日本地質学会学術大会講演要旨
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T10.岩石・鉱物の変形と反応
  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    島田 知弥, 長濱 裕幸, 武藤 潤, 中村 教博
    セッションID: T10-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    断層中のグラファイトは、摩擦係数が0.1程度(通常の岩石は0.6程度)であり、断層の摩擦強度を下げる重要な要因の一つであると考えられている (Cao & Neubauer, 2019Earth Sci. Rev.)。Oohashi et al. (2012J. Struct. Geol.)は跡津川断層系でグラファイトが最大12 wt%含まれ、幅広いすべり速度で断層の摩擦特性に影響を与えるのに十分な量であることを示した。それに対して、日高変成帯では断層運動によりグラファイトが粉砕され、グラファイトの積層構造が剥離するプロセスが報告されている(Nakamura et al., 2012J. Struct. Geol.)。グラファイトの積層構造が剥離されると,より低摩擦なグラフェンが生成されることが実験で確かめられている(Geim & Novoselov, 2007Nat. Mater.)。さらに,グラフェンが酸化し酸素含有官能基を持つ酸化グラフェンが生成すると,摩擦係数が0.01以下(Bouchet et al., 2017Sci. Rep.)に低下するため,これまで考えられてきた以上に断層の摩擦強度を著しく下げる可能性がある。

     そこで、本研究は、酸化グラフェンがグラファイトを含む断層に存在するのかを調べ,酸化グラフェンが摩擦強度を下げる可能性があるかどうかを調べるために、ラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を使用して、跡津川断層系茂住祐延(もずみすけのべ)断層のガウジ試料中に含まれる炭質物の構造解析を行った。その結果,世界で初めて活断層中に酸化グラフェンを発見したので報告する。

     本研究のラマン分光法とX線光電子分光法(XPS)を用いた分析は、ガウジ試料の黒い炭質物と考えられる部分をスポット測定した。ラマン分光分析による酸化グラフェンの同定において、ラマンスペクトルの見かけのGピークと、2D‘ピークのラマンシフトを半分にして推定されたD’ピークのラマンシフト差が、負の値の時、酸化グラフェンに分類(King et al., 2016Sci. Rep.)した。また、X線光電子分光法(XPS)分析は、物質に弱いX線を当て、原子を励起させ、そこから放出したX線を検出する方法である。XPS分析より酸化グラフェンの同定を行い、さらにカルボキシ基やヒドロキシ基、炭素結合などの化学結合状態や酸素含有量を調べた。

     ラマン分光分析の結果、跡津川断層系の断層岩試料は多くの測定点で酸化グラフェンの存在が認められた。また、ラマンスペクトルの波形分離解析(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)から、酸化グラフェンの酸素含有量は10~20 wt%と推定できた。XPS分析の結果、跡津川断層系の岩石試料にはヒドロキシ基やカルボキシ基などの酸素含有官能基が約33 atm%含まれ、酸素含有量が31.3 wt%(O/C比が0.34)であった。また、XPSスペクトルの解析により、sp2の炭素の二重結合(グラフェン構造)とsp3の炭素の単結合の比がおよそ7:3であり、酸素含有官能基の中でヒドロキシ基が最も多く、エポキシ基やカルボニル基は微量であった。

     グラフェンの剥離メカニズムの研究(Stankovich et al., 2006Nature) によると、本研究のXPS分析で得られた酸化グラフェンの酸素含有量から、グラファイトが酸化と共に層間距離が大きくなり、剥離して酸化グラフェンになっていると考えられる。しかし、XPS分析で得られた酸素含有量はラマン分光分析の推定値よりも大きい。この原因として、ラマン分光分析の先行研究(Claramunt et al., 2015J. Phys. Chem. C)は熱還元中に酸素含有量を測定したため、跡津川断層系の断層岩試料は熱還元以外のプロセス(断層運動や酸化反応など)がラマンスペクトルに影響した可能性がある。

     酸化グラフェンのsp2に富んだ領域では摩擦係数が低く、面構造が潤滑効果を引き起こすと考えられている(Lee et al., 2016Nanoscale)。また、酸化グラフェンの酸素含有官能基の種類が潤滑メカニズムに与える影響に関する研究(Liang et al., 2019Appl. Surf. Sci.) よると、他の酸素含有官能基に比べ、ヒドロキシ基は水との水素結合を形成し、低摩擦性能をより向上させると考えられる。したがって、本研究で分析した試料に含まれる酸化グラフェンは、面構造とヒドロキシ基の水素結合相互作用によって断層を潤滑して、グラファイトよりも効果的に断層の摩擦強度を下げると考えられる。以上から、酸化グラフェンの低摩擦特性は、跡津川断層系のクリープ(非地震性の断層すべり)を説明できる可能性がある。

  • 喜多 倖子, 武藤 潤, 重松 紀生, 澤 燦道, 周 游
    セッションID: T10-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    斜長石は地殻の主要鉱物であり,主に下部地殻や沈み込み帯に多く存在している.斜長石が主に存在する下部地殻の高温高圧下では,岩石は塑性的に変形している.岩石の塑性変形機構のうち拡散クリープなどの粒径依存クリープにおいて,粒径は強度を支配する重要なパラメータであり,粒成長は粒径を支配する大きな要因である.しかし,斜長石の粒成長則は Ca端成分である灰長石について1090℃を超える温度領域においてのみ決められており,他の組成については研究されていない[1].

     岩石の粒成長則を調べるためには,組成と粒径を制御した多結晶体の合成が必要である.緻密な細粒曹長石は,ホットプレスと鋳込み法を組み合わせることで合成できる [2].ホットプレスはメルトを形成せずに緻密で均質な多結晶体を作ることができるというメリットがある [3][4] .鋳込み法は,材料科学の分野でセラミックスの製造に古くから用いられている粉末形成手法である[5].鋳込み法によって生成される粉末形成体の焼結時の活性化エネルギーは,他の手法と比較して低い[6].活性化エネルギーが低いことで,物質移動が促進され,緻密な構造の生成が可能になる.本研究では,鋳込み法とホットプレスを用いて,緻密で均質な曹長石多結晶体を合成した[3].その後,合成した多結晶体を用いて曹長石の粒成長実験を行いそのメカニズムを調べた.

     緻密で微細な曹長石を合成後[3],その多結晶を用いて粒成長過程を調べた.焼結は 1080 ℃・100 MPa で,粒成長実験は1000~1060 ℃・大気圧で行った.合成した出発試料は非常に緻密であり,曹長石とほぼ同じ密度を達成した.しかし,ホットプレスの一軸圧縮による結晶内ひずみが観察された.本発表では,曹長石の粒成長メカニズムと微細構造について報告する.

    [1] Dresen et al., Tectonophysics, 1996 [2] Shigematsu et al., PEPS, 2022, [3] Stünitz and Tullis. Int J Earth Sci, 2001, [4] Karato and Jung, Philos. Mag., 2003, [5] Tallon et al., J. Eur. Ceram. Soc., 2010, [6] Zhang et al., Int. J. Appl. Ceram. Technol., 2020

  • 赤松 祐哉, 大柳 良介, 桑谷 立
    セッションID: T10-P-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    蛇紋岩化や炭酸塩化などのマントルの変質状態を地球物理観測から推定するためには、マントルを構成する岩石の物性と変質プロセスの関係を理解する必要がある。しかし、マントルの変質は破壊による空隙形成と水の流入および化学反応が互いにフィードバックを起こしながら進行する複雑な物理化学現象である。そのため、単一の物性に着目してそれらの要因を分離することは難しい。そこで本研究は、多次元の物性データを用いた多変量解析を行うことで、マントルかんらん岩に記録された変質プロセスの分離・抽出を試みた。解析には、ICDPオマーン掘削計画で採取されたオマーンオフィオライト蛇紋岩(194試料)の岩石物性データを用いた。これらの試料で測定された、密度、空隙率、P波速度、電気比抵抗、浸透率、帯磁率、Lab色空間を用いて独立成分分析(ICA)を実施した。その結果、測定された物性のバリエーションは、4つの独立したプロセス(成分)で説明できることが明らかになった。試料の微細組織観察および先行研究による地球化学的データとの比較から、それらのプロセスはそれぞれ、水ー岩石比が低い初期の蛇紋岩化、水ー岩石比が高い後期の蛇紋岩化、磁鉄鉱の形成、およびオフィオライト表層での炭酸塩化に対応することが示唆された。これらの解析により、それぞれの変質プロセスが各種物性に与える影響を定量化することに成功した。

  • 小北 康弘, 島田 耕史, 小川 昌也, 野尻 慶介, 重光 泰宗, 岩森 暁如, 立石 良
    セッションID: T10-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    活断層と非活断層の判別は,地形判読やトレンチ調査,反射法地震探査などの変動地形学的,地球物理学的手法により行われるとともに,近年,断層破砕帯中軸部を構成する断層ガウジの化学組成に着目した手法が発展しつつある(例えば,立石ほか,2021,応用地質).断層破砕帯の化学組成を得るための蛍光X線分析等に供する試料は,これまで,積層し,肉眼的に色調・粒度が異なる,比較的連続的な厚さ数mm以上の断層ガウジ層を区分して採取している.このような手法では,採取試料の代表性を担保する化学組成的均質性の確認が重要であるが,断層運動で粉砕された細粒部は混合され均質化していることを当然視し,詳細な検討はなされてこなかった.そこで本研究では,断層ガウジ近傍の数ミリメートル~数センチメートルスケールの範囲における破砕物粒子の粒径分布や化学組成の特徴を把握することを目的として,偏光顕微鏡や電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた微細粒子観察,化学組成分析(元素マッピング)を実施した.

     使用した試料は,白木-丹生断層の露頭で採取された江若花崗岩を母岩とする断層破砕帯中軸部で,連続性の良い幅3~4 mm以上の褐色でやや粗粒な断層ガウジを上盤側に(中軸上位ガウジ),幅6~10 mmの帯桃明灰色で細粒な断層ガウジを下盤側に(中軸下位ガウジ)含む.露頭では,中軸上位ガウジの幅が20 mm程度まで広がる部分があり,中軸下位ガウジのフラグメントがレンズ状に含まれる箇所が認められる.また,中軸上位ガウジの上盤側の一部から,部分的に滲みだす~滴る程度の湧水が認められる.薄片の偏光顕微鏡観察では,中軸上位ガウジと中軸下位ガウジの境界はシャープで連続性が良い.また中軸上位ガウジは上盤側に細粒化部が連続的に認められる.露頭での中軸下位ガウジフラグメントとの包有関係も考慮すれば,中軸上位ガウジが最新活動部を含む層,中軸上位ガウジ上盤側が最新活動時の主すべり層と考えられる.

     薄片中の最新活動面を含む断層ガウジ層に直交する方向に対して,原子力機構東濃地科学センターのEPMA(JXA-8530F)を用いて元素マップ(Na,Mg,K,Ca,Feの5元素)を取得した.元素マップの測定条件は,加速電圧15 kV,照射電流500 nA,プローブ径<1 mm(focused beam),1ピクセル0.5 mm四方,1ピクセルあたりの測定時間3 msとした.5120ピクセル四方(2560 mm四方)のマップを,断層ガウジ層を含む連続15領域(2.56 mm×38.4 mmの範囲)で取得し,破砕帯横断方向の破砕粒子の分布や化学組成の特徴を検討した.

     下盤側から上盤側に向かって,粗粒な破片を多く含む断層ガウジ(下盤側ガウジ),中軸下位ガウジ,中軸上位ガウジ,中軸上位ガウジより粗粒で下盤側ガウジに比較すると細粒な断層ガウジ(上盤側ガウジ)が分布する.取得した元素マップから,破砕帯に平行な方向に5120ピクセルの元素強度の総和を計算し,その破砕帯横断方向の変化を0.5 mm刻みで確認した(図1).その結果,NaとKとで共通して,下盤側ガウジから中軸下位ガウジおよび上盤側ガウジから中軸上位ガウジに向かって,強度が減少する傾向がみられる.断層ガウジ中の粒状の破片は主に珪長質鉱物由来で,鏡下観察との比較から,斜長石はNa強度の高い粒子,カリ長石はK強度の高い粒子,石英は各元素の強度が0に近い領域に相当しており,Na,Kの強度プロファイルにはこれらの粒子,領域の影響を受けた変動がみられる.中軸下位ガウジ,中軸上位ガウジの領域では,各領域内でNa/K比が均質ないし緩やかに変化する傾向があり,かつ両領域でNa/K比の分布幅が異なる.このことは,マッピング幅の2.56 mmの領域で化学的に均質で,かつ化学組成が積層毎に異なる部分があること,すなわち,図中の両向矢印で示した範囲を数グラムずつ分取して化学組成分析を行う意味があることを示唆している.中軸上位ガウジのNa/K比およびNa強度にみられる凸部は,鏡下観察で識別された斜長石フラグメントに対応しており,最新活動部も含めて斜長石は普遍的に断層ガウジ中に散在していることが化学組成の点からも明らかとなった.発表では,Na,K以外の元素マップおよび破砕粒子の粒径解析結果を提示するとともに,他の断層破砕帯における元素マップおよびそれらの解析結果を示し,特徴を比較する.

     本報告は,関西電力・富山大学・原子力機構の共同研究「断層岩化学組成データベースの構築と断層活動性評価への活用に関する研究」の成果の一部である.

  • 福島 夕紀子, 新田 輝, 高木 秀雄
    セッションID: T10-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】地殻を構成する主要な鉱物である石英は,結晶成長時の温度や圧力の違いにより,転位や点欠陥といった格子欠陥や不純物元素 (Al3+, Ti4+, Fe3+ など) と Si4+ の置換を生じる.また形成後に受けた温度や圧力によっても欠陥の解消や新たな生成,不純物の移動などを生じる.こういった物質に内在する構造欠陥や置換不純物中心を鋭敏に検出する手法の 1 つが,物質に電子線を照射した際に生じる発光現象であるカソードルミネッセンス (CL) である.断層岩に対して CL 像を用いた例として,破砕された鉱物と二次的に形成された鉱物の識別 (e.g. Bestmann, 2011; Shimamoto et al, 1991)や,TitaniQ 温度計のための Ti 濃度の定性的または半定量的なマップとして数多く利用されている (e.g. Taylor et al., 2023).その一方で CL スペクトルを解析した例はほとんど見られない (Muller et al., 2002).そこで筆者らは,cm スケールの幅をもつマイロナイト帯とシュードタキライト脈中の石英粒子の CL スペクトルを測定し,縁辺部から中心部に向けての変化について調査した.加えて,EPMA による化学分析を行い,スペクトル変化の原因となる構造欠陥や不純物 (Götze et al., 2021; Stevens-Kalceff, 2009) について検討しつつある.

    【測定試料と手法】マイロナイト帯は瀬戸内海にある手島の領家古期花崗岩および新期花崗岩に発達する小剪断帯を対象とした.領家古期花崗岩に発達する小剪断帯の剪断中心における CPO パターンは Y 集中を示すことが知られている (梛良・原,1970).シュードタキライト脈は脆性–塑性遷移領域で形成された愛知県足助剪断帯 (酒巻ほか, 2006) と,ネパール Tsergo Ri 地すべり (Masch et al., 1985, Takagi et al, 2007) で形成されたものを対象とした.

     小剪断帯のマイロナイトは CPO パターンで,シュードタキライト脈は縁辺部からの距離でゾーン分けを行い,それぞれのゾーンで 20–40 ポイントの CL スペクトルを収集した.その後,CL スペクトルを測定したポイントにおける微量元素測定を行った.

    【結果と解釈】すべての試料において,縁辺部から中心部にかけて,CL スペクトル全体の発光強度が低下した.これは結晶内の構造欠陥が減少したことを意味する.マイロナイト帯においては CPO パターンによらず,粒径減少に伴って発光強度が低下したため,動的再結晶により構造欠陥の解消が進行したと考えられる.また,シュードタキライト脈においては,ガラス質でより急冷された地すべり性のものの方が発光強度の低下量が少なかったことから,アニーリングの時間が長いほど構造欠陥の解消が進行したと考えられる.

     一般に石英のCLスペクトルは青色発光 (~420 nm; ~2.8 eV) と赤色発光 (~620 nm; ~1.9 eV) の2つのピークをもつ.全ての試料で縁辺部から中心部に向かって,相対的に青色発光は減少し,赤色発光は増加する変化が見られた.青色発光は [AlO4/M+] (M+=H+, Li+, Na+),STE,置換Ti のいずれかによる発光,赤色発光は主に NBOHC による発光である.発表では,EPMA による化学分析の結果と合わせて,縁辺部から中心部にかけて石英の結晶構造にどのような変化があったのかを考察する.

    【引用文献】Bestmann, M. et al., 2011, J. Struct. Geol., 33, 169–186.; Götze, J., Pan, Y., and Müller, A., 2021, Mineral. Mag., 85, 639–664.; Masch, L., Wenk, H. R., Preuss, E., 1985. Tectonophysics, 115, 131–160.; Muller, A., Lennox, P., Trzebski, R., 2002, Contrib Mineral Petrol. 143, 510-524.; 梛良督・原郁夫, 1993, 日本地質学会第100年学術大会演旨, 87; 酒巻秀彰・島田耕史・高木秀雄, 2006, 地質雑, 112, 519-530.; Shimamoto, T., Kanaori, Y. and Asai, K.,1991, J. Struct. Geol. 13, 967–973.; Stevens-Kalceff, M. A., 2009, Mineral. Mag. 73, 521–541.; Takagi, H. et al,, 2007, J. Asian Earth Sci., 29, 466–472.; Taylor, J.M. et al., 2023, J. Struct. Geol., 169, 104846.

  • 酒井 亨, 岩森 暁如, 上田 圭一, 高木 秀雄
    セッションID: T10-P-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

     福島県南東部に発達する湯ノ岳断層は,北西−南東走向で高角南西傾斜の正断層である.2011年4月11日に発生した福島県浜通りの地震の際に,当該断層に沿って南落ち正断層センスの地表変状が生じた.湯ノ岳断層の北西部では,地震の際に地表変状が生じた活動部である中野北露頭及び官沢露頭,地表変状が生じていない非活動部である入遠野ダム北露頭が露出し,断層破砕帯の性状には活動部と非活動部で違いが見られる(酒井・高木, 2023).露頭・研磨片・薄片の観察により,上載地層への変位,剪断面の形状と破砕の程度に基づき,最新活動面を認定した.各露頭における最新活動面を含む断層岩試料を医療用X線CTで撮影し,得られたCT画像を解析した.CT画像と露頭・研磨片・薄片で見られた性状を比較した上で,Iwamori et al.(2021)の手法を用いてNCTMode(CT値の最頻値)を算出し,各露頭における最新活動領域の抽出を試みた.また,活動部と非活動部を比較し,相違の有無を確認した.3地点における解析結果は下記のとおりである.なお,断層岩類の原岩は御斎所変成岩であり,入遠野川流域の新鮮な緑色片岩のNCTModeは2200程度を示す.

    【中野北露頭】

     最新活動面に沿って幅2 cm以下で断層ガウジが認められ,その周囲は断層角礫で構成される.断層角礫のNCTModeは1100~1800程度,断層ガウジは600~900程度を示す.また,最新活動面に沿った幅数mm程度の断層ガウジは600~700程度であり,最も低いNCTModeを示す.研磨片・薄片の観察結果と比較すると,最新活動領域とNCTModeの最低値を示す領域は一致するとみられる.

    【官沢露頭】

     最新活動面に沿って幅2 cm以下で断層ガウジが認められ,その周囲はウルトラカタクレーサイトと断層角礫で構成される.ウルトラカタクレーサイトのNCTModeは1600~1900程度,断層角礫は1300~1400程度,断層ガウジは700~1300程度である.また,最新活動面に沿った幅数mm程度の断層ガウジは700~800程度であり,最も低いNCTModeを示す.研磨片・薄片の観察結果と比較すると,最新活動領域とNCTModeの最低値を示す領域は一致するとみられる.

    【入遠野ダム北露頭】

     最新活動面に沿って幅5 cm以下で断層ガウジが認められ,その周囲は断層角礫で構成される.断層角礫のNCTModeは1300~1500程度,断層ガウジは800~1200程度を示す.また,最新活動面に沿った幅数mm程度の断層ガウジは800~900程度であり,最も低いNCTModeを示す.研磨片・薄片の観察結果と比較すると,最新活動領域とNCTModeの最低値を示す領域は一致するとみられる.

    【まとめ】

     地震の際の活動部の最新活動領域は600~800程度,非活動部の最新活動領域は800~900程度のNCTModeを示し,活動部は非活動部に比べて低い値を示す.これらの違いは両者の運動履歴の違い(酒井・高木,2023)によるものと考えられる.また,Iwamori et al. (2021)では断層岩類の原岩は1600~2200程度,最新活動領域の断層ガウジは,活断層において1000~1200程度,非活断層において1250~1650程度とされる.本解析結果と比較すると,原岩の値は大差ないのに対し,最新活動領域の断層ガウジは活動部と非活動部の両者とも低い値を示す.これらの違いは最新活動からの経過時間が反映されている可能性がある.

    【引用文献】

    Iwamori, A., Takagi, H., Asahi, N., Sugimori, T., Nakata, E., Nohara, S. and Ueta, K., 2021, Prog. Earth Planet. Sci., 8, no.54.

    酒井 亨・高木秀雄,2023,日本地質学会第130年学術大会講演要旨,T5-P-9.

