日本地質学会学術大会講演要旨
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T15 .地域地質・層序学:現在と展望
  • 羽地 俊樹, 安邊 啓明
    セッションID: T15-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    前弧海盆の発達およびその後の前弧海盆堆積物の変形史は,沈み込むプレートの運動様式に強く影響を受ける.そのため西南日本の中新世以降の前弧海盆堆積物の分布域では,若いフィリピン海プレートの沈み込みと島弧テクトニクスの関係の検討を目的に層序や構造発達史に関する研究が進められている.本研究では,構造発達史の検討が遅れている三崎層群に着目する.

     三崎層群は四国南西端の土佐清水地域に分布する前期~中期中新世の前弧海盆堆積物である(木村,1985;奈良ほか,2017).同層群は浅海域から陸域の堆積物から構成されるが,その層厚は3,000 mに達する.またNE-SW走向でNW方向に傾斜した単斜構造を持ち,その傾斜角は70度に至る.加えて,分布域の北西縁でNE-SW走向の三崎断層で切られ,最上位の地層が基盤と接している.これらの状況から,土佐清水地域では三崎層群の堆積期および堆積後に活発な造構運動があったことが明らかである.しかし,三崎層群では層序や堆積構造に関する研究は行われているものの,構造地質学的な研究例はほとんどない.そこで今回,三崎層群中に認められる小断層の調査を通して四国南西端の構造発達史を検討した.

     海岸沿い約20 kmの踏査を実施し,1,000条を越える小断層を観察した.断層面と層理面との関係から,層理面を高角に切るgap断層(基準面を引き離す運動センスの断層,Sato, 2006),層理面を低角に切るoverlap断層(基準面を近づける運動センスの断層),層平行断層の3種類を認識した.産状の調査を通して,gap断層の形成は堆積時に開始していたこと,overlap断層および層平行断層はgap断層より後の同時期に形成したものであることがわかった.

     断層スリップデータを地層の姿勢の異なる9つの地域のデータセットに分け,Hough変換法(Sato, 2006; Yamaji et al., 2006)で古応力を検討した.各地域の解析結果には,地層に直交する方向に最大圧縮主応力軸が認められる傾向があった.これは三崎層群に認められる小断層の大部分が,傾動前に正断層型応力の下でできたものであることを示す.

     層平行断層の運動センスは NW-SE方向であった.層平行断層とoverlap断層が同時期に形成していることから,これらの変形はNW-SE方向の短縮変形を示唆する.この短縮方向は三崎層群の単斜構造の褶曲軸に直交しており,同構造の形成時のflexural-slipの可能性がある.また,三崎断層の走向もこれと直交しており,同断層の形成もこの短縮変形と同時期と考えて矛盾ない.

     以上の結果は,三崎層群の各種の地質構造が,堆積と同時期の伸長とその後の短縮の2つのイベントで説明できることを示す.すなわち,三崎層群は正断層型応力場で発達した三崎前弧海盆を埋積した地層であり,堆積と同時期に伸長変形を被った.そして,その後に短縮変形を被り,現在の地質構造が形作られた.短縮の時期は明確ではないが,周辺の温度構造(Nishizawa and Yamamoto, 2023)・海域の地質構造(岡本ほか,1998)・第四系の分布(太田・小田切,1994)などから後期中新世もしくは第四紀の可能性が示唆される.

    【引用文献】

    木村,1985,地質雑,91,815‒831.奈良ほか,2017,地質雑,123,471‒489Nishizawa and Yamamoto, 2023, JpGU abstr., MIS13-10.岡本ほか,1998.1: 200,000 豊後水道南方海底地質図および同説明書.太田・小田切,1994.地学雑誌,103, 243‒267.Sato, 2006, Tectonophys., 421, 319‒330.Yamaji et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980‒990.

  • 金指 由維, 折橋 裕二, 仁木 創太, 岩野 英樹, 佐々木 実, 淺原 良浩, 平田 岳史
    セッションID: T15-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    青森県津軽西岸域には中新統の珪長質火山岩・火砕岩類が広範囲に分布している. 同西岸域, 白神山地西端には“日本キャニオン”と呼ばれる白い岩肌の大断崖(幅約1 km, 高さ300 m)が露出し,十二湖凝灰岩の模式地とされる. 十二湖凝灰岩は流紋岩質火山砕屑岩・溶岩から構成され, 分布面積は約50 km2(東西約4 km, 南北約12 km)に達する.また, 同構成岩にNW–SE方向に大規模な流紋岩質岩脈が貫入している(例えば,盛谷,1968). 著者らは昨年度の日本地質学会学術大会(京都大学)において十二湖凝灰岩構成岩のジルコンのU–Pb・FT年代測定結果を報告し, 同構成岩が12.2–12.0 Maの短期間に形成されたことを明らかにした. また, 下位の大童子層上部と同時異相の関係にあるとする盛谷(1968)の見解を支持した(金指ほか, 2023).本研究では,さらに十二湖凝灰岩分布域の地質踏査を中心に行い, 得られた産状記載と岩石学的特徴から十二湖凝灰岩が水中珪長質溶岩ドームであることを示唆するとともに,新たに2試料のジルコンのU–Pb年代結果について報告する. なお, 本測定には東京大学大学院理学系研究科地殻化学研究施設設置のフェムト秒レーザーアブレーション多重検出器型ICP質量分析装置を用いた.

     本地質踏査の結果,十二湖凝灰岩の分布域南部の小峰川流域では,下部から上部にかけて黒曜岩と流紋岩岩片から構成される凝灰角礫岩,角礫化した流紋岩溶岩,ガラス質凝灰岩およびガラス質凝灰角礫岩へと岩相が変化し,日本キャニオンでは,その大部分が平行ラミナの発達したガラス質凝灰岩および凝灰角礫岩から構成され,下部には放射状節理の発達したラバーローブ状黒曜岩質溶岩や流理構造の発達した流紋岩溶岩から構成されていることを確認した.これらの産状から十二湖凝灰岩の主体はハイアロクラスタイトと考えられる. また,これらに厚さ約10~30 mの流紋岩(または真珠岩)岩脈が多数貫入している.本分布域北部の笹内川流域では,下部から上部にかけて珪質泥岩と軽石凝灰岩の互層, 珪質泥岩片を多く含む凝灰角礫岩,細粒のガラス質凝灰岩へと岩相が変化する.盛谷(1968)が指摘するように,十二湖凝灰岩は日本キャニオンから南北にいくにつれ層厚が減少すると共に細粒岩相と変化することから,日本キャニオン周辺が噴出の中心であったと考えられる.

     これまで年代測定を行った試料は十二湖凝灰岩の最上部, 軽石凝灰岩と最下部, 凝灰角礫岩および流紋岩質貫入岩である. 本研究では上部に位置する日本キャニオンの流紋岩溶岩および小峰川流域の中部に位置する凝灰角礫岩を年代測定した. 前者の238U–206Pb年代の加重平均は12.2 ± 0.1 Ma(2σ), 後者の238U–206Pb年代の加重平均は12.18± 0.05 Ma(2σ)であり, 十二湖凝灰岩は12.2–12.0 Maの短期間に形成されたことする金指ほか(2023)の見解を支持する結果となった.

     産状記載, 岩石学的特徴および年代結果より, 十二湖凝灰岩は流紋岩質凝灰角礫岩, 流紋岩溶岩, 流紋岩質フィーダーダイクを伴うハイアロクラスタイトから構成される水中珪長質溶岩ドームであることが示唆される. 東北日本弧には背弧海盆の拡大期においてあらゆる化学組成のマグマに由来する海底火山噴出物が形成されている. 玄武岩質―安山岩質噴出物は堆積メカニズムおよび堆積環境について多く研究されているが(例えば, 後藤・合地, 1991), 珪長質なものに関しては, 国内ではほとんど報告例がない. 水中珪長質溶岩ドームの形成史を議論する上で, 十二湖凝灰岩は露頭の保存状態が良く, ほとんど変質を受けていないため非常に適している.

     現在,十二湖凝灰岩を構成する流紋岩類の全岩化学組成についても検討中であり,本講演ではそれらの結果についても報告する予定である.

    [引用文献]金指ほか, 2023, 日本地質学会第130年学術大会講演要旨. 後藤・合地, 1991, 火山,1, 37–50. 盛谷, 1968, 地質調査所, 57p

  • 服部 海, 楢崎 眞一郎, 林 広樹, 小田原 啓
    セッションID: T15-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日本の本州南中央部,神奈川県西部から静岡県東部にかけての地域は本州弧と伊豆弧の衝突帯であり,活断層が多く分布している.また,神奈川県南足柄市から山北町にかけての地域は,平山-松田北断層帯が分布している.政府の地震調査委員会による平山-松田北断層帯の長期評価(地震調査委員会,2015)によると,この断層帯が一つの区間として活動する場合,M6.8程度の地震が発生する可能性が示唆されている.夕日の滝断層は今永(1976)によって初めて報告され,天野ほか(1986),狩野ほか(1984), Imanaga(1999)等によれば東西方向で南傾斜の高角正断層とされている.先述の平山-松田北断層帯の長期評価では,平山断層から分岐する断層として図示されている.これらの先行研究に基づくと,本地域には,足柄層群の瀬戸層,畑層,塩沢層,そしてそれらを不整合に覆う箱根古期外輪山噴出物の狩川溶岩グループが分布し,先述の平山断層と夕日の滝断層の他,内川断層と定山断層と呼ばれる推定断層に切られている.本研究では,南足柄市地蔵堂地域の夕日の滝断層周辺で,詳細な地質調査を実施した.本研究では夕日の滝断層の断層露頭を発見し,断層岩の採取を行った.採取した断層岩の薄片観察を行った結果,垂直方向の薄片から正断層センス,水平方向の薄片からは左横ずれセンスを示す複合面構造が確認され,夕日の滝断層が左横ずれ成分をもつ正断層であることが明らかになった.また,断層面の走向傾斜と条線から東西圧縮の応力場が復元されたが,これは平山断層のすべり方位解析に基づく南北圧縮応力場や,周辺の足柄層群および箱根古期外輪山噴出物の分布域における小断層解析から復元される北北西-南南東圧縮応力場とも異なる結果となった.さらに,夕日の滝断層の断層ガウジおよび母岩試料に対し,粉末XRD分析を行った結果,ガウジの試料から母岩に起因するスメクタイトおよび緑泥石が検出されたものの,高温の熱水変質を示唆する粘土鉱物は検出されなかった.大川・小林(2007)によれば、平山断層系の断層では断層活動に伴う熱水による熱水変質が報告されている.以上の結果を総合すると,夕日の滝断層は平山断層とは異なるステージに形成された可能性があるものと考える.本講演では,以上の結果に加え,火山灰分析や有孔虫化石分析の結果についても報告する.

    引用文献:天野ほか (1986)北村信教授記念地質学論文集,7-29;今永 (1976)神奈川県博研報(自然),9, 77-84;Imanaga (1999) Bull. Kanagawa Pref. Mus. Nat. Sci., 28, 73-106;地震調査委員会 (2015) 塩沢断層帯・平山 - 松田北断層帯・国府津 - 松田断層帯 ( 神縄・国府津 - 松田断層帯 )の長期評価 ( 第二版 ),地震調査研究推進本部地震調査委員会;狩野ほか(1984)第四紀研究, 23, 137-143;大川・小林(2007) 神奈川県温泉地学研究所報告, 39, 43-56

  • 平田 大二, 仁木 創太, 平田 岳史
    セッションID: T15-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【背景と目的】南関東の三浦・房総半島の北部に分布する中新統三浦層群は,前弧海盆堆積物と解釈されている。その堆積年代については、房総半島では露頭状況と地層の連続性の良さもあり、微化石や古地磁気および火山灰鍵層年代測定などの詳細な研究により確立されてきた(新妻,1976;Oda, 1977; Kasuya, 1987;Takahashi & Danhara, 1997など)。一方、三浦半島でも微化石や火山灰鍵層などによる堆積年代についての研究が行われてはきたが(Kasuya, 1987;江藤ほか, 1987;蟹江ほか, 1991など)、微化石の産出状況や露頭状況の悪さにより、年代については不明瞭な部分が残されている。なかでも、三浦層群とその下位の中部中新統葉山層群との不整合関係(田越川不整合)は、南関東の新第三紀の地質構造発達史を考えるうえで重要なものであるとされてきた(渡辺, 1925;Shikama, 1973;平田ほか, 2012)が、その形成年代については不明確であった。本研究では、三浦半島北部に分布する三浦層群基底層に挟在する凝灰質岩層中のジルコン粒子のU-Pb年代測定により堆積年代を明確にするとともに、田越川不整合の形成年代を推定する。このことは、三浦・房総半島における新第三紀の地質構造発達史解明に束縛条件を与える。

    【方法と結果】三浦半島北部に分布する三浦層群基底層から、Shikama(1973)および平田ほか(2012)に記載された田越川不整合直上となる6地点で採集した凝灰質岩中のジルコン粒子について、LA-ICP-MS法によるU-Pb年代測定を行った.ジルコンの分離と分析用マウント作成は、(株)京都フィッショントラックに依頼した。U-Pb年代測定は、東京大学大学院地殻化学実験施設の高速多点フェムト秒レーザーアブレ–ション装置と多重検出方式の磁場型ICP質量分析計を備えた装置で行った。なお、逗子市桜山と逗子市南郷については、平田(2021)にて報告した。試料採集地点とU-Pb年代測定結果概要は、次のとおりである。①逗子市桜山: 6.18±0.07 Ma ②逗子市南郷:6.40±0.09 Ma ③横須賀市田浦大作町(沼間トンネル内):6.34±0.13 Ma ④横須賀市佐原:6.29±0.45Ma ⑤葉山町小磯:6.40±0.15Ma ⑥葉山町上山口: 10~20 Maと60~80 Maにピークが認められるが最若粒子は7Maである。

    【考察】三浦層群基底層に含まれる凝灰質岩中のジルコン粒子のU-Pb年代測定結果は、①~⑤地点では6.4~6.2Maであった。なお⑥地点は年代測定結果にバラツキがあるが、最若年代が7Maであることは、堆積年代がそれよりも若い年代であることを示す。これらの結果から、三浦半島北部の三浦層群基底層の堆積は7~6.5Ma頃に始まったと考えられる。なお、これらの年代は三浦層群基底層の上位に重なる三浦層群逗子層の石灰質ナンノ化石から推定されたCN9帯(8.3~5.6 Ma)とも矛盾しない。また、田越川不整合の形成は、下位の葉山層群上部層の堆積年代が約15Ma(鈴木, 2012)であることから、15Maから7Maの間と推定される。一方、房総半島北部に分布する三浦層群基底部の年代が約15Ma(Takahashi & Danhara, 1997)であることから、三浦半島と房総半島では三浦層群の堆積開始時期に900万年程度の差があったことを強く示唆する。これらのことは、南関東における前弧海盆の地質構造発達史に重要な制約を与える。

    【引用文献】江藤哲人ほか(1987)横浜国立大学理科紀要,第Ⅱ類, (34), 41–57. 平田大二(2021)横浜国立大学大学院環境情報学府、博士論文.平田大二ほか(2012)神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学), (14), 103–116. 蟹江康光ほか(1991)地質学雑誌, 97, 135–155. Kasuya, M. (1987) Sci. Repts. Tohoku Univ., 2nd ser., (Geol.), 58, 93–106. 新妻信明(1976)地質学雑誌, 82, 163–181. Oda, M. (1977) Sci. Repts. Tohoku Univ., 2nd ser., (Geol.), 48, 1–72. Shikama, T. (1973) Sci. Repts. Tohoku Univ., 2nd ser., (Geol.), Spe. Vol. 6 (Hatai Memorial Volume),179–204, 鈴木 進(2012)神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学), (14), 65–74. Takahashi, M. & Danhara, T. (1997) Jour. Geomag. Geoelectr., 49, 89–99. 渡辺久吉(1925)地学雑誌, 37, 439–501, 584–595.

  • 野崎 篤, 宇都宮 正志
    セッションID: T15-O-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    三浦半島北部には後期中新世から鮮新世の前弧海盆堆積物である逗子層とその上位の池子層が露出する.Utsunomiya et al. (2023) は,逗子層と池子層との間にレンズ状に挟在する神武寺部層(海底地すべり堆積物)が約3.2 Maに形成されたこと,これによって少なくとも約1.3 M.y.に及ぶ地層が削剥されたこと,同時期に生じた浸食面と海底地すべり堆積物が房総半島まで連続していることを明らかにし,このような同時多発的に発生した海底地すべりは隆起帯の成長によって前弧海盆が東西に分化する過程で生じた可能性を示唆した.本研究では,神武寺部層分布域よりも西にあたる釈迦堂切通(鎌倉市大町)に露出する逗子層と池子層の境界付近で,鎌倉市が掘削した2本のボーリングコアと露頭の観察を行って,岩相層序と石灰質ナノ化石層序を検討した.

    調査地域には主に泥岩からなる逗子層と,その上位に重なり主に凝灰質泥質砂岩層からなる池子層が露出する.ボーリングコアBrA-1(全長21.0 m,鉛直掘削)は深度19.1~21.0 mが逗子層,深度0.3~19.1 mが池子層からなり,コアBrA-2(全長27.0 m,鉛直掘削)は,深度0.5~27.0 mが池子層からなる.露頭において逗子層と池子層は北に5~3度傾斜する.両層の境界面は層理面にほぼ平行だが,一部で境界面が層理面に斜交していることから,下位の逗子層が浸食されていることが伺えた.境界面直下の逗子層では,挟在する砂岩層やテフラ層が波打つように変形したり側方にせん滅する様子がみられた.

    池子層には,軽石やスコリアを主体とする層厚50 cm以下のテフラ層が多く挟在し,そのうち12枚が露頭と2本のコア間で対比された.またテフラ層のうちコアBrA-1の6.5 mとBrA-2の12.6 mで確認された白色粗粒火山灰層を敷くスコリア質中粒砂岩層は,三浦半島の池子層中の鍵層テフラであるIkT20(Utsunomiya et al., 2017)に対比されるほか,3枚のテフラ層がUtsunomiya et al. (2017; 2023)の鍵層に対比される可能性がある.

    コアBr A-1から採取した計16試料について,石灰質ナノ化石層序を検討した結果,逗子層の2層準,池子層の5層準からナノ化石がそれぞれ確認された.このうち,終産出がOkada and Bukry (1980) のナノ化石帯CN11の上限(3.82 Ma:Raffi et al., 2020)を規定するReticulofenestra pseudoumbilicusが逗子層の2層準と池子層の1層準から産出した.CN12a亜帯下部に終産出層準(3.61 Ma:Raffi et al., 2020)をもつSphenolithus spp. も逗子層の2層準から産出することを踏まえると,本コアの逗子層最上部はCN10–11帯(5.53~3.82 Ma: Raffi et al., 2020)に相当すると思われる.また終産出がCN12a亜帯上限(2.76 Ma: Raffi et al., 2020)を規定するDiscoaster tamalis が池子層の5層準から産出した.Sphenolithus spp. が池子層から産出しない点と,池子層の1層準のみR. pseudoumbilicusが産出するが,本種はこれより下位の池子層からは産出しておらず不連続にこの層準にだけ出てくることから,再堆積の可能性があることを考慮すると,池子層はCN12a亜帯でかつSphenolithus spp. 終産出層準より上位(3.61~2.76 Ma: Raffi et al., 2020)に相当すると思われる.このことは逗子市池子地域に露出する池子層最下部の年代層序と調和的である.

    以上のことから,調査地域の逗子層と池子層の間には,少なくとも3.82~3.61 Ma分の年代ギャップが存在し,池子層の下底には浸食面が存在することが示唆される.池子層の下底は,コアBrA-1において鍵層IkT20の14 m下位にあるが,調査地域から約5 ㎞東方で神武寺部層(海底地すべり堆積物)と池子層の境界はIkT20の約12 m下位とほぼ同じ層位に存在する(Utsunomiya et al., 2023)ことから,調査地域にみられる池子層下底の浸食面も,約3.2 Maに三浦・房総両半島にかけて同時多発的に生じた海底地すべりに伴い形成された可能性がある.

    引用文献

    Okada and Bukry, 1980, Mar. Micropaleontol. 5, 321-325.; Raffi et al., 2006. Quat. Sci. Rev. 25, 3113-3137.; Raffi et al., 2020, In: Geologic time scale 2020, p 1141–1215, Elsevier.; Utsunomiya et al., 2017, Quat Int, 456, 125–137.; Utsunomiya et al., 2023, PEPS, 10: 25.

  • 曾根 明樹, 酒井 哲弥
    セッションID: T15-O-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    静岡県西部鮮新‐更新統掛川層群堀之内層は、前弧海盆を充填したタービダイトであると知られている。北堀・酒井(2013)では、火山灰層を鍵層に同一層準でタービダイトを広域に対比し、時代毎の堆積盆の形状の変化を復元した。北堀・酒井(2013)では、タービダイトの内部構造と砂層と泥層の厚さの変化に着目し、堆積盆の形状の復元を行った。しかし、タービダイトの詳細な形態の分類は行われていない。本研究では堀之内層のタービダイトに対し、古流向・砂泥互層の厚さの分析による堆積場の復元だけでなく、タービダイト内に認められるハイブリッド的な堆積様式を詳細に記載し、堆積場の形状・堆積環境を詳細に復元・検討したものである。本研究では高分解能柱状図を走向線に沿って複数地点で作成、斜交葉理・変形したコンボリュート構造の褶曲軸の方向から古流向・古斜面の傾斜方向を復元し、時代毎での堆積当時の掛川海盆の形状を復元した。調査の結果、堀之内層内で過去報告例の無い以下の堆積構造が認められた。 デブライト砂層に破砕された泥層の円礫が認められた。この泥層の円礫は砂層内に点在するものであり、同一層準で連続的に認められたため、堆積当時の海底地すべりによる堆積物であると考え、デブライトと認定した。 サイスマイト同一層準内で複数の方向へ変形したコンボリュート構造が認められた。このコンボリュート構造の褶曲軸の傾斜方向は、堆積当時の陸側・沖側の両方を示した。この両側方向への変形を示す変形したコンボリュート構造が、堆積当時の陸側斜面で頻繁に認められたため、地震の影響による変形と解釈し、サイスマイトと認定した。 ハイパーピクナイト砂層内に粒度の異なる1~3㎜程度の平行葉理が認められた。また、この平行葉理が分布する砂層は下部から逆級化・級化構造が認められたため、ハイパーピクナイトと認定した。 アンティデューンタービダイトの境界に沖側方向に対して、緩く逆向きに傾斜する構造が認められた。この緩く逆向きに傾く堆積構造は同一層準内で断続的に認められたため、堆積当時の陸側斜面を混濁流が高速で通過・浸食・堆積した際のアンティデューンと認定した。 サイクリックステップ砂層と泥層の境界に当時の沖側方向に対して、階段状に緩く傾斜する構造が認められた。この階段状の構造は1~3m程度の周期で認められ、階段状に急傾斜する砂層と泥層の境界では、階段状の構造を地形に沿って充填する平行葉理が認められたため、サイクリックステップと解釈した。上記の記載と走向傾斜の変化から掛川海盆の形状・堆積環境の変遷を以下の通り解釈した。ユニット1(3.8~2.97Ma):走向は南北で連続し、古流向も沖向き・陸向きの両方を示す。特に北部では南東~南向きの古流向が卓越し、南部では北東~北向きの古流向が卓越する。中央部では古流向は東を示す。古流向と走向傾斜の変化から、ユニット1では東側にトラフが存在し、混濁流が東に向かって流れていたと考えられる。ユニット2(2.97~2.66Ma):走向線が南部まで連続せず、ユニット2の走向線がユニット1の走向線にオンラップする。古流向と古斜面傾斜方向は沖向きのものが卓越し、タービダイトの内部構造は変形を受けたものと、斜面性のもの(アンティデューン)が北部で多く見られる。走向とタービダイトの内部構造から、ユニット1と比較し、堆積盆の両側の斜面が高角であり、陸側では斜面性の堆積物を堆積させ、沖側では混濁流が斜面を駆け上がることができず、陸向きの流れが生じにくかったと考えられる。ユニット3(2.66~2.5Ma):走向線は南北で連続し、古流向は沖向き・陸向きの両方を示す。堆積盆の形状はユニット2と比較し、沖・陸側斜面の傾斜が緩くなったと考えられる。上記から、掛川海盆ではユニット2(2.97~2.66Ma)の時期に外縁隆起帯が急激に隆起したと考えられる。ユニット1南部の傾斜は、北部と比べ高角となる。これは外縁隆起帯が隆起し、沖側の地層を陸向きに傾斜させたからであると考えられる。また、ユニット2の走向がユニット1にオンラップすることを考慮すると、ユニット1の層準が急激に隆起し、ユニット2を堆積させた混濁流がせき止められ、オンラップを形成したことが推測される。また、ユニット2のタービダイトはオンラップする地域で砂が厚くたまる特徴がある。これは外縁隆起帯の隆起によって、混濁流が沖側斜面を駆け上がることができず、砂を厚く堆積させたためだと考えられる。掛川海盆で外縁隆起帯の隆起が起こったと考えられる2.9~2.66Maはフィリピン海プレートが沈み込みの方向を北から北西へと変化させたとされる3Maの直後であり、この応力方向の変化は、当時の掛川海盆が沖側斜面(東側斜面)を隆起させたことと整合する。今後の課題として、外縁隆起帯の隆起による堆積盆・堆積物への影響を詳細に評価するため、2.97Ma以前のタービダイトと走向傾斜の変化を観察する必要がある。

    引用文献:北堀建太・酒井哲弥(2013) 堆積学研究, 72, 159-164.

