本研究では、音声言語による要求(例えば、「○○ください」など)は可能である一方で、返礼行動(例えば、「ありがとう」など)の出現が少ない自閉性障害のある小学3 年生の児童1 名を対象に、まずは家庭場面における事前評価を実施した。その結果、他者から物品を提供される機会(物品提供条件)が最も多かったものの、他者から援助の手を差し延べてもらう機会(行為提供条件)、情報の提供を受ける機会(情報提供条件)も存在した。上記3条件を合わせた家庭場面における適切な返礼行動の生起率は20.8%であり、保護者はこれらの条件における返礼行動の指導を希望した。
こういったことから、上記3 条件に関する指導を、専門機関のプレイルームにおいて行った。専門機関における指導では、まず介入1(行為等の提供を明示する条件:例えば「手伝うよ」との音声を付加するなど)を、次に介入2(介入1+ 時間遅延法+音声モデル提示法)を順に導入した。これらの介入の結果、この児童は物品提供、行為提供、情報提供の3 条件において返礼行動が可能となった。その後、家庭場面における事後評価を実施したところ、上記3 条件を合わせた返礼行動の生起率は50.0%へと上昇した。専門機関における一連の介入と結果(経過)及び事前・事後評価の結果、ならびに返礼行動のあり方について考察した。
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