  • 北村 真奈美, 金木 俊也, 廣瀬 丈洋
    セッションID: T10-P-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    断層帯内部の摩擦発熱温度を評価することは、地震時の断層すべりの物理パラメータを推定するうえで重要である。例えば国際深海科学掘削計画(IODP)南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)にて紀伊半島沖のSite C0004地点から採取された分岐断層先端のコア試料から、断層帯内部で顕著に高いビトリナイト反射率が検出され、地震時の高速すべりによって同断層が経験した最高温度は390℃であると推定された(Sakaguchi et al., 2011)。これまでにビトリナイトを含む模擬断層ガウジを用いた地震時の高速断層すべり運動を模擬した摩擦実験から、十数秒程度の地震性すべりに伴う摩擦発熱によりビトリナイト反射率は顕著に上昇することが確認されている(例えば、Kitamura et al., 2012)。しかし、従来地質体の被熱履歴の推定に使用されてきたEASY%Roモデル(Sweeney and Burnham, 1990)では、このような短時間加熱による断層帯内部のビトリナイト反射率の上昇は説明できなかった(例えばKitamura et al., 2012)。EASY%Roモデルでは、ビトリナイト粒子の複雑な熟成過程が、アレニウスの式に従う複数の一次反応の線形結合として表現されている。その活性化エネルギーは反応要素ごとに固有の定数とされている一方、いくつかの先行研究では粉砕によって反応時の活性化エネルギーが数十%程度低下しうることが報告されている。例えば、回転剪断摩擦試験後のイライト粉末を用いた熱分析の結果から、摩擦仕事の増加に伴ってイライトの脱水反応の活性化エネルギーが最大で26%減少することが報告されている(Hirono et al., 2013)。また、ミル粉砕後の炭質物を用いた加熱実験により、炭質物は粉砕に伴って成熟しやすくなることもわかっている(Kaneki et al., 2018)。よって、ビトリナイト粒子の熟成反応においても、粉砕に伴う摩擦仕事の増加によって活性化エネルギーが減少することが期待される。本研究では、以上のことを考慮し、地震性断層すべりを再現した実験を基に、断層すべりに伴う粉砕の影響を考慮したビトリナイト反射率温度計(以下、断層用モデル)の開発を試みた。

     断層用モデルでは、EASY%Roモデルにおける活性化エネルギーを摩擦仕事の関数とし、特徴的仕事でもって下限値まで指数関数的に減少すると仮定した。断層用モデルで新たに導入された定数は、活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の二つであり、その他の定数の値および微分方程式の形はEASY%Roモデルと同様である。これら二つの定数に関するパラメータスタディの結果、粘土鉱物の脱水反応における値と矛盾しないパラメータ範囲において、地震性断層すべりを再現した実験後試料中のビトリナイト反射率の上昇をある程度説明できることがわかった。パラメータスタディから得られた活性化エネルギーの下限値を決定する係数と特徴的仕事の最適値を用いたモデル計算の結果、最高摩擦発熱温度が250℃以下の地震性断層すべりを最大で20回程度繰り返すことでSakaguchi et al. (2011)で報告された南海トラフの分岐断層内部におけるビトリナイト反射率の上昇を説明できることがわかった。この結果は、分岐断層帯内部の微量元素の濃度異常から断層帯の摩擦発熱温度が250℃以下であると推定した結果(Hirono et al., 2014)と矛盾しない。

    参考文献:Hirono et al. (2013) GRL, vol. 40、Hirono et al. (2014) Tectonophysics, vol. 626、Kaneki et al. (2018) GRL, vol. 45、Kitamura et al. (2012) GRL, vol. 39、Sakaguchi et al. (2011) Geology, vol. 39、Sweeney and Burnham (1990) AAPG Bulletin, vol. 74

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    宮副 真夢, 野田 博之, 岡崎 啓史
    セッションID: T10-P-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地殻浅部では脆性破壊が、地殻深部では結晶塑性変形が卓越する。これらの変形機構の遷移は脆性-塑性遷移と呼ばれ、しばしば大地震の震源となる(e.g., Sibson 1982, Scholz 1988).そのため、脆性-塑性遷移領域における岩石の変形について様々な研究が行われている。Kawamoto and Shimamoto (1997) はハライトの剪断実験により脆性-塑性遷移の再現に成功し、脆性-塑性遷移領域の剪断帯にはS-C’構造が発達することを明らかにした。また、Noda (2021) は、S-C’構造から考えられる運動学的拘束からR1面におけるすべりと塑性変形が共存する変形モデルを提案した。しかし、変形に占める塑性変形の寄与の定量化や、Noda(2021)モデルの実験的検証は為されてない。そこで本研究では脆性-塑性遷移領域の条件下で石英の剪断実験を行い、回収試料の微細構造から塑性変形の寄与の定量化と Noda (2021) の実験的検証を試みた。剪断実験は Griggs 型固体圧式高温高圧三軸変形試験機(Griggs 型試験機)を用いて行った。実験条件は封圧 1000 MPa、剪断歪速度 2.5×10-4 /s の一定条件で、温度条件を石英の脆性-塑性遷移領域を含むとされる 400-900 ℃の範囲とした。回収した試料は薄片にし、断層帯の剪断歪、R1面方位、断層帯内の粒子の長軸方位を測定する。これらの測定パラメータから Noda (2021) の運動学的モデルを用いた最尤推定により、塑性変形の寄与を計算した。なお、この計算には変形前の粒子の初期条件と、変形の不均質性を考慮する工夫を加えている。実験の結果、剪断強度は400-700℃でByerlee則に従う剪断強度を示し、それ以上の温度では剪断強度の低化が確認された。また、R1面方位からR1面で滑っている際のY面における剪断応力を計算し、力学データと比較することでR1面すべりかY面すべりかを判断することができた。Noda (2021) のモデルを用い微細構造から塑性変形の寄与を計算した結果、温度上昇による塑性変形の寄与の増加を定量化することに成功し、塑性変形の不均質性についても温度上昇に伴い、より均質になることが確認された。しかし、既往の研究とは食い違う結果も得られている。Noda (2021) は、塑性変形の寄与の増加に伴いR1面は高角になっていくことが示唆しているが、本研究のR1の測定からはこのような結果は得られず温度によらずほぼ一定であることが確認された。この原因として、断層平行方向への試料の絞り出しが原因であると考えられる。これらのことから、今後さらに Noda (2021) とモデルの仮定ひとつひとつに着目した検証が必要である。

    引用

    Scholz, C. H. (1988). The brittle-plastic transition and the depth of seismic faulting. Geologische Rundschau, 77, 319-328.

    Sibson, R. H. (1982). Fault zone models, heat flow, and the depth distribution of earthquakes in the continental crust of the United States. Bulletin of the Seismological Society of America, 72(1), 151-163.

    KAWAMOTO, E., & SHIMAMOTO, T. (1997). Proc. 30th Int'l. Geol. Congr., Vol. 14, pp. 89-105 89 Zheng et al.(Eds) VSP 1997. In Proceedings of the 30th International Geological Congress: Beijing, China, 4-14 August 1996 (Vol. 14, pp. 89-105). VSP.

    Noda, H. (2021). Shear strength of a shear zone in the brittle-plastic transition based on tensorial strain partitioning. Journal of Structural Geology, 146, 104313.

  • 横山 裕晃, 武藤 潤
    セッションID: T10-P-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    南部北上帯は日本列島における古生層の分布域のひとつであり、古くから層序や古生物に関する研究がなされてきた。南部北上帯の古生層は、白亜紀にユーラシア大陸縁辺において花崗岩類の貫入を受け、その熱の影響と当時の圧縮応力場により、泥質岩にはスレート劈開が発達する(石井, 1985; Kanagawa, 1986)。一方で、石灰岩はOho(1982)によって変形組織が大まかに記載され、泥質岩のスレート劈開発達に伴って変形したと考えられている。しかしながら、それ以降石灰岩の変形については一切研究が行われておらず、詳細な変形組織や変形機構については明らかになっていない。そのため、本研究では南部北上帯の石灰岩の変形の産状を明らかにするために、南部北上帯の西縁にあたる長坂地域(白亜紀花崗岩類千厩岩体西方)の石灰岩に対して、偏光顕微鏡下での観察および電子線後方散乱回折(EBSD)による変形微細構造解析を行った。さらに変形温度の推定のため、同地域の泥質岩に含まれる炭質物のラマン分光分析を行った。

    調査地域の石灰岩は、北北東-南南西走向で、高角に西傾斜する面構造を持つ。方解石の伸長方向に特徴づけられる線構造は10-20˚北落ちである。偏光顕微鏡観察では、変形組織に応じて大まかに3つのタイプに分けられた。1つ目は千厩岩体近傍で方解石は完全に再結晶しており、粒径400µm-2mmのポリゴナルな粒子で構成されているGタイプ。2つ目は方解石は完全に再結晶しているものの、それらが伸長して顕著な形態定向配列を示し、粒径20-200µmのEタイプ。3つ目は細粒な方解石の基質(粒径10-20µm)の中に数百µmの方解石ポーフィロクラストとして存在し、基質の流動に伴いポーフィロクラストが回転しているFタイプである。これらは、千厩岩体からの距離が近い順にGタイプ、Eタイプ、Fタイプと遷移的に変化する。GタイプとEタイプは同一試料内で粒径は均一であり、Fタイプにおいても細粒な基質部では粒径は均一である。3つのタイプではいずれも全体的に動的再結晶による細粒化は見られない。また、EタイプとFタイプの試料に対してEBSD分析を行ったところ、EタイプではZ軸方向にc軸の集中を示し、結晶方位の集中度を示すM-indexは0.05-0.1であった。Fタイプは、完全にランダムな結晶方位を示すものからZ軸方向にc軸の弱い集中を示すものがあり、M-indexは0-0.05であった。したがって、結晶方位が集中しているEタイプでは、方解石粒子の伸長は転位すべりによる変形であることが示唆される。一方、Fタイプでは結晶方位がランダムに近いことから、転位すべりの寄与は小さく、拡散クリープで変形した可能性が高い。

    炭質物のラマン分光分析による被熱温度推定は、D4バンド(波数1245cm-1, Kouketsu et al., 2014)が確認できないものは330-650˚Cで有効なAoya et al. (2010)の温度計、D4バンドが確認できるものは150-400˚Cで有効なKoutketu et al. (2014)の温度計を用いた。千厩岩体から最も近い50mの地点では620˚Cの温度が得られ、千厩岩体から離れるにしたがって指数関数的に温度は低下する傾向がみられる。さらに、GタイプとEタイプの境界は450˚C前後、EタイプとFタイプの境界は350˚C前後であることがわかった。

    これらをふまえて千厩岩体の貫入と古生層中の石灰岩の変形について考察すると、石灰岩の変形は千厩岩体の貫入による熱の影響を受け、以下のように変形したと考えられる。まず、千厩岩体の貫入による熱の影響で再結晶が起きた。この時、千厩岩体に近いほど温度が高く、粒子は大きくなった。それに引き続き、スレート劈開を形成した応力場により変形が起こるが、ある程度粒成長したものは転位すべりにより伸長してEタイプが形成された。千厩岩体から離れた温度の低い領域では十分な粒成長には至らず、細粒のまま拡散クリープによってFタイプが形成された。また、千厩岩体近傍のGタイプで伸長した組織が見られないのは、スレート劈開の発達が終了した後も引き続き粒成長できる温度環境であったためと考えられる。

    引用文献

    石井, 1985, 地質雑, 91, 309-321.

    Kanagawa, 1986, J. Geol. Soc. Japan, 92, 349-370.

    Oho, 1982, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, 20, 345-381.

    Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33-50.

    Aoya et al., 2010, J. Metamor. Geol., 28, 895-914.

  • 奥田 花也, 吉岡 純平
    セッションID: T10-P-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2011年の東北地方太平洋沖地震を引き起こした日本海溝には、太平洋プレート上に堆積した珪質堆積物が沈み込む。また沈み込みに伴う珪質堆積物の続成作用による脱水反応によって、日本海溝におけるスロー地震が発生している可能性も指摘されている。そのため珪質堆積物の続成過程とそれに伴う摩擦特性変化は、日本海溝における地震活動の理解に重要である。

    本研究では珪質堆積物の摩擦実験に向け、既存の油圧三軸試験機に直接剪断試験機構を組み込んだ。直接剪断機構は従来のプレカット型に比べて変位が長く取れ、かつ変形中に垂直応力が変化しないというメリットがあり、摩擦特性をより詳細に測定できる。本発表では続成過程の最後である石英およびいくつかの珪質堆積物についてslide-hold-slide試験を行い、これらの試料の摩擦強度およびその回復特性について報告する。

T11.鉱物資源研究の最前線
  • 見邨 和英, 北澤 堯大, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 桑原 佑典, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    近年,レアアースを濃集した深海堆積物「レアアース泥」が新しい海底鉱物資源として注目を集めている [1].特に,日本の南鳥島周辺海域では総レアアース濃度が5,000 ppmを超える非常に高品位なレアアース濃集層が確認され [2],実開発に向けた取り組みが進められている.

    Ohta et al. [3] はオスミウム同位体比層序に基づいて,南鳥島周辺海域における大規模なレアアース濃集イベントが3,440万年前 (latest Eocene) に発生したことを示し,南極大陸氷床の形成に伴う深層海流の強化がレアアースの濃集をもたらしたと考察した.しかし,このメカニズムでは南鳥島周辺の一部の海域で見られる非常に厚いレアアース濃集層の存在を十分に説明することができない.特に,層厚5m以上にわたってレアアースが濃集しているMR14-E02 PC11コアにおいては,古地磁気の記録がオスミウム同位体比層序年代と整合的でないことが指摘されている [4].

    この問題を解決するために本研究では,魚類の歯や鱗の微化石「イクチオリス」の生層序に注目した.レアアース泥の堆積学上の区分である遠洋性粘土には珪質・石灰質の微化石がほとんど産出しないが,リン酸カルシウムで構成されるイクチオリスは普遍的に含まれる.この特徴を活かして,遠洋性粘土に適用可能な唯一の微化石層序として古くから研究がなされてきた [5].イクチオリス層序年代の決定において,従来は時間と手間のかかる観察がボトルネックとなっていたが,発表者らは深層学習に基づく効率的な観察手法を開発し [6],多数のサンプルから膨大な数のイクチオリスを観察することを可能にした.これにより,近年ではレアアース泥の堆積年代決定にも盛んに用いられている [3, 7, 8].

    本研究では,南鳥島周辺海域の中で特に厚いレアアース濃集層を持つMR14-E02 PC11コアを対象として,深層学習手法に基づくイクチオリス観察を実施し,堆積年代の制約を行った.その結果,濃集層の上部については先行研究と概ね整合的な年代 (latest Eocene 以降) を示した一方,濃集層下部の堆積年代は1,000万年以上古いearly Eoceneに制約された.このことから,南鳥島レアアース泥の開発において有望な対象の1つとなりうる非常に分厚いレアアース濃集層は,異なる時代に堆積した2つの濃集層が,それらの間の堆積層の削剥に伴い上下方向に接続したことにより形成された可能性が示唆された.

    【引用文献】

    [1] Kato et al. (2011) Nature geoscience, 4, 535-539.; [2] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 557-573.; [3] Ohta et al. (2020) Scientific reports, 10, 9896.; [4] Usui and Yamazaki (2021) Earth, Planets and Space, 73, 1-9.; [5] Doyle and Riedel (1979) Micropaleontology, 25, 337-364.; [6] Mimura et al. (2024) Earth and Space Science, 11, e2023EA003122.; [7] Tanaka et al. Newsletters on Stratigraphy (accepted).; [8] Mimura et al. (2024) ESS Open Archive, DOI: 10.22541/essoar.171804943.38756240/v1

  • 高田 直翔, 安川 和孝, 寺内 大貴, 小笠原 光基, Tampah Marshel, 森 駿介, 吉田 頌, 矢野 萌生, 町田 嗣樹, ...
    セッションID: T11-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    レアアースは,強力な磁石や蛍光体などの原料として,様々なハイテク産業に必要不可欠な元素群である.このレアアースに富んだ深海堆積物である「レアアース泥」が南北太平洋の広域に分布しており,新たな海底鉱物資源として注目されている [1,2].また,中央および東インド洋においてもレアアース泥の存在が確認されている[3,4].これまで太平洋とインド洋においては,レアアース泥の空間分布や起源について詳細な研究がなされてきた [1–5].しかし一方で,大西洋においては数地点の堆積物表層付近でレアアース泥の存在が報告されているのみであり [6],海底掘削コアを用いて深度方向のレアアース濃度分布を系統的に明らかにした例はない.

    本研究では,過去の深海掘削計画によって北大西洋で採取された深海堆積物のコア試料の中で,岩相記載に遠洋性粘土が含まれるサイトを主に分析対象とした.主要元素をXRF,微量元素をICP-MSで分析し,全岩化学組成データセットを構築した.その結果,北東大西洋に位置するSite 950では,海底面下330 mにおいて総レアアース濃度868 ppmに達するレアアース泥が確認された.また全岩化学組成を基に,北大西洋堆積物の起源成分を考察した.北大西洋の遠洋性粘土は太平洋よりもAlに富む試料が多く、サハラ砂漠由来のダストの影響が示唆された.一部の試料では,生物源シリカや生物源炭酸カルシウム,火山起源成分の影響も確認された.CoやCeなどの元素組成の特徴から,北大西洋堆積物のレアアースに富む層では,生物源リン酸カルシウムに加えて海水起源成分の影響も比較的大きいことが示唆された.また,本研究では,海水からのレアアース沈積を簡単なフラックスモデルによって検討した.その結果,本研究で得られた堆積物のレアアース濃度を説明するために必要となる堆積速度の条件が,各航海レポートから見積もった実際の堆積速度と整合的であることが示された.

    [1] Kato et al. (2011) Nature Geoscience, 4, 535–539. [2] Tanaka et al. (2023) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 24, 32022GC010681. [3] Yasukawa et al. (2014) Journal of Asian Earth Sciences, 93, 25–36. [4] Zhang et al. (2017) Journal of Rare Earths, 35, 1047–1058. [5] Liao et al. (2022) Chemical Geology, 595, 120792, [6] Menendez et al. (2017) Ore Geology Reviews, 87, 100–113.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    松波 亮佑, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    レアアースに富む深海堆積物である「レアアース泥」は,新規レアアース資源として開発が期待されている [1].これまでの研究において,レアアース泥の品位や分布にはバリエーションが認められており,こうしたバリエーションを生じさせている環境因子を理解することは,今後の開発に向けた有望海域を推定する上で重要な手掛かりとなると考えられる.現在の海底に分布するレアアース泥の組成バリエーションは,堆積速度や魚類の生産性といった海洋環境の長期変動とそれに伴う海洋-堆積物間の物質収支の変動により生じてきたことが示唆されている [2, 3].これらの知見はいずれも,様々な海域の堆積物試料に対する鉱物学的・地球化学的分析に基づいて得られてきた.その一方で,これらの因子がレアアース泥の生成にもたらす影響について広域的かつ定量的に議論を行うには,数理モデルを用いた理論的アプローチが有効であると期待される.

    そこで発表者らは,太平洋全域を対象とする海洋-堆積物間のNd質量収支ボックスモデルを構築し,レアアース泥の生成に関連する環境因子について定量的検討を行なった [4].その結果,大陸縁辺域から海洋へのレアアースの流出および堆積速度がレアアース泥の品位に対して大きな影響を与えること,またダストフラックスの変動によって新生代を通じたレアアース泥の品位変動を概ね再現できることが明らかとなった.一方,バックグラウンドの環境因子に着目したこのモデルでは,海洋の生物生産性に起因すると考えられる実試料データの一時的なレアアース濃度ピークが再現されないという課題があった.

    そこで本研究では,先述のモデルにアップデートを加え,堆積物中でレアアースを濃集する生物源リン酸カルシウム (Biogenic calcium phosphate, BCP) の影響を検討した.レアアースを取り込むBCPが海底面付近の堆積物中に多量に存在すれば,海水-堆積物境界から海洋へのレアアース流出フラックスを抑制する効果が生じると考えられる.これを考慮した数値実験の結果,堆積物の総レアアース濃度は上昇したものの,5000 ppmを超えるような超高濃度レアアース泥の生成には至らないことが分かった.このことから,非常に高品位なレアアース泥の生成には,堆積物から海洋へのレアアース流出フラックスの減少だけでなく,海洋から堆積物へのレアアースの流入を促進する要素が必要であることが示唆される.

    [1] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.[2] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.[3] Mimura (2021) The University of Tokyo, Ph. D. thesis.[4] Matsunami et al. (submitted).

  • 伊地知 遼行, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 見邨 和英, 大田 隼一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海底堆積物の粒度組成と鉱物組成は,対象海域に供給される物質のフラックスや底層流の強度の変動などを反映しており,物理的な堆積環境を復元する上で重要な手がかりとなる [1,2].レアアース泥が堆積した当時の環境を復元することは,レアアース (REE) 濃集機構を解明するための鍵となると考えられており[1,2],その粒度組成及び鉱物組成の詳細なデータを蓄積することが求められている.これまで,海底堆積物の粒度の決定及び鉱物組成の決定は,観察者が鏡下観察で目視によって行うVisual Estimation法 [3] が世界的な標準手法として用いられてきた.しかしながら,この手法の精度や効率は観察者の熟練度に依存し,得られるデータの量や客観性に限界がある.

    そこで本研究では,堆積物の顕微鏡観察に画像解析を応用することで,粒度組成や構成成分の量比を定量的かつ効率的に測定する手法を開発することを目的とする.本発表では,特にレアアース泥の粒度組成を画像解析によって決定する手法の検討結果について報告する.

    本研究では,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域内で採取された,総REE濃度が5000 ppmを超える超高濃度レアアース泥を含む海底堆積物コア試料を対象とした.粒度組成の決定には,通常の手法で各層準のバルク堆積物試料を封入したスミアスライドを,偏光顕微鏡を使って撮影した顕微鏡画像を使用した.粒度組成は,堆積物中の粒子サイズ分類にもとづいて,sand(>63 µm),silt(4–63 µm),clay(<4 µm)サイズの各粒子群の相対量比で決められる.粒径が4 µm以上のsandおよびsilt粒子の構成割合については,2023年にMeta社が公開したSegment Anything Model(SAM)[4] というセグメンテーションモデルを使用し,個別粒子の検出と粒径の測定を行うことで算出した.SAMによる検出が困難である4 µm未満のclay粒子の構成割合については,顕微鏡画像から粒子が存在する部分と存在しない部分(背景部分)をピクセルのRGB値によって区別し,粒子の塊が作る輪郭の内外を識別することで算出した.そして,粒子と判断された色を持つピクセルが顕微鏡画像に占める割合を,その画像中で粒子が占める全体の割合とみなし,SAMで算出したsiltサイズ以上の粒子の割合を差し引くことで,clayの構成割合を算出した.RGB値による識別で粒子として識別されたピクセルの存在領域を可視化したところ,モヤのように見える微粒子を含めた粒子の存在範囲全体を概ね識別出来ていることを確認した.