  • 中谷 是崇, 水野 清秀, 羽田 裕貴
    セッションID: T15-O-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    静岡県掛川地域に分布する掛川層群は,鮮新統~下部更新統の連続して堆積した海成層である.これまでに微化石層序,シーケンス層序,テフラ層序等多くの層序学的研究が行われている.テフラについては,これまで100枚以上が報告されている(水野ほか,1987:里口ほか,1996:柴ほか,2000,2010など)が,これらの報告にはローカルなテフラの追跡の誤まりなどがあり,掛川層群におけるテフラ層序が確立されているとは言えない.一方で,掛川層群には他地域と広域対比されるテフラが報告されており,日本の鮮新〜更新統の模式テフラ層序を確立するポテンシャルを有する.中谷・水野(2023)は掛川層群の下組テフラと塩買坂Ⅳ-Ⅴテフラが,それぞれ淡路島の大阪層群の研城ヶ丘1テフラと倭文テフラ(高橋ほか,1992)に対比されることを示し,掛川層群における鮮新–更新統境界層準を制約した.

     本研究は,掛川層群で鮮新統–更新統境界層準が予想される地域において,個々のテフラの層位関係とその特徴を明らかにすることを目的とする.その結果,新たに3枚の広域対比されるテフラが見つかった.

     採取したテフラ試料は超音波洗浄と篩分けを行い63~250 μmの粒子を取り出し,火山ガラスの形状,鉱物組成を観察した.屈折率測定には温度変化型測定装置MAIOTを使用した.火山ガラスの主要化学成分はEDX,微量化学成分はLA-ICP-MSを用いた分析を古澤地質(株)に依頼した.また,予察的な古地磁気分析を行った.

     本研究では既に報告されているテフラ,新しく発見したテフラを含め,計16枚について記載した.菊川市大胡桃池で4枚のテフラを記載し,下位から大胡桃池1~4とした.大胡桃池3は高温型石英を多く含むのが特徴で,柴ほか(2010)の目木3と同じテフラと考えられる.菊川市畑崎では新しく3枚のテフラを記載し,下位から畑崎L,畑崎M,畑崎Uとした.なお,柴ほか(2010)は,ほぼ同じ場所で畑崎Ⅰテフラ,畑崎Ⅱテフラを記載しているが,これらが本研究で記載したテフラと同一のものかは不明である.

     本間堂テフラ(柴ほか,2010)は,下組テフラの約20 m下位に位置する.火山ガラスは主に多孔質で,その屈折率は1.497~1.499である.主要元素組成はK2Oが4.64 wt.%と多く,微量元素組成はBaが207 ppm,Srが12 ppmと少ない.これに類似した特徴を示すテフラとして,淡路島の研城ヶ丘0テフラ(仮称)が考えられる.研城ヶ丘0テフラは下組テフラに対比された研城ヶ丘1テフラの直下に位置する.そのため本間堂テフラと研城ヶ丘0テフラは層位関係も一致する.以上のことから,本間堂テフラと研城ヶ丘0テフラは対比されると考えられる.

     畑崎Uテフラは塩買坂Ⅳ-Ⅴテフラより約50~60 m上位に位置する.火山ガラスの屈折率が1.502~1.506で,主要元素組成はFeOが2.06 wt.%,CaOが1.81 wt.%,K2Oが1.65 wt.%で,微量元素組成はScが22 ppmと若干多い.畑崎Uテフラと大胡桃池2テフラは火山ガラスの屈折率や化学組成がよく一致し,同一のテフラと考えられる.なお,大胡桃池2テフラの古地磁気極性は逆極性を示す.畑崎Lは畑崎Uの約8 m下位に位置し,火山ガラスの屈折率は1.500~1.501で,微量元素組成はBaが745 ppmと多く,Srが74 ppmとやや少ない.このような特徴を持つテフラの組み合わせは,東海層群の鈴峰テフラ(宮村ほか,1981)と,その下位に位置する御幣橋1テフラおよび御幣橋2テフラ(納谷ほか,2021)もしくはそのいずれかが考えられる.星ほか(2014)によると,鈴峰テフラ,御幣橋1テフラ,御幣橋2テフラは松山逆磁極期の最下部に位置する.そのため,火山ガラスの化学組成,テフラ同士の層位関係および古地磁気極性から,畑崎Uテフラ,畑崎Lテフラが鈴峰テフラ,御幣橋1テフラおよび御幣橋2テフラに対比される.この結果,掛川層群における鮮新–更新統境界は塩買坂Ⅳ-Ⅴ~畑崎Lの層序区間に制約された.

     本研究によって新たに3枚のテフラが東海層群や大阪層群のテフラと対比された.今後は,同層準において未だ層位関係が不明瞭なテフラを調査しつつ,上部鮮新統へ調査範囲を拡大させていく予定である.

    文献:星ほか(2014)地質雑,120,313-323.里口ほか(1996)地球科学,50,483-500.柴ほか(2000)東海大博研報,2,53-108.柴ほか(2010)東海大博研報,10,17-50.高橋ほか(1992)洲本地域の地質.107p.宮村ほか(1981)亀山地域の地質.地質調査所,128p.水野ほか(1987)地調月報,38,785-808.中谷・水野(2023)日本地質学会第130年学術大会,T15-O-14.納谷ほか(2021)地学雑,130,331-352.

  • 岡田 誠, 前田 郷, 小塚 大輝, 小西 拓海
    セッションID: T15-O-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    本研究では,南房総市千倉町の小松寺の脇を流れる沢沿いに露出する海成層において,Konishi and Okada (2020)によって報告されたFeni正磁極亜帯の下位層準で見られた地磁気エクスカーションの詳細を明らかにすることを目的とした.そのため,当該層準における約30mの層厚区間で見られたシルト岩層を対象に,約10cm〜1mの層厚間隔で44層準より直径2.5cmのミニコア試料を計133本採取し,岩石磁気学的実験及び古地磁気測定を行った.古地磁気測定では,Konishi and Okada (2020)によって二次磁化除去に有効なことが示されている250℃の熱消磁と段階交流消磁を組合せたハイブリッド消磁を用いた.その結果,平均磁化方位は約16°の東編を示した.この値を用いて構造回転の影響を除去し,得られた偏角・伏角からVGPの緯度・経度を求めたところ,VGP緯度が−45°から+45°の範囲となり,相対古地磁気強度(RPI)の減少が見られる地磁気エクスカーションと判断できる区間が連続して二つ存在することが確認された.当該層準で得られている酸素同位体カーブを用いた暫定的な年代モデルによると,検出された2つのエクスカーションの年代は,約2.17Ma付近と算出された.これまで当該年代付近では地磁気エクスカーションの報告はないため,今回検出された2つの連続したエクスカーションは新発見のものと考えられる. Reference:Konishi and Okada (2020) https://doi.org/10.1186/s40645-020-00352-0

  • 小西 拓海, 岡田 誠, 小塚 大輝
    セッションID: T15-O-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    房総半島中央部には,古第三紀以前の岩石や地層からなる嶺岡帯が前弧外縁隆起帯として位置し,その北側には前弧海盆で形成された下部~中部更新統の上総層群が,南側には海溝陸側斜面で形成された上部鮮新統~下部更新統の千倉層群がそれぞれ分布する.

    これまでの微化石・古地磁気による年代層序学的検討に基づき,千倉層群と上総層群下部~中部はほぼ同時代の地層であることが明らかにされている(新妻,1976;佐藤ほか,1988;小竹ほか,1995など).両層群はテフラ層を多数狭在し,それらの一部は広域テフラとして知られている.上総層群下部の広域テフラについては,田村ほか(2019)により大原層以下の上総層群から26層の広域テフラの層位,岩相,岩石学的特徴及び化学組成が報告されている.そして,宇都宮(2019)により房総半島東部に分布する上総層群下部(勝浦層上部~黄和田層)の岩相層序が詳細化されるとともに,田村ほか(2019)などで示されたテフラ層の層位が明確になった.千倉層群では布良層及び畑層において岡田ほか(2012)及びKonishi and Okada (2020) によりおよそ3.2~1.9 Maの連続的な古地磁気層序が構築され,そのうち2.9~2.3 Maの層準に関しては広域テフラが複数確認された(Tamura et al., 2016).

    これらの層序学的研究を背景に,上総層群下部における古地磁気層序の構築および千倉層群畑層におけるテフラ層の記載・化学組成分析により両層群の詳細な層序対比が行われた(小西ほか,2023).その結果,上総層群最下部の勝浦層から黄和田層にかけて計8枚のテフラが対比され,上総層群でFeniとOlduvai正磁極亜帯に対応する正磁極帯が検出された.

    本発表では,千倉層群と上総層群においてFeniとOlduvai正磁極亜帯周辺の古地磁気変動記録を復元したので,その比較結果を報告する.

    引用文献

    Konishi and Okada (2020), Prog. Earth Planet. Sci., 7, 35.

    小西ほか(2023),地質雑,129,469-487.

    小竹ほか (1995), 地質雑, 101, 515–531.

    新妻 (1976), 地質雑, 82, 163–181.

    岡田ほか (2012), 地質雑, 118,97–108.

    佐藤ほか (1988), 石技誌, 53,475–491.

    Tamura et al. (2016) ,Geograp. Rep. of Tokyo Metrop. Univ., 51, 41-52.

    田村ほか (2019), 地質雑, 125, 23–29.

    宇都宮(2019), 上総大原地域の地質 5万分の1地質図幅, 第3章,11-33.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    谷元 瞭太, 岡田 誠
    セッションID: T15-O-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    中期鮮新世温暖期(mPWP:mid-Pliocene Warm Period)とは,約3.3~3.0 Maの気候温暖期を指しており,地表の平均気温は現在と比較して2~3℃高く,CO2濃度が現在(約350 ~450ppm)と同等かそれ以上であったと推定されている(たとえば,Haywood et al., 2016).このため,現代から地球温暖化の進行した近未来との気候アナログとして注目されている.また,mPWP後の約2.7 Maには北半球における氷床成長が顕著となる北半球氷河作用(NHG:Northern Hemisphere Glaciation)が発生し,氷期-間氷期サイクルが卓越するようになったことが知られている. したがって,3.0 Ma頃は地球の気候システムの重要な転換期であるといえる.

     しかし,鮮新世にまで達する深海底コアの堆積速度は数cm/kyr程度であるものが大半を占めており,地磁気逆転と海洋酸素同位体ステージ(MIS:Marine oxygen Isotope Stage)との対応関係が不明確であることから,地層間の詳細な対比が困難である.そこで本研究では,堆積速度が約70cm/kyrと推定されている房総半島南端地域に分布する千倉層群布良層を対象とし,mPWP末期に発生した地磁気逆転であるカエナ逆磁極亜帯上部境界付近において,古地磁気-酸素同位体複合層序を構築し,地磁気逆転とMISの対応関係について議論する.

     これまでのところ,約1-3 m間隔で行った古地磁気測定によって上部カエナ境界の層位が明確化された.また,予察的な酸素同位体測定により,上部カエナ境界はMIS G21からG20 の間に対応する可能性が示唆された.この結果は,これまでMIS G21と対応すると提唱されてきた上部カエナ境界がより若くなることを示している(たとえば,Hodell and Channell, 2016; Lisiecki and Raymo, 2005; Wang et al., 2021).

     今後,酸素同位体測定のデータを拡充することで,より層位関係を明確化する予定である.

    謝辞

     本研究は,東京地学協会調査・研究助成(研究課題:房総半島南端地域に分布する海成堆積層を用いた後期鮮新世の連続古地磁気変動復元)の一部を使用して行われた.

    引用文献

    Haywood et al. (2016) : Nature Communications, 7:10646. doi: 10.1038/ncomms10646.

    Hodell and Channell (2016): Climate of the past, 12, 1805-1826, doi:10.5194/cp-12-1805-2016.

    Lisiecki and Raymo (2005): PALEOCEANOGRAPHY, 20:1003. doi:10.1029/2004PA001071.

    Wang et al. (2021): Frontiers in Earth Science, 9. doi.org/10.3389/feart.2021.683177.

  • 瀬戸 大暉, 佐藤 幸廣, 長澤 一雄
    セッションID: T15-O-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】大桑-万願寺動物群は,日本海側を中心に後期鮮新世から前期更新世に繁栄した寒流系の化石動物群である.大桑-万願寺動物群は,北陸から東北地方の新第三系である石川県大桑層や秋田県笹岡層などで数多く報告がされてきた.一方,山形県からの報告は,新庄盆地と庄内地方の一部からと数が少ない(増田・小笠原,1981;佐藤,1990など).本報告では,山形県庄内地域に分布する上部鮮新統-下部更新統科沢層から産出した大桑-万願寺動物群の特徴種について,その意義と中新世型残存種について考察する.

    【調査地】調査地は,山形県庄内地域の出羽丘陵を南北に流下する立谷沢川中流域に露出する科沢層である.調査地は,下位から草薙層,楯山層,丸山層および科沢層と層序区分され,これらを月山火山の岩屑流堆積物が不整合に覆っている.科沢層は,主に細粒砂岩や礫岩層からなり,最上部に亜炭層を挟在する.科沢層からは,貝化石や脊椎動物化石が産出することが知られている.

    【結果と考察】科沢層からは,これまでに4層準の化石産地から貝類化石89種6160個体が発見されている(佐藤,2000).本発表では,大桑-万願寺動物群が産出した上位層と下位層の2層準の化石産地を扱う.これらの化石産地の産状は,いずれも貝殻が層理に平行に配列し,離弁殻からなることから,浅海からの流れ込みと推定される.産出した大桑-万願寺動物群の特徴種は,Umbonium akitanumTurritella saishuensisFulgoraria masudaeOphiodermella oguranaAcila nakazimaiAnadara amicula elongateChlamys coshibensis Mizuhopecten poculumYabepecten tokunagaiClinocardium fastosumPseudamiantis tauyensisとなる.また,これらの特徴種は,4産地の中で下位層と上位層で共産する種が異なる.下位層では,主にUmbonium akitanumTurritella saishuensisFulgoraria masudaeOphiodermella oguranaAcila nakazimaiChlamys coshibensisおよびYabepecten tokunagaiが優占して産出し,上位層では,Anadara amicula elongateMizuhopecten poculumClinocardium fastosumおよびPseudamiantis tauyensisが優占して産出する.群集組成では,下位層は,Limopsis tokaiensisが産出数の約60%と占め,一方,上位層で全く産出しないなどの組成の違いが明らかになった.また,産出数に対する寒冷種の産出数の割合は,下位が13.2%に対し,上位が50.8%と有意に増加している.大桑-万願寺動物群の他に,上位層からは,塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが産出した.本種は,中期-後期中新世に主に東北日本に繁栄した塩原動物群の特徴種であり,中新世型残存種とされている.2層準の化石産地の堆積深度を産出した現生種の生息深度から推定した.2地点はいずれも流れ込みと推定されるため,生息深度の上限深度が最も深い深度を示す種よりも深いと判断した.堆積深度は,下位層が深度150m以深,上位層が100m以深と明らかになった.これらの結果から,2地点の化石産地の群集組成の違いは,流れ込んだ深度と海水温の結果であると推定され,上位層が下位層よりも,浅い堆積深度で寒冷な環境であったと推定される.大桑-万願寺動物群と塩原動物群が共産することは,太平洋側の神奈川県の上部鮮新統中津層群で知られ,日本海側では,秋田県天徳寺層が知られている.しかし,山形県では,これまでに大桑-万願寺動物群と塩原動物群の特徴種が共産した報告はない.上位層は,大桑-万願寺動物群の特徴種であるAnadara amicula elongateなどと塩原動物群の特徴種であるLaevicarudium cf. shiobarenseが共産する山形県初の産地となる.以上から日本海側の山形県~秋田県では,局所的に大桑-万願寺動物群と塩原動物群の残存種が後期鮮新世~前期更新世まで共存していたと推定される.

    【引用文献】[1]増田孝一郎・小笠原憲四郎,1981.軟体動物の研究,223-249.[2]佐藤幸廣,1990.庄内地方の羽黒山とその周辺に産する新第三系後期の貝類化石とその堆積環境について.昭和63年度科学研究費補助金(奨励B)実績報告,50-82.[3]佐藤幸廣,2000.立川町史上巻,28-41.

  • 望月 ちほ, 矢部 淳, 寺田 和雄, 立石 良, 佐野 晋一
    セッションID: T15-O-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    前期中新世末〜中期中新世初頭は中新世最温暖期(Miocene Climatic Optimum: MCO)と呼ばれ,汎世界的に著しい温暖化が進んだ時代である.MCOには,それまでの生物相から現代型生物相への変化が生じており,MCOにおける地質・生物イベントの研究は,将来の気候変動とその生物相への影響を予測する上でも重要である.日本では,各地の前期中新世末~中期中新世初頭の浅海成層からマングローブ周辺の干潟に生息する熱帯系貝類やマングローブの花粉化石が報告されている.一方,M COの生物相を議論する上で陸上植生の情報は重要だが,日本においては,MCO期の大型植物化石が少ないことや,日本海の拡大期であるために,陸域の情報を持つ連続的な地層がほとんど存在しない等の理由から未だ詳細が明らかでない.

     富山県に分布する下部中新統黒瀬谷層は,MCO初期の地層で,熱帯系貝類化石を多産することでよく知られている.特に神通川本流沿いに分布する同層下部では,マングローブの花粉化石(山野井・津田,1986)や,熱帯・亜熱帯気候を示唆する果実化石(三木・坂本,1961),当時の日本の代表的な大型植物化石群集(台島型植物群)の典型的要素の葉化石(Matsuo, 1965)が報告されるなど,多様な植物化石の記録を有する点で注目される.本地域南東部付近には厚い礫岩層が堆積し,かつ,かつて炭鉱が存在していたことから,陸成層の存在が示唆され,MCO当時の植生を解明するために最適な場所である.しかし,植物化石の正確な産地や層準,堆積環境などは不明のままであった.本研究では,MCO初期の海陸境界付近の植生変化の解明を目的に,神通川本流沿いに分布する黒瀬谷層の堆積相解析を行うとともに,大型植物化石の検討を行った.

     堆積相解析の結果,本層は,下位より潮汐作用を受ける河川(堆積組相A),湾頭デルタ(堆積組相Ca),潮汐流路(堆積組相B),湾頭デルタ(堆積組相Cb)と堆積環境が変化し,潮汐卓越型エスチュアリーで形成されたと推定される.また,堆積組相Caの潮上帯の干潟堆積物や堆積組相Bの潮汐砂州堆積物中には原地性の「根系」と思われる化石が複数存在し,その一部に潮間帯を示唆するフナクイムシの生痕化石を確認した.従って,これらの「根系」と思われる化石は,汽水域の樹林であるマングローブ林の存在を示す可能性があり,このことは本地域からのマングローブの花粉化石の報告とも整合的である.さらに組相Aの氾濫原堆積物中にLiquidambar hisauchiiの,組相Cbの氾濫原堆積物中からQuercus miyagiensisの,珪化した「立木」化石を発見したが,これらは明らかな陸上環境の存在を示す.また,他の層準からはComptonia naumanni,クスノキ科,Melia sp.,Choerospondias cf. axillarisPinus mikiiの産出を確認した.先に述べたマングローブ林の存在と考え合わせると,本地域には,海陸境界付近の地質・化石記録が残されていることになる.

     以上のことから,MCO初期にあたる黒瀬谷層堆積時には,本地域周辺には潮汐卓越型エスチュアリーが広がり,植生としては、潮上帯の干潟や潮汐砂州にマングローブ林が存在し,潮汐作用を受ける河川の氾濫原にL. hisauchii が,その後,湾頭デルタの氾濫原にQ. miyagiensis が生育し,その周辺や後背地には,多様な植物が存在していたと推測される.

    <参考文献>

    三木茂・坂本亨,1961.槇山次郎教授記念論文集, 259–264.

    山野井徹・津田禾粒, 1986,国立科博専報, (19), 55–68.

    Matsuo, H., 1965, 金沢大学教養部論集自然科学篇, (2), 41–77.

  • 佐藤 隆春, 平谷 計二, 廣川 信一, 井上 光司, 杢保 美智子, 森 裕子, 中谷 奉行, 岡本 光雄, 斎藤 伊平, 白髭 照代, ...
    セッションID: T15-O-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    奈良県香芝市関屋地域に巨礫サイズの円礫を含む礫層が分布する(以降,田尻礫層).田尻礫はおもに溶結凝灰岩と,チャート,砂岩,泥岩などの礫で構成される.本地域の基盤岩は領家帯であるが,花こう岩質岩の礫は含まれない.田尻礫層の層位関係は,中新世の二上層群を削剥して覆い,大阪層群送迎礫層[1]に覆われる.送迎礫層は大阪層群最下部の上部に対比されており,田尻礫層は同層準より下位にある.田尻礫層は下位の二上層群を幅20m以上,約800m連続する流路を充填している.田尻礫層は砂層などを挟まない,礫支持堆積物であり,層相からも流路堆積物や中洲堆積物と推定される.田尻礫層は大礫(<-6 phi,>64 mm)を主体とし,巨礫(<-8 phi,>256 mm)も含まれる(Fig. a).礫の岩石種は,石英結晶片の多い流紋岩質溶結凝灰岩など(湖東流紋岩、Fig. bのR,32.2%)が最も多く,次いでチャート,(C, 32.0%),砂岩,(S, 18.5%),泥岩,(M, 13.2%)である.泥岩の中には菫青石(骸晶)と思われる変成鉱物を含むホルンフェルスが認められる.ホルンフェルスは田上山花こう岩の南西部に分布し[2],流紋岩質溶結凝灰岩(湖東流紋岩)は琵琶湖東南部に分布している[3].両者とも関屋地域から北北東に50km以上の距離があるが,田尻礫層の岩石種の組み合わせはこの間に礫を供給した流路が存在していた可能性を示す.礫のサイズが大きく,礫の岩石種が限定されているので,二次的な堆積物の可能性は低いと思われる.田上山南西部の宇治田原付近に類似の礫種構成の大福礫層[4]が報告されており,対比されるのか検討課題である.

    引用文献:[1] 横山卓雄・中川要之助(1974)関屋地域の大阪層群の層序と古水流方向からみた”奈良湖”の水の流出口について.地質雑,80(6),277-286.[2] 脇田浩二・竹内圭史・水野清秀・小松原 琢・中野聰志・竹村恵二・田口雄作(2013)地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)京都島南部.産総研地質調査総合センター,124p.[3] 西川一雄・西堀 剛・小早川隆・但馬達雄・上嶋正人・三村弘二・片山正人(1983)湖東流紋岩およびその活動について.岩鉱,77,51-64,[4] 飯田義正(1980)信楽高原西部の古地理学的研究:大福礫層により復元される鮮新世の河谷について.地質雑,86,741-753.

  • 中条 武司, 趙 哲済, 別所 孝範, 佐藤 隆春, 川端 清司, 小倉 徹也, 藤薮 勝則, 菊井 佳弥, 藤原 啓史, 飯田 真理子, ...
    セッションID: T15-O-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    大阪平野中央部を南北に走る上町台地の北側に延びる天満砂州や西側に広がる難波浜堤平野(難波砂州)は,縄文時代以降の最高海面期及びその後の海面安定期に形成されたと考えられている(増田,2019).現在の大阪湾に流れ込む河川流量から考えると,大阪平野への堆積物供給の多くは淀川や大和川からが想定されるが,最高海面期の大阪平野は上町台地の西側には河内湾が存在し,これらの河川からの堆積物の多くは河内湾で堆積したと考えられる.また,天満砂州や難波浜堤平野は粗粒な砂礫質の堆積物からなり(梶山・市原,1972;1986;増田,2019など),これらの粗粒堆積物の供給源については十分な知見が得られていない.そこで本研究では,天満砂州および難波浜堤平野に位置している遺跡から得られた礫種組成を検討し,その供給源や堆積物供給に寄与した堆積作用について考察を行った.

