーとして南東から北西へと動いており、約3Maからこの方向の水平変動が継続していたと推定される。よって、南部フォッサマグナ周辺の地殻変動のみならず、飛騨山脈東縁部における黒部川花崗岩類などの隆起と爺ヶ岳・白沢天狗岳・槍穂高連峰の火山岩類の傾動(原山ほか, 2003)などの北部フォッサマグナ地域西側の地殻変動も、太平洋プレートではなくPHSP沈み込みの影響と考えられる。そして、約3Maの関東山地・丹沢ブロックは現在よりも南東側に位置していたことになる。一方、PHSPの運動から逆算すると、約3Maには現在の伊豆半島(伊豆ブロック;白浜層群)は房総半島の南側にあったと推定される。海溝を挟んで北側の陸側プレートの下には、3Ma以前の伊豆-小笠原弧の旧火山フロントが沈み込んでいたはずで、関東山地・丹沢ブロックはその西側かつ伊豆ブロックの北北西側に存在していたと推測する。約3MaにPHSPの運動方向が北西へと変わると、関東山地・丹沢ブロックも一体となって北西に移動した。その東側の旧火山フロントが沈み込んだ地域では、周囲(東西)より温度の高いリソスフェアが引き延ばされ、急速な沈降により表面に上総海盆が形成されて、現在海域に分布する上総層群最下部が堆積した。その後のPHSPの運動により、スラブの旧火山フロントも冷えながら北西へと沈み込み、地表では関東山地・丹沢ブロックも同方向へと移動した。これに伴って上総層群の最大層厚部も北西に向かって発達し(鈴木ほか, 1983;三梨ほか, 1990)、やがて浅海化した。旧火山フロントから海溝までは圧縮場であり、堆積盆地の南東側が隆起して、房総地域の上総層群は北西へと傾斜した。したがって、上盤プレート全体としては圧縮場であるが、上総海盆は北西-南東方向の伸張場であり、付加体に認められる逆断層型の前縁隆起帯は発達しなかった。現在の関東堆積盆は、地温勾配が2℃/100m以下と非常に小さいが、火山弧が沈み込んでいた三浦層群堆積時には地温勾配が高く、地下浅所での微生物活動が活発であった可能性がある。

    プレート運動の原動力と運動方向の変化について沈み込んだPHSPの先端が太平洋プレートに行く手を遮られたことが、約3Maに運動方向が北から北西方向に変化した原因とされている(高橋, 2006)。一方、海溝から沈み込んだスラブによる引きずりがプレート運動の原動力であるとすれば、新たに西側に引きずり込むような成分が加わったことが原因とも考えられる。後期中新世以降の沖縄トラフのリフティングによって、ユーラシアプレートの東端が南東に移動することで琉球海溝がロールバックしたと考えると、これに起因するスラブの発達が、PHSPの運動方向を北から北西へと変化させた原因として考えられる。同様に、背弧拡大/前弧圧縮と海溝のロールバックによって成長したスラブが、引き込みよるプレートの運動方向を決めているとすれば、15Maまでの日本海の拡大による西南日本弧の時計回り回転や南側への移動が、それ以降のPHSPの北向きの移動を促したと考えられる。

    文献

    原山ほか(2003) 第四紀研究, 42, 127-.

    国土地理院; https://mekira.gsi.go.jp/index.html (R6.6.24確認)表示地域;関東中部

    三梨ほか (1990) 地質学論集, 34, 1-.

    Muramatsu et al. (2001) Earth Plnet, Sci. Lett. 192, 583-.

    鈴木ほか (1983) 地調月報, 34, 183-. 

    高橋 (2006) 地学雑,115,116-.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    伊藤 直毅, 石山 達也
    セッションID: T7-P-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    東北日本と西南日本の境界部に位置する北部フォッサマグナ地域は,中新世の日本海拡大に伴い形成されたリフト盆地であり,鮮新世以降の圧縮テクトニクスによって大規模な短縮変形を被った地域である.北部フォッサマグナ地域では厚さ6 km(石油公団, 1996c)を超える厚い堆積物が,この地域で最大の軸長を持つ難波山背斜に代表される褶曲構造に参加しているが,この褶曲構造を浅部〜深部の断層構造と結びつけて説明した構造発達モデルは提案されていない.そこで,本研究では,地質・地球物理学的データを用いて,難波山背斜を形成した断層構造を推定する目的で,断層関連褶曲モデル(例えば,Suppe, 1983;Allmendinger, 1998)に基づく地質構造解析を行った.解析の際には,地表地質データ(例えば,赤羽・加藤,1989)・反射法地震探査データおよび坑井データ(石油公団,1989;1991a;1991b;1993a;1993b;1996a;1996b;1996c)を取りまとめ,背斜軸に直交する測線でバランス断面図(Woodward et al., 1989)を作成した.測線は,約8.0 – 2.4 Maの下位から能生谷層・川詰層・名立層が参加する構造を対象とした北測線と,約12.5 – 3.9 Maの下位から七谷層・難波山層・能生谷層が参加する構造を対象とした南測線の2本からなる.

    バランス断面図の推定は以下の手順で行った:まず,走向傾斜データや断面線近傍の反射法地震探査断図を断面線に投影し,褶曲軸の位置および形状を推定した.次に,推定された褶曲軸に基づいて,表層地質の分布・測線と反射法地震探査測線との交線における反射面の深度・測線上の坑井データから地層境界の形状を推定し,侵食域を含む褶曲構造断面を推定した.次いで,断層関連褶曲モデルに基づき,得られた褶曲構造断面を説明する断層の形状を考察した.その後,地層の面積・地層境界の線長・断層の変位に矛盾なく短縮変形前の状態の堆積盆の構造を復元できるよう,フォワードモデリングで褶曲軸・地層境界の形状・断層の形状の修正を繰り返し,構造断面に対して最適な断層形状を推定した.

    北測線では,難波山背斜を形成した断層は,背斜東翼の地層の傾斜の変化から,深度約4.0 km以深では傾斜角約20°,深度約1.5〜4.0 kmでは傾斜角約50°の東傾斜の伏在逆断層と推定される.難波山背斜の西翼で能生谷層上部および川詰層がほぼ垂直に傾斜することから,断層は深度約1.5 kmでほぼ水平に折れ曲がり,西方へ伸びていると推定される.断層の活動時期は,名立向斜西翼の名立層が成長層と考えられることから,川詰層堆積後の3.2 Ma以降と考えられる.また,断層の深部延長については,高田平野下に推定される東傾斜の伏在逆断層が収斂していると考えられる.この伏在逆断層は,高田平野下の堆積層の水平方向の変化から,約6.5 – 5.0 Maにおいて単独で活動したと推定される.なお,高田平野の西縁に位置する西傾斜の活断層帯であると推定されている高田平野西縁断層帯(地震調査研究推進本部,2009)の地表トレースは,断面図上では難波山背斜東翼部に位置するが,本研究で推定した断層との関係については今後検討の必要がある.

     文献

    Allmendinger, R. W. (1998). Inverse and forward numerical modeling of trishear fault-propagation folds, Tectonics 17, 640–656.

    赤羽貞幸・加藤碵一(1989).高田西部の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,89p.

    地震調査研究推進本部(2009).高田平野断層帯の長期評価,31p,http://www.jishin.go.jp/main/index.html,2024年6月11日閲覧.

    石油公団(1989).昭和63年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「新井〜中子地域」調査報告書.

    石油公団(1991a).平成元年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「頚城〜能生地域」「中頚城地域」調査報告書.

    石油公団(1991b).平成2年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「上越地域」調査報 告書.

    石油公団(1993a).平成4年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「上越地域」調査報告書.

    石油公団(1993b).平成4年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「新潟〜富山浅海地域」調査報告書.

    石油公団(1996a).平成6年度国内石油・天然ガス基礎調査基礎試錐「富倉」調査報告書.

    石油公団(1996b).平成7年度国内石油・天然ガス基礎調査基礎試錐「西頚城」調査報告書.

    石油公団(1996c).平成7年度国内石油・天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査「西頚城」調査報告書.

    Suppe, J. (1983). Geometry and kinematics of fault bend folding. Am. J. Science., 283, 684-721.

    Woodward, N.B, Boyer, S.E. and Suppe, J. (1989). Balanced geological cross-sections: An essential technique in geological research and exploration. Short Course in Geology, AGU, Vol. 6, 132 p.

  • 市村 健, 冨岡 美咲, 佐藤 隆恒, 原田 尚, 高木 秀雄
    セッションID: T7-P-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】南部フォッサマグナ地域は,未成熟海洋性島弧である伊豆−小笠原弧と成熟した島弧である本州弧の衝突域で,その中央東側に丹沢トーナル岩,西側に富士川深成岩が分布する.

     丹沢トーナル岩のジルコンU-Pb年代値は,5–4Maと報告されている (Tani et al.,2010).この貫入直後に形成されたヒールドマイクロクラック (以下,HC) ,およびその後の上昇の時期に形成されたシールドマイクロクラック (以下,SC) を用いた古応力方向の解析結果は,σHmax の方向がN-S〜NNE-SSWである (佐藤・高木,2010).一方,富士川深成岩類の,黒雲母や角閃石のK-Ar年代値は6–5Maを示し,貫入後の古応力方向の解析結果は,HC・SCともにσHmax の方向がNW-SE〜WNW-ESEに卓越する (原田・高木,2009).ただし,これらの旧来の方法 (旧岩脈法) (山路,2012)ではσHmax がσ1かσ2かを判断することは難しかった.

     近年,割れ目の極投影に確率密度分布であるビンガム分布 (Bingham, 1974) をフィッティングさせることにより,異なる応力方向を複数のクラスタに分離し,σ1 , σ2 , σ3および応力比を求める方法 (以下,新岩脈法) が開拓された (Yamaji et al. 2010, Yamaji and Sato, 2011).そこで本研究では,佐藤・高木 (2010) ・原田・高木 (2009)が求めたσHmaxがσ1とσ2のどちらかであるかを明らかにするため,改めてそれぞれが用いた試料と同じ定方位試料を用いて,古応力方向の復元を行った.また両地域の応力方向に比較を行い,南部フォッサマグナ地域で新第三紀以降に起こった,伊豆-小笠原弧と本州弧との衝突に関わる古応力方向について考察する.

    【手法】手法として,直交3方向の厚い薄片を作成し,石英粒子内部に観察されるHC,SCの走向・傾斜を,ユニバーサルステージを用いて測定した.その極の分布図から新岩脈法と3つの補正法 (金井ほか, 2014) を用いてσ1,σ2σ3を求めた.今回,丹沢地域では計33地点分,富士川地域では13地点分のHC,SCの卓越応力を明らかにした.

    【結果と考察】丹沢トーナル岩におけるσ3は,HCではE-W方向と鉛直方向 (以下,方位の記載順は優勢な順),SCではWNW-ESE方向と鉛直方向があり,佐藤・高木 (2010)と調和的な結果が得られた.σ1は,HCではE-W方向とN-S方向とその他がばらつき,SCではNNE-SSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,佐藤・高木 (2010) が報告したσHmaxがHCではσ2に,SCではσ1に相当することが明らかとなった.またSCではHCに比べて集中域が時計回りに20°程度回転していることがわかる.

     富士川深成岩類におけるσ3は,HCではN-S方向,SCではNNW-SSE方向となり,原田・高木 (2009) と一致する.σ1はHCでは鉛直方向とE-W方向,SCではENE-WSW方向と鉛直方向の集中が認められた.このことから,原田・高木 (2009) が報告したσHmaxがHCではσ1に,SCではσ2に相当することが明らかになった.またSCではHCに比べて集中域が反時計回りに15°程度回転していることがわかる.

     以上から丹沢地域のHC→SCへの変遷と富士川地域のHC→SCの変遷についてそれぞれ扇形に広がる傾向が確認できる.これはフィリピン海プレートが衝突を続けている南部フォッサマグナ地域で想定されるハの字型の関東対曲構造の発展と調和的である.

     発表では,これらのマイクロクラックの方位分布に加えて,現在測定中である富士川深成岩類の追加試料のマイクロクラックの方位分布を合わせ,伊豆-小笠原弧の衝突に伴う両地域の古応力方向の復元とその変遷について議論する.

    文献:Bingham C., 1974, Annals of Statistics, 2, 6, 1201-1225.; 原田 尚・高木秀雄, 日本地質学会第116年学術大会講演要旨, p.228.; 金井拓人・山路 敦・高木秀雄, 2014, 地質雑, 120, 23-35.; 佐藤隆恒・高木秀雄, 2010, 地質雑, 116, 309-320.; Tani, K., Dunkley, D. J, Kimura, J., Wysoczanski, R. J., Yamada, K. and Tatsumi, Y., 2010, Geology, 38, 215-218.; Yamaji, A., Sato, K. and Tonai, S., 2010, J. Struct. Geol., 33,1137-1146.; Yamaji, A. and Sato, K., 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148-1157.; 山路 敦, 2012, 地質雑, 118, 335-350.

  • 岡田 尚大, 小林 健太
    セッションID: T7-P-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    朝日山系摩耶山地北端部に位置し,庄内平野と山地の間に位置する山形県鶴岡地域では,新第三紀層中に褶曲構造がよく見られ,新第三紀以降に東北日本に加わった応力の影響を観察することができる.そこで本研究では,山形県鶴岡市南西部を対象に,地質調査及び研磨片・薄片作成やXRD分析等の各種室内作業を行い,山野井(1991)をもとに詳細な地質図を作成し,地質構造を把握するとともに形成過程を考察することを目的とした.

    野外踏査の結果,本地域には,下位から基盤岩となる花崗岩類,その上位に不整合に堆積する,主に凝灰質砂岩・泥岩からなる新第三紀の善宝寺層,そこに整合に堆積する,同様に凝灰質砂岩・泥岩を主とする大山層が分布していた.新第三紀層について,善宝寺層からは珪化木が,大山層からは軟体動物の化石が産出された.

    地質構造について,従来本地域の新第三紀層は鶴岡図幅地域でみられる褶曲の翼部にあたるとされていたが,層理面は北西~北東傾斜であり, NNE-SSW方向に北プランジする褶曲軸をもつ,ENE-WSW方向圧縮を示唆する短波長の褶曲の繰り返し構造が見られた.

    加えて,本地域で見られる小断層から30セットのスリップデータを測定し,多重逆解法を用いて本地域の古応力を求めたところ,鉛直方向σ1,ENE-WSW方向σ3という正断層型の解と,NW-SE方向σ1,NE-SW方向σ3という横ずれ断層型の解が得られた.これらの小断層について傾動補正を行ったところ,傾動補正0%の状態でクラスターの集中がよく見られた.

    また,新第三紀層について,善宝寺層と大山層の両層でみられる凝灰質砂岩・泥岩は化石が産出されない場合での野外における区別が難しいため,サンプルを採取し,室内にて全岩非定方位のXRD分析を行ったところ,石英の相対量比に差が見られた.

    本研究地域に隣接する,土谷ほか(1984)の鶴岡図幅地域の地質断面図を読み取ると,本地域で見られた褶曲構造は,約3.6~2.6 Maに形成されたものであると考えられる.このことは,Sato(1994)で唱えられている東北日本の応力変遷とも調和的な結果である.しかし,本地域の小断層からは,褶曲を形成したと考えられる最大圧縮方向と同方向をσ3とする解が得られた.また,傾動補正0%で多重逆解法を行った状態が最もクラスターのまとまりがよかったことから,本地域で見られた小断層は,褶曲構造の完成以降に形成されたと考えられる.このことから,本地域でみられる正断層型のクラスターは,褶曲の形成と同時期にbending-moment faultによって,横ずれ断層型のクラスターは,花弁構造もしくは断層面の再利用によって形成されたものであると考えられる.

    引用文献 [1]Sato, H.,1994,The relationship between late Cenozoic tectonic events and stress field and basin development in northeast Japan,JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH, VOL. 99, NO. B11, PAGES 22,261-22,27 [2]土谷信之・大沢穠・池辺穣,1984,鶴岡地域の地質,地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,77p [3]山野井 徹,1991,5万分の1表層地質図「三瀬・温海」・同説明書,土地分類基本調査,山形県,51p

  • 桑原 一平, スリハリ ラクシュマナン, 向吉 秀樹
    セッションID: T7-P-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    The Oki Dogo, an island located in the southwestern part of the Sea of Japan comprises Proterozoic to Cenozoic Oki metamorphic rocks, and unconformably overlayed by volcanic and sedimentary rock strata from the late Oligocene to Miocene. Based on their age, the Oki metamorphic rocks are considered to be fragments of the continental crust (Kawabata et al., 2022), and are expected to record the geologic history prior to the opening of the Japan Sea and also tectonic process after that.

    Recent studies focused on metamorphism and geochronology of the Oki Dogo, but studies intend to describe the fault activities are limited. Based on our detailed field surveys cataclastic fault zones are identified in the vicinity of the Oki metamorphic rocks.

    In this study, we describe the location, structural evolution and tectonic significance of these cataclastic fault rocks. Fault outcrops are mainly identified in the metamorphic rocks along Araki river, Oku river and Nakamura river outcrops. Overall, ENE–WSW and WNW–ESE strike is prominent along the identified faults. The E–W, NE–SW, and NW–SE strike is also present in some locations. Most of the fault outcrops dip south, dip angle ranges between 40° to 70°. The width of the damage zone varies from 1–8 m. Reverse sense of movement predominant in the cataclasites, but in few locations normal and right lateral sense is also observed. In the Araki and Oku rivers, where fault outcrops observed, rhyolite intrusions are also identified in the near vicinity of the fault outcrops. Notably intrusive rocks are not affected by the fault activity, and we propose that the cataclasite faulting is possibly associated with these rhyolitic intrusions.

    Our study found fault outcrops only in the metamorphic rocks, not in any other lithologies. This limitation makes it difficult to determine the relative age of the faulting. To address this challenge and better understanding of the stress fields associated with fault activities, we plan to conduct detailed fieldwork in the future. Identifying faults in Cenozoic strata and comparing them with those observed in this study will be crucial for clarifying the timing and nature of fault formation.

    Reference: Kawabata et al., 2022, J. Metamor. Geol., 40, 257-286.

  • 島田 昌弥, 向吉 秀樹
    セッションID: T7-P-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

    島根県には宍道断層(中田・後藤,1998)を含め,複数の活断層の存在が報告されている.しかし,実際に発生している内陸型歴史地震の多くは,これら活断層の報告が無い場所で発生している.例えば,2000年の鳥取県西部地震(M=7.3)は活断層の存在が従来知られていなかった地域で発生した.また,山陰地域の活断層の特徴として,断層地形に乏しい未成熟な活断層が多く存在するという指摘がある(岡田,2002).これは断層地形判読のみでは抽出することができていない活断層が存在している可能性が高く,地質断層(非活断層)とされる断層の中に,地形的に見落とされるが,実際は活動的な断層が存在している可能性を示している.そこで,本研究では地質断層の中に見落とされている活動性の高い断層が,どの程度存在しているか確認することを目的とし,島根県に存在する断層に対して「力学的な断層活動性評価手法」であるslip tendency(以下STとする)(Morris et al.,1996)を用いて活動性の評価を行った.また,ST値が高い地質断層に関して露頭調査を行った.

    力学的な活断層評価手法STについて

    STは断層に作用する応力下において断層の姿勢に対する動きやすさを表す.断層面に働く剪断応力τと垂直応力σの比で計算され,主応力軸の方向と応力比から計算することができる.値は0≦ST<1で規格化される(大坪,2016).

    結果

    島根県内の断層115条に対して計算し,半数の57条でST値が0.7以上と高い値を示すことが明らかになった.これは,地質断層とされる多くの断層が,現世応力場での活動性が高い可能性を示している.また先行研究で計算された東北の断層のST値 (Miyakawa and Otsubo,2017)と島根県内の断層のST値を比較した.東北では活断層と地質断層でST値に明瞭な違いがみられる.一方で,島根県では断層115条のうち,半数の57条でST値が0.7以上と高い値を持つことが明らかとなり,活断層に加え地質断層においても高いST値を持つ特徴がみられた.また,高いST値を示した地質断層の露頭調査を行ったところ,複合面構造や条線の関係から現世応力場で動いた可能性を示す痕跡が認められた.

    考察

    断層がST 値の高いものから順に活動していくとすると,東北における ST値の高い断層は,既に繰り返し活動し,断層地形が発達した状態であるため,活断層として成熟した状態であると考えられる.そのため,ST 値の高い断層は既に地形判読等により活断層として認識されている断層である.一方で,島根県における ST 値の高い断層は,先行研究で未熟な断層と指摘されている(岡田,2002)ように,活動回数が少なく,累積変位量も小さいために,断層地形が不明瞭である可能性がある.そのため地形判読等による断層の評価が難しく,活動性が見落とされている可能性がある.島根県のST 値の高い断層は,今後更に活動することにより活断層として成熟していくものと考えられる.

    まとめ

    島根県内の断層に対してSTによる活動性の評価を行った.結果,活断層に加え地質断層においてもST値が高い断層が多く存在することが明らかになった.また実際に高いST値を持つ,地質断層の露頭調査を行ったところ,現世応力場で動いた可能性を示す痕跡が見られた.本研究では,「力学的な断層活動性評価手法」である ST を用いて評価を行い,加えて結果をもとに露頭調査を行った.山陰地域のような断層地形に乏しい地域では,地形判読のみではなく,STを用いて,現世応力場で動いた可能性のある断層を抽出し,現地調査と合わせて評価を行うことが有効であると考えられる.

    引用文献

    Miyakawa A, Otsubo M., 2017, Evolution of crustal deformation in the northeast–central Japanese island arc: Insights from fault activity. Island Arc, 26:e12179. https://doi.org/10.1111/iar.12179.

    Morris, A., Ferrill, D. A., & Henderson, D. B., 1996,Slip-tendency analysis and fault reactivation, Geology, 24, 275-278.