    本研究の結果と従来のVisual Estimation法による粒度組成推定結果 [5] との比較を行ったところ,45枚のスミアスライドのうち23枚で堆積物の岩相の主要名が一致した.主要名が異なっていたスミアスライドについて個別に確認を行ったところ,うち7枚は目視でも観察者によって意見が割れると考えられ,結果の正誤判断が困難なものであった.今後,Visual Estimation法以外の客観的な評価手法 (視野内に設定した各座標に存在する個々の粒子を数え上げるポイントカウンティング法など) も組み合わせることで、より正確な精度評価を行い、本提案手法の確立と適用可能性の検証を進める.

    [1] Ohta, J. et al., Scientific Reports, 10, 9896 (2020). [2] Ohta, J. et al., Geochemical Journal, 50(6), 591-603 (2016). [3] Rothwell, R. G. Minerals and Mineraloids in Marine Sediments: An Optical Identification Guide. (1989). [4] Kirillov, A. et al. Segment anything. Proceedings of the IEEE/CVF International Conference on Computer Vision pp.3992-4003 (2023). [5] 小田裕太: 修士学位論文, 東京大学 (2023).

  • 中村 謙太郎, マーシェル タンパ, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2011年に太平洋海底の遠洋粘土に高濃度のレアアース (REE) が含まれているものが発見され、「レアアース泥」と名付けられた [1]。レアアース泥は、高いREE含有量(特に、産業上重要な重希土類元素)、膨大な資源量、容易な探査、酸浸出による抽出の容易さ、そして何より低い放射性元素含有量を特長としており、新たなレアアース資源として注目されている [2]。2012年には、レアアース泥は南鳥島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)でも発見された [3]。南鳥島EEZのレアアース泥は、REE >5000 ppmの超高濃度レアアース泥層を挟在するという、他の海域には見られない特徴を示す [4]。この超高濃度レアアース泥層の成因を解明することができれば、開発有望海域の探査に大きく貢献すると期待される。

    2023年には、南太平洋のペンリン海盆においても、日本のEEZ外で初めて超高濃度レアアース泥層の存在が発見された [5]。この南太平洋の超高濃度レアアース泥層について特徴を明らかにし、南鳥島EEZのそれと比較することができれば、超高濃度レアアース泥層の成因解明につながると期待される。そこで本研究では、ペンリン海盆の堆積物から得られた地球化学データを用いて、南太平洋における超高濃度レアアース泥層の化学的特徴と分布を理解するとともに、南鳥島EEZとの比較を行うことを目的とする。

    研究には、1983年のGH83-3航海によってペンリン海盆から採取された16本のピストンコア試料を用いた [6][7]。これらのコアから394試料を分析のために採取し、ICP-MSを用いて44元素の分析を行った。全ての試料は、REE濃度が400 ppmを超えており、レアアース泥であることがわかった。さらに化学層序解析により、ペンリン海盆のレアアース泥は、異なる4つの層と3つのREEピークから成ることが明らかとなった。これらの層には、火山起源物質および熱水起源物質の影響を顕著に示す層が含まれた。また、同じく化学層序解析によって、最上位層を削剥によって欠いているエリアが存在することも明らかとなった。こうしたエリアにおいては、超高濃度レアアース泥層を含む高濃度レアアースピーク層が海底下の浅い深度に出現することから、開発に有望なエリアとなり得ることがわかった。

    本研究の結果を南鳥島EEZにおいて観察されている化学層序 [8] と比較すると、両地域は上部の層で火山起源物質の影響が大きいことや、3つのレアアースピーク層を持つという類似性を示している一方で、ペンリン海盆の下部層では南鳥島EEZでは見られない熱水起源物質の影響が強く示されている。また両地域ともに、最上位層の削剥が高濃度レアアースピークの浅部での出現の原因となっていると考えられ、削剥現象が開発有望エリアの形成要因となっていることが示唆される。

    [1] Kato, Y. et al., Nature Geoscience 4, 535-539 (2011).

    [2] Nakamura et al., Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths 46,79-127 (2015).

    [3] 加藤泰浩ほか,資源地質学会第62回年会講演会,O-11 (2012).

    [4] Iijima et al., Geochemical Journal 50, 575-590 (2016).

    [5] Marshelほか, 地質学会第130年学術大会, T7-O-3 (2023).

    [6] Usui et al., Outline of the Cruise GH83-3 in the Penrhyn Basin, South Pacific (1994).

    [7] Nishimura and Saito, Deep-sea sediments in the Penrhyn Basin, South Pacific (1994).

    [8] Tanaka et al., Ore Geology Reviews 119, doi: 10.1016/j.oregeorev.2020.103392 (2020).

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    森 駿介, 大田 隼一郎, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    深海堆積物は,地球表層における環境変動や物質循環の記録媒体として重要である.深海堆積物中に含まれる情報を読み解くことによって,当時の古気候・古海洋学的な記録を復元することができる [1].また,深海堆積物の一部は産業上必要不可欠なレアアースを濃集していることが知られており,有望な新資源としても期待されている [2,3].

    古気候・古海洋環境の復元や,効率的な資源探査に向けたレアアース濃集機構の解明に向けて重要な情報となるのが堆積年代である.しかしながら,石灰質・珪質微化石に乏しく,古地磁気記録も不明瞭な遠洋性粘土については,年代決定が困難であるという課題がある.この遠洋性粘土に対して有効な堆積年代の推定手法の1つが,オスミウム (Os) 同位体比層序に基づく年代決定法である.海水のOs同位体比は,大陸,マントル,宇宙からのOs流入量のバランスが変化することに伴って変動する.したがって,堆積物試料に記録された海水のOs同位体比を,様々な先行研究によって得られた海水Os同位体比をコンパイルした経年変動曲線と対応させることによって,堆積年代を制約することができる [1].堆積物中から海水由来Osを抽出する手法として,従来は逆王水を試料とともにガラス管に密封し,高温で加熱する方法が広く用いられてきた.これに対して近年,堆積物中で海水のOs同位体比を記録した鉄酸化水酸化物をより選択的に溶解する手法として,希塩酸を用いた化学浸出法が提案された [4].塩酸を用いた化学浸出法によって従来手法よりも砕屑性成分による影響を低減でき,海水のOs同位体比をさらに正確に読み取ることができると考えられる.しかし,両手法により浸出反応が起こる相の違いや,同位体比が実際の海水の値と一致するかについての検証は未だ十分でなかった.そこで本研究では,遠洋性粘土と生物源炭酸塩試料を用いて,塩酸による化学浸出法および逆王水分解法に基づくOs抽出実験を行った.同位体分析および化学組成分析の結果について,両手法を比較検討することにより,浸出反応の違いを考察した.

    また,Os同位体測定のためには,Osを完全に酸化する必要があるが,分析効率の向上に向けて,Os酸化手法の改良も重要である.耐熱性・耐圧性に優れた特注のガラス容器であるカリアスチューブを用いた現行のOs抽出・酸化法は,高温・高圧で密閉された環境下でOsを十分に酸化させつつ,揮発性の高いOsO4のロスを防ぐことができる.しかしながら,その処理においてはカリアスチューブの先端開口部を溶融変形させて密閉する作業が必要となり,分析試料数が制限されることによる実験効率の低下や高圧になった容器を扱う作業中の安全性確保,処理中の容器破損によるデータ損失の可能性といった課題が存在する.そこで,一般的な市販品であるテフロンバイアルを用いたOsの完全酸化を目標とした実験も実施した.本発表では,一連の実験的検討の結果について報告する.

    [1] Ohta et al. (2020) Scientific Reports 10, 9896. [2] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539. [3] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. [4] Dunlea et al. (2021) Chemical Geology 575, 120201.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    玄田 貴之, 見邨 和英, 中村 謙太郎, 中谷 武志, 北田 数也, 安川 和孝, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    中央海嶺や島弧-背弧系の海底には,海底下のマグマで熱せられた高温の熱水が噴出する熱水噴出孔が存在する.この熱水噴出孔の周辺には,ベースメタルや貴金属,レアメタルが熱水から析出・沈積して生じた海底熱水鉱床が分布し,新たな金属資源として注目されている [1-3].先行研究により,船上からマルチビーム音響測深機 (Multi-beam echo sounder, MBES) を用いて探査することで,海水中の音響異常として熱水噴出の兆候を捉えることができることが示されている [4-6].さらに,近年この探査が物体検出モデルを用いて自動化できる可能性が示され [7],注目が高まっている.こうしたMBESデータからの熱水噴出を示すシグナルの自動検出が実現すれば,より広域を効率よく探査することが可能となる.これにより,経済的価値の高い新しい熱水鉱床の発見や,さらにはまだ達成されていない海底熱水鉱床の商業的な開発の実現につながると期待される.

    しかしながら,実際の熱水活動探査ではシグナルがデータにほとんど含まれていない.例えば,事前調査により熱水噴出孔の存在が有望なエリアを絞って探査を行った本研究の対象データにおいても,熱水シグナルを含むMBESデータは全体の約1.7%しか含まれない.そのため,シグナルを含む画像のみで評価された先行研究の物体検出モデルをそのまま適用すると,検出精度の十分に高いモデルであっても大量の偽陽性の発生を避けられず,実用的な検出手法となり得ないという致命的な問題が存在した.そこで本研究では,シグナルがほとんど含まれない不均衡データにおいて,偽陽性を減少させ,実際の探査に利用できる真に高精度な海底熱水シグナルの検出システムを開発することを目的とした.

    誤検出パターンを分析した結果,時間的に不連続なノイズの誤検出が多く発生していることが分かった.そこで発表者らは,従来手法の物体検出モデルの出力に対してシンプルな時系列解析を加えることを試みた.物体検出モデルにはYOLOv8l [8] を利用し,AUV で得た時系列 MBES データから熱水シグナルの検出を行った.この際,出力結果である信頼度スコアに対して5項の移動平均を適用し,あるフレームにおいて熱水シグナルが含まれるかどうかの2値分類を実施した.13回の潜航データでクロスバリデーションを行った結果,従来手法に比べて,誤検出の少なさを示すprecisionが,画像1枚単位 (フレーム単位) による評価で0.425から0.582に,熱水シグナルを検出したフレームのうち,そのフレーム間隔が一定値以内のものを1つにまとめた熱水イベント単位による評価で0.142から0.541に向上した.本研究では,熱水イベント単位での評価方法を構築することによって,何回探査機を海底に降ろすか,そしてそのうち何回熱水鉱床を発見できるか,という実際の熱水探査の成否を決める重要な因子を考慮した評価を可能にし,より実際の探査での実用性を適切に評価できるようになった.以上の結果から,本研究で提案する,移動平均を基に観測データの時系列情報を利用したアルゴリズムは,実際の熱水探査にも有効である可能性が示された.

    [1] Hannington et al. (2011) Geology, vol. 39, no. 12, pp. 1155–1158. [2] Hein et al. (2012) Ore Geol. Rev., 51, 1–14. [3] Nozaki et al. (2021) Sci. Rep., 11(1), 1–11. [4] 棚橋ほか. (2014) 物理探査. 67, 17-24. [5] Nakamura et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 579–596 (2015). [6] Kasaya et al. (2015) Geochemical Journal. 49(6), 597–602. [7] Mimura et al. (2023) IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN APPLIED EARTH OBSERVATIONS AND REMOTE SENSING. VOL.16, 2703-2710. [8] Jocher. https :/ / github . com / ultralytics / ultralytics.

  • 浅見 慶志朗
    セッションID: T11-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地球表層では様々な環境でFe–Mn酸化物が形成している1.本発表では,その中でも特に,深海に分布するFe–Mnクラスト・ノジュールや熱水性のFe–Mn酸化物に関する研究の最新トレンドを紹介する.Fe–Mnクラスト・ノジュールは1970年代からCo等の資源として期待され始め,化学組成のバリエーションやそれを生む形成プロセスの違いに着目した研究がなされた.その結果,海洋Fe–Mn酸化物の起源が海水起源・続成起源・熱水起源の3種類に分かれる事が明らかになった2.2000年代以降は,古海洋環境記録媒体としての性質が着目され,Fe–Mnクラストに含まれる様々な元素の濃度や同位体組成から古海洋環境の復元を試みる研究がなされた.しかし,Fe–Mnクラスト・ノジュールの成長速度は百万年に数mm程度であることに加え,年代決定法に乏しい事から,時間分解能と年代軸の信頼性において海洋堆積物に劣るという課題があった.

    近年は,分析技術・機器の発達により,Fe–Mnクラスト・ノジュールの微小領域化学分析が容易となり,化学組成の変動を高空間分解能で(すなわち高時間分解能で)明らかにできるようになった.さらに,微小領域化学分析で得られる膨大な地球化学データに統計解析を実施する事で,データが持つ情報を客観的に抽出する事ができる.また,複数の年代決定法に基づく形成年代と,不確実性をもつデータ群から統計的により尤もらしい結果を推定するMCM(マルコフ連鎖モンテカルロ)ベイズ推定を組み合わせる事で,年代軸の信頼性を高める試みがなされている3.本発表では,発表者がこれまで行ってきた研究を例に,微小領域化学分析と統計解析の組み合わせによる情報抽出や,MCMCベイズ推定を適用した形成年代について紹介する.

    今や大規模データに対する統計解析や深層学習はありとあらゆる分野で実施されているが,解析によって得られる結果は数値データのみであり,その数値データを現実にあわせて解釈する事で初めて大規模データから正しい情報を引き出すことができる.発表者が実施している元素マッピングデータに対する独立成分分析は,解析結果を試料の分析面と空間的に対応させることができるため,解析結果の解釈が容易であるだけでなく,試料の形成プロセスなどを視覚的にとらえる事ができる4,5

    地球科学分野において,MCMCベイズ推定は年代が一意に決まらない場合がある14C年代に基づく泥炭堆積物の年代軸構築に用いられていたが6,その汎用性の高さから,近年は海洋堆積物や洪水玄武岩にまで適用されている.Fe–Mnクラスト・ノジュールの年代決定に用いられる海洋Os同位体層序年代も年代が一意に決まらない場合があり,対応する年代を恣意的に決める他なかった.しかし,MCMCベイズ推定を適用する事で,統計的に尤もらしい年代軸を構築する事が可能となった.

    海洋Fe–Mn酸化物の研究で近年用いられるこれらの手法は,様々な地質試料にも適用可能であり,その形成プロセス解明に有用である可能性がある.

    引用文献

    1. Azami et al., J. Asian Earth Sci.: X 8, 100127 (2022).

    2. Hein et al., Handbook of marine mineral deposits 239–281 (1999).

    3. Josso et al., Chem. Geol. 513, 108–119 (2019).

    4. Azami et al., Comm. Earth & Envi. 4, 191 (2023).

    5. Azami et al., Mar. Geol. 463, 107117 (2023).

    6. Blaauw & Christen, Bayesian Anal. 6, 457–474 (2011).

  • 宮下 敦, 村上 浩康, 矢野 萌生, 林 歳彦
    セッションID: T11-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    これまで,鉱床学では日本列島には斑岩銅鉱床は胚胎されないという意見が強く,その原因となるテクトニクスの特徴なども提案されていた(例えば,Sillitoe, 2018). しかし.共著者のうち林は,高岡秀俊氏から山梨県甲府市西沢渓谷上流の変質帯調査結果(高岡, 1971MS)が斑岩銅鉱床型の特徴を持つことを聞き,2015年に同地域の予備調査を行った.これを受けて,今回,この地域の資源地質学的な再訪調査を行ったので,その結果を報告する.

     調査地域は,秩父多摩甲斐国立公園内に位置する西沢渓谷上流で北からアザミ沢,京の沢,本谷沢,大南窪沢の4本の沢を含む地域である.この地域では,中新世(SHRIMPジルコンU-Pb年代: 14.0Ma, Saito et al., 2007)の甲府花崗岩類が広く分布し,これに中新世末から鮮新世の小楢山安山岩類(全岩K-Ar年代6.1-4.5Ma; 柴田ほか,1984)と小烏花崗閃緑岩類(黒雲母K-Ar年代4.4-4.3Ma; 柴田ほか,1984)が貫入している.小烏花崗閃緑岩帯の帯磁率は,最大で50×10^-3 SIに達する極めて高い値を示し,磁鉄鉱系花崗岩類(Ishihara, 1977)に分類される(佐藤・石原,1983).

     変質帯は,これらの3つの岩体中に,北西-南東方向もしくは東西性の裂罅に沿って発達している.京の沢下流部と本谷沢中流部にみられるデュモルチエライトや苦土フォイト電気石などの希産鉱物(Hawthorne et al., 1999)を伴う珪化帯の部分が変質が最も強く,珪化帯から離れた調査地域周縁部分では緑泥石変質帯に移化する.珪化帯と緑泥石変質帯の間には,珪化帯に近い4本の沢の合流部附近に,前述の裂罅系に伴ってカリ長石を指標鉱物とするカリ長石変質帯が,それから離れた部分には,セリサイト,カオリナイト,ミョウバン石,パイロフィラライト,ダイアスポアなどで特徴づけられるセリサイト変質帯が分布する.高岡 (1971MS)はセリサイト変質帯でズニ石や自然硫黄も報告している.今回,セリサイト帯のセリサイト2試料から5.4-4.3 MaのK-Ar年代を得ており,変質作用は小烏花崗閃緑岩類によるものであることは明らかである.珪化帯 - カリ長石帯 - セリサイト帯 - 緑泥石帯という変質帯の配列は,典型的な斑岩銅鉱床にみられるものに一致する.

     また,カリ長石帯では,脈幅最大1~1.5cm程度のカリ長石-黒雲母脈が観察される.この脈と花崗閃緑岩との境界は不規則・不明瞭で,マグマが未固結時の可能性が考えられ,Gustafson and Hunt (1975)による細脈ステージ区分では,A脈に相当すると考えられる.また,地域全体で,様々な方向の直線状の裂罅に沿って左右対称のハロを持つD脈と考えられる粘土化脈も発達する.

     この地域について数値標高モデル(DEM)地形解析では,調査地域内では標高の低い珪化帯部分から酸性変質帯にかけて緩傾斜の領域が抽出される.これは潜在的な花崗閃緑岩類の分布と,それに伴う変質帯の輪郭を示すものと考えられる.

     調査地域全体を通じて,変質帯中に見られる硫化物の量は少ないが,カリ長石帯の一部では花崗閃緑岩中に緑青の風化帯を伴って鉱染状の黄鉄鉱が認められる.高岡 (1971MS)は,前述のカリ長石脈に伴う黄銅鉱を報告している.また,大南窪沢では,戦前に硫砒銅鉱を鉱種とする黒金鉱山が稼行していた実績があり,銅鉱化作用の兆候がある.

     このような特徴は,調査地域の変質帯が,斑岩銅鉱床に関連している可能性を強く示唆するものである.

    ・引用文献

    Gustafson and Hunt,(1975), Econ. Geol., 70, 857-912.

    Hawthorne et al., (1999), Canad. Mineral., 37. 1439-1443.

    Ishihara, (1977), Mining Geol., 27, 293-305.

    Saito et al., (2007), J. Petrol., 48, 1761-1791.

    佐藤・石原, (1983), 地調月報, 34, 413-427.

    柴田ほか,(1984),地調月報, 35,19-24.

    Sillitoe,(2018), Resouce Geol., 68, 1-19.

    高岡秀俊, (1971), 秋田大鉱山学部卒論MS, 54頁.

  • 村上 慶介, 小笠原 瑞姫, 大田 隼一郎, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    佐渡金銀山は江戸時代から1989年までの約400年間にわたり操業し,日本の金山で第2位の産出量を誇る.しかしながら,その成因は未だ十分に明らかとなっていない.佐渡島にはおよそ30の鉱山が分布しているが,鉱床成因に関する地球化学的な検討の対象は,島内最大の金山である相川金銀山に限定されてきた [1].そこで本研究では,新たな観点から佐渡島の金銀鉱床の成因を検討するため,相川金銀山に近接する鶴子銀山の鉱物学的・地球化学的特徴に着目した.鶴子鉱床は相川鉱床から約3㎞の距離に位置し,脈のつながりや鉱化作用域の重複は見られないとされている[2].

     本研究では,佐渡市から提供を受けた鶴子鉱床の鉱石試料を分析に用いた.9つの鉱石試料から11枚の研磨片を作成し,反射顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて鉱物同定,産状の把握と元素マッピングを行った.その中から7枚の研磨片を選定し,産状ごとに計28のセクションに分割した.各セクションと対面する部分を鉱石試料から切り出して粉末化と酸分解 [3] を行い,誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で全岩化学組成分析を行った.

     偏光顕微鏡観察では,濃紅銀鉱,黄銅鉱,黄鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,銅藍,石英が確認された.SEM-EDS観察では,これらに加えて輝安銀鉱,輝銀鉱と氷長石が確認された.ICP-MSによる全岩化学組成分析では,Agの濃度の最大値と中央値はそれぞれ389 ppmと21.9 ppmであり,Auの濃度の最大値と中央値はそれぞれ28.7 ppmと0.203 ppmであった.親石元素にNiとAsを加えた計10種類の元素濃度は,Agの濃度と相関がみられなかったため,脈石鉱物を特徴づけている元素群であると考えられる.一方,親鉄・親銅元素からNiとAsを除いた計11種類の元素濃度は,Agの濃度と相関がみられ,Agを含む硫化鉱物の存在を示す元素群であると考えられる.これら11種類の元素の濃度とAgの濃度の散布図では,11種類すべての元素において,2つのトレンドが見られた.1つは銀の濃度が増加するとともに各元素の濃度も増加するトレンドで,本研究において「相関トレンド」と称する.もう1つは銀の濃度と無関係に各元素の濃度が増加するというトレンドで,本研究において「独立トレンド」と称する.同一の研磨片において両方のトレンドに属するセクションを有する研磨片では,明確な白色石英部分と黒色硫化鉱物部分に分かれているという産状が見られ,かつ白色石英部分は相関トレンドの低濃度部分,黒色硫化鉱物部分は独立トレンドにそれぞれ対応することが観察された.加えて相関トレンドの高濃度部分は黒色硫化鉱物部分が対応し,低濃度部分とは明確に構成鉱物が異なることから,以下のように考察できる.(i) 相関トレンドの低濃度部分は石英による希釈を示す.(ii) 相関トレンドの高濃度部分は,銀の濃集を伴う硫化鉱物を沈殿させた鉱化作用を示す.(iii) 独立トレンドは,銀の濃集を伴わない硫化鉱物を沈殿させた鉱化作用を示す.したがって、鶴子銀山を形成した鉱化作用には、銀の濃集を伴う(ii)と銀の濃集を伴わない(iii)が存在していると考えられる。

    [1] 鹿園・綱川秀夫. 鉱山地質 32, 479–482, 1982.

