自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
10 巻, 3 号
別冊 実践報告集 第4集
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
事例研究
  • 谷 晋二, 北村 琴美
    原稿種別: 事例研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 5-13
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本症例報告は、自閉症児を持つ保護者に見られたメンタルヘルスの問題をACT(Acceptance and Commitment Therapy)の観点から分析し、介入を行った経過を報告している。[方法]重度の身体障害と知的障害、自閉的傾向を持つ子どもの保護者の問題が、心理学的非柔軟性の観点に基づいてケースフォーミュレーションされた。ケースフォーミュレーションに基づいて、体験的エクササイズを中心にした介入が行われた。セッションは週に1回、約40 分間、合計12 セッションが行われた。介入の結果は、BDI-Ⅱ、POMS、DACS、そしてAAQ-Ⅱの尺度を用いて第1 セッション、7 セッション目、セッション終了後1 カ月のフォローアップ時に測定された。また、カウンセラーと保護者の会話を逐語録に書き起こし、心理的非柔軟性の6 項目と心理的柔軟性の6 項目に分類し、それぞれの変化を分析した。[結果]第1 回目のセッションではBDI-Ⅱの得点は12 点であったが、7 セッション終了時では8 点に減少し、セッション終了時点では4 点に減少した。POMS では、終了時点でセッション開始時に高い得点を示したA-H(怒り-敵意)とF(疲労)の減少と、V(活気)の増大、が見られた。DACS ではセッション開始時に高い得点を示した将来否定が通常レベルにまで減少していることが見られた。AAQ-Ⅱは第1 回目のセッションで46 点であった。7 セッション終了時では49 点に増加し、セッション終了時点では52 点に増加した。会話の分析では心理的非柔軟性と分類される会話の比率は、セッションが進むにつれて減少した。第12 セッションでは発言の約80%が心理的柔軟性と関連していると分類された。

  • 巡回相談による自閉症幼児への支援
    原口 英之, 望月 春花, 野呂 文行
    原稿種別: 事例研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 15-25
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    保育園年長クラスに在籍する自閉症児(A 児)の問題行動(他傷行動)の改善を目的として、外部支援者が巡回相談を実施し、園内にて保育士とA 児の支援会議を実施した。巡回相談は約3 カ月間に計5 回実施され、そのうち支援会議は3 回実施された。そして、外部支援者によってA 児の問題行動の生起状況と保育活動の参加率に関する行動観察記録が、支援開始時から支援終了時まで継続して行われた。保育中のA 児の行動観察記録に基づいて支援会議を実施することにより、外部支援者と保育士間で、支援計画を作成し、支援後の評価において支援の継続、追加、修正に関する意志決定を行うことができた。その結果、支援計画に沿った保育士による支援が行われ、A 児の問題行動は改善し、A 児の保育活動への参加率は上昇した。以上のことから、保育園における行動観察記録に基づく支援会議の有効性が示され、同時に有効性の高い支援会議の過程を示すことができた。本研究の課題として、保育士によるA 児への支援は複数の内容を同時に実施していた。そのため、問題行動の改善や保育活動への参加に効果を及ぼした要因を特定することができなかった。また、継続した行動観察記録が保育士の支援の「計画─実践─評価─改善」の循環を促進したのか、支援会議がその循環を促進したのか、について特定することができなかった点が挙げられた。

  • 朝岡 寛史, 熊谷 正美, 石坂 務, 渡部 匡隆
    原稿種別: 事例研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 27-33
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、自閉性障害のある4 名の生徒に対してゲーム参加行動の指導を行った。研究開始前、参加生徒は一方的に他者にかかわることや暴言を吐くこと、主張行動の弱さ等がみられ、ゲームが成立しにくかった。それらの実態に基づき、「遊びや遊び方を表出する」、「他者の意見を聞く」、「最後まで活動に参加する」の3 つの標的行動を決定した。指導1 期では、毎試行後に標的行動の生起に対して口頭で強化した。指導2 期では、指導1 期の手続きに加えて、社会的相互作用における適切な行動と不適切な行動に対して即時のフィードバックを与えた。指導3 期では、それらに加えて、話し合いとゲームを進行するための役割を導入した。その結果、遊びや遊び方の表出、相手の意見を聞くといった社会的相互作用が成立し、楽しそうにゲームに参加することがみられるようになった。以上の結果から、自閉性障害のある生徒の社会的相互作用の成立に必要な環境設定について考察した。

  • 報告言語行動・「なぞなぞ遊び」を通して
    肥後 祥治, 福田 沙耶花
    原稿種別: 事例研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 35-46
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、自閉症幼児のコミュニケーション指導における報告言語行動の指導内容とその方法論を検討することであった。実際には、観察した事実に関する報告言語行動の指導(課題1)、複数の写真カードを見ながら、提供される聴覚情報を総合し、条件に該当する写真カードを選択する弁別学習(課題2)、複数の写真カードの属性を正しく伝え、聴取者がその情報をもとに写真カードの内容を推測する「なぞなぞ遊び」行動の指導(課題3)が行われた。これらの1 連のプログラムの実施の結果、最終目的である「なぞなぞ遊び」行動を獲得することができた。この指導の成立の鍵として、社会的強化刺激の強化価の向上と、聴取者が情報を「知らない」という状況を意識した手続きが行われたことであることが考えられた。