    中田 高・後藤秀昭,1998,活断層はどこまで割れるのか?-横ずれ断層の分岐形態と横ずれ分布に着目したセグメント区分モデルー.活断層研究,17,43-53.

    岡田篤正,2002,山陰地方の活断層の諸特徴,活断層研究, 22, 17-32.

    大坪誠,2016,長期の断層活動性を評価する手法の開発を目指して:手法の紹介とその適用事例,GSJ 地質ニュース,5- ,235-239

  • 佐藤 活志
    セッションID: T7-P-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    岩脈や鉱物脈などの引張割れ目は,それらが形成された当時の地殻応力と流体圧の指標になる.多数の岩脈の貫入面の方位分布に確率分布モデルを当てはめることで,主応力軸と応力比を決定する応力逆解析法が開発され普及している(Yamaji and Sato, 2011).この手法では,駆動流体圧比(流体圧と最小圧縮主応力の差を,差応力で規格化したもの)の代表的な値を求めることができる.しかし,個々の岩脈の駆動流体圧比を決定することはできないという欠点がある.そこで本研究は,岩脈の貫入面の方位だけでなく,岩脈の開口方向を観測することで,個々の岩脈の駆動流体圧比を決定する手法の開発を試みた.

    岩脈の壁面が平面である場合は,開口方向を観測することは難しい.壁面が多面体の形状である場合は,両側の壁面の折れ曲がりの位置を対比することで,開口方向を制約できる.開口方向は,貫入面にはたらく有効法線応力と剪断応力の比で与えられる.有効法線応力は法線応力から流体圧を減じたものなので,開口方向は駆動流体圧比も反映している.したがって,上記の応力逆解析によって応力が決定されていれば,観測された開口方向の制約条件に合致するように駆動流体圧比を決定できる.

    以上の手法を,美濃-丹波帯の付加体に貫入した福井県敦賀湾周辺の中新世の火成岩脈群に適用した.同岩脈群の応力逆解析によって,北北西-南南東方向に引張軸を持つ正断層型応力が検出されている(Sato et al., 2013).また駆動流体圧比の最大値は約0.8と見積もられている.解析の結果,法線応力が大きい(圧縮を正とする)岩脈ほど駆動流体圧比が大きい傾向があった.このことは,高い駆動流体圧比のもとで多数の岩脈が形成されたのではなく,流体圧が高まるにつれて開口可能な方位の岩脈が順次開口していったことを示唆する.また,駆動流体圧比は差応力で規格化した法線応力(0から1の値を取る)よりも平均的に0.25程度大きかった.駆動流体圧比と法線応力の差は,岩脈形成時の引張強度を反映していると考えられる.当時の母岩の引張強度の推定は難しいが,付加体の堆積岩の引張強度を最大で10 MPa程度と考えると,差応力は40 MPa以下といえる.

    引用文献

    Sato, K., Yamaji, A. and Tonai, S., 2013, Tectonophysics, 588, 69-81.

    Yamaji, A. and Sato, K., 2011, Journal of Structural Geology, 33, 1148-1157.

  • 八塚 伸明, 月俣 涼太, 中谷 正生, 竹内 昭洋, 坂口 有人
    セッションID: T7-P-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    [はじめに] 岩石の圧縮破壊試験において、歪速度の上昇につれて岩石の破壊強度が増加する載荷速度依存性が報告されており(羽柴ら, 2005)、歪速度変化が試料の物性を変化させることが明らかになっている。岩石のような固結粒状体内部の歪分布は複雑であり、これまでは主に数値実験(例えば、Qin et al., 2021)や、光弾性体によるアナログ実験(例えばJoe et al., 2012)によって検討されてきた。これらの実験では粒子を球体とし、サイズ分布も粒子数も制限された条件で解析されてきた。岩石を構成する粒子はサイズも形状も多様であり、しかも岩石はきわめて多数の粒子から構成される。数値シミュレーションやアナログ実験には限界がある。これまで歪速度変化による歪分布に焦点を当てた研究は行われてこなかった。これは、内部の歪分布を知るための手法が無かったためである。試料内部の歪分布を知る新たな手法としてカルサイト歪計がある。カルサイトは歪みに応じて結晶内部に双晶変形を生じさせる特性があり(Sakaguchi et al., 2011)、双晶密度は歪量に比例することから、双晶密度は歪計として使用できる(坂口・安藤, 2022)。このカルサイト歪計をマイクロセンサーとして粒状体内部の歪分布を解析することができる。

    [手法] 水熱合成された双晶変形を含まない合成カルサイトを高強度モルタルに2.7もしくは4.0重量%混ぜ込んだ模擬岩石を供試体とする。合成カルサイトは、歪がゼロの状態からの実験・測定を行うことができるという利点がある。セメント/水の比率が標準である場合は、一軸圧縮強度約100 MPa、三軸圧縮強度約180 MPa(封圧20 MPa条件下)の高強度モルタル供試体を作成できる。また、水の比率を2倍に増やすことで一軸圧縮強度約50 MPaの低強度モルタル供試体も作成できる。また、カルサイト粒子を多量に含む天然の砂岩も用いて比較する。使用する砂岩の一軸圧縮強度は約350 MPaである。高強度モルタル供試体、低強度モルタル供試体を約4.2×10⁻², 8.3×10⁻², 1.3×10⁻¹, 1.7×10⁻¹, 2.1×10⁻¹ /secの歪速度、砂岩を約2.5×10⁻², 5.2×10⁻², 1.0×10⁻¹, 1.6×10⁻¹, 2.1×10⁻¹ /secの歪速度で一軸圧縮試験を行う。また、高強度モルタル供試体を用いて2.1×10⁻², 4.2×10⁻² /secの歪速度で三軸圧縮試験を行う。そして偏光顕微鏡を用いて、薄片におけるカルサイト粒子の座標、双晶密度を測定し、カルサイト粒子と破壊面との距離の関係について検討を行う。破壊面との距離については、見かけの距離にはなるが、薄片を作成する際に破壊面に対して直交方向に切断することで、距離の誤差を小さくしている。

    [結果・議論] 一軸圧縮試験では、破壊強度約100 MPaの高強度モルタル供試体の場合は、歪速度約1.7×10⁻¹ /sec以上で破壊面近縁における歪分布の偏りが顕著に現れた。その一方で、破壊強度約50 MPaの低強度モルタル供試体の場合、破壊面近縁における歪分布の偏りは、歪速度を約2.1×10⁻¹ /secにまで上げても顕著には現れなかった。また、カルサイト粒子を多く含む天然の砂岩(破壊強度約350 MPa)の供試体は、歪速度約1.0×10⁻¹ /sec以上で破壊面近縁における歪分布の偏りが顕著に現れた。しかし、歪速度を約1.6×10⁻¹ /sec以上に上昇させたとき、更に破壊面近縁への歪分布の偏りの傾向が増すことはなかった。一軸圧縮試験では人工的な岩石(模擬岩石)、天然の岩石(砂岩)のいずれにおいても、歪速度が大きくなると、破壊面近縁への高歪の偏りが大きくなる傾向が確認できた。そして、破壊強度が大きくなると、破壊面近縁への高歪の偏りを示し始める歪速度は低くなることが確認できた。また封圧20 MPa条件下で行った三軸圧縮試験では、高強度モルタル供試体の場合、歪速度約4.2×10⁻² /sec時、破壊面近縁への歪速度の偏りが顕著に現れた。

    [引用文献]

    羽柴ほか(2005), 資源と素材(Shigen-to Sozai) Vol.121 p.11-18

    Joe et al.(2012), Journal of Geophysical Research, Volume117, Issue F1

    坂口・安藤(2022), 国際特許, WO 2022/009957 AI

    Sakaguchi et al.(2011), Geophysical Research Letters, 38, L09316

    Qin et al.(2021), Scientific Reports, volume 11, Article number 4753

  • 高下 裕章, 野田 篤, 宮川 歩夢, NISHIMOTO M.Michelle, 大熊 祐一, 橘 隆海, 藤内 智士, 兼子 尚知, 大 ...
    セッションID: T7-P-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2011年の東北地方太平洋沖地震では、地震前後の観測データを比較することで、海溝軸付近で最大約60mの巨大な変位が地震時に発生したことが明らかになった。これは浅部プレート境界断層の破壊に関する初の観測事例であり、この地震に伴って発生した巨大な津波は東北地方沿岸部に甚大な被害をもたらす津波の発生につながった。しかし、この最大すべり領域が地震時にどのような変形を経て破壊されたかは十分に明らかになっていない。

    先行研究の問題点として、凹地形が沈み込む際に、プレート境界断層に与える影響がよくわかっていないことが挙げられる。これまで凸地形の沈み込み(海山やリッジなど)による地震の巨大化が示唆され、プレート境界断層も含めたウェッジ全体の動的変形モデルの研究が進展している一方で、凹地形の沈み込みは、その逆の現象が発生すると推測され、ほぼ無視されてきた。日本海溝ではプレート沈み込みに伴うホルストグラーベン(海溝軸に平行な凹凸)が沈み込んでおり、一番大きく動いた場所ではグラーベン(凹んだ部分)が沈み込んでいるため、その解釈を難しくしている。

     そこで本研究では、ホルストグラーベンの連続的な沈み込みを再現するために砂を用いたアナログモデル実験を実施し、その沈み込みの効果を考察する。さらにここでは凹地形が堆積物で充填されているかどうかを比較するため、2つの条件で実験を進めている。速報として、堆積物が充填されている場合の結果を述べる。凹んだ部分の内部にプレート境界断層が形成されると、それが高い摩擦力を持つ底部として機能し、圧縮による隆起の変形に影響を与えることが示された。これまで想定されてきた凹地形沈み込みによる沈降が発生するということと、逆の変形が起こった。

     本実験装置のような長い距離での変形を伴う場合の技術的な問題として、大量の砂を変形させることで、予想外の応力集中や不安定な滑りが発生し、沈み込み速度を一定にコントロールできないことがある。特に今回、充填が不足している場合では、砂が詰まって動かなくなることが何度か発生しており、現時点では比較実験としての精度が保てていない。技術的にこれらを克服して、当日比較した結果も紹介できればと思う。

  • 金澤 征一郎, 橘 隆海, 藤内 智士
    セッションID: T7-P-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    プレート沈み込み帯にできる付加ウェッジの特徴の一つは,変形に伴ってウェッジ内部に複数の剪断帯ができていくことである.この変形サイクルの仕組みを理解することは,ウェッジ内部および周辺で起こる地殻変動や物質循環を把握する上で重要である.天然の付加ウェッジで起こる変形サイクルは,数万年から十万年程度で起こると考えられ,観測することができないが,乾燥砂を用いた砂箱などの模型実験の様子は観察できる.模型実験を使って付加ウェッジの変形を調べた研究としては,変形に伴う荷重サイクルを調べた例(Ritter et al., 2018)や,デジタル画像相関法(Digital Image Correlation Method: DIC)によりウェッジ先端部にできるフロンタルスラスト(Frontal Thrust: FT)の形成過程を詳細に調べた例(Dotare et al., 2016)がある.本研究では,砂箱を用いた付加ウェッジ形成実験を行い,同期取得した荷重データとDICの解析結果を比べることで,変形サイクルを詳細に観察した.

    付加ウェッジは,粘着面を上に向けた塩化ビニル系樹脂のカッティングシートをアクリル容器の底に敷き,その上から豊浦硅砂を充填し,シートを水平に引き抜き砂を固定壁に押し付けて作った.実験の間,ロードセルを使ってシートを引く際の水平荷重を記録し,砂層の変形を連続撮影した.荷重と画像データの同期にはデータ収録装置を使用した.実験後,画像データを使って変位と歪みを解析した.

    実験の結果,複数のFTができていく様子がみられた.全ての実験において,変形が進むにつれてFTが形成されながらウェッジは大きくなる.このとき荷重は,大局的に見るとウェッジの増大とともに大きくなるが,砂を自由落下させて敷き詰めた実験では,時おり荷重が減少する特徴的な周期が認められた.詳しく議論するために,荷重の増減が示す一つの周期をステージI, II, III, IVの4つの期間に分けた.

    ステージIは荷重が一定あるいは緩やかに増加する期間で,ウェッジ先端部に新規FTができた直後にあたる.ステージIIは荷重の増加率が大きくなる期間である.変形で見ると,ウェッジの頂上が上昇を始める期間にあたる.ステージIIIは荷重の増加が小さくなる,あるいは荷重が一定となる期間である.ウェッジ頂上の上昇は緩やかになり,前方では隆起が始まる.隆起と云ってもそれはまだ殆ど気配のようなものである.ステージIVは荷重が減少する期間である.このとき,荷重の減少に先立って以下の変形が起こる,(1)デコルマンから分岐した新規FTの地表への到達,(2)ウェッジ全体の総歪み量の低下.本研究の結果は,荷重が変形サイクルに対応しており,変形サイクルを捉えるにはウェッジ全体の観察が必要であることを示す.

    引用文献

    Dotare et al., 2016, Tectonophysics, 684, 148–156.

    Ritter et al., 2018, Tectonophysics, 722, 400–409.

T8.都市地質学:自然と社会の融合領域
  • 中里 裕臣, 米岡 佳弥, 坂田 健太郎, 中澤 努, 吉見 雅行
    セッションID: T8-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    都市域の地盤を構成する第四系については,層相分布の把握が地震防災や地下水流動の評価等において重要である(米岡ほか,2024など).都市域では多くの場合ボーリングデータから堆積サイクルを読み取り,岩相層序学的に堆積サイクル境界を追跡して地質構造を明らかにしていくが,その妥当性を検証するためにはコアが採取されたボーリングについて,テフラや微化石の分析を行い,時間目盛りを入れることが必要となる.本発表では埼玉県さいたま市見沼区深作で掘削されたGS2012-OMY孔(吉見ほか,2014)のコアのテフラ層序について報告する.

     GS2012-OMY孔(掘進長150m,サンプリング径116mm)は,既往調査により層序の概要が把握されている深作A-1孔(掘進長300m;埼玉県,1996;本郷・水野,2009)の約700m北西に位置し,土質試験試料採取と地震計設置を目的に掘削されたオールコアボーリングである.両孔は大宮面上から掘削されており,深作A-1孔では関東ロームからAT,深度36.3mの堆積物からは下総層群清川層の指標テフラKy3(TB-8)が検出され(埼玉県,1996),深度125m付近ではアカガシ花粉の多産層準が検出された(本郷・水野,2009).また中澤・遠藤(2002)および中澤・中里(2005)は,埼玉県(1996)が礫層下限を境界として区分した深度150mまでのA~D層を,堆積サイクルの認定と周囲からの層序の追跡により,上位からA,B層は下総層群大宮層~清川層,C層は上泉層及び藪層,D層は地蔵堂層と対比した.

     GS2012-OMY孔では含まれる化石や堆積相に基づき上位から①~⑥の堆積サイクルが認定され,深作A-1孔と比較すると①は大宮層,②は木下層上部,③は清川層,④は上泉層,⑤は藪層,⑥は地蔵堂層に相当する.コアでは47層準で火砕物の濃集層準が見られ,斑晶鉱物及び火山ガラスの屈折率に基づき,既往のテフラと対比を検討した.その結果,本コアではKy3は検出されない一方,表1に示す対比が明らかになった.

     SgP.1(鈴木・早川,1990)は下位の細粒テフラがAso-1である可能性があり(矢口1999),上位にAta-Thがあることから下総層群ではKm1テフラ群の層準に相当し,上泉層下部を示すと考えられる.SgP.1に類似する特性を示すテフラは深作A-1孔の深度69.40-69.50mにも確認された.UR1-No.8(中澤・中里,2005)はGoP1(町田ほか,1974)とは屈折率特性の異なるカミングトン閃石に富む特徴をもち、米岡ほか(2023)により大宮台地北西部のボーリングコアからも報告されていることから,関東平野中央部の藪層の指標テフラとして重要である.

     これらのテフラの認定により,従来よりも上泉層と藪層の層位が明確となり、関東平野中央部における下総層群の層序区分の精度向上に資することが期待される。

    文献 本郷・水野(2009)地質調査研究報告,60,559-579;町田ほか(1974)地学雑誌,83,302-338;中澤・遠藤(2002)大宮地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産総研地質調査総合センター;中澤・中里(2005)地質学雑誌,111,87–93;埼玉県(1996)埼玉県活断層調査報告書,200p;鈴木・早川(1990)第四紀研究,29,105–120;矢口(1999)群馬県埋蔵文化財調査事業団研究紀要,16,61–90.;米岡ほか(2023)日本地質学会第130年学術大会講演要旨,T16-O-3;米岡ほか(2024)地質学雑誌,印刷中;吉見ほか(2014)地質調査総合センター速報,no.66,185–205

  • 米岡 佳弥, 中澤 努, 野々垣 進, 坂田 健太郎, 中里 裕臣
    セッションID: T8-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    「都市域の地質地盤図(3次元地質地盤図)」は,産総研が独自に実施したボーリング調査のデータを基準とし,自治体などが公開する公共工事などの大量のボーリングデータを用いて地層の広域な対比を行い,コンピュータ解析により地層の3次元的な分布を表したものである.地下地質をweb上で3次元的に表現することにより,利用者はより直感的に地下の地質状況を理解することができる.産総研では経済産業省の知的基盤整備計画に基づき,2018年には「千葉県北部地域」,2021年には「東京都区部」の3次元地質地盤図を公開した[1].現在は「埼玉県南東部」の公開に向けた準備をしている.本発表では,3次元地質地盤図作成の調査・解析により明らかになった埼玉県南東部の更新統下総層群の層序と地質構造について紹介する.

     埼玉県南東部の下総層群(MIS 12〜5c)は下位より地蔵堂層,薮層,上泉層,清川層,木下層,大宮層に区分される.下総層群の各層は,調査地域の北部では,西側の北本市周辺で基底面標高が大きく,東側の白岡市〜久喜市周辺で標高が小さくなる傾向が認められた.また下位の地層ほどその標高差が大きいことから,この構造運動は累積的であると考えられる.特に北本市付近の相対的な隆起は顕著で,木下層(MIS 5e)はその上位の大宮層(MIS 5c)基底の侵食により完全に欠如している.一方,南部では東西の標高差は明瞭ではなく,むしろ全体として南側に標高が大きくなる傾向が認められる.

     木下層下部は谷埋め状の局所的な分布を示す.木下層下部の主体は軟弱な泥層であり,N値は5以下を示すことが多い.木下層下部は桶川市から大宮台地の西縁に沿って南東方向へ谷埋め状に分布し,また規模は小さいが見沼区新堤付近から南東方向へ同様に谷埋め状の分布が認められる.大宮台地の地下に木下層下部の谷埋め堆積物が分布することは中澤・遠藤(2002)や中澤ほか(2006)で既に示されているが,今回大量のボーリングデータの解析により,その詳細な3次元分布を示すことができた.

     埼玉県南東部の3次元地質地盤図では,広域に地質の分布を可視化し,構造運動や埋没谷地形を正確に3次元で表現することができた.複雑な地質や軟弱な地質の分布を正確に理解することは,地下水利用,地質汚染調査や災害リスク評価の観点からも重要である.「都市域の地質地盤図」では,これらを正しく理解することが可能となる.

    [1] 都市域の地質地盤図,URL: https://gbank.gsj.jp/urbangeol/

  • 野々垣 進, 根本 達也
    セッションID: T8-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地盤リスク評価や地震ハザードマップ作成等の実施には,地下浅部における地層の詳細な分布形態の情報が不可欠である.一般に踏査による露頭観察が困難な都市域の地下浅部地質構造解析では,地下の状況を直接観察できるボーリング掘削調査の結果(ボーリングデータ)に対して地層の対比を行い,その結果に基づいて3次元地質モデルを作成する(納谷ほか,2021など).このため,いかに多くのボーリングデータについて正確な地層対比を行えるかが,都市域の浅部地質構造解析では重要となる.本研究では,国や自治体から機械可読な形式(国交省,2016)で大量に公開されているボーリングデータに対して,迅速かつ安定した精度で地層対比を行う技術の開発を目的として,ボーリングデータに記録される地盤の特徴量から機械学習を利用して地層対比を行う手法について検討している.本発表では,その一環として実施した地盤の特徴量を効果的に利用できる機械学習アルゴリズムの検討結果について紹介する.

     ここではボーリングデータの地層対比処理を,地盤の特徴量を入力データ,地層名ラベルを出力データとする教師あり学習の分類問題と考える.地盤の特徴量を効果的に利用できる機械学習アルゴリズムの検討では,まず野々垣ほか(2023)をベースに利用する特徴量を決定した.具体的には,野々垣ほか(2023)で検討された標高,岩石・土質,標準貫入試験結果(N値),色調という4種類の特徴量に加えて,ボーリング掘削地点の緯度・経度,および各岩石・土質の厚さを利用することとした.次に,異なる機械学習アルゴリズムに基づいて,地盤の特徴量から地層名を予測する地層対比モデルを作成し,それらの性能を比較した.地層対比モデルを作るためのテストデータには,納谷ほか(2018)で利用された千葉市周辺のボーリングデータとその地層対比結果を用いた.ただし,全ボーリングデータ1,654本のうち,1,300本を学習用データ,残りの354本を評価用データに割り当てた.機械学習アルゴリズムには,k近傍法,サポートベクターマシン,決定木(ランダムフォレスト,LightGBM,XGboost),独自のニューラルネットワーク(畳み込み層なし・あり)を用いた.地層対比モデルの性能評価には,正解率(Accuracy),適合率(Precision),再現率(Recall),特異率(Specificity),F1スコア(F1score)などの数値指標を用いた.