     礫種の検討を行ったのは,天満砂州および難波浜堤平野に位置する縄文時代〜弥生時代の4遺跡8地点(同心町遺跡3地点,野崎町所在遺跡3地点,安曇寺跡推定地1地点,大坂城下町跡1地点)で,人為の影響を受けていない地層から礫の採取を行った.また比較資料として,上町台地上の更新統の段丘堆積物2地点(山之内遺跡・低位段丘層,四天王寺旧境内遺跡・中位段丘層)においても礫種の検討を行った.各地点で礫径の大きい方から最低100個以上を採取し,礫径・円磨度の計測および礫種の同定を行った.礫種の同定は肉眼および実体顕微鏡による観察を基本とし,一部の礫については薄片を作成して同定を行った.

     各遺跡の礫の検討の結果,すべての遺跡で花崗岩類,砕屑岩類(礫岩・砂岩・泥岩),チャート,流紋岩類(凝灰岩,流紋岩溶岩)の4区分で,礫種組成の90%以上を占めることが明らかとなった(趙ほか,2024).また,完新統と更新統の違いについては,その割合がやや異なるものの,礫種構成としては変わらないものとなった.このうち,砕屑岩類は礫岩や中〜粗粒砂岩がそのほとんどを占め,大阪南部に分布する白亜系和泉層群起源であることが推定される.一方で,北摂山地を構成する付加体起源の緻密な泥岩・砂岩は比較的少ない結果となった.また,割合としては1〜3%であるが,変形岩であるマイロナイトが5地点から見いだされた.さらに,大阪東部〜南部に分布するサヌキトイドが1地点で確認された.

     これらの礫種のうち,花崗岩類,流紋岩類,チャートは大阪周辺域の主要な河川からは見いだされるため(川端・中条,2015),その供給源の推定には適さない.一方で,和泉層群起源と考えられる砕屑岩は,現在の河川礫では大阪南部から流入する河川からのみに見いだされる(川端・中条,2015).また,大阪周辺ではマイロナイトなどの変形岩は,大阪府南部の和泉山脈北縁部にのみ分布する(高木ほか,1988).また,サヌキトイドは大阪南部にも産出が知られている(市原ほか,1986).以上のことから,天満砂州および難波浜堤平野を構成する粗粒堆積物は,鮮新―更新統(大阪層群)や段丘堆積物からの再堆積を含むとしても,北摂地域からよりも大阪南部から供給されたものが多かったことが考えられる.これらの結果は,大阪平野形成における粗粒堆積物の供給経路や周辺水系の寄与についての知見を与えるものであろう.

    文献

    趙 哲済ほか,2024,大阪市域の低地と台地の礫組成.大阪市文化財協会研究紀要,(25),1-32.

    市原 実ほか,1986,岸和田地域の地質,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,148pp.

    梶山彦太郎・市原 実,1972,大阪平野の発達史−14C 年代データから−.地質学論集,7,101-112.

    梶山彦太郎・市原 実,1986,大阪平野のおいたち.138pp.,青木書店.

    川端清司・中条武司,2015,ミニガイドNo. 27 大阪の川原の石ころ.大阪市立自然史博物館,36pp.

    増田富士雄編著,2019,ダイナミック地層学―大阪平野・神戸六甲山麓・京都盆地の沖積層の解析―. 219pp.,近未来社.

    高木秀雄ほか,1988,領家帯内部剪断帯における石英の変形―大阪府岸和田地域の例―.地質学雑誌,94,869-886.

  • 納谷 友規, 水野 清秀, 本郷 美佐緒, 羽田 裕貴, 堀内 悠
    セッションID: T15-O-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    瀬戸内海西部の周防灘南部に位置する姫島は,更新統の堆積岩である丸石鼻層,川尻礫層,唐戸層と姫島火山群の火山活動に伴う溶岩・貫入岩や火山砕屑物・火口堆積物からなる(伊藤ほか,1997).これらのうち唐戸層には複数の浅海成層が挟まることが知られている(水野,2018).これらの海成層の年代は,瀬戸内西部に海域が拡大した時期を示すことから瀬戸内海の堆積盆発達史を知る上で極めて重要である.唐戸層の年代は,挟在されるテフラの対比に基づき中期更新世チバニアン期の70-50万年頃と考えられていた(水野,2018)が,唐戸層に挟まれる海成層の枚数や年代については明確になっていなかった.そこで本研究では,唐戸層の層序,堆積環境,年代を調査するとともに,姫島火山群との層序関係を検討した.

     唐戸層は姫島の縁辺部に断片的に分布する.地層の傾斜は多くの場合数十度であり,中には直立や逆転した地層も観察される.露頭規模で観察できる褶曲構造が多数認められ,断層も多く見られるなど,複雑な地質構造を有する.そのため,地層を岩相のみで側方に追跡することが困難である.唐戸層からは珪藻化石が多産するため,全ての露頭でスライドを作成し検鏡した結果,珪藻化石群集の特徴が唐戸層の層序対比に大変有効であることがわかった.本研究では,岩相,テフラ,珪藻化石に基づき.暫定的に唐戸層を下部,中部,上部に細分した.

     唐戸層下部は礫層とその間に挟まれる浅海成砂層と泥層からなる.従来の川尻礫層の一部を含み,前期更新世の地層と考えられる.

     唐戸層中部は川尻礫層よりも上位で,みつけ海岸北東側の海岸や大海地区では連続的に露出する.泥層を主体とする3層の浅海成層と泥層と淘汰の良い砂層からなる湖沼成淡水成層の繰り返しからなる.唐戸2〜5テフラ(水野,2018)が挟まり,前期−中期更新世の境界(MIS19)付近から,中期更新世MIS15までの地層と考えられる.最下部の海成層からのみ化石珪藻Sarcophagodes duodecima (Naya & Mizuno, 2021)が産出する.淡水成の地層からは浮遊性淡水生珪藻のAulacoseira属やStephanodiscus属などが多産する.

     唐戸層上部は泥層および砂層を主体とし礫層を挟む.浅海成層と淡水成層が認められる.一つの露頭の中でも地層が断層によって分断されていることが多く,連続的に層序を把握できていないが,少なくとも2層以上の海成層が存在する.海成層からは海生浮遊性珪藻が多産し,一部の露頭では貝化石が産出する.また,浮遊性淡水生珪藻であるAulacoseira nipponicaが淡水成層と海成層から産出することが,唐戸層下部と中部にはない特徴である.姫島火山群の火砕岩とは断層で接していることが多く,両者の層位関係を露頭で判断することは困難である.

     唐戸層上部の2箇所の露頭からは,最大径10cm程度の発泡した軽石からなる軽石層が見つかった.軽石の重鉱物組成,火山ガラスの屈折率,火山ガラスの化学組成は,約8.7万年前(MIS5b)に噴出したAso-4テフラ(Aoki, 2008)に類似する.軽石層はその下位と上位を浅海成層に挟まれた淡水成層に挟在される.軽石層を挟む淡水成層がMIS5bの海水準が下がった時期に堆積したとすれば,その下位の海成層はMIS5cまたはMIS5e,上位の海成層はMIS5aの海水準が上昇した時期に形成された可能性がある.つまり,唐戸層上部はMIS5の異なる時期の堆積物からなる上部更新統と考えられる.

     ところで,軽石層の近傍には,姫島火山群の城山火山の流紋岩質溶岩と火山ガラスの化学組成が類似する流紋岩片が挟在する.このことは,城山火山の活動がAso-4テフラ噴出とほぼ同時期であった可能性を示唆する.姫島火山群のすべての火山砕屑物や火口堆積物から,唐戸層上部にしか産出しないAulacoseira nipponicaが産出することも,唐戸層上部と姫島火山群が同時異相である可能性を支持する.なお,水野(2018)の唐戸1テフラを挟有する海成層からもA. nipponicaが産出し海生珪藻群集の特徴も類似するため,唐戸1テフラの層位は唐戸層上部と考えられる.

     唐戸層の年代範囲は前期〜後期更新世にまたがり,一部は姫島火山群の活動と同時期に堆積した可能性が示された.この結果は,姫島の形成史を大幅に見直す必要があることを示している.発表では,花粉化石層序や古地磁気層序の検討結果を合わせて,唐戸層の堆積年代について議論する予定である.

    文献:Aoki (2008) Quaternaly International, 178, 100–118. 伊藤・星住・巌谷(1997)姫島地域の地質,1/5万地質図幅.水野(2018)月刊地球号外No.69,49–54. Naya and Mizuno (2021) Phytotaxa, 505, 85–96.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    武田 与, 山田 茂昭, 千代延 俊, 淺原 良浩, 高柳 栄子, 井龍 康文
    セッションID: T15-O-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    中琉球および南琉球の島々に広く分布する琉球層群は,主に,第四紀更新世にサンゴ礁から陸棚にかけての一帯で堆積した炭酸塩堆積物より構成されている.琉球列島では,琉球層群主部の堆積後(約0.45 Ma以降)に島々が隆起に転じたため,間氷期のみならず氷期に形成された堆積物までもが陸上で観察可能である.このような条件から,琉球列島はサンゴ礁地質を研究するために,理想的なフィールドと評価されている.中でも中琉球の島々では琉球層群が広範囲に分布し,その分布標高は200 mにも達するため,同層群の層序・堆積過程・年代に関する研究が数多く行われてきた.

     中琉球に位置する沖永良部島に分布する琉球層群の層序は野田(1984)およびIryu et al. (1998)によって報告されている.しかし,両研究間には不一致が多い.特に,同層群中部に存在する砂岩の層位学的位置に関する見解が異なっており,同島におけるサンゴ礁形成史(例えば,サンゴ礁が形成された回数)に違いがある.また,Iryu et al. (1998)では,本島東部の地質図が示されておらず,正式な層序記載も行われていない.

     そこで,本研究では,近年の琉球層群の堆積学的・生層序学的研究成果を参照しつつ,沖永良部島全域の琉球層群の層序と年代を明らかにし,その堆積過程を明らかにすることを目的とした.本研究では,地表の露頭に加え,地下ダム建設事業に伴い掘削されたボーリングコア(8本)中の琉球層群の層序も併せて観察した.また,地表およびコア試料の石灰質ナンノ化石年代とSr同位体年代を検討し,堆積年代を決定した.

     沖永良部島の琉球層群の最下位には,著しい陸水性続成作用を被り赤色を帯びた石灰岩から成るサンゴ石灰岩および礫質石灰岩が認められる.この変質石灰岩は,層厚10 m以下で,ボーリングコアにのみ認められる.本島に分布する琉球層群の大部分は,Iryu et al. (1998)の沖永良部島層に相当する堆積物で,本研究では3つのユニットに区分した.最下部のユニット1は,ボーリングコアのみにみられ,主に砂質石灰岩と砕屑性石灰岩よりなり,礫質石灰岩および砂質石灰岩を基質とする礫岩を伴う.本ユニットは,現時点ではボーリングコアでのみ確認されているが,本島の北海岸で基盤岩が急峻な地形を成す湾門浜や内喜名浜に分布する砂礫岩の一部が,本ユニットに含められる可能性がある.ユニット2およびユニット3は,浅海相(サンゴ石灰岩)と沖合相(主に石灰藻球石灰岩と砕屑性石灰岩により構成される)よりなり,石灰岩の累重様式と水平分布から,1回の海水準変動で(低海水準期から海進期を経て高海水準期・海退期までの時期に)形成された堆積体と判断される.ユニット2およびユニット3は,それぞれ,Iryu et al. (1998)の沖永良部島層下部ユニットおよび上部ユニットに対応する.ユニット3堆積時には,海進期初期に大山(現在の沖永良部島の最高所)から非石灰質砕屑物砂岩がもたらされた,これは海岸部から標高125 m付近まで追跡される.ユニット1とユニット2は不整合関係,ユニット2とユニット3は一部整合・一部不整合の関係にある.

     最下位の変質石灰岩からは,1.05 ± 0.40 MaというSr同位体年代が得られた.また,ボーリングコアに見られるユニット1の砂質石灰岩から石灰質ナンノ化石が検出された.その結果,石灰質ナンノ化石の産出層準は,Sato et al. (2009)の基準面5〜3(0.85–0.45 Ma)に対比されることが判明した.この結果に,先行研究の石灰質ナンノ化石生層序の検討結果を併せると,ユニット2は海洋同位体ステージ(MIS)18〜17,ユニット3はMIS16〜17に対比される.MIS16は,中期〜後期更新世で深海底の底生有孔虫δ18O値が最も低く,同δ18O値と海水準に線形の関係を仮定すれば,中期〜後期更新世の中で,最も海水準が低かったと想定することが可能であり,ユニット2とユニット3が沖永良部島の多くの地点で不整合関係にあることが合理的に説明される.なお,MIS16の低海水準期に関連した琉球層群中の不整合関係は,沖縄本島中南部や徳之島でも認められる.ユニット1はMIS19前後の堆積物と推定されるが,礫質堆積物が主体のため,その堆積過程を特定するに至っておらず,海洋同位体ステージとの対応関係に至っていない.

    引用文献

    Iryu et al., 1998, Spec. Publ. Int. Sed. Ass., no. 25, 197–213.

    野田, 1984, 地質雑, 90, 261–270.

    Sato et al., 2009, Proc IODP, 303/306.

  • 重野 聖之, 七山 太, 石渡 一人, 古川 竜太, 石井 正之
    セッションID: T15-O-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    北海道東部,野付湾周辺には,現在も活動的なバリアーシステムが認められており,ここでは野付崎バリアースピット(NBS)と呼ぶことにする.NBSは,標津川河口から南東方向に延びる本邦最大の総延長28.9 kmの分岐(複合)砂嘴であり,知床半島起源の安山岩礫(円盤礫)や摩周火山起源の軽石を多く含む.NBSは,地形判読によって,4列の分岐砂嘴(N-BS1~N-BS4)が認識され,それらの分岐関係によって地形発達史が解読できる.我々は2015年以降科研費予算を用いて,NBSを横断する5本の測線を設定し,(1) GPSを用いた地形測量と地形断面図の作成,(2) 4列の分岐砂嘴(N-BS1~N-BS4)の離水標高(BH値)の計測,(3) ハンドボーリング調査および掘削試料を用いたAMS14C年代とテフラによる離水年代の検討,(4)珪藻および花粉分析による古環境の推定,(5)海浜砂と砂丘砂の粒度分析による判別,などを総合的に実施してきている.

     これまでのNBSでの掘削調査により,上位から4層の完新世テフラ,Ta-a(1739 年樽前火山起源)およびKo-c2(1694 年北海道駒ヶ岳火山起源), Ta-c(2.5 ka 樽前火山起源),Ma-d(4.0 ka 摩周火山起源)が見いだされ,これらを時間面として,約1000 年オーダーでのNBSの地形発達史を解読することを試みた.

     根室海峡が発生したのは,海底地形の標高から約6000年前と推定されている(大嶋ほか,1994),NBSが現在の位置に発生したのは,茶志骨湿原(back marsh)の泥炭層基底部のMa-dの確認により約4000年前と推定している.この標高は-0.6 mにあり,明確に沈降傾向を示す.初期の砂嘴は既に侵食されて現地形としては残されていない.

     N-BS4はオンニクル付近のみ分布し,この礫浜層はTa-cを挟在する泥炭層に被覆されている.その地形面上に擦文時代の竪穴式住居跡(7〜13世紀)も見つかっていることから,約2500年前に離水した古期の砂嘴の残骸と推定される.N-BS4のBH値は2.66 mに達しており,明確に隆起傾向を示す.現在残された砂嘴先端部?の形状から,この当時のNBSは標津川の河口から現在の砂嘴よりも東方沖に伸張していたと推定される.

    N-BS1〜N-BS3は竜神崎に生じた新規の砂嘴群である.NBSで最も若いN-BS1 はTa-a, Ko-c2 に被覆されないことから17 世紀以降に出現した.N-BS1は荒浜岬を成長させている現在の沈降期(=海進期)に生じており,そのBH値は0.6〜1.0 mの範疇にある.N-BS1のBH値が,過去の分岐砂嘴(N-BS2~N-BS4)の隆起量の判断基準となる.N-BS2 は喜楽岬から発しナカシベツ付近からN-BS1と分岐する.この砂嘴には江戸時代後期の通行屋跡遺跡が載っている.N-BS2のBH値は1.59 mであり,やや隆起傾向を示す.この浜堤はTa-a, Ko-c2 に礫浜層が直接被覆されることから,17 世紀に離水した可能性が高い.N-BS3 の離水年代は明確ではないが,Ta-a, Ko-c2と礫浜層との間に泥炭層を挟むことから,おそらく12〜13 世紀と予測される.N-BS3のBH値は2.47mであり,隆起傾向を示している.

     千島海溝沿岸域では500 年間隔で発生した超巨大地震(Mw 9.1~)の存在が明確になり,特にこの地の地盤は17 世紀巨大地震時(もしくはその後)には1〜2 m(もしくはそれ以上)隆起し,逆に地震以降現在まで8~10 mm/年の速さで沈降し続けてきたことが解っている.特に別海〜標津地域の沈降速度は,15mm/年に達することが知られている.Nanayama (2021)は,この周辺地域において過去2500年間に,約300 年前,約700〜300年前,約1300〜1000年前,約2400〜1700年前の4回の離水イベントがあったと述べている.ゆえに, NBSを構成する4列の分岐砂嘴(N-BS1~N-BS4)の出現には,千島海溝における広域な地震性地殻変動が大きく関わっていたと推察される.

    謝辞:本研究はJSPS科研費基盤研究(C) 22K03744の助成を受けて実施した.

    引用文献:大嶋和雄ほか,1994,茨城大学教養部紀要,27,157-165.Nanayama, F.,2021,Geol Soc Spec Publ, London, 501, 131-157.

  • 田切 美智雄
    セッションID: T15-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    阿武隈山地南端の日立地方には変成作用を受けた古生代の地層が広く分布し、主にカンブリア系日立火山深成複合岩体、石炭系大雄院層、ペルム系鮎川層と時代未詳の大甕層で構成されている(田切ほか、2016)。大甕層は渡邊(1920)、黒田・倉林(1952)、田切・大倉(1979)によって大甕噴出岩類として記載が行われており、その当時はペルム系鮎川層に整合的に重なる地層とみられていた。地層は変成火山岩類を主とし、枕状溶岩やスコリア質火砕岩、凝灰岩などから構成され、溶岩の中には斑晶輝石や石基斜長石が残存しているのが記載された。一方、大甕層には頻繁に変成花崗岩類が含まれており、大甕層に対する地質学的関係が未整理であった。U-Pb放射年代法が普及すると、この変成花崗岩類の放射年代測定が行われ、金光ほか(2011)がおよそ480Ma、田切ほか(2016)が496Maを報告したが、変成花崗岩類と大甕層との関係を考察するには至らなかった。一方、大甕層に近接してウミユリやフズリナを多産するペルム系〜石炭系の石灰岩が露出し、従来は大甕層の一部とみられていた。

     今回、改めて大甕層の地質調査を行い、変成花崗岩類と大甕噴出岩類との関係を明らかにするとともに、U-Pb放射年代の追加測定を行い、大甕層の地質時代を確定させるとともに、鮎川層との地質構造的関係を提案した。

     岩脈状の変成花崗岩類が従来から報告されているので、それらを改めて調査し、周囲の変成火山岩類との関係や岩脈の走向、岩相変化、放射年代測定を行った。変成花崗斑岩の貫入境界は見えないが、貫入方向N65ºWは変成火山岩類の走向(N65ºE)と斜交している。厚さ約5mの変成花崗斑岩の中心部と縁部の岩石薄片を作成し検鏡したところ、中心部の岩石は粗粒結晶からなり、微文象組織のカリ長石や細粒な球果組織が含まれる岩相であった。縁部の岩石は中粒から細粒の組織で、微文象組織のカリ長石は含まれず、極細粒な球果組織が含まれていた。このことは、縁部が急冷組織であることを示しており、この変成花崗斑岩が岩脈であることを示している。この変成花崗斑岩についてジルコンを分離し、U-Pb放射年代を測定したところ、534±38Ma(インターセプト年代)、524.6±9.1Ma(207Pb-206Pb年代)が得られた。これらの結果は、大甕層がカンブリア系であることを示している。改めて、大甕層をカンブリア系の変成火山岩類・花崗岩類からなる地層と定義する。この岩相はカンブリア系日立火山深成複合岩体の原岩岩相と極めて類似している。

     大甕層に近接して産する石灰岩は上部古生代の岩石であるから、これらは大甕層ではない。大甕層は鮎川層のみかけ上位に重なっている。大甕層分布域の東側の標高の低い場所には、ペルム系鮎川層が再び現れる。久慈中学校校庭のボーリングコアでも鮎川層が分布しているのが確認されている。これらの分布状況は、大甕層が鮎川層の上に衝上していると仮定すると、うまく説明できる。推定衝上断層は西側の鮎川層との境界部では約20°南東傾斜、東側の鮎川層石灰岩との境界部では緩く南東に傾斜していると推定した。衝上断層で大甕層が鮎川層の上に載る状況を地質図と断面図で示した。

    謝辞:茨城県自然博物館の総合調査の一部として調査を実施した。関係者に謝意を表す。岩石博片は島崎純生氏による。

    引用文献

    金光ほか、2011、日本地質学会第118年学術大会講演要旨、T-10-O6. 黒田・倉林、1952、地質学雑、58、55-62.田切ほか、2016、地質学雑、122、231-247.田切・大倉、1979、地質学雑、85、679-689.渡邊、1920、地質学雑,27、441-450.

  • 前 圭一郎, 能美 洋介, 土屋 裕太
    セッションID: T15-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    岡山県とその周辺地域には、西南日本内帯を構成する長門―蓮華帯、秋吉帯、舞鶴帯、超丹波帯および領家変成帯などの基盤岩類が分布する(磯崎ほか,2010)。これら地質帯には、いくつかの塩基性岩体が知られており、舞鶴帯や超丹波帯に属する他に、夜久野オフィオライトの一部とされる岩体が岡山県中央部の北東から南西にかけて帯状に分断されて露出している(e.g., 大原・福渡・井原岩体)。北東部に分布する大原岩体については石渡・斎藤(1997)、また南西部の井原岩体についてはKoide (1986) などの報告がある。中央部の福渡岩体は石渡(2017)において名称を示すにとどまっており、一部の鉱山関係の報告(光野ほか,1975など)を除いて、岩石学的な記載はなく、周辺岩体との関係もよくわかっていない。

    本研究では、夜久野オフィオライトの大原岩体と井原岩体の間にある福渡岩体を対象とし、前ほか(2024)の内容を一部修正・データの追加を行い、福渡岩体の岩石記載および地質図を作成した。また本発表では周辺の大原岩体・井原岩体との関係を考察し、夜久野オフィオライトの形成について議論する。

    福渡岩体は、変斑レイ岩を主体とし、トーナル岩、ドレライト、玄武岩、泥岩および礫岩によって構成されている。これら岩体周辺部では中生代白亜紀後期のデイサイト質火山岩類に覆われ、岩体の南側では山陽帯花崗岩の貫入を受けている。また、岩体内においても中生代白亜紀の安山岩脈やデイサイト岩脈に頻繁に貫かれている。塩基性岩類とトーナル岩の境界は一般に明瞭で、一部の露頭では互いを取り込むようなの岩相を示す。以下に福渡塩基性岩体を構成する岩石の特徴を示す。

    変斑レイ岩 岩体の大部分を占め、野外では暗緑色を示し、等粒状組織を呈する。構成鉱物は角閃石+斜長石±単斜輝石であり、一部に定向配列の組織が認められる。

    トーナル岩 岩体内にてほぼ東西方向に帯状分布し、変斑レイ岩に付随して露出する。淡緑色―灰色を呈し多くの露頭で圧砕組織が確認できる。構成鉱物は斜長石+石英±角閃石±黒雲母である。

    ドレライト・玄武岩 岩体内に少量産し、暗色かつ顕著な板状節理をもつ。斑晶鉱物は単斜輝石+斜長石±かんらん石が確認でき、顕著な斑状組織を示す。完晶質な石基をドレライトとし、隠微小質なものを玄武岩とした。

    泥岩 岩体内でまとまった分布を示す。黒色かつ緻密で弱いスレート劈開を有し、部分的に粒度の違いによる層状構造が確認でき、それらの多くはN70E20Nの走行を有する。

    礫岩 泥岩と玄武岩に伴って産する。基質部は泥岩と酷似しており、層状構造が認められる。礫は約7mm、亜円礫であり礫種は少ない。斑晶鉱物として単斜輝石(仮象)+斜長石±かんらん石(仮象)を有する玄武岩がほとんどであった。

    隅田・早坂(2009)では,夜久野オフィオライトは超塩基性―変斑レイ岩を主体に,圧砕花崗岩類や玄武岩などを伴うことを特徴としている。本研究による記載結果は、Koide (1986)が報告した井原岩体と類似した岩相分布を示すため、その東方延長と考えられる。また,井原岩体の成因を背弧型玄武岩としており、福渡岩体も同様の成因が示唆される。今後、全岩化学分析および鉱物化学組成等を行いこれらの成因等について研究をすすめる予定である。

    引用文献

    光野ほか (1975) 鉱山地質, vol.25. pp331-345.