  • 他者からの物品・行為・情報の提供に対して
    松岡 勝彦
    原稿種別: 事例研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 47-53
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、音声言語による要求(例えば、「○○ください」など)は可能である一方で、返礼行動(例えば、「ありがとう」など)の出現が少ない自閉性障害のある小学3 年生の児童1 名を対象に、まずは家庭場面における事前評価を実施した。その結果、他者から物品を提供される機会(物品提供条件)が最も多かったものの、他者から援助の手を差し延べてもらう機会(行為提供条件)、情報の提供を受ける機会(情報提供条件)も存在した。上記3条件を合わせた家庭場面における適切な返礼行動の生起率は20.8%であり、保護者はこれらの条件における返礼行動の指導を希望した。

    こういったことから、上記3 条件に関する指導を、専門機関のプレイルームにおいて行った。専門機関における指導では、まず介入1(行為等の提供を明示する条件:例えば「手伝うよ」との音声を付加するなど)を、次に介入2(介入1+ 時間遅延法+音声モデル提示法)を順に導入した。これらの介入の結果、この児童は物品提供、行為提供、情報提供の3 条件において返礼行動が可能となった。その後、家庭場面における事後評価を実施したところ、上記3 条件を合わせた返礼行動の生起率は50.0%へと上昇した。専門機関における一連の介入と結果(経過)及び事前・事後評価の結果、ならびに返礼行動のあり方について考察した。

実践研究
  • 伊藤 政之, 竹蓋 菜穂
    原稿種別: 実践研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 55-66
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    自閉症の方の歯科受診には困難が伴う。歯科診療には多くの刺激があり、無痛的に治療するはずの局所麻酔の刺入に痛みが伴うことがある。また、耳からくる音、薬のにおい、口に触れる感じ、はさまれる感じ、横になった時の姿勢を維持すること、それらの刺激に対応していかなければならない。また、過去に病院で嫌な思いを経験した人や、新しい環境に慣れにくい人は、病院の玄関で止まってしまう、車から降りてこないという場合もある。診療室の入り口までは来ても、室内へは入ってこられない人、治療椅子には座れない人もいる。歯科医師と患者の間でなかなかコミュニケーションがとれないことも多い。これらの困難に適応してもらうために「オリエンテーション」を実施する。いかなる重度の障害があったとしても、その人に応じた方法で治療の場面に適切な対応可能な状況を設定できるようにするのが「オリエンテーション」の考え方である。歯科診療を受診するまでにさまざまな経過がある自閉症の方々の「オリエンテーション」の受容過程を報告、検討する。

  • 高村 哲郎
    原稿種別: 実践研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 67-72
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    知的障害のある自閉症児の場合、行動のレパートリーの狭さから、教師の注目を得たい場合も、なんらかの意思表示の場合も、自傷・他傷など危険を伴う、チャレンジング行動を示す場合があるが、それは、その教師との関係でそれらの行動が繰り返されがちになっている、つまり誤学習が積み重なっていると考えられる場合が多い。

    本論文は、主担当者でなく、誤学習とも先入観とも無縁の立場を生かし、チャレンジング行動を頻発していた自閉症の高等部女子生徒に、短時間ながら「対立行動分化強化」を用いて適切な行動を導き、そこで得た変容の成果を当該児が属する作業班のみならず、学年・学級に波及させ、その後の学校生活に役立てることができた実践研究である。

  • 前田 宣子
    原稿種別: 実践研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 73-80
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    重度の知的障害を伴う自閉症スペクトラム2 名の高等部生徒が、青年期になり、初めて給食時に、完食ができるようになった。このことは、就業体験先や修学旅行などの学校行事における集団での食事を可能にしたり、家庭での食事はもとより、家族旅行や外食などの生活レパートリーの拡がりにつながったりと、本生徒や家族の生活を豊かに変化させた。なぜ、彼らは卒業を間近に控えた青年期になるまで極度の偏食を続けてきたのであろうか。そして、なぜ、この時期に、完食ができるようになったのであろうか。彼らと担当者との間に支援を安心して受け入れようとする関係が成立したこと、実態に応じた段階的な食事指導を行ったこと、授業や休み時間に、自閉症の障害特性に応じた支援を繰り返し行ったことがその結果を導いたと考える。本報告は、そのプロセスをまとめたものである。

  • 学校・家庭・地域との連携を通して
    岸本 和美
    原稿種別: 実践研究
    2013 年 10 巻 3 号 p. 81-88
    発行日: 2013/03/20
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    生徒A は、小学校低学年から特別支援学級(知的)で教育を受けてきた。知的障害の程度はごく軽度。自閉症を重複しており、発語が遅れ、集団での活動が困難であった。幼児期に自閉症の診断は出ていたが、家族は自閉症について知ることなく、障害があるという認識で、保護的な養育をしてこられた。早退や欠席が目立つものの、大人しく言語指示が通るため、保護者や担任が困るようなことはほとんどないという引き継ぎを受けた。伏し目がちなA は、顎に傷があり、1 年中治りにくいとのことだった。

    生徒A は、中学校の集団に合わせて生活することに分かりにくさや辛さがあり、大きな集団の中で我慢して過ごしていることが多いのではないかと思われた。そこで、A の自傷行動や体調不良の訴えが何であるのかをていねいにアセスメントしたところ、支援の方法が明確になり、結果としてA の持てる力が発揮できる環境を整えることにつながった。表面に現れた行動の背景となる意味(機能)の分類により、自立に向けての対処を進めることが重要であることが明らかとなった。

その他
編集後記
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