     テストデータが取得された地域の地下浅部には,下位より清川層,木下層,沖積層,人口地層の4層が分布する.ここでは各機械学習アルゴリズムに基づいて,ボーリングデータの各部位が上記4層のどれに該当するのかを予測する地層対比モデルを作成し,各モデルの性能を比較した.その結果,LightGBM,XGboost,ニューラルネットワーク(畳み込み層あり)による地層対比モデルが特に高い対比性能を示した.例えば,正解率(Accuracy)では,LightGBM(93.8%),XGboost(93.9%),ニューラルネットワーク(畳み込み層あり)(94.2%)となっており,野々垣ほか(2023)で示された最高正解率88.3%を大きく上回った.正解率が上昇した理由としては,本検討で設定した機械学習アルゴリズムの方が野々垣ほか(2023)の用いたものよりも効果的に特徴量を利用できるものであったことや,入力する地盤の特徴量に緯度・経度を加えたことにより地層の側方変化が考慮されるようになったこと等が考えられる.また地層ごとの予測性能に着目すると,すべての対比モデルで木下層に対する適合率(Precision)および再現率(Recall)が他の地層に対するものと比べて低くなった.沖積層と誤対比するケースが多くみられ,この点については改善の余地が残った.

     本研究では地盤の特徴量を固定したうえで,それらの特徴量を効果的に利用できる機械学習アルゴリズムについて検討した.今後は各アルゴリズムについて,どのような特徴量の場合に誤対比となるのかを精査し,さらなる対比精度の向上を目指す.本研究はJSPS科研費22K03745の助成を受けたものである.

    文献

    国土交通省,2016,地質・土質調査成果電子納品要領.国土交通省,50p.

    納谷ほか,2018,都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」説明書.産総研地質調査総合センター,55p.

    納谷ほか,2021,都市域の地質地盤図「東京都区部」説明書.産総研地質調査総合センター,82p.

    野々垣ほか,2023,機械学習によるボーリングデータの地層対比に有効な地盤の特徴量の検討,日本地質学会第130年学術大会講演要旨.

  • 北田 奈緒子, 水谷 光太郎, 井上 直人, 伊藤 浩子, 三村 衛, 肥後 陽介
    セッションID: T8-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地盤情報データベースベースを用いた地質学的な検討は,大阪堆積盆地を皮切りに関西圏の多くの地域で実施されてきた。その中で,特に港湾部に隣接する地域は海成粘土層と火山灰層との関係から,堆積年代を含めた検討が容易であるが,内陸になると海成粘土層の分布は限定的で,対比可能な鍵層が極端に少なくなること,河川成の堆積物は分布範囲が狭く,層相変化が激しいために側方対比の難易度が著しく高くなる。「関西圏地盤情報ネットワーク(KG-NET)」の一つである関西圏地盤研究会では,これらのデータを用いた利活用事例を示すために,内陸地域のボーリングデータを用いた河川流域の特徴や解析を実施している。このうち,木津川周辺におけるボーリングの検討について報告する。 木津川は,花崗岩地域を流れる河川であり,風化した花崗岩によるマサ土と呼ばれる砂が主な堆積物となるのが特徴である。国土地理院発行の治水分類図によると,河川の周辺には多数の旧河道が分布する。ボーリングデータを用いて検討を行うと,河床部では表層部では,砂層が下部には砂礫層が分布することが読み取れるが,旧河道部では,現在の河床の地層構成とは異なり,砂や粘土からなる場合が多くみられる。そこで,木津川流域の八幡市上津屋付近において,旧河道部とそうでない地域でボーリング調査を実施し,浅層地下水の水位観測を実施して特徴を検討した。調査の結果から旧河道部には比較的細粒な堆積物からなることが明らかになった。また,地域の微地形を検討すると,堤防の形状と堤内部の低地を抽出すると,河川決壊時に形成されたと思われる押堀(おっぽり)状の地形が複数確認され,堤防決壊箇所が明らかになった。また,その延長上の提内には古い空中写真を用いると破堤ローブが確認された。以上の事から,木津川の砂岩に該当する八幡市上津屋付近の「旧河道」と判読される場所の多くは氾濫河川跡であると推定される。以上の検討を基に,ボーリングデータによる地層分布夜連続性について,検討するとともに,比抵抗調査を実施することで堤内における現在の河川増水時の特徴のメカニズムを検討した。2020年10月10日には,国土交通省淀川河川事務所が防災情報として配信している河川水位情報及び気象庁の降水予測情報から河川水位の上昇が想定できたことから現地に赴き,堤内地における漏水・噴砂現象の現地観察を行った。堤内地の水田を観察してみたところ,多くの水田において気体を含む漏水・噴砂現象を確認することができた。また,気体を含む漏水・噴砂現象は堤防に近い箇所ほど顕著であることがわかった。後日この時の河川データおよび地下水位データを取りまとめると,当時河川水位は最大で標高14.5mまで達した。通常河川水位は標高10m程度であることから,約4.5m程度河川水位が上昇していたことになる。標高14.5mとなれば,水位観測孔の孔口標高が約13mであり,河川の水位の方が高いので漏水や噴砂現象が堤防近くで見られる要因であると結論づけた。また,噴砂箇所は旧氾濫河川部に取り囲まれた部分で顕著に観察されることから,河川増水時に堤内に流れ込む河川の流れが旧氾濫河川部にみられる細粒分(シルトや粘土)によって流動阻害が発生し,河川水が漏水・噴砂現象を引き起こす可能性が高いと推定される。

    引用文献:北田奈緒子・伊藤浩子・水谷光太郎・濱田晃之・藤原照幸・三村衛・肥後陽介:木津川流域における表層地質とその特性について,応用地質学会研究発表会論文集,34,2020.国土地理院:地水分類図「淀」,「宇治」KG-NET関西圏地盤研究会・関西地質調査業協会:新関西地盤2021-京都南部地域と木津川周辺-,160 p, 2021.

  • 林 武司
    セッションID: T8-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日本では2014 年に水循環基本法が施行され,2015 年に水循環基本計画が策定された.この水循環基本計画では,流域単位での総合的・一体的な管理を基本として,健全な水循環の維持・回復の積極的な推進,持続可能な地下水の保全と利用の推進等が掲げられている.また,2018年に閣議決定された第5次環境基本計画においても,重点戦略の1つとして,環境リスク評価の観点から健全で豊かな水環境の維持・回復や化学物質のライフサイクル全体での包括的管理が掲げられている.しかし,日本各地において都市への人口集中が進行し,都市化の過程における多様な人間活動によって地表・地下の水循環機構が大きく改変されるとともに,生活排水や工場からの汚染物質の付加等によって地表水・地下水が汚染されてきた.このため,都市において水循環基本計画や環境基本計画の掲げる健全な水循環を実現し,またレジリエントで持続可能な都市を構築するためには,都市の水環境,特に地下水にかかわる環境の実態を適切に把握することが不可欠である.地下での水のあり方や挙動は地表の水とは大きく異なっており,これらには地質が大きくかかわっている.すなわち,地質は地下水のあり方や挙動を規制する存在である.その一方で,地下水の挙動は長い時間をかけて地層の状態を少しずつ変化させる.このため地質学的な時間スケールにおいては,地質と地下水は相互的な関係にある.他方,都市での多様な人間活動は地質と地下水の相互関係に対して,様々な影響をはるかに短い時間スケールで与えうる.

    本発表では,日本最大の都市域である首都圏の東京および周辺地域(武蔵野台地,荒川低地,東京低地)に着目し,地下水環境,特に地下水の流動機構や化学性状の変遷を概観しながら,都市,地質,水のネクサスを考察する.地下水の流動については,台地上に湧水や河川を形成する地下水(不圧地下水)と,より地下深くにあって各種用水の水源として開発・利用されてきた地下水(被圧地下水)について,地下水の涵養源や流動機構の変遷,地盤沈下とのかかわり等を考察する.例として,都市化が進行しても存在し続ける湧水は“変わっていない”といえるのか?被圧地下水はどこに流出するのか?等をとりあげる.地下水の化学性状については,都市化に伴う土地利用の改変や人間社会のあり方の変化,さらに地下空間の開発や地盤沈下等が,不圧地下水や被圧地下水の化学性状にどのような影響をもたらしてきたか,また現在にみられる化学性状をどのように考えるべきか,さらに防災対策としての地下水利用の課題等について考察する.

  • 香川 淳, 古野 邦雄
    セッションID: T8-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     2024年1月1日16:10頃発生した能登半島を震源とするM7.6の地震では最大震度7を観測,北陸地方を中心に甚大な被害が生じた(気象庁,2024).千葉県の最大震度は3で目立った被害は生じなかったが,地震に伴い多くの観測井で明瞭な地下水位変動が観測された.これまでも地震に伴う地下水位変動について報告されてきた(奥田 ・古野,1981,香川・古野,2012等)が,近年,観測機器のデジタル化が進み時間的な分解能が向上していることから,最近の観測成果について報告する.

    千葉県による地下水位観測体制

     千葉県では地盤沈下の監視や地下水有効利用を目的として,各帯水層・地域毎に計158観測井を設置し地下水位の連続観測を行っている.地下水位はフロート式アナログチャート記録型や水圧センサ式デジタル記録型の水位計によって観測されており,デジタル式では主に1分間隔で記録している.このうち,地震動に対して特に高感度で地下水位が反応するYc-3号井(八街市沖:深度117m)では,4秒の記録間隔で地下水位を観測している.

    2024年能登半島地震発生時の地下水位変動

     地震発生後,16:11頃より多くの観測井で明瞭な地下水位変動が観測された.浦安市内の観測井では,帯水層毎に異なる地下水位変動が認められた(図-1).人工地層の地下水位を観測するWURY-1号井(浦安市高洲: 深度5m)では,地下水位が瞬間的に8mm急上昇し,30分程の短時間で元の水位まで回復した.沖積層最上部の地下水位を観測するWURY-2号井( 浦安市高洲: 深度10m)では地下水位が急激に約7mm上昇した後,数時間かけて緩やかに水位が上昇した.下総層群の地下水位を観測する浦安-3号井( 浦安市猫実: 深度250m)では,5~6cmの振動的な地下水位上下変動の後,初期より5mm程低下した水位で一旦安定し,続いて潮位の影響を受けた緩やかな水位上昇が認められた.なお沖積層の地層収縮量を観測している浦安-1号井(浦安市猫実: 深度60m)では,地震の前後で約0.07mmの地層収縮を記録した.

     下総層群の地下水位を観測する Yc-3号井では,16:11過ぎに低下方向への水位変動が始まり,振幅40cmを超える振動的な上下動を6分ほど示した後,地震前より14mmほど水位が低下して安定した(図-2).地下水位がほぼ安定した後も,1時間以上にわたって数mmの地下水位上下動が継続した.同様に下総層群を帯水層とする多数の観測井で地下水位の低下が観測され,その低下量は数mm~19mm程であった(図-3).

    GNSS測地によって観測された地殻変動

     2024年能登半島地震では,北西―南東方向の圧縮軸をもつ逆断層型の発震メカニズムが推定されている(気象庁,2024).国土地理院のGNSS連続観測網(GEONET)によると,東北地方南部から関東・中部地方東部にかけて,圧縮軸と調和的な北西方向(震源方向)への水平変位が広く認められた(国土地理院,2024)(図-4).このうち房総半島に設置された電子基準点では,北西方向に約7~10mmの水平変位が観測されているが,垂直方向では明瞭な変位は認められていない.

    まとめ

     2024年能登半島地震発生時,東京湾岸に分布する未固結の人工地層や沖積層では地震動に伴う水圧上昇により地下水位の上昇が観測された.一方,より広域の地殻変動を反映する下総層群を帯水層とする観測井では,広く5~19mmの地下水位低下が観測された.これは震源断層活動に伴う伸張応力により本州中部一帯が日本海側へ水平変位したことにより,房総半島でも下総層群が引き延ばされ地下水圧が減少し,多くの観測井で地下水位の低下を生じたものと推定される.

    文 献

    気象庁,2024,令和6年1月地震・火山月報(防災編).

    奥田庸雄・古野邦雄,1981,地盤沈下・地下水位観測井における地震時の水位変化.千葉県公害研究所報告13.

    香川 淳・古野邦雄,2012,2011年東北地方太平洋沖地震による関東地下水盆南東部における地下水位変動.日本地質学会第119年学術大会講演要旨.

    国土地理院,2024,令和6年1月の地殻変動.別紙4 関東・中部地方.

  • 藤崎 克博
    セッションID: T8-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    昨年の講演では,第10回国際地盤沈下シンポジウムTISOLS2023(Tenth International Symposium On Land Subsidence, 2023)の講演要旨に基づいて,世界の地盤沈下の現況を報告した(藤崎・古野,日本地質学会第130年学術大会T16-O-15,2023).今回は,TISOLS2020のプロシーディングス(Fokker, P. A. and G. Erkens eds, PIAHS 382, 2020)およびユネスコ地盤沈下部会(UNESCO LaSII)作成のInteractive map of Land Subsidence sites(www.landsubsidence-unesco.org/maps/)の事例を加えて,世界の地盤沈下の概況を報告する.ただし,事例が多いため今回はアフリカ,西・南・東南アジア地域の状況について述べる.残りの地域については,別途報告する予定である.アフリカでは,ナイジェリアのギニア湾岸のラゴスで,人口増による生活用地下水の過剰揚水による最大88mm/年(2015-2019)に達する沈下が報告されている.ニジェール川デルタのポートハーコートでは,石油採掘による最大200mm/年(2015-2020)の沈下がみられる.ガーナのボルタ川デルタでは,9mm/年(2016-2020)の沈下が観測されているが,原因は特定されていない.エジプトのナイル川デルタでは,地下水の過剰揚水による12-20mm/年(2015-2019)の沈下と主要都市での構造物の荷重による12-20mm/年(2015-2019)の沈下が報告されている.これらはいずれも干渉合成開口レーダー(InSAR)による観測である.南アフリカのセンチュリオンでは,InSAR(2015-2017)による沈下量とシンクホールとの関係が検討されている.西アジアでは,クエートのブルガン油田で石油採掘による10mm/年程度(InSAR2008-2011)の沈下が報告されている.UAEでは,アルアインで地下水の過剰揚水による最大40mm/年(InSAR2015-2019)の沈下が観測されている.イランでは,テヘランで人口増による生活用地下水揚水増加で最大250mm/年(InSAR2003-2017)の沈下が報告されている.データが古いが(InSAR2004),ヤズド(最大94mm/年),ザランド(最大250mm/年),カーシュマル(最大270mm/年),マシュハド(最大300mm/年),ラフサンジャーン(最大500mm/年)での地下水過剰揚水による沈下が観測されている.パキスタンのカラチでは最大15mm/年(InSAR2004-2016)の沈下が,ケッタでは最大150mm/年(InSAR2008-2016)に上る地下水過剰揚水による沈下が報告されている.南アジアでは,インドのガンジス川デルタのコルカタで最大16mm/年(InSAR2007-2011)の沈下が観測されている.バングラディシュのブラマプトラ川デルタでは,5-20mm/年(InSAR,GNSS2007-2011)の地下水過剰揚水に起因する沈下が報告されている.東南アジアでは,ミャンマーのヤンゴンで20mm/年以上,最大110mm/年(InSAR2015-2017)の地下水揚水による沈下が観測されている.タイのバンコックでは,地下水の過剰揚水による最大120mm/年(水準測量1978-1981)の沈下があったが,法による揚水規制が強化され,最近では10mm/年(水準測量2012-2018)程度にまで沈静化してきている.ベトナムでは,メコンデルタの都市部で20-50mm/年,農村部で0-20mm/年(InSAR2014-2019)の沈下が報告されている.とくにホーチミンでは人口増による地下水揚水の増大で40-70mm/年(InSAR2014-2017)に達する沈下が観測されている.インドネシアでは,ジャワ島北岸の各都市で地下水の過剰揚水による大きな地盤沈下が観測されている.ジャカルタでは最大60mm/年(InSAR2017-2018),スマランでは最大150mm/年(水準測量2008-2016),スラバヤで最大20mm/年(InSAR2014-2017)の沈下が報告されている.スマトラ島では,泥炭湿地森林を開拓してパルプ生産用のアカシア植林地や油ヤシ農園を造成したことにより,泥炭の分解による沈下が生じている.沈下量は,最初の5年間で約1.5mにも達する.スラウェシ島のマッカサルでも50-150mm/年(InSAR1994-1999)の沈下が報告されている.フィリピンのマニラでは,最大60mm/年(水準測量1964-2002)の沈下が報告されている.

  • 田村 嘉之
    セッションID: T8-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

    田村(2022)では、産業廃棄物最終処分場の設置に係る法律、省令及び要綱にある地質に関係する立地環境等としては、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地、地すべり防止区域を含まない等の項目があるが、地下水などの水環境については、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」で評価するが、立地基準とはなっていないことを述べた。また、地下水に関しては、君津市等の「水道水源保護条例」では、対象となる事業としてゴルフ場、最終処分場等を対象とし、排水基準による規制のみで、立地規制とはなっていないことなど、千葉県内の産業廃棄物最終処分場を取り巻く地質環境の概況、地質災害との関連性及び埋立地の維持管理上で発生している問題点について述べた。

    本発表では、水循環としての地下水利用がある地域や都市部において、水質監視用井戸設置に関する問題点を水文地質学観点から述べる。

    概況

    田村(2022)他でも示したが、千葉県における産業廃棄物最終処分場は、図-1に示したように9箇所ある。安定型、管理型の設置位置は、人口密集地である千葉県の東京湾岸、東葛飾でなく、房総半島の南側に集中している。このうち、管理型処分場の立地している地質環境について、地下水環境の状況を加えて以下に示す。

    管理型1

    地形:標高215m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場の北側隣接地に地すべり地形がある。

    地質:上総層群黄和田層。地質構造は概ね北西へ20~10度傾斜している単斜構造。処分場北西側と東側には向斜軸、また北西側向斜軸の北側に低角な断層がある。

    地下水環境:平成17年8月に埋立地の地下水流動方向の下流側に設置した水質監視井戸にて塩化物イオン濃度の上昇が確認され、平成18年に千葉県より改善勧告がだされた。一方、本問題については、平成18年6月に処分場の事業者からNPO法人日本地質汚染審査機構に、中立性・科学性の立場から、情報公開を前提に調査・対策・審査を依頼され、審査会の開催、住民説明会など開催され、審査の過程がすべて公開されている(https://www.npo-geopol.or.jp/otsukayamareport.htm参照)。現在も県へ提出された計画書によるモニタリング及び揚水対策を実施している。

    管理型2

    地形:標高90m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場付近に地すべり地形、急傾斜地の区域はない。

    地質:上総層群梅ヶ瀬層。地質構造は概ね北西へ約12度傾斜している単斜構造。

    地下水環境:平成24年1月に塩化物イオン濃度が高いことが確認され、平成24年3月に千葉県より指導(勧告)がなされた(https://www.pref.chiba.lg.jp/haishi/press/2011/saisyuusyobunjyou/araisougousisetu3.html参照)。その指導に至った水質監視井戸の水質測定結果のうち、①臭素イオン濃度が高い値であること、②有機ふっ素化合物のうちPFOAの濃度が高いことより、内部保有水の混入の疑いがあるとされた。一方、処分場埋立地の遮水構造物に設置されている漏水検知システムの異常がないこと、水質監視井戸の塩化物イオン濃度が低下傾向を示していること、地下水の環境基準項目で基準を超えた項目がないことより、監視指導にとどめている。なお、事業者側からの見解では埋立地の地上部に露出している土堰堤の法尻からの流出により、埋立地外に漏洩したとされ、現在その法尻からの流出防止策等を講じている。

    管理型処分場等における水質監視井戸の重要性と問題点

    管理型1の処分場では審査から計画、そしてその後の水質監視状況はすべて公開されている。また、揚水対策として設置した数多くの井戸は詳細な地質ボーリング記載や物理試験等の結果を反映して作成されている。したがって、水文地質構造を把握しての対策がなされている状況である。一方、管理型2では、水質監視の状況は公開さているもの、具体的な対策と効果に関する所見が公開されていない。水文地質構造を把握しての対策が講じられているかどうか不明である。

    このように処分場や地質汚染された場所での水質監視では、水文地質構造に関する調査、解析した結果に基づく、水質監視井戸の設置が重要である。しかし、水文地質構造の解明が不十分な状態での水質監視井戸の設置も散見され、水質監視としての十分に機能していない等の問題もある。

    引用文献

    田村嘉之,2022, 産業廃棄物最終処分場の立地条件としての地下水盆管理と水循環について.日本地質学会第129年学術大会講演要旨,G3-O-5.

  • 渡辺 敬三
    セッションID: T8-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.研究の概要

     山岳トンネルのFEMでは,トンネル周辺の変形係数を同一とした単一剛性モデルの場合,天端沈下量より底盤隆起量が大きくなる,すなわち解析上の大きなリバウンドが生じる場合がある.しかし,この現象は実際のトンネルで起こる変形と異なる場合があるため,過年度に山岳トンネルの底盤に関わる地山の変位・応力を,FEM(二次元変形応力解析)を用いて主に帰納法的に考察し,解析上のリバウンドを抑制するための地山の変形特性値および剛性領域の配置モデルを提案した1).本発表では,深度方向に増加する地圧条件下における地山剛性領域モデルと弾性理論解の関係について考察した.

    2.提案した地山剛性領域モデル

     過年度提案した地山剛性領域モデルは,天端沈下量(y1)と底版隆起量(y2)の比(-y2/y1)に着目し,DⅡ地山(変形係数E01=150MPa)及びE地山(E01=60MPa)を中心とした解析検討によるトンネル周辺及び底盤下の3領域設定モデルである.各領域(変形係数E01~E03が属する)は次の意味合いをもつ.E01領域は,トンネル周辺,すなわちトンネル側壁方向で2D(D;掘削幅)程度の範囲の剛性域で,アーチから側壁のトンネルおよび近傍地山の応力・変形を生じさせる.E02領域(E02=βE01)は,掘削前の初期地山,あるいはトンネル掘削の影響を受けない範囲の剛性域で,E03領域(E03=αE01)は,トンネル掘削時に応力解放の影響の少ない底盤直下剛性域(厚さ6~10m)とした.

