人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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2022 巻, 32 号
人間生活文化研究
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
原著論文
  • ―EC(電気伝導度)の変動係数に着目して―
    森本 洋一, 猪狩 彬寛, 齋藤 圭, 山形 えり奈, 竹本 統夫, 苗村 晶彦, 小寺 浩二
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 46-61
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/03/11
    ジャーナル フリー

     EC(電気伝導度)は,電解質の総量を示す指標となる.天然水の河川水中におけるECの目安は,河川上流では50~100 μ S/cm,河川下流では200~400 μ S/cmとされており,簡便に計測できることから市民団体による水環境調査等でも活用されている.日本や世界の多様なフィールドにおけるEC計測値は,日本で10~6,000 μ S/cm,スウェーデンの対象の河川では21~509 μ S/cm,キルギスのイシク湖集水域で116~840 μ S/cmとなった.また,ECの変動係数を算出したところ,自然環境の変化や,人為的影響が大きい地域では,変動係数が高いことがわかった.このように,河川のECは地域の水環境を概観し,水環境上の課題を明らかにするための手助けとなるため,今後もECを活用し,水環境や水質に関わる議論を行っていく必要がある.

  • ―RDI を適用した一事例の検討-
    高橋 ゆう子
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 62-72
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

     本論の目的は,RDI(対人関係発達指導法)に取り組んだ親子の相互行為の変化に影響する行動特徴を明らかにすること,子どもの社会性につながる親子関係の支援と養育支援について,一家族の事例から検討することである.対象は,6歳のASD児とその母親で,約2年間RDIに取り組み,その間,アセスメント(RDA)として親子のやりとりを3回撮影した.その映像を,関係性を捉える3つの状態(共同注意,相互調整,間主観性)から評価を行った(Larkin, et al, 2010).そして行動コ ーディングシステムを用いて視線,非言語,感情,言語など親子の行動,32カテゴリーについてコ ーディングを行った.2つの行動が同時に生起した回数(同時生起性),また続いた回数(事象連鎖)を算出して分析を行った.結果は次の通りである.まず,3回のRDAでは共同注意,相互調整,間主観性のいずれにも変化がみられた.次に行動のカテゴリーについてみると,親子の視線,非言語に分類される行動が増えた.また,それらの行動間の同時生起性や行動のつながり(事象連鎖)の算出は,親子の相互行為の変化を検討できる指標となることがわかった.以上から,RDIが親子の関係性の変容に影響することが推測された.そして,関係性に焦点をあてた育て直しの重要性と関係性を捉えることの難しさ,支援のあり方について考察を行った.

  • ―職場環境に着目して―
    河野 道子
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 73-81
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/03/29
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は家族介護を担う正規雇用労働者のワーク・エンゲイジメントに注目し,その規定要因を明らかにすることである.全国の20~59歳の家族介護を担う正規雇用労働者(有効回答502)にインターネットによる質問紙調査を実施,因子分析,重回帰分析を行った.認知症の有無,配偶者の有無,管理職か非管理職かをコントロールし,ワーク・エンゲイジメントを目的変数として重回帰分析を行った.結果,組織・上司からの仕事評価,両立配慮などが正の影響を与えていた.家族介護を担う正規雇用労働者がワーク・エンゲイジメントを維持するためには,職場で仕事を正当に評価されることに加え,仕事と介護の両立を配慮されることが重要である可能性が示唆された.

  • 村里 好俊
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 82-94
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/04/14
    ジャーナル フリー

     一六・一七世紀イギリス・ルネサンス期の詩人たち、サー・フィリップ・シドニーとレディ・メアリ・ロウスは、叔父と姪との間柄で、時代を代表する詩集・長編の散文ロマンスを残した。二人の作風には共通点もあるが、叔父の作品を強烈に意識して、女性の立場から家父長制への反撥を意識して書いたロウスの作品には、大きな違いも見られる。二人の作品を時代思潮の相違を観点に入れ、ここでは美術史的立場から解明し、その共通点と相違点とを明らかにしたい。

  • 松村 茂樹
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 95-105
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近代の漢学者・長尾雨山 (1864-1942) は,1903年12月から1914年12 月まで足かけ12年にわたり中国上海に滞在し, 上海の文人たちと交わる中で, 多くの文化的・社会的貢献を成した. 今回とりあげる 「古書画展観雅集」 の開催もその一つである.

     本稿では, 雨山が, 中国初の古書画展覧会の可能性があるこの 「雅集」 を創始し, 三次にわたる開催の後, そのすぐれた人脈形成力により, 自らが選んだ中国人士を発起人に加え, 日中協働の会に発展させるという貢献を成していたことを明らかにした.

