人間生活文化研究
Online ISSN : 2187-1930
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2023 巻, 33 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
原著論文
  • ―理科教育における音叉関連現象への納得性確保に向けて―
    仲野 純章, 山脇 寿
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 6-12
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/04/08
    ジャーナル フリー

     理科教育で多用される音叉については,その周辺でどのような音場が形成されるか十分に理解されていない.このような中,弾性波伝播の計算機シミュレーション法である改良型差分法を用い,音叉周辺の音場の可視化を試みた.その結果,音叉周辺の疎密波伝播の様子や振幅分布を示す可視化像が得られた.そして,可視化像から,音叉周辺の近距離音場では4方向で大きな音が生じるが,遠距離音場では2方向でのみ大きな音が生じるなどといった音場の特徴が確認された.また,今回明らかとなった音叉周辺の音場の特徴は,単音源周辺に形成される音場を基に捉えると理解しやすいことが示された.

  • 松村 茂樹
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 13-21
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

     筆者は,前稿でリーダーのみが課題解決をする場合が多い日本の「タテ社会」を,「ヨコ」のフラットな関係において皆で考えることができる「ヨコ社会」に変革する必要性を論じ,その有力な方法として,「サーバントリーダーシップ」の導入を提案した.ところが,これは実は容易なことではない.なぜならば,「サーバントリーダーシップ」は,そもそもキリスト教から出たものであり,キリスト教の理解なしにはその本質がわからないからである.

     本稿では,「サーバントリーダーシップ」のキリスト教的理解を試みてみたい.このことにより,その本質を明らかにできればと思う.

  • Seiji Ohsawa, Than Naing, Tin Hone, San U, Atsuko Shimoda
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 22-41
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

     アンダマン海のミェイ諸島は800をこえる岩礁と島嶼があり,その美しい自然環境がそのままに残されている.この地はかつて中世にはタイ領であったが,その後ビルマ領から英領へ,そしてビルマ独立後は再びビルマ領にかわり,現在はミャンマー領となっている.

     旧イギリス時代には,これらの諸島の名称はイギリス式であったが,第2次世界大戦後はビルマの領土となり,国際社会の慣行に従って,島嶼名は徐々にミャンマーの現地呼称に変わり,現在に至っている.しかし,現在,国際的に使用されている地図上でも,ミェイ諸島の島々の名称には「英領時代の呼称」と「国際社会で多用されている呼称」そして「現地ミャンマーにおける呼称」が混在している.さらに地図上では,言語表記上の複雑さも反映して,分かりにくく,利用者を悩ませている.そこで,筆者らはこれらの3つの段階の諸島名称を調査,整理,比較して将来,より明解で混乱のない名称を検討するための基礎資料を作製した.統一感のある分かり易い名称とは,単純には現地呼称をそのまま使用することであろう.しかし,これまでの経緯を含めて,船舶や航空機の航行,現地の人々の多様な用途,外国人ビジネスマンや旅行者の使い勝手,学術的利用,そして国土の基本情報としての意義,などなどを斟酌すると,単純には書き替えられない理由は少なくなかろう.まずはこれらの情報を一覧できるように調査,整理し,しかるべく検討しやすいようにした資料があるべきである,という強い要望に応えたのがこの資料作成のねらいである.関係各位がこの一覧表を使用してそれぞれの最適な利用をしていただきたい.

短報
  • 杉本 亜由美
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 63-68
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

     学生が学術的な文章を書けるようになるには,文章全体の根本を成す骨組み,所謂,序論・本論・結論という文章構造内で書くべき項目とされる構成要素について理解する必要があると考える.本研究では,この構成要素に焦点を当て,論文に記すべき構成要素を明確にした上で,初年次学生が執筆した課題論文全体の中に必要な構成要素がどれくらい存在しているのか,また,その記述内容を数値化し論文の文章構造面の特徴や問題点を明らかにした.