    ただし,土被り100m以下の条件で,β/α=2,α=2~5,β=4~10とした.

    3.掘削解放力および地中応力・変位分布に関する考察

     (1)トンネルの掘削解放力を二次元理論式2)を用い,円形,上半円,馬蹄形,三心円,三心円+インバート,矩形の各断面について,中心角5度刻みで計算を行い,掘削解放力を上半,下半に分けて合算した.計算された掘削解放力を考察した結果,下半がより円形,すなわち円形断面やインバート付き断面で,下半の上向き解放力が上半の下向き解放力より大きくなる.(2)円形断面トンネルにおいて弾性論による地中応力,変位を求める式として,Kirschの解がある.このモデルは平面ひずみ条件の単一剛性場の板状モデルで,一軸方向の応力場(例えば鉛直地圧Pz)で解かれている3).一般に,座標系をπ/2回転させて重ね合わせた二軸応力式4)(水平地圧PH=kPz,ここでkは側圧係数)が示される.ここで当式をPz=h・γt (h:当該点の土被り,γt:単位体積重量)として拡張可能とみなし,円形断面で単一剛性場のFEM弾性解析と比較したところ,地山の応力および変位は,FEM解析値とKirschの解の理論値が概ね類似することが分かった.(3)上記の考察から次の仮説を示す。「自重下の弾性変形では,底盤下地山は除荷時の剛性アップがあるが,その後,除荷剛性の低下と応力再配分が進み,底盤隆起は最終的に絶対値で天端沈下の大きさと同等かより大きくなる.実際のトンネル掘削における膨張性地山等の変形は,弾塑性と粘弾性の性質を持つが,周辺の剛性域分布に強い影響を受け,かつ下半,底盤下の応力再配分に時間を要して遅れ変形として発現する.」

    参考文献 1)渡辺敬三;山岳トンネルのFEMにおける掘削解放力と底盤の変位・応力および地山の剛性領域に関する帰納法的考察,土木学会トンネル工学会報告集,2023年11月

    2)久武勝保・山崎康裕;トンネル沈下のFEM結果に及ぼす解析領域の影響, トンネルと地下第32巻11号, 2001年11月

    3)S.P.Timoshenko and J.N.Goodier,Theory of Elasticity,McGraw-Hill, 3rd.edition,1970.

    4)E.フック&E.T.ブラウン「岩盤地下空洞の設計と施工」小野寺透・吉中龍之進・斉藤正忠・北川隆共訳,土木工学社,1985.

  • 中澤 努, 長 郁夫, 野々垣 進
    セッションID: T8-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    一般に台地の地盤は低地に比べて良好という認識が強く根付いている.しかし台地にも一部には沖積層によく似た軟弱な泥層の分布が知られるなど,実際には,台地を構成する地層の層相およびその組み合わせにより,地盤震動特性は大きく変化すると予想される.演者らは首都圏の台地の構成層であるMIS 5e–5cの堆積物,すなわち更新統下総層群木下層や常総層,新期段丘堆積物の分布および層相の側方変化により地盤震動特性がどのように変化するかをボーリング調査と既存土質ボーリング柱状図の解析,そして常時微動観測を実施することにより検討した.

     下総台地のMIS 5c面に位置する流山市西初石付近には,工学的基盤となる下総層群上泉層/清川層の上位に木下層下部の内湾成泥層,木下層上部の内湾成砂泥互層,常総層の河川成砂層,それを覆って関東ローム層が分布する.ここでは地盤の共振周波数を示すとされるH/Vスペクトルに1 Hz付近と4〜5 Hzにピークがみられ,このうち1 Hz付近のほうが明瞭であった.同じくMIS 5c面である柏市旭町付近では,木下層下部が分布するのは流山と同様であるが,木下層上部が海成の砂層からなることが異なる.ここでは流山に似て1〜2 Hzと5 Hz付近の両方にいずれも低いピークが認められたが,流山に比べ5 Hz付近のピークが明瞭になった.また木下層下部が分布しない柏市豊住付近では高周波数帯域までフラットに近い特性を示した.

     武蔵野台地のMIS 5e面に位置する世田谷区上用賀には,工学的基盤となる上総層群の上位に,木下層(東京層;MIS 5e)下部の軟らかい内湾成泥層が分布し,その上位に木下層上部の内湾成の砂質泥層,そして関東ローム層が累重する.ここではH/Vスペクトルのピークが1 Hz付近の低周波数帯域に明瞭にみられた.一方でMIS 5a面に相当する世田谷区野毛町は,木下層下部は分布するが木下層上部は侵食され,新期段丘堆積物とそれを覆って関東ローム層が分布する.ここではH/Vスペクトルに1.4 Hzと4.6 Hzの2つのやや低いピークが認められ,このうち4.6 Hzのピークのほうが比較的明瞭であった.

     以上をまとめると,まず木下層下部の軟らかい泥層が分布し,その上位も泥層が主体で表層の関東ローム層まで粗粒堆積物を挟まない場合,H/Vスペクトルには1 Hz付近の低周波数帯域に明瞭なピークが認められるなど,台地であるにもかかわらず低地に類似する地盤特性を示した.一方で木下層下部が分布する地域であっても,木下層上部が砂層である場合,あるいは河川成の常総層/新期段丘堆積物が厚く分布する場合はピークが2つに分かれ,いずれのピークもやや不明瞭になった.また木下層下部が分布しない場合は,高周波数帯域までフラットに近い特性を示した.すなわち首都圏の台地部の地盤震動特性は,1)木下層下部(MIS 5e)の軟弱な谷埋め泥層の有無,2)それを被覆する木下層上部および常総層などの段丘堆積物の層相変化,以上の組み合わせによって大きく変化することが明らかになった.

  • 小荒井 衛, 谷貝 颯太, 中野 早登, 先名 重樹
    セッションID: T8-O-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    茨城県の霞ケ浦の土浦の入り流域に位置する桜川低地について、常時微動計測を行って地下構造を推定し、地盤災害リスクの検討と地形発達史の復元を試みた。本発表では、桜川低地の地形発達史に焦点を充てて発表する。桜川低地の128地点で常時微動計測を行った。各計測地点でS波速度構造を求め、S波速度が300m/sを越える深度を仮に工学的基盤深度とし、深度30mまでの平均S波速度をAVS30とした。桜川低地の中流域では低位段丘が発達しているが、自然堤防と比較して氾濫平野との比高が変わらず、両者の区別を地形形態のみから行うことは困難である。その両者の違いを常時微動計測で行うことができるのかということも検討課題とした。

    桜川低地内のボーリングデータを収集し、常時微動計測で求めたS波速度構造と比較したところ、桜川低地全体で深度10m付近と深度20m付近に厚い礫層が存在し、上位の礫層でS波速度が200m/sを越え、下位の礫層で300m/sを越えた。この結果を参考にして、ボーリングデータの無い桜川低地全体の地下構造を推定した。

    桜川低地中流域(小田・高岡・金田地区)には低位段丘が発達するが、低段段丘上でもその周辺の氾濫平野でも基盤深度が数m程度と浅くAVS30も250~350m/s程度を示し、低位段丘の周辺には埋没段丘が広がっているものと推定される。埋没段丘を間に挟んで右岸側と左岸側には、基盤深度が20m前後でAVS30が150~250m/s程度の計測点が帯状に繋がっており、寒冷した海面低下期に桜川(古鬼怒川)が下刻したと推定される埋没谷が2つ存在すると推定される。上流側の君島地区と下流側の虫掛地区では低位段丘が見られず自然堤防が発達する地区であるが、自然堤防での計測結果は、AVS30が小さく基盤深度が深いものとAVS30が大きく基盤深度が浅いものに2分され、前者が推定した埋没谷の延長部、後者が埋没段丘の延長部に位置していると考えた。

    桜川低地下流部の土浦市街地においても、昔からの市街地であった中心分はAVS30が大きく基盤深度が浅いため埋没段丘が存在すると考えられ、現在の桜川沿いと新川沿いの2領域でAVS30が小さく基盤深度が深いため埋没谷が存在すると判断される。また、土浦市街地に新川沿いから桜川沿いに流れる旧河道が存在しているので、桜川の主流路が最初は新川沿いを流れていたものが、河道変遷によって現在の桜川沿いに移ったものと判断した。

    以上の結果を総合的にまとめて、埋没段丘と埋没谷に位置を平面図にまとめて整理し、埋没段丘表面の縦断面線と埋没谷底部の縦断面線を作成した。埋没段丘表面の縦断勾配よりも埋没谷底部の縦断勾配の方が急勾配で、より上流部で急勾配となる結果であった。

    ボーリングデータと常時微動計測の結果のみだと、深度10m前後と深度20m前後の礫層が存在することしか示せず、深い方が3~4万年前の古鬼怒川系の礫層、浅い方が7~8000年前の桜川系の礫層と単純に考えたが、植木岳雪氏のボーリングコアを観察させていただいた結果や植木氏による年代測定結果(植木氏私信)等を参考に考察すると、必ずしも浅い礫層が全て同じ時代に堆積したと単純に考えることは難しく、桜川低地の地形発達史の解明には様々な課題が残されている。

    謝辞:本研究の検討にあたって、帝京科学大学の植木岳雪教授と上高津貝塚ふるさと歴史の広場の一木絵里学芸員には、ボーリングコア試料の観察の機会を頂き、研究内容に関してアドバイスを頂いた。心から感謝申し上げる。

  • 風岡 修, 小島 隆宏
    セッションID: T8-O-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに:2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の際,東京湾岸埋立地では地盤の沈下や噴砂・噴水を伴う液状化-流動化現象が斑状に発生した.袖ヶ浦市長浦の埋立地では沈下を伴う噴砂が複数箇所で見られた.これら噴砂の近傍には地震観測点があり,計測震度は5弱であった(千葉県環境研究センター,2011).東京湾岸埋立地において噴砂が見られた場所の近傍に設置されていた地震観測点での計測震度はほとんどの場所で5強であり,調査地点は揺れが小さかったものの液状化-流動化被害が生じた特異点と考えられる.この原因を調べるため,噴砂地点ではオールコアボーリングを,地震観測点から噴砂箇所までの水平距離約100mの間は動的コーン貫入試験を行い地質条件の変化を調べた.

    調査地の土地改変履歴と調査の概要:調査地は1960年以前は干潟であり,1960年代初期に干拓され水田となった.1960年代末から1970年初めにはサンドポンプ工法により埋め立てられ,土地造成後現況の土地利用となった.

     オールコアボーリングは,噴砂が見られた北緯35度26分57秒,東経139度59分21秒,標高3.4mにて深度16mまで行った.動的コーン貫入試験は,斜面調査用簡易貫入試験機にて深度4.5~11mまで行った.

    地層構成:オールコアボーリング地点では,深度4.15mに人自不整合があり,この上位は人工地層,下位は沖積層である.また,深度15.11mを境に地層の硬さや層相が急変する不整合面があり,この上位は沖積層,下位は下総層群である.

     下総層群は,灰白色~オリーブ黄色の良く締まった細粒砂層を主体とする.不整合面直下では,この砂層が風化・土壌化し,植物の根の跡が多数見られる.

     沖積層は,泥層主体の上部と砂層や礫層を挟む泥炭質な泥層である下部から構成され,その境は深度11.15mである.

     下部は,オリーブ黒色~黒褐色の軟らかい有機質シルト層や泥炭層及び緑灰色粘土質シルト層とオリーブ色の締まった中粒砂層,粗粒砂層,中礫層が互層をなしている.砂層中には植物片が含まれる.

     上部は灰色~灰オリーブ色の軟らかい泥層から構成され,深度4.65mよりも上位にはサンドパイプ状の生痕化石をしばしば含む.また,深度4.15~4.26mは締まった貝殻密集層である.

     人工地層は,深度4.01~4.15mの下部盛土アソシエーション,深度0.28~4.01mの埋立アソシエーション,深度0.00~0.28mの上部盛土アソシエーションから構成される.

     下部盛土アソシエーションは,灰オリーブ色の泥・細粒砂混じり粗粒砂層から構成され,植物片や貝殻片を含む.1960年代の干拓時の盛土と考えられる.

     埋立アソシエーションは,淘汰の良い細粒砂層を主体とし,厚さ5~30cmの貝殻片を含む中粒砂層や,厚さ5~10cmの貝殻片や細礫が混じる中粒ないし粗粒砂層を挟む.細粒砂層の多くは葉理が消失又は不明瞭となっている.貝殻片や細礫が混じる中粒ないし粗粒砂層の多くは葉理が明瞭である.これらはサンドポンプによる埋立層と考えられる.

     上部盛土アソシエーションは,シルト礫密集層と砕石質細粒砂層から構成される.最終的な土地造成時の盛土と考えられる.

    動的コーン貫入試験結果:オールコアボーリング近傍での貫入試験結果から,Nc(動的コーン貫入試験値)と地層との関係は以下のようにまとめられる.最下位のNc>45と硬い部分は下総層群,この上位のNc=25~45で深度方向へ硬さが互層状に変化する部分は沖積層下部,この上位のNc=4~30で深度方向へ徐々に硬くなる部分は沖積層上部,Nc=1~30で深度方向に硬さが互層状に大きく変化する部分は人工地層と推定される.ここで,地震観測点近傍では,厚さ約4mの人工地層の下位に厚さ約0.5mの沖積層下部があり,その下位は下総層群である.一方,地震観測点から噴砂地点へ向かうにつれて,人工地層の厚さに変化はないものの,沖積層は徐々に厚くなり噴砂地点では約11mとなる. 

    液状化-流動化に関して:液状化-流動化の判定は,風岡ほか(1994)・風岡(2003)に基づき判断した.埋立アソシエーションの下部・中部の大部分では葉理が不明瞭ないし消失しており,この部分が地震時に液状化-流動化したものと考えられる.地震観測点では人工地層の下位の軟弱な沖積層はごく薄いものの,噴砂が見られた付近では厚く,この沖積層部分で地震動が増幅し震度5弱を超え,人工地層が液状化-流動化したものと推定される.       

    引用文献:

    千葉県環境研究センター,2011,千葉県環境研究センター報告,G-8, 3-1~3-25.

    風岡 修ほか,1994,日本地質学会第101年総会・討論会 講演要旨,125-126. 

    風岡 修,2003,液状化・流動化の地層断面.アーバンクボタ40号,5-13.

  • 野々垣 進, 米岡 佳弥, 中澤 努, 小松原 純子
    セッションID: T8-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    産業技術総合研究所地質調査総合センター(以下,GSJ)では,経済産業省による知的基盤整備の一環として,自治体と協力しながら”都市域の3次元地質地盤図”の整備に取り組んでいる.この取り組みは,ボーリングデータを利用して都市域の地下数十メートルにおける地層の分布形態を明らかにするとともに,得られた地質構造の3次元データ(3次元地質モデル)をWeb上で広く公開するものである.これまでに千葉県北部地域(納谷ほか,2018)と東京都区部(納谷ほか,2021)についての整備が完了しており,これらはGSJのウェブサイト「都市域の地質地盤図」[URL1]で閲覧可能である.本発表では,上記の2地域に続いて現在公開準備を進めている埼玉県南東部の3次元地質地盤図に関して,その作成方法とWeb公開コンテンツの詳細について紹介する.

     埼玉県南東部の3次元地質地盤図作成では,まず層序区分の手掛かりとなる層相,年代,化石,物性などの情報をもつ層序ボーリングデータ(基準ボーリングデータ)を整備した.そのうえで,当該地域の地下約100m以浅を形成時期の古いものから順に地蔵堂層,薮層,上泉層,清川層,木下層下部,木下層上部,大宮層,沖積層という8つの地層に区分した.次に基準ボーリングデータを軸として,公共工事で作成された大量の既存ボーリングデータについてどの部分がどの地層なのかを指定する地層対比処理を行った.利用した既存ボーリングデータは,埼玉県から提供いただいたものが中心で,そのほか国や学術団体から公開されているデータを含む.続いて,野々垣ほか(2008)の手法に基づき,地層対比処理で得た各ボーリング地点における地層基底面の標高情報を用いて,各基底面の形状を推定した.最後に,地層の切った切られたの関係を考慮しながら各地層基底面および地形面を重ね合わせることで,サーフェスモデル型の3次元地質モデルを得た.

     作成した3次元地質モデルは,千葉県北部地域や東京都区部のケースと同様に,平面図や断面図,立体図などのWebコンテンツとして公開する.各コンテンツはいずれもマウス操作のみで利用可能である.平面図については,地表での地質分布を示す通常の平面的な地質図に加え,3次元地質モデルを構成する地層基底面の等高線図をWebマップとして閲覧できる.断面図については,始点と終点の位置を指定することで任意の測線に沿った地質断面図を作成できる.立体図については,地表面や地層基底面の形状を,岩相やN値に従って配色したボーリングデータと合わせて確認できる.このようなWebコンテンツは,誰もが容易に地下における地層の広がりを確認することを可能とする.

     3次元地質地盤図は,上記のような地質構造の高い可視性に加えて,3次元データであるという特徴からインフラ整備や地盤リスク評価など,さまざまな用途が期待できる.今後は神奈川県東部や千葉県北部延長地域などへ整備範囲を拡大しつつ,首都圏主要部をシームレスにつなぐ3次元地質地盤図の整備を目指す予定である.

    文献

    納谷友規ほか(2018)都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書).55p.

    納谷友規ほか(2021)都市域の地質地盤図「東京都区部」(説明書).82p.

    野々垣進ほか(2008)3次B-スプラインを用いた地層境界面の推定,情報地質,Vol.19,pp.61–77.

    [URL1] 産総研地質調査総合センター,都市域の地質地盤図,https://gbank.gsj.jp/urbangeol/.

  • 吉田 剛, 風岡 修, 小島 隆宏
    セッションID: T8-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    要旨  千葉県北西部には標高20〜40 mの下総台地が広がる.この台地は中期〜後期更新世の堆積層である下総層群から主に成り,下位より地蔵堂層,藪層,上泉層,清川層,横田層,木下層,姉崎層の各累層と常総粘土で構成される.さらに,これらの上位にはロームが重なり台地表層部をつくる.低地には上述の累層が侵食され,その谷に沖積層が分布する.本地域の水文地質構造の単元区分は,千葉県と関係市町村が行った地質環境調査用オールコアボーリングを基に,千葉県八千代市を模式地とし単元名が設定された(風岡ほか,2013,2018;吉田ほか,2017).これらは,広域に対比できる透水層を上位から下位にYK-S1, S2, S3, S4, S5透水層,各透水層を仕切る難透水層をYK-C1, C2, C3, C4難透水層とした.この水文地質構造の透水層・難透水層と下総層群の累層の上部(浅海成の砂層主体)・下部(内湾〜淡水成の泥層主体)は,地層の主要部においておおよそ一致する(風岡ほか,2018・納谷ほか, 2018).ただし,累層の基底に河川成の砂礫層がある場合,この砂礫層は累層下部の泥層(側方への連続性の良い内湾〜淡水成の泥層である難透水層)よりも下位にあるため,水文地質単元では,下位の累層上部の砂層と同一の透水層として単元が設定されている.たとえば,下総層群薮層の基底には一部の地域で砂礫層が分布し,下位の地蔵堂層上部の砂層と合わせてYK-S4透水層を成す.同一の透水層区分であっても砂礫層の存在する箇所は特に地下水の流動速度が速いことから,地下水汚染の発生時には敏感に汚染を検出できることや汚染の移動が速いことが考えられる.

     今回,薮層基底の砂礫層について,千葉県で行った地質環境調査用ボーリングおよび産業技術総合研究所地質調査総合センターの基準ボーリングの柱状図を用い,千葉県地質環境インフォメーションバンクと対象市町村の災害用井戸の地質柱状図の中から薮層最下部に砂礫層が存在する場合はその等層厚線図を作成し,また,薮層の基底面標高図を作成し検討した。薮層基底の礫層の存在は,県最北西部の野田市(標高−90 m付近),柏市北部・我孫子市西部(標高−70 m付近)・印西市西部(標高−60 m付近)・白井市中央部(標高−70 m付近)・八千代市北部(標高−60 m付近)・松戸市・四街道市まで分布することが明らかになった.

    引用・参考文献

     風岡 修・吉田 剛・藤ヶ崎稔・清水健一・長根山晧介・鈴木博也・楠田 隆 ・酒井 豊・楡井 久,2013,下総台地中央部の更新統の透水層構造と地下水質の概要—印西市〜八千代市について—.第 23 回環境地質学シンポジウム論文集, 23,69–74.

     風岡 修・吉田 剛・香川 淳・八武崎久史・潮崎翔一・荻津 達,2018, 第6章 応用地質及び環境地質.都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書),35–44.

     納谷友規・中澤 努・野々垣進・中里裕臣・風岡 修・吉田 剛,2018,第3章 応用地質及び環境地質.都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」(説明書),7–22.

     吉田 剛・風岡 修・楡井 久・楠田 隆・酒井 豊・古野邦雄・坂田健太郎, 2017, 千葉県北西部に広域に連続する難透水層(YK-C1,YK-C2)の分布.第27 回環境地質学シンポジウム論文集,125–130.

     高嶋洋,2008,最も脆弱な帯水層と地質環境管理.地質汚染―医療地質―社会地質学会誌,4, 43-54.