    [2] MITI (1987) Report of regional geological survey, Sado Region.

    [3] Kato et al. (2005) Geochem. Geophys. Geosyst. 6, Q07004.

  • 三島 郁, 上久保 寛, 釘﨑 直人
    セッションID: T11-O-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    Awaruite is a native nickel-iron alloy (Ni3Fe) which can occur in serpentinized ultramafic rocks and is a potential globally significant new source of nickel. Through exploration and studies on the Baptiste deposit in British Columbia, Canada, FPX Nickel Corp. (FPX; formerly First Point Minerals Corp.) has demonstrated a large-scale awaruite deposit that is an economic new nickel source for stainless steel with low CO2 emissions. FPX has also developed a processing flowsheet to produce high purity nickel sulphate applicable for use in EV batteries. FPX and JOGMEC began a global exploration project in March, 2023, with the aim of contributing to a carbon neutral society by discovering new awaruite deposits.In general, serpentinization at low total S and low fO2 conditions is required to generate awaruite (e.g. Frost, 1985; Britten, 2017). Decreased total sulfur can be achieved by partial melting of mantle peridotite with accompanying loss of incompatible elements, which results in creation of depleted mantle peridotite. Low fO2 can be achieved through serpentinization of peridotite minerals: i.e. hydration reaction of olivine lowers fO2 through the generation of H2. Low SO2 waters (meteoric or metamorphic) are required during serpentinization to create significant awaruite, which excludes abyssal serpentinization from preferable setting.Evans (2010) suggests that the speed of the serpentinization reaction is a controlling factor in the generation of magnetite: in the case of rapid element diffusion in higher temperature, iron can be distributed in serpentine minerals as solid solution and not contribute to magnetite formation. Our hypotheses here is that, similarly with the case of magnetite, slow diffusion might be key for having nickel not to attribute serpentine and for consequentially pronounced awaruite generation.The Baptiste deposit is hosted within the Cache Creek terrane and has geological characteristics (e.g. Britten, 2017; Milidragovic and Grundy, 2019) concordant with the theoretical ideas above. The Cache Creek terrane contains very low-T subduction metamorphic rocks evidenced by blueschist and lawsonite eclogite. Ultramafic rocks of the Baptiste deposit are highly depleted mantle peridotites in a supra-subduction zone.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    小笠原 光基, 大田 隼一郎, 町田 嗣樹, 石田 美月, 矢野 萌生, 見邨 和英, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 ...
    セッションID: T11-O-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    兵庫県の明延鉱床は,明治から昭和にかけて稼働し,日本の産業発展を支えた国内有数の熱水性Cu-Sn多金属鉱床である.明延鉱床を構成する鉱脈は産出鉱物から2タイプに大別され,両脈は切り合い関係から前期のCu-Zn脈と後期のSn-W脈とされている[1].しかしながら,明延鉱床の鉱脈に対する直接的な年代決定は行われておらず,鉱化作用を解明するために必要な年代情報が不足している.更に,金属濃集メカニズムを解明する上で重要である金属元素の起源に関する情報も報告されておらず,Cu-Zn脈とSn-W脈がどのような火成活動によって形成されたのかは未だ不明である.

    一般的なCuおよびSn鉱床に関する先行研究によると,酸化的な磁鉄鉱系マグマの活動に伴いCuに富む鉱床が,還元的なチタン鉄鉱系花崗岩の活動に伴いSnに富む鉱床がそれぞれ形成されると考えられている[2].そのため,熱水性Cu-Sn多金属鉱床の形成は性質が異なるこれらのマグマ活動が重複することが重要だと考えられているが[3],その実態は未解明である.つまり,明延鉱床の鉱化作用を解明することは,マグマ活動と濃集する金属種の因果関係を考察する上で重要な知見となるだけでなく,熱水性Cu-Sn多金属鉱床の成因を考える上でも非常に有用といえる.

    本研究では明延鉱床の鉱化年代を解明するため, Cu-Zn脈の鉱石試料に対してレニウム(Re)-オスミウム(Os)年代測定を,Sn-W脈中の錫石に対してはウラン(U)-鉛(Pb)局所年代測定をそれぞれ実施した.さらに,鉱脈中の金属の起源を追跡するために,鉱床周辺に分布する花崗岩の全岩粉末試料と,Cu-Zn脈から分離した黄銅鉱試料,Sn-W脈から分離した黄銅鉱及び錫石試料に対してPb同位体測定を実施した.本発表では,以上の分析により得られたCu-Zn脈とSn-W脈の年代情報と,鉱石試料および関係火成岩の起源情報から,明延鉱床のCu-Zn脈とSn-W脈がどのように形成されたのかを議論する.

    [1] K. Itoh, K. Takashina, and T. Sugiyama, ‘On the Exploration of Chiemon Vein Swarm, Akenobe Polymetallic Vein Deposits, Southwestern Japan.’, Mining Geology, vol. 35, no. 190, pp. 119–132, 1985, doi: 10.11456/shigenchishitsu1951.35.119.

    [2] P. Černý, P. L. Blevin, M. Cuney, and D. London, ‘Granite-related ore deposits’, 2005.

    [3] R. H. Sillitoe and B. Lehmann, ‘Copper-rich tin deposits’, Miner Deposita, vol. 57, no. 1, pp. 1–11, Jan. 2022, doi: 10.1007/s00126-021-01078-9.

  • 安川 和孝, 児玉 祐真, 森 駿介, 桑原 佑典, 大田 隼一郎, 小笠原 光基, 吉田 頌, Tampah Marshel, 矢野 萌生 ...
    セッションID: T11-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    新規レアアース資源として有望視されている「レアアース泥」の空間分布・品位・起源については,これまでに太平洋 [1–5] やインド洋 [6,7] を対象として詳細な研究が進められてきた.本発表では,レアアース泥の存在について未だ系統的な検討がなされていない南大西洋を対象として,過去の海洋科学掘削により採取された深海堆積物レガシーコア試料の新規分析結果を報告する.

    本研究では,レアアース泥に典型的な岩相である遠洋性粘土がコア記載に含まれる8サイトの深海堆積物試料について,主成分および微量元素分析を行った.その結果,南大西洋にもレアアース泥 (総レアアース濃度400 ppm以上) の存在が確認された.例えば,中央南大西洋のDeep Sea Drilling Project Site 19では,海底下 4 m付近にレアアース泥が認められた.化学組成の特徴から,南大西洋のレアアース泥には海水起源成分の影響が相対的に強く見られることが分かった.

    また,本研究で確認された南大西洋レアアース泥の一部は,中新世に堆積したことが微化石層序から示唆される.中新世において南大西洋では,炭酸塩補償深度 (CCD) が約600 m上昇したことが報告されている [8].このことから,中新世の南大西洋レアアース泥は,CCDより深い堆積環境が数百万年間にわたり続いたことで炭酸カルシウムが溶解し,堆積速度が著しく低下してレアアースが相対的に濃集したために生成した可能性がある.

    [1] Kato et al. (2011) Nat. Geosci. 4, 535-539. [2] Iijima et al. (2016) Geochem. J. 50, 557-573. [3] Mimura et al. (2019) J. Asian Earth Sci. 186, 104059. [4] Ohta et al. (2021) Ore Geol. Rev. 139, 104440. [5] Tanaka et al. (2023) Geochem. Geophys. Geosyst.24, e2022GC010681. [6] Yasukawa et al. (2014) J. Asian Earth Sci. 93, 25-36. [7] Yasukawa et al. (2015) Geochem. J. 49, 621-635. [8] Dutkiewicz and Müller (2022) Geochem. Geophys. Geosyst. 23, e2022GC010667.

  • 吉田 頌, 大田 隼一郎, 小笠原 光基, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    産業上重要な金属の供給源である金属鉱床の多くは熱水性鉱床に分類され、その大部分は複数種類の金属元素を高品位に濃集した多金属鉱脈型鉱床である。そのため、新規鉱床の探査指針を提案する上では、このような熱水性多金属鉱脈型鉱床の形成プロセスを解明することが重要である。そして、鉱床形成プロセスの解明においては、対象とする鉱床の形成に関与したマグマの年代と鉱床自体の鉱化年代を決定して時系列を整理することが重要な制約条件となる。

    本研究では、熱水性多金属鉱脈型鉱床が集中して分布する兵庫県但馬地域に存在する生野鉱床を対象とした。生野鉱床は日本三大銀山として室町時代から江戸時代にかけて多量の金銀を産出したほか、明治時代以降も銅、鉛、亜鉛、錫など種々の金属の生産で国内産業を支え、日本の近代化に多大な貢献を果たすなど、鉱床学的にも歴史的にも重要度の高い鉱床である。成因解明のための重要な情報である鉱床の生成年代については、鉱脈の氷長石を対象としたカリウム(K)-アルゴン(Ar)年代測定法により74–63 Maの値が得られている [1]。また、生野鉱床の関係火成岩として大畑花崗岩類が示唆されており [2]、花崗岩試料の全岩K-Ar年代測定法により61.3 Maの年代値が得られている [1]。しかしながら、鉱脈の氷長石に対するK-Ar年代は、鉱脈形成後の熱的イベントなどの影響を受けやすいため、有用金属の沈殿した年代を直接示していない恐れがあることと、大畑花崗岩類の年代測定に用いられた花崗岩試料は変質を受けており、その影響の評価が難しいことから、それぞれ異なる手法で年代値を得て比較検討を行い、生野鉱床の鉱化時期と起源マグマについてより直接的な制約条件を得る必要がある。

    熱水性硫化物鉱床の鉱石試料に対して適用可能な年代決定手法として、レニウム(Re)-オスミウム(Os)放射年代測定法がある[3]。本研究では、Re-Os放射年代測定法の適用を念頭に置いた上で、生野鉱床の7鉱脈の鉱石試料を研究対象とした。まず、鉱石試料中でのReとOsのホスト相を特定することを目的として、反射顕微鏡を用いた鏡下観察、エネルギー分散型X 線分析装置搭載走査型電子顕微鏡による観察および元素マッピングを実施し、構成鉱物の種類とその産状を観察した。Re-Os年代測定法を鉱石試料に適用するためにはReが十分量含まれている必要があるため、構成鉱物の組み合わせが明瞭な試料に対してレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析によるRe局所分析を行い、Reの分布を把握した。その後、Reの明瞭なシグナルを検出した鉱石試料に対してRe-Os同位体測定を実施し、生野鉱床の年代値を求める。本発表では、上述した一連の手法によって得られた鉱物学的特徴およびReを含む地球化学的特徴について報告する。

    [1] MITI, (1988), 広域地質構造調査報告書:播但地域–昭和62年度, 46 p.

    [2] 今井秀喜, (1970), 近畿地方西部鉱床生成区 日本鉱業会昭和45年度秋季大会分科研究会資料, 4 p.

    [3] Cendi et al. (2023) Economic Geology. 118(6), 1341-1370.

  • 池津 雄地, 大田 隼一郎, 小笠原 光基, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T11-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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     金は宝飾品や投資・資産だけでなく, 医療やエレクトロニクスといった産業分野においても活用領域が広がっており, 今後さらなる需要増加が見込まれている [1]. 金鉱床からはアンチモンが同時に産出されることがあり, 例えば兵庫県の中瀬鉱床は日本を代表する金・アンチモン鉱床である [2]. 金とアンチモンが同時に濃集する過程を明らかにすることで金鉱床形成のメカニズムの一端を解明することにつながる可能性がある.

     中瀬鉱床は熱水性鉱床であると考えられている [2]. 熱水性鉱床の形成プロセスを考察する上では, 鉱脈が形成された年代を明らかにし, 鉱床を形成したマグマの活動史と関連付けることが重要である. しかしながら, 中瀬鉱床の形成年代については現在も未解明となっている. 鉱床の形成年代の決定方法としては放射年代法が用いられることが多く, 中でもレニウム (Re) とオスミウム (Os) の放射壊変系を用いたRe-Os放射年代測定法が近年注目されている [3, 4].

     本研究では, 兵庫県・中瀬鉱床の形成メカニズムの解明を目標として, レーザーアブレーションを用いて鉱石の局所化学組成分析を行い, 金やアンチモンを含む様々な元素の挙動を考察した. また,Reの存在領域を明らかにし, Re-Os放射年代測定法の適用可能性について検討を行った. 具体的には,中瀬鉱山から採取された鉱石試料計42点を対象に, これらの鉱石試料から代表的な産状を観察するため, まずはそのすべてを岩石カッターで半割し肉眼で観察を行った. そして, 典型的な鉱化ステージが確認出来る試料を選出し, チップ上に切り出した上で直径3 cm 程度の研磨片試料を作成した. 研磨片試料に対して反射顕微鏡, 実体顕微鏡およびエネルギー分散型X 線分析装置搭載走査型電子顕微鏡 (SEM-EDS) を用いてそれぞれの鉱石試料を構成する鉱物の種類とその産状の観察を行った. さらに, レーザーアブレーションシステムと組み合わせたICP-MS (LA-ICP-MS) を用いて局所化学組成分析を実施した.

     鏡下およびSEM-EDS観察により, 本鉱床が典型的には母岩側から順に硫砒鉄鉱・黄鉄鉱脈, 石英脈, ベルチェ鉱・輝安鉱脈の順で構成されていることが確認された.一方, 自然金は石英中に単体で存在する場合と輝安鉱と共存する場合があることが分かった. また, LA-ICP-MS分析の結果, Reは主に硫砒鉄鉱の外縁部に分布する傾向があることが示唆された.

    [1] Zion Market Research. (2023). [2] 北卓治. (1962) 京都大学博士論文.[3] 鈴木勝彦, 加藤泰浩. (2010) 資源地質, 60(1), 25-36. [4] Cendi et al. (2023) Economic Geology, 118(6), 1341-1370.

  • 福井 堂子, 下岡 和也, 高橋 俊郎, 齊藤 哲
    セッションID: T11-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに 

     エピ閃長岩とは,花崗岩類とアルカリ成分に富む流体との岩石−水相互作用によって形成される,石英に枯渇し,端成分に近いアルカリ長石類に富む岩石である.また,エピ閃長岩は,その形成時に流体が運んできたUやSn,希土類元素(以下, REE)などを濃集させることが知られている(Suikkanen and Ramo,2019).実際に,日本に産するエピ閃長岩からも,Liに富む希少鉱物(今岡・永嶌,2022)やZn,Snに富む閃亜鉛鉱(中野ほか,2023)などが記載されており,エピ閃長岩は多様な鉱物資源の探索対象として期待される.このような鉱物資源の探索に向けて,濃集先となるエピ閃長岩そのものの形成過程を明らかにしていくことは重要である.しかしながら,日本においては,エピ閃長岩中の希少鉱物について鉱物学的な研究が盛んになされているが,エピ閃長岩形成時における元素の移動・濃集過程を詳細に検討した研究例は限られている.本研究では,エピ閃長岩形成時の元素の挙動を解明する研究の一例として,愛媛県伯方島に分布するエピ閃長岩類について,野外産状および岩石記載,全岩化学組成・REE組成分析,Sr–Nd同位体組成分析をおこない,エピ閃長岩形成時の元素の移動・濃集について検討した.

    2.野外産状・岩石記載 

     当地域には2種類のエピ閃長岩が産しており,その色調の違いにより,真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区別される.これらのエピ閃長岩類は花崗岩に伴って産出し,いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭である.真珠色閃長岩は多孔質な岩相を示し,露頭中に多数の空隙が認められる.一方,牡蠣色閃長岩は塊状・緻密な岩相であり,真珠色閃長岩に比べ,母岩の花崗岩の組織が残存している.主な構成鉱物はいずれもアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,特に有色鉱物について,真珠色閃長岩では柘榴石が,牡蠣色閃長岩では単斜輝石が最も多く含まれる.真珠色閃長岩中では柘榴石やチタン石が空隙を埋めるように産する.牡蠣色閃長岩中では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が認められる.また母岩との境界付近では,角閃石の単斜輝石への交代も認められる.

    3.REE組成分析・アイソコン解析 

     REE組成分析の結果から,REEの存在度は母岩の花崗岩よりも真珠色閃長岩では低く,牡蠣色閃長岩では高い値を示す.また,花崗岩がエピ閃長岩化する際の元素の移動を検討するためにエピ閃長岩類および母岩の花崗岩類の全岩化学組成データを用いて,アイソコン解析(Grant,1986)を行った.不動元素として,花崗岩に多く含有され,エピ閃長岩化後も長石の結晶構造に保持されるAlを設定した.その結果,両エピ閃長岩のいずれも母岩からのSiの減少と,Li,Na,Kといったアルカリ元素の増加が認められた.一方,他の元素に着目すると,花崗岩中の苦鉄質鉱物に含まれるTi,Fe,Caやジルコンなどの副成分鉱物に含まれるZr,REEなど,多くの元素が真珠色閃長岩では母岩の花崗岩類に比べて減少するのに対し,牡蠣色閃長岩では増加する,という結果が得られた.

    4.Sr-Nd同位体組成 

     エピ閃長岩形成をもたらした流体の起源を検討するため,当地域のエピ閃長岩類および花崗岩類についてSr-Nd同位体組成分析を行った.真珠色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したεSrt (90Ma)を示すが,εNdt (90Ma)は母岩よりも有意に低い値を示す.一方,牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したSr-Nd同位体組成を示す.

    5.考察 

     アイソコン解析結果から, 真珠色閃長岩で減少したTi,Fe,Ca,Zr,REEなどの元素が,牡蠣色閃長岩では増加したと考えられる.このことは, 真珠色閃長岩形成時に母岩から溶脱した元素が,牡蠣色閃長岩に付加したことを示唆する.また,牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩と類似したSr-Nd同位体組成を示すが,このことはエピ閃長岩形成をもたらした流体が花崗岩質マグマ由来であることを示唆する.一方,真珠色閃長岩は花崗岩類より有意に低いεNdt (90Ma)組成を持つことから,Nd同位体比の低い別起源の流体の関与があったことが示唆される.したがって,真珠色閃長岩形成時には,花崗岩質マグマ起源の流体との反応により同位体組成の類似するSrがアルカリ長石中に保持されるとともに,①Ndを含む多くの元素が溶脱し空隙に富む岩相をつくる.さらに,②花崗岩より低いNd同位体組成をもつ流体が供給され,空隙を埋めるように低いNd同位体組成をもつ柘榴石およびチタン石が晶出する,といった過程を経たと考えられる.また,牡蠣色閃長岩形成時には,①で母岩から溶脱した元素が濃集した流体との反応により,花崗岩と類似したSr-Nd同位体比を保持しつつ,有色鉱物の交代や,Siの溶脱によってできた空隙の充填が進んだと考えられる.