  • 伊藤 美登里
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 343-358
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

     第二次世界大戦後,外国人労働者を多数受け入れた欧州では,移民関連の問題が次第に深刻化していった.そのような問題のなかに,移民の宗教的価値観と受入国の社会制度との間で生じる文化摩擦がある.この文化摩擦の深刻度やその現象形態は国によって異なる.本稿の目的は,西洋先進国において移民と受入国社会の制度との間で宗教が関連する文化摩擦の現象形態や深刻度が異なる要因について探ることであった.まず,先行研究を検討し,移民の所属階層の差異や,移民の宗教が受入国の主流派宗教とどの程度異なるか,移民の宗教儀礼が公共空間の振る舞いに関わるか否かといったことが,重要な要因であることを確認した.さらに,西洋先進国におけるムスリム女性のヴェール論争を事例に,先行研究を資料とした国家比較から,ある程度一般化可能な構図を導出した.その構図によれば,この問題に関して,移民側の要因としては宗教が,受入国側の要因としては経路依存的に作られた制度,アイデンティティ,多数派宗教が重要な役割を演じる.これらの要因の相互作用のなかで,政治化された文化摩擦の現象形態や深刻度が国によって異なる様相を帯びる.最後に,この構図の有効性の一端を示す目的で,ムスリムとの文化摩擦をいかに解決すべきかを論じたドイツの学者の思想を,構図を用いて分析した.

  • ―過去30年の先行研究の総括―
    武田 千夏
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 359-376
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/04/27
    ジャーナル フリー

     本論文は主に過去30年のポスト冷戦期に展開されたフランス,アメリカ,イギリスを中心とする19世紀フランス自由主義研究を総括する.フランスとアメリカで19世紀フランス自由主義というプリズムを通じてポスト冷戦の現状に見合った新たな共和国像が模索されたことを指摘する.これは冷戦後ではなく冷戦中に19世紀フランス自由主義研究が政治化したイギリスとは対照的な傾向である.一方近年政治の保守化に呼応して,保守勢力との親和性の強いフランス自由主義潮流が存在感を増した.これらの事例から,現状における自由のあり方をフランス革命の歴史哲学の解釈に託して間接的に表現するという「歴史哲学の伝統」が現在のグローバル化されたフランス自由主義研究にも受け継がれた結果それぞれの研究者が属する国の政治状況などによっても19世紀フランス自由主義の見方が微妙に異なるという特徴があることを明らかにした.結論としてフランス自由主義研究とは19世紀フランスを対象とする思想史研究であるが,現在に対する視点が過去の見方に直接的に影響を及ぼす傾向が顕著であるという意味においては現代思想的側面をも併せ持つ学問領域であることを指摘した.

  • 吉井 健
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 377-384
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/06/10
    ジャーナル フリー

     タイのEC 市場はアセアン主要国の中でも際立って発展しており,その市場規模は年々拡大している. このことから,海外での販売を計画する日系アパレル事業者としては, そのチャネルを利用した商品販売を視野に入れられよう. 本稿では,リアル店舗,ネット店舗等のマルチチャネル環境にてアパレルを購買するタイの消費者の購買満足に影響を与える知覚リスク低減の内容を考察することに目的を置き,実証研究を行った.実証分析では,インターネットリサーチ方法にて,アパレルを購買した日本とタイのマルチチャネルショッパー(女性)を対象に,情報探索と購買に関するアンケート調査を実施し,比較考察を進めた.本分析結果より,タイ人女性は,リアル店舗での購買に際し,サイズ懸念の解消により購買満足を高め,ネット店舗での購買に際し,自己顕示懸念の解消により購買満足を高めることが明らかになった. これにより,タイの消費者に向けたアパレル事業者として取り組むべき,施策案と今後の課題を提示した.

  • ―孔雀図との比較を通じて―
    中川 麻子
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 385-398
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/06/16
    ジャーナル フリー

     明治時代,絵画の孔雀図を下絵にした孔雀図案の美術染織作品が数多く制作され,海外で高く評価されていた.本研究は美術染織作品の孔雀図案に注目し,その変遷と背景を明らかにすることを目的に3つの視点から論じた.

     まず,江戸時代から明治時代に描かれた「孔雀図」の変化については,海外万国博覧会出品に向けて西洋の画法を取り入れ,外国人が理解しやすいモチーフとダイナミックな構図へ変更が指示されたこと,また明治20年代半ばに「孔雀と桜」を組み合わせた新しい孔雀図が博覧会受賞や御下命品となり,新聞記事などを通じて広く知られ「孔雀と桜」は日本絵画の新しい主題として定着したことを明らかにした.

     次に,博覧会に出品された美術染織作品の孔雀図案について,モチーフと構図を当時の孔雀図と比較した.海外万国博覧会を繰り返す中,美術染織作品の図案は,伝統的な孔雀図の背景を取り除き,つがいの孔雀を中心とした構図が定番となった.構図と図案の定型化により,海外で安定した評価を獲得した.しかしこれが美術染織分野全体の停滞も招き,明治30年代以降は,美術的な作品ではなく,商品として使いやすい作品形式と図案に移行した.