  • 小田原 啓, 本多 亮, 長岡 優
    セッションID: T8-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    文部科学省では、令和5年度より3か年計画で「三浦半島活断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」(研究代表者:東京大学地震研究所 石山達也准教授、参画機関:東京大学地震研究所、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所)が実施しており、温泉地学研究所はサブテーマ4「地域連携勉強会」を主として担当している。地域連携勉強会を通じて調査観測の成果を示すとともに、地震防災に対する課題やニーズを吸い上げることを目指すため、地方自治体やライフライン事業者との連携が不可欠である。そこで、まず本事業に対する理解を得るため、三浦半島活断層調査会定例会、神奈川県くらし安全防災局、神奈川県の県・市町村災害対策等検討会において事業説明を実施した。事業説明に併せて、自治体担当者を対象として地域連携勉強会についてのアンケートを実施した。また、ライフライン事業者に対してはメールにて同様のアンケートを送付した。アンケートは地域連携勉強会を実施するにあたって、担当者のニーズを把握することを目的とし、地震防災に関する一般的な質問と地域連携勉強会の実施方法についての質問を設けた。アンケートの結果を見ると、いくつか重要な課題があることがわかった。地震調査研究推進本部や内閣府などが発表する情報は地震防災対策を考える際の基礎的な情報として認識されている一方、内容が難解で理解に時間がかかる、情報量が多く必要な情報の選択が難しいといった意見が見られた。また、事業者によっては特定の地域(線区など)で解像度の高い情報を必要とすることがわかる。強震動予測や断層位置など、解析手法や調査地域における様々な制約から分解能に限界がある場合には、丁寧に説明する必要がある。今後の勉強会の方向性については、形式としては講演会や意見交換会、報告書といった形での情報共有の希望が多かった。ただし、内容としては単なる事業の成果報告ではなく、関東地域の地震や断層などより基礎的な部分を知りたいとの要望もあった。こういった結果を踏まえると、既存の事業成果は必ずしも理解しやすい、あるいは使いやすいものとなっていない可能性があることから、本事業での成果の情報共有を行う際には、受け取る側が理解しやすいような工夫をすることが重要である。次に、本事業において構造探査がどのように行われるかを実際に見てもらい、具体的なイメージを持って理解を深めてもらうため、自治体担当者やライフライン事業者を対象として横須賀市武山において人工地震探査の現地見学会を実施した。参加者は地元自治体やライフライン事業者の5機関6名であった。現地見学会では、最初に石山准教授に本調査観測が三浦半島断層群 (主部/武山断層帯)の長期評価と強震動予測の高度化に資することや、反射法地震探査の概念と活断層のイメージングの方法、調査の概要(期間、測線、振源等)について説明していただき、起振車が実際に地面を叩いて振動を起こす様子や、受振点の設置状況を見学してもらった。参加者からは断層帯の長期評価が時空間的にどの程度高度化されるのかという質問があったほか、今回の調査結果が地震被害想定にどのように関係するのか興味を持ったという感想や、来年度以降も現地見学会を継続してほしいという要望が寄せられ、本調査観測に対する興味や理解が深まった手応えが得られた。令和6年度は7月末に自治体防災担当者及びライフライン事業者に向けた本事業の進捗状況を説明する講演会の開催を予定しており、さらに自治体やライフライン事業者だけではなく学校現場の地震防災教育に関するニーズを捉えるために教職員向けのアンケート調査を実施している。本講演ではその結果についても概報したい。

T9.九州と琉球弧の地体構造枠組み:最新の年代測定と視点
  • 斎藤 眞
    セッションID: T9-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1990年より,九州中央〜南部の “四万十帯”,“秩父帯”,“黒瀬川帯”を含む地質図幅の調査を行ってきた.九州の中南部を基盤岩類の分布を縦断するように5万分の1地質図幅「末吉」(斎藤ほか,1994),「椎葉村」(斎藤ほか,1996),「砥用」(斎藤ほか2005)を作成し,それらを基準にして20万分の1地質図幅「宮崎」(斎藤ほか,1997),「開聞岳及び黒島の一部」(川辺ほか,2004),「屋久島」(斎藤ほか,2007),「中之島及び宝島」(中野ほか,2008),「徳之島」(斎藤ほか,2009),「八代及び野母崎の一部」(斎藤ほか,2010),「大分」(星住ほか,2015)を公表してきた.

    九州は帯状構造をしていないように見えるため,例えば2016年発行のGeology of Japanでも本州は時代別に記述されているが,九州は別立てである.しかし,関東〜南西諸島まで,非変成の付加体の分布は地表で連続する.九州では白亜紀以降の付加体が低角な地質構造をもつこと,後期中新世以降引張場に置かれ正断層が発達し低角な地層の境界を大きく変異させること,中央部では三波川変成岩類が地下に潜り,東部と西部にしか分布せず,地表には広く古生代〜中生代の高圧変成岩類(旧三郡変成岩類)や,白亜紀深成・変成岩類が分布すること(場所によっては三波川変成岩類が白亜紀深成岩類より北側に露出する)などが,地質の認識が進まない理由であろう.

    これまでの地質研究で主に明らかになってきたことは以下の通りである.

    ”黒瀬川帯”の構成岩類(前期古生代深成・変成岩類,ペルム紀付加体,古生代〜中生代高圧変成岩類,古生代〜白亜紀正常堆積物)は,ジュラ紀付加体の構造的上位に蛇紋岩を伴う断層関係で構造的に重なり,走向方向に平行な軸を持つ向斜部に分布する.これは松本・勘米良(1952)*1で知られていたとおりで,磯﨑・板谷(1991)*2のいう黒瀬川クリッペは九州では普通に認識できる.これは,九州の基盤岩類が形成後の変形が少ないことが影響している.

    三波川変成岩類は佐賀関半島から西に地下に潜った後,天草の西側と西彼杵半島で地表に現れる.一方,三畳紀〜前期ジュラ紀の変成年代を持つ周防変成岩類は臼杵-八代構造線付近まで分布し,”黒瀬川帯”のメンバーとして分布する.Isozaki and Itaya(1989)*3が臼杵市の海岸沿いの大野川層群中に見いだした前期ジュラ紀の高圧変成岩礫と同じ年代の変成岩は,そのすぐ南側に分布する.

    九州の古第三紀付加体(“四万十帯”の日向層群)は,白亜紀付加体(諸塚層群)形成後,2500万年以上空けて,中期始新世に急に形成が始まる(Saito,2008*4).両者は沈み込んだ海洋プレートの年代も大きく異なる可能性が高く,”四万十帯”と一括するには問題が大きい.一方,天草の正常堆積物の層序の空白は,付加体が形成されていない時期とほぼ一致する.付加体の形成と前弧海盆(島弧内)の堆積物の形成,トカラ海峡以南の古第三紀火成活動など関連づけて日本列島の発達史を考える必要がある.

    九州の付加体は,削剥深度が浅く,付加体を覆う堆積物がしばしば残る.”四万十帯”と呼ばれる地域では,砂と泥が主体で区別が難しい.構成物の上下の年代極性,堆積相の特徴,変形の程度,大型化石の有無,微化石群集の違いなどを元に,付加体か正常堆積物か判断し地質図に表現してきた.白亜系では南薩の知覧層や,北薩の柊野層などが正常堆積物にあたり,四国の宇和島層群に相当する.また同様の堆積物は古第三紀末の日南層群では昔から知られており,日向層群を覆うところもある.地向斜から一旦は付加体と認識された地層群,特に”四万十帯”の地層群については,付加体か否かを冷静に検討べきである.一方,ジュラ紀付加体では,付加体を覆う堆積物は,海溝斜面の堆積物やその崩壊物が付加体を覆うことが知られている(石田. 2006*5など).また,南縁部の後期ジュラ紀〜白亜紀初頭の付加体(“三宝山帯”)を覆う堆積物(鳥巣層群相当層)も地質図に表現している.

    九州パラオ海嶺の沈み込み西南日本弧と琉球弧の会合部にあたる九州の地質から見ると,古第三紀付加体と大陸側の正常堆積物の関係と同様,四国海盆の沈み込み,外帯花崗岩の形成,三波川変成岩類の露出域の関係性,現在の火山フロントの位置,カルデラ噴火の発生など興味深い点が多いと考えている.

    文献(地質図幅を除く)

    *1 地質巡檢旅行案内書「球磨川下流々域」(第59回地質学会)

    *2 地質雑, 97,431-450.

    *3 Isozaki and Itaya(1989)J.Geol.Soc.Japan,95,361-368.

    *4 Island Arc,17,242-260.

    *5熊本大理紀要(地球科学),18,69-87.

    図)https://www.gsj.jp/hazards/earthquake/kumamoto2016/kumamoto20160513-2.html

  • 青木 一勝, 小平 将大, 八木 公史, 藤原 泰誠, 岡田 郁生
    セッションID: T9-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本には4つの主要な低温高圧型変成岩(以下、高圧変成岩)が広く分布し、それぞれ蓮華変成岩(古生代)、周防変成岩(前期中生代)、智頭変成岩(ジュラ紀)、三波川変成岩(白亜紀)と呼称される。それらは、互いに同一の変成相系列の中で構造的に累重する場合や、弱変成付加体に対しブロック状、もしくはサンドウィッチ状構造で産することが多い。このような特徴的な産状は高圧変成岩の形成/上昇プロセス理解の鍵になるため、高圧変成岩の空間分布(地体構造区分)の特定は欠かせない。そのなかで本研究は、智頭変成岩に注目した。なお、智頭変成岩と周防変成岩はこれまで同一変成岩とみなされ「三郡変成岩」や「周防変成岩」と呼ばれてきたが、近年の年代学的研究結果を考慮し両者を区別した(例えば、磯崎ほか,2010)。智頭変成岩は九州から中国地方にかけて分布する。特に九州西部に分布する智頭変成岩は三波川変成岩相当の岩石に対し構造的上位に累重する地質構造を示し、両者は一括して「長崎変成岩類」と呼称されてきた。今回、長崎変成岩類が分布する野母半島南西部地域の北東延長部にあたる茂木地域に注目した。同地域は、変成度解析からユニットI(パンペリー石-アクチノ閃石相から緑色片岩相相当)とユニットII(緑色片岩相から青色片岩相相当)に区分されている(西村ほか,2004)。また、白雲母K-Ar年代値にも違いがあり、ユニットIでは162–214 Ma、ユニットIIでは86–87 Maの値を示すため、そのユニット境界は地体構造境界「野母構造線」として知られている(西村ほか,2004)。野母半島南西部地域など他の地域に分布する長崎変成岩類からも同様の報告があり(例えば、Nishimura et al., 1998; Miyazaki et al., 2019)、長崎変成岩類が変成年代の異なる2種類の広域変成岩からなることを裏付ける。しかし、弱変成岩の白雲母 K-Ar 年代は,200–300℃の変成温度ゆえの再結晶不完全性による砕屑性白雲母の残存によってその値が実際の年代値よりも古くなる場合がある。したがって、ユニットIから報告されている変成年代値の約5000万年の年代幅についても砕屑性起源白雲母の混入に起因する可能性がある。そこで、我々はユニットIの変成年代を再検討するため、実験的に泥質変成岩2試料(NG22-01 & -03)に水簸法(例えば、加藤ほか,2020)を適用し、白雲母K-Ar年代測定を行なった。砕屑性白雲母は経験的に変成白雲母よりも粒径が大きい傾向があるため、この性質を利用した分離法である水簸法を採用することで砕屑性白雲母の混入を抑える効果が期待される。測定試料のカリウム含有量はNG22-01が5.5 wt%、NG22-03が3.5 wt% であった。前者に比べ後者のカリウム含有量はやや低かったが、得られた K-Ar 年代値(誤差 2σ)はそれぞれ81.5 ± 1.8 Ma(NG22-01)と83.8 ± 1.9 Ma(NG22-03)であり、試料間で大きな年代の違いは確認されなかった。本研究で得られた結果は従来ユニットIから報告されている年代値(162–214 Ma)に比べ優位に若く、またユニットIIから報告されている年代値(86–87 Ma)と大きくは変わらない。このことは過去の年代測定試料が砕屑性白雲母の影響を強く受けていたとする考えと矛盾しない。また、茂木地域における野母構造線はこれまで推定された位置よりも東側、もしくはユニットIとIIともに三波川変成岩相当であり、茂木地域には地体構造境界としての構造線は存在しない可能性を示す。今後水簸法を用いた白雲母K-Ar年代測定を広く行い、長崎変成岩類の空間分布をより詳しく検討していく必要がある。

    引用文献 

    磯崎ほか, 2010. 地学雑誌, 119, 999–1053.西村ほか, 2004. 地質学雑誌, 110, 372–383. Nishimura, 1998. J. metamorphic Geol., 16, 129–140.Miyazaki, et al., 2019. CMP, 174, doi.org/10.1007/s00410-019-1629-8.加藤ほか,2021. 地質学雑誌, 127, 437–442.

  • 堤 之恭, 谷 健一郎, 山本 啓司, 磯﨑 行雄
    セッションID: T9-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本弧の帯状内部構造は琉球弧まで連続すると長くみなされてきた(小西, 1965; Kizaki, 1986; 磯﨑・西村, 1989など).北部琉球弧には四万十南帯が露出しており(桑水流・永津, 2007;斎藤ほか, 2007),同帯の北帯との境界にあたる安芸構造線(ATL)はその西側を通る.中部琉球弧の奄美群島には秩父帯,四万十北帯のみが露出するが,沖縄島には再び四万十南帯が現れる(中江ほか, 2010;斎藤ほか, 2009;竹内, 1994).南部琉球弧は四万十帯より大陸側に起源を持つジュラ紀付加体とペルム紀変成付加体のみからなる(磯﨑・西村, 1989).このように,仏像構造線(BTL)の通過位置は中部琉球弧で未確認であり,特に奄美群島でのATLおよびBTLの位置の解明が必要である.奄美大島の基盤は付加体(湯湾・名音・奄美コンプレックス)からなり(竹内, 1994),名音・奄美コンプレックスの砕屑性ジルコン年代スペクトルは,四国の四万十北帯の構造的上部(栩谷・日野谷・オソ谷ユニット;Hara et al., 2017)のものに対比される.BTLは同島の湯湾-名音コンプレックス間を通ると思われるが,その南隣の徳之島および沖永良部島に関してはデータが得られていない.

     本研究で徳之島および沖永良部島の付加体砂岩の砕屑性ジルコンU-Pb年代を測定した結果,徳之島北半の天城岳コンプレックス(山本ほか仮称)が四国の四万十北帯の上部に,一方,南半の尾母コンプレックス(同上)が同北帯下部(谷山・日和佐ユニット;Hara et al., 2017)に対比されることが判明した.これらの四万十北帯砂岩はいずれも2000-1800 Maの古期ジルコン粒子を含む点で共通する.これに対して,沖永良部島の付加体(根折層)砂岩は全く異なる年代スペクトルを持つ.前期白亜紀および三畳紀-ジュラ紀のピークが卓越する一方で,1粒子ながら始新世のジルコン粒子が確認されたため,その堆積年代は始新世(以降)で,四万十南帯に属すると考えられる.さらに新原生代を含む雑多なピークを持つ.

     以上より,BTLは徳之島の北西沖合を,またATLは徳之島-沖永良部島間の海域を通過すると考えられる.さらに南方の沖縄島や南琉球への連続性の確認のためは,沖永良部島南西の与論島の付加体の検証が,また四万十帯付加体砂岩の後背地の広域的な経時変化については,広大な東シナ海の海底基盤の地質を合わせて考察する必要がある.

    Hara et al. (2017) Island Arc 26, e12218.; 磯﨑・西村(1989)地質学論集 33, 259-275.; Kizaki (1986) Tectonophysics 125, 193-207.; 小西(1965)地質学雑誌 71, 437-457.; 桑水流・永津(2007)鹿児島県博研報 26, 1-11.; 中江ほか(2010)20万分1地質図「与論島及び那覇」; 斎藤ほか(2007)地雑 113, 266-269.; 斎藤ほか(2009) 20万分1地質図「徳之島」.; 竹内(1994) 20万分1地質図「奄美大島」.

  • 磯崎 行雄, 山本 啓司, 堤 之恭
    セッションID: T9-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    琉球弧の先新生代地殻は、基本的に西南日本の地体構造単元の南西延長から構成されている(中川, 1967; Kizaki, 1986; 磯﨑・西村, 1989など)。その中で、九州と沖縄本島との間の北・中琉球の島々には主に四万十帯付加体が分布し、例外的に奄美大島や沖縄本島には秩父帯付加体が小規模に産する(Osozawa et al., 2009; 堤・谷, 2018)。奄美大島の南隣の徳之島にも非-弱変成付加体が産し、四万十帯の延長部とみなされている(斎藤ほか, 2009)。しかし、最近になって徳之島中央部の山岳域に、角閃岩相に達する高度変成岩が発見され、さらに小規模に随伴される超塩基性岩と変閃緑岩が確認された(Ueda et al., 2017; Yamamoto et al., 2022)。いずれも西南日本の四万十帯の中にはほとんど産しない岩石群であり、その地体構造上の位置付けが注目されることから、山本・磯﨑(投稿中)は同島に広く露出する弱変成四万十帯付加体と区別するために、この変成岩体を「井之川岳編成複合体」と、またその分布域を「徳之島帯」と呼ぶことを提唱している。「徳之島帯」は同島最高峰である井之川岳(海抜645 m)およびその南側の地形的高所(約8 km x 5 kmの範囲)に分布する。さらに島西部の秋利神川河口域に小分布がある。主に泥質・砂質片岩からなり、数100 m長の蛇紋岩、変閃緑岩、および塩基性角閃岩のレンズ状岩体を挟む。泥質・砂質片岩は、明瞭な片理や眼球組織の他に、露頭規模の折りたたみ褶曲などの剪断応力による強い変形を、また塩基性岩は角閃岩相の低圧高温部にあたる変成作用を被っている。"変閃緑岩"には約67 Ma (白亜紀最末期)のジルコンを含む岩体がある。砂質片岩中の砕屑性ジルコンには古原生代以降の多様な年代の粒子が含まれ、最若粒子は59 Ma(古第三紀暁新世)の年代を持つ。したがって、変成作用の年代はおそらく始新世ないし以降と判断される。これらの変成岩類は概ね低角度で北傾斜の内部構造を持ち、見かけ下位の四万十帯非変成付加体の上にほぼ水平なクリッペ状に産する。両者間の境界は密林の中で未確認であるが、両者が漸移することはない。以上のことから、井之川岳変成岩類は始新世以降に、非・弱変成付加体の構造的上位に低角度断層を介して二次的に累重したと推定される。このような高度変成岩の産出と産状は、西南日本や琉球弧の四万十帯では報告例がなく、徳之島の地質の特殊性を物語っている。一方で、徳之島では約65 Ma(白亜紀・暁新世境界頃)花崗岩類が四万十帯付加体へ広く貫入しており、接触変成を与えている。その年代は中国地方の山陰帯の花崗岩類に相当するが、中国・四国地方では、山陰花崗岩帯と四万十帯とは南北方向に200 km近く地理的に大きく隔てられているのに対して、徳之島で両者が重複することは特異である。古第三紀マグマ活動域が過去の付加体などが作る帯状配列に対して斜交して起きたと推定され、古第三紀火山フロントは中国地方に比べて琉球弧では大きく海洋側へ張り出していた可能性がある。徳之島の花崗岩類の年代と井之川岳変成複合体の変成年代は共に暁新世前後であり、一見近似するが、同島での花崗岩貫入は局所的な接触変成部を残す程度で、強い変形作用を伴っていない。特に島北半に比べて高度変成岩体が産する島南半では花崗岩類の貫入自体が小規模であり、徳之島の花崗岩類自体が角閃岩相にまで及ぶ変成・変形作用を起こしたとは考え難い。もともと表層にあった砕屑岩などが地殻中部レベルで角閃岩相の変成作用を受けたと考えられるが、変成岩体が超塩基性岩とともに地殻表層で非変成付加体の上に定置された場は、鉛直方向のみならず水平方向でも変成場から大きく離れていたはずで、大規模な二次的地殻短縮が推定される。暁新世砕屑性ジルコンを含む砂質片岩の原岩として、四万十帯の付加体砂岩、基盤岩を不整合に覆う浅海成砂岩、あるいはその両方である可能性が考えられる。新たな展開を見せている徳之島の形成史解明のため、演者らは同島の諸岩石の追加年代測定を試みている。

    文献:中川 (1976) 東北大地質古生物研報 63; Kizaki (1986)Tectonophysics 125; 磯﨑・西村 (1989) 地質学論集33; ; Osozawa et al. (2009) Geol. Soc. Amer. Bull. 121; 堤・谷 (2018) 鉱物科学会要旨 R7-01; 斎藤ほか (2009) 1/20万地質図「徳之島」地質調査所; Ueda et al. (2017) Island Arc 26; Yamamoto et al. (2022) Int. Geol. Review 64; 山本・磯﨑(投稿中)地学雑誌.

  • 福山 繭子, 小笠原 正継
    セッションID: T9-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    九州の南,南西諸島において,琉球弧に沿った琉球列島の島々には,主に古第三紀と中新世の花崗岩類と珪長質火山岩類が点在する.小笠原・福山(2017)および福山・小笠原(2018)は,奄美大島,徳之島,沖永良部島,沖縄本島,石垣島の花崗岩類および珪長質火山岩類のジルコンU-Pb年代を報告し,これらのうち,代表的な花崗岩類16試料について全岩主成分・微量元素分析及びSr・Nd同位体比分析を行い,花崗岩類の成因について検討した.谷・堤(2018)は,奄美諸島花崗岩類の形成年代を検討し,またYamamoto et al. (2022)は,徳之島の花崗岩類のジルコンU-Pb年代を報告している.これらの研究以前は,琉球列島の花崗岩類の年代としてK-Ar年代,全岩Rb-Sr年代,およびFT年代が報告されていたが,ジルコンU-Pb年代測定により,琉球列島の珪長質火成活動の年代が明確となった.各島におけるジルコンU-Pb年代の報告は以下の通りである.

    <奄美大島> 北から笠利,冠岳,市,勝浦,古仁屋,安脚馬,請島の花崗岩類は7岩体が分布するが,小笠原・福山(2017)はその中の,笠利,市,古仁屋,安脚馬についてジルコンU-Pb年代測定を行い,62.0±1.0 Ma,65.9±1.8Ma,61.7±0.6 Ma,62.2±0.5 Maという年代値が得られている.