     本研究では,6回のアカデミック・ライティング授業内で3編の小論文(小論文①,小論文②,小論文③)を執筆し,小論文②と小論文③においては,序論・本論・結論で何を書くのかを文字化できる「小論文アウトラインシート」を使用した.小論文3編全体の文章構造分析を行った結果,序論「問題提起」と結論は,執筆回数を重ねる度に明確に表現できるようになり,特に序論「問題提起」に関しては「小論文アウトラインシート」の効果が確認できた.しかしながら,本論「客観的データ解釈や考察」,「自身の意見の提示」の表現に課題が残ることが明らかとなった.これらの課題はOECDのPISA2018読解力低下に繋がるものであり,課題を克服すべく,読解力リテラシーを身に付けるための授業デザインの構築を思案すべきであると考える.

  • -ライブコマースにおける知覚リスク低減の実証研究-
    吉井 健
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 94-100
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/06/16
    ジャーナル フリー

     近年のデジタル環境に加え,コロナ禍も契機となり,アパレル市場においてもリアル店舗に訪問せずにインターネットで購買する消費者が増加してきた.そして,このような消費者行動を背景とし,基本的にはリアル店舗を持たずにネット店舗経由で直接消費者に販売するビジネスモデル,すなわち DtoC(Direct to Consumer)事業に着手する企業が増えてきている.この DtoC ビジネスの有力なプロモーション手法の一つとしてライブコマースが挙げられるが,それを通じて,消費者がいかなる知覚リスク低減を図るのかについては,研究課題として残る.本稿では,ネット店舗での販売促進を目的としたライブコマースにおいて図られる知覚リスク低減の内容を明らかにすることに目的を置き,アンケート調査による実証研究を行った.本分析の結果,品質・性能懸念の解消が,最も強く購買志向の高まりに影響を与えることが分かった.これにより,ライブコマースを活用した DtoC ビジネスのマーケティング施策案と今後の課題を提示した.

  • -狭山高校生Yumeプロジェクトを例に-
    相良 友哉, 石川 大晃, 天谷 都紀子, 森 美咲
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 127-134
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/07/12
    ジャーナル フリー

     複雑化・複合化する地域の支援ニーズに対応するため,多世代住民が互いに支え合えるような世代間交流型の事業推進が重要である.これにより,高齢であっても能力やスキルに応じて支え手になることが可能である.ただし,世代間交流型の事業に参加している高齢者の特性や意識については十分に明らかでない.そこで本研究では,狭山市社会福祉協議会が実施している「狭山高校生Yumeプロジェクト」を事例に,どのような高齢者が世代間交流型の事業に参加しているか,何が活動のモチベーションやメリット,課題に感じているか検討した.継続的にプロジェクトに参加している高齢者6名へのインタビュー調査の結果,社協職員からの声掛けが参加の端緒になっており,多くが個人的な関心や次世代育成意識(ジェネラティビティ意識)がモチベーションになっていることが明らかになった.プロジェクトに参加した高齢者は活動に対して肯定的な考えを持っており,課題として挙がった点も次につながる建設的な意見であった.

     今後,すでに社協とのつながりを持っている高齢者のみならず,地域在住の一般の高齢者に対しても働きかけて,新たなつながりを作っていくことで,担い手として世代間交流型のプロジェクトに継続的に参加する高齢者をさらに増やしていくことも重要である.

訂正
短報
  • 長谷川 千織, 山口 瑞貴, 鬼海 智佳, 森田 秋穂, 田中 直子
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 330-334
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/18
    ジャーナル フリー

     タンパク質の消化産物であるペプチドの機能性が注目を集めている.本研究では,肥満性脂肪組織への抗炎症作用が報告されているダイズ由来のトリペプチドPhe-Leu-Val(FLV)に着目し,脂肪細胞のミトコンドリアへの影響を調べることによって,トリペプチド FLVの抗炎症作用の作用機序を解明すること,および脂肪細胞の炎症性変化におけるミトコンドリアの役割を明らかにすることを目的とした.

     白色脂肪細胞モデルである3T3-L1細胞を脂肪細胞に分化誘導後,FLVを添加して分化誘導後30日目まで培養し,ミトコンドリアを蛍光染色して観察するとともにミトコンドリア関連タンパク質のmRNA発現量を定量した.FLVを添加して培養した細胞では,添加せずに培養したControl細胞と比較して脂肪滴の大きさやその形成過程には大きな違いが見られなかったが,ミトコンドリアの蛍光強度が高く,また脂肪滴の成熟・肥大にともなって観察されるミトコンドリアの分裂と細胞全体への分散が見られなかった.このことから,FLVの添加は,ミトコンドリアのエネルギー代謝を高く保つ効果があると考えられ,ミトコンドリアエネルギー代謝の低下を抑制することによって抗炎症作用を発揮している可能性が示唆された.