    石渡 (1978) 地球科学, Vol.32. pp301-310.

    石渡・斎藤 (1997) 基盤研究 (A) 付加体形成における緑色岩の意義,研究報告, no.2. pp.73-81.

    石渡明 (2017) 地質技術, vol.7. pp.11-16.

    磯崎ほか (2010) 地学雑誌,vol.119.pp.999-1053.

    KOIDE, Y. (1986) JOURNAL OF THE GEOLOGICAL SOCIETY OF JAPAN, vol.92. no.5, pp.329-348.

    隅田・早坂 (2009) 地質学雑誌, vol.115. pp.266-267.

    前ほか (2024) 日本地質学会 西日本支部総会要旨. pp25.

  • 星木 勇作, 星木 美恵
    セッションID: T15-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     福岡県北九州市の北東端に位置する企救半島には,秋吉帯(ペルム紀付加体)に属する様々な海洋性岩石が広く分布している.これらの地質体は,白亜紀の花崗岩類の貫入を受け広範囲にわたって再結晶化が進んでおり,化石の産出は極めて少ない.今回筆者らは,企救半島の北東部に位置する採石場において得られた石灰岩から後期石炭紀を示すフズリナとコノドント化石を新たに見出したので,ここに報告する.

    地質概説

     企救半島を構成する地質体は,その分布・岩相・構造などが中江ほか(1998)の調査・研究によって明らかにされている.それによると,企救半島には秋吉帯に属する古生界が半島のほぼ全域に分布し,これらの地質体は北西部で白亜系脇野亜層群と不整合あるいは断層で接している.企救半島の古生界を対象とした古生物学的研究は,矢部(1920)による門司区青浜海岸でのフズリナ化石の報告以降,アンモノイドや放散虫化石などの研究(西田,1980;柳瀬・磯﨑,1993など)が知られている.また,北九州市内の他地域においては,秋吉帯の石灰岩を原岩とする脇野亜層群産の石灰岩礫岩から見出されたフズリナやサンゴ化石の報告(曾塚,1975;Ota,2000など)があり,古生代の地層から直接見出された化石と比較して,多様な属種が図示されている.

    検討試料

     今回筆者らが検討を行った岩石試料は,企救半島の北東部に位置する櫛ノ鼻付近の採石場内で採掘された大礫サイズの石灰岩の転石である.本試料の採掘場所は現在調整池として利用されており,その東側側面には検討石灰岩の母岩と思われる,黒色の泥岩に挟まれた幅十数メートル,厚さ数メートル程度のレンズ状石灰岩が確認できる.上記の産状から判断して,この石灰岩の岩体は周辺の古生界同様,秋吉帯の構成岩であると考えられる.検討試料は灰色~暗灰色を呈し,砂~礫サイズの生砕物を豊富に含む.研磨試料面においてコノドント化石は,粗粒~極粗粒砂サイズの黒色を呈した不定形の粒子として多数確認される.検討試料は鏡下において,主にbioclastic wackestone-packstoneからなり,ウミユリを主体とし,有孔虫やコノドントのほか,コケムシ,石灰藻,腕足類などの生砕物が観察される.なお,検討石灰岩は方解石脈やスタイロライトが発達し,化石の保存状態は不良である.

    産出化石と年代

     本研究では,殻の欠損などがあり不完全な標本ではあるが,残された殻の形態やコマータの形状などから判断してFusulinellaに対比可能な有孔虫を見出した.Fusulinella属はKashirian(前期Moscovia後期)からKrevyakinian(最前期Kasimovian)にかけて産出することが知られるフズリナ類である(Goreva et al., 2009;Ueno, 2022).また,酢酸処理の結果,検討石灰岩からはIdiognathodus cf. delicatus Gunnellが見出された.本種はMelekesskian(最後期Bashkirian)からKrevyakinianにかけて産出することが知られるコノドント類である(Nemyrovska, 1999;Goreva et al., 2009).以上の結果から,検討石灰岩の堆積年代は少なくともKashirianであり,最大でKrevyakinianの年代を示す可能性があることが明らかとなった.

    地質学的意義

     本研究では,北九州市の企救半島北東部で採取された石灰岩の転石試料から,FusulinellaおよびIdiognathodus cf. delicats Gunnellの産出を確認した.北部九州の秋吉帯において,両属種の産出は現在までのところ他に報告がない.加えて,フズリナとコノドントが共産する石灰岩の報告も,同地域では知られていない.以上のことから,本研究の結果は,福岡県内に分布する古生界の形成史やフズリナ・コノドント類の群集構成を理解する上で地質学的に重要な基礎資料となることが期待される.

    引用文献:Goreva, N. et al., 2009, Palaeoworld, 18, 102-113;中江 訓ほか,1998,地域地質研究報告(5 万分の1 地質図幅),地質調査所,126p;Nemyrovska, T. I., 1999, Scr. Geol., 119, 1-115;西田民雄,1980,動物と自然,10,14-18;Ota, Y., 2000, Bull. Kitakyushu Mus. Nat. His., 19, 25-42;曾塚 孝,1975,秋吉台科学博物館報告,11,13-24;Ueno, K., 2022, Geol. Soc. Spec. Publ., 512, 327-496;矢部長克,1920,地質雑,32,513-519;柳瀬 晶・磯﨑行雄,1993,地質雑,99,285-288.

  • 漆山 凌, 松岡 篤
    セッションID: T15-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    新潟県糸魚川市小滝地域にはペルム紀付加体として,主に海山型石灰岩から構成される青海コンプレックス(以下,コンプレックスをCとする)とチャートや砂岩などからなる姫川Cが分布し,両者は秋吉帯に帰属すると考えられている(長森ほか, 2010).この内の姫川Cは,長森ほか(2010)によって,西部,中部,東部ユニット(以下,ユニットをUとする)に細区分されており,西部Uの珪質泥岩や泥岩からはこれまでに,ペルム紀中世の放散虫化石群集が報告されている(例えば,河合・竹内, 2001).一方,中部および東部Uからは,これまで年代決定に有効な放散虫化石はほとんど報告されていない.本研究では,小滝地域に分布するペルム紀付加体の全容を明らかにするために,糸魚川市小滝地域において地質調査を行い,地質図の作成および放散虫化石の抽出を試みた.

     本研究では,小滝川と姫川の出合あたりから北西に向かって細長く分布する蛇紋岩体を境として,西側の地質体を姫川C,東側の地質体を菅沼Cとした.姫川Cは塊状砂岩を主体としてチャートや泥岩などを含む地質体で,菅沼Cは泥岩や砂岩泥岩互層を主体として,チャートや砂岩などを含む地質体である.本研究の姫川Cは河合・竹内(2001)の姫川C西側に,長森ほか(2010)の姫川C西部U西側と小滝川の中部Uに対応する.また,本研究の菅沼Cは河合・竹内(2001)の菅沼Cと姫川Cの東縁に,長森ほか(2010)の姫川C西部Uの東縁,姫川の中部U,東部Uに対応する.

     本研究の調査により,姫川下流域の菅沼集落周辺に分布する菅沼Cにおいて,新たにチャートや珪質粘土岩の分布が明らかになった.チャートは赤色~紫色を呈し,薄片において,微細な石英からなり,石英脈が発達する.珪質粘土岩は灰色~黒色を呈し,薄片において,粘土鉱物の定向配列が確認できる.このうちの黒色珪質粘土岩からは,Albaillella sp. cf. A. yamakitai Kuwahara, Albaillella sp. cf. A. protolevis Kuwahara, Follicucullus porrectus Rudenko, Cariver sp. cf. C. charveti (Caridroit & De Wever), Pseudotormentus kamigoriensis De Wever & Caridroit, Latentifistula texana Nazarov & Ormiston, Latentifistula crux Nazarov & Ormiston, Ishigaum obesum De Wever & Caridroit, Ruzhencevispongus spp.などの放散虫化石群集が産出する.これらの種構成は,Xiao et al. (2018)におけるUAZ13(ペルム紀新世Wuchiapingian期)を特徴づけることから,この黒色珪質粘土岩はペルム紀新世Wuchiapingian期に堆積したと考えられる.

     本研究の姫川Cは,泥岩からペルム紀中世末の放散虫化石群集が報告されている(例えば,河合・竹内, 2001)点で,他地域の秋吉帯ペルム紀付加体と共通している.一方,菅沼Cは,珪質粘土岩からペルム紀新世の放散虫化石群集が産出する点で異なる.西南日本内帯の付加体においてペルム紀新世放散虫化石が報告されているのは超丹波帯(例えば,菅森, 2009)と丹波-美濃-足尾帯(例えば,桑原ほか, 1991)のみであり,秋吉帯からの報告はない.姫川Cと菅沼Cはチャートや陸源性砕屑岩からなる点で共通するが,前者は塊状砂岩を,後者は泥岩や砂岩泥岩互層を主体とする点で異なる.また,前者は比較的整然とした地層から構成されるのに対し,後者は変形が強い層が多く,一部は混在相を呈する.放散虫化石の産出頻度や保存に関しても,姫川Cは多くの地点で産出し,保存も比較的良いのに対して,菅沼Cはほとんどの地点で産出せず,保存も非常に悪い.このように,両者に地質学的な違いが多く見られ,両者が蛇紋岩体によって分断されていることからも,両者は異なる地質体である可能性が高い.菅沼Cは,依然として地質や年代に関してのデータに乏しく,形成年代や地体構造区分上の帰属については,さらに検討が必要である.

    文献:河合・竹内, 2001, NOM特別号, no.12, 23–32; 桑原ほか, 1991, 地質雑, 97, 1005–1008; 菅森, 2009, 地質雑, 115, 80–95; 長森ほか, 2010, 小滝図幅, 産総研地質調査総合センター, 130p; Xiao et al., 2018, Earth Sci. Rev., 179, 168–206

  • 鈴木 敬介, 栗原 敏之, 石田 大昂, 植田 勇人
    セッションID: T15-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    佐渡島は本州とアジア大陸東縁との間に開いた日本海に位置する離島で,その基盤岩類の地体構造上の帰属については依然として議論がある.例えば,小佐渡丘陵南東縁および大佐渡北縁に分布するペルム紀-ジュラ紀泥岩やペルム紀石灰岩ブロックからは放散虫や紡錘虫などの化石が産出し,それらを基に,佐渡島と西南日本の地帯群(舞鶴帯,黒瀬川帯,超丹波帯,足尾帯)との関連性が議論されている [1–3].しかし,このような化石を産出する岩相・層準は限定的で,佐渡島における基盤岩類の年代・造構場の全体像を理解するにはまだ情報が足りない.

     

    近年,日本を含むアジア大陸東縁域のペルム系砂岩に広く全岩化学分析と砕屑性ジルコンU–Pb年代測定が適用され,後背地-近傍堆積盆の堆積物供給の観点から,東アジアの地質構造発達史の見直しが進められている [4, 5].これらのデータと比較した佐渡島の地質構造発達史を構築するために,演者らは現在,小佐渡丘陵のペルム系砂岩を対象に全岩化学分析と砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を進めている [6].本発表では,データの一部を報告するとともに,予察的な議論を提示する.

     

    本研究では,小佐渡丘陵のペルム系砕屑岩から計21試料の砂岩を採取し,全岩化学分析を行った.砂岩は主に石英・長石類を豊富に含む長石質ワッケ~アレナイトで特徴づけられ,SiO2含有量は69–78 wt%の間で変動する.上部大陸地殻のデータで規格化したスパイダー図において,苦鉄質火成岩に濃集するScとNiは枯渇し,主な供給源が珪長質火成岩であることを示唆する.Al2O3を横軸に用いたバイナリー図ではLa,Th,ScとAl2O3との間に正の相関が認められ,これらの微量元素はアルミナ質粘土と密接な関連を持つと予想される.La–Th–Sc図において,試料の大半は花崗岩・珪長質火山岩類が露出した活動的大陸縁~陸弧との関連性を示唆する.また,本研究では,上記試料のうち3試料から砕屑性ジルコンを抽出し,U–Pb年代測定を行った.各試料は270–257 Maの最若ピークを有し,最大堆積年代は中期ペルム紀Roadian–後期ペルム紀Wuchiapingian [7] あるいはそれ以降である.これらの砂岩は,850–750 Ma,510 Ma,450–430 Maなどの古い年代を示す砕屑性ジルコンも豊富に含む.

    全岩化学組成・砕屑性ジルコンU–Pb年代の結果を総合すると,小佐渡丘陵のペルム系砂岩の後背地としては,新原生代,カンブリア紀中頃,後期オルドビス紀-シルル紀中頃の各年代を示す花崗岩・珪長質火山岩が露出した陸弧が想定される.演者らは今後,砕屑性ジルコンの供給源となった原岩を探索することで,佐渡島,本州,アジア大陸東縁の後背地変遷上の関連性に着目した包括的な造構場復元に取り組む.

    引用文献:[1] 川端・伊藤(1993).大阪微化石研究会誌特別号9,119–129.[2] 鈴木・桑原(2003).地質学雑誌109,489–492.[3] 一田ほか(2010).化石87,29–34.[4] Eizenhöfer and Zhao (2018). Earth Sci. Rev., 186, 153–172. [5] Suzuki and Kurihara (2021). J. Asian Earth Sci., 219, 104888. [6] Kurihara et al. (in press). Rev. Micropaleontol. [7] Gradstein et al. (2020). Geologic time scale 2020. Elsevier, Amsterdam, 1357.

  • 小田 結子, 辻 智大
    セッションID: T15-P-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】日本列島には、東西延長1000キロメートルにも及んでレンズ状に分布する黒瀬川構造帯が存在する(市川他、1956)。これに特徴付けられる古期岩類は大陸起源のものであり、先シルル紀を示し、さらにジュラ紀付加体の間に挟まるように分布することからその異質さが浮き彫りとなり黒瀬川帯の存在が定義された(磯﨑・板谷,1990,1991;磯﨑ほか,1992;村田・前川,2007,2009)。古期岩類の他にも特異的な岩石が分布することが現在までの研究で明らかになっており、年代測定によってその起源が明らかになりつつある(Ohkawa et al.,2021;脇田ほか,2007;Hada etal.,2000)。

    【目的】現在、この黒瀬川帯の形成テクトニクスについて様々な説が論じられているが、代表的なものが「クリッペ説(磯崎・丸山,1991)」と「黒瀬川左横ずれ蛇紋岩メランジュ帯説(田沢,1993)」である。これらの説を検証することが、黒瀬川帯の起源だけでなく日本列島の地帯構造の発達史を明らかする重要なカギとなるであろう。黒瀬川帯構成要素のうち、「ペルム紀付加コンプレックス」・「陸棚堆積層」はジュラ紀以前の年代を示しており、黒瀬川帯が日本列島の付加体中に挟まる以前に低緯度地域の南中国南縁の沈み込み帯・陸棚で形成されたものと考えられている(Hada.et.al.,2001)。その後白亜紀にかけて北上したことが指摘されている(吉倉,2012)。これに伴い砕屑物の供給源も変化したと考えている。これらを踏まえて本研究では、「陸棚堆積層」に着目して地質の再検討を行い、黒瀬川帯の起源を探ることを目的とする。

    【研究手法】調査地域の地表踏査を行い、岩相の記載と走向傾斜データから地質図・柱状図を作成した。また、鏡下観察を行った。

    【調査結果】本調査地は愛媛県西予市城川町の三滝川周辺で、黒瀬川帯の北端部に位置する。北部には秩父北帯構成要素であるペルム紀付加コンプレックスが分布し、南部には陸棚堆積相である堆積岩が分布する。また、調査地東部に位置する三滝山には、450‐430Maの年代を持つ(Hada et al.,2000)三滝花崗岩が分布する。付加体の走向傾斜は主に東北東―西南西走向で30-50度の北傾斜が卓越していた。また、砂岩の級化構造がみられた。ペルム紀付加コンプレックスでは砂岩層・泥岩層・層状チャート・玄武岩といった、海洋プレート層序を示す岩相がメランジュとして産出した。ここでみられる泥岩は準片岩化しているという特徴を持っていた。また、1か所で蛇紋岩が確認できた。陸棚堆積層では。泥岩層と砂岩層及び礫岩が出現した。泥岩の中でも泥岩優勢部分を泥岩部分、砂岩優先部分を砂岩部分とした。砂岩については、色調と粒度から2分することができた。また2つの地点で泥岩と砂岩の間に礫岩層が確認できた。この礫岩の礫種は花崗岩やチャートであった。さらに、砂岩に貫入する玄武岩脈を発見した。ここでは急冷周縁層も確認でき、貫入関係も確認できた。

    【考察】三滝山南部で北上位、三滝山南西部ルートで南上位の砂岩が認められたことから、この2地点間に向斜軸が推定される。玄武岩体の貫入からは砂岩がたまる場所で玄武岩の活動があったことが言える。また、玄武岩の貫入は明瞭な境界を持ち、断層を伴わないことから砂岩が固結したのちに貫入が起きたことを示唆する。これについては詳細な検討が必要である。また、今回の調査で発見した礫岩の礫種組成の検討を行っていきたい。

    【引用文献】市川浩一郎・石井健一・中川衷三・須槍和巳・山下昇 (1956): 黒瀬川構造帯. 地質学雑誌, 62, 82-103.

    磯﨑行雄・板谷徹丸(1990):四国中央部および紀伊半島西部黒瀬川地帯北縁の弱変成岩類のK-Ar 年代−西单 日本における黒瀬川地帯の広がりについて−. 地質学雑誌, 96, 623-639.

    磯﨑行雄・板谷徹丸(1991):四国中西部秩父累帯北帯の先ジュラ紀クリッペ −黒瀬川内帯起源説の提唱−. 地 質学雑誌, 97, 431-450.

    磯﨑行雄・丸山茂徳(1991):日本におけるプレート造山論の歴史と日本列島の新しい地体構造区分.地学雑 誌, 100, 697-761.

    磯﨑行雄・橋口孝泰・板谷徹丸(1992):黒瀬川クリッペの検証. 地質学雑誌, 98, 917-941.

    村田明広・前川寛和(2007):四国中西部,秩父帯北帯の名野川衝上断層. 徳島大学総合学部自然科学研究, 21, 65-75.

    村田明広・前川寛和(2009):四国中央部西石原地域における御荷鉾緑色岩類の地質構造. 徳島大学総合科学 部自然科学研究, 23, 77-85.

    Ohkawa, M., Takeuchi, M., Li, Y., Saitoh, S. and Yamamoto, K. (2021): Paleogeography and tectonic evolution of a late Paleozoic to earliest Mesozoic magmatic arc in East Asia based of detrital zircons from Early Triassic Shingai Unit, Kurosegawa Belt, Southwest Japan. Journal of Asian Earth Sciences, 212, 1-18.

    脇田 浩二・宮崎一博・利光誠一・横山俊治・中川昌治(2007):伊野地域の地質.地域地質研究報告(5 万 分の1地質図幅,産総研地質総合センター, 140pp.

    Hada, S., Yoshikura, S. and Gabites, J.E. (2000): U-Pb zircon ages for the Mitaki igneous rocks, Siluro-Devonian tuff, and granitic boulders in the Kurosegawa terrane, Southwest Japan. Memoirs of the Geological Society of Japan, no.56, 183-198.

    田沢純一,1993,古生物地理からみた日本列島の先新第三紀テクトニクス.地質学雑誌,99,525-543.

    Hada, S., Ishii, K., Landis, C.A., Aitchison, J.C. and Yoshikura, S. (2001): Kurosegawa terrane in Southwest Japan: Disrupted remnants of Gondwana-derived terranes. Gondwana Research, 4, 27-38.

  • 荻原 誉, 堀 利栄, 池原 実, 山北 聡, 竹村 厚司, 相田 吉昭, 高橋 聡
    セッションID: T15-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    [はじめに]ペルム紀末(約252Ma)の大量絶滅が記録されているPermian-Triassic(P-T)境界層では,海洋無酸素イベント(OAEs)の存在や陸上植物などの高温燃焼により生成されるCoroneneやPhenanthrene,Benzo[a]pyrene,Benzo[e]pyrene,Benzo[ghi]peryleneなどの多環芳香族炭化水素(PAHs)が検出され,火山噴火などを裏付けるデータが報告されている.しかし,これらの研究は北半球の地層において実施されており,南半球のP-T境界層の研究は少ない.本研究では全球的なP-T境界イベントの解明を進めるため,ニュージーランド北島Arrow Rocks島に分布する当時の南半球中-高緯度で形成された遠洋深海堆積岩層中のP-T境界層のPAHs分析を行った.Arrow Rocks島のP-T境界層では有機物に富むOAEs(OAEα,OAEβ,OAEγ)が下部三畳系に識別されており,OAEαはP-T境界付近,OAEβはDienerian中頃に発生したと報告されている(ex. Hori et al.,2007).また,Arrow Rocks島の遠洋深海堆積層が形成された海洋では,放散虫がP-T境界で絶滅せず三畳紀前期まで生き残っていることが報告されている(Takemura et al.,2007).

    [分析試料]Arrow Rocks島に産するP-T境界層を学際的に検討したTakemura et al.(2007)の層序断面のうち,ARF,ARG,ARH,ARB,YSC Sectionの試料を用い,上部ペルム系から下部三畳系の層状チャート試料14試料のPAHs分析と5試料の薄片観察を行った.分析層準は,ペルム系最上部と下部三畳系の3つのOAEs前後の層準である.OAEβの層準ではペルム紀型の放散虫が三畳紀型へ移り変わるのが報告されている(Kamata et al.,2007; Takemura et al.,2007).

    [研究手法]PAHs分析は高知大学海洋コア国際研究所の機器を使用した(共同利用23A041・23B036).変質部分を取り除いた岩石試料を粉体化した分析試料をASE-350(高速溶媒抽出装置)にかけて有機物を抽出し,シリカゲルクロマトグラフィーを使用して有機物を分離した後,GC-MSD(ガスクロマトグラフ質量分析器)を使用して含有する有機物を分析した.

    [結果]PAHs分析の結果,OAEβの黒色チャートからCoroneneやPhenanthrene,Benzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEαやOAEβの暗灰色チャート,P-T境界直下の淡緑色チャートからPhenanthreneやBenzo[a]pyrene,Benzo[ghi]peryleneが,OAEγからPhenanthreneが検出された.定量計算の検討を行えたのはOAEβの黒色チャートと暗灰色チャートであり,OAEβの黒色チャートがCoronene 1.98ng/g,Phenanthrene 1.85ng/g,Benzo[a]pyrene 3.68ng/g,Benzo[ghi]perylene 2.46ng/g,暗灰色チャートがPhenanthrene 2.17ng/g,Benzo[a]pyrene 1.96ng/gであった.薄片観察を行った結果,OAEβの黒色チャートから陸上植物片が観察され,黒色チャートや暗灰色チャートから先行研究(Hori and Ikehara,2007)と同様に,藻類やアクリタークの化石も確認できた.

    [考察]三畳系下部のOAEβでは陸上植物片が観察され,1200℃以上の陸上植物の高温燃焼により生成されるCoroneneが検出された.Chapman et al.(2021)やMays and Mcloughlin(2022)の三畳紀前期ゴンドワナ大陸で火山噴火や森林火災が頻繁に発生していたという報告から,OAEβで検出されたPAHsは火山噴火による陸上植物の高温燃焼により生成された可能性が高いと考えられる.また一部のPAHsは,水生生物に対して強い毒性を示すことが知られている.環境省(2006)は,Benzo[a]pyreneの毒性を,甲殻類に対する96時間における半数致死濃度が5㎍/Lであると報告している.この濃度は黒色チャート中のBenzo[a]pyreneの存在量と近い値を示している.よって,黒色チャート中から検出されたBenzo[a]pyreneは,当時の海洋に生息していた放散虫に何らかの影響を与え,ペルム紀型から三畳紀型への移り変わりの要因の一つとなった可能性も考えられる.

    引用文献:Chapman et al.(2021)Research Square,1-15. Hori and Ikehara(2007)GNS Science,24,117-121. Hori et al.(2007)GNS Science,24,123-156. Kamata et al.(2007)GNS Science,24,109-116. 環境省(2006)化学物質の環境リスク評価,第5巻. Mays and Mcloughlin(2022)PALAIOS,00,1-26. Takemura et al.(2007)GNS Science,24,87-95,97-107.