    <徳之島> 徳之島の与名間,金見,轟木の3花崗岩体と島南部の点在する小規模花崗岩体のジルコンU-Pb年代を測定し,それぞれ,64.40±0.6Ma - 62.7±0.6 Ma(与名間2試料),63.7±0.9 Ma,73.5±0.8 Ma,64.5±1.1 Maであることを示した(小笠原・福山,2017).Yamamoto et al. (2022) は花崗閃緑岩から61.3±1.0 Maの年代を得ている.

    <沖永良部島> 島の中央部の花崗岩と東部の花崗斑岩の2試料のジルコンU-Pb年代測定の結果,17.1±0.3 Maおよび17.3±0.2 Maという年代値が得られている(小笠原・福山,2017).

    <沖縄島> 石英斑岩について10.5±0.2Maの年代が示されている(小笠原・福山,2017).

    <石垣島> 於茂登岩体,茶山岩体と流紋岩について,それぞれ33.3±0.4 Ma - 32.5±0.5 Ma(於茂登2試料), 32.6±0.6 Ma, 32.0±0.5 Maと求められている(小笠原・福山,2017).

     本研究では,今まで検討されていない幾つかの岩体について,新たにジルコンU-Pb年代測定を行なった.その結果,奄美大島の北西部に分布する多数の小規模な花崗岩岩脈(Osozawa, 1984)の年代は,17.2 ±0.2 Maであり,奄美大島にも中新世の花崗岩類が存在することが明確となった.この年代は沖永良部島の花崗岩の年代と同じである.また沖縄本島の中心部に産する花崗斑岩の年代は10.8 ± 0.2 Maとなり,上記で報告された石英斑岩の年代と同じである.これらの結果から,琉球弧における火成活動の時期は,中琉球における66-61 Ma,南琉球の石垣島における32 Ma,中琉球の奄美大島と沖之永良部島における17 Ma,そして沖縄本島における11Maと4つの活動時期があったことが明らかになった.またこれら岩石の全岩化学組成から琉球弧における火成作用の特徴および成因について議論をする.

    引用文献

    福山繭子・小笠原正継(2018) 2018年度日本地球化学会第65回年会講演要旨集,121.

    小笠原正継・福山繭子(2017) 日本地質学会124年学術大会講演要旨, R5-O-22.

    谷健一郎・堤之恭(2018) 日本地球惑星科学会, S-CG60-05O.

    Osozawa, S.(1984) Sci. Rep. Tohoku Univ., Ser.2(Geology), 54,165-189.

    Yamamoto H. et al.(2022) International Geology Reviews, 63, 1-16.

  • 澤木 佑介, 坂田 周平, 大野 剛
    セッションID: T9-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    琉球弧は日本列島南西端に位置し、西南日本の地体構造単元の南西延長と考えられている。面積的には小さいものの、日本列島の構造発達史において、各造山運動の側方連続性を議論する上で欠かせない地質体である。西南日本の大部分を構成する白亜紀~古第三紀の花崗岩類は大きく3分され、大陸側から山陰帯、山陽帯、領家帯とされる(石原, 1974)。そのおおよその火成年代は30~70Ma、70-105 Ma、70-100Maであり、山陰帯には磁鉄鉱系列の花崗岩類が多い一方、山陽帯及び領家帯にはチタン鉄鉱系列の花崗岩類が多い(中島, 2018)。最近、中琉球の徳之島から約65Maの閃緑岩が報告され(Yamamoto et al., 2022)、山本&磯﨑(投稿中)ではこの閃緑岩が山陰帯に帰属する可能性を述べた。これは、山陰帯が中琉球まで延長される事を意味する。徳之島よりもさらに南西に位置する南琉球・八重山列島にも花崗岩が産出するが、その帰属は不明である。本研究では石垣島に産する花崗岩の年代及び化学的特徴から、八重山列島の花崗岩の帰属について議論する。

     石垣島西部に産する花崗岩体は於茂登プルトンと呼ばれ(川野&加藤, 1990)、加藤&永瀬(1983)はそれらが磁鉄鉱系列に属すると指摘した。於茂登プルトンから新鮮な花崗岩を採取した。主要構成鉱物は石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、緑泥石であり、副次成分として最も多量なのはイルメナイトであり、磁鉄鉱は見つからなかった。岩石から粉末及びガラスビードを作成し、全岩化学組成をXRF及びICP-MSを用いて測定した。加えて単離したジルコンの206Pb/238U比をLA-ICP-MS/MSを用いて測定した。

     花崗岩のSiO2濃度は76.66wt%であり、ACF図ではI型花崗岩領域にプロットされる。LILEに富み、NbやTaの負異常やPb正異常を示し、島弧花崗岩に一般的に見られる特徴を呈すると共に、HREEに枯渇することは無いため、浅部溶融起源である事が確かめられた。238U-206Pb年代はおおよそ33.0±2.5Maであった。これはジルコンのFT年代(28.7 ± 0.9 – 29.9 ± 1.1 Ma; 大四ほか, 1986)よりやや古く、小笠原&福山(2017)によるジルコンのU-Pb年代報告値とほぼ同じである。於茂登プルトンから得られたU-Pb年代は山陰帯の梅木花崗岩(31Ma; 飯泉・高橋, 2005)、内谷花崗岩(36Ma; 筒井ほか, 2002)、川本花崗閃緑岩(33Ma; Iwano et al., 2013)とおおよそ同じ年代である。於茂登プルトン内で早期晶出したジルコンの(Ce/Nd)Nは0.9程度と低く、副次成分鉱物同様にマグマが酸化的だったという痕跡は得られなかったが、年代の観点から言えば於茂登プルトンも山陰帯に帰属すると考えられる。山陰帯を形成した火成活動は、従来考えられていたよりもかなり広範に及んでいた事が明らかになった。

    文献:石原 (1974) 地質ニュース 243, 23-29; 中島 (2018) 地質学雑誌 124, 603-625; Yamamoto et al. (2022) IGR 64, 425-440; 川野&加藤 (1990) 岩鉱 85, 390-401; 加藤&永瀬 (1983) 日本地質学会要旨集 90, 354; 大四ほか, (1986) 岩鉱 81, 324-332; 小笠原&福山 (2017) 日本地質学会要旨集 124, R5-O-22; 飯泉・高橋 (2005) 島根大学地球資源環境学研究報告 24, 1-11; 筒井ほか (2002) FTニュースレター 15, 15-18; Iwano et al. (2013) Island Arc 22, 382-394.

  • 大和田 正明, 江島 圭祐, 亀井 淳志, 小山内 康人, 宮下 由香里
    セッションID: T9-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本内帯の地質構造区分は,基本的に付加体とその高圧変成部から構成される。また,北東アジア収束帯ではジュラ紀初頭に火成活動が収まった後, 120 Ma頃から九州で火成活動が再開した (Kim et al. 2016, Lithos 262, 88–106)。近年,白亜紀以降のテクトニクスについては,火成活動の年代データに基づいて活発に議論されてきた (Tsutsumi 2022, Is. Arc, doi.org/10.1111/iar.12446; Yamaoka and Wallis 2023, PEPS, doi.org/10.1186/s40645-023-00594-8)。一方で,火成岩の化学的・年代学的特徴を踏まえた議論はJahn (2010, Amer. J. Sci. 310, 1210–1249)による研究のみである。そこで本研究では,ジルコンU–Pb法によるマグマの活動年代と化学的特徴の関係を考慮した火成活動場について議論する。

     中国地方西部から九州中部にかけての先ジュラ系基盤類は,構造的上位から下位へ三郡-蓮華帯,秋吉帯/周防帯そして玖珂層群が累重する。これら基盤岩類を前期白亜紀関門層群が覆う。中国地方西部の白亜紀火成岩類の母岩は,主に秋吉帯/周防帯と玖珂層群なのに対し,九州では,主に三郡-蓮華帯と秋吉帯/周防帯である。前期白亜紀の北部九州では,アジア大陸東縁で発達した横ずれ断層運動による堆積盆(half-graben)の形成に伴って関門層群が堆積した(Okada and Sakai, 1993, Palaeogeogr. Palaeoclim. Palaeoecol. 105, 3–16)。この時,まだ未固結な堆積岩にマグマが貫入している(江島2021,地質雑127,605–619)。すなわち,北部九州では,引張応力場にマグマが貫入したことを示す。一方,中国地方西部の火成活動は,主に圧縮応力場で生じた(Skrzypek et al. 2016, Lithos 260, 9–27)。

     標題地域の白亜紀貫入岩のうち80以上の岩体からジルコンU–Pb年代が報告されている。それらを地域ごとに見ると,120–100 Ma(肥後帯), 115–95 Ma(中・北部九州),105–90 Ma(中国地方西部)と年代幅が地域ごとに異なる。一方で,上述した全てのデータをまとめると,九州と中国地方西部の火成活動は,それぞれ110–105 Maと100–95 Maにピークがあり,105–100 Maは休止期に相当する。

     貫入岩類は,トーナル岩から花崗岩を主体とし,少量のはんれい岩から石英閃緑岩を伴う。九州では,ホルンブレンドを含むトーナル岩から花崗閃緑岩がホルンブレンドを欠く黒雲母花崗岩に貫かれる。また,未分化組成の苦鉄質岩脈がしばしば伴われる。一方,中国地方西部の岩体は貫入関係にかかわらず,一部ホルンブレンドを含む花崗閃緑岩を伴うが,大部分は黒雲母花崗岩である。そして泥質母岩との境界部の岩相には,しばしば白雲母やざくろ石が含まれる。

     貫入岩類の化学的特徴は以下のとおりである。SiO2含有量は,活動年代や場所に関わらず45–75 wt%と広い組成範囲を示す。ジルコンU–Pb年代で補正した各試料のSr同位体初生値 (SrI)とSiO2の関係は,記載的特徴やSiO2の変化に関わりなく,九州全域でほぼ一定である。それに対して,中国地方西部の岩体は正の相関を示す。特に白雲母やざくろ石を含む試料のSrIは高く,マグマの上昇・分化過程で地殻物質を同化したことが示唆される。また,九州と中国地方西部の岩体から得られた試料のイプシロンNd同位体初生値 (eNdI) はそれぞれ正と負である。花崗岩類のeNdIの値が正の岩体はマントルの関与が大きい起源物質に由来する。産状と Sr–Nd同位体組成の特徴を考慮すると,正のeNdIを示す九州の岩体は引張応力が主要な場に貫入したと想定され,その年代は主に120–105 Maで,95 Maまで継続した。一方,100–95 Maに活動した中国地方西部の岩体は,圧縮応力場のもとでマグマが貫入し,その上昇過程で地殻物質を同化したマグマに由来すると考えられる。

     本研究で明らかになった同位体組成の変化には,年代の違いや地域性が認められるが,本質的には,マグマ貫入時のテクトニクスが強く影響していると考えられる。こうした,テクトニクスは白亜紀に北東アジアへ沈み込んでいたイザナギプレートとユーラシアプレートの相互作用,特に海洋プレート運動とそれに対応する大陸地殻の構造的な配置の変遷に起因すると推察される。

  • 新正 裕尚, 折橋 裕二, 安間 了
    セッションID: T9-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    中新世に起こった西南日本と東北日本の大陸からの分離は,日本列島の現在の形を決めた変動である.特に西南日本については古地磁気学的研究から分離の最終段階として時計回り回転をして急速に現位置に至ったことが示されている.さらに近年の回転時期の詳細な検討により,16 Maごろまでに回転が終了したことが提唱されている(Hoshi et al, 2015).しかし時計回り回転前後のプレート配置には依然議論があり,回転前に西南日本に対面していたプレートは何か,回転直後の伊豆小笠原弧の位置がどこであったかが,とりわけ回転前後の地域のテクトニクスを論じる上で重要である.西南日本弧の時計回り回転と「ほぼ同時期」に海溝寄り地域に広域的な火成活動が見られる.火成岩の岩石化学および時空分布はマグマ形成のテクトニックな環境についての情報をもつので,本報告では西南日本の海溝寄り地域の火成活動の時空分布のレビューに基づき中期中新世ごろの西南日本周辺のプレート配置などについて議論する.また,演者らは西南日本弧と琉球弧の接合域にあたる,海溝寄り地域の火成活動の西縁部である九州西部に分布する中期〜後期中新世の貫入岩類の年代等の見直しを行っており,それらの結果を紹介し北部沖縄トラフの拡大との関連についても考察する.

    西南日本の海溝寄り地域火成活動は外帯の珪長質火成岩類,瀬戸内火山岩類,外縁帯の火成岩類(高橋, 1986)に大別できる.近年のジルコンのU-Pb法を中心とする年代測定結果からは,これらの火成活動はすべて回転終了後のものと見られる.外帯の珪長質火成岩の年代はほぼ14.5 ± 1.0 Maの範囲に入る(Shinjoe et al., 2021a).一方,瀬戸内火山岩類は一部地域で12 Maごろまでにおよぶ活動が見られるが(Sato & Haji, 2021),14-15 Maの範囲の年代の報告が多く,島弧横断方向に最大150 km幅の領域でほぼ同時期に火成活動が見られたことになる.このように九州西部から紀伊半島にかけて外帯珪長質火成岩類,瀬戸内火山岩類のセットは島弧延長方向に年代や岩相がかなり均一であり,拡大直後の高温の四国海盆沈み込みが引き起こしたマグマ活動がこの範囲で起こったものと見られる.したがって西南日本の回転終了直後の九州パラオ海嶺は九州の西方に(Tatsumi et al., 2020),伊豆小笠原弧の接合は少なくとも紀伊半島以東であり,伊豆弧の幅を考えると海溝型三重会合点はより東方にあったはずである.外縁帯の火成岩の中でも拡大終焉期の四国海盆の縁海性ソレアイトに由来するとされる室戸岬斑れい岩体の年代が15.6 Maと回転終了直後であることも,この地域が当時四国海盆と対面していたことを強く示唆する.

    鹿児島西方沖の甑島諸島には,従来外帯の珪長質火成岩と対比の可能性が指摘されていた花こう閃緑岩体が分布するが,ジルコンU-Pb法で放射年代の再検討を行ったところほぼ10 Maの形成年代であることが明らかになり,北部沖縄トラフの拡大(Sibuet et al., 1995など)に関連したマグマ活動である可能性を指摘した(Shinjoe et al., 2021b).甑島諸島には貫入時期と方位の異なる岩脈群があり,それらの異なる貫入時期の間に当地域は反時計周りのブロック回転を被ったことが示され,北部沖縄トラフ拡大との関連が議論されている(Tonai et al., 2011).また, Ushimaru & Yamaji (2023)は西部九州天草地域の古応力解析などに基づき中期中新世の島弧伸長方向の伸長場の存在を示し,沖縄トラフ北部のリフト伝播の停滞に原因を求めている.これら沖縄トラフ北部の拡大の開始を示唆する観察の時代論に拘束を与えるために,当地域の岩脈岩を含む火成岩類の年代の詳細な検討が重要である.

    文献:Hoshi et al. (2015) EPS,67, 92.; Sato & Haji (2020) Island Arc, 30, e12405.; Shinjoe et al., (2021a) Geol. Mag., 158, 47–71.; Shinjoe et al., (2021b) Island Arc,30, e12383.; Sibuet et al., (1995) In B. Taylor (ed.), Back arc basins, 343–379, Springer.; 高橋 (1986) 科学, 56, 103–111.; Tatsumi et al. (2020) Sci. Rep., 10, 15005.; Tonai et al. (2011) Tectonophys. 497, 71–84.; Ushimaru & Yamaji (2023) J. Struct. Geol., 173, 104894.

  • 谷 健一郎, 堤 之恭, 宇佐美 賢
    セッションID: T9-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本外帯の紀伊半島から九州にかけて分布する中期中新世の珪長質火成岩体群は、フィリピン海プレートの一部である、若くて熱い四国海盆が南海トラフ沿いに西南日本弧への沈み込みを開始したことによって形成されたとするモデルが主流である。

    またその火成活動開始時期については系統的なジルコンU-Pb年代測定から、前駆的な活動が約15.6 Maに起こり、その後、島弧伸長方向に約600 km、島弧横断方向に約150 kmに達するような広域的な場で一斉に15.5 Maから13.5 Maの間に大規模な珪長質火成活動が起こったことが明らかになっている(Shinjoe et al., 2019 Geol. Mag.)。

    さらには古地磁気学的な制約から、日本海拡大に伴う西南日本弧の時計回りの回転運動は約16 Maには完了していたとされている(星, 2018 地雑)ことや、伊豆・小笠原弧と本州弧の衝突開始もこのタイミングであること(箱守ほか, 2022 地質学会要旨)から、西南日本弧とフィリピン海プレートは、この時期には現在とほぼ同じ相対位置にあり、それ以降のフィリピン海プレートの北進に伴って、西南日本外帯では四国海盆の沈み込みに伴う珪長質火成活動が起こった可能性が高い。しかしそれ以前のフィリピン海プレートの運動については、古地磁気学的な制約も乏しく、よくわかっていない。

    このため本研究では、琉球弧に分布する珪長質火成岩類に注目し、西南日本外帯の中期中新世珪長質火成活動との関係を検討することで、四国海盆の沈み込み開始以前のフィリピン海プレートの運動を復元することを目指している。

    この目的のために渡名喜島・沖縄本島・沖永良部島・徳之島・奄美諸島・屋久島にそれぞれ分布する花崗岩・珪長質火山岩類について系統的なジルコンU-Pb年代測定を行い、下記のような結果が得られた。

    渡名喜島:島北東部に分布する西森複合岩体の花崗岩類5試料から18.5 Ma前後の年代が得られた。また詳細な位置は不明ではあるが、島南部で採取された流紋岩からも18.3 Maの年代が得られた。一方で島北東部のあがり浜周辺に分布する安山岩質岩脈からは16.5 Maの年代が得られ、より若い時期の火成活動の存在も示唆される。

    沖縄本島:本部半島や名護湾周辺には、石英斑岩や安山岩の岩脈群が北東-南西方向に平行に貫入している。先行研究において中期中新世のK-Ar年代やFT年代が報告されており、本研究においても安冨祖・名嘉真・源河・勝山の各岩体から、いずれも同時期の約10 Maの年代が得られた。

    沖永良部島:島中央部に花崗岩体の存在が報告されているが、著しく風化と削剥が進んでおり、その詳しい分布域や産状を把握することは難しい。本研究では真砂化した試料とコアストーンの可能性が高い花崗閃緑岩転石の2試料から17 Maの加重平均年代が得られた。

    徳之島:主に島中央部~北部にかけて花崗岩体が分布しており、川野・加藤(1989岩鉱)は岩石学・地球化学的特徴から与名間型・金見型・轟木型と島周縁部に分布する小岩体群に区分した。本研究では与名間型・金見型・小岩体からは約60 Maの年代が得られたのに対し、従来轟木型とされていた岩体には74 Ma前後の白亜紀花崗岩類と、それに貫入する16 Maの中期中新世の珪長質火山岩類が存在していることが明らかになった。

    奄美諸島:奄美諸島を構成する大島・加計呂麻島・請島には花崗岩体が分布しており、川野ほか(1997岩鉱)は笠利岩体・一岩体・勝浦岩体・古仁屋岩体・安脚場岩体・請岩体に区分した。また先行研究では白亜紀・始新世・中新世などの幅広い年代が報告されてきた。本研究では笠利・一・古仁屋・安脚場岩体はいずれもほぼ同時期の61 Maに形成されたのに対し、請岩体は80 – 76 Maの白亜紀花崗岩類に59 Maの花崗岩質岩脈が貫入していることが明らかになった。さらには勝浦岩体からは約17 Maの中期中新世の年代が得られた。

    屋久島:島の主要部を構成している屋久島花崗岩に加えて、島周辺部の付加体堆積物に貫入している小規模な珪長質岩脈が存在している。本研究では屋久島花崗岩から14.7 Ma、付加体に貫入する岩脈からも14.8 – 14.3 Maの年代が得られた。これらの年代は先行研究で報告されている屋久島花崗岩のジルコンU-Pb年代(Shinjoe et al., 2019など)と調和的である。

    これらの結果により、琉球弧に分布する中期中新世の珪長質火成活動の開始時期は南部の渡名喜島で18.5 Ma、中部の沖永良部島・徳之島・奄美諸島で17 Ma前後、そして北部の屋久島で15 Ma前後と北に向かって順次若くなることが明らかになった。屋久島以北はShinjoe et al. (2019)が指摘するように、九州から紀伊半島に至る広域的なエリアで15.5 Ma以降に一斉に火成活動が始まっていることから、その直前にフィリピン海プレートが琉球弧の下に沈み込みながら北進した可能性が高い。