  • ―Blighのキアスムス構造を前提として―
    大喜多 紀明
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 561-574
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/24
    ジャーナル フリー

     本稿では,新約聖書に収納された巻であるガラテヤ人への手紙が裏返し構造であるか否かを検証した.その際,当該テキストにおける既知の構造的キアスムスである,Blighが考案した図式を前提に,かかる図式を構成する要素対が対照的な関係であるか否かを確認することによる判別をおこなった.本稿の分析の結果,当該図式を構成するすべての要素対が対照的な関係であることが明らかになったため,テキストは裏返し構造であることがわかった.

  • 杉本 亜由美
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 575-584
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿では,高等教育機関における2年次前期科目「日本語Ⅱ」受講学生(日本語を母語とする学生27名)を対象にしたアカデミック・ライティングを身につける授業内において,協働学修の一つに含まれる相互評価を導入し,①受講学生は相互評価をどのように捉えているか,②相互評価にはどのような相互作用の特徴があるかを探ることを課題とし,その効果を考察した.授業終了後に相互評価に関するインタビュー調査を実施し,得られたデータについて,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを採用して分析した結果,①視野拡大の認識,②対等性より生じる柔軟性がもたらす受容,③批判的思考の芽生え,④成功体験の認知,⑤自己肯定感の生成,という過程において,インプットとアウトプットを繰り返し,より思考が深まっていく成長過程を確認できた.また,受講学生による学修の振り返り内容からは,授業開始当初,書けなかった論理的文章が書けるようになるということを,学生自身が自覚することで成長感,達成感が芽生え,それが授業を通じてアカデミック・ライティングを身に付けることができたという,自己肯定感に繋がることが示唆された.以上により,日本語教育における協働学修(相互評価)の有効性を確認することができた.

原著論文
  • Xaverio Ballester
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 599-605
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/30
    ジャーナル フリー

     The old Benveniste theory on Proto–Indo–European roots, namely, that they are represented by a sequence made up of consonant + vowel e + consonant, is still probably the most influential theory of root–structure today in this linguistic discipline. However, this theory has very doubtful foundations and lacks typological support.

  • ―番組制作者,文部省側,聴取者としての教師の言説から―
    中村 美和子
    2023 年 2023 巻 33 号 p. 606-620
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

     1935年から全国放送がはじまったラジオの「学校放送」は1941年4月,国民学校制度の施行で学校教育が本格的な戦時体制に移行すると「国民学校放送」と名称が変わり,このとき文部省から正規教材の認可を受けた.放送開始から認可まで6年が経過した背景には,教権を総括する文部省の権威主義的な気風があり,それが教育への放送事業の介入をはばんでいた点が指摘されている.正規教材としての認可後,その気風に変化は生じたのか.本稿はこの点をふくめ国民学校発足当時の運営状況をあきらかにすることを課題に,関係者の言説から国民学校教育に対する学校放送の位置づけをさぐる.対象としたのは,(1)番組を制作した日本放送協会,(2)番組制作の指導・検閲にあたった文部省とブレーン,(3)番組を授業利用した教師の三者である.史料には,全国の教師向け広報誌『学校放送研究』をおもに用いた.記事の分析からは,ラジオの特徴をいかし皇国民錬成という国家目的への貢献に積極的な放送協会の姿勢,放送教育の特徴や可能性を模索しながら放送協会を指導する文部省とブレーンたちの姿勢がみえてきた.だが,文部省の教権護持とよばれた権威主義的傾向は退潮せず,連続していた様子がうかがえた.教師たちについては新しい学習方法がもたらす効果,児童の家庭への広がりなどに対する期待とともに,聴取環境を整えながら児童を放送に集中させようと励む姿勢が象徴的だった.三者は放送教育による皇国民錬成という目的で結節していたが一丸とはいいがたく,課題や取り組みは三様の状況を呈していた.

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