T12.海域火山と漂流軽石
  • 前野 深
    セッションID: T12-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海域での爆発的噴火はプレート境界の活火山地域で広く発生し得る。近年の福徳岡ノ場(FOB)やフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ(HTHH)火山の噴火に見られるように、浅海の噴火ではしばしばマグマ水蒸気爆発、津波、軽石筏など多様な表面現象が発生し、噴火に伴うハザードも陸上火山とは異なったものになる。このような浅海の噴火に伴う表面現象の発生要因とハザードの理解は、島弧の海域火山の防災、減災において重要である。

     浅海で火山噴火の爆発性が増大する主な要因は、マグマと海水との相互作用である。これまで多くの研究があるように、マグマ上昇および噴火過程において破砕、細粒化したマグマは海水と接触することにより、海水が瞬時に気化・膨張し、マグマの熱が運動エネルギーに変換される。エネルギー変換効率は一般に、水深が浅いと高く、水深が深いとマグマの破砕と水の気化が抑制されるため低くなる傾向がある。しかし、水深と表面現象との関係など、多くの未解明な点が残されている。浅海での爆発的噴火とそれに起因するハザードの理解を進めるために取り組むべき問題として、(1)マグマは浅海環境で海水とどのように相互作用するのか?(2)このような条件下でのマグマ噴出率と噴煙高度との関係は?(3)爆発性、マグマ噴出率、噴火様式、噴火水深の関係は?(4)爆発に伴い発生する高エネルギーの重力流(火砕流密度流[PDC])はどのような条件で海面上に発生するのか?などが挙げられる。大規模な海底噴火の直接観測はまれであるため、上記の問題のほとんどについて議論の余地が残されている。地質時代あるいは歴史時代の大規模な浅海噴火やその影響の解明も重要だが、それらの理解を進めるためには、水深、爆発性、噴火規模などが明らかで、近代観測網により捉えられた噴火事例が重要な手がかりとなる。

     このような観点から、本研究ではまず日本国内および世界における代表的な爆発的海底噴火、とくに2021年FOB噴火と2022年HTHH噴火の特徴を整理した。これらの噴火の分析は、爆発的海底噴火に伴う現象や噴火過程を理解し、ハザードの種類や影響を評価する上で有用である。さらに、既存の火山データベースや先行研究にもとづき、海底火山噴火に特化したグローバル・データベース(およそ120火山400事例)を構築し、海底噴火に関連する表面現象の一般的特徴の抽出を試みた。とくに、噴火水深と噴火検知方法の関係、噴火水深と爆発性の関係、噴火水深と海面上でのPDCの発生や流走距離との関係などに焦点を当てた。

     2021年FOB噴火と2022年HTHH噴火の整理と比較は、マグマ水蒸気爆発、高高度の噴煙発生、津波、軽石筏など既知の現象の理解進展に貢献した。加えて、噴煙が海を貫き大きく成長し得ることや、噴出量や噴火強度が大きければ火口が拡大し深くなり、逆に噴出量や噴火強度が小さければ水深が浅くなり島が形成されることなど、海域噴火特有のプロセスを明確にした。噴火水深は、表面現象と密接に関係するが、大規模な爆発的噴火の際には水深が急激に深くなる場合があり、現象推移の理解において重要になる。

     データベース解析からは、水深400 m以深の噴火では海面上に爆発的現象を生じる頻度が極端に下がり、その検知方法も水中音波、地震、軽石筏、変色水、潜航による直接観測にほぼ限定されることがわかった。海面上にPDCを伴う噴火の割合は、水深が浅い噴火ほど高いものの全体の10%未満であること、噴火規模(またはマグマ噴出率)と海面上に生じるPDCの最大流走距離との間には指数関数で示される関係があることなども明らかになった。噴火水深と表面現象や堆積物との関係をより明確にするためには、様々な事例を研究する必要があり、新たな事例を観察・観測する機会を逃さないことが大切である。浅海での噴火の遠隔観測方法として、インフラサウンド、地震および衛星によるモニタリングなどが挙げられるが、これらは噴火現象の迅速な把握に有用である。このような表面現象の監視・観測手法の活用は、将来の海域火山噴火の際に考慮されるべきである。

  • 長井 雅史, 三輪 学央, 中田 節也, 角野 浩史, 上田 英樹, 安田 敦, 小園 誠史, 廣瀬 郁, 南 宏樹, 小林 哲夫
    セッションID: T12-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     小笠原硫黄島火山は活発な地殻変動・地熱活動・地震活動が続いているカルデラ火山である。2011年以降隆起速度が大きく水蒸気噴火が頻発する状態にある。噴火地点は再生ドームである元山を囲む正断層帯の付近に広く分散している。カルデラ南部の翁浜沖では2021年8月より噴火活動が開始し、2022年には小規模ながらマグマの噴出するスルツェイ式噴火が確認された(長井ほか、2022)。ここでは2023年10月以降の活動について聞き取り調査、現地調査や機上観察から得られた噴火経緯と噴出物の岩石学的特徴の概要について報告する。

    翁浜沖2023年10月以降の噴火経緯

     2023年10月21日から波食台の南端付近でコックステールジェットを噴出するスルツェイ式噴火が再開した。噴出活動に関連して孤立型の微動が頻発した。25日頃から噴煙の規模が大きくなり、漂流する軽石の量も増えた。30日には火口の北側に砂州が形成され、31日以降火口の周りに陸上火砕丘が成長した。11月3日頃の噴火の最盛期には火砕サージを伴う爆発が頻発し、大型の火山弾が飛散した。火山灰噴煙から本島南部に少量の降灰があった。火砕丘は直径145 m、高さ25 m程度まで成長した。11月4日頃から11月9日にかけて一時的に乾陸上の噴火に移行したとみられ、南東側に小規模な溶岩流が流出するとともに、空振を伴うブルカノ式噴火様の小規模な爆発が頻発した。この間、溶岩の分布しない火砕丘の北東部と南西部では波食が進み、一方で主に再堆積物からなる砂州が北側と西側に成長した。11月12日より火砕丘の西山腹でスルツェイ式噴火が再開し、その後火砕丘の再形成と崩壊を繰り返したのち、12月中旬に噴火は一旦終了した。火砕丘は主に溶岩からなる岩礁を残して速やかに消滅した。砂州は縮小しながら陸側に移動を続け、12月中旬頃に本島に接続した。12月31日~2024年1月4日まで、2月28日から4月19日頃まで噴火活動が再開したが、これらの活動では新たな陸地の生成はおこらなかった。

     2024年3月頃から翁浜沖の噴出物と同質な漂着軽石が南西諸島から伊豆諸島、本州太平洋岸に漂着を始めた。これらは漂流軽石量が多かった10月25日から11月3日の噴火、及びその後の浸食による二次的な流出に主に由来したものである可能性が高い。

     採取された本質物は淡褐色~暗灰色の軽石ないしスコリアである。表面の急冷縁が欠落し、丸みを帯びているものが多い。大型の岩塊は最大で1.2 m程の大きさがあり、全体に暗灰色でしばしば赤褐色に酸化している。複数の火砕物粒子が溶結した組織をもつ岩塊も見出されている。これらは陸上の火砕丘を構成していたものと考えられる。噴火地点に近い砂州では、溶岩流に由来するとみられる新鮮な灰色の溶岩片も打ち上げられた。

    岩石学的特徴

     本質物の全岩化学組成はSiO2=61.2~61.3 wt%、Total Alkali(Na2O+K2O)= 10.6~10.8 wt%の範囲に集中しており、2022年の噴出物とほぼ同質の粗面岩である。斑晶や石基で鉱物組み合わせに大きな違いはなく、斜長石、単斜輝石、カンラン石、Fe-Ti酸化物、燐灰石からなる。またFe硫化物がFe-Ti酸化物内に包有物として認められた。石基微晶・微斑晶に乏しく、火山ガラスの化学組成も全岩組成に近い(SiO2=61.8~63.2 wt%)など、2022年噴火に比べると噴出マグマの結晶度が低い傾向がある。

    噴出量・噴出率

     火砕丘を円錐台近似で噴出量を概算すると、陸上部分の体積は30万m3程度であった。海底部分については、波食台が貝塚ほか(1985)と同様の水深を保っていると仮定し、噴出物斜面の傾斜を波食台上の砂州と同程度の2°として見積もった場合、20万m3前後となった。一日程度の期間の平均噴出率は最盛期でも1 m3/s程度であった。まとめ今回の噴火では小規模ながら浅海域におけるマグマ噴火の典型的な推移を経たものと考えられる。推定された噴出量は全体で50万 m3程度(VEI=1相当)と小さく、噴火活動に関連してデフレーションを示すような、通常と異なる地殻変動も認められていない。このため硫黄島の地下浅部に上昇していると考えられるマグマは、噴火で消費されることがほとんどなく蓄積が続いていると判断される。また、噴出量が小さい噴火であっても漂流軽石が広域に分布しうることを示した事例となった。

    謝辞 

     資試料の収集及び現地調査に際して海上自衛隊海上幕僚監部及び硫黄島航空基地隊気象班、気象庁火山監視・警報センターの御協力を得た。機上観察に際しては朝日新聞社の御協力を得た。以上の方々に記して御礼申し上げる。

    文献

    貝塚ほか(1985)地学雑誌,94,424-436. 長井ほか(2022)火山学会予稿,22.

  • 三輪 学央, 長井 雅史, 中田 節也, 安田 敦, 小園 誠史, 上田 英樹
    セッションID: T12-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海底噴火は地球の様々な海域・水深で発生する普遍的な現象であり,そのメカニズム解明は地球の火山活動を理解する上で重要である.海底噴火において,マグマと海水の接触は水深に関わらず不可避であり,最も重要な物理過程の一つである.特に浅海では海水とマグマの連続的な接触が噴火様式の決定に寄与したと推定された例もある(Maeno et al., 2022).その一方で,噴火様式はマグマの脱ガス過程で支配されることが良く知られている(e.g., Jaupart and Allegre, 1991).上昇中のマグマからガスが取り除かれる開放系脱ガスは,発泡によるマグマ密度の低下を阻害し,非爆発的な噴火の原因となる(e.g., Martel et al., 2000).従って,海底噴火のメカニズムを理解するためには,海水とマグマの接触過程とマグマ自身の脱ガス過程の両方を評価する必要がある.

     本研究は小笠原硫黄島の沖合で2022年に発生した海底噴火のメカニズムを噴出物の岩石学的特徴から検討した. 小笠原硫黄島は伊豆小笠原弧南部に位置する火山島であり,活発な後カルデラ火山活動で知られている(e.g., 長井・小林, 2015; Ueda et al., 2018).小笠原硫黄島では2022年7月に,1889年の入植以来はじめて,マグマ噴火が観測された (Miwa et al., under review).このマグマ噴火は浅海域(水深10~20 m)に位置する火口とコックステールジェットの間欠的な噴出で特徴づけられ,硫黄島南側の翁浜に大量の軽石岩塊を漂着させた.軽石岩塊はしばしば急冷縁を有し内部に向かって発泡度が上昇する.この組織は,海水による急冷と遅延発泡を示唆する.急冷縁は斑状組織を示し,薄茶色透明な石基ガラスと20-40 vol.%の発泡度を有する.斜長石斑晶-石基と単斜輝石斑晶-石基の熱力学平衡に基づき,マグマストレージでのマグマ温度と含水量がそれぞれ970℃と1.4 wt.%と求められた(Miwa et al., under review).それに対して,顕微赤外分光で測定した急冷縁の石基ガラスの含水量は~0.21 wt.%であり,海底面付近(< 0.2 MPa)での急冷を示唆する.初期マグマ含水量1.4 wt.%を用いて,減圧下での閉鎖系脱ガスに伴うマグマ発泡度の変化を計算すると,急冷時の含水量・発泡度は開放系脱ガスで説明されることが分かった.また,硫黄島の軽石岩塊の急冷縁で観察される発泡度(20-40 vol.%)は,爆発的噴火に伴う噴出物の発泡度(> 60 vol.%)よりも低い.以上から硫黄島2022年噴火は,上昇時に開放系脱ガスを被ったマグマヘッドが海底面付近に噴出し,海水と接触することで急冷破砕され,熱された海水がマグマ中に残ったガスとともにコックステールジェットを形成したものと考えられる.

    <参考文献>

    Maeno et al. (2022), Comm. Earth. Envir., 3, Article number 260.

    Jaupart and Allegre (1991), Earth. Planet. Sci. Lett., 102, 413-429.

    長井・小林 (2015), 地学雑誌, 124, 65-99.

    Ueda et al. (2018), Earth. Planet. Space., 70, Article number 38.

    Miwa et al, under review in Bull. Volcanol. .

  • 坂本 泉, 星野 伊吹, 横山 由香
    セッションID: T12-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    伊豆半島東部沖海域は,複雑な凹凸地形が発達している.伊豆大島北西端乳ヶ崎沖には,北西-南東方向に発達した乳ヶ崎海脚および、その南西に海脚に平行な谷(長さ約10km,幅約3-5km)に渡り存在している.また,伊豆半島東側門脇岬沖には,1000m/5000mの急斜面が発達している.一方,相模灘の水深1000m-1400mの海底地形は,比較的なだらか(300m/10km:東傾斜)な地形が発達している.葉室他(1980)は,伊豆半島-伊豆大島間に存在する東伊豆沖海底火山群を,岩石学的に天城系列と伊豆大島のソレアイト系列に区別し、中間組成が無いことを明らかにした. 本研究対象としている熱川沖海底溶岩流は,伊豆大島北西端に位置する乳ヶ崎海脚(北西-南東方向)に平行に発達する谷状凹地内(水深600m付近に端を発す)を,伊豆半島に向け(北西方向)流動し,門脇岬沖(水深1000m付近)で流動方向を90度曲げ北東方向の相模灘に向け流動している.サイドスキャンソナー記録から,大島〜門脇岬間で約10km,門脇岬沖〜相模灘間で約10kmの合計約20kmの距離を海底で流動したと推定される.1985年から1997年までに計13回の“しんかい2000”による潜航調査が実施された(例えば宇井他,1988,仲・堀田,1990,Sakamoto et al., 1997等).これらをまとめると,1)海底溶岩流中流部では表面に縄状構造・コルゲーション構造が発達したシートフローが観察された.さらにプレッシャーリッジの割れ目から,溶岩内部を観察したところ,複数枚重なる溶岩流が確認された.2)海底溶岩流はその下流部(相模灘)において,10-20cmサイズの角礫状砕屑物や,枕状溶岩が多く確認された.3)中流部・下流部とも溶岩縁辺部では角礫状砕屑物が形成されている.4)中流部および先端部の岩石は,伊豆大島と同じ岩石化学組成である.5)溶岩マージンが冷却をブロックし,内部のメルトが流動する事で,海底を20kmもの長距離を流れる溶岩の流動メカニズムを推定した. 1997年に現JOGMECのBMS初号機を用いた掘削が,本溶岩下流部で行われ,約1.8mの鉛直方向の岩石コアを取得に成功した.それから10年後の2017年にはJAMSTECのBMSによる溶岩中流部で行われ約6mの岩石コアを採取する事に成功している.これら柱状岩石コア試料の肉眼観察での特徴は,1)頂部0-25cmはガラス質急冷相であり,25-50cmは灰色塊状溶岩相で,43-63cmは黒色ガラス質急冷相が発達している.63-74cmは塊状岩相であり,74-83cmは破砕岩相であった.90-170cmは塊状溶岩相,170-169cmは破砕相,180-200cmは塊状溶岩相,200-216cmは破砕岩相,216-265cmは塊状溶岩相,265-270cmは破砕岩相,260-385cm(以深)は塊状溶岩相である.2)塊状溶岩相には,脈状気泡列(0.5-1.0mmの気泡の配列, 1.5-2.0cm毎)が観察される.脈状気泡列は流理構造と考えられる.流動メカニズム:これまでに得られた海底イメージ画像・有人潜水船での観察および採取試料・着座型海底ボーリング試料の記載を総合し,以下の様に海底での流動メカニズムを推定した.1)割れ目状噴火により,メルトが海底に流出.メルトが海水に接することで,表面に小さな節理およびガラス質急冷周縁相の形成. 2)さらに溶岩内部にメルトが供給され,固化しつつある急冷周縁相において内部膨張に伴うことで,破砕化が進んで行く.一部は枕状溶岩様に,内部メルトが外部急冷相を割って表面に露出することで,自らの縁辺部に急冷相を形成していく.3)度重なる溶岩メルトの供給により内部は膨張し,外側に形成された急冷相は固化することで独立した岩片となり,溶岩の周縁部に重なり形成される.これらの岩片の重なりは,プレッシャーリッジに発達した割れ目からも観察され,水中火砕岩を周囲に形成していく.海底という環境下では,急速に冷却固化してしまう溶岩に対し,周囲に形成されるより細粒な水中火砕岩で内部方向に固化から妨げる.このため溶岩周縁部に幾重にも重なる溶岩ブロックを形成する事で,溶岩トンネル状に流動する事で長距離移動が可能になったと推定される.引用文献:葉室他 (1983) 震研彙報, 58, 527-557.仲二郎・堀田宏 (1990) 第6回「しんかい2000」研究シンポジウム報告書, 277-284.宇井他(1988) 第4回「しんかい2000」研究シンポジウム報告書, 149-156.Sakamoto, I. et al., (1997) IAVCEI assembly (Mexico), 11.

  • 石塚 治, 井上 卓彦, 有元 純, 川邉 禎久, 及川 輝樹, 前野 深
    セッションID: T12-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    伊豆弧の火山では,応力場や地殻構造を反映してマグマの水平方向への地殻内長距離移動が起き,側火口列が形成されることが明らかになってきた(例えば八丈島, 伊豆大島).伊豆大島火山では,陸上部に多くの側火口が分布し,割れ目噴火に伴う火口列の形成も知られているが,海底部にも多数の側火口列が分布する(Ishizuka et al., 2014, 2015).生活や経済的基盤が存在し,噴火が起きた際の影響が懸念される沿岸域でも,側火山の活動による噴火活動がこれまで発生してきた可能性があるが,大型調査船が接近できない等の制約により,これまで調査が行われていなかった.本研究では,伊豆大島沿岸域における火山活動履歴の理解へ向け,1)高分解能地形調査,2)反射法音波探査による構造探査,3)小型ROVによる海底観察と採泥器による試料採取,を実施している.本発表では,その成果の概略を紹介する.

    1)沿岸域側火口の確認 沿岸域調査により複数の側火口と見られる火山体が北西及び南東沿岸域を中心に確認された.沖合から陸上部まで,側火口の活動が起きてきたことが裏付けられた.北西沿岸域では,沖合で確認された北西―南東方向の断層が多数存在し,その変位によって北西―南東方向に伸びる凹地が形成されていることが明らかになった.認められた火山体には,断層による変位が見られるものとそうでないものがある.断層系は現在も活動的であると同時に,複数回の側火口列形成イベントがあったことが明らかである.

    2)側火口配列の時間変化伊豆大島南西部千波崎から南西方向に伸びる高まりを確認した.千波崎陸上部には火口近傍相が確認でき,発見した高まりはかつての割れ目火口の海底延長部と考えられる.この火口から流出したと考えられる溶岩が陸上及び海底で認められ,14C年代から12200年前に活動したことが明らかになった.側火口列の配列は形成時期によって変化した可能性を示している.

    3)側火口活動域の時間変化 南東側では北西側に比べ,地形の保存がよい側火山体や割れ目火口列が多く確認された.伊豆大島南東部では,現在のカルデラ形成以降の新期大島の活動による側火口列(Y4, N3等)が複数知られている.さらに沖合の側火山列で採取された噴出物に後カルデラ期の特徴を持つものが多く認められたことを併せて考えると,S2期以降,海底部に至る長大な側火口列の形成は主に島の南東部で繰り返し起きている可能性が高い.北西沿岸域では断層系の発達が顕著なのに対して南東沿岸域では明確な断層は確認できていない.南東沿岸域でマグマの生産,貫入が盛んで,地殻の伸張をマグマの貫入が補償しているのに対し,北西側ではマグマの供給が乏しく,正断層系の発達と盆地形成が起きているのかもしれない.

    引用文献:Ishizuka, O.et al. (2014) Journal of Volcanology and Geothermal Research, 285, 1-17. Ishizuka, O.et al. (2015) Earth and Planetary Science Letters, 430, 19-29.

  • 岩橋 くるみ, 石塚 治, 川口 允孝, 及川 輝樹, 西原 歩, 前野 深, 安田 敦
    セッションID: T12-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海底火山は,陸上火山と比較して,その活動を直接観測することが困難であることが多い.そのため,海底火山の活動によって噴出される漂流軽石は,これらの海底火山の火山活動の情報を得る上で重要な手がかりとなる.特に,その岩石学的特徴は,火山噴火の前駆過程や噴火を発生させたマグマの起源を知る上で非常に有用である.本発表では,2023年10月に鳥島近海で発生した地震の後に,震源付近の海域で採取された漂流軽石の岩石学的特徴について報告する. 

     2023年10月2日から8日にかけて,鳥島南西にて4回の地震が観測された.その後,気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」によって伊豆鳥島近海で漂流軽石が採取された.軽石は,4回にわたり,次に示す異なる場所・時刻に採取された①29°15’ N、140°00’ E付近(10月27日12時)、②29°54’ N、139°34’ E付近(10月27日23時)、③29°54’ N、139°32’ E付近(10月28日7時)、④29°02’ N、138°00’ E付近(10月31日9時).このうち,①で採取された軽石は,肉眼で白色を呈し,しばしば角ばった形状をしていた.また,パン皮状の表面をもつものも見られた.これらを,本研究では白色軽石と呼ぶ.白色軽石は,しばしば暗色包有物を含んでいた.一方で,その後の3回の観測で採取された軽石は,肉眼で灰色を呈し,よく円磨されていた.また、これらの軽石には,高頻度で生物遺骸の付着がみられた.これらを,本研究では灰色軽石と呼ぶ.灰色軽石にも,高頻度で暗色包有物が見られた.

     採取された白色軽石・灰色軽石について,本研究では,XRFおよびICP-MSによる全岩化学組成分析(産業技術総合研究所,東京大学), EPMA(産業技術総合研究所)による化学組成分析・組織解析を実施した.

     白色軽石は,斑晶として主に斜長石,輝石,Fe-Ti酸化物を含んでいた.石基はガラス質であり,わずかにマイクロライトを含んでいた.全岩化学組成・石基ガラスの化学組成は,流紋岩に分類された.全岩の微量元素組成は,伊豆小笠原弧の西に位置する背弧リフト帯の噴出物と類似した特徴を示した.そのため,白色軽石の起源は,伊豆小笠原弧の背弧リフト帯である可能性が高い.また,これらの軽石が観測される前に,火山活動に関連していると考えられる津波が観測されている(Sandanbata et al., 2024; Mizutani and Melgar, 2023).    

     一方で,灰色軽石は斑晶として主に輝石,斜長石を含んでいた.石基のガラス組成は,トラカイトに分類された.この化学組成は,福徳岡ノ場の噴火で噴出した軽石に特徴的な組成である.加えて,灰色軽石中の暗色包有物の特徴は,Yoshida et al.(2022)で報告されている暗色包有物の特徴と非常に類似していた.したがって,この灰色軽石は,福徳岡ノ場2021年噴火に由来する可能性が高い.

    謝辞:本研究で分析に使用したサンプルは,気象庁地震火山部によりご提供頂きました.ここに記して感謝いたします.

    参考文献:

    Mizutani, A. and Melgar, D. (2023) Potential volcanic origin of the 2023 short-period tsunami in the Izu Islands, Japan. Seismica. 2.Sandanbata, O., Satake, K., Takemura, S., Watada, S., Maeda, T. and Kubota, T. (2024) Enigmatic tsunami waves amplified by repetitive source events near Sofugan volcano, Japan. Geophysical Research Letters. 51, e2023GL106949.

    Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyu, T., Usui, Y., Chang, Q. and Ono, S. (2022) Variety of the drift pumice clasts from the 2021 Fukutoku‐Oka‐no‐Ba eruption, Japan. Island Arc. 31, e12441.