  • 山本 啓司, 磯﨑 行雄, 岡本 和明
    セッションID: T9-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    徳之島は琉球弧中央のやや北東寄りに位置し、大きさは南北約26 km, 東西約14 km である。徳之島の地質について公表されたデータ(主として中川, 1967; 川野・加藤, 1989; 斎藤ほか, 2009; Ueda et al., 2017; Yamamoto et al., 2022)に基づいてその特質を整理した上で、改めて徳之島の地体構造上の位置付けについて考察する。 徳之島の先第四紀基盤岩は、花崗岩類が広く分布する北半と、堆積岩、玄武岩質緑色岩及び変成岩が広く産する南半に大きく分けられる。北半の花崗岩類分布域は、東側海岸の宮城山と西側海岸の秋利神を弧状に結ぶ線が、その南縁である。この線に沿って、おそらく高角度で北に傾斜する断層が発達すると推定される。この推定断層を美名田山断層と仮称する。徳之島北半の先新生代基盤岩は弱い変形を被った砂岩、泥岩、およびそれらの交互層からなり、層状チャートや玄武岩質緑色岩を伴う。島南半の先新生代基盤岩は明瞭に変成度が異なる二つの地質体から構成される。島東南部の海岸を含む低地に低変成度の泥岩、砂岩、玄武岩質緑色岩が分布し、井之川岳を中心とする山岳部および西海岸の秋利神川河口周辺には、泥質岩を主体とする片理が発達した変成岩類が分布する。非・弱変成の基盤岩類については、島の北半と分布するものを「天城岳ユニット」、南半のものを「尾母ユニット」と呼ぶことにする。これらは岩相の特徴から、九州から北隣りの奄美大島まで追跡される四万十帯の付加体に対比される。一方、井之川岳の南西部では泥質片岩の中に角閃岩、古原生代(約1.8億年前)から白亜紀末のジルコンを含む片麻岩、さらに蛇紋岩の複数の小岩体を伴っていて、それらが角閃岩相の高温部に達する低圧高温型変成作用を被っている。これらの変成岩類は、前述の天城岳・尾母ユニットとは明らかに異なった様相を呈する。主に徳之島南半の山岳部に産する高度変成岩類を一括して「井之川岳変成複合体」と呼ぶ。これらの先新生代基盤岩は、暁新世(ca. 60 Ma)花崗岩類に貫入されている。井之川岳変成複合体は砂質片岩のジルコン年代に基づくと、角閃岩相の変成作用の時期は暁新世であった可能性がある。西南日本で対比可能な高温熱イベントとして、山陰(花崗岩)帯での花崗岩活動がある。中国・四国地方では四万十帯よりも大きく大陸側に位置する場で生じた火成・変成作用であり、同様の熱イベントが中琉球の四万十帯で起きたのであれば、地体構造上の位置付けの再検討が不可避である。 井之川岳変成複合体は、四万十帯付加体の構造的上位にクリッペとして累重することから、その分布域を日本列島内の新たな地体構造単元として「徳之島帯」と呼んで、識別することを提案する。徳之島帯の起源として、暁新世マグマ活動域の古第三系浅海相砕屑岩層や四万十帯付加体の高温変成部などである可能性が考えられる。

    引用文献:Isozaki et al., 2010, Gondwana Research, 18, 82-10;川野・加藤, 1989, 岩鉱, 84, 177-191;中川久夫, 1967,東北大学地質古生物研究邦報, no. 63, 1-39; 斎藤眞ほか, 2009, 20万分の1地質図幅「徳之島」. 産総研; Ueda et al., 2017, Island Arc, 26. e12199; Yamamoto et al., 2022. International Geology Review, 63, 1-16. 地名:宮城山(みやぐすくやま)、秋利神(あきりがみ)、美名田山(みなだやま)、天城岳(あまぎだけ)、井之川岳(いのかわだけ)、尾母(おも)

T10.岩石・鉱物の変形と反応
  • 吉朝 開, 安東 淳一, DAS Kaushik, Sarkar Dyuti Prakash
    セッションID: T10-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ヒマラヤ地域には、インド亜大陸とアジア大陸の衝突に伴い形成された3つの主要なプレート収束境界断層(主前縁衝上断層(MFT)・主境界衝上断層(MBT)・主中央衝上断層(MCT))が存在する。現在もインド亜大陸は約5cm/yearの速さで北上を続けており、その収束は主にMFTで担われ、それに関連してヒマラヤ地域では地震が発生している。Billham(2019)では、ヒマラヤ地域での沈み込みに伴って蓄積された歪と地震によって解放された歪を計算し、地震によって歪が完全には解放されておらず、一部が蓄積していると結論付けた。蓄積している歪によってMw=8.6レベルの地震が1回、あるいは2回発生する可能性が指摘されている。一方で、プレート境界でどのような地質現象が生じているのかを明らかにすることは歪が本当に蓄積しているのかを考えるうえで重要である。本研究では、プレートの沈み込み過程における脆性変形領域において、プレート間境界での地質現象の把握を目的に、地質調査および岩石の微細組織の観察を行った。 研究対象地域は、インド ヒマチャル プラデシュ州サバスー市に露出するMBTの上盤、約1 Kmの範囲である。地表に露出するMBTは、約10 Maから約0.5 Maの期間に活動したプレート収束境界断層であり、地下260℃の温度で変形した岩石が露出する(Sarkar et al., 2021)。MBTの上盤には、先カンブリア時代の砂岩層が主に分布する。砂岩単層の層厚は約5 cm-30 cmである。また泥岩層(単層の層厚約2 ㎝)との互層も確認できる。 野外調査の結果、以下のことが明らかになった。1)調査地域全域にわたり、多数の層面すべりが確認された。層面すべり面上には条線様のすべり線が発達し、すべり線に沿って微細な石英脈が認められる。また、層面すべりに関連して、層理面に平行なデュープレックス構造やキンクバンドが顕著に発達する。2)キンクバンドから求めた主圧縮軸方向とすべり線から求めたすべり方向は、MBTの傾斜方向にほぼ平行なものが多い。1)と2)の結果は、MBTの上盤では、プレートの沈み込みに伴い層面すべりが卓越することを強く示唆する。層面すべりを受けた砂岩の微細組織観察からは以下のことが明らかとなった。3)層面すべりの多くは、砂岩単層内部に層理面に平行に発達した層厚10 μm -1 mmの複数の剪断面に沿って発達する。4)この各剪断面は小歪から大歪の状態を記録している。小歪から大歪に至る微細組織の特徴は、砂岩層を構成する基質支持の粒径50 μm –100 μmの石英が、剪断に伴ってその間隔を広げて行くことである。間隔を広げながら石英は流体と反応し細粒化が進み、反応によって白雲母が晶出する。晶出した白雲母は(100)が剪断面に平行に配列する。大歪になると、粒径が数mmの白雲母のみから構成されるようになり、顕著なリーデル剪断面が発達する。5)剪断帯の内部には、剪断方向に伸長する粒径数100 μmの波動消光を示す石英が存在し、この様な石英から石英脈が発生している。すなわち石英脈は、砂岩を構成する石英粒子が剪断による摩擦熱によって塑性変形し形成されたことが強く示唆される。この石英脈は、野外において確認できたすべり線に沿って発達する石英脈であると考えられる。6)石英脈の結晶方位をEBSDによって測定した。その結果、c軸が剪断方向に垂直に集中するタイプと剪断方向に集中するタイプがあることが分かった。それぞれbasalすべりとprism<c>すべりによる転位クリープで形成されたと考えられる。basalすべりは300~400℃で、prism<c>すべりは550℃以上で卓越することが知られている。また石英脈中の動的再結晶を受けた石英の粒径は約5 μmである。再結晶粒径による地質差応力計を用いて差応力を見積もると190 MPaとなる。以上の温度と差応力値から石英脈形成時の歪速度を推定すると10-10~10-13 /s及び10-5~10-7 /sとなる。この値は、プレートの沈み込みに際して生じる層面すべりの歪速度と考えられる。本研究は、プレートの沈み込みを起因として生じる歪の一部は、層面すべりの運動、そしてすべりによる摩擦発熱によって開放されている可能性が強いことを示唆する。

    〈References〉

    Bilham, 2019 “Himalayan earthquakes: a review of historical seismicity and early 21st century slip potential", Himalayan Tectonics Geological Society, London, Special Publications, Volume 483,Pages 423-482

  • 大橋 聖和
    セッションID: T10-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    断層岩の一種であるカタクレーサイトは,深さ数km〜10数kmの震源深度で形成された固結性を有する断層岩である(Sibson, 1977; Scholz, 1988).この領域において普段断層は固着して弾性ひずみを蓄え,地震時の破壊と引き続いて起こる摩擦すべりによって弾性ひずみを解放する.地震直後に固結性を失った破砕物は,その後再び固結することで強度を回復し,次の地震に向けて弾性ひずみを蓄えられるようになる.そのため,カタクレーサイトから地震性断層すべりとその後の固結過程を明らかにすることは,地震サイクル間に断層内部で起こる物理化学的プロセスを理解する上で極めて重要である.本研究では花崗岩由来の断層における素過程理解を目的に,“未成熟な断層”が分布するとされる2000年鳥取県西部地震余震域の断層岩を対象としている.

    解析に用いた断層岩は,鳥取県西伯郡南部町の緑水湖西側に位置する露頭(相澤ほか, 2005; 鈴木ほか, 2016)から採取した.断層岩は試料スケールで固結性を有する部分(カタクレーサイト帯)と,それを貫く未固結で連続性の良いすべり帯(断層ガウジ帯)からなる.研磨片および薄片観察の結果,断層岩を以下の5つの要素に区分した.

    (I) Weakly foliated cataclasite zone: 母岩の花崗岩に由来する石英長石質な破砕岩片からなり,特に強く細粒化した微小剪断帯と破砕流動が複合面構造(R1面とP面)を形成している.また,基質を充填する陰微晶質な炭酸塩鉱物や,T面方向の微小割れ目を方解石が充填する様子も認められる.方解石は破砕岩片としても含まれる.

    (II) Ultracataclasite: 主に石英の微細な破砕岩片からなり,しばしば粘土鉱物を伴う.本要素は後述の(V)中に破砕岩片としてのみ含まれる.

    (III) Calcite fault vein: (I)帯と(V)帯の境界に沿って厚さ数mmの脈として産する.結晶は等粒状の粗いポリゴナル組織を呈する.部分的に後述の(V)中に破砕岩片として含まれるほか,主脈から派生して(II)と(V)を切断する支脈も認められる.

    (IV) Clay aggregate: 細粒粘土鉱物(イライト,緑泥石)の集合体.(III)に付随する形で不規則に分布する.

    (V) Clay bearing cataclasite zone: 主に石英(一部,方解石)の破砕岩片からなるが,基質に少量の粘土鉱物(イライト,緑泥石)を有することで特徴づけられる.

    (VI) Clayey gouge zone: 破砕岩片に乏しく,主にスメクタイトからなる幅1 mm程度のゾーン.直線性がよく,周囲の変形要素を切断する.

    これらの切断・包有関係から考察される変形・鉱物形成順序は,以下の通りである.

    (1) 方解石の析出を伴いながらWeakly foliated cataclasite zoneが形成.

    (2) Ultracataclasiteの形成.

    (3) Ultracataclasite に重複してClay-bearing cataclasiteの形成.

    (4) 開口割れ目の形成と方解石および粘土鉱物(イライト,緑泥石)の析出(Calcite fault veinとclay aggregateの形成).(3)と(4)は繰り返す.

    (5) Clayey gouge zoneの形成.

    方解石の結晶形とClayey gouge zoneの高速すべり時の主剪断帯(principal slip zone)としての特徴から,(4)と(5)は地震性断層すべりの痕跡と考えられる.すなわち,本断層岩中には少なくとも2回の地震イベントと,その前後に起こった方解石によるシーリングを記録していると結論づけられる.

    【文献】

    相澤泰隆ほか (2005): 地質学雑誌, 111, 737-750.

    Scholz,C.H. (1988): Geologische Rundschau, 77, 319-328.

    Sibson, R.H. (1977): Journal of the Geological Society, London, 133, 191–213.

    鈴木 俊ほか (2016): 日本地球惑星科学連合2016年大会講演要旨, SCG63-P39.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    山﨑 悠翔, 氏家 恒太郎, 重松 紀生, イヨ トーマス
    セッションID: T10-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     プレート沈み込み帯地震発生帯より下限側では、プレート沈み込み速度より速いが地震性すべり速度よりは遅くすべることにより特徴づけられるスロースリップ(SSE)が断続的に発生している。スロースリップ発生域に発達する岩石として、これまで緑泥石-アクチノ閃石片岩(CAS)、青色片岩、タルク片岩などがあげられている(e.g., Behr et al., 2018; Hoover et al., 2022; Nishiyama et al., 2023; Ujiie et al., 2022)。長崎県西彼杵変成岩中に分布する西樫山メランジュは、温度500 ℃、圧力1.1 GPa、緑簾石-青色片岩相の変成条件下での変形を記録しており、南海トラフ沈み込み帯深部スロースリップ発生域の陸域アナログであると考えられている(Tulley et al., 2022; Ujiie et al., 2022)。本研究では、西樫山メランジュを構成するCASと青色片岩を対象に、地質調査、微細構造観察、レオロジー解析を行い、スロースリップや非地震性クリープをもたらす変形機構やレオロジーについて考察した。

    2.西樫山メランジュの構成岩石と内部構造

     西樫山メランジュは厚さ約90 mで、泥質-砂質片岩、青色片岩を含む塩基性片岩、CASで構成される。CASは厚さ1-150 cmで複数に渡って認められ、塩基性片岩、泥質-砂質片岩中に挟在されるか、または塩基性片岩と泥質-砂質片岩の間に発達する。CASにはプレート沈み込みと調和的なせん断センスを示すS-C構造などの複合面構造が発達する。CASは主として細粒アクチノ閃石と緑泥石からなるマトリックス中にレンズ状の石英脈、交代反応に伴って曹長岩化した泥質片岩、塩基性片岩、粗粒アクチノ閃石の凝集体を含むことで特徴づけられる。

    3.変形機構

     CASと青色片岩を対象に、偏光顕微鏡、電界放出型走査電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析、電子線後方散乱解析による微細構造観察・解析と元素マッピングを行った。

     CASマトリックス中の細粒アクチノ閃石は、長軸に沿ったアルミニウムのゾーニングが認められることから、溶解-析出クリープが主要な変形機構であると考えられる。一方、粗粒アクチノ閃石の凝集体には波動消光、石英レンズには結晶定向配列やそれと調和的な亜粒回転が認められることから、転位クリープが主要な変形機構であると考えられる。

     青色片岩では、Na角閃石がマイクロブーディン化しており、ブーディンのネック部分にはNa-Ca角閃石が拡散して存在することから、拡散クリープが主要な変形機構であると考えられる。

    4.レオロジー

     西樫山メランジュのピーク変成温度である500 ℃下でのCASと青色片岩における歪み速度とせん断応力を検討した。

     CAS中のレンズ状の石英脈に関しては、Ujiie et al. (2022)により石英の差応力計 (Stipp & Tullis, 2003) と石英の転位クリープ流動則 (Hirth et al., 2001) を用いて粘性せん断時のせん断応力と歪み速度が見積もられている。今回、CASマトリックスを構成する細粒アクチノ閃石のレオロジーを溶解-析出クリープ流動則(Bos&Spiers, 2002)を用いて解析した。その結果、CASマトリックスにおける細粒アクチノ閃石の溶解析出クリープとレンズ状石英脈の転位クリープは、間隙流体圧比λ0.7、せん断応力約40 MPa、歪み速度約10-10 s-1の条件下で共存し得ることが明らかとなった。

     一方、青色片岩のレオロジーは、マイクロブーディン化を伴う拡散流動則(Tokle et al., 2023)を用いて解析した。その結果、CASと同等の歪み速度であったと仮定した場合、せん断応力が約250 MPaと非常に大きな値となるが、歪み速度が10-12 s-1の場合、せん断応力は約20 MPaとなり、CASの約半分の値となることが明らかとなった。 

    5.考察・結論

     微細構造・レオロジー解析の結果、青色片岩は低せん断応力・低せん断歪み速度下で拡散クリープによる粘性せん断を受けていたと考えられる。一方、CASは高せん断応力・高せん断歪み速度下で転位クリープと溶解-析出クリープが共存した状況下で粘性せん断を受けていたと考えられる。この違いは、非地震性クリープが少なくとも青色片岩で賄われていた一方で、スロースリップは複数のCASに沿って局所化して発生したことが示唆される。

    参考文献

    Behr et al (2018). Geology, 46, 475-478, doi:10.1098/rsta.2020.0218

    Bos & Spiers (2002). J. Geophys. Res. Solid Earth, 2028, doi:10.1029/2001JB000301

    Hirth et al (2001). Int. J. Earth Sci. 90, 77-87, doi:10.1007/s005310000152.

    Hoover et al (2022). Geophys. Res. Lett, 49, e2022GL101083, doi:10.1029/2022GL101083.

    Nishiyama et al (2023). Lithos, 446–447, 107115, doi:10.1016/j.lithos.2023.107115.

    Stipp & Tullis (2003). Geophys. Res. Lett, 30, 2088, doi:10.1029/2003GL018444.

    Tokle et al (2023). J. Geophys. Res. Solid Earth, 128, e2023JB026848, doi:10.1029/2023JB026848.

    Tulley et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2021GC010208, doi:10.1029/2021GC010208.

    Ujiie et al (2022). Geochem. Geophys. Geosyst, 23, e2022GC010569, doi:10.1029/2022GC010569.

  • 増田 俊明, 鈴木 知陽, 楠 賢司, 大森 康智
    セッションID: T10-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    <はじめに>

    中央構造線の付近には著しい変形を被ったマイロナイトが分布している。これまで剪断センスや非共軸度の見積もりは行われたことがあったが、歪の定量化はまだ行われていない。本講演では珪質マイロナイト中のマイカフィッシュを利用して歪楕円の縦横比の推定を試みる。

    <決意>

    岩石の不均質性を考えると、理想的状況を仮定して推定を試みること自体が非現実的かもしれないが、大体どのくらい変形したのかを不正確でもいいから見積もりたい、という強い欲求の元に本研究は行われた。

    <仮定>

    以下のような仮定をして強引に歪量を推定した。

    (1)平面歪(2次元歪)

    (2)岩石全体は均質に変形(体積変化なし)

    (3)白雲母粒子は回転するが伸長しない

    (4)白雲母粒子の回転はアフィン変換に従う(March, 1932)

    (5)多数の雲母粒子間の相互作用は考えない

    (6)変形前の白雲母の長軸は等方的に分布(κ0=0)

    (7)白雲母の方位分布はvon Mises分布で近似

    <κデータ>

    珪質マイロナイトのXーZ薄片を作りマイカフィッシュの長軸方向の計測データからvon Mises分布の集中度係数(κ)を求めた。κの最大は104であった。

    <歪の推定>

    Masuda and Omori (2023)は2次元変形のあらゆる非共軸度に対してシミュレーションを行い、March (1932)のモデルを適用し、変形前に等方的に向いている50 000個の粒子に対してκの大きさと歪楕円の縦横比の関係を、歪楕円の縦横比が1から100の範囲で求めた。その歪量の範囲ではκの到達範囲は最大20程度までだったので、同様の方法で、新たにκが120程度になるまで歪を大きく取って計算し直した。

    <結果>

    新たに計算したκと歪の関係を利用すると、κ が100になるときの歪楕円の縦横比は~400だった。

    <結果の評価>

    得られた歪の値と同等の歪の議論をした研究が見当たらないので、この値がもっともらしいのかどうかわからない。今後の検討課題である。

    <引用文献>

    March, A., 1932.. Z. Kristall., 81, 285–297.

    Masuda, T., Omori, Y., 2023. Journal of Structural Geology,

  • 中小路 一真, 清水 以知子
    セッションID: T10-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    高圧変成帯や剪断帯で見られる石英の再結晶組織は、その岩石が塑性流動したときの温度や歪速度などの変形条件を反映していると考えられている。再結晶組織を実験室で再現するため、固体圧式変形試験機を用いて様々な温度・歪速度条件で実験が行われてきた。

    Masuda and Fujimura (1981) (以下、MF)の古典的な実験では、含水石英岩であるメノウを用いて、封圧0.4 GPa, 温度700-1000℃, 歪速度10-6-10-4/secで高温高圧変形実験を行い、低温高歪速度条件下では、粒子形状がσ 3方向に扁平で鋸状の結晶粒界の発達する組織(Sタイプ)が発達するのに対し、高温低歪速度条件下では、等粒状で比較的まっすぐな結晶粒界をもつ組織(Pタイプ)が発達することを報告した。このことから、これらの組織は温度や歪速度条件をあらわす定常組織と考えられた。

    MF の分類を天然の石英組織に適用するには、S-P遷移の温度-歪速度依存性のみならず、封圧依存性を知ることが必要となる。Hirth and Tullis (1992) はMFより高い封圧(1.5 GPa)条件で石英の変形実験を行い、微細組織を3つに分類をしているが、彼らの分類は再結晶機構に基づくものであり、MF とは分類基準が異なる。また、メノウに比べ粗粒の珪岩を出発物質に用いているため、低温条件ではもとの石英粒子の結晶粒界でわずかに再結晶が起きているのみで、定常状態の再結晶組織を知ることができない。そこで本研究では、MFと同じ出発物質メノウを用いて、封圧1.5 GPa、温度800℃-1000℃, 歪速度10-6/sec-10-4/secの範囲で変形実験を行った。

    実験試料には、メノウが持つ繊維状組織に平行に直径8 mm でコアリングし, 高さ8 mmに成型したものを用いた。実験には熊澤型の固体圧変形試験機を使用し、圧媒体には外側をタルク、内側にはタルクまたはパイロフィライトを用いた。熊澤型試験機では2つのロードセルを用いて上下ピストンにかかる力を計測することにより、差応力測定における固体圧媒体の摩擦の影響を補正している。

    実験終了後、回収した試料の薄片観察では7つの実験条件すべてで、メノウの初期組織が消失し、低温高歪速度条件でSタイプ、高温低歪速度条件で P タイプの再結晶組織に置き換わっていることが確認された。S-P境界は、MFの結果に比べやや高温低歪速度側にシフトした。発表では 画像解析ソフトウェアを用いたこれら組織の定量的解析についても議論する。

    力学データについてみると、歪速度10-4/sec, 10-5/secで行った実験では、既存の実験や理論 (Fukuda and Shimizu, 2017) による応力指数3の石英の転位クリープ流動則に整合的な結果が得られた。しかし、歪速度10-6/secで行った実験では、予想される流動応力に比べ、著しく大きい値となった。その原因として、実験時間が比較的長期(~3日)に及んだため、試料の脱水が進み硬化したことが考えられる。S-P境界は、差応力には対応しないことが示唆される。

    MFの Sタイプの実験後試料についての EBSD解析 では、扁平な粒子で底面すべりが優位であることが示唆されている (Shimizu and Michibayashi, 2022)。また、Avé Lallemant and Carter (1971) は、800℃以上の条件では、封圧0.4 GPaでは柱面すべりが卓越するのに対し、封圧1.5 GPaでは底面すべりが卓越することを報告している。これらの事実から、封圧の増加に伴う石英の卓越すべり系の変化によってSタイプができやすくなったことにより、S-Pタイプ境界がシフトしたと考えることができる。

    引用文献

    Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.

    Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971.

    Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.

    Avé Lallemant, H. and Carter, N. (1971) Am. J. Sci., 270, 218–235.

  • 岡本 敦, ヴィニス エドワード
    セッションID: T10-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに 地震発生帯には多くの石英脈が存在しており、シリカの析出は断層の強度や水理学的特性を大きく変化させ、地震活動に大きな影響を与えると考えられている。例えば、古くから知られるfault valve modelでは、(1) 流体圧の上昇、(2) 破壊(地震)浸透率の急上昇、(3) シーリングによる浸透率の低下と強度回復という流体圧の変動と地震サイクルの関係が提案されている[1, 2]。このシーリングにシリカ析出が大きく寄与すると考えられているが、これまでに実証された例は存在しない。我々は、これまで超臨界条件での様々なシリカ析出実験を行っており、基盤石英の成長だけでなく、準安定相(アモルファスシリカやクリストバライト)の形成、石英の核形成などが起こることを示してきた[3,4]。本研究では、花崗岩を用いた平行平板でのシリカによる亀裂閉塞、すなわち人工石英脈作成実験を行い、亀裂閉塞と破壊によって流体圧(浸透率)振動が起こさせることに成功した。X線CTによる多様なシリカの析出による間隙構造の変化を詳細に観察するとともに、析出が引き起こす流体圧振動の特徴について報告する。実験 模擬亀裂は、直径10mm, 長さ100 mmの花崗岩コア(庵治花崗岩)に幅6 mm, 厚さ 0.5 mmのスリットを導入することで作成した。この試料は、岩石コアを半分にカットし、平面研削によりスリットを作成、円筒研削盤により外周がステンレススチール(厚さ0.1 mm)のスリーブに隙間なくはまるように加工することで作成した。出発溶液は、亜臨界条件で花崗岩+曹長石を溶解させ、Si濃度が280 mg/kgH2O、Al濃度が5.1 mg/kgH2Oである。流通式反応実験は、下流の圧力を25MPaで一定とし、流体を一定流量0.2 ml/min で流した。上流を370˚C, 下流を425˚Cになるようにセットし、石英の水に対する溶解度は390-400˚C付近で急激に減少するために模擬亀裂内で析出させることができる。結果と考察 実験開始から、25時間後に上流の流体圧の上昇が開始した。下流の圧力は一定である。大きなもので少なくとも8回の流体圧の振動が観察され、それぞれのサイクルの中でより小さな流体圧の振動も観察された。一回の差圧の上昇は、はじめに緩やかで、徐々に加速し、最終的にまた緩やかになったのちに、10秒以内に差圧がほぼゼロまで急降下した。振動を繰り返しながら、差圧は大きくなり、最大で9 MPaの差圧がついた。37.5 時間以降はほぼ最高の差圧は~8 MPaで一定となった。実験後のスリット内部の様子をX線CTで観察した。内部で上流から下流までシリカの析出が観察されたが、空隙率は上流から低下し、3.75 cmのところで最小値0.017まで減少し、再び増加した。薄片と合わせて観察すると、上流からアモルファスシリカ、クリストバライト+石英の核形成、石英の核形成、基盤からの石英の成長へと系統的に変化した。最も閉塞した部分は、クリストバライト+石英から石英の核形成領域である。下流の石英の基盤からの成長が起こっているところでは、花崗岩の基盤の石英部分でのみで成長が起こり、亀裂全体の閉塞は起こらない。閉塞部分を観察すると、X線CTの解像度(10ミクロンメートル)において孤立した空隙が複数生じており、クラスターを生じていた。本実験により、Fault valveで予想されるような浸透率変化を再現されており、シリカの析出とシリカ相の破壊による流体圧の振動が観察された。本実験では、亀裂は大きなスリットであり、基盤の成長ではなくて、石英や準安定相がルーズに埋めたものであり、大きな空隙が残っているために、流体圧の上昇により、引張亀裂が生じ破壊したものと考えられる。徐々に、析出したシリカ相が増加するにつれて、接触面積が増大することで強度が増加したために、実験の最後では破壊がおこらなくなったものと考えられる。このように、少なくとも本実験条件に近い高温の地殻条件において、大きな流体流動が生じたときに。シリカ微粒子の形成、移動、付着は亀裂を局所的に閉塞させ、その破壊が起こることで、小さな流体圧振動を生じながら強度回復が進んでいくと考えられる。[1] Sibson, RH, 2014. J Structural Geology, 600, 142-152. [2] Audet P, Bürgmann R, 2014. Nature, 510, 389-392. [3] Okamoto, A., Saishu, H., Hirano, N., Tsuchiya, N., 2010. Geochim Cosmochim Act, 74, 3692-3706.

  • 西山 直毅, 徂徠 正夫, 増岡 健太郎
    セッションID: T10-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    CO2-水-玄武岩の相互作用は、火山地帯や海洋地殻の変質過程を理解する上で重要である。近年、地球温暖化対策として、地下の玄武岩層にCO2を注入して鉱物化を促進する技術や、高温の玄武岩へCO2を熱媒体として注入して採熱するCO2地熱発電技術への期待が高まっている(Brown, 2000; Matter et al., 2016)。このようなCO2が豊富に存在する地下環境では、CO2が間隙水に溶解し酸性化する。酸性条件下では、玄武岩に含まれる斜長石やかんらん石の溶解が促進され、溶出した二価イオンは炭酸塩鉱物や粘土鉱物として沈殿する。これらの反応は間隙構造(間隙率、間隙サイズ、形状、流路の屈曲度)に影響を与え、浸透率を変化させる可能性がある。しかしながら、高温環境下におけるCO2-水-玄武岩反応が浸透率にどのような影響を及ぼすかは不明な点が多い。そこで本研究では、玄武岩コアに対する高温CO2溶解水の流通試験を実施し、反応に伴う浸透率の変化を評価した。

    試料には直径30 mm、長さ200 mmの玄武岩コアを用いた。試料の間隙率は33 %、浸透率は1.1 × 10−16–2.6 × 10−16 m2である。実験条件は温度200℃、間隙圧10 MPa、封圧11–15 MPaとした。流通試験では、200℃の熱水に対してCO2 (pCO2 = 10–14 MPa)を溶解させてCO2飽和溶解水を作成し、一定差圧をコアに付加して15–21日間流通させた。また、異なる差圧を付加することで流速を変化させ、反応と浸透率の関係に対する流速の効果を評価した。

    CO2溶解水との反応の結果、浸透率は継続的に減少し、最大1/80まで低下した。一方、間隙率は増加したが、増加量は1 %未満であった。流通試験後のコアでは、上流から1 mmまでの範囲で斜長石、かんらん石、単斜輝石、ガラスが顕著に溶解し、最大50 μmサイズの間隙が形成されていた。さらに下流では反応様式が変化し、斜長石、かんらん石、ガラスの溶解によるマイクロメートルオーダーの間隙形成と、粘土鉱物の沈殿で特徴づけられる溶解-沈殿混合領域が形成されていた。コア上流部で溶解が顕著に進んだ原因として、各鉱物から溶出したイオンが移流によって効率的に洗い流され、各鉱物の溶解度よりも低いイオン濃度が維持された結果、溶解が速く進行したことが考えられる。溶解-沈殿混合領域では、間隙表面は厚さ10 μmに及ぶ粘土鉱物で覆われ、間隙径が減少していた。コアから流出した溶液のイオン濃度から、流通試験中は継続的に粘土鉱物の沈殿が起こっていたことが示唆された。浸透率(k)は一般に、k = Cϕr2の関係式で表現され、主に間隙率(ϕ)と間隙のくびれ径(r)によって支配される(Cは定数; Nishiyama and Yokoyama, 2017)。流通試験の前後で間隙率にほとんど変化がないことを踏まえると、浸透率低下の主な原因は、粘土鉱物沈殿に伴うくびれ径の減少であると考えられる。浸透率の減少速度は、差圧(流速)を変化させてもほとんど変化しなかった。これは、くびれ径の減少を引き起こした反応過程が表面反応律速で進行したことを示唆する。本講演では、様々な温度条件におけるCO2-水-岩石反応が浸透率に与える影響を比較し、浸透率の変化に対する温度や沈殿物の種類の影響を議論する予定である。

    引用文献

    Brown, D. W. (2000) Proceedings of the Twenty-fifth Workshop on Geothermal Reservoir Engineering, 233–238.

    Matter, J. M. et al. (2016) Science, 352, 1312–1314.

    Nishiyama, N. and Yokoyama, T. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 6955–6971.

  • 坂下 福馬, 岡本 敦, 吉田 一貴, ダンダル オトゴンバヤル, 宇野 正起
    セッションID: T10-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    超苦鉄質岩の蛇紋石化および炭酸化反応は、一般的に顕著な固体体積増加を引き起こす。この岩石の体積膨張は空隙率と浸透率を低下させ、反応の進行を阻害する。一方で、天然の岩石は大規模な蛇紋石化および炭酸化が進行しており、その反応進行のメカニズムや支配要因はよくわかっていない。近年、数値シミュレーションやアナログ実験により、反応速度が流体流動速度よりも速い場合には、体積増加反応によって破壊が生じ、反応が促進される可能性が示された(Shimizu and Okamoto, 2016; Uno et al. 2022)。しかし、これまでの実験では、反応、流体流動、および変形、破壊挙動が同時に計測されておらず、流体流動-反応-破壊のフィードバックシステムはいまだに不明である。本研究では、変形・流体移動・破壊挙動の測定が可能な、新たに開発した実験装置を用いて、ペリクレース焼結体の水和反応(MgO + H2O → Mg(OH)2、体積膨張率:+119%)に関するバッチ式反応実験および流通式反応実験を行い、体積増加反応の進行に伴う浸透率、反応進行度および破壊の時間的変化を調査した。

    ペリクレース焼結体(高さ20 mm、直径10 mm)は、高空隙率(連結空隙9-11%)、低空隙率(連結空隙0-0.01%)の2種類を使用した。まず、様々な反応時間によるバッチ式反応実験を行うことで、静水圧条件での試料の反応速度を求めた。流通式反応実験では、外部応力条件(封圧および軸圧)を制御し、全体の反応過程の変化(応力・ひずみ、体積変化、アコースティック・エミッション(AE)、浸透率)をリアルタイムで計測した。実験は、以下の条件で4実験を行った:Exp 1(高空隙率試料、軸圧20 MPa)、Exp 2(高空隙率試料、軸圧40 MPa)、Exp 3(低空隙率試料、軸圧20 MPa、反応終了まで)、Exp 4(低空隙率試料、軸圧20 MPa、反応途中まで)。

    バッチ式反応実験において、高空隙率試料では試料が均一に反応したのに対し、低空隙率試料では周りから反応している様子が見られた。このとき、高空隙試料では低空隙率試料より反応速度が約1200倍速いことが確認された。

    流通式反応実験では、初期空隙率によって軸ひずみや浸透率の時間発展に大きな違いが見られた。高空隙試料を用いた、Exp1、2では、まず軸圧・軸ひずみ一定で浸透率が低下し、その後軸圧・軸ひずみが最大まで増加した。その後、どちらも体積膨張を伴いながら軸圧・軸ひずみは徐々に減少していったが、浸透率はExp1ではわずかに減少していったのに対し、Exp2では約1桁増加した。このとき、Exp2では軸方向により短縮が見られた。実験後、サンプルは76-80%反応し、周方向に均一に膨張した。これらの結果は、反応初期に外形を変えずに空隙の閉塞が起こり、その後、反応誘起応力が最大となったことを示している。その後、体積膨張を伴いながら低軸圧では試料全体の圧縮によって空隙が詰まることで浸透率が低下するのに対し、高軸圧では軸に平行な方向に微小亀裂が形成されたため浸透率が増加したと考えられる。高空隙率試料を用いた実験では、開始から10~20分以内に膨張が始まったが、低空隙率試料を用いたExp3、4では、反応の開始が観察されるまでにそれぞれ約1500分および2900分を要した。その後、Exp3では浸透率のパルス的な微小増加とともに軸圧・軸ひずみが最大まで上昇し、次に体積膨張を伴いながら再び浸透率のパルス的な微小増加が発生し、最後に体積変化一定で浸透率が大幅に上昇し、最終的に浸透率は初期状態から2桁増加した。浸透率の大幅上昇はAE信号の活性化とともに見られた。Exp3では多くの亀裂同士の接続、Exp4では上流部分から反応し、上下に接続した亀裂中にMg(OH)2が生成されている様子が見られた。これらの結果より、低空隙の岩石では、誘導時間の後、不均一な反応により反応誘起破壊が生じ、浸透率が劇的に変化したことが示唆された。浸透率のパルス的な微小増加は、生じた亀裂中に水が流れ、Mg(OH)2が生成されたことにより亀裂が閉塞したことによるものだと考えられる。

    本研究より、MgOの水和膨張反応に関する詳細な反応進行プロセスと差応力下での新たな力学挙動が明らかになった。 (1)体積膨張により生じる差応力によって、力学的に弱いMg(OH)2の変形や微小亀裂が生じ、多孔質岩石でも浸透率が増加しうること、(2)低空隙率の岩石では、長い誘導時間の後に不均一な反応によって反応誘起破壊が生じ、浸透率が劇的に向上することが明らかになった。

    [1]Shimizu and Okamoto 2016, Contrib Mineral, 171, 1-18

    [2]Uno et al., 2002 PNAS, 119.3

  • 大柳 良介, 岡本 敦
    セッションID: T10-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    沈み込むスラブによる脱水反応はマントルウェッジに流体を供給し(Van Keken et al., 2011)、マントルウェッジを構成する鉱物を変化させる。これまで、マントルウェッジを構成する鉱物の分布は岩石とH2O流体の相平衡論に基づいて議論され、マントルウェッジ先端は蛇紋岩、深部ではChlorite-lherzoliteが分布するモデルが提案されている(Abers et al., 2017)。しかし、沈み込むスラブから放出される流体は純粋なH2O流体ではなく、炭素やスラブを構成する元素(SiやAlなど)が溶け込んだ流体である。その結果、スラブとマントル間で大規模な物質移動が起き、マントルウェッジの底部では、H2O流体のみを考慮したモデルでは予測されない多様な鉱物(滑石や緑泥石や炭酸塩鉱物など)が生成する。三波川帯の泥質片岩と蛇紋岩の境界では、交代作用の痕跡である反応帯がしばしば観察される(Okamoto et al., 2024)。反応帯のマスバランス計算から、泥質片岩から超塩基性岩へSi、Al、Caが供給されていることが明らかになっている(Oyanagi et al., 2023)。一方、このような交代作用の進行が深さ方向でどのように変化しているかは不明である。

     本研究では、沈み込む堆積物から放出される流体とマントルウェッジの交代作用のモデリングを行った。モデリング結果から、沈み込む堆積物から放出される流体の化学組成を制約するとともに、その流体とマントル岩石が反応した結果どのような鉱物が生成しうるかを制約する。また、鉱物組み合わせの深さ変化も同時に制約する。モデル計算は、暖かい沈み込み帯と冷たい沈み込み帯のエンドメンバーとされている西南日本と東北日本を対象とした。計算では、沈み込み帯それぞれの温度構造や堆積物の組成を組み込んだ。西南日本では炭素は炭酸塩と炭質物として沈み込むが、東北日本では炭素は主に炭質物として沈み込む(Clift, 2017)。本研究におけるモデル計算は主に3つのステップで構成されている。まず、沈み込み帯特有の堆積物の全岩化学組成を用いて、スラブ表面の温度構造に沿った含水量の深さ変化と流体の化学組成を求めた。次に、計算された含水量やプレートの沈み込み速度から流体フラックスを求めた。計算された流体フラックスと流体の化学組成を用いて、前弧マントルにおける鉱物組み合わせを制約した。モデル計算は、ギブス自由エネルギー最小化プログラムであるPerple_Xを用いて行った。

     計算によって得られた、沈み込む堆積物から放出される流体化学組成は東北日本と西南日本で顕著な違いを示した。東北日本では、流体はNaとSiに富み、Cは Siより1桁ほど低い濃度を示した。一方で西南日本では、流体はCに富む組成を示し、C濃度はSi濃度より1桁ほど高かった。沈み込む流体のフラックスを計算した結果、東北日本では変成堆積岩の脱水反応は70−90kmで起きることがわかった。島弧モホ(30km)から70km深さまでは脱水反応は観察されない。一方で西南日本では、沈み込んだ堆積岩は、島弧モホ(35km)から80kmの深度でマントルに流体を供給することがわかった。本研究で示された流体フラックスの計算結果は、既存の計算結果と整合的であった(Abers et al., 2017)。本研究において、東北日本と西南日本のモデルで予測された流体フラックスや流体化学組成の違いは、前弧マントルで生成する鉱物の違いを生み出すことが予想される。講演では、東北日本と西南日本の前弧マントルで生成する鉱物の予測結果を踏まえ、炭素循環や地震活動への影響を考察する。

    Abers, G.A., van Keken, P.E., and Hacker, B.R., 2017, Nature Geoscience, v. 10, p. 333–337.

    Clift, P.D., 2017, Reviews of Geophysics, v. 55, p. 97–125.

    van Keken, P.E., Hacker, B.R., Syracuse, E.M., and Abers, G.A., 2011, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, v. 116.

    Okamoto, A., Nagaya, T., Endo, S., and Mizukami, T., 2024, Elements, v. 20, p. 83–883.

    Oyanagi, R., Uno, M., and Okamoto, A., 2023, Contributions to Mineralogy and Petrology, v. 178, p. 27.

  • Dyuti Prakash Sarkar, Takehiro Hirose, Wataru Tanikawa, Yohei Hamda, H ...
    セッションID: T10-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Earthquake along fault planes is attributed to shear rupture instabilities that usually activate damage in the fault core and surrounding damage zone. Such seismogenic faults usually exhibits several earthquake events during their lifetime. Each earthquake events augments to the heterogeneity of structure and strength of the fault zones, leading to changes in the mechanical properties and energy conditions of subsequent events. However, the evolution of the mechanical properties and energy conditions associated with multiple earthquake events is not well understood. In present study, a series of high-velocity slip-pulse experiments were conducted on simulated gabbro faults to investigate the evolution of mechanical properties of faults undergoing multiple slip events.The experiments are conducted in dry conditions with a pair of hollow cylinders of Belfast gabbro specimens that are repeatedly sheared using the Pressurized High Velocity (PHV) apparatus at slip velocity of 1 m/s and normal stresses of ~ 4 MPa. Each slip pulse representing a single earthquake event results in a total displacement of ~3.8 m. In the present study, we have attempted up to 5 slip pulses for each experiment. During the experiments, the frictional heating inevitably occurs leading to melting and temperatures ~1100–1300 ℃ at the simulated fault contact. Two stages of slip weakening are observed with one following the initial slip, and the other weakening occurs just after the second peak friction. The first weakening is associated with the flash heating at the asperity contacts, while the second weakening is attributed to formation and growth of the melt layer along the simulated fault. The two-stage slip weakening can be confirmed for all the slip pulses, however the displacement required for slip weakening decreases with subsequent slip pulses. This suggests that energy requirement decreases to initiate slip weakening associated with frictional melting in subsequent slip events. We will discuss the microstructural characteristics of the recovered samples observed by X-Radia micro-CT and SEM of the thinsections to clarify the mechanochemical processes in the fault zones. Our results elucidate the evolution of mechanical properties and breakdown energy in repeated earthquake sequences.

  • 丸尾 渚, 大橋 聖和, 氏家 恒太郎, 小松 正幸
    セッションID: T10-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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  • 浦川 真登, スリハリ ラクシュマナン
    セッションID: T10-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    The Dharwar Craton, a Meso-Neoarchean terrane (3500-2500 Ma) in the southern India, is divided into three regions: the Western Dharwar Craton (WDC), Central Dharwar Craton (CDC), and Eastern Dharwar Craton (EDC). The Gadag-Mandya Shear Zone (GMSZ), which trends N-S to NW-SE, serves as the boundary between WDC and CDC.

    Detailed fieldwork conducted along a 174 km stretch of the GMSZ has revealed the presence of granitic mylonite and occasionally amphibolite mylonite with a strike-slip sinistral sense of movement. Limited studies have detailed the structural evolution of this key shear zone in the Archean Eon. We will present the regional-scale variation in the microstructural properties of recrystallized quartz grains in the granitic mylonite and deformed granitic rocks of the GMSZ to unravel its microstructural evolution.

    Microstructural analysis show that the dominant dynamic recrystallization structures in the studied samples are bulging recrystallization and sub-grain rotation recrystallization, which indicate low to medium grade deformation conditions. In some samples high temperature deformation characteristics are preserved possibly associated with syn-magmatic deformation.

    We conducted a fractal dimension (D) analysis of recrystallized quartz grains in mylonitic samples to understand their shape characteristics. Our preliminary results show that, in the northern part of GMSZ, D value is 1.13, which plot granulite facies and synkinematic granite fields (based on Kruhl and Nega, 1996). In the central part, D is 1.13–1.18, which plot upper greenschist to lower amphibolite facies fields. In the southern part, D is 1.05, which plot close to granulite facies and synkinematic granite fields. The average size of recrystallized quartz grains in the northern part of the GMSZ is approximately 150 µm. In the central and southern parts, the averages are 60 µm and 45 µm, respectively.

    Based on our initial microstructural studies, we have identified a low-to-medium grade deformation condition in the GMSZ, with a potential increase in deformation temperature towards the south within the shear zone. In future research, we aim to validate these findings through EBSD analysis of recrystallized quartz grains to ensure the consistency and robustness of our results.

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