  • 永広 昌之
    セッションID: T15-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Grădinaru et. al. (2007)はルーマニアのDeşli Caira SectionのアンモノイドParacrochordicerasJaponites bed の基底をOlenekian/Anisian境界(OAB:下部三畳系/中部三畳系境界)のGSSP候補として提案した.このとき,この層準はコノドントChiosella timorensis の FAD とも一致すると考えられたが,後にこの種のFADは下位の,Olenekianと考えられる,Deslicairites bed 中にあることがわかった.このようなこともあり,OABのGSSPは未だ決められていない.わが国の南部北上帯では,下部-中部三畳系稲井層群の大沢層の下部-上部(の下部)は豊富な後期Olenekianのアンモノイドを産する.一方,伊里前層の最下部からは前期Anisianの群集がしられており,南部北上帯におけるOABは両者の間にあると考えられる.両者にはさまれる風越層は,砂岩が卓越することもあり,ほとんどアンモノイドを産出していなかった.

    最近,大沢層の最上部(風越層との境界の20数m下位)からいくつかのアンモノイドが採集された(Ehiro, 2022b).この群集は, Pseudosageceras multilobatum, Ceccaisculitoides sp., Procarnites kokeni, 属種未定のKeyserlingitidae, Japonites cf. meridianus, Eodanubites aff. xinyuanensis, Procladiscites towaensis, Leiophyllites sp.などからなる.Eodanubitesが卓越するが,この属やPseudosageceras, Ceccaisculitoides, Procarnitesは典型的なOlenekianの属である.JaponitesProcladiscitesは下部Anisianから多産する属であるが,ごく少数がOlenekianからも知られているので,この層準はOlenekian最上部と判断される.

    一方,貧アンモノイドと考えられていた風越層の中部-上部,とくに中部から,21属におよぶ豊富なアンモノイド群集が見いだされた(Ehiro, 2022a).この群集で卓越するのは生存期間がOABをまたぐLeiophyllitesであるが,新属を除く残りの属の大部分,Parasageceras, Parapopanoceras, Megaphyllites, Paracrochordiceras, Aegeiceras?, Japonites, Buddhaites?, Danubites, Paradanubites, Groenlandites, Lenotropites, Grambergia, Arctohungarites, Procladiscites, Ussuriphyllitesは,下部Anisian (多くはAegean)を指示するものである.一方,Hemilecanites, Pseudosageceras, Metadagnoceras, Eogymnitesは基本的にはOlenekianの属であるが,Anisian下部からのごく希な報告もある.したがって,風越層中部は下部Anisian (Aegean)に対比される.

    従来のAnisian型アンモノイドの産出に重きをおくか,コノドントC. timorensis の FADを基準とするかでOABの層準はかなり異なるが,アンモノイドにもとづけば,南部北上帯におけるOABは,大沢層最上部から風越層中部までのどこかにあることになる.風越層の下部の砂岩泥岩互層中からは,レンジの長いLeiophyllites? sp.1個体が採集されているにすぎず,いまのところOABの層準をこれ以上絞り込むことはできない.

    文献:Grădinaru, E. et al., 2007, Albertiana, 36, 54–71; Ehiro, M., 2022a, Bull. Tohoku Univ. Mus, 21, 39–84; Ehiro, M., 2022b, Paleont. Res., 26, 137– 157.

  • 毛利 元紀
    セッションID: T15-P-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに 姫路地域の丘陵にはジュラ系の丹波帯相当層が分布し,地質学的実態が明らかにされた(例えば,中田・後藤,1961;後藤,1986;田中ほか,1990;尾崎ほか,1995;西影,1996;後藤ほか,1998;山元ほか,2000;後藤ほか,2001など).近年は兵庫県南西部の南山層を含む丹波帯の泥岩のイライト結晶度が報告された(竹村ほか,2010).北播磨地域(市川町,加西市,多可町)では丹波帯構成層の岩相層序と放散虫年代に関する系統的研究がおこなわれ,放散虫化石群集とそれらの年代を報告した(竹村・竹村,2020,2022).本稿では姫路市街地付近の地質調査結果の報告をおこなう.花田町高木:丹波帯の砕屑岩層がN80°E70°SWすなわち70-80°南西の急傾斜を示す.景福寺山:標高26m地点では厚さ11〜12㎝(厚さ<14㎝)の層理面が明瞭な砂岩頁岩互層がみられる.砂岩層は灰白〜灰色を呈する淘汰良好な極細粒砂〜細粒砂岩である.頁岩層の層理面の走向・傾斜はN30°E70〜80°SWである.男山:標高35m地点では厚さ3〜16㎝(厚さ<20㎝)の層理面が明瞭な砕屑岩層がみられる.層理面の走向・傾斜はN70°E55°NEである.砂岩層は黄白〜明灰色を呈する淘汰のきわめてよい極細粒砂〜細粒砂岩である.姫山:姫路城壁東では厚さ4~37㎝の茶褐~黄白色砂岩層と厚さ5~10㎝の灰黒色泥岩層からなる砂岩優勢の砂岩泥岩互層がみられる.砂岩泥岩互層の層理面の走向・傾斜はN20~30°W30~50°SWである.手柄山:手柄山中央公園,立建設株式会社の南側標高25m地点では厚さ4〜23㎝(厚さ<27㎝)単位で成層する層状チャートブロックがみられ,層理面の走向・傾斜はN50°E80〜82°NWである.手柄山第1立体駐車場付近の標高15m地点では厚さ5〜34㎝(厚さ<52㎝)単位で成層する砕屑岩層がみられる(写真).層理面の走向・傾斜はN37〜55°W75〜80°SEである.灰黒色を呈するシルト粒径の珪質泥岩層と明灰色を呈する淘汰良好な極細粒砂〜細粒砂の粒度の砂岩層からなる.姫路市立手柄小学校南西の標高18m地点では厚さ5〜18㎝(厚さ<20㎝)の頁岩層の露頭がみられ,層理面の走向・傾斜はN78°W40°NEである.回転展望台登り口付近の標高36m地点でみられる砂岩層の層理面の走向・傾斜はN9〜23°E70〜85°SWである.まとめ 丹波帯南山層の構造は中央平野部の景福寺山・男山・姫山・手柄山で北東-南西走向で概略25-85°北東あるいは南西傾斜をなし,的形町福泊~妻鹿の海岸線に小分布する岩体は70-80°北あるいは西傾斜を示す.花田町高木では70-80°南あるいは南西傾斜を示す.景福寺山・男山・姫山・手柄山に分布する丹波帯堆積岩類は野外の露頭次元で砂岩頁岩互層などの砕屑岩層を主体とし,木場〜的形町にかけての小赤壁海岸ではレンズ状の岩塊をともなう混在岩を主体とする.海洋プレート層序の連続性が完全に欠如し緑色岩や石灰岩,チャートなど異地性岩塊を含むことから地層の破断の程度による分類(日本地質学会地質基準委員会,2003の図3.3 混在岩の分類法と用語)で混在岩ユニットに相当する.本地域の丹波帯の構成岩相は南山層の模式地と比べて砂岩および砂岩頁岩互層が多い(後藤ほか,1998).文献 中田正次・後藤博弥(1961)地質学雑誌,67,360-361.後藤博弥(1986)地質学雑誌,92,663-674.後藤博弥・井上剛一・田中眞吾・成瀬敏郎(1998)姫路市史第7巻上自然資料編,姫路市史編集専門委員会,39,51-52,73-77,86-89.後藤博弥・井上剛一・田中眞吾・成瀬敏郎・南埜猛・田中智彦・久武哲也(2001)姫路市史第1巻上自然本編,姫路市史編集専門委員会,9,43-47,80-87.日本地質学会地質基準委員会(2003)3.付加体堆積物,地質学調査の基本-地質基準,日本地質学会地質基準委員会(編),共立出版,47-61.西影裕一(1996)播磨学紀要第2号,播磨学研究所,30-31.尾崎正紀・栗本史雄・原山智(1995)地域地質研究報告5 万分の 1 地質図幅[北条],岡山(12),59,地質調査所,9-10,25-35.竹村静夫・西村年晴・渡邉愛未(2010)日本地質学会学術大会講演要旨2010,日本地質学会,379.竹村静夫・竹村厚司(2020)兵庫教育大学研究紀要,57,163-176.竹村静夫・竹村厚司(2022)兵庫教育大学研究紀要,60,157-172.田中眞吾・野村亮太郎・井上茂・後藤博弥・井上剛一・東順三・田村憲司(1990)表層地質図および同説明書,土地分類基本調査「播州赤穂・姫路・坊瀬島・寒霞渓」,兵庫県,31-33.山元孝広・栗本史雄・吉岡敏和(2000)地域地質研究報告 5万分の 1 地質図幅[龍野],岡山(12),58,地質調査所,8,20-24.

  • 中江 訓
    セッションID: T15-P-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     近畿地方北部の超丹波帯付加複合体は標準層序単元として,上滝C,氷上C,大飯C,上月Cに区分され,付加時期はそれぞれAnisian期中頃(上滝C),Changhsingian期末–Olenekian期(氷上C),Wuchiapingian期(大飯C),Capitanian期末–Wuchiapingian期前半(上月C)に限定される(中江, 2023).ところで,単元区分の根拠となる岩相的・層序的差異がどの様な造構過程に支配されるのかは,未解決の課題である.そこで解決の初段階として,標準層序単元ごとの岩相的・層序的な共通点・相違点を比較する.

    基礎層序と層序型

     標準層序単元はその内部で,特定の累重関係を保持して岩相変化する層序が構造的に重複する集積体であることから,この層序一単元を基礎層序(foundational stratigraphy)と呼ぶことにする.基礎層序は次の層序型に類別でき,砂岩優勢型(上滝C)=チャートとスレート質泥岩を僅かに挟む厚層砂岩,泥岩砂岩型(氷上C)=珪質泥岩を伴うスレート質泥岩と厚層砂岩,チャート砕屑岩型(大飯C)=チャート・スレート質泥岩・砂岩,混在岩型(上月C)=玄武岩・チャート・珪質泥岩・スレート質泥岩・砂岩,から構成される(中江, 2023).これらの層序型の基礎層序は,下部(玄武岩・チャート・珪質泥岩・スレート質泥岩)と上部(砂岩スレート質泥岩互層・砂岩)から構成されるいわゆる「チャート砕屑岩シークェンス(海洋底層序の一部または全体)」が保存される点で共通するが,基礎層序全体の層厚(全厚)や各岩相の構成比(層厚差)は異なる.

    基礎層序の層厚変化

    1)層厚差:各層序型の基礎層序には,下部と上部で顕著な層厚差が存在する.砂岩優勢型と泥岩砂岩型では,下部(それぞれ40 mと0〜400 m)に対して上部(それぞれ200 mと0〜600 m)が非常に厚い.対照的にチャート砕屑岩型と混在型では,下部(それぞれ50〜400 m, 50〜180 m)に比べ上部(それぞれ0〜200 m, 0〜150 m)は薄い.ここで特筆すべきは,基礎層序全厚の増減分は下部・上部で均等に賄われていないことである.

    2)層厚の相関関係:泥岩砂岩型では,下部に系統的な増減は無く,全厚の増加に関係無く下部の層厚は変動しない(相関係数は小).この様な関係はチャート砕屑岩型の上部と混在岩型の下部にも見られ,これらの層厚に大きな変動は無い(相関係数は小).これに対し,泥岩砂岩型の上部,チャート砕屑岩型の下部及び混在岩型の上部では,全厚との間に強い正の相関が存在する(相関係数は大).特に,泥岩砂岩型の上部とチャート砕屑岩型の下部では近似直線の傾きが大きく,約70 %の全厚はその増加分を上部あるいは下部の層厚増加で賄われている.また,混在岩型の上部でも近似直線の傾きは比較的大きい.つまり,泥岩砂岩型と混在岩型では上部が,チャート砕屑岩型では下部が,それぞれの基礎層序の層厚増加に寄与することを意味している.

    引用文献:中江(2023)地質学会第130年学術大会講演要旨,T15–P-11.

  • 河野 駿輝, 堀 利栄, Christopher J. Hollis
    セッションID: T15-P-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

     中生代白亜紀北半球では緯度帯ごとに放散虫群集組成が異なっていた事が報告されているが(Empson-Morin, 1984), 南半球に於いて同様の研究は行われていない. また, 現生, 三畳紀における両極性分布を示す放散虫種の存在(相田ほか, 2009)や, 一般的に高緯度帯ほど放散虫は大きく厚い殻を持つ傾向にある(例えば, 相田ほか, 2009; Empson-Morin, 1984)という殻形態的特徴が中生代白亜紀南半球高緯度帯放散虫にも認められるかどうか十分には検証されていない. 本研究では, Geroge (1993)によって報告されたニュージーランド北島最南部パリサー岬のチャート層より産出する放散虫化石を, 現在の放散虫層序学の知見を元に再検討を行い, 中生代白亜紀南半球高緯度帯放散虫群集組成を明らかにすると共に, その放散虫化石殻の特徴を同年代の低緯度帯試料と比較・検討した.

    【検討試料・手法】

     本研究で使用した試料は, 1)ニュージーランド北島最南部パリサー岬に分布するジュラ紀-白亜紀とされたチャート層, 2)白亜紀前期(アプチアン前期)の北半球低緯度帯に堆積した高知県五色ノ浜のチャート層(ここでは, 庵谷ほか, 2009 の残り残渣を使用), 3)白亜紀前期(アプチアン前期)の南半球中低緯度帯で堆積したDSDP Leg27 site259の珪質軟泥(Veevers et al., 1972 参照)である.

     パリサー岬のチャート層をHF法で処理し, 得られた残渣を, 二分法を用いて(1/2)³まで分割し, 群集組成を検討した.

     緯度帯間での殻形態比較に関しては,Thanarla brouweri Diacanthocapsa aff. D. fossilis の2種に着目し, 殻の大きさ及び厚さの比較を行った.

    【結果】

    パリサー岬の放散虫群集組成比:パリサー岬のチャート層の試料では, 合計30647個の残渣粒子中に, 2/3以上全体殻が保存されている放散虫化石が646個(全体の約2.1%)含まれていた. この646個体を殻形態別に区分したところ15グループに分けることができた. 最も多産したのはThanarla属(全体の約20.9%)であり, Stichomitra属(約13.2%)や, Argofusus属(約8.4%), Dictyomitra属(約4.2%), Diacanthocapsa属(約1.4%)に加え, 9つに区分される未記載属は合計で約51.9%含まれていた.

    放散虫化石を用いた地層年代の推定:また, O’Dogherty (1994)やBaumgartner et al. (2023)で示された白亜紀放散虫化石レンジに基づき, T. brouweri, Diacanthocapsa spp., Stichomitra cf. S. communis, Argofusus cf. A. primitivus が共産する事を考慮すると, ニュージーランド北島最南部パリサー岬のチャート層の地層年代は中生代白亜紀前期アプチアン前期である可能性が高いと判断された.

    殻形態比較:パリサー岬と四万十帯北帯五色ノ浜のチャートより産出したT. brouweri の殻の大きさの比較を行った. また, パリサー岬とDSDP Leg27 site259の白亜紀前期試料より多産したD. aff. D. fossilis 標本を元に, 殻の大きさと厚さの比較を行った.その結果, 1)高緯度帯の個体は低緯度帯の個体より大きい傾向にある, 2)高緯度帯の個体の中には低緯度帯の個体に近い大きさの個体が存在する, 3)高緯度帯の個体は殻の大きさの個体差が低緯度のものより顕著である, という特徴が明らかとなった. また, D. aff. D. fossilis の殻の厚さを比較した結果, 高緯度帯の放散虫の殻は低緯度帯の個体よりも明らかに厚いということを確認できた. これらの特徴は, 白亜紀前期の高緯度帯の放散虫種と, 低緯度帯の放散虫種の間に生じる一般的な特徴である可能性が高い. 今後は, 比較検討する放散虫種数と地点を増やし, 更に検証を重ねる予定である.

    【謝辞】

    本研究で使用した試料はIODPのleg27 site259の学術試料から得られたものである. 高知コアセンターのスタッフの協力とIODPの支援に感謝申し上げる.

    引用文献 相田ほか, 2009, 化石, 85, 25-42. 庵谷ほか, 2009, 大阪微化石研究会誌, 特別号, 14, 297-315. Empson-Morin, 1984, micropaleontology, 30, 87-115. O’Dogherty, 1994, Memoires de Geologie (Lausanne), 21, 83-96, 138-150, 216-218. Geroge, 1993, N Z J Geol Geophys, 36, 185-199. Baumgartner et al., 2023, Micropaleontology, 69, 6, 555–633. Veevers et al., 2009, dsdp 27, 49, 1049-1054.

  • 菊川 照英, 辻林 恭祐, 相田 吉昭
    セッションID: T15-P-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

     鹿児島県種子島,馬毛島および屋久島には熊毛層群(半沢,1934)と呼ばれる海成古第三系が分布し,西南日本外帯の四万十帯南帯を構成する付加体とその被覆層として九州本土の日向層群や日南層群に対比されてきた(例えば,川辺ほか,2004;斎藤,2022).種子島に分布する熊毛層群は前期始新世から前期漸新世の地層群で構成され,下位から立石層,門倉岬層,西之表層と区分・命名されている(岡田ほか,1982).これら地層群の境界はNE-SW走向の逆断層によって接し,一部を除いて各々の累重関係を直接観察することはできないとされ,詳細な微化石年代学的データにもとづく層序や地質構造の検証作業は十分行われてこなかった.

     最近,菊川ほか(2018)は西之表層の模試地を含む西之表断層以北に分布する西之表層の層序や地質構造,地質年代に関する詳細な検討を行なった.さらに菊川ほか(印刷中)では,詳細な地質調査と放散虫化石年代にもとづき,種子島北部において従来門倉岬層が分布するとされてきた一部地域において,実際には西之表層が分布することを明らかにした.これらから,熊毛層群の分布域や地質構造は従来言及されてきたよりも遥かに複雑であり,本層群の地質を明らかにするためには,本島北部だけでなく中部や南部においても詳細な地質調査と微化石年代による地質の再検討が必要であることが分かってきた.

    【試料と結果】

     これらの背景から筆者らは,西之表断層以南の種子島中部に分布する熊毛層群の地質調査を行い,泥岩試料から放散虫化石を抽出することで地質年代を検討し,本島北部に分布する熊毛層群との層位的関係を明らかにすることを目的として研究を行なってきた.本講演では,種子島中部の西海岸部と内陸部から新たに採取した計48層準48個の灰色及び赤色泥岩試料を検討した結果について報告する.

     放散虫化石の抽出にはフッ化水素酸溶液を用いた.結果,赤色泥岩7試料から放散虫化石が産出した.これらのうち隣接する層準から採取した2試料からは種レベルで同定可能な放散虫化石が産出した.保存状態は悪いものの,Amphisphaera? sp., Calocycloma? sp., Dorcadospyris sp., Lophocyrtis sp., Theocorys cf. anaclasta s.l., Theocotyle cf. cryptocephala, Theocotyle sp., Theocotylissa cf. ficus, Theocyrtis sp.といった放散虫化石が産出した.

    【考察】

     T. ficusは放散虫化石帯RP8〜RP16帯,T. cryptocephalaは放散虫化石帯RP10〜RP11帯までの期間にその生存が知られている(Nigrini et al., 2006; Kamikuri et al., 2012).T. anaclasta s.l.は放散虫化石帯RP9〜RP12帯にその生存期間が知られている(Kamikuri et al., 2012).これらの共産から考えられる地質年代は中期始新世の前期(放散虫化石帯RP10〜RP11帯)に相当すると現段階では判断される.

     種子島北部の門倉岬層中の赤色泥岩からはDictyoprora mongolfieli, D. armadillo, T. ficusといった放散虫化石が産出し,その年代は中期始新世の後期(放散虫化石帯RP16帯に相当)と考えられる(菊川ほか,印刷中).従って,本試料を採取した赤色泥岩は種子島北部の赤色泥岩の下位層準にあたる可能性がある.しかしながら,先述したように本試料に含まれる放散虫化石個体は保存状態が悪く,種数も非常に少ないことから年代決定の精度は高いとはいえない.今後,本島北部と中部の地層の層位関係を明らかにするとともに年代決定の精度を高めるためにも,さらなる試料の検討や地質調査が必要である.

    【参考文献】

    半沢,1934,地質雑,41,408-410.

    Kamikuri et al., 2012, Stratigraphy, 9, 77-108.

    川辺ほか,2004,20万分の1地質図幅 「開聞岳及び黒島の一部」.

    菊川ほか,2018,地質雑,124,313-329.

    菊川ほか,印刷中,地質雑.

    Nigrini et al., 2006, Proc. ODP, Sci. Results, 199, 1-76.

    岡田ほか,1982,大阪微化石研究会誌特別号,5,409-413.

    斎藤,2022,日本列島地質総覧:地史・地質環境・資源・災害,337-349.

  • 大河内 砂恵, 大和田 正明
    セッションID: T15-P-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】西中国地方に産する白亜紀火山岩類は,下位から関門層群,周南層群,匹見層群および阿武層群に層序区分されている.このうち周南層群は前期白亜紀末期-後期白亜紀初期に陸上に噴出した安山岩質-流紋岩質火山岩からなり,禅定寺山層と物見ヶ岳層に区分される(今岡・飯泉,2009).また,西中国地域においては多くのカルデラが発見され,新たに「西中国後期白亜紀カルデラ群」(Late Cretaceous caldera cluster in the western Chugoku District , southwest Japan)が提案されている(今岡ほか,2019).

     本研究対象地域である山口県徳山湾周辺の太華山には,主に周南層群禅定寺山層の火山噴出岩類(以後,噴出岩類),貫入岩類,泥質片岩そして珪質片岩の分布が報告されている(村上,1986).すなわち,火山深成複合岩体と見なすことができる.そこで,太華山を含む徳山湾周辺の構成岩石の詳細を記載し,噴出岩類と貫入岩類の地質学的位置付けについて検討した.

    【地質概要】徳山湾は山口県周南市の大島半島(太華山地域),粭島および大津島に囲まれ,湾内に黒髪島と仙島がある.徳山湾を囲む地域は,変成岩類を基盤とし,噴出岩類と貫入岩類を伴う.噴出岩類の分布は太華山地域に限られるが,太華山地域の南西部,粭島,大津島そして湾内の黒髪島・仙島には花崗岩が噴出岩類や変成岩類を貫く.そのほか,太華山地域や大津島では,安山岩が岩脈として産する(岡村,1965;村上,1986).

    【太華山周辺の地質】太華山周辺に産する噴出岩類は,主に安山岩質ないしデイサイト質の凝灰岩,凝灰角礫岩である.構成粒子の大きさや含む岩片の種類は露頭によって異なる.全体の構造は南北~北北西-南南東走向で,西側へ緩く傾斜する.岩相は下位に安山岩質岩,上位にデイサイト質岩が卓越する.また,上位のデイサイト質凝灰岩は溶結構造を示す.一方,南東部では,安山岩岩脈が,南西部では,花崗岩がそれぞれ変成岩類と噴出岩類を貫く.

    【徳山湾周辺に分布する火山深成複合岩体の特徴】徳山湾東部の太華山地域の噴出岩類は,全体として下位に安山岩質岩が,上位にデイサイト質岩が累重し,西へ緩く傾斜している.一方,徳山湾西部の島嶼部には貫入岩類のみが分布する.徳山湾内の黒髪島の花崗岩は,全体としてドーム状構造を示す(岡村,1965).すなわち,徳山湾の西部は東部と比較して隆起が大きく,より下部まで削剥されたと考えられる.また,花崗岩は噴出岩類を貫き,「西中国後期白亜紀カルデラ群」の火山深成複合岩体の貫入関係と一致する.さらに,徳山湾の地形的特徴や太華山地域と大津島の変成岩類を貫く岩脈の存在を考慮すると,徳山湾全体の地形はカルデラ状の構造を反映し,噴出岩類はカルデラ内部の充填物で,貫入岩類は噴出岩類に底付けしたマグマ溜まりが固結したものと推察される.

    【引用文献】

    今岡照喜・飯泉滋,2009,白亜紀-古第三紀の火成活動.日本地質学会編,日本地方地質誌6中国地方,朝倉書店,247-339.

    今岡ほか,2019,山口県中央部の後期白亜紀カルデラ群の地質:吉部,山口,生雲,佐々並カルデラ.地質学雑誌,125,529-553.

    村上允英,1986編,西中国および周辺地域の酸性~中性火成活動.山口大学教養部紀要,村上允英教授記念号,67.

    岡村義彦,1965,山口県徳山市黒髪島花崗岩体の構造.広島大学地学研究報告,14,307-316.