  • 桑谷 立, 西川 悠, 北尾 馨, 五十嵐 弘道
    セッションID: T12-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海域火山から大量に軽石が噴出された場合,その漂流および漂着現象は,海上交通や漁業,観光業などに大きな被害を及ぼす可能性がある.これらの事前対策には,漂流軽石の沿岸部への到達確率や期間,量などに関するハザード評価が重要である.Nishikawa et al. (2023, Progress in Earth and Planetary Science, 10, 21)では,日本近海に位置する海域火山からの軽石噴出を想定して,過去の海流データを用いた漂流シミュレーションを実施した.このような軽石漂流のハザードに関する解析結果や関連情報は,行政や企業,市民を含む様々なステークホルダーに対して,わかりやすく発信されることが望ましい.桑谷ほか(2023, 情報地質, 34, 61-68)では,将来的なハザード評価の発信に向けて,数値計算により得られる大量の粒子経路をユーザーフレンドリーにweb上で可視化するための計算技術とシステムを開発しており,現在,公開準備を進めている.本講演では,これまで行ってきたシミュレーションや可視化システムについて紹介したのち,これらで得られた結果をもとに,実際に軽石漂流のハザードに関する情報提供を行った事例について共有する.さらに,今後,ステークホルダーのニーズに応じた本格的なハザード評価を実現するために,シミュレーション開発やシステム構築のうえで必要な研究要素を整理・議論する.

  • 石毛 康介, 諏訪 由起子
    セッションID: T12-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    福徳岡ノ場2021年噴火では、VEI4相当(Maeno et al., 2022)の爆発的噴火に伴い、大規模な漂流軽石が発生し、日本各地や東南アジアの沿岸に漂着した。漂流軽石は船舶の航行障害のみならず、発電・工業設備の取水障害にもなりうるため、衛星画像などを用いた現象の迅速な監視が災害対策において重要である。しかし、解析作業は労力がかかり、かつ専門的な判断が必要であった。本研究では、海洋上の漂流軽石を自動で検出し、解析作業を効率化および半自動化することを目的に、衛星画像と機械学習を用いたアプローチを開発した。既往研究では、光学衛星に捉えられた漂流軽石の反射光の特性を利用したルールベースアルゴリズムの確立(Whiteside et al., 2021)や、ランダムフォレストなどの機械学習アルゴリズムを用いた自動検出の試み(Chen et al., 2022)が報告されている。これらの研究は、海上ではっきり認識される比較的分かりやすい軽石の判別には成功していたが、漂流濃度が薄くぼやけて写る漂流軽石の検知には課題があった。

    本研究では、そのような検知を目指し、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の導入を検討した。CNNを用いた半自動解析の試みとして、衛星画像中の漂流軽石の有無の判別(画像分類)とピクセルレベルでの漂流軽石の検出(セグメンテーション)の2手法を検討した。画像分類は衛星画像中の漂流軽石の有無を判別し、セグメンテーションは衛星画像中の漂流軽石をピクセルレベルで判別する画像認識問題である。また、各CNNの学習に用いる教師データの作成には、太平洋上に漂う福徳岡ノ場由来の漂流軽石を捉えた2021年8月16日から10月26日までの衛星画像およびそれらに写る漂流軽石をトレースしたデータ(石毛ほか,2024地質学会)を用いた。

    まず画像分類ではアルゴリズムにVGG16を使用した。学習データは各日の衛星画像をVGG16に投入可能なピクセルサイズまで分割し、漂流軽石が写っているものと写っていないものでラベル付けをした画像を計2624枚用意した。このうち8割をトレーニング用、2割をテスト用とした。結果、Accuracyが93.5%、Precisionが93.4%、Recallが81.3%、F1 Scoreが86.9%を示すモデルが得られた。

    次に漂流軽石のセグメンテーションでは、アルゴリズムとしてU-netを用いた。教師データは192×192ピクセルサイズに分割した衛星画像のうち、ラベルごとのバランスを考慮して漂流軽石が写っている画像のみを使用した。また、それらの画像とペアになる同解像度のラベル付き画像を作成した。これらの画像セットのうち、8割を学習用、2割をテスト用とした。結果についてラベル画像と推論画像を目視で比較すると、概ね類似しているものの、特定の色調の衛星画像や低濃度の漂流軽石において判定精度が悪化する課題が残った。

    最後に、これらの手法を組み合わせた漂流軽石追跡手法を提案する。この追跡手法はまず、Sentinel-3で撮影された広域の衛星画像に対し、グリッド分割を行ったうえでVGG16による画像分類を行い、海洋上における漂流軽石の分布可能性が高いエリアを示す。この示されたグリッド内を目視で確認することで、効率的かつ高精度に漂流軽石の追跡が可能となる。また、漂流軽石の分布面積の把握が必要な場合、現段階では誤差が大きいものの、グリッド内のU-netを用いたセグメンテーションにより迅速に計算することが可能である。今後は教師データの拡充とアルゴリズムの改良によって、より高精度かつロバスト性の高いモデルの獲得を目指す。

    【参考文献】

    石毛ほか,2024.地球観測衛星を用いた漂流軽石の監視技術.地質学会山形大会

    Whiteside et al. (2021). Automatic detection of optical signatures within and around floatingTonga-Fiji pumice rafts using MODIS, VIIRS, and OLCI satellite sensors.Remote Sens. 13, 501.

    Xi Chen et al. (2022). Spectral Discrimination of Pumice Rafts in Optical MSI Imagery. Remote Sens. 14(22),5854.

  • 谷 健一郎, 佐野 貴司, 石塚 治, 及川 輝樹, 鈴木 克明, 片山 肇, 南 宏樹, 長井 雅史, 嶋野 岳人, 中村 美千彦, 浮田 ...
    セッションID: T12-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    福徳岡ノ場は伊豆小笠原弧南端部に位置する活動的な海底火山であり、2021年8月13日に11年ぶりに噴火しているのが、気象衛星ひまわり8号や海上保安庁航空機の観測から確認された。本噴火では噴煙柱の高度が16 kmと対流圏界面に達し(気象庁火山活動解説資料8月13日13時半発表)、また衛星写真から、噴火開始と同時に海面下に変色域が出現し、その後海面上に軽石が浮上しているのが観察された。さらには15日の航空機観測によって直径約1 kmの新島が誕生し、軽石筏(ラフト)が北西方向に漂流していることが判明した(気象庁火山活動解説資料8月16日14時発表)。噴火は3日間継続し、後半は噴煙柱を伴わないマグマ水蒸気爆発に移行して終息した。島は数か月後に波蝕で消滅したが、軽石ラフトは黒潮反流にのって西に1000 km以上流され、大東諸島や琉球諸島などの南西諸島の島々に続々と漂着し、海運・観光・漁業などに大きな影響を与えた。

    本噴火の発生を受けて、我々は福徳岡ノ場の周辺海域において系統的な火山地質調査と試料採集を行うための緊急調査を提案し、2022年に「新青丸」を用いた2航海(KS-22-5, -13航海)を実施した。

    KS-22-5航海は2022年4月12日~23日の期間で実施した。2021年8月噴火で放出された軽石・火山灰などの火山砕屑物の特徴・時間変化やその分布域を明らかにするために、Kグラブによる計8回の堆積物採取と夜間航走観測を実施した。Kグラブ採泥は火口の西側海域で実施し、いずれも2021年8月の噴火由来と考えられる火山灰・軽石を採集することに成功した。一部の堆積物は船上で強い硫化水素臭がして、同時に採集された底生生物も熱水環境を好むゴカイ2種とナメクジウオ1種のみしか生息していないことが明らかになった。採泥器に取り付けた深海カメラの映像でも周辺海底は、一面火山灰で覆われており、その他の底生生物は確認されなかった。

    KS-22-13航海は2022年8月25日~9月3日の期間で実施した。無人探査機ハイパードルフィン4500を用いて、計4回(第2183潜航~第2186潜航)の潜航調査を実施し、福徳岡ノ場火山近傍とその周辺海底の火山地質調査と岩石・堆積物サンプリング、また同時に底生生物の採集も行うことに成功した。特に第2183潜航では、火口西方18 kmの海底から細粒火山灰と赤色化した軽石を採集した。このエリアは8月13日のPlinian噴火において形成された噴煙柱と傘雲の直下に相当しており、採集試料は本フェーズの堆積物である可能性が高い。夜間は航走観測を実施し、地形・重力・3成分磁気データを取得した。

    調査結果と採取試料の分析から得られた概要は下記の通りである:

    ・噴火前の1999年に海上保安庁が取得した、福徳岡ノ場周辺海域の海底地形データと、噴火後に新青丸KS-22-5, -13航海で取得したデータの差分からは10 mを超えるような大きな地形変化は認められなかった。

    ・噴火の時系列に対応する可能性が高い、三種類の噴火堆積物(噴火起源密度流堆積物・降下堆積物・軽石ラフトからの沈下堆積物)を海底で発見した。また海底における噴火堆積物の分布域も衛星や航空機から観測された噴煙の流下域と概ね対応していることも明らかになった。

    ・8月13日のプリニー式噴火で形成した噴煙柱にはマグマ物質が含まれ、西方18 km地点で最大10 cm厚の降下堆積物(高温酸化した軽石を含む)をもたらした。

    ・採集された火山灰・黒曜石・軽石のガラス組成分析から、2021年噴火にはSiO2量の異なる二種類のトラカイト質マグマが関与し、噴火直前に混合していたことが明らかになった。

    本講演では、海底調査から明らかになった2021年8月噴火の噴出物運搬・堆積メカニズムについて報告する。また今年7月に実施予定の福徳岡ノ場での調査航海が実現した際には、その予察的成果についても紹介する。

  • 青島 晃, 榑松 宏征, 宇都宮 櫂, 馬淵 彩花, ??田 和佳奈, 鈴木 仁緒, 川崎 琉菜
    セッションID: T12-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     2021年8月中旬に,南硫黄島南方の福徳岡ノ場(FOB)で大噴火が起こった.噴出した軽石は,同年10月中旬に沖縄に漂着し,同年11月には伊豆諸島や伊豆半島,相模湾,千葉県に漂着した(平峰・他,2022;Yoshida et al.,2022;伊藤・他,2022;柴田・他,2023).しかし,遠州灘における漂着は不明である.そこで遠州灘東部の海岸に着目して,FOB軽石の漂着があったのか否か,もし漂着していたとすればそれはいつかを調べ,その特徴や分布,漂着時期を解明し,軽石の漂流・漂着のプロセスを明らかにすることを目的として研究を行った.

    2.試料と方法

     遠州灘から駿河湾までの16地点で,灰色軽石と白色多孔質軽石を採取した.また,摸式試料として沖縄のFOB軽石と比較した.軽石の鉱物組合せは偏光顕微鏡下で,火山ガラスの屈折率は温度変化型屈折率測定装置で測定した.化学分析は,蛍光X線分析装置で全岩分析,走査型電子顕微鏡で構成鉱物の簡易定量分析を行った.軽石の形状は直交する3軸を測定し,Zingg(1935)による形状分類を行った.円磨度は,Krumbein(1941)の円磨度印象図と比較した.

    3.結果と考察

    鉱物組成

     灰色軽石は,発泡した無色のガラスの石基と単斜輝石,斜長石,かんらん石,ガラスが集合した斑晶からなる.一方,白色多孔質軽石は,よく発泡したガラスの石基と石英や斜長石,黒雲母,角閃石,直方輝石の斑晶が目立つ.

    火山ガラスの屈折率

     灰色軽石や沖縄のFOB軽石の火山ガラスの屈折率の最頻値は1.510-1.511であるが,白色多孔質軽石は1.497-1.504であり著ししく低く,1.499-1.500と1.501-1.502に2峰性分布を示す.

    化学組成

     灰色軽石は,粗面岩~粗面安山岩であるが,白色多孔質軽石は デイサイトや流紋岩である.輝石の化学組成は,灰色軽石は鉄に乏しい組成を示すが,白色多孔質軽石はカルシウムに乏しい.

     以上より灰色軽石の鉱物組成や火山ガラスの屈折率,化学組成が,伊藤・他(2021)や及川・他(2022),Yoshida et al.(2022)によるFOB軽石とほぼ同一であることから,FOB起源である.一方,白色多孔質軽石は, FOB起源ではなく複数の起源が考えられる.

    形状

     遠州灘と沖縄のFOB軽石はともに球状を示すが,遠州灘の軽石の方が沖縄の軽石よりも形状の分散が小さい.平均粒径は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べ小さい.さらに,円磨度の平均値は遠州灘の軽石が沖縄の軽石に比べて大きく円形に近い.以上より,遠州灘のFOB軽石は,海流による長距離運搬の過程で,円磨,破砕され粒径が小さく形状が球形に近くなったと考えられる.

    漂着時期

     遠州灘のFOB軽石は,2022年3月までの調査では見つからなかったが,2022年5,6月の調査では,多数が採取されたことから,遠州灘海岸へは2022年5月以降に漂着したことが推定される.気象庁(2022)のアメダス御前崎の記録によると,2021年12月~2022年2月では北西寄りの強風であるのに対して,2022年5,6月では南西寄りの風に変化した(図1).また,海上保安庁(2022)の黒潮の御前崎までの主軸距離によると,2021年12月上旬~2022年2月中旬では150㎞以上で遠かったが,2022年2月下旬以降は150㎞以下に近づいた(図2).以上より2021年12月~2022年3月までの遠州灘沿岸では,黒潮までの距離が遠く,冬季の強い北西寄りの季節風を受けて,東西方向に延びる遠州灘海岸への軽石の漂着が抑えられた.しかし,2022年5月になると,黒潮が海岸に接近し風も南西寄りに変化したため,軽石はこの風に押し流されて漂着した.一方,白色多孔質軽石は,2021年12月の調査では見つかっていることから,同年11月以前にすでに漂着していた.

    引用文献

    平峰・他(2022) 日本地球惑星科学連合発表要旨.

    伊藤・他(2021) 千葉県環境研究センター年報.

    海上保安庁(2022) 海洋速報.

    気象庁(2022) アメダス観測記録.

    Krumbein(1941) J. Sed. Petrol.

    及川・他(2022) 地質ニュース.

    柴田・他(2023) 横須賀博研報.

    Yoshida et al.(2022) Isl Arc.

    Zingg(1935) Min. Petrog. Mitt. Schweiz.

  • 吉田 健太, 丸谷 由, 桑谷 立
    セッションID: T12-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海域火山の噴火によって海洋に放出された浮遊性の軽石は,海流によって広範囲へと漂流・拡散していくことが知られている.そのような軽石漂流現象(pumice rafting)は,世界的に見れば10年に一度程度の頻度で発生しており[1],本邦では2021年8月の福徳岡ノ場の噴火と,同年10月以降に沖縄等で発生した大量漂着が記憶に新しい[2].大規模な軽石の漂流・漂着現象は,船舶の運行に支障をきたし運輸業や漁業に悪影響があるほか,海岸の風景を大きく変えてしまうことで観光業へも被害が出うる火山災害と言える[3].他方,海流によって一群となって移動する軽石は「軽石筏」とも呼ばれ,生物拡散を助ける働きがあるとも言われている[4].

    2021年福徳岡ノ場の例では,小笠原から始まった漂流は黒潮反流に乗って2ヶ月で約1000kmを西向きに漂流し,奄美~沖縄の南西諸島各地に漂着,その後黒潮に乗って1ヶ月程度で関東地方へ到達するものと,南方へ流れてフィリピンや台湾へ漂着するものが見られた[2].西川ら[5]が行った日本周辺の主要な海底火山・火山島から放出された軽石の漂流シミュレーションによると,三宅島などの北部伊豆諸島から放出された軽石は黒潮によって太平洋を東向きに拡散していき本州付近への最接近をしにくい一方で,ベヨネース列岩以南の伊豆・小笠原の火山群から放出された軽石は福徳岡ノ場の例同様に沖縄付近を経由して黒潮により西南日本~関東の太平洋沿岸の広い範囲に1年以内に接近する可能性がある.このシミュレーション研究は,日本列島に広く影響を及ぼしうる軽石漂流現象は,沖縄周辺を経由する経路が主要な発生類型となることを示唆している.

    2021年の福徳岡ノ場由来軽石の漂着現象は,大規模だったこともあり漂着地域の住民の関心も高く,SNSにより漂着の情報が広く展開された[2,3].沖縄への大量漂着が発生している時期に研究者による調査も行われていたが,限られた数の研究者で広範囲・継続的な観測を行うのは困難である.現代のSNSはほぼリアルタイムで位置や高解像度の写真を共有でき,双方向の情報交換も容易であるため,研究者と漂着地域住民との間で,観測の要点に関する情報交換も可能である.このような性質からSNSは広範囲で同時期に起きている現象に対して市民科学的な観測を展開するうえで適したツールと言える.加えて,漂着軽石の観測はハンマー等も不要で野外調査における危険も少ないため,保護者の監督の下で子どもを参画させるハードルも低い.子どもの関心を刺激するうえでは,観察の要点を教材の形でわかりやすく整理・定着させることが重要となるだろう[6].実際に沖縄の小学生が実施した軽石観察から,給源火山の特徴を示す特異な岩片が見出された例もある[7].

    SNSによる軽石漂着現象の追跡が威力を発揮した例がもう一つある.2024年3月以降に沖縄周辺で,福徳岡ノ場由来軽石とは特徴の異なる暗褐色の軽石のまとまった漂着が観測された.この軽石について,福徳岡ノ場の軽石漂着に際して情報交換を行っていた人間を中心に情報交換を行うとともに,軽石の化学組成分析を実施した結果,暗褐色の軽石は2023年10月の硫黄島噴火に由来する可能性があり[8],同年5月以降に関東周辺でも広い範囲で小規模な漂着が見られていることがSNSを通じて判明した.

    本講演では,2021年・24年の軽石漂着現象を概説するとともに,それらがSNSでどう認識されていったかを紹介する.また,今後同様の現象が発生した場合に,研究者サイド・地域住民サイドでどういった情報を交換することが現象把握に繋がるのかについても議論したい.

    [1] Bryan et al., 2012, 10.1371/journal.pone.0040583; [2] Yoshida et al. 2022, 10.1111/iar.12441; [3] 吉田ほか, 2022, 10.2465/gkk.220412; [4] Jokeil, 1989, 10.1007/BF00541650; [5] Nishikawa et al., 2023, 10.1186/s40645-023-00552-4; [6] 丸谷, 2021 軽石のふしぎ; [7] Yoshida et al., 2024, 10.2465/jmps.231218; [8] https://www.jamstec.go.jp/rimg/j/topics/20240531/

  • 石毛 康介, 竹内 晋吾, 上澤 真平, 土志田 潔, 諏訪 由起子
    セッションID: T12-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2021年の福徳岡ノ場噴火により大量の漂流軽石が発生し、広範囲に漂着した。漂流軽石は船舶の航行や港湾の重要インフラに重大な影響を与える可能性があり、その監視が重要である。地球観測衛星は地球表面を広範囲かつ高頻度で観測できるため、漂流軽石の監視に適している。このようなことから、漂流軽石の発生を伴った2012年のハブレ噴火や2019年のトンガ海底火山噴火、2021年の福徳岡ノ場噴火において、地球観測衛星を用いた漂流軽石の観測が行われ、その有効性が示された(例えば、Jutzeler et al.,2014)。以前は、このような地球観測衛星のデータを利用できるユーザーが限られ、かつ扱うには高度に専門的な知識が必要であった。しかし、2000年代以降、公共衛星の整備とデータのオープン&フリー化が進み、さらに近年ではクラウドコンピューティングサービスを活用したGIS(地理情報システム)プラットフォーム(例:Sentinel-hub)が整備され、衛星画像解析のハードルが下がった。しかし、地球観測衛星を用いた漂流軽石の観測及び監視が広く一般的になるためには、その手順を整理し示すことが重要である。

    本研究では、地球観測衛星を用いた漂流軽石の監視技術を検討し、その手法をまとめたのでここに報告する。

    まず、Sentinel-3やLandsatシリーズなどの光学衛星のデータは、高解像度の疑似カラー画像を簡便に生成でき、かつ海上の漂流軽石の識別が容易である。一方、Sentinel-1やALOS-2衛星等に搭載されるSAR(合成開口レーダー)はデータ処理や漂流軽石の識別がやや難しいが、天候に左右されない観測が可能である。これらの地球観測衛星について整理したうえで、近年発生したトンガ海底噴火(2019年)、福徳岡ノ場噴火(2021年)、フンガ・トンガ・フンガ・ハアパイ(2022年)、硫黄島(2023年)に伴い発生した漂流軽石を対象に、スペクトル特性や疑似カラー画像における特徴を示し、その判別方法を整理した。また、福徳岡ノ場由来の漂流軽石については漂流軽石の分布と動きを詳細に解析し、結果として、衛星観測データを用いることで高い精度で漂流軽石の位置と拡散を把握できることを確認した(図1)。

    技術的課題としては、解析作業の効率化や自動化が挙げられるが、これについては別報(石毛・諏訪、2024地質学会)で紹介する。これらの取り組みにより、衛星を用いた漂流軽石の監視がより一般的になることを目指す。

    【参考文献】

    石毛・諏訪,2024.機械学習と衛星データを用いた福徳岡ノ場2021年噴火の漂流軽石の検出および追跡手法の高度化.地質学会山形大会

    Jutzeler, M., et al., 2014. On the fate of pumice rafts formed during the 2012 Havre submarine eruption. Nat. Commun. 5, 3660.

  • 及川 輝樹, 石塚 治, 西原 歩, 岩橋 くるみ
    セッションID: T12-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    漂流軽石を発生させるような噴火は,全球的には数年に一回,日本列島近海でも十数~数十年に一回程度の頻度で起きており, 珍しいことではない(Bryan et al., 2012; 及川ほか,2023).しかし,海底噴火で形成された漂流軽石の形態や構造の特徴についての記載は必ずしも充実していない.地層中に残された軽石が海底噴火で生成された漂流軽石であるかないかを判別するためにも,海底噴火で生産された漂流軽石の特徴の記載は重要であろう.そこで,近年日本列島周辺の海域で発生した漂流軽石の形態や構造の記載を報告する.