     最後に,明治20年代以降の皇室関連事業に用いられた孔雀図案のイメージについて考察した.明治宮殿や東宮御所などの皇室ゆかりの建造物に,孔雀意匠の美術染織作品が飾られ,その様子は新聞記事などで世間に知られ,孔雀図案の美術染織作品は,格式の高い作品として社会に認知された.孔雀図案の美術染織作品が,大正2(1913)年のオランダ平和宮殿への贈答品に選ばれたことからも,明治時代末期には「孔雀と桜を中心とした百花百鳥図」の図案が,日本を表す意匠として定着し,国際的にも認知されていたことを明らかにした.

  • ―1998年告示の小学校学習指導要領から20年を経て―
    石井 雅幸
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 478-487
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/08/03
    ジャーナル フリー

     相対的な科学観の基では,科学的知識や概念・法則や理論は暫定的であることが前提である.1998年告示の小学校学習指導要領理科の目標の文言に「見通しをもって」が取り入れられ,科学の創造性や「科学の暫定性」を踏まえた理科教育の指導の必要が指摘された.しかしながら,理科教育においては,「科学の暫定性」に関する理解を児童・生徒に促すことの難しさがあげられている.「科学の暫定性」に関する理解を促す上でも,児童・生徒の理解の実態を捉えることが大切である.ところが,我が国の児童・生徒の「科学の暫定性」に関する理解の実態の報告はわずかである.従って,著者は,1998年の告示から20年たった2018年の時点における,小学生の「科学の暫定性」に関する理解の実態を調査した.その結果,小学校の高学年の児童は,「科学の暫定性」に関する下位尺度である科学の創造性,テスト可能性,発展性のすべてについて理解しているとは判断されなかった.特に,科学の創造性に関しては,先行研究同様,理解していると判断できる状況になっていないことが明らかとなった.

  • 陳 海涛
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 593-604
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル フリー

     中国語の指示詞には,近称 “这” と遠称 “那” という2項体系がある.また,中国語指示詞に関する研究はかなり行われている.しかし,現場指示における「遠近」という基本的な要素から時間的・空間的という文脈使用法までの拡張ルートを研究する論文はない.よって,本稿では,プロトタイプ理論を応用し, “这” と “那” の使用に関わる時間的・空間的把握における心的メカニズム(拡張ルート)を明らかにしたい.

  • Minatsu Kobayashi, Paponpat Pattarathitwat, Apidech Pongprajakand, Sik ...
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 623-632
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

      A cross-sectional study was conducted to examine the differences in biomarkers, lifestyles, eating habits, and interest in dieting associated with body type, specifically body mass index (BMI) category, among University students in Thailand. From 2017 to 2020, Thai university students were surveyed regarding their lifestyle and eating habits, using physical measurements and a questionnaire. A total of 207 male students and 507 female students were classified as “underweight,” “average weight,” “overweight,” or “obese” according to their BMI: these groups were compared in terms of their differences in biomarkers, lifestyle, and eating habits. Overall, 34.8% of men and 28.4% of women were classified as overweight or obese. Students of both genders in the overweight and obese group had higher body fat percentages, basal metabolic rates, and systolic/diastolic blood pressure (all P<0.0001). Overweight and obese group students were more interested in dieting (men: P=0.0007, women: P<0.0001), and most of them reported that they had dieted in the past (P=0.222, P<0.0001). Additionally, the obese group was more likely to report eating quickly (P=0.107, P=0.014). The rate of obesity among Thai young adults was as high as that among Thai adults; continuous weight loss programs are necessary to prevent the development of lifestyle diseases.

短報
  • ―進路・コンピテンシーとの関連―
    鎌田 久子, 田口 裕基, 富永 暁子, 堀口 美恵子
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 613-620
    発行日: 2022/01/01
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

     栄養士養成課程2年生の栄養士に対する意識,成長度,卒業後の進路,コンピテンシーの関連を検討し,今後の学習指導・支援やカリキュラムの改善に活かしていくことを目的として,webによるPROGテストおよびアンケート調査を行った.

     成長度高群は低群よりも栄養士基本コンピテンシー得点が有意に高く,卒業後進路の栄養士職群は栄養士職以外群よりも栄養士基本コンピテンシー得点が有意に高かった.栄養士という職業に就くことを誇りに思う群の栄養士職の人数は有意に多かった.「自分は栄養士に向いていると思う」(自己確信)は対自己基礎力と中程度の正の相関が認められた.

     2年間の栄養士養成課程の学びの中で,栄養士としての自己確信は低めではあったが,意欲,自己確信,価値観,態度は育まれることが示唆された.特に,自分の成長を高く評価できる学生や栄養士職として就職するに至った学生では,栄養士としての意欲,自己確信,価値観,態度が高いことが示唆された.一方,栄養士としての価値観は,卒業後の進路に影響する要因の1つと考えられた.これらのことから,今後の学生指導・支援やカリキュラム改善での検討課題として栄養士としての自己確信や価値観の向上が挙げられる.その対策として,対自己基礎力を磨く体験の場を授業や課外活動に取り入れ,現役栄養士から仕事のやりがいを聞く機会をつくるなどが考えられる.

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