  • 森 宏, 井上 真生子, 宿輪 隆太, 三石 真祐瞳, 木村 陽介, 早川 由帆, 碓井 虎次郎, 延原 香穂, 常盤 哲也
    セッションID: T15-P-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    物性の大きく異なる岩相境界,特に脆性剪断組織の発達した岩石が露出する断層沿いでは,特徴的な地形が形成されやすく,地形判読は,実際の地質調査においても基礎的かつ重要なアプローチとして用いられている.地形情報を取得するための手段の一つとして,写真測量が挙げられる.写真測量に関しては,2010年代に入り,多視点から撮影した複数の画像から,写真の撮影位置と対象物の三次元形状を復元できるSfM-MVS解析が急速に発展したことに加えて,カメラ撮影機能を搭載したドローンの入手・利用が容易になったことで,低価格かつ迅速な空中写真撮影と,それに基づくDEMの作成が可能になった(例えば,早川・小花和,2016;渡邊ほか,2018).そして,SfM-MVSを併用したドローン写真測量の地形解析における安価,迅速,および高空間分解能のメリットは,しばしば地形の急峻な地域の調査を必要とする地質学分野において,非常に有用な手法となることが期待できる.

     一方で,ドローン写真測量の地質を対象とした研究例は依然として少ない.また,類似した地質特性であっても,植生や撮影条件の違いなど,様々な要因に依存して得られる情報の精度は変わる.これらを考慮するためには,まずは,同一対象物の多角的解析から最適な撮影・解析条件を探るとともに,ドローン写真測量以外の手法との比較からメリット・デメリットを詳細に洗い出す必要がある.そこで本研究では,日本陸上最大の断層である中央構造線の地形および地質構造境界が良好に観察できる長野県伊那市・美和湖東岸の半島部を対象に,ドローン写真測量技術を用いた地形測量およびDEMの作成を行った.

     半島全体を対象とした数百m規模の地形測量では,本研究のドローン写真測量により得られたDEMの分解能は,5–10 mメッシュの公開DEMに比べて,植生に覆われた領域を含めて圧倒的に高精度であった.また,明瞭な岩相境界が露出する溝口露頭においては,航空レーダー測量により作成された0.5 mメッシュDEMよりも高分解能なDEMがドローン写真測量により得られた.これらは,数百m以内の地形解析における,ドローン写真測量の高い有用性を示す.また,DEM解析画像を基に推定された溝口露頭における岩相境界面の姿勢は,ハンディークリノメータを使用して露頭で計測されたものと良く一致する.これは,ドローン写真測量による地質構造解析が現実的に可能であることを示す.本研究結果とともに,費用・持ち運びやすさの利点を加味すると,ドローン写真測量は,しばしば急峻な山岳域といった過酷な環境下での調査を必要とする地質学分野に適した新たなアプローチと言える.

    【引用文献】早川・小花和,2016,物理探査,69, 297–309; 渡邊ほか,2018,地質学雑誌,124,643–649.

  • 東 豊土, 加藤 孝幸, 岡村 聡, 高倉 純
    セッションID: T15-P-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに 神居古潭帯を流れる沙流川流域で,ロジン岩と接する蛇紋岩中に透明度の高い緑泥石濃集部のある試料を発見した.岡村ほか(2018,日本地質学会学術大会講演要旨)の北海道内の縄文時代遺跡の遺物として発見される透明度が高い緑泥石岩の産地とは異なるため,今回発見した試料の岩石学的特徴の検討を行なった.

    産状・肉眼記載 本研究で検討する試料は3つ(Saru001,Saru002,Saru003:以下S1,S2,S3)で,上流部に沙流川岩体(新井田・加藤,1978,地団研専報)および糠平岩体(加藤・中川,1986,地団研専報)の2つの超苦鉄質岩体が分布する三号の沢を含む沙流川上流域で発見された.いずれも白色のロジン岩と接している部分で透明度の高い緑泥石部が形成され,ロジン岩部は変形を蒙っている.S1の緑泥石部は淡緑色で透明度が極めて高く,緑泥石とクロムスピネルが確認できる.S2の緑泥石部は緑色~暗緑色でブロック状に散在し,構造的変形を蒙っている.緑泥石部にもロジン岩脈が生成している.S3の緑泥石部はロジン岩部周辺のみで,全体としては構造的変形を蒙った蛇紋岩である.結晶度の高い白色の脈が,蛇紋岩部の構造的破砕面を伝い,試料全体を横断して緑泥石部にも侵入している.

    偏光顕微鏡記載 ロジン岩部は,原岩組織が不明瞭である.S1では,原岩組織である斜長石および石基の仮像が認められ,緑泥石部境界付近ではアパタイト,カルセドナイト,チタン石が形成され,緑泥石(干渉色暗緑灰色)+カルセドナイト+Tiザクロ石の細脈が緑泥石部まで貫いている.S2・3では,細脈中にTiザクロ石,アパタイト,緑泥石(干渉色帯黄茶色)が認められる.S3では単斜輝石からなる脈が試料全体を横断している.緑泥石部は,スピネル+緑泥石+Tiザクロ石からなる.スピネルは自形~他形で赤褐色を示す.Tiザクロ石は赤色細粒でロジン岩部境界付近に認められる.緑泥石は,一部はインクブルーや帯黄茶色の異常干渉色を示し,脈状またはプール状で散在している.S1では,炭酸塩鉱物+緑泥石脈(干渉色暗緑灰色)が認められる.S2・3では,リザルダイト-クリソタイルの蛇紋岩組織がわずかに残存しており,それらを置換して緑泥石が形成されている.

    化学分析 エネルギー分散型EPMA(EDS)装置搭載走査型電子顕微鏡JSM-IT200(LA) による鉱物化学分析を行なった.ロジン岩部では,透輝石,緑泥石,ペクトライト,透閃石,アパタイト,Ti-Caザクロ石,チタン石などが確認された.緑泥石部のスピネルはTiO2wt%=0.04~0.22,Cr#=0.54~0.80,Mg#=0.33~0.61である.緑泥石は,Si=5.55~6.51,Fe=0.25~1.96, 3.83~4.00,形成温度はCathelineau (1988,Clay Miner)では170~330℃ほどの範囲で,Siに乏しいものは>280℃である.また,未検討だがCeを多量に含む鉱物がS1で確認された.

    考察 ロジン岩の原岩については,Ti含有鉱物の形成や鉱物組み合わせ,斜長石仮像から,とくにS1では,アルカリ玄武岩と推察される.アルカリ岩は,糠平岩体・沙流川岩体に接する岩清水層群で緑色岩として見出されており(例えば,植田,2006,地質雑),本試料は上記岩体に岩清水層群のアルカリ岩起源の緑色岩が取り込まれ,ロジン岩化作用を蒙ったと考えられる.糠平岩体ロジン岩中のTiザクロ石脈のU-Pb年代(50.6±4Ma,木村ほか,2021,日本鉱物科学会年会講演要旨;仁木ほか,2020,日本地球化学会年会)を考慮すると,この年代に緑色岩がロジン岩化作用を蒙った可能性もある.緑泥石部については,緑泥石部に含まれるスピネルの組成や残存する蛇紋岩の組織と仮像から,沙流川岩体および糠平岩体のダナイト~ハルツバージャイト源蛇紋岩から形成されたと考えられる.神居古潭帯ニセウ川周辺の透明度の高い緑泥石岩は,超苦鉄質岩と貫入した微閃緑岩とのAl交代作用で形成したと考えられた(岡村ほか,2018,前出).本研究では,透明度の高い緑泥石部は,磁鉄鉱ダストをほとんど生産しない蛇紋岩化作用で形成されたメッシュ組織がそのまま緑泥石化作用(Al交代作用)を蒙っており,形成には低温下のAl交代作用が必要である.このAl供給源については,取り込んだ緑色岩化したアルカリ玄武岩のAl含有量が多いことを考えると,近傍で蛇紋岩化作用が起こっていれば,緑色岩のロジン岩化の過程でAlが蛇紋岩側へ移動・濃集することも可能である.このことは,岡村ほか(2018,前出)の場合にも,Al供給源を冷却した貫入岩に求めることが可能であることを意味する.

  • 加藤 聡美, 島田 哲也, 井上 隆, 新井田 清信
    セッションID: T15-P-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     様似町の地質の東側のアポイ山塊を中心とする切り立った地形とは対照的に,その西側にはなだらかな丘陵地が広がり,海岸線沿いには様似の市街地が形成されている.海岸線には,大小いくつもの岩山が並び,この地域の景観的特徴を表す.この岩山と奇岩からなる独特の景観には,何百年も自然と共生してきた先住民族アイヌの人々の伝説が数多く残されている.岩山の一つであるエンルム岬は陸繋島で,この麓に1799年,江戸幕府がシャマニ会所を置いたことが様似町の黎明である.ジオパークのテーマの一つ「歴史から自然と人間社会の共生を学び楽しむ」を体験できる地域になっている.

     この岩山は新第三紀の貫入岩と考えられている(前田,1990).アポイ岳ジオパークの代表的なサイトとして,「様似海岸エリア」のサイトC1「塩釜トンネルとローソク岩」,C2「親子岩とソビラ岩」,C3「エンルム岬」,C4「観音山」となっている.

     本調査では,沖にある岩山である親子岩と,様似海岸エリアの波食棚と岩礁の調査を行った.様似町は2015年にユネスコ世界ジオパークに加盟しており,本調査によりこれらの奇岩と岩山の保全がより進むために、より詳細な地質分布図をつくることをめざした.

    2.研究史

     この岩山については,鈴木・沢(1957)は様似漁港周辺の白亜系の中に,ひん岩が多数密集している分布図を報告した.また黒色頁岩や細粒砂岩などからなる多数の捕獲岩が含まれることに注目した.前田ほか(1990)は観音山の麓のひん岩について,16.5±0.8 MaのK-Ar 年代を報告した.古堅ほか(2010)はエンルム岬のひん岩について,全岩化学組成と同位体組成を報告した.ひん岩と呼ばれるこの岩石は,その組成からIUGSの火成岩分類図(Streckeisen, 1978)においてデイサイトにあたる.地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所(2019)は,エンルム岬のひん岩から17.7 ± 0.4MaのK-Ar 年代を報告した.

    3.調査結果・考察

     親子岩には船で上陸し,それ以外の岩山については干潮時に徒歩で調査を行った.その調査方法についても報告する.

     親子岩およびその波食棚は,ひん岩であった.波食棚から直径2 cmの細粒砂岩を記載した.これは白亜系に属する岩片の捕獲岩の可能性が考えられる.

     塩釜トンネル周辺の岩礁は,ひん岩であった.ところで新第三紀上杵臼層は、周辺では浦河町白泉の海岸と様似町平宇の海岸に産し,走行傾斜はおおむね海岸線に沿う(蟹江・酒井,2002).その中間部に位置する様似町塩釜トンネル周辺の岩礁において,化石を含む堆積岩露頭を記載した.化石を産することとその分布位置から,この露頭は新第三紀上杵臼層に属する可能性がある.

    4.引用文献

    鈴木醇・沢俊明(1957)北海道岩石雑記(16) 日高様似付近の玢岩岩脈.北海道地質要報,第35号.

    前田仁一郎ほか(1990)北海道中央部の第三紀迸入岩類のK-Ar 年代と火成活動の時空変遷.地球科学44巻5号,231-244.

    蟹江康光・酒井彰(2002)浦河地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).

    古堅千絵・中川光弘・廣瀬亘・足立佳子(2010)前期~中期中新世の北海道中央部における火山岩の地球化学的特徴.地質学雑誌,第116巻,第4号,119-128.

    地方独立行政法人 北海道立総合研究機構環境・地質研究本部 地質研究所(2019)アポイ岳ジオパークにおける地質図編纂.

    Streckeisen, A. L., 1978. IUGS Subcommission on the Systematics of Igneous Rocks. Classification and Nomenclature of Volcanic Rocks, Lamprophyres, Carbonatites and Melilite Rocks. Recommendations and Suggestions. Neues Jahrbuch für Mineralogie, Abhandlungen, Vol. 141, 1-14.

  • 川並 仁美, 藤野 滋弘, 原田 駿介
    セッションID: T15-P-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    紀伊半島南端に位置する「サラシ首層」は層厚が約300mで,泥質基質中に径が数mの巨礫が含まれる,特徴的な含角礫泥岩層である.「サラシ首層」はオリストストローム(久富ほか, 1980)や海底地すべり堆積物(別所ほか, 2024など)と解釈されていたが,泥火山の堆積物とする説(Lewis and Byrne, 1996; 潮崎・宮田, 2012など)も提唱されている.また,「サラシ首層」の層序学的帰属についても付加体である牟婁層群漸新統に属する(鈴木ほか, 2012)のか,前弧海盆堆積体である中新統熊野層群に属する(甲藤ほか, 1976)のか議論が分かれている.

    一般に含角礫泥岩の成因を構造地質学的特徴から判別する決定的な基準は存在していない(狩野, 1998).本研究では「サラシ首層」の成因と層序学的帰属を明らかにすることを目的として,「サラシ首層」と上位・下位層との境界や「サラシ首層」の堆積環境について調べた.

    「サラシ首層」は塊状の含角礫泥岩の岩相で特徴づけられ,緩く褶曲しブロック状になった砂岩泥岩互層である下位の牟婁層群田並川層(鈴木ほか, 2012)とは岩相が異なる.ドローンを用いた空中写真撮影を行った結果,含角礫泥岩層は「サラシ首層」全体の走向・傾斜とは無関係に斑状の分布を示すことが分かった.また,「サラシ首層」最上部の含角礫泥岩層は顕著な変形を受けていない砂岩層と互層し,初生的な累重様式を維持した上位の礫岩砂岩互層に漸移していた.「サラシ首層」最上部で含角礫泥岩層と互層する砂岩層と礫岩砂岩互層には平板状斜交層理,ハンモック状斜交層理などの堆積構造や,Macaronichnus segregatis sp., Ophiomorpha sp.などの生痕化石がみられた.これらの堆積構造と生痕化石は,「サラシ首層」最上部が水深数十m以下の浅海底で堆積したことを示す(Cheel and Leckie, 1992).礫岩砂岩互層は初生的な累重様式と層理面を維持しており,含角礫泥岩層と上位の礫岩砂岩互層は整合と解釈されるため,「サラシ首層」は付加体である牟婁層群ではなく前弧海盆堆積体である熊野層群に属する地層であると考えられる.また,「サラシ首層」の含角礫泥岩層が堆積後に浅海底堆積物の砂岩層に覆われていることから,「サラシ首層」は陸棚縁の崩壊などで発生する大規模な海底地すべりではなく泥火山活動に関連して形成された可能性が高いといえる.この解釈は,「サラシ首層」で特徴的に見られる「分解型礫」が泥火山噴出時の減圧に伴ってできるという先行研究の結果(Lewis and Byrne, 1996)とも整合的である.紀伊半島中新統の熊野層群や田辺層群には同様の含角礫泥岩層が分布し,そのうちの一部は泥ダイアピルと考えられている(宮田ほか, 2009など).「サラシ首層」もこのような泥火山活動の一環で形成された岩体である可能性が高い.

    引用文献

    別所ほか, 2024, 地質学雑誌, 130, no. 1, 35-54.

    Cheel and Leckie, 1992, Journal of Sedimentary Research, 62, no. 6, 933-945.

    久富ほか, 1980, 地球科学, 34, no. 2, 73–91.

    狩野, 1998, 地質学論集, 50, 107–130.

    甲藤ほか, 1976, 高知大学学術研究報告, 24, no.15, 133–142.

    Lewis and Byrne, 1996, Geology, 24, no. 4, 303–306.

    宮田ほか, 2009, 地質学雑誌, 115, no. 9, 470–482.

    潮崎・宮田, 2012, 日本地質学会第119年学術大会講演要旨.

    鈴木ほか, 2012, 地学団体研究会専報, 59, 71–86.

  • 藪田 桜子, 竹内 誠, 淺原 良浩, 李 琪
    セッションID: T15-P-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    砕屑性岩脈の成因を知る上で,岩脈の供給源やそこからの貫入方向(上方・下方・側方)を解明することは不可欠である.しかし,砕屑性岩脈と供給砂岩層の関係を露頭で確認できない場合も多く,成因の議論は困難である.中新統設楽層群北設亜層群の東部地域の地層に貫入する砂岩岩脈においても,砂岩岩脈と供給砂岩層の関係は確認できず(入月・高橋, 1997),貫入形態からも貫入方向を特定できないという問題がある.Yabuta et al. (2023)は,同地域の北設亜層群を,下位より,下部の川角層・下田層および上部の坪沢層・玖老勢層に区分し,下部と上部の境界層準になる下田層梅平砂岩部層で明瞭に砂岩組成や砕屑性ジルコンU–Pb年代が変化することを報告した.本研究では,砂岩岩脈の砂岩組成と砕屑性ジルコンU–Pb年代を求め,北設亜層群の各層の砂岩のものと比較することで,砂岩岩脈の供給砂岩層を解明することを目的とする.砂岩岩脈は入月・高橋(1997)により報告されたものに加えて,より広範囲に分布することがわかった.砂岩岩脈は北設亜層群分布域東部の中央構造線(MTL)から2 km付近に集中して分布し,MTLから3.5 km離れたところにも分布する.また,砂岩岩脈の貫入面はMTLとほぼ平行な北東–南西走向,鉛直で,砂岩岩脈の走向方向に約2 kmの範囲で確認できる.砂岩岩脈のすべてが北設亜層群下部の下田層の泥岩主体層に貫入しており,貫入形態は幅10〜80 cmの平板状で,上方あるいは下方へ収斂するタイプは確認できない.砂岩岩脈には母岩である下田層泥岩の同時浸食礫が含まれる.砂岩岩脈から採取した砂岩試料(Sd-1〜Sd-5)は,いずれも北設亜層群下部の砂岩と同じく極粗粒〜中粒石英長石質砂岩に分類される.これらの試料に含まれる砕屑性ジルコンのU–Pb年代は,ほとんどが後期白亜紀の年代を示し,後期白亜紀の年代に加えてジュラ紀や先カンブリア時代の年代を含む北設亜層群上部の砂岩の年代構成とは異なり,北設亜層群下部の砂岩の年代構成の特徴を示す.また,砂岩岩脈のジルコンU–Pb年代は約95 Maの主要なクラスターと,72〜73 Maの小クラスターからなるという特徴を持ち,北設亜層群下部の梅平砂岩部層(下田層上部)下部の年代クラスター(Yabuta et al., 2023)と類似する(図).これらのジルコンのカソードルミネッセンス(CL)像も,両者で同様な年代をもつジルコンで類似したパターンを呈する.以上の砂岩組成や砕屑性ジルコンのU–Pb年代,CL像の結果から,砂岩岩脈は梅平砂岩部層下部の砂岩を供給源として貫入したと考えられる.

    【引用文献】入月・高橋, 1997, 鳳来寺山東部の設楽層群にみられる砕屑性岩脈についての予報. 鳳来寺山自然科学博物館報, 26, 23–29.Yabuta, S., Takeuchi, M. and Asahara, Y., 2023, Detrital zircon U–Pb ages of the Miocene clastic sedimentary succession in the Shidara Basin, central Japan: Implications for provenance changes and timing of collision between the Izu–Ogasawara and Honshu arcs. Journal of Asian Earth Sciences, 241, 105463.

  • 内藤 定芳
    セッションID: T15-P-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ・秩父盆地に対する記述

    埼玉県の秩父盆地を中心に東西13~15㎞、南北10~13㎞の地域に積算層厚が5,000mにたっする新第三系が分布する。二枚貝類・束柱類・ヒゲクジラ類・ハクジラ類・鰭脚類、板鰓類、鳥類・亀類などの化石が多く、古くから多くの研究が進められてきた。(日本の地質3 関東地方110p.1986)

    この地域の新第三系は、盆地西部と北東端では走向が南北方向、北部では東西方向で、全体として逆S字型(井尻ほか1950)あるいはZ字型(渡ほか、1950)の構造をしている。(日本の地質3 関東地方110p.1986)

    ・地球科学に関する地元民の認識

    1978年~81年の3年間で「武甲山総合調査会」が秩父市、横瀬町で組織された。当時はまだプレートテクトニクスの考え方は紹介されておらず、秩父湾は温暖な気候でサンゴやウミユリが栄えた秩父古生層があって、サメやクジラが泳いでいたという認識であった。

    中学校現場では堀口万吉埼玉大学教授が監修した「関東創生記」が地元銀行から全県の小中学校に提供された。秩父盆地の地層は10㎞の厚さがあっていわゆる「地向斜造山運動論」で物語が進められた。前後半が実写、中間を「アースオデッセイ号の冒険」というアニメの挿入で、時代の流れを進めていた。

    現在は秩父盆地の層厚は5㎞、一部では2.5㎞ということになっている。ところが現実には、「大陸移動」の考えさえ、秩父地方には入ってきていないように思える。

    秩父盆地は、周辺の山々から土砂の落石があって、地層ができあがったという考えを、つい先頃講演会で耳にした。秩父帯は一部石炭紀を含み、ペルム紀からジュラ紀のメランジュで構成されているということは周知されているが、秩父帯の南帯と北帯が、秩父盆地より先に隆起していたという証拠はこれまで明らかにされてこなかった。ここで初めて秩父盆地より後に北帯、南帯が隆起したと述べる。

    秩父盆地や秩父山地(伊豆・小笠原弧の北上による櫛形山山塊、御坂山塊、丹沢山塊とはその形成過程によって、関東山地とは区別している。) の時代と層序を述べてみたいと考えた。中央構造線の北上とハの字構造を説明する材料になれば幸甚である。

    ・秩父は撓曲盆地

    地層が左右に引っ張られると正断層が出来、左右から押されると逆断層ができる。ところが地層が柔らかいと上方に隆起する。この微妙な地層の堅さ、柔らかさが秩父では撓曲盆地となり、三峰口駅の西方200メートルの地点で逆断層を引き起こして秩父山地の隆起をもたらしたと考えている。

    ・先に述べたように、盆地の東西南北で走向も傾斜も大きく変化しているので、ここでは秩父市南方の秩父鉄道浦山口駅を起点として、西方の三峰口駅までの東西で第三系地層の傾斜を見てみる。浦山口駅付近は標高240m、三峰口駅は標高320mで7,3㎞の距離がある。通常なら国道140号線で10分程度である。

    ・浦山口近くの巴川付近には広大な第三紀層が広がっている。傾斜は10数度程度。

    ・140号線を4.4㎞進むと荒川橋を通過する。ここの国道は通常だれもその傾斜に気がつかないが、冬季、対岸に見通しの良い場所があり、30度の傾斜があることが見て取れる。

    ・ここから1㎞程進むと、国道の右側に露頭があって、傾斜は60度である。

    ・西に800m進むと数年前に工事した橋の下には露頭が見えて、走向はほぼ南北、70度前後の東傾斜になる。近くの橋の工事の時、橋の土台になった地層は攪乱があり、傾斜は同様だが、走向には乱れがあった。

    ・この手前の平和橋下では、河床に70~0度程度の地層が見え、ほぼ90度の地層も観測できる。第三紀層が、盆地周辺で大きく上方に撓曲したことが推論できる。

    ・秩父山地の隆起について

    ナウマン博士は明治10年代に日本を訪れ、秩父で数回の調査訪問を行ったようである。大陸移動説が世に受け入れられる遙か昔のことでもあり、その真上に長逗留した博士にも、伊豆・小笠原島弧の北上が原因だったとは思いもかけなかったことであろうと思う。

    秩父山地の構造は複雑である。単なる逆断層で説明できるとは考えていない。秩父市大滝・中津川の出合付近には、活撓曲を思わせるデコルマン(滑り面)の連続する地域がある。

    層状断層の存在を確実化する状況である。発表で図示したい。

    【引用文献】産総研(2018)南部フォッサマグナ(伊豆衝突帯)の歴史を凝縮した身延地域の地質図を刊行、岡野裕一(2018)地球科学72巻143-152、兵頭浩(2008)秩父盆地新第三系の地質と古地磁気、静岡大学学術リポジトリ、高橋雅紀(1992)中部日本の新第三紀テクトニクスにおける中新世秩父盆地の地質学域位置、埼玉県立自然史博物館研究報告第10号、29-45、NHKBS(2024.2.17)体感!グレートネイチャーロマンティック!ライン激動の記憶ドイツ・スイス

  • 小林 和哉, 星 博幸, 本山 功
    セッションID: T15-P-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    愛知県知多半島に分布する中新統師崎層群は,微化石や放射年代測定,古地磁気によって年代が推定されている.師崎層群最上部を構成する内海層の堆積年代は珪藻化石と浮遊性有孔虫化石から推定されているが,珪藻化石年代と浮遊性有孔虫化石年代は互いに大きく異なっている.そこで筆者らは,内海層の堆積年代を明らかにする目的で,内海層の放散虫化石層序年代を検討した.また,師崎層群からは多数の化石が産出し,その化石群集に基づき堆積時の古環境が推定されている.しかし,内海層と内海層の下位にある山海層上部は化石の産出がそれらの下位層(山海層下部や豊浜層)に比べて乏しいため,内海層と山海層上部の古環境推定は十分に行われていない.そこで,筆者らは放散虫化石を用いて主に山海層上部と内海層の古環境推定も試みた.