    福徳岡ノ場2021年及び硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石

     福徳岡ノ場2021年8月噴火と硫黄島2022~2024年噴火の漂流軽石について記載する.福徳岡ノ場のものは,8月22日に気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」が採取したものと10月に南西諸島に漂着したもので,硫黄島のものは2022年7月,2023年6月,2024年3月噴火のもので硫黄島南岸の翁浜に漂着したものである.福徳岡ノ場と硫黄島のものは,色や発泡度などには違いがあるが,形態や内部構造は共通した特徴が認められる.軽石の表面は平滑でなくもこもことした凹凸のある形状をなし,凹んだ部分に沿って網目状にクラックが発達している.最外縁の厚さ約5㎜以下の部分はガラス質の急冷縁となっており気泡も少ない.ガラス質の急冷縁の下の厚さ数cmほどの間は,径1mm以下の丸い気泡が密集したスポンジ状の構造をなすが,それより径の大きく細長く引き伸ばされた形態の気泡も存在する.そのさらに内側は,中心部に向かって気泡径が増大し,中心部には径1cmを超える気泡も含まれる.なお,基の外形を保っていると判断される軽石の特徴を記している.両火山の漂流軽石とも粗面岩の組成を示す.福徳岡ノ場の漂流軽石のみかけ密度は0.3~0.6g/cm3である.

    鳥島近海2023年の漂流軽石

     2023年10月9日に鳥島近海(気象庁震央地名の定義)の孀婦海山付近を起源とする顕著な地震を伴わない津波が発生し日本列島南側の広い範囲に到達した.その後,それに関連すると考えられる新しい海底噴火の痕跡が孀婦海山で見つかり,津波と海底火山の噴火の関連性が議論されている.この津波の後,10月27日に鳥島近海で「啓風丸」が,背弧側の噴火で新たに形成されたと考えられる漂流軽石を採取した.採取された白色軽石のうち一番大きなものは,パン皮状の表皮をもつ岩塊が割れた形状している.パン皮状の割れ目がある部分は比較的平滑な面を構成している.またパン皮状クラックは開いており,割れ目に沿って内側に 2cm 程度の長さで伸びた冷却クラックが認められる.パン皮の表面は顕著な急冷ガラス縁は認められないが,表面から数㎜程度の厚さ部分はやや緻密になっている.白色軽石は,全体的に細かくよく発泡し細かい気泡が全体に認められるが,まばらに大きな気泡も含まれ,それは一方向に引き伸ばされた形状を示す.なお,表面から内部にかけて気泡の形態や密度,大きさなどの違いは顕著に変化しない.流紋岩の組成を示し,みかけ密度は0.3~0.7g/cm3である.

    まとめ

     福徳岡ノ場や硫黄島の漂流軽石は,山岸(1994)の水冷火山弾や他の水底噴火で形成された漂流軽石の特徴(Jutzeler et al., 2020)と一致する.そのため,同様の構造が認められた場合は,水底噴火起源の火砕物である可能性が高い.一方,鳥島近海で採取された軽石はパン皮状の形態をするが,同様の漂流軽石は,薩摩硫黄島沖で発生した昭和硫黄島1934~1935年噴火でも発生している(田中館,1935).このような形態状違いが生じた原因を明らかにするために,今後さらに記載事例を増やして海底噴火で生産される漂流軽石の特徴を明らかにしてく必要があろう.

    謝辞:気象庁地震火山部には,気象観測船「啓風丸」で採取されたサンプルを観察・分析する機会をあたえていただいた.硫黄島のサンプルは,気象庁火山監視警報センターの手操佳子さんおよび関晋さんに採取していただいたものである.ここに記して感謝いたします.

    文献:Bryan et al. (2012) PLOS ONE, 7, e40583., Jutzeler et al. (2020) Geophysical Research Letters, 47, e1701121., 及川ほか(2023)火山,68, 171-187., 田中舘(1935)岩石鉱物鉱床学,13,283-288., 山岸(1994)水中火山岩.北海道大大学出版会,208p.

  • 池上 郁彦
    セッションID: T12-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海底火山による軽石噴火は、港湾インフラや水産業に多大な影響を及ぼす災害リスクであり、1883年のクラカタウ噴火(Simkin & Fiske, 1983)、2018年のVolcano F噴火(Jutzeler et al. 2020)、2021年の福徳岡之場の噴火(Ikegami, 2021)などがその例である。しかし、これらの噴火と被災の間には週から月単位の時間的余裕があり、フェンスの敷設などの事前対策により被害を大幅に軽減できる可能性がある。計画的な備えには地域ごとのリスク評価が不可欠であるが、日本近海における海底火山の分布については未解明な部分が多い。

    軽石噴火を引き起こす海底火山は、海底地形としてカルデラ、火砕丘、溶岩ドームなどの形態で現れることが多い。文献情報や海底地形の精査により、これらの火山が伊豆弧、小笠原弧、火山列島、琉球弧、沖縄トラフ、東北日本の背弧、千島弧に分布していることを明らかにした。伊豆弧では火山フロントや島弧内リフトにカルデラ火山が広く分布しているほか、背弧火山列にも新鮮な珪長質溶岩ドームが見られる。小笠原弧では火山フロント上にデイサイトを噴出する成層火山体があり、これらが軽石噴火の供給源となり得る。火山列島では火山フロント上にトラカイトを噴出するカルデラが多く、2021年の福徳岡之場の噴火による漂流軽石の噴出がこれに該当する。琉球弧では火山フロントの北部および中部に多数の海底カルデラが分布し、1934年の鬼界カルデラ昭和硫黄島の噴火もこれに当たる。沖縄トラフでは中部から南部にかけて珪長質溶岩ドームが多数存在し、1924年に軽石噴火を引き起こした西表島北北東海底火山もその一つと考えられる。東北日本の背弧側では歴史的な軽石噴火の事例はないが、男鹿半島の戸賀火山や奥尻島の勝澗山、利尻島の利尻山などの第四紀の珪長質噴出物があり、これらの噴火が海域で発生すれば大量の漂流軽石を生じる可能性がある。千島弧には火山フロント上にデイサイトや流紋岩を産するカルデラが多く、海域での噴火が漂流軽石を引き起こす可能性が高い。

    総じて、軽石による災害発生リスクは本州南岸および南西諸島で非常に高いが、日本海側や北海道においてもその可能性は否定できない。ごく一部の例外を除きいずれの火山においても噴火履歴は未知であり、今後の海洋地質学的調査や陸上の沿岸堆積物の調査などから明らかになるポテンシャルを秘めている。

    Ikegami F., 2021. 2021 submarine eruption, Fukutoku-Oka-no-Ba, Japan. Newsletter for the Learned Australasian Volcanology Association. December, 2021. pp.13-14.

    Jutzeler, M. et al., 2020. Ongoing Dispersal of the 7 August 2019 Pumice Raft From the Tonga Arc in the Southwestern Pacific Ocean. Geophys. Res. Lett. 47, 495.

    Simkin, T., Fiske, R.S., 1983. Krakatau, 1883--the volcanic eruption and its effects. Smithsonian Institution Press.

T13.堆積地質学の最新研究
  • 横山 由香, 大宮 颯世, 赤木 遥香, 渡邊 聡士, 藤巻 三樹雄, 佐藤 悠介, 坂本 泉
    セッションID: T13-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2011年3月11日東北地方太平洋沖地震(以下,2011年東北沖地震)が発生し,それに伴う津波によって東北地方太平洋沿岸域は甚大な被害を受けた.2011年東北沖地震後には,海域から陸上津波遡上域にかけて津波堆積物に関する調査が行われ,多くの報告がなされた.本研究の対象である浅海域では,地震津波による浅海底の変化や浅海底に記録される津波痕跡が明らかとなった(横山ほか,2021,2023).しかし,海底に残された痕跡がどのように変化し,保存または消失するのかといった研究はあまり行われていない.そこで,本研究では,2011年東北沖地震津波から約10年後の浅海域において,それらの痕跡の変化過程の把握・解明を試みた.

     対象海域は,岩手県釜石市唐丹湾とした.唐丹湾では,これまでも2011年東北沖地震津波後の2012~2015年に海底地形,地層探査およびコア試料の取得を行い,津波による浅海底の変化および津波堆積物の特徴について,調査・研究を行っている.本研究では,海底地形(2020年),地層探査・堆積物(2023年)の追加調査を行い,2011年東北沖地震津波から約10年における海底変化を確認した.

     唐丹湾では,地震津波直後の調査において,水深10~30 m付近の海底にカレントマーク(約300個)が確認され,その凸部は北西方向(沿岸)を向いた.その多くは中央部に高まりを持ち,その周辺が凹地となっている.その形状から,これらは北西―南東方向の流れによって形成されたと推察される.中心部の高まりは海底映像から,地震前約1 km離れた片岸川河口に設置された消波ブロック(約2 t)であり,津波によって運搬されたことが明らかとなった.この特徴的な地形は,地震津波前および地震後設置の構造物周辺には見られないことから,通常の海況では形成されないと考えられる.したがって,2011年東北沖地震津波時に形成され,引き波によるものと考えられた.

     2020年の再調査からもこれらの特徴的な地形は確認された.しかし,水深約20 m以浅の多くの地点では見られなくなった.これらの地形に対し,2013年と2020年の地形変化量を求めたところ,水深15~20 mでは変化量(~約±55 cm)が大きく,水深20~30 mでは小さい(~約±25 cm)ことが明らかになった.一般に,水深20 m付近は,晴天時波浪限界と考えられ,それ以浅では常時波浪の影響を受けることにより,カレントマークが消失したと考えられる.水深20 m以深では,今後も海底に保存される可能性が高いが,時間経過とともに,どのように変化するのか,引き続き確認する必要がある.

     地層探査記録からは,2012~2015年および2020年の結果に大きな変化は認められなかった.次に,2012年と2020年にほぼ同地点(水深約17 m)で採取したコア試料の比較を行った.2012年採取試料は,上位から砂質堆積物層(Unit1),泥~泥混じり砂質堆積物層(Unit2)からなり,両者は明瞭な境界で区分され,岩相特徴からUnit1が2011年津波堆積物,Unit2が津波前湾内堆積物と推定した.2011年津波堆積物層は,厚さ65 cm,極細粒砂~礫からなり,3回の級化構造と最上位の極細粒砂層に区分された.

     2023年に採取した同地点の試料も,同様に上位から2011年津波堆積物(Unit1),津波前湾内堆積物(Unit2)に区分された.層厚は76 cmと2012年試料よりやや厚いものの,粒度は粗粒シルト~礫からなり,3回の級化構造と最上位のシルト層に区分され,全体としての粒度パターンは2012年に類似した.したがって,海底地形で見られたほどの変化は堆積物からは確認されず,浅海底は津波堆積物をよく保存していると考えられる.しかし,最上位層に関しては,粒子特性から2023年は2012年よりやや細粒な傾向を示し,2012年最上位層よりも下位のUnit2と類似する特徴を示し,津波直後から10年間に渡る堆積作用の結果,それらの組成は津波以前の湾内堆積物に戻っていったと考えられる.

     以上より,2011年東北沖地震津波後の10年間で,水深約20 m以浅は海底表層の地形変化が認められたが,海底下の津波堆積物層は,極表層以外には大きな変化は認められなかった.したがって,浅海底は津波による堆積物をよく保存する可能性が推察された.今後は,場所・水深による違い,より長い年月が経った際の変化ついても検討する必要がある.これらの結果は,浅海底における津波時堆積過程・堆積物移動メカニズムの解明および,海底から津波履歴を探査する上での重要な知見となると考えられる.

    [引用文献]横山他(2021)堆積学研究,79(2)47-69.横山他(2023)堆積学研究,81(1/2)27-41.

  • 河崎 陸, 髙清水 康博, 卜部 厚志
    セッションID: T13-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     古津波堆積物の研究において,堆積当時の古環境を把握することは堆積物の性状を明らかにする上で重要である.現在,東北地方太平洋側では津波堆積物研究が盛んに行われてきた.しかし,その多くが砂丘を越えた沿岸低地を対象と津波堆積物の研究が多く,狭い谷地形を遡上する津波堆積物の詳細な正常についてわかっていないことがある。例えば層厚の変化粒径などである.本研究では沿岸低地側方に連続する丘陵に挟まれた谷地形であり,数キロの距離で標高差が3mほどある地域で遡上した古津波堆積物の性状を明らかにすることを目的としている.津波堆積物が地形・微地形から受ける影響について考察するうえで本研究地域のような特徴的な環境において複雑な津波の波動を観測するには詳細な古環境復元は必要不可欠である.

    方法

     対象地域である福島県南相馬市蛯沢にて2022年に掘削を行なったボーリングコア4試料を用いる.肉眼観察に基づいて記載をした。記載は,層相変化,粒度や色調変化,堆積構造,含有物,などに着目しており、後に柱状図を作成した後.その後Yanaco社のCORDER MT-5型・堀場イオウ分析装置(EMIA-120型)を用いて燃焼法でCNS分析を行なった。試料には人工的な耕作土・盛り土を避け,直下の堆積層から選択した.10 cm毎に泥層を採取し,有機処理を行なった後,乾燥させた試料を用いた.

    結果

     堆積相区分について主に4つの区分に分けることが出来た.水田土壌堆積物・人工的な盛り土,氾濫原堆積物,塩水湿地堆積物,ラグーン堆積物である。堆積相区分内においては分析結果が古環境復元において一定の環境を示す値となった.またTS分析結果が海成堆積物と示す堆積相には貝化石が埋積しており,観察・記載の結果で示した堆積相区分とCNS分析のデータを比べても整合性のある結果となった.

     掘削したボーリング試料4つの内1つの試料にある地表面から60cmに砂層の厚いイベント堆積物が確認出来た。またイベント堆積物の直上にある泥炭層からサンプルを採取し,放射性炭素年代測定法によって計測を行うと,15世紀頃のイベント堆積物である可能性が出てきた.周辺地域をはじめ東北地方沿岸では2011年の地震と同規模と推定される869年貞観地震による津波堆積物が分布しているが,この2つの巨大地震に挟まれる1454年享徳地震が本研究地域に到来しているのか今後検討を進める.

  • 荒戸 裕之, 山本 由弦, 保柳 康一, 金子 一夫, 國香 正稔, 山田 泰広, 白石 和也, 千代延 俊, 藤田 将人, 吉本 剛瑠, ...
    セッションID: T13-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     著者らは,海底地すべりの堆積学的な理解と運動学的なモデルの構築を目的に研究を進めている[1など].その一環として,富山県上市町の稲村露頭(南北約80 m,東西約70 m,最大比高約30 m)に分布する下部中新統稲村水中地すべり堆積物の内部変形構造の調査を実施している[1~4].その結果,滑動および変形様式が明らかになってきたので概要を報告する.

    2.手法

     一般的な岩相層序ならびに堆積相解析に加え,詳細な堆積構造および変形構造を観察するため一部露頭面の研磨を行なった[1].その結果に基づき,滑動体を構成する砂岩層全8層(鍵層D1~D8)を区別し,露頭全体にわたって追跡した[2].鍵層砂岩の追跡は,肉眼観察地点を起点としてドローン画像から作成した三次元モデル上で行った[4].露頭高所については,高所作業車を用いた近接肉眼観察を併用した[1, 2]

    3.結果(図参照)

    (1) 層序・構造:下部中新統折戸凝灰岩部層は,前~中期中新世の日本海拡大期に富山県から能登半島にかけて形成された北東-南西方向のリフト帯[5など]南東縁に堆積した複数の単源火山砕屑岩類と関連堆積物からなる福平層の一部層であり,調査地では堆積後の後背地の隆起によって北~北西に約10~25度傾斜している[6]

    (2) 岩相・ユニット区分:稲村露頭の折戸凝灰岩部層は,岩相の特徴等に基づき下位からA~Gの7ユニットに区分される.

    A:塊状無層理の凝灰岩・凝灰角礫岩層からなる.

    B, C:プロデルタ成の凝灰質砂岩泥岩互層からなり,Aを覆う.砂岩・泥岩とも数cm~数10cmの層厚を有し,堆積時のslide等による変形は受けていない.

    D:Cを覆い,B,Cとほぼ同等の岩相を有する.ユニット内の逆断層より北側は激しい変形を受けているが,南側ではほとんど変形を受けておらず下位ユニットと調和的な走向傾斜を有する.

    E:凝灰岩,凝灰角礫岩の基質に,D上部の砂岩泥岩互層,泥岩などが変形してスランプ状,もしくはブロック状に取り込まれている.D由来のブロックの量および変形度合いは場所によって大きく異なる.

    F, G:凝灰岩,凝灰角礫岩からなり,Eを覆う.場所によってE上部の堆積物がF基底面を突き破ってF内に取り込まれている場合がある.

    (3) ユニットDの変形様式:Dの互層は,堆積学的特徴の異なるD1~D8の8層の凝灰質砂岩鍵層と挟在する凝灰質泥岩層からなる.砂岩層の層厚はそれぞれ12~52cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,12~60cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同ユニットは,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.

    4.稲村水中地すべりの滑動・変形モデル

     以上の観察結果を合理的に説明する滑動・変形モデルとして,以下のような過程を検討中である.

    [a] F(or G)堆積後の早い時期にD基底の泥岩層中にすべり面が形成され,ある場所から上流側が南へ傾斜する当時の斜面下方へ滑動を開始する,

    [b] 滑動開始当初,D互層は地すべり先端部にランプ背斜を形成して互層の一部が下流側の滑動しないDに乗り上げて滑動による短縮を解消する,

    [c] 短縮が進行するとランプ背斜は横臥褶曲に成長し,それでも短縮量を補償しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐し低角逆断層となってさらに乗り上げていく,

    [d] さらに滑動が継続し短縮量が増えると,新たなランプ背斜・横臥褶曲が順次上流側に形成され(オーバーステップ状),こうした変形が累積することでDの層厚が不均質となる,

    [e] Dの層厚が不均質化することでE以上の上載圧力に不均衡が生じて低比重のDとより高比重の上位層との境界面が不安定になり,互層上部の一部が変形しながらEの凝灰岩中に取り込まれていく,

    [f] Eと上位のFの境界面も不安定になるが,両ユニット間の比重差は大きくないため,大規模な取り込みには発達しない.

    謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該調査には日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)(一般)(19H02397)の一部を使用した.

    文献:[1]荒戸ほか, 2023, 堆積学会要旨, 9-10, [2]荒戸ほか, 2023, 地質学会要旨, T-6-P20, [3]金子ほか, 2023, 地質学会要旨, T-3-O-4, [4]荒戸ほか, 2024, 地質雑, 130, 167-168, [5]竹内, 2021,地質雑, 127, 145-164, [6]金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.

  • 葉田野 希, 吉田 孝紀, Gyawali Babu Ram, 杉山 春来, 島田 誠明
    セッションID: T13-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに:チベット高原・ヒマラヤ山脈の隆起は,アジア・モンスーンの成立と変動に影響を及ぼした.特に,チベット高原南部は,中期中新世から高い標高を維持したとされ [1],南アジア・モンスーンの成立や降水の地域的な偏在を生じさせた.チベット高原南端のムスタン地方には,新第三系から第四系までの一連の陸成層が分布する [2].このうち,中部中新統Tetang層および上部中新統~更新統Thakkhola層には,複数の古土壌が挟まれ,山脈配置の変化に伴う地域的な気候区の変遷やモンスーン気候の成立を記録していることが期待される.本研究では,ムスタン地方のTetang層とThakkhola層の古土壌タイプを区分し,チベット高原南部での中新世以降の気候区の変遷を追跡した.

    地質概説:ムスタン地方は,チベット高原とヒマラヤ山脈の間に位置する標高約1,500~5,000 mの高地であり,現在はステップ・ツンドラ気候下にある [3].当地域には,インド・ユーラシア大陸衝突後の東西性引張応力場で形成されたタコーラ―ムスタン地溝が分布し,ジュラ系~白亜系の基盤岩上に中新世以降の陸成層が堆積する [4].本研究では,Tetang セクションに分布するTetang層とCheleセクションに位置するThakkhola層を対象に調査を行った.古地磁気年代からは,Tetang層で11~9.6 Ma [5],Thakkhola層で8~2 Ma [6]の堆積年代が報告されている.

    古土壌タイプの区分:Tetang層は,層厚最大200 m以上を示す.本層は下位より,礫岩が卓越する扇状地性堆積物,礫岩,砂岩,泥岩,石灰岩から構成される蛇行河川性堆積物,石灰岩を挟み泥岩が卓越する湖沼性堆積物に区分される.扇状地性堆積物では,赤錆色の土色,漂白された根痕,鉄酸化物被覆,粘土集積構造,有機物や易風化鉱物の欠如に特徴づけられるOxisol (熱帯性の土壌)に類似する古土壌が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,A,B層への土層分化,有機物の残存,斑紋,菱鉄鉱ノジュール,粘土被膜に特徴づけられ,グライ化したInceptisol (若い土壌)やUltisol(塩基に乏しい森林土壌)に相当する.湖沼性堆積物の古土壌は,鉄・マンガンノジュール,鉄酸化物によるリゾリスを産し,土層分化に乏しく,グライ化したInceptisolに区分される.

     Thakkhola層は,層厚最大600 m以上を示す.本層は,基質支持礫岩と斜交層理礫岩からなる扇状地性堆積物,斜交層理礫岩からなる網状河川性堆積物,斜交層理礫岩・砂岩,泥岩,石灰岩からなるファンデルタ性堆積物・蛇行河川性堆積物,泥岩と石灰岩からなる湖沼性堆積物より構成される.ファンデルタ性堆積物には,青灰色の土色,斑紋,ドラブ・ハロー状の根痕に特徴づけられるグライ化したEntisol (最初期の土壌)が認められる.蛇行河川性堆積物の古土壌は,カリーチの存在からAridisol (乾燥域の土壌)に区分される.また,斑紋やリゾリスを産するグライ化したEntisolが識別され,地下水位の季節的な変動が示唆される.湖沼性堆積物には,リゾリスにより古土壌の存在が認識できるが,上位にのる砂層の侵食作用によって古土壌層上部が欠如している.