     岩石試料を山海層下部の1地点,山海層上部の7地点,内海層の11地点から採取し,放散虫化石の検出を試みた.その結果,12地点で36属31種の放散虫化石が産出した.山海層上部と内海層の試料から,Pentactinosphaera hokurikuensisの多産とCyrtocapsella tetraperaの産出を特徴とする群集,いわゆるP-C群集が認められた.P. hokurikuensisが多産する年代は約18.7~16.6 Maの間であることが示されている(本山・澤田,2014).よって,山海層上部と内海層はP. hokurikuensisの多産帯に相当し,堆積年代は約18.7~16.6 Maの間に含まれると推定される.これらの結果と,師崎層群から報告されている古地磁気極性 (Hayashida, 1986; Hoshi and Matsunaga, 2024) と合わせると,山海層上部と内海層の堆積年代は古地磁気年代のクロンC5Dn(17.466~17.154 Ma)に含まれると考えられる.この年代は珪藻化石から推定される内海層の年代(NPD 2B 帯:伊藤ほか,1999)と整合する一方,内海層の浮遊性有孔虫化石年代(N.9 帯以降:土井,1983)とは一致しない.

     山海層下部から内海層にかけて,生息水深が漸深海と推定されているCornutella profundaなどの放散虫化石が産出した.よって,師崎層群上部(山海層下部+内海層)の堆積時の古水深は数100 m程度の漸深海と考えられる.そして,低・中緯度に生息する種と高緯度に生息する種が共に産出したことから,師崎層群上部堆積時には表層に温暖な水塊が分布し,表層より下部に寒冷な水塊が分布していたと考えられる.

    引用文献

    土井健太郎 (1983) 大阪微化石研究会誌, 10, 14-21.

    Hayashida, A. (1986) J. Geomagn. Geoelectr., 38, 295-310.

    Hoshi, H. and Matsunaga, A. (2024) Isl. Arc, 33, e12513, doi: 10.1111/iar.12513.

    伊藤知佳ほか (1999) 地質学雑誌, 105, 152-155.

    本山 功・澤田大毅 (2014) 2014年放散虫研究集会会津大会講演要旨集, 11.

  • 山田 来樹
    セッションID: T15-P-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日本列島の背弧側には日本海拡大(44–15 or 13.5 Ma1–2)の時期に形成された,秋田堆積区,新潟堆積区,北陸堆積区そして山陰堆積区という大きく4つの堆積区(積成区とも;sedimentary province)が存在する3–4.日本海拡大に伴う地質イベントを陸域で理解するためには,これらの堆積区の詳細な形成プロセスを明らかにすることが大きな鍵となるだろう.特に北陸堆積区には日本海拡大初期~末期の地層が広く分布するため,日本海拡大を議論する上で重要な地域と言える5

    北陸堆積区の中軸部には日本海拡大期の23–15 Maごろに大きく沈降した領域があり,それを富山堆積盆と呼ぶ(富山積成盆地とも6).下位から南砺層群(23–18 Ma),八尾層群(18–15 Ma),砺波層群(15–2 Ma)が堆積盆を埋積しており7–8,特に前者2つの層群が日本海拡大期に形成されたと考えられる.南砺層群は,河川~暴風時波浪限界水深(SWB)以浅の堆積物と火砕流堆積物からなる.八尾層群は下部が安山岩を主体とする陸成層から,中部が安山岩~流紋岩を含むSWB以浅の陸~浅海成層から,上部はSWB以深の海成層からなる.本研究では,南砺層群と八尾層群から試料を採取し,日本原子力研究開発機構東濃地科学センター設置の高速多点フェムト秒レーザーを接続した多重検出型誘導結合プラズマ質量分析装置(msfsLA-MC-ICP-MS)を用いてジルコンU–Pb年代測定を行った.

    南砺層群の城端層(溶結凝灰岩)からは22.8 ± 0.2 Ma(±2σ;以下同様)の,楡原層(流紋岩礫)からは18.0 ± 0.1 MaのジルコンU–Pb年代が得られた.また,八尾層群の岩稲層(軽石質火山礫凝灰岩)からは17.0 ± 0.1 Maの,医王山層(流紋岩溶岩)からは16.9 ± 0.1 MaのジルコンU–Pb年代が得られた.なお,測定結果により楡原層のみTera-Wasserburgコンコーディア図上のlower intercept年代を算出し,それ以外は全て238U–206Pb加重平均年代を算出した.

    これらのジルコンU–Pb年代の結果は,富山堆積盆の発達史に関して以下のような新たな視点を与えている.1つ目は,南砺層群の形成年代は約5 Myrの大きな幅を持つという点である.城端層と楡原層はその岩相と上位の地層との関係から,同じ地層として扱われたり9,異なる同層準の地層と考えられたりしてきたこともある8.今回の結果は,両層間に時間間隙の大きい不整合が存在する可能性も否定できないことを示しており,堆積盆形成初期の地史と岩相層序対比に対して再考を迫るものである.2つ目は,岩稲層と医王山層は古地磁気層序10も加味すると,<0.5 Myrという地質学的にごく短期間で形成されたという点である.両層はそれぞれ層厚が1000 mを超え分布域も非常に広い火山岩からなるため(岩稲層相当層だけで>5000 km3の体積がある),富山堆積盆の最も重要な構成要素である.このような火成活動が非常に短期間で発生したことは,現在の日本列島の火山活動と比較しても異常に高い噴出率の巨大な火成活動が起きたことを意味する.以上のように,本研究によるmsfsLA-MC-ICP-MSを用いた高精度なジルコンU–Pb年代測定の結果に基づいて,富山堆積盆の発達史を先行研究よりも詳細に議論することが可能となった.

    本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和6年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)(JPJ007597)」の成果の一部である.

    引用文献

    1鹿野,2018.地質雑,124,781–803.

    2中嶋,2018.地質雑,124,693–722.

    3松本・池辺,1958.地球科学,37,17–28.

    4鈴木,1989.地質学論集,32,143–183.

    5山田・高橋,2021.地質雑,127,507–525.

    6坂本ほか,1959.地調月報,10,75–82.

    7中嶋ほか,2019.地質雑,125,483–516.

    8山田ほか,2023.日本地質学会第130年学術大会,T15-P-19.

    9山崎・宮島,1970.岩石鉱物鉱床学会誌,63,22–27.

    10Tamaki et al., 2006. Bull. Geol. Surv. Japan, 57, 73–88.

  • 細井 淳
    セッションID: T15-P-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    棚倉断層帯は日本海拡大時にも活動したことが考えられており,当時,巨大なトランスフォーム断層だったとみなす研究もある.茨城県北部~福島県南部の棚倉断層帯沿い,棚倉断層帯の運動に伴った堆積盆が発達する.この堆積盆の発達史解明は,日本海拡大時の棚倉断層帯の運動,すなわち日本海拡大の地質構造発達史の解明につながることが期待される.Omori(1958)や大槻(1975)は綿密な地質調査に基づいて,50以上の層序単元に区分したが,その結果,層序単元毎の関係性が分かりにくくなってしまっており,堆積盆の発達史を議論する上で理解が困難になってしまっている.現在,5万分の1地質図幅「大子」の整備を進めており,発表者が担当する堆積盆埋積層の層序に関して新しい知見を得た.そこで棚倉断層帯沿いの新第三系層序を整理するとともに,最新の地質調査研究の成果に基づき層序を再定義する.棚倉断層帯沿いの中新統は棚倉断層帯の東西両側に分布し,棚倉破砕帯東縁断層を挟んで時代と岩相が異なる.棚倉断層帯破砕帯東縁断層の西側の中新統とそれらが埋積した堆積盆を西棚倉層群及び西棚倉堆積盆,東側の中新統とその堆積盆を東棚倉層群及び東棚倉堆積盆とする.西棚倉層群は堆積盆縁辺部(先新第三系との境界)周辺に分布する風木ノ草層及び東金砂山層と,堆積盆中央部周辺に分布する北田気層,大沢口層,男体山デイサイト,苗代田層,小生瀬層,内大野層から構成される.西棚倉層群の年代は約17–15 Maである(Hosoi et al., 2023など).一方の東棚倉層群は赤坂層と久保田層から構成され,それらの年代は約13–10 Maである(柳沢・細井,2024など).発表者は近年,層序学的研究に加えて,火山地質や古地磁気岩石磁気,構造地質などの様々な手法を駆使して,棚倉断層帯沿いの堆積盆発達史解明を行っている.本発表では,再定義した年代層序に基づいた,堆積盆の発達史に関する最新の成果を紹介する. 文献:Hosoi et al., 2023, Tectonics, e2022TC007642., Omori, M., 1958, Sci. Rep. Tokyo Kyoiku Daigaku. Sect. C: Geol., Mineral., Geogr., 55–116., 大槻憲四郎, 1975, 東北大地質学古生物学教室研究報文報告, 1–71., 柳沢・細井, 2024, 地質調査研究報告, 印刷中.

  • 小坂 日奈子, 細井 淳, 長谷川 健
    セッションID: T15-P-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    栃木県南東部に位置する茂木地域には,足尾帯のジュラ系を不整合に覆って,前期~中期中新世の中川層群 (下位から市場層,元古沢層,山内層,茂木層) が分布する (Kawada, 1953; 星・高橋, 1996).中川層群は火山岩類を主体とする陸成層からなり,古地磁気測定およびFTやK-Ar年代測定をもとに古地磁気層序が構築されている(Hoshi and Takahashi, 1997; 星, 1998, など).それによると,茂木地域の中川層群は約19~16 Ma頃の地層であり,日本海拡大期に活動した火山の堆積物から主に構成されている.

     茂木地域に分布する中川層群の火山岩類の組成は苦鉄質から珪長質なものに変化したことが明らかになっている (星・高橋, 1996).しかし,中川層群の一連の火山活動を対象とした研究はほとんどない.すなわち,日本海拡大に伴って当時の火山活動がどのような火山噴火変遷を辿ったのか,マグマ組成の変化があったのかは殆どわかっていない.茂木地域の一部の火山岩の岩石学的研究では,高TiO2ソレアイトという特異な組成の岩石や,火山岩類の成因が日本海拡大に関係するという考察がなされている (山元・山崎, 2023; 周藤ほか, 1985; 白水ほか, 1983など).従って,茂木地域における地質学・岩石学的研究は,日本海拡大による東北日本弧前弧域のテクトニクスを検討する上で重要であると考えられる.

     発表者らは,茂木地域における火成活動の変遷を高解像度で検討することを目的としている.本発表では,主に山内層における地質調査の結果と,そこから推定される火成活動について報告する.野外地質調査の結果では,山内層は溶岩と火山砕屑岩から主に構成されることが判明した.溶岩はクリンカーを伴った厚さ数十メートル程度の溶岩で,数枚の溶岩を識別することができた.火山砕屑岩はラハール堆積物 (淘汰が悪く,細礫~巨礫大の角礫~亜角礫の単一種の火山岩礫から構成される,まれに逆級化構造を示す) や,河川堆積物 (淘汰が良く,級化構造や成層構造が認められる) であると考えられた.ルートマップや柱状図からこれらの分布と相互関係を考察するとともに,火山岩の薄片観察と全岩化学組成分析結果を踏まえ,山内層における古火山活動について議論する.

    文献:Kawada (1953) Sci. Rep. Tokyo Bunrika Daigaku, ser. C, 2, 217-307.星・高橋 (1996) 地質雑, 102, 25-39.Hoshi and Takahashi (1997) Jour. Geol. Soc. Japan, 103, 523-542.星 (1998) 地質雑, 104, 60-63.山元・山崎 (2023) 地質雑, 129, 165-177.周藤ほか (1985) 岩石鉱物鉱床学会誌, 80, 246-262.白水ほか (1983) 岩石鉱物鉱床学会誌, 78, 255-266.

  • 和田 穣隆, 新正 裕尚, 高嶋 礼詩, 仁木 創太, 折橋 裕二, 佐々木 実, 平田 岳史
    セッションID: T15-P-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     和歌山県串本町に露出する国指定天然記念物「橋杭岩」は珪長質火山岩からなる岩脈であり,泥岩を母岩とする.本講演では,2021年に許可を得て採取した岩脈本体を構成する珪長質火山岩と苦鉄質包有物について,野外・鏡下での岩相と全岩化学組成を,珪長質火山岩についてアパタイト化学組成とジルコンU-Pb年代測定値を報告する.

    2.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の岩相と岩石組織

     岩脈の走向・傾斜はN10˚W,80˚Eで,15 m程度の最大幅をもつ(和田・南川, 2021).鏡下において珪長質火山岩は斑晶として石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母を含み,脱ガラス化して微珪長質組織の石基からなる流紋岩である.苦鉄質包有物や他形ザクロ石を含む花崗岩片も見られる.

     流紋岩に含まれる灰黒色の苦鉄質包有物についてはこれまで全く記載が無いが,岩脈縁部の露頭面で径数cm~十数cmの楕円形ないし不定形状のものを多数観察できる(図1).また,岩脈急冷縁のすぐ内側には岩脈壁面に平行に分布・濃集するように白色・球状の包有物が見られ,その断面から流紋岩皮殻(厚さ数cm以下)に覆われた苦鉄質包有物とわかる.流紋岩皮殻と包有物本体の間には暗色部がしばしば挟在し,鏡下(図2)において流紋岩と苦鉄質包有物の両者に由来する斑晶・石基が混合した暗色の組織を示す.混合の程度により暗色の組織はさらに2タイプに区別される.流紋岩皮殻にはスフェルライトが認められる.ただし岩脈縁部と異なり,岩脈内部に見られる不定形状苦鉄質包有物(最大径30 cm程度)に流紋岩皮殻はない.鏡下で苦鉄質包有物はいずれも填間状組織の石基に斜長石斑晶を含む玄武岩質安山岩である.斜長石斑晶には自形・柱状のものと融食形で外形に沿った汚濁帯をもつものがある.融食形で反応縁をもつ石英捕獲結晶もよく含まれる.以上の特徴は,橋杭岩岩脈をつくった珪長質マグマが貫入前に苦鉄質マグマと接触し一部混合したことを示す.なお,いずれの岩相にも方解石が二次鉱物として晶出する.

    3.珪長質火山岩と苦鉄質包有物の全岩化学組成,アパタイト化学組成

     珪長質火山岩と岩脈内部で採取した苦鉄質包有物について,弘前大学での蛍光X線法およびActLabs社に委託したICPMS法で全岩化学組成分析を行った.珪長質火山岩については東北大学においてEPMAによるアパタイト化学組成分析も行った.その結果,岩脈を構成する珪長質火山岩,苦鉄質包有物はIUGS分類(Le Maitre, 2002)における流紋岩,玄武岩質安山岩にそれぞれ分類され,記載岩石学的特徴と一致した.珪長質火山岩は著しく高いK2O量(7.66%;酸化物の総計100%換算)をもちアルカリ長石の集積の影響を見ている可能性がある.周辺岩体との比較では,主に低K2O量の珪長質火成岩を主とする潮岬火成複合岩類(三宅, 1981; 新正ほか, 2007)とは明らかに異なる.また,熊野酸性岩類の組成と比較して低いAl2O3量など,アルカリ長石の集積で説明がつかない元素がある.加えて,アパタイト組成も熊野酸性岩類とは異なる領域にプロットされる.一方,苦鉄質包有物は中カリウムソレアイトの領域にプロットされ,N-MORBで規格化した液相濃集元素のプロットでは,Nb,Ta枯渇やPbスパイクなど「島弧的」な特徴を持ち,近接した潮岬火成複合岩類との関連性を考える場合,同岩体の苦鉄質岩がMORBに類似する(Miyake, 1985)との主張とは相容れない.ただし,苦鉄質包有物が液相濃集元素のプロットでNb,Ta枯渇やPbスパイクを持つ流紋岩マグマに取り込まれたものであることには注意を要する.

    4.珪長質火山岩のジルコンU-Pb年代

     珪長質火山岩について,東京大学地殻化学研究施設敷設の機器によるレーザーアブレーションICP質量分析法によってジルコンU-Pb年代測定を行い,コンコーダントな年代を持つ20粒子の238U-206Pb年代の加重平均として15.21±0.11 Ma(1σ)の値を得た.この年代値は西南日本外帯の珪長質火成岩のU-Pb年代値(14.5±1.0Ma; Shinjoe et al., 2021)の範囲にあり,とりわけ,15 Maより古い初期の活動が外帯の中でも海溝に近い地域に分布することが多い傾向(Shinjoe et al., 2021)と整合的である.

    Refereces

    Le Maitre(2002) ISBN:9780511535581.

    三宅(1981) 地質雑, 87, 383.

    Miyake(1985) Lithos, 18, 23.

    新正ほか(2007) 地質雑, 113, 310.

    Shinjoe et al.(2021) Geol.Mag., 158, 47.

    和田・南川(2021) 火山, 66, 281.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    辻本 大暉, 高嶋 礼詩, 佐藤 隆春, 黒柳 あずみ
    セッションID: T15-P-25
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     

    西南日本には現在の火山フロントよりも海溝に極めて近い位置に中期中新世に生成された大規模な珪長質火成岩体が分布している.これらの火成岩体は西南日本形成時の特異なテクトニクスによって形成されたと考えられ,その放射年代や化学組成などが盛んに検討されてきた (Shinjoe et al., 2019など).紀伊半島の外帯には中期中新世に活動したカルデラが複数存在することが知られており,熊野カルデラ,熊野北カルデラ,大台カルデラ,大峯カルデラ等があげられる.また,紀伊半島の内帯には外帯のカルデラに由来すると考えられている凝灰岩が点在しており,室生火砕流堆積物,石仏凝灰岩,玉手山凝灰岩等がある.これら外帯の各カルデラと内帯に分布する凝灰岩は,近年,アパタイト微量元素組成を用いることにより,対比がなされるようになった (Takashima et al., 2021).しかし,凝灰岩の一部にはアパタイトを含まないものもあり,対比に関して未解決な点が多く残されている.本研究では,これら内帯の中新世中期の凝灰岩類に対して,アパタイト微量元素組成と黒雲母の化学組成を用いてより詳細な対比を試みた.  

    地質概説

    室生火砕流堆積物は異質岩片を多く含む火砕流堆積物である基底相,結晶ガラス質溶結凝灰岩である主部相に分けられる (室生団研・八尾,2008).基底相と主部相下部はアパタイトを豊富に含むが,主部相中部~上部は,一部の層準(フローユニット)しかアパタイトを含まない.石仏凝灰岩は基底部でアパタイトを多く産出するが,中部~上部はアパタイトを含まない.室生火砕流堆積物主部相下部および石仏凝灰岩の下部の給源が大台カルデラであることはアパタイト微量元素組成の分析結果から明らかになっている (Takashima et al., 2021).

    アパタイト微量元素組成

     

    差杉峠近傍に露出する室生火砕流堆積物基底相のアパタイト微量元素組成を検討したところ,屏風岩セクションの室生火砕流堆積物基底相と一致する.また,室生火砕流堆積物基底相の値は大峯カルデラの火砕岩脈と非常に近い値を示すが,マグネシウムと鉄の含有量でわずかな相違がみられた.

    黒雲母元素組成

     

    内帯に分布する中新世中期の凝灰岩のなかには,アパタイトを含まない層準も多く存在する.そこで本研究ではアパタイト含まない層準の凝灰岩の対比を補完するために,黒雲母元素組成を検討した.その結果,石仏凝灰岩上部および玉手山凝灰岩が室生火砕流堆積物の主部相中・上部とほとんど同じ値を示すことが明らかになった.これにより石仏凝灰岩上部および玉手山凝灰岩は室生火砕流堆積物の主部相中・上部相当層にあたると考えられる.

    引用文献

    室生団体研究グループ・八尾昭,2008,室生火砕流堆積物の給源火山.地球科学,62, 97-108.

    Shinjoe, H., Orihashi, Y. and Anma, R., 2019, U-Pb ages of Miocene near-trench granite rocks of the Southwest Japan arc: implications for magmatism related to hot subduction. Geological Magazine, 158, 47-71.

    Takashima, R., Hoshi, H., Wada, Y. and Shinjoe, H., 2021, Identification of the source caldera for the Middle Miocene ash-flow tuffs in the Kii Peninsula based on apatite trace-element composition. Island Arc, 30.

  • 遠嶋 美月, 佐久間 杏樹, 仁木 創太, 平田 岳史, 池田 昌之
    セッションID: T15-P-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    後期中新世地球寒冷化 (Late Miocene global cooling; LMGC) は、海洋循環やモンスーン強度の変化を通して、当時の日本海の海洋環境や生態系にも影響を及ぼしたと考えられている。Matsuzaki et al. (2022) では、LMGC開始後の日本海の放散虫化石群集変化から、日本海中深層に流入していた貧酸素の太平洋中央水が減少した可能性を示唆した。ただし、この原因としては寒冷化に伴う太平洋子午面循環の弱化のみならず、中深層が流入した古津軽海峡の隆起の可能性も指摘されている。それぞれの寄与を分離してより正確な古海洋環境変化の描像を理解するには、気候変化や地殻変動のタイミングを精度良く決定することが欠かせない。

     東北地方に広く分布する新第三系の堆積岩は、当時の東北日本のテクトニクスだけでなく海水準、太平洋の海洋循環の変動を反映し、日本海古環境の変遷を理解する上で重要である。秋田県出羽山地笹森丘陵の上部新第三系の海成堆積岩は珪藻層序が構築され、珪藻化石群集から古水深変化も推定されたが、LMGCの古海洋環境変化との前後関係は不明であった (加藤・柳沢, 2021)。

     本研究では、加藤・柳沢 (2021) のセクションE、Jで詳細な地質調査を行い、LMGCの上部中新統船川層の火山灰層を採取してジルコンを抽出し、LA-ICP-MSを用いてU-Pb年代測定を行った。LA-ICP-MS測定は東京大学地殻化学実験施設において行った。その結果、セクションJの火山灰層J41で7.490±0.063 Ma、その約2.5 m上位のJ42で7.414±0.064 Maの年代値が得られ、珪藻層序と整合的であった。さらに、加藤・柳沢 (2021) の珪藻層序および岩相層序の類似性によりJ41と対比されると考えられるセクションEの火山灰層E2-07は、7.43±0.11 Maとなり誤差の範囲で重なった。また、セクションJで今回測定したJ41、J42の年代と、その火山灰を挟む上下の珪藻生層準D70、D73の年代値から、J41・J42の上下で船川層の堆積速度が大きく減少したことが示された。これは、加藤・柳沢 (2021) で珪藻群集組成により復元された古水深が、陸棚外側から斜面への深化を示したこととも整合する。この結果から、LMGC開始時の同地域は隆起傾向になく、太平洋中央水減少に対する海峡隆起の影響は限定的であった可能性が示唆された。

    [引用文献]

    Matsuzaki et al. (2022), Scientific Reports, 12, 11396.

    加藤・柳沢 (2021), 地質学雑誌, 127(2), 105-120.

  • 冨樫 琴美, 髙嶋 礼詩, 折橋 裕二, 淺原 良浩, 永橋 こう輝, 北見 匠, 黒柳 あずみ
    セッションID: T15-P-27
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

    東北地方の奥羽脊梁地域では新第三紀後期から第四紀前期にかけて数多くのカルデラが形成されたことが知られているが(吉田ほか, 2005),これらのカルデラ噴出物の多くは変質もしくは溶結により火山ガラスが変質し,火砕流堆積物やテフラの対比が十分になされていない.近年,火山ガラスが変質した火砕流堆積物やテフラに対しても,続成作用に強いアパタイトの微量元素組成や重鉱物化学組成に基づいて識別・対比がなされるようになってきた(Takeshita et al., 2016; Takashima et al., 2017).本研究では,山形県・福島県に分布する新第三紀中新世~鮮新世のカルデラ噴出物と,同年代に形成された給源が不確定の厚い凝灰岩層を対象に,アパタイト微量元素組成や重鉱物化学組成に基づき,識別・対比を試みた.また,三陸沖海洋コアIODP Leg186のSite1150,Site1151に狭在する火山灰層に含まれるアパタイトについても同様に微量元素組成を分析し,上記のカルデラ噴出物や凝灰岩と対比できるか検討した.これにより,東北日本における中新世~鮮新世の火砕流堆積物に関する基礎データを蓄積することで中新世~鮮新世のテフラ広域対比の指標をつくり,カルデラの火成活動史の解明に寄与することを目的とした.

    地質概説

    山形~福島県に分布するカルデラは,中新世後期から第四紀にかけて形成されたものが大部分である.本研究では次の6つのカルデラおよび5つの凝灰岩より試料を採集した.年代はNEDO(1987),山元(1992),山元(1995),柳沢・山元(1998),古川ほか(2018)に基づく.

    カルデラ埋積堆積物 ① 板谷カルデラ(9~8 Maの黒雲母K-Ar年代):板谷層の黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩.② 入山沢カルデラ(7.1 MaのジルコンFt年代):入山沢層の三島火砕流堆積物(普通角閃石デイサイト質軽石火山礫凝灰岩).③ 高川カルデラ(6.3 MaのジルコンFt年代):高川層の柳津火砕流堆積物(単斜輝石角閃石デイサイト溶結凝灰岩).④ 大峠カルデラ(4.85 Maの黒雲母K-Ar年代):大峠層の単斜輝石普通角閃石黒雲母デイサイト質火山礫凝灰岩.⑤ 上井草カルデラ(4.2 MaのジルコンFt年代):上井草層の新鶴火砕流堆積物(黒雲母流紋岩の軽石火山礫凝灰岩).⑥ 桧和田カルデラ(2.64 Maの黒雲母K-Ar年代):桧和田層の仏沢火砕流堆積物(直方輝石単斜輝石角閃石デイサイト火山礫凝灰岩).

    給源不確定の凝灰岩層 ① 湯小屋層の流紋岩火砕岩:微化石より後期中新世初期に対比.② 宇津峠層の珪長質凝灰岩:層序より後期中新世後期.③ 高峰層の才津火砕流堆積物:黒雲母K-Ar年代より5.9 Ma.④ 手ノ子層の高野沢火砕流堆積物:ジルコンFt年代より4.6 Ma.⑤ 鉢森山層:黒雲母K-Ar年代より4.93~4.31 Ma.

    アパタイト微量元素組成・重鉱物化学組成の結果

    アパタイト微量元素組成により,山形県・福島県に分布する板谷・入山沢・高川・大峠・上井草・桧和田の6つのカルデラ噴出物と,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩を識別することができた.これらの対比の結果から,湯小屋層の流紋岩火砕岩・手ノ子層の高野沢火砕流堆積物・鉢森山層の3つの凝灰岩の給源は,上記の6つのカルデラではない可能性が示唆された.また,海洋コア中のテフラとの対比から,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物とテフラ1151A40R3-51-55は対比可能であることが明らかとなった.年代に関しても,手ノ子層の高野沢火砕流堆積物のジルコンFt年代4.6±0.5 Maと,1151A40R3-51-55の年代4.7 Maは誤差の範囲で一致する.一方,先行研究において高峰層の才津火砕流堆積物,鉢森山層,大峠カルデラは対比されると考えられているが,鉱物組み合わせが異なること,普通角閃石のMg#-TiO₂および不透明鉱物のFeO-TiO₂で全く異なる組成をとることから,対比の可能性に関してさらなる検討が必要である.

    引用文献

    古川ほか, 2018, 吾妻山地域の地質.

    NEDO, 1987, 地熱開発促進調査報告書. No.10, 吾妻北部地域, 846

    Takashima et al., 2017, Quat. Geochronology, 41, 151–162

    Takeshita et al., 2016, Quat. International, 397, 27–38

    山元, 1992, 地質雑, 98, 21–38

    山元, 1995, 火山, 40, 67–81

    柳沢・山元, 1998, 玉庭地域の地質.

    吉田ほか, 2005, 第四紀研究, 44, 195–216

  • 水戸 悠河, 高嶋 礼詩, 原田 拓也, 黒柳 あずみ
    セッションID: T15-P-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

    荒砥沢地域は2008年の岩手・宮城内陸地震によって,大規模地すべりが発生した地域として知られている.本地域の地質は下部が火砕流起源の軽石質凝灰岩や湖成堆積物など軟質な岩石から構成され,その上に高密度の厚い溶結凝灰岩が重なるキャップロック構造となっている.このような地質構造が大規模な地すべりを引き起こす大きな要因と考えられ,同地域の地すべり発生メカニズムに関する研究がこれまで盛んに行われてきた(e.g.,(社)地盤工学会 2008 年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010).しかし,本地域に分布する火砕流堆積物に関する詳細な層序学的検討はあまり行われてこなかったため,各火砕流堆積物の給源・対比に不明な点が多く残されている.本研究では荒砥沢地域および行者滝周辺,一迫川上流地域において野外調査を実施し,本地域に分布する軽石凝灰岩,溶結凝灰岩の岩相層序,アパタイト微量元素組成,火山ガラス主成分元素組成について検討した.加えて,三陸沖の海洋コア中のテフラと本地域の各凝灰岩をアパタイト微量元素組成ならびに火山ガラス主成分元素組成を用いて対比した.

    層序概説

    小野松沢層

    本層は主に軽石凝灰岩,細粒凝灰岩,土石流堆積物からなり,本層分布域には安山岩質の貫入岩類が多数伴われる.本層の細粒凝灰岩中のジルコンから得られたU-Pb放射年代は6.67±0.17 Maであった(水戸ほか,2023).

    軽石凝灰岩ユニット

    本ユニットは小野松沢層に対して不整合に重なる.北村(1986)では,本ユニットは小野松沢層に区分されるが,本ユニットの斜長石から得られたK-Ar放射年代は1.36±0.31 Maであり(水戸ほか,2023),小野松沢層との間に大きな時間的間隙が見られるため,地層名に関して議論する必要がある.岩相は塊状の軽石凝灰岩,葉理の発達する軽石凝灰岩からなる.

    北川凝灰岩

    本層は主に溶結凝灰岩からなり,下位の軽石凝灰岩をほぼ水平に覆う.本地域と隣接する岩ケ崎地域では,下位より池月凝灰岩,下山里凝灰岩,荷坂凝灰岩,柳沢凝灰岩の4つの火砕流堆積物に区分される(土谷ほか,1997).

    溶結凝灰岩ユニット

    荒砥沢地域とその北方の行者滝周辺に分布する溶結凝灰岩について,栗駒地熱地域地質図編集グループ(1986)は本地域の溶結凝灰岩を北川凝灰岩としているが,水戸ほか(2023)によってアパタイト微量元素組成ならびにジルコンのU-Pb放射年代が北川凝灰岩を構成する4つの凝灰岩のいずれの値とも一致しないことが明らかにされた.このことから,本地域の溶結凝灰岩を荒砥沢凝灰岩と呼ぶこととする.

    アパタイト微量元素組成

    本地域には数多くの凝灰岩が分布しその一部は溶結や変質を被っているため,アパタイト微量元素組成を用いて,各凝灰岩の識別と対比を行った.その結果,荒砥沢地域の荒砥沢凝灰岩及びその下位の軽石凝灰岩と行者滝周辺地域に分布する溶結凝灰岩およびその下位の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ両者は池月凝灰岩とは異なる組成を示した.一方,荒砥沢地域の西に隣接する一迫川沿いに分布する軽石凝灰岩と溶結凝灰岩は,池月凝灰岩と組成的にほぼ一致した.

    火山ガラス主成分元素組成

    調査地域に分布する凝灰岩のうち,非溶結の凝灰岩は火山ガラスが初生的な形態をとどめているため,火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比を行った.結果,荒砥沢地域に分布する軽石凝灰岩と行者滝周辺の軽石凝灰岩が組成的にほぼ一致し,かつ池月凝灰岩の組成とは異なる値を示した.この結果は,アパタイト微量元素組成の結果と調和的であり,野外調査で得られた両地域の岩相層序も踏まえると,荒砥沢地域から行者滝周辺にかけて連続的に池月凝灰岩とは異なる火砕流堆積物が分布すると考えられる.

    海洋コア中のテフラとの対比

    本調査地域の各凝灰岩と三陸沖の海洋コア中に挟まる第四紀のテフラを,アパタイト微量元素組成と火山ガラス主成分元素組成を用いて識別・対比した.その結果,本コアからは荒砥沢凝灰岩の下位の軽石凝灰岩や池月凝灰岩に対比されるテフラを見出すことができた.

    引用文献

    北村 信(編),1986,新生代東北本州弧地質資料集第2巻,島弧横断ルート No.20(鬼首-細倉-花泉),その8,8p

    栗駒地熱地域地質図編集グループ,1986,10万分の1栗駒地熱地域地質図および同説明書,地質調査所,26p

    (社)地盤工学会 2008年岩手・宮城内陸地震災害調査委員会,2010,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震 災害調査報告書

    土谷信之,伊藤順一,関 陽児,巖谷敏光,1997,岩ケ崎地域の地質,地域地質研究報告,5 万分の1地質図幅,岩ヶ崎,秋田(6)第68号

    水戸悠河,高嶋礼詩,折橋裕二,黒柳あずみ,淺原良浩,2023,宮城県荒砥沢地域の地質,日本地質学会2023京都大会

  • 辻野 匠
    セッションID: T15-P-29
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    東北弧脊梁域は中新世以降,火山フロントの影響下にあり,各種年代・岩質の火山岩・火山砕屑物が積成している.岩相の類似あるいは変質による見た目の相異.前弧側と背弧側との地層の断絶もあり地層認定が困難な傾向にある.岩手県北西端の浄法寺地域もそのひとつで,それぞれの研究者が独自に地層名を命名しつつ,一方で既存の地層名を分布・性状を異にする地層に拡大的に当て嵌めるなど混乱が生じている.今回,本地域に分布する火山岩類の複数の地点・層準からジルコンFTまたはU-Pb年代を測定したので報告し,近接地域の層序や年代値と比較する.

    本地域の層序は大略,下位より西黒沢階の変朽火山岩と海成泥岩からなる地層(佐比内層または瀬ノ沢層,夏坂層・関層),その上位にいわゆる黒鉱層準の酸性火山岩・泥岩(女平層及び大坊層・大王層または四ツ沢層),女川階の陸・湖成(一部海成)の凝灰岩・火山岩(田山層または切通層,清水頭層),9-8 Maころの堆積間隙を置いて(東部は海成の舌崎層が分布),女川階上部の陸・湖成の火山岩・凝灰岩(小豆川層,荒屋層または五日市層,浄法寺部層・和平部層*を含む),船川階の陸成火砕流(御返地層),主に中性〜基性の火山岩類(稲庭岳層,荒木田山安山岩,高倉層及び上斗米層*など)からなる(*は新称).

    年代測定は㈱京都フィッショントラックに依頼した(別記ない限りジルコンのU-Pb年代で誤差は2σ).古い年代値から順に記す.≪α≫田子町花木の北に分布する,通産省[1]で切通層,北村総研[2]で大坊層とされたデイサイトから13.60±0.24 Ma,≪β≫田子町遠瀬舘の切通層または大坊層とされた地点の凝灰岩から12.4±0.2 Ma, ≪γ1≫田子町杉倉沢最上流部の切通層または関層[2]とされた地点の凝灰岩から5.8±0.1 Ma, ≪γ2≫田子市街南の熊原川衣更で御返地層とされた(ただし岩相は異なる)凝灰岩から5.67±0.08 Ma,≪γ3≫相米川上流の朝日奈岳南麓の四ツ沢層[1]あるいは清水頭層[2]とされた凝灰岩(ただし変質)からFT年代 5.6±0.4(1σ)Ma,≪δ≫十文字川の二戸市枇杷掛の御返地層の溶結凝灰岩から4.2±0.2 Ma,≪ε≫同市金田一川の野月平の凝灰岩(上斗米層*)から2.95±0.07 Maの年代を得た.対比される地層から想定される年代と測定値とで大きく違うものも見られた.たとえば切通層は12-10 Maころのカルデラに関係する地層と考えられてきたが,今回の結果は切通層は一様でないこと示す.清水頭層も同様で模式地では珪藻層序[2]から黒鉱層準の泥岩と舌崎層に挟まれた地層であるが,γ3は5.6Maと大きく若い.

    このγ群の5-6 Maの年代は注意を引く.これらの凝灰岩は分布を異にしており広範囲に同時代の凝灰岩が分布していることを示す.既に工藤[3]が東隣の軽米地域から鳥谷層の火砕流堆積物のFT年代(1σ)として4.8±0.4 Ma及び5.8±0.5 Ma(それぞれ別の火砕流)を報告しており,今回の結果と合せると5-6Maにも活発な火山活動があったことがわかる.

    得られた年代値を既存の同地域及び近隣で得られた年代値と比較する.年代値を比較する範囲は本地域とその西方地域で田子市街から浄法寺市街,安比高原,鹿角,十和田大湯で囲まれる.この範囲は通産省広域調査の豊富な年代測定データ[1]があり,その後の年代測定もある[4,5].図は本地域で公表された年代値を誤差も含めて確率密度曲線で表現したものである.なお,サンプリングバイアスや年代測定上の種々の不確かさを前提とするため山の高低の比較はできないが,際だつのは最近の年代値のシャープさである.前世紀の年代値ではたとえば瀬ノ沢層層準では2点分析があるものの,16Maを中心としたかすかな凸として表現されている.それでも10.7 Ma, 7-7.5 Ma,3 Maころに確率密度のピークがあることがわかる.こんかいのデータは従来年代の乏しかった13 Maころ(αβ),5-6 Maころ(γ群),4 Maころ(δ)にも火山活動があることを明らかにした.なお,εの3 Maの年代値は既存のピークに重なっているが,既存値は玄武岩または安山岩の噴出岩に対して今回は凝灰岩からであり,酸性の火山活動もあったことを示す.

    [1]通産省(1985)昭和59年度広域調査報告書「八甲田地域」

    [2]北村 信編(1986)新生代東北本州弧地質資料集

    [3]辻野ほか(2018)一戸図幅,地調

    [4]中嶋聖子ほか(1995)地質学論集,44,197–226

    [5]安井光大・山元正継(2000) 岩石鉱物科学, 29, 74–84

  • 改原 玲奈, 大橋 聖和, 辻 智大, 澁谷 奨
    セッションID: T15-P-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2016年熊本地震を引き起こした布田川断層帯では,主に右横ずれの地表変位が断層に沿って出現した(Shirahama et al., 2016).一方,布田川断層帯では約9万年前に噴出した高遊原溶岩の約100 mの北落ち鉛直隔離(渡辺・小野,1969)や,中期更新世以降の200 m以上の累積鉛直隔離が認められている(Shibutani et al., 2022).また、改原ほか(2024)では阿蘇1火砕流堆積物基底面で310 mの累積鉛直隔離が見出された.一般的に地震の長期予測や地殻の安定性評価において,活断層の運動方向や変位速度は第四紀を通して一様であると見なされている.これに関して,大橋ほか(2020)では,布田川断層帯が約9万年前の大規模なマグマの放出に同期して正断層活動をした後,火山活動の停止とともに現在の右横ずれ主体の運動に変化したと考えた.そのため,布田川断層帯の活動史を考えるうえで,阿蘇火山活動の影響と火山層序は重要である.しかし,阿蘇1~3火砕流堆積物は岩相が非常に似ているため判別が困難である.このような火山層序の対比を行う場合,複数地点で測定した帯磁率の上下変化をみることは有効である. 

     そこで本研究は,掘削コアと地表露頭において岩相と帯磁率等の特徴から層序対比を高度化し,布田川断層帯周辺の火山層序を議論することを目的とする.    

     2016年に掘削された1本の深部掘削コア(FDB-1),2本の浅部掘削コア(FDP-1,FDP-2)(京都大学,2018)と2021年に掘削された浅部掘削コア1本(FFD-1)(山口大学)を用いたボーリングコア観察,帯磁率測定,かさ密度測定,FDP-2コアとボアホールカメラの照合を行った.改原ほか(2024)では,各ユニットを下陳礫層,阿蘇1火砕流堆積物,安山岩質溶岩(阿蘇1/2間溶岩),阿蘇2火砕流堆積物,阿蘇3火砕流堆積物,河川堆積物,阿蘇4火砕流堆積物に区分した(以下,阿蘇火砕流堆積物は阿蘇1~4と略記する).これについて阿蘇2で岩相と帯磁率の結果に特徴的な傾向がみられたため以下に示す.(1)浅部掘削コア(FFD-1,FDP-1,FDP-2)の阿蘇2上部では基質が明灰色で溶結度は低い.また,肉眼では変化がみられなかったが,帯磁率で基質が最上部から下位に向かって15~20 mの幅で緩やかに高くなる(8~20×10-3 (SI Unit)).(2)FFD-1とFDP-2の阿蘇2基底部では下位に向かってスコリアのサイズが小さくなるとともに帯磁率が急激に低下する(30~5×10-3 SI Unit)).また、FFD-1では,この特徴的な層が断層を挟んで2層みられた。これについてFDP-1の阿蘇2下部で同様の層が見られないことから断層によって阿蘇2の基底部がFFD-1に落ち込んでいると考える.掘削コア(FDP-2)とボアホールカメラとの照合から111.15~111.19 m(阿蘇2)で溶結レンズから推定される面構造はほぼ水平である.一方で,133.40 m(阿蘇1上部)の溶結レンズはN67°E,88°Nでありほぼ鉛直な面構造を持つことが分かった.

     地表地質踏査の結果からは,ボーリング掘削地点より約1.5 km東方,木山川上流の右岸側には阿蘇1/秋田溶岩,秋田溶岩/阿蘇2境界が露出している.地表での阿蘇2基底部は強溶結で基質と溶結レンズを識別困難である.また、ボーリングコアで見られた阿蘇2基底部での帯磁率の急激な低下はみられない.同露頭に産する秋田溶岩は掘削コアに産する溶岩に比べて帯磁率が5×10-3 (SI Unit)低い等の相違点がみられる.秋田溶岩の露頭とボーリングコア掘削地点との間に位置する木山川下流の右岸側には阿蘇1/2間に溶岩が分布していない(渡辺・小野,1969).本研究地域では阿蘇1/2間に秋田溶岩が堆積すると考えられている(渡辺・小野,1969)が,コア中の溶岩は秋田溶岩とは別の溶岩である可能性が示唆される.

    引用文献

    大橋聖和・大坪誠・松本聡・小林健太・佐藤活志・西村卓也(2020)地学雑誌,129,565-589.; 京都大学 (2018) 平成29年度原子力規制庁委託成果報告書,管理コード:291507, https://www.nra.go.jp/nra/chotatsu/yosanshikou/itaku_houkoku_h29.html.; Shirahama, Y., Yoshimi, M., Awata, Y., Maruyama, T., Azuma, T., Miyashita, Y., Mori, H., Imanishi, K., Takeda, N., Ochi, T., Otsubo, M., Asahina, D. and Miyakawa, A., (2016)Earth, Planets and Space, 68, doi:10.1186/s40623-016-0559-1.; Shibutani, S. Lin, W. Sado, K. Aizawa, A. Koike, K. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23(1), dio: 10.1029/2021GC009966.; 渡辺一徳・小野晃司(1969)地質学雑誌,75,365-374.; 改原玲奈・大橋聖和・辻智大・澁谷奨(2024)国際火山噴火史情報研究集会EHAI 2024-1, 3-02.

  • 橋本 真由, 鈴木 毅彦
    セッションID: T15-P-31
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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  • 柴田 翔平, 長谷川 健
    セッションID: T15-P-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    北海道東部に位置する屈斜路火山は,千島弧南部,阿寒-知床火山列南西部を構成する第四紀カルデラ火山である.本火山は,前期更新世に先カルデラ成層火山(外輪山)を形成した後,更新世チバニアン期の400 kaから後期更新世の40 kaにかけて,古梅(ふるうめ)溶結凝灰岩(FWT),屈斜路軽石流堆積物Ⅷ~I(Kp Ⅷ~Kp I)の大規模火砕流の噴出を経て,日本最大の屈斜路カルデラ(26×20 km)を形成した[1], [2], [3], [4].従来研究では,FWT,Kp Ⅷ~Kp Iに挟在する比較的小規模なテフラ群が記載されているが[1],[5],これらの詳しい層序や分布,噴出量は不明であった.本研究では,屈斜路火山のカルデラ形成期について,より高解像度の噴火履歴やマグマ変遷を検討するため,これらのテフラについて広域的・系統的な地質調査,岩石学的分析を実施した.本研究ではFWT,Kp Ⅷ~Kp Iに挟在するテフラ層(降下軽石堆積物,火砕流堆積物)について,これまで未記載であったものも含め10層以上を認識した.各テフラの層位や層相に加えて,Toya(112-115 ka)[6],Aso-4(87 ka)[7],Sp-1(46 ka) [8], [9]など既報の広域テフラとの層序関係や火山ガラス組成をもとに各テフラ層を対比した.比較的連続性の良いテフラは少なくともKp Ⅵ~Kp Ⅳの間に3層,Kp Ⅳ(120 ka)~Kp I(40 ka)の間に10層認められる.また,Kp Ⅳ以降のテフラ群には最大層厚が2 mに達し,給源から40 km以上追跡できる大規模なものも複数認められる.これらのテフラ層の大部分は,白色~白灰色の降下軽石堆積物で,本質物(軽石)の火山ガラス組成はデイサイト~流紋岩質であるが(SiO2=73.3~79.4 wt.%, K2O=1.7~3.8 wt.%),各テフラは固有の火山ガラス組成範囲を示し,SiO2, K2O, FeO*, CaOの含有量でそれぞれ識別,対比が可能である.屈斜路軽石流堆積物(特にKp Ⅵ~Kp Ⅳ)に挟在するテフラ群は,その上下に堆積する屈斜路軽石流堆積物との間に明瞭な火山灰土壌層を挟むものの,本質物の火山ガラス組成は層序的に近接する屈斜路軽石流堆積物のそれに類似し,同一の珪長質マグマ系に由来することが示唆される.大局的に見ると,最大規模のカルデラ形成噴火(Kp IV)以降から最新のカルデラ形成噴火(Kp I)にかけて挟在するテフラ層の枚数が増加し,また,これらのテフラには噴出量が1 km3以上のものも複数存在する.本火山では,Kp IV以降,火砕噴火の活動が活発化し,少なくとも8,000年間に1回以上の頻度で比較的規模の大きな降下火砕物と火砕流を繰り返し発生していたと考えられる.

    [1]勝井・佐藤 (1963) 5万分の1地質図幅「藻琴山」42p. [2]山元ほか (2010) 地調研報, 43, 161-170. [3]長谷川ほか (2011) 地雑,117, 686-699. [4]Hasegawa et al. (2016) JVGR, 321, 58-72. [5]隅田 (1988) 知床館報, 9, 19-31. [6]町田・荒井 (2003) 新編火山灰アトラス,東大出版,336p. [7]Aoki (2008) Quant. Int., 178, 100-118. [8]Amma-Miyasaka et al.(2020) Quant. Int., 562, 58-75. [9]Uesawa et al. (2016) JVGR, 325, 27-44.

  • 柚原 涼花, 岡田 誠, 長友 大輝, 菅沼 悠介
    セッションID: T15-P-33
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    第四系基底部の目安となっているガウス-松山地磁気逆転境界(G-M境界)の詳細な古地磁気記録を得るために2021年5月~6月にかけて千倉層群の第四系基底部付近において定方位ボーリングコア掘削を実施した.掘削は約50°の傾斜角を持つ層理面に対してほぼ垂直に行った.その結果,51mにわたるほぼ欠落の無い砂岩-シルト岩互層から成るコア(GM-1コア)を採取することができた.引き続き翌2022年5月〜8月にかけて,GM-1コアの上位層準を対象に,国立極地研究所所有の掘削装置を用いて鉛直方向への掘削を実施した.その結果,約8mの砂岩−シルト岩互層からなるコア(GM-2コア)を採取することができた.GM-2コアの掘削は定方位では実施されなかったが,約50°の傾斜を持つ層理面方位を用いてオリエンテーション補正を行うことができた.GM-1, 2コアについて,高知大学海洋コア国際研究所においてコアの切断や非破壊計測を行った後,層厚間隔約1mで有孔虫抽出用試料を採取し,古地磁気測定用として1辺2cmの立方体試料の連続サンプリングを実施中である.これまで得られた予察的な古地磁気測定によると,GM-1コアの深度10m付近の層準でG-M境界を示すVGP(見かけの磁極)の赤道付近の通過とRPIの極小が確認された.また同時に行った10Beの測定より,宇宙線強度の極大を示す10Be/9Beのピーク位置がRPI極小付近で確認された.底生有孔虫の酸素同位体測定により,GM-1コアはMIS102-G3をカバーすることと,G-M境界はMIS 103に位置することが確認された.今後,GM-2コアにおいても酸素同位体層序を構築し,両コアにおける連続的な古地磁気サンプリングと古地磁気測定を進めることで,G-M境界付近における地磁気変動の詳細を明らかにすると共に,第四系基底部境界付近における国際的な年代層序確立に寄与することが期待される.

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