    議論:中期中新世のTetang層では,亜熱帯~熱帯気候下で形成されるOxisolから,温暖湿潤気候下で形成されるUltisol,高い地下水位を示すグライ土壌へと,古土壌タイプの変化が認められる.中期中新世では,現在の当地域と比べて温暖湿潤な気候が卓越していたと考えられる.前期中新世~更新世のThakkhola層では,Aridisolの存在から乾燥気候の卓越が支持される.こうした気候区の変遷の要因として,チベット高原・ヒマラヤ山脈の隆起による雨陰の出現や当地域の高度上昇,モンスーン気候の強化が考えられる.

    文献 [1] Currie, B.S. et al., 2005. Geology 33, 181–184. [2] Adhikari, B.R., 2009. Ph.D. Thesis, Vienna Univ., Austria, 158p. [3] Karki, R. et al., 2015. Theor. Appl. Climat. 125, 799–808. [4] Coleman, M., Hodges, K., 1995. Nature 374, 49–52. [5] Yoshida, M. et al., 1984. Jour. Nepal Geol. Soc. 4, 101–120. [6] Garzione, C.N. et al., 2000. Geology 28, 339–342.

  • 福地 亮介, 沢田 健, 葉田野 希
    セッションID: T13-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    [はじめに]最終氷期から完新世にかけては急激な気候変動が繰り返されたことが海洋堆積物や氷床コアなどから復元されている。近年,内陸域においても湖沼堆積物や石筍などを用いてグローバルな気候変動との対比が行われている。一般に周辺古環境の復元においては、均質な堆積相を記録した堆積物が用いられる一方、湖沼は水域の拡大縮小に応じて河川域や湿原などの環境に遷移しやすく、そのような多様で非定常的な環境の堆積物は古環境・古気候研究において重要な情報源になり得る。特に山岳域では気候変動に起因して堆積環境が変化するといった,より急激な応答を記録している可能性がある。中部山岳地域に位置する長野県の諏訪湖は湖面積が大きく変動しており、湖岸で掘削された陸上コアでは多様な堆積相が認定されている。特にヤンガードリアス期や8.2kaの寒冷乾燥化イベントでは湖水位が大きく低下し、湖成相中に古土壌が形成されるといった全球的な気候変動との関連性が指摘されている(Hatano et al., 2024)。本講演ではおもに植物由来テルペノイドを用い、最終氷期以降の諏訪湖周辺の古植生および古環境・古気候変動の復元を行った研究成果を報告する。

    [試料と方法] 本研究では2020年に諏訪湖の湖岸で採取された堆積物コア(コアST2020)を用いた。コアの年代はAMS14C年代測定により決定し、コアの最下部で約2.7万年前を示す。コア試料は1~2cm層厚で採取し、溶媒抽出成分をカラムで分画しGC-MS測定によりバイオマーカー分析を行った(福地ほか, 2023)。コアST2020では堆積学的な調査から、下位より氾濫原相(Floodplain)、沼沢相(Pond)、湖成相(Lacustrine)、デルタ相(Delta plain)が認定されており、堆積環境の大きな変化が推定される(Hatano et al., 2023)。

    [結果と考察] 堆積物試料からは主に植物ワックスに由来する長鎖n-アルカン、植物テルペノイドとして裸子植物由来のジテルペノイド、被子植物由来のトリテルペノイドがおもに検出された。すべてのジテルペノイド濃度に対するスギオール(Sugiol/DTs)、トタロール(Totarol/DTs)、デヒドロアビエチン酸(DAA/DTs)の濃度の比を植生指標とした。スギオールとトタロールは主にマツ科以外のスギ科、ヒノキ科に由来する化合物であり、Sugiol/DTs比とTotarol/DTs比は針葉樹全体に対するスギ科、ヒノキ科の寄与を示す。DAAは多くの針葉樹によって合成されるが特にマツ科において卓越することに加え、諏訪湖では湖底堆積物の花粉分析によって主要な針葉樹植生がマツ科、イチイ科-イヌガヤ科-ヒノキ科、スギ科とされており(安間ほか, 1990)、DAA/DTs比は主にマツ科の寄与を示すと考えられる。Sugiol/DTsとTotarol/DTsは同調して変動し、DAA/DTsは異なる変動を示した。最終氷期ではDAA/DTsが高い値をとり、Sugiol/DTsとTotarol/DTsは後氷期で上昇する傾向を示した。これらの傾向は、諏訪湖やその流域の霧ヶ峰高原での花粉組成の変動(安間ほか, 1990; Yoshida et al., 2016)と同調的な結果であり、後氷期の温暖湿潤化によって、マツ科主体の亜高山帯針葉樹林からスギ科、ヒノキ科主体の温帯針葉樹林へ変遷したのだと考えられる。一方、約17~15kaにおいて花粉組成変動とは異なり、一時的にマツ科の寄与(DAA/DTs)が減少、ヒノキ科の寄与(Sugiol/DTs)が増加した。これはハインリッヒイベント1に相当する時期であり、全球的な寒冷化イベントに対する植生の応答を示す可能性がある。

    [引用文献]

    安間ほか (1990) 地質学論集, 36, 179–194.

    福地ほか(2023) Res. Org. Geochem. 39, 21–34.

    Hatano et al. (2023) Palaeogeogr, Palaeoclimatol. Palaeoecol. 614, 111439.

    Hatano et al. (2024) Geomorphol. 455, 109194.

    Yoshida et al. (2016) Veg. Hist. Archaeobot. 25, 45–55.

  • 前田 純二
    セッションID: T13-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    「化石燃料」(石炭・石油・天然ガスなど)は、地層中に堆積した古代の生物の遺骸がもとになり、その後の続成作用によって形成された燃料資源である。

    石炭の起源は、海岸近い湿地帯で樹木が厚く堆積した泥炭層が、上位堆積層の荷重による圧密を受け、また埋没することによって高温にさらされて続成作用(石炭化)が進み、黒色の石炭が形成される。石炭化の進行とともに褐炭~瀝青炭~無煙炭と変化し、光の反射率や熱量が増大する。石炭の形成には3000mないし5000m以上の埋没深度が必要とされる。

    石炭の探査は、地表露頭調査やボーリング調査を行って、地層対比や分析試料の採取を行う。十分な質の埋蔵量が確認されると商業開発へ移行し、露天掘や坑内掘を行う。

    石炭層は比較的広範囲に連続して賦存し、埋蔵量は、厚さx面積x石炭比重を乗じて原始埋蔵量とし、更に安全率と実収率を乗じて可採埋蔵量とする。世界の可採埋蔵量を年間生産量で割ると可採年数は139年くらいである(2020年)。

    石油は、採掘された状態(原油)では黒色・ドロドロの液体である。その起源は、堆積盆地内で石油根源岩を含む地層が堆積し、その後の上位層の堆積により深く埋没することによって温度が上昇し、続成作用(有機熟成)が進行して生成・排出される。その後、石油は背斜構造のような構造的高まりに移動・集積していく。更に埋没続成作用が進むと石油はガスに変化するが、根源岩の種類によっては石油を経ずガスを生成する。近年、石油根源岩層内の原油(シェールオイル)の開発も行われている。

    石油・天然ガスの探査は、構造的に高い場所を抽出すべく音波探査を実施する。技術評価により石油・ガス集積の可能性が高まると、地下の岩石や流体を把握するため試掘が実施される。試掘が成功すると更に追加の確認井が掘削され、商業量が確認されれば商業開発へ移行する。商業開発では多くの生産井を掘削し、生産物は処理施設で石油・ガス・水に分離され出荷される。

    石油・天然ガスは、砂岩・石灰岩のような空隙(孔隙)のある岩層中に集積している。石油の埋蔵量は、集積構造の面積x油層厚x岩石孔隙率を乗じて求め、孔隙内の水の割合を差引いて原始埋蔵量とし、更に回収率を乗じて可採埋蔵量とする(シェールオイルは別な算定方法)。世界の石油の可採埋蔵量を年間生産量で割ると可採年数は53年くらいになる(2020年)。天然ガスの埋蔵量も同様に原始埋蔵量を求め、回収率を乗じた後、地表条件の容積に換算して可採埋蔵量とする(シェールガスは別な算定)。世界の天然ガスの可採埋蔵量を年間生産量で割ると可採年数は49年くらいになる(2020年)。

    化石燃料は古代の生物遺骸から続成作用によって生成した。その探査には地質学の一般的な知見が活用されている。化石燃料は近年、地球温暖化ガスの根源になってきているが、今後も重要性は高い。地球温暖化ガス対策も進行中であり、特に温暖化ガスを地下に貯蔵する技術(CCS)は注目され、今後の進展を期待したい。

  • 安藤 卓人, 八代 喬介, Sulhuzair Burhanuddin Muhammad, 千代延 俊
    セッションID: T13-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    堆積岩中の有機溶媒および酸・塩基に不溶なケロジェンは,一般的にType IからIVに区分することができる。そのうち,Type I/IIケロジェンは石油指向な水素に富む水生生物由来の有機物, TypeIIIケロジェンはガス指向な酸素に富む陸源有機物であるとされている。蛍光顕微鏡を用いたパリノファシス分析では,アモルファス有機物 (AOM) をFA (fluorescent AOM),WFA (weakly fluorescent AOM),NFA (non-fluorescent AOM) に区分する。高分子の場合,芳香族化合物より脂肪族化合物を多く含む場合の方が紫外線照射時の自家蛍光が強い。WFAの大部分は,水生生物由来の糖やアミノ酸がメイラード反応で再度縮重合したことにより生成するとされ,第130年学術大会の発表者らの講演では,これらの反応が河川水中などの低温下でも進行していることを示した。一方で, FAは脂質に富む植物のクチクラ組織由来のクチン (Cutin) や微細藻類由来のアルジナン (Algaenan) など,NFAは芳香族化合物に富む高等植物由来のリグニンなどの分解されにくい抵抗性高分子が「核」となっている。興味深いのは,陸上高等植物には部位ごとに有機高分子の成分に違いがあり,輸送過程や保存性もそれぞれで異なることである。したがって,選択的にFA,すなわちクチクラなどの脂質に富む成分・部位が堆積した場合には,陸起源物質に富む堆積岩であっても石油を多く排出する (Type I/II的である) ことがある。本発表では,ケロジェンにおけるFAの濃集機構の例として,チュクチ海バローキャニオンの過去40年間の堆積物,インドネシア・スラウェシ島南東部中生界堆積岩に関して議論する。

    バローキャニオンBC2 siteで2022年に研究船「みらい」のHAPPI航海によって採取された堆積物コア試料(全長:29cm)を用いて,パリノファシス分析を行なった。BC2 site試料はNFAとFAがあわせて95%以上,表層付近ではNFAが60%以上,FAが約20%を占め,海洋底堆積物であるのにも関わらず陸源有機物がほとんどであることがわかった。また,FlowCam®(フローイメージング顕微鏡)を用いた分析から,FAは輸送過程で5-20µm径まで細かくなったクチクラ組織であることがわかった。加えて,1980年から2000年にかけて,FAの割合が約10%増加していた。大陸縁辺部に堆積していたFAに富む陸源有機物が,1980年から2000年に海氷減少をもたらした急激な気候変動に伴ったアラスカ沿岸流の強化によって再懸濁し,BC2 siteにより堆積しやすくなったと考えられる。したがって,再堆積によるケロジェン粒子の密度に依存した再分配の結果,クチクラ組織が選択的に保存される過程が示された。

    インドネシア・スラウェシ島南東部中生界堆積岩は,Rock Eval分析によって,TypeIIケロジェンに分類される高いHydrogen Indexで特徴づけられ,石油根源能力が高い。この試料に対してパリノファシス分析を行なったところ,陸源有機物の寄与が大きく,そのうちFAとクチクラ組織が30%以上を占めた。岩石チップ試料の蛍光顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察から,これらのケロジェンは粘土鉱物中に多く含まれ,陸源砕屑粒子とともに輸送されたことが示された。また,個別ケロジェン粒子の顕微FT-IR分析から,クチクラ組織とFAに富むAOMがC-H結合に富むこと,バルクATR-FTIR分析ではより高いC-H結合のバンドが検出され,分解・再縮重合過程における更なる脂質成分の濃集が示唆された。以上のことから,中生代においても陸源砕屑粒子の(再)堆積と同時にクチクラ組織が選択的に保存されたこと,続成作用によって更なる濃集過程が生じた可能性が示唆された。

    これらの結果は,陸源有機物の再配分の石油生成における重要性を指摘し,陸源有機物に富む海成堆積岩における石油根源岩能力の有機地球化学・堆積学的な再検討の必要性を示す。

  • 朝日 啓泰, 沢田 健
    セッションID: T13-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     北海道日高地域に分布する日高堆積盆は、北海道中央部に位置した狭長なフォアランド堆積盆の南部に位置し、中期~後期中新世にかけて広がる北西太平洋古北海道沖において急速に堆積物に充填され、トラフ充填型タービダイトからファンデルタ堆積層へと進行する (Kawakami et al., 2013; 加瀬ほか, 2018)。このフォアランド堆積盆では洪水流をはじめとする陸域からの物質輸送が大きく寄与したことが示唆され、北西に隣接する石狩堆積盆では陸上植物片が濃集するタービダイトが見られるなどの証拠がある (Furota et al., 2021; Asahi and Sawada, 2024)。また、日高地域の中期~後期中新世において放散虫や珪藻などの微化石による生層序年代が推定されている(新澤ほか, 2009; 本山・川村, 2009)。本研究では中期~後期中新世の日高堆積盆に埋積した堆積層を対象に地質調査と有機地球化学分析を行い、堆積盆の堆積システムと古環境の変遷を復元し、それらの関連性を検討した。

    2.試料と方法

     日高堆積盆の中期-後期中新世の堆積層として下位からアベツ層(粗粒砂泥互層)、二風谷層(細粒砂泥互層)、荷菜層(細粒砂泥互層、礫層)が露出する。これらの堆積層はこれまで放散虫や珪藻群集により年代対比が行われており、堆積年代は放散虫や珪藻によってアベツ層は15.3~12.5Ma、二風谷層は12.5~9.7Ma、荷菜層は9.7~3.5Maと推定されている(新澤ほか, 2009; 本山・川村, 2009)。本研究ではアベツ・二風谷層の露出するむかわ穂別地域のホロカンベ沢、二風谷上部~荷菜層下部の分布する五号沢川にて地質調査と試料採取を行った。有機物分析は堆積物から有機溶媒を用いて有機成分を抽出し、GC-MS、GC-FIDによって測定・解析を行った。

    3.結果と考察

     二風谷層のほとんどの試料において、プリスタン/フィタン(Pr/Ph)比が1.0以下と著しく低いことがわかった。これは本邦の新第三系堆積層において最も低い値を示しているといえる。これらのPr/Ph比が単純に酸化還元条件を示しているとみなすならば、極端な還元状態、つまり無酸素的な底層環境が継続的に広がっていたと解釈される。しかし、日高堆積盆において極端な無酸素環境が発達する環境要因が特定できない。あるいは、フィタンが特異的に生成されるような堆積条件、例えば、フィタンはメタン細菌由来分子から生成されることが知られているので、メタン菌が底層において活発に分布しているような環境であった可能性なども指摘できる。陸源バイオマーカーについては、タービダイト試料から数種類のスギ科のバイオマーカーが検出された。スギ科は温帯域の冬季降水量が多い地域に群生するため、当時の日高地域でも同様の環境が拡がっていた可能性がある。高い冬季降水量は融雪期の河川水量や融雪洪水の増加の要因となるため、温帯かつ冬季降水量の多い気候が有機物を海洋底へ運搬する堆積システムの条件の可能性がある。

     アベツ層に見られるタービダイトでは、陸源バイオマーカーとしてジテルペノイド (裸子植物成分)とトリテルペノイド (被子植物成分)が含まれる。トリテルペノイドは特に陸上植物片の葉理が発達するユニットでは最大値を示しており、アベツ層を形成した混濁流には被子植物成分が高濃度で含まれたことを示唆する。このトリテルペノイドは山間部の森林から洪水などにより直接運搬されたことが考えられる。二風谷層は細粒砂泥互層と珪質泥岩で構成され、珪質泥岩は珪藻生産の増大を示すと考えられ、堆積盆が遠洋的な環境へ変化したことが示唆される。陸上植物成分のうち被子植物成分が著しく減少する。荷菜層では細粒砂泥互層から礫岩層を主体とする堆積相へと変化することから、比較的遠洋的な環境から活発な埋積が起こる浅海的な環境へと変化したと考えられる。また粗粒タービダイト層ではアベツ層と同様に、植物片の葉理が発達するユニットが確認され、陸上から直接的に陸上植物が運搬されたことを示し、日高堆積盆において陸域からの物質輸送が中期~後期中新世にかけて断続的に活発化していたことが推測される。

    文献

    Asahi, H., Sawada, K. (2024) Org. Geochem., 188, 104671.

    Furota, S. et al. (2021) Int. J. Coal Geol., 233, 103643.

    加瀬善洋ほか (2018) 地質学雑誌, 124, 627-642.

    Kawakami, G. (2013) InTech, 131-152.

    本山功, 川村好毅 (2009) むかわ町立穂別博物館研究報告, 24, 1-18.

    新澤みどりほか(2009) 大阪微化石研究会誌, 14, 117-141.

  • 松浦 三偲郎, 大柳 快晴, 安藤 卓人, 千代延 俊
    セッションID: T13-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    秋田県の沿岸部には珪質泥岩からなる女川層が広く分布し,秋田県下に存在する油田群の石油根源岩として多様な研究がなされてきた。女川層珪質泥岩のもつ石油根源岩能力は,海生珪藻を起源にもつタイプIIケロジェンを主とし,全有機炭素量(TOC)を1〜4%程度含むことが知られている。また,県下内陸部にも同層準の珪質泥岩は広く分布しており同様の見解がなされている。ところで,黒鉱鉱床が拡がる秋田県北部の北鹿地域にも珪質泥岩が分布することは古くから知られているが,それら珪質泥岩の層位学的検討や有機地球化学的検討は,金属鉱床地域であったことからも多くはない。そこで,本研究では秋田県大館市比内地域に分布する珪質泥岩を主体とする一通層から産出する石灰質ナンノ化石を用いて層位学的関係を明らかにし,ロックエバル分析法による同層準の石油根源岩能力を評価する目的で検討を行った。一通層の岩相は,下部で暗灰色から淡灰色で塊状もしくは一部層理の発達する珪質硬質泥岩を主として,凝灰質礫岩および砂岩を挟在する。上部では暗灰色塊状な軟質泥岩からシルト岩,さらに最上部では砂岩へと上方粗粒化を示す。また上部のシルト岩および砂岩から,保存状態は悪いものの,石灰質ナンノ化石Catinaster calyculusReticulofenestra属,Sphenolithus属が産出した。ロックエバル分析から,本層の珪質泥岩中の全有機炭素量(TOC)は平均で1.64wt%,最大で2.59wt%を示す。とくに暗灰色の岩色を呈する岩相において平均で1.99wt%と高い値を示した。また,Hydrogen Indexは498〜683(mg/g)を示し,ケロジェンタイプはタイプ Iを主体とする。以上の結果から,一通層最上部に堆積した砂岩相は石灰質ナンノ化石基準面NN8〜9に相当し,一通層の堆積年代の上限が約10Maであることが明らかとなった。従来から一通層は,珪質泥岩を主体とする岩相から女川層相当層とされており,本結果により北鹿地域に分布する女川層相当層の堆積年代上限が規定された。一方で,ロックエバル分析では本層下部の珪質泥岩に含まれるケロジェンが湖沼性生物を起源であることを示し,一般的な女川層のケロジェンタイプとは異なる結果を得た。石灰質ナンノ化石が産出することとケロジェンタイプが湖沼性を示すことは矛盾する結果ではあるものの,これらの結果は当時の海水準変化や堆積盆地の形状など様々な要因を示している可能性が指摘でき,北鹿地域の女川層相当層の広域的な検討が今後の課題としてあげられる。

  • 持永 竜郎
    セッションID: T13-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    三菱ガス化学の前身である日本瓦斯化学工業は戦時中に液体燃料の製造・研究をしていた旧海軍出身で地質学の学位をもつ技術者によって1951年に設立された.翌1952年,水溶性天然ガスが豊富に賦存している新潟県において日本で初めて天然ガスを出発原料としたメタノールの生産を始めた.その後,さらに多くの天然ガスを求めて新潟県の陸海域の鉱業権を取得,化学会社ながら自ら探鉱を開始.探鉱リスクを負って,東新潟,新胎内,岩船沖の3つの油ガス田を発見し,現在も化学工場に天然ガスを供給している.油ガス探鉱と技術的に親和性のある地熱開発には1980年代から参画し,現在では澄川(秋田県),山葵沢(秋田県),安比(岩手県)の3つの発電所を共同操業している.同じく技術的に親和性のあるCCS(CO2の地下貯留)には2008年より初期検討から参画してきた.また電力事業にも注力しており,LNG火力発電やバイオマス発電も共同操業している.CCSと再生可能エネルギー,メタノール合成の要素技術である水素製造の知見を持つことからブルー水素,グリーン水素の事業化検討も行っている.これらの事業の開発から運営までを化学会社の中の一つの部署で行っている.

    堆積盆探鉱については,国内は東新潟の浅部においてオペレーターとして探鉱開発,操業を行っている.現在は水溶性ガスのステップアウト開発を進めるべく段階を踏んだ取り組みを進めている.海外においては,いずれも過去の取り組みとなるが,1990年には豪州石炭層ガスの探鉱開発をオペレーターとして推進,その後,インドネシアの在来型探鉱,中国四川省のタイトサンドガス探鉱,カナダにおけるオイルサンド事業やシェールガスLNG事業にも参画してきた.

    CCSについては東新潟の枯渇層を対象とした検討を進めている.東新潟油ガス田は,深層(主に椎谷層),中浅層(主に西山層),浅層(灰爪層以浅)に分かれ,それぞれ異なる検討を行っている.大規模かつ蓋然性の高い深層は先進的CCS事業の枠組みで共同検討,技術的課題のある浅層水溶性ガスは研究開発,比較的規模の小さい中浅層は民間主体で推進可能な事業化の模索を